(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-07
(45)【発行日】2022-07-15
(54)【発明の名称】垂直共振器型発光素子及び垂直共振器型発光素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01S 5/183 20060101AFI20220708BHJP
【FI】
H01S5/183
(21)【出願番号】P 2021128821
(22)【出願日】2021-08-05
(62)【分割の表示】P 2017060345の分割
【原出願日】2017-03-27
【審査請求日】2021-08-05
(73)【特許権者】
【識別番号】599002043
【氏名又は名称】学校法人 名城大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000002303
【氏名又は名称】スタンレー電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001025
【氏名又は名称】弁理士法人レクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹内 哲也
(72)【発明者】
【氏名】赤▲崎▼ 勇
(72)【発明者】
【氏名】清原 一樹
(72)【発明者】
【氏名】滝沢 勝
(72)【発明者】
【氏名】梁 吉鎬
【審査官】高椋 健司
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-284291(JP,A)
【文献】特開平08-172238(JP,A)
【文献】特開2011-227980(JP,A)
【文献】国際公開第2017/055490(WO,A1)
【文献】特開2011-243857(JP,A)
【文献】特開2009-200478(JP,A)
【文献】特開2000-082866(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/00-5/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の反射鏡と、
前記第1の反射鏡上に積層された、第1の導電型を有する第1の半導体層、活性層及び前記第1の導電型とは反対の第2の導電型を有する第2の半導体層を含む半導体構造層と、
前記半導体構造層上に積層され前記第1の反射鏡に対向する第2の反射鏡と、
部分的に露出した前記第1の半導体層の上面上に形成された第1電極と、
前記第2の半導体層上に形成された第2電極と、を有し、
前記第1の反射鏡は、ノンドープのInAlN層からなる低屈折率半導体層と前記低屈折率半導体層上に形成されかつドーパントを含むGaN層からなる高屈折率半導体層とが複数回積層された半導体多層膜からなり、前記半導体多層膜は全体として非導電性であることを特徴とする垂直共振器型発光素子。
【請求項2】
前記第1の半導体層及び前記第2の半導体層はGaNであることを特徴とする請求項1に記載の垂直共振器型発光素子。
【請求項3】
前記第2電極は、前記第2の半導体層側に形成された透光電極と、当該透光電極上に形成された接続電極と、を含み、
前記第2の反射鏡は、前記透光電極及び前記半導体構造層を挟んで前記第1の反射鏡に対向している誘電体多層膜反射鏡であることを特徴とする請求項1又は2に記載の垂直共振器型発光素子。
【請求項4】
前記活性層はInGaN層及びGaN層からなる多重量子井戸構造を有し、
前記活性層と前記第2の半導体層との間にAlGaN層からなる電子ブロック層をさらに有していることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の垂直共振器型発光素子。
【請求項5】
前記ドーパントはSiもしくはMgであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の垂直共振器型発光素子。
【請求項6】
前記ドーパントはSiであり、
前記高屈折率半導体層は、3×10
18個/cm
3以上のSi濃度を有することを特徴とする請求項5に記載の垂直共振器型発光素子。
【請求項7】
前記高屈折率半導体層の各々は第1のGaN層、第2のGaN層がこの順に前記低屈折率半導体層上に積層された層構造を有し、前記ドーパントは前記第2のGaN層に含まれることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の垂直共振器型発光素子。
【請求項8】
基板を準備する工程と、
前記基板上に、ノンドープのInAlN層からなる低屈折率半導体層と、前記低屈折率半導体層上にドーパントを含むGaN層からなる高屈折率半導体層とを複数回積層して、全体としては非導電性の半導体多層膜である第1の反射鏡を形成する工程と、
前記第1の反射鏡上に、第1の導電型を有する第1の半導体層、活性層及び前記第1の導電型とは反対の第2の導電型を有する第2の半導体層を含む半導体構造層を積層する工程と、
前記半導体構造層上に第2の反射鏡を形成する工程と、
前記第2の半導体層及び前記活性層を部分的に除去し露出された前記第1の半導体層の上面上に第1電極を形成する工程と、
前記第2の半導体層上に第2電極を形成する工程と、を有することを特徴とする垂直共振器型発光素子の製造方法。
【請求項9】
前記第1の反射鏡を形成する工程において、
前記高屈折率半導体層の形成は、前記低屈折率半導体層上に相対的に低温で第1のGaN層を積層する工程と、前記第1のGaN層上に相対的に高温で第2のGaN層を積層する工程と、によって行われ、
前記ドーパントは少なくても前記第2のGaN層に含ませることを特徴とする請求項8に記載の垂直共振器型発光素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体材料からなる多層膜反射鏡及び垂直共振器型面発光レーザ(VCSEL:vertical cavity surface emitting laser)などの垂直共振器型発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
垂直共振器型面発光レーザ(以下、単に面発光レーザと称する)は、基板上に多層膜反射鏡を有し、当該多層膜によって基板面に対して垂直に光を共振させる半導体レーザである。例えば、非特許文献1には、InGaN及びGaNからなる多層膜反射鏡が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Journal of Crystal Growth (2014), citations 6, reads 136
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、面発光レーザなどの垂直共振器型発光素子は、活性層を挟んで互いに対向する反射鏡を有し、当該反射鏡は共振器を構成する。また、面発光レーザにおいては、活性層から放出された光を共振器内で共振(レーザ発振)させ、当該共振した光を外部に取り出す。面発光レーザの発振閾値を下げるためには、高い反射率の反射鏡が設けられていることが好ましい。
【0005】
垂直共振器型発光素子に用いられる反射鏡としては、互いに屈折率が異なる複数の薄膜が積層された多層膜反射鏡が挙げられる。多層膜反射鏡において少ない層数で所望の反射率を得るためには、各層の界面で屈折率が急峻に変化していること、すなわち各層の界面での屈折率差が明確であることが好ましい。また、各層の界面が平坦であることが好ましい。
【0006】
本発明は上記した点に鑑みてなされたものであり、少ない層数で高い反射率を有する多層膜反射鏡、及び当該多層膜反射鏡を有して低い発振閾値を有する垂直共振器型発光素子及び垂直共振器型発光素子の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による垂直共振器型発光素子は、第1の反射鏡と、前記第1の反射鏡上に積層された、第1の導電型を有する第1の半導体層、活性層及び前記第1の導電型とは反対の第2の導電型を有する第2の半導体層を含む半導体構造層と、前記半導体構造層上に積層され前記第1の反射鏡に対向する第2の反射鏡と、部分的に露出した前記第1の半導体層の上面上に形成された第1電極と、前記第2の半導体層上に形成された第2電極と、を有し、前記第1の反射鏡は、ノンドープのInAlN層からなる低屈折率半導体層と前記低屈折率半導体層上に形成されかつドーパントを含むGaN層からなる高屈折率半導体層とが複数回積層された半導体多層膜からなり、前記半導体多層膜は全体として非導電性であることを特徴としている。
【0008】
また、本発明による垂直共振器型発光素子の製造方法は、基板を準備する工程と、前記基板上に、ノンドープのInAlN層からなる低屈折率半導体層と、前記低屈折率半導体層上にドーパントを含むGaN層からなる高屈折率半導体層とを複数回積層して、全体としては非導電性の半導体多層膜である第1の反射鏡を形成する工程と、前記第1の反射鏡上に、第1の導電型を有する第1の半導体層、活性層及び前記第1の導電型とは反対の第2の導電型を有する第2の半導体層を含む半導体構造層を積層する工程と、前記半導体構造層上に第2の反射鏡を形成する工程と、前記第2の半導体層及び前記活性層を部分的に除去し露出された前記第1の半導体層の上面上に第1電極を形成する工程と、前記第2の半導体層上に第2電極を形成する工程と、を有することを特徴としている。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施例1に係る面発光レーザの断面図である。
【
図2】実施例1に係る面発光レーザの多層膜反射鏡の断面図である。
【
図3】実施例1に係る多層膜反射鏡の電子顕微鏡による観察画像である。
【
図4】比較例に係る多層膜反射鏡の電子顕微鏡による観察画像である。
【
図5】(a)は、実施例2に係る多層膜反射鏡の電子顕微鏡による観察画像であり、(b)は、実施例3に係る多層膜反射鏡の電子顕微鏡による観察画像である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施例について詳細に説明する。なお、以下の実施例においては、面発光レーザ(半導体レーザ)について説明する。しかし、本発明は、面発光レーザのみならず、垂直共振器型発光素子に適用することができる。
【実施例1】
【0011】
図1は、実施例1に係る垂直共振器型面発光レーザ(VCSEL:Vertical Cavity Surface Emitting Laser、以下、面発光レーザと称する)である。面発光レーザ10は、活性層14Bを含む半導体構造層(発光構造層)14を介して互いに対向して配置された第1及び第2の反射鏡13及び15を有する。
【0012】
面発光レーザ10は、基板11上に第1の反射鏡13、半導体構造層14及び第2の反射鏡15が積層された構造を有している。具体的には、基板11上にバッファ層12が形成され、バッファ12層上に第1の反射鏡13が形成されている。また、第1の反射鏡13上には半導体構造層14が、半導体構造層14上には第2の反射鏡15が形成されている。本実施例においては、基板11はGaN基板である。また、バッファ層12はGaNの組成を有する。
【0013】
第1の反射鏡13は、低屈折率半導体層L1及び低屈折率半導体層L1よりも大きな屈折率を有する高屈折率半導体層H1が交互に複数回積層された半導体多層膜からなる。本実施例においては、低屈折率半導体層L1は、InAlN層である。また、高屈折率半導体層H1は、GaN層である。なお、本実施例においては、基板11、バッファ層12及び第1の反射鏡13は、第1の反射鏡13を半導体多層膜として有する半導体多層膜反射鏡MLを構成する。
【0014】
また、本実施例においては、第2の反射鏡15は、低屈折誘電体層L2及び低屈折率誘電体層L2よりも大きな屈折率を有する高屈折率誘電体層H2が交互に積層された誘電体多層膜反射鏡である。本実施例においては、低屈折率誘電体層L2はSiO2層からなり、高屈折率誘電体層H2はNb2O5層からなる。
【0015】
換言すれば、本実施例においては、第1の反射鏡13は半導体材料からなる分布ブラッグ反射器(DBR:Distributed Bragg Reflector)であり、第2の反射鏡15は誘電体材料からなる分布ブラッグ反射器である。
【0016】
半導体構造層(発光構造層)14は、n型半導体層(第1の導電型を有する第1の半導体層)14Aと、活性層14Bと、電子ブロック層14Cと、p型半導体層(第1の導電型とは反対の第2の導電型を有する第2の半導体層)14Dとが積層された構造を有する。本実施例においては、半導体構造層14は、AlxInyGa1-x-yN(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦x+y≦1)の組成を有する。
【0017】
例えば、n型半導体層14A及びp型半導体層14Dは、GaN層からなる。活性層14Bは、InGaN層及びGaN層からなる多重量子井戸構造を有する。また、電子ブロック層14Cは、AlGaN層からなる。なお、半導体構造層14は、n型半導体層14A、活性層14B及びp型半導体層14Dを有していればよく、電子ブロック14Cは有していなくてもよい。
【0018】
面発光レーザ10は、半導体構造層14のn型半導体層14Aに接続されたn電極(第1の電極)16と、p型半導体層14Dに接続されたp電極(第2の電極)17とを有する。n電極17は、n型半導体層14A上に形成されている。また、p電極17は、p型半導体層14D上に形成されている。
【0019】
具体的には、本実施例においては、半導体構造層14は、p型半導体層14D、電子ブロック層14C及び活性層14Bは部分的に除去されており、当該除去後に露出したn型半導体層14Aの上面上にn電極16が形成されている。
【0020】
また、半導体構造層14上には、半導体構造層14の側面及び上面を覆い、p型半導体層14Dの一部を露出させる開口部を有する絶縁膜18が形成されている。p電極17は、当該開口部を埋め込んで絶縁膜18上に形成され、当該開口部から露出したp型半導体層14Dに接触された透光電極17Aと、透光電極17A上に形成された接続電極17Bとからなる。なお、絶縁膜18は、電流狭窄層として機能する。
【0021】
また、本実施例においては、第2の反射鏡15は、p電極18の透光電極17A上における絶縁膜18の開口部上の領域に形成されている。接続電極17Bは、透光電極17A上において第2の反射鏡15を取り囲むように形成されている。第2の反射鏡15は、透光電極17A及び半導体構造層14を介して第1の反射鏡13に対向している。
【0022】
図1を参照し、面発光レーザ10の発光動作の概略について説明する。まず、面発光レーザ10においては、互いに対向する第1及び第2の反射鏡13及び15が共振器を構成する。半導体構造層14(活性層14B)から放出された光は、第1及び第2の反射鏡13及び15間において反射を繰り返し、共振状態に至る(レーザ発振を行う)。また、当該共振光は、その一部が第2の反射鏡15を透過し、外部に取出される。このようにして、面発光レーザ10は、基板11に垂直な方向に光を出射する。
【0023】
図2は、第1の反射鏡13(半導体多層膜反射鏡ML)の断面図である。
図2を用いて、第1の反射鏡13の構造について説明する。第1の反射鏡13は、低屈折率半導体層L1としてのノンドープのInAlN層を有する。また、第1の反射鏡13は、高屈折率半導体層H1として、Siをドーパントとして含む第1のGaN層H11と、ノンドープのGaN層H12とからなる。
【0024】
換言すれば、第1の反射鏡13は、ノンドープのInAlN層L1と、InAlN層L1上に形成され、Siをドーパントとして含む第1のGaN層H11と、第1のGaN層H12上に形成され、ノンドープの第2のGaN層とが複数回積層された半導体多層膜からなる。また、本実施例においては、第1のGaN層H11は、3×1018個/cm3以下のSi濃度を有する。
【0025】
ここで、面発光レーザ10、特に第1の反射鏡13の製造方法について説明する。本実施例においては、基板11としてのGaN基板を用意し、当該GaN基板上に有機金属気相成長法(MOCVD法)を用いて第1の反射鏡13としての半導体多層膜を成長した。なお、以下においては、低屈折率層L1がInAlN層であり、高屈折率層H1がGaN層である場合について説明する。
【0026】
具体的には、まず、GaN基板11を成長装置の反応炉内に設置し、反応炉内にH2及びNH3を供給して、基板温度を1070℃まで昇温させた。その後、GaN基板11上にTMGを供給し、バッファ層12としてのGaN層を100nmエピタキシャル成長させた(工程1)。
【0027】
次に、基板温度を930℃(第1の温度)に降温した後、供給ガスをH2からN2に切替え、TMI及びTMAを供給することで、ノンドープのInAlN層L1を50nm成長した(工程2)。
【0028】
次に、基板温度を930℃に維持した状態でTEG及びSiH6を供給することで、GaN層H1の第1のGaN層H11としてSiドープのGaN層を5nm成長した(工程3)。
【0029】
続いて、供給ガスをN2からH2に切替え、基板温度を1070℃(第2の温度)まで昇温し、TMGを供給することで、GaN層H1の第2のGaN層H12としてノンドープのGaN層を40nm成長した(工程4)。
【0030】
これ以降、工程2~4を繰り返し、40ペアのInAlN/GaNからなる非導電性DBRを成長した。なお、工程2~4の繰り返し時においては、工程4の後は工程2に戻る。すなわち、第2のGaN層H12を形成した後は、InAlN層L1の成長を行った。従って、本実施例においては、第2のGaN層H12上にはInAlN層L1が形成されている。
【0031】
このようにして、第1の反射鏡13を形成することができる。なお、上記した各層の層厚及び層数は一例に過ぎない。各層の層厚は、設計上の活性層14Bからの放出光の波長に応じて調節されることができる。また、上記した基板温度及び供給ガスは一例に過ぎない。
【0032】
なお、この後、最上層のGaN層H1(第2のGaN層H12)上にn型半導体層14A、活性層14B、電子ブロック層14C及びp型半導体層14Dを成長し、半導体構造層14を成長した(工程5)。また、基板11上にn電極16及びp電極17を形成し(工程6)、面発光レーザ10を作製した。
【0033】
図3は、第1の反射鏡13の断面の透過型電子顕微鏡(TEM)による観察画像である。
図3に示すように、InAlN層L1とGaN層H1との界面が非常に急峻なものとなっている。また、両者の界面は平坦なものとなっている。これは、InAlN層L1を成長した後、比較的低温でSiドープの第1のGaN層H11を成長したことによる。
【0034】
具体的には、まず、GaNは、結晶性を考慮すると、InAlNよりも高温で成長される。GaNをInAlN上に成長する場合、その高い成長温度によって、InAlN内のInが脱離を起こし、GaNに向かって拡散する。従って、InAlNとGaNとの間に明確な(急峻に組成が変化する)界面が形成されにくい。これに対し、InAlN層L1上に低温で第1のGaN層H11を成長することで、GaN層H1へのInの拡散が抑制される。従って、InAlN層L1とGaN層H1との界面の組成差、すなわち屈折率差が急峻なものとなる。
【0035】
また、GaN基板11上にこれとは格子定数の異なるInAlN層L1を成長することで、両者の格子不整合に起因するピット(凹凸)が形成される。このピットによってInAlN層L1の表面は平坦性が低下する。これに対し、InAlN層L1上にSiドープのGaN層(第1のGaN層H11)を成長することで、Siがピットに入り込み、ピットを埋め込む働きをする。
【0036】
従って、SiドープのGaN層H11を成長する際にInAlN層L1の平坦性が向上する。従って、InAlN層L1と第1のGaN層H11との界面の高い平坦性が確保される。また、上記したInの脱離は、ピットから多く生じやすい性質を持っている。Siがピットに入り込むことで、Inの脱離及びGaN層H1への拡散を効果的に抑制する。従って、Siがドープされた第1のGaN層H11は、InAlN層H1とGaN層H1との界面の平坦性及び屈折率差の急峻さの両方を向上させる。
【0037】
なお、本願の発明者らは、第1のGaN層H11に代えてSiをドープしないGaN層を成長した場合に比べて、明確にInAlNとの界面の平坦性及び屈折率差の急峻さが向上したことを確認している。
【0038】
具体的には、本実施例の比較例として、InAlN層L1を成長した後、第1のGaN層H11に代えてノンドープのGaN層を低温で成長し、その後第2のGaN層H12を高温で成長した半導体多層膜を作製した。
図4は、比較例の多層膜反射鏡におけるTEM像である。この比較例を分析すると、InAlN層とGaN層との界面に、GaN層に向かってIn組成が徐々に減少するInAlGaN層が形成されていた。これは、GaN層の成長時にInAlN層からInが脱離した結果と考えられる。
【0039】
なお、当該比較例における両者の界面の屈折率差は、本実施例のInAlN層L1とGaN層H1との界面の屈折率差よりも緩やかなものであった。また、比較例の多層膜は、本実施例の第1の反射鏡13よりも各層の平坦性が低かった。従って、本実施例のように、Siドープの第1のGaN層H11を設けることで第1の反射鏡13における各層間の屈折率段差及び平坦性が向上することがわかる。
【0040】
なお、本実施例においては、第1のGaN層H11のSi濃度を3×1018個/cm3以下としているが、第1のGaN層H11のSi濃度はそれ以上であってもよく、例えば1×1019個/cm3以上であってもよい。一方、本実施例においては、第1の反射鏡13の他の層であるInAlN層L1及び第2のGaN層H12は、ノンドープ層であり、例えば1×1017個/cm3以下のドーパント濃度を有する。すなわち、InAlN層L1はノンドープ層であり、GaN層H1はドープ層(ドーパントを含む層)である。
【0041】
従って、本実施例においては、第1の反射鏡13は、全体としては非導電性の半導体膜からなる。これによって、第1の反射鏡13の結晶性が向上し、高い反射率を示す。なお、第1の反射鏡13における第1のGaN層H11のSi濃度及び他の層のドーパント濃度は一例に過ぎない。
【0042】
また、本実施例においては、第2のGaN層H12上にはInAlN層L1が形成されている。具体的には、GaNの成長後にInAlNを成長する場合には、Inの脱離を考慮する必要がない。従って、第2のGaN層H12上にInAlN層L1を成長した場合でも両者の界面には、十分に急峻な屈折率差が生じる。また、プロセス時間やコストなどを考慮した場合、第2のGaN層H12上にInAlN層L1が形成されていることが好ましい。
【0043】
このように、本実施例においては、面発光レーザ10(垂直共振器型発光素子)は、半導体構造層14と、半導体構造層14を介して互いに対向する第1及び第2の反射鏡13及び15と、を有する。また、第1の反射鏡13は、ノンドープのInAlN層L1と、InAlN層L1上に形成され、Siをドーパントとして含む第1のGaN層H11と、第1のGaN層H11上に形成されたノンドープの第2のGaN層H12とが複数回積層された半導体多層膜からなる。従って、少ない層数で高い反射率を有する多層膜反射鏡13を有して低い発振閾値を有する垂直共振器型発光素子10を提供することができる。
【0044】
また、半導体多層膜反射鏡MLは、GaN基板11と、GaN基板11上に形成され、ノンドープのInAlN層L1と、InAlN層L1上に形成され、Siをドーパントとして含む第1のGaN層H11と、第1のGaN層H11上に形成されたノンドープの第2のGaN層H12とが複数回積層された半導体多層膜(第1の反射鏡13)とからなる。従って、少ない層数で高い反射率を有する半導体多層膜反射鏡MLを提供することができる。
【実施例2】
【0045】
図5(a)は、実施例2に係る面発光レーザにおける半導体多層膜反射鏡のTEM像である。本実施例に係る半導体多層膜反射鏡は、第1のGaN層H11がドーパントとしてSiではなくMgを有する点を除いては実施例1に係る半導体多層膜反射鏡MLと同様の構成を有する。なお、第1のGaN層H11へのMg濃度は、2×10
18個/cm
3とした。しかし、第1のGaN層H11へのドーパント濃度は、2×10
18個/cm
3以上であってもよい。
【0046】
図5(a)に示すように、第1のGaN層H11がドーパントとしてMgを有する場合でも、実施例1と同様にInAlN層L1及びGaN層H1の界面の平坦性が向上していることがわかる。すなわち、第1のGaN層H1がSiのようなn型ドーパントのみならずMgのようなp型ドーパントを有していてもよい。
【実施例3】
【0047】
図5(b)は、実施例3に係る面発光レーザにおける半導体多層膜反射鏡のTEM像である。本実施例に係る半導体多層膜反射鏡は、GaN層H1が第1のGaN層H11ではなく第2のGaN層H12がドーパントを含む点を除いては実施例1と同様の構成を有する。本実施例においては、第2のGaN層H12がドーパントとしてSiを含み、そのドーパント濃度は6×10
18個/cm
3である。なお、第2のGaN層H12のドーパント濃度は、3×10
18個/cm
3以上であればよい。
【0048】
図5(b)に示すように、第2のGaN層H12にドーピングを行った場合でも、実施
例1と同様に、InAlN層L1及びGaN層H1の界面の平坦性が向上していることがわかる。従って、GaN層H1が第1及び第2のGaN層H11及びH12を有する場合、第1及び第2のGaN層H11及びH12のいずれか一方がドーパントを有していればよい。なお、実施例2のように、第2のGaN層H12がドーパントを有する場合でも、そのドーパントはMgでもよいことが推察される。
【0049】
なお、上記した実施例においては、基板11はGaN基板であり、GaN基板を成長用基板としてInAlN層L1及びGaN層H1を成長して半導体多層膜反射鏡を作製する場合について説明した。しかし、半導体多層膜反射鏡の基板11は、他の基板、例えばサファイア基板であってもよい。
【0050】
上記した実施例においては、面発光レーザは半導体多層膜反射鏡を有し、当該半導体多層膜反射鏡は、基板11と、基板11上に形成され、ノンドープのInAlN層L1とInAlN層L1上に形成されかつドーパントを含むGaN層H1とが複数回積層された半導体多層膜とを有する。従って、少ない層数で高い反射率を有する多層膜反射鏡、及び当該多層膜反射鏡を有して低い発振閾値を有する垂直共振器型発光素子を提供することができる。
【符号の説明】
【0051】
10 半導体レーザ(垂直共振器型発光素子)
ML 半導体多層膜反射鏡
L1 InAlN層
H11 第1のGaN層
H12 第2のGaN層