(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-07
(45)【発行日】2022-07-15
(54)【発明の名称】PD-L1発現抑制作用を有する新規化合物
(51)【国際特許分類】
C07D 211/60 20060101AFI20220708BHJP
A61K 31/445 20060101ALI20220708BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20220708BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220708BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220708BHJP
A61P 31/00 20060101ALI20220708BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20220708BHJP
A61P 31/18 20060101ALI20220708BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20220708BHJP
A61P 31/22 20060101ALI20220708BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20220708BHJP
【FI】
C07D211/60 CSP
A61K31/445
A61P37/04
A61P43/00 121
A61P35/00
A61P31/00
A61P35/02
A61P31/18
A61P31/14
A61P31/22
A61K39/395 T
(21)【出願番号】P 2021513662
(86)(22)【出願日】2020-04-08
(86)【国際出願番号】 JP2020015771
(87)【国際公開番号】W WO2020209277
(87)【国際公開日】2020-10-15
【審査請求日】2021-12-06
(31)【優先権主張番号】P 2019074077
(32)【優先日】2019-04-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(73)【特許権者】
【識別番号】506178140
【氏名又は名称】学校法人順正学園
(73)【特許権者】
【識別番号】000238201
【氏名又は名称】扶桑薬品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100126778
【氏名又は名称】品川 永敏
(74)【代理人】
【識別番号】100156155
【氏名又は名称】水原 正弘
(72)【発明者】
【氏名】菊地 晴久
(72)【発明者】
【氏名】大島 吉輝
(72)【発明者】
【氏名】服部 俊夫
(72)【発明者】
【氏名】山田 修
(72)【発明者】
【氏名】周 張菁
(72)【発明者】
【氏名】喜田 進也
(72)【発明者】
【氏名】村瀬 新也
【審査官】伊佐地 公美
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0087673(US,A1)
【文献】国際公開第2017/164407(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第106632021(CN,A)
【文献】STN REGISTRY FILE,2018年04月06日,RN 2207120-10-1, [online], retrieved on 9 Jun. 2020
【文献】STN REGISTRY FILE,2018年03月05日,RN 2184375-28-6, [online], retrieved on 9 Jun. 2020
【文献】STN REGISTRY FILE,2005年06月07日,RN 851790-66-4, [online], retrieved on 9 Jun. 2020
【文献】STN REGISTRY FILE,2004年12月07日,RN 793690-54-7, [online], retrieved on 9 Jun. 2020
【文献】STN REGISTRY FILE,2004年09月23日,RN 749906-44-3, [online], retrieved on 9 Jun. 2020
【文献】BELL, J. L. et al.,Bioorganic & Medicinal Chemistry Letters,2013年,Vol. 23,pp. 3826-3832
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
A61P
A61K
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化1】
[式中:
R
1およびR
2は、各々独立して、ヒドロキシ、C
1-6アルキル、C
1-6ハロアルキル、C
1-6ヒドロキシアルキル、C
1-6アルコキシ、C
1-6ハロアルコキシ、C
1-6ヒドロキシアルコキシ、ニトロ、アミノ、モノ-もしくはジ-C
1-6アルキルアミノ、ペンタフルオロスルファニル、アリール、およびヘテロアリールからなる群から選択され、ここで、前記アリールおよびヘテロアリールは、置換可能な位置で、ハロゲン、ヒドロキシ、シアノ、ニトロ、アミノ、モノ-もしくはジ-C
1-6アルキルアミノ、C
1-4アシル、C
1-6アルキル、C
1-6ハロアルキル、C
1-6ヒドロキシアルキル、C
1-6アルコキシ、C
1-6ハロアルコキシ、およびC
1-6ヒドロキシアルコキシからなる群から選択される1つまたは同一もしくは異なる2つ以上の基で置換されていてもよく;
mは、1~5の整数であり;および
nは、1~5の整数である]
で示される化合物またはその医薬的に許容される塩。
【請求項2】
R
1およびR
2が、各々独立して、ヒドロキシ、C
1-6アルキル、C
1-6ハロアルキル、C
1-6ヒドロキシアルキル、C
1-6アルコキシ、C
1-6ハロアルコキシ、C
1-6ヒドロキシアルコキシ、ニトロ、およびペンタフルオロスルファニルからなる群から選択され;
mが、1または2であり;および
nが、1または2である、請求項1に記載の化合物またはその医薬的に許容される塩。
【請求項3】
R
1が、各々独立して、ヒドロキシ、C
1-6アルキル、C
1-6アルコキシ、またはニトロから選択され;および
R
2が、各々独立して、
C
1-6アルキル、C
1-6ハロアルキル、C
1-6アルコキシ、またはペンタフルオロスルファニルから選択される、請求項1または2に記載の化合物またはその医薬的に許容される塩。
【請求項4】
R
1が、ベンゼン環の3位および/または4位に結合し、ヒドロキシ、C
1-6アルコキシ、またはニトロである、請求項1~3のいずれか一項に記載の化合物またはその医薬的に許容される塩。
【請求項5】
R
2が、ベンゼン環の4位に結合し、C
1-6ハロアルキルまたはペンタフルオロスルファニルである、請求項1~4のいずれか一項に記載の化合物またはその医薬的に許容される塩。
【請求項6】
1-(4-ヒドロキシベンゾイル)-N-(4-(4-(トリフルオロメチル)フェノキシ)フェニル)ピペリジン-3-カルボキサミド、
1-(4-ニトロベンゾイル)-N-(4-(4-(トリフルオロメチル)フェノキシ)フェニル)ピペリジン-3-カルボキサミド、
1-(4-ヒドロキシ-3-メトキシベンゾイル)-N-(4-(4-(トリフルオロメチル)フェノキシ)フェニル)ピペリジン-3-カルボキサミド、
1-(4-ヒドロキシベンゾイル)-N-(4-(4-ペンタフルオロスルファニル)フェノキシ)フェニル)ピペリジン-3-カルボキサミド、
1-(4-ニトロベンゾイル)-N-(4-(4-(ペンタフルオロスルファニル)フェノキシ)フェニル)ピペリジン-3-カルボキサミド、または
1-(4-ヒドロキシ-3-メトキシベンゾイル)-N-(4-(4-(ペンタフルオロスルファニル)フェノキシ)フェニル)ピペリジン-3-カルボキサミド
から選択される、請求項1~5のいずれか一項に記載の化合物またはその医薬的に許容される塩。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の化合物またはその医薬的に許容される塩、および医薬的に許容される担体を含む、医薬組成物。
【請求項8】
PD-1/PD-L1結合による免疫能低下に起因する疾患を治療するための、請求項7記載の医薬組成物。
【請求項9】
PD-1/PD-L1結合による免疫能低下に起因する疾患が、がんまたは感染症である、請求項8記載の医薬組成物。
【請求項10】
PD-1/PD-L1結合による免疫能低下に起因する疾患が、がんである、請求項8または9記載の医薬組成物。
【請求項11】
がんが、悪性黒色腫を含む皮膚がん、神経膠芽腫を含む脳腫瘍、肺がん、胃がん、大腸がん、肝臓がん、膵臓がん、腎臓がん、副腎がん、胆道がん、食道がん、咽頭がん、喉頭がん、口腔がん、膀胱がん、舌がん、甲状腺がん、乳がん、前立腺がん、精巣がん、子宮がん、子宮頸がん、卵巣がん、骨肉腫、軟骨肉腫、横紋筋肉腫、平滑筋肉腫、成人T細胞白血病を含む白血病、悪性リンパ腫または多発性骨髄腫である、請求項9または10記載の医薬組成物。
【請求項12】
PD-1/PD-L1結合による免疫低下に起因する疾患が、感染症である、請求項8または9記載の医薬組成物。
【請求項13】
感染症が、結核、B型肝炎、C型肝炎、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症、ヒトパピローマウイルス(HPV)感染症、エプスタイン・バーウイルス(EBV)感染症、ヒトサイトメガロウイルス(CMV)感染症、ヘルペスウイルス感染症、ヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)感染症である、請求項9または12記載の医薬組成物。
【請求項14】
請求項1~6のいずれか一項に記載の化合物またはその医薬的に許容される塩を含む、免疫チェックポイント阻害剤。
【請求項15】
免疫チェックポイント分子が、PD-L1である、請求項14記載の免疫チェックポイント阻害剤。
【請求項16】
請求項1~6のいずれか一項に記載の化合物またはその医薬的に許容される塩を含む、PD-L1発現抑制剤。
【請求項17】
請求項1~6のいずれか一項に記載の化合物またはその医薬的に許容される塩を含む、IL-2産生低下抑制剤。
【請求項18】
請求項1~6のいずれか一項に記載の化合物またはその医薬的に許容される塩を含む、ワクチンの補助剤(アジュバント)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PD-L1発現抑制作用を有する新規化合物、特に1-ベンゾイル-N-(4-フェノキシフェニル)ピペリジン-3-カルボキサミド化合物に関する。また、本発明は、PD-1/PD-L1結合による免疫能低下に起因する疾患の治療に有用でありうる。
【背景技術】
【0002】
生体は、外来からの病原体および自身の体で生じたがん細胞から体を守るための免疫機構を備えていると同時に、過剰の免疫により生体自身が障害を起こさないように免疫制御機構も備えている。近年、がん細胞は、腫瘍微小環境において免疫制御機構を誘導することで生体の免疫機構から逃避することが明らかとなってきた。その仕組みの一つとして、「免疫チェックポイント分子」と呼ばれるPD-1またはPD-L1の作用によるがんの免疫逃避が挙げられる(非特許文献1)。
【0003】
がん細胞は、免疫担当細胞の一つであるキラーT細胞から繰り返し攻撃を受けると、キラーT細胞が産生するインターフェロン-γ(IFN-γ)を受容することにより細胞表面にPD-L1を発現するようになり、これがT細胞の有しているPD-1に結合すると、T細胞の増殖を促進するインターロイキン-2(IL-2)の産生量が低下し、またT細胞にアポトーシス(細胞死)が誘発されるのでがん細胞はT細胞の攻撃から逃れるようになる。これに対し、PD-1またはPD-L1に特異的に結合してT細胞とがん細胞のPD-1/PD-L1結合を防ぐことができる新しいタイプの抗がん剤がすでに承認されており、これらは免疫チェックポイント阻害剤と呼ばれている。
【0004】
がんに対しては外科的治療、化学療法、放射線療法が主な治療法として行われているが、十分な効果が得られる治療法はいまだ確立されておらず、新たな治療法の確立が求められている。PD-1およびPD-L1は、免疫に抑制的に作用する分子(「免疫チェックポイント分子」)として、がんの治療法の新たな標的となっている。
【0005】
さらに、結核などの細菌およびB型肝炎ウイルス、パピローマウイルスなどのウイルスなどの病原体が引き起こす感染症の場合、感染後期になるとキラーT細胞がPD-1を高発現するようになり、また抗原提示細胞(マクロファージや樹状細胞)がPD-L1を発現することで、PD-1/PD-L1結合が形成され、その結合による免疫能低下が起こり、感染症にいたることが報告されている(非特許文献2~8)。
そのため、PD-1および/またはPD-L1を標的にすることにより、PD-1/PD-L1結合による免疫能低下に起因する疾患、例えばがんおよび感染症の治療につながると考えられる。
【0006】
これまでに、免疫チェックポイント阻害剤として、PD-1またはPD-L1を標的とする、抗PD-1抗体(ニボルマブ、ペンブロリズマブ)および抗PD-L1抗体(アテゾリズマブ、デュルバルマブ)が創薬されている。しかしながら、これらの薬剤は抗体医薬品であり、低分子医薬品とは異なり、経口投与できず、コスト的にも高額である。そこで、経口投与が可能であり、コスト的にも安価で製剤化できる、PD-1またはPD-L1を標的とした低分子の免疫チェックポイント阻害剤の開発が期待されている(非特許文献9)。しかしながら、それらを標的とした免疫チェックポイント阻害剤として有用な低分子化合物は知られていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】He, J. et al. Sci Rep 5 (2015), 13110, pp 1-9
【文献】Sakai,S. et al. Int Immunol 22 (2010), pp.915-925
【文献】Boni, C. et al. J Vorol 81 (2007), pp.4215-4225
【文献】Liu, C. et al. Mol Med Rep (2015), pp.1063-1070
【文献】Yao, Z. Q. et al. Viral Immunol 20 (2007), pp276-286
【文献】Motobe, Y. K. et al. Front Immunol 9 (2018), doi:10.3389
【文献】Kato, T. et al. Blood 116 (2010), pp3912
【文献】Ma, S-D.et al. Plos Pathog 12 (2016), e1005642
【文献】Skalniak, L. et al., Oncotarget 8 (2017), pp.72167-72181
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、PD-L1発現およびIL-2産生低下の抑制活性を有する低分子化合物を検討すると共に、PD-1/PD-L1結合による免疫能低下に起因する疾患(例えば、がんおよび感染症)の治療に有用な医薬(例えば、免疫チェックポイント阻害剤)およびワクチンの補助剤(アジュバント)を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、下式(I)で表される化合物およびその医薬的に許容される塩(以下、「本発明の化合物」と称することもある)が、PD-L1発現抑制作用およびIL-2産生低下抑制作用を有することを見出し、本発明を完成させた。本発明によれば、そのPD-L1発現抑制作用により免疫チェックポイント阻害剤として作用することで、PD-1/PD-L1結合による免疫能低下に起因する疾患、例えばがんおよび感染症を治療することができる。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の態様を提供する。
[1] 式(I):
【化1】
[式中:
R
1およびR
2は、各々独立して、ハロゲン、ヒドロキシ、C
1-6アルキル、C
1-6ハロアルキル、C
1-6ヒドロキシアルキル、C
1-6アルコキシ、C
1-6ハロアルコキシ、C
1-6ヒドロキシアルコキシ、ニトロ、アミノ、モノ-もしくはジ-C
1-6アルキルアミノ、ペンタフルオロスルファニル、アリール、およびヘテロアリールからなる群から選択され、ここで、前記アリールおよびヘテロアリールは、置換可能な位置で、ハロゲン、ヒドロキシ、シアノ、ニトロ、アミノ、モノ-もしくはジ-C
1-6アルキルアミノ、C
1-4アシル、C
1-6アルキル、C
1-6ハロアルキル、C
1-6ヒドロキシアルキル、C
1-6アルコキシ、C
1-6ハロアルコキシ、およびC
1-6ヒドロキシアルコキシからなる群から選択される1つまたは同一もしくは異なる2つ以上の基で置換されていてもよく;
mは、0~5の整数であり;および
nは、0~5の整数である]
で示される化合物またはその医薬的に許容される塩。
【0011】
[2] R1およびR2が、各々独立して、ハロゲン、ヒドロキシ、C1-6アルキル、C1-6ハロアルキル、C1-6ヒドロキシアルキル、C1-6アルコキシ、C1-6ハロアルコキシ、C1-6ヒドロキシアルコキシ、ニトロ、およびペンタフルオロスルファニルからなる群から選択され;
mが、1または2であり;および
nが、1または2である、[1]の化合物またはその医薬的に許容される塩。
【0012】
[3] R1が、各々独立して、ヒドロキシ、C1-6アルキル、C1-6アルコキシ、またはニトロから選択され;および
R2が、各々独立して、ハロゲン、C1-6アルキル、C1-6ハロアルキル、C1-6アルコキシ、またはペンタフルオロスルファニルから選択される、[1]または[2]の化合物またはその医薬的に許容される塩。
【0013】
[4] R1が、ベンゼン環の3位および/または4位に結合し、ヒドロキシ、C1-6アルコキシまたはニトロである、[1]~[3]のいずれかの化合物またはその医薬的に許容される塩。
【0014】
[5] R2が、ベンゼン環の4位に結合し、C1-6アルキル、C1-6ハロアルキルまたはペンタフルオロスルファニルである、[1]~[4]のいずれかの化合物またはその医薬的に許容される塩。
【0015】
[6] 1-(4-ヒドロキシベンゾイル)-N-(4-(4-(トリフルオロメチル)フェノキシ)フェニル)ピペリジン-3-カルボキサミド、
1-(4-ニトロベンゾイル)-N-(4-(4-(トリフルオロメチル)フェノキシ)フェニル)ピペリジン-3-カルボキサミド、
1-(4-ヒドロキシ-3-メトキシベンゾイル)-N-(4-(4-(トリフルオロメチル)フェノキシ)フェニル)ピペリジン-3-カルボキサミド、
1-(4-ヒドロキシベンゾイル)-N-(4-(4-ペンタフルオロスルファニル)フェノキシ)フェニル)ピペリジン-3-カルボキサミド、
1-(4-ニトロベンゾイル)-N-(4-(4-(ペンタフルオロスルファニル)フェノキシ)フェニル)ピペリジン-3-カルボキサミド、または
1-(4-ヒドロキシ-3-メトキシベンゾイル)-N-(4-(4-(ペンタフルオロスルファニル)フェノキシ)フェニル)ピペリジン-3-カルボキサミド
から選択される、[1]~[5]のいずれかの化合物またはその医薬的に許容される塩。
【0016】
[7] [1]~[6]のいずれかの化合物またはその医薬的に許容される塩、および医薬的に許容される担体を含む、医薬組成物。
【0017】
[8] PD-1/PD-L1結合による免疫能低下に起因する疾患を治療するための、[7]の医薬組成物。
【0018】
[9]PD-1/PD-L1結合による免疫能低下に起因する疾患が、がんまたは感染症である、[8]の医薬組成物。
【0019】
[10] PD-1/PD-L1結合による免疫能低下に起因する疾患が、がんである、[8]または[9]の医薬組成物。
【0020】
[11] がんが、悪性黒色腫を含む皮膚がん、神経膠芽腫を含む脳腫瘍、肺がん、胃がん、大腸がん、肝臓がん、膵臓がん、腎臓がん、副腎がん、胆道がん、食道がん、咽頭がん、喉頭がん、口腔がん、膀胱がん、舌がん、甲状腺がん、乳がん、前立腺がん、精巣がん、子宮がん、子宮頸がん、卵巣がん、骨肉腫、軟骨肉腫、横紋筋肉腫、平滑筋肉腫、成人T細胞白血病を含む白血病、悪性リンパ腫、または多発性骨髄腫である、[9]または[10]の医薬組成物。
【0021】
[12] PD-1/PD-L1結合による免疫能低下に起因する疾患が、感染症である、[8]または[9]の医薬組成物。
【0022】
[13] 感染症が、結核、B型肝炎、C型肝炎、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症、ヒトパピローマウイルス(HPV)感染症、エプスタイン・バーウイルス(EBV)感染症、ヒトサイトメガロウイルス(CMV)感染症、ヘルペスウイルス感染症、またはヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)感染症である、[9]または[12]の医薬組成物。
【0023】
[14] [1]~[6]のいずれかの化合物またはその医薬的に許容される塩を含む、免疫チェックポイント阻害剤。
【0024】
[15] 免疫チェックポイント分子が、PD-L1である、[14]の免疫チェックポイント阻害剤。
【0025】
[16] [1]~[6]のいずれかの化合物またはその医薬的に許容される塩を含む、PD-L1発現抑制剤。
【0026】
[17] [1]~[6]のいずれかの化合物またはその医薬的に許容される塩を含む、IL-2産生低下抑制剤。
【0027】
[18] [1]~[6]のいずれかの化合物またはその医薬的に許容される塩を含む、ワクチンの補助剤(アジュバント)。
【0028】
さらに、本発明は、以下の態様も提供する。
[19] 治療が必要な患者に、治療上の有効量の[1]~[6]のいずれかの化合物またはその医薬的に許容される塩を投与することを特徴とする、PD-1/PD-L1結合による免疫能低下に起因する疾患の治療方法。
[20] PD-1/PD-L1結合による免疫能低下に起因する疾患の治療に使用する、[1]~[6]のいずれかの化合物またはその医薬的に許容される塩。
[21] PD-1/PD-L1結合による免疫能低下に起因する疾患の治療剤を製造するための、[1]~[6]のいずれかの化合物またはその医薬的に許容される塩の使用。
[22] 治療が必要な患者に、治療上の有効量の[1]~[6]のいずれかの化合物またはその医薬的に許容される塩を投与することを特徴とする、免疫チェックポイント分子の発現を抑制する方法。
[23] 免疫チェックポイント分子が、PD-L1である、[22]の方法。
[24] 治療が必要な患者に、治療上の有効量の[1]~[6]のいずれかの化合物またはその医薬的に許容される塩を投与することを特徴とする、IL-2産生低下を抑制する方法。
[25] [1]~[6]のいずれかの化合物またはその医薬的に許容される塩を含む、T細胞機能増強剤。
[26] 治療が必要な患者に、治療上の有効量の[1]~[6]のいずれかの化合物またはその医薬的に許容される塩を投与することを特徴とする、T細胞機能の増強方法。
【発明の効果】
【0029】
本発明の化合物は、PD-L1発現抑制作用およびIL-2産生低下抑制作用を有しており、PD-1/PD-L1による免疫能低下に起因する疾患、特にがん(例えば、悪性黒色腫を含む皮膚がん、神経膠芽腫を含む脳腫瘍、肺がん、胃がん、大腸がん、肝臓がん、膵臓がん、腎臓がん、副腎がん、胆道がん、食道がん、咽頭がん、喉頭がん、口腔がん、膀胱がん、舌がん、甲状腺がん、乳がん、前立腺がん、精巣がん、子宮がん、子宮頸がん、卵巣がん、骨肉腫、軟骨肉腫、横紋筋肉腫、平滑筋肉腫、成人T細胞白血病を含む白血病、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫)および感染症(例えば、結核、B型肝炎、C型肝炎、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症、ヒトパピローマウイルス(HPV)感染症、エプスタイン・バーウイルス(EBV)感染症、ヒトサイトメガロウイルス(CMV)感染症、ヘルペスウイルス感染症、またはヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)感染症)の新規な治療剤として有用である。また、免疫チェックポイント分子を抑制することから、ワクチンの補助剤(アジュバント)としても有用である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】
図1は、細胞表面のPD-L1およびPD-1の発現を解析した図である。
図1Aは、IFN-γ添加、2日間培養後のA549細胞表面のCD274(PD-L1)の発現を解析した図であり、
図1Bは、PMA/PHA添加、2日間培養後のJurkat細胞表面のCD279(PD-1)の発現を解析した図である。
【
図2】
図2は、実施例5の化合物によるPD-1/PD-L1結合後のJurkat細胞のアポトーシス(Caspase3/7活性)の抑制効果を示す図であり、Jurkat細胞における、対照のCaspase3/7活性を100%とした場合の実施例5の化合物(0.25μM、0.5μMおよび1μM)におけるCaspase3/7活性の割合(%)を示す。
【
図3】
図3は、PD-1/PD-L1結合に起因するIL-2産生低下に対する化合物(実施例5)の抑止効果を示す図であり、A549細胞(IFN-γ無添加)における対照(DMSO)のルシフェラーゼ活性を100%とした場合の、A549細胞(IFN-γ添加)における対照(DMSO)および実施例5の化合物(0.5μMおよび1μM)のルシフェラーゼ活性の割合(%)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本明細書における用語について、以下に説明する。
【0032】
本明細書における、「ハロゲン」とは、フッ素、塩素、臭素またはヨウ素を意味する。
【0033】
本明細書における、「C1-6アルキル」とは、1~6個の炭素原子を有する、直鎖状または分枝鎖状の飽和炭化水素を意味する。これらは、置換可能な位置で、所望により本発明に含まれる1以上の置換基で置換されていてもよい。「C1-6アルキル」は、好ましくは炭素数が1~5、1~4、または1~3であってもよい。その例として、限定されるものではないが、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、ぺンチル、イソペンチル、ネオペンチル、ヘキシル等が挙げられる。
【0034】
本明細書における、「C1-6ハロアルキル」とは、1個以上の水素原子がハロゲン原子(複数可)によって置き換えられている、1~6個の炭素原子を有する上記のアルキル基を意味する。置き換えられている水素原子の数は、1個から、最大で親アルキル基に他に存在しうる水素原子の総数の範囲まで及びうる。ハロゲン原子を複数有する場合は、同一または異なるハロゲン原子で置換されていてもよい。その例として、限定されるものではないが、クロロメチル、トリフルオロメチル、2,2,2-トリフルオロエチル等が挙げられる。
【0035】
本明細書における、「C1-6ヒドロキシアルキル」とは、1個以上の水素原子がヒドロキシ基(複数可)によって置き換えられている、1~6個の炭素原子を有する上記のアルキル基を意味する。置き換えられている水素原子の数は、1個から、最大で親アルキル基に他に存在しうる水素原子の総数の範囲まで及びうる。その例として、限定されるものではないが、ヒドロキシメチル、2-ヒドロキシエチル、2-ヒドロキシプロピル、3-ヒドロキシプロピル、4-ヒドロキシブチル等が挙げられる。
【0036】
本明細書における、「C1-6アルコキシ」とは、1~6個の炭素原子を有する上記のアルキル基が酸素原子を介して結合している基を意味する。その例として、限定されるものではないが、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブチルオキシ、ペンチルオキシ、イソペンチルオキシ、ネオペンチルオキシ、ヘキシルオキシ等が挙げられる。
【0037】
本明細書における、「C1-6ハロアルコキシ」とは、1個以上の水素原子がハロゲン原子(複数可)によって置き換えられている、1~6個の炭素原子を有する上記のアルコキシ基を意味する。置き換えられている水素原子の数は、1個から、最大で親アルキル基に他に存在しうる水素原子の総数の範囲まで及びうる。ハロゲン原子を複数有する場合は、同一または異なるハロゲン原子で置換されていてもよい。その例として、限定されるものではないが、クロロメトキシ、トリフルオロメトキシ、2,2,2-トリフルオロエトキシ等が挙げられる。
【0038】
本明細書における、「C1-6ヒドロキシアルコキシ」とは、1個以上の水素原子がヒドロキシ(複数可)によって置き換えられている、1~6個の炭素原子を有する上記のアルコキシ基を意味する。置き換えられている水素原子の数は、1個から、最大で親アルキル基に他に存在しうる水素原子の総数の範囲まで及びうる。その例として、限定されるものではないが、ヒドロキシメトキシ、2-ヒドロキシエトキシ、2-ヒドロキシプロポキシ、3-ヒドロキシプロポキシ、4-ヒドロキシブトキシ等が挙げられる。
【0039】
本明細書における、「モノ-もしくはジ-C1-6アルキルアミノ」とは、1個または2個の水素原子が1~6個の炭素原子を有する上記のアルキル基によって置き換えられている、アミノ基を意味する。アルキル基によって2個置換される場合は、同一または異なるアルキル基で置換されていてもよい。その例として、限定されるものではないが、メチルアミノ、エチルアミノ、ジメチルアミノ、ジエチルアミノ等が挙げられる。
【0040】
本明細書における、「C1-4アシル」とは、1~3個の炭素原子を有する上記のアルキル基が結合している、カルボニル基(-C(=O))を意味する。その例として、限定されるものではないが、ホルミル、アセチル、プロピオニル等が挙げられる。
【0041】
本明細書における、「アリール」とは、芳香族環に結合する1個の水素原子が除外された、6個以上の炭素原子を有する単環または二環の芳香族炭化水素基を意味する。これらは、置換可能な位置で、所望により本発明に含まれる1以上の置換基で置換されていてもよい。その例として、限定されるものではないが、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチル、アントラセニル等が挙げられる。
【0042】
本明細書における、「ヘテロアリール」とは、環炭素の少なくとも1個が窒素原子、酸素原子および硫黄原子からなる群から選択されるヘテロ原子で置き換えられている、単環または二環の芳香族複素環基を意味する。これらは、置換可能な位置で、所望により本発明に含まれる1以上の置換基で置換されていてもよい。好ましいヘテロアリールは、3~10員のヘテロアリール、3~6員のヘテロアリール、5~6員のヘテロアリールが挙げられる。例えば、「5~6員のヘテロアリール」は、窒素原子、硫黄原子または酸素原子から選択される少なくとも1個のヘテロ原子を含む、5~6員の単環式複素環基を示す。その例として、限定されるものではないが、チオフェン、フラン、ピロール、イミダゾール、ピラゾール、チアゾール、オキサゾール、イソチアゾール、イソオキサゾール、ピリジン、ピリミジン、ピラジン、ピリダジン、トリアジン、インドール、プリン、キノリン、イソキノリン等が挙げられる。
【0043】
本明細書における、「置換されていてもよい」とは、基の置換可能な位置が置換されていない場合(無置換)と置換されている場合を含む。「無置換」とは、基の置換可能な位置が全て水素原子であることを意味する。置換されている場合は、可能であれば複数の置換基で置換されていてもよく、その置換基は同一であっても異なっていてもよい。置換される置換基としては、ハロゲン、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、ハロアルキル基、ヒドロキシアルキル基、アルコキシ基、ハロアルコキシ基、ヒドロキシアルコキシ基、アミノ基、ニトロ基、シアノ基、ヒドロキシ基、カルバモイル基、カルボキシル基、モルホリニル基、ホルミル基、アセチル基、メシル基、ベンゾイル基、アシルアミノ基等が挙げられる。
【0044】
式(I)で表される本発明の化合物の中のR1、R2、m、およびnに関して、好ましいものは以下のとおりであるが、本発明の技術的範囲は下記に挙げられた化合物の範囲に限定されるものではない。
【0045】
R1およびR2としては、ハロゲン、ヒドロキシ、C1-6アルキル、C1-6ハロアルキル、C1-6ヒドロキシアルキル、C1-6アルコキシ、C1-6ハロアルコキシ、C1-6ヒドロキシアルコキシ、ニトロ、アミノ、モノ-もしくはジ-C1-6アルキルアミノ、ペンタフルオロスルファニル、アリール、およびヘテロアリール(該アリールおよびヘテロアリールは、置換可能な位置で、ハロゲン、ヒドロキシ、シアノ、ニトロ、アミノ、モノ-もしくはジ-C1-6アルキルアミノ、C1-4アシル、C1-6アルキル、C1-6ハロアルキル、C1-6ヒドロキシアルキル、C1-6アルコキシ、C1-6ハロアルコキシ、およびC1-6ヒドロキシアルコキシからなる群から選択される1つまたは同一もしくは異なる2つ以上の基で置換されていてもよい)が挙げられる。
R1として、好ましくはハロゲン、ヒドロキシ、C1-6アルキル、C1-6ハロアルキル、C1-6ヒドロキシアルキル、C1-6アルコキシ、C1-6ハロアルコキシ、C1-6ヒドロキシアルコキシ、ニトロ、またはペンタフルオロスルファニルであり、より好ましくはヒドロキシ、C1-6アルキル、C1-6アルコキシ、またはニトロであり、さらに好ましくはヒドロキシ、C1-6アルコキシ、またはニトロであり、最も好ましくはヒドロキシ、メトキシ、またはニトロである。
R2として、好ましくはハロゲン、ヒドロキシ、C1-6アルキル、C1-6ハロアルキル、C1-6ヒドロキシアルキル、C1-6アルコキシ、C1-6ハロアルコキシ、C1-6ヒドロキシアルコキシ、ニトロ、またはペンタフルオロスルファニルであり、より好ましくはハロゲン、C1-6アルキル、C1-6ハロアルキル、C1-6アルコキシ、またはペンタフルオロスルファニルであり、さらに好ましくはC1-6ハロアルキルまたはペンタフルオロスルファニルであり、最も好ましくはトリフルオロメチルまたはペンタフルオロスルファニルである。
【0046】
mおよびnは、0~5の整数であり、好ましくは1~4の整数であり、より好ましくは1~3の整数であり、最も好ましくは1~2の整数である。
【0047】
式(I)で表される化合物の「医薬的に許容される塩」として、例えば、無機酸との塩、有機酸との塩等が挙げられる。無機酸との塩としては、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硝酸、硫酸、リン酸等との塩が挙げられる。有機酸との塩としては、酢酸、シュウ酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、リンゴ酸、クエン酸、酒石酸、アジピン酸、グルコン酸、グルコヘプト酸、グルクロン酸、テレフタル酸、メタンスルホン酸、アラニン、乳酸、馬尿酸、1,2-エタンジスルホン酸、イセチオン酸、ラクトビオン酸、オレイン酸、没食子酸、パモ酸、ポリガラクツロン酸、ステアリン酸、タンニン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、スルホサリチル酸等との塩が挙げられる。
【0048】
本発明の化合物は、水和物および/または溶媒和物の形で存在することもあるので、これらの水和物および/または溶媒和物もまた本発明の化合物に包含される。溶媒和物としてはエタノール溶媒和物等が挙げられる。
【0049】
以下、本発明の化合物の製造方法について、例を挙げて説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。式(I)で表される本発明の代表的な化合物は、以下の製造方法によって製造することができる:
【化2】
【0050】
化合物(1-1)は、市販品または既知の合成法により製造したものを用いることができる。
【0051】
工程1:化合物(1-2)の製造工程
化合物(1-2)は、適当な溶媒中、塩基存在下、化合物(1-1)と4-クロロベンゾトリフルオライドまたは4-フルオロフェニルサルファーペンタフルオリドとを反応させることにより製造される。
【0052】
工程2:化合物(1-3)の製造工程
化合物(1-3)は、適当な溶媒中、塩基存在下、化合物(1-2)と1-(tert-ブトキシカルボニル)-4-ピペリジンカルボン酸とを反応させることにより製造される。
【0053】
工程3:化合物(1-4)の製造工程
化合物(1-4)は、適当な溶媒中、酸性(HCl)条件下、化合物(1-3)とカルボン酸Aと反応させることにより製造される。
【0054】
上記製造方法の各工程において使用される溶媒は、反応や原料化合物の種類等によって適時選択されるべきであるが、例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類、アセトン、メチルケトン等のケトン類、塩化メチレン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素類、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン等のエーテル類、トルエン、ベンゼン等の芳香族炭化水素類、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素類、酢酸エチル、酢酸プロピル等のエステル類、ジメチルホルムアミド(DMF)、N-メチル-2-ピロリドン等のアミド類、ジメチルスルホキシド(DMSO)等のスルホキシド類、アセトニトリル等のニトリル類が挙げられ、これらの溶媒は単独または2種類以上混合して用いることができる。
【0055】
上記製造方法の各工程において使用される塩基は、反応や原料化合物の種類等によって適時選択されるべきであるが、例えば炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸セシウム、カリウム-tert-ブトキシド、水素化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムビス(トリメチルシリル)アミド、リチウムジイソプロピルアミド等が挙げられ、これらの塩基は単独または2種類以上混合して用いることができる。
【0056】
本明細書における、「がん」は、特にがん種は問わないが、固形がん、血液がん、転移性がん等が挙げられる。
固形がんとしては、例えば、皮膚がん(例えば、悪性黒色腫)、脳腫瘍(例えば、神経膠芽腫)、肺がん、胃がん、大腸がん、肝臓がん、膵臓がん、腎臓がん、副腎がん、胆のう・胆道がん、食道がん、咽頭がん、喉頭がん、口腔がん、膀胱がん、舌がん、甲状腺がん、乳がん、前立腺がん、精巣がん、子宮がん、子宮頸がん、卵巣がん、骨肉腫、軟骨肉腫、横紋筋肉腫、平滑筋肉腫等が挙げられる。
血液がんとしては、例えば、多発性骨髄腫、悪性リンパ腫(例えば、非ホジキンリンパ腫、ホジキンリンパ腫)、白血病(例えば、成人T細胞白血病、急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病)が挙げられる。
転移性がんとしては、例えば、転移性肺がん、転移性胃がん、転移性大腸がん、転移性肝臓がん、転移性膵臓がん、転移性腎臓がん、転移性副腎がん、転移性食道がん、転移性膀胱がん、転移性甲状腺がん、転移性乳がん、転移性前立腺がん、転移性子宮がん等が挙げられる。
【0057】
本明細書における、「感染症」は、特に病原体は問わないが、細菌感染症、ウイルス感染症等が挙げられる。その例としては、特に限定されないが、結核、B型肝炎、C型肝炎、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症、ヒトパピローマウイルス感染症、エプステイン・バーウイルス感染症、サイトメガロウイルス感染症、ヘルペスウイルス感染症、ヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)感染症等が挙げられる。
【0058】
本明細書における、「免疫チェックポイント阻害剤」とは、1つ以上の免疫チェックポイント分子(例えば、PD-1、PD-L1)の機能またはPD-1/PD-L1結合の形成を阻害し、T細胞の抑制を解除して活性化し、免疫賦活効果を発揮する薬剤を意味する。免疫チェックポイント分子とは、キラーT細胞の活性化を阻害し、がん細胞または病原体に対する免疫に対して抑制的に作用するタンパク質である。
【0059】
本明細書における、「PD-L1発現抑制剤」とは、がん細胞または抗原提示細胞におけるPD-L1の発現を抑制して、PD-1/PD-L1結合の形成を阻害し、T細胞の抑制を解除して活性化し、がん細胞または病原体に対する免疫賦活効果を発揮する薬剤を意味する。
【0060】
本明細書における、「IL-2産生低下抑制剤」とは、PD-1/PD-L1結合の形成を阻害して、IL-2産生低下を抑制することにより、T細胞のアポトーシスが抑制され、T細胞を活性化し、がん細胞または病原体に対する免疫賦活効果を発揮する薬剤を意味する。
【0061】
本明細書における、「治療」とは、哺乳動物、特にヒトにおける、疾患または障害およびそれに伴う症状のあらゆる治癒および/または改善を意味する。また、PD-1/PD-L1結合による免疫能低下に起因する疾患を予防、緩和または軽減することも含まれる。例えば、がんの治療については、がん腫瘍を完全に取り除くこと、がん細胞を消滅させること、がん細胞の増殖を抑制すること、がんの再発を阻止すること、がんに伴う症状を取り除くこと、がんに伴う症状を緩和または軽減すること、がんおよびその症状の悪化を防止もしくは遅延すること、がんおよびその症状の進行を防止もしくは遅延すること、がん患者の生活の質を向上させること、がん患者の生存を延長させること、がんおよびその症状の発症を防止もしくは遅延すること、がんおよびその症状の発症の危険性を低下させること等が挙げられる。また、感染症の治療については、感染症の原因である病原体を完全に取り除くこと、病原体の増殖を抑制すること、感染症の再発を防止すること、感染症に伴う症状を緩和または軽減すること、症状の悪化を防止もしくは遅延すること、およびその症状の進行を防止もしくは遅延すること等が挙げられる。
【0062】
「患者」とは、ヒトおよび動物、例えば、イヌ、ネコ、ウマ等を意味する。その中でも、ヒトが好ましい。
【0063】
「治療上の有効量」とは、未治療対象と比べて、PD-1/PD-L1結合による免疫能低下に起因する疾患およびその症状の治癒、改善、予防および/または軽減をもたらす量、あるいはがん症状の進行の防止または遅延をもたらす量を意味する。該用語は、その範囲内に、正常な生理的機能を促進するのに有効な量も含む。療法における使用では、本発明の化合物の治療上の有効量を、化合物原体として投与することが可能である。特に限定するものではないが、通常、本発明の化合物として、1日当たり0.001~1000mg/kg(体重)の範囲が有効である。
かかる有効量として、本発明の化合物単独の量、本発明の化合物の組み合わせの量および/またはがん治療に有用な他の活性成分と組み合わせた本発明の化合物の量が挙げられる。
【0064】
本明細書における、「T細胞機能の増強」とは、T細胞におけるPD-1発現、がん細胞におけるPD-L1発現、そして、PD-1/PD-L1結合により抑制されたT細胞機能を活性化することを意味する。T細胞機能の増強として、例えば、サイトカイン(IL-2)産生量の増加、T細胞の増殖の促進、アネルギー(不応答性)状態、休止状態などの抑制状態にあるT細胞のトレランスの解除および抑制(T細胞を抑制状態から外部の刺激に対して応答する状態へ移行させること)等が挙げられる。
【0065】
本発明の医薬組成物ならびに免疫チェックポイント阻害剤、PD-L1発現抑制剤、IL-2産生低下抑制剤、ワクチンの補助剤、およびT細胞機能増強剤(以下、薬剤と称する)は、本発明の化合物を有効成分として含むものであればよく、免疫チェックポイント分子を阻害する作用を妨げない限り、他の成分をさらに含むものであってもよい。したがって、本発明の医薬組成物または薬剤中の本発明の化合物の割合は特に限定されるものではない。例えば、本発明の医薬組成物または薬剤は、本発明の化合物を0.1重量%以上、0.5重量%以上、または1.0重量%以上含みうる。また、本発明の化合物の量は、0.1~90重量%、0.5~70重量%、または1.0~60重量%の範囲であってもよい。あるいは、本発明の医薬組成物または薬剤は、本発明の化合物のみからなるものであってもよい。
【0066】
本発明の医薬組成物または薬剤は、経口または非経口(例えば、静脈、局所、経鼻、経肺、直腸等)投与することができる。本発明の剤形は、対象の身体状況、健康状態などに応じて適宜選択することができ、調製することができる。例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、液剤、シロップ剤などの経口投与剤、または注射剤、透析用剤、吸入剤、坐剤、点眼剤、眼軟膏剤、点耳剤、点鼻剤、外用剤、スプレー剤、軟膏剤、クリーム剤、ゲル剤、貼付剤などの非経口投与剤の剤形に、常法により調製されうる。
【0067】
本発明の医薬組成物または薬剤は、必要に応じ、賦形剤(例えば、乳糖、白糖、D-マンニトールおよび微結晶セルロース)、崩壊剤(例えば、カルメロース、カルメロースナトリウムおよび低置換度ヒドロキシプロピルセルロース)、結合剤(例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポビドンおよび結晶セルロース)、滑沢剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウムおよびタルク)、溶剤(例えば、水、エタノールおよびプロピレングリコール)、緩衝剤(例えば、リン酸三ナトリウム、リン酸水素ナトリウムおよびリン酸二水素ナトリウム)、懸濁化剤(例えば、アラビアゴム、トラガントおよびカルボキシメチルセルロースナトリウム)、乳化剤(例えば、グリセリン脂肪酸エステルおよびソルビタン脂肪酸エステル)など1種以上の医薬的に許容される担体を含んでいてもよい。
【0068】
本発明の化合物の投与量は、投与方法、対象の年齢、疾患の程度、症状、剤形等により適宜選択されるが、例えば、一日あたり、0.01mg~0.1mg、0.1mg~1mg、1mg~5mg、5mg~10mg、10mg~50mg、50mg~100mg、100mg~500mg、500mg~1g、1g~1.5g、1.5g~2g、2g~5g、5g~10gの用量で、経口投与されうる。1日あたりの本発明の化合物の量を、1回~数回に分けて投与してもよい。
【実施例】
【0069】
以下に参考例、実施例および試験例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、これらは本発明を限定するものではない。なお、化合物の同定は、NMRスペクトル法、質量分析法等により行った。
【0070】
明細書の記載を簡略化するために実施例において以下に示すような略号を用いることもある。NMRに用いられる記号としては、sは一重線、dは二重線、ddは二重の二重線、dddは二重の二重の二重線、dtは二重の三重線、tは三重線、tdは三重の二重線、qは四重線、mは多重線、brは幅広い、brsは幅広い一重線およびJは結合定数を意味する。
【0071】
参考例1
4-(4-(トリフルオロメチル)フェノキシ)アニリン
【化3】
p-アミノフェノール(303mg、2.78mmol)、4-クロロベンゾトリフルオライド(505mg、2.80mmol)および水酸化カリウム(304mg、5.42mmol)をジメチルスルホキシド(5mL)に溶かし,100℃で12時間撹拌した。反応液に水(10mL)を加え、酢酸エチル(10mL)で3回抽出した。抽出した酢酸エチル層を全て合わせて、水(20mL)、飽和食塩水(20mL)でそれぞれ洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥して溶媒を減圧留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーに付し、ヘキサン-酢酸エチル(7:3)で溶出した画分より4-(4-(トリフルオロメチル)フェノキシ)アニリンを得た(181mg、0.715mmol、26%)。
【0072】
参考例2
4-(4-(ペンタフルオロスルファニル)フェノキシ)アニリン
【化4】
p-アミノフェノール(189mg、1.78mmol)、4-フルオロフェニルサルファーペンタフルオリド(258mg、1.16mmol)および水素化ナトリウム(60%、流動パラフィンに分散)(70mg、1.75mmol)をN,N-ジメチルホルムアミド(4mL)に溶かし、100℃で18時間撹拌した。反応液に水(10mL)を加え、酢酸エチル(10mL)で4回抽出した。抽出した酢酸エチル層を全て合わせて、水(20mL)、飽和食塩水(20mL)でそれぞれ洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥して溶媒を減圧留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーに付し、ヘキサン-酢酸エチル(3:1)で溶出した画分より4-(4-(ペンタフルオロスルファニル)フェノキシ)アニリンを得た(110mg、0.354mmol、30%)。
【0073】
参考例3
tert-ブチル 3-((4-(4-(トリフルオロメチル)フェノキシ)フェニル)カルバモイル)ピペリジン-1-カルボキシレート
【化5】
4-(4-(トリフルオロメチル)フェノキシ)アニリン(95.0mg、0.375mmol)をジクロロメタン(4mL)に溶かし、1-(tert-ブトキシカルボニル)-4-ピペリジンカルボン酸(108mg、0.471mmol)、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(200μL、1.14mmol)および(1-シアノ-2-エトキシ-2-オキソエチリデンアミノオキシ)ジメチルアミノ-モルホリノ-カルベニウム ヘキサフルオロホスファート(220mg、0.514mmol)を加え、室温にて6時間撹拌した。反応液に0.5M塩酸(10mL)を加え、酢酸エチル(10mL)で3回抽出した。抽出した酢酸エチル層を全て合わせて、飽和重曹水(20mL)、飽和食塩水(20mL)でそれぞれ洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥して溶媒を減圧留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーに付し、ヘキサン-酢酸エチル(3:1)で溶出した画分よりtert-ブチル 3-((4-(4-(トリフルオロメチル)フェノキシ)フェニル)カルバモイル)ピペリジン-1-カルボキシレートを得た(134mg、0.289mmol、77%)。
【0074】
参考例4
tert-ブチル 3-((4-(4-(ペンタフルオロスルファニル)フェノキシ)フェニル)カルバモイル)ピペリジン-1-カルボキシレート
【化6】
4-(4-(ペンタフルオロスルファニル)フェノキシ)アニリン(70.1mg、0.225mmol)をジクロロメタン(3mL)に溶かし、1-(tert-ブトキシカルボニル)-4-ピペリジンカルボン酸(66.2mg、0.289mmol)、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(120μL、0.669mmol)および(1-シアノ-2-エトキシ-2-オキソエチリデンアミノオキシ)ジメチルアミノ-モルホリノ-カルベニウム ヘキサフルオロホスファート(141mg、0.330mmol)を加え、室温にて10時間撹拌した。反応液に0.5M塩酸(10mL)を加え、酢酸エチル(10mL)で3回抽出した。抽出した酢酸エチル層を全て合わせて、飽和重曹水(20mL)、飽和食塩水(20mL)でそれぞれ洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥して溶媒を減圧留去した.残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーに付し、ヘキサン-酢酸エチル(4:1)で溶出した画分よりtert-ブチル 3-((4-(4-(ペンタフルオロスルファニル)フェノキシ)フェニル)カルバモイル)ピペリジン-1-カルボキシレートを得た(61.0mg、0.117mmol、52%)。
【0075】
実施例1
1-(4-ヒドロキシベンゾイル)-N-(4-(4-(トリフルオロメチル)フェノキシ)フェニル)ピペリジン-3-カルボキサミド
【化7】
参考例3の化合物(30.2mg、0.065mmol)を、塩化水素-メタノール試薬(5~10%)(2mL)に溶解し、室温にて4時間撹拌した。反応液を減圧留去し、その残渣をジクロロメタン(2mL)に溶解し、p-ヒドロキシ安息香酸(11.5mg、0.083mmol)、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(60μL、0.344mmol)および(1-シアノ-2-エトキシ-2-オキソエチリデンアミノオキシ)ジメチルアミノ-モルホリノ-カルベニウム ヘキサフルオロホスファート(38.5mg、0.090mmol)を加え、室温にて4時間撹拌した。反応液に0.5M塩酸(10mL)を加え、酢酸エチル(10mL)で3回抽出した。得られた酢酸エチル層を全て合わせて、飽和重曹水(20mL)および飽和食塩水(20mL)でそれぞれ洗浄した後、無水硫酸ナトリウムで乾燥して、溶媒を減圧留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーに付し、クロロホルム-メタノール(39:1)で溶出した画分より表題化合物を得た(16.1mg、0.033mmol、51%)。
【0076】
生成物は、EIMS(電子衝撃質量スペクトル)法による質量分析およびNMRによって解析した。EIMSおよびNMRの結果を以下に示す。
1H-NMR(600MHz,CDCl3)δ9.14-9.32(1H,br.s),8.38-8.56(1H,br.s),7.56-7.66(2H,br.s),7.50(2H,d,J=8.2Hz),7.25(2H,d,J=7.6Hz),6.88-7.18(4H,m),6.68-6.83(2H,br.s),4.12-4.27(1H,br.s),3.59-3.78(1H,br.s),3.33-3.51(1H,br.s),2.61-2.79(1H,br.s),2.08-2.27(1H,br.s),1.92-2.08(2H,br.s),1.57-1.74(1H,br.s),1.43-1.57(1H,br.s)。
13C-NMR(150MHz,CDCl3)δ171.8,171.3,160.7,158.8,151.8,134.7,129.4(2C),127.1(2C,q,3JC-F=3.8Hz),125.8,124.7(q,2JC-F=32.8Hz),124.2(q,1JC-F=273.0Hz),121.9(2C),120.5(2C),117.4(2C),115.6(2C),49.1,45.2,43.5,27.2,24.7。
EIMS m/z (rel.int) 484[M]+(100),363(42),253(35),232(30),204(93),121(91)。
HREIMS m/z 484.1614(C26H23O4N2F3の計算値484.1608)。
【0077】
実施例2
1-(4-ニトロベンゾイル)-N-(4-(4-(トリフルオロメチル)フェノキシ)フェニル)ピペリジン-3-カルボキサミド
【化8】
p-ヒドロキシ安息香酸の代わりにp-ニトロ安息香酸を用いること以外は、実施例1に記載の方法にしたがって、実施例2の化合物を得た。
【0078】
生成物は、EIMS(電子衝撃質量スペクトル)法による質量分析およびNMRによって解析した。EIMSおよびNMRの結果を以下に示す。
1H-NMR(600MHz,CDCl3)δ8.48-8.57(1H,br.s),8.28(2H,d,J=8.4Hz),7.64(2H,d,J=8.4Hz),7.53-7.62(4H,m),6.95-7.08(4H,m),4.14(1H,br.d,J=14.1Hz),3.99(1H,dd,J=14.1,3.5Hz),3.34-3.51(2H,m),2.77-2.88(1H,br.s),2.23-2.37(1H,br.s),1.92-2.04(1H,br.s),1.62-1.73(1H,br.s),1.48-1.58(1H,br.s)。
13C-NMR(150MHz,CDCl3)δ171.8,168.8,160.6,151.8,148.6,141.2,134.6,128.0(2C),127.0(2C,q,3JC-F=3.9Hz),124.7(q,2JC-F=33.1Hz),124.4(q,1JC-F=270.8Hz),124.0(2C),121.9(2C),120.6(2C),117.4(2C),48.5,44.4,43.2,27.2,24.6。
EIMS m/z (rel.int) 513[M]+(85),261(26),253(66),233(100),150(88)。
HREIMS m/z 513.1507(C26H22O5N3F3の計算値513.1512)。
【0079】
実施例3
1-(4-ヒドロキシ-3-メトキシベンゾイル)-N-(4-(4-(トリフルオロメチル)フェノキシ)フェニル)ピペリジン-3-カルボキサミド
【化9】
p-ヒドロキシ安息香酸の代わりに4-ヒドロキシ-3-メトキシ安息香酸を用いること以外は、実施例1に記載の方法にしたがって、実施例3の化合物を得た。
【0080】
生成物は、EIMS(電子衝撃質量スペクトル)法による質量分析およびNMRによって解析した。EIMSおよびNMRの結果を以下に示す。
1H-NMR(600MHz,CDCl3)δ9.02-9.18(1H,br.s),7.66-7.82(2H,br.s),7.57(2H,d,J=8.0Hz),6.91-7.08(7H,m),5.95-6.02(1H,br.s),4.06-4.22(1H,br.s),3.81-3.97(1H,br.s),3.83(3H,s),3.47-3.63(1H,br.s),2.61-2.75(1H,br.s),2.23-2.36(1H,br.s),1.86-1.98(1H,br.s),1.47-1.78(3H,m)。
13C-NMR(150MHz,CDCl3)δ171.8,170.5,160.6,151.8,149.6,148.9,134.6,131.2,127.0(2C,q,3JC-F=3.9Hz),124.7(q,2JC-F=33.1Hz),124.4(q,1JC-F=270.8Hz),121.9(2C),120.9,120.6(2C),117.4(2C),116.5,114.7,56.0,49.2,45.2,43.3,27.2,24.7。
EIMS m/z (rel.int) 514[M]+(61),363(24),262(25),234(96),151(100)。
HREIMS m/z 514.1675(C27H25O5N2F3の計算値514.1716)。
【0081】
実施例4
1-(4-ヒドロキシベンゾイル)-N-(4-(4-ペンタフルオロスルファニル)フェノキシ)フェニル)ピペリジン-3-カルボキサミド
【化10】
参考例4の化合物(42.2mg、0.080mmol)を塩化水素-メタノール試薬(5~10%)(2mL)に溶解し、室温にて6時間撹拌した。反応液を減圧留去し、その残渣をジクロロメタン(2mL)に溶解し、p-ヒドロキシ安息香酸(13.4mg、0.097mmol)、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(60μL、0.344mmol)および(1-シアノ-2-エトキシ-2-オキソエチリデンアミノオキシ)ジメチルアミノ-モルホリノ-カルベニウム ヘキサフルオロホスファート(45.0mg、0.105mmol)を加え、室温にて3時間撹拌した。反応液に0.5M塩酸(10mL)を加え、酢酸エチル(10mL)で3回抽出を行った。抽出した酢酸エチル層を全て合わせて、飽和重曹水(20mL)および飽和食塩水(20mL)で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、溶媒を減圧留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーに付し、クロロホルム-メタノール(49:1)で溶出した画分より表題化合物を得た(22.7mg、0.042mmol、53%)。
【0082】
生成物は、EIMS(電子衝撃質量スペクトル)法による質量分析およびNMRによって解析した。EIMSおよびNMRの結果を以下に示す。
1H-NMR(600MHz,CDCl3)δ9.23-9.34(1H,br.s),8.65-8.76(1H,br.s),7.68(4H,m),7.23(2H,d,J=7.8Hz),6.98(2H,d,J=8.0Hz),6.91(2H,d,J=8.0Hz),6.76(2H,d,J=7.8Hz),4.15-4.28(1H,br.s),3.72-3.88(1H,br.s),3.30-3.43(1H,br.s),2.68-2.82(1H,br.s),2.08-2.23(1H,br.s),1.87-2.02(2H,br.s),1.53-1.70(1H,br.s),1.40-1.53(1H,br.s)。
13C-NMR(150MHz,CDCl3)δ171.8,171.3,160.1,158.9,151.4,148.0(quint,2JC-F=17.8Hz),135.0,129.4(2C),127.8(2C,quint,3JC-F=4.4Hz),125.6,122.0(2C),120.7(2C),116.8(2C),115.6(2C),49.1,45.2,43.5,27.2,24.8。
EIMS m/z (rel.int) 542[M]+(42),421(20),311(20),232(30),204(100),121(93)。
HREIMS m/z 542.1269(C25H23O4N2F5Sの計算値542.1299)。
【0083】
実施例5
1-(4-ニトロベンゾイル)-N-(4-(4-(ペンタフルオロスルファニル)フェノキシ)フェニル)ピペリジン-3-カルボキサミド
【化11】
p-ヒドロキシ安息香酸の代わりにp-ニトロ安息香酸を用いること以外は、実施例4と同様の方法にしたがって、化合物5の化合物を得た。
【0084】
生成物は、EIMS(電子衝撃質量スペクトル)法による質量分析およびNMRによって解析した。EIMSおよびNMRの結果を以下に示す。
1H-NMR(600MHz,CDCl3)δ8.48-8.57(1H,br.s),8.28(2H,d,J=8.4Hz),7.56-7.68(6H,m),6.88-7.02(2H,m),6.73(2H,d,J=7.7Hz),4.13(1H,br.d,J=14.4Hz),3.94-4.03(1H,m),3.33-3.49(2H,m),2.78-2.88(1H,br.s),2.25-2.38(1H,br.s),1.92-2.03(1H,br.s),1.63-1.74(1H,br.s),1.48-1.58(1H,br.s)。
13C-NMR(150MHz,CDCl3)δ171.8,168.9,159.1,151.3,148.6,148.1(quint,2JC-F=17.2Hz),141.0,135.0,128.1(2C),127.8(2C,quint,3JC-F=4.3Hz),124.0(2C),122.0(2C),120.5(2C),116.8(2C),48.7,44.4,43.2,27.3,24.8。
EIMS m/z (rel.int) 571[M]+(100),421(10),311(42),261(20),233(64),150(48)。
HREIMS m/z 571.1197(C25H22O5N3F5Sの計算値571.1200)。
【0085】
実施例6
1-(4-ヒドロキシ-3-メトキシベンゾイル)-N-(4-(4-(ペンタフルオロスルファニル)フェノキシ)フェニル)ピペリジン-3-カルボキサミド
【化12】
p-ヒドロキシ安息香酸の代わりに4-ヒドロキシ-3-メトキシ安息香酸を用いること以外は、実施例4と同様の方法にしたがって、実施例6の化合物を得た。
【0086】
生成物は、EIMS(電子衝撃質量スペクトル)法による質量分析およびNMRによって解析した。EIMSおよびNMRの結果を以下に示す。
1H-NMR(600MHz,CDCl3)δ9.08-9.21(1H,br.s),7.60-7.83(4H,m),7.02-7.10(5H,m),6.92-7.02(2H,m),6.00-6.13(1H,br.s),4.03-4.15(1H,br.s),3.84-3.97(1H,br.s),3.83(3H,s),3.49-3.60(1H,br.s),2.71-2.80(1H,br.s),2.28-2.40(1H,br.s),1.88-2.00(1H,br.s),1.51-1.82(3H,m)。
13C-NMR(150MHz,CDCl3)δ171.8,170.3,159.0,151.1,149.8,148.6,148.0(quint,2JC-F=17.2Hz),135.1,131.0,127.7(2C,quint,3JC-F=4.1Hz),122.0(2C),121.3,120.7(2C),116.7(2C),116.5,114.4,56.1,49.0,45.0,43.6,27.2,24.6。
EIMS m/z (rel.int) 572[M]+(100),421(42),311(19),262(26),234(94),151(88)。
HREIMS m/z 572.1388(C26H25O5N2F5Sの計算値572.1404)。
【0087】
比較例1
N-(3-(4-クロロフェノキシ)フェニル)-1-(4-ヒドロキシフェニルカルボニル)ピペリジン-3-カルボキサミド
【化13】
比較例1の化合物を、以下の方法にしたがって調製した。3-(4-クロロフェノキシ)アニリン(55mg,0.250mmol)をジクロロメタン(3mL)に溶解し1-(tert-ブトキシカルボニル)ピペリジン-3-カルボン酸(59mg,0.312mmol)、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(130μL,0.776mmol)および(1-シアノ-2-エトキシ-2-オキソエチリデンアミノオキシ)ジメチルアミノモルホリノカルベニウム(145mg,0.339mmol)を加え、室温で16時間撹拌した。反応液に0.3M 塩酸(20mL)を加え、酢酸エチル(20mL)で3回抽出した。得られた酢酸エチル層を合わせて、飽和重曹水(40mL)および飽和食塩水(40mL)で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、溶媒を減圧留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン-酢酸エチル(3:7)で溶出)で精製し、tert-ブチル 3-(3-(4-クロロフェノキシ)フェニルアミノ)-3-オキソプロピルカルバメートを得た(61mg,0.155mmol,62%)。
tert-ブチル 3-(3-(4-クロロフェノキシ)フェニルアミノ)-3-オキソプロピルカルバメート(53mg,0.135mmol)をメタノール(1.5mL)に溶解し、塩酸-メタノール試薬(5~10%)(1.5mL)を加え、室温で4時間撹拌した。反応液を減圧留去し、残渣をジクロロメタン(3mL)に溶解し、4-(メトキシメトキシ)安息香酸(32mg,0.175mmol)、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(100μL,0.574mmol)および(1-シアノ-2-エトキシ-2-オキソエチリデンアミノオキシ)ジメチルアミノモルホリノカルベニウム(90mg,0.210mmol)を加え、室温で12時間撹拌した。反応液に0.3M塩酸(20mL)を加え、酢酸エチル(20mL)で3回抽出した。得られた酢酸エチル層を合わせて、飽和重曹水(40mL)および飽和食塩水(40mL)で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、溶媒を減圧留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム-メタノール(39:1)で溶出)で精製し、N-(3-(3-(4-クロロフェノキシ)フェニルアミノ)-3-オキソプロピル)-4-(メトキシメトキシ)ベンズアミドを得た(38mg,0.082mmol,61%(2工程))。
N-(3-(3-(4-クロロフェノキシ)フェニルアミノ)-3-オキソプロピル)-4-(メトキシメトキシ)ベンズアミド(28mg,0.063mmol)をメタノール(1mL)に溶解し、塩酸-メタノール試薬(5~10%)(1mL)を加え、室温で5時間撹拌した。反応液を減圧留去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム-メタノール(19:1)で溶出)で精製し、比較例1の化合物を得た(9mg,0.022mmol,35%)。
【0088】
試験例1:PD-L1プロモーター制御下におけるルシフェラーゼ発現抑制効果の評価
pGL-3ベクター basic (Promega)のマルチクローニング部位にヒトPD-L1プロモーター配列(-2097から51)を組み込んだ、レポーターベクターpPD-L1lucは、動物細胞にトランスフェクションするとPD-L1プロモーターの制御によりルシフェラーゼを発現する。該pPD-L1lucを、ピューロマイシン耐性遺伝子(ピューロマイシン-N-アセチル-トランスフェラーゼ遺伝子)を発現するpPUR(Clontech)と共にヒト非小細胞肺癌由来細胞株A549にトランスフェクトし、ピューロマイシン添加培地において増殖が可能である、ルシフェラーゼを発現する細胞を選択した。選択された細胞を「A549/PD-L1luc細胞」と称し、後述のルシフェラーゼアッセイに使用した。
被験化合物をA549/PD-L1luc細胞の培養液中に添加し、細胞内のルシフェラーゼ発現量に対する影響を観察した。ここで、被験化合物が細胞毒性または細胞増殖抑制効果を有している場合には、被験化合物の濃度に依存した生細胞数の減少により総ルシフェラーゼ発現量が低下し、被験化合物のPD-L1プロモーター制御下でのルシフェラーゼ発現抑制効果を正しく評価できないことが考えられる。このため、被験化合物を添加して培養した細胞の総蛋白量をBCA Protein Assay Kit(Thermo Scientific)を使用して測定し、その測定した総タンパク量を細胞数の指標とした。
【0089】
(1-1)ルシフェラーゼアッセイ
A549/PD-L1luc細胞を、10%ウシ胎児血清(FCS)および1%ペニシリン・ストレプトマイシン(P/S)を添加したDMEM(以下、DMEM培地と称する)に3x104細胞/mLとなるよう懸濁し、これを96ウェルプレートの各ウェルに100μLずつ分注した。対照群および各濃度の被験化合物添加群を、それぞれ3ウェルずつ準備して、試験をトリプリケートで実施した。分注後、96ウェルプレートを炭酸ガス培養器(37℃、5%CO2条件下)で24±4時間培養した。
【0090】
実施例1~6および比較例1の化合物をジメチルスルホキシド(DMSO)によって50mmol/L溶液とし、-80℃で保存した。該化合物溶液を、DMSOによって2倍希釈系列として希釈し(通常は0.04mmol/L~10mmol/Lの範囲)、2倍ずつ濃度の異なった被験化合物溶液をルシフェラーゼアッセイのために準備した。
【0091】
細胞懸濁液を加えた各ウェルに、DMSOのみ(対照)または希釈した被験化合物(検体)溶液を0.5μLずつ分注した(200倍希釈)。ボルテックスミキサーで混和した後、96ウェルプレートを炭酸ガス培養器(37℃、5%CO2条件下)で48±4時間培養した。Luciferase Assay Systems(Promega:Cat# E1500)に含まれるLuciferase Assay Substrate(以下、LASと表記する)をLuciferase Assay Buffer(LAB)で溶解し、ルシフェラーゼ試薬を調製した。5xCell Culture Lysis Reagent(以下、CCLRと表記する)を水で5倍希釈し、1xCCLRを調製した。
【0092】
培養48±4時間後、各ウェルの培地を完全に取り除き、1xCCLRを50μLずつ分注した。室温で30分間静置した後、各ウェル内の1xCCLRをルシフェラーゼおよび総蛋白量の測定用試料とした。化学発光測定用のチューブにルシフェラーゼ試薬を100μL加え、これに測定用試料20μLを添加して混和し、GloMax20/20(Promega)を用いて、化学発光(相対発光強度:RLU)を測定した。
【0093】
(1-2)細胞中の総タンパク量の測定
上記測定用試料10μLと水90μLを混和し、10倍希釈した。検量線サンプルを、表1に示されるように、BSA溶液を水で希釈して調製した。
【表1】
【0094】
タンパク測定用キットに含まれているBCA試薬AとBCA試薬B(50:1)を混和し、Working Reagentを調製した。96ウェルプレートの各ウェルに検量線サンプル(バイアルI~VI)および10倍希釈した試料を25μLずつ分注した。対照群および各濃度の被験化合物添加群の試料をそれぞれ、2ウェルに25μLずつ分注した。
【0095】
Working Reagentを検量線サンプルまたは試料の入った各ウェルに200μLずつ添加し、ボルテックスミキサーで30秒間混和した。60℃で30分間加温した後、室温で15分間静置した。続いて、マイクロプレートリーダー(Bio-Rad;BenchmarkまたはThermo Scientific;Varioskan Flash)を用いて吸光値(550nm)を測定した。
【0096】
検量線サンプルの吸光値から、最小二乗法により回帰直線を求め、各ウェルの希釈した試料の総タンパク濃度を算出した。さらに、総タンパク濃度に希釈倍率(10倍)を乗算し、各試料の総タンパク濃度を算出した。
【0097】
(1-3)PD-L1luc活性の50%発現阻害濃度(IC50)の算出
ルシフェラーゼアッセイで求めた対照のRLUおよび各濃度の検体のRLUをそれぞれエクセルファイルに入力し、対照のRLUの平均値に対する各濃度の検体のRLUのパーセントを求めた。
また、細胞中の総タンパク量の測定で求めた対照の総タンパク濃度および各濃度の検体の総タンパク濃度をそれぞれエクセルファイルに入力し、対照の総タンパク濃度の平均値に対する各検体の総タンパク濃度のパーセントを求めた。
次いで、各検体のRLUから求めたパーセントをそれに該当する総タンパク濃度のパーセントで除し、RLUから求めたパーセントのタンパク量による補正値を求めた。補正した各値から、最小二乗法により回帰直線を求め、50%ルシフェラーゼ発現阻害濃度(IC50値)を算出した。
【0098】
算出された各化合物のIC
50値を表2に示す。
【表2】
【0099】
実施例1~6および比較例1の化合物をルシフェラーゼ発現抑制試験で評価したところ、本発明の化合物がPD-L1プロモーター制御下のルシフェラーゼ発現を抑制することが確認された。
【0100】
試験例2:蛍光抗体標識抗PD-L1抗体を用いた細胞染色によるPD-L1発現抑制効果の評価
実施例1~6の化合物について、以下の手順にしたがって、PD-L1発現抑制効果を評価した。
【0101】
(2-1)PD-L1発現阻害アッセイ
(1)急性単球性白血病細胞由来のTHP-1細胞を10%FCSおよび1%P/Sを添加したRPMI培地(以下、RPMI培地と称する)に5x105細胞/mLとなるよう懸濁し、6ウェルプレートの各ウェルに3mLずつ分注した。THP-1細胞を活性化し、PD-L1を発現させるためにIFN-γ(PEPROTECH社、Cat.No.300-02-100UG、>2e+7U/mg)を25ng/mL(>500U/mL)となるよう各ウェルに加えた。50mmol/Lの被験化合物の溶液を培地で希釈し(通常は0.025mmol/L~1mmol/Lの範囲)、その60μLをウェルに加えた。炭酸ガス培養器(37℃、5%CO2条件下)で24±2時間培養した。対照として、化合物の代わりにDMSOのみを加えた。
(2)細胞培養液の一部を採取し、セルカウンター(BIORAD TC-20)で細胞を計数した。細胞培養液を300xgで5分間遠心分離し、上清を除去した。細胞濃度が1~2x107細胞/mLとなるように1%ウシ血清アルブミン(BSA)添加カルシウム・マグネシウム不含リン酸緩衝生理的食塩液(PBS-)で懸濁した。
(3)5mLチューブに、(2)で調製した細胞懸濁液を各25μL加えた。これに2%正常マウス血清/PBS-を2μL加え、軽くピペッティングした。続いて、室温で15分間静置した。
(4)抗CD274-PC7抗体(BECKMAN COULTER、Cat.No.A78884)または対照のマウスIgG1-PC7抗体(BECKMAN COULTER、737662)を10μL加え、軽く撹拌した。続いて、暗所にて氷浴上30分間静置した。
(5)FOXP3/Transcription Factor Staining kit(TONBO biosciences)に含まれるFoxp3/Transcription Factor Fix/Perm Concentrate(4X)(Cat.No.TNB-1020-L050)(A液)をFoxp3/Transcription Factor Fix/Perm Diluent(1X)(Cat.No.TNB-1022-L160)(A希釈用液)で希釈し、1xA液を調製した。
(6)1xA液を各チューブに1mLずつ加え、軽くピペッティングして撹拌した。続いて、暗所にて室温で30分間放置し、300xgで5分間遠心分離し、上清を捨てた。
(7)1%BSA/PBS-の2mLを各チューブに加えて軽く撹拌後、300xgで5分間遠心分離し、上清を捨てた。
(8)0.5mLの1%BSA/PBS-に懸濁させ、フローサイトメーター(ソニー:Cell Sorter SH800)で2時間以内に測定した。結果は、ソフトウエアのFlowJo(Tree Star Inc.)で解析した。蛍光強度と細胞数のヒストグラムからPD-L1のピーク中間蛍光値(MFI)とIgG1のピーク中間蛍光値を求め、PD-L1の中間蛍光値からIgG1の中間蛍光値を引き、subMFIを求めた。実験はn=2で行った。
【0102】
(2-2)PD-L1luc活性の50%発現阻害濃度(IC50)の算出
FlowJoによる解析で求めた対照細胞のsubMFIおよび各濃度の被験化合物を添加して培養した細胞(被験細胞)のsubMFIをそれぞれエクセルファイルに入力し、対照細胞のsubMFIの平均値に対する各濃度の被験細胞のsubMFIのパーセントを求めた。各濃度の被験細胞のsubMFIのパーセントから最小二乗法により回帰直線を求め、各化合物の50%PD-L1発現阻害濃度(IC50値)を算出した。
【0103】
算出された各化合物のIC
50値を表3に示す。
【表3】
【0104】
実施例1~6の化合物をTHP-1細胞の抗PD-L1抗体染色により評価したところ、本発明の化合物がPD-L1発現抑制効果を示すことが確認された。
【0105】
試験例3:PD-1/PD-L1結合に起因するT細胞のアポトーシスに対する本発明の化合物の抑制効果の評価
試験例1および2により本発明の化合物がPD-L1発現抑制効果を有していることが立証されたことから、当該化合物のPD-L1発現抑制効果によりPD-1/PD-L1結合に起因するT細胞のアポトーシスを抑制できるか否かを評価した。
IFN-γを加えて前培養したPD-L1を発現したA549細胞およびPhorbol 12-myristate 13-Acetate(以下、PMAと称する:Sigma Cat#1585)とphytohemagglutinin-L(以下、PHA-Lと称する:Roche Cat#11249738001)を加えて前培養したPD-1を発現したヒト急性T細胞性白血病細胞由来のJurkat細胞それぞれの培養上清を除いた後、新しい培地で共培養した。共培養後のJurkat細胞のCaspase3/7活性を測定することにより、アポトーシスの指標とした。被験化合物は前培養中のA549細胞の培養液中に添加した。
【0106】
(3-1)Caspase3/7アッセイ
[1日目]
(1)DMEM培地で1x105細胞/mLに調製したA549細胞の懸濁液を3mLずつ6ウェルプレートの各ウェルに分注した。
(2)別途、RPMI培地で3x105細胞/mLに調製したJurkat細胞の懸濁液を5mLずつT25フラスコに分注した。
(3)(1)の6ウェルプレートおよび(2)のT25フラスコを共に炭酸ガス培養器(37℃、5%CO2条件下)で24±2時間培養した。
【0107】
[2日目]
(1)3mLのA549細胞の培養液にIFN-γ(25ng/mL)と被験化合物を加えて培養を継続した。被験化合物は、50mmol/L DMSO溶液をDMEM培地で100倍希釈した後、その3μL、6μLまたは12μLを加えた(終濃度0.5μmol/L、1.0μmol/L、2μmol/L)。対照は、DMEM培地で100倍希釈したDMSOを12μL加えた。
(2)別途、Jurkat細胞の培養液にPMA(終濃度12.5ng/mL)とPHA(終濃度250ng/mL)を加えて培養を継続した。
【0108】
[3日目]
状態の観察を行った。
【0109】
[4日目]
A549細胞については、Cell Dissociation Solution Non-enzymatic(Sigma Cat No.C5914-100ML)で細胞を剥がし、300xgで5分間遠心分離して上清を除いた後にRPMI培地で4x105細胞/mLとなるよう懸濁した。
Jurkat細胞は300xgで5分間遠心分離して上清を除いた後にRPMI培地で4x104細胞/mLとなるよう懸濁した。
24ウェルプレートの各ウェルに、0.25mLのA549細胞懸濁液と0.25mLのJurkat細胞懸濁液を加えた(細胞数の比は10:1)。A549細胞のみでJurkat細胞と共培養しないA549ブランクとして、0.25mLのA549細胞とRPMI培地0.25mLを加えて、37℃、5%CO2下で培養した。IFN-γ処理2日後のA549細胞のPD-L1発現とPMAとPHAで刺激したJurkat細胞のPD-1発現は、試験例2と同様な方法にしたがって、抗CD274-PC7抗体(PD-L1)または抗CD279-FITC抗体(PD-1、eBioscience Cat No.11-9969-42)で染色し、フローサイトメーターで測定して発現を確認した。
【0110】
以下の6つの条件での培養を行った。
(IF-Comp-):IFN-γおよび被験化合物を共に添加しないで前培養したA549細胞とJurkat細胞の共培養
(IF+Comp-):IFN-γを添加するが被験化合物は添加せずに前培養したA549細胞とJurkat細胞の共培養
(IF+Comp+):IFN-γを添加し、被験化合物も添加して前培養したA549細胞とJurkat細胞の共培養
(A:IF-Comp-):IFN-γおよび被験化合物を共に添加しないで前培養したA549細胞のみの培養
(A:IF+Comp-):IFN-γを添加するが被験化合物は添加せずに前培養したA549細胞のみの培養
(A:IF+Comp+):IFN-γを添加し、被験化合物も添加して前培養したA549細胞のみの培養
【0111】
[5日目]
各ウェルから培養液(浮遊細胞のJurkat細胞を含むが、接着細胞のA549細胞は含まない)を採取し、Caspase-Glo(登録商標) 3/7 Assay SystemsによるCaspase3/7活性測定の試料とした。
【0112】
(3-2)化学発光の測定
(1)ルシフェラーゼ試薬の調製
Caspase-Glo(登録商標) 3/7 Assay Systems (Promega、G8091)に含まれるCaspase-Glo(登録商標) BufferとCaspase-Glo(登録商標) substrateを室温に戻した。2.5mLのCaspase-Glo(登録商標) BufferをCaspase-Glo(登録商標) substrateのバイアルに加え、混合して溶解した。
【0113】
(2)発光測定
Caspase3/7活性測定用に採取した試料25μLと上記(1)で調製したルシフェラーゼ試薬25μLを混和し、室温で1時間のインキュベーション後にGloMax20/20(Promega)を用いて化学発光を測定した。
【0114】
(3-3)Caspase3/7活性の50%発現阻害濃度(IC
50)の算出
得られたLuminescence(CPS)から各値を求めて、下式にしたがって被験化合物のCaspase3/7活性抑制率を求めた。
【数1】
[式中:
sub(IF+Comp+)=(IF+Comp+)-(A:IF+Comp+)、
sub(IF+Comp-)=(IF+Comp-)-(A:IF+Comp-)、および
sub(IF-Comp-)-=(IF-Comp-)-(A:IF-Comp-)]
【0115】
被験化合物の各濃度とそれぞれのCaspase3/7活性抑制率をエクセルファイルに入力し、最小二乗法で回帰直線を求め、50%発現阻害濃度(IC50値)を計算した。
【0116】
抗CD274-PC7抗体またはIgG1-PC7抗体(アイソタイプコントロール)染色したA549細胞(IFN-γ処理2日後)および抗CD279-FITC抗体またはIgG1κ-FITC抗体染色したJurkat細胞(PMA/PHA処理2日後)のFCM解析結果(ヒストグラム)を、
図1Aおよび1Bに示す。
さらに、実施例2、3、5および6の化合物のIC
50値を表4に示し、対照(DMSO)のCaspase3/7活性を100%とした場合の、実施例5の化合物の各濃度におけるCaspase3/7活性抑制効果を表5および
図2に示す。
また、A549細胞およびJurkat細胞の共培養によるアポトーシスがPD-1/PD-L1結合に起因することを確認するために、IFN-γ処理A549細胞と共培養する前のPMA/PHA処理Jurkat細胞を抗PD-1抗体(R&D.AF1086;10mg/mL)で予め処理した後、処理されたJurkat細胞とA549細胞を3時間共培養して、共培養後のJurkat細胞のCaspase3/7活性を測定した。抗PD-1抗体におけるCaspase3/7活性抑制効果もまた、表5に示す。
【表4】
【0117】
【0118】
上記結果により、PD-1/PD-L1結合をほぼ抑制できることをあらかじめ確認した量の抗PD-1抗体で処理することで、Caspase3/7活性が大きく低下することが示された。すなわち、PD-1/PD-L1結合の形成を阻害するとCaspase3/7活性を抑制できることが示され、A549細胞およびJurkat細胞の共培養によるアポトーシス誘導がPD-1/PD-L1の結合に起因するものであることが立証された。さらに、本発明の化合物においても、PD-1/PD-L1結合に由来するJurkat細胞のアポトーシスが抑制されることが示された。この結果、本発明の化合物は、PD-1/PD-L1結合に起因するT細胞のアポトーシス(Caspase3/7の活性化)の抑制効果を有するものと認められる。
【0119】
試験例4:PD-1/PD-L1結合に起因したT細胞のIL-2産生量低下に対する本発明の化合物の抑止効果の評価
本発明の化合物のPD-L1発現抑制効果により、PD-1/PD-L1結合に起因するT細胞のIL-2産生量低下が抑止されるか否かを評価した。
Jurkat細胞にpGL-3ベクター basic (Promega)のマルチクローニング部位にヒトIL-2プロモーター配列(-945から53)を組み込んだ、pIL-2lucをあらかじめトランスフェクションした。このJurkat細胞にPMAとPHA-Lを加えて前培養した。また同時にIFN-γを加えてA549を前培養した。それぞれの細胞の前培養時の培養上清を除いた後、新しい培地で共培養した。共培養後のJurkat細胞のルシフェラーゼ活性を測定した。被験化合物は前培養中のA549細胞の培養液中に添加した。
【0120】
[1日目]
A549細胞をDMEM培地にて3x105細胞/mLの濃度でT25フラスコにて5mLずつ培養した(37℃、5%CO2の条件)。
別途、無血清培地500μLに5μgのpIL-2luc DNA、15μLのTransIT-Jurkat試薬(タカラバイオ:Cat# V2124)を加え、室温で15分間放置した。その全量をJurkat細胞(3x105細胞/5mL RPMI培地/T25フラスコ)に加えた。
【0121】
[2日目]
5mLのA549細胞の培養液中にIFN-γ(25ng/mL)と実施例5の化合物を加えて培養を継続した。化合物5は50mmol/L DMSO溶液をDMEM培地で100倍希釈した後、その5μLまたは10μLを加えた(終濃度0.5μmol/L、1.0μmol/L)。対照はDMEM培地で100倍希釈したDMSOを10μL加えた。
【0122】
[3日目]
A549細胞をHyQTaseで剥がし、300xgで5分間遠心分離した後に上清を捨て、RPMI培地で4x106細胞/mLの濃度とした。
Jurkat細胞を300xgで5分間遠心分離した後に上清を捨て、RPMI培地で4x105細胞/mLの濃度とした。
6ウェルプレートの各ウェルにA549細胞の細胞懸濁液1mLとJurkat細胞の細胞懸濁液1mL加えて共培養した(細胞数の比は10:1、培養条件は37℃、5%CO2)。
【0123】
[4日目]
Jurkat細胞を含む培養上清を回収し、3000rpmで5分間遠心分離した。上清を捨て、ペレットにLysis buffer(5xCCLRを水で希釈した1xCCLR)を100μL加えて室温で15分間放置して測定用試料を作製した。
【0124】
Luciferase Assay SystemのLASをLABで溶解し、ルシフェラーゼ試薬を調製した。試料10μLとルシフェラーゼ試薬50μLを混和し、GloMax20/20(Promega)で化学発光(相対発光強度:RLU)を測定した。
【0125】
IFN-γ無添加の対照(DMSO)のIL-2プロモーター制御下のルシフェラーゼ活性(以下、IL-2luc活性と称する)を100%とした場合の、IFN-γ添加の対照(DMSO)および実施例5の化合物の各濃度におけるIIL-2luc活性(%)を表6および
図3に示す。
【表6】
【0126】
上記結果により、本発明の化合物が、PD-1/PD-L1結合に由来するJurkat細胞のIL-2プロモーター制御下のルシフェラーゼ活性の低下を抑制できることが示された。すなわち、本発明の化合物は、PD-1/PD-L1結合に起因したT細胞のIL-2産生量低下の抑止効果を有するものと認められる。
【産業上の利用可能性】
【0127】
式(I)で表される本発明の化合物またはその医薬的に許容される塩は、PD-L1発現抑制作用および/またはIL-2産生低下抑制作用を有し、PD-1/PD-L1結合による免疫能低下に起因する疾患(例えば、がんおよび感染症)の治療に有用である。