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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-07
(45)【発行日】2022-07-15
(54)【発明の名称】樹脂組成物および成形品
(51)【国際特許分類】
   C08L 69/00 20060101AFI20220708BHJP
   C08K 5/101 20060101ALI20220708BHJP
【FI】
C08L69/00
C08K5/101
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2017200813
(22)【出願日】2017-10-17
(65)【公開番号】P2019073631
(43)【公開日】2019-05-16
【審査請求日】2020-08-25
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】594137579
【氏名又は名称】三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】佐野 真由
(72)【発明者】
【氏名】田島 寛之
【審査官】飛彈 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特開昭49-022455(JP,A)
【文献】特開2019-073701(JP,A)
【文献】特開2019-073702(JP,A)
【文献】米国特許第03836199(US,A)
【文献】特開平01-249855(JP,A)
【文献】米国特許第05055508(US,A)
【文献】特開平03-116560(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第00628957(EP,A1)
【文献】特開2013-064047(JP,A)
【文献】国際公開第2015/151833(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0171037(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 69/00
C08K 5/101
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、(B)脂肪酸モノエステルを0.5~10.0質量部含み、前記(A)ポリカーボネート樹脂が、下記式(1)表される構造単位および下記式(2)で表される構造単位を含み、下記式(1)で表される構造単位を31モル%以上含み、前記(B)脂肪酸モノエステルは、水酸基価が100mgKOH/g以下であり、かつ、炭素数が42以上である、樹脂組成物;
式(1)
【化1】
式(1)中、R1はメチル基を表し、R2は水素原子を表し、X1-C(CH 3 2 を表す。
式(2)
【化2】
式(2)中、X 2 は-C(CH 3 2 -を表す。
【請求項2】
前記(B)脂肪酸モノエステルが、飽和直鎖カルボン酸と飽和直鎖アルコールから形成されている、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記(A)ポリカーボネート樹脂は、前記式(1)で表される構造単位を40~95モル%と、前記式(2)で表される構造単位60~5モル%を含む、請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
厚さ2mmの成形品に成形した時のヘイズが5.0%以下である、請求項1~のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記樹脂組成物が無機充填材を含まないか、前記(A)ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、無機充填材を8質量部以下の割合で含む、請求項1~のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
爪傷付き耐性用の用途に用いられる、請求項1~のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1~のいずれか1項に記載の樹脂組成物から形成される成形品。
【請求項8】
前記成形品がパネル状である、請求項に記載の成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物および成形品に関する。特に、ポリカーボネート樹脂を用いた爪傷付き耐性に優れ、透明性に優れた成形品を提供可能な樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は、機械的強度、電気的特性、透明性などに優れ、エンジニアリングプラスチックとして、電気電子機器分野、自動車分野等の様々な分野において幅広く利用されている。近年、これらの分野においては、成形加工品の薄肉化、小型化、軽量化が進展し、成形素材のさらなる性能向上が要求され、いくつかの提案がなされている。
【0003】
例えば、特許文献1には、所定の構造を有するポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して、ポリエチレン系重合体を主鎖とし、ビニル系重合体セグメントを側鎖とするグラフト共重合体(B)0.1~12質量部を含有することを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物が開示されている。同文献には、前記ポリカーボネート樹脂組成物が爪での傷付き耐性に優れることも記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-110180号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来から、ビスフェノールC由来の構造単位を含むポリカーボネート樹脂は、鉛筆硬度が高い傾向にあることが知られている。ここで、ビスフェノールC由来の構造単位を含むポリカーボネート樹脂から成形される成形品上に塗装等の処理(以下、「塗装レス」ということがある)を施さずに製品として使用する場合がある。しかしながら、本発明者が検討を行ったところ、このような成形品は、鉛筆硬度が高いにもかかわらず、爪傷付き耐性にやや問題があることがわかった。上記特許文献1に記載の樹脂組成物は、爪傷付き耐性に優れた樹脂組成物であるが、同文献の実施例では漆黒性などを追及している。すなわち、透明性を求める用途については、新たな材料の開発が求められる。また、塗装レスの製品などでは、指紋などをクリーナーなどでふき取る場合がある。そこで、溶媒拭き取り後の爪傷付き耐性も求められる。
さらに、ポリカーボネート樹脂に適切な添加剤を配合して、樹脂組成物の透明性および爪傷つき耐性が向上しても、添加剤の種類によっては、押出性や透明性が劣ってしまう場合がある。
本発明は、かかる課題を解決することを目的とするものであって、押出性に優れ、透明性が高く、かつ、初期および溶媒拭き取り後の爪傷付き耐性に優れた樹脂組成物、および、前記樹脂組成物を用いた成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題のもと、本発明者が検討を行った結果、ポリカーボネート樹脂に、特定の脂肪酸エステルを配合することにより、上記課題を解決しうることを見出した。具体的には、下記手段<1>により、好ましくは<2>~<8>により、上記課題は解決された。
<1>(A)ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、(B)脂肪酸モノエステルを0.5~10.0質量部含み、前記(A)ポリカーボネート樹脂が、下記式(1)で表される構造単位を5モル%以上含み、前記(B)脂肪酸モノエステルは、水酸基価が100mgKOH/g以下であり、かつ、炭素数が42以上である、樹脂組成物;
式(1)
【化1】
式(1)中、R1はメチル基を表し、R2は水素原子またはメチル基を表し、X1は下記のいずれかの式を表し、
【化2】
3およびR4は、それぞれ独立に、水素原子またはメチル基を表し、ZはCと結合して炭素数6~12の、置換基を有していてもよい脂環式炭化水素を形成する基を表す。
<2>前記(B)脂肪酸モノエステルが、飽和直鎖カルボン酸と飽和直鎖アルコールから形成されている、<1>に記載の樹脂組成物。
<3>(A)ポリカーボネート樹脂は、さらに、下記式(2)で表される構造単位を含む、<1>または<2>に記載の樹脂組成物;
式(2)
【化3】
式(2)中、X2は下記のいずれかの式を表し、
【化4】
3およびR4は、それぞれ独立に、水素原子またはメチル基を表し、ZはCと結合して炭素数6~12の、置換基を有していてもよい脂環式炭化水素を形成する基を表す。
<4>前記(A)ポリカーボネート樹脂は、前記式(1)で表される構造単位を5~95モル%と、前記式(2)で表される構造単位95~5モル%を含む、<3>に記載の樹脂組成物。
<5>厚さ2mmの成形品に成形した時のヘイズが5.0%以下である、<1>~<4>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<6>前記樹脂組成物が無機充填材を含まないか、前記(A)ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、無機充填材を8質量部以下の割合で含む、<1>~<5>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<7><1>~<6>のいずれか1つに記載の樹脂組成物から形成される成形品。
<8>前記成形品がパネル状である、<7>に記載の成形品。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、押出性に優れ、透明性が高く、かつ、初期および溶媒拭き取り後の爪傷付き耐性に優れた樹脂組成物、および、前記樹脂組成物を用いた成形品を提供可能になった。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。なお、本明細書において「~」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
【0009】
本発明の樹脂組成物は、(A)ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、(B)脂肪酸モノエステルを0.5~10.0質量部含み、前記(A)ポリカーボネート樹脂が、下記式(1)で表される構造単位を5モル%以上含み、前記(B)脂肪酸モノエステルは、水酸基価が100mgKOH/g以下であり、かつ、炭素数が42以上であることを特徴とする。
式(1)
【化5】
式(1)中、R1はメチル基を表し、R2は水素原子またはメチル基を表し、X1は下記のいずれかの式を表し、
【化6】
3およびR4は、それぞれ独立に、水素原子またはメチル基を表し、ZはCと結合して炭素数6~12の、置換基を有していてもよい脂環式炭化水素を形成する基を表す。
このような構成とすることにより、押出性に優れ、透明性が高く、かつ、初期および溶媒拭き取り後の爪傷付き耐性に優れた樹脂組成物を提供可能になる。
以下、本発明の詳細について説明する。
【0010】
<(A)ポリカーボネート樹脂>
本発明の樹脂組成物は、式(1)で表される構造単位を5モル%以上含む。
式(1)
【化7】
式(1)中、R1はメチル基を表し、R2は水素原子またはメチル基を表し、X1は下記のいずれかの式を表し、
【化8】
3およびR4は、それぞれ独立に、水素原子またはメチル基を表し、ZはCと結合して炭素数6~12の、置換基を有していてもよい脂環式炭化水素を形成する基を表す。
【0011】
式(1)中の2つのR2は、それぞれ同一でも、異なっていてもよく、好ましくは同一である。R2は水素原子であることが好ましい。
【0012】
式(1)中、X1は下記構造が好ましい。
【化9】
3およびR4は、少なくとも一方がメチル基であることが好ましく、両方がメチル基であることがより好ましい。
【0013】
本発明における(A)ポリカーボネート樹脂は、式(1)で表される構造単位を、5モル%以上、好ましくは10モル%以上、より好ましくは20モル%以上、さらに好ましくは40モル%以上、一層好ましくは50モル%以上、より一層好ましくは60モル%以上、さらに一層好ましくは65モル%以上含む。また、上限値は限定されるものではないが、好ましくは95モル%以下、より好ましくは90モル%以下、さらに好ましくは85モル%以下、一層好ましくは80モル%以下、より一層好ましくは76モル%以下含む。また、40モル%以下であってもよい。
【0014】
本発明では、(A)ポリカーボネート樹脂は、式(1)で表される構造単位を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0015】
上記式(1)の好ましい構造単位の具体例としては、以下のi)~iv)が挙げられる。
i)2,2-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパンから構成される構造単位、すなわち、R1がメチル基、R2が水素原子、X2が-C(CH32-である構造単位、
ii)2,2-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパンから構成される構造単位、すなわち、R1がメチル基、R2がメチル基、X2が-C(CH32-である構造単位、
iii)2,2-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサンから構成される構造単位、すなわち、R1がメチル基、R2が水素原子、X2がシクロヘキシリデン基である構造単位、
iv)2,2-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)シクロドデカンから構成される構造単位、すなわち、R1がメチル基、R2が水素原子、X2がシクロドデシリデン基である構造単位である。
これらの中で、上記i)、ii)およびiii)が好ましく、上記i)およびiii)がより好ましく、上記i)がさらに好ましい。
【0016】
本発明において、(A)ポリカーボネート樹脂は、前記式(1)で表される構造単位以外の他の構造単位を有していてもよい。他の構造単位としては、下記式(2)で表される構造単位が好ましい。
式(2)
【化10】
式(2)中、X2は下記のいずれかの式を表し、
【化11】
3およびR4は、それぞれ独立に、水素原子またはメチル基を表し、ZはCと結合して炭素数6~12の、置換基を有していてもよい脂環式炭化水素を形成する基を表す。
Zは、上記式(2)中の2個のフェニル基と結合する炭素Cと結合して、炭素数6~12の二価の脂環式炭化水素基を形成するが、二価の脂環式炭化水素基としては、例えば、シキロヘキシリデン基、シクロヘプチリデン基、シクロドデシリデン基、アダマンチリデン基、シクロドデシリデン基等のシクロアルキリデン基が挙げられる。置換されたものとしては、これらのメチル置換基、エチル置換基を有するもの等が挙げられる。これらの中でも、シクロヘキシリデン基、シキロヘキシリデン基のメチル置換体(好ましくは3,3,5-トリメチル置換体)、シクロドデシリデン基が好ましい。
【0017】
式(2)中、X2は下記構造が好ましい。
【化12】
3およびR4は、少なくとも一方がメチル基であることが好ましく、両方がメチル基であることがより好ましい。
【0018】
上記式(2)で表される構造単位の好ましい具体例としては、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、即ち、ビスフェノール-Aから構成される構造単位(カーボネート構造単位)である。
本発明では、式(2)で表される構造単位を、(A)ポリカーボネート樹脂中に、好ましくは5モル%以上、より好ましくは10モル%以上、さらに好ましくは15モル%以上、一層好ましくは20モル%以上、より一層好ましくは24モル%以上含む。また、60モル%以上含んでいてもよい。また、式(2)で表される構造単位を、(A)ポリカーボネート樹脂中に、95モル%以下含むことが好ましく、90モル%以下含むことがより好ましく、80モル%以下含むことがさらに好ましく、60モル%以下含むことが一層好ましく、50モル%以下含むことがより一層好ましく、40モル%以下含むことがさらに一層好ましく、35モル%以下含むことが特に一層好ましい。
本発明において、(A)ポリカーボネート樹脂は、式(2)で表される構造単位を含まなくてもよいし、1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0019】
本発明において、(A)ポリカーボネート樹脂は、前記式(1)で表される構造単位および式(2)で表される構造単位以外の他の構造単位を構成するジヒドロキシ化合物としては、例えば以下のような芳香族ジヒドロキシ化合物を挙げることができる;
ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-4-メチルペンタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-(1-メチルエチル)フェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-tert-ブチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-(1-メチルプロピル)フェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-シクロヘキシルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-フェニルフェニル)プロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)デカン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-(1-メチルエチル)フェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-tert-ブチルフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-(1-メチルプロピル)フェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-シクロヘキシルフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-フェニルフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)-1-フェニルエタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-35-ジメチルフェニル)-1-フェニルエタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-(1-メチルエチル)フェニル)-1-フェニルエタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-tert-ブチルフェニル)-1-フェニルエタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-(1-メチルプロピル)フェニル)-1-フェニルエタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-シクロヘキシルフェニル)-1-フェニルエタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-フェニルフェニル)-1-フェニルエタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロオクタン、4,4'-(1,3-フェニレンジイソプロピリデン)ビスフェノール、4,4'-(1,4-フェニレンジイソプロピリデン)ビスフェノール、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン、4,4'-ジヒドロキシベンゾフェノン、4,4'-ジヒドロキシフェニルエーテル、4,4'-ジヒドロキシビフェニル、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-6-メチル-3-tert-ブチルフェニル)ブタン。
【0020】
本発明において、(A)ポリカーボネート樹脂中、上記式(1)で表される構造単位および式(2)で表される構造単位以外の構造単位は、30モル%以下であるのが好ましく、より好ましくは20%モル以下、さらに好ましくは10モル%以下であり、5モル%以下であってもよく、1モル%以下であってもよい。
【0021】
以下に、本発明における(A)ポリカーボネート樹脂の実施形態を述べる。
(1)全構造単位のうち、式(1)で表される構造単位を95モル%超で含むポリカーボネート樹脂
(2)全構造単位のうち、式(1)で表される構造単位を5~95モル%と、式(1)で表される構造単位以外の構造単位(好ましくは式(2)で表される構造単位)を95~5モル%以上を含むポリカーボネート樹脂
本発明で用いるポリカーボネート樹脂が、式(1)で表される構造単位以外の構造単位(好ましくは式(2)で表される構造単位)を含む場合、以下のブレンド形態が例示される。
・全構造単位の50モル%超(好ましくは、70モル%以上、95モル%以上)が式(1)で表される構造単位からなるポリカーボネート樹脂(A1)と、全構造単位の95モル%超が式(2)で表される構造単位からなるポリカーボネート樹脂(A2)の混合物:
・式(1)で表される構造単位と式(2)で表される構造単位の合計が全構造単位の95モル%超を占める共重合ポリカーボネート樹脂(A3):
・上記ポリカーボネート樹脂(A1)と、上記カーボネート樹脂(A2)と、上記共重合ポリカーボネート樹脂(A3)の混合物:
・上記ポリカーボネート樹脂(A1)と上記共重合ポリカーボネート樹脂(A3)の混合物;
・上記共重合ポリカーボネート樹脂(A3)と上記ポリカーボネート樹脂(A2)の混合物;
・上記のいずれかの態様において、ポリカーボネート樹脂(A1)、ポリカーボネート樹脂(A2)および共重合ポリカーボネート樹脂(A3)の少なくとも1つについて、2種以上含む混合物;
いずれの実施形態においても、(A)ポリカーボネート樹脂中の式(1)で表される構造単位を5モル%以上の割合で含んでいればよく、さらには、式(1)で表される構造単位と式(2)で表される構造単位が全構造単位中に、上述の好ましい範囲を満たす割合で含まれていることが好ましい。
【0022】
本発明において、上記に例示したブレンド形態において、特に(A1)ポリカーボネート樹脂と(A2)ポリカーボネート樹脂を含む形態が好ましい。(A1)ポリカーボネート樹脂と(A2)ポリカーボネート樹脂を含む場合、両者の混合比は、質量比で、5:95~95:5であることが好ましく、10:90~95:5であることがより好ましく、15:85~95:5であることがさらに好ましく、15:85~90:10であることが一層好ましい。本発明の樹脂組成物は、(A1)ポリカーボネート樹脂および(A2)ポリカーボネート樹脂を、それぞれ、1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。このような構成とすることにより、鉛筆硬度をB~2Hとすることができる。
【0023】
本発明において、(A)ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量(Mv)は、下限値が9,000以上であることが好ましく、10,000以上であることがより好ましく、12,000以上であることがさらに好ましい。また、Mvの上限値は、32,000以下であることが好ましく、30,000以下であることがより好ましく、28,000以下であることがさらに好ましい。
粘度平均分子量を上記下限値以上とすることにより、成形性が向上し、かつ、機械的強度の大きい成形品が得られる。また、上記上限値以下とすることにより、成形品の流動性が向上し、薄肉の成形品なども効率的に製造することができる。
粘度平均分子量(Mv)は、後述する実施例に記載の方法に従って測定される(以下、Mvについて同じ)。
【0024】
上記(A)ポリカーボネート樹脂は、ISO 15184に従って測定した鉛筆硬度が3B~2Hであることが例示され、B~2Hであることが好ましく、HB~2Hであることがより好ましい。鉛筆硬度は、後述する実施例に記載の方法に従って測定される(以下、鉛筆硬度について同じ)。2種以上の(A)ポリカーボネート樹脂を含む場合は、混合物の鉛筆硬度が上記範囲であることが好ましい。
【0025】
上記(A)ポリカーボネート樹脂を製造する方法は、特に限定されるものではなく、公知の任意の方法を採用できる。その例を挙げると、界面重合法、溶融エステル交換法、ピリジン法、環状カーボネート化合物の開環重合法およびプレポリマーの固相エステル交換法を挙げることができる。これらの中でも、界面重合法および溶融エステル交換法が好ましい。
【0026】
本発明の樹脂組成物は、(A)ポリカーボネート樹脂を組成物の80質量%以上の割合で含むことが好ましく、85質量%以上の割合で含むことがより好ましく、90質量%以上の割合で含むことがさらに好ましく、93質量%以上の割合で含むことが一層好ましい。(A)ポリカーボネート樹脂の上限は特に定めるものではないが、例えば、99.4質量%以下とすることができる。
本発明の樹脂組成物は、(A)ポリカーボネート樹脂を、1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0027】
<(B)脂肪酸モノエステル>
本発明の樹脂組成物は、(B)脂肪酸モノエステルを含む。(B)脂肪酸モノエステルは、水酸基価が100mgKOH/g以下であり、かつ、炭素数が42以上である。
水酸基価を低くすることにより、押出時に脂肪酸エステルおよびポリカーボネート樹脂が分解しにくくなり、成形時等のガスの発生を効果的に抑制できる。水酸基価は、好ましくは、80mgKOH/g以下、より好ましくは50mgKOH/g以下、さらに好ましくは35mgKOH/g以下である。
水酸基価は、後述する実施例に記載の方法に従って測定される。
【0028】
本発明において用いられる(B)脂肪酸モノエステルは、エステル基の数が1つであるが、このようにエステル基の数を減らすことにより、得られる成形品の透明性を向上させることができる。
【0029】
また、本発明においては、炭素数が所定の値以上の脂肪酸エステルを用いることによって、押出および成形時のガスの発生を効果的に抑制可能となる。
(B)脂肪酸モノエステルの炭素数は、42以上であり、44以上であることが好ましい。(B)脂肪酸モノエステルの炭素数の上限は、特に定めるものではないが、150以下であることが好ましく、100以下であることがより好ましく、90以下であることがさらに好ましい。(B)脂肪酸モノエステルの炭素数は、一分子に含まれる炭素原子の合計数である。従って、(B)脂肪酸モノエステルが、脂肪酸と1価のアルコールから形成される場合、脂肪酸と1価のアルコールに含まれる合計炭素数が(B)脂肪酸モノエステルの炭素数となる。
また、(B)脂肪酸モノエステルを2種以上含む場合、炭素数は、各(B)脂肪酸モノエステルの炭素数に質量分率をかけた値の合計値とする。
【0030】
本発明で用いる(B)脂肪酸モノエステルの分子量は、2000以下であることが好ましく、1500以下であることがより好ましく、1200以下であることがさらに好ましい。このような構成とすることにより、高透明性と高爪傷付き耐性のバランスにより優れた成形品を得ることができる。構造等の詳細は詳述する。
【0031】
本発明で用いる(B)脂肪酸モノエステルは、通常、脂肪酸と1価のアルコールから形成されるものであり、飽和直鎖カルボン酸と、飽和直鎖アルコールから形成されていることが好ましい。本発明で用いる(B)脂肪酸モノエステルは、直鎖構造であって、両末端が炭素数15以上のアルキル基(好ましくは炭素数15~30のアルキル基)であることが好ましい。このような構成とすることにより、高透明性と高爪傷付き耐性のバランスにより優れた成形品を得やすくなる。
【0032】
次に、脂肪酸について説明する。
本発明では、脂肪酸は、飽和脂肪酸であることが好ましい。本発明では特に、脂肪酸は、飽和直鎖カルボン酸であることが好ましい。
また、脂肪酸は、置換基を有していてもよいし有していなくてもよいが、有していない方が好ましい。置換基を有さない方が得られる成形品の透明性がより向上する傾向にある。
また、脂肪酸は、酸素原子、炭素原子、水素原子のみから構成されることが好ましい。
脂肪酸の炭素数は、2~45であることが好ましく、10~40であることがより好ましく、15~36であることがさらに好ましい。
脂肪酸(カッコ内は炭素数)の具体例としては、ラウリン酸(C12)、ミリスチン酸(C14)、パルミチン酸(C16)、ステアリン酸(C18)、アラキジン酸(C20)、ベヘン酸(C22)、リグノセリシン酸(C24)、セロチン酸(C26)、モンタン酸(C28)、メリシン酸(C30)が例示される。
【0033】
次に、1価のアルコールについて説明する。
本発明では、1価のアルコールは、直鎖アルコールであることが好ましい。さらに、1価のアルコールは、飽和アルコールであることが好ましい。本発明では特に、1価のアルコールは、1価の飽和直鎖アルコールであることが好ましい。
また、1価のアルコールは、置換基を有していてもよいし有していなくてもよいが、有していない方が好ましい。置換基を有さない方が得られる成形品の透明性がより向上する傾向にある。
また、1価のアルコールは、酸素原子、炭素原子、水素原子のみから構成されることが好ましい。
1価のアルコールの炭素数は、2~45であることが好ましく、5~36であることがより好ましい。
1価のアルコール(カッコ内は炭素数)の具体例としては、オクタノール(C8)、ドデカノール(C12)、ステアリルアルコール(C18)、ベヘニルアルコール(C22)およびモンタニルアルコール(C28)が例示される。
【0034】
(B)脂肪酸モノエステルは、脂肪酸の炭素数と1価のアルコールの炭素数の差が12以下であることが好ましく、10以下であることがより好ましく、5以下であってもよく、2以下であってもよく、炭素数差がない、すなわち炭素数が同じであってもよい。
【0035】
本発明で用いる(B)脂肪酸モノエステル(カッコ内は炭素数)の具体例としてはベヘニルベヘネート(C44)、モンタニルモンタネート(C56)、ステアリルモンタネート(C46)、モンタニルステアレート(C46)、ベヘニルモンタネート(C50)、モンタニルベヘネート(C50)、が例示され、特に、モンタニルモンタネート(C56)およびベヘニルベヘネート(C44)が好ましく、ベヘニルベヘネート(C44)がさらに好ましい。
【0036】
本発明の樹脂組成物は、(A)ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、(B)脂肪酸モノエステルを0.5~10.0質量部含む。
前記(B)脂肪酸モノエステルの配合量の下限値は、(A)ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、0.6質量部以上であることが好ましく、0.8質量部以上であることがより好ましい。上記範囲とすることにより、爪傷付き耐性をより向上させることができる。
前記(B)脂肪酸モノエステルの配合量の上限値は、(A)ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、9.0質量部以下であることが好ましく、8.0質量部以下、7.0質量部以下、6.0質量部以下、5.0質量部以下、3.0質量部以下であってもよい。好ましい範囲とすることにより、耐加水分解性が向上し、金型汚染をより効果的に抑制できる。本発明では、(B)脂肪酸モノエステルの配合量が少なくても、爪傷付き耐性に優れる構成とできる。
本発明の樹脂組成物は、(B)脂肪酸モノエステルを、1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0037】
<その他の成分>
本発明の樹脂組成物は、所望の諸物性を著しく損なわない限り、必要に応じて、上記以外の他成分を含有していてもよい。その他の成分の例を挙げると、上記したポリカーボネート樹脂以外の熱可塑性樹脂、各種樹脂添加剤などが挙げられる。
本発明の樹脂組成物は、また、無機充填材を含んでいてもよい。無機充填材を含むことにより、得られる成形品の機械的強度をより向上させることができる。本発明の樹脂組成物の一実施形態として、無機充填材を含まないか、前記(A)ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、無機充填材を8質量部以下(好ましくは6質量部以下、より好ましくは4質量部以下、さらに好ましくは1質量部以下)の割合で含む樹脂組成物が例示される。無機充填材を含まないか、上記配合量の範囲とすることにより、得られる成形品の透明性をより向上させることができる。無機充填材としては、特開2017-110180号公報の段落0075~0079の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
樹脂添加剤としては、例えば、安定剤(熱安定剤、酸化防止剤等)、紫外線吸収剤、帯電防止剤、難燃剤、難燃助剤、染料、顔料、防曇剤、滑剤、アンチブロッキング剤、流動性改良剤、可塑剤、分散剤、抗菌剤などが挙げられる。なお、樹脂添加剤は1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせおよび比率で含有されていてもよい。
本発明の樹脂組成物は、上記(B)脂肪酸モノエステル以外の他の離型剤を実質的に含まない構成とすることができる。実質的に含まないとは、(A)ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、前記他の離型剤が0.5質量部未満であることをいい、0.3質量部以下であることが好ましく、0.1質量部以下であることがより好ましく、0.01質量部以下であることがさらに好ましく、0.001質量部以下であることが一層好ましく、0.0001質量部以下であることがより一層好ましい。
【0038】
<<安定剤>>
安定剤としては、熱安定剤や酸化防止剤が挙げられる。
熱安定剤としては、リン系安定剤が挙げられる。
リン系安定剤としては、公知の任意のものを使用できる。具体例を挙げると、リン酸、ホスホン酸、亜リン酸、ホスフィン酸、ポリリン酸などのリンのオキソ酸;酸性ピロリン酸ナトリウム、酸性ピロリン酸カリウム、酸性ピロリン酸カルシウムなどの酸性ピロリン酸金属塩;リン酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸セシウム、リン酸亜鉛など第1族または第2B族金属のリン酸塩;有機ホスフェート化合物、有機ホスファイト化合物、有機ホスホナイト化合物などが挙げられるが、有機ホスファイト化合物が特に好ましい。
【0039】
有機ホスファイト化合物としては、トリフェニルホスファイト、トリス(モノノニルフェニル)ホスファイト、トリス(モノノニル/ジノニル・フェニル)ホスファイト、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、モノオクチルジフェニルホスファイト、ジオクチルモノフェニルホスファイト、モノデシルジフェニルホスファイト、ジデシルモノフェニルホスファイト、トリデシルホスファイト、トリラウリルホスファイト、トリステアリルホスファイト、2,2-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)オクチルホスファイト等が挙げられる。
このような、有機ホスファイト化合物としては、具体的には、例えば、ADEKA社製「アデカスタブ1178」、「アデカスタブ2112」、「アデカスタブHP-10」、城北化学工業社製「JP-351」、「JP-360」、「JP-3CP」、BASF社製「イルガフォス168」等が挙げられる。
【0040】
酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系安定剤が挙げられる。
ヒンダードフェノール系安定剤の具体例としては、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、チオジエチレンビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、N,N'-ヘキサン-1,6-ジイルビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナミド]、2,4-ジメチル-6-(1-メチルペンタデシル)フェノール、ジエチル[[3,5-ビス(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシフェニル]メチル]ホスフォエート、3,3',3'',5,5',5''-ヘキサ-tert-ブチル-a,a',a''-(メシチレン-2,4,6-トリイル)トリ-p-クレゾール、4,6-ビス(オクチルチオメチル)-o-クレゾール、エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3-(5-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-m-トリル)プロピオネート]、ヘキサメチレンビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,3,5-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン、2,6-ジ-tert-ブチル-4-(4,6-ビス(オクチルチオ)-1,3,5-トリアジン-2-イルアミノ)フェノール、2-[1-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-tert-ペンチルフェニル)エチル]-4,6-ジ-tert-ペンチルフェニルアクリレート等が挙げられる。
【0041】
なかでも、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネートが好ましい。このようなヒンダードフェノール系安定剤としては、具体的には、例えば、BASF社製「Irganox1010」、「Irganox1076」、ADEKA社製「アデカスタブAO-50」、「アデカスタブAO-60」等が挙げられる。
【0042】
本発明の樹脂組成物における安定剤の含有量は、ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、通常0.001質量部以上、好ましくは0.005質量部以上、より好ましくは0.01質量部以上であり、また、通常1質量部以下、好ましくは0.5質量部以下、より好ましくは0.3質量部以下である。安定剤の含有量を前記範囲とすることにより、安定剤の添加効果がより効果的に発揮される。
【0043】
<<紫外線吸収剤>>
紫外線吸収剤としては、特開2016-216534号公報の段落0059~0062の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0044】
<<帯電防止剤>>
帯電防止剤としては、特開2016-216534号公報の段落0063~0067の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0045】
<<難燃剤>>
難燃剤としては、特開2016-216534号公報の段落0068~0075の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0046】
<樹脂組成物の特性>
本発明の樹脂組成物は、低いヘイズを達成できる。例えば、本発明の樹脂組成物を2mm厚さに成形した成形品のヘイズを5.0%以下とすることができ、さらには3.0%以下、2.0%以下、1.0%以下、0.5%以下、0.4%以下とすることもできる。ヘイズの下限値としては、0%が理想であるが、0.01%以上、さらには0.07%以上でも実用レベルである。ヘイズの測定方法は、後述する実施例の記載に従う。
【0047】
<樹脂組成物の製造方法>
本発明の樹脂組成物の製造方法に制限はなく、公知のポリカーボネート樹脂組成物の製造方法を広く採用でき、上記ポリカーボネート樹脂および脂肪酸エステル、ならびに、必要に応じて配合されるその他の成分を、例えばタンブラーやヘンシェルミキサーなどの各種混合機を用い予め混合した後、バンバリーミキサー、ロール、ブラベンダー、単軸混練押出機、二軸混練押出機、ニーダーなどの混合機で溶融混練する方法が挙げられる。
なお、溶融混練の温度は特に制限されないが、通常240~320℃の範囲である。
【0048】
<成形品>
上記した樹脂組成物(例えば、ペレット)は、各種の成形法で成形して成形品とされる。すなわち、本発明の成形品は、本発明の樹脂組成物から成形される。
成形品の形状としては、特に制限はなく、成形品の用途、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、フィルム状、ロッド状、円筒状、環状、円形状、楕円形状、多角形形状、異形品、中空品、枠状、箱状、パネル状のもの等が挙げられる。中でも、パネル状のものが好ましく、厚さは例えば、1mm~5mm程度である。
【0049】
成形品を成形する方法としては、特に制限されず、従来公知の成形法を採用でき、例えば、射出成形法、射出圧縮成形法、押出成形法、異形押出法、トランスファー成形法、中空成形法、ガスアシスト中空成形法、ブロー成形法、押出ブロー成形、IMC(インモールドコ-ティング成形)成形法、回転成形法、多層成形法、2色成形法、インサート成形法、サンドイッチ成形法、発泡成形法、加圧成形法等が挙げられる。特に、本発明の樹脂組成物は、射出成形法、射出圧縮成形法、押出成形法で得られる成形品に適している。しかしながら、本発明の樹脂組成物がこれらで得られた成形品に限定されるものではないことは言うまでもない。
【0050】
本発明の成形品は、電気電子機器、OA機器、携帯情報端末、機械部品、家電製品、車輌部品、各種容器、照明機器等の部品等に好適に用いられる。これらの中でも、特に、電気電子機器、OA機器、情報端末機器および家電製品の筐体、照明機器および車輌部品(特に、車輌内装部品)に用いられ、中でも車輛内装部品が好適である。
【実施例
【0051】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
【0052】
1.原料
<製造例1:ポリカーボネート樹脂A1の製造>
ビスフェノールC(BPC)26.14モル(6.75kg)と、ジフェニルカーボネート26.79モル(5.74kg)を、撹拌機および溜出凝縮装置付きのSUS製反応器(内容積10リットル)内に入れ、反応器内を窒素ガスで置換後、窒素ガス雰囲気下で220℃まで30分間かけて昇温した。
次いで、反応器内の反応液を撹拌し、溶融状態下の反応液にエステル交換反応触媒として炭酸セシウム(Cs2CO3)を、BPC1モルに対し1.5×10-6モルとなるように加え、窒素ガス雰囲気下、220℃で30分、反応液を撹拌醸成した。次に、同温度下で反応器内の圧力を40分かけて100Torrに減圧し、さらに、100分間反応させ、フェノールを溜出させた。
次に、反応器内の温度を60分かけて284℃まで上げるとともに3Torrまで減圧し、留出理論量のほぼ全量に相当するフェノールを留出させた。次に、同温度下で反応器内の圧力を1Torr未満に保ち、さらに60分間反応を続け重縮合反応を終了させた。このとき、撹拌機の撹拌回転数は38回転/分であり、反応終了直前の反応液温度は289℃、撹拌動力は1.00kWであった。
次に、溶融状態のままの反応液を二軸押出機に送入し、炭酸セシウムに対して4倍モル量のp-トルエンスルホン酸ブチルを二軸押出機の第1供給口から供給し、反応液と混練し、その後、反応液を二軸押出機のダイを通してストランド状に押し出し、カッターで切断してポリカーボネート樹脂A1のペレットを得た。
【0053】
本発明の樹脂組成物の製造には、下記表1に示す材料を用いた。
【表1】
【0054】
<ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量(Mv)の測定>
ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量(Mv)は、溶媒としてメチレンクロライドを使用し、ウベローデ粘度計を用いて温度20℃での極限粘度(η)(単位:dL/g)を求め、以下のSchnellの粘度式から算出した。
η=1.23×10-4Mv0.83
【0055】
<ポリカーボネート樹脂の鉛筆硬度の測定>
ポリカーボネート樹脂ペレットを100℃で5時間乾燥した後、射出成形機(ファナック株式会社製「α-2000i-150B」)を用い、シリンダー設定温度260℃、金型温度70℃にて、スクリュー回転数100rpm、射出速度30mm/秒の条件下にて、平板状試験片(150mm×100mm×2mm厚)を作製した。この平板状試験片について、ISO 15184に準拠し、鉛筆硬度試験機(東洋精機(株)製)を用いて、750g荷重にて測定した鉛筆硬度を求めた。
【0056】
<脂肪酸エステルおよびその代替物の水酸基価の測定>
水酸基価は試料1gをアセチル化させたとき、水酸基と結合した酢酸を中和するのに必要とする水酸化カリウムのmg数であり、エステル化合物の原料であるアルコールがカルボン酸化合物とエステル化したときに、未反応で残った水酸基の数を示す指標である。
水酸基価は、JIS K 0070に規定された方法に従って測定した。
【0057】
2.実施例1~実施例5、比較例1~比較例15
<樹脂組成物ペレットの製造>
上記表1に記載した各成分を、下記の表2または表3に示す割合(全て質量部にて表示)にて配合し、タンブラーミキサーにて均一に混合した後、二軸押出機((株)日本製鋼所製TEX30α)を用いて、シリンダー設定温度260℃、スクリュー回転数180rpm、吐出量30kg/hrにて押出機上流部のバレルより押出機にフィードし、溶融混練して樹脂組成物ペレットを得た(但し、一部の比較例については、押出ができなかった)。
【0058】
<ポリカーボネート樹脂のモル比率>
後述する表2または表3におけるモル比率(モル%)は、樹脂組成物に含まれるポリカーボネート樹脂中の式(1)で表される構造単位の含有量を示す指標であり、用いた樹脂の混合比率を用いて、粘度平均分子量より、算出した。
【0059】
<押出可否>
上記樹脂組成物ペレットの製造において、押出の可否を目視により確認し、以下の通り評価した。
a:押出可能
b:押出不安定
c:押出不可能(ポリカーボネート樹脂が分解)
【0060】
<押出ガス発生量>
上記樹脂組成物ペレットの製造において、ガス発生量を目視により以下の通り評価した。
a:ガス発生量標準
b:やや多い
c:多い
【0061】
<押出性総合評価>
上記押出可否とガス発生量の結果に基づき、以下の通り評価した。
A:押出可否とガス発生量の両方がaである。
B:上記Aおよび下記C以外である。
C:押出可否とガス発生量の少なくとも一方がcである。
【0062】
<ヘイズ(Haze)の測定>
上記で得られた樹脂組成物ペレットを100℃で5時間乾燥した後、射出成形機(ファナック株式会社製「α-2000i-150B」)を用い、シリンダー設定温度270℃、金型温度70℃、スクリュー回転数100rpm、射出速度30mm/秒の条件下にて、150mm×100mm×2mm厚の平板状試験片を射出成形した。得られた平板状試験片について、日本電色工業(株)製のNDH-2000型ヘイズメーターでヘイズ(単位:%)を測定した。
【0063】
<爪傷付き耐性(初期)>
上記で製造した平板状試験片について、爪で10往復こすり、官能評価を行った。
a:傷が付かず、滑りがよい。
b:少し傷は付くが滑りはよい。
c:dより傷は少ないが、傷つく。
d:傷つく。
【0064】
<溶媒拭き取り後の爪傷付き耐性>
上記で製造した平板状試験片表面を、エタノール溶液を浸み込ませたコットンで拭き取り、上記の爪傷付き耐性と同様に、官能評価を行った。
【0065】
<総合評価>
押出性、ヘイズ、爪傷付き耐性に基づき総合的に評価した。
1:押出性総合評価がA、ヘイズが5.0%以下、かつ、爪傷付き性(初期)および溶媒拭き取り後の爪傷付き耐性がaである。
2:上記1および下記3以外である。
3:以下の1つ以上を満たす。
押出性総合評価がCである。
ヘイズが5.0%超である。
爪傷付き耐性がcまたはdである。
溶媒拭き取り後の爪傷付き耐性がcまたはdである。
【0066】
結果を下記表2および表3に示す。
【0067】
【表2】
【0068】
【表3】
【0069】
上記表において、「式(1)の比率」とは、ポリカーボネート樹脂を構成する全構造単位のうち、式(1)で表される構造単位の割合(モル%)である。
上記結果から明らかなとおり、本発明の樹脂組成物は、押出性に優れ、ヘイズが低く、初期および溶媒拭き取り後の爪傷付き耐性に優れていた(実施例1~実施例5)。
これに対し、式(1)で表される構造単位を含まない場合(比較例1、比較例4)、初期および溶媒拭き取り後の爪傷付き耐性が劣っていた。
また、脂肪酸エステルとして、水酸基価が100mgKOH/g超のものや、炭素数が41以下もの、エステル基を複数有するものを用いたり、脂肪酸エステルの代替物を配合すると(比較例1~13)、押出性が劣ったり、ヘイズが高くなったり、初期および溶媒拭き取り後の傷付き耐性が劣る傾向にあった。
また、脂肪酸エステルの配合量が本発明の範囲を外れる場合(比較例14および比較例15)、初期および溶媒拭き取り後の爪傷付き耐性が劣ったり、押出性に劣っていた。