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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-07
(45)【発行日】2022-07-15
(54)【発明の名称】ウェットワイパー
(51)【国際特許分類】
   A47L 13/17 20060101AFI20220708BHJP
   A61L 2/16 20060101ALI20220708BHJP
   A47K 7/00 20060101ALI20220708BHJP
【FI】
A47L13/17 A
A61L2/16
A47K7/00 E
A47K7/00 G
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2018540297
(86)(22)【出願日】2017-09-21
(86)【国際出願番号】 JP2017034126
(87)【国際公開番号】W WO2018056365
(87)【国際公開日】2018-03-29
【審査請求日】2020-05-01
(31)【優先権主張番号】P 2016185727
(32)【優先日】2016-09-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】304026696
【氏名又は名称】国立大学法人三重大学
(73)【特許権者】
【識別番号】307046545
【氏名又は名称】クラレクラフレックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福▲崎▼ 智司
(72)【発明者】
【氏名】新井田 康朗
(72)【発明者】
【氏名】横溝 昌子
【審査官】渡邉 洋
(56)【参考文献】
【文献】実公平06-037811(JP,Y2)
【文献】特開2015-110544(JP,A)
【文献】特開2010-184043(JP,A)
【文献】特開平09-173427(JP,A)
【文献】特開2015-192777(JP,A)
【文献】実開昭56-019165(JP,U)
【文献】特開2016-022273(JP,A)
【文献】特開2010-162343(JP,A)
【文献】特開2007-029264(JP,A)
【文献】特開2008-156329(JP,A)
【文献】特開2012-249921(JP,A)
【文献】特開2004-105431(JP,A)
【文献】国際公開第2015/191811(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第101812803(CN,A)
【文献】特表2016-523841(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47L13/00-13/62
A61L 2/16
A61L101/06
A47K 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
布帛と、当該布帛に含浸させた塩素系処理剤と、を含み、
前記布帛は、合成繊維、半合成繊維、再生繊維及び無機繊維から選ばれる少なくとも1種の繊維から構成され、
前記塩素系処理剤が、亜塩素酸(HClO)、及び亜塩素酸イオン(ClO )のうちの少なくとも1種を有効塩素成分として含む、ウェットワイパー。
【請求項2】
包装体に収容されている、請求項1に記載のウェットワイパー。
【請求項3】
前記布帛は、再生繊維を含む、請求項1又は2に記載のウェットワイパー。
【請求項4】
前記再生繊維は、レーヨン及びリヨセルのうちの少なくとも1種である、請求項3に記載のウェットワイパー。
【請求項5】
前記布帛は、不織布である、請求項1~4のいずれか1項に記載のウェットワイパー。
【請求項6】
前記不織布は、繊維長18~110mmの短繊維不織布である、請求項5に記載のウェットワイパー。
【請求項7】
前記不織布は、目付が20~200g/mであり、厚みが0.2~1.5mmである、請求項5又は6に記載のウェットワイパー。
【請求項8】
前記布帛は、着色されている、請求項1~7のいずれか1項に記載のウェットワイパー。
【請求項9】
前記布帛は、ポリウレタン、アクリル、ポリエチレン、ポリオレフィン、石油樹脂、アスファルト、イソプレン系炭化水素、ブタジエンゴム及び塩化ビニルから選ばれる少なくとも1種のバインダー樹脂を含む、請求項1~8のいずれか1項に記載のウェットワイパー。
【請求項10】
前記バインダー樹脂は、水乳化性ポリマーである、請求項9に記載のウェットワイパー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩素系処理剤を含むウェットワイパーに関する。
【背景技術】
【0002】
拭き取りと殺菌とを兼ねる目的で使用されるウェットワイパーが知られている。このようなウェットワイパーは、殺菌剤を布帛に含浸させた状態で包装されており、使用前に都度殺菌剤を調整することなく包装体から取り出してすぐに使うことができるので便利である。
【0003】
このようなウェットワイパーの殺菌剤として、従来、アルコールが用いられていた。しかしながら、アルコールはノロウイルスなどのウィルスを不活化させる効果が十分でないという問題があった。また、殺菌効果も十分でない場合があるという問題があった。さらにアルコールを含浸させることによって、水溶性のタンパク質、糖類、無機塩等からなる汚れの溶解度を減少させるため、拭き取り効率が減少するという問題があった。
【0004】
特開2015-110544号公報(特許文献1)には、次亜塩素酸ナトリウムを含浸させたコットンの処理シート、及び、水酸化金属とリン酸金属とを含む亜塩素酸水を含浸させたコットンの処理シートを、拭き取りに用いることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-110544号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1には、次亜塩素酸ナトリウムを含浸させたコットンの処理シートについて、含浸直後は殺菌効果を示すものの、7日間保管した後は殺菌効果が低下する結果が示されている(表25~45)。また、特許文献1には、水酸化金属とリン酸金属とを含む亜塩素酸水について、殺菌効果があることが示されているものの、水酸化金属とリン酸金属とを含む亜塩素酸水は製造工程が非常に煩雑であった。さらに、亜塩素酸水希釈液を処理用シートに含浸させたウェットシートを用いて床面の嘔吐物を処理した場合の殺菌効果について示されているものの、汚れや微生物菌体に対するワイパーとしての拭き取り効率について記載されていない。
【0007】
また、本発明者らは、ウェットワイパーの着色が実現できれば、拭き取り場所に応じて色で使い分けることが可能であるため、ウェットワイパーの利便性を飛躍的に向上させることができるとの着想を得たが、着色に必要な色材を固着させるためのバインダー樹脂が次亜塩素酸ナトリウムの効果を低下させるため長期保管は困難であった。
【0008】
本発明は、長期間保管しても殺菌効果および清拭洗浄効果が維持される、新規なウェットワイパーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下に示すウェットワイパーを提供する。
〔1〕 布帛と、当該布帛に含浸させた塩素系処理剤と、を含み、
前記布帛は、合成繊維、半合成繊維、再生繊維及び無機繊維から選ばれる少なくとも1種の繊維から構成され、
前記塩素系処理剤が、亜塩素酸(HClO)、亜塩素酸イオン(ClO )及び二酸化塩素(ClO)のうちの少なくとも1種を有効塩素成分として含む、ウェットワイパー。
〔2〕 包装体に収容されている、〔1〕に記載のウェットワイパー。
〔3〕 前記布帛は、再生繊維を含む、〔1〕又は〔2〕に記載のウェットワイパー。
〔4〕 前記再生繊維は、レーヨン及びリヨセルのうちの少なくとも1種である、〔3〕に記載のウェットワイパー。
〔5〕 前記布帛は、不織布である、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載のウェットワイパー。
〔6〕 前記不織布は、繊維長18~110mmの短繊維不織布である、〔5〕に記載のウェットワイパー。
〔7〕 前記不織布は、目付が20~200g/mであり、厚みが0.2~1.5mmである、〔5〕又は〔6〕に記載のウェットワイパー。
〔8〕 前記布帛は、着色されている、〔1〕~〔7〕のいずれかに記載のウェットワイパー。
〔9〕 前記布帛は、ポリウレタン、アクリル、ポリエチレン、ポリオレフィン、石油樹脂、アスファルト、イソプレン系炭化水素、ブタジエンゴム及び塩化ビニルから選ばれる少なくとも1種のバインダー樹脂を含む、〔1〕~〔8〕のいずれかに記載のウェットワイパー。
〔10〕 前記バインダー樹脂は、水乳化性ポリマーである、〔9〕に記載のウェットワイパー。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、長期間保管しても殺菌効果と清拭洗浄効果が維持される、新規なウェットワイパーを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】(a)試験例1、及び(b)試験例8における遊離残留塩素濃度の測定結果を示す図である。
図2】(a)試験例2、及び(b)試験例9における遊離残留塩素濃度の測定結果を示す図である。
図3】(a)試験例3、及び(b)試験例10における遊離残留塩素濃度の測定結果を示す図である。
図4】(a)試験例4、及び(b)試験例11における遊離残留塩素濃度の測定結果を示す図である。
図5】(a)試験例5、及び(b)試験例12における遊離残留塩素濃度の測定結果を示す図である。
図6】(a)試験例6、及び(b)試験例13における遊離残留塩素濃度の測定結果を示す図である。
図7】(a)試験例7、及び(b)試験例14における遊離残留塩素濃度の測定結果を示す図である。
図8】試験例15における遊離残留塩素濃度の測定結果を示す図である。
図9】試験例16における遊離残留塩素濃度の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のウェットワイパーは、布帛と当該布帛に含浸させた塩素系処理剤と、を含み、塩素系処理剤が、亜塩素酸及び亜塩素酸イオンのうちの少なくとも1種を有効塩素成分として含む。
【0013】
<塩素系処理剤>
塩素系処理剤は、有効塩素成分により、殺菌、消毒、漂白(以下、「殺菌等」という。)と清拭洗浄の効果を発揮するものである。本発明において、塩素系処理剤は、亜塩素酸(HClO)、亜塩素酸イオン(ClO )及び二酸化塩素(ClO)の少なくとも1種を有効塩素成分として含み、好ましくは、亜塩素酸(HClO)と亜塩素酸イオン(ClO )を含む。亜塩素酸(HClO)と亜塩素酸イオン(ClO )は殺菌効果が高いので好適である。
【0014】
このような塩素系処理剤としては、例えば、亜塩素酸ナトリウム、亜塩素酸カリウム等の亜塩素酸塩、又は亜塩素酸を溶媒に溶解した溶液が挙げられる。溶液のpHは、好ましくは2.0~7.0であり、より好ましくは3.0~5.0であり、さらに好ましくは3.5~4.5である。溶液のpHに応じて、亜塩素酸(HClO)、亜塩素酸イオン(ClO )及び二酸化塩素(ClO)の存在比が変化する。溶液のpHが2.0~7.0の範囲においては、殺菌効果の高い非解離亜塩素酸(HClO)と安定性の高い亜塩素酸イオン(ClO )がバランス良く存在するので好ましい。
【0015】
溶媒としては、水、非水溶媒等が挙げられる。非水溶媒としては、例えば、プロピレングリコール、ブチレングリコール、トリエチレングリコール、ヘキシレングリコール、ポリエチレングリコール、エトキシジグリコール、及びジプロピレングリコール等のグリコール類;エタノール、n-プロパノール及びイソプロパノール等のアルコール類;トリグリセリド、エチルアセテート、アセトン、トリアセチン、及びこれらを組み合わせたものが挙げられる。
【0016】
塩素系処理剤は、界面活性剤、キレート剤、防腐剤、着色剤、香料、及び安定剤などを含んでもよい。
【0017】
塩素系処理剤中の有効塩素成分の含有率は、好ましくは50ppm以上であり、より好ましくは100ppm以上であり、さらに好ましくは500ppm以上である。有効塩素成分の含有量が50ppm以上であることにより、殺菌等の性能がより向上する。さらに、500ppm以上では洗浄力がより向上する。また、有効塩素成分の含有率は、1000ppm以下であることが、皮膚刺激性を抑制できる点から好ましい。
【0018】
ウェットワイパー中の塩素系処理剤の含有量は、布帛100質量部に対して、好ましくは100質量部以上であり、より好ましくは200質量部以上であり、さらに好ましくは300質量部以上である。ウェットワイパー中の塩素系処理剤の含有量が、100質量部以上であることにより、殺菌等の性能がより向上する。また、ウェットワイパー中の塩素系処理剤の含有量は、布帛100質量部に対して、好ましくは1000質量部以下であり、より好ましくは800質量部以下であり、さらに好ましくは700質量部以下である。ウェットワイパー中の塩素系処理剤の含有量が1000質量部以下であることにより、ウェットワイパーの拭き取り時の作業性の低下を抑制することができる。塩素系処理剤は、布帛に均一に含浸されていることが好ましい。
【0019】
本発明のウェットワイパーにおいては、亜塩素酸(HClO)、亜塩素酸イオン(ClO )及び二酸化塩素(ClO)のうちの少なくとも1種を有効塩素成分として含む塩素系処理剤を用いることにより、長期間保管しても殺菌等の効力が維持される。例えば、30日以上の長期間保管しても殺菌等の効力が維持される。また、殺菌等の効力が維持されることにより、払拭によりウェットワイパーの布帛内に取り込まれた菌が増殖しにくく、したがって被払拭物への再汚染を防止することができる。
【0020】
本発明で用いられる亜塩素酸(HClO)、亜塩素酸イオン(ClO )及び二酸化塩素(ClO)のうちの少なくとも1種を有効塩素成分として含む塩素系処理剤は、布帛との反応性が低く、布帛と接触した状態で保管されても消費されにくいために、長期間保管しても殺菌等の効力が維持される。これに対し、次亜塩素酸(HClO)や次亜塩素酸イオン(ClO)を有効塩素成分として用いてウェットワイパーとした場合には、布帛を構成する繊維やバインダー樹脂と反応して殺菌効果が経時的に減少することが、本発明者らの検討により判明した。
【0021】
また、本発明のウェットワイパーは、長期間保管しても、布帛の強度が維持されるので、布帛の強度が低下することによる払拭作業性の低下、払拭強度の低下、布帛由来物による被払拭物の汚染を抑制することができる。
【0022】
<布帛>
布帛は、合成繊維、半合成繊維、再生繊維及び無機繊維から選ばれる少なくとも1種の繊維から構成されるものである。
【0023】
合成繊維としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエステルエラストマー等のポリエステル樹脂、アクリル樹脂およびオレフィン樹脂、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、芳香族ポリアミド、ポリアミドエラストマー等のポリアミド樹脂、ポリビニルアルコール樹脂等、ポリウレタン系、ポリオレフィン系、アクリロニトリル系などの繊維形成能を有する重合体およびその変性樹脂等公知の繊維形成性樹脂より選ばれる少なくとも1種の合成樹脂を原料する繊維が挙げられる。
【0024】
半合成繊維としては、例えば、アセテート、トリアセテート等が挙げられる。再生繊維としては、例えば、レーヨン、リヨセル、キュプラ、テンセル等が挙げられる。無機繊維としては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維等が挙げられる。
【0025】
この中でも、吸保液性と汚れのかきとり性能に優れることから、再生繊維を含むことが好ましく、レーヨン及びリヨセルのうちの少なくとも1種を含むことが好ましい。また、再生繊維は、本発明で用いられる塩素系処理剤との反応性が低く、長期保管しても殺菌等の効力を維持することができる点からも好ましい。
【0026】
繊維は通常の繊維、中空繊維、異型断面繊維あるいは極細繊維のいずれであってもよい。繊維には、着色剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、消臭剤、防かび剤、抗菌剤、各種安定剤などが添加されていてもよい。
【0027】
前記繊維が合成繊維の場合、樹脂を融点以上の温度で溶融させてエクストルーダーから押し出して製糸する溶融紡糸、ポリマー溶液を細孔より押し出し、溶媒を蒸発させる乾式溶液紡糸、高分子溶液を非溶剤中に紡出する湿式溶液紡糸法により紡糸することができる。
【0028】
繊維が極細繊維の場合は、極細繊維形成性繊維から布帛を作成して、極細化加工を行ってもよいし、極細繊維から直接布帛を作成してもよい。極細繊維形成性繊維には、海島型繊維、多層積層型繊維、放射型積層型繊維等があるが、布帛が不織布の場合は、海島型繊維がニードルパンチ時の繊維損傷が少なく、かつ極細繊維の繊度の均一性の点で好ましい。極細繊維形成性繊維として海島型繊維を用いた例により説明するが、多層積層型繊維、放射型積層型繊維等の他の布帛と他の極細繊維成性繊維を用いて以下の工程を行ってもよい。
【0029】
海島型繊維は少なくとも2種類のポリマーからなる多成分系複合繊維であって、海成分ポリマー(除去可能ポリマー)中にこれとは異なる種類の島成分ポリマーが分散した断面を有する。海島型繊維は、海成分ポリマーを抽出または分解して除去することで、残った島成分ポリマーからなる極細繊維が複数本集まった繊維束に変換される。
【0030】
海成分と島成分を上記とは逆にした海島型繊維、すなわち、海成分ポリマーが該繊維を形成する樹脂であり、島成分ポリマーが除去可能ポリマーである海島型繊維を用いてもよい。島成分ポリマーを抽出または分解して除去することで、海島型繊維は残った海成分ポリマーからなる多孔中空繊維に変換される。
【0031】
繊維を布帛化する方法には特に制限はなく、織物、編み物、不織布のいずれでもよい。織物の場合は、たて糸とよこ糸を一定の規則によって交錯させて、織る平織り、綾織り、朱子織などの方法が主に挙げられる。また結び目を作る要領で「一目」ずつ形を作って行く編み物の方法をとってもよい。
【0032】
不織布の場合は、該繊維を延伸、捲縮した後、任意の繊維長(18~110mm)にカットしてステープル化し、カード、クロスラッパー、ランダムウェッバー、絡合装置などを用いて短繊維不織布にしてもよいし、溶融紡糸ノズルから繊維形成性ポリマーを吐出した直後に高速気体で吹き飛ばし繊維を細くする、いわゆるメルトブロー法やフラッシュ紡糸などの方法を用いることもできるし、エレクトロスピニング法や抄紙法を使用してナノファイバーを作成してもよい。更に、スパンボンド法などにより紡糸した長繊維をカットすることなく、移動式ネットなどの捕集面上に堆積させて実質的に無延伸の長繊維からなる長繊維不織布にしてもよい。また、必要に応じて上記の方法で作成した布帛の少なくとも1種以上をクロスラッパー等を用いて複数層重ね合わせた後、ニードルパンチや高速流体、高温流体等で絡合させることで、高目付け、高比重あるいは形態保持性に優れた布帛を作成することができる。得られた布帛の目付は10~1000g/mが好ましく、その内部あるいは表面に高分子弾性体を含んでいても良い。
【0033】
本発明の布帛としては、汚れを効率的に除去でき、ふき取り性向上の観点から、繊維長18~110mmの短繊維不織布が好ましい。また、不織布の目付は20~200g/mが好ましく、30~150g/mがより好ましい。不織布の厚みは、0.2~1.5mmが好ましく、0.2~1.0mmがより好ましい。目付及び厚みがこの範囲内であれば、ウェットワイパーとした際に、容易に折り畳んで使用でき、また、手の力により容易にふき取り対象に沿って変形できる柔らかさを有しているため、好ましい。
【0034】
本発明の布帛は、着色されているものであってもよい。着色されていることにより、ウェットワイパーを用いて汚れを拭き取った際に、汚れを視認しやすいという利点がある。また、着色されていることにより、色によってウェットワイパーを区別できるという利点がある。この場合、例えば、色に応じてウェットワイパーの拭き取り場所を区別して用いることができる。着色方法としては、特に限定されないが、布帛を構成する繊維の表面にバインダー樹脂を介して着色剤を付着する方法が挙げられる。本発明のウェットワイパーによると、布帛がバインダー樹脂を含むものであっても、殺菌等の効力が維持される。
【0035】
布帛の着色に用いられる着色剤としては、亜鉛華、鉛白、二酸化チタン、硫酸バリウム、鉛丹、酸化鉄、亜鉛黄、ウルトラマリンブルー、プルシアンブルー、フタロシアニン、フェロシアン化物、フェリシアン化物等の所為顔料や、ヘモグロビン、クロロフィル等の生体関連物質が使用されるが、この中でも特に配位子にシアン化物イオンを含む錯体が、その発色性の良さから好適に使用され、より好ましくはフェロシアン化物、フェリシアン化物であることが更に望ましい。一例として、ヘキサシアノ鉄(III)酸鉄(II)、ヘキサシアノ鉄(II)酸鉄(III)(フェロシアン化第二鉄)、フェロシアン化アンモニウム、フェロシアン化銅、フェロシアン化銀、紺青等が挙げられる。バインダー樹脂としては、ポリウレタン、アクリル、ポリエチレン、ポリオレフィン、石油樹脂、アスファルト、イソプレン系炭化水素、ブタジエンゴム、塩化ビニルなどが挙げられる。中でも水乳化性のポリカーボネート系ポリウレタンエラストマー、軟質成分と硬質成分を含有するアクリルポリマーおよびイソプレン系炭化水素が特に好ましく用いられる。また、水乳化性ポリマーであることが微粒子状に付着させ易いことから好ましい。
【0036】
<包装体>
本発明のウェットワイパーは、包装体に収容されているものであることが好ましい。包装体は、特に限定されないが、塩素系処理剤の揮発を抑制することができ、また塩素系処理剤に対する耐性が高い材料からなるものであることが好ましい。包装体の形態としては、反復開閉可能な蓋により被蓋される取り出し口を備えた包装体が好適である。このような包装体に、折り畳まれたウェットワイパーが多数枚重ねられて収容されている形態が例示される。
【0037】
包装体に収容されたウェットワイパーは、通常、長期間保管されて使用されることが多いが、本発明のウェットワイパーによると、1年以上の期間保管しても殺菌効果が維持される。
【0038】
<ウェットワイパーの製造方法>
ウェットワイパーの製造方法は、特に限定されないが、例えば、上記のように布帛を作製する工程と、塩素系処理剤を調製する工程と、布帛に塩素系処理剤を含浸させる工程と、ウェットワイパーを包装体に収容して密封する工程を有する方法が挙げられる。
【0039】
<用途>
本発明のウェットワイパーは、種々の払拭対象、被払拭物に用いることができる。払拭対象としては、例えば、血液、体液、細菌、真菌、ウィルス、その他生体物質が挙げられ、払拭によりこれらを殺菌、除菌、不活化、消毒する目的で使用することができる。また、払拭対象としては、例えば、脂肪やタンパク質、油汚れが挙げられ、払拭によりこれらを洗浄する目的で使用することができる。
【0040】
被払拭物としては、特に限定されないが、例えば、設備、機器(装置、器具類、タッチパネル、制御盤、手摺など)、家具、小物、床や壁、手指が挙げられる。特に、食品製造現場や医療現場において、水洗浄を行うことができない、設備、機器に対して好適に使用することができる。
【0041】
本発明のウェットワイパーによると、長期間保管しても殺菌効果と清拭洗浄効果が維持される。また、殺菌等の効力が維持されることにより、払拭によりウェットワイパーの布帛内に取り込まれた菌が増殖しにくく、したがって被払拭物への再汚染を防止することができる。
【実施例
【0042】
[試料の準備]
<塩素系処理剤1(亜塩素酸処理剤)の調製>
塩素系処理剤1として、亜塩素酸ナトリウム(NaClO)の水溶液を調製した。
【0043】
<塩素系処理剤2(次亜塩素酸処理剤)の調製>
塩素系処理剤2として、次亜塩素酸ナトリウム(NaClO)の水溶液を調製した。
【0044】
<アルコール除菌剤1の調製>
アルコール除菌剤1として、エタノール70%の水溶液を調製した。
【0045】
<被浸漬対象物の繊維の原綿、不織布、バインダー樹脂、チップの準備>
以下の原綿1~3、不織布1~4、バインダー樹脂1、チップ1,2を準備した。原綿1~3は、ウェットワイパーの布帛の材料として使用し得る。不織布1~4は、ウェットワイパーの布帛そのものとして使用し得る。チップ1,2は、ウェットワイパーの布帛を構成する樹脂の材料として使用し得る。バインダー樹脂1は、布帛を着色するために用いられる材料として使用し得る。
【0046】
原綿1:レーヨンの原綿(繊度1.7dtex 繊維長40mm)
原綿2:ポリエチレンテレフタレートの原綿(繊度1.7dtex 繊維長51mm)
原綿3:ポリプロピレン/ポリエチレン芯鞘繊維(繊度1.7dtex 繊維長51mm)
不織布1:レーヨンの不織布(レーヨンの比率80質量%、繊度1.7dtex 繊維長40mm、目付60g/m、厚み0.50mm)
不織布2:リヨセルの不織布(リヨセルの比率100質量%、繊度1.7dtex 繊維長38mm、目付60g/m、厚み0.53mm)
不織布3:ポリエチレンテレフタレートの不織布(ポリエチレンテレフタレートの比率100質量%、繊度1.7dtex 繊維長51mm、目付60g/m、厚み0.65mm)
バインダー樹脂1:水乳化性アクリル酸エステル共重合体
チップ1:エチレン-ビニルアルコール共重合体のチップ(製品名:エバールE112、株式会社クラレ社製)
チップ2:ポリビニルアルコールのチップ(製品名:ポバール105、株式会社クラレ社製)
不織布4:レーヨンの不織布(ラレクラフレックス株式会社製、レーヨンの比率80質量%、繊度1.7dtex 繊維長40mm、バインダー樹脂(水乳化性アクリル酸エステル共重合体)を比率20質量%で含む、目付76g/m、厚み0.57mm)。
【0047】
[評価試験]
<試験例1~7:塩素系処理剤1の有効塩素成分濃度の経時変化>
表1に示す被浸漬対象物2.0gを、100mlの塩素系処理剤1内に投入し、遮光して20℃に維持し、スターラーで撹拌(300rpm)を継続した。塩素系処理剤1の亜塩素酸ナトリウム(NaClO)の濃度及びpHは表1に示すように調製した。投入直後~投入後所定日数(10日、14日、30日のいずれか)経過後までの期間において、塩素系処理剤1の遊離残留塩素の濃度を、亜塩素酸ナトリウムDPD比色法により測定した。試験例1~7において、ヨウ化カリウム/DPD比色法により測定される遊離残留塩素の濃度は、有効塩素成分である亜塩素酸(HClO)及び亜塩素酸イオン(ClO )の合計濃度である。
【0048】
<試験例8~16:塩素系処理剤2の有効塩素成分濃度の経時変化>
表1に示す被浸漬対象物2.0gを、100mlの塩素系処理剤2内に投入し、遮光して20℃に維持し、スターラーで撹拌(300rpm)を継続した。塩素系処理剤2の次亜塩素酸ナトリウム(NaClO)の濃度及びpHは表1に示すように調製した。投入直後~投入後14日経過後までの期間において、塩素系処理剤2の遊離残留塩素の濃度を、DPD比色法により測定した。試験例8~16において、DPD比色法により測定される遊離残留塩素の濃度は、有効塩素成分である次亜塩素酸(HClO)及び次亜塩素酸イオン(ClO )の合計濃度である。
【0049】
【表1】
【0050】
試験例1~16の結果を、図1~9に示す。図1~9における「/」の表記は、「被浸漬対象物/塩素系処理剤」を示す。また、図1(b)~図3(b)には、塩素系処理剤2(次亜塩素酸処理剤)について、投入後14日経過後のpH値を示した。
【0051】
<試験例17:殺菌効果の確認>
不織布4に対して、クリーンベンチ内で2時間紫外線照射により殺菌処理を行なった。滅菌シャーレにポリエチレンフィルム(60mm×60mm)を置き、その上に不織布4(50mm×50mm)を置いた。その上に、0.6mlの試験液(生理食塩水(コントロール)、塩素系処理剤1(NaClOの濃度600ppm、pH4.0)、塩素系処理剤2(NaClOの濃度200ppm、pH6.0)、アルコール系除菌剤1)を滴下して、不織布に含浸させた。その後、シャ-レに蓋をして、25℃で6時間静置した。含浸液の揮発防止のために、0.5mlの生理食塩水をシャーレの隅に入れておいた。6時間経過後、0.3mlの菌液(供給菌:Staphylococcus aureus NBRC 12732)を不織布に滴下し、シャ-レに蓋をして、25℃で1時間静置した。1時間経過後、Tween 80を濃度0.7質量%で含む生理食塩水(3質量%のNa含有)を10ml入れて、不織布から菌体を洗い出した。洗い出し液の0.1mlを採取し、10倍希釈系列を作製し、寒天平板法にて、形成するコロニー数から生菌数を測定した。そして、生理食塩水(コントロール)を含浸させた不織布の生菌数に対する対数減少値を算出して、抗菌活性値とした。抗菌活性値は、2.0以上であることが、抗菌力を示すことの指標となる。表2に結果を示す。
【0052】
<試験例18:殺菌効果の確認>
試験液として、生理食塩水(コントロール)、塩素系処理剤1(NaClOの濃度600ppm、pH4.0)、塩素系処理剤2(NaClOの濃度200ppm、pH6.0)、アルコール系除菌剤1に0.2質量%の含有量となるようにポリペプトンを添加したものを用いた点以外は、試験例17と同様の方法により試験を行い、生菌数を測定し、抗菌活性値を算出した。ここでは、疑似汚れとしてポリペプトンを添加した。表2に結果を示す。
【0053】
【表2】
【0054】
<試験例19:清拭洗浄効果の確認>
1.疑似汚れの調製
(1)2.5%(w/v)のカゼインナトリウム水溶液0.9mlと0.2%(w/v)のクルクミンエタノール溶液0.1mlを混合して汚れの原液とした。
(2)マイクロピペットを用いて汚れ原液1μlをステンレス鋼板表面上に滴下した。
(3)汚れ原液を滴下したステンレス鋼板を120℃の乾燥器内で2時間乾燥して、疑似汚れを調製した。
【0055】
2.洗浄実験
(1)ワイパーの布帛として、不織布1(30mm×30mm)を用いた。
(2)試験液として、a)蒸留水、b)アルコール系除菌剤1、c)塩素系処理剤2(NaClOの濃度200ppm、pH6.0)、d)塩素系処理剤1(NaClOの濃度600ppm、pH4.0)を調製した。
(3)試験液を染み込ませない布帛と、各試験液0.2mlを染み込ませた布帛を用いて、約200gfの押しつけ力で、ステンレス鋼板上の疑似汚れを拭き取った。
【0056】
3.残存汚れの定量
拭き取り前のステンレス鋼板表面の疑似汚れの質量(W0)と、拭き取り後のステンレス鋼板表面の疑似汚れの質量(W1)を定量して、疑似汚れの除去率を算出した。疑似汚れの除去率は、以下の式:
除去率(%)={(W0-W1)/W0}×100
に基づき算出した。表3に結果を示す。除去率を算出するための疑似汚れの定量は、蛍光色素であるクルクミンを指標として蛍光検出法により行った。
【0057】
【表3】
【0058】
[結果]
図1図7からわかるように、塩素系処理剤1(亜塩素酸処理剤)と被浸漬対象物との反応は、いずれの素材においても反応性は極めて低く、投入後10日間経過後も遊離残留塩素濃度は、投入時の約85~90質量が維持されていた(図1(a)~図7(a))。一方、塩素系処理剤2(次亜塩素酸処理剤)は、塩素系処理剤1(亜塩素酸処理剤)と比較して、被浸漬対象物との反応性が高く(図1(b)~図7(b),図8図9)、特に、被対象物が原綿1(レーヨン)、不織布1(レーヨン)、不織布2(リヨセル)、バインダー樹脂1である場合には、被浸漬対象物との反応性が高かった(図1(b),図4(b),図5(b),図7(b))。また、塩素系処理剤2(次亜塩素酸処理剤)は、経時変化に伴い、pHが大きく低下することがわかった(図1(b),図2(b),図3(b))。
【0059】
表2に示される結果からわかるように、塩素系処理剤1(亜塩素酸処理剤)は、疑似汚れであるポリペプトンの添加の有無にかかわらず、抗菌力を示すのに対して、塩素系処理剤2(次亜塩素酸処理剤)は、疑似汚れであるポリペプトンが添加されていない場合は抗菌力を示すものの、疑似汚れであるポリペプトンが添加された場合は十分な抗菌力を示さなかった。アルコール系除菌剤1は、ポリペプトンの添加の有無にかかわらず、抗菌力を示さなかった。
【0060】
表3に示される結果からわかるように、塩素系処理剤1(亜塩素酸処理剤)を含むウェットワイパーは、蒸留水を含むウェットワイパーと比較して疑似汚れの除去率が高かった。一方、塩素系処理剤2(次亜塩素酸処理剤)を含むウェットワイパーは、蒸留水を含むウェットワイパーと比較して疑似汚れの除去率が同程度であった。なお、アルコール系除菌剤1を含むウェットワイパーは、蒸留水を含むウェットワイパーと比較して疑似汚れの除去率が低かった。これは、エタノールがタンパク質の水への溶解度を減少させることが原因であると推測される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9