(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-07
(45)【発行日】2022-07-15
(54)【発明の名称】除菌組成物及びそれを用いる細菌芽胞の除菌方法
(51)【国際特許分類】
A01N 63/20 20200101AFI20220708BHJP
A01N 37/06 20060101ALI20220708BHJP
A01N 37/02 20060101ALI20220708BHJP
A01N 63/50 20200101ALI20220708BHJP
A01P 3/00 20060101ALI20220708BHJP
【FI】
A01N63/20
A01N37/06
A01N37/02
A01N63/50
A01P3/00
(21)【出願番号】P 2021528335
(86)(22)【出願日】2020-10-12
(86)【国際出願番号】 JP2020038418
(87)【国際公開番号】W WO2021075391
(87)【国際公開日】2021-04-22
【審査請求日】2021-05-26
(31)【優先権主張番号】P 2019190206
(32)【優先日】2019-10-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】595137941
【氏名又は名称】タマ化学工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304020292
【氏名又は名称】国立大学法人徳島大学
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100168033
【氏名又は名称】竹山 圭太
(74)【代理人】
【識別番号】100161377
【氏名又は名称】岡田 薫
(72)【発明者】
【氏名】延嶋 浩文
(72)【発明者】
【氏名】白井 昭博
【審査官】▲高▼岡 裕美
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-002229(JP,A)
【文献】特表2003-519184(JP,A)
【文献】米国特許第06656919(US,B1)
【文献】特開2018-199632(JP,A)
【文献】特表2013-519720(JP,A)
【文献】特開平08-175921(JP,A)
【文献】国際公開第2015/157610(WO,A1)
【文献】有路 昌彦,特集 保存料・日持ち向上剤,食品工業 第55巻第2号 ,p.55-63,鎌田 恒男 株式会社光琳
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バチルス サブチリス(Bacillus subtilis)及びバチルス セレウス(Bacillus cereus)の少なくともいずれかの芽胞形成菌の
細菌芽胞を除菌するために用いる除菌組成物であって、
発芽促進成分
、除菌成分
、及び水を含む液媒体を含有する一剤型の
液状組成物であり、
前記発芽促進成分が、アミノ酸、糖、及び無機塩を含み、
前記無機塩が、塩化アンモニウムであ
り、
前記除菌成分が、ε-ポリリジン、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、プロタミン、モノラウリン、及びナイシンからなる群より選択される少なくとも一種であり、
前記アミノ酸の含有量が、除菌組成物全体を基準として、0.001~0.1質量%であり、
前記糖の含有量が、除菌組成物全体を基準として、0.1~1質量%であり、
前記無機塩の含有量が、除菌組成物全体を基準として、0.01~1質量%であ
る除菌組成物。
【請求項2】
前記アミノ酸が、L-アラニン、L-アスパラギン、L-チロシン、L-プロリン、L-バリン、L-セリン、及びカザミノ酸からなる群より選択される少なくとも一種である請求項
1に記載の除菌組成物。
【請求項3】
前記糖が、D-グルコース、D-フルクトース、D-マンノース、D-ガラクトース、マルトース、ラクトース、スクロース、及びこれらのカラメル化反応物からなる群より選択される少なくとも一種である請求項1
又は2に記載の除菌組成物。
【請求項4】
前記除菌成分の含有量が、除菌組成物全体を基準として、0.1~1,000mg/Lである請求項
1~3のいずれか一項に記載の除菌組成物。
【請求項5】
請求項
1~
4のいずれか一項に記載の除菌組成物を被処理物に接触させる工程を有する細菌芽胞の除菌方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細菌芽胞を除菌するために用いる除菌組成物、及びそれを用いる細菌芽胞の除菌方法に関する。
【背景技術】
【0002】
飲食店、介護施設、病院の厨房や食品工場等の食品を取り扱う施設において、食器、調理器具、及び各種の設備等を除菌又は殺菌するための組成物として、各種の除菌・殺菌成分を配合した除菌・殺菌剤が用いられている。このような除菌・殺菌剤としては、消毒用エタノール等のアルコール製剤;次亜塩素酸ナトリウム等の塩素系製剤;過酸化水素水等の過酸化物製剤;塩化ベンザルコニウム等の陽イオン界面活性剤;等が汎用されている。しかしながら、これまで汎用されてきた上記の除菌・殺菌剤は、一般的な細菌やカビ類に対して効果を示す一方で、バチルス属やクロストリジウム属等の細菌芽胞に対しては十分な効果が期待されるものではなかった。
【0003】
一方、細菌芽胞を有効に除菌又は殺菌しうる方法として、エチレンオキサイド等のガスを用いるガス滅菌方法、ガンマ線照射方法、及び高圧蒸気滅菌(オートクレーブ)方法等が知られている。また、所定の温度に加熱してから常温で一晩程度放置した後、再加熱する工程を繰り返す、いわゆる間欠滅菌方法が知られている。しかしながら、これらの方法は、操作が煩雑である、装置が大掛かりである、又は装置内に入る大きさのものしか処理できない等の課題があった。
【0004】
また、細菌芽胞を有効に除菌又は殺菌しうる方法としては、次亜塩素酸ナトリウムや加酢酸を作用させる方法、グルタルアルデヒドやフタラール等のアルデヒド類を作用させる方法等が知られている。しかしながら、これらの方法に用いる薬剤は毒性や、皮膚刺激性、又は強い臭気を有するため、保護具の着用が必要になる等の種々の課題があり、汎用性が高い方法であるとは言えなかった。
【0005】
関連する方法及びそれに用いる薬剤として、例えば、アミノ酸や糖等の発芽誘起物質で処理した後、殺菌剤で処理する細菌芽胞の殺菌方法、及びそれに用いる2剤型の殺菌剤が提案されている(特許文献1)。また、芽胞形成菌とジピコリン酸を接触させる工程、芽胞形成菌とカチオン界面活性剤を接触させる工程、及び芽胞形成菌を加熱する工程を有する殺芽方法、及びそれに用いる組成物が提案されている(特許文献2)。さらに、特定のポリアルキレンビグアナイド化合物及びアルカリ剤を含有する、そのpHが12.5以上の細菌芽胞用の殺菌剤組成物が提案されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2004-2229号公報
【文献】国際公開第2017/017810号
【文献】特許第6409201号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1及び2で提案された方法では、除菌・殺菌のための操作が多段階であることから、操作が煩雑であるとともに、除菌・殺菌するのに長時間を要するといった課題があった。また、特許文献3で提案された殺菌剤組成物は、特異な構造を有する化合物を用いる必要があるとともに、強アルカリ性の組成物であることから取り扱いが容易であるとは言えず、必ずしも汎用性の高い薬剤ではなかった。
【0008】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、細菌芽胞を比較的短時間で有効かつ容易に除菌又は殺菌することが可能であるとともに、安全性及び汎用性に優れた一剤型の除菌組成物を提供することにある。また、本発明の課題とするところは、上記の除菌組成物を用いる細菌芽胞の除菌方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明によれば、以下に示す除菌組成物が提供される。
[1]バチルス サブチリス(Bacillus subtilis)及びバチルス セレウス(Bacillus cereus)の少なくともいずれかの芽胞形成菌の細菌芽胞を除菌するために用いる除菌組成物であって、発芽促進成分、除菌成分、及び水を含む液媒体を含有する一剤型の液状組成物であり、前記発芽促進成分が、アミノ酸、糖、及び無機塩を含み、前記無機塩が、塩化アンモニウムであり、前記除菌成分が、ε-ポリリジン、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、プロタミン、モノラウリン、及びナイシンからなる群より選択される少なくとも一種であり、前記アミノ酸の含有量が、除菌組成物全体を基準として、0.001~0.1質量%であり、前記糖の含有量が、除菌組成物全体を基準として、0.1~1質量%であり、前記無機塩の含有量が、除菌組成物全体を基準として、0.01~1質量%である除菌組成物。
[2]前記アミノ酸が、L-アラニン、L-アスパラギン、L-チロシン、L-プロリン、L-バリン、L-セリン、及びカザミノ酸からなる群より選択される少なくとも一種である前記[1]に記載の除菌組成物。
[3]前記糖が、D-グルコース、D-フルクトース、D-マンノース、D-ガラクトース、マルトース、ラクトース、スクロース、及びこれらのカラメル化反応物からなる群より選択される少なくとも一種である前記[1]又は[2]に記載の除菌組成物。
[4]前記除菌成分の含有量が、除菌組成物全体を基準として、0.1~1,000mg/Lである前記[1]~[3]のいずれかに記載の除菌組成物。
【0010】
また、本発明によれば、以下に示す細菌芽胞の除菌方法が提供される。
[5]前記[1]~[4]のいずれかに記載の除菌組成物を被処理物に接触させる工程を有する細菌芽胞の除菌方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、細菌芽胞を比較的短時間で有効かつ容易に除菌又は殺菌することが可能であるとともに、安全性及び汎用性に優れた一剤型の除菌組成物を提供することができる。また、本発明によれば、上記の除菌組成物を用いる細菌芽胞の除菌方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施例1及び2、比較例1の除菌効果確認試験(濁度減少)の結果を示すグラフである。
【
図2】実施例1及び2、比較例1の除菌効果確認試験(生菌数濃度減少)の結果を示すグラフである。
【
図3】実施例3及び4、比較例2の除菌効果確認試験(濁度減少)の結果を示すグラフである。
【
図4】実施例3及び4、比較例2の除菌効果確認試験(生菌数濃度減少)の結果を示すグラフである。
【
図5】実施例5及び6の除菌効果確認試験(濁度減少)の結果を示すグラフである。
【
図6】実施例5及び6の除菌効果確認試験(生菌数濃度減少)の結果を示すグラフである。
【
図7】実施例7及び8の除菌効果確認試験(濁度減少)の結果を示すグラフである。
【
図8】実施例7及び8の除菌効果確認試験(生菌数濃度減少)の結果を示すグラフである。
【
図9】実施例9、比較例3及び4の除菌効果確認試験(濁度減少)の結果を示すグラフである。
【
図10】実施例9、比較例3及び4の除菌効果確認試験(生菌数濃度減少)の結果を示すグラフである。
【
図11】実施例10、比較例5及び6の除菌効果確認試験(濁度減少)の結果を示すグラフである。
【
図12】実施例10、比較例5及び6の除菌効果確認試験(生菌数濃度減少)の結果を示すグラフである。
【
図13】実施例11、比較例7の除菌効果確認試験(濁度減少)の結果を示すグラフである。
【
図14】実施例11、比較例7の除菌効果確認試験(生菌数濃度減少)の結果を示すグラフである。
【
図15】実施例12、比較例8の除菌効果確認試験(濁度減少)の結果を示すグラフである。
【
図16】実施例12、比較例8の除菌効果確認試験(生菌数濃度減少)の結果を示すグラフである。
【
図17】実施例13、比較例9の除菌効果確認試験(濁度減少)の結果を示すグラフである。
【
図18】実施例13、比較例9の除菌効果確認試験(生菌数濃度減少)の結果を示すグラフである。
【
図19】実施例14、比較例10の除菌効果確認試験(濁度減少)の結果を示すグラフである。
【
図20】実施例14、比較例10の除菌効果確認試験(生菌数濃度減少)の結果を示すグラフである。
【
図21】実施例15、比較例11の除菌効果確認試験(生菌数濃度減少)の結果を示すグラフである。
【
図22】実施例16、比較例12の除菌効果確認試験(生菌数濃度減少)の結果を示すグラフである。
【
図23】実施例17、比較例13の除菌効果確認試験(生菌数濃度減少)の結果を示すグラフである。
【
図24】実施例18、比較例14の除菌効果確認試験(生菌数濃度減少)の結果を示すグラフである。
【
図25】実施例19、比較例15の除菌効果確認試験(生菌数濃度減少)の結果を示すグラフである。
【
図26】実施例20及び21、比較例16の除菌効果確認試験(濁度減少)の結果を示すグラフである。
【
図27】実施例20及び21、比較例16の除菌効果確認試験(生菌数濃度減少)の結果を示すグラフである。
【
図28】実施例22及び23、比較例17の除菌効果確認試験(濁度減少)の結果を示すグラフである。
【
図29】実施例22及び23、比較例17の除菌効果確認試験(生菌数濃度減少)の結果を示すグラフである。
【
図30】実施例24及び25、比較例18の除菌効果確認試験(濁度減少)の結果を示すグラフである。
【
図31】実施例24及び25、比較例18の除菌効果確認試験(生菌数濃度減少)の結果を示すグラフである。
【
図32】実施例26、比較例19の除菌効果確認試験(濁度減少)の結果を示すグラフである。
【
図33】実施例26、比較例19の除菌効果確認試験(生菌数濃度減少)の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<除菌組成物>
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。本発明の一実施形態である除菌組成物は、細菌芽胞を除菌するために用いる、発芽促進成分及び除菌成分を含有する一剤型の組成物である。そして、発芽促進成分が、アミノ酸、糖、及び無機塩を含む。なお、本明細書における「除菌」とは、芽胞の状態の菌体(細菌芽胞)を含む細菌(芽胞形成菌)に作用し、全体の菌数を顕著に減少させること、又は実質的に殺菌する(死滅させる)ことを意味する。以下、本実施形態の除菌組成物の詳細について説明する。
【0014】
発芽促進成分は、芽胞の状態の菌体(細菌芽胞)に作用し、発芽を促進させて栄養型の菌体へと導く成分である。そして、除菌成分は、細菌芽胞、発芽途中の菌体、及び栄養型の菌体の少なくともいずれかに作用し、生菌数を顕著に減少させる、又は実質的に殺菌する成分である。本実施形態の除菌組成物は、一の製剤中に発芽促進成分及び除菌成分のいずれもが含まれる、いわゆる一剤型の組成物である。このため、細菌芽胞が存在する被処理物に、本実施形態の除菌組成物を噴霧、散布、又は塗布する等の接触させるための操作を一回実施することで、細菌芽胞の発芽と除菌を進行させ、比較的短時間で有効かつ容易に除菌することができる。さらに、本実施形態の除菌組成物は、食品添加物のみ又は食品添加物と医療用の除菌成分によって有効成分を実質的に構成することが可能であるため、皮膚に接触したり、口にしたりしてもほとんど問題を生ずることがなく、安全性に優れている。
【0015】
(細菌芽胞)
本実施形態の除菌組成物の除菌対象となる細菌芽胞は、熱や乾燥等の環境に対して一定の抵抗性を示す。このような細菌芽胞は、一般的に「芽胞形成菌」と呼ばれる、貧栄養下で細菌芽胞を形成する特定の細菌である。細菌芽胞は、発芽することで栄養型の菌体となる。細菌芽胞を形成しうる芽胞形成菌は、通常、飲食店の厨房や食品工場等の食品を取り扱う施設の他、医療施設等にも存在する。本実施形態の除菌組成物が除菌対象とする細菌芽胞を形成する芽胞形成菌としては、例えば、バチルス サブチリス(Bacillus subtilis)、バチルス セレウス(Bacillus cereus)、バチルス メガテリウム(Bacillus megaterium)等のバチルス(Bacillus)属の細菌;クロストリジウム デフィシル(Clostridium difficile)等のクロストリジウム(Clostridium)属の細菌;アンフィバチルス(Amphibacillus)属の細菌;スポロサルシナ(Sporosarcina)属の細菌;ジオバチルス(Geobacillus)属の細菌;エアリバチルス(Aeribacillus)属の細菌;アリサイクロバチルス(Alicyclobacillus)属の細菌;スポロラクトバチルス(Sporolactobacillus)属の細菌;等を挙げることができる。
【0016】
(発芽促進成分)
発芽促進成分は、アミノ酸、糖、及び無機塩を含む。これらの成分を含む発芽促進成分を含有させることで、細菌芽胞を発芽させ、共存する除菌成分が有効に作用する状態とすることができると考えられる。なお、これらの三成分のうちのいずれかを含有しない場合には、発芽速度が低下するため除菌に時間がかかるか、又は発芽不良で細菌芽胞が残りやすくなり、除菌効果が低下する。
【0017】
アミノ酸としては、タンパク質を構成する20種類のL-アミノ酸を用いることができる。なかでも、L-アラニン(Ala)、L-アスパラギン(Asn)、L-チロシン(Tyr)、L-プロリン(Pro)、L-バリン(Val)、L-セリン(Ser)、及びカザミノ酸を用いることが好ましい。これらのアミノ酸は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0018】
糖としては、芽胞形成菌を培養するための合成培地に一般的に配合される糖類を用いることができる。なかでも、糖としては、D-グルコース(ブドウ糖)、D-フルクトース(果糖)、D-マンノース、D-ガラクトース、マルトース、ラクトース(乳糖)、スクロース(ショ糖)、及びこれらのカラメル化反応物等を用いることが好ましい。これらの糖は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0019】
無機塩としては、芽胞形成菌を培養するための合成培地に一般的に配合される無機塩を用いることができる。なかでも、無機塩としては、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、塩化カリウム、塩化ナトリウム、硝酸カリウム、及び硝酸ナトリウムからなる群より選択される少なくとも一種を用いることが好ましい。
【0020】
(除菌成分)
除菌成分としては、通常の細菌に作用して除菌又は殺菌しうる一般的な除菌成分を用いることができる。なかでも、除菌成分としては、塩化セチルピリジニウム(CPC)、塩化ベンザルコニウム(BAC)、塩化ベンゼトニウム、ε-ポリリジン、1,4-ビス(3,3’-(1-デシルピリジニウム)メチルオキシ)ブタンジブロマイド、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、プロタミン、モノラウリン、及びナイシンからなる群より選択される少なくとも一種を用いることが好ましい。さらに、人体への影響や安全性等を考慮すると、塩化セチルピリジニウム(CPC)、塩化ベンザルコニウム(BAC)、塩化ベンゼトニウム、ε-ポリリジン、ソルビン酸、及びソルビン酸カリウムがより好ましい。
【0021】
(液媒体)
除菌組成物は、液状担体、ゲル状担体、エマルション、固体担体等を用いて、液状、ペースト状、ゲル状、乳状、固形状等の種々の形態で使用することができる。なかでも、本実施形態の除菌組成物は、液媒体をさらに含有する液状組成物であることが好ましい。液状組成物とすることで、短時間で広範囲の被処理物を除菌することができる。なお、本明細書における「液状」の概念には、「ペースト状、ゲル状、乳状」等の液状に準ずる性状が包含される。液状組成物は、例えば、計量キャップ付きボトル、トリガータイプのスプレー容器、スクイーズタイプのスプレー容器、ポンプスプレー容器、刷毛付き容器等に充填することで、容易に散布、噴霧又は塗布等して用いることができる。
【0022】
液媒体としては、水、又は水と水溶性有機溶媒の混合溶媒を用いることが好ましい。水を含む液媒体を用いることで、取り扱い性を向上させることができるとともに、被処理物の腐食を抑制することができる。水溶性有機溶媒としては、例えば、エタノール、イソプロパノール、ブタノール等の低級アルコール;エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ブチレングリコール等の多価アルコール等を用いることができる。
【0023】
除菌組成物が液媒体を含有する液状組成物である場合に、除菌組成物中のアミノ酸の含有量は、除菌組成物全体を基準として、0.0001~1質量%であることが好ましく、0.001~0.1質量%であることがさらに好ましい。アミノ酸の含有量を上記の範囲内とすることで、細菌芽胞をより効率的に発芽させることができ、除菌効率をさらに高めることができる。
【0024】
除菌組成物が液媒体を含有する液状組成物である場合に、除菌組成物中の糖の含有量は、除菌組成物全体を基準として、0.001~10質量%であることが好ましく、0.1~1質量%であることがさらに好ましい。糖の含有量を上記の範囲内とすることで、細菌芽胞をより効率的に発芽させることができ、除菌効率をさらに高めることができる。
【0025】
除菌組成物が液媒体を含有する液状組成物である場合に、除菌組成物中の無機塩の含有量は、除菌組成物全体を基準として、0.001~10質量%であることが好ましく、0.01~1質量%であることがさらに好ましい。無機塩の含有量を上記の範囲内とすることで、細菌芽胞をより効率的に発芽させることができ、除菌効率をさらに高めることができる。
【0026】
除菌組成物が液媒体を含有する液状組成物である場合に、除菌組成物中の除菌成分の含有量は、除菌組成物全体を基準として、0.1~1,000mg/Lであることが好ましく、1~500mg/Lであることがさらに好ましい。除菌成分の含有量を上記の範囲内とすることで、除菌効率をさらに高めることができる。除菌成分の含有量が少なすぎると、除菌効率がやや不十分になることがある。一方、除菌成分の含有量が多すぎると、除菌効率が頭打ちになる傾向にある。
【0027】
(その他の成分)
本実施形態の除菌組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、上記各成分以外の成分(その他の成分)を含有させることができる。その他の成分としては、界面活性剤、pH調整剤、消泡剤、酸化防止剤、乳化剤等を挙げることができる。
【0028】
pH調整剤としては、一般的な酸や塩基を用いることができる。酸としては、塩酸、硫酸等の無機酸;乳酸、クエン酸、これらの塩等の有機酸;等を挙げることができる。塩基としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の無機塩基;モノエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン等の有機塩基;等を挙げることができる。なかでも、pH調整剤としては、塩酸、硫酸等の無機酸;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の無機塩基;を用いることが好ましい。
【0029】
本実施形態の除菌組成物の25℃におけるpHは特に限定されないが、除菌効果や取り扱い性等を考慮すると、通常、中性域であり、好ましくはpH5~9の範囲である。
【0030】
<除菌方法>
次に、本発明の一実施形態である除菌方法について説明する。本実施形態の除菌方法は、前述の除菌組成物を被処理物に接触させる工程を有する。被処理物は、除菌組成物が除菌対象とする細菌芽胞がその表面に付着する等して存在する、又は存在する可能性のある物、設備、施設等である。前述の除菌組成物を被処理物に接触させることで、細菌芽胞を除菌し、全体の菌数を顕著に減少させる、又は実質的に殺菌する(死滅させる)ことができる。
【0031】
被処理物は、細菌芽胞が存在しうる物、設備、施設等であれば特に限定されない。具体的には、食器、調理器具等の物品;飲食店の厨房、食品工場、スーパーのバックヤード等の主として食品を取り扱う施設;食品加工工場内の各種設備;医療現場内の各種物品や設備等を挙げることができる。
【0032】
除菌組成物が液状である場合には、例えば、被処理物の表面が全体的に濡れる程度の量の除菌組成物を付与して接触させればよい。液状の除菌組成物を被処理物に接触させる方法としては、噴霧、散布、及び塗布等の任意の方法を選択すればよい。また、被処理物が設備の配管等であれば、配管等の内部(流路)に液状の除菌組成物を流通させてもよい。除菌組成物を被処理物に接触させる時間は、例えば、0.5~10時間、好ましくは1~8時間、さらに好ましくは2~6時間である。除菌組成物を被処理物に上記の時間範囲内で接触させることで、十分な除菌効果を得ることができる。また、必要に応じて、除菌組成物を被処理物に接触させた状態で加温してもよい。適度に加温することで細菌芽胞の発芽が促進され、除菌効率をさらに高めることができる。除菌組成物を被処理物に接触させた状態で加温する場合の温度は、例えば、20~40℃であればよく、25~37℃とすることが好ましい。
【実施例】
【0033】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。また、試験には滅菌済の試薬及び器具を使用した。
【0034】
<芽胞懸濁液の調製>
(芽胞懸濁液(1))
バチルス サブチリス(Bacillus subtilis) ATCC6633株の芽胞を凍結乾燥した後、-80℃で保存して、芽胞の粉末(芽胞粉末)を得た。芽胞粉末をイオン交換水10mLに添加して懸濁した後、70℃で20分間加熱処理した。7,000rpm、4℃で5分間遠心分離して集菌した後、イオン交換水に再度懸濁してOD650を3.00に調整し、芽胞懸濁液(1)を得た。
【0035】
(芽胞懸濁液(1-1))
芽胞懸濁液(1)をイオン交換水で1,000倍に希釈し、芽胞懸濁液(1-1)(約6.0×104CFU/mL)を得た。
【0036】
(芽胞懸濁液(2))
バチルス セレウス(Bacillus cereus) NBRC15305株の芽胞を凍結乾燥した後、-80℃で保存して、芽胞の粉末(芽胞粉末)を得た。芽胞粉末をイオン交換水10mLに添加して懸濁した後、70℃で20分間加熱処理した。7,000rpm、4℃で5分間遠心分離して集菌した後、イオン交換水に再度懸濁してOD650を3.00に調整し、芽胞懸濁液(2)を得た。
【0037】
<発芽促進液の調製>
(発芽促進液(1))
0.5%L-アラニン水溶液、10%D-グルコース水溶液、及び5.35%塩化アンモニウム水溶液をイオン交換水に添加した後、ろ過滅菌して、L-アラニン、D-グルコース、及び塩化アンモニウムをそれぞれ所定の濃度で含有する、pH7.0の発芽促進液(1)を調製した。
【0038】
(発芽促進液(1-1))
0.5%L-アラニン水溶液、10%D-グルコース水溶液、5.35%塩化アンモニウム水溶液、及び1mol/L塩化カリウム水溶液をイオン交換水に添加した後、ろ過滅菌して、L-アラニン、D-グルコース、塩化アンモニウム、及び塩化カリウムをそれぞれ所定の濃度で含有する、pH7.0の発芽促進液(1-1)を調製した。
【0039】
(発芽促進液(2))
10%D-グルコース水溶液をイオン交換水に添加した後、ろ過滅菌して、D-グルコースを所定の濃度で含有する、pH7.0の発芽促進液(2)を調製した。
【0040】
(発芽促進液(3))
0.5%L-アラニン水溶液及び10%D-グルコース水溶液をイオン交換水に添加した後、ろ過滅菌して、L-アラニン及びD-グルコースをそれぞれ所定の濃度で含有する、pH7.0の発芽促進液(3)を調製した。
【0041】
(発芽促進液(4))
0.5%L-アラニン水溶液をイオン交換水に添加した後、ろ過滅菌して、L-アラニンを所定の濃度で含有する、pH7.0の発芽促進液(4)を調製した。
【0042】
(発芽促進液(5))
0.5%L-アラニン水溶液及び5.35%塩化アンモニウム水溶液をイオン交換水に添加した後、ろ過滅菌して、L-アラニン及び塩化アンモニウムをそれぞれ所定の濃度で含有する、pH7.0の発芽促進液(5)を調製した。
【0043】
<除菌成分液の調製>
除菌成分として、塩化セチルピリジニウム(CPC)、及び塩化ベンザルコニウム(BAC)、1,4-ビス(3,3’-(1-デシルピリジニウム)メチルオキシ)ブタンジブロマイド(商品名「ハイジェニア(登録商標)」、タマ化学工業社製)、ε-ポリリジン、モノラウリン、及びナイシンを用意した。これらの除菌成分をイオン交換水にそれぞれ溶解させて、以下に示す種類の除菌成分液を調製した。
・5mg/mL CPC水溶液
・10mg/mL CPC水溶液
・50mg/mL CPC水溶液
・100mg/mL CPC水溶液
・5mg/mL BAC水溶液
・10mg/mL BAC水溶液
・50mg/mL BAC水溶液
・100mg/mL BAC水溶液
・5mg/mL ハイジェニア水溶液
・50mg/mL ハイジェニア水溶液
・100mg/mL ハイジェニア水溶液
・10mg/mL ε-ポリリジン水溶液
・50mg/mL ε-ポリリジン水溶液
・100mg/mL ε-ポリリジン水溶液
・100mg/mL モノラウリン水溶液
・50mg/mL ナイシン水溶液
・100mg/mL ソルビン酸水溶液
・100mg/mL プロタミン水溶液
【0044】
<除菌効果確認試験>
(実施例1及び2、比較例1)
発芽促進液(1)18mL及びCPC水溶液(10mg/mL、100mg/mL)20μLを100mL容の三角フラスコに入れた後、芽胞懸濁液(1)2mLを添加して評価用の懸濁液を得た(実施例1及び2)。37℃、125rpmでフラスコを振とうし、懸濁液の濁度(OD
650)を経時的に測定して芽胞の発芽状態を確認した。測定結果を
図1に示す。
【0045】
また、経時的に懸濁液を取り出し、SCDLP液体培地で段階的に希釈して希釈液を得た。得られた希釈液をSCDLP寒天培地に塗布した後、37℃で48時間培養し、生育したコロニー数を計測して、生菌数濃度(CFU/mL)を算出した。結果を
図2に示す。また、初期及び振とう開始から6時間後の生菌数濃度(CFU/mL)を表1に示す。
【0046】
さらに、CPC水溶液を用いなかったこと以外は、上記の実施例1及び2と同様にして、懸濁液の濁度(OD
650)を経時的に測定して芽胞の発芽状態を確認するとともに、生菌数濃度(CFU/mL)を算出した(比較例1)。結果を
図1及び2に示す。また、初期及び振とう開始から6時間後の生菌数濃度(CFU/mL)を表1に示す。
【0047】
【0048】
図1に示すように、いずれの場合(実施例1及び2、比較例1)も経時的に濁度が低下しており、芽胞の発芽を確認することができた。また、
図2及び表1に示すように、実施例1及び2では、芽胞の発芽に伴って生菌数濃度が急激に低下しており、効率的に除菌が進行したことが分かる。
【0049】
(実施例3及び4、比較例2)
CPC水溶液に代えて、BAC水溶液(10mg/mL、100mg/mL)を用いたこと以外は、前述の実施例1及び2と同様にして、懸濁液の濁度(OD
650)を経時的に測定するとともに、生菌数濃度(CFU/mL)を算出した(実施例3及び4)。また、BAC水溶液を用いなかったこと以外は、前述の実施例3及び4と同様にして、懸濁液の濁度(OD
650)を経時的に測定して芽胞の発芽状態を確認するとともに、生菌数濃度(CFU/mL)を算出した(比較例2)。結果を
図3及び4に示す。また、初期及び振とう開始から6時間後の生菌数濃度(CFU/mL)を表2に示す。
【0050】
【0051】
図3に示すように、いずれの場合(実施例3及び4、比較例2)も経時的に濁度が低下しており、芽胞の発芽を確認することができた。また、
図4及び表2に示すように、実施例3及び4では、芽胞の発芽に伴って生菌数濃度が急激に低下しており、効率的に除菌が進行したことが分かる。
【0052】
(実施例5及び6)
CPC水溶液に代えて、ハイジェニア水溶液(5mg/mL、100mg/mL)を用いたこと以外は、前述の実施例1及び2と同様にして、懸濁液の濁度(OD
650)を経時的に測定するとともに、生菌数濃度(CFU/mL)を算出した(実施例5及び6)。結果を
図5及び6に示す。また、初期及び振とう開始から6時間後の生菌数濃度(CFU/mL)を表3に示す。
【0053】
【0054】
図5に示すように、いずれの場合(実施例5及び6)も経時的に濁度が低下しており、芽胞の発芽を確認することができた。また、
図6及び表3に示すように、芽胞の発芽に伴って生菌数濃度が急激に低下しており、効率的に除菌が進行したことが分かる。
【0055】
(実施例7及び8)
CPC水溶液に代えて、ε-ポリリジン水溶液(10mg/mL、100mg/mL)を用いたこと以外は、前述の実施例1及び2と同様にして、懸濁液の濁度(OD
650)を経時的に測定して芽胞の発芽状態を確認するとともに、生菌数濃度(CFU/mL)を算出した(実施例7及び8)。結果を
図7及び8に示す。また、初期及び振とう開始から6時間後の生菌数濃度(CFU/mL)を表4に示す。
【0056】
【0057】
図7に示すように、いずれの場合(実施例7及び8)も経時的に濁度が低下しており、芽胞の発芽を確認することができた。また、
図8及び表4に示すように、芽胞の発芽に伴って生菌数濃度が急激に低下しており、効率的に除菌が進行したことが分かる。
【0058】
(実施例9、比較例3及び4)
100mg/mL CPC水溶液を用いて、前述の実施例1及び2と同様にして、懸濁液の濁度(OD
650)を経時的に測定するとともに、生菌数濃度(CFU/mL)を算出した(実施例9)。また、発芽促進液(1)に代えて、発芽促進液(2)及び発芽促進液(3)をそれぞれ用いたこと以外は、前述の実施例9と同様にして、懸濁液の濁度(OD
650)を経時的に測定して芽胞の発芽状態を確認するとともに、生菌数濃度(CFU/mL)を算出した(比較例3及び4)。結果を
図9及び10に示す。また、初期及び振とう開始から6時間後の生菌数濃度(CFU/mL)を表5に示す。
【0059】
【0060】
図9に示すように、いずれの場合(実施例9、比較例3及び4)も経時的に濁度が低下しており、芽胞の発芽を確認することができた。また、
図10及び表5に示すように、実施例9では、芽胞の発芽に伴って生菌数濃度が急激に低下しており、効率的に除菌が進行したことが分かる。これに対して、発芽促進成分のうちのいずれかを含有しない比較例3及び4では、発芽速度が遅く、有効に発芽しておらず、生菌数濃度はさほど低下しなかった。このことから、発芽促進成分が不十分であった(不足していた)ことがわかる。
【0061】
(実施例10、比較例5及び6)
100mg/mL CPC水溶液を用いて、前述の実施例1及び2と同様にして、懸濁液の濁度(OD
650)を経時的に測定するとともに、生菌数濃度(CFU/mL)を算出した(実施例10)。また、発芽促進液(1)に代えて、発芽促進液(4)及び発芽促進液(5)をそれぞれ用いたこと以外は、前述の実施例10と同様にして、懸濁液の濁度(OD
650)を経時的に測定して芽胞の発芽状態を確認するとともに、生菌数濃度(CFU/mL)を算出した(比較例5及び6)。結果を
図11及び12に示す。また、初期及び振とう開始から6時間後の生菌数濃度(CFU/mL)を表6に示す。
【0062】
【0063】
図11に示すように、いずれの場合(実施例10、比較例5及び6)も経時的に濁度が低下しており、芽胞の発芽を確認することができた。また、
図12及び表6に示すように、実施例10では、芽胞の発芽に伴って生菌数濃度が急激に低下しており、効率的に除菌が進行したことが分かる。これに対して、発芽促進成分のうちのいずれかを含有しない比較例5及び6では、発芽速度が遅く、有効に発芽しておらず、生菌数濃度はさほど低下しなかった。このことから、発芽促進成分が不十分であった(不足していた)ことがわかる。
【0064】
(実施例11、比較例7)
CPC水溶液に代えて、モノラウリン水溶液(100mg/mL)を用いたこと以外は、前述の実施例1及び2と同様にして、懸濁液の濁度(OD
650)を経時的に測定するとともに、生菌数濃度(CFU/mL)を算出した(実施例11)。また、モノラウリン水溶液を用いなかったこと以外は、前述の実施例11と同様にして、懸濁液の濁度(OD
650)を経時的に測定して芽胞の発芽状態を確認するとともに、生菌数濃度(CFU/mL)を算出した(比較例7)。結果を
図13及び14に示す。また、初期及び振とう開始から3時間後の生菌数濃度(CFU/mL)を表7に示す。
【0065】
【0066】
図13に示すように、実施例11では経時的に濁度が低下しており、芽胞の発芽を確認することができた。また、
図14及び表7に示すように、実施例11では、芽胞の発芽に伴って生菌数濃度が急激に低下しており、効率的に除菌が進行したことが分かる。
【0067】
(実施例12、比較例8)
CPC水溶液に代えて、ナイシン水溶液(50mg/mL)を用いたこと以外は、前述の実施例1及び2と同様にして、懸濁液の濁度(OD
650)を経時的に測定するとともに、生菌数濃度(CFU/mL)を算出した(実施例12)。また、ナイシン水溶液を用いなかったこと以外は、前述の実施例12と同様にして、懸濁液の濁度(OD
650)を経時的に測定して芽胞の発芽状態を確認するとともに、生菌数濃度(CFU/mL)を算出した(比較例8)。結果を
図15及び16に示す。また、初期及び振とう開始から3時間後の生菌数濃度(CFU/mL)を表8に示す。
【0068】
【0069】
図15に示すように、実施例12では経時的に濁度が低下しており、芽胞の発芽を確認することができた。また、
図16及び表8に示すように、実施例12では、芽胞の発芽に伴って生菌数濃度が急激に低下しており、効率的に除菌が進行したことが分かる。
【0070】
(実施例13、比較例9)
CPC水溶液に代えて、ソルビン酸水溶液(100mg/mL)を用いたこと以外は、前述の実施例1及び2と同様にして、懸濁液の濁度(OD
650)を経時的に測定するとともに、生菌数濃度(CFU/mL)を算出した(実施例13)。また、ソルビン酸水溶液を用いなかったこと以外は、前述の実施例13と同様にして、懸濁液の濁度(OD
650)を経時的に測定して芽胞の発芽状態を確認するとともに、生菌数濃度(CFU/mL)を算出した(比較例9)。結果を
図17及び18に示す。また、初期及び振とう開始から3時間後の生菌数濃度(CFU/mL)を表9に示す。
【0071】
【0072】
図17に示すように、実施例13では経時的に濁度が低下しており、芽胞の発芽を確認することができた。また、
図18及び表9に示すように、実施例13では、芽胞の発芽に伴って生菌数濃度が急激に低下しており、効率的に除菌が進行したことが分かる。
【0073】
(実施例14、比較例10)
CPC水溶液に代えて、プロタミン水溶液(100mg/mL)を用いたこと以外は、前述の実施例1及び2と同様にして、懸濁液の濁度(OD
650)を経時的に測定するとともに、生菌数濃度(CFU/mL)を算出した(実施例14)。また、プロタミン水溶液を用いなかったこと以外は、前述の実施例14と同様にして、懸濁液の濁度(OD
650)を経時的に測定して芽胞の発芽状態を確認するとともに、生菌数濃度(CFU/mL)を算出した(比較例10)。結果を
図19及び20に示す。また、初期及び振とう開始から3時間後の生菌数濃度(CFU/mL)を表10に示す。
【0074】
【0075】
図19に示すように、実施例14では経時的に濁度が低下しており、芽胞の発芽を確認することができた。また、
図20及び表10に示すように、実施例14では、芽胞の発芽に伴って生菌数濃度が急激に低下しており、効率的に除菌が進行したことが分かる。
【0076】
(実施例15、比較例11)
発芽促進液(1-1)18mL及びCPC水溶液(50mg/mL)20μLを100mL容の三角フラスコに入れた後、芽胞懸濁液(1-1)2mLを添加して評価用の懸濁液を得た(実施例15)。37℃、125rpmでフラスコを振とうした。経時的に懸濁液を取り出し、SCDLP液体培地で段階的に希釈して希釈液を得た。得られた希釈液をSCDLP寒天培地に塗布した後、37℃で48時間培養し、生育したコロニー数を計測して、生菌数濃度(CFU/mL)を算出した。結果を
図21に示す。また、初期及び振とう開始から3時間後の生菌数濃度(CFU/mL)を表11に示す。
【0077】
さらに、CPC水溶液を用いなかったこと以外は、上記の実施例15と同様にして、懸濁液中の生菌数濃度(CFU/mL)を経時的に算出した(比較例11)。結果を
図21に示す。また、初期及び振とう開始から3時間後の生菌数濃度(CFU/mL)を表11に示す。
【0078】
【0079】
図21及び表11に示すように、より現実的な生菌数濃度(約6.0×10
3CFU/mL)とした場合であっても、実施例15では生菌数濃度が急激に低下しており、効率的に除菌が進行したことが分かる。
【0080】
(実施例16、比較例12)
CPC水溶液に代えて、BAC水溶液(50mg/mL)を用いたこと以外は、前述の実施例15と同様にして、懸濁液中の生菌数濃度(CFU/mL)を経時的に算出した(実施例16)。また、BAC水溶液を用いなかったこと以外は、上記の実施例16と同様にして、懸濁液中の生菌数濃度(CFU/mL)を経時的に算出した(比較例12)。結果を
図22に示す。また、初期及び振とう開始から3時間後の生菌数濃度(CFU/mL)を表12に示す。
【0081】
【0082】
図22及び表12に示すように、より現実的な生菌数濃度(約6.0×10
3CFU/mL)とした場合であっても、実施例16では生菌数濃度が急激に低下しており、効率的に除菌が進行したことが分かる。
【0083】
(実施例17、比較例13)
CPC水溶液に代えて、ハイジェニア水溶液(5mg/mL)を用いたこと以外は、前述の実施例15と同様にして、懸濁液中の生菌数濃度(CFU/mL)を経時的に算出した(実施例17)。また、ハイジェニア水溶液を用いなかったこと以外は、上記の実施例17と同様にして、懸濁液中の生菌数濃度(CFU/mL)を経時的に算出した(比較例13)。結果を
図23に示す。また、初期及び振とう開始から3時間後の生菌数濃度(CFU/mL)を表13に示す。
【0084】
【0085】
図23及び表13に示すように、より現実的な生菌数濃度(約6.0×10
3CFU/mL)とした場合であっても、実施例17では生菌数濃度が急激に低下しており、効率的に除菌が進行したことが分かる。
【0086】
(実施例18、比較例14)
CPC水溶液に代えて、ε-ポリリジン水溶液(5mg/mL)を用いたこと以外は、前述の実施例15と同様にして、懸濁液中の生菌数濃度(CFU/mL)を経時的に算出した(実施例18)。また、ε-ポリリジン水溶液を用いなかったこと以外は、上記の実施例18と同様にして、懸濁液中の生菌数濃度(CFU/mL)を経時的に算出した(比較例14)。結果を
図24に示す。また、初期及び振とう開始から3時間後の生菌数濃度(CFU/mL)を表14に示す。
【0087】
【0088】
図24及び表14に示すように、より現実的な生菌数濃度(約6.0×10
3CFU/mL)とした場合であっても、実施例18では生菌数濃度が急激に低下しており、効率的に除菌が進行したことが分かる。
【0089】
(実施例19、比較例15)
発芽促進液(1)18mL及びナイシン水溶液(50mg/mL)20μLを100mL容の三角フラスコに入れた後、芽胞懸濁液(1-1)2mLを添加して評価用の懸濁液を得た(実施例19)。37℃、125rpmでフラスコを振とうした。経時的に懸濁液を取り出し、SCDLP液体培地で段階的に希釈して希釈液を得た。得られた希釈液をSCDLP寒天培地に塗布した後、37℃で48時間培養し、生育したコロニー数を計測して、生菌数濃度(CFU/mL)を算出した。結果を
図25に示す。また、初期及び振とう開始から3時間後の生菌数濃度(CFU/mL)を表15に示す。
【0090】
さらに、ナイシン水溶液を用いなかったこと以外は、上記の実施例19と同様にして、懸濁液中の生菌数濃度(CFU/mL)を経時的に算出した(比較例15)。結果を
図25に示す。また、初期及び振とう開始から3時間後の生菌数濃度(CFU/mL)を表15に示す。
【0091】
【0092】
図25及び表15に示すように、より現実的な生菌数濃度(約6.0×10
3CFU/mL)とした場合であっても、実施例19では生菌数濃度が急激に低下しており、効率的に除菌が進行したことが分かる。
【0093】
(実施例20及び21、比較例16)
発芽促進液(1)18mL及びCPC水溶液(5mg/mL、50mg/mL)20μLを100mL容の三角フラスコに入れた後、芽胞懸濁液(2)2mLを添加して評価用の懸濁液を得た(実施例20及び21)。37℃、125rpmでフラスコを振とうし、懸濁液の濁度(OD
650)を経時的に測定して芽胞の発芽状態を確認した。測定結果を
図26に示す。
【0094】
また、経時的に懸濁液を取り出し、SCDLP液体培地で段階的に希釈して希釈液を得た。得られた希釈液をSCDLP寒天培地に塗布した後、37℃で48時間培養し、生育したコロニー数を計測して、生菌数濃度(CFU/mL)を算出した。結果を
図27に示す。また、初期及び振とう開始から3時間後の生菌数濃度(CFU/mL)を表16に示す。
【0095】
さらに、CPC水溶液を用いなかったこと以外は、上記の実施例20及び21と同様にして、懸濁液の濁度(OD
650)を経時的に測定して芽胞の発芽状態を確認するとともに、生菌数濃度(CFU/mL)を算出した(比較例16)。結果を
図26及び27に示す。また、初期及び振とう開始から3時間後の生菌数濃度(CFU/mL)を表16に示す。
【0096】
【0097】
図26に示すように、いずれの場合(実施例20及び21、比較例16)も経時的に濁度が低下しており、芽胞の発芽を確認することができた。また、
図27及び表16に示すように、実施例20及び21では、芽胞の発芽に伴って生菌数濃度が急激に低下しており、効率的に除菌が進行したことが分かる。
【0098】
(実施例22及び23、比較例17)
CPC水溶液に代えて、BAC水溶液(5mg/mL、50mg/mL)を用いたこと以外は、前述の実施例20及び21と同様にして、懸濁液の濁度(OD
650)を経時的に測定するとともに、生菌数濃度(CFU/mL)を算出した(実施例22及び23)。また、BAC水溶液を用いなかったこと以外は、前述の実施例22及び23と同様にして、懸濁液の濁度(OD
650)を経時的に測定して芽胞の発芽状態を確認するとともに、生菌数濃度(CFU/mL)を算出した(比較例17)。結果を
図28及び29に示す。また、初期及び振とう開始から3時間後の生菌数濃度(CFU/mL)を表17に示す。
【0099】
【0100】
図28に示すように、いずれの場合(実施例22及び23、比較例17)も経時的に濁度が低下しており、芽胞の発芽を確認することができた。また、
図29及び表17に示すように、実施例22及び23では、芽胞の発芽に伴って生菌数濃度が急激に低下しており、効率的に除菌が進行したことが分かる。
【0101】
(実施例24及び25、比較例18)
CPC水溶液に代えて、ハイジェニア水溶液(5mg/mL、50mg/mL)を用いたこと以外は、前述の実施例20及び21と同様にして、懸濁液の濁度(OD
650)を経時的に測定するとともに、生菌数濃度(CFU/mL)を算出した(実施例24及び25)。また、ハイジェニア水溶液を用いなかったこと以外は、前述の実施例24及び25と同様にして、懸濁液の濁度(OD
650)を経時的に測定して芽胞の発芽状態を確認するとともに、生菌数濃度(CFU/mL)を算出した(比較例18)。結果を
図30及び31に示す。また、初期及び振とう開始から3時間後の生菌数濃度(CFU/mL)を表18に示す。
【0102】
【0103】
図30に示すように、いずれの場合(実施例24及び25、比較例18)も経時的に濁度が低下しており、芽胞の発芽を確認することができた。また、
図31及び表18に示すように、実施例24及び25では、芽胞の発芽に伴って生菌数濃度が急激に低下しており、効率的に除菌が進行したことが分かる。
【0104】
(実施例26、比較例19)
CPC水溶液に代えて、ε-ポリリジン水溶液(50mg/mL)を用いたこと以外は、前述の実施例20及び21と同様にして、懸濁液の濁度(OD
650)を経時的に測定するとともに、生菌数濃度(CFU/mL)を算出した(実施例26)。また、ε-ポリリジン水溶液を用いなかったこと以外は、前述の実施例26と同様にして、懸濁液の濁度(OD
650)を経時的に測定して芽胞の発芽状態を確認するとともに、生菌数濃度(CFU/mL)を算出した(比較例19)。結果を
図32及び33に示す。また、初期及び振とう開始から3時間後の生菌数濃度(CFU/mL)を表19に示す。
【0105】
【0106】
図32に示すように、いずれの場合(実施例26、比較例19)も経時的に濁度が低下しており、芽胞の発芽を確認することができた。また、
図33及び表19に示すように、実施例26では、芽胞の発芽に伴って生菌数濃度が急激に低下しており、効率的に除菌が進行したことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明の除菌組成物は、除菌することが従来困難であった細菌芽胞を簡易な操作で除菌しうる安全性の高い組成物として有用である。