(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-07
(45)【発行日】2022-07-15
(54)【発明の名称】蒸気タービン、及び蒸気タービンの施工方法
(51)【国際特許分類】
F01D 25/00 20060101AFI20220708BHJP
【FI】
F01D25/00 S
(21)【出願番号】P 2019006187
(22)【出願日】2019-01-17
【審査請求日】2021-08-25
(73)【特許権者】
【識別番号】310010564
【氏名又は名称】三菱重工コンプレッサ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000177058
【氏名又は名称】三友工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100210572
【氏名又は名称】長谷川 太一
(72)【発明者】
【氏名】國本 瑛登
(72)【発明者】
【氏名】毛利 圭太
【審査官】高吉 統久
(56)【参考文献】
【文献】特開昭54-142407(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第2957729(EP,A1)
【文献】特開2006-188996(JP,A)
【文献】特開2018-112179(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第2570620(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01D 25/00
F01D 25/14
F01D 25/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線回りに回転するロータ、及び、前記ロータを覆い前記ロータとともに蒸気が前記軸線の延びる軸線方向に流通する流路を形成するケーシング、を有するタービン本体と、
前記ケーシングの前記軸線方向における前記蒸気の高圧側領域と低圧側領域とのうちの前記高圧側領域において、前記ケーシングの外面に接して設けられた保温材と、
前記高圧側領域と前記低圧側領域とのうちの前記低圧側領域において、前記ケーシングの外面との間に空間を介して覆う防音カバーと、を備える蒸気タービン。
【請求項2】
前記防音カバーは、複数の消音孔が互いに間隔をあけて形成された消音多孔板を有する請求項1に記載の蒸気タービン。
【請求項3】
前記防音カバーは、前記ケーシングの前記外面から離れる方向に間隔をあけて配列された複数の前記消音多孔板を有し、
前記外面から離れる方向から見て、互いに隣り合う一対の前記消音多孔板同士では、前記消音孔の位置がずれている請求項2に記載の蒸気タービン。
【請求項4】
前記防音カバーは、前記消音多孔板よりも前記ケーシングの外面に近い位置に配置され、複数の吸音孔が互いに間隔をあけて形成された吸音多孔板をさらに有し、
前記吸音孔の径寸法は、前記消音孔の径寸法よりも小さい請求項2又は3に記載の蒸気タービン。
【請求項5】
前記低圧側領域と前記高圧側領域とでは、前記ケーシングは異なる部材で形成されており、
前記低圧側領域での前記ケーシングは、前記高圧側領域での前記ケーシングよりも厚さが薄く形成されている請求項1から4のいずれか一項に記載の蒸気タービン。
【請求項6】
軸線回りに回転するロータ、及び、前記ロータを覆い前記ロータとともに蒸気が前記軸線方向に流通する流路を形成するケーシング、を有するタービン本体と、前記ケーシングの前記軸線方向における前記蒸気の高圧側領域と低圧側領域とのうちの前記高圧側領域において、前記ケーシングの外面に接して設けることが可能な保温材と、前記高圧側領域と前記低圧側領域とのうちの前記低圧側領域において、前記ケーシングの外面との間に空間を介して覆うことが可能な防音カバーとを準備する工程と、
前記ケーシングの前記高圧側領域における前記外面に前記保温材を取り付ける保温材取付工程と、
前記ケーシングの前記低圧側領域における前記外面との間に空間をあけて前記防音カバーを取り付ける防音カバー取付工程と、を含む蒸気タービンの施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸気タービン、及び蒸気タービンの施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に蒸気タービンは、軸線回りに回転するロータと、ロータを外側から覆うことでロータとの間に蒸気流路を形成するケーシングと、を備えている。ロータは、軸線に沿って延びる柱状の回転軸と、回転軸の外周面に配列された複数の動翼と、を有する。ケーシングの内周面には、動翼と軸線方向に互い違いとなるように配列された複数の静翼(ノズル)が設けられている。蒸気流路中を高温高圧の蒸気が流通する際に、これら動翼及び静翼に蒸気が衝突する。動翼に衝突した蒸気はロータに回転力を与え、静翼に衝突した蒸気は下流側の動翼に向けて案内及び整流される。
【0003】
このような蒸気タービンの運転中には、蒸気が動翼(静翼)を流通する際の風切音等を主因として騒音が発生する。このような騒音を低減するために、蒸気タービンを保温するために保温材を利用する場合がある。例えば、特許文献1では、複数の異なる材料が層状に設けられた保温層をケーシングの外表面上に隙間なく設けている。このような構造を用いることで、蒸気タービンの騒音がある程度は抑えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、蒸気タービンでは、蒸気が流入してくる上流側の領域がより高圧となり、蒸気が排出される下流側の領域が低圧となる。そのため、高圧側のケーシングでは、ケーシングを構成する材料の板厚が大きく、低圧側では板厚が小さく設定されることが一般的である。したがって、低圧側では騒音がケーシングを通じて外部に伝播しやすい。さらに、低圧側では上述の動翼、又は静翼のブレードが高圧側のブレードよりも長い。これにより、低圧側ではブレードの風切音がより大きくなる傾向にある。これらの要因により、低圧側では高圧側に比べてより大きな騒音が生じやすい。したがって、低圧側における騒音を積極的に低減することが可能な技術に対する要請が高まっている。
【0006】
ところが、上記特許文献1に記載された技術では、蒸気タービンの高圧側、低圧側を問わず、ケーシングが一様な厚みの保温層によって覆われているに留まる。したがって、低圧側では、騒音を十分に遮蔽できない可能性がある。
【0007】
また、上記の特許文献1の構造以外に、より確実に騒音を低減するために、外衣と呼ばれる部屋を形成し、その内部に蒸気タービン全体を収容する構造も知られている。この外衣では、蒸気タービンのメンテナンスを行う場合を考慮して、外衣の内部に作業者が入れるだけの空間を確保する必要がある。そのため、蒸気タービンの周囲に大きなスペースを確保する必要がある。したがって、外衣で蒸気タービン全体を覆った場合には、装置全体の寸法体格が大きくなってしまう。
【0008】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであって、よりコンパクトで、より一層騒音が低減可能な蒸気タービン及び蒸気タービンの施工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第一の態様に係る蒸気タービンは、軸線回りに回転するロータ、及び、前記ロータを覆い前記ロータとともに蒸気が前記軸線の延びる軸線方向に流通する流路を形成するケーシング、を有するタービン本体と、前記ケーシングの前記軸線方向における前記蒸気の高圧側領域と低圧側領域とのうちの前記高圧側領域において、前記ケーシングの外面に接して設けられた保温材と、前記高圧側領域と前記低圧側領域とのうちの前記低圧側領域において、前記ケーシングの外面との間に空間を介して覆う防音カバーと、を備える。
【0010】
上記構成によれば、ケーシングにおける低圧側領域が、空間を介して防音カバーによって覆われている。したがって、低圧側領域で発生する騒音を空間で減衰させつつ、防音カバーによって吸収及び減衰させることができる。さらに、ケーシングにおける高圧側領域は、ケーシングの外面に接する保温材によって覆われている。したがって、高圧側領域における熱の拡散を保温材によって低減することができる。加えて、高圧側領域で生じる騒音も、この保温材によって一定程度、吸収及び減衰させることができる。そのため、高圧側領域での騒音を保温材によって抑えつつ、騒音が特に発生しやすい低圧側領域での騒音を防音カバーによって、積極的に低減することができる。
【0011】
本発明の第二の態様に係る蒸気タービンでは、前記防音カバーは、複数の消音孔が互いに間隔をあけて形成された消音多孔板を有してもよい。
【0012】
上記構成によれば、ケーシングの外面から発せられた音は、消音多孔板の消音孔によって捕捉された後、減衰する。これにより、騒音をより一層低減することができる。
【0013】
本発明の第三の態様に係る蒸気タービンでは、前記防音カバーは、前記ケーシングの前記外面から離れる方向に間隔をあけて配列された複数の前記消音多孔板を有し、前記外面から離れる方向から見て、互いに隣り合う一対の前記消音多孔板同士では、前記消音孔の位置がずれていてもよい。
【0014】
上記構成によれば、消音多孔板が一つのみである構成に比べて、より一層騒音を低減することができる。さらに、互いに隣り合う一対の消音多孔板同士の間では、消音孔の位置がずれている。したがって、一方側の消音多孔板における消音孔を通過した音波は、他方側の消音多孔板における消音孔が形成されていない領域で反射される。消音多孔板同士の間の空間では、このような反射に加えて、一方側の消音多孔板を通じて当該空間に到達した他の音波との間で干渉が生じる。このような反射と干渉を経て、騒音をより一層低減することができる。
【0015】
本発明の第四の態様に係る蒸気タービンでは、前記防音カバーは、前記消音多孔板よりも前記ケーシングの外面に近い位置に配置され、複数の吸音孔が互いに間隔をあけて形成された吸音多孔板をさらに有し、前記吸音孔の径寸法は、前記消音孔の径寸法よりも小さくてもよい。
【0016】
上記構成によれば、消音多孔板よりもケーシングの外面に近い側に、吸音多孔板が配置されている。吸音多孔板には、消音孔よりも径寸法が小さい吸音孔が形成されている。これにより、吸音多孔板から見て消音多孔板側(即ち、ケーシングの外面から離れる側)では、吸音孔を入口とするヘルムホルツ共鳴器が形成される。即ち、吸音多孔板よりも消音多孔板側の空間内の空気がばねとして作用することにより、吸音多孔板を通過した音波の運動エネルギーの一部が熱エネルギーに変換される。その結果、消音多孔板のみを設けた場合に比べて、騒音をより一層低減することができる。
【0017】
本発明の第五の態様に係る蒸気タービンでは、前記低圧側領域と前記高圧側領域とでは、前記ケーシングは異なる部材で形成されており、前記低圧側領域での前記ケーシングは、前記高圧側領域での前記ケーシングよりも厚さが薄く形成されていてもよい。
【0018】
上記の構成によれば、ケーシングにおける低圧側領域が、ケーシングの外面に対して空間を介して防音カバーによって覆われている。そのため、低圧側領域でのケーシングの厚さに関わらず、騒音を抑えることができる。その結果、蒸気タービンの建造にかかるコストを抑えることができる。
【0019】
本発明の第六の態様に係る蒸気タービンの施工方法は、軸線回りに回転するロータ、及び、前記ロータを覆い前記ロータとともに蒸気が前記軸線方向に流通する流路を形成するケーシング、を有するタービン本体と、前記ケーシングの前記軸線方向における前記蒸気の高圧側領域と低圧側領域とのうちの前記高圧側領域において、前記ケーシングの外面に接して設けることが可能な保温材と、前記高圧側領域と前記低圧側領域とのうちの前記低圧側領域において、前記ケーシングの外面との間に空間を介して覆うことが可能な防音カバーとを準備する工程と、前記ケーシングの前記高圧側領域における前記外面に前記保温材を取り付ける保温材取付工程と、前記ケーシングの前記低圧側領域における前記外面との間に空間をあけて前記防音カバーを取り付ける防音カバー取付工程と、を含む。
【0020】
上記方法によれば、ケーシングに対して保温材、及び防音カバーがそれぞれ個別に取り付けられる。したがって、例えば保温材、及び防音カバーが一体に形成され、かつこれを一度に取り付ける場合に比べて、作業性を向上させることができる。これにより、蒸気タービンの建造及び施工に係るコストを抑えることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、よりコンパクトで、かつより一層騒音が低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の実施形態に係る蒸気タービンの構成を示す模式図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る防音カバーの構成を示す断面図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る防音カバーにおける孔の位置関係を示す説明図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る蒸気タービンの施工方法を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の実施形態について、
図1から
図4を参照して説明する。本実施形態に係る蒸気タービンシステム100は、蒸気タービン1と、発電機2と、台板3と、基礎4と、を備えている。蒸気タービン1は、タービン本体11と、保温材12と、防音カバー13と、を備えている。タービン本体11は、軸線Ac回りに回転するロータ5と、ロータ5を覆うケーシング6と、を有している。詳しくは図示しないが、ロータ5は、軸線Acを中心とする円柱状の回転軸と、回転軸の外周面に設けられた複数の動翼と、を有している。各動翼は、回転軸の外周面上で周方向に沿って配列されている。
【0024】
ケーシング6は、軸線Acを中心とする円筒状をなしている。ケーシング6の内周面とロータ5の外周面との間には空間(流路)が形成されている。この空間内では、蒸気が軸線Acの延びる軸線Ac方向の一方側から他方側に向かって流通する。さらに、この空間には、ケーシング6の内周面から径方向の内側に向かって延びるとともに、軸線Ac方向に間隔をあけて配列された複数の静翼が設けられている。各静翼は、複数の動翼に対して軸線Ac方向に互い違いとなるように配列されている。流路内に流入した高温高圧の蒸気は、複数の動翼、及び複数の静翼に交互に衝突する。動翼に蒸気が衝突することで、ロータ5には回転力が付与される。静翼に衝突した蒸気は、下流側の動翼に向かって案内及び整流される。ロータ5の軸端には、発電機2が同軸上に接続されている。発電機2は、ロータ5の回転力によって駆動されることで電力を発生する。
【0025】
詳しくは図示しないが、ボイラ等の蒸気発生源から供給された高温高圧の蒸気は、ケーシング6における軸線Ac方向の一方側(上流側)の端部付近に形成された吸気口からケーシング6内の流路に流入する。流路を軸線Ac方向の他方側(下流側)に向かって流通した蒸気は、上述の動翼、及び静翼に順次衝突しながら、次第に圧力が低くなる。即ち、タービン本体11の軸線Ac方向の一方側の領域では蒸気が高圧状態であるのに対して、軸線Ac方向の他方側の領域では蒸気は相対的に低圧状態となる。以降の説明では、ケーシング6における軸線Ac方向の一方側の部分を高圧側領域61と呼び、他方側の部分を低圧側領域62と呼ぶ。これら高圧側領域61と低圧側領域62とは、ケーシング6は互いに異なる部材によって別個に形成されている。低圧側領域62におけるケーシング6の厚さは、高圧側領域61におけるケーシング6の厚さよりも小さく形成されている。
【0026】
また、ケーシング6における高圧側領域61には、蒸気を内部に流入させる吸気口(不図示)が形成されている。ケーシング6における低圧側領域62には、内部の蒸気を外部に排出させる排気口(不図示)が形成されている。ケーシング6における低圧側領域62は、複数段の動翼及び静翼の内の少なくとも最終段(最も下流側)の動翼及び静翼を覆っている。本実施形態では、ケーシング6における低圧側領域62は、例えば、最終段及び最終段の一つ上流側の段の二段の動翼及び静翼を覆っている。
【0027】
例えば、ケーシング6における高圧側領域61は、軸線Ac方向の一方側から他方側に向かうに従って、軸線Acに対する径方向の寸法が次第に増加する円錐状をなしている。一方で、ケーシング6における低圧側領域62は、軸線Acを中心とする有底円筒状をなしている。低圧側領域62におけるケーシング6の外径寸法は、軸線Ac方向の全域にわたって一定である。さらに、低圧側領域62の外径寸法は、高圧側領域61における軸線Ac方向の他方側の端部(高圧側領域61において最も外形寸法が大きい部分)の外径寸法よりも大きい。
【0028】
ケーシング6における高圧側領域61の外面(高圧側外面61S)には、保温材12が設けられている。保温材12は、高圧側外面61Sを外側から隙間なく接した状態で高圧側領域61を覆っている。即ち、保温材12の外観は、ケーシング6における高圧側領域61の形状に倣っている。保温材12として具体的には、ロックウール、ガラスウール、セラミックファイバー等の無機繊維からなる材料を用いることが望ましい。また、タービン本体11が比較的低温で運転される物である場合等には、保温材12としては、ポリアミド繊維や、ポリエチレンテレフタレート繊維に代表されるポリエステル繊維等の有機繊維からなる材料を用いてもよい。さらに、保温材12は上記の繊維系材料の他、ポリウレタン等の発泡系材料であってもよい。このような保温材12を設けることによって、高圧側領域61の内部における蒸気の熱エネルギーの散逸が低減されるとともに、領域で発生した騒音が一定程度、吸収されるか又は減衰される。したがって、保温材12は、高い保温性能だけでなく高い吸音性能を有する材料であって、高圧側外面61Sに沿って形状を変化させることが可能となるように、可撓性の高い材料であることが好ましい。なお、この保温材12は、ケーシング6における高圧側領域61のみを覆っている。言い換えれば、保温材12はケーシング6における低圧側領域62には設けられていない。
【0029】
ケーシング6における低圧側領域62の外面(低圧側外面62S)には、防音カバー13が設けられている。防音カバー13は、低圧側外面62Sとの間に空間をあけた状態で低圧側領域62を覆っている。防音カバー13の外観は、ケーシング6における低圧側領域62を覆う箱状をなしている。なお、この防音カバー13は、ケーシング6における低圧側領域62のみを覆っている。言い換えれば、防音カバー13はケーシング6における高圧側領域61には設けられていない。防音カバー13は、例えば、上下分割構造とされている。防音カバー13の下半部分はケーシング6に固定され、防音カバー13お上半部分は下半部分に着脱可能とされている。なお、防音カバー13の詳細な構成については後述する。
【0030】
以上のように構成された蒸気タービン1及び発電機2は、台板3を介して基礎4の上部に配置されている。台板3は、例えばグラウト等の介在物を介して基礎4の上面に配置されている。台板3は、蒸気タービン1及び発電機2の施工に先立って水平出し、及び平面出しが施されている。基礎4は例えば強化コンクリートで形成されている。
【0031】
次に、
図2を参照して防音カバー13の構成について詳述する。同図に示すように、防音カバー13は、低圧側外面62Sに対して空間(第一空間V1)をあけて配置されている。防音カバー13は、低圧側外面62Sから離れる方向に間隔をあけて配列された複数(本実施形態では三つ)の多孔板7と、これら多孔板7を保持するとともに、ケーシング6の低圧側領域62に対して相対移動不能に固定する支持部材8と、を有している。
【0032】
三つの多孔板7は、互いに平行となるように配置されている。三つの多孔板7のうち、最も低圧側外面62Sに近い多孔板7は、吸音多孔板71とされている。吸音多孔板71には、複数の吸音孔H1が互いに間隔(等間隔)をあけて形成されている。吸音孔H1は、吸音多孔板71を貫通している。これら吸音孔H1の径寸法は、後述する消音孔H10の径寸法よりも小さく設定されている。
【0033】
吸音多孔板71から見て、低圧側外面62Sとは反対側には、二つの消音多孔板72が互いに間隔をあけて配置されている。ここでは、二つの消音多孔板72のうち、吸音多孔板71に近い側の消音多孔板72を第一消音多孔板72Aと称する。また、第一消音多孔板72Aから見て吸音多孔板71とは反対側に位置する消音多孔板72を第二消音多孔板72Bと称する。
【0034】
吸音多孔板71と第一消音多孔板72Aとの間の空間は、第二空間V2とされている。第一消音多孔板72Aと第二消音多孔板72Bとの間の空間は、第三空間V3とされている。第一消音多孔板72A及び第二消音多孔板72Bには、それぞれ複数の消音孔H10が互いに間隔(等間隔)をあけて形成されている。各消音孔H10の径寸法は、上述の吸音多孔板71に形成された吸音孔H1の径寸法よりも大きく設定されている。また、消音孔H10同士の間隔(ピッチ)は、吸音孔H1同士の間隔(ピッチ)よりも大きく設定されている。ここで、第一消音多孔板72Aに形成された消音孔H10を第一消音孔H11と称する。また、第二消音多孔板72Bに形成された消音孔H10を第二消音孔H12と称する。
【0035】
さらに、
図3に示すように、第一消音多孔板72Aと第二消音多孔板72Bとでは、消音孔H10の形成されている位置が互いに異なっている。より具体的には、低圧側外面62Sから離れる方向(即ち、低圧側外面62Sの法線方向)から見て、第一消音孔H11と、第二消音孔H12とは互いに重ならないようにずれている。さらに正確には、これら第一消音孔H11と第二消音孔H12とでは、それぞれ中心位置が互いにずれている。隣り合う第一消音孔H11のピッチと隣り合う第二消音孔H12のピッチは、同じピッチとされている。なお、中心位置がずれている限りにおいて、第一消音孔H11の一部のみと第二消音孔H12の一部のみが互いに重複していてもよいが、完全に重複していないことが好ましい。
【0036】
図2に示すように、上述のように構成された三つの多孔板7は、支持部材8によってケーシング6(低圧側外面62S)に固定されている。支持部材8は、吸音多孔板71に当接する内側アングル部81と、第二消音多孔板72Bに当接する外側アングル部82と、三つの多孔板7同士の間の間隔を確保するための二つのスペーサ83と、ボルト84及びナット85と、を有している。
【0037】
内側アングル部81は、ケーシング6の低圧側領域62における角部に配置されている。内側アングル部81は、角部を外側から覆うように略L字状をなしている。内側アングル部81は、互いに交差(直交)する方向に広がる一対の吸音多孔板71同士を支持している。
【0038】
外側アングル部82は、内側アングル部81のさらに外側に配置されている。外側アングル部82は、角部を外側から覆う略L字状をなしている。外側アングル部82は、互いに交差(直交)する方向に広がる一対の第二消音多孔板72B同士を支持している。
【0039】
各スペーサ83は、吸音多孔板71と第一消音多孔板72Aとの間、及び第一消音多孔板72Aと第二消音多孔板72Bとの間にそれぞれ配置されている。ボルト84は、内側アングル部81、吸音多孔板71、第一消音多孔板72A、第二消音多孔板72B、二つのスペーサ83、及び外側アングル部82にそれぞれ形成された貫通孔に挿通された状態でナット85に締結されている。
【0040】
これにより、吸音多孔板71、第一消音多孔板72A、及び第二消音多孔板72Bが、内側アングル部81及び外側アングル部82によって挟み込まれた状態で保持されている。なお、詳しくは図示しないが、防音カバー13の下半部分を形成する内側アングル部81は、ケーシング6における低圧側領域62に対して固定されている。
【0041】
続いて、本実施形態に係る蒸気タービン1の施工方法について
図4を参照して説明する。同図に示すように、この施工方法は、準備工程S1と、保温材取付工程S2と、防音カバー取付工程S3と、を含む。準備工程S1では、上述のタービン本体11、保温材12、及び防音カバー13が準備される。具体的には、タービン本体11が台板3を介して基礎4の上部に配置される。さらに、保温材12が予め加工及び成形される。防音カバー13は、上述の支持部材8によって三つの多孔板7を組んだ状態にしておく。その際、防音カバー13は、タービン本体11の上半側を覆う上半部分と、下半側を覆う下半部分とを別に準備しておくことが望ましい。
【0042】
次に、保温材取付工程S2が実行される。保温材取付工程S2では、ケーシング6における高圧側領域61に保温材12が取り付けられる。この工程では、保温材12が高圧側外面61Sに接触させるように曲げながら、高圧側外面61Sに固定されていく。
【0043】
次いで、防音カバー取付工程S3が実行される。防音カバー取付工程S3では、高圧側領域61に防音カバー13が取り付けられる。この工程では、準備工程S1で予め組まれている防音カバー13の下半部分がケーシング6における低圧側領域62に固定される。その後、防音カバー13の下半部分に対して上半部分が固定される。これにより、低圧側領域62が防音カバー13によって覆われる。以上により、本実施形態に係る蒸気タービン1の施工方法の全工程が完了する。
【0044】
次いで、本実施形態に係る蒸気タービンシステム100の動作について説明する。蒸気タービンシステム100を運転するに当たっては、まず外部の蒸気供給源(ボイラ等)から高温高圧の蒸気が吸気口を介してケーシング6内部の流路に導かれる。蒸気は、動翼及び静翼に順次衝突することで、ロータ5に回転力を付与する。ロータ5の回転力は軸端から取り出され、ロータ5と同軸に接続された発電機2を回転駆動する。ここで、蒸気タービン1の運転中には、蒸気が動翼(静翼)を流通する際の風切音等を主因として騒音が発生する。そこで、蒸気タービン1が設置される環境基準等に合致するように、騒音を低減する必要がある。これに対し、本実施形態に係る蒸気タービン1では、上述の保温材12、及び防音カバー13がタービン本体11に取り付けられている。
【0045】
ここで、低圧側領域62では、高圧側領域61に比べて内部を流通する蒸気の圧力が低いため、ケーシング6の厚さも相対的に小さくされている。これにより、低圧側領域62では、ケーシング6内で発生した音が、高圧側領域61に比べて、外部に伝播しやすい。しかしながら、上記構成によれば、ケーシング6における低圧側領域62が、ケーシング6の外面と空間を介して防音カバー13によって覆われている。したがって、低圧側領域62で発生する騒音を空間で減衰させつつ、防音カバー13によって吸収及び減衰させることができる。
【0046】
さらに、蒸気タービン1の熱効率を向上させる上で、高圧の蒸気が内部を流通する高圧側領域61では、ケーシング6を通じた熱の拡散を抑えることが望ましい。上記の構成によれば、ケーシング6における高圧側領域61は、ケーシング6の外面に接する保温材12によって覆われている。したがって、高圧側領域61における熱の拡散を保温材12によって低減することができる。加えて、高圧側領域61で生じる騒音も、この保温材12によって一定程度、吸収及び減衰させることができる。そのため、高圧側領域61での騒音を保温材12によって抑えつつ、騒音が特に発生しやすい低圧側領域62での騒音を防音カバー13によって、積極的に低減することができる。さらに、蒸気タービン1の全体を、例えば外衣と呼ばれる構造物で覆った場合に比べて、装置全体の寸法体格を小さく抑えることができる。したがって、よりコンパクトで、より一層騒音が低減された蒸気タービン1を提供することができる。
【0047】
さらに、ケーシング6の外面から発せられた音は、消音多孔板72の消音孔H10によって捕捉された後、減衰する。これにより、騒音をより一層低減することができる。
【0048】
加えて、ケーシング6の外面から離れる方向に間隔をあけて複数の消音多孔板72が設けられている。そのため、消音多孔板72が一つのみである構成に比べて、より一層騒音を低減することができる。さらに、互いに隣り合う第一消音多孔板72Aと第二消音多孔板72Bとでは、消音孔H10の位置がずれている。したがって、第一消音多孔板72Aの第一消音孔H11を通過した音波は、第二消音多孔板72Bの第二消音孔H12が形成されていない領域で反射される。さらに、第一消音多孔板72Aと第二消音多孔板72Bとの間の第三空間V3では、このような反射に加えて、第一消音孔H11を通じて第三空間V3に到達した他の音波との間で干渉が生じる。このような反射と干渉を経て、騒音をより一層低減することができる。
【0049】
さらに加えて、第一消音多孔板72Aよりも低圧側外面62Sに近い側に、吸音多孔板71が配置されている。吸音多孔板71には、消音孔H10よりも径寸法が小さい吸音孔H1が形成されている。そのため、ケーシング6の外面から発せられた音は、第一消音多孔板72Aに到達する前に、消音孔H10によって捕捉された後、減衰する。これにより、騒音をより一層低減することができる。
【0050】
また、吸音多孔板71が設けられていることで、吸音多孔板71から見て消音多孔板72側(即ち、低圧側外面62Sから離れる側)では、吸音孔H1を入口とするヘルムホルツ共鳴器が形成される。即ち、吸音多孔板71よりも消音多孔板72側の空間(第二空間V2、第三空間V3)内の空気がばねとして作用することにより、吸音多孔板71を通過した音波の運動エネルギーの一部が熱エネルギーに変換される。その結果、消音多孔板72のみを設けた場合に比べて、騒音をより一層低減することができる。
【0051】
ここで、低圧側領域62では、高圧側領域61に比べて内部を流通する蒸気の圧力が低い。そのため、ケーシング6の厚さも相対的に薄く形成されることが一般的である。その結果として、低圧側領域62では、ケーシング6内の音が、高圧側領域61に比べて、外部に伝播しやすい傾向にある。ケーシング6における低圧側領域62が、低圧側外面62Sに対して空間を介して防音カバー13によって覆われている。そのため、低圧側領域62でのケーシング6の厚さに関わらず、騒音を抑えることができる。その結果、蒸気タービン1の建造にかかるコストを抑えることができる。
【0052】
さらに、上記方法によれば、ケーシング6に対して保温材12、及び防音カバー13がそれぞれ個別に取り付けられる。したがって、例えば保温材12、及び防音カバー13が一体に形成され、かつこれを一度に取り付ける場合に比べて、作業性を向上させることができる。これにより、蒸気タービン1の建造及び施工に係るコストを抑えることができる。
【0053】
(実施形態の他の変形例)
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨から逸脱しない範囲内で、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。また、本発明は実施形態によって限定されることはなく、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【符号の説明】
【0054】
1 蒸気タービン
2 発電機
3 台板
4 基礎
5 ロータ
6 ケーシング
7 多孔板
8 支持部材
11 タービン本体
12 保温材
13 防音カバー
61 高圧側領域
61S 高圧側外面
62 低圧側領域
62S 低圧側外面
71 吸音多孔板
72 消音多孔板
72A 第一消音多孔板
72B 第二消音多孔板
81 内側アングル部
82 外側アングル部
83 スペーサ
84 ボルト
85 ナット
100 蒸気タービンシステム
Ac 軸線
H1 吸音孔
H11 第一消音孔
H12 第二消音孔
S1 準備工程
S2 保温材取付工程
S3 防音カバー取付工程
V1 第一空間
V2 第二空間
V3 第三空間