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特許7101692鋳型用ウレタン硬化型有機粘結剤並びにこれを用いて得られる鋳物砂組成物及び鋳型
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-07
(45)【発行日】2022-07-15
(54)【発明の名称】鋳型用ウレタン硬化型有機粘結剤並びにこれを用いて得られる鋳物砂組成物及び鋳型
(51)【国際特許分類】
   B22C 1/22 20060101AFI20220708BHJP
   C08G 18/38 20060101ALI20220708BHJP
   C08G 18/54 20060101ALI20220708BHJP
   C08G 18/65 20060101ALI20220708BHJP
   C08G 18/76 20060101ALI20220708BHJP
【FI】
B22C1/22 B
C08G18/38 093
C08G18/54
C08G18/65
C08G18/76 057
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019543669
(86)(22)【出願日】2018-09-19
(86)【国際出願番号】 JP2018034612
(87)【国際公開番号】W WO2019059226
(87)【国際公開日】2019-03-28
【審査請求日】2021-05-06
(31)【優先権主張番号】P 2017178763
(32)【優先日】2017-09-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000117102
【氏名又は名称】旭有機材株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078190
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 三千雄
(74)【代理人】
【識別番号】100115174
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 正博
(72)【発明者】
【氏名】千田 芳也
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼見 愛一朗
【審査官】松村 駿一
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2003/0042000(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2003/0004224(US,A1)
【文献】特開2012-196700(JP,A)
【文献】特開2015-188910(JP,A)
【文献】特開昭63-010038(JP,A)
【文献】米国特許第04540724(US,A)
【文献】米国特許第04436881(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22C 1/22
C08G 18/38
C08G 18/54
C08G 18/65
C08G 18/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウレタン系鋳型の造型に用いられるウレタン硬化型有機粘結剤であって、ポリオール化合物及びポリイソシアネート化合物と共に、塩基性の第一シラン化合物とフッ化水素酸との反応生成物、及び非塩基性の第二シラン化合物を、構成成分として更に含み、且つ該第二シラン化合物が、エポキシシラン、イソシアネートシラン、クロロシラン、メルカプトシラン、イソシアヌレートシラン、アクリルシラン及びメタクリルシランからなる群より選ばれてなることを特徴とする鋳型用ウレタン硬化型有機粘結剤。
【請求項2】
前記第一シラン化合物とフッ化水素酸との反応生成物が予め形成されて、かかる反応生成物の形態において含有せしめられることを特徴とする請求項1に記載の鋳型用ウレタン硬化型有機粘結剤。
【請求項3】
前記ポリオール化合物が、フェノール樹脂であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の鋳型用ウレタン硬化型有機粘結剤。
【請求項4】
前記フェノール樹脂が、オルソクレゾール変性フェノール樹脂であることを特徴とする請求項3に記載の鋳型用ウレタン硬化型有機粘結剤。
【請求項5】
前記反応生成物が、前記ポリオール化合物の100質量部に対して、0.01~10質量部の割合で用いられることを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載の鋳型用ウレタン硬化型有機粘結剤。
【請求項6】
前記第二シラン化合物が、前記ポリオール化合物の100質量部に対して、0.01~10質量部の割合で用いられることを特徴とする請求項1乃至請求項5の何れか1項に記載の鋳型用ウレタン硬化型有機粘結剤。
【請求項7】
前記第一シラン化合物が、アミノ基を含有するアルコキシシランであることを特徴とする請求項1乃至請求項6の何れか1項に記載の鋳型用ウレタン硬化型有機粘結剤。
【請求項8】
前記アミノ基を含有するアルコキシシランが、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(ビニルベンジル)-2-アミノエチル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン及び3-ウレイドプロピルトリアルコキシシランからなる群より選ばれることを特徴とする請求項7に記載の鋳型用ウレタン硬化型有機粘結剤。
【請求項9】
前記塩基性の第一シラン化合物とフッ化水素酸との反応生成物が、前記ポリオール化合物に含有せしめられる一方、前記非塩基性の第二シラン化合物が、前記ポリイソシアネート化合物に含有せしめられることを特徴とする請求項1乃至請求項の何れか1項に記載の鋳型用ウレタン硬化型有機粘結剤。
【請求項10】
酸ハロゲン化物、ハロゲン化ホスホリル化合物及びハロゲン化ホスフィンのうちの少なくとも一つを、更に構成成分として含むことを特徴とする請求項1乃至請求項の何れか1項に記載の鋳型用ウレタン硬化型有機粘結剤。
【請求項11】
ポリオール化合物を有機溶媒に溶解せしめてなるポリオール溶液を準備する工程と、
ポリイソシアネート化合物を有機溶媒に溶解せしめてなるポリイソシアネート溶液を準備する工程と、
前記ポリオール溶液及び/又は前記ポリイソシアネート溶液中に、塩基性の第一シラン化合物とフッ化水素酸との反応生成物を存在せしめる工程と、
前記ポリオール溶液及び/又は前記ポリイソシアネート溶液中に、エポキシシラン、イソシアネートシラン、クロロシラン、メルカプトシラン、イソシアヌレートシラン、アクリルシラン及びメタクリルシランからなる群より選ばれてなる非塩基性の第二シラン化合物を含有せしめる工程と、
上記の各工程を経て得られたポリオール溶液とポリイソシアネート溶液とを混合せしめる工程とを、
含むことを特徴とする鋳型用ウレタン硬化型有機粘結剤の調製方法。
【請求項12】
請求項1乃至請求項10の何れか1項に記載の鋳型用ウレタン硬化型有機粘結剤と、鋳物砂とからなることを特徴とする鋳物砂組成物。
【請求項13】
請求項12に記載の鋳物砂組成物を成形し、硬化せしめてなることを特徴とする鋳型。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、砂型鋳造において使用される有機粘結剤であって、特にウレタン系のガス硬化鋳型又は自硬性鋳型の造型に用いられる鋳型用有機粘結剤、及びこれを用いて得られる鋳物砂組成物、並びにそのような鋳物砂組成物を造型して得られる鋳型に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、砂型鋳造において用いられる代表的な有機系鋳型の一つとして、フェノール樹脂の如きポリオール化合物と、ジフェニルメタンジイソシアネートの如きポリイソシアネート化合物とを粘結剤として用い、それらの重付加反応(ウレタン化反応)を利用して造型されるウレタン系鋳型、例えばフェノールウレタン系鋳型等と称されるものが知られている。そして、そのようなフェノールウレタン系鋳型の如きウレタン系鋳型としては、造型時に加熱を必要としない、触媒としてアミンガスを用いたアミンコールドボックス法により製造される量産型のガス硬化鋳型や、常温自硬性法により製造される非量産型の自硬性鋳型が、広く知られている。
【0003】
具体的には、アミンコールドボックス法によるガス硬化鋳型は、通常、粒状耐火性鋳物砂を、ミキサーを用いて、有機溶剤を溶媒とするフェノール樹脂の溶液とポリイソシアネート化合物の溶液とからなる鋳型用有機粘結剤と混練することにより、そのような鋳物砂の表面を有機粘結剤で被覆してなる鋳物砂組成物を製造した後、かかる鋳物砂組成物を、所定の成形型内に吹き込んで鋳型を成形し、これに、アミン系触媒ガスを通気せしめて硬化を行うことにより、製造されている。また、常温自硬性法による自硬性鋳型は、粒状耐火性鋳物砂を、有機溶剤を溶媒とするフェノール樹脂の溶液とポリイソシアネート化合物の溶液とからなる鋳型用有機粘結剤と混練する際に、硬化触媒も混合し、その得られた混合物を、直ちに、所望の形状に成形することにより、製造されている。
【0004】
しかして、このようなフェノール樹脂とポリイソシアネート化合物との重付加反応(ウレタン化反応)を利用して得られるフェノールウレタン系鋳型の如きウレタン系鋳型にあっては、その化学的結合特性から、空気中の水分による硬化阻害や強度劣化等、所謂吸湿劣化の問題を内在するものであった。
【0005】
そこで、特表平1-501630号公報(特許文献1)においては、コールドボックス法で作製された鋳型の吸湿劣化防止対策として、エポキシシランやアミノシラン、ウレイドシラン等のシラン化合物を添加することが明らかにされているのであるが、そのようなシラン化合物をもってしても、未だ、充分な特性の確保には至らず、更なる吸湿劣化防止対策の確立が望まれていた。
【0006】
このため、特開2012-196700号公報(特許文献2)においては、ポリオール化合物及びポリイソシアネート化合物に対して、更に、イソシアネート基を有するシラン化合物やイソシアネート基を有するアクリル化合物を組み合わせて、鋳型用ウレタン硬化型有機粘結剤を構成することにより、鋳型の吸湿劣化防止を図り、以て優れた鋳型強度を維持し得ることが明らかにされているが、そこでは、特別のイソシアネート基含有化合物を準備する必要があった。
【0007】
また、特開2001-205386号公報(特許文献3)においては、フェノール樹脂とイソシアネート化合物にホウ酸を組み合わせてなる気体状第三級アミン硬化性鋳型製造用粘結剤組成物が、明らかにされており、更にそこでは、粘結剤成分と骨材との接着性の向上を図るために、シラン化合物を含有せしめることが出来ることが、明らかにされている。そして、そのようなホウ酸を含有せしめてなる粘結剤組成物を用いることによって、従来の鋳型製造用組成物よりも可使時間が長く、そのために、粘結剤と粒状耐火性骨材とを混練して、数時間放置しても、鋳型としての強度を保持することが出来るとされているのであるが、そこにおける鋳型強度の評価は、湿度の高くない乾いた状況下において行われているに過ぎず、高湿度条件下においては、吸湿劣化によって鋳型強度が著しく低下して、充分な強度保持が困難となるものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特表平1-501630号公報
【文献】特開2012-196700号公報
【文献】特開2001-205386号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ここにおいて、本発明は、かかる事情を背景にして為されたものであって、その解決課題とするところは、鋳型強度やその耐吸湿劣化特性の向上を図り得ると共に、充填密度が効果的に高められ得た鋳型を有利に与え得るウレタン硬化型有機粘結剤を提供することにあり、また、造型後の放置による鋳型強度の向上を効果的に図ることの出来る鋳型用ウレタン硬化型有機粘結剤を提供することにもあり、更にそのようなウレタン硬化型有機粘結剤を用いた、優れた鋳型特性を付与し得る鋳物砂組成物、並びにその鋳物砂組成物を用いて造型された、優れた特性を有する鋳型を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そして、本発明は、かくの如き課題を解決するために、以下に列挙せる如き各種の態様において、好適に実施され得るものである。なお、以下に記載の各態様は、任意の組み合わせにおいて採用可能であり、また、本発明の態様乃至は技術的特徴は、以下に記載のものに限定されることなく、明細書全体の記載から把握される発明思想に基づいて認識され得るものであることが理解されるべきである。
【0011】
(1)ウレタン系鋳型の造型に用いられるウレタン硬化型有機粘結剤であっ
て、ポリオール化合物及びポリイソシアネート化合物と共に、塩基性の
第一シラン化合物とフッ化水素酸との反応生成物、及び非塩基性の第二
シラン化合物を、構成成分として更に含むことを特徴とする鋳型用ウレ
タン硬化型有機粘結剤。
(2)前記第一シラン化合物とフッ化水素酸との反応生成物が予め形成され
て、かかる反応生成物の形態において含有せしめられることを特徴とす
る前記態様(1)に記載の鋳型用ウレタン硬化型有機粘結剤。
(3)前記ポリオール化合物が、フェノール樹脂であることを特徴とする前
記態様(1)又は前記態様(2)に記載の鋳型用ウレタン硬化型有機粘
結剤。
(4)前記フェノール樹脂が、オルソクレゾール変性フェノール樹脂である
ことを特徴とする前記態様(3)に記載の鋳型用ウレタン硬化型有機粘
結剤。
(5)前記反応生成物が、前記ポリオール化合物の100質量部に対して、
0.01~10質量部の割合で用いられることを特徴とする前記態様(
1)乃至前記態様(4)の何れか1つに記載の鋳型用ウレタン硬化型有
機粘結剤。
(6)前記第二シラン化合物が、前記ポリオール化合物の100質量部に対
して、0.01~10質量部の割合で用いられることを特徴とする前記
態様(1)乃至前記態様(5)の何れか1つに記載の鋳型用ウレタン硬
化型有機粘結剤。
(7)前記第一シラン化合物が、アミノ基を含有するアルコキシシランであ
ることを特徴とする前記態様(1)乃至前記態様(6)の何れか1つに
記載の鋳型用ウレタン硬化型有機粘結剤。
(8)前記アミノ基を含有するアルコキシシランが、3-アミノプロピルト
リメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-2-
(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-
2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-
トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピル
アミン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-
(ビニルベンジル)-2-アミノエチル-3-アミノプロピルトリメト
キシシラン及び3-ウレイドプロピルトリアルコキシシランからなる群
より選ばれることを特徴とする前記態様(7)に記載の鋳型用ウレタン
硬化型有機粘結剤。
(9)前記第二シラン化合物が、エポキシシラン、イソシアネートシラン、
クロロシラン、メルカプトシラン、イソシアヌレートシラン、アクリル
シラン及びメタクリルシランからなる群より選ばれることを特徴とする
前記態様(1)乃至前記態様(8)の何れか1つに記載の鋳型用ウレタ
ン硬化型有機粘結剤。
(10)前記塩基性の第一シラン化合物とフッ化水素酸との反応生成物が、
前記ポリオール化合物に含有せしめられる一方、前記非塩基性の第二シ
ラン化合物が、前記ポリイソシアネート化合物に含有せしめられること
を特徴とする前記態様(1)乃至前記態様(9)の何れか1つに記載の
鋳型用ウレタン硬化型有機粘結剤。
(11)酸ハロゲン化物、ハロゲン化ホスホリル化合物及びハロゲン化ホス
フィンのうちの少なくとも一つを、更に構成成分として含むことを特徴
とする前記態様(1)乃至前記態様(10)の何れか1つに記載の鋳型
用ウレタン硬化型有機粘結剤。
(12)ポリオール化合物を有機溶媒に溶解せしめてなるポリオール溶液を
準備する工程と、ポリイソシアネート化合物を有機溶媒に溶解せしめて
なるポリイソシアネート溶液を準備する工程と、前記ポリオール溶液及
び/又は前記ポリイソシアネート溶液中に、塩基性の第一シラン化合物
とフッ化水素酸との反応生成物を存在せしめる工程と、前記ポリオール
溶液及び/又は前記ポリイソシアネート溶液中に、非塩基性の第二シラ
ン化合物を含有せしめる工程とを、含むことを特徴とする鋳型用ウレタ
ン硬化型有機粘結剤の調製方法。
(13)前記態様(1)乃至前記態様(11)の何れか1つに記載の鋳型用
ウレタン硬化型有機粘結剤と、鋳物砂とからなることを特徴とする鋳物
砂組成物。
(14)前記態様(13)に記載の鋳物砂組成物を成形し、硬化せしめてな
ることを特徴とする鋳型。
【発明の効果】
【0012】
このように、本発明に従う鋳型用ウレタン硬化型有機粘結剤にあっては、その必須の構成成分であるポリオール化合物及びポリイソシアネート化合物に加えて、更に、塩基性の第一シラン化合物とフッ化水素酸との反応生成物や非塩基性の第二シラン化合物が、構成成分として含まれるように構成されていることによって、そのような有機粘結剤を用いて造型される鋳型の強度の向上を有利に実現せしめ、特に、造型後における鋳型の放置強度を効果的に高め得ることとなったことに加えて、そのような鋳型の強度の耐吸湿劣化特性をも有利に向上せしめることが出来るのである。
【0013】
しかも、そのような本発明に従う鋳型用有機粘結剤を鋳物砂に混練せしめて得られる鋳物砂組成物にあっては、その流動性が効果的に向上せしめられ得ることとなり、以て、より充填性に優れた鋳型を提供し得ることに加えて、鋳型の表面性状をも有利に向上せしめ得ると共に、上述の如き優れた強度特性を有する鋳型を与え得るものとなり、また、そのような鋳物砂組成物を用いて造型された鋳型にあっては、優れた鋳型強度を有すると共に、強度の耐吸湿劣化特性の向上せしめられた鋳型として、更には充填密度や表面性状が向上せしめられた鋳型として、目的とする金属の鋳造工程に有利に用いられ得ることとなるのである。
【0014】
なお、本発明にあっては、上述のような塩基性の第一シラン化合物とフッ化水素酸との反応生成物や非塩基性の第二シラン化合物と共に、更に、酸ハロゲン化物、ハロゲン化ホスホリル化合物及びハロゲン化ホスフィンのうちの少なくとも一つを併用することが、好適に推奨され、これによって、上記した鋳型強度やその吸湿劣化特性がより一層向上せしめられ得ることとなると共に、そのような特徴を維持したまま、鋳物砂との混練によって得られる鋳物砂組成物の可使時間のより有効な延長を図り得るという特徴を発揮せしめることが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0015】
ところで、このような本発明に従う鋳型用ウレタン硬化型有機粘結剤において、その主たる成分の一つとして使用されるポリオール化合物としては、特に限定されるものではなく、従来からウレタン系の硬化鋳型を造型する際に用いられている公知の各種のポリオール化合物が、適宜に選択されて、用いられることとなる。具体的には、フェノール樹脂、ポリエーテルポリオール、ポリプロピレンポリオール、ポリブタジエンポリオール、ポリマーポリオール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリオキシブチレングリコール、エチレンオキシドとプロピレンオキシドとの共重合体、テトラヒドロフランとエチレンオキシドとの共重合体、テトラヒドロフランとプロピレンオキシドとの共重合体、テトラヒドロフランと3-メチルテトラヒドロフランとの共重合体等を挙げることが出来る。
【0016】
その中でも、ウレタン系の鋳型を造型する際に用いられるポリオール化合物として、フェノールウレタン系の鋳型を造型する際に用いられている、公知の各種のフェノール樹脂が、好適に用いられ得るのである。具体的には、反応触媒の存在下、フェノール類とアルデヒド類とを、フェノール類の1モルに対して、アルデヒド類が、一般に0.5~3.0モルの割合になるようにして、付加・縮合反応せしめて得られる、有機溶媒に可溶なベンジルエーテル型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂、ノボラック型フェノール樹脂、及びそれらの変性フェノール樹脂、並びにこれらの混合物を例示することが出来、これらのうちの1種又は2種以上が、適宜に選択されて用いられることとなる。また、これらの中でも、特に、オルソクレゾールで変性したオルソクレゾール変性フェノール樹脂、更に好ましくはベンジルエーテル型のオルソクレゾール変性フェノール樹脂及びその混合物にあっては、有機溶剤への溶解性やポリイソシアネート化合物との相溶性に優れているのみならず、得られる鋳型の強度(初期強度)等を効果的に向上せしめ得るところから、本発明においては、好適に用いられることとなる。
【0017】
なお、上記したフェノール類とアルデヒド類との付加・縮合反応の際に用いられる触媒としては、特に限定されるものではなく、所望とするフェノール樹脂のタイプに応じて、公知の酸性触媒や塩基性触媒の他、従来からフェノール樹脂の製造に用いられている各種の触媒が、適宜に用いられる。そして、そのような触媒としては、スズ、鉛、亜鉛、コバルト、マンガン、ニッケル等の金属元素を有する金属塩等を例示することが出来、より具体的には、ナフテン酸鉛、ナフテン酸亜鉛、酢酸鉛、塩化亜鉛、酢酸亜鉛、ホウ酸亜鉛、酸化鉛の他、このような金属塩を形成し得る酸と塩基の組み合わせ等を挙げることが出来る。また、かかる金属塩を反応触媒として採用する場合に、その使用量としては、特に限定されるものではないものの、一般に、フェノール類の100質量部に対して、0.01~5質量部程度となる割合で、使用されることとなる。
【0018】
また、フェノール樹脂を与えるフェノール類としては、例えば、フェノール、オルソクレゾール、メタクレゾール、パラクレゾール、2,3-ジメチルフェノール、2,4-ジメチルフェノール、2,5-ジメチルフェノール、2,6-ジメチルフェノール、3,4-ジメチルフェノール、3,5-ジメチルフェノール、p-tert-ブチルフェノール、o-tert-ブチルフェノール、m-tert-ブチルフェノール、ノニルフェノール等のアルキルフェノール、レゾルシノール、ビスフェノールF、ビスフェノールA等の多価フェノール及びこれらの混合物等が挙げられる一方、アルデヒド類としては、例えば、ホルムアルデヒド、ホルマリン、パラホルムアルデヒド、ポリオキシメチレン、グリオキザール、フルフラール及びこれらの混合物等が挙げられる。
【0019】
さらに、上述せるように、本発明において有利に採用されるフェノール樹脂の一つであるオルソクレゾール変性フェノール樹脂としては、例えば、金属塩等の反応触媒の存在下において、オルソクレゾール及びフェノールを、アルデヒド類と反応せしめて得られる、(1)オルソクレゾールとフェノールとの共縮合型のオルソクレゾール変性フェノール樹脂、(2)オルソクレゾール樹脂とフェノール樹脂との混合型のオルソクレゾール変性フェノール樹脂の他、これら(1)及び(2)の樹脂を変性剤(改質剤)で改質してなる、(3)改質型のオルソクレゾール変性フェノール樹脂、及び、それら(1)、(2)及び(3)のうちの2種以上を組み合わせた混合物等を、例示することが出来る。なお、それら(1)、(2)及び(3)のオルソクレゾール変性フェノール樹脂は、何れも、よく知られており、本発明においては、そのような公知のものが、そのまま用いられることとなる。また、フェノール/オルソクレゾールの比率としては、質量基準にて、1/9~9/1、好ましくは3/7~7/3、より好ましくは4/6~6/4の比率が採用されることとなる。
【0020】
そして、かくの如き本発明に従う鋳型用有機粘結剤の主たる成分の一つとして使用されるフェノール樹脂等のポリオール化合物は、その低粘度化、後述するポリイソシアネート溶液との相溶性、鋳物砂へのコーティング性、鋳型物性等の観点から、一般に、極性有機溶剤と非極性有機溶剤とを組み合わせてなる有機溶媒に溶解せしめられ、その濃度が、約30~80質量%程度とされた溶液(以下、「ポリオール溶液」という)の状態で、用いられることとなる。
【0021】
一方、本発明に従う鋳型用有機粘結剤において、その主たる成分の他の一つとして使用されるポリイソシアネート化合物は、上述せる如きフェノール樹脂等のポリオール化合物の活性水素と重付加反応することにより、鋳物砂同士をフェノールウレタンの如きウレタン結合で化学的に結合せしめ得るイソシアネート基を、分子内に2以上有する化合物である。そのようなポリイソシアネート化合物の具体例としては、芳香族、脂肪族、或は脂環式のポリイソシアネート、例えば、ジフェニルメタンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニレンポリイソシアネート(以下、「ポリメリックMDI」という)、ヘキサメチレンジイソシアネート、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートの他、これらの化合物をポリオールと反応させて得られるイソシアネート基を2以上有するプレポリマー等、従来より公知の各種のポリイソシアネート類を挙げることが出来、これらは、単独で用いても、或は2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0022】
さらに、かかるポリイソシアネート化合物にあっても、上述せる如きフェノール樹脂等のポリオール化合物と同様の理由から、一般に、非極性有機溶剤、又は非極性有機溶剤と極性溶剤との混合溶剤を溶媒として用い、この有機溶媒に、濃度が約40~90質量%程度となるように溶解された溶液として用いられることとなる。なお、使用するポリイソシアネート化合物の種類等によっては、必ずしも、有機溶媒に溶解せしめる必要はなく、その原液のまま、使用することも可能である。以下においては、ポリイソシアネート化合物の原液、及びポリイソシアネート化合物を有機溶媒に溶解せしめてなる溶液を含めて、ポリイソシアネート溶液と呼称する。
【0023】
なお、ここにおいて、上述したポリオール化合物やポリイソシアネート化合物を溶解せしめるための有機溶剤としては、ポリイソシアネート化合物には非反応性で、且つ溶解対象である溶質(ポリオール化合物又はポリイソシアネート化合物)に対して良溶媒であれば、特に制限されるものではないものの、一般に、 i)フェノール樹脂等のポリオール化合物を溶解するための極性溶剤と、ii)フェノール樹脂等のポリオール化合物の分離が生じない程度の量のポリイソシアネート化合物を溶解するための非極性溶剤とが組み合わされて、用いられることとなる。
【0024】
より具体的には、上記した i)の極性溶剤としては、例えば、脂肪族カルボン酸エステル、その中でも、特に、ジカルボン酸メチルエステル混合物(米国デュポン社製;商品名:DBE;グルタル酸ジメチルとアジピン酸ジメチルとコハク酸ジメチルとの混合物)等のジカルボン酸アルキルエステル、菜種油メチルエステル等の植物油のメチルエステルの他、例えば、イソホロン等のケトン類、イソプロピルエーテル等のエーテル類、フルフリルアルコール等を挙げることが出来る。また、上記のii)の非極性溶剤としては、例えば、パラフィン類、ナフテン類、アルキルベンゼン類等の石油系炭化水素類、具体例としては、イプゾール150(出光興産株式会社製;石油系溶剤)、ハイゾール100(JXTGエネルギー株式会社製;石油系溶剤)、HAWS(シェル・ケミカルズ・ジャパン株式会社製;石油系溶剤)等を例示することが出来る。
【0025】
そして、本発明にあっては、目的とする鋳型用の有機粘結剤の構成成分として、上記したポリオール化合物とポリイソシアネート化合物に加えて、更に、塩基性の第一シラン化合物とフッ化水素酸との反応生成物及び非塩基性の第二シラン化合物が、含有せしめられるようにしたのである。それら特定の反応生成物や非塩基性の第二シラン化合物の存在によって、有機粘結剤を用いて造型される鋳型の強度の向上、特に造型後における鋳型の放置強度の向上を有利に実現せしめ得ると共に、かかる鋳型を、保管・放置した場合における外的環境の悪影響、特に高湿度雰囲気下における鋳型強度の低下を効果的に抑制乃至は防止することが出来ることとなる。即ち、保管・放置中に、鋳型が空気中の湿気を吸収することによって惹起される強度低下を、効率よく改善乃至は防止して、鋳型の耐吸湿劣化特性の向上を有利に図ることが出来るのである。しかも、このように、塩基性の第一シラン化合物とフッ化水素酸との反応生成物と共に、非塩基性の第二シラン化合物を併用することによって、有機粘結剤と鋳物砂とを混練して得られる鋳物砂組成物の可使時間の改善をも、有利に図り得ることに加えて、そのような鋳物砂組成物の流動性が効果的に向上せしめられ得て、より充填性に優れた鋳型が形成され得ると共に、その得られた鋳型の表面がより滑らかとなって、その表面性状の向上も有利に図られ得るのである。
【0026】
なお、かかる特定の反応生成物を与える塩基性の第一シラン化合物としては、ケイ素(Si)に対して、アミノ基等の塩基性基を有する有機基が結合してなる構造を有する有機ケイ素化合物であって、例えば、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(ビニルベンジル)-2-アミノエチル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノ基を有するアルコキシシランや、ヘキサメチルジシラザン、更には3-ウレイドプロピルトリアルコキシシラン等のウレイド基を有するシラン化合物等を挙げることが出来る。また、これら塩基性の第一シラン化合物の中でも、塩基性アルコキシシランを用いることが好ましく、中でも、アミノ基を有するアルコキシシランがより好ましく、更に好ましくは、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-ウレイドプロピルトリアルコキシシランが、有利に用いられることとなる。このアミノ基を有するアルコキシシランが最もよい理由としては、その入手が容易であることに加えて、ポリオール化合物やフッ化水素酸中の水分により、アルコキシ基が加水分解して、水酸基に変化することにより、鋳物砂(骨材等)との接着がより強固になり、高い鋳型強度を発現し得ることとなるからである。
【0027】
そして、かかる塩基性の第一シラン化合物がフッ化水素酸と反応せしめられて、その得られた反応生成物が、本発明においては用いられることとなるのであるが、その反応比率としては、質量基準にて、塩基性の第一シラン化合物/フッ化水素酸=2/8~8/2、好ましくは3/7~7/3、より好ましくは4/6~6/4の比率が、採用されることとなる。また、ここで使用されるフッ化水素酸の濃度としては、10~65%が好ましく、20~60%がより好ましく、40~55%が更に好ましい。
【0028】
ところで、かくの如き本発明において用いられる特定の反応生成物を製造するに際しては、例えば、プラスチック製の容器中において、所定の塩基性の第一シラン化合物とフッ化水素酸とを混合して反応せしめることにより、目的とする反応生成物を容易に得ることが出来る。このとき、塩基性の第一シラン化合物とフッ化水素酸との反応熱を抑えるために、それらのうちの一方に対して冷却、撹拌を行いながら、他方のものを、連続的に、又は断続的に、添加するようにすることにより、急激な反応の進行を阻止するようにすることが望ましい。また、それらの反応に際しては、塩基性の第一シラン化合物に、フッ化水素酸を添加することにより、反応を進行せしめる場合の他、それとは逆に、フッ化水素酸に、塩基性の第一シラン化合物を添加するようにすることも可能である。そして、それら塩基性の第一シラン化合物とフッ化水素酸との反応時の温度としては、80℃以下に抑えることが好ましく、より好ましくは70℃以下、更に好ましくは60℃以下において、反応が進行せしめられる。
【0029】
なお、ここで、塩基性の第一シラン化合物又はフッ化水素酸を、連続的に、又は断続的に、少しずつ添加するとは、その連続的な添加方式においては、一定量を一定のスピードにおいて添加する、一定割合の添加速度にて反応系に添加する方式が有利に採用され、また断続的な添加方式においては、一定の間隔を空けて、一定量毎において添加されるようにすることが望ましい。また、かかる間隔を空けた断続的な添加方式においては、例えば、1秒毎に、10秒毎に、或は1分毎等のように、時間を決めて一定量投入したり、それを反応系に漸次滴下する方式等も採用可能である。このような方法で、少しずつ添加することにより、反応熱の上昇を有利に防止せしめ、得られる反応生成物の物性の劣化を、効果的に阻止することが可能である。中でも、滴下による方式を採用すれば、反応熱による温度の上昇を、より効果的に抑制することが可能である。
【0030】
そして、本発明にあっては、望ましくは、かくの如き塩基性の第一シラン化合物とフッ化水素酸との反応によって得られる反応生成物が、予め形成された後、そのような反応生成物の形態において、ポリオール化合物やポリイソシアネート化合物と共に用いられて、目的とする有機粘結剤が有利に構成されるのである。このように、塩基性の第一シラン化合物とフッ化水素酸との反応生成物を予め形成させておくことにより、フッ化水素酸を直接に添加する工程が不要となるために、有機粘結剤を調製する際や、それを用いて鋳物砂組成物を製造する際の安全性が、有利に確保され得ることとなるのである。また、フッ化水素酸を直接添加する工程が不要となることで、有機粘結剤や鋳物砂組成物の製造時にステンレス製やガラス製の製造装置等を用いた場合でも、装置内を腐食させることなく、製造することが出来る利点がある。なお、かかる特定の反応生成物の添加方式が、例示のものに限定されるものでないことは言うまでもないところであり、そのような反応生成物が、有機粘結剤中において、その構成成分として存在し得る形態となるものであれば、それら塩基性の第一シラン化合物とフッ化水素酸を、ポリオール化合物及び/又はポリイソシアネート化合物に対して別個に或は共に添加する等、適宜の添加形態において、ポリオール化合物やポリイソシアネート化合物に配合せしめて、有機粘結剤としての使用時において、目的とする反応生成物が形成されるようにすることが可能である。
【0031】
なお、本発明において、かくの如き塩基性の第一シラン化合物とフッ化水素酸との反応生成物の使用量としては、有機粘結剤の構成成分の一つであるポリオール化合物の100質量部に対して、0.01~10.0質量部程度、好ましくは0.1~2質量部程度となる割合が、好適に採用されることとなる。なお、そのような反応生成物の使用量が0.01質量部よりも少なくなると、かかる反応生成物の使用による効果が充分に発揮され難くなるようになり、また10質量部よりも多くなると、得られる鋳型の充分な強度向上に寄与し難くなる等の問題が生じるようになる。
【0032】
一方、上述の如き反応生成物と併用される非塩基性の第二シラン化合物は、その分子構造中にアミノ基等の塩基性基が結合されていない有機ケイ素化合物であって、例えば、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、クロロトリメチルシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、トリス-(トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、p-スチリルトリメトキシシラン等を挙げることが出来る。なお、その中でも、好ましくは、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン及び3-イソシアネートプロピルトリエトキシシランが、有利に用いられることとなる。このような非塩基性の第二シラン化合物を併用することにより、ポリオール化合物側とポリイソシアネート化合物側の相溶性が改善され、有機粘結剤としての流動性が向上すると共に、鋳物砂(耐火性骨材)に対する濡れ性も良好となり、鋳物砂組成物の流動性が向上して、より充填性に優れた鋳型が、その表面性状が向上せしめられてなる形態において、有利に造型され得るのである。
【0033】
なお、本発明において、かかる非塩基性の第二シラン化合物の使用量としては、ポリオール化合物の100質量部に対して、0.01~10.0質量部程度、好ましくは0.1~5質量部程度となる割合が、好適に採用されることとなる。なお、その使用量が0.01質量部よりも少なくなると、そのような第二シラン化合物の使用によって期待される機能を充分に果たし難くなる等の問題が惹起され、また10質量部よりも多くなると、有機粘結剤の製造のためのコストが高価になる等といった問題を生じるようになる。
【0034】
また、本発明に従う鋳型用有機粘結剤においては、上記したポリオール化合物、ポリイソシアネート化合物、特定の反応生成物、及び非塩基性の第二シラン化合物に加えて、更に、酸ハロゲン化物、ハロゲン化ホスホリル化合物及びハロゲン化ホスフィンのうちの少なくとも一つが、構成成分の一つとして有利に含有せしめられることとなる。このような酸ハロゲン化物、ハロゲン化ホスホリル化合物、又はハロゲン化ホスフィンの存在により、本発明に従う有機粘結剤と鋳物砂とが混練せしめられてなる鋳物砂組成物を用いて造型された鋳型の強度や吸湿劣化特性が、より一層向上せしめられ得ると共に、特に、優れた鋳型強度と吸湿劣化特性を維持したまま、鋳物砂との混練によって得られる鋳物砂組成物の可使時間を、効果的に向上させることが可能である。なお、かかる酸ハロゲン化物、ハロゲン化ホスホリル化合物、又はハロゲン化ホスフィンは、一般に、ポリオール化合物の100質量部に対して、それぞれ0.01~5質量部程度、好ましくは0.1~2質量部程度となる割合が、好適に採用されることとなる。
【0035】
ここで、上記した酸ハロゲン化物としては、脂肪族カルボン酸や芳香族カルボン酸のハロゲン化物であり、例えば、イソフタル酸クロライド、塩化ベンゾイル、カプリル酸クロライド、ラウリン酸クロライド、ミリスチン酸クロライド、パルミチン酸クロライド、イソパルミチン酸クロライド、ステアリン酸クロライド、イソステアリン酸クロライド、オレイン酸クロライド、セバシン酸ジクロライド、フェニルアセチルクロライド、2-クロロベンゾイルクロライド、3-クロロベンゾイルクロライド、4-クロロベンゾイルクロライド、2-ブロモベンゾイルクロライド、3-ブロモベンゾイルクロライド、4-ブロモベンゾイルクロライド、2-ヨードベンゾイルクロライド、3-ヨードベンゾイルクロライド、4-ヨードベンゾイルクロライド、酪酸クロライド、イソ酪酸クロライド、吉草酸クロライド、イソ吉草酸クロライド、カプロン酸クロライド、エナント酸クロライド、ペラルゴン酸クロライド、カプリン酸クロライド、ペンタデシル酸クロライド、マルガリン酸クロライド、リノール酸クロライド、リノレン酸クロライド、フタル酸クロライド、テレフタル酸クロライド、o-トルイル酸クロライド、m-トルイル酸クロライド、p-トルイル酸クロライド、無水トリメリット酸クロライド、トリメトキシ安息香酸クロライド、臭化ベンゾイル、ヨウ化ベンゾイル等を挙げることが出来、その中でも、イソフタル酸クロライドやラウリン酸クロライドが、好適に用いられることとなる。また、ハロゲン化ホスホリル化合物は、次式:Rn -P(=O)X(3-n) [但し、Rは有機基であり、Xはハロゲン原子であり、nは0、1又は2である]にて示される、ハロゲン置換されたホスホリル基(≡P=O)を有する化合物であって、例えば、塩化ホスホリル、臭化ホスホリル、ヨウ化ホスホリル、フェニルホスホン酸ジクロライド、ジフェニルホスフィン酸クロライド等を用いることが出来、更には、ハロゲン化ホスフィンは、次式:Rn -P-X(3-n) [但し、Rは有機基であり、Xはハロゲン原子であり、nは0、1又は2である]にて示される化合物であって、例えば、ジクロロフェニルホスフィン、クロロジフェニルホスフィン等を用いることが出来るが、それらの中でも、フェニルホスホン酸ジクロライドが好適に用いられることとなる。
【0036】
このように、本発明に従う鋳型用ウレタン硬化型有機粘結剤は、フェノールウレタンの如きウレタン結合を形成するポリオール化合物とポリイソシアネート化合物に加えて、上述せる如き塩基性の第一シラン化合物とフッ化水素酸との反応生成物及び非塩基性の第二シラン化合物を構成成分として含み、更に好ましくは、酸ハロゲン化物、ハロゲン化ホスホリル化合物及びハロゲン化ホスフィンのうちの少なくとも一つを含んで、構成されることとなるのであるが、このような有機粘結剤には、また必要に応じて、上記した配合成分とは異なる可使時間延長剤(硬化遅延剤:例えば、高級脂肪酸エステル等)や、離型剤、強度劣化防止剤、乾燥防止剤等の、従来より鋳型用有機粘結剤に使用されている公知の各種の添加剤を、適宜に選択して配合することも可能である。勿論、それらの各種添加剤は、本発明によって享受され得る効果を阻害しない量的範囲において使用されるものであることは、言うまでもないところである。なお、それら各種の添加剤のうち、可使時間延長剤(硬化遅延剤)は、ウレタン化反応を抑制し、鋳物砂組成物の可使時間を延長するために用いられるものであり、また離型剤は、造型された鋳型を成形型から抜型する際の抵抗を小さくすると共に、成形型内に吹込み充填された鋳物砂組成物の一部が、鋳型の抜型時に型に付着することによって発生するシミツキを防止し、成形面が均一で且つ精度の高い鋳型を得るために用いられるものである。
【0037】
そして、かくの如き構成からなる本発明に従う鋳型用ウレタン硬化型有機粘結剤は、従来と同様にして、鋳物砂(耐火性骨材)に混練せしめられて、ウレタン系のガス硬化鋳型を造型するための鋳物砂組成物が、形成されることとなるのである。
【0038】
具体的には、例えば、コールドボックス法によるガス硬化鋳型の造型に際して、先ず、鋳物砂(耐火性骨材)に対して、上記した本発明に従う鋳型用有機粘結剤を混練せしめることにより、かかる鋳物砂表面を、鋳型用有機粘結剤で被覆してなる鋳物砂組成物(混練砂)が、製造されるのである。即ち、鋳物砂に対して、有機粘結剤として、ポリオール化合物と、ポリイソシアネート化合物と、塩基性の第一シラン化合物とフッ化水素酸との反応生成物と、非塩基性の第二シラン化合物と、更に所望の各種添加剤とを、充分に混練、混合することによって、鋳物砂表面に鋳型用有機粘結剤をコーティングして、鋳物砂組成物が製造されることとなる。
【0039】
なお、その際、塩基性の第一シラン化合物とフッ化水素酸との反応生成物や非塩基性の第二シラン化合物、更にはその他の各種添加剤は、鋳物砂組成物に対して均一に混合され得るように、別個に調製されたポリオール化合物の溶液やポリイソシアネート化合物の溶液の何れか一方に、若しくはその両方に添加されて、混合されるか、或は適当な有機溶剤に溶解乃至は分散せしめて、これを混練時に、ポリオール化合物の溶液やポリイソシアネート化合物の溶液と共に、鋳物砂に対して混合せしめるか、或はフェノール樹脂の如きポリオール化合物の製造時の縮合完了後の如く、形成されたポリオール化合物に、直接に添加して、混合せしめることも可能である。中でも、本発明にあっては、かかる特定の反応生成物は、別途調製されたポリオール化合物の溶液に添加せしめられるようにすることが望ましく、また非塩基性の第二シラン化合物は、別途調製されたポリイソシアネート化合物の溶液に添加せしめられるようにすることが望ましい。
【0040】
ところで、かかる鋳物砂組成物を製造する際に、有機粘結剤を構成するポリオール化合物の溶液とポリイソシアネート化合物の溶液とは、それらを混合した段階から、徐々に重付加反応(ウレタン化反応)が進行するようになるところから、予め、別々に調製されて準備され、通常、鋳物砂との混練時に混合されることとなる。なお、その混練・混合操作は、従来と同様な連続式乃至はバッチ式ミキサーを用いて、好適には、-10℃~50℃の範囲の温度下において行われることとなる。
【0041】
また、このような本発明に従う鋳型用有機粘結剤と混練せしめられる鋳物砂(耐火性骨材)としては、従来より鋳型用として用いられている耐火性のものであれば、天然砂であっても、人工砂であっても、何等差支えなく、特に制限されるものではない。例えば、ケイ砂、オリビンサンド、ジルコンサンド、クロマイトサンド、アルミナサンド、フェロクロム系スラグ、フェロニッケル系スラグ、転炉スラグ、ムライト系人工粒子(例えば、伊藤忠セラテック株式会社から入手することの出来る商品名「セラビーズ」)やアルミナ系人工粒子、その他各種の人工粒子、及びこれらの再生砂や回収砂が挙げられ、これらのうちの1種、或は2種以上が組み合わされて用いられ得るのである。なお、これらの中でも、ケイ砂、特にフラタリー砂のようなシリカ分の高い骨材が、より一層好適に採用されることとなる。このようなシリカ分の高い骨材を使用することで、粘結剤成分中のシランとの馴染みがよくなることにより、骨材と粘結剤との接着性が増大して、鋳型を造型した際の強度向上に繋がることとなる。
【0042】
そして、上述の如くして得られた鋳物砂組成物を、所望とする形状を与える金型の如き成形型内で賦形した後、これに対して、硬化のための触媒ガスを通気することにより、鋳物砂組成物の硬化が促進せしめられて、ガス硬化鋳型が製造されることとなるのである。なお、触媒ガスとしては、トリエチルアミン、ジメチルエチルアミン、ジメチルイソプロピルアミン等の従来から公知の第三級アミンガスの他、環状窒素化合物、ピリジン、N-エチルモルホリン等を例示することが出来、それらのうちの少なくとも1種が適宜に選択されて、通常の量的範囲において用いられることとなる。
【0043】
また、常温自硬性法によって、目的とする自硬性鋳型を造型するに際しても、上記したガス硬化鋳型の場合と同様に、先ず、鋳物砂表面を有機粘結剤で被覆してなる鋳物砂組成物が、製造されることとなるのであるが、その際、常温自硬性法に用いられる鋳物砂組成物には、混練時に、本発明に従う有機粘結剤と共に、更に硬化触媒が混入せしめられることとなる。なお、この硬化触媒としては、公知のアシュランド法において通常使用される塩基、アミン、金属イオン等を挙げることが出来る。
【0044】
さらに、上記したガス硬化鋳型や自硬性鋳型を与える鋳物砂組成物の調製に際して、ポリオール溶液やポリイソシアネート溶液の配合割合としては、それぞれ、有効成分であるポリオール化合物及びポリイソシアネート化合物の配合量が、鋳物砂の100質量部に対して、それぞれ、0.5~5.0質量部程度、好ましくは1.0~3.0質量部程度となる割合が、好適に採用されることとなる。また、ポリオール化合物とポリイソシアネート化合物の配合比率としては、特に限定されるものではないものの、一般に、質量基準で、ポリオール化合物:ポリイソシアネート化合物=4:6~6:4となるように、ポリオール溶液やポリイソシアネート溶液が組み合わされて、用いられることとなる。
【0045】
かくして、上述せる如くして造型されたガス硬化鋳型や自硬性鋳型にあっては、その充填密度や強度が効果的に向上せしめられ、更に、その強度の耐吸湿劣化特性が高められ得た結果、アルミニウム合金やマグネシウム合金、鉄等の各種金属からなる鋳物製品の鋳造に、有利に用いられ得ることとなったのである。
【実施例
【0046】
以下に、本発明の代表的な実施例を幾つか示し、本発明を更に具体的に明らかにすることとするが、本発明が、そのような実施例の記載によって、何等の制約をも受けるものでないことは、言うまでもないところである。また、本発明には、以下の実施例の他にも、更には上記した具体的記述以外にも、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々なる変更、修正、改良等が加えられ得るものであることが、理解されるべきである。
【0047】
また、以下の実施例や比較例において調製された有機粘結剤について、(1)有機粘結剤を用いて得られた鋳物砂組成物から造型された鋳型の強度の測定、(2)鋳型の吸湿劣化後の強度の測定、(3)鋳物砂組成物の可使時間の評価、(4)充填密度の測定、更には(5)鋳肌の評価を、それぞれ、以下のようにして行った。
【0048】
(1)鋳型強度の測定
コールドボックス造型機のサンドマガジン内に、混練後の鋳物砂組成物を投入した後、この鋳物砂組成物を、曲げ強度試験片作製用金型内に、ゲージ圧:0.3MPaで充填する。次いで、かかる金型内に、ガスジェネレータにより、ゲージ圧:0.2MPaで1秒間、トリエチルアミンガスを通気した後、ゲージ圧:0.2MPaで14秒間、エアーパージを行い、更にその後、抜型して、幅:3cm×長さ:8.5cm×厚み:1cmの曲げ試験片(鋳型)を作製する。そして、その得られた試験片を、i)その造型直後に、及びii)気温:25℃、相対湿度:40%の低湿状態下において、24時間放置した後に、デジタル鋳物砂強度試験機(高千穂精機株式会社製)により、その曲げ強度(kgf/cm2 )を測定する。
【0049】
(2)吸湿劣化後の鋳型強度の測定
上記の鋳型強度の測定の場合と同様にして、それぞれの鋳物砂組成物から試験片を作製した後、その得られた試験片(鋳型)を、気温:25℃、相対湿度:90%の高湿状態下の密閉容器内に、24時間放置し、更にその後、デジタル鋳物砂強度試験機(高千穂精機株式会社製)を用いて、曲げ強度(kgf/cm2 )を測定する。
【0050】
(3)鋳物砂組成物の可使時間の評価
上記の鋳型強度の測定の場合と同様にして、それぞれの鋳物砂組成物から試験片を作製するに際して、鋳物砂としてのフラタリー砂と有機粘結剤との混練により、調製される各鋳物砂組成物について、その混練後、直ちに造型を行い(混練後待機時間:0分)、その得られた試験片と、混練から120分経過後に造型を行い(混練後待機時間:120分)、その得られた試験片とについて、それぞれの強度を、鋳型強度として測定し、それら二つの鋳型強度の値を比較することにより、可使時間の評価を行う。
【0051】
(4)充填密度の測定
上記の鋳型強度の測定の場合と同様にして、それぞれの鋳物砂組成物から試験片(幅:3cm×長さ:8.5cm×厚み:1cm)を作製した後、その得られた試験片(鋳型)の質量の数値から、下記式により、充填密度(g/cm3 )を算出した。なお、試験片は2点作製し、各質量の数値の平均値を充填密度(g/cm3 )とした。
充填密度 = 試験片(鋳型)質量 / 試験片体積
【0052】
(5)鋳型表面性状の評価
上記の鋳型強度の測定の場合と同様にして、それぞれの鋳物砂組成物から試験片を作製した後、その得られた試験片(鋳型)について、その表面性状(手触り感覚)の評価を行った。具体的には、5名のパネラーが、鋳型表面の手触りを、以下の基準で評価し、その平均レベルで、優劣を評価した。
◎:非常に滑らかな手触り
○:滑らかな手触り
△:少々粗い手触り
×:非常に粗い手触り
【0053】
-フェノール樹脂溶液(1)の調製-
還流器、温度計及び撹拌機を備えた三つ口反応フラスコ内に、フェノールの100質量部、92質量%パラホルムアルデヒドの55.5質量部、及び二価金属塩としてナフテン酸亜鉛の0.2質量部を仕込み、還流温度で90分間反応を行った後、加熱濃縮して、水分含有率が1%以下のベンジルエーテル型のフェノール樹脂を得た。次いで、その得られたフェノール樹脂の50.0質量部を、極性有機溶剤(DBE:米国デュポン社製)の20.0質量部及び非極性有機溶剤(ハイゾール100:JXTGエネルギー株式会社製;石油系溶剤)の30.0質量部を用いて溶解せしめて、フェノール樹脂分が50.0質量%のフェノール樹脂溶液(1)を調製した。
【0054】
-フェノール樹脂溶液(2)の調製-
還流器、温度計及び撹拌機を備えた三つ口反応フラスコ内に、フェノールの50質量部及びオルソクレゾールの50質量部(フェノール/オルソクレゾール=50/50)と、92質量%パラホルムアルデヒドの51.9質量部、及び二価金属塩としてナフテン酸亜鉛の0.15質量部を仕込み、還流温度で90分間反応を行った後、加熱濃縮して、水分含有量が1%以下のオルソクレゾール変性ベンジルエーテル型のフェノール樹脂を得た。次いで、その得られたフェノール樹脂の50.0質量部を、極性有機溶剤(DBE:米国デュポン社製)の20.0質量部及び非極性溶剤(ハイゾール100:JXTGエネルギー株式会社製;石油系溶剤)の30.0質量部を用いて溶解せしめて、フェノール樹脂分が50.0質量%のフェノール樹脂溶液(2)を調製した。
【0055】
-ポリメリックMDI溶液の調製-
ポリイソシアネート化合物であるポリメリックMDIの75.0質量部を、非極性有機溶剤(イプゾール150:出光興産株式会社製;石油系溶剤)の25.0質量部を用いて溶解し、ポリイソシアネート化合物の含有量が75.0質量%のポリメリックMDI溶液を調製した。
【0056】
-塩基性の第一シラン化合物とフッ化水素酸との反応生成物の製造-
塩基性の第一シラン化合物として、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン(KBM602:信越化学工業株式会社製)を用いて、60℃以下の温度下で撹拌しながら、かかる第一シラン化合物(KBM602)の0.6質量部中に、46%フッ化水素酸の0.6質量部を少量ずつ滴下して反応させることにより、反応生成物(アミンフッ酸塩)を製造した。
【0057】
(実施例1~6)
先ず、上記で調製されたフェノール樹脂溶液(1)の100質量部に対して、上記の第一シラン化合物(KBM602)とフッ化水素酸との反応生成物を、下記表1に示される割合において添加し、撹拌して均一に混合せしめることにより、実施例1~6の各々に係るポリオール溶液を調製した。また、上記で調製されたポリメリックMDI溶液の100質量部に対して、下記表1に示す非塩基性の各種第二シラン化合物を、下記表1に示される割合において添加し、撹拌して均一に混合せしめることにより、実施例1~6の各々に係る各ポリイソシアネート溶液を調製した。
【0058】
次いで、ダルトン株式会社製品川式卓上ミキサー内に、フラタリー砂の1000質量部を投入すると共に、上述の如くして調製されたポリオール溶液と、上記で調製されたポリイソシアネート溶液とを、それぞれ、10質量部投入し、60秒間撹拌して、混練することにより、鋳物砂組成物を調製した。そして、その得られた各種の鋳物砂組成物を用いて、それぞれの試験片(鋳型)を作製して、上記の測定法に従って、造型直後及び造型24時間後の鋳型強度(kgf/cm2 )、並びに造型24時間後の吸湿劣化後の鋳型強度(kgf/cm2 )を、それぞれ測定して、その得られた結果を、下記表1に示した。また、混練から120分待機させた後の鋳物砂組成物を用いて、造型直後及び造型24時間後の鋳型強度(kgf/cm2 )をそれぞれ測定して、可使時間の評価を行った。更に、充填密度の測定、鋳型表面性状の評価も合わせて行った。それらの結果を、下記表1に合わせて示す。
【0059】
(実施例7)
フェノール樹脂溶液(1)に代えて、上記で調製されたフェノール樹脂溶液(2)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、鋳物砂組成物を調製した。そして、その得られた鋳物砂組成物を用いて、試験片(鋳型)を作製して、上記の測定法に従って、造型直後及び造型24時間後の鋳型強度(kgf/cm2 )、並びに造型24時間後の吸湿劣化後の鋳型強度(kgf/cm2 )を、それぞれ測定して、その結果を、下記表1に示した。また、混練から120分待機させた後の鋳物砂組成物を用いて、造型直後及び造型24時間後の鋳型強度(kgf/cm2 )をそれぞれ測定して、可使時間の評価を行った。更に、充填密度の測定、鋳型表面性状の評価も合わせて行った。それらの結果を、下記表1に合わせ示す。
【0060】
(実施例8)
前記ポリイソシアネート溶液の調製の際に、更に、イソフタル酸クロライドを0.3質量部加えること以外は、実施例1と同様にして、鋳物砂組成物を調製した。そして、その得られた鋳物砂組成物を用いて、試験片(鋳型)を作製して、上記の測定法に従って、造型直後及び造型24時間後の鋳型強度(kgf/cm2 )、並びに造型24時間後の吸湿劣化後の鋳型強度(kgf/cm2 )を、それぞれ測定して、その結果を、下記表1に示した。また、混練から120分待機させた後の鋳物砂組成物を用いて、造型直後及び造型24時間後の鋳型強度(kgf/cm2 )をそれぞれ測定して、可使時間の評価を行った。更に、充填密度の測定、鋳型表面性状の評価も合わせて行った。それらの結果を、下記表1に合わせ示す。
【0061】
(実施例9~10)
前記ポリイソシアネート溶液の調製の際に、更に、ラウリン酸クロライド又はフェニルホスホン酸ジクロライドを0.3質量部加えること以外は、実施例1と同様にして、鋳物砂組成物を調製した。そして、その得られた鋳物砂組成物を用いて、試験片(鋳型)を作製した後、上記の測定法に従って、造型直後及び造型24時間後の鋳型強度(kgf/cm2 )、並びに造型24時間後の吸湿劣化後の鋳型強度(kgf/cm2 )を、それぞれ測定して、その結果を、下記表1に示した。また、混練から120分待機させた後の鋳物砂組成物を用いて、造型直後及び造型24時間後の鋳型強度(kgf/cm2 )をそれぞれ測定して、可使時間の評価を行った。更に、充填密度の測定、鋳型表面性状の評価も合わせて行った。それらの結果を、下記表1に合わせ示す。
【0062】
(比較例1~5)
前記で調製されたフェノール樹脂溶液(1)を準備する一方、前記で調製されたポリメリックMDI溶液の100質量部に対して、下記表2に示す各種第二シラン化合物を、下記表2に示される割合において添加し、撹拌して均一に混合せしめることにより、比較例1~5の各々に係るポリイソシアネート溶液を準備した。次いで、ダルトン株式会社製品川式卓上ミキサー内に、フラタリー砂の1000質量部を投入すると共に、それらフェノール樹脂溶液(ポリオール溶液)及びポリイソシアネート溶液を、それぞれ10質量部投入し、60秒間撹拌して、混練することにより、鋳物砂組成物を調製した。そして、その得られた鋳物砂組成物を用いて、試験片(鋳型)を作製して、上記の測定法に従って、造型直後及び造型24時間後の鋳型強度(kgf/cm2 )、並びに造型24時間後の吸湿劣化後の鋳型強度(kgf/cm2 )を、それぞれ測定して、その結果を、下記表2に示した。また、混練から120分待機させた後の鋳物砂組成物を用いて、造型直後及び造型24時間後の鋳型強度(kgf/cm2 )をそれぞれ測定して、可使時間の評価を行った。更に、充填密度の測定、鋳型表面性状の評価も合わせて行った。それらの結果を、下記表2に合わせ示す。
【0063】
(比較例6)
フェノール樹脂溶液(1)に代えて、上記で調製されたフェノール樹脂溶液(2)を用いたことを除いては、比較例1と同様にして、鋳物砂組成物を調製した。そして、その得られた鋳物砂組成物を用いて、試験片(鋳型)を作製して、上記の測定法に従って、造型直後及び造型24時間後の鋳型強度(kgf/cm2 )、並びに造型24時間後の吸湿劣化後の鋳型強度(kgf/cm2 )を、それぞれ測定して、その結果を、下記表2に示した。また、混練から120分待機させた後の鋳物砂組成物を用いて、造型直後及び造型24時間後の鋳型強度(kgf/cm2 )をそれぞれ測定して、可使時間の評価を行った。更に、充填密度の測定、鋳型表面性状の評価も合わせて行った。それらの結果を、下記表2に合わせ示す。
【0064】
(比較例7)
ポリイソシアネート溶液の調製に際して、更に、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン(KBM602)を加えること以外は、比較例1と同様にして、鋳物砂組成物を調製した。そして、その得られた鋳物砂組成物を用いて、試験片(鋳型)を作製して、上記の測定法に従って、造型直後及び造型24時間後の鋳型強度(kgf/cm2 )、並びに造型24時間後の吸湿劣化後の鋳型強度(kgf/cm2 )を、それぞれ測定して、その結果を、下記表2に示した。また、混練から120分待機させた後の鋳物砂組成物を用いて、造型直後及び造型24時間後の鋳型強度(kgf/cm2 )をそれぞれ測定して、可使時間の評価を行った。更に、充填密度の測定、鋳型表面性状の評価も合わせて行った。それらの結果を、下記表2に合わせ示す。
【0065】
(比較例8)
前記で調製されたフェノール樹脂溶液(1)を準備する一方、前記で調製されたポリメリックMDI溶液の100質量部に対して、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン(KBM602)を、下記表2に示される割合において添加し、撹拌して、均一に混合せしめることにより、ポリイソシアネート溶液を準備した。次いで、ダルトン株式会社製品川式卓上ミキサー内に、フラタリー砂の1000質量部を投入すると共に、それらフェノール樹脂溶液(ポリオール溶液)及びポリイソシアネート溶液を、それぞれ10質量部投入し、60秒間撹拌して、混練することにより、鋳物砂組成物を調製した。そして、その得られた鋳物砂組成物を用いて、試験片(鋳型)を作製して、上記の測定法に従って、造型直後及び造型24時間後の鋳型強度(kgf/cm2 )、並びに造型24時間後の吸湿劣化後の鋳型強度(kgf/cm2 )を、それぞれ測定して、その結果を、下記表2に示した。また、混練から120分待機させた後の鋳物砂組成物を用いて、造型直後及び造型24時間後の鋳型強度(kgf/cm2 )をそれぞれ測定して、可使時間の評価を行った。更に、充填密度の測定、鋳型表面性状の評価も合わせて行った。それらの結果を、下記表2に合わせ示す。
【0066】
(比較例9)
前記で調製されたフェノール樹脂溶液(1)の100質量部に対して、上記の第一シラン化合物(KBM602)とフッ化水素酸との反応生成物を、下記表2に示される割合において添加し、撹拌して均一に混合せしめることにより、ポリオール溶液を調製する一方、非塩基性の第二シラン化合物等を含むことのないポリイソシアネート溶液を準備した。次いで、ダルトン株式会社製品川式卓上ミキサー内に、フラタリー砂の1000質量部を投入すると共に、それらポリオール溶液及びポリイソシアネート溶液を、それぞれ10質量部投入し、60秒間撹拌して、混練することにより、鋳物砂組成物を調製した。そして、その得られた鋳物砂組成物を用いて、試験片(鋳型)を作製して、上記の測定法に従って、造型直後及び造型24時間後の鋳型強度(kgf/cm2 )、並びに造型24時間後の吸湿劣化後の鋳型強度(kgf/cm2 )を、それぞれ測定して、それらの結果を、下記表2に示した。また、混練から120分待機させた後の鋳物砂組成物を用いて、造型直後及び造型24時間後の鋳型強度(kgf/cm2 )をそれぞれ測定して、可使時間の評価を行った。更に、充填密度の測定、鋳型表面性状の評価も合わせて行った。それらの結果を、下記表2に合わせ示す。
【0067】
【表1】
【0068】
【表2】
【0069】
かかる表1及び表2における結果の対比から明らかなように、所定のフェノール樹脂及びポリイソシアネートと共に、本発明に従って、塩基性の第一シラン化合物とフッ化水素酸との反応生成物及び非塩基性の第二シラン化合物を、構成成分として更に含有せしめてなる実施例1~7において得られた有機粘結剤を用いて、鋳物砂組成物を調製し、更に、それから造型して得られた鋳型(試験片)にあっては、通常の湿度環境下における鋳型強度は勿論のこと、高湿度下での吸湿劣化後における鋳型強度においても、優れた特性を有していると共に、鋳型の充填密度が高く、また鋳型の表面性状も滑らかであることが認められている。また、そのような作用・効果が、実施例8~10に係る有機粘結剤によって、より一層向上せしめられ得ることも、表1の結果から明らかである。
【0070】
これに対して、そのような反応生成物(アミンフッ酸塩)が添加されていない比較例1~8における有機粘結剤(非塩基性の第二シラン化合物のみ含有)を用いて得られる鋳型(試験片)においては、通常の湿度環境下における鋳型強度は充分なものではなく、充填密度も低く、また鋳型の表面性状も悪いことに加えて、更に吸湿劣化後における鋳型強度においては、その強度低下が著しく、耐吸湿劣化特性に劣るものであって、そのような有機粘結剤を用いて得られる鋳型は、実用性に欠けるものであることが認められる。また、アミンフッ酸塩(反応生成物)のみが含有せしめられてなる比較例9に係る有機粘結剤にあっては、特に、鋳型の充填密度が充分でなく、鋳型の表面性状においても、その滑らかさに欠けるものであることが認められる。