(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-07
(45)【発行日】2022-07-15
(54)【発明の名称】炭素繊維含有樹脂押出発泡成形用組成物、これを用いた発泡成形品およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 9/04 20060101AFI20220708BHJP
B29C 44/00 20060101ALI20220708BHJP
C08J 5/04 20060101ALI20220708BHJP
C08L 67/00 20060101ALI20220708BHJP
B29K 67/00 20060101ALN20220708BHJP
B29K 105/12 20060101ALN20220708BHJP
【FI】
C08J9/04 103
B29C44/00 E
C08J5/04 CFD
C08L67/00
B29K67:00
B29K105:12
(21)【出願番号】P 2018243232
(22)【出願日】2018-12-26
【審査請求日】2021-08-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000001096
【氏名又は名称】倉敷紡績株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】特許業務法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】一瀬 勝哉
(72)【発明者】
【氏名】横田 克彦
【審査官】芦原 ゆりか
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-199730(JP,A)
【文献】特開2005-36121(JP,A)
【文献】特表2001-502188(JP,A)
【文献】特開2009-167297(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 9/00-9/42
B29B 11/16;15/08-15/14
C08J 5/04-5/10,5/24
C08K
C08L
B29C 44/00-44/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル樹脂、炭素繊維および発泡剤を含む炭素繊維含有樹脂押出発泡成形用組成物であって、
前記組成物は、吸湿剤をさらに含むことを特徴とする炭素繊維含有樹脂押出発泡成形用組成物。
【請求項2】
前記吸湿剤は、酸化カルシウムおよびカルボジイミド化合物から選ばれる少なくとも一つである請求項1に記載の炭素繊維含有樹脂押出発泡成形用組成物。
【請求項3】
前記吸湿剤の添加割合は、ポリエステル樹脂と炭素繊維の合計100質量部に対して0.1~10質量部である請求項1又は2に記載の炭素繊維強含有樹脂押出発泡成形用組成物。
【請求項4】
前記炭素繊維は、長繊維炭素繊維をカットした、長さが2~20mmのチョップである請求項1~3のいずれかに記載の炭素繊維含有樹脂押出発泡成形用組成物。
【請求項5】
前記ポリエステル樹脂は、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、これらのポリマーを主成分とする共重合体、およびこれらの混合物から選ばれる少なくとも一つの樹脂である請求項1~4のいずれかに記載の炭素繊維含有樹脂押出発泡成形用組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の炭素繊維含有樹脂押出発泡成形用組成物を使用した発泡成形品であって、
ポリエステル樹脂、炭素繊維および吸湿剤を含み、発泡倍率が1.1~5倍であることを特徴とする炭素繊維含有樹脂押出発泡成形品。
【請求項7】
請求項6に記載の炭素繊維含有樹脂押出発泡成形品の製造方法であって、
ポリエステル樹脂、炭素繊維、発泡剤および吸湿剤を混合する混合工程と、
得られた混合物を溶融混練し、金型から押し出して発泡させる発泡工程と、
前記金型から押し出された中間品を冷却する冷却工程と、
前記冷却した中間品を所定の長さにカットするカット工程を含むことを特徴とする炭素繊維含有樹脂押出発泡成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維含有樹脂押出発泡成形用組成物、これを用いた発泡成形品およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル樹脂と炭素繊維と発泡剤を含む炭素繊維含有樹脂押出発泡成形用組成物を使用した発泡成形品は、従来から建築材料、化粧板、ベンチ、柵、土木材料、船舶材料、電子・電機材料等様々な用途に使われている。特許文献1には、ポリエステルの末端官能基をエポキシ樹脂系結合剤と有機酸金属系触媒を使用して、反応押出法で改質しながら炭素繊維と混練りし、ペレット化し、発泡成形体を製造することが提案されている。特許文献2には、ポリエステル樹脂と炭素繊維と発泡剤を混合して射出発泡成形することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-199730号公報
【文献】特開2018-070855号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、前記従来の技術を用い、押出発泡成形を試みた場合、押出発泡成形物がその状態を維持できず、引き取り途中で切れてしまい、押出成形が極めて困難であるという問題があった。
【0005】
本発明は、上記問題を解決し、押出発泡成形特に発泡倍率が1.1~5倍程度の低発泡押出成形が可能な炭素繊維含有樹脂押出発泡成形用組成物、これを用いた発泡成形品およびその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の炭素繊維含有樹脂押出発泡成形用組成物は、ポリエステル樹脂、炭素繊維および発泡剤を含む炭素繊維含有樹脂押出発泡成形用組成物であって、前記組成物は、吸湿剤をさらに含むことを特徴とする。
【0007】
本発明の炭素繊維含有樹脂押出発泡成形品は、前記の炭素繊維含有樹脂押出発泡成形用組成物を使用した発泡成形品であって、ポリエステル樹脂、炭素繊維および吸湿剤を含み、発泡倍率が1.1~5倍であることを特徴とする。
【0008】
本発明の炭素繊維含有樹脂押出発泡成形品の製造方法は、前記の炭素繊維含有樹脂押出発泡成形品の製造方法であって、
ポリエステル樹脂、炭素繊維、発泡剤および吸湿剤を混合する混合工程と、
得られた混合物を溶融混練し、金型から押し出して発泡させる発泡工程と、
前記金型から押し出された中間品を冷却する冷却工程と、
前記冷却した中間品を所定の長さにカットするカット工程を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の組成物は、ポリエステル樹脂、炭素繊維、発泡剤および吸湿剤を含むことにより、炭素繊維に水分が吸着していてもポリエステル樹脂の溶融混練時の分解を抑制し、連続押し出しが可能な炭素繊維含有樹脂押出発泡成形品およびその製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は本発明の一実施形態の炭素繊維含有樹脂押出発泡成形装置の模式的側面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
ポリエステル樹脂と炭素繊維と発泡剤等を含む混合物を溶融混練し、押出発泡成形品を試作したところ、押出発泡成形品がその状態を維持できず、引き取り途中で切れてしまう問題が生じる。本発明者らは、炭素繊維は水分を吸着しやすく、ポリエステル自体も水分を含んでおり(公定水分率0.4質量%)、水分があるとポリエステル樹脂は溶融混練時に分解が進み、分子量低下し劣化してしまうことが原因と推定し、炭素繊維とポリエステルペレットを140℃、5時間の熱風乾燥処理し、溶融混練し、押出発泡成形したところ、引取り可能であることを見出した。しかし、熱風乾燥処理は時間、設備、熱エネルギー、労力等がかかり、生産性が極めて低下する。そこで、吸湿剤の添加により、生産性を維持しながら前記各種の問題を解決することを着想した。
【0012】
(1)吸湿剤について
本発明において、吸湿剤は、酸化カルシウムおよびカルボジイミド化合物から選ばれる少なくとも一つであるのが好ましい。とくに酸化カルシウムはコストが安く、取り扱い性もよく、安全であることから好ましい。酸化カルシウムは篩分け法による平均粒子径が0.1~50μmの粉体粒子が混合性もよいことから好ましい。より好ましい平均粒子径は0.5~20μmである。カルボジイミド化合物は、一例としてジシクロヘキシルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミド、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩、N-[3-(ジメチルアミノ)プロピル]-N’-エチルカルボジイミド等がある。
吸湿剤の添加割合は、ポリエステル樹脂と炭素繊維の合計100質量部に対して0.1~10質量部が好ましく、より好ましくは1~10質量部であり、さらに好ましくは2~9質量部である。
吸湿剤を含むことにより、炭素繊維に水分が吸着していてもポリエステル樹脂の溶融混練時の分解を抑制し、連続押し出しが可能な炭素繊維含有樹脂押出発泡成形品およびその製造方法を提供できる。
【0013】
(2)ポリエステル樹脂について
本発明においては、マトリックス成分としてポリエステル樹脂を使用する。ポリエステル樹脂は、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、これらのポリマーを主成分とする共重合体、およびこれらの混合物から選ばれる少なくとも一つの樹脂が好ましい。この中でもポリエチレンテレフタレート(PET)は強度、弾性率などの物理特性が高いことから好ましい。
【0014】
(3)炭素繊維について
本発明においては、強化繊維として炭素繊維を使用する。炭素繊維としては、ポリアクリロニトリル(PAN)を焼成したPAN系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維等、いかなる炭素繊維でも使用できる。好ましくは、PAN系の長繊維炭素繊維をカットした、長さが2~20mmのチョップである。この炭素繊維は強度も高く、取り扱い性も良好である。炭素繊維の添加割合は、ポリエステル樹脂と炭素繊維の合計100質量部に対して、5~50質量部が好ましく、より好ましくは10~40質量部であり、さらに好ましくは15~35質量部である。
【0015】
(4)発泡剤について
発泡剤としては、化学発泡剤、揮発性発泡剤、ガス発泡剤などを使用できる。化学発泡剤としては、5-フェニルテトラゾール(分解温度230~280℃、ガス発生量180mg/g)、アゾジカルボンアミド(分解温度200~220℃、ガス発生量240mg/g)等を使用できる。発泡剤の添加割合は、ポリエステル樹脂と炭素繊維の合計100質量部に対して0.01~10質量部が好ましく、より好ましくは0.05~5質量部であり、さらに好ましくは0.1~1質量部である。
【0016】
(5)押出発泡成形品の発泡倍率について
押出発泡成形品の発泡倍率は1.1~5倍が好ましい。この程度の発泡体は低発泡押出成形品と言われている。より好ましい発泡倍率は1.1~4.0倍であり、さらに好ましい発泡倍率は1.1~3.0倍である。
【0017】
(6)その他の添加物
その他の添加物として、増粘剤、展着剤、紫外線安定剤(耐光剤)、着色剤等を加えてもよい。増粘剤としては重量平均分子量が1,000~300,000、分子内に2~100個のエポキシ基を含有する高分子型多官能エポキシ化合物等がある。展着剤としてはパラフィンオイル、流動パラフィン、トリメチルシラン等がある。紫外線安定剤(耐光剤)としては様々な市販品がある。着色剤は様々な色調の顔料がある。その他の添加物の添加割合は合計量で、ポリエステル樹脂と炭素繊維の合計100質量部に対して、0.01~2質量部が好ましく、より好ましくは0.05~1.5質量部であり、さらに好ましくは0.1~1質量部である。
【0018】
本発明の製造方法は次のとおりである。
(a)ポリエステル樹脂、炭素繊維、発泡剤および吸湿剤を混合する混合工程
(b)得られた混合物を溶融混練し、金型から押し出して発泡させる発泡工程
(c)前記金型から押し出された中間品を冷却する冷却工程
(d)前記冷却した中間品を所定の長さにカットするカット工程
なお、混合工程(a)は、上記成分を同時別々にホッパーに投入することに限定されるものではなく、あらかじめ、ポリエステル樹脂および炭素繊維を予め溶融混練し、冷却してペレットを作製し、当該ペレットと発泡剤および吸湿剤をホッパーに投入し混合する方法やポリエステル樹脂、炭素繊維および吸湿剤を予め溶融混練し、冷却してペレットを作製し、当該ペレットと発泡剤をホッパーに投入し混合する方法も含まれる。配合割合の調整が容易で吸湿剤の劣化を防止する点を鑑みた場合、あらかじめ、ポリエステル樹脂および炭素繊維を予め溶融混練し、冷却してペレットを作製し、当該ペレットと発泡剤および吸湿剤をホッパーに投入し混合する方法が好ましい。
【0019】
次に図面を用いて説明する。
図1は本発明の一実施形態の炭素繊維含有樹脂押出発泡成形装置の模式的側面説明図である。この押出発泡成形装置1は、原料混合物を供給するホッパー2と、原料混合物を溶融し混練する押出機3と、押出機3内で圧縮状態にされた溶融混練物を所定の形状に成形する金型4と、所定の形状に成形された溶融混練物を圧縮状態から解放して発泡させつつ表面スキン層と発泡コアを形成させる冷却サイザー5と、二次発泡を防ぎさらに冷却する冷却機6と、所定の速度で引き取る引き取り機7と、所定の寸法にカットする切断機8で基本的に構成される。ガス発泡剤により発泡させる場合は、押出機3のいずれかの部分に圧縮ガスボンベからガス供給ラインを接続する。
【実施例】
【0020】
以下実施例を用いて本発明を具体的に説明する。なお、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0021】
(実施例1)
<ポリエステル樹脂>
ポリエチレンテレフタレート(PET)、固有粘度0.66(繊維用)のペレットを使用した。
<炭素繊維>
炭素繊維はゾルテック製の繊維長6mmのチョップを使用した。
<ポリエステル樹脂および炭素繊維を予め溶融混練し、冷却してペレットを作製する工程>
ポリエチレンテレフタレート(PET)と炭素繊維を混合して溶融混練し、押出機を使用して、温度270℃、金型温度35℃、冷却時間15-20秒の条件でストランドに成形し、カットして直径約5mm、長さ約5mmのペレットにした。PETと炭素繊維チョップとの配合割合は、PET70質量部(70kg)、炭素繊維チョップ30質量部(30kg)とした。
<前記ペレット、発泡剤、吸湿剤および添加剤を混合する混合工程>
前記ペレット100質量部(100kg)に対して発泡剤として5-フェニルテトラゾールを0.15質量部(0.15kg)、吸湿剤として酸化カルシウムを5質量部(5kg)、展着剤として流動パラフィン0.1質量部(0.1kg)をそれぞれ計量し、混合した。
<前記混合物を溶融混練し、金型から押し出して発泡させる発泡工程>
前記混合物を
図1に示す押出発泡成形装置を使用して溶融混練し、金型から押し出した。押出機の温度は270℃とした。
<前記金型から押し出された中間品を冷却する冷却工程>
前記金型から押し出された中間品を
図1に示すように冷却サイザーと冷却機で室温(25℃)まで冷却し、引き取り機で引き取った。
<前記冷却した中間品を所定の長さにカットするカット工程>
引き取った連続する押出発泡成形品を一例として2mごとにカットした。得られた押出発泡成形品の断面形状はタテ20mm、ヨコ50mmの矩形(但し角はない)であった。
条件と結果は表1にまとめて示す。
さらに、実施例1の押出発泡成形品の圧縮弾性率、強さ、荷重たわみ温度及び線膨張係数を下記に示す測定法により測定したところ、幅方向における圧縮弾性率が1.4GPa、幅方向における強さが49.8MPa、厚さ方向における圧縮弾性率が1.3GPa、厚さ方向における強さが49.5MPa、荷重たわみ温度が194℃、線膨張係数が1.9(1/℃(×10
-5))であった。
圧縮弾性率、強さ:JIS K7220
荷重たわみ温度:JIS K7191
線膨張係数:25℃と55℃での寸法変化量にて測定。
【0022】
(実施例2)
PETと炭素繊維チョップとの配合割合をPET80質量部(80kg)、炭素繊維チョップ20質量部(20kg)とした以外は実施例1と同様とした。条件と結果は表1にまとめて示す。
【0023】
(比較例1)
吸湿剤としての酸化カルシウムを加えない以外は実施例1と同様とした。条件と結果は表1にまとめて示す。
さらに、比較例1の押出発泡成形品の圧縮弾性率、強さ、荷重たわみ温度及び線膨張係数を実施例1と同じ測定法により測定したところ、幅方向における圧縮弾性率が1.1GPa、幅方向における強さが41.9MPa、厚さ方向における圧縮弾性率が0.8GPa、厚さ方向における強さが69.8MPa、荷重たわみ温度が156℃、線膨張係数が2.19(1/℃(×10-5))であった。
【0024】
(参考例1)
吸湿剤としての酸化カルシウムを加えず、代わりにポリエステル樹脂と炭素繊維とを予め溶融混練し冷却したペレットを、140℃、5時間熱風乾燥した以外は実施例1と同様とした。条件と結果は表1にまとめて示す。
【0025】
【0026】
表1中の測定法は次のとおりである。
比重:JIS K7222
曲げ弾性率、強さ:JIS K7221-2
ビス引き抜き強度:直径4mm、長さ50mmのビスを貫通後、引き抜く際の強度を測定する。
シャルピー衝撃強度:JIS K7077(NBは非破壊を示す)
ビカット軟化点(℃):JIS K7206
【0027】
以上の実施例に示すとおり、本発明は、ポリエステル樹脂、炭素繊維、発泡剤および吸湿剤を含むことにより、ポリエステル樹脂の溶融混練時の加水分解を抑制し、連続押し出しが可能であり、得られた炭素繊維含有樹脂押出発泡成形品の物性も良好であった。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明の押出発泡成形品は、建築材料、化粧板、ベンチ、柵、土木材料、船舶材料、電子・電機材料等に有用である。
【符号の説明】
【0029】
1 押出発泡成形装置
2 ホッパー
3 押出機
4 金型
5 冷却サイザー
6 冷却機
7 引き取り機
8 切断機