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特許7101782冗長的なABSコントロールおよびドライバダイナミックコントロールを有する車両の電子式の設備
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-07
(45)【発行日】2022-07-15
(54)【発明の名称】冗長的なABSコントロールおよびドライバダイナミックコントロールを有する車両の電子式の設備
(51)【国際特許分類】
   B60T 8/1755 20060101AFI20220708BHJP
   B60T 7/12 20060101ALI20220708BHJP
   B60T 8/00 20060101ALI20220708BHJP
   B60T 8/1761 20060101ALI20220708BHJP
   B60T 8/88 20060101ALI20220708BHJP
   B62D 6/00 20060101ALI20220708BHJP
   B60W 40/10 20120101ALI20220708BHJP
   B62D 119/00 20060101ALN20220708BHJP
   B62D 101/00 20060101ALN20220708BHJP
【FI】
B60T8/1755 Z
B60T7/12 F
B60T8/00 Z
B60T8/1761
B60T8/88
B62D6/00 ZYW
B60W40/10
B62D119:00
B62D101:00
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2020532773
(86)(22)【出願日】2018-12-13
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-02-22
(86)【国際出願番号】 EP2018084735
(87)【国際公開番号】W WO2019115683
(87)【国際公開日】2019-06-20
【審査請求日】2020-08-07
(31)【優先権主張番号】102017011611.3
(32)【優先日】2017-12-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】597007363
【氏名又は名称】クノル-ブレムゼ ジステーメ フューア ヌッツファールツォイゲ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Knorr-Bremse Systeme fuer Nutzfahrzeuge GmbH
【住所又は居所原語表記】Moosacher Strasse 80, D-80809 Muenchen, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】フリートベアト レーター
(72)【発明者】
【氏名】ファルク ヘッカー
(72)【発明者】
【氏名】アドナン ムスタファ
(72)【発明者】
【氏名】フランク シュヴァープ
(72)【発明者】
【氏名】ユルゲン シュタインベルガー
【審査官】羽鳥 公一
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0267221(US,A1)
【文献】特表2006-525172(JP,A)
【文献】特開2017-019432(JP,A)
【文献】特開2001-071879(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102014107399(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 7/12-8/1769
B60T 8/32-8/96
B60T 13/00-13/74
B60W 10/00-10/30
B60W 30/00-50/16
B60W 40/10
B62D 119/00
B62D 101/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の電気式の設備であって、
a)電空式の常用ブレーキ装置(124)として形成された常用ブレーキ装置であって、電空式の常用ブレーキ弁装置(1)、第1の電子式のブレーキ制御装置(EBS-ECU)、電空式のモジュレータ(114,116)、および空気圧式のホイールブレーキアクチュエータ(118,120)を含んでいる常用ブレーキ装置と、
b)センサ信号を供給するセンサ装置(164)とを備えており、該センサ装置(164)は、下記のセンサ、すなわち、少なくとも1つのホイール回転数センサ(24)であって、該ホイール回転数センサ(24)に対応配置された少なくとも1つの車両ホイールのホイール回転数を検出するホイール回転数センサ(24)、前記車両の前後方向加速度を検出する前後方向加速度センサ、前記車両の横方向加速度を検出する横方向加速度センサ、前記車両のヨーレートを検出するヨーレートセンサ、前記車両のステアリングホイール(28)のステアリングホイール角を検出するステアリングホイール角センサ(166)のうちの少なくとも1つのセンサを含んでおり、
c)前記第1の電子式のブレーキ制御装置(EBS-ECU)は、前記電空式のモジュレータ(114,116)を電気的に制御し、かつ前記電空式のモジュレータ(114,116)は、これにより空気圧的なブレーキ圧、または前記空気圧式のホイールブレーキアクチュエータ(118,120)のためのブレーキ制御圧を生ぜしめ、
d)前記電空式の常用ブレーキ弁装置(1)は、常用ブレーキ操作機構(10)と、少なくとも1つの常用ブレーキ回路の内部に少なくとも1つの電気的な通路(130)とを有していて、該電気的な通路(130)は、前記常用ブレーキ操作機構(10)によって操作可能な少なくとも1つの電気式のブレーキ値発生器(67)であって、前記常用ブレーキ操作機構(10)の操作に関連して操作信号を出力するためのブレーキ値発生器(67)を備えており、前記電空式の常用ブレーキ弁装置(1)はさらに、前記操作信号を受信する、前記第1の電子式のブレーキ制御装置とは無関係な少なくとも1つの第2の電子式のブレーキ制御装置(FBM-ECU)であって、前記操作信号に関連して制動要求信号を前記第1の電子式のブレーキ制御装置(EBS-ECU)に入力する第2の電子式のブレーキ制御装置(FBM-ECU)と、少なくとも1つの空気圧的な常用ブレーキ回路の内部に少なくとも1つの空気圧的な通路(132,134)とを有していて、該空気圧的な通路(132,134)では、ドライバ制動要求に基づく前記常用ブレーキ操作機構(10)の操作によって、前記常用ブレーキ弁装置(1)の少なくとも1つの制御ピストン(12)に第1の操作力が加えられ、かつ前記制御ピストン(12)は、前記常用ブレーキ弁装置(1)の、流入座(64)および流出座(32)を含む少なくとも1つの複座弁(34)を、直接または間接的に制御し、これによって空気圧的なブレーキ圧または前記空気圧式のホイールブレーキアクチュエータ(118,120)のためのブレーキ制御圧を生ぜしめることができるようになっており、かつ
e)前記電空式の常用ブレーキ弁装置(1)の前記第2の電子式のブレーキ制御装置(FBM-ECU)を含む手段(FBM-ECU,52)が設けられており、該手段は、少なくとも、ドライバ制動要求とは無関係に要求された制動の存在時に、第1の操作力に関して同方向または逆方向に前記少なくとも1つの制御ピストン(12)に作用する第2の操作力を生ぜしめる、
電気式の設備において、
f)前記第2の電子式のブレーキ制御装置(FBM-ECU)において、ブレーキスリップコントロールルーティンおよび/または走行ダイナミックコントロールルーティンが実行されており、かつ
g)前記第2の電子式のブレーキ制御装置(FBM-ECU)は、前記センサ装置(164)のセンサ信号を受信し、かつ
h)ドライバ制動に関連してまたはドライバ制動要求とは無関係に要求された制動の存在時に、前記電空式の常用ブレーキ弁装置(1)の前記第2の電子式のブレーキ制御装置(FBM-ECU)を含む前記手段(FBM-ECU,52)は、前記第2の操作力をまた、前記第2の電子式のブレーキ制御装置(FBM-ECU)によって受信された前記センサ信号に関連して、前記要求された制動時に少なくともブレーキスリップコントロール(ABS)および/または走行ダイナミックコントロール(ESC)が実施されるように生ぜしめる
ことを特徴とする、電気式の設備。
【請求項2】
前記第2の電子式のブレーキ制御装置(FBM-ECU)において実行される前記ブレーキスリップコントロールルーティンは、前記第2の操作力を前記少なくとも1つのホイール回転数センサのセンサ信号に関連しても、前記第2の電子式のブレーキ制御装置(FBM-ECU)を介して要求された制動時にブレーキスリップコントロール(ABS)が実施されるように生ぜしめる、請求項1記載の電気式の設備。
【請求項3】
前記第2の電子式のブレーキ制御装置(FBM-ECU)において実行される前記走行ダイナミックコントロールルーティンは、前記第2の操作力を前記少なくとも1つのホイール回転数センサ(24)のセンサ信号、前記少なくとも1つのヨーレートセンサのセンサ信号、前記少なくとも1つの横方向加速度センサのセンサ信号、および前記少なくとも1つのステアリングホイール角センサ(166)のセンサ信号に関連しても、前記第2の電子式のブレーキ制御装置(FBM-ECU)を介して要求された制動時に走行ダイナミックコントロール(ESC)が実施されるように生ぜしめる、請求項1または2記載の電気式の設備。
【請求項4】
前記第2の電子式のブレーキ制御装置(FBM-ECU)において実行される前記走行ダイナミックコントロールルーティンは、前記車両の駆動機械の駆動出力の調整または制御のためのルーティンをも含む、請求項3記載の電気式の設備。
【請求項5】
前記センサ装置(164)は、前記センサ信号を直接、前記第2の電子式のブレーキ制御装置(FBM-ECU)に入力する、請求項1から4までのいずれか1項記載の電気式の設備。
【請求項6】
前記センサ装置(164)の少なくとも1つのセンサが、二重に設けられており、二重に設けられた前記センサの第1のセンサが、前記センサ信号を前記第1の電子式のブレーキ制御装置(EBS-ECU)に入力し、かつ二重に設けられた前記センサの第2のセンサが、前記センサ信号を前記第2の電子式のブレーキ制御装置(FBM-ECU)に入力する、請求項1から5までのいずれか1項記載の電気式の設備。
【請求項7】
当該電気式の設備は、オートパイロット装置(70)またはドライバアシストシステムを含んでおり、該オートパイロット装置(70)または該ドライバアシストシステムは、ドライバ制動要求とは無関係に要求された制動を発生させる制動要求信号および/またはドライバ操舵要求とは無関係に要求された操舵を発生させる操舵要求信号を、直接または間接的に前記第2の電子式のブレーキ制御装置(FBM-ECU)に入力し、前記制動要求信号および/または前記操舵要求信号は、走行動作条件に関連して生ぜしめられる、請求項1から6までのいずれか1項記載の電気式の設備。
【請求項8】
当該電気式の設備は、ステアリングホイール(28)と操舵伝動装置(30)との間における連続する機械的な結合部を備えたまたは該結合部なしの、かつ電子式の操舵制御装置(162)および電気式の操舵アクチュエータ(72)を備えた電気機械式の操舵装置(26)を含んでおり、前記電子式の操舵制御装置(162)は、操舵要求信号を受信し、かつ前記操舵要求信号に関連して前記電気式の操舵アクチュエータ(72)を前記車両の操舵のために操作する、請求項1から7までのいずれか1項記載の電気式の設備。
【請求項9】
前記第2の電子式のブレーキ制御装置(FBM-ECU)において操舵制御ルーティンが実行されており、該操舵制御ルーティンは、前記オートパイロット装置(70)、前記ドライバアシストシステム、またはドライバによるステアリングホイールの操作による操舵要求に関連して、操舵要求信号を生ぜしめ、かつ前記電気式の操舵アクチュエータ(72)に入力する、請求項7記載の電気式の設備。
【請求項10】
前記センサ装置(164)と協働する評価電子装置(168)が設けられており、該評価電子装置(168)は、前記センサ装置(164)から供給された前記センサ信号から、データバスに適したセンサ信号を形成し、かつ接続されたデータバス(122)に入力し、該データバス(122)に、少なくとも前記第2の電子式のブレーキ制御装置(FBM-ECU)も接続されている、請求項1から9までのいずれか1項記載の電気式の設備。
【請求項11】
前記データバス(122)に少なくとも下記の装置、すなわち、前記オートパイロット装置(70)の電子式の制御装置(160)、および/または前記ドライバアシストシステムの電子式の制御装置、前記第1の電子式のブレーキ制御装置(EBS-ECU)、前記第2の電子式のブレーキ制御装置(FBM-ECU)、前記電子式の操舵制御装置(162)、前記センサ装置(164)と協働する前記評価電子装置(168)、および前記車両の駆動機械の原動機制御装置(170)が、接続されている、請求項7を引用する請求項10記載の電気式の設備。
【請求項12】
前記電空式の常用ブレーキ装置(124)に、第1の電気式のエネルギ源(126)または第1のエネルギ供給回路から電気エネルギが供給されており、前記第1の電気式のエネルギ源(126)または前記第1のエネルギ供給回路は、前記電空式の常用ブレーキ弁装置(1)および前記センサ装置に電気エネルギを供給する第2の電気式のエネルギ源(128)または第2のエネルギ供給回路とは無関係である、請求項1から11までのいずれか1項記載の電気式の設備。
【請求項13】
前記電気機械式の操舵装置(26)に、前記第2の電気式のエネルギ源(128)または前記第2のエネルギ供給回路から電気エネルギが供給されている、請求項8を引用する請求項12記載の電気式の設備。
【請求項14】
前記第2の操作力を生ぜしめる前記手段(ECU,52)は、少なくとも1つの電気式、電気液圧式、または電空式のアクチュエータ(52)を含んでいて、該アクチュエータ(52)は、前記第2の電子式のブレーキ制御装置(FBM-ECU)の電気信号によって制御される、請求項1から13までのいずれか1項記載の電気式の設備。
【請求項15】
前記第2の操作力を生ぜしめる前記手段(ECU,52)は、少なくとも1つの電空式の電磁弁装置(52)を含んでいて、該電磁弁装置(52)は、前記第2の電子式のブレーキ制御装置(FBM-ECU)から出力された電気信号に関連して、前記第2の操作力が関連している少なくとも1つの空気圧的な制御圧を出力する、請求項14記載の電気式の設備。
【請求項16】
前記少なくとも1つの電磁弁装置(52)から出力された前記少なくとも1つの制御圧は、センサ装置を用いて測定され、かつ前記第2の電子式のブレーキ制御装置(FBM-ECU)において目標値との補償調整によって調整され、前記センサ装置、前記電磁弁装置(52)は、前記第2の電子式のブレーキ制御装置(FBM-ECU)と一緒に、前記空気圧的な制御圧を調整するための制御圧調整器を形成している、請求項15記載の電気式の設備。
【請求項17】
前記空気圧的な制御圧は、前記電空式の常用ブレーキ弁装置(1)の少なくとも1つの制御室(22)に入力可能であり、該制御室(22)は、前記少なくとも1つの制御ピストン(12)によって画定されており、前記制御室(22)は、該制御室(22)が、給気時に前記第1の操作力に関して同方向または逆方向の第2の操作力を前記少なくとも1つの制御ピストン(12)において生ぜしめるように配置されている、請求項16記載の電気式の設備。
【請求項18】
請求項1から17までのいずれか1項記載の電気式の設備を備えた車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の上位概念部に記載された、車両の電気式の設備、および請求項18に記載された、このような電気式の設備を備えた車両に関する。
【0002】
このような電気式の設備は、独国特許出願公開第102014112014号明細書に開示されている。この明細書では、空気圧式または電空式の常用ブレーキ装置が、ドライバ制動要求のみならず、自動的に、例えば緊急ブレーキアシストまたは間隔追従コントロール(ACC)のようなドライバアシストシステムによっても操作可能である事例が扱われている。このとき少なくとも1つの空気圧的な通路を備えた拡張された常用ブレーキ弁装置または拡張されたフットブレーキモジュールが使用され、このような常用ブレーキ弁装置または拡張されたフットブレーキモジュールでは、制御ピストンに、フットブレーキペダルの操作によって生ぜしめられた第1の操作力によって負荷を加えることができるのみならず、追加的に、走行動作条件に関連して電子的な方法で生ぜしめられる第2の操作力によっても、負荷を加えることができる。特に、拡張された常用ブレーキ弁装置には、電子式の圧力制御装置または圧力調整装置が設けられており、この圧力制御装置または圧力調整装置によって、ドライバとは無関係に、少なくとも1つの空気圧的な通路において生ぜしめられたブレーキ圧またはブレーキ制御圧を、制御ピストンにおいて作用する第2の操作力を用いて増減させることができる。
【0003】
このとき部分的にはしばらく前から、駆動スリップコントロール(ASR)、緊急ブレーキアシスト(AEBS)、間隔追従コントロール(ACC)、または走行ダイナミックコントロール(ESC)のようなドライバアシストシステムが存在しており、このようなドライバアシストシステムを用いて、操舵動作および/または制動動作を自動的にかつドライバとは無関係に行うことができ、これによって例えば前を走行する車両に対する一定の最低間隔、一定の最小ブレーキ作用、および一定の最小走行安定性のような安全基準値を保証することができる。
【0004】
さらに、将来の車両交通のために、車両を公の道路交通においても「オートパイロット」の意味で完全にドライバ動作なしに移動させることができるコンセプトが計画されている。このとき、複数の車両が自動的に制御されて、本来法規されている安全間隔よりも僅かな間隔をおいて相前後して走行することが望まれている(隊列走行(Platooning))。このことは、車両間における適切な通信によって、すべての車両が同時にかつ等しい遅延をもって制動できる場合にしか可能とならない。
【0005】
ゆえに、このような(部分)自律式の車両コンセプトの枠内においては、車両の電気式の設備が制動要求および/または操舵要求を電子的に獲得しかつ実現できることが必要である。
【0006】
こういったことから出発して、本発明の課題は、冒頭に記載された電気式の設備を改良して、この電気式の設備が、可能な限り高い走行安定性を高い故障しにくさで保証するようにすることである。さらに、このような電気式の設備を備えた車両を提供することも望まれている。
【0007】
この課題は、本発明によれば、請求項1および請求項18に記載された特徴によって解決される。
【0008】
本発明の開示
本発明は、車両の電気式の設備であって、
a)電空式の常用ブレーキ装置として、特に電子的にブレーキ圧調整されるブレーキシステム(EBS)として形成された常用ブレーキ装置であって、電空式の常用ブレーキ弁装置、第1の電子式のブレーキ制御装置EBS-ECU、電空式のモジュレータ、および空気圧式のホイールブレーキアクチュエータを含んでいる常用ブレーキ装置と、
b)センサ信号を供給するセンサ装置とを備えており、該センサ装置は、下記のセンサ、すなわち、少なくとも1つのホイール回転数センサであって、該ホイール回転数センサに対応配置された少なくとも1つの車両ホイールのホイール回転数を検出するホイール回転数センサ、車両の前後方向加速度を検出する前後方向加速度センサ、車両の横方向加速度を検出する横方向加速度センサ、車両のヨーレートを検出するヨーレートセンサ、車両のステアリングホイールのステアリングホイール角を検出するステアリングホイール角センサのうちの少なくとも1つのセンサを含んでおり、このとき
c)第1の電子式のブレーキ制御装置EBS-ECUは、電空式のモジュレータを電気的に制御し、かつ電空式のモジュレータは、これにより空気圧的なブレーキ圧、または空気圧式のホイールブレーキアクチュエータのためのブレーキ制御圧を生ぜしめ、このとき
d)電空式の常用ブレーキ弁装置は、常用ブレーキ操作機構と、少なくとも1つの常用ブレーキ回路の内部に少なくとも1つの電気的な通路(130)とを有していて、該電気的な通路は、常用ブレーキ操作機構によって操作可能な少なくとも1つの電気式のブレーキ値発生器であって、常用ブレーキ操作機構の操作に関連して操作信号を出力するためのブレーキ値発生器を備えており、電空式の常用ブレーキ弁装置はさらに、操作信号を受信する、第1の電子式のブレーキ制御装置とは無関係な少なくとも1つの第2の電子式のブレーキ制御装置FBM-ECUであって、操作信号に関連して制動要求信号を第1の電子式のブレーキ制御装置EBS-ECUに入力する第2の電子式のブレーキ制御装置FBM-ECUと、少なくとも1つの空気圧的な常用ブレーキ回路の内部に少なくとも1つの空気圧的な通路とを有していて、該空気圧的な通路では、ドライバ制動要求に基づく常用ブレーキ操作機構の操作によって、常用ブレーキ弁装置の少なくとも1つの制御ピストンに第1の操作力が加えられ、かつ制御ピストンは、常用ブレーキ弁装置の、流入座および流出座を含む少なくとも1つの複座弁を、直接または間接的に制御し、これによって空気圧的なブレーキ圧または空気圧式のホイールブレーキアクチュエータのためのブレーキ制御圧を生ぜしめることができるようになっており、かつこのとき
e)電空式の常用ブレーキ弁装置の第2の電子式のブレーキ制御装置FBM-ECUを含む手段が設けられており、該手段は、少なくとも、ドライバ制動要求とは無関係に要求された制動の存在時に、第1の操作力に関して同方向または逆方向に少なくとも1つの制御ピストン(12)に作用する第2の操作力を生ぜしめる、
電気式の設備から出発している。
【0009】
したがって常用ブレーキ弁装置の少なくとも1つの制御ピストンには、第1の操作力による以外に、かつ少なくとも、ドライバ制動要求とは無関係に要求された制動の存在時に、追加的に第2の操作力によって、または第1の操作力の代わりに第2の操作力によって、負荷が加えられ、この第2の操作力は、第1の操作力に関して並行にかつ同方向または逆方向に、少なくとも1つの制御ピストンに作用する。
【0010】
言い換えれば、常用ブレーキ弁装置の制御ピストンには、ドライバ制動要求に関連した第1の操作力、および/またはドライバの意思とは無関係な制動要求の存在時に第2の操作力が、並行に作用し、このとき第2の操作力は、常用ブレーキ弁装置の電子式の制御装置によって出力された電気信号に基づいて生ぜしめられる。結果的に両操作力(第1の操作力および第2の操作力)は一緒に、またはそれぞれの操作力はそれ自体個々に、それぞれ他方の操作力の存在なしに、制御ピストンを、ひいては常用ブレーキ弁の複座弁をも操作することができる。このとき両操作力は、同方向に、つまり同じ方向で制御ピストンに作用することができ、かつまた逆方向に、つまり逆向きの方向で制御ピストンに作用することができる。
【0011】
ドライバ制動要求に関連して生ぜしめられる第1の操作力は、少なくとも1つの制御ピストンに常に同じ方向において作用し、つまりこの作用は、少なくとも1つの常用ブレーキ回路に給気するための、複座弁の流出座の開放の方向におけるブレーキ操作機構の操作方向によって引き起こされ、これによって概念「同方向」もしくは「逆方向」は、第1の操作力の作用方向に関して明瞭に定義されている。このとき、ドライバ制動要求が欠如していて第1の操作力が存在していない場合に、第1の操作力の、少なくとも1つの制御ピストンへの作用方向は、単に、第2の操作力の、第1の操作力に並行な操作方向のための基準を与えることができるためだけに考慮されていることは明らかである。
【0012】
これによって、少なくとも1つの空気圧的な常用ブレーキ回路を、ドライバによる操作のほかに、制動要求の存在時に電気的または電子的にひいてはドライバの行動なしに自動化して操作することができることにより、電空式の常用ブレーキ装置の別の制御可能性が得られる。この場合、常用ブレーキ弁装置の電子式の制御装置による、電空式の常用ブレーキの少なくとも1つの空気圧的な常用ブレーキ回路の制御または調整は、任意の車両システム、もしくは制動要求を生ぜしめることができる任意の「権限装置(Autoritaet)」の任意の電気的な制御信号によって行うことができる。
【0013】
第1の電子式のブレーキ制御装置EBS-ECUは、好ましくは中央の制御電子装置であり、この制御電子装置において、例えば車軸負荷に関連したブレーキ力分配(ALB)、またはディファレンシャルスリップコントロール、およびブレーキスリップコントロールルーティン(ABSルーティン)および/または走行ダイナミックコントロールルーティンのようなすべての比較的高い機能が実行されている。そのために第1の電子式のブレーキ制御装置EBS-ECUは、センサ装置のセンサ信号を受信し、かつ次いでこれらのセンサ信号に関連して電空式のモジュレータを駆動制御し、これらのモジュレータは、これにより空気圧的なブレーキ圧、または空気圧式のホイールブレーキアクチュエータのためのブレーキ制御圧を生ぜしめる。このときブレーキスリップコントロールルーティン(ABSルーティン)の一部が、電空式のモジュレータの電子式の制御装置において実行されていてよく、これに対して例えばブレーキスリップコントロール(ABS)のために必要な、車両基準速度の確定は、第1の電子式のブレーキ制御装置EBS-ECUによって行われ、この第1の電子式のブレーキ制御装置EBS-ECUには、すべてのホイールのホイール速度がセンサ装置によって供給される。
【0014】
したがって第1の電子式のブレーキ制御装置EBS-ECUもしくは該第1の電子式のブレーキ制御装置EBS-ECUの電気式のエネルギ供給装置のエラーまたは故障は、電空式の常用ブレーキ装置における空気圧的なフォールバックレベルのため、確かに常用ブレーキ装置の故障を引き起こすことはない。ドライバによって制動が要求された場合には、このようなこのとき純粋に空気圧的に制御される緊急制動は、ブレーキスリップコントロールなしの場合および走行ダイナミックコントロールなしの場合には、予定通り行われる。例えばオートパイロットのようなドライバアシストシステムによって制動が自動的に要求された場合には、このとき確かに同様に制御ピストンに作用する第2の操作力によって、例えば空気圧的に制御された緊急制動が保証されているが、しかしながらこのような緊急制動が保証されるのは、同様にブレーキスリップコントロールなしの場合および走行ダイナミックコントロールなしの場合である。
【0015】
ゆえに本発明によれば、
f)第2の電子式のブレーキ制御装置FBM-ECUにおいて、ブレーキスリップコントロールルーティンおよび/または走行ダイナミックコントロールルーティンが実行されており、かつ
g)第2の電子式のブレーキ制御装置FBM-ECUは、センサ装置のセンサ信号を受信し、かつ
h)ドライバ制動に関連してまたはドライバ制動要求とは無関係に要求された制動の存在時に、電空式の常用ブレーキ弁装置の第2の電子式のブレーキ制御装置FBM-ECUを含む手段は、第2の操作力をまた、第2の電子式のブレーキ制御装置FBM-ECUによって受信されたセンサ信号に関連して、要求された制動時に少なくともブレーキスリップコントロールABSおよび/または走行ダイナミックコントロールESCが実施されるように生ぜしめる
ことが提案されている。
【0016】
したがって、当初電気式のブレーキ値発生器の信号のために純粋な信号評価装置として設けられたかまたは、独国特許出願公開第102014112014号明細書によれば、オートパイロット装置またはドライバアシストシステムによって自動的に生ぜしめられた制動要求信号のための冗長的な実現ユニットとして設けられた第2の電子式のブレーキ制御装置FBM-ECUは、ABS機能および/またはESC機能に関して第1の電子式のブレーキ制御装置EBS-ECUに対する完全な冗長機構を成している。この冗長機構は、ブレーキペダルの操作によるドライバ制動に関連して要求された制動、またはドライバ制動要求とは無関係に、例えばオートパイロット装置またはドライバアシストシステムによって要求された制動のために設けられている。
【0017】
第1の電子式のブレーキ制御装置EBS-ECUもしくは該第1の電子式のブレーキ制御装置EBS-ECUの電気式のエネルギ供給装置のエラーまたは故障の発生時に、このとき自律的にまたはドライバの行動なしに要求された制動は、ブレーキスリップコントロールされて、もしくは走行動力学的に調整されている。ドライバによって要求された制動の場合には、第2の電子式のブレーキ制御装置FBM-ECUが好ましくは独立した電気式のエネルギ供給源から電力供給される限り、この制動はこのとき同様にブレーキスリップコントロールされて、もしくは走行動力学的に調整されている。
【0018】
ブレーキペダルの操作によって要求された制動時には、第2の電子式のブレーキ制御装置FBM-ECUに、いずれにせよ既に、常用ブレーキ弁装置の電気式のブレーキ値発生器から常用ブレーキ操作機構の操作に関連して生ぜしめられた操作信号が供給されており、その後、これらの操作信号から第2の電子式のブレーキ制御装置FBM-ECUは、相応の制動要求信号を形成し、かつこれらの制動要求信号を次いで、第2の操作力を介して、電空式の常用ブレーキ装置の少なくとも1つの空気圧的な通路において実現するか、または電空式の常用ブレーキ装置の、完全に電力供給される電空式のモジュレータでは、電気的な制御を介して実現する。後者の場合には、第2の電子式のブレーキ制御装置FBM-ECUの制動要求信号は、次いで例えば第1の電子式のブレーキ制御装置EBS-ECUを介して電空式のモジュレータに入力され、このとき第1の電子式のブレーキ制御装置EBS-ECUは、制動要求信号を圧力調整モジュールに信号線路を介して接続する。そのためにはしかしながら、第1の電子式のブレーキ制御装置EBS-ECUの動作可能性(Funktionstuechtigkeit)または電力供給は、不可欠な前提条件ではない。
【0019】
両方の場合において、ABS機能もしくは走行ダイナミックコントロール機能の実現のために、第2の電子式のブレーキ制御装置は公知の形式で、第2の電子式のブレーキ制御装置に供給される、センサ装置のセンサ信号を評価する。ABSブレーキスリップコントロールルーティンは、例えば、ブレーキスリップをホイール毎にまたは車軸毎に、設定された目標ブレーキスリップに入力調整するために、車両のホイールのホイール回転数信号を必要とし、かつこれらのホイール回転数信号をセンサ装置から得る。
【0020】
したがってブレーキスリップコントロールABSのブレーキスリップコントロールルーティンというのは、目標ブレーキスリップからの実際ブレーキスリップの許容不能な偏差を許容可能な偏差に入力調整するコントロールルーティンであると理解することができる。
【0021】
同様に走行ダイナミックコントロールシステムESCの走行ダイナミックコントロールルーティンのためには、ステアリングホイール角センサは、走行方向に関するドライバの意思を供給し、ホイール回転数センサ、横方向加速度センサ、およびヨーレートセンサは、車両特性を表すデータを供給する。ドライバの意思による目標走行特性からの実際走行特性の許容不能な偏差が確認されると、走行ダイナミックコントロールシステムESCの走行ダイナミックコントロールルーティンが動作する。
【0022】
したがって走行ダイナミックコントロールシステムESCの走行ダイナミックコントロールルーティンというのは、ドライバの意思による目標走行特性からの実際走行特性の許容不能な偏差を許容可能な偏差に入力調整するコントロールルーティンであると理解することができる。
【0023】
オーバステアリングは、例えばカーブ外側の前輪の制動によって、アンダステアリングは、カーブ内側の後輪の制動によって修正される。このときホイール位置には二重の役目がある。すなわち一方では、カーブ内側におけるブレーキ力は、内旋(Eindrehen)を促進するヨーモーメントを生ぜしめ、かつカーブ外側におけるブレーキ力は、外旋を促進するヨーモーメントを生ぜしめる。他方では、制動されたホイールは、サイドガイド能力を失い、すなわち後車軸におけるブレーキ力は、内旋を促進し、かつ前車軸におけるブレーキ力は、外旋を促進する。追加的に走行ダイナミックコントロールESCの走行ダイナミックコントロールルーティンは、駆動機械の駆動出力をも絞ることができ、これによって車両速度を低減すること、および駆動輪の空転を阻止することができる。
【0024】
好ましくは、走行ダイナミックコントロールESCの、第2の電子式のブレーキ制御装置FBM-ECUにおいて実行される走行ダイナミックコントロールルーティンは、車両の駆動機械の駆動出力の調整または制御のためのルーティンをも含んでいる。
【0025】
さらに、いずれにせよ存在する、電気式のブレーキ値発生器の操作信号用の電子式の評価装置が、記載された制御/調整のルーティンによって拡張されることにより、本発明を車両の既存の電気式の設備のための後装備解決策としても使用することが可能である。このとき既存の常用ブレーキ弁装置における変更は、実質的に、空気圧式の制御ピストンの上側の領域における追加的な圧力接続部に制限されている。したがってこれらの変更は、車両の既存の電気式の設備もしくは電空式の常用ブレーキ装置のための僅かな工具投資および取付け投資によって、常用ブレーキ弁装置のハウジングのための比較的高価なダイカスト工具を変更する必要なしに、実現することができる。このとき第2の電子式のブレーキ制御装置FBM-ECUのため、および例えば第2の操作力を生ぜしめるための電磁弁装置のための追加的なハウジングは、特に既存の常用ブレーキ弁装置のハウジングにフランジ結合することができる。
【0026】
択一的に、もちろん第2の電子式のブレーキ制御装置FBM-ECUおよび例えば第2の操作力を生ぜしめるための電磁弁装置を、既存の常用ブレーキ弁装置のハウジング内に収容することも可能であり、これによって1つの構造ユニットを生ぜしめることができる。
【0027】
全体としてこれによって、ブレーキスリップコントロール(ABSコントロール)もしくは電空式の常用ブレーキ装置の走行ダイナミックコントロールESCの高い故障しにくさが保証され、このときそのために何か追加的な電子式の制御装置を設ける必要がない。なぜならば、第2の電子式のブレーキ制御装置FBM-ECUは、電気式のブレーキ値発生器の信号のための信号評価装置として、いずれにせよ既に設けられており、かつ第2の電子式のブレーキ制御装置FBM-ECUの機能が、本発明によれば完璧なブレーキ制御装置の意味において、組み込まれたABS機能および/または組み込まれたESC機能によって単に拡張されるだけだからである。
【0028】
ゆえに特に好ましくは、第2の電子式のブレーキ制御装置FBM-ECUにおいて実行されるブレーキスリップコントロールルーティンは、第2の操作力を少なくとも1つのホイール回転数センサのセンサ信号に関連しても、要求された制動時にブレーキスリップコントロール(ABS)が実施されるように生ぜしめる。
【0029】
ゆえにさらに好ましくは、第2の電子式のブレーキ制御装置FBM-ECUにおいて実行される走行ダイナミックコントロールルーティンは、第2の操作力を、少なくとも1つのホイール回転数センサのセンサ信号、少なくとも1つのヨーレートセンサのセンサ信号、少なくとも1つの横方向加速度センサのセンサ信号、および少なくとも1つのステアリングホイール角センサのセンサ信号に関連しても、要求された制動時に走行ダイナミックコントロールESCが実施されるように生ぜしめる。
【0030】
別の従属請求項に記載された特徴によって、請求項1に記載された発明の好適な形態および構成が記載されている。
【0031】
センサ信号は、種々様々な変化形態によって第2の電子式のブレーキ制御装置FBM-ECUに供給することができる。
【0032】
一方では、センサ装置はセンサ信号を直接、例えばセンサ装置と第2の電子式のブレーキ制御装置(FBM-ECU)との間に信号線路および必要な場合にはまた電力供給線路が配線されていることによって、第2の電子式のブレーキ制御装置(FBM-ECU)に入力することができる。
【0033】
別の変化形態によれば、センサ装置の少なくとも1つのセンサも、二重に設けられており、このとき二重に設けられたセンサの第1のセンサが、センサ信号を第1の電子式のブレーキ制御装置EBS-ECUに、かつ二重に設けられたセンサの第2のセンサが、センサ信号を第2の電子式のブレーキ制御装置FBM-ECUに入力することも可能である。この場合には第1の電子式のブレーキ制御装置EBS-ECUのセンサ信号と第2の電子式のブレーキ制御装置FBM-ECUのセンサ信号とは、互いに並行に、しかしながら冗長的でかつ同一のセンサによって供給されている。このとき両電子式のブレーキ制御装置は、センサ装置のセンサ信号を互いに無関係に処理することができる。
【0034】
別の手段によれば、電気式の設備は、オートパイロット装置またはドライバアシストシステムを含んでいてよく、該オートパイロット装置または該ドライバアシストシステムは、ドライバ制動要求とは無関係に要求された制動を発生させる制動要求信号および/またはドライバ操舵要求とは無関係に要求された操舵を発生させる操舵要求信号を、直接または間接的に第2の電子式のブレーキ制御装置FBM-ECUに入力し、このとき制動要求信号および/または操舵要求信号は、走行動作条件に関連して生ぜしめられる。
【0035】
オートパイロット装置というのは、少なくとも車両の常用ブレーキ装置および操舵装置をドライバの行動なしに、特に走行動作条件に関連して、制御または調整する装置であると理解すべきである。ドライバアシストシステムは、通常、ヨーイング特性、ローリング特性、および/またはピッチング特性、ブレーキ特性、または加速特性、ならびに前を走行する車両に対する間隔および/または相対速度に影響を及ぼし、かつ例えば、前を走行する車両に対する間隔もしくは相対速度を一定に保つ、間隔追従コントロール(ACC、アダプティブクルーズコントロール)によって、または緊急ブレーキアシスト(AEBS)によっても形成することができ、このときかつ/または制動動作を自動的にかつドライバとは無関係に行うことができ、これによって、例えば、前を走行する車両に対する一定の最小間隔、一定の最低ブレーキ作用、および一定の最低走行安定性のような安全基準値を保証することができる。
【0036】
「走行動作条件」というのは、例えばヨーイング特性、ローリング特性、および/またはピッチング特性、ブレーキ特性、または加速特性、ならびに前を走行する車両に対する間隔および/または相対速度、しかしながらまた停止時または駐車状態における特性のような、車両の走行動作時に発生する、考えられるすべての条件および状態であると理解することができる。
【0037】
結果として、このとき一方では、第2の電子式のブレーキ制御装置FBM-ECUは、ドライバ制動要求とは無関係に要求された制動を、常用ブレーキ弁装置の少なくとも1つの制御ピストンに作用する第2のブレーキ力を生ぜしめる手段によって実現する。
【0038】
他方では、このとき、第2の電子式のブレーキ制御装置FBM-ECUが、オートパイロット装置またはドライバアシストシステムから相応の操舵要求信号を受信し、次いで、これらの操舵要求信号に関連して電気式の操舵アクチュエータを車両の操舵のために操作することによって、第2の電子式のブレーキ制御装置FBM-ECUは、電気機械式の操舵装置の電子式の操舵制御装置として、ドライバ操舵要求とは無関係に要求された操舵を実現する。
【0039】
ゆえに好ましくは、電気式の設備は、ステアリングホイールと操舵伝動装置との間における連続する機械的な結合部を備えたまたは該結合部なしの、かつ電子式の操舵制御装置および電気式の操舵アクチュエータを備えた電気機械式の操舵装置を有しており、このとき電子式の操舵制御装置は、操舵要求信号を受信し、かつ操舵要求信号に関連して、電気式の操舵アクチュエータを車両の操舵のために操作する。このとき操舵要求信号は、上において記載されたように、ドライバ操舵要求に関連していても、またはドライバ操舵要求とは無関係であってもよい。
【0040】
1つの改良形態によれば、第2の電子式のブレーキ制御装置FBM-ECUにおいて操舵制御ルーティンが実行されており、該操舵制御ルーティンは、オートパイロット装置、ドライバアシストシステム、またはドライバによるステアリングホイールの操作による操舵要求に関連して、操舵要求信号を生ぜしめ、かつ次いで電気式の操舵アクチュエータに入力する。
【0041】
ゆえに好ましくは、ドライバの行動によってかつドライバの行動なしに生ぜしめられた操舵要求信号は、操舵装置の電子式の操舵制御装置のみならず、第2の電子式のブレーキ制御装置FBM-ECUにも入力され、もしくは第2の電子式のブレーキ制御装置FBM-ECUから例えば接続されたデータバスにおいて「読み取られる」。
【0042】
これによって第2の電子式のブレーキ制御装置FBM-ECUは、電子式の操舵制御装置が、ドライバ操舵要求に関連してまたはドライバ操舵要求とは無関係に要求された、車両の操舵を(例えばオートパイロット装置またはドライバアシストシステムによって要求されて)実現したい場合には、好ましくは操舵装置の電子式の操舵制御装置に対する冗長機構を成しているものの、動作可能でないかまたは電力供給されていない。
【0043】
第2の電子式のブレーキ制御装置FBM-ECUにセンサ装置のセンサ信号を供給するための別の変化形態によれば、センサ装置と協働する評価電子装置が設けられており、該評価電子装置は、センサ装置から供給されたセンサ信号から、データバスに適したセンサ信号を形成し、かつ接続されたデータバスに入力し、該データバスに、少なくとも第2の電子式のブレーキ制御装置FBM-ECUも接続されている。
【0044】
このとき評価電子装置は、任意の電子式の制御装置によって形成することができ、特にオートパイロット装置の電子式の制御装置によって、またはドライバアシストシステムの電子式の制御装置によって、第1の電子式のブレーキ制御装置EBS-ECUによって、第2の電子式のブレーキ制御装置FBM-ECUによって、または電子式の操舵制御装置によっても形成することができる。
【0045】
この処置のさらなる発展形態によれば、データバスに少なくとも下記の装置、すなわち、オートパイロット装置の電子式の制御装置、および/またはドライバアシストシステムの電子式の制御装置、第1の電子式のブレーキ制御装置EBS-ECU、第2の電子式のブレーキ制御装置FBM-ECU、電子式の操舵制御装置、センサ装置と協働する電子装置、および車両の駆動機械の原動機制御装置が、接続されていてよい。
【0046】
第2の電子式のブレーキ制御装置FBM-ECUも接続されているデータバスにおいては、一方では、センサ装置のセンサ信号も利用可能であり、これらのセンサ信号はこのとき第2の電子式のブレーキ制御装置FBM-ECUによって、ABS機能および/または走行ダイナミックコントロール機能を実現するために使用される。他方では、データバスにおいて操舵要求信号も利用可能であり、これらの操舵要求信号は、オートパイロット装置またはドライバアシストシステムによって、走行動作条件に関連して自動的に、またはドライバの操舵の意思に関連して生ぜしめられる。このとき、これらの操舵要求信号に関連して第2の電子式のブレーキ制御装置FBM-ECUが電気式の操舵アクチュエータを車両の操舵のために操作することにより、操舵要求信号が、第2の電子式のブレーキ制御装置FBM-ECUを上述した形式で電子式の操舵制御装置に対する冗長機構として実現する。
【0047】
「操舵」および「制動」を、電気式のエネルギ供給装置のエラー時にも保証するために、本発明に係る設備を備えた車両では、少なくとも2つのエネルギ供給回路が必要であり、これらのエネルギ供給回路は、エラー時に、回路のうちの1つの回路においてなお十分な電気エネルギが存在しているように形成されており、これによって車両の「制動」および必要な場合には「操舵」をも、引き続き作動させることができる。
【0048】
ゆえに特に好ましくは、電空式の常用ブレーキ弁装置に、第1の電気式のエネルギ源または第1のエネルギ供給回路から電気エネルギが供給されており、第1の電気式のエネルギ源または第1のエネルギ供給回路は、電空式の常用ブレーキ弁装置に電気エネルギを供給する第2の電気式のエネルギ源または第2のエネルギ供給回路とは無関係である。
【0049】
このとき好ましくは、センサ装置にも同様に、第2の電気式のエネルギ源または第2のエネルギ供給回路から電気エネルギが供給される。
【0050】
このとき第1の電気式のエネルギ源または第1のエネルギ供給回路が故障し、かつこれによって第1の電子式のブレーキ制御装置EBS-ECUおよび電空式のモジュレータが無電流であると、第2の電気式のエネルギ源によって、少なくとも1つの電気式のブレーキ値発生器および第2の電子式のブレーキ制御装置EBS-ECUを備えた電空式の常用ブレーキ弁装置に、電気エネルギが供給される。このときドライバのブレーキの意思に関連した電気的な制動要求信号およびドライバのブレーキの意思とは無関係な電気的な制動要求信号を、第2の電子式のブレーキ制御装置EBS-ECUを含む手段によって、第2の操作力を介して少なくとも1つの空気圧的なブレーキ回路において空気圧的に、つまり完全なABSコントロールおよび/または走行ダイナミックコントロールによって実現することができる。
【0051】
このときさらに好ましくは、電気機械式の操舵装置に、同様に第2の電気式のエネルギ源または第2のエネルギ供給回路から電気エネルギが供給されると、第1の電気式のエネルギ源または第1のエネルギ供給回路の故障時にも、ドライバの操舵の意思に関連した電気的な操舵要求信号およびドライバの操舵の意思に無関係な電気的な操舵要求信号を、引き続き操舵装置によって実現することができる。
【0052】
重要なことはまた、ドライバが、第2の操作力によって生ぜしめられた制動要求をいつでも、常用ブレーキ弁装置のブレーキ操作機構の操作によってオーバステア(uebersteuern)できることである。なぜならばこのとき、第2の操作力に並行に、ドライバ制動要求に基づく第1の操作力が、少なくとも1つの制御ピストンにもたらされ、この第1の操作力は、場合によっては第2の操作力よりも大きく、かつまた第2の操作力とは逆に向けられているからである。
【0053】
それというのは多くの場合において、例えばドライバが、前を走行する車両および後続の車両に対してそれぞれ僅かな間隔を有する縦列走行(Kolonnenfahrt)時に、急にフル制動の導入を望み、これによって衝突のおそれが発生するような場合には、制御ピストンに作用する第1の操作力によって再現されるドライバのブレーキの意思は、相応に大きくかつ逆向きに作用する操作力の発生によってオーバステアされることが、望ましいまたは必要であると言えるからである。
【0054】
特に好ましくは、このような第2の操作力は、電空式の常用ブレーキ装置の電子的な常用ブレーキ回路のエラーまたは故障が確認された場合、および制動要求が存在している場合にも生ぜしめられる。このようなエラーまたは故障には、特に第1の電子式のブレーキ制御装置EBS-ECU、少なくとも1つの電空式の車軸モジュレータ、または電空式の常用ブレーキ弁装置の電気的な通路も該当することがある。しかしながらまた、電気的な常用ブレーキ回路の電気式のエネルギ供給装置の故障も考えられる。
【0055】
もちろん、常用ブレーキ弁装置の空気圧的な通路が複数ある場合には、ただ1つの制御ピストンよりも多くの制御ピストンに第2の操作力を加えることができ、もしくは第2の操作力を1つの別の操作ピストンに伝達するただ1つの制御ピストンだけに、第2の操作力を加えることもできる。
【0056】
好ましくは、第2の操作力を生ぜしめるための手段は、少なくとも1つの電気式、電気液圧式、または電空式のアクチュエータを含んでいる。このとき考えられる実施形態では、第2の操作力は、電空式、電気液圧式、または電気機械式のアクチュエータ、例えば電磁弁、電動機等によって生ぜしめられ、このアクチュエータは次いで、常用ブレーキ弁装置の少なくとも1つの制御ピストンに直接または間接的に作用する。
【0057】
1つの改良形態によれば、第2の操作力を生ぜしめるための手段は、少なくとも1つの電空式の電磁弁装置を含んでいて、この電磁弁装置は、第2の操作力を形成するための電気信号に関連して、第2の操作力が関連している少なくとも1つの空気圧的な制御圧を出力する。ゆえに常用ブレーキ弁装置の第2の電子式のブレーキ制御装置FBM-ECUの信号に、少なくとも1つの制御ピストンに直接または間接的に作用する制御圧が出力される。次いでこの制御圧は、少なくとも1つの制御ピストンにおいて第2の操作力を生ぜしめる。ゆえに特に好ましくは、第2の操作力は、常用ブレーキ弁装置における既存の状況を可能な限り良好に使用して、電空的に生ぜしめられる。
【0058】
このとき特に、少なくとも1つの電磁弁装置から出力された制御圧は、センサ装置を用いて測定され、第2の電子式のブレーキ制御装置FBM-ECUにおいて目標値との補償調整によって調整され、このときセンサ装置、電磁弁装置は、第2の電子式のブレーキ制御装置FBM-ECUと一緒に、空気圧的な制御圧を調整するための制御圧調整器を形成している。
【0059】
ゆえに極めて一般的に好ましくは、少なくとも1つの制御ピストンに作用する第2の操作力、常用ブレーキ弁装置の少なくとも1つの制御ピストンの、第2の操作力に由来する操作距離、および/または第2の操作力を生ぜしめる値、例えば上に述べられた空気圧的な制御圧は、実際値として測定され、かつ調整の意味において目標値と補償調整されることが提案されている。第2の操作力のここでは追加的な調整、または第2の操作力との関連している上に述べた値のうちの1つの値によって、ブレーキ圧調節の精度を、特に実行されるABSコントロールルーティンもしくは走行ダイナミックコントロールルーティンに関して高めることができる。
【0060】
このようなコントロール機能を実現するために、少なくとも1つの制御ピストンに作用する第2の操作力、少なくとも1つの制御ピストンの、第2の操作力に由来する操作距離、および/または第2の操作力を生ぜしめる値を、実際値として測定するセンサ手段、ならびに実際値を目標値と調整の意味において補償調整する調整手段および調節手段が設けられてよい。
【0061】
特に、空気圧的な制御圧は、電空式の常用ブレーキ弁装置の少なくとも1つの制御室に入力可能であり、該制御室は、少なくとも1つの制御ピストンによって画定されており、このとき制御室は、該制御室が、給気時に第1の操作力に関して同方向または逆方向の第2の操作力を少なくとも1つの制御ピストンにおいて生ぜしめるように配置されている。
【0062】
このような機能を可能な限り簡単に実現するために、さらに第1の制御室は、少なくとも1つの制御ピストンに関して、第1の制御室への給気によって、第1の操作力に関して同方向の第2の操作力が、少なくとも1つの制御ピストンに対して生ぜしめられるように配置されていてよい。しかしながら追加的に第2の制御室は、第2の制御室への給気によって、第1の操作力に関して逆方向の第2の操作力が、少なくとも1つのセンサピストンに対して生ぜしめられるように配置される。
【0063】
このとき好ましくは、第1の制御室が、第1の電磁弁装置を用いてまたは第1の制御圧調整器を用いて、かつ第2の制御室が、それとは無関係に、第2の電磁弁装置を用いてまたは第2の制御圧調整器を用いて、給気可能または排気可能であることを提案することができる。
【0064】
特に、少なくとも1つの制御ピストンは、ピストンロッドによって結合された2つのピストンを備えたダブルピストンであってよく、両ピストンのうちの第1のピストンは、第1の制御室を画定し、かつ両ピストンのうちの第2のピストンは、第2の制御室を画定しており、このとき第1の制御室および第2の制御室は、常用ブレーキ弁装置の内壁の、互いに反対側を向いている面に隣接していて、内壁はピストンロッドによってシール作用をもって貫通される。
【0065】
本発明は、このような電気式の設備を備えた車両にも関する。
【0066】
本発明の好適な発展形態は、請求項、明細書の記載、および図面から得ることができる。明細書の記載の導入部において挙げられた、特徴の利点および複数の特徴の組合せの利点は、単に例であり、かつ利点を本発明に係る実施形態から必ずしも得る必要なしに、択一的にまたは累積的に作用することができる。さらなる特徴は、図面、特に図示された幾何学形状および複数の部材相互の相対的な寸法、ならびにこれらの部材の相対的な配置形式および作用結合形式から看取することができる。本発明の種々様々な実施形態の特徴、または種々様々な請求項の特徴の組合せは、同様に請求項の選択された引用とは異なっていてもよく、かつこれによって想起される。このことはまた、別の図面において示された、または別の図面に対する記載において述べられる特徴に対しても該当する。これらの特徴は、種々様々な請求項の特徴とも組み合わせることができる。同様に、請求項において記載された特徴を、本発明の別の実施形態のために省くことも可能である。
【0067】
次に本発明の実施例を図面において示し、かつ以下の記載において詳説する。
【図面の簡単な説明】
【0068】
図1】本発明の好適な実施形態による、車両の電空式の常用ブレーキ装置の常用ブレーキ弁装置を、「ドライブ」の位置において概略的に示す横断面図である。
図2図1に示された常用ブレーキ弁装置を備えた電空式の常用ブレーキ装置およびオートパイロット装置ならびに操舵装置を含む、車両の電気式の設備の好適な実施形態を概略的に示す回路図である。
図3図2の電気式の設備を簡単化して概略的に示す図である。
図4】ドライバが操舵している状況における操舵装置を示す図である。
図5】ドライバが操舵している状況における操舵装置を示す図である。
図6】オートパイロット装置が操舵している状況における操舵装置を示す図である。
図7】ドライバとオートパイロット装置とが操舵している状況における操舵装置を示す図である。
図8図8a~図8cは、常用ブレーキ弁装置を制御するための電磁弁装置の実施形態を示す図である。
【0069】
実施例の説明
図1には、本発明の好適な実施形態による車両の電気式の設備の電空式の常用ブレーキの常用ブレーキ弁装置1が、「ドライブ」の位置において概略的に横断面図で示されている。このとき電気式の設備というのは、電気式の部分またはコンポーネントを有しているが、しかしながらその他にさらに機械式、空気圧式、および液圧式のコンポーネントを含んでいてよい車両設備であると理解すべきである。
【0070】
常用ブレーキ弁装置1は、図面を簡単にする理由から、単に1つの空気圧的な常用ブレーキ回路もしくは1つの空気圧的な通路132;134を有しているが、しかしながら実際には好ましくは2つの空気圧的な常用ブレーキ回路もしくは2つの空気圧的な通路132,134を有している(図2参照)。空気圧的な常用ブレーキ回路もしくは空気圧的な通路132,134に加えて、常用ブレーキ操作機構10の操作距離を測定するための、ここでは例えば非接触式のストローク検出器またはブレーキ値発生器67を備えた、電気的な常用ブレーキ回路もしくは電気的な通路130が設けられていてよい。このような電空式の常用ブレーキ弁装置1は、いわゆるフットブレーキモジュール(FBM)とも言われる。
【0071】
常用ブレーキ弁装置1は、好ましくは図2に示されている電空式の常用ブレーキ装置124において使用され、この常用ブレーキ装置124は、ブレーキ圧コントロールを伴う電子式のブレーキシステム(EBS)であり、これによって一方では2つの二次的な空気圧的な(バックアップ)常用ブレーキ回路内において、それぞれ1つの空気圧的なバックアップブレーキ制御圧を、かつ他方では優先的な電気的な常用ブレーキ回路内において、制動要求に関連した電気信号を、第1の電子式のブレーキ制御装置EBS-ECUに入力し、そこから、場合によっては適合させてまたは修正して、後置された電空式の圧力調整モジュール114,116に入力することができ、これらの圧力調整モジュール114,116は、これらの電気的な、目標ブレーキ圧を再現する信号に関連して、それぞれ対応配置された軸(前車軸、後車軸)のホイールブレーキシリンダ118,120における相応の実際ブレーキ圧を出力する。
【0072】
このような電空式の圧力調整モジュール114,116は、以前から公知であり、かつ電空的なブレーキ回路が完全な(intakt)場合に、割り当てられたバックアップブレーキ制御圧を差し控えるバックアップ電磁弁の他に、出口側においてリレー弁に接続されている流入・流出電磁弁組合せを含んでいる。追加的にこのような圧力調整モジュール114,116内には、局所的な電子式の制御装置と、リレー弁から出力された実際ブレーキ圧を測定するための圧力センサとが組み込まれている。圧力センサによって測定された実際ブレーキ圧は、次いで、常用ブレーキ弁装置の電気的な通路から圧力調整モジュール114,116に入力される信号によって再現された目標ブレーキ圧と、圧力調整の意味において補償調整(abgleichen)される。
【0073】
これによって常用ブレーキ弁装置1により、電気的な常用ブレーキ回路と、このような電子的に調整されるブレーキシステム(EBS)の少なくとも1つの空気圧的な常用ブレーキ回路(バックアップブレーキ回路)とを制御することができる。
【0074】
常用ブレーキ弁装置1はハウジング2を有しており、このハウジング2内には、ハウジングカバーのカバー開口を貫いて突出しているプランジャ収容部6を備えたプランジャピストン4が、軸方向可動に収容されている。プランジャ収容部6内には、プランジャ8が上から進入しており、このプランジャ8は、フットブレーキプレートの形態の常用ブレーキ操作機構10に結合されている。したがってドライバがフットブレーキプレート10を操作すると、プランジャ8はプランジャ収容部6内に押圧され、かつプランジャピストン4は、操作力によって図1において下方に向かって移動させられる。
【0075】
プランジャピストン4は、操作力を、ハウジング2内において同様に軸方向可動に支持された制御ピストン12に、好ましくはプランジャピストン・圧縮ばね14を介して伝達する。制御ピストン12は、内壁66に対して制御ピストン・圧縮ばね46を用いて支持されている。
【0076】
さらに制御ピストン12は、プランジャピストンロッド5を介してプランジャピストン4に機械的に作用結合されており、このときプランジャピストンロッド5は、プランジャピストン4に結合されており、かつプランジャピストンロッド5は、例えばプランジャピストン4が常用ブレーキ操作機構の操作に基づいて制御ピストン12に向かって接近移動させられて、プランジャピストンロッド5がスリーブ形状の上側の制御ピストンロッド7の底部に達した場合に、制御ピストン12の、コップ形状のスリーブとして形成された上側の制御ピストンロッド7内において、軸方向において当接することができる。他方においてプランジャピストンロッド5は、プランジャピストン4が制御ピストン12から離反移動させられると、上側の制御ピストンロッド7内において滑動することができる。
【0077】
制御ピストン12の他方の側において下側の制御ピストンロッド16には、複座弁34の流出座32が形成されており、この流出座32は、複座弁34の、ハウジング2内において軸方向可動に支持されたコップ形状で中空の弁体36に密着するか、または弁体36から持ち上げられて、作業室38と、弁体36における、排気接続部40に通じているヘッド側の貫通開口との間における流れ横断面を開放する。この状況は図1に示されている。
【0078】
作業室38は、空気圧的な常用ブレーキ回路のための接続部42に接続されており、この接続部42には、車軸(前車軸、後車軸)の電空式の圧力調整モジュール114,116に通じる圧力管路44または45が接続されている(図2)。このような圧力調整モジュール114,116内には、バックアップ電磁弁が組み込まれており、このバックアップ電磁弁は、電気的な常用ブレーキ回路が完全な場合に圧力管路44,45内において案内される圧力を、圧力調整モジュール114,116に接続されたホイールブレーキシリンダ118;120に対して遮断し、かつ電気的な常用ブレーキ回路が故障している場合に貫流させる。そのためにバックアップ電磁弁は、例えば、無電流時にばね荷重が加えられている開放位置と通電時の遮断位置とを備えた2/2方向電磁弁として形成されている。
【0079】
制御室22は、プランジャピストン4と、制御ピストン12の、プランジャピストン4に向いている面との間に形成されている。このときハウジング2における接続部48は、第1の制御室22に開口している。
【0080】
接続部48には、電磁弁装置52の出口接続部50が接続されており、電磁弁装置52はその入口接続部54において、圧縮空気リザーブに接続されているリザーブ圧管路56に接続されている。さらに常用ブレーキ弁装置1には、リザーブ接続部58が設けられており、このリザーブ接続部58には同様にリザーブ圧管路56が接続されていて、かつリザーブ圧管路56はリザーブ室60に接続されている。
【0081】
弁体36は、ハウジング2の底部と弁体36の内部とに支持された弁体・圧縮ばね62を用いて、複座弁34の流入座64に向かって押し退けられ、この流入座64は、ハウジング2の別の内壁66の中央の貫通孔の、半径方向内側の縁部に形成されている。弁体36の、弁体・圧縮ばね62の作用に抗して流入座64から持ち上げられた状態において、リザーブ接続部58もしくはリザーブ室60と作業室38との間における流れ横断面は開放され、この流れ横断面は、常用ブレーキ回路のための接続部42内への、つまりブレーキ圧管路内への、リザーブ圧下にある圧縮空気の流れを可能にし、これによって該当する車軸もしくは該当するブレーキ回路のホイールブレーキシリンダに、給気することができる。
【0082】
既に上において述べたように、図1には常用ブレーキ弁装置1の位置「ドライブ」が示されており、この位置において流出座32は、弁体36から持ち上げられていて、常用ブレーキ回路のための接続部42は、ひいては常用ブレーキ回路のホイールブレーキシリンダも、排気接続部40に接続されている。これによってこのブレーキ回路の、アクティブな空気圧式のホイールブレーキシリンダは、排気され、ひいては解除されている。
【0083】
幾つかの実施形態が図8a~図8cに示されている電磁弁装置52は、第1の制御室22の給気または排気を可能にし、かつ後でさらに詳しく記載される第2の電子式のブレーキ制御装置FBM-ECUによって制御される。
【0084】
ハウジング2内にはさらに、冗長的な、好ましくは軸方向において相前後して配置された、好ましくは非接触式に作用する2つのストロークセンサ67が、プランジャピストン4の軸線領域にブレーキ値発生器として配置されており、これによってプランジャピストン4の操作距離もしくは操作程度を測定することができ、この操作距離もしくは操作程度は、常用ブレーキ操作機構10の操作距離もしくは操作程度に比例している。これらのストロークセンサ67の信号は、例えば常用ブレーキ弁装置1の電気的な通路内において使用され、かつ第2の電子式のブレーキ制御装置FBM-ECUに入力され、このブレーキ制御装置FBM-ECUは、これらの信号を処理し、かつこれによって例えばデータバスを介して送信可能にし、かつインタフェース13を介してデータ通信線、例えばデータバス122に入力し、このデータバス122には、第1の電子式のブレーキ制御装置EBS-ECUが接続されている。その限りでは第2の電子式のブレーキ制御装置FBM-ECUは(もまた)、ストロークセンサ67の信号のための電子式の評価装置である。
【0085】
第2の電子式のブレーキ制御装置FBM-ECU、電磁弁装置52、および対応配置された配線もしくは空気圧的な配管、または空気圧的な管路は、常用ブレーキ弁装置1の、ハウジング2内に配置された部材と一緒に、好ましくは構造ユニットを形成しており、このとき第2の電子式のブレーキ制御装置FBM-ECU、電磁弁装置52、および対応配置された配線もしくは空気圧的な配管、または空気圧的な管路もまた、例えばハウジング2にフランジ結合されている固有のハウジング内に収容されていてよい。択一的にまた、常用ブレーキ弁装置1のハウジング2と、第2の電子式のブレーキ制御装置FBM-ECUおよび第1の電磁弁装置52との空間的に隔てられた配置形態を設けることも可能である。最後にまた、第2の電子式のブレーキ制御装置FBM-ECUおよび電磁弁装置52は、常用ブレーキ弁装置1のハウジング2内に組み込まれていてもよい。
【0086】
いまやドライバが常用ブレーキ弁装置1の常用ブレーキ操作機構10を操作すると(これはドライバ制動要求に相当する)、プランジャピストン4は下方に向かって移動させられ、このときプランジャピストンロッド5は、コップ形状のスリーブ7の底部に向かって押し退けられ、かつ制御ピストン12もまた同様に下方に向かって移動させられ、この移動は、流出座32が弁体36に密着し、ひいては常用ブレーキ回路のための接続部42と排気接続部40との間における接続部が閉鎖されるまで続き、これによって対応配置されたホイールブレーキシリンダ118,120のさらなる排気は、もはや行うことができなくなる。
【0087】
ドライバ制動要求に応じて常用ブレーキ操作機構10の操作がさらに進行すると、次いで弁体36は該弁体36に接触している流出座32と共に、流入座64から持ち上がりながら下方に向かって押し退けられる。これによって圧縮空気は、リザーブ室60のリザーブ圧下で作業室38内に達し、かつそこから常用ブレーキ回路のための接続部42内に、もしくは対応配置されたホイールブレーキシリンダ内に達し、これによってホイールブレーキシリンダを給気、ひいては作動させることができる。この過程は、純粋なドライバ制動であり、このドライバ制動では、常用ブレーキ操作機構10にドライバによってドライバ制動要求に関連してプランジャピストン・圧縮ばね14を介して加えられる操作力に基づいて、第1の操作力が制御ピストン12に加えられ、この第1の操作力は制御ピストン12を最終的にその給気位置にもたらす。
【0088】
このような純粋にドライバ制動要求によって開始された制動では、電磁弁装置52は、第2の電子式のブレーキ制御装置FBM-ECUを用いて排気位置に制御されており、この排気位置において第1の制御室22は、第1の制御室22の膨張に基づいて発生する圧力効果を回避するために、大気に接続されている。
【0089】
このとき電磁弁装置52による、制御室22に入力される空気圧的な制御圧の調節(Modulation)に応じて、第2の制御ピストン12における確定された第2の操作力を調節することが可能であり、これはさらに相応のブレーキ力を生ぜしめ、これによって値0と、リザーブ圧管路56;57におけるリザーブ圧に基づいて生じる最大のブレーキ圧との間における任意のブレーキ力の調節が可能である。本実施例では第2の操作力は、例えば第1の操作力に関して同方向にかつ並行に作用する。しかしながらまた、第2の操作力の逆向きの作用方向も考えられる。
【0090】
図1の実施形態においてドライバ制動要求なしに、電磁弁装置52が第2の電子式のブレーキ制御装置FBM-ECUを用いて給気位置にもたらされると、第1の制御室22には空気圧的な制御圧が加えられ、この空気圧的な制御圧は、さらに、ここでは下方に向けられた第2の操作力を制御ピストン12において生ぜしめ、この第2の操作力は次いで、上において記載されたドライバ操作におけるように、制御ピストン12を最終的にその給気位置にもたらす。
【0091】
さらにこのとき第1の制御室22において発生している制御圧もまた、プランジャピストン4に、ひいては常用ブレーキ操作機構10に戻り作用し、このことをドライバは、ドライバが常用ブレーキ操作機構10に接触している場合に、その足で感じることができる(ペダル戻り作用)。これによってドライバは、自動的な制動の導入を足において感じることができる。
【0092】
ドライバによって開始された常用ブレーキと、ドライバの行動なしに、自動化されて生ぜしめられた常用ブレーキ要求信号に基づいて開始された常用ブレーキとの他に、さらに組み合わせられた常用ブレーキも考えられ、この組み合わせられた常用ブレーキでは、常用ブレーキ弁装置1によって、ドライバ制動要求と自動的に発生させられた制動要求とに対して制動がなされる。このとき制御ピストン12には、ドライバ常用ブレーキ要求に基づく第1の操作力と、自動的に発生させられた制動要求に基づく第2の操作力とが、ここでは例えば同方向にかつ並行に作用し、これによって両操作力の値は、制御ピストン12において例えば加算される。
【0093】
第1の制御室22のための、第1の電磁弁装置52から出力された制御圧は、圧力調整されていてよい。この場合出口接続部50における実際制御圧は、圧力センサによって測定され、かつ第2の電子式のブレーキ制御装置FBM-ECUによって、第1の電磁弁装置52の相応の駆動制御によって設定された目標制御圧に対して補償調整される。このとき電磁弁装置52は、圧力センサおよび第2の電子式のブレーキ制御装置FBM-ECUと一緒に、制御室22における制御圧のための圧力調整器を形成している。
【0094】
図8a~図8cには、先行する実施例において制御室22の空気圧的な制御圧を制御もしくは調整する、電磁弁装置52a,52b,52cもしくは制御圧調整器52a,52b,52cのための例が示されている。このとき図面を簡単にするために、図1において使用された符号だけが付されている。
【0095】
これらの例において共通なことは次のことである。すなわちこの場合、これらの例は、第2の電子式のブレーキ制御装置FBM-ECUによって制御され、リザーブ圧管路56を介して圧縮空気リザーブに接続されている入口接続部54a,54b,54cと、それぞれ第1の制御室22または第2の制御室24に接続しているか、または接続させられる出口接続部50a,50b,50cとを有している。さらにすべての構成は、排気部100a,100b,100cと、出口接続部50a,50b,50cにおける実際制御圧を測定するための圧力センサ102a,102b,102cとを有しており、これによって、出口接続部50a,50b,50cにおいて発生している実際制御圧が通知される第2の電子式のブレーキ制御装置FBM-ECUにおける相応のアルゴリズムとの関連において、出力される制御圧の圧力調整が可能である、もしくは実施される。
【0096】
図8aの構成では比例弁104aが、電気的な制御信号に相応して(比例して)出力された、出口接続部50aにおける制御圧のために働き、このとき同様に給気および排気が可能である。図8bの構成では、2つの2/2方向電磁弁106b,108bから成る入口弁/出口弁組合せが設けられており、このとき入口接続部54bに直接接続された流入弁106bは、無電流時に閉鎖されかつ電力供給時に開放されていて、かつ流出弁108bは、無電流時に開放されかつ電力供給時に閉鎖されている。図8cによれば電磁弁装置52cとして、給気位置と排気位置とを備えた給気兼排気弁としての3/2方向電磁弁110cが、遮断位置において出口接続部50cにおける圧力を保つ保持弁としての2/2方向電磁弁112cとの組合せにおいて使用される。
【0097】
このような電磁弁装置52a,52b,52cは、上に記載された実施形態のそれぞれの実施形態において、圧力センサ102との組合せにおいて制御圧調整器として使用することができ、この制御圧調整器は、出口接続部50a,50b,50cにおいて発生している制御圧を調整するために、第2の電子式のブレーキ制御装置FBM-ECUを含んでいる。
【0098】
図2には、上に記載された常用ブレーキ弁装置1を備えた、トレーラに連結するために適した牽引車両の、電空式の常用ブレーキ弁装置124の好適な実施形態の回路図が概略的に示されている。単に例として図2では、図1に示された常用ブレーキ弁装置1が使用され、このとき図2では、例えば1つの電気的な常用ブレーキ回路および2つの空気圧的な常用ブレーキ回路が設けられている。
【0099】
電空式の常用ブレーキ装置124もしくは該常用ブレーキ装置124の第1の電子式のブレーキ制御装置EBS-ECUには、第1の電気式のエネルギ源126から電気エネルギが供給され、この第1のエネルギ源126は、電気的な常用ブレーキ回路の構成部分であり、かつ例えば常用ブレーキ弁装置1、および特にその第2の電子式のブレーキ制御装置FBM-ECUに電気エネルギを供給する第2の電気式のエネルギ源128とは無関係である。
【0100】
常用ブレーキ弁装置1では、電気的な常用ブレーキ回路のための電気的な通路130、空気圧的な前車軸常用ブレーキ回路用の空気力的な前車軸通路132、および空気圧的な後車軸常用ブレーキ回路用の空気力的な後車軸通路134が認識可能である。また圧力管路44,45も認識可能であり、これらの圧力管路44,45は、前車軸通路132もしくは後車軸通路134内に存在している圧力を、対応配置された圧力調整モジュール114;116に供給し、圧力調整モジュール114;116においてこの圧力は、組み込まれたバックアップ電磁弁によってまずはホイールブレーキシリンダ118,120に対して遮断される。後車軸に対応配置された圧力調整モジュール116は、例えば2通路圧力調整モジュールであり、これに対して前車軸には、1通路圧力調整モジュール114が取り付けられており、この1通路圧力調整モジュール114は、ABS圧力制御弁138内に組み込まれているブレーキ圧回路を介して、前車軸におけるホイールブレーキシリンダ118に接続されている。ABS圧力制御弁は、許容不能なブレーキスリップ発生時に、第1の電子式のブレーキ制御装置EBS-ECUによって公知の形式で駆動制御され、これによって前車軸のホイールにおけるブレーキスリップを、許容可能なブレーキスリップに適合させることができる。後車軸のホイールにおけるブレーキスリップコントロールは、そこに設けられた2通路圧力調整モジュール116を用いて行われ、この2通路圧力調整モジュール116は、ブレーキ圧管路137を介して対応配置されたホイールブレーキシリンダに接続されている。ホイールスリップ測定のために、ホイール回転数センサ24がそれぞれのホイールに配置されている。第1の電子式のブレーキ制御装置EBS-ECUにおいては例えば、ESC(横滑り防止装置(Electronic Stability Control))コントロール、ASR(駆動スリップコントロール(Antriebsschlupfregelung))コントロール、およびABS(アンチロックブレーキシステム(Antiblockiersystem)、ブレーキスリップコントロール(Bremsschlupfregelung))コントロールのコントロールルーティンが実行される。
【0101】
好ましくは、両常用ブレーキ回路(前車軸、後車軸)のためにそれぞれ1つの固有の圧縮空気リザーブ140,142が設けられており、この圧縮空気リザーブ140,142は、それぞれリザーブ圧管路144,146を介して、常用ブレーキ弁のそれぞれの空気圧的な通路132,134と圧力調整モジュール114,116とに接続されている。圧力調整モジュール114,116は、流入/流出弁組合せと、該流入/流出弁組合せによって空気圧的に駆動制御されるリレー弁とを含んでおり、このときそれぞれリザーブ圧からの第1の電子式のブレーキ制御装置EBS-ECUによる駆動制御に関連して、それぞれブレーキ圧が調節され、かつブレーキ圧管路136,137に入力される。さらにそれぞれの通路のための圧力調整モジュール114,116内に、もしくはトレーラ制御モジュールTCM内には、それぞれ1つの圧力センサが組み込まれており、この圧力センサは、その都度存在している実際ブレーキ圧を、ブレーキ圧管路136,137内においてもしくは連結ヘッド「ブレーキ」において測定し、かつ局所的な電子式の制御装置にフィードバックし、これらの制御装置はそれぞれ、圧力調整モジュール114,116内に、もしくはトレーラ制御モジュールTCM内に組み込まれており、これによってブレーキ圧調整を目標ブレーキ圧との比較によって公知の形式で実施することができる。
【0102】
例えば空気圧的な前車軸ブレーキ回路に対応配置された圧力管路44を介して、以前から公知のトレーラ制御モジュールTCMが冗長的に圧縮空気制御され、このトレーラ制御モジュールTCMは、優先されて同様に第1の電子式のブレーキ制御装置EBS-ECUによって電気的に制御される。トレーラ制御モジュールTCMはさらに、圧縮空気リザーブ140,142のうちの1つの圧縮空気リザーブ140または142によって、圧縮空気リザーブ管路144または146を用いて圧縮空気供給されるが、このことは図2においては示されていない。出口側においてトレーラ制御モジュールTCMは、連結ヘッド「ブレーキ」148と連結ヘッド「リザーブ」150とに接続されており、これによってトレーラブレーキを、公知の形式で制御することができる。
【0103】
もちろん、圧力調整モジュール114,116、トレーラ制御モジュールTCM、およびABS圧力制御弁138は、それぞれ電気的な制御線路152を用いて第1の電子式のブレーキ制御装置EBS-ECUに接続されている。
【0104】
さらに、好ましくは例えば図1に示されているように形成された常用ブレーキ弁装置1を、例えば該常用ブレーキ弁装置1内に組み込まれた第2の電子式のブレーキ制御装置FBM-ECUと一緒に認識することができ、かつ例えば図8bに示されているように流入/流出弁組合せ106b,108bおよび圧力センサ102bを含んでいる電磁弁装置52bを認識することができる。図示の実施例ではこれらのコンポーネントは、例えば固有のハウジング内に収容されており、このハウジングは、常用ブレーキ弁装置1のハウジングにフランジ結合されている。さらに冗長的に設けられたブレーキ値発生器67も見ることができる。第2の電子式のブレーキ制御装置FBM-ECUは、例えば相互に監視し合う2つの冗長的なマイクロプロセッサ154a,154bを含んでいる。同じ形式でまた第1の電子式のブレーキ制御装置EBS-ECUも、2つの冗長的なマイクロプロセッサ156a,156bを有している。ホイールにおけるホイール回転数センサ24は、さらにそれぞれのホイール回転数を圧力調整モジュール114,116における局所的な制御装置に通知し、これらの制御装置は、ホイール回転数を次いで第1の電子式のブレーキ制御装置EBS-ECUにさらに伝達する(weiterschleifen)。
【0105】
電気式の設備はさらに、ステアリングホイール28と操舵伝動装置30との間における例えば連続的な機械的な結合部を備えた、電気機械式の操舵装置26を含んでいる(図4)。操舵装置26の電子式の操舵制御装置162は、データバス122に接続しており、このデータバス122には、第1の電子式のブレーキ制御装置EBS-ECU、第2の電子式のブレーキ制御装置FBM-ECU、およびオートパイロット装置70の電子式の制御装置160も接続されている。オートパイロット装置70の電子式の制御装置160は、この電子式の制御装置160が、特に操舵装置26、電空式の常用ブレーキ装置124、および常用ブレーキ弁装置1、もしくはこれらの装置の制御装置を、ドライバの行動なしに駆動制御し、かつこれによってドライバアシストシステムでもあるように形成されている。これによって好ましくは、例えば車両速度、前を走行する車両との関係における間隔および/または相対速度、特にまたトレーラを一緒に備えた車両安定性などのような、例えば走行動作条件に関連した、車両の制動および操舵の、少なくとも部分的に自動化された制御が実現される。そのためにオートパイロット装置70は、ここには図示されていないセンサを介して、走行動作条件に該当するデータを受信する。
【0106】
操舵装置26には、第2のエネルギ源128を介して電気エネルギが供給され、オートパイロット装置70へも例えば同様に電気エネルギが供給される。第1の電子式のブレーキ制御装置EBS-ECUによって電気的に制御されているトレーラ制御モジュールTCMは、一方では連結ヘッド「ブレーキ」148に、かつ他方では連結ヘッド「リザーブ」150に接続されており、このときこれらの連結ヘッドには、トレーラに通じる相応のブレーキ管路およびリザーブ管路が解離可能に接続されている。
【0107】
電気機械式の操舵装置26は、図4において詳細に示されている。ドライバによってステアリングホイール28を介してもたらされたステアリングホイールモーメント76は、操舵軸68を介して電気式の操舵アクチュエータ72に導入され、この操舵アクチュエータ72は、例えば電動機によって形成される。操舵軸68にはさらにステアリングホイールモーメントセンサ74が取り付けられており、このステアリングホイールモーメントセンサ74は、その都度ドライバによってステアリングホイール28を介してもたらされたステアリングホイールモーメントを検出し、かつステアリングホイールモーメント信号として電子式の操舵制御装置162に入力し、この操舵制御装置162は、データバス122に接続されている(図2)。
【0108】
電子式の操舵制御装置162は、基本的には操舵アクチュエータ72を、ステアリングホイール28において検出されたステアリングホイールモーメント76に関連して駆動制御することができ、これによってドライバによってもたらされたステアリングホイールモーメント76に対して、追加的な重畳モーメントをステアリングコラム68において生ぜしめることができる。したがって操舵装置は、ここでは例えばいわゆる操舵モーメント重畳機能を備えたスーパーインポーズドステアリング機構である。ステアリングホイールモーメント76の代わりに、その都度のステアリングホイール角αを、ステアリングホイール角センサによって検出することも可能であり、これによってこのような場合には、ステアリングホイール角重畳機能を備えたスーパーインポーズドステアリング機構が提供される。
【0109】
しかしながら操舵アクチュエータ72は、ドライバの行動なしでも、つまりステアリングホイール28の操作なしでも、操舵軸68において操舵モーメント82を生ぜしめることができる(図5)。図4に示された事例では、操舵アクチュエータ72は、操舵モーメント82を操舵軸68に入力しておらず、これによって操舵力は、ドライバによって生ぜしめられたステアリングホイールモーメント76だけによって導き出される。図4には、操舵要求がもっぱら、ステアリングホイール28を相応に操作するドライバによってしか生ぜしめられない状況が示されている。
【0110】
操舵伝動装置30は、ここでは好ましくは液圧式のパワーアシストを含んでいて、かつステアリングホイールモーメント76を増幅させる。このとき操舵伝動装置30は、操舵リンク機構78を介して、操舵される前車軸VAの左側および右側の前輪のステアリングナックル80a,80bを駆動制御し、これによってそこではそれぞれ右および左のための操舵角β,βを調節することができる。後車軸HAは、ここでは好ましくは操舵されない。
【0111】
図5には、操舵軸68において作用する操舵モーメント82が、もっぱら操舵アクチュエータ72によって、該操舵アクチュエータ72の、電子式の操舵制御装置162による駆動制御に基づいて生ぜしめられる状況が示されている。この駆動制御は、例えばオートパイロット装置70から出力された、データバス122を用いて伝達される操舵要求によって行われる。
【0112】
図6には、ここでは例えば前車軸VAおよび後車軸HAにおけるそれぞれ左側のホイールの、所望のブレーキ操作(Einbremsen)によって、ヨーモーメントMBrems,Gierが生ぜしめられる、いわゆる操舵制動が示されており、このヨーモーメントMBrems,Gierは、ここでは例えば左カーブ軌道に追従するように車両を促す。ヨーモーメントMBrems,Gierのために重要なのは、左側の前輪において作用するブレーキ力ΔFBrems,VAとの組合せにおいてブレーキモーメントΔFBrems,VA・RLenkrollを生ぜしめる、左側の前輪における操舵オフセットRLenkroll、さらにブレーキ力ΔFBrems,HAとの組合せにおいてブレーキモーメントΔFBrems,HA・aを生ぜしめる半分の軸線長さaである。操舵要求は、ここでは例えばオートパイロット装置70によって開始され、かつ操舵要求信号は、例えばデータバス122を介して第2の電子式のブレーキ制御装置EBS-ECUに伝達され、この第2の電子式のブレーキ制御装置EBS-ECUは、さらに両ホイールのブレーキ操作を指示する。
【0113】
図7には、ドライバによってステアリングホイール28を介して操舵軸68にもたらされたステアリングホイールモーメント76が、操舵アクチュエータ72によってもたらされた操舵モーメント82に重畳される状況が示されている。さらにヨーモーメントMBrems,Gierも、操舵制動に基づいて有効である。ゆえにここでは、車両の操舵の図4図6に示された可能性が互いに重畳されている事例が示されている。
【0114】
図3には、車両の電気式の設備の電気式および電子式のコンポーネントへの電力供給の様々な実施形態が概略的に示されている。
【0115】
第1の実施形態によれば、操舵装置26および常用ブレーキ弁装置1もしくは該常用ブレーキ弁装置1の第2の電子式のブレーキ制御装置FBM-ECUは、第2の電気式のエネルギ源128から、かつ電空式の常用ブレーキ装置124もしくは該常用ブレーキ装置124の第1の電子式のブレーキ制御装置EBS-ECUは、第1の電気式のエネルギ源126から電力供給される。相応のエネルギ供給線路84,86は、図3において三角面形状の矢印を備えた実線によって特徴付けられている。追加的にここでは常用ブレーキ弁装置1のブレーキ値発生器67が、同様に第2の電気式のエネルギ源128から電力供給される(破線で示されたエネルギ供給線路92参照)。
【0116】
このとき電空式の常用ブレーキ装置124もしくは該常用ブレーキ装置124の第2の電子式のブレーキ制御装置FBM-ECUの電子式のブレーキ制御装置1は、このブレーキ制御装置1が、第2の電気式のエネルギ源128を含む第2の電気式のエネルギ供給回路または操舵装置26における故障またはエラーを認識するように形成されており、このときこのような場合には電子式のブレーキ制御装置1もしくは該ブレーキ制御装置1の電子式の制御装置FBM-ECUは、電空式の常用ブレーキ装置124を駆動制御し、これによってこの電空式の常用ブレーキ装置124は、オートパイロット装置70から場合によっては出力された操舵要求信号を、ホイールブレーキアクチュエータにおいてホイール個々のまたはサイド個々の制動動作(Bremseingriff)の形態で実現する。
【0117】
第2の実施形態によれば、例えば第1の電気式のエネルギ源126からまたは第1のエネルギ供給回路から、電気エネルギを破線で示されたエネルギ供給線路94を介して供給され、かつ常用ブレーキ操作機構10によって操作可能な、少なくとも1つの電気式の信号発生器88が設けられており、この電気式の信号発生器88は、常用ブレーキ操作機構10の操作時に、図3において破線で示された信号線路90を介して、電気的な操作信号を第1の電子式のブレーキ制御装置EBS-ECUに入力する。このとき電気式の信号発生器88は、電空式の常用ブレーキ弁装置1内に組み込まれていてよく、かつ特に電気式のスイッチによって形成されてよい。
【0118】
第3の実施形態によれば、第1の電気式のエネルギ源126からまたは第1のエネルギ供給回路から、電気エネルギを供給され、かつ空気圧的なブレーキ圧またはブレーキ制御圧によって1つまたは2つの空気圧的な常用ブレーキ制御回路において操作可能な、少なくとも1つの電気式の信号発生器88が設けられていてよく、この電気式の信号発生器88は、常用ブレーキ操作機構10の操作時に、電気的な操作信号を第1の電子式のブレーキ制御装置EBS-ECUに入力する。このとき電気式の信号発生器88は、同様に電空式の常用ブレーキ弁装置1内に組み込まれていてよく、かつ特に電気式の圧力センサによって形成されてよい。信号発生器88によって測定されたこのブレーキ圧またはブレーキ制御圧は、それぞれ両空気圧的な常用ブレーキ回路の圧力管路44,45内に存在している(図2)。第3の実施形態では、常用ブレーキ弁装置1のブレーキ値発生器67は、破線で示されたエネルギ供給線路96を介して例えば第1の電気式のエネルギ源126から電力供給される。
【0119】
第2および第3の実施形態では、第1の電子式のブレーキ制御装置EBS-ECUは、特に、この第1の電子式のブレーキ制御装置EBS-ECUが、第2の電気式のエネルギ源128を含む第2の電気的なエネルギ供給回路または操舵装置26における故障またエラーを認識し、かつこのようなエラーの認識時、および信号発生器88から発信された操作信号の存在時に、オートパイロット装置70から場合によっては出力された操舵要求信号を、無視しかつ実現しないように形成されている。
【0120】
したがって、好ましくは電気式のブレーキ値発生器67に対して追加的な信号発生器88が設けられ、この信号発生器88には、電空式の常用ブレーキ装置124に関連して等しい第1の電気的な供給回路126から電気エネルギが供給され、かつ信号発生器88は、ドライバが制動を望んでいることを認識する。この場合には、エラーの認識時にも操舵装置26において操舵制動動作は実施されない。それというのは、ドライバはその状況を明らかに認識していて、コントロールを引き受けることができるからである。このとき制動は、電空式の常用ブレーキ装置124の空気圧的な常用ブレーキ回路によってしか行われない。
【0121】
第4の実施形態によれば、電空式の常用ブレーキ装置124もしくは該常用ブレーキ装置124の第2の電子式のブレーキ制御装置EBS-ECUに、追加的に、第1の電気式のエネルギ源126を含む第1のエネルギ供給回路から、電気エネルギが供給される。このとき常用ブレーキ弁装置1のブレーキ値発生器67には、エネルギ供給線路92を介して第2の電気式のエネルギ源128から電力供給される。
【0122】
第3のおよび第4の実施形態では、電空式の常用ブレーキ装置124の電気的な常用ブレーキ回路は、第1の電気的な供給回路または第1の電気式のエネルギ源126の故障時にも、ドライバ制動要求を受け取り、かつこのドライバ制動要求を実現することができる。これによってホイールブレーキアクチュエータ118,120におけるブレーキ圧を、操舵制動のために相応に調節することができ、かつこれによってドライバ制動要求および操舵要求を同時に実現することができる。したがってこれらの実施形態は、操舵装置26の操舵伝動装置30におけるパワーアシストの冗長性を得るためにも適している。
【0123】
別の実施形態によれば、常用ブレーキ弁装置1の第2の電子式のブレーキ制御装置FBM-ECUは、この第2の電子式のブレーキ制御装置FBM-ECUが、第1の電気式のエネルギ源126を含む第1の電気的なエネルギ回路または電空式の常用ブレーキ装置124の電気的な常用ブレーキ回路における故障またはエラーを認識するように形成されており、このとき第2の電子式のブレーキ制御装置FBM-ECUは、常用ブレーキ弁装置1を駆動制御し、これによって常用ブレーキ弁装置1は、場合によってはオートパイロット装置70から出力されたこの常用ブレーキ要求信号を、ホイールブレーキアクチュエータ118,120において制動動作の形態で実現する。
【0124】
さらに、電空式の常用ブレーキ装置124の作用形式は下記の通りである。すなわち電空式の常用ブレーキ装置124の優先的な電気的な常用ブレーキ回路が完全な場合には、常用ブレーキ操作機構10の操作によるドライバ制動要求の場合に、電気的な制動要求信号がブレーキ値発生器67を用いて常用ブレーキ弁装置1において生ぜしめられ、かつ常用ブレーキ弁装置1の第2の電子式のブレーキ制御装置FBM-ECUに入力され、この第2の電子式のブレーキ制御装置FBM-ECUにおいてこれらの信号は処理され、かつデータバス122を介して第1の電子式のブレーキ制御装置EBS-ECUに導入される。この第1の電子式のブレーキ制御装置EBS-ECUにおいて信号は、例えば負荷に関連したブレーキ力コントロール(ALB)、ディファレンシャルスリップコントロール(Differenzschlupfregelung)等のような比較的高い機能によって修正され、次いでその都度第1の電子式のブレーキ制御装置EBS-ECUから、目標ブレーキ圧を再現する信号が圧力調整モジュール114,116もしくはトレーラ制御モジュールTCMに入力され、この圧力調整モジュール114,116もしくはトレーラ制御モジュールTCMにおいて、それぞれそこに設けられている流入/流出弁組合せの相応の操作によって、リザーブ圧から相応のブレーキ圧が調節され、かつホイールブレーキシリンダ118,120内に導かれ、これによってこれらのホイールブレーキシリンダ118,120を相応に作動させることができる。モジュール114,116,TCM内に組み込まれた圧力センサを用いて、実際ブレーキ圧が測定され、目標ブレーキ圧を再現する信号として局所的な制御装置内に存在している目標ブレーキ圧との比較によって、ブレーキ圧調整の意味において適合させられる。したがって上に述べた過程は、優先的な電気的な常用ブレーキ回路において実行される。
【0125】
これに並行して、常用ブレーキ操作機構10の操作によって両空気圧的な通路132,134において、かつこのとき両空気圧的な通路132,134に接続された圧力管路44,45においても、上において既に記載された形式でブレーキ圧が生ぜしめられ、しかしながらこのブレーキ圧はなお、通電時に遮断位置に切り換えられたバックアップ電磁弁によってモジュール114,116,TCM内に留められる。
【0126】
いまや優先的な電気的な常用ブレーキ回路においてエラーまたは欠陥が発生すると、それが第1のエネルギ源126、第1の電子式のブレーキ制御装置EBS-ECU、またはモジュール114,116,TCMにおける局所的な制御装置のうちの1つの制御装置が故障した場合であっても、これらのモジュール内に組み込まれたバックアップ電磁弁が、いまや通電されずにその貫流位置に切り換わり、これによって圧力管路44,45内に存在するブレーキ圧が、モジュール114,116,TCMを通して、ホイールブレーキシリンダ118,120もしくは連結ヘッド「ブレーキ」内に導かれ、これによって牽引車両もしくはトレーラにおいてホイールブレーキを作動させることができる。したがって制動は、電気的な常用ブレーキ回路における欠陥時には、従来しかしながらドライバによってしか、かつこのとき単に純粋に空気圧的にしか操作することができない。
【0127】
さらに電空式の常用ブレーキ弁装置1の第2の電子式のブレーキ制御装置FBM-ECUは、電空式の常用ブレーキ弁装置の優先的な電気的な常用ブレーキ回路のエラーまたは故障が確認された場合に、かつ制動要求が存在している場合に、第2の電子式のブレーキ制御装置FBM-ECUが電磁弁装置52bを駆動制御するように形成されており、これによって上に記載されているように、制御ピストン12において第2の操作力を生ぜしめることができ、この第2の操作力は、ドライバ制動要求なしでも、弁体36を流入座64から持ち上げることができ、これによって、モジュール114,116,TCMに通じている圧力管路44,45に、第2の操作力に相応して形成されたブレーキ圧を給気することができる。そこに設けられたバックアップ電磁弁は、無電流時にその貫流位置に切り換えられているので、このときこのブレーキ圧は、ホイールブレーキシリンダ118,120もしくは連結ヘッド「ブレーキ」148内に達する。
【0128】
電気的な常用ブレーキ回路における故障またはエラーは、特に、電空式の常用ブレーキ装置124自体の第1の電子式のブレーキ制御装置EBS-ECUによる自己監視の枠内において、または電空式の常用ブレーキ弁装置1の第2の電子式のブレーキ制御装置FBM-ECUによる外部監視の枠内において確認される。しかしながらまた任意の第3のシステムの電子式の制御装置による外部監視も考えられる。このとき好ましくは、通信はデータバス122を介して行われる。常用ブレーキ弁装置1の第2の電子式のブレーキ制御装置FBM-ECUは、第1のエネルギ源126とは無関係の第2のエネルギ源128によって電力供給されるので、この機能は、第1のエネルギ源126の故障によっても阻止されない。
【0129】
第2の電気式のエネルギ源は、例えば別体のバッテリ、(二重層)コンデンサ、別のエネルギアキュムレータ、または固有の電流発生機器(例えば圧縮空気作動式の発電機)であってもよい。第2のエネルギ源は、好ましくは充電容量および機能性に関して監視される(SOC、SOH、規則的な充電/放電)。この監視は、例えば電空式の常用ブレーキ装置124の第1の電子式のブレーキ制御装置EBS-ECU、常用ブレーキ弁装置1の第2の電子式のブレーキ制御装置FBM-ECU、または例えば車両のハイブリッド駆動制御装置のバッテリ監視のようなその他のシステムを用いて行うことができる。
【0130】
このとき制動要求は、車両の任意のシステムから、ここでは特にオートパイロット装置70からまたは例えば車両追従コントロール(ACC、アダプティブクルーズコントロール)からも由来することができ、この車両追従コントロールによって、前を走行する車両に対する間隔もしくは相対速度が一定に保たれる。そしてこのようなACCシステムの機能は、常用ブレーキ装置124の電気的な常用ブレーキ回路が故障している場合にも維持することができる。
【0131】
自動的に生ぜしめられた制動要求、もしくは自動的に生ぜしめられた制動要求信号は、次いで電気的な制動要求信号として、好ましくはデータバス122およびインタフェース13を介して常用ブレーキ弁装置1の第2の電子式のブレーキ制御装置FBM-ECUに入力され、これによって第2の操作力を制御ピストン12において生ぜしめることができる。このインタフェース13は、好ましくはデータバス122に接続されており、このデータバス122を介して、常用ブレーキ装置124の第1の電子式のブレーキ制御装置EBS-ECUとの通信のみならず、複数の別の電子式の車両システムの電子式の制御装置との通信も行われ、この制御装置は、特にオートパイロット装置70の電子式の制御装置160、またはACCのようなドライバアシストシステムの電子式の制御装置を含んでいてよいので、制動要求信号は、牽引車両の任意のシステムから自動的に生ぜしめられてよい。
【0132】
図2において概略的に示されていてセンサ信号を供給するセンサ装置164は、以下に記載のセンサのうちの少なくとも1つのセンサを、すなわち、対応配置された車両ホイールのホイール回転数を検出するホイール回転数センサ24、車両の前後方向加速度を検出する、ここでは明確に示されていない前後方向加速度センサ、車両の横方向加速度を検出する、ここでは明確に示されていない横方向加速度センサ、車両のヨーレートを検出する、ここでは明確に示されていないヨーレートセンサ、および車両のステアリングホイール28のステアリングホイール角αを検出する、図4図7に略示されたステアリングホイール角センサ166のうちの少なくとも1つのセンサを含んでいる。センサ装置164は、特に評価電子装置168を介してデータバス122に接続されており、この評価電子装置168は、データバスに適したセンサ信号を生成する。このとき評価電子装置168は、特にセンサ装置164内に組み込まれていてよい。
【0133】
第2の電子式のブレーキ制御装置FBM-ECUにおいて、ブレーキスリップコントロールルーティンおよび走行ダイナミックコントロールルーティンが実行されることが提案されている。択一的に、第2の電子式のブレーキ制御装置FBM-ECUにおいてはまた、ブレーキスリップコントロールルーティンだけ、または走行ダイナミックコントロールルーティンだけが組み込まれていてもよい。
【0134】
さらに第2の電子式のブレーキ制御装置FBM-ECUは、センサ装置164のセンサ信号を、データバス122を介して受信する。このときドライバ制動要求に関連してまたはドライバ制動要求とは無関係に要求された制動が存在している場合に、電空式の常用ブレーキ弁装置1の第2の電子式のブレーキ制御装置FBM-ECUは、第2の操作力を、第2の電子式のブレーキ制御装置FBM-ECUによって受信されたセンサ信号に関連しても、制動が要求された場合に少なくともブレーキスリップコントロールABSおよび/または走行ダイナミックコントロールESCが実施されるように生ぜしめることができる。
【0135】
このとき、オートパイロット装置70によって自動的に生ぜしめられる制動要求信号の冗長的な実現のために従来設けられている第2の電子式のブレーキ制御装置FBM-ECUは、いまやまた、ABS機能および/またはESC機能に関して第1の電子式のブレーキ制御装置EBS-ECUに対する完全な冗長機構を成している。この冗長機構は、ブレーキペダルの操作によってドライバ制動に関連して要求された制動に由来している制動要求信号のためにも、またはドライバ制動要求とは無関係に、例えばここではオートパイロット装置70によって要求された制動に由来している制動要求信号のためも与えられている。
【0136】
常用ブレーキ操作機構10の操作によって要求された制動の場合には、第2の電子式のブレーキ制御装置FBM-ECUには、いずれにせよ既に常用ブレーキ弁装置1の電気式のストロークセンサ67から操作信号が供給されており、次いでこれらの操作信号から、第2の電子式のブレーキ制御装置FBM-ECUは相応の制動要求信号を形成し、かつこれらの制動要求信号を次いで、第2の操作力を介して電空式の常用ブレーキ弁装置1の少なくとも1つの空気圧的な通路において実現するか、または電空式の圧力調整モジュール114,116の電気的な制御を介して、電空式の常用ブレーキ装置124の電気的な通路において実現する。後者の場合には、第2の電子式のブレーキ制御装置FBM-ECUの制動要求信号は、次いで例えばデータバス122および第1の電子式のブレーキ制御装置EBS-ECUを介して圧力調整モジュール114,116に入力され、このとき第1の電子式のブレーキ制御装置EBS-ECUは、制動要求信号を圧力調整モジュール114,116に、ここでは図示されていない信号線路を介して単に接続している。そのためにはしかしながら第1の電子式のブレーキ制御装置EBS-ECUの動作可能性または電力供給は、不可欠な前提条件ではない。
【0137】
両方の場合においてABS機能もしくは走行ダイナミックコントロール機能の実現のために、第2の電子式のブレーキ制御装置FBM-ECUは公知の形式でセンサ装置164のセンサ信号を評価し、これらのセンサ信号はセンサ装置164に、ここでは例えばデータバス122を介して供給される。ABSブレーキスリップコントロールルーティンは、例えば、ブレーキスリップをホイール毎にまたは車軸毎に、設定された目標ブレーキスリップに入力調整するために、車両のホイールにおけるホイール回転数センサ24のホイール回転数信号を必要とし、かつこれらのホイール回転数信号をセンサ装置164から得る。
【0138】
走行ダイナミックコントロールシステムESCのためにステアリングホイール角センサ166は、走行方向に関するドライバの意思を供給し、ホイール回転数センサ24、横方向加速度センサ、およびヨーレートセンサは、車両特性を表すデータを供給する。ドライバの意思による目標走行特性からの実際走行特性の許容不能な偏差が確認されると、走行ダイナミックコントロールシステムESCが動作する。追加的に走行ダイナミックコントロールESCは、駆動機械の駆動出力をも絞ることができ、これによって車両速度を低減すること、および駆動輪の空転を阻止することができる。そのために第2の電子式のブレーキ制御装置FBM-ECUは、好ましくはデータバス122を介して、データバス122に接続された原動機制御装置170に通信する。したがって好ましくは、第2の電子式のブレーキ制御装置FBM-ECUにおいて実行された走行ダイナミックコントロールルーティンは、車両の駆動機械の駆動出力の調整または制御のためのルーティンをも含む。
【0139】
したがって特に好ましくは、第2の電子式のブレーキ制御装置FBM-ECUにおいて実行されたブレーキスリップコントロールルーティンは、第2の操作力をホイール回転数センサ24のセンサ信号に関連しても生ぜしめ、第2の電子式のブレーキ制御装置FBM-ECUを介して制動が要求された場合に、ブレーキスリップコントロール(ABS)が実施されるようになっている。
【0140】
したがってさらに好ましくは、第2の電子式のブレーキ制御装置FBM-ECUにおいて実行されたブレーキスリップコントロールルーティンは、第2の操作力をホイール回転数センサ24のセンサ信号、少なくとも1つのヨーレートセンサのセンサ信号、少なくとも1つの横方向加速度センサのセンサ信号、および少なくとも1つのステアリングホイール角センサのセンサ信号に関連しても生ぜしめ、第2の電子式のブレーキ制御装置FBM-ECUを介して制動が要求された場合に、走行ダイナミックコントロールESUが実施されるようになっている。
【0141】
データバスを介する代わりに、第2の電子式のブレーキ制御装置FBM-ECUのセンサ信号は、他の択一的な形式でも供給することができる。一方ではセンサ装置164は、センサ信号をつまり直接第2の電子式のブレーキ制御装置FBM-ECUに入力することができ、このことは、例えばセンサ装置164と第2の電子式のブレーキ制御装置FBM-ECUとの間に、信号線路および必要な場合には電力供給線路も配線されていることによって達成される。
【0142】
別の変化形態によれば、センサ装置164のセンサは、またそれぞれ二重に設けられていてもよく、このとき二重に設けられたセンサの第1のセンサは、センサ信号を第1の電子式のブレーキ制御装置EBS-ECUに入力し、かつこのとき二重に設けられたセンサの第2のセンサは、センサ信号を第2の電子式のブレーキ制御装置FBM-ECUに入力する。
【0143】
このときデータバス122を介してオートパイロット装置70もしくは該オートパイロット装置70の電子式の制御装置160は、ドライバ制動要求とは無関係に要求された制動を発生させる制動要求信号、および/またはドライバ操舵要求とは無関係に要求された操舵を発生させる操舵要求信号を、第2の電子式のブレーキ制御装置FBM-ECUに入力することができ、このとき制動要求信号および/または操舵要求信号は、走行動作条件(Fahrbetriebsbedingung)に関連して生ぜしめられる。
【0144】
このとき一方では第2の電子式のブレーキ制御装置FBM-ECUは、オートパイロット装置70によってドライバ制動要求とは無関係に要求された制動を、常用ブレーキ弁装置1の制御ピストン12に作用する第2の操作力を生ぜしめる電磁弁装置52によって実現する。
【0145】
このとき他方では第2の電子式のブレーキ制御装置FBM-ECUは、オートパイロット装置70から出力された操舵要求信号を、例えば第2の電子式のブレーキ制御装置FBM-ECUがデータバス122を介して電気式の操舵アクチュエータ72を車両の操舵のために操作することによって実現する。このとき操舵要求信号は、例えばデータバス122から電子式の操舵制御装置162によって操舵アクチュエータ72に接続され、このときそのために電子式の操舵制御装置162が、動作可能である、または電力供給される必要はない。
【0146】
したがって第2の電子式のブレーキ制御装置FBM-ECUにおいては例えば、オートパイロット装置70による、またはドライバによるステアリングホイール28の操作による操舵要求に関連して、操舵要求信号を生ぜしめ、かつ操舵アクチュエータ72に入力する操舵制御ルーティンも実行されている。
【0147】
したがって、ドライバの行動によってかつ行動なしに生ぜしめられる操舵要求信号は、単に操舵装置26のみならず、第2の電子式のブレーキ制御装置FBM-ECUに入力され、もしくは第2の電子式のブレーキ制御装置FBM-ECUによって「読み取られる」。
【0148】
これによって第2の電子式のブレーキ制御装置FBM-ECUは、電子式の操舵制御装置162が確かに、ドライバ操舵要求に関連してまたはドライバ操舵要求とは無関係に生ぜしめられた操舵要求信号を実現することが望ましいが、しかしながら電子式の操舵制御装置162が動作可能ではない、または電力供給されていない場合には、電気機械式の操舵装置26の電子式の操舵制御装置に対する冗長機構を成している。
【0149】
ゆえに第1の電気式のエネルギ源126が故障し、かつこれにより第1の電子式のブレーキ制御装置EBS-ECUおよび圧力調整モジュール114,116が無電流の場合に、第2の電気式のエネルギ源128によって、ストロークセンサ67を備えた電空式の常用ブレーキ弁装置1に、かつ第2の電子式のブレーキ制御装置EBS-ECUに、電気エネルギが供給される。次いでドライバのブレーキの意思に関連した電気的な制動要求信号およびドライバのブレーキの意思とは無関係な電気的な制動要求信号が、第2の電子式のブレーキ制御装置EBS-ECU、電磁弁装置52、および電磁弁装置52によって生ぜしめられた、空気圧的なブレーキ回路における第2の操作力によって、つまり完全なABSコントロールおよび/または走行ダイナミックコントロールを伴って、空気圧的に実現される。
【0150】
このときさらに好ましくは、電気機械式の操舵装置26に、同様に第2の電気式のエネルギ源128によって電気エネルギが供給されていると、第1の電気式のエネルギ源126の故障時にも、ドライバの操舵の意思に関連した電気的な操舵要求信号およびドライバの操舵の意思とは無関係な電気的な操舵要求信号を、引き続き電気機械式の操舵装置26によって実現することができる。このとき電気的な操舵要求信号は、特に機能可能な電子式の操舵制御装置162なしでも、上において既に記載されたように実現することができる。
【符号の説明】
【0151】
EBS-ECU 第1の電子式のブレーキ制御装置
FBM-ECU 第2の電子式のブレーキ制御装置
TCM トレーラ制御モジュール
α ステアリングホイール角
1 常用ブレーキ弁装置
2 ハウジング
4 プランジャピストン
5 プランジャピストンロッド
6 プランジャ収容部
7 上側の制御ピストンロッド
8 プランジャ
10 常用ブレーキ操作機構
12 制御ピストン
13 電気的な接続部
14 プランジャピストン・圧縮ばね
16 下側の制御ピストンロッド
22 制御室
24 ホイール回転数センサ
26 操舵装置
28 ステアリングホイール
30 操舵伝動装置
32 流出座
34 複座弁
36 弁体
38 作業室
40 排気接続部
42 接続部 常用ブレーキ回路
44 ブレーキ圧管路
45 ブレーキ圧管路
46 制御ピストン・圧縮ばね
48 接続部
50 出口接続部
52 電磁弁装置
54 入口接続部
56 リザーブ圧管路
57 リザーブ圧管路
58 リザーブ接続部
60 リザーブ室
62 弁体・圧縮ばね
64 流入座
66 内壁
67 ストロークセンサ
68 操舵軸
70 オートパイロット装置
72 操舵アクチュエータ
74 ステアリングホイール角センサ
76 ステアリングホイールモーメント
78 操舵リンク機構
80a/b ステアリングナックル
82 操舵モーメント
84 エネルギ供給線路
86 エネルギ供給線路
88 信号発生器
90 信号線路
92 エネルギ供給線路
94 エネルギ供給線路
96 エネルギ供給線路
104 比例弁
106 2ポート2位置電磁弁
108 2ポート2位置電磁弁
110 3ポート2位置電磁弁
112 2ポート2位置電磁弁
114 圧力調整モジュール
116 圧力調整モジュール
118 ホイールブレーキシリンダ
120 ホイールブレーキシリンダ
122 データバス
124 常用ブレーキ装置
126 第1のエネルギ源
128 第2のエネルギ源
130 電気的な通路
132 空気力的な前車軸通路
134 空気力的な後車軸通路
136 ブレーキ圧管路
137 ブレーキ圧管路
138 ABS圧力制御弁
140 圧縮空気リザーブ
142 圧縮空気リザーブ
144 リザーブ圧管路
146 リザーブ圧管路
148 連結ヘッド「ブレーキ」
150 連結ヘッド「リザーブ」
152 制御線路
154a/b マイクロプロセッサ
156a/b マイクロプロセッサ
160 電子式の制御装置
162 電子式の操舵制御装置
164 センサ装置
166 ステアリングホイール角センサ
168 評価電子装置
170 原動機制御装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8a
図8b
図8c