(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-07
(45)【発行日】2022-07-15
(54)【発明の名称】めっき膜、及びめっき被覆部材
(51)【国際特許分類】
C25D 5/50 20060101AFI20220708BHJP
C25D 3/48 20060101ALI20220708BHJP
【FI】
C25D5/50
C25D3/48
(21)【出願番号】P 2020504936
(86)(22)【出願日】2019-02-26
(86)【国際出願番号】 JP2019007181
(87)【国際公開番号】W WO2019172010
(87)【国際公開日】2019-09-12
【審査請求日】2021-09-21
(31)【優先権主張番号】P 2018041281
(32)【優先日】2018-03-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000220103
【氏名又は名称】株式会社アライドマテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】100100147
【氏名又は名称】山野 宏
(72)【発明者】
【氏名】後藤 健吾
(72)【発明者】
【氏名】細江 晃久
(72)【発明者】
【氏名】有川 正
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 裕也
(72)【発明者】
【氏名】永嶋 正敏
(72)【発明者】
【氏名】村上 翔平
【審査官】國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/054429(WO,A1)
【文献】特開2006-322037(JP,A)
【文献】特開2002-322587(JP,A)
【文献】特開平1-239856(JP,A)
【文献】特開昭62-151592(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 1/00- 7/12
C23C 18/00-20/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Au及びTlを含むめっき膜であって、
前記めっき膜の表面にTl
2Oを含むTl酸化物を備え、
前記表面において、Tl酸化物を構成するTl原子とTl単体を構成するTl原子との合計に対するTl
2Oを構成するTl原子の割合が40%以上であるめっき膜。
【請求項2】
前記めっき膜全体に含まれるTlの含有量が、質量割合で10ppm以上600ppm以下である請求項1に記載のめっき膜。
【請求項3】
平均厚さが、0.1μm以上である請求項1又は請求項2に記載のめっき膜。
【請求項4】
基材と、前記基材を被覆するめっき膜とを備え、導電性接合材料を介して相手部材に接合されるめっき被覆部材であって、
前記めっき膜は、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のめっき膜であるめっき被覆部材。
【請求項5】
前記基材は、板材と、前記板材を被覆するNiを主成分とする膜とを備え、
前記板材は、Cu、Ag、Al、Mo、W、及びMgから選択される一種以上を含む金属、又はCu、Ag、Al、Mo、W、及びMgから選択される一種以上と、ダイヤモンド及び炭化ケイ素から選択される一種以上とを含む複合材料からなる請求項4に記載のめっき被覆部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、めっき膜、及びめっき被覆部材に関する。本出願は、2018年3月7日に出願した日本特許出願である特願2018-041281号に基づく優先権を主張する。当該日本特許出願に記載された全ての記載内容は、参照によって本明細書に援用される。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、銀線を被覆する金めっき膜中に、結晶調整剤としてタリウムが添加されることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【0004】
本開示に係るめっき膜は、
Au及びTlを含むめっき膜であって、
前記めっき膜の表面にTl2Oを含むTl酸化物を備え、
前記表面において、Tl酸化物を構成するTl原子とTl単体を構成するTl原子との合計に対するTl2Oを構成するTl原子の割合が40%以上である。
【0005】
本開示に係るめっき被覆部材は、
基材と、前記基材を被覆するめっき膜とを備え、導電性接合材料を介して相手部材に接合されるめっき被覆部材であって、
前記めっき膜は、上記本開示に係るめっき膜である。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】
図1は、実施形態に係るめっき被覆部材を示す概略構成図である。
【
図2】
図2は、試験例1の試料No.1-4のめっき被覆部材であって、導電性接合材料との濡れ状態を示す写真である。
【
図3】
図3は、試験例1の試料No.1-11のめっき被覆部材であって、導電性接合材料との濡れ状態を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
[本開示が解決しようとする課題]
基材にめっき膜が被覆されためっき被覆部材は、Agペーストなどの導電性接合材料を介して相手部材に接合されることがある。このとき、めっき被覆部材と導電性接合材料との濡れ性が良好であることが望まれる。具体的には、めっき被覆部材のめっき膜は、導電性接合材料との接合領域の全面積に対する濡れている面積の割合(濡れ面積率)が、90%以上であることが望まれる。しかし、従来では、タリウムを含む金めっき膜において、濡れ面積率を90%以上とすることについては、十分な検討がなされていない。
【0008】
そこで、本開示は、導電性接合材料との濡れ性に優れるめっき膜を提供することを目的の一つとする。また、本開示は、導電性接合材料との濡れ性に優れるめっき被覆部材を提供することを別の目的の一つとする。
[本開示の効果]
上記めっき膜及び上記めっき被覆部材は、導電性接合材料との濡れ性に優れる。
【0009】
[本開示の実施形態の説明]
最初に、本開示の実施形態の内容を列記して説明する。
【0010】
(1)本開示の実施形態に係るめっき膜は、Au及びTlを含むめっき膜であって、前記めっき膜の表面にTl2Oを含むTl酸化物を備え、前記表面において、Tl酸化物を構成するTl原子とTl単体を構成するTl原子との合計に対するTl2Oを構成するTl原子の割合が40%以上である。
【0011】
Tl酸化物のうちTl2Oは、導電性接合材料との濡れ性に優れる。よって、めっき膜の表面において、Tl2Oを構成するTl原子の割合が、Tl酸化物を構成するTl原子とTl単体を構成するTl原子との合計に対して40%以上であることで、上記めっき膜は、導電性接合材料との濡れ性に優れる。具体的には、上記めっき膜は、導電性接合材料との接合領域の全面積に対する濡れている面積の割合(濡れ面積率)が90%以上を満たすことができる。めっき膜と導電性接合材料との濡れ性に優れることで、導電性接合材料を介しためっき膜と相手部材との接合性を向上できる。
【0012】
(2)上記めっき膜の一例として、前記めっき膜全体に含まれるTlの含有量が、質量割合で10ppm以上600ppm以下であることが挙げられる。
【0013】
めっき膜全体に含まれるTlの含有量が10ppm以上であることで、めっき膜中のTlを表面に濃化し、めっき膜の表面にTl2Oを存在させ易く、導電性接合材料との濡れ性に優れるめっき膜を得易い。めっき膜の内部にTlが多く含まれると、被覆される基材に対してめっき膜が剥がれ易い傾向にある。めっき膜全体に含まれるTlの含有量が600ppm以下であることで、めっき膜の表面にTlを濃化させた後のめっき膜の内部のTlの含有量を十分に低減でき、基材に対してめっき膜が剥がれることを抑制し易い。
【0014】
(3)上記めっき膜の一例として、平均厚さが、0.1μm以上であることが挙げられる。
【0015】
めっき膜の平均厚さが0.1μm以上であることで、めっき膜が被覆される基材の酸化などによる腐食を抑制し易い。
【0016】
(4)本開示の実施形態に係るめっき被覆部材は、基材と、前記基材を被覆するめっき膜とを備え、導電性接合材料を介して相手部材に接合されるめっき被覆部材であって、前記めっき膜は、上記(1)から(3)のいずれかに記載のめっき膜である。
【0017】
上記めっき被覆部材は、本開示の実施形態に係るめっき膜を備えることで、導電性接合材料との濡れ性に優れ、導電性接合材料を介した相手部材との接合性に優れる。また、めっき膜が導電性接合材料との濡れ性に優れることで、導電性接合材料とめっき膜との間に空隙が形成され難く、空隙に起因する熱抵抗を低減できる。導電性接合材料の熱抵抗を低減できることで、導電性接合材料を介した、相手部材とめっき被覆部材との両者間の熱の移動を良好に行うことができる。例えば、めっき被覆部材が放熱部材、導電性接合材料がAgペースト、及び相手部材が半導体チップである場合、半導体チップの発する熱を、導電性接合材料を介して放熱部材に放出することができ、半導体チップの故障を防止できる。
【0018】
(5)上記めっき被覆部材の一例として、前記基材は、板材と、前記板材を被覆するNiを主成分とする膜とを備え、前記板材は、Cu、Ag、Al、Mo、W、及びMgから選択される一種以上を含む金属、又はCu、Ag、Al、Mo、W、及びMgから選択される一種以上と、ダイヤモンド及び炭化ケイ素から選択される一種以上とを含む複合材料からなることが挙げられる。
【0019】
上記構成によれば、めっき被覆部材自体の放熱性に優れ、かつ、基材の主要構成部材である板材がNiを主成分とする膜で被覆されることで、酸化などによる基材の腐食を抑制し易い。
【0020】
[本開示の実施形態の詳細]
以下、
図1を参照して、本開示の実施形態に係るめっき膜、及びこのめっき膜を備えるめっき被覆部材を具体的に説明する。なお、本開示はこれらの例示に限定されるものではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。また本明細書において「A~B」という形式の表記は、範囲の上限下限(すなわちA以上B以下)を意味し、Aにおいて単位の記載がなく、Bにおいてのみ単位が記載されている場合、Aの単位とBの単位とは同じである。
【0021】
≪めっき膜≫
実施形態に係るめっき膜3は、Au及びTlを含む。実施形態に係るめっき膜3は、めっき膜3の表面にTl2Oを含むTl酸化物32を備え、そのめっき膜3の表面において、Tl2Oを構成するTl原子の割合が、Tl酸化物を構成するTl原子とTl単体を構成するTl原子との合計に対して40%以上である点を特徴の一つとする。以下、めっき膜3の表面における、Tl酸化物32を構成するTl原子とTl単体31を構成するTl原子との合計に対するTl2Oを構成するTl原子の割合を「割合X」とも記す。
【0022】
めっき膜3は、金(Au)を主体とする。Auを主体とするとは、Auを99質量%以上含むことを言い、純Auでもよく、Co、Ni、Fe、Cu、Sn、Agなどを一種以上含むAu合金でもよい。Auを主体とするめっき膜3は、電気伝導性、導電性接合材料を介した相手部材との接合性、耐食性などに優れる。
【0023】
めっき膜3は、タリウム(Tl)を含む。Tlは、後述するめっき膜の製造方法にて詳述するが、結晶調整剤として含まれる。Tlは、めっき膜3の内部においてAuの結晶粒30a内に存在したり、結晶粒界30bに存在したり、めっき膜3の表面に存在したりする。めっき膜3の内部に存在するTlは、代表的には、Tl単体31で存在する。めっき膜3の表面に存在するTlは、代表的には、Tl単体31およびTl酸化物32で存在する。なお、
図1では、分かり易いように、Tl単体31とTl酸化物32とを同じサイズで図示すると共に、適当な間隔を有して図示しており、実際のTl単体およびTl酸化物とはサイズおよび間隔が異なる。
【0024】
めっき膜3の表面に存在するTl単体31およびTl酸化物32は、後述するめっき膜の製造方法にて詳述するが、めっき膜3の製造過程において、めっき膜3の内部に存在するTl単体31がめっき膜3の表面に移動することで形成される。そのため、めっき膜3に含まれるTlは、めっき膜3の表面に濃化しており、そのめっき膜3の表面において、主にTl単体31およびTl酸化物32として存在する。
【0025】
めっき膜3の表面に存在するTl酸化物32は、Tl2OおよびTl2O3が挙げられる。Tl2Oは、めっき膜3と導電性接合材料との濡れ性の向上に寄与する。一方、Tl2O3は、めっき膜3と導電性接合材料との濡れ性を低下させる。また、Tl単体31も、めっき膜3と導電性接合材料との濡れ性を低下させる。
【0026】
めっき膜3の表面に存在するTl2Oは、めっき膜3の表面から露出している。めっき膜3の表面に存在するTl2Oは、めっき膜3の表面に付着していたり、一部がめっき膜3に埋設され、残部がめっき膜3から露出して存在していたりする。Tl2Oは、めっき膜3に保持可能な程度にめっき膜3に埋設されていればよく、めっき膜3からの露出部分は広い方が好ましい。Tl2Oの露出部分が導電性接合材料と接触することで、濡れ性を向上できる。
【0027】
上述のように、本実施形態において割合Xは40%以上である。割合Xが40%以上であることで、導電性接合材料との濡れ性を向上でき、導電性接合材料を介した相手部材との接合性を向上できる。割合Xの値は、大きいほど導電性接合材料との濡れ性を向上できるため、50%以上、更に60%以上、特に80%以上であることが挙げられる。なお、割合Xがある程度の量を超えると、濡れ性(濡れ面積率)が飽和し得る。
【0028】
割合Xは、X線光電子分光法(XPS:X-ray Photoelectron Spectroscopy)により測定できる。Tl酸化物は、Tl2OとTl2O3の二種が存在し得る。XPSにより、110eVから135eVの範囲を0.2eVステップで測定したナロースキャンのスペクトルでは、Tl単体のピークとTl2O3のピークとはほぼ同じ位置に検出され、117.4eVの強度をTl単体とTl2O3の合計のピークの強度の高さAとみなすことができる。一方、Tl2Oのピークは、Tl単体のピーク及びTl2O3のピークと分離して検出され、118.6eVの強度をTl2Oのピークの強度の高さBと見なすことができる。本願において、割合Xは、各ピークの強度の高さの比({B/(A+B)}×100)とする。
【0029】
めっき膜3全体に含まれるTlの含有量は、質量割合で10~600ppmが挙げられる。めっき膜3全体に含まれるTlの含有量が10ppm以上であることで、めっき膜3中のTlをめっき膜3の表面に濃化し、めっき膜3の表面にTl2Oを存在させ易い。一方、めっき膜3全体に含まれるTlの含有量が600ppm以下であることで、めっき膜3の製造過程において、めっき膜3の表面にTlを濃化させた後のめっき膜3の内部のTlの含有量を十分に低減でき、めっき膜3が被覆される基材に対してめっき膜3が剥がれることを抑制し易い。なお、割合Xは、めっき膜3全体に含まれるTlの含有量と実質的に相関関係を有しない。めっき膜3全体に含まれるTlの含有量は、例えば、ICP(Inductively Coupled Plasma)発光分光分析を行うことで測定できる。具体的には、めっき膜3を酸などで溶解し、溶解した溶液をサンプルとしてICP発光分光分析を行う。めっき膜3全体に含まれるTlの含有量は、更に30~500ppm、特に60~400ppmが挙げられる。
【0030】
めっき膜3の平均厚さは、0.1μm以上が挙げられる。めっき膜3の平均厚さが0.1μm以上であることで、めっき膜3が被覆される基材2の酸化などによる腐食を抑制し易い。一方、めっき膜3の平均厚さは、厚くなるほどコストが増大し、工業生産性が低下するため、5.0μm以下が挙げられる。めっき膜3の平均厚さは、例えば、めっき膜3の厚さ方向の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)により3000倍の視野で複数箇所(例えば、5箇所以上)観察し、各顕微鏡写真中のめっき膜3の厚さを等間隔に複数点(例えば、10点以上)測定し、全顕微鏡写真における平均を算出することで得られる。めっき膜3の平均厚さは、更に0.3~3.0μm、特に0.5~2.0μmが挙げられる。
【0031】
≪めっき被覆部材≫
上述しためっき膜3は、基材2に被覆されることで、めっき被覆部材1を構成する。実施形態に係るめっき被覆部材1は、導電性接合材料を介して相手部材に接合される。めっき被覆部材1は、例えば、半導体装置に装備される部材である。具体的には、めっき被覆部材1は、半導体チップや、半導体チップが装着される放熱部材である。導電性接合材料は、Agペーストが挙げられる。
【0032】
基材2は、板材と、板材を被覆するNiを主成分とする膜23とを備える。板材は、Cu、Ag、Al、Mo、W、及びMgから選択される一種以上を含む金属、又はCu、Ag、Al、Mo、W、及びMgから選択される一種以上と、ダイヤモンド及び炭化ケイ素から選択される一種以上とを含む複合材料からなることが挙げられる。本例では、板材は、Cuを含む金属板であり、Cu合金からなる第一金属板21を、Cu単体からなる一対の第二金属板22で挟み込んだ積層構造を有する。第一金属板21及び第二金属板22の平均厚さは、所望の厚さを適宜選択できる。Niを主成分とする膜23は、板材の表面を全面に亘って被覆している。Niを主成分とするとは、Niを90質量%以上含むことを言い、純Niでもよく、Co、Pdなどを一種以上含むNi合金でもよい。Niを主成分とする膜23は、電気Niめっき、無電解Ni-Pめっき、無電解Ni-Bめっきといっためっき法で形成してもよく、またスパッタ法や蒸着法といった物理蒸着法で形成してもよい。Niを主成分とする膜23の平均厚さは、例えば、1.0~10μmが挙げられる。そして、めっき膜3は、Niを主成分とする膜23の表面を全面に亘って被覆している。なお、
図1では、分かり易いように、各部材の厚さを実際の厚さよりも厚く図示している。基材2は、実施形態に係るめっき膜3で被覆できる部材であれば、その材質及び構造は特に問わない。
【0033】
実施形態に係るめっき被覆部材1は、基材2の表面に上述した実施形態に係るめっき膜3を備えるため、導電性接合材料との濡れ性に優れる。具体的には、実施形態に係るめっき被覆部材1は、導電性接合材料との濡れ面積率が90%以上である。濡れ面積率とは、めっき膜3と導電性接合材料との接合領域の全面積に対する濡れている面積の割合である。めっき膜3における導電性接合材料との濡れ面積率は、例えば、めっき被覆部材1に導電性接合材料を付着させた試料について、光学顕微鏡により観察し、その顕微鏡写真を画像解析することによって測定できる。上記濡れ面積率が90%以上であることで、めっき被覆部材1と相手部材との接合部に空隙が形成され難く、めっき被覆部材1と相手部材とを良好に接合できる。
【0034】
≪めっき膜の製造方法及びめっき被覆部材の製造方法≫
上述しためっき膜3及びめっき被覆部材1は、めっき工程と、熱処理工程と、酸化工程とを含む過程により製造できる。
【0035】
〔めっき工程〕
めっき工程では、めっき対象物の表面の少なくとも一部に、Au及びTlを含むめっき浴を用いて、めっき膜が所望の厚さになるまでめっきする。めっき対象物は、例えば、板材の表面にNiを主成分とする膜23が被覆された基材2である(
図1を参照)。めっき方法は、例えば、めっき対象物(基材2)をめっき浴に浸漬して電着する電解めっきである。めっき対象物(基材2)の一部にのみめっきを行う場合、めっきを行わない領域にマスキングを施す。
【0036】
めっき浴に含まれるTlは、結晶調整剤として含まれる。結晶調整剤としては、例えば、ギ酸タリウム、マロン酸タリウム、硫酸タリウム、硝酸タリウム、シアン酸タリウムなどが用いられる。めっき浴に含まれるTlの含有量は、0.5~30ppmが挙げられる。めっき浴に含まれるTlの含有量が0.5ppm以上であることで、相対的にAuの含有量を少なくでき、めっき浴のコストを低減できる。また、めっき浴に含まれるAuの錯体を安定化でき、めっき浴の寿命を向上したり、めっき浴を構成する成分の管理を容易にできたりする。一方、めっき浴に含まれるTlの含有量が30ppm以下であることで、めっき対象物(基材2)へ均一にめっき膜を形成し易い。めっき浴の組成は、公知のめっき浴を利用できる。
【0037】
めっき浴のめっき条件を調整することによって、形成されるめっき膜に含まれるTlの含有量、めっき膜の厚さなどを調整することができる。例えば、めっき浴に通電する電流値を調整すること、めっき浴の温度を調整することなどが挙げられる。具体的には、めっき浴に通電する電流値を大きくしたり、めっき浴の温度を低くしたりすることで、形成されるめっき膜に含まれるTlの含有量を多くできる。めっき浴のめっき条件は、形成されるめっき膜全体に含まれるTlの含有量が10~600ppmとなるように調整することが挙げられる。
【0038】
上述しためっき工程で形成されるめっき膜は、めっき膜の厚さ方向にほぼ均一にTlが存在している。具体的には、めっき工程で形成されるめっき膜に含まれるTlは、めっき膜の内部において、主にTl単体でAuの結晶粒界に存在し、Auの結晶粒内にも存在し得る。以下、めっき工程で形成されるめっき膜を、第一めっき膜と呼び、この第一めっき膜を備えるめっき被覆部材を第一めっき被覆部材と呼ぶ。
【0039】
〔熱処理工程〕
熱処理工程では、上記第一めっき被覆部材を、実質的に酸素元素を含まない雰囲気中で熱処理する。第一めっき被覆部材を熱処理することで、第一めっき膜の内部に存在するTlが、第一めっき膜の表面に濃化される。具体的には、第一めっき被覆部材を熱処理することで、第一めっき膜のAuが再結晶化されることに伴い、主にAuの結晶粒界に存在するTlが第一めっき膜の表面に移動する。
【0040】
実質的に酸素元素を含まない雰囲気とは、酸素濃度が質量割合で20ppm以下のことを言う。実質的に酸素元素を含まない雰囲気は、H2ガス雰囲気、Ar、N2などの不活性ガス雰囲気、H2ガスと不活性ガスとの混合ガス雰囲気などが挙げられる。
【0041】
熱処理温度は、200~500℃が挙げられる。熱処理温度を200℃以上とすることで、第一めっき膜のAuを再結晶化できると共に、Auの再結晶化に伴い、Auの結晶粒界に存在するTlの少なくとも一部を第一めっき膜の表面に移動させることができる。熱処理温度が高いほど、Auの結晶粒界に存在するTlをより多く第一めっき膜の表面に移動させることができる。一方、熱処理温度を500℃以下とすることで、基材2のNi、すなわちNiを主成分とする膜23中のNiが第一めっき膜の表面まで拡散することを抑制できる。熱処理温度は、更に250~480℃、特に300~450℃が挙げられる。
【0042】
熱処理の保持時間は、1~10分が挙げられる。熱処理の保持時間を1分以上とすることで、第一めっき膜のAuを再結晶化できると共に、Auの再結晶化に伴い、Auの結晶粒界に存在するTlの少なくとも一部を第一めっき膜の表面に移動させることができる。熱処理の保持時間が長いほど、Auの結晶粒界に存在するTlをより多く第一めっき膜の表面に移動させることができる。第一めっき膜のAuは、熱処理の保持時間を10分もすれば十分に再結晶化される。そのため、熱処理の保持時間を10分以下とすることで、製造時間を短くできる。熱処理の保持時間は、更に2~8分、特に3~5分が挙げられる。
【0043】
第一めっき膜に熱処理工程を施して得られるめっき膜は、めっき膜の表面にTlが濃化している。このめっき膜の表面に存在するTlは、熱処理直後において、主にTl単体で存在している。以下、第一めっき膜に熱処理工程を施して得られるめっき膜を、第二めっき膜と呼び、この第二めっき膜を備えるめっき被覆部材を第二めっき被覆部材と呼ぶ。
【0044】
〔酸化工程〕
酸化工程では、上記第二めっき被覆部材を、酸素元素を含む雰囲気中で放置する。第二めっき被覆部材を酸素元素を含む雰囲気中で放置することで、第二めっき膜の表面に存在するTlが酸化されてTl酸化物が形成される。このTl酸化物は、Tl2OおよびTl2O3である。
【0045】
酸素元素を含む雰囲気とは、例えば、酸素濃度が質量割合で500ppm以上のことを言う。酸素元素を含む雰囲気は、大気が挙げられる。この酸素元素を含む雰囲気での放置は、常温で行うことが好ましい。大気中で常温にて酸化工程を行うと、格別の雰囲気制御や温度制御を必要としないからである。酸素元素を含む雰囲気での放置時間は、1~24時間が挙げられる。放置時間を1時間以上とすることで、第二めっき膜の表面に存在するTlのうち割合で40%以上のTlをTl2Oに酸化することができる。第二めっき膜の表面に存在するTlの残部は、Tl単体のまま存在したり、Tl2O3に酸化されたりする。酸素元素を含む雰囲気での放置時間は、長いほど第二めっき膜の表面に存在するTlをTl2Oに酸化し易い。なお、放置時間がある程度の長さを超えると、Tl2Oへの酸化が飽和し得る。第二めっき膜のTlは、酸素元素を含む雰囲気での放置時間を24時間もすれば十分にTl2Oに酸化できる。そのため、酸素元素を含む雰囲気での放置時間を24時間以下とすることで、製造時間を短くできる。なお、Tlの酸化は、湿気などの外的要因に依存する。そのため、酸素元素を含む雰囲気での放置時間は、外的要因に合わせて適宜調整すればよい。例えば、湿気が多い場合、第二めっき膜の表面に存在するTlをTl2Oに酸化し易いため、放置時間を短くできる。酸素元素を含む雰囲気での放置時間は、更に3~20時間、特に6~16時間が挙げられる。
【0046】
第二めっき膜に酸化工程を施して得られるめっき膜3は、
図1に示すように、めっき膜3の表面にTl
2Oを含むTl酸化物32を備える。このめっき膜3における割合Xは40%以上である。なお、めっき膜3の表面におけるTlは、Tl
2Oで40%以上存在していればよく、残部の形態を特に問わない。
【0047】
≪効果≫
実施形態に係るめっき膜3は、その表面にTl2Oを含むTl酸化物32を備え、そのめっき膜3の表面において割合Xが40%以上であることで、導電性接合材料との濡れ性を向上できる。具体的には、上記めっき膜3は、導電性接合材料との濡れ面積率が90%以上を満たすことができる。よって、上記めっき膜3を備える実施形態に係るめっき被覆部材1は、導電性接合材料を介した相手部材との接合性を向上できる。上記濡れ面積率が90%以上を満たすことで、めっき被覆部材1と相手部材との接合部に空隙が形成され難く、接合部に生じ得る熱抵抗を低減できる。そうすることで、例えば、めっき被覆部材1が放熱部材であり、相手部材が半導体チップである場合、半導体チップの発する熱を放熱部材に良好に放出することができ、半導体チップの故障を防止できる。
【0048】
実施形態に係るめっき膜3は、めっき膜3全体に含まれるTlの含有量が10ppm以上であることで、めっき膜3中のTlを表面に濃化し、めっき膜3の表面にTl2Oを存在させ易い。めっき膜3に含まれるTlは、主としてめっき膜3の表面に存在しており、めっき膜3の内部には少ないため、めっき膜3が被覆される相手部材に対してめっき膜3が剥がれることを抑制できる。
【0049】
[試験例1]
Au及びTlを含むめっき膜を備えるめっき被覆部材の試料を作製し、各試料のめっき膜の表面に存在するTl2Oの割合と、濡れ面積率を調べた。
【0050】
≪試料の作製≫
めっき対象物の表面に、Au及びTlを含むめっき浴を用いて電解めっきを施した(試料No.1-1~1-4、1-11)。めっき対象物には、Cu-Mo系合金からなる第一金属板を、Cu単体からなる第二金属板で挟み込んだ積層構造の金属板を用意し、この金属板の表面を、Niを主成分とする膜(電気Niめっき膜)で被覆した基材を用いた(
図1を参照)。基材の大きさは、5.0mm×5.0mm×1.0mmとした。めっき浴には、シアン化金カリウムと、硝酸タリウムとを調整したものを用いた。めっき条件は、Tl濃度を質量割合で10ppm、電流密度を0.5A/dm
2、めっき浴の温度を60℃とし、めっき膜の厚さが1.5μmになるまで電解めっきを行った。このめっき条件によって得られるめっき膜全体のTlの含有量は、質量割合で35ppmであった。
【0051】
基材の表面に電解めっきを施した各試料に、H2ガス雰囲気中で310℃×1分の熱処理を施した。熱処理を施した試料のうち、試料No.1-1~1-4は、常温大気中で、表1に示す放置時間だけ放置した。その後、試料No.1-1~1-4に、Agペーストを塗布した。Agペーストの塗布方法は、Agペーストを試料の上に50μl滴下後、スキージを用いて液滴を広げた。スキージ高さは30μmとした。熱処理を施した試料のうち、試料No.1-11は、常温大気中で放置せずに、熱処理後すぐにAgペーストを塗布した。いずれの試料も、Agペーストの塗布面積を3.0mm×2.5mmとした。
【0052】
≪めっき膜表面のTl2Oの割合≫
作製した各試料のめっき被覆部材について、めっき膜の表面において、Tl酸化物を構成するTl原子とTl単体を構成するTl原子との合計に対するTl2Oを構成するTl原子の割合をXPSにより測定した。その結果を表1に併せて示す。
【0053】
≪濡れ面積率≫
作製した各試料のめっき被覆部材について、めっき膜とAgペーストとの濡れ面積率を測定した。濡れ面積率は、光学顕微鏡を用いて、Agペーストの塗布面積内で、Agペーストが濡れている面積の割合を求めた。その結果を表1に併せて示す。また、試料No.1-4及び試料No.1-11のめっき被覆部材について、めっき膜に対するAgペーストの濡れ状態を示す写真を
図2及び
図3にそれぞれ示す。
図2及び
図3において、黒い部分はAgペーストを弾いている部分であり、その他の部分はAgペーストが濡れている部分である。
【0054】
【0055】
表1に示すように、熱処理後に1時間以上放置してからAgペーストを塗布した試料No.1-2~1-4は、めっき膜表面において、Tl酸化物を構成するTl原子とTl単体を構成するTl原子との合計に対するTl2Oを構成するTl原子の割合が40%以上であり、濡れ面積率が90%以上と濡れ性に優れることがわかる。これは、熱処理後に1時間以上放置したため、熱処理によってめっき膜表面に濃化したTlが十分に酸化されたことによると思われる。一方、熱処理後に1時間未満放置してからAgペーストを塗布とした試料No.1-1は、上記割合が32%であり、濡れ面積率が85%と濡れ性に劣ることがわかる。また、熱処理後すぐにAgペーストを塗布した試料No.1-11は、上記割合が28%であり、濡れ面積率が80%と非常に濡れ性に劣ることがわかる。これは、熱処理後の放置時間が短い又は放置していないため、熱処理によってめっき膜表面に濃化したTlが十分に酸化されず、めっき膜表面にTl単体やTl2O3といった濡れ性を低下させるTlが残存していることによると思われる。
【0056】
[試験例2]
Au及びTlを含むめっき膜を備えるめっき被覆部材の試料を作製し、各試料のめっき膜全体に含まれるTlの含有量と、濡れ面積率を調べた。
【0057】
≪試料の作製≫
めっき対象物の表面に、Au及びTlを含むめっき浴を用いて電解めっきを施した(試料No.2-1~2-4)。めっき対象物は、試験例1と同様の基材を用いた。めっき浴は、試験例1と同様のシアン化金カリウムと、硝酸タリウムとを調整したものを用い、めっき条件は、表2に示すTl濃度(質量割合)、電流密度、温度とした。各めっき条件によって得られるめっき膜全体のTlの含有量を表2に併せて示す。めっき膜の厚さは、いずれの試料も1μmとした。
【0058】
基材の表面に電解めっきを施した各試料に、H2ガス雰囲気中で310℃×1分の熱処理を施した後、常温大気中で14時間放置してから、試験例1と同様にAgペーストを塗布した。いずれの試料も、Agペーストの塗布面積を3.0mm×2.5mmとした。
【0059】
≪Tlの含有量≫
作製した各試料のめっき被覆部材について、めっき膜全体に含まれるTlの含有量をICP発光分光分析により測定した。その結果を表2に併せて示す。
【0060】
≪濡れ面積率≫
作製した各試料のめっき被覆部材について、めっき膜とAgペーストとの濡れ面積率を試験例1と同様に測定した。その結果を表2に併せて示す。
【0061】
【0062】
表2に示すように、濡れ面積率は、めっき膜全体に含まれるTlの含有量に依存しないことがわかった。これは、めっき膜内にある程度のTlが含まれると、熱処理後に十分に放置を行うことで、熱処理によってめっき膜表面に濃化したTlが十分に酸化されることによると思われる。濡れ面積率が、めっき膜全体に含まれるTlの含有量に依存しないため、めっき膜全体に含まれるTlの含有量を多くすることで、相対的にAuの含有量を少なくでき、めっき浴のコストを低減できると期待される。また、めっき膜全体に含まれるTlの含有量を多くすることで、めっき浴中のAuの錯体を安定化でき、めっき浴の寿命を向上したり、めっき浴を構成する成分の管理を容易にできたりすると期待される。
【符号の説明】
【0063】
1 めっき被覆部材、2 基材、21 第一金属板、22 第二金属板、23 Niを主成分とする膜、3 めっき膜、30a 結晶粒、30b 結晶粒界、31 Tl単体、32 Tl酸化物。