(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-07
(45)【発行日】2022-07-15
(54)【発明の名称】渦電流式ダンパ
(51)【国際特許分類】
F16F 15/03 20060101AFI20220708BHJP
F16F 9/12 20060101ALI20220708BHJP
F16F 15/023 20060101ALI20220708BHJP
【FI】
F16F15/03 Z
F16F9/12
F16F15/023 A
(21)【出願番号】P 2018140882
(22)【出願日】2018-07-27
【審査請求日】2021-04-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504242342
【氏名又は名称】株式会社免制震ディバイス
(74)【代理人】
【識別番号】110001553
【氏名又は名称】アセンド特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】野上 裕
(72)【発明者】
【氏名】今西 憲治
(72)【発明者】
【氏名】野口 泰隆
(72)【発明者】
【氏名】増井 亮介
(72)【発明者】
【氏名】佐野 薫平
(72)【発明者】
【氏名】中南 滋樹
(72)【発明者】
【氏名】木田 英範
【審査官】杉山 豊博
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-004937(JP,A)
【文献】特開2017-050915(JP,A)
【文献】特開2014-202234(JP,A)
【文献】特表2017-511867(JP,A)
【文献】特開2014-126177(JP,A)
【文献】国際公開第2016/136702(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/03
F16F 9/12
F16F 15/023
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ねじ軸及びボールナットを用いて永久磁石と導電部材とを相対的に回転させることで減衰力を得る渦電流式ダンパであって、
円筒形状の磁石保持部材と、
前記磁石保持部材に固定され、前記磁石保持部材の周方向に磁極の配置を交互に反転して配列された複数の永久磁石と、
前記複数の永久磁石と隙間を空けて対向し、前記複数の永久磁石に対して相対的に回転可能な円筒形状の導電部材と、
前記導電部材と前記磁石保持部材との隙間に設けられ、前記導電部材及び前記磁石保持部材と密閉空間を形成する2つのシール部材と、
前記密閉空間を前記複数の永久磁石が収容された磁石収容室と、液体収容室とに仕切り、前記磁石保持部材に固定された磁石保護カバーと、
前記液体収容室に収容された熱吸収液と、を備え
、
前記磁石収容室には、断熱材が封入される、渦電流式ダンパ。
【請求項2】
請求項1に記載の渦電流式ダンパであって、
前記磁石保持部材は、前記ボールナットに固定され、
前記複数の永久磁石は、前記磁石保持部材の外周面に固定され、
前記導電部材の内周面が、前記複数の永久磁石と隙間を空けて対向する、渦電流式ダンパ。
【請求項3】
請求項1に記載の渦電流式ダンパであって、
前記導電部材は、前記ボールナットに固定され、
前記複数の永久磁石は、前記磁石保持部材の内周面に固定され、
前記導電部材の外周面が、前記複数の永久磁石と隙間を空けて対向する、渦電流式ダンパ。
【請求項4】
請求項1に記載の渦電流式ダンパであって、
前記導電部材は、前記ボールナットに固定され、
前記複数の永久磁石は、前記磁石保持部材の外周面に固定され、
前記導電部材の内周面が、前記複数の永久磁石と隙間を空けて対向する、渦電流式ダンパ。
【請求項5】
請求項1に記載の渦電流式ダンパであって、
前記磁石保持部材は、前記ボールナットに固定され、
前記複数の永久磁石は、前記磁石保持部材の内周面に固定され、
前記導電部材の外周面が、前記複数の永久磁石と隙間を空けて対向する、渦電流式ダンパ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、渦電流式ダンパに関する。
【背景技術】
【0002】
地震等による振動から建築物を保護するために、建築物には制振装置が取り付けられる。制振装置は建築物に与えられた運動エネルギを熱エネルギ等の他のエネルギに変換することにより、振動を減衰させる。このような制振装置としてオイル式ダンパが知られている。オイル式ダンパは、シリンダ内に充填された粘性流体の抵抗を利用して振動を減衰させる。
【0003】
しかしながら、粘性流体の粘度は粘性流体の温度に依存するため、オイル式ダンパの減衰力は粘性流体の温度に依存する。したがって、オイル式ダンパを建築物に使用する際には、使用環境を考慮して適切な粘性流体を選択する必要がある。減衰力が温度に依存しないダンパとして、渦電流式ダンパがある。
【0004】
渦電流式ダンパはたとえば、特公平5-86496号公報(特許文献1)に開示されている。
【0005】
特許文献1の渦電流式ダンパは、主筒に取り付けられた複数の永久磁石と、ねじ軸に接続されたヒステリシス材と、ねじ軸と噛み合うボールナットと、ボールナットに接続された副筒と、を備える。複数の永久磁石は、磁極の配置が交互に異なる。ヒステリシス材は、複数の永久磁石と対向し、相対回転可能である。この渦電流式ダンパに運動エネルギが与えられると、副筒及びボールナットが軸方向に往復移動し、ボールねじの作用によってヒステリシス材が回転する。これにより、ヒステリシス損が生じ、運動エネルギが消費される。また、ヒステリシス材に渦電流が発生するため、渦電流損により運動エネルギが消費される(減衰力が得られる)、と特許文献1には記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の渦電流式ダンパでは、ヒステリシス材(導電部材)の永久磁石と対向する側の表面近傍に渦電流が発生するため、この領域が集中的に加熱され、局所的に高温化する。導電部材の温度が局所的に高温化すれば、導電部材自体及びその周辺部品の強度等に悪影響を与える可能性がある。また、局所的に高温化した導電部材の熱が永久磁石に伝達されることで、永久磁石が減磁し、渦電流式ダンパの減衰力が低下する可能性がある。
【0008】
本発明の目的は、導電部材の局所的な温度上昇を抑制できる渦電流式ダンパを提供することである。本発明のもう一つの目的は、永久磁石の温度上昇を抑制できる渦電流式ダンパを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のねじ軸及びボールナットを用いて永久磁石と導電部材とを相対的に回転させることで減衰力を得る渦電流式ダンパは、磁石保持部材と、複数の永久磁石と、導電部材と、2つのシール部材と、磁石保護カバーと、熱吸収液と、を含む。磁石保持部材は、円筒形状である。複数の永久磁石は、磁石保持部材に固定され、磁石保持部材の周方向に磁極の配置を交互に反転して配列される。導電部材は、円筒形状であり、複数の永久磁石と隙間を空けて対向し、複数の永久磁石に対して相対的に回転可能である。2つのシール部材は、導電部材と磁石保持部材との隙間に設けられ、導電部材及び磁石保持部材と密閉空間を形成する。磁石保護カバーは、密閉空間を複数の永久磁石が収容された磁石収容室と、液体収容室とに仕切り、磁石保持部材に固定される。熱吸収液は、液体収容室に収容される。
【発明の効果】
【0010】
本発明の渦電流式ダンパによれば、導電部材の局所的な温度上昇を抑制でき、かつ、永久磁石の温度上昇を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、第1実施形態の渦電流式ダンパの軸方向に沿った面での断面図である。
【
図5】
図5は、第2実施形態の渦電流式ダンパの軸方向に沿った面での一部断面図である。
【
図6】
図6は、第3実施形態の渦電流式ダンパの軸方向に沿った面での断面図である。
【
図8】
図8は、第4実施形態の渦電流式ダンパの軸方向に沿った面での一部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(1)本実施形態のねじ軸及びボールナットを用いて永久磁石と導電部材とを相対的に回転させることで減衰力を得る渦電流式ダンパは、磁石保持部材と、複数の永久磁石と、導電部材と、2つのシール部材と、磁石保護カバーと、熱吸収液と、を含む。磁石保持部材は、円筒形状である。複数の永久磁石は、磁石保持部材に固定され、磁石保持部材の周方向に磁極の配置を交互に反転して配列される。導電部材は、円筒形状であり、複数の永久磁石と隙間を空けて対向し、複数の永久磁石に対して相対的に回転可能である。2つのシール部材は、導電部材と磁石保持部材との隙間に設けられ、導電部材及び磁石保持部材と密閉空間を形成する。磁石保護カバーは、密閉空間を複数の永久磁石が収容された磁石収容室と、液体収容室とに仕切り、磁石保持部材に固定される。熱吸収液は、液体収容室に収容される。
【0013】
このような構成の渦電流式ダンパによれば、液体収容室に充填された熱吸収液が導電部材と接するため、渦電流により導電部材に生じた熱を熱吸収液が奪うことができる。また、熱吸収液は磁石保護カバーとも接するため、永久磁石(磁石保持部材)が回転することに伴い、磁石保護カバーが回転すれば、熱吸収液は攪拌される。これにより、熱吸収液が導電部材から奪った熱が、熱吸収液中(特に軸方向)に拡散され、温度が均一になりやすい。熱吸収液の温度が均一になれば、熱吸収液と接する導電部材の温度も均一になりやすく、導電部材の局所的な温度上昇を抑制することができる。また、導電部材の局所的な温度上昇(導電部材の最高温度)が抑制されれば自動的に、導電部材からの輻射熱による永久磁石の温度上昇も抑制される。
【0014】
上記(1)の渦電流式ダンパは、以下の(2)~(5)のいずれかの構成とすることができる。
【0015】
(2)磁石保持部材は、ボールナットに固定され、複数の永久磁石は、磁石保持部材の外周面に固定され、導電部材の内周面が、複数の永久磁石と隙間を空けて対向する。
【0016】
(3)導電部材は、ボールナットに固定され、複数の永久磁石は、磁石保持部材の内周面に固定され、導電部材の外周面が、複数の永久磁石と隙間を空けて対向する。
【0017】
(4)導電部材は、ボールナットに固定され、複数の永久磁石は、磁石保持部材の外周面に固定され、導電部材の内周面が、複数の永久磁石と隙間を空けて対向する。
【0018】
(5)磁石保持部材は、ボールナットに固定され、複数の永久磁石は、磁石保持部材の内周面に固定され、導電部材の外周面が、複数の永久磁石と隙間を空けて対向する。
【0019】
(6)上記(1)~(5)のいずれかの渦電流式ダンパにおいて、磁石収容室には、断熱材が封入されるのが好ましい。
【0020】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を詳しく説明する。図中同一又は相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0021】
[第1実施形態]
図1は、第1実施形態の渦電流式ダンパの軸方向に沿った面での断面図である。渦電流式ダンパ1は、ねじ軸2と、ボールナット3と、を含む。なお、本明細書において「軸方向」とはねじ軸2の軸方向を意味する。
【0022】
[ねじ軸]
ねじ軸2は、直線状に延びる部材であり、建物に取り付けられた取付具21に固定される。建物が揺れるとその振動は、取付具21を介してねじ軸2に伝達され、ねじ軸2が軸方向に変位し、振動に同期して往復運動する。ねじ軸2の外周面にはねじ部が形成されている。
【0023】
[ボールナット]
ボールナット3は、ねじ軸2とボールねじを構成し、ねじ軸2が軸方向に変位するとボールナット3は回転する。すなわち、ボールナット3はねじ軸2の並進運動を回転運動に変換する。
【0024】
ボールナット3は、貫通孔と、フランジ部と、を含む。貫通孔にはねじ軸2が通され、貫通孔の内周面には、ねじ軸2のねじ部と噛み合うねじ部が形成されている。フランジ部は、軸方向から見て、中空の円板形状である。
【0025】
図2は、
図1の一部拡大図である。渦電流式ダンパ1はさらに、磁石保持部材4と、複数の永久磁石5と、導電部材6と、2つのシール部材7と、磁石保護カバー8と、熱吸収液9と、を含む。
【0026】
[磁石保持部材]
磁石保持部材4は、円筒形状であり、ボールナット3のフランジ部に固定される。したがって、ボールナット3が回転すると、磁石保持部材4も回転する。
【0027】
磁石保持部材4は、複数の永久磁石5を保持する。磁石保持部材4の材質は炭素鋼、鋳鉄等の磁性体であるのが好ましい。この場合、磁石保持部材4はヨークとしての役割を果たし、永久磁石5からの磁束が外部に漏れることを抑制する。磁石保持部材4は軸方向に垂直な断面形状が円形の外周面を含む。
【0028】
[永久磁石]
図3は、
図2中のIII-III線での断面図である。複数の永久磁石5は、磁石保持部材4の外周面に固定される。複数の永久磁石5は、磁石保持部材4の円周方向に配列され、隣接する2つの永久磁石5の間には隙間が設けられる。
【0029】
図4は、
図3の一部拡大図である。複数の永久磁石5の磁極の配置は、円周方向に沿って交互に反転する。別の言葉で言えば、円周方向において隣接する永久磁石5同士は互いに磁極の配置が反転する。なお、
図4では、永久磁石5の磁極の配置が磁石保持部材4の径方向である場合を示すが、磁極の配置はこれに限られず、軸方向であってもよい。
【0030】
[導電部材]
図2を参照して、導電部材6は、円筒形状であり、その内部に永久磁石5、磁石保持部材4、ねじ軸2及びボールナット3を収容する。導電部材6の内周面は、複数の永久磁石5と隙間を空けて対向する。「対向する」とは、対象とする部材のみを磁石保持部材4の径方向に投影したときに両者が重複することを意味する。隙間の大きさは、永久磁石5からの磁束を導電部材6に効率的に到達させるため、可能な限り小さいほうが好ましい。また、各永久磁石5と導電部材6の内周面との距離は一定であるのが好ましい。
【0031】
図1を参照して、導電部材6の一方の端部は取付具22に固定され、導電部材6の他方の端部は自由端となっている。導電部材6の両端部において、導電部材6と磁石保持部材4との間にはスラスト軸受18及びラジアル軸受19が設けられる。したがって、磁石保持部材4が回転しても、導電部材6は回転しない。
【0032】
[シール部材]
図2を参照して、2つのシール部材7はそれぞれ、リング形状であり、磁石保持部材4の外周面と導電部材6の内周面との間を隙間なく埋める。2つのシール部材7は、軸方向に所定の間隔を空けて設けられる。つまり、2つのシール部材7、導電部材6の内周面及び磁石保持部材4の外周面によって密閉空間が形成される。2つのシール部材7は、後述するように密閉空間に封入された熱吸収液9が外部に漏れることを抑制する。また、2つのシール部材7はそれぞれ、軸受としての機能を有し、磁石保持部材4の回転を許容する。シール部材7はたとえば、内部にばねを有するオイルシールである。
【0033】
[磁石保護カバー]
磁石保護カバー8は、筒状部13と、第1端部14と、第1取付部15と、第2端部16と、第2取付部17とを含む。
【0034】
筒状部13は、軸方向に垂直な断面形状が円形の外周面及び内周面を含み、軸方向に延びる。筒状部13は、複数の永久磁石5と導電部材6の内周面との間に位置する。第1端部14は、筒状部13の一方の端から磁石保持部材4の径方向に延びる。軸方向から見て、第1端部14はリング形状である。第1取付部15は、筒状であり、第1端部14の内周側の端から軸方向に延びる。第2端部16は筒状部13の他方の端に設けられ、第1端部14と同様の形状である。第2取付部17は第2端部16の内周側の端から軸方向に延び、第1取付部15と同様の形状である。
【0035】
第1取付部15及び第2取付部17は、磁石保持部材4の外周面に固定される。したがって、磁石保持部材4が回転すれば、磁石保護カバー8も回転する。
【0036】
このような構成により、磁石保護カバー8は、2つのシール部材7、導電部材6の内周面及び磁石保持部材4の外周面により形成された密閉空間を磁石収容室11と、液体収容室12とに仕切る。磁石収容室11は、磁石保持部材4の外周面及び磁石保護カバー8で構成され、密閉されている。磁石収容室11には、全ての永久磁石5が収容される。液体収容室12は、導電部材6の内周面、2つのシール部材7及び磁石保護カバー8で構成され、密閉されている。液体収容室12には、熱吸収液9が収容される。磁石保護カバー8の材質は非磁性であり、たとえばオーステナイト系ステンレス鋼等である。
【0037】
磁石保護カバー8の形状は、密閉空間を磁石収容室と液体収容室とに仕切ることができればよく、その形状は上述の説明の場合に限定されない。たとえば、筒状部13は、軸方向に沿って半径が変わる樽形状であってもよい。ただし、どのような形状であっても、磁石保護カバー8は磁石保持部材4に固定される。
【0038】
[熱吸収液]
熱吸収液9は液体であり、たとえば、水、油、シリコーンオイル等である。熱吸収液9は、液体収容室12に充填される。そのため、熱吸収液9は導電部材6の内周面及び磁石保護カバー8の導電部材6側の面と接触する。
【0039】
[導電部材の局所的な温度上昇の抑制]
渦電流式ダンパ1に振動が加えられると、ねじ軸2が軸方向に変位し、ボールナット3、磁石保持部材4及び永久磁石5が回転する。永久磁石5が回転すると、導電部材6を通過する永久磁石5からの磁束が変化し、導電部材6に渦電流が発生する。渦電流が発生すると、新たな磁束(反磁界)が生じ、導電部材6の回転を妨げる(すなわちボールナット3の回転を妨げる)。ボールナット3の回転が妨げられると、ねじ軸2の軸方向への運動も妨げられ、振動が減衰する。これが渦電流式ダンパの減衰力となる。
【0040】
一方で、渦電流が発生すると導電部材6の温度が上昇する。特に、渦電流は導電部材6の永久磁石と対向する部分に集中的に発生するため、この導電部材6の永久磁石5と対向する部分が局所的に高温になりやすい。
【0041】
この点、第1実施形態の渦電流式ダンパでは、液体収容室に熱吸収液9が充填される。熱吸収液9は導電部材6の内周面と接するため、渦電流により導電部材6に生じた熱を奪うことができる。また、液体は気体と比べて熱容量が大きいため、熱吸収液9と導電部材6とを接触させることで、気体と導電部材とが接触する場合に比べてより導電部材6の熱を奪いやすい。さらに、永久磁石5の回転とともに磁石保護カバー8も回転するため、磁石保護カバー8と接する熱吸収液9は液体収容室内で撹拌される。熱吸収液9は導電部材6の高温部分と接する部分が高温になりやすいが、攪拌されることで熱吸収液9の熱が液体収容室内で拡散され(特に軸方向に拡散され)、熱吸収液9の温度が液体収容室内で均一になりやすい。これにより、熱吸収液9が導電部材6の高温部分からさらに熱を奪いやすくなり、導電部材6の局所的な温度上昇が抑制される。
【0042】
導電部材6の局所的な温度上昇が抑制されることは、導電部材6の最高温度が低くなることを意味する。導電部材6の最高温度が低くなれば、導電部材6からの輻射熱の影響が弱くなる。したがって、導電部材6からの輻射熱による永久磁石5の温度上昇も抑制される。
【0043】
また、液体収容室に充填された熱吸収液9は、回転する磁石保護カバー8と接する。そのため、磁石保護カバー8は熱吸収液9から粘性抵抗を受ける。この粘性抵抗は磁石保護カバー8の回転を妨げる方向に働く。すなわち、第1実施形態の渦電流式ダンパには、渦電流による減衰力に加えて、熱吸収液9の粘性抵抗による減衰力も働く。そのため、第1実施形態の渦電流式ダンパは、渦電流による減衰力のみ働く渦電流式ダンパに比べて、減衰力が高い。また、高い減衰力を発揮できることで、渦電流による減衰力のみ働く渦電流式ダンパと同じ減衰力を発揮するために必要な永久磁石の磁力は少なくて済む。そのため、第1実施形態の渦電流式ダンパは、渦電流による減衰力のみ働く渦電流式ダンパに比べて、永久磁石の大きさを小さくでき、ひいては渦電流式ダンパの軸方向長さをコンパクトにすることができる。
【0044】
このような第1実施形態の渦電流式ダンパは、次のような構成とすることもできる。
【0045】
[断熱材]
磁石収容室11には、断熱材が封入されるのが好ましい。断熱材は、導電部材6からの輻射熱が永久磁石5に伝わることを抑制する。断熱材は、繊維系又は発泡系の固体断熱材であってもよいし、空気等の熱伝導率の低い気体であってもよい。
【0046】
磁石保護カバーが設けられない渦電流式ダンパでは、永久磁石と導電部材との間の空間に断熱材として気体を封入した場合、相対的に回転する永久磁石と導電部材とによって発生する気流により断熱効果が十分に発揮されにくい。また、磁石保護カバーが設けられた渦電流式ダンパであっても、磁石保護カバーが導電部材に固定されれば、相対的に回転する永久磁石と磁石保護カバーとによって発生する気流により断熱効果が十分に発揮されにくい。
【0047】
この点、第1実施形態の渦電流式ダンパでは、磁石保護カバー8は磁石保持部材4に固定される。そのため、永久磁石5と導電部材6とが相対的に回転しても、永久磁石5と磁石保護カバーは同一角速度で回転する。すなわち、磁石収容室11内の気体断熱材は永久磁石5及び磁石保護カバー8と同一角速度での剛体回転に近い流動状態となり、気体断熱材は永久磁石5及び磁石保護カバー8に対して相対的に静止している状態とみなせる。したがって、第1実施形態の渦電流式ダンパでは断熱効果が十分に発揮される。
【0048】
磁石収容室11に気体断熱材を封入する場合、磁石保護カバー8の筒状部13の内周面(永久磁石5と向き合う面)の少なくとも一部に、断熱塗膜が積層されていてもよい。断熱塗膜を積層することにより、気体断熱材の断熱効果をより高めることができる。断熱塗膜はたとえば次のようにして形成される。中空ガラスビーンズ、シリコーン樹脂、シリカ粉末及び溶剤を含む液体塗料を原料とし、この液体塗料を磁石保護カバー8の筒状部13の内周面の少なくとも一部に塗布し、乾燥させる。これにより、液体塗料から高温環境にも耐え得るゴム状の膜(断熱塗膜)が形成される。
【0049】
以上、第1実施形態の渦電流式ダンパについて説明した。しかしながら、本発明の渦電流式ダンパはこれに限定されず、以下のような実施形態とすることもできる。
【0050】
[第2実施形態]
第2実施形態の渦電流式ダンパについて説明する。
【0051】
図5は、第2実施形態の渦電流式ダンパの軸方向に沿った面での一部断面図である。第2実施形態の渦電流式ダンパ1は、導電部材6が永久磁石5の内側に配置され、回転する点で第1実施形態と相違する。以下の説明では、第1実施形態と異なる構成についてのみ説明し、同一の構成については説明を省略する。
【0052】
[磁石保持部材]
磁石保持部材4は、円筒形状であり、その内部に永久磁石5、導電部材6、ねじ軸2及びボールナット3を収容する。磁石保持部材4の一方の端部は取付具に固定され、磁石保持部材4の他方の端部は自由端となっている。したがって、磁石保持部材4は回転しない。
【0053】
[永久磁石]
複数の永久磁石5は、磁石保持部材4の内周面に固定される。
【0054】
[導電部材]
導電部材6は、円筒形状であり、ボールナット3に固定される。したがって、ボールナット3が回転すると、導電部材6も回転する。導電部材6の外周面は、複数の永久磁石5と隙間を空けて対向する。
【0055】
導電部材6の両端部において、導電部材6と磁石保持部材4との間にはスラスト軸受及びラジアル軸受が設けられる。したがって、導電部材6が回転しても、磁石保持部材4は回転しない。
【0056】
[シール部材]
2つのシール部材7は、磁石保持部材4の内周面と導電部材6の外周面との間を隙間なく埋める。つまり、2つのシール部材7、導電部材6の外周面及び磁石保持部材4の内周面によって密閉空間が形成される。
【0057】
[磁石保護カバー]
磁石保護カバー8の筒状部13は、複数の永久磁石5と導電部材6の外周面との間に位置する。磁石保護カバー8の第1取付部15及び第2取付部17は、磁石保持部材4の内周面に固定される。
【0058】
[熱吸収液]
熱吸収液9は液体収容室12に充填され、導電部材6の外周面と接触する。
【0059】
このような構成の第2実施形態の渦電流式ダンパでは、振動が加えられれば、ボールナット3が回転し、それに伴い導電部材6が回転する。その一方で、永久磁石5は回転しない。つまり、導電部材6と永久磁石5とが相対的に回転するため、導電部材6には渦電流が発生する。
【0060】
液体収容室12に充填された熱吸収液9は、回転する導電部材6の外周面と接する。したがって、第2実施形態の渦電流式ダンパでも、上述したように、導電部材6の局所的な温度の上昇を抑制できる。
【0061】
[第3実施形態]
第3実施形態の渦電流式ダンパについて説明する。
【0062】
図6は、第3実施形態の渦電流式ダンパの軸方向に沿った面での断面図である。第3実施形態の渦電流式ダンパ1は、永久磁石5が導電部材6の内側に配置される点は第1実施形態と同じであるが、永久磁石5は回転せず、導電部材6が回転する点で第1実施形態と相違する。以下の説明では、第1実施形態と異なる構成についてのみ説明し、同一の構成については説明を省略する。
【0063】
[磁石保持部材]
図7は、
図6の一部拡大図である。磁石保持部材4の一方の端部は取付具に固定され、磁石保持部材4の他方の端部は自由端となっている。したがって、磁石保持部材4は回転しない。
【0064】
[導電部材]
導電部材6は、その内部に永久磁石5、磁石保持部材4、ねじ軸2及びボールナット3を収容する。導電部材6の一方の端部はボールナット3に固定される。したがって、ボールナット3が回転すると、導電部材6も回転する。導電部材6の他方の端部は自由端となっている。
【0065】
導電部材6の両端部において、導電部材6と磁石保持部材4との間にはスラスト軸受及びラジアル軸受が設けられる。したがって、導電部材6が回転しても、磁石保持部材4は回転しない。
【0066】
このような構成の第3実施形態の渦電流式ダンパでは、振動が加えられれば、ボールナット3が回転し、それに伴い導電部材6が回転する。その一方で、永久磁石5は回転しない。つまり、導電部材6と永久磁石5とが相対的に回転するため、導電部材6には渦電流が発生する。
【0067】
液体収容室12に充填された熱吸収液9は、回転する導電部材6の内周面と接する。したがって、第3実施形態の渦電流式ダンパでも、上述したように、導電部材6の局所的な温度の上昇を抑制できる。
【0068】
[第4実施形態]
第4実施形態の渦電流式ダンパについて説明する。
【0069】
図8は、第4実施形態の渦電流式ダンパの軸方向に沿った面での一部断面図である。第4実施形態の渦電流式ダンパ1は、導電部材6が回転せず、永久磁石5が回転する点では第1実施形態と同じであるが、永久磁石5が導電部材6の外側に配置される点で第1実施形態と相違する。以下の説明では、第1実施形態と異なる構成についてのみ説明し、同一の構成については説明を省略する。
【0070】
[磁石保持部材]
磁石保持部材4の一方の端部はボールナット3に固定される。したがって、ボールナット3が回転すれば、磁石保持部材4も回転する。磁石保持部材4の他方の端部は自由端となっている。
【0071】
[導電部材]
導電部材6の一方の端部は取付具に固定され、他方の端部は自由端となっている。導電部材6の両端部において、導電部材6と磁石保持部材4との間にはスラスト軸受及びラジアル軸受が設けられる。したがって、ボールナット3が回転すると、磁石保持部材4は回転するが、導電部材6は回転しない。
【0072】
このような構成の第4実施形態の渦電流式ダンパでは、振動が加えられれば、ボールナット3が回転し、それに伴い磁石保持部材4が回転する。その一方で、導電部材6は回転しない。つまり、導電部材6と永久磁石5とが相対的に回転するため、導電部材6には渦電流が発生する。
【0073】
液体収容室に充填された熱吸収液9は、回転する導電部材6の外周面と接する。したがって、第4実施形態の渦電流式ダンパでも、上述したように、導電部材6の局所的な温度の上昇を抑制できる。
【0074】
以上、本実施形態の渦電流式ダンパについて説明した。その他、本発明は上記の実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、種々の変更が可能であることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明の渦電流式ダンパは、建造物の制振装置及び免震装置に有用である。
【符号の説明】
【0076】
1:渦電流式ダンパ
2:ねじ軸
3:ボールナット
4:磁石保持部材
5:永久磁石
6:導電部材
7:シール部材
8:磁石保護カバー
9:熱吸収液
11:磁石収容室
12:液体収容室
13:筒状部
14:第1端部
15:第1取付部
16:第2端部
17:第2取付部
18:スラスト軸受
19:ラジアル軸受
21:取付部
22:取付部