(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-07
(45)【発行日】2022-07-15
(54)【発明の名称】基体保護液、基体保護方法、および基体
(51)【国際特許分類】
C09D 183/00 20060101AFI20220708BHJP
B08B 17/02 20060101ALI20220708BHJP
B05D 5/00 20060101ALI20220708BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20220708BHJP
C09K 3/18 20060101ALI20220708BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20220708BHJP
【FI】
C09D183/00
B08B17/02
B05D5/00 H
B05D7/24 302Y
C09K3/18 104
C09D7/61
(21)【出願番号】P 2017232447
(22)【出願日】2017-12-04
【審査請求日】2020-09-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000195029
【氏名又は名称】星和電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000947
【氏名又は名称】特許業務法人あーく特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】須田 修平
(72)【発明者】
【氏名】緒方 四郎
(72)【発明者】
【氏名】松井 義光
【審査官】松原 宜史
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2008/013148(WO,A1)
【文献】特開平10-237358(JP,A)
【文献】国際公開第2017/115637(WO,A1)
【文献】国際公開第2007/091479(WO,A1)
【文献】特開2017-002380(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0011200(US,A1)
【文献】特開2017-150736(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第101641416(CN,A)
【文献】特開2008-184025(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体の表面に塗布することで、当該表面に、物質の付着を低減する保護膜を形成する基体保護液であって、
触媒を使用して、撥水性およびまたは撥油性の官能基を持つシラン化合物を縮重合および加水分解することによってケイ素に修飾させた状態の安定化したシラン化合物とした
撥水/撥油性物質を含有する第一組成物と、
正電荷性能を有する正電荷物質と、負電荷性能を有する負電荷物質とのうち、少なくとも正電荷物質を含有する第二組成物とを具備し、
これらを第一組成物と第二組成物とを混合して使用することで、基体の表面に、撥水性およびまたは撥油性を付与し、かつ、-50V~50Vの範囲の帯電圧にするようになされたことを特徴とする基体保護液。
【請求項2】
第二組成物は、正電荷性能を有する物質と、負電荷性能を有する物質とを含有するものである
請求項1に記載の基体保護液。
【請求項3】
第一組成物と第二組成物とを混合して使用することで基体の表面に形成される保護膜の基体表面の帯電圧が、負電荷となされる
請求項1または2の何れか一に記載の基体保護液。
【請求項4】
第一組成物と第二組成物とを混合して使用することで基体の表面に形成される保護膜の基体表面の帯電圧が、
正電荷となされる請求項1ないし3の何れか一に記載の基体保護液。
【請求項5】
触媒を使用して、撥水性およびまたは撥油性の官能基を持つシラン化合物を縮重合および加水分解することによってケイ素に修飾させた状態の安定化したシラン化合物とした撥水/撥油性物質と、
正電荷性能を有する正電荷物質および負電荷性能を有する負電荷物質のうち、少なくとも正電荷物質と、を分散させた基体保護液を、基体の表面に塗布し、
当該基体の表面に、撥水性およびまたは撥油性を有し、かつ、-50V~50Vの範囲の帯電圧となった保護膜を形成することを特徴とする基体の保護方法。
【請求項6】
撥水/撥油性物質と、正電荷性能を有する正電荷物質との分散割合、または、
撥水/撥油性物質と、正電荷性能を有する正電荷物質と、負電荷性能を有する負電荷物質と、の分散割合、を調整することで、
基体表面に-50V~50Vの範囲となった帯電圧で撥水性およびまたは撥油性の保護膜を形成する請求項5に記載の基体の保護方法。
【請求項7】
撥水/撥油性物質と、正電荷性能を有する正電荷物質との分散割合、または
、
撥水/撥油性物質と、正電荷性能を有する正電荷物質と、負電荷性能を有する負電荷物質と、の分散割合、
を調整することで、
基体表面に
負電荷の帯電圧で撥水性の保護膜を形成する請求項
5に記載の基体の保護方法。
【請求項8】
撥
水/撥油性物質と、正電荷性能を有する正電荷物質との分散割合、または
、
撥
水/撥油性物質と、正電荷性能を有する正電荷物質と、負電荷性能を有する負電荷物質と、の分散割合、
を調整することで、
基体表面に
正電荷の帯電圧で撥水性
およびまたは撥油性の保護膜を形成する請求項
5に記載の基体の保護方法。
【請求項9】
少なくとも表面の一部分に保護膜を形成するようになされた基体であって、
前記保護膜は、触媒を使用して、撥水性およびまたは撥油性の官能基を持つシラン化合物を縮重合および加水分解することによってケイ素に修飾させた状態の安定化したシラン化合物とした撥水/撥油性物質と、正電荷性能を有する正電荷物質とが分散した状態、または、
触媒を使用して、撥水性およびまたは撥油性の官能基を持つシラン化合物を縮重合および加水分解することによってケイ素に修飾させた状態の安定化したシラン化合物とした撥水/撥油性物質と、正電荷性能を有する正電荷物質と、負電荷性能を有する負電荷物質とが分散した状態、で配置され、かつ、-50V~50Vの範囲となった帯電圧で撥水性およびまたは撥油性を有するようになされたことを特徴とする基体。
【請求項10】
少なくとも表面の一部分に保護膜を形成するようになされた基体であって、
前記保護膜は
、撥水/撥油性物質と、正電荷性能を有する正電荷物質とが分散した状態、または
、
撥
水/撥油性物質と、正電荷性能を有する正電荷物質と、負電荷性能を有する負電荷物質とが分散した状態、で配置され、かつ、
負電荷の帯電圧で撥水性およびまたは撥油性を有するようになされた請求項9に記載の基体。
【請求項11】
少なくとも表面の一部分に保護膜を形成するようになされた基体であって、
前記保護膜は
、撥水/撥油性物質と、正電荷性能を有する正電荷物質とが分散した状態、または
、
撥
水/撥油性物質と、正電荷性能を有する正電荷物質と、負電荷性能を有する負電荷物質とが分散した状態、で配置され、かつ、
正電荷の帯電圧で撥水性およびまたは撥油性を有するようになされた請求項
9に記載の基体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種基体表面に正電荷および負電荷の組み合わせを付与することにより、防汚機能を発揮する基体保護膜を形成する基体保護液と、当該基体保護液による基体保護膜を形成する基体保護方法と、当該基体保護液による基体保護膜を形成した基体とに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、基体の経時的な退色ないし変色を防止ないし低減すると同時に、汚染物の付着を防止ないし低減する技術として、
図3に示すように、基体aの表面に、正電荷物質bと、負電荷物質cとを配置させた電荷保持層dを設け、この電荷保持層dの静電的反発力によって汚染物の付着を防止するようになされたものが知られている。
【0003】
この技術においては、基体aの表面に設けた電荷保持層dのさらにその表面に、親水性、疎水性、撥水性などの被覆層eを形成することが行われている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記従来のように、基体aの表面に設けた電荷保持層dのさらに表面に、被覆層eを設けてしまうと、電荷保持層dの静電的反発力が十分に生かされないことが懸念される。
【0006】
このうち、親水性については、被覆層eを設けなくても電荷保持層dだけで親水性を持たせることができるが、撥水性、撥油性については、被覆層eを設けなければならず、電荷保持層dの表面を被覆層eで被覆してしまうと、静電的反発力の低下による防汚機能の低下が懸念される。したがって、撥水性、撥油性が求められる環境下での汚染物の付着防止機能が十分に発揮されないことが懸念される。
【0007】
本発明は、係る実情に鑑みてなされたものであって、撥水性、撥油性が求められる環境下であっても、静電的反発力による優れた防汚機能を発揮することができる基体保護液、当該基体保護液による基体保護方法、ならびに基体保護液による保護膜を形成した基体を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための本発明の基体保護液は、基体の表面に塗布することで、当該表面に、物質の付着を低減する保護膜を形成する基体保護液であって、触媒を使用して、撥水性およびまたは撥油性の官能基を持つシラン化合物を縮重合および加水分解することによってケイ素に修飾させた状態の安定化したシラン化合物とした撥水/撥油性物質を含有する第一組成物と、正電荷性能を有する正電荷物質と、負電荷性能を有する負電荷物質とのうち、少なくとも正電荷物質を含有する第二組成物とを具備し、これらを第一組成物と第二組成物とを混合して使用することで、基体の表面に、撥水性およびまたは撥油性を付与し、かつ、-50V~50Vの範囲の帯電圧にするようになされたものである。
【0010】
上記基体保護液において、第二組成物は、正電荷物質と、負電荷物質とを含有するものであってもよい。
【0012】
上記基体保護液は、第一組成物と第二組成物とを混合して使用することで基体の表面に形成される保護膜の基体表面の帯電圧が、負電荷となされるものであってもよい。
【0013】
上記基体保護液は、第一組成物と第二組成物とを混合して使用することで基体の表面に形成される保護膜の基体表面の帯電圧が、正電荷となされるものであってもよい。
【0014】
上記課題を解決するための本発明の基体の保護方法は、触媒を使用して、撥水性およびまたは撥油性の官能基を持つシラン化合物を縮重合および加水分解することによってケイ素に修飾させた状態の安定化したシラン化合物とした撥水/撥油性物質と、正電荷性能を有する正電荷物質および負電荷性能を有する負電荷物質のうち、少なくとも正電荷物質と、を分散させた基体保護液を、基体の表面に塗布し、当該基体の表面に、撥水性およびまたは撥油性を有し、かつ、-50V~50Vの範囲の帯電圧となった保護膜を形成するものである。
【0015】
上記基体の保護方法は、撥水/撥油性物質と、正電荷性能を有する正電荷物質との分散割合、または、撥水/撥油性物質と、正電荷性能を有する正電荷物質と、負電荷性能を有する負電荷物質と、の分散割合、を調整することで、基体表面に-50V~50Vの範囲となった帯電圧で撥水性およびまたは撥油性の保護膜を形成するであってもよい。
【0016】
上記基体の保護方法は、撥水/撥油性物質と、正電荷性能を有する正電荷物質との分散割合、または、撥水/撥油性物質と、正電荷性能を有する正電荷物質と、負電荷性能を有する負電荷物質と、の分散割合、を調整することで、基体表面に負電荷の帯電圧で撥水性の保護膜を形成するであってもよい。
【0017】
上記基体の保護方法は、撥水/撥油性物質と、正電荷性能を有する正電荷物質との分散割合、または、撥水/撥油性物質と、正電荷性能を有する正電荷物質と、負電荷性能を有する負電荷物質と、の分散割合、を調整することで、基体表面に正電荷の帯電圧で撥水性およびまたは撥油性の保護膜を形成するであってもよい。
【0018】
上記課題を解決するための本発明の基体は、少なくとも表面の一部分に保護膜を形成するようになされた基体であって、前記保護膜は、触媒を使用して、撥水性およびまたは撥油性の官能基を持つシラン化合物を縮重合および加水分解することによってケイ素に修飾させた状態の安定化したシラン化合物とした撥水/撥油性物質と、正電荷性能を有する正電荷物質とが分散した状態、または、触媒を使用して、撥水性およびまたは撥油性の官能基を持つシラン化合物を縮重合および加水分解することによってケイ素に修飾させた状態の安定化したシラン化合物とした撥水/撥油性物質と、正電荷性能を有する正電荷物質と、負電荷性能を有する負電荷物質とが分散した状態、で配置され、かつ、-50V~50Vの範囲となった帯電圧で撥水性およびまたは撥油性を有するようになされたものである。
【0019】
上記課題を解決するための基体は、少なくとも表面の一部分に保護膜を形成するようになされた基体であって、前記保護膜は、撥水/撥油性物質と、正電荷性能を有する正電荷物質とが分散した状態、または、撥水/撥油性物質と、正電荷性能を有する正電荷物質と、負電荷性能を有する負電荷物質とが分散した状態、で配置され、かつ、負電荷の帯電圧で撥水性およびまたは撥油性を有するようになされたものである。
【0020】
上記課題を解決するための本発明の基体は、少なくとも表面の一部分に保護膜を形成するようになされた基体であって、前記保護膜は、撥水/撥油性物質と、正電荷性能を有する正電荷物質とが分散した状態、または、撥水/撥油性物質と、正電荷性能を有する正電荷物質と、負電荷性能を有する負電荷物質とが分散した状態、で配置され、かつ、正電荷の帯電圧で撥水性およびまたは撥油性を有するようになされたものである。
【発明の効果】
【0021】
以上述べたように、本発明によると、触媒を使用して、撥水性およびまたは撥油性の官能基を持つシラン化合物を縮重合および加水分解することによってケイ素に修飾させた状態の安定化したシラン化合物とした撥水/撥油性物質は、帯電した保護層を被覆してしまうことなく、正電荷性能を有する正電荷物質および負電荷性能を有する負電荷物質のうち、少なくとも正電荷物質とともに、保護層に分散した状態となるので、基体保護液によって形成される保護層は、当該保護層に生じる静電的反発力を低下させることもなく、優れた防汚機能および撥水機能およびまたは撥油機能を発揮することができることとなる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明に係る基体保護液によって形成された基体の保護膜の一例を示すイメージ図である。
【
図2】本発明に係る基体保護液によって形成された基体の保護膜の他の一例を示すイメージ図である。
【
図3】従来の基体の保護膜の一例を示すイメージ図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係る実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0024】
図1および
図2は、本発明に係る基体保護液によって基体1に保護膜2を形成した状態を示している。
【0025】
基体保護液は、基体1の表面に塗布することで、当該表面に、物質の付着を低減する保護膜2を形成する基体保護液であって、
触媒を使用して、撥水性およびまたは撥油性の官能基を持つシラン化合物を縮重合および加水分解することによってケイ素に修飾させた状態の安定化したシラン化合物とした撥水/撥油性物質21を含有する第一組成物と、正電荷性能を有する正電荷物質22と、負電荷性能を有する負電荷物質23とのうち、少なくとも正電荷物質22を含有する第二組成物とを具備し、これらを第一組成物と第二組成物とを混合して使用することで、基体1の表面に、撥水/撥油性物質21と、正電荷物質22とが分散した状態(
図2参照)、または、撥水/撥油性物質21と、正電荷物質22と、負電荷物質23とが分散した状態(
図1参照)、で配置され、かつ、所定の帯電圧で撥水性およびまたは撥油性を有するようになされた単一の保護膜2を形成するものである。
【0026】
なお、
図1および
図2において、
撥水/撥油性物質21は、正電荷物質22の間隙(
図2)、または、正電荷物質22と負電荷物質23との間隙に規則正しく設けられているが、あくまでもイメージ図であって、実際には、正電荷物質22および負電荷物質23は、10~80nm程度のばらつきのある大きさに形成されている。また、これら正電荷物質22および負電荷物質23は、物質によって、分子の重縮合体、分子の会合体、アモルファス、結晶などの形態となっている。一方、
撥水/撥油性物質21は、10nm以下、小さい場合は1nm以下の大きさに形成されており、正電荷物質22の表面の官能基、または、正電荷物質22および負電荷物質23の表面の官能基と反応して、これら物質の表面に修飾された状態となっている。したがって、保護膜2は、
撥水/撥油性物質21が、規則正しく設けられたものに限定されるものではなく、上記したように表面を修飾した場合を含み、各物質の大きさも上記したようなばらつきのある場合を含む。
【0027】
第一組成物は、触媒を使用して、撥水性およびまたは撥油性の官能基を持つシラン化合物を縮重合および加水分解することによってケイ素に修飾させた状態の安定化したシラン化合物とした撥水/撥油性物質21を含有して構成される。
【0028】
撥水/撥油性物質21に用いられる撥水性の官能基としては、基体保護液によって形成される保護膜2と水との接触角が80度以上、より好ましくは90度以上とすることができるものが使用される。例えば、炭化水素系の官能基を挙げることができる。
【0029】
炭化水素系の官能基としては、アルキル基、アルキレン基、フェニル基、ベンジル基、フェネチル基、ナフチル基、チエニル基、ピロリル基、シクロヘキシル基、シクロヘキセニル基、シクロペンチル基、シクロペンテニル基、メトキシエチル基、ビニル基、アクリロキシエチル基、メタクリロキシエチル基、グリシドキシプロピル基、またはアセトキシ基などを挙げることができる。
【0030】
撥水/撥油性物質21に用いられる撥油性の官能基としては、基体保護液によって形成される保護膜2と油との接触角が50度以上、より好ましくは60度以上とすることができるものが使用される。例えば、フッ化物系の官能基を挙げることができる。
【0031】
フッ化物系の官能基としては、フルオロアルキル基、フルオロアルキル基、フルオロアルキレン基、フルオロフェニル基、フルオロベンジル基、フルオロフェネチル基、フルオロナフチル基、フルオロチエニル基、フルオロピロリル基、フルオロシクロヘキシル基、フルオロシクロヘキセニル基、フルオロシクロペンチル基、フルオロシクロペンテニル基、フルオロメトキシエチル基、フルオロビニル基、またはフルオロアセトキシ基を挙げることができる。
【0032】
上記官能基は、例えば、当該官能基を有するシラン化合物を縮重合および加水分解することによってケイ素に修飾させた状態の安定化したシラン化合物とすることで、造膜可能な撥水/撥油性物質21とすることができる。
【0033】
上記縮重合および加水分解に使用される触媒としては、例えば、酸(塩酸、硝酸、硫酸、酢酸、無機酸、有機酸など)、アルカリ(アンモニア、アミン類など)、アルコール(エチレングリコール、アミノアルコールなど)、β-ジケトン類(アセチルアセトンなど)、アミン(アルキルアミンなど)、アミド(ホルムアミドなど)などを使用することができる。
【0034】
第二組成物は、正電荷性能を有する正電荷物質22と、負電荷性能を有する負電荷物質23とのうち、少なくとも正電荷物質22を含有して構成される。
【0035】
正電荷性能を有する正電荷物質22としては、陽イオン、正電荷を有する導電体、正電荷を有する誘電体、正電荷を有する導電体および誘電体の複合体、正電荷を有する導電体および半導体の複合体、からなる群から選択される1種または2種以上のものを使用することができる。
【0036】
上記陽イオンとしては、特に限定されるものではないが、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属のイオン;カルシウム等のアルカリ土類金属のイオン;アルミニウム、錫、セシウム、インジウム、セリウム、セレン、クロム、コバルト、ニッケル、アンチモン、鉄、銅、マンガン、タングステン、ジルコニウム、亜鉛等の金属元素のイオンが好ましく、特に銅イオンが好ましい。さらに、メチルバイオレット、ビスマルクブラウン、メチレンブルー、マラカイトグリーン等のカチオン基を備えた有機分子も使用可能である。イオンの価数も特に限定されるものではなく、例えば、1~4価の陽イオンが使用可能である。
【0037】
上記した陽イオンとしての金属イオンの供給源として、金属塩を使用することも可能である。具体的には塩化アルミニウム、塩化第1および第2錫、塩化クロム、塩化ニッケル、塩化第1および第2アンチモン、塩化第1および第2鉄、塩化セシウム、三塩化インジウム、塩化第1セリウム、四塩化セレン、塩化第2銅、塩化マンガン、四塩化タングステン、オキシ二塩化タングステン、タングステン酸カリウム、オキシ塩化ジルコニウム、塩化亜鉛、炭酸バリウム等の各種の金属塩が挙げられる。さらに水酸化アルミニウム、水酸化鉄、水酸化クロム、水酸化インジウム等の金属水酸化物、ケイタングステン酸等の水酸化物、または、油脂酸化物等の酸化物等も使用可能である。
【0039】
本発明において使用される導電体は耐久性の点から金属が好ましく、アルミニウム、錫、インジウム、セリウム、セレン、クロム、ニッケル、アンチモン、鉄、銀、銅、マンガン、白金、タングステン、亜鉛等の金属が挙げられる。また、これらの金属の酸化物や複合体または合金も使用することができる。導電体の形状は特に制限されるものではなく、粒子状、薄片状、繊維状等の任意の形状をとることができる。
【0040】
上記した導電体としては、一部の金属の金属塩も使用可能である。具体的には、塩化アルミニウム、塩化第1および第2錫、塩化クロム、塩化ニッケル、塩化第1および第2アンチモン、塩化第1および第2鉄、硝酸銀、塩化セシウム、三塩化インジウム、四塩化セレン、塩化第2銅、塩化マンガン、塩化第2白金、四塩化タングステン、オキシ二塩化タングステン、タングステン酸カリウム、塩化第2金、塩化亜鉛等の各種の金属塩が例示できる。また、水酸化インジウム、ケイタングステン等の水酸化物または酸化物等も使用可能である。
【0041】
さらに、上記した導電体としては、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリチオフェンビニロン、ポリイソチアナフテン、ポリアセチレン、ポリアルキルピロール、ポリアルキルチオフェン、ポリ-p-フェニレン、ポリフェニレンビニロン、ポリメトキシフェニレン、ポリフェニレンスルファイド、ポリフェニレンオキシド、ポリアントラセン、ポリナフタレン、ポリピレン、ポリアズレン等の導電性高分子も使用可能である。
【0042】
正電荷を形成するための導電体との複合体を構成する半導体としては、例えば、C、Si、Ge、Sn、GaAs、InP、GaN、ZeSe、PbSnTe等があり、半導体酸化金属や光半導体金属、光半導体酸化金属も使用可能である。好ましくは、酸化チタン(TiO2)の他に、ZnO、SrTiOP3、CdS、CdO、CaP、InP、In2O3、CaAs、BaTiO3、K2NbO3、Fe2O3、Ta2O3、WO3、NiO、Cu2O、SiC、SiO2、MoS3、InSb、RuO2、CeO2等が使用されるが、半導体として使用する場合は、Na等で光触媒能を不活性化したものが好ましい。
【0043】
正電荷を形成するための導電体との複合体を構成する誘電体としては、強誘電体であるチタン酸バリウム(PZT)いわゆるSBT、BLTや次に挙げるPZT、PLZT-(Pb、La)(Zr、Ti)O3、SBT、SBTN-SrBi2(Ta、Nb)2O9、BST-(Ba、Sr)TiO3、LSCO-(La、Sr)CoO3、BLT、BIT-(Bi、La)4Ti3O12、BSO-Bi2SiO5等の複合金属が使用可能である。また、有機ケイ素化合物であるシラン化合物、シリコーン化合物、いわゆる有機編成シリカ化合物も、使用可能である。
【0044】
負電荷性能を有する負電荷物質23としては、陰イオン、負電荷を有する導電体、負電荷を有する誘電体、負電荷を有する導電体および誘電体の複合体、負電荷を有する導電体および半導体の複合体、光触媒機能を有する物質、からなる群から選択される1種または2種以上のものを使用することができる。
【0045】
上記陰イオンとしては、特に限定されるものではないが、フッ素化物イオン、塩化物イオン、ヨウ化物イオン等のハロゲン化物イオン;水酸化物イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、炭酸イオン等の無機系イオン:酢酸イオン等の有機系イオンが挙げられる。イオンの価数も特に限定されるものではなく、例えば、1~4価の陰イオンが使用可能である。
【0046】
負電荷を有する導電体または誘電体としては、上記した陰イオン以外の、負電荷が発生した導電体または誘電体を挙げることができ、例えば、金、銀、白金、錫、ニッケル、セリウム、セレン等の金属;金属酸化物および無機物質;石墨、硫黄、セレン、テルル等の元素;硫化ヒ素、硫化アンチモン、硫化水銀等の硫化物;コンジョウ、インジゴ、アニリンブルー、エオシン、ナフトールイエロー等の染料のコロイドが挙げられる。これらの中でも金、銀、白金、錫、ニッケル、セリウム等の金属、および金属酸化物のコロイドが好ましく、特に錫コロイドがより好ましい。この他に、後述する各種の導電体からなる電池の負電極、並びに、負に帯電したハロゲン、フッ素樹脂、塩化ビニル、ポリエチレン、ポリエステル等の誘電体、並びに、これらの化合物および複合体が挙げられる。
【0047】
本発明において使用する負電荷を有する導電体は、耐久性の点から金属が望ましく、錫、セリウム、セレン、銀、白金、タングステン、ニッケル等の金属が挙げられる。又、これらの金属の酸化物や複合体またはおよび合金も使用することができる。導電体の形状は特に限定されるものではなく、粒子状、薄片状、繊維状等の任意の形状をとることができる。
【0048】
上記した負電荷を有する導電体としては、一部の金属の金属塩も使用可能である。具体的には、塩化第1および第2錫、硝酸銀、塩化第1セリウム、四塩化セレン、塩化第2白金、塩化第2金、塩化ニッケル等の各種金属塩が例示できる、また、水酸化インジウム、ケイタングステン酸等の水酸化物または酸化物等も使用可能である。
【0049】
さらに、上記した負電荷を有する導電体としては、導電性高分子も使用可能であり、例えば、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリチオフェンビニロン、ポリイソチアナフテン、ポリアセチレン、ポリアルキルピロール、ポリアルキルチオフェン、ポリ-p-フェニレン、ポリフェニレンビニロン、ポリメトキシフェニレン、ポリフェニレンスルファイド、ポリフェニレンオキシド、ポリアントラセン、ポリナフタレン、ポリピレン、ポリアズレン等が挙げられる。
【0050】
負電荷を形成するための導電体との複合体を構成する半導体としては、例えば、C、Si、Ge、Sn、GaAs、InP、GaN、ZeSe、PbSnTe等があり、半導体酸化金属や光半導体金属、光半導体酸化金属も使用可能である。これらの半導体中、好ましくは、酸化チタン(TiO2)の他に、ZnO、SrTiOP3、CdS、CdO、CaP、InP、In2O3、CaAs、BaTiO3、K2NbO3、Fe2O3、Ta2O3、WO3、NiO、Cu2O、SiC、SiO2、MoS3、InSb、RuO2、CeO2等が使用されるが、半導体として使用する場合は、Na等で光触媒能を不活性化したものが好ましい。
【0051】
負電荷を形成するための導電体との複合体を構成する誘電体としては、強誘電体であるチタン酸バリウム(PZT)いわゆるSBT、BLTや次に挙げるPZT、PLZT-(Pb、La)(Zr、Ti)O3、SBT、SBTN-SrBi2(Ta、Nb)2O9、BST-(Ba、Sr)TiO3、LSCO-(La、Sr)CoO3、BLT、BIT-(Bi、La)4Ti3O12、BSO-Bi2SiO5等の複合金属が使用可能である。また、有機ケイ素化合物であるシラン化合物、シリコーン化合物、いわゆる有機編成シリカ化合物、また、有機ポリマー絶縁膜アリレンエーテル系ポリマー、ベンゾシクロブテン、フッ素系ポリマーパリレンN、またはF、フッ素化アモルファス炭素等の各種低誘電材料も使用可能である。
【0052】
光触媒機能を有する物質としては、特定の金属化合物を含んでおり、光励起により当該層表面の有機及び/又は無機化合物を酸化分解する機能を有するものを使用することができる。光触媒の原理は、特定の金属化合物が光励起により、空気中の水又は酸素からOH-やO2-のラジカル種を発生させ、このラジカル種が有機及び/又は無機化合物を酸化還元分解することであると一般的に理解されている。
【0053】
前記金属化合物としては、代表的な酸化チタン(TiO2)の他、ZnO、SrTiOP3、CdS、CdO、CaP、InP、In2O3、CaAs、BaTiO3、K2NbO3、Fe2O3、Ta2O5、WO3、NiO、Cu2O、SiC、SiO2、MoS3、InSb、RuO2、CeO2等が知られている。
【0054】
光触媒機能を有する物質は光触媒性能が向上する金属(Ag、Pt)を含んでいてもよい。また、金属塩等の各種物質を、光触媒機能を失活させない程度の範囲で含むことできる。前記金属塩としては、例えば、アルミニウム、錫、クロム、ニッケル、アンチモン、鉄、銀、セシウム、インジウム、セリウム、セレン、銅、マンガン、カルシウム、白金、タングステン、ジルコニウム、亜鉛等の金属塩があり、それ以外にも一部の金属或いは非金属等については水酸化物又は酸化物も使用可能である。具体的には、塩化アルミニウム、塩化第一及び第二錫、塩化クロム、塩化ニッケル、塩化第一及び第二アンチモン、塩化第一及び第二鉄、硝酸銀、塩化セシウム、三塩化インジウム、塩化第一セリウム、四塩化セレン、塩化第二銅、塩化マンガン、塩化カルシウム、塩化第二白金、四塩化タングステン、オキシ二塩化タングステン、タングステン酸カリウム、塩化第二金、オキシ塩化ジルコニウム、塩化亜鉛等の各種金属塩が例示できる。また、金属塩以外の化合物としては、水酸化インジウム、ケイタングステン酸、シリカゾル、水酸化カルシウム等が例示できる。
【0055】
前記の光触媒機能を有する物質は、励起状態においてはその物質表面の物理的吸着水や酸素からOH-(水酸化ラジカル)、O2-(酸素化ラジカル)を吸着させて、その表面は陰イオンの特性を有しているが、そこに正電荷物質を共存させると、その濃度比に合せて、いわゆる光触媒活性は低下もしくは喪失する。しかし、本発明では、光触媒機能を有する物質が汚染物質に対して酸化分解作用をする必要はないので、負電荷物質として使用できる。そして、正電荷物質を共存させることにより、光触媒機能を有する物質のバインダー(典型的には無機系高分子及び有機系高分子)の酸化分解による劣化を回避することができる。したがって、光触媒機能を有する物質をバインダーによって固定して使用する場合であっても、正電荷物質と共存させることにより、当該バインダーの劣化を抑制しつつ正・負両方の電荷特性による防汚機能を発現させることができる。
【0056】
第二組成物における上記正電荷物質22と負電荷物質23との配合量は、第一組成物における撥水/撥油性物質21の配合量を考慮して調製される。
【0057】
例えば、正電荷の電荷特性を有する物質および負電荷の電荷特性を有する物質の両方の物質が基体1に付着するのを防止したい場合、第二組成物における正電荷物質22と負電荷物質23との配合量は、第二組成物における正電荷物質22の正電荷量と、第一組成物における撥水/撥油性物質21の負電荷量および第二組成物における負電荷物質23の負電荷量の合計の負電荷量とが、均衡していることが好ましく、具体的には、基体1に塗布後に形成される保護膜2における帯電圧が-50Vから+50Vの範囲内となるように調製されることが好適である。
【0058】
正電荷の電荷特性を有する物質が基体1に付着するのを防止したい場合、第二組成物における正電荷物質22と負電荷物質23との配合量は、第二組成物における正電荷物質22の正電荷量よりも、第一組成物における撥水/撥油性物質21の負電荷量および第二組成物における負電荷物質23の負電荷量の合計の負電荷量が、過剰に大きいことが好ましく、具体的には、基体1に塗布後に形成される保護膜2における帯電圧が負電荷の帯電圧となるように調製されることが好適である。
【0059】
負電荷の電荷特性を有する物質が基体1に付着するのを防止したい場合、第二組成物における正電荷物質22と負電荷物質23との配合量は、第二組成物における正電荷物質22の正電荷量よりも、第一組成物における撥水/撥油性物質21の負電荷量および第二組成物における負電荷物質23の負電荷量の合計の負電荷量が、過剰に小さいことが好ましく、具体的には、基体1に塗布後に形成される保護膜2における帯電圧が正電荷の帯電圧となるように調製されることが好適である。
【0060】
上記した第一組成物と第二組成物とは、両組成物を溶媒に溶解した状態または分散した状態とした1液型の基体保護液であっても良いし、第一組成物と第二組成物とをそれぞれ溶媒に溶解した状態または分散した状態として2つの溶液を用意しておき、使用時に両溶液を混合する2液型の基体保護液であってもよい。この際、第一組成物および第二組成物に使用される溶媒としては、基体保護液として均一な保護膜を形成することができるものであれば、特に限定されるものではない。ただし、第一組成物を溶解または分散した溶液と、第二組成物を溶解または分散した溶液とを混合する場合は、これら2つの溶液の溶媒は、相溶性を有する溶媒であればよい。例えば、一方の溶液が「水」または「水+アルコール」を溶媒とする場合には、他方の溶液は「アルコール」または「アルコール+溶剤系分散剤」を溶媒とすることが出来る。具体的な溶媒としては、プロトン性極性溶媒、非プロトン性非極性溶媒、非プロトン性極性溶媒など各種溶媒を用いることができる。プロトン性極性溶媒としては例えば水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n-ブタノールなどが使用できる。非プロトン性非極性溶媒としては例えばトルエン、キシレン、ヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼン、ベンジルアルコールなどが使用できる。非プロトン性極性溶媒としてはアセトン、2-ブタノン、4-メチル-2-ペンタノン、アセトニトリル、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、N-N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、クロロホルムなどが使用できる。
【0061】
なお、第二組成物には、正電荷物質22と負電荷物質23との両方が入っているが、基体1に塗布後に形成される保護膜2における帯電圧を上記したように均衡状態、負電荷状態、正電荷状態にそれぞれ調製できるのであれば、負電荷物質23が入っていないものであってもよい。この場合、第二組成物における正電荷物質22の配合量は、当該第二組成物の正電荷物質22の正電荷量と、第一組成物の撥水/撥油性物質21の負電荷量が、それぞれ上記したように、均衡状態、負電荷状態、正電荷状態となるように、それぞれ調製される。
【0062】
このようにして構成される基体保護液は、基体1の表面に塗布することによって使用される。
【0063】
塗布方法としては、例えば、上記基体保護液に、基体1を浸漬してディップコーティングを行うものであってもよいし、当該基体保護液を、基体1上にスプレーコート、ロールコート、刷毛塗り、スポンジ塗り、スピンコーティング等で塗布するものであってもよい。塗布後は、乾燥する工程を少なくとも1回行うことによって、基体1の表面に、保護膜2を形成することができる。
【0064】
本発明の対象となる基体1としては、特に限定されるものではなく、各種の、親水性または疎水性の無機系基体および有機系基体、或いは、それらの組み合わせを使用することができる。
【0065】
無機系基体としては、例えば、ソーダライムガラス等の透明または不透明ガラス、ジルコニア等の金属酸化物、セラミックス、コンクリート、モルタル、石材、金属等の物質からなる基体が挙げられる。また、有機系基体としては、例えば、有機樹脂、木材、紙等の物質からなる基体が挙げられる。有機樹脂をより具体的に例示すると、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ボリカーボネート、アクリル樹脂、PET等のポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン、ABS樹脂、ポリ塩化ビニル、シリコーン、メラミン樹脂、尿素樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、セルロース、エポキシ変性樹脂等が挙げられる。
【0066】
基体1の形状は特に限定されるものではなく、立方体、直方体、球形、シート形、繊維状等の任意の形状をとることができる。なお、基体は多孔質であってもよい。
【0067】
基体1の表面はコロナ放電処理または紫外線照射処理等によって親水性化されていてもよい。基体1としては、建築・土木用基板またはシーリング材や、機器、装置搬送用ボディ、表示画面が好適である。
【0068】
基体1の表面は塗装されていてもよく、塗装材としては、アルキド樹脂、アクリル樹脂、アミノ樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、アクリルシリコン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、紫外線硬化樹脂、フェノール樹脂、塩化ビニル樹脂、含成樹脂エマルジョン等の合成樹脂と着色剤とを含有するいわゆるペンキ塗料を好適に使用することができる。
【0069】
このようにして基体1の表面に基体保護液を塗布することで、
図1に示すように、基体1の表面には、
撥水/撥油性物質21と、正電荷物質22と、負電荷物質23と、とによる保護膜2が形成されることとなる。また、第二組成物に負電荷物質23が入っていない基体保護液を塗布した場合、
図2に示すように、基体1の表面には、
撥水/撥油性物質21と、正電荷物質22ととによる保護膜2が形成されることとなる。
【0070】
基体1に、正電荷量と負電荷量とが、均衡している基体保護液を塗布して保護膜2を形成した場合、当該保護膜2は、撥水効果およびまたは撥油効果に加えて、防汚効果を発揮することができることとなる。
【0071】
基体1に、正電荷量よりも負電荷量が、過剰に大きい基体保護液を塗布して保護膜2を形成した場合、当該保護膜2は、撥水効果およびまたは撥油効果に加えて、負電荷の電荷特性を有する物質が基体1に付着することを防止することができることとなる。
【0072】
基体1に、正電荷量よりも負電荷量が、過剰に小さい基体保護液を塗布して保護膜2を形成した場合、当該保護膜2は、撥水効果およびまたは撥油効果に加えて、正電荷の電荷特性を有する物質が基体1に付着することを防止することができることとなる。
【0073】
[実施例1]
-第二組成物の調製-
正電荷物質および負電荷物質を含有する第二組成物として、サスティナブル・テクノロジー株式会社製のものを用いた。具体的には、銅ドープアナターゼ型過酸化チタン、カリウムドープポリシリケートがそれぞれ全量中に0.18wt%,0.70wt%の割合で混合されたものを正電荷物質および負電荷物質を含有する第二組成物として用いた。
【0074】
-第一組成物の調製-
撥水基としてメチル基を用い、当該メチル基を修飾するための材料としてメチルトリメトキシシランを使用して第一組成物を調製した。具体的には、純水、アルコール、メチルトリメトキシシランをそれぞれ7wt%,77wt%、16wt%の比率で触媒を添加した状態で混合した。触媒は酢酸を用い、溶液のpHが3-4の間になるように調整した。混合溶液の反応が終わるまで12時間静置し、撥水基を、ケイ素に修飾させた撥水性負電荷物質を含有する第一組成物を得た。
【0075】
-基体保護液による保護膜の形成-
上記第一組成物と第二組成物とからなる基体保護液を用意した。
第一組成物と第二組成物とを5:100の質量割合で混合し、スキージ法により、100mm×100mmのガラス基板(フロートガラス)の表面上に、形成後の厚みが100nmとなるように塗布した。塗膜は、200℃で15分硬化させることにより、ガラス基板(基体)の表面上に保護膜として形成した。
【0076】
[実施例2]
-第一組成物の調製-
撥水基としてプロピル基を用い、当該プロピル基を修飾するための材料としてヘキシルトリメトキシシランを使用して第一組成物を調製した。具体的には、純水、アルコール、ヘキシルトリメトキシシランをそれぞれ7wt%,77wt%、16wt%の比率で触媒を添加した状態で混合した。触媒は酢酸を用い、溶液のpHが3-4の間になるように調整した。混合溶液の反応が終わるまで12時間静置し、撥水基を、ケイ素に修飾させた撥水性負電荷物質を含有する第一組成物を得た。
【0077】
-第二組成物の調製-
上記実施例1と同じ第二組成物を使用した。
【0078】
-基体保護液による保護膜の形成-
第一組成物と第二組成物とを5:100の質量割合で混合し、以降は上記実施例1と同様の方法で、ガラス基板(基体)の表面上に厚みが100nmの保護膜を形成した。
【0079】
[実施例3]
-第一組成物の調製-
撥水基としてフルオロアルキル基を用い、当該フルオロアルキル基を修飾するための材料として1H,1H,2H,2H-ノナフルオロヘキシルトリメトキシシランを使用して第一組成物を調製した。具体的には、純水、アルコール、1H,1H,2H,2H-ノナフルオロヘキシルトリメトキシシランをそれぞれ7wt%,77wt%、16wt%の比率で触媒を添加した状態で混合した。触媒は酢酸を用い、溶液のpHが3-4の間になるように調整した。混合溶液の反応が終わるまで12時間静置し、撥水基を、ケイ素に修飾させた撥水性負電荷物質を含有する第一組成物を得た。
【0080】
-第二組成物の調製-
上記実施例1と同じ第二組成物を使用した。
【0081】
-基体保護液による保護膜の形成-
第一組成物と第二組成物とを5:100の質量割合で混合し、以降は上記実施例1と同様の方法で、ガラス基板(基体)の表面上に厚みが100nmの保護膜を形成した。
【0082】
[実施例4]
-第一組成物の調製-
上記実施例1と同じ第一組成物を使用した。
【0083】
-第二組成物の調製-
負電荷物質を含まず、正電荷物質を含有する第二組成物として、サスティナブル・テクノロジー株式会社製のものを用いた。具体的には、銅ドープアナターゼ型過酸化チタン、ポリシリケートがそれぞれ全量中に0.18wt%,0.70wt%の割合で混合されたものを正電荷物質を含有する第二組成物として用いた。
【0084】
-基体保護液による保護膜の形成-
第一組成物と第二組成物とを5:100の質量割合で混合し、以降は上記実施例1と同様の方法で、ガラス基板(基体)の表面上に厚みが100nmの保護膜を形成した。
【0085】
[実施例5]
-第一組成物の調製-
上記実施例1と同じ第一組成物を使用した。
【0086】
-第二組成物の調製-
負電荷物質を含まず、正電荷物質を含有する第二組成物として、サスティナブル・テクノロジー株式会社製のものを用いた。具体的には、銅ドープアナターゼ型過酸化チタン、カリウムドープポリシリケートがそれぞれ全量中に0.18wt%,0.70wt%の割合で混合されたものを正電荷物質を含有する第二組成物として用いた。
【0087】
-基体保護液による保護膜の形成-
第一組成物と第二組成物とを5:100の質量割合で混合し、以降は上記実施例1と同様の方法で、ガラス基板(基体)の表面上に厚みが100nmの保護膜を形成した。
【0088】
[比較例1]
-基体保護液の調製-
正電荷物質および負電荷物質を含有する溶液として、サスティナブル・テクノロジー株式会社製のものを用いた。具体的には、銅ドープアナターゼ型過酸化チタン、錫ドープアナターゼ型過酸化チタン、Zrドープアナターゼ型過酸化チタン、カリウムドープポリシリケートがそれぞれ全量中に0.06wt%,0.06wt%,0.06wt%,0.70wt%の割合で混合されたものを正電荷物質および負電荷物質を含有する基体保護液として調製した。
【0089】
-基体保護液による保護膜の形成-
上記基体保護液を上記実施例1と同様の方法で塗布し、ガラス基板(基体)の表面上に厚みが100nmの保護膜を形成した。
【0090】
[比較例2]
-基体保護液の調製-
実施例1の第二組成物を基体保護液として使用した。
【0091】
-基体保護液と蒸着による保護膜の形成-
まず、上記基体保護液を上記実施例1と同様の方法で塗布し、ガラス基板(基体)の表面上に厚みが100nmの両性電荷膜を形成した。
【0092】
上記両性電荷膜を形成したガラス板と、メチルトリメトキシシラン0.5mlとを密閉容器内に収容し、その密閉容器を真空加熱炉内に配置した。そして、炉内圧力0.1kPa以下の減圧雰囲気下において170℃で2時間加熱することにより、両性電荷膜の表面上にメチル基を吸着させて、自己組織化単分子膜(SAM)を形成し、これら2層の膜によって形成された膜全体を保護膜とした。
【0093】
[比較例3]
未処理のガラス基板を比較例3とする。
【0094】
[評価]
上記実施例1-5,比較例1-3のそれぞれのサンプルについて以下の評価を実施した。
【0095】
<外観の目視検査>
保護膜の外観を目視により確認し、未塗布ガラスの透明度と同一レベルの透明度を確認した場合をOK、不透明もしくは成分が偏在した膜(局所的に白濁部分がある膜)を確認した場合をNGとした。
【0096】
<水の接触角測定>
それぞれのサンプルについて、水の接触角をサンプルの各5点で測定し、その平均値を測定値として算出した。測定は、共和界面化学社製接触角計DMo-501を使用した。
【0097】
<初期透過率の測定>
それぞれのサンプルについて、サンプルの左中央、中央、右中央の各3点で可視光透過率を測定し、その平均値を初期可視光透過率として算出した。可視光透過率を測定する装置としては、オーシャンオプティクス製ファイバマルチチャンネル分光システムUSB4E03215を使用し、JIS R3106の試験方法で可視光透過率を測定した。
【0098】
<粒子付着試験実施後の透過率の測定>
それぞれのサンプルについて、試験用に調製した混合粒子(カーボンブラック1(FW-200「エボニックデグサ社製」):2.3wt%、カーボンブラック2(JIS Z 8901試験用粉体12種「社団法人日本粉体工業技術協会製」):9.3wt%、イエローオーカー(顔料用天然黄土「ホルベイン工業株式会社製」):62.8wt%、焼成関東ローム(JIS Z 8901試験用ダスト8種「社団法人 日本粉体工業技術協会製」):20.9wt%、シリカ粉(JIS Z 8901試験用ダスト3種「社団法人 日本粉体工業技術協会製」):4.7wt%)を、30分間断続的に吹き付ける粒子付着試験を行った。この粒子付着試験は、ボックス内にそれぞれのサンプルを収納し、0.02MPaの吐出圧力で汚れの粒子をボックス内に吐出することによって行った。
【0099】
この粒子付着試験後の各サンプルについて、サンプルの左中央、中央、右中央の各3点で可視光透過率を測定し、その平均値を初期可視光透過率として算出した。可視光透過率を測定する装置としては、オーシャンオプティクス製ファイバマルチチャンネル分光システムUSB4E03215を使用し、JIS R3106の試験方法で可視光透過率を測定した。
【0100】
各評価結果を表1に示す。
【0101】
【0102】
表1の評価結果から、実施例1-5は、それぞれ外観は良好であり、初期透過率も比較例3の未処理ガラス板とほぼ同等であり、保護膜の成膜による外観上の問題はみられない。
【0103】
実施例1-5のそれぞれの水の接触角は90度以上を示しており、比較例2の2回プロセスの自己組織化膜と同等な値となっている。
【0104】
実施例1-5のそれぞれの粒子付着試験後の透過率は、比較例3に比べて高くなっており、良好な付着防止性能を示している。
【符号の説明】
【0105】
1 基体
2 保護膜
21 撥水/撥油性物質
22 正電荷物質
23 負電荷物質