(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-07
(45)【発行日】2022-07-15
(54)【発明の名称】土木構造物の補強方法
(51)【国際特許分類】
E04G 23/02 20060101AFI20220708BHJP
【FI】
E04G23/02 D
(21)【出願番号】P 2020534446
(86)(22)【出願日】2017-12-21
(86)【国際出願番号】 FR2017053793
(87)【国際公開番号】W WO2019122542
(87)【国際公開日】2019-06-27
【審査請求日】2020-12-07
(73)【特許権者】
【識別番号】509167338
【氏名又は名称】ソレタンシュ フレシネ
【氏名又は名称原語表記】SOLETANCHE FREYSSINET
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】クリスティアン・トゥルヌール
(72)【発明者】
【氏名】ジュリアン・メルシエ
(72)【発明者】
【氏名】ヴァネッサ・ビュシン-ルリエ
【審査官】油原 博
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-020509(JP,A)
【文献】特開2003-002948(JP,A)
【文献】特開平2-173083(JP,A)
【文献】特開2006-342538(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 23/02
E01D 22/00
E21D 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
土木構造物の補強方法であって:
-第1の粒径と呼ばれる粒径を有する、流体状態の樹脂の第1の層で前記構造物の表面をコーティングするステップと、
-前記樹脂が依然として流体状態のままで、高坪量布と呼ばれる、600g/m
2以上の面積重量を有する乾燥布の層を、布に樹脂を含浸させるのに十分な圧力を布に加えながら、前記コーティングされた表面に適用するステップと、
-前記流体状態にあり、且つ、前記第1の粒径
未満の第2の粒径と呼ばれる粒径を有する、封止樹脂と呼ばれる樹脂の第2の層で前記布をコーティングするステップと、
を含む方法。
【請求項2】
前記樹脂が、流体状態のゲルの形態である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記樹脂が増粘剤を含有する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記布が、隙間を有する繊維を含み、前記第1の粒径及び前記第2の粒径が、前記隙間よりも厳密に小さい
、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
樹脂の前記第1の層の前記粒径が、1μm以下、好ましくは0.1μm以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記樹脂の粒状要素が、ナノ粒子及び/又はシリカを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記樹脂が、1s
-1の回転速度に対して15~25Pa・sの剪断速度、及び10s
-1の回転速度に対して3~5Pa・sの剪断速度を与える23℃でのブルックフィールド粘度を有する、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
不活性粒状要素又は充填剤が、2重量%~12重量%、好ましくは5重量%~10重量%の割合で添加される、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土木構造物を補強する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
表面を補強するための第1の既知の方法は、鋼板のシートを構造物のコンクリートに接合して、特に前記構造物の引張部分において、補強コンクリート補強材を補完することである。
【0003】
一方では接着剤のフィルムを圧縮し、他方では樹脂が硬化する間にプレートの重量を支持するために、クランプフレームなどの機械的手段を使用してシートを表面上の適所に保持することが必要である。
【0004】
この技術は、建設産業において広く使用されてきたが、補強プレートを風化にさらすこと、及び補強プレートが腐食するのを防止するために費用のかかる定期的なメンテナンスを必要とすることという大きな欠点を有することが、時間とともに見出されてきた。
【0005】
1990年代には、鋼板の代わりに炭素繊維複合材料製のシート又はプライが使用され、これらは、腐食に対して鈍感であり、軽量であり、それまで使用されてきた鋼シートよりも優れた機械的特性を有するという利点を提供する。
【0006】
炭素繊維の使用は、支持体自体の上に複合体を構築するために、補強される領域の表面を樹脂でコーティングし、次いでコーティングされた表面に乾燥炭素繊維布のストリップを適用することを含む別の補強方法の開発を可能にした。
【0007】
この方法は、平面ではない表面上に炭素繊維複合材を添加することによって、補強する能力、並びにより大きな軽量化及び取り扱いのより大きな容易さなどの明白な利点を有する。
【0008】
それにもかかわらず、支持体に適用されるときには、薄い厚さ(0.5mm程度の厚さまで)及び低い乾燥坪量(500g/m2まで)の布しか直接含浸することができず、これは、この方法がより小さい補強断面(又は繊維密度)に限定されることを意味する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、これらの欠点を少なくとも部分的に克服することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的のために、本発明の主題は、土木構造物を補強する方法であって:
-第1の粒径と呼ばれる粒径を有する、流体状態の樹脂の第1の層で前記構造物の表面をコーティングするステップと、
-高坪量布と呼ばれる、600g/m2以上の面積重量を有する乾燥布の層を、布に樹脂を含浸させるのに十分な圧力を布に加えながら、前記樹脂が依然として流体状態のままで、前記コーティングされた表面に適用するステップと、
-複合補強材を形成するために、前記流体状態にあり、且つ、前記第1の粒径以下の第2の粒径と呼ばれる粒径を有する、封止樹脂と呼ばれる樹脂の第2の層で前記布をコーティングするステップと、を含む方法を提案する。
【0011】
樹脂は、硬化されると、すなわち固くされると、構造物の補強材を形成する複合材のマトリックスを構成する。
【0012】
換言すれば、樹脂は、複合材を所定の位置に結合し、そのマトリックスを形成することができるので、2つの機能を果たす。
【0013】
したがって、本発明による方法は、較正された粒径を有する樹脂を適用することによって、乾燥布を飽和させて(十分に含浸させて)複合体を形成することを可能にし、支持体をコーティングする第1の樹脂は、布の自重を支持するのに十分に粘性であり、それによって、高い坪量(600g/m2を超える面密度)を有すると言われる乾燥布を利用しながら、構造物をより大きな抵抗部分(繊維密度)で補強することを可能にする。
【0014】
本発明の別の特徴によれば、樹脂は流体状態でゲルの形態である。
【0015】
本発明の別の特徴によれば、布は、隙間を有する繊維で構成され、第1の粒径及び第2の粒径は、隙間よりも厳密に小さいか又は0でさえある(すなわち、不活性充填剤が添加されていない)。
【0016】
本発明の別の特徴によれば、(乾燥布を敷設する前に支持体をコーティングすることが意図された)第1の粒径は、1μm以下、好ましくは0.1μm以下である。
【0017】
本発明の別の特徴によれば、樹脂の粒状要素は、ナノ粒子及び/又はシリカを含む。
【0018】
本発明の別の特徴によれば、樹脂は、1s-1の回転速度で15~25Pa・sの、10s-1の回転速度で3~5Pa・sの剪断速度を与える23℃でのブルックフィールド粘度を有する。
【0019】
本発明の別の特徴によれば、樹脂は増粘剤を含有する。
【0020】
本発明の別の特徴によれば、樹脂はゼロ粒径を有し、これは不活性充填剤が添加されていないことを意味する。
【0021】
本発明の別の特徴によれば、不活性粒状要素又は充填剤は、2重量%~12重量%、好ましくは5重量%~10重量%の割合で添加される。
【0022】
本発明のさらなる特徴及び利点は、以下の説明を読むことから明らかになるであろう。この説明は、純粋に例示的なものであり、添付の図面に関連して読まれるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明による方法の1つの例示的な実施形態の斜視図である。
【
図2】は、
図1の例の繊維布ストリップ内の炭素繊維のレイアウトを示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
構造補強材
図1は、建物の床2を支持する鉄筋コンクリート梁1を補強又は修理するために使用される、本発明による方法の1つの特定の実施形態を示す。
【0025】
しかしながら、この用途はもちろん非限定的であり、本発明は、任意の土木構造物、特にコンクリート、金属(特に鋼)又は木材で作られた土木構造物を補強するために使用することができる。
【0026】
この補強は、土木構造物の少なくとも1つの表面に可撓性繊維布3を結合することによって得られる:補強される構造物領域は、一般に、引張荷重を受ける領域、この例では梁1の下面4であるが、剪断荷重(これらの応力は、主引張応力と呼ばれるものを誘発する)を受ける土木構造物の領域を、例えば、この梁に関する支持体6に沿って、ここで考慮される梁1の側面5に可撓性布を結合することによって、同様に補強することも可能である。
【0027】
図2から分かるように、繊維布3は、好ましくは、長手方向Xに延在する可撓性ストリップ7の形態をとり、一般にロールの形態で保管される。
【0028】
このストリップ7は繊維から構成され、8で参照される、そのうちのいくつかは、長手方向Xに延在し、(場合によっては繊維8とは異なる厚さを有する)9で参照され、横繊維と呼ばれる他のものは、ストリップ7の幅に平行な横方向Y(又は場合によっては斜め方向)に延在する。
【0029】
各繊維8、9は、隙間10によって互いに分離されたフィラメントから構成される。
【0030】
例えば、フィラメントの直径は5μm~7μmであり、隙間の直径は2μm程度である。
【0031】
繊維は、例えば、炭素、ガラス、アラミド又は玄武岩で作られる。
【0032】
ストリップ7が、引張荷重を受ける補強されるべき領域に隣接する表面に適用されるとき、このストリップの長手方向Xは、好ましくは、これらの引張荷重に平行であり:したがって、図面に示される例では、ストリップ7は、梁1の長さに平行に位置決めされる。
【0033】
補強方法
最初に、補強される土木構造物の表面4が洗浄され、必要に応じてサンドブラスト及び脱脂されるか、あるいはこの表面は、補強材の耐久性を確保することを目的とした任意の他の機械的又は化学的調製技術を受けてもよい。特に、プライマーと呼ばれるコーティングを、予備としてこの表面に塗布することができる。
【0034】
次に、後述するように、表面4に流体状態の樹脂の薄膜をコーティングする。
【0035】
繊維布7は、次に、まだ流体状態にある樹脂のフィルムに乾燥して適用される。
【0036】
布7は、表面4と布との間の樹脂の厚さを均一にし、布に樹脂を含浸させるのに十分な圧力で押し下げられ、すなわち、塗布面に押し付けられる。
【0037】
押し下げは、例えば、プレスローラー及び/又はスプレッダーを用いて行われる。
【0038】
次に、布7を樹脂の第2の層でコーティングする。
【0039】
布のいくつかの重ね合わされた層を使用する必要がある場合には、異なる大きさの布を場合により使用して、適切な場合には、樹脂及び布のさらなる適用が行われる。
【0040】
好ましくは、布7は、高い坪量、すなわち、600g/m2を超える面積重量を有し、高い坪量の布の特定の利点は、布のいくつかの層を重ね合わせることに頼る必要性を回避又は制限するために、同じ表面積に対してより大きな厚さ(抵抗部分)を提供することである。
【0041】
実際には、補強布の重ね合わされた層には、規制によって、それらの機械的性能に関連する低減係数が割り当てられる。
【0042】
樹脂塗布ステップ
既に示したように、樹脂の塗布は2つのステップで行われる。
【0043】
第1のステップでは、表面4は、第1の粒径と呼ばれる粒径を有する不活性粒状要素を含有する樹脂の第1の層でコーティングされる。
【0044】
粒径とは、樹脂中に存在する不活性充填剤の最大サイズを意味する。
【0045】
ゼロ粒径とは、樹脂が充填剤を含有しないことを意味する。
【0046】
次に、布繊維7は、まだ流体状態にある樹脂のフィルムに乾燥して適用される。布7は、樹脂が十分に含浸されるように押し下げられる。第2のステップでは、次に、第1の粒径以下の第2の粒径と呼ばれる粒径、場合によってはゼロ(不活性充填剤なし)を有する粒状要素を含有する、封止樹脂と呼ばれる樹脂の第2の層で布をコーティングする。
【0047】
使用される樹脂は、コンクリート又は木材などの多孔性支持体の積層及びコーティングを目的として、複合材構造物の作製又は補強に適した流体エポキシ系である。
【0048】
この樹脂は、例えば、塗布時に混合される、一方ではベース樹脂と、他方では硬化剤とを組み合わせた2液型エポキシ樹脂である。
【0049】
ベース樹脂は、約1.10の密度及び23℃で1.0~1.5Pa・sの粘度を有する。
【0050】
硬化剤は、約1.0の密度及び23℃で0.05~0.25Pa・sの粘度を有する。
【0051】
樹脂/硬化剤混合物は、増粘剤を含有しない場合、重量で100/30の投入比で、23℃で0.5~1.5Pa・sの粘度を有する。
【0052】
用途の制約を満たすために、チキソトロピー性を有する(すなわち、静止時により高い粘度を有する)樹脂を使用することが有利である。この性質は、流動増粘液体を添加することによって、又は不活性充填剤を添加することによって、あるいは2つのアプローチの組み合わせによって得られる。
【0053】
より一般的には、使用される樹脂は、熱可塑性又は熱硬化性樹脂であってもよく、難燃性であってもなくてもよく、UV耐性を有していても有していなくてもよく、土木構造物の表面及び炭素繊維の両方に接着する能力を有し、補強される表面4における任意の亀裂を塞ぐことができる。
【0054】
好ましくは、樹脂は、流体状態にあるときにチキソトロピー性であり、溶媒を含まない。
【0055】
好ましくは、樹脂は流体状態のゲルである。
【0056】
有利には、周囲温度で硬化する樹脂が使用される。
【0057】
さらに、土木構造物の材料(コンクリート、金属、木材)が何であれ、同じ樹脂を使用できることに留意されたい。
【0058】
2つの異なる粒径の粒状要素を有する樹脂の適用は、支持体への良好な接着のための十分な粘度及び乾燥布の良好な保持(天井に適用される場合でさえ)の両方を確実にすることを可能にし、同時に、布の良好な含浸を可能にするのに十分小さい粒径を有する。
【0059】
第2の粒径よりも大きい第1の粒径を有する樹脂の適用は、所望の粘度を得ることを可能にし、粒状要素(すなわち、不活性充填剤)は、支持体に付着し、布の重量を支持するのに十分な稠度を与える。
【0060】
押し下げ中、樹脂はフィラメント間の隙間に移動する。樹脂は、粒状要素の存在にもかかわらず、布の隙間に浸透する。
【0061】
小さいか又は0でさえある、第2の粒径を有する樹脂の封止層の押し下げられた布への適用は、樹脂が深くかつ少なくとも支持体に適用された第1の層まで浸透できることを確実にする。
【0062】
したがって、一方では支持体への第1の層の適用、及び押し下げられた布への、封止層と呼ばれる樹脂の第2の層の適用は、一方では支持体に結合し、他方では複合材のマトリックスを構成するように正しく飽和された(又は含浸された)複合材を得ることを可能にする。
【0063】
したがって、すでに示したように、高い坪量、すなわち、600g/m2以上、又はさらに厳密には600g/m2超、及びさらに700g/m2以上、1500g/m2までの面積重量を有する乾燥布を使用することが可能である。
【0064】
好ましくは、成分(ベース樹脂及び硬化剤)の混合後に得られる樹脂は、環状ダクトプレートツープレートブルックフィールドレオメーターによって測定して、1s-1の回転速度で15~25Pa・sの、10s-1の回転速度で3~5Pa・sの剪断速度を与える23℃でのブルックフィールド粘度を有する。
【0065】
既に示したように、第1の粒径は、厳密には隙間よりも小さい。
【0066】
さらに、第2の粒径は、第1のものよりも小さい又は0である。
【0067】
例えば、第1の粒径は、1μm以下、好ましくは0.1μm以下である。
【0068】
ほとんどの場合、特にゼロ粒径の場合、樹脂は、流動増粘性を有する液体添加剤などの増粘剤を含有してもよい。混合は、高乱流解膠ミキサーを使用して、一方では硬化剤に対して、他方では樹脂に対して別々に行われる。
【0069】
粒径が0でない場合、不活性充填剤などの粒状要素を使用して樹脂(及び硬化剤)を増粘する。前述のように、混合は、高乱流解膠ミキサーを使用して、一方では硬化剤に対して、他方では樹脂に対して別々に行われる。これらの混合操作は、作業場又は工場で行われるので、ベース樹脂及び硬化剤の混合のみが、単純なミキサーを使用して適用場所で行われる。
【0070】
粒状要素は、ナノ粒子などの非常に微細な粒子であるか、より低コストのために、シリカなどの非常に微細な粒径を有する充填剤要素、例えば、0.04~0.99μmの範囲の最大粒径を有するヒュームドシリカ及び親水性シリカである。
【0071】
有利には、不活性充填剤又は粒状要素は、ベース樹脂の場合及び硬化剤の場合、2重量%~12重量%、好ましくは5重量%~10重量%の割合で添加される。
【0072】
このようにして得られたものは、流れることなくかなりの厚さ(0.7~0.9mm)にわたって天井に付着したままでいることができる樹脂である。
【0073】
有利には、粒状要素は、0.06μmより小さい寸法、すなわち、間隙のサイズより約30倍小さい寸法を有する。
【0074】
本発明によるゲルの形態でこのように配合された樹脂を用いて、手動で押し下げる低い圧力は、樹脂をフィラメント状の隙間に移動させるのに十分であり、1200g/m2の布に対して75%程度の飽和レベルを得ることを可能にする。