(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-07
(45)【発行日】2022-07-15
(54)【発明の名称】視覚障碍者用手押し車
(51)【国際特許分類】
A61H 3/06 20060101AFI20220708BHJP
A61F 9/08 20060101ALI20220708BHJP
【FI】
A61H3/06 G
A61H3/06 A
A61F9/08 305
(21)【出願番号】P 2018224438
(22)【出願日】2018-11-30
【審査請求日】2020-11-05
(73)【特許権者】
【識別番号】518426273
【氏名又は名称】度▲会▼ 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100080838
【氏名又は名称】三浦 光康
(74)【代理人】
【識別番号】100194261
【氏名又は名称】栢原 崇行
(72)【発明者】
【氏名】木村 愛子
(72)【発明者】
【氏名】度▲会▼ 直也
【審査官】村上 勝見
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-043263(JP,A)
【文献】特開2001-202590(JP,A)
【文献】国際公開第2016/199248(WO,A1)
【文献】特開2016-067855(JP,A)
【文献】特開2003-225266(JP,A)
【文献】特開2002-352380(JP,A)
【文献】中国実用新案第203001387(CN,U)
【文献】特開2016-129594(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61H 3/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
縦長状箱体の本体部と、この本体部の下端部に一体的に設けられた合計4つの走行車輪と、前記本体部の上端部に一体的に設けられた把手部とを有する視覚障碍者用手押し車であり、前記視覚障碍者用手押し車は、
前記本体部に設けられ、かつ、被写体の画像信号を取得する撮像手段と、この撮像手段が取得した画素情報を処理する画素処理手段と、この画素処理手段によって処理された前記被写体情報を記録する記憶部と、前記本体部又は把手部のいずれかに設けられ、かつ、前記画素処理手段から障害物の画素情報を受け取ったときに報知指令信号を出力する制御部と、前記把手部に設けられかつ前記報知指令信号に基づいて前記障害物の存在を使用者に触覚で感知し得るように振動を発生させる振動源を備え、
前記把手部は、少なくとも略水平状態のパイプ状握り部分と、このパイプ状握り部分の左右端部から下方に延びる左右一対の脚部分とを有する枠状のものであり、前記パイプ状握り部分の内部に全部が設けられた前記振動源は、音波照射台座(35)と、この音波照射台座の上面に設けられ、かつ、前記パイプ状握り部分の内壁面にその上面が接触するカバー状振動媒体(36)と、前記音波照射台座の下面に固定された音波素子(34)とからなる電気的振動部材であり、
前記制御部は
前記振動源に対して、複数種類の障害物を識別させるために複数種類の異なる振動を発生させるように制御し、
前記本体部は、少なくとも利用者用の腰掛椅子を取り出すことができる大きさのキャリーケースであると共に、該キャリーケースの下端部の四隅に一体的に設けられた前記合計4つの走行車輪は、自在キャスターであり、
さらに、前記キャリーケースには開閉手段が設けられ、前記開閉手段を操作することにより、該キャリーケースの中から、前記利用者用の腰掛椅子を取り出すことができる視覚障碍者用手押し車。
【請求項2】
請求項1の視覚障碍者用手押し車に於いて、前記画素処理手段、前記制御部及び前記記憶部は、コンピンータシステムとしての画像処理部を構成し、該画像処理部は、前記画素処理手段から取得した特定範囲に含まれるR(赤)、G(緑)、B(青)の輝度データ(hcd)又は色相データ(際立った波長の範囲と角度)のいずれかに基づいて、前記被写体の明暗境界線を求め、かつ、障害物を特定することを特徴とする視覚障碍者用手押し車。
【請求項3】
請求項1の視覚障碍者用手押し車に於いて、前記縦長状箱体のキャリーケースの前壁の外壁面の上端部に第1の撮像手段が設けられ、さらに、前記前壁と略直交する左右の側壁の外壁面のいずれかに、少なくとも一つの第2の撮像手段が設けられていることを特徴とする視覚障碍者用手押し車。
【請求項4】
請求項1の視覚障碍者用手押し車に於いて、制御部は、一つ又は複数の振動源に対して、複数種類の異なる振動を発生させるように制御することを特徴とする視覚障碍者用手押し車。
【請求項5】
請求項1の視覚障碍者用手押し車に於いて、報知手段としての前記振動源の他に、補助的な報知手段として、障害物の内容を知らせる音声出力部が制御部に接続していることを特徴とする視覚障碍者用手押し車。
【請求項6】
請求項1の視覚障碍者用手押し車に於いて、前記縦長状箱体のキャリーケースの少なくとも一側面は操作手段を含む開閉手段によって開閉可能であることを特徴とする視覚障碍者用手押し車。
【請求項7】
請求項1の視覚障碍者用手押し車に於いて、前記撮像手段は、前記縦長状箱体のキャリーケースの前壁に一体的に配設され、該撮像手段は、光軸が互いに略平行である複数のレンズと、異なる複数の透過波長特性にそれぞれ対応する複数のフィルタ要素が順次配列された複合フィルタとを有し、また前記画像処理手段を含む画像処理部は、前記撮像手段から取得した複数の画像を用いて信号を処理し、該画像処理部の演算処理は、前記複数のフィルタ要素の各々を介して得られた前記複数の画像から、複数の透過波長特性にそれぞれ対応する複数の視差情報を算出し、もって、手押し車Xの前方に存在する障害物Oを特定することを特徴とする視覚障碍者用手押し車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、視覚に不便な視覚障碍者に適する視覚障碍者用手押し車に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、「カメラの信号伝達装置」である。この特許文献1の公知発明は、カメラを所持している者に対して、触覚で感知し得る振動を発生させる振動発生手段を構成要件としている。そして、前記振動発生手段は、2つの電圧セラミックブザーであり、制御部は、適正な撮影条件であることを示す信号があると、前記振動発生手段に駆動信号を出力するというものである。
【0003】
付言すると、特許文献1は、カメラで適正に写真を撮るために、複数の振動発生手段(電圧セラミックブザー)を用いるものであり、本願発明の歩行サポート用手押し車と全く関係のない技術分野である。
【0004】
特許文献2には、合計3個のセンサカメラを、X軸方向と、Y軸方向と、Z軸方向にそれぞれ向け、これらのセンサカメラが障害物を検出したとき、制御部は、バイブレータに駆動信号を出力するビデオカメラの衝突防止装置である。
この特許文献2も前記特許文献1と同様の技術分野に関するものである。したがって、本願発明の歩行サポート用手押し車と全く関係のない技術分野であることから、本発明とは、発明の課題及び構成が著しく相違する。
【0005】
特許文献3は、本発明と同様に「視覚障碍者用手押し車」であり、視覚障碍者のために、該手押し車に「歩行者用のカーナビゲーション」を設けるものである。しかしながら、この特許文献3は、利用者に対する報知手段は音声出力装置のみであるから、例えば聴覚に不便な方には不向きである。またこの特許文献3には、本願発明の具体的構成が記載され、示唆されていない。
【0006】
そこで、聴覚に不便な方も含め、振動を感知させて障害物を利用者に知らせることができる視覚障碍者用手押し車の出現が期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平4-125621号公報
【文献】特開2000-307913号公報
【文献】特開2003-225266号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の主たる目的は、特許文献1、特許文献2及び特許文献3の問題点に鑑み、「手押し車Xを押す利用者としての視覚障碍者を、振動源を利用して安全に誘導すること」である。また本発明の主たる目的は、撮像手段が把手部の振動源の振動を直接受けないことである。第2の目的は、進行方向のみならず、他の方向にも障害物があるかを知らせることができることである。第3の目的は、視覚障碍者が、歩行する際に邪魔になる立体的形状物に衝突しないようにすることである。第4の目的は、例えば交差点に関する信号機の信号情報を振動で知らせることができることである。その他の目的は、等は、
【0009】
なお、本発明の前記ならびにそのほかの目的と新規な特徴は、次の説明を添付図面と照らし合わせて読むと、より完全に明らかになるであろう。
ただし、図面はもっぱら解説のためのものであって、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の視覚障碍者用手押し車は、縦長状箱体の本体部と、この本体部の下端部に一体的に設けられた合計4つの走行車輪と、前記本体部の上端部に一体的に設けられた把手部とを有する視覚障碍者用手押し車であり、前記視覚障碍者用手押し車は、前記本体部に設けられ、かつ、被写体の画像信号を取得する撮像手段と、この撮像手段が取得した画素情報を処理する画素処理手段と、この画素処理手段によって処理された前記被写体情報を記録する記憶部と、前記本体部又は把手部のいずれかに設けられ、かつ、前記画素処理手段から障害物の画素情報を受け取ったときに報知指令信号を出力する制御部と、前記把手部に設けられかつ前記報知指令信号に基づいて前記障害物の存在を使用者に触覚で感知し得るように振動を発生させる振動源を備え、前記把手部は、少なくとも略水平状態のパイプ状握り部分と、このパイプ状握り部分の左右端部から下方に延びる左右一対の脚部分とを有する枠状のものであり、前記パイプ状握り部分の内部に全部が設けられた前記振動源は、音波照射台座(35)と、この音波照射台座の上面に設けられ、かつ、前記パイプ状握り部分の内壁面にその上面が接触するカバー状振動媒体(36)と、前記音波照射台座の下面に固定された音波素子(34)とからなる電気的振動部材であり、前記制御部は前記振動源に対して、複数種類の障害物を識別させるために複数種類の異なる振動を発生させるように制御し、前記本体部は、少なくとも利用者用の腰掛椅子を取り出すことができる大きさのキャリーケースであると共に、該キャリーケースの下端部の四隅に一体的に設けられた前記合計4つの走行車輪は、自在キャスターであり、さらに、前記キャリーケースには開閉手段が設けられ、前記開閉手段を操作することにより、該キャリーケースの中から、前記利用者用の腰掛椅子を取り出すことができることを特徴とする。
【0011】
ここで、「撮像手段」は、少なくともレンズと半導体イメージセンサを備えている。そして、該半導体イメージセンサとしては、例えばCCDセンサカメラやCMOSセンサカメラを含む。具体的には、視覚障碍者、高齢者等の利用者が把手部を握ってかつ手押し車を押しながら誘導路を歩行中、周期的に取得する被写体の画像情報の中に、前記利用者が歩行する前記誘導路上に箱体、ポール、階段、自転車、信号機等の障害物が存在する場合には、当該障害物を検出し、かつ、前記CCDセンサカメラやCMOSセンサカメラ(半導体イメージセンサ)に撮像し、当該障害物の撮像信号(検出信号)をコンピューターシステムである画像処理部に送る。そして、画像処理部は、画素処理手段から取得した特定範囲に含まれるG(緑)、R(赤)、B(青)の輝度データ(hcd)又は色相データ(際立った波長の範囲と角度)のいずれかに基づいて、前記被写体の明暗境界線を求め、かつ、障害物を特定する。このように構成すると、特に、手押し車Xを押す視覚障碍者が障害物に衝突等をすることなく、手押し車Xによって安全に誘導される。
【0012】
上記構成に於いて、縦長状箱体のキャリーケースの前壁の外壁面の上端部に第1の撮像手段が設けられ、さらに、前記前壁と略直交する左右の側壁の外壁面の上端部のいずれかに、少なくとも一つの第2の撮像手段が設けられていることを特徴とする。このように構成すると、進行方向のみならず、少なくとも左右方向のいずれかに障害物があるかを知らせることができる。
【0013】
なお、前記第2の撮像手段は、望ましくは利用者が進行する任意の方向に半導体イメージセンサが向けられ、該半導体イメージセンサが前述した障害物に対して、近距離(例えば1m、2m、3m等)と言える範囲に近くと、該障害物を検出し、該検出信号を画像処理部に送る。
【0014】
特に振動源は、把手部のパイプ状握り部分の内部に全部が設けられ、音波照射台座(35)と、この音波照射台座の上面に設けられ、かつ、前記パイプ状握り部分の内壁面にその上面が接触するカバー状振動媒体(36)と、前記音波照射台座の下面に固定された音波素子(34)とからなる電気的振動部材であることを特徴とする。
【0015】
また、制御部は、一つ又は複数の振動源に対して、複数種類の異なる振動を発生させるように制御することを特徴とする。このように構成すると、「ドンドンドン…」、「ドーン、ドーン」、「ドーン、ドン、ドーン」の如く、色々な組み合わせの振動を利用者の手に与えることができる。なお、この場合、制御部は、振動源に対して、記憶部に記録された振動プログラムに基づいて複数種類の異なる振動を発生させるように制御することが望ましい。
【0016】
また、少なくとも歩行者が歩道を進行する際に邪魔になる立体的形状物又は交差点に関する信号機の信号情報のいずれかであることを特徴とする。このように複数種類の障害物を識別することが望ましい。
【0017】
また、報知手段としての前記振動源の他に、補助的な報知手段として、障害物の内容を知らせる音声出力部が制御部に接続していることを特徴とする。このように構成すると、視覚障碍者は、振動と音声の両方により、障害物の内容を、より明確に認識することができる。
【0018】
また、縦長状箱体のキャリーケースの少なくとも一側面は操作手段を含む開閉手段によって開閉可能であることを特徴とする。このように構成すると、簡単に本体部を開け、その中から、例えば利用者用の腰掛椅子を取り出すことができる。
【0019】
また本発明の好ましい実施形態は、請求項1の視覚障碍者用手押し車の主要部をそのまま含み、前記撮像手段は、前記キャリーケースの前壁に一体的に配設され、該撮像手段は、光軸が互いに略平行である複数のレンズと、異なる複数の透過波長特性にそれぞれ対応する複数のフィルタ要素が順次配列された複合フィルタとを有し、また前記画像処理手段を含む画像処理部は、前記撮像手段から取得した複数の画像を用いて信号を処理し、該画像処理部の演算処理は、前記複数のフィルタ要素の各々を介して得られた前記複数の画像から複数の透過波長特性にそれぞれ対応する複数の視差情報を算出し、もって、手押し車Xの前方に存在する障害物Oを特定することを特徴とする。このように構成すると、撮像手段は把手部に設けた振動源の振動を直接受けないと共に、障害物を確実に特定することができる。
【発明の効果】
【0020】
本願発明は、手押し車Xを押す利用者としての視覚障碍者を、振動源を利用して安全に誘導することができる。特に、視覚障碍者に対して、進行方向のみならず、少なくとも左右いずれかの方向にも障害物があるかを知らせることができる、歩道を直線的に進行する方向に存在する運搬可能でかつ一般的に歩行する際に邪魔になる立体的形状物に衝突しないようにすることができる等の優れた効果がある。また、好ましい実施形態は、撮像手段を縦長状箱体の本体部に設け、一方、振動源を把手部のパイプ状握り部分の内部に全部が設けたことから、撮像手段は把手部に設けた振動源の振動を直接受けないと共に、障害物を確実に特定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1乃至
図10は本発明の第1実施形態を示す各説明図。
図11乃至
図14は本発明の第2実施形態を示す各説明図。
図15乃至
図18は本発明の第3実施形態を示す各説明図。
【
図1】第1実施形態の視覚障碍者用手押し車の外観構成を示す斜視図(右側壁が見える)。
【
図2】視覚障碍者用手押し車の外観構成を示す斜視図(左側壁が見える)。
【
図3】撮像手段、制御部、振動源を概略的に示したブロック図。
【
図4】画像処理部の制御の一例を示す詳細なブロック図。
【
図5】(イ)、(ロ)、(ハ)は、振動源の振動の態様を示す説明図。
【
図6】制御部と振動源(電気的振動部材)との接続を示すブロック図。
【
図10】障害物を特定する場合の一例を示す説明図。
【
図13】振動源の具体的構成を示す正面視からの概略断面説明図。
【
図14】振動源の具体的構成を示す平面視からの概略断面説明図。
【
図15】第3実施形態の視覚障碍者用手押し車の外観構成を示す斜視図(右側壁が見える)。
【
図16】視覚障碍者用手押し車の外観構成を示す斜視図(左側壁が見える)。
【
図17】第1の撮像手段11Aを例とした概略的なブロック図(第2の撮像手段 12A、第3の撮像手段13Aも同様である)。
【
図18】画像処理部の制御の一例を示す詳細なブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1乃至
図10は本発明の第1実施形態を示す視覚障碍者用手押し車(以下、ここでは「手押し車」という)Xで、この手押し車Xの外観構成は、
図1及び
図2に示すとおりである。例えば
図1を基準にすると、1はベース板、2はベース板の四隅にそれぞれ設けられた走行車輪、3は本体部、4は本体部の背面部の上端部に一体的に設けられた枠状の把手部である。ベース板1は矩形又は方形状に形成されている。走行車輪2は、例えば自在キャスターで、図示しない歩行者が安全に手押し車Xを押して歩くことができるように合計4個設けられている。本体部3は、通称、「キャリーケース」と称される上端開口の縦長状箱体であり、例えば右側に見える前壁3aの中央部よりの部位から下端部にかけて操作片付きスライダー5及び下向きコ字形状の務歯6を含む開閉手段7を有している。
【0023】
特に図示しないが、前記操作片付きスライダー5を操作して前記務歯6を開くと、前記前壁3aの一部が開口するので、本体部3に収納済みの買い物袋、腰掛用椅子、ペットボトル等を任意に取り出すことができる。また、手前に見える右側壁3bの下端部の外面には、折り畳み傘、小物などを収納することができるポケット状収納部8が設けられている。
【0024】
さて、11は前記本体部3の前壁3aの上端部に取付け板を介して固定的に設けたX軸方向の第1の撮像手段(半導体イメージセンサ)、一方、12は
図1で示すように前記本体部3の右側壁3bの上端部に取付け板を介して固定的に設けたY軸(Y1軸)方向の第2の撮像手段(半導体イメージセンサ)、さらに、
図2で示すように、13は前記本体部3の左側壁3cの上端部に取付け板を介して固定的に設けたY軸(Y2軸)方向の第3の撮像手段(半導体イメージセンサ)である。
【0025】
このように、実施形態では、例えば本体部3は縦長状箱体のキャリーケースであり、この縦長状箱体の前壁3aの外壁面上端部の略中央部に第1の撮像手段11が設けられ、さらに、前記前壁3aと略直交する左右の側壁3b、3cの各外壁面上端部に左右一対の第2の撮像手段12、13が設けられている。
【0026】
ここで「X軸方向」とは、手押し車Xを押す利用者(歩行者)から見て、本体部3の前壁3aにX軸の軸線上の原点があり、該前壁3aと直交して該前壁よりも前方に向く方向に第1の撮像手段11のレンズが向いていることを意味する。
【0027】
また、「Y軸方向」とは、同様に前記利用者から見て、X軸と直交するY軸(Y1軸、Y2軸)の軸線上の原点が、前記左右の両側壁3b、3cにそれぞれ原点があり、例えば右側壁3bの外方向に第2撮像手段12のレンズが向いていることを意味する。したがって、同じY軸方向であっても、
図2の左側壁3cと直交して該左側壁の外方向に他方の第2の撮像手段13のレンズが向いている。
【0028】
ここで「撮像手段の機能」について簡単に説明すると、撮像手段は、いわゆる半導体イメージセンサであり、視覚障碍者、高齢者等の利用者が把手部を握って、かつ、手押し車を押しながら誘導路を歩行中、少なくとも該手押し車の前方に、例えば被写体の周期的な撮像中に、前記利用者が歩行する前記誘導路上に存在する運搬可能な箱体、固定ポール、階段、放置自転車、交差点の信号機、手押し車に向かってくる自転車等の障害物、をセンサーが検出し、この障害物の撮像を検出信号として画像処理部に送る。実施形態では、撮像手段は、いわゆるカラーのデジタルカメラである。
【0029】
次に、前記ベース板1の下面又は前記本体部3の底部の内面(実施形態)に、携帯型のバッテリー15が取り出し可能に設置されている。携帯型のバッテリー15は充電用入力端子部15aを有し、図示しない充電器を介して商業用電源に接続可能である。
【0030】
ところで、実施形態では、前記把手部4は、略水平状態のパイプ状握り部分4aと、このパイプ状握り部分の左右端部から下方に延びる左右一対の脚部分4b、4cと、これらの脚部分を連結する水平の連結パイプ4dとなっている。そして、前記連結パイプ4dに、後述する制御部16が支持箱17を介して固定的に設けられている。
【0031】
しかして、前記制御部16の設置個所は、把手部4を構成する連結パイプ4dに限定するものではなく、例えば下向き凹所(下部収納部)を有するベース板1の内壁面又は本体部3の底部の内面の適宜箇所のいずれであっても良い。なお、携帯型のバッテリー15と制御部16は適宜な接続端子を介して電気的に接続可能である。
【0032】
次に21は、把手部4のパイプ状握り部分4aの略中央部に設けられた第1の振動源、22は把手部4のパイプ状右脚部分4bの上端部に設けられた第2の振動源、そして、23は前記第2の振動源とは反対側であるパイプ状左脚部分4bの上端部に設けられた第3の振動源である。
【0033】
上記振動源は一つでも良いが、実施形態では、合計3個適宜箇所に設置している。いずれの振動源21、22、23も、制御部16からの報知指令信号により、障害物Oの存在を使用者に触覚で感知しうるように振動を発生させる。またいずれの振動源21、22、23も手押し車Xの適宜箇所に設けられた携帯型のバッテリー15を電源として駆動する。
【0034】
次に
図3は、3個の撮像手段11、12、13と、制御部16、記憶部26等を含む画像処理部24と、該画像処理部によって制御される3個の振動源21、22、23を概略的に示したブロック図である。なお、画像処理部24は、コンピューターシステムであるから、入力部28、29、31、制御部16、図示しない計時手段(タイマー)、記憶部26、出力部30を有する。
【0035】
また
図4は画像処理部24の制御態様の一例を示す詳細なブロック図である。これらの図は、本願発明の手押し車Xは、少なくとも画素処理手段25を含み、その全体の外観構成が、本体部3と、この本体部の下端部に一体的に設けられた走行車輪2と、前記本体部に一体的に設けられた把手部4とを有することを示している。
【0036】
そして、周囲の障害物Oを含む被写体の画像信号は周知のベイヤー方式(緑市松方式)と称される色フィルタのマトリックス状半導体画素dであり、前記手押し車Xは、前記画素の内、少なくとも方形又は矩形状ブロックの分割された単数又は複数の画素を取得する、少なくとも一つの撮像手段11と、この撮像手段11が取得した画素情報を処理する画素処理手段25と、この画素処理手段によって処理された前記被写体情報を記録する記憶部26と、前記本体部3又は把手部4のいずれかに設けられかつ前記画素処理手段25から出力された処理情報の中に、前記障害物Oが含む危険信号を受け取ったときに報知指令信号を出力する制御部16と、前記把手部4の握り部分4aに設けられかつ前記報知指令信号に基づいて前記障害物Oの存在を使用者(歩行者)に触覚で感知し得るように振動を発生させる少なくしも一つ振動源21を備えるものであることを示している。
【0037】
そこで、
図4を参照にして、さらに、本発明の画像処理部24の制御の具体的構成を説明する。
図4に於いて、まず符号Oは、例えば視覚障碍者が手押し車Xの把手部4の握り部分4aを掴んで歩道を歩く際に、歩行の邪魔になる箱、放置自転車等の立体的形状物、誘導路の階段、誘導路に設けられた固定ポール、視覚障碍者が交差点で横断歩道を渡る際に交差点に関する信号機の信号情報(例えば黄色や赤信号の状態)等の障害物である。
【0038】
したがって、ここで「障害物O」とは、少なくとも、手押し車Xの利用者が歩道を直線的に進行する方向に存在する運搬可能でかつ一般的に歩行する際に邪魔になる立体的形状物、交差点に関する信号機の信号情報、手押し車に向かってくる自転車のいずれかが含まれる。
【0039】
次に符号11、12、13は、
図1及び
図2で説明した第1乃至第3の撮像手段である。ここで、握り部分4aの中央部の内部に固定的に取り付けられた第1の撮像手段を例にして説明する。第2・第3の撮像手段12、13の機能は、前記第1の撮像手段11と同一なので、その説明を援用する。
【0040】
第1の撮像手段11は、「いわゆるデジカメ」と称されるカラーのデジタルカメラである。したがって、この第1の撮像手段11は、方向(被写体に向ける機能)a、測光(被写体の明度差を図る光学系の機能)b、測距(被写体と焦点との距離を決定する機能)c、非常に多数のマトリックス状画素(受光面の撮像素子と、この撮像素子に積層される色フィルタ)d、広角(被写体を捉える角度を決定する機能)、その他輝度に関するrgb係数の計算式等を有している。前記画素dは白黒でも良いが、実施形態では、カラーのものを採用している。「いわばカラーのCCDセンサデジカメ、又はカラーのCMOSセンサデジカメ」である。
【0041】
次に符号25は、第1の撮像手段11が取得した画素情報を処理する画素処理手段である。また符号26は、少なくとも前記画素処理手段25によって処理された前記被写体情報を一時的記録する記憶部である。この記憶部26は、いわゆるROMとRAMの両方を備えている。
【0042】
したがって、記憶部26には、例えばカーナビゲーションと同様の地図情報26aのみならず、方向a・測光b・測距c等に関する閾値情報26b、その他、R(赤)、G(緑)、B(青)の輝度デー(hcd)にそれぞれ紐付けされた輝度データ(hcd)としての基準rgb係数、又は該輝度データとは関係がない前記R(赤)、G(緑)、B(青)の各色相データ(際立った波長の範囲と角度)、輝度データ(hcd)や色相データに関する計算式情報等が記録されている。また記憶部26には、後述する振動プログラムPが格納されている。
【0043】
次に符号27は、記憶部26に記憶されている情報26a、26b等と前記画素dによる被写体情報とを比較して障害物Oの有無を決定する判定手段である。さらに、符号28は、人口衛星からの電波を受信するGPS受信機、29は利用者の音声を入力する音声入力部、30は補助的な報知手段として、障害物Oの内容(例えば前方に箱体があります、前方に放置自転車があります、信号機が黄色になりました、信号機が赤色になりました等)を知らせる音声出力部である。前記音声出力部30は把手部の適宜箇所に設けられ、目的地の情報を音声(例えばOOOスーパーへ行く、OO駅へ行くなど)で入力することができる。
【0044】
しかして、前述の画素処理手段25は、例えばrgb係数決定手段25aと、輝度決定手段25bとを有する。すなわち、該画素処理手段25は、障害物Oが交差点に関する信号機である場合には、第1の撮像手段11の多数の画素dの各々に対してrgb係数を決定するrgb係数決定手段25aと、前記撮像手段11からのRGBデータを受け取って、前記rgb係数決定手段25aによって決定された対応する画素に対して、前述の記憶部26に格納されているrgb係数の計算式を適用、又は係数テーブルを選択し、かつ、該対応する画素に対する、少なくとも赤信号の輝度を決定する輝度決定手段25bとを有している。この場合、黄色信号の輝度と赤信号の輝度とを比較して信号の区別を推定する。
【0045】
ところで、例えば撮像手段11は、レンズと共にカラーイメージセンサを備え、前記カラーイメージセンサは、例えば、CCD又はCMOSの半導体イメージセンサを有している。このカラーイメージセンサは、ベイヤー方式、3色ストライプ方式、Gストライプ方式等であり、好ましくは単板式であり、所定枠状に非常に多数の画素が二次元マトリクス状に配列された撮像素子と、該撮像素子の一側面に設けられ、かつ、前記撮像素子に対応するR(赤)、G(緑)、B(青)を多数有する色要素フィルタアレイとから構成されている。
【0046】
そして、撮像手段から出力された「何も処理しない生のデータ」は、変換回路を有する前処理部に送信される。現在は技術が進歩しているので、カメラのレンズを通過して半導体CCD等で撮影されたアナログの撮像(画像)情報を、単にデジタルデータに変換しただけでは、所望するデジタル画像情報が生まれない。そこで、いわゆるデジカメの世界では、画像処理エンジンによって様々な演算処理を加えて、人が見ることができるカラー画像にすることは周知技術である。
【0047】
そこで、本実施形態では、生のデータ(いわゆるRAWデータ)は、撮像手段で、所望する「各色相情報(デジタルRGBデータ)」に生成し、この生成された画像情報に含まれる色温度情報等に基づき、制御部16は色温度情報等を処理する。
【0048】
付言すると、例えば制御部16に前述した輝度決定手段25bから情報が入ってくると、判定手段27は、前記記憶部26に格納されている「赤色の輝度」と「黄色の輝度」の二つの間の輝度情報と比較して、現時点での障害物Oは直前の信号機であると共に、該信号機の信号は黄色から赤色に変わったこと(変化点、或いは勾配のある変曲線)を判断する。この変化点或いは変曲線に基づいて、制御部16は、主たる報知手段としての振動源21や補助的な音声出力部30にそれぞれ駆動信号を出力する。
【0049】
なお、実施形態では、判定手段27は、例えばR(赤)、G(緑)、B(青)の各データ内の選択した2つのデータの間の「対比」に基づいて「黄色」と「青色」の輝度を判別しているが、前記2つのデータの間の「差(-)の差方式」に基づいて輝度の判別をしても良い。
【0050】
さらに付言すると、制御部16は、画素処理手段25から出力された処理情報の中に、前記障害物Oが含む危険信号ありとの判定手段27の判定結果に基づき、少なくとも第1の振動源21に対して報知指令信号(駆動信号)を出力する。そして、実施形態では、制御部は、少なくとも一つの振動源21に対して、記憶部26に記録された振動プログラムPに基づいて複数種類の異なる振動を発生させるように制御する(
図5)。
【0051】
なお、符号31は操作部(把手部)のスイッチである。スイッチのON/OFFは、例えば把手部4の握り部分4aを握ると静電式のものが「ON」となり、一方、前記握り部分4aから手を離すと「OFF」になるものが採用されている。
【0052】
ところで、好ましい1実施形態では、合計3つの撮像手段11、12、13(以下、簡単に「センサー」ともいう)が存在するので、制御部16は、どの方向に障害物Oがあるかを、どのセンサー11、12、13から検出信号が出力されたかを利用者に報知する。
付言すると、例えば第1乃至第3の振動源(バイブレータ)21、22、23の振動態様を、前記センサー11、12、13によって異ならせることにより、利用者に障害物の存在方向を報知することができる。
【0053】
具体的には、
図5に示すように制御部16はセンサー11、12、13ごとに変調信号(例えば異なる音波)を作成し、障害物Oを検出したセンサー11、12、13に応じた報知指令信号を振動源(バイブレータ)21、22、23に送信する。もちろん、予め所定態様の報知指令信号を作成して記憶部26格納しておき、前記センサー11、12、13の検出信号に応じて前記記憶部26から所定形態の報知指令信号を読み出すようにしてもよい(好ましい1実施形態)。
【0054】
しかして、
図5(イ)に示すように、一定周期内で比較的短い振動が5回生じるものをX軸方向のセンサー11に、また、
図5(ロ)で示すように、比較的長い振動が2回生じるものを、右側壁側のY1軸方向のセンサー12に、さらに、
図5(ハ)で示すように、
図5(イ)に示す振動態様と
図5(ロ)に示す振動態様の中間の振動態様のものを、左側壁側のY2軸方向のセンサー13に割り付けている。
【0055】
したがって、制御部16は、各センサー11、12、13に紐付けされた異なる振動態様で各振動源21、22、23を制御するので、把手部分4aを握っている利用者は、前記振動の伝播態様を判断することにより、簡単に前方、左側、右側のいずれかに障害物Oが存在するかを知ることができる。その故に、手押し車Xは、利用者に安全な道案内をしてくれる。なお、この場合好ましい1実施形態として、制御部は、一つの振動源に対して、複数種類の異なる振動を発生させるように制御しても良い。
【0056】
次に
図6は、バッテリー15と、制御部16と、振動源(例えば電気的振動部材)21、22、23との接続を示すブロック図である。
図6に於いて、15はバッテリー、16は制御部、33は前記制御部からの知報知指令信号を受け取る駆動部、34は前記駆動部33からの駆動信号を受け取る音波素子、35は内側に弧状の外表面35aを有する所定形状の音波照射台座、36は前記弧状の外表面35aを全体的に覆うカバー状振動媒体である。各振動源21、22、23の構造は特に問わないが、望ましくは、接着層を有する長尺状の取付け板38を介して把手部4a、4b、4cの各内部にそれぞれ設けられ、かつ、音波素子34を有すると共に、弧状の外表面35aを有する音波照射台座35と、この音波照射台座の前記弧状の外表面35aを全体的に覆うカバー状振動媒体36を含む電気的振動部材である。
【0057】
なお、実施形態では、長尺状の取付け板38を介して各振動源21、22、23が把手部4a、4b、4cの各内部に固定されるが、各振動源を把手部の各内部に組み込む場合には、把手部分4aにパイプ状の取付け体を介して任意の位置に収納するのが望ましい。もちろん、各振動源21、22、23を把手部4a、4b、4cの各外部に固定しても良い。
【0058】
さらに付言すると、電気的振動部材である振動源21(他の振動源22、23も同様)は、
図6で示すように、音波照射台座35の底部の外壁面に一体的に設けられた板状の音波素子体34を含む。この音波素子体34は音波を発射し得る。前記音波照射台座35は金属製のものが望ましく、垂直断面の形状は、例えば略矩形状である。そして、この音波照射台座35の上方に描いている部材がキャップ状に形成されたカバー状振動媒体36である。
【0059】
しかして、音波素子体34は、圧電素子(ピエゾ素子)が用いられている。周知のように、圧電素子とは、強誘電体の一種で、振動や圧力などの力が加わると電圧が発生し、また逆に電圧が加えると音波を発生するもので、例えば超音波モータ用圧電素子、圧電バイモルフ素子、積層電圧アクチュエータ、高周波用振動子等として用いられている。
音波素子体34は、発明の課題を達成するために、その大きさや断面形状が任意に設計変更し得るものである。
【0060】
実施形態では、音波素子体34は、
図6で示すように、例えば円盤状に加工され、かつ三元系金属酸化物であるチタン酸鉛とジルコン酸鉛の結晶(「チタン酸ジルコン酸鉛」と称されている)の電圧素子本体と、互いに厚み方向に対向する両面(上面と下面)にそれぞれ固定された薄板状、あるいはフイルム状の第1電極及び第2電極と、これらの第1電極及び第2電極にそれぞれ接続された一対のケーブルとから構成され、前記電極に同じ電圧が同時にかかると、前記第1電極及び第2電極が周波数に対応して変動し、その結果、音波を少なくとも音波照射台座35に向かって発射する。
【0061】
なお、
図7は振動の一例を示すブロック図、一方、
図8は振動の他の例を示すブロック図である。これらの図は、第1の駆動源11に対して、異なる複数の振動を与えることができる旨を示している。すなわち、異なる振動によって、立体的形状物になのか、階段なのか、ポールなのか、信号機なのかを理解することができる。したがって、各障害物は、その種類によってそれぞれ異なる振動に紐付けされている。
【0062】
例えば
図5の(イ)と(ロ)の場合をそれぞれ模式的に示したものである。したがって、特に図示しないが、
図5の(ハ)の場合にも、前記(イ)と(ロ)の場合と同様である。
図7及び
図8に於いて、符号41は間欠発信器、
図7の符号Hは超音波を、例えば0.5秒ごとに出力する旨、符号Sは高周波信号の間欠出力である旨を簡単に示す。また、
図8の符号Lは超音波を、例えば1秒ごとに出力する旨、符号S1は低周波信号の間欠出力である旨を簡単に示す。
【0063】
図9を参照にしてフローチャートの一例を簡単に説明する。ステップS1は把手部4の握り部分4aの状態の判断するもので、利用者が握り部分4aを握ると、スイッチが「ON」になる。ステップS2は利用者が音声出力部30に目的地の情報を音声で入力したか否かを判断する。利用者が音声出力部30に目的地の情報を入力すると、カーナビゲーションシステムと同様に、制御部16はGPS受信機がチャッチした現在位置情報と前記目的地情報に基づいて、歩道経路を求め、かつ、歩道経路を決定する。歩道経路が決定すると、制御部16は、近くの主要道路を基準にて利用者が歩くべき誘導経路情報を、いわゆるマッピング手段を介して歩行の速度に合わせ、逐一記憶部26から取得する。
【0064】
ステップS3は現在進行形の歩道経路上に、本来存在しない筈の障害物Oが存在するか否かの判断である。制御部16は障害物Oが存在する場合、報知指令信号を出力する。この時、各センサー11、12、13に紐付けされた報知指令信号によって振動の種類が決定される(
図5参照)。ステップS4は各センサー11、12、13に対応する振動源が起動したか否かを判断する。そして、利用者は握り部分4aを握る、或いは握っていると推定できる時間の間、振動源は駆動し続け、障害物Oが存在しなくなった場合、又はステップS5のように、利用者の手が握り部分4aから所定時間(例えば10秒)経過した場合に、振動源が停止する。そして、振動源が停止すると、S1に戻る。
【0065】
最後に、
図10は障害物を特定する場合の一例を示す説明図である。ここでは簡単に説明する。前述したように、障害物Oを特定する場合には、2つの方法がある。一つは画素処理手段から取得した特定範囲に含まれるR(赤)、G(緑)、B(青)の輝度データ(hcd)にもっぱら重視する手法である。他の一つは、前記輝度データ(hcd)のrgb係数を無視して、前記R(赤)、G(緑)、B(青)の各色相データ(際立った波長の範囲と角度)にもっぱら重視する手法である。ここでは、後者の手法により、障害物Oを特定する。
【0066】
まず、ステップS11は、撮像手段が取得した画素情報(カラー写真のようなもの)の画面内から、障害物を特定するために必要な特定範囲の画素を切り出す。例えば特定範囲を、所要の横長矩形状の枠線としたのが、いわば「切り出しエリア(特定範囲)」である。
【0067】
次に、ステップS12は、前記所要の横長矩形状の枠線の中から、縦横2画素を一つの単位(一画素)として、複数個の画素単位に分類する。いわば、特定範囲内における水平方向と垂直方向の画素単位のブロック分割式分類である。
【0068】
次に、一画素には、必ず、R(赤)、G(緑)、B(青)の色相データ(際立った波長の範囲と角度)が含まれているので、複数個の画素の各R色相、G色相、B色相をそれぞれ特定する(ステップS13)。
【0069】
そして、前記各R色相、G色相、B色相の特定に基づき、障害物Oの明暗境界曲線を求める(ステップS14)。この場合、明暗境界曲線の態様に紐付けされた明暗境界曲線テーブルが記憶部26に記憶されており、判定手段27が、前記記憶部26に記憶され、かつ、選択された一つの明暗境界曲線テーブルと求められた当該障害物Oの明暗境界曲線とが略一致したならば、「OOO障害物」と判定する。
【0070】
制御部16は、前記判定手段27の判定に基づき、振動源21(実施形態によっては振動源22又は振動源23のいずれか一方)対して、報知指令信号を送信する。そうすると、前記振動源21は、障害物Oの存在を使用者に触覚で感知し得るように把手部4を振動させる。
【実施例】
【0071】
第1実施形態に於いて、第1乃至第3の振動源21、22、23の設置個所は、把手部4の内部又は外部のいずれであっても良い。内部に取付ける場合には、取付け板38の長さは、握り部分4aや脚部分4b、4cの長さを考慮に入れて適宜に決める。
この欄では、
図11乃至
図14を参照にして第2実施形態及び
図15乃至
図18を参照にして第3実施形態を説明する。なお、同一構成には、同一の符号を付して重複する説明を省略する。
【0072】
まず
図11は第2実施形態の要部(把手部に設けられた振動源)の外観構成を示す斜視図である。
図13及び
図14かは、振動源21A、22A、23Aの具板的構成を示す。各振動源は同一の構成であり、第1実施形態と同様に回転数及び回転方向を変えて、複数種類の振動を発生される。
【0073】
この第2実施形態の振動源21A、22A、23Aが前記第1実施形態の振動源と主に異なる点は、出力軸に偏心回転体36Aを有する駆動モータにしたことである。例えば第1の振動源21Aは、弁当箱状のケース本体45の内部に前記駆動モータが垂直状態に固定され、振動媒体としての偏心回転体36Aが駆動モータ46の出力軸47に固定されている。振動源をこのように変更しても、第1実施形態と同様に発明の主たる課題(手押し車Xを押す視覚障碍者を、振動源を利用して安全に誘導すること)を達成することができる。
【0074】
なお、各実施形態では、「振動源」を「把手部」に設けたことが特徴事項であるから、さらに、公知技術、例えば速度センサー、速度センサーが検知する検知信号に対応するブレーキ手段、ブレーキ手段を制御する速度制御部等を加味しても良い(利用発明)。加えて、人工知能の技術が応用可能になった現在、画像処理部24を、いわゆるAI技術に置換して処理しても良い(利用発明)。
【0075】
最後に、
図15乃至
図18を参照にして、第3実施形態を説明する。第3実施形態が前記第1実施形態と主に異なる点は、(a)乃至(e)である。すなわち、(a)各撮像手段11A、12A、13Aのレンズ11a、11b、12a、12b、13a、13bが、それぞれ一対設けられている点である。例えば
図17を参照にすると、第1の撮像手段11Aであるデジタルビデオの矩形状フレームに、第1レンズ11aと、該第1レンズに平行して第2レンズ11bが設けられている。なお、第2の撮像手段12A及び第3の撮像手段13Aの各レンズ12a、12b、13a、13bも第1の撮像手段11Aと同様である。
【0076】
(b)また、画素(イメージセンサ)dを、前記レンズ11a、11bに対応するように一対設けたことである。なお、この場合、前記レンズ11a、11bから入ってくる複数の被写体をそれぞれ撮像でするものであれば、前記画素dを1つの大きな矩形状枠にしても良い。
【0077】
(c)また、
図17で示すように、第1の撮像手段11Aと画像処理部(信号処理部)24との間に前処理部51を設けたことである。この前処理部51は、サンプリング回路、補正回路、ADコンバータ回路等を備え、撮像素子による撮像画像の雑音を除去する。したがって、前処理部51は、例えばいわゆるADC回路では、いわゆるAGCからのアナログ信号を、デジタル信号を変換する信号変換機能を有する。
【0078】
(d)さらに、画素処理手段25Aは、視差演算部25aと共に距離算出部25bを有る点で、この画素処理手段25Aの前記視差演算部25aにより、前記レンズ11a、11bから入ってくる複数の被写体の視差情報を算出し、かつ、視差演算部25aで算出された視差情報に基づいて前記複数の被写体の距離を前記距離算出部25bする点である。
【0079】
(e)そして、前記算出結果に基づいて、判定手段27Aは、記憶部26Aに記録されている可視光用パラメータ、近赤外線パラメータ等のパラメータ26bを参照して障害物Oの内容を特定する。
【0080】
さらに、詳細に説明する。押し車X1は、複数の撮像手段11A、12A、13Aと、前処理部51と、画像処理部(信号処理部)24Aと、少なくとも一つの報知手段21、22、23等を備えている。
【0081】
前記第1の撮像手段11Aは、例えば
図15で示すように、複数のレンズ11a、11bと、複数の画素(撮像素子、フィルタ)dを備えている。複数のレンズ11a、11bは、実施形態では、左右一対のレンズ11a、11bである。これらのレンズ11a、11bの光軸は互いにほぼ平行になるようにフレームに一体的に配置されている。
【0082】
したがって、複数の画素(撮像素子、フィルタ)dは、前記レンズ11a、11bからの2つの被写体を撮像する。複数の画素dはCCD、又は、CMOSである。複数の画素dの受光面は、一方の領域dと他方の領域dに区分けされている。
【0083】
ここで、説明の便宜上、
図17の左側のレンズ11aを「第1レンズ」、右側のレンズ11bを「第2レンズ」とする。
【0084】
しかして、前記第1レンズ11aは一方の領域dで第1被写体を結像し、一方、前記第2レンズ11bは、他方の領域dで前記第1被写体と異なる第2被写体を結像する。
【0085】
付言すると、例えば第1レンズ11aは6メートル先(遠距離)の第1被写体を、一方、第2レンズ11bは3メートル先(近距離)の第2被写体を撮る。複数の画素dの複合フィルタは、異なる複数の透過波長特性にそれぞれ対応する複数のフィルタ要素が順次配列されて構成されている。複合フィルタは撮像素子上に設けられ、これにより、レンズ11a、11b及び撮像素子の間に位置している。
【0086】
複合フィルタの図面については割愛するが、例えば複合フィルタは、可視光透過フィルタ要素および非可視光透過フィルタ要素を有している。これらフィルタ要素を構成する各フィルタ要素が互い違いに千鳥模様状又縞模様状のいずれかに配列されている。実施形態では非可視光が赤外光である。
【0087】
一対のレンズ11a、11bがそれぞれ結像する像は、複合フィルタの各フィルタ要素を介して、撮像素子により撮像される。また、上述の通り、撮像素子の一方の領域にてレンズ11aが結像する像が撮像され、撮像素子の他方の領域にてレンズ11bが結像する像が撮像される。このとき、各レンズ11a、11bが結像する像の光の各々は、複合フィルタのフィルタ要素の双方を透過して、撮像素子の受光面に入射する。
【0088】
前述した前処理部51は、前記結像した像の光の、「可視光」および「非可視光」の各波長に対応した複数の画像を得て、これらの画像を、画像処理部24Aを送る。
【0089】
画像処理部24Aは、特に図示しないが、分離補正部から出力される各画像に対して画像信号処理を行う。なお、画像処理部24Aには、色分離、ホワイトバランス、色差信号の生成、ガンマ(γ)補正、アパーチャ処理、出力クリップ処理、同時化、キャリブレーション等が含まれる。
【0090】
さらに、実施形態では、測距演算部として、「視差算出部25a」と「距離算出部25b」をそれぞれ備えている。視差算出部25aは、撮像素子で撮像される画像から、各レンズ11a、11bが結像する2つの像間の視差情報を算出する。
【0091】
具体的には、視差算出部25aは、フィルタ要素の各々を介して得られた可視光画像および近赤外光画像から視差情報を算出する。一方、距離算出部25bは、各視差情報に基づいて、被写体までの距離情報を算出する。
【0092】
この時、測距演算部は、記憶部26Aに記録されている制御用のパラメータ26bに基づいて各処理を行う。これにより、可視光や近赤外光といった透過波長特性に合わせた視差情報および距離情報の算出を行うことができる。
【0093】
前記制御用のパラメータ26bには、可視光用パラメータ、近赤外線用パラメータが含まれる。また制御用のパラメータ26bは、例えばシャッタースピード、露光時間、視差測定範囲、距離測定範囲等に関する設定値が数値化されて設定されている。なお、駆動処理部52は、垂直転送駆動回路やタイミングジェネレータ回路等により構成されている。
【0094】
以上のように、この実施形態は、撮像素子により撮像された画像を、複数のフィルタ要素の各々を介して得られた画像毎に分離する図示しない分離補正部を備えたので、撮像素子により撮像された画像を、各透過波長特性に対応した画像毎に分離することができる。
また、可視光透過フィルタ要素と非可視光透過フィルタ要素からなる複合フィルタを介して、撮像素子より複数の像を撮像するので、可視光および非可視光の光学特性を持った画像を一の撮像素子から同時に得ることができる。
【0095】
したがって、画像処理部24Aは、可視光画像および近赤外光画像のそれぞれに対して、各画像に適した画像処理を行い、また視差算出部25aおよび距離算出部25bは、可視光画像および近赤外光画像のそれぞれから視差情報および距離情報を算出することから、障害物Oの確実に特定することができる。
【0096】
それ故に、この実施形態は、手押し車X1に於いて、本体部の前壁に設けられかつ光軸が互いに略平行である複数のレンズと、異なる複数の透過波長特性にそれぞれ対応する複数のフィルタ要素が順次配列された複合フィルタと、前記複数のレンズそれぞれ結像する複数の像を、前記複合フィルタを介して撮像する一の撮像素子で撮像された前記複数の画像を用いて測距演算を行う測距演算部とを備え、前記測距演算部は、前記複数のフィルタ要素の各々を介して得られた複数の画像から、前記複数の透過波長特性にそれぞれ対応する複数の視差情報を算出し、もって、手押し車X1の前方に存在する障害物Oを特定するものである。
【0097】
このように構成しても、第1実施形態と同様に、発明の主たる課題を達成することができると共に、振動源の振動を直接受けず、手押し車X1の前方に存在する障害物Oを確実に特定することができる。
【0098】
なお、障害物Oが信号機である場合には、信号が青になり、利用者が道路を渡っている間は、手元の振動源(21、21A)の振動が継続しているのが望ましい。また、その時の振動のヘルツは、例えば1.5から2へルツが好ましい。また障害物Oが段差の時は、手元の振動源(21、21A)の振動は、例えばドンドン、という感じが判りやすい。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明は、視覚に不便な視覚障碍者に適する視覚障碍者用手押し車として利用される。
【符号の説明】
【0100】
X、X1…視覚障碍者用手押し車、
3…本体部、
4…把手部、
O…障害物、
d…多数の画素、
11、11A、12、12A、13、13A…撮像手段、
16…制御部、
21、21A…第1の振動源、
22、22A…第2の振動源、
23、23A…第3の振動源、
24、24A…画像処理部、
25、25A…画素処理手段、
26、26A…記憶部、
27、27A…判定手段、
51…前処理部。