(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-07
(45)【発行日】2022-07-15
(54)【発明の名称】複合部材、及び複合部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 26/00 20060101AFI20220708BHJP
C23C 18/52 20060101ALI20220708BHJP
H01L 23/36 20060101ALI20220708BHJP
【FI】
C22C26/00 Z
C23C18/52 A
H01L23/36 C
(21)【出願番号】P 2020500382
(86)(22)【出願日】2019-01-30
(86)【国際出願番号】 JP2019003137
(87)【国際公開番号】W WO2019159694
(87)【国際公開日】2019-08-22
【審査請求日】2021-09-21
(31)【優先権主張番号】P 2018023823
(32)【優先日】2018-02-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000220103
【氏名又は名称】株式会社アライドマテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】100100147
【氏名又は名称】山野 宏
(72)【発明者】
【氏名】後藤 健吾
(72)【発明者】
【氏名】池田 智昭
(72)【発明者】
【氏名】細江 晃久
(72)【発明者】
【氏名】杉澤 正則
(72)【発明者】
【氏名】石川 福人
(72)【発明者】
【氏名】森上 英明
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-117085(JP,A)
【文献】特開2005-184021(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 26/00
C23C 18/52
H01L 23/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のダイヤモンド粒子と前記ダイヤモンド粒子同士を結合する金属相とを備える複合材料からなる基板と、
金属からなり、前記基板の表面の少なくとも一部を覆う被覆層とを備え、
前記基板の表面は、前記金属相の表面と、前記ダイヤモンド粒子の一部からなり、前記金属相の表面から突出する突出部とを含み、
前記被覆層は、平面視で、前記金属相の表面を覆う金属被覆部と、前記突出部を覆い、前記金属相の表面を覆わない粒子被覆部とを含み、
前記金属被覆部の厚さに対する前記粒子被覆部の厚さの比は、0.80以下であり、
前記被覆層の表面粗さは、算術平均粗さRaで2.0μm未満である複合部材。
【請求項2】
前記金属相の構成金属は、銀又は銀合金である請求項1に記載の複合部材。
【請求項3】
前記被覆層をなす前記金属は、リンを含むニッケル合金である請求項1又は請求項2に記載の複合部材。
【請求項4】
複数のダイヤモンド粒子と前記ダイヤモンド粒子同士を結合する金属相とを備える複合材料からなる素材板の表面にエッチングを施して、前記金属相の表面から前記ダイヤモンド粒子の一部を突出させた粗面板を作製する工程と、
前記粗面板に第一の無電解めっきを施して、前記素材板の表面に存在する複数の前記ダイヤモンド粒子の一部を露出させつつ、前記金属相の表面に第一のめっき層が形成された部分被覆板を作製する工程と、
前記部分被覆板に第二の無電解めっきを施して、前記第一のめっき層の表面と前記ダイヤモンド粒子において前記第一のめっき層の表面から露出する部分とを覆う第二のめっき層を形成する工程とを備える複合部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、複合部材、及び複合部材の製造方法に関する。本出願は、2018年2月14日に出願した日本特許出願である特願2018-023823号に基づく優先権を主張する。当該日本特許出願に記載された全ての記載内容は、参照によって本明細書に援用される。
【背景技術】
【0002】
特許文献1,2は、半導体素子の放熱部材に適した材料として、ダイヤモンドと、銀(Ag)や銅(Cu)等の金属との複合材料を開示する。また、特許文献1,2は、上記複合材料からなる基板の表面にめっきや真空蒸着等によって金属被覆を設けることを開示する。
【0003】
半導体素子と放熱部材とは、一般に、半田によって接合される。放熱部材が上述のダイヤモンドと金属との複合材料からなる場合、特にダイヤモンドは半田との濡れ性に劣る。そのため、上記複合材料からなる基板の表面に半田の下地層として、上述の金属被覆を設けることがなされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-197153号公報
【文献】国際公開第2016/035795号
【発明の概要】
【0005】
本開示の一態様に係る複合部材は、
複数のダイヤモンド粒子と前記ダイヤモンド粒子同士を結合する金属相とを備える複合材料からなる基板と、
金属からなり、前記基板の表面の少なくとも一部を覆う被覆層とを備え、
前記基板の表面は、前記金属相の表面と、前記ダイヤモンド粒子の一部からなり、前記金属相の表面から突出する突出部とを含み、
前記被覆層は、平面視で、前記金属相の表面を覆う金属被覆部と、前記突出部を覆い、
前記金属相の表面を覆わない粒子被覆部とを含み、
前記金属被覆部の厚さに対する前記粒子被覆部の厚さの比は、0.80以下であり、
前記被覆層の表面粗さは、算術平均粗さRaで2.0μm未満である。
【0006】
本開示の一態様に係る複合部材の製造方法は、
複数のダイヤモンド粒子と前記ダイヤモンド粒子同士を結合する金属相とを備える複合材料からなる素材板の表面にエッチングを施して、前記金属相の表面から前記ダイヤモンド粒子の一部を突出させた粗面板を作製する工程と、
前記粗面板に第一の無電解めっきを施して、前記素材板の表面に存在する複数の前記ダイヤモンド粒子の一部を露出させつつ、前記金属相の表面に第一のめっき層が形成された部分被覆板を作製する工程と、
前記部分被覆板に第二の無電解めっきを施して、前記第一のめっき層の表面と前記ダイヤモンド粒子において前記第一のめっき層の表面から露出する部分とを覆う第二のめっき層を形成する工程とを備える。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、実施形態の複合部材を模式的に示す概略部分断面図である。
【
図2】
図2は、実施形態の複合部材の製造方法を説明する工程説明図である。
【
図3】
図3は、実施形態の複合部材の製造方法を説明する他の工程説明図である。
【
図4】
図4は、実施形態の複合部材の製造方法を説明する他の工程説明図である。
【
図5】
図5は、実施形態の複合部材の製造方法を説明する他の工程説明図である。
【
図6】
図6は、試験例1で作製した試料No.1の複合部材について、断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影した顕微鏡写真である。
【
図7】
図7は、
図6のSEM像を用いて被覆層の厚さの測定方法を説明する説明図である。
【
図8】
図8は、試験例1で作製した試料No.1の複合部材について、断面をSEMで撮影した顕微鏡写真である。
【
図9】
図9は、試験例1で作製した試料No.2の複合部材について、断面をSEMで撮影した顕微鏡写真である。
【
図10】
図10は、試験例1で作製した試料No.3の複合部材について、断面をSEMで撮影した顕微鏡写真である。
【
図11】
図11は、試験例1で作製した試料No.4の複合部材について、断面をSEMで撮影した顕微鏡写真である。
【
図12】
図12は、試験例1で作製した試料No.101の複合部材について、断面をSEMで撮影した顕微鏡写真である。
【
図13】
図13は、試験例1で作製した試料No.102の複合部材について、断面をSEMで撮影した顕微鏡写真である。
【
図14】
図14は、
図13のSEM像を用いて被覆層の厚さの測定方法を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[本開示が解決しようとする課題]
ダイヤモンドと金属との複合材料からなる基板を半導体素子の放熱部材等に利用する場合、上記基板に半導体素子が半田等で接合され、この基板が冷却装置等の設置対象に取り付けられた状態で熱伝導性に優れることが望まれる。このような放熱構造を構築するために、上記基板に設けられる金属の被覆層には、平滑な表面を有しつつ、基板から剥離し難いことが望まれる。
【0009】
ここで、半導体素子と放熱部材とは、代表的には、半導体素子/半田/放熱部材/グリス/設置対象や放熱フィン、といった順に配置される。例えば、放熱部材をなす上記基板の表面が平滑であれば、この基板の表面に倣って被覆層の表面も平滑に形成し易い。被覆層の表面が平滑であれば、被覆層の上に半田やグリスを均一的な厚さに形成し易い。半田やグリスはその熱伝導率が上記基板よりも低いため、均一的な厚さであると、半田やグリスにおける局所的な厚い部分に起因する局所的な熱抵抗の増大を抑制して、熱伝導性を高め易い。しかし、上記基板の表面が平滑であると、上記基板と被覆層との密着性に劣り、被覆層が上記基板から剥離し易い。特に、後述するように熱履歴を受けた場合に被覆層が上記基板から剥離し易い。被覆層が剥離すると、半導体素子の熱を放熱部材から設置対象に放散し難くなり、熱伝導性の低下を招く。
【0010】
一方、例えば、放熱部材をなす上記基板の表面が荒れて凹凸が大きければ、上記基板の表面においてダイヤモンド粒子が被覆層によって覆われる割合を増大できるため、上記基板と被覆層との密着性を高められる。しかし、上記の大きな凹凸を均すように半田やグリスを設けることで、半田やグリスに局所的に厚い部分が生じる。この厚い部分に起因して局所的な熱抵抗が増大し、半導体素子の故障の原因となり得る。被覆層をある程度厚くすれば、被覆層の表面の凹凸をある程度小さくできる場合があるものの、この場合には熱伝導性の低下を招く。熱伝導率が高いダイヤモンド粒子の上に、ダイヤモンドよりも熱伝導性に劣る被覆層が厚く存在するからである。
【0011】
そこで、平滑な表面を有しつつ、基板から剥離し難い被覆層を備える複合部材を提供することを目的の一つとする。また、平滑な表面を有しつつ、基板から剥離し難い被覆層を備える複合部材を製造できる複合部材の製造方法を提供することを別の目的の一つとする。
【0012】
[本開示の効果]
上記の複合部材によれば、被覆層が平滑な表面を有しつつ、基板から剥離し難い。
【0013】
上記の複合部材の製造方法によれば、平滑な表面を有しつつ、基板から剥離し難い被覆層を備える複合部材を製造できる。
【0014】
[実施形態の説明]
最初に本開示の実施形態の内容を列記して説明する。
(1)本開示の一態様に係る複合部材は、
複数のダイヤモンド粒子と前記ダイヤモンド粒子同士を結合する金属相とを備える複合材料からなる基板と、
金属からなり、前記基板の表面の少なくとも一部を覆う被覆層とを備え、
前記基板の表面は、前記金属相の表面と、前記ダイヤモンド粒子の一部からなり、前記金属相の表面から突出する突出部とを含み、
前記被覆層は、平面視で、前記金属相の表面を覆う金属被覆部と、前記突出部を覆い、
前記金属相の表面を覆わない粒子被覆部とを含み、
前記金属被覆部の厚さに対する前記粒子被覆部の厚さの比は、0.80以下であり、
前記被覆層の表面粗さは、算術平均粗さRaで2.0μm未満である。
【0015】
粒子被覆部の厚さ、金属被覆部の厚さ、及び表面粗さの測定方法は、後述の試験例1で詳細に説明する。
【0016】
上記被覆層は、基板の表面をなす金属相とダイヤモンド粒子とに直接接した状態でこれらを覆う金属からなる層である。
【0017】
上記の複合部材は、被覆層の表面粗さRaが非常に小さく平滑である。そのため、上記の複合部材を半導体素子の放熱部材等に用いる場合に被覆層の上に半田等の接合材やグリスを均一的な厚さに形成し易い。従って、上記の複合部材は、半田やグリス等が局所的に厚く形成されることによる局所的な熱抵抗の増大を抑制して、熱伝導性に優れる。
【0018】
また、上記の複合部材では、基板の表面においてダイヤモンド粒子の一部が金属相から突出するため、金属相の表面がダイヤモンド粒子の突出部の間に凹んだ状態で存在する。被覆層は、ダイヤモンド粒子の突出部と金属相の表面とによる凹凸を有する基板の表面を覆うため、平面視で、実質的に上記突出部のみを覆う部分(粒子被覆部)と、少なくとも上記金属相の表面を覆う部分(金属被覆部)とを有する。上述のように被覆層の表面が平滑であるため、基板の凸を覆う粒子被覆部の厚さは基板の凹を覆う金属被覆部の厚さよりも薄く、上記厚さの比が0.80以下を満たす。このような上記の複合部材は、半導体素子の放熱部材等に用いる場合に基板の表面におけるダイヤモンド粒子と、半導体素子や設置対象等との間に介在する粒子被覆部の厚さが薄いため、半導体素子の熱を設置対象に効率よく放散でき、熱伝導性により優れる。
【0019】
かつ、ダイヤモンド粒子の突出部は被覆層に埋設されており、突出部を囲むように被覆層が存在する。そのため、ダイヤモンド粒子における被覆層によって覆われる割合を高められることで、いわゆるアンカー効果によって、ダイヤモンド粒子と被覆層との密着力を高められる。従って、上記の複合部材は、基板と被覆層との密着性に優れ、被覆層が基板から剥離し難い。特に、上記の複合部材は、半導体素子の放熱部材等に用いる場合に製造過程で半田付けされたり、放熱部材としての使用時に冷熱サイクルを受けたりする等といった熱履歴を受けた場合でも、被覆層が基板から剥離し難く、長期に亘り熱伝導性に優れる。
【0020】
(2)上記の複合部材の一例として、
前記金属相の構成金属は、銀又は銀合金である形態が挙げられる。
【0021】
銀又は銀合金は、その熱伝導率が銅やアルミニウム等よりも高いため、上記形態は、熱伝導性により優れる。
【0022】
(3)上記の複合部材の一例として、
前記被覆層をなす前記金属は、リンを含むニッケル合金である形態が挙げられる。
【0023】
ここで、ダイヤモンドは非導電性であるため、被覆層の形成には、無電解めっきや真空蒸着等といった基板に通電不要な方法を利用することが挙げられる。上記形態は、製造過程で無電解めっきによって被覆層を形成できるため、凹凸な表面の基板を備えるものの、その表面に均一的な厚さにめっき層を形成できる。
【0024】
(4)本開示の一態様に係る複合部材の製造方法は、
複数のダイヤモンド粒子と前記ダイヤモンド粒子同士を結合する金属相とを備える複合材料からなる素材板の表面にエッチングを施して、前記金属相の表面から前記ダイヤモンド粒子の一部を突出させた粗面板を作製する工程と、
前記粗面板に第一の無電解めっきを施して、前記素材板の表面に存在する複数の前記ダイヤモンド粒子の一部を露出させつつ、前記金属相の表面に第一のめっき層が形成された部分被覆板を作製する工程と、
前記部分被覆板に第二の無電解めっきを施して、前記第一のめっき層の表面と前記ダイヤモンド粒子において前記第一のめっき層の表面から露出する部分とを覆う第二のめっき層を形成する工程とを備える。
【0025】
本発明者らは、ダイヤモンド粒子と金属との複合材料からなる素材板にエッチングを施して表面を荒らした後に無電解めっきを1回施して、ダイヤモンド粒子を埋設するような厚さの1層のめっき層を形成した。その結果、素材板の表面荒れが大きいと素材板に倣ってめっき層の表面も荒れ、上記表面荒れが小さいとめっき層が素材板から剥離し易いとの知見を得た(後述の試験例1参照)。そこで、めっきの条件を種々検討した結果、無電解めっきを2回行うことが好ましいとの知見を得た。上記の複合部材の製造方法は、これらの知見に基づくものである。
【0026】
上記の複合部材の製造方法では、まず、素材板にエッチングを施して、素材板の表面近くに存在する複数のダイヤモンド粒子の一部を金属相の表面から突出させて、ダイヤモンド粒子の突出部と、突出部の間に凹んだ状態で存在する金属相の表面とによる凹凸を有する粗面板を作製する。好ましくは、金属相の表面から突出するダイヤモンド粒子の突出量がある程度大きいもの(後述の突出高さL2の割合参照)が多数存在する粗面板を作製する。次に、第一の無電解めっきにより、粗面板の凹みをある程度埋めるように、かつ上述のように突出量がある程度大きいダイヤモンド粒子についてはその一部を露出させるように、主として金属相に第一のめっき層を形成する。即ち、突出量が小さいダイヤモンド粒子及び金属相を覆い、突出量が大きいダイヤモンド粒子の周囲を囲むように第一のめっき層を形成する。このように形成された第一のめっき層を備える部分被覆板の表面は、上記凹みが第一のめっき層によって均されて、粗面板よりも表面荒れが小さく平滑である。次に、第二の無電解めっきによって、部分被覆板の表面、具体的にはダイヤモンド粒子における第一のめっき層からの露出部分と第一のめっき層の表面とを覆う第二のめっき層を形成する。この第二のめっき層の表面は、部分被覆板における上述の平滑な表面に倣って、表面粗さが小さく平滑である。かつ、上述の突出量がある程度大きいダイヤモンド粒子における金属相の表面からの突出部は、第一のめっき層と第二のめっき層との双方に覆われて埋設されて、ダイヤモンド粒子におけるめっき層によって覆われる割合が大きい。このようなめっき層は、上記複合材料からなる基板から剥離し難く、密着性に優れるといえる。
【0027】
従って、上記の複合部材の製造方法によれば、平滑な表面を有しつつ、基板から剥離し難い被覆層(上述のめっき層)を備える複合部材、代表的には上述の(1)の複合部材を製造できる。この複合部材は、上述のように熱伝導性に優れており、半導体素子の放熱部材等に好適に利用できる。
【0028】
[本開示の実施形態の詳細]
以下、図面を適宜参照して、本開示の実施形態を具体的に説明する。図中、同一符号は同一名称物を意味する。
【0029】
図1から
図5では、複合部材1の厚さ方向(基板10と被覆層4との積層方向、各図の上下方向)に平行な平面で複合部材1を切断した状態において、被覆層4の近傍を模式的に示す部分断面図である。分かり易いようにダイヤモンド粒子20を誇張して示す。また、分かり易いように被覆層4のハッチングを省略する。
【0030】
図6は、後述する試験例1で作製した複合部材1(試料No.1のめっき付基板)において、その厚さ方向に平行な平面で切断した断面をSEMで観察した顕微鏡写真であり、
図7は、
図6の顕微鏡写真に符号等を付した説明図である。
図6,7において、黒色の粒子状の部分はダイヤモンド粒子(ここでは被覆粒子2)を示し、
図6,7の下方領域であって、被覆粒子2を囲む薄い灰色の領域は金属相3を示す。
図6,7において、被覆粒子2における金属相3の表面3fから突出する部分を覆う濃い灰色の領域は順に被覆層4、付加層5、この灰色の領域の上を覆う白色の帯状の領域は付加層6を示す。
図6,7において白い帯状の領域よりも上方に位置する黒色の領域は背景である。
【0031】
上述の顕微鏡写真の各領域に関する事項は、後述の
図8~
図14についても同様である。
【0032】
[複合部材]
図1を主に参照して、実施形態の複合部材1を説明する。
【0033】
〈概要〉
実施形態の複合部材1は、
図1に示すように、複数のダイヤモンド粒子20(ここでは被覆粒子2)とダイヤモンド粒子20同士を結合する金属相3とを備える複合材料100からなる基板10と、金属からなり、基板10の表面10fの少なくとも一部を覆う被覆層4とを備える。
【0034】
特に、実施形態の複合部材1では、被覆層4の表面4fの凹凸が小さく平滑である。定量的には、被覆層4の表面粗さが算術平均粗さRaで2.0μm未満である。また、実施形態の複合部材1では、基板10の表面10fが比較的荒れており、凹凸を有するものの、この凹凸を均すように被覆層4が形成されている。そのため、被覆層4の厚さが部分的に異なる。詳しくは、基板10の表面10fは、金属相3からなる表面3fと、ダイヤモンド粒子20の一部からなり、金属相3の表面3fから突出する突出部2fとを含む。被覆層4は、平面視で、金属相3の表面3fを覆う金属被覆部43と、ダイヤモンド粒子20の突出部2fを覆い、金属相3の表面3fを覆わない粒子被覆部42とを含む。粒子被覆部42の厚さt
2は金属被覆部43の厚さt
3よりも薄い。定量的には、金属被覆部43の厚さt
3に対する粒子被覆部42の厚さt
2の比(以下、厚さ比率と呼ぶことがある)が0.80以下である。
図1では、金属被覆部43と粒子被覆部42との境界を二点鎖線で仮想的に示す。
【0035】
実施形態の複合部材1は、被覆層4の表面4fが平滑でありながら、被覆層4の厚さ比率が上述の特定の範囲を満たすことで被覆層4が基板10から剥離し難い。
【0036】
以下、要素ごとに詳細に説明する。
〈基板〉
複合部材1に備えられる基板10には、ダイヤモンド粒子20と金属相3とを主体とする複合材料100からなるものを適宜利用できる。公知のものや公知の製造方法によって製造されたものを利用できる。
【0037】
《ダイヤモンド》
ダイヤモンドは代表的には1000W/m・K以上といった高い熱伝導率を有するため、複数のダイヤモンド粒子20を含む基板10は、放熱部材に好適に利用できる。複数のダイヤモンド粒子20は代表的には基板10中に分散して存在する。
【0038】
基板10中のダイヤモンド粒子20の形状、大きさ、含有量等の仕様は適宜選択できる。上記仕様は代表的には原料に用いたダイヤモンド粉末の仕様を実質的に維持するため、所望の仕様となるように、原料のダイヤモンド粉末の仕様を選択するとよい。
【0039】
ダイヤモンド粒子20の形状は、特に問わない。
図1,後述の
図2~
図5ではダイヤモンド粒子20を模式的に多角形に示すが、
図7の被覆粒子2に例示するように不定形な断面形状をとり得る。
【0040】
ダイヤモンド粒子20の平均粒径は、例えば10μm以上100μm以下であることが挙げられる。上記平均粒径が大きいほど、熱伝導性に優れる基板10とすることができる。上記平均粒径が小さいほど、製造過程において後述の素材板15(
図2)における切削等の加工性に優れる上に、研磨等でダイヤモンド粒子20が脱落しても、脱落に起因する凹みを小さくし易い。ひいては、被覆層4の表面4fの凹凸を小さくし易い。上述の熱特性や加工性等の観点から、上記平均粒径を15μm以上90μm以下、更に20μm以上50μm以下とすることができる。その他、相対的に微細な粒子と相対的に粗大な粒子とを含むと、製造過程で緻密化し易く、熱伝導性により優れる基板10とし易い。上記平均粒径は、基板10の断面をとり、所定の測定視野(例、0.3mm×0.2mm)から複数のダイヤモンド粒子を抽出し、各粒子の等価面積円の直径を粒径とし、20個以上の粒径の平均を平均粒径とすることが挙げられる。
【0041】
ダイヤモンド粒子20の含有量は、例えば40体積%以上85体積%以下であることが挙げられる。上記含有量が多いほど、熱伝導性に優れる上に線膨張係数が小さい基板10とすることができる。上記含有量が85体積%以下であれば、金属相3をある程度含むことでダイヤモンド粒子20を確実に結合できる上に、線膨張係数が小さくなり過ぎることを防止できる。上述の熱特性や結合性等を考慮して、上記含有量を45体積%以上80体積%以下、更に50体積%以上75体積%以下とすることができる。
【0042】
基板10中のダイヤモンド粒子20は、その表面の少なくとも一部、好ましくは実質的に全部を覆う被覆膜21を備える被覆粒子2として存在することが挙げられる。被覆膜21は、例えばTi,Hf,Zrから選択される1種以上の金属の炭化物からなるものが挙げられる。被覆膜21は、代表的には製造過程で、最終的に金属相3となる溶融金属とダイヤモンド粒子20との濡れ性を高めることに寄与し、ダイヤモンド粒子20と金属相3とを密着させられる。特に、上記炭化物をなす炭素成分がダイヤモンド粒子20に由来するものであると、ダイヤモンド粒子20と被覆膜21とがさらに密着する。ダイヤモンド粒子20、被覆膜21、金属相3の三者が密着することで、気孔が少なく、緻密な基板10(複合材料100)とすることができる。このような基板10は、気孔に起因する熱伝導性の低下が少なく、熱伝導性に優れる上に、冷熱サイクルを受けても、上記三者の界面状態が変化し難く、冷熱サイクル特性にも優れる。被覆膜21は、上述の濡れ性の改善効果が得られる範囲で薄いことが好ましい。上記炭化物は、ダイヤモンドや金属相3の構成金属に比較して熱伝導率が低く、熱伝導性に劣るからである。
図1~
図5では、基板10中に被覆粒子2を含む場合を例示する。
【0043】
《金属相》
金属相3の構成金属は、例えば、銀(Ag)、銀合金、銅(Cu)、銅合金、アルミニウム(Al)、アルミニウム合金、マグネシウム(Mg)、マグネシウム合金等が挙げられる。ここでの銀、銅、アルミニウム、マグネシウムとは、いわゆる純金属である。純金属は、通常、合金よりも熱伝導率が高く、金属相3が純金属からなると、熱伝導性に優れる基板10とすることができる。合金は、純金属よりも機械的強度等に優れる傾向にあり、金属相3が合金からなると、機械的特性に優れる基板10とし易い。特に、Ag,Cu及びこれらの合金は、Al,Mg及びこれらの合金よりも熱伝導率が高く、熱伝導性に優れる基板10とすることができる。Al,Mg及びこれらの合金は、Ag,Cu及びこれらの合金に比較して軽量な基板10とすることができる。
【0044】
特に、金属相3の構成金属が銀(Ag)又は銀合金であれば、銅(Cu)又は銅合金よりも熱伝導性に優れる基板10とすることができる。
【0045】
《外形、大きさ》
基板10の平面形状、大きさ(厚さ、平面積)等は、複合部材1の用途等に応じて適宜選択できる。例えば、複合部材1を半導体素子の放熱部材に用いる場合、基板10は、平面形状が長方形状であり、半導体素子等の搭載部品を載置可能な平面積を有する板材であることが挙げられる。この用途では基板10の厚さが薄いほど、半導体素子の熱を冷却装置等の設置対象に伝え易いため、上記厚さを例えば10mm以下、特に5mm以下とすることが挙げられる。上記厚さの下限値は特に制限されないが、基板10における適切な強度を維持する観点から、0.3mm以上とすることができる。
【0046】
《表面状態》
基板10の表面10fは、主として、ダイヤモンド粒子20と金属相3とによって形成され、比較的荒れている。詳しくは、金属相3の表面3fからダイヤモンド粒子20(
図1では被覆粒子2)の一部が突出する。表面10fは、ダイヤモンド粒子20における表面3fから突出する突出部2fがなす凸と、複数の突出部2f間に介在される表面3fがなす凹とからなる凹凸を有する。
図1~
図5の断面図では金属相3の表面3fを模式的に一直線で示すが、実際には
図6の断面写真に示すように曲線を含む不定形な線を描く。
【0047】
ダイヤモンド粒子20の突出部2fにおける金属相3の表面3fからの突出高さL2がある程度大きいと、即ち表面10fの凹凸がある程度大きいと、被覆層4が基板10から剥離し難く好ましい。突出部2fの周囲を被覆層4の構成金属が覆うことでダイヤモンド粒子20における被覆層4によって覆われる割合(以下、被覆率と呼ぶことがある)を大きく確保し易く、被覆層4がダイヤモンド粒子20を強固に把持し易いからである。ここで、ダイヤモンドは化学的に安定しており、ダイヤモンド粒子20は被覆層4の構成金属と実質的に結合しない。そのため、突出高さL2が小さいと、上記被覆率が小さいために被覆層4がダイヤモンド粒子20を十分に把持できず、被覆層4が基板10から剥離し易いと考えられる。定量的には、突出部2fを有するダイヤモンド粒子20の最大長さLに対する突出高さL2の割合(L2/L)が10%以上90%以下であることが挙げられる。上記の割合(L2/L)の値とは、後述するように各ダイヤモンド粒子20について最大長さL,突出高さL2,比L2/Lを求め、複数のダイヤモンド粒子20の比(L2/L)の平均値とする。ダイヤモンド粒子20における金属相3との接触面積及び被覆層4による被覆率を考慮して、上記割合(L2/L)を30%以上、更に50%以上85%以下とすることができる。
【0048】
突出高さL2は、密着性の観点から、1.0μm以上、更に4.0μm以上、8.0μm以上が挙げられる。一方、熱伝導性の観点から、突出高さL2は90μm以下、更に70μm以下、40μm以下が挙げられる。
【0049】
上述の最大長さLとは、複合部材1の断面において、突出部2fを有するダイヤモンド粒子20における上記厚さ方向に沿った最大距離とする。突出高さL2とは、上記断面において、このダイヤモンド粒子20と金属相3の表面3fとの交点Pから突出部2fにおける上記厚さ方向に沿った最大距離とする。
【0050】
上述の最大長さL及び突出高さL2は、例えば、製造過程でダイヤモンド粉末の粒径、エッチング条件等を適宜調節することによって調整することが挙げられる。
【0051】
〈被覆層〉
被覆層4は、上述の基板10の表面10fの少なくとも一部を覆い、この被覆範囲では、ダイヤモンド粒子20及び金属相3の双方を埋設する。このような被覆層4は、基板10に対して機械的保護や周囲環境からの保護、外観の向上等を図ることができる。また、被覆層4は、金属からなるため、半田等の接合材の下地層としても機能できる。特に、実施形態の複合部材1に備えられる被覆層4では、上述のように部分的に厚さが異なるものの、表面4fが平滑である。そのため、被覆層4は、半田等の接合材、グリス等を均一的な厚さに形成し易くする機能も有する。
【0052】
《被覆範囲》
代表的には、基板10の表面の実質的に全面に被覆層4を備える形態が挙げられる。この形態は、耐食性に優れて好ましい。その他、基板10の表裏面のうち、一面の少なくとも一部に被覆層4を備える形態、両面の少なくとも一部に被覆層4を備える形態が挙げられる。
【0053】
《構造及び製法》
被覆層4は、代表的には、単一種の金属からなる単層構造であることが挙げられる。後述するように二段階のめっき等を行う場合に異種のめっき液等を利用することで、金属被覆部43を異種の金属からなる多層構造とすることができる。被覆層4の形成には、無電解めっき又は真空蒸着を利用することが挙げられる。基板10は、非導電性であるダイヤモンド粒子20を含むため、基板10に導通しなくても成膜可能な方法が利用し易い。特に、無電解めっきは、めっきを施す素材の表面が凹部を有していても、凹部へのめっき液の回り込みがよい。そのため、真空蒸着に比較して、上記素材表面の任意の箇所に均一的な厚さにめっき層を形成し易く、めっき厚さを制御し易い。また、無電解めっきを利用すると、真空蒸着を利用する場合に比較して製造コストを低減できる。
【0054】
《組成》
被覆層4をなす金属は、適宜選択できる。例えば、ニッケル(Ni)、ニッケル合金、銅、銅合金、金(Au)、金合金、銀、銀合金等が挙げられる。ここでのニッケル、銅、金、銀とはいわゆる純金属である。NiやCu及びこれらの合金は、AuやAg及びこれらの合金よりも軽く、軽量な複合部材1とし易い。AuやAg及びこれらの合金は、NiやCu及びこれらの合金に比較して熱伝導率が高く、熱伝導性に優れる複合部材1とし易い。
【0055】
被覆層4をなすニッケル合金の一例として、リン(P)を含むニッケル合金(以下、Ni-P合金と呼ぶことがある)が挙げられる。Ni-P合金からなる金属層は、無電解めっきによって形成できるため、上述のように製造過程で均一的な厚さのめっき層を形成し易く、めっき厚さを制御し易い上に、真空蒸着よりも製造コストを低減できる。その他のニッケル合金として、硼素(B)を含むもの(Ni-B合金)等が挙げられる。
【0056】
《表面粗さ》
被覆層4は平滑な表面4fを有する。定量的には、被覆層4の表面粗さは、算術平均粗さRaで2.0μm未満である。被覆層4の表面粗さRaが小さいことで、被覆層4の上に上述の接合材等を均一的な厚さに形成し易く、接合材等に局所的に厚い部分が生じることを低減できる。上記表面粗さRaが小さいほど、上記接合材等を均一的な厚さに形成し易いことから、上記表面粗さRaは1.8μm以下、更に1.5μm以下が好ましく、1.0μm以下、更に0.8μm以下がより好ましい。上記表面粗さRaの下限値は理論的には0μmとなる。
【0057】
上記表面粗さRaは、例えば、後述する複合部材の製造方法を利用して被覆層4を形成する場合に上述のダイヤモンド粒子20の突出高さL
2、第一の無電解めっき後の突出高さL
26(
図4)等によって調整することが挙げられる。
【0058】
《厚さ比率》
被覆層4は、平面視において、金属相3の表面3fを覆う金属被覆部43と、ダイヤモンド粒子20の突出部2fを覆い、金属相3の表面3fを覆わない粒子被覆部42とを備える。ここで、複合部材1を被覆層4から平面透視すると、基板10は、金属相3の表面3fのみが存在する箇所に加えて、金属相3の表面3fの上にダイヤモンド粒子20の突出部2fの一部が重複した箇所(ダイヤモンド粒子20が表面3fの上方にオーバーハングした箇所)を含むことがある。この場合、金属被覆部43は突出部2fの一部と金属相3の表面3fとの双方の箇所を覆う。即ち、金属被覆部43は、実質的に金属相3の表面3fのみを覆う部分と、上述の重複箇所を覆う部分とを含む。複合部材1の断面でいうと、
図1に例示するように、金属相3の表面3fにおいて、
図1の被覆層4の上下方向に延びる2本の点線で挟まれる部分が上記表面3fのみを覆う部分であり、隣り合って並ぶ点線と二点鎖線とで挟まれる部分が上記重複箇所を覆う部分である(
図7も参照)。上記点線は、複合部材1の厚さ方向(
図1の上下方向)に平行な直線であって、被覆層4における突出部2fとの接点を通る直線である。上記二点鎖線は、上記厚さ方向に平行な直線であって、金属相3の表面3fとダイヤモンド粒子20と被覆層4との交点Pを通る直線である。粒子被覆部42は、ダイヤモンド粒子20の突出部2fのみを覆う部分であり、上記断面でいうと、
図1に例示するように、突出部2fにおいて隣り合って並ぶ2本の二点鎖線で挟まれる箇所を覆う部分である。いわば、粒子被覆部42は、被覆層4において突出部2fの上方を覆う部分のうち、上記交点P,Pの間に位置する箇所である。
【0059】
特に、実施形態の複合部材1では、粒子被覆部42の厚さt2が金属被覆部43の厚さt3よりも薄く、厚さ比率(t2/t3)が0.80以下である。厚さ比率が0.80以下であれば、金属被覆部43の厚さt3がある程度薄くてもダイヤモンド粒子20における被覆層4による被覆率を大きく確保でき、基板10と被覆層4との密着力を高められる。金属被覆部43の厚さt3が薄ければ、金属相3へ熱伝導を高められ、熱伝導性に優れる。熱伝導性を考慮して、厚さ比率(t2/t3)を0.75以下、更に0.70以下、0.65以下とすることができる。
【0060】
上記厚さ比率(t2/t3)が0超であれば、ダイヤモンド粒子20の突出部2fが被覆層4(粒子被覆部42)に覆われることで、上述の被覆層4による被覆率を高められる。特に上記厚さ比率(t2/t3)が0.01以上であれば、上記被覆率を大きく確保できる上に、金属被覆部43の厚さt3が厚過ぎず、金属相3への熱伝導を阻害し難い。上述の密着性等を考慮して、厚さ比率(t2/t3)を0.05以上、更に0.10以上、0.30以上とすることができる。
【0061】
基板10の一面における被覆層4の厚さは、適宜選択できる。上記厚さが薄いほど熱伝導性を高め易く、厚いほど表面粗さRaを小さくしたり、基板10の保護機能を高めたりし易い。上記厚さは、ダイヤモンド粒子20の突出高さL2等にもよるが、金属被覆部43の厚さt3が例えば5μm以上10μm以下程度、粒子被覆層の厚さt2が例えば1μm以上5μm以下程度であることが挙げられる。
【0062】
上記厚さ比率や厚さt2,t3等は、例えば、製造過程でダイヤモンド粉末の粒径、エッチング条件、成膜条件等を適宜調節することによって調整することが挙げられる。
【0063】
《付加層》
被覆層4の上に、別途、金属からなる付加層を備えることができる。
図7では、被覆層4の上に二層の付加層5,6を備える場合を例示する。
図7では、白色の帯状の領域が付加層6であり、被覆層4と付加層5との境界を点線で示す。付加層の構成金属は、上述の《組成》の項に列挙する金属を適宜選択できる。各層の厚さは例えば0.1μm以上5μm以下程度であることが挙げられる。付加層が多層である場合、各層の構成金属が全て異なる形態の他、構成金属が同じ層を含む形態とすることができる。例えば、付加層として、Ni層やAu層を備えると、半田の濡れ性を更に高められる。付加層の表面性状は、
図3に示すように下層の被覆層4の表面性状に倣っており、付加層の表面粗さRaは、被覆層4の表面粗さRaに実質的に等しい値、即ち2.0μm未満をとり得る。そのため、付加層の表面粗さRaを被覆層4の表面粗さRaと見做すことができる。
【0064】
〈製造方法〉
実施形態の複合部材1は、例えば、二段階の無電解めっきを行う以下の実施形態の複合部材の製造方法によって製造することが挙げられる。
【0065】
〈主な効果〉
実施形態の複合部材1は、高い熱伝導率を有するダイヤモンド粒子20を含む基板10を主体とするため熱伝導性に優れる。この点から、複合部材1は、各種の放熱部材に好適に利用できる。特に、基板10の線膨張係数は、ダイヤモンド粒子20と金属相3とを含む複合材料100からなることで、半導体素子やその周辺部品の線膨張係数と近い。また、複合部材1は、被覆層4を備えて半田等の接合材との濡れ性にも優れて、接合材によって基板10(被覆層4)上に半導体素子を良好に接合できる。これらの点から、複合部材1は、半導体素子の放熱部材に好適に利用できる。
【0066】
特に、実施形態の複合部材1は、被覆層4の表面粗さRaが非常に小さく平滑である。そのため、複合部材1を例えば半導体素子の放熱部材に用いる場合に平滑な表面4fに倣って、半田等の接合材やグリス等を均一的な厚さに形成し易い。このような実施形態の複合部材1は、接合材やグリスに局所的な厚い部分が形成されることに起因する局所的な熱抵抗の増大を抑制して、熱伝導性に優れる。
【0067】
かつ、実施形態の複合部材1では、被覆層4が上述の厚さ比率を満たし、実質的にダイヤモンド粒子20のみを覆う粒子被覆部42の厚さt2が金属相3の表面3fを覆う金属被覆部43の厚さt3よりも薄い。そのため、複合部材1を例えば半導体素子の放熱部材に用いる場合にダイヤモンド粒子20の突出部2fと半導体素子や設置対象との間の距離を短くできて、半導体素子の熱を設置対象に効率よく伝えられる。このことからも、実施形態の複合部材1は、熱伝導性に優れる。
【0068】
更に、実施形態の複合部材1では、被覆層4がダイヤモンド粒子20の突出部2fを埋設するように設けられると共に、ダイヤモンド粒子20を囲むように存在する。そのため、ダイヤモンド粒子20における被覆層4による被覆率を大きく確保でき、いわゆるアンカー効果によって、ダイヤモンド粒子20と被覆層4との密着力を高められて、被覆層4が基板10から剥離し難い。複合部材1を例えば半導体素子の放熱部材に用いる場合、製造過程の半田付けや、使用時の冷熱サイクル等といった熱履歴を受けた場合でも、被覆層4が基板10から剥離し難い。このような実施形態の複合部材1は、長期に亘り熱伝導性に優れる放熱部材を構築できる。
【0069】
なお、実施形態の複合部材1を放熱部材として備える半導体装置としては、各種の電子機器、特に高周波パワーデバイス(例、Laterally Diffused Metal Oxide Semiconductor)、半導体レーザ装置、発光ダイオード装置、その他、各種のコンピュータの中央処理装置(CPU)、グラフィックス プロセッシング ユニット(GPU)、高電子移動形トランジスタ(HEMT)、チップセット、メモリーチップ等が挙げられる。特に、複合部材1は、SiCデバイスやGaNデバイス等の発熱が大きい半導体素子の放熱部材に適する。
【0070】
[複合部材の製造方法]
図2~
図5を主に参照して、実施形態の複合部材の製造方法を説明する。
〈概要〉
実施形態の複合部材の製造方法は、以下の粗面工程と、第一めっき工程と、第二めっき工程とを備える。
(粗面工程)複数のダイヤモンド粒子20(ここでは被覆粒子2)とダイヤモンド粒子20同士を結合する金属相3とを備える複合材料100からなる素材板15(
図2)の表面にエッチングを施して、金属相3の表面3fからダイヤモンド粒子20の一部を突出させた粗面板16を作製する工程(
図3)。
(第一めっき工程)粗面板16に第一の無電解めっきを施して、素材板15の表面に存在する複数のダイヤモンド粒子20の一部を露出させつつ、金属相3の表面3fに第一のめっき層40を形成した部分被覆板17を作製する工程(
図4)。
(第二めっき工程)部分被覆板17に第二の無電解めっきを施して、第一のめっき層40の表面40fとダイヤモンド粒子20において第一のめっき層40の表面40fから露出する部分とを覆う第二のめっき層41を形成する工程(
図5)。
【0071】
上述の工程を経て、複合材料100からなる基板10の表面10fが、第一のめっき層40と第二のめっき層41とを含む被覆層4によって覆われた複合部材1を製造することができる。実施形態の複合部材の製造方法は、端的にいうと、複合材料100からなる素材板15の表面をエッチングで荒らし、ダイヤモンド粒子20の一部が突出することでできた凹凸を第一の無電解めっきによってある程度均し、その後に第二の無電解めっきによってダイヤモンド粒子20を完全に埋設する。こうすることで、平滑な表面4fを有する被覆層4を形成する。以下、工程ごとに説明する。
〈準備工程〉
まず、複合材料100からなる素材板15を用意する。素材板15は、原料にダイヤモンド粉末と金属相3をなす金属粉末や金属塊等とを用いて、公知の製造方法、例えば特許文献1,2に記載されるような溶浸法等を参照して製造できる。被覆膜21を備える被覆粒子とする場合には、特許文献1,2に記載されるような被覆膜21の原料(化合物粉末等)を用いるとよい。
【0072】
素材板15の表面に研磨を施すことができる。こうすることで、素材板15の表面を平坦にし易く、次の粗面工程において、金属相3の除去深さ(エッチング深さ)を均一的にし易い。ひいては平滑な表面4fを有する被覆層4を形成し易い。研磨を施すと、素材板15の表面は、ダイヤモンド粒子20の研磨面と金属相3の研磨面とで形成される。なお、研磨を施すと、複数のダイヤモンド粒子20のうち、突出部2fに平坦な面(研磨面)を有するダイヤモンド粒子20を含み得る(
図6及び
図7参照)。
【0073】
〈粗面工程〉
この工程では、素材板15にエッチングを施して、金属相3を部分的に除去してダイヤモンド粒子20の一部を突出させる。いわば、金属相3の研磨面を掘り下げて、新たな表面3fを形成する。エッチングの条件は、適宜選択できる。ダイヤモンド粒子20の粒径等にもよるが、突出高さL
2がダイヤモンド粒子20の最大長さLの10%以上90%以下を満たすようにエッチングの条件を調整することが挙げられる。この場合、製造過程での突出高さL
2及び最大長さLは複合部材1において実質的に維持されるため、上述の最大長さLに対する突出高さL
2の割合(L
2/L)が10%以上90%以下である複合部材1が得られる。エッチングには、ダイヤモンドと実質的に反応せず、金属相3を除去可能な適宜な酸又はアルカリを利用できる。この工程により、
図3に示すように、ダイヤモンド粒子20の突出部2fからなる凸と、ダイヤモンド粒子20間に存在する金属相3の表面3fからなる凹とからなる凹凸を有する粗面板16が得られる。
【0074】
〈第一めっき工程〉
この工程では、粗面板16における上述の凹凸をある程度均すために、第一の無電解めっきを施す。ここで、突出部2fと金属相3との双方を一度に覆うように1回の無電解めっきを施すと、無電解めっきは代表的には等方的にめっき層が形成されるため、粗面板16の凹凸に倣って、めっき層の表面も凹凸を有する。即ち、表面粗さが大きなめっき層になる。特に、上述のように突出高さL
2が大きいダイヤモンド粒子が多く存在する場合には、表面粗さが大きなめっき層になり易い。そこで、実施形態の複合部材の製造方法では、無電解めっきを2回行うこととし、この工程では、ダイヤモンド粒子20の一部、特に上述のように突出量が大きいダイヤモンド粒子20の一部を露出させつつ、主としてダイヤモンド粒子20間に存在する金属相3による凹を埋めるように第一の無電解めっきを行う。この目的から、第一の無電解めっきでは、触媒として、実質的に金属相3のみを活性化する作用を有するものを用いることが挙げられる。この工程により、
図4に示すように、ダイヤモンド粒子20間の金属相3の表面3fが第一のめっき層40で埋められ、第一のめっき層40の表面40fから一部が露出するダイヤモンド粒子20を含む部分被覆板17が得られる。突出量が比較的大きいダイヤモンド粒子20間に突出量が比較的小さいダイヤモンド粒子20が存在する場合、この突出量が小さいダイヤモンド粒子20は、金属相3と共に第一のめっき層40に覆われる(
図6において、突出部を有するダイヤモンド粒子のうち、中央に位置するダイヤモンド粒子参照)。
【0075】
ダイヤモンド粒子20の一部が第一のめっき層40の表面40fから突出することがあるものの、この突出高さL26は、粗面板16における突出高さL2よりも小さい。こうなるように、突出高さL2等に応じて、第一の無電解めっきの条件を調整することが挙げられる。特に、部分被覆板17における突出高さL26が可及的にゼロとなるように第一の無電解めっきの条件を調整することが好ましい。この場合、第一のめっき層40の表面40fからダイヤモンド粒子20の最上面のみが露出される。例えば、ダイヤモンド粒子20における第一のめっき層40の表面40fからの露出箇所が上述の研磨面であり、研磨面と上記表面40fとが実質的に面一になるように第一の無電解めっきの条件を調整すれば、部分被覆板17の表面が平滑になり易い。この平滑な面に倣って、後述する第二のめっき層41の表面4fも平滑になり易く、被覆層4の表面粗さを小さくし易い(例、Raで2.0μm未満)。
【0076】
その他、第一の無電解めっきの前処理として、脱脂、脱スマット(表面調整)、触媒付与(上述参照)等を行うことが挙げられる。各処理の間には、必要に応じて洗浄及び乾燥を行うことができる。各処理に用いる薬品は市販品を利用できる。
【0077】
〈第二めっき工程〉
この工程では、部分被覆板17におけるダイヤモンド粒子20の露出部分と第一のめっき層40の表面40fとを覆うために、第二の無電解めっきを施す。この目的から、第二の無電解めっきでは、触媒45(
図4)として、ダイヤモンド粒子20と第一のめっき層40の構成金属との双方を活性化する作用を有するものを用いることが挙げられる。この工程により、
図5に示すように、基板10における金属相3の表面3fと金属相3の表面3fから突出するダイヤモンド粒子20の突出部2fとが第一のめっき層40及び第二のめっき層41からなる被覆層4で覆われた複合部材1が得られる。代表的には表面粗さRaが2.0μm未満という平滑な表面4fを有する被覆層4を備える複合部材1が得られる。実施形態の複合部材の製造方法によれば、例えば厚いめっき層を形成した後、研磨によって平滑な表面を形成する方法に比較して、工程数の低減、めっき時間の短縮を図ることができ、製造性に優れる。また、研磨によるめっき材料の廃棄もなく、製造コストの低減も図ることができる。
【0078】
〈その他の工程〉
第二めっき工程後、熱処理を施すことができる。熱処理を行うことで、両めっき層40,41を密着でき、被覆層4の機械的強度を高められる。なお、熱処理を施すと、両めっき層40,41の境界(
図5では二点鎖線で仮想的に示す)は実質的に見えなくなる。熱処理条件は、両めっき層40,41の密着性を高められ、基板10を熱損傷しない範囲で適宜選択できる。めっきの組成等にもよるが、例えば加熱温度が200℃以上850℃以下程度、保持時間が1分以上240分以下程度が挙げられる。熱処理時の雰囲気を真空雰囲気、不活性雰囲気(例、窒素ガス、アルゴンガス)又は還元雰囲気(例、水素ガス、水素ガスと不活性ガスとの混合ガス、一酸化炭素ガス)等とすると、複合部材1の酸化を防止し易い。
[試験例1]
ダイヤモンド粒子と銀相とを備える複合材料からなる素材板に種々の条件で無電解めっきを施し、上記複合材料からなる基板と、無電解めっき層からなる被覆層とを備える複合部材を作製し、被覆層の表面状態を調べた。
【0079】
素材板は、特許文献2に基づいて作製したものを用意した。この素材板は、一辺の長さが50mm、厚さ1.4mmの正方形状の平板材であり、素材板におけるダイヤモンド粒子の含有量が60体積%、銀相の含有量が40体積%程度であり、ダイヤモンド粒子の平均粒径は20μmである。ここでは、用意した素材板の表面を研磨した。
【0080】
研磨後の素材板に、エッチングを施した後、無電解めっきを施し、ダイヤモンド粒子(ここではTiCからなる被覆膜を備える被覆粒子)と銀相とを備える複合材料からなる基板の表面全面にNi-P合金からなるめっき層を備えるめっき付基板を得た。
【0081】
〈試料No.1〉
試料No.1は、エッチング後に二段階の無電解めっきを施した試料である。
【0082】
エッチングの条件は、素材板の表面近くのダイヤモンド粒子において、多くの粒子が、銀相の表面からの突出高さL2がダイヤモンド粒子の最大長さLの10%以上90%以下を満たすように調整し、銀相の表面からダイヤモンド粒子の一部を突出させた。具体的には、エッチング液としてシアン化カリウムの濃度が50g/Lの水溶液を用意し、30℃、2分の条件でエッチングを行った。エッチング後の素材板におけるダイヤモンド粒子の突出高さL2は6μmである。
【0083】
第一の無電解めっきに対する触媒付与の処理液として、置換型Pd触媒液を用意した。
上述のエッチング後、素材板に、脱脂、脱スマット、上記処理液を用いた触媒付与を順に行ってから第一の無電解めっきを行った。第一の無電解めっきの条件は、ダイヤモンド粒子において、このめっき層の表面からの突出高さL26がめっき前の突出高さL2の0.3以下と十分に小さくなるように調整した。具体的には、めっき液として、硫酸ニッケル20g/L、次亜リン酸ナトリウム24g/L、乳酸27g/L、プロピオン酸2.0g/Lからなる無電解Ni-Pめっき液を用意し、浴温85℃、めっき時間30分の条件で第一の無電解めっきを行った。
【0084】
第一の無電解めっきによって、素材板におけるダイヤモンド粒子間に存在する銀相の表面にNi-P合金からなる第一のめっき層を形成する。この第一のめっき層によって銀相の表面は、実質的に埋設される。第一のめっき層の厚さは5.5μmである。
【0085】
第二の無電解めっきに対する触媒付与の処理液として、Sn-Pdコロイドタイプの触媒液を用意した。
【0086】
上記第一のめっき層を備える部分被覆板に、上記処理液を用いた触媒付与、触媒活性化を順に行ってから第二の無電解めっきを行った。第二の無電解めっきの条件は、第一のめっき層の表面と、ダイヤモンド粒子における第一のめっき層の表面からの露出部分とを覆うように調整した。具体的には、めっき液として、第一の無電解めっきに用いたものと同じ無電解Ni-Pめっき液を用意し、浴温85℃、めっき時間16分の条件で第二の無電解めっきを行った。
【0087】
第二の無電解めっきによって、上述の複合材料からなる基板の表面は、Ni-P合金からなる第一のめっき層及び第二のめっき層に埋設される。第二のめっき層の厚さは3.0μmである。
【0088】
更に、ここでは、第二の無電解めっき後、熱処理を施した。熱処理条件は、加熱温度800℃、加熱時間60分、水素100%の還元雰囲気である。
【0089】
更に、ここでは、上記熱処理後、電気めっきによって、Ni-P合金層の上に、純ニッケル層と、純金層とを順に形成した。従って、試料No.1のめっき付基板は、上記複合材料からなる基板の上に順に、Ni-P合金からなる被覆層、純ニッケル層及び純金層の二層の付加層を備える。
【0090】
〈試料No.2〉
試料No.2は、エッチング後に二段階の無電解めっきを施した試料である。
【0091】
試料No.2の具体的な作製方法は、エッチングの時間(長さ)を1分30秒とした以外は、試料No.1の作製方法と同様とした。
【0092】
〈試料No.3〉
試料No.3は、エッチング後に二段階の無電解めっきを施した試料である。
【0093】
試料No.3の具体的な作製方法は、エッチングの時間(長さ)を1分とした以外は、試料No.1の作製方法と同様とした。
【0094】
〈試料No.4〉
試料No.4は、エッチング後に二段階の無電解めっきを施した試料である。
【0095】
試料No.4の具体的な作製方法は、エッチングの時間(長さ)を30秒とした以外は、試料No.1の作製方法と同様とした。
【0096】
〈試料No.101〉
試料No.101は、エッチング後に一段階の無電解めっきを施し、二段階目の無電解めっきを施していない試料である。
【0097】
この試料No.101は、試料No.1と同様の条件でエッチングを行った後、以下の処理液を用いて触媒付与を行い、触媒活性化、無電解めっきを行った。更に、無電解めっき層の上に二層の付加層を形成した。
【0098】
試料No.101の触媒付与の処理液にはSn-Pdコロイドタイプの触媒液を用い、試料No.1の第二の無電解めっきと同様の条件で無電解めっきを行い、厚さ3.0μmの無電解めっき層を形成した。
【0099】
〈試料No.102〉
試料No.102は、試料No.1,No.101に比較して、エッチング深さを浅くしてエッチングを施した後に一段階の無電解めっきを施し、二段階目の無電解めっきを施していない試料である。エッチングの条件を異ならせたことを除いて、試料No.101と同様の条件で無電解めっきを施した。試料No.102は、電気めっきを行っておらず、無電解めっき層のみを備える。
【0100】
エッチングの条件は、素材板の表面近くのダイヤモンド粒子において、多くの粒子が、銀相の表面からの突出高さL2がダイヤモンド粒子の最大長さLの0.2以下となるように調整した。具体的には、エッチング液としてシアン化カリウムの濃度が50g/Lの水溶液を準備し、30℃、10秒の条件でエッチングを行った。エッチング後の素材板におけるダイヤモンド粒子の突出高さL2は0.5μmである。
【0101】
試料No.1~4,No.101,No.102のめっき付基板について、被覆層の表面粗さを測定した。ここでは、株式会社キーエンス製のレーザー顕微鏡VK-X100の50倍の対物レンズを用いて算術平均粗さRa(μm)を測定し、結果を表1に示す。試料No.1~4,No.101では、ニッケル層及び金層を形成する前において、Ni-P合金層の表面粗さRaを測定し、試料No.102では、無電解めっき層の表面粗さRaを測定した。
【0102】
試料No.1~4,No.101,No.102のめっき付基板について、基板の厚さ方向(ここでは基板とめっき層との積層方向)に平行な平面で切断して、断面をSEMで観察した。ここでは、クロスセクションポリッシャー(CP)断面をとった。
【0103】
図6~
図8の各図は試料No.1のめっき付基板の断面のSEM写真であり、
図6,
図7は
図8の部分拡大写真である。
図9は試料No.2のめっき付基板の断面のSEM写真である。
図10は試料No.3のめっき付基板の断面のSEM写真である。
図11は試料No.4のめっき付基板の断面のSEM写真である。
図12は試料No.101のめっき付基板の断面のSEM写真である。
図13,
図14は試料No.102のめっき付基板の断面のSEM写真である。
図7の被覆層4において、基板10側から、Ni-P合金からなる被覆層4(
図7では薄い灰色の領域であって点線よりも下の領域)、純ニッケルからなる第一の付加層5(同点線よりも上の領域)、純金からなる第二の付加層6(白色の帯状の領域)を示す。
【0104】
上述のSEM観察像を用いて、被覆層のうち、銀相を覆う金属被覆部の厚さt3と、実質的にダイヤモンド粒子のみを覆う粒子被覆部の厚さt2とを測定し、これらの厚さ比率(t2/t3)を求めた。その結果を表1に示す。
【0105】
被覆粒子部の厚さt
2は、以下のように求める。
試料No.1については、
図7に示すように、SEM観察像において、金属相3の表面3fから突出する部分を有するダイヤモンド粒子20(ここでは被覆粒子2、以下この段落、及び次段落について同様)を10個以上抽出する。10個以上のダイヤモンド粒子20のそれぞれに対して、被覆層4のうち、ダイヤモンド粒子20のみを覆う粒子被覆部42を抽出し、その厚さt
2を測定する。断面では、ダイヤモンド粒子20における金属相3の表面3fとの交点を通り、厚さ方向に平行な直線(
図1の二点鎖線の直線参照)を二つとり、被覆層4において上記の二つの直線で挟まれる領域が粒子被覆部42である。この領域の厚さを測定し、その最小値をとる。ここでの厚さとは、ダイヤモンド粒子20と被覆層4との間において厚さ方向(
図1,
図7では上下方向)に沿った距離とする。10個以上の厚さの最小値を求めて平均をとり、この平均値を厚さt
2とする。
図7の下図において各ダイヤモンド粒子20の上方に付した黒矢印は、粒子被覆部42の厚さの最小値を例示する(
図14も同様)。ここでの厚さの最小値は、ダイヤモンド粒子20の突出部2fの表面(例、研磨面)から被覆層4の表面までの厚さ方向における最短距離である。
図7において左右方向に延びる3本の直線は、
図7に示す各ダイヤモンド粒子20の表面を通る直線である(
図14の直線も同様)。
【0106】
金属被覆部の厚さt
3は、以下のように求める。
被覆層4において、上述の金属相3の表面3fから突出する部分を有するダイヤモンド粒子20について、隣り合うダイヤモンド粒子20,20間に介在される金属相3の表面3fを覆う領域が金属被覆部43である。この領域の厚さを測定し、その最小値をとり、10個以上の厚さの最小値を求めて平均をとり、この平均値を厚さt
3とする。ここでは、上述の隣り合うダイヤモンド粒子20,20間の最短距離の50%の地点をとり、各ダイヤモンド粒子20から上記50%の地点迄に存在する金属被覆部43を、各ダイヤモンド粒子20に対する金属被覆部43の厚さの測定範囲とする。上記金属相3の表面3fを覆う領域は、実質的に表面3fのみを覆う領域と、表面3fとダイヤモンド粒子20の一部とが重複する箇所を覆う領域とを含む。
図7において各ダイヤモンド粒子20の側方に付した黒矢印は、金属被覆部43の厚さの最小値を例示する(
図14も同様)。
【0107】
試料No.2~4,No.101,No.102についても、試料No.1と同様にして、厚さt
2,t
3を測定して厚さ比率(t
2/t
3)を求めた(試料No.102については
図14参照)。
【0108】
試料No.1~4,No.101,No.102について、複合材料からなる基板の表面から突出するダイヤモンド粒子の突出高さL2及びこの突出部分を有する粒子の最大長さLを測定し、最大長さLに対する突出高さL2の割合(L2/L)を求めた。その結果を表1に示す。
【0109】
上述の突出高さL
2及び最大長さLは、上述の断面のSEM観察像を用いて以下のように求める。まず、上述のように金属相3の表面3fから突出する部分を有するダイヤモンド粒子20(ここでは被覆粒子2、以下この段落について同様)を10個以上抽出する。抽出した各ダイヤモンド粒子20において、めっき付基板の厚さ方向(
図7,
図14では上下方向)に沿った最大長さを求め、この最大長さを各ダイヤモンド粒子20の最大長さLとする。また、抽出した各ダイヤモンド粒子20において、金属相3の表面3fとダイヤモンド粒子20と被覆層4との交点P(
図1参照)から上記厚さ方向に沿った最大距離を求め、この最大距離をこのダイヤモンド粒子20の突出高さL
2とする。断面観察像では、代表的には一つのダイヤモンド粒子20について交点Pが二つ存在する。そのため、各ダイヤモンド粒子20について、各交点Pから上記厚さ方向に沿った最大距離を求め、そのうちの最小値をこのダイヤモンド粒子20の突出高さL
2とする。
図1では金属相3の表面3fを模式的に一直線で示すため、各交点Pから上記厚さ方向に沿った最大距離は等しいが、代表的には
図7に示すように一つのダイヤモンド粒子20の各交点Pにおける厚さ方向の位置が異なるため、上記最大距離が異なることがある。各ダイヤモンド粒子20について比L
2/Lを求め、更に10個以上の比L
2/Lの平均をとり、この平均値を突出高さL
2の割合(L
2/L)とする。
図7,
図14において各ダイヤモンド粒子20の側方に付した白矢印は、突出高さL
2を例示する。
【0110】
【0111】
表1に示すように、試料No.1~4のめっき付基板では、試料No.102に比較して基板の表面におけるダイヤモンド粒子の突出量が大きいものの、試料No.1と同程度に上記突出量が大きい試料No.101に比較して被覆層の表面の凹凸が小さく平滑なことが分かる(
図8~12を比較参照)。また、試料No.1~4のめっき付基板では、荒れた基板の表面に対応して、被覆層の厚さが部分的に異なっており、
図8~11に示すように被覆層においてダイヤモンド粒子のみを覆う粒子被覆部の厚さは、粒子間の金属相を覆う金属被覆部の厚さよりも薄い。
【0112】
定量的には、試料No.1のめっき付基板では、突出高さL
2の割合(L
2/L)が0.63(63%)であり、試料No.101の上記割合と同等程度であると共に、試料No.102の上記割合の3倍以上であり、ダイヤモンド粒子の突出量が大きい。また、試料No.1のめっき付基板では、被覆層の表面粗さRaが1.2μmであり、試料No.101の表面粗さRaの1/2未満であると共に、試料No.102の表面粗さRaと同等程度であり、被覆層の表面が平滑である。
図8に示すように、被覆層の上に付加層を有する場合には、被覆層の表面粗さRaが小さいことで付加層も平滑な表面を有する。ここでは、付加層の表面粗さRaは被覆層の表面粗さRaと同等程度である(1.2μm程度)。更に、試料No.1のめっき付基板では、被覆層における厚さ比率(t
2/t
3)が0.27であり、試料No.101,No.102の上記厚さ比率の1/3以下であり、粒子被覆部が金属被覆部より薄い。
【0113】
また定量的には、試料No.2のめっき付基板では、突出高さL2の割合(L2/L)が0.45(45%)であり、試料No.102の上記割合の2倍以上であり、ダイヤモンド粒子の突出量が大きい。また、試料No.2のめっき付基板では、被覆層の表面粗さRaが1.1μmであり、試料No.101の表面粗さRaの1/2未満であると共に、試料No.102の表面粗さRaと同等程度であり、被覆層の表面が平滑である。更に、試料No.2のめっき付基板では、被覆層における厚さ比率(t2/t3)が0.36であり、試料No.101,No.102の上記厚さ比率の1/2以下であり、粒子被覆部が金属被覆部より薄い。
【0114】
また定量的には、試料No.3のめっき付基板では、突出高さL2の割合(L2/L)が0.47(47%)であり、試料No.102の上記割合の2倍以上であり、ダイヤモンド粒子の突出量が大きい。また、試料No.3のめっき付基板では、被覆層の表面粗さRaが1.2μmであり、試料No.101の表面粗さRaの1/2未満であると共に、試料No.102の表面粗さRaと同等程度であり、被覆層の表面が平滑である。更に、試料No.3のめっき付基板では、被覆層における厚さ比率(t2/t3)が0.48であり、試料No.101,No.102の上記厚さ比率の1/2以下であり、粒子被覆部が金属被覆部より薄い。
【0115】
また定量的には、試料No.4のめっき付基板では、突出高さL2の割合(L2/L)が0.51(51%)であり、試料No.102の上記割合の2倍以上であり、ダイヤモンド粒子の突出量が大きい。また、試料No.4のめっき付基板では、被覆層の表面粗さRaが1.1μmであり、試料No.101の表面粗さRaの1/2未満であると共に、試料No.102の表面粗さRaと同等程度であり、被覆層の表面が平滑である。更に、試料No.4のめっき付基板では、被覆層における厚さ比率(t2/t3)が0.76であり、試料No.101,No.102の上記厚さ比率よりも小さく、粒子被覆部が金属被覆部より薄い。
【0116】
また、このような試料No.1~4のめっき付基板は、複合材料からなる素材板にエッチングを施した後、二段階の無電解めっきを施すことで得られることが分かる。
【0117】
試料No.1~4のめっき付基板は、基板の表面がある程度荒れているものの、基板上の被覆層の表面は平滑である上に、被覆層において基板の表面をなすダイヤモンド粒子を覆う部分の厚さが薄いといえる。このような試料No.1~4のめっき付基板は、被覆層の上に半田等の接合材やグリス等を均一的な厚さに形成し易く、接合材等が局所的な厚い部分を含むことに起因する局所的な熱抵抗の増大を抑制できる。また、ダイヤモンド粒子と半導体素子や設置対象等との間に介在する被覆層を薄くできる。従って、試料No.1~4のめっき付基板は、半導体素子の放熱部材等に用いた場合に半導体素子から設置対象への熱伝導性に優れると期待される。
【0118】
更に、試料No.1~4,No.101,No.102について、以下の耐熱試験を行い、被覆層の密着性を調べた。耐熱試験は、加熱温度400℃、保持時間40分間の条件と、加熱温度780℃、保持時間40分間の条件の二種類を行った。耐熱試験後、被覆層の膨れ状態を目視確認し、100個中、膨れが発生した複合部材の個数を求めた。(膨れ発生個数/100個)×100を膨れ発生率とし、各耐熱試験の膨れ発生率を求めた。その結果を表1に示す。
【0119】
試料No.101では、400℃の条件での膨れ発生率が90%、780℃の条件での膨れ発生率が88%であり、試料No.102では、400℃の条件での膨れ発生率が50%、780℃の条件での膨れ発生率が90%である。これに対し、試料No.1では、400℃の条件での膨れ発生率が5%、780℃の条件での膨れ発生が10%であり、試料No.2では、400℃の条件での膨れ発生率が7%、780℃の条件での膨れ発生が12%であり、試料No.3では、400℃の条件での膨れ発生率が6%、780℃の条件での膨れ発生が15%であり、試料No.4では、400℃の条件での膨れ発生率が6%、780℃の条件での膨れ発生が15%である。このことから、試料No.1~4は、熱履歴を受けても、試料No.101,No.102よりも被覆層が基板から剥離し難いといえる。上記結果が得られた理由の一つとして、試料No.1~4のめっき付基板は、基板の表面をなすダイヤモンド粒子における被覆層による被覆率を試料No.102よりも大きく確保できたことが考えられる。このような試料No.1のめっき付基板は、長期に亘り、熱伝導性に優れる放熱部材とすることができると期待される。
【0120】
なお、一段階の無電解めっきを行った試料No.101のめっき付基板では、試料No.1の素材板と同等程度に荒れた表面を有する素材板を用いており、この荒れた板表面に等方的にめっき層が形成されることで、めっき層の表面粗さが大きくなったと考えられる。試料No.101におけるめっき層の厚さは、
図12に示すように概ね一様であり、ダイヤモンド粒子を覆う部分の厚さが、銀相を覆う部分の厚さに実質的に等しい。このような試料No.101では、半導体素子の放熱部材に用いた場合に上述の接合材等に局所的に厚い部分を含むことで、熱伝導性に劣ると考えられる。
【0121】
試料No.102のめっき付基板では、突出高さL
2の割合(L
2/L)が小さいことで被覆層の表面粗さRaも小さくなったと考えられる。但し、試料No.102におけるめっき層の厚さも、
図13に示すように概ね一様であり、ダイヤモンド粒子を覆う部分の厚さが、銀相を覆う部分の厚さに実質的に等しい。また、突出高さL
2の割合(L
2/L)が小さいため、ダイヤモンド粒子における被覆層による被覆率が小さく、上述の耐熱試験結果に示すように試料No.1~4に比較して被覆層が基板から剥離し易い。
【0122】
本開示は、これらの例示に限定されるものではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【0123】
例えば、試験例1において、複合材料の組成、ダイヤモンド粒子の粒径・含有量、被覆層の組成・厚さ、成膜条件(エッチング条件、めっき条件等)を適宜変更することが挙げられる。
【符号の説明】
【0124】
1 複合部材、 10 基板、 10f 表面、 15 素材板、 16 粗面板、 17 部分被覆板、 2 被覆粒子、 20 ダイヤモンド粒子、 21 被覆膜、 2f 突出部、 3 金属相、 3f 表面、 4 被覆層、 4f,40f 表面、 5,6 付加層、 40 第一のめっき層、 41 第二のめっき層、 42 粒子被覆部、 43 金属被覆部、 45 触媒、 100 複合材料、 t2,t3 厚さ。