(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-07
(45)【発行日】2022-07-15
(54)【発明の名称】可視光活性触媒粉末
(51)【国際特許分類】
B01J 35/02 20060101AFI20220708BHJP
B01J 37/34 20060101ALI20220708BHJP
B01J 23/652 20060101ALI20220708BHJP
【FI】
B01J35/02 J ZNM
B01J35/02 H
B01J37/34
B01J23/652 M
(21)【出願番号】P 2021504468
(86)(22)【出願日】2019-01-11
(86)【国際出願番号】 KR2019000493
(87)【国際公開番号】W WO2020022594
(87)【国際公開日】2020-01-30
【審査請求日】2021-01-26
(31)【優先権主張番号】10-2018-0087199
(32)【優先日】2018-07-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2018-0157234
(32)【優先日】2018-12-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】509286787
【氏名又は名称】エルエックス・ハウシス・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】LX HAUSYS,LTD.
【住所又は居所原語表記】98, Huam-ro, Jung-gu, Seoul, Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】110002321
【氏名又は名称】弁理士法人永井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】イ,ヨプ
(72)【発明者】
【氏名】キム,ヒョジュン
(72)【発明者】
【氏名】イ,ドンイル
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-188240(JP,A)
【文献】特開2009-160566(JP,A)
【文献】国際公開第2015/146830(WO,A1)
【文献】Solid State Sciences,Vol. 13,pp. 1748-1754
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 - 38/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複合粒子を含む可視光活性触媒粉末であって、
前記複合粒子は、白金粒子;タングステン酸化物粒子;とを含み、
前記タングステン酸化物粒子は、前記白金粒子を担持し、
前記可視光活性触媒粉末に対して測定された、Ptの4f
7/2に対するXPSスペクトルは、フォークト(Voigt)関数を介して少なくとも一つの正規分布が抽出され、フォークト関数を介して抽出された一つの正規分布が、結合エネルギー70.8eV~71.2eVで第1ピークを有する第1正規分布であり、
前記Ptの4f
7/2に対するXPSスペクトルの積分面積対前記第1正規分布の積分面積の割合が85%以上で
あり、
前記フォークト(Voigt)関数を介して正規分布抽出時、R
2
値が0.999以上である、
可視光活性触媒粉末。
【請求項2】
前記Ptの4f
7/2に対するXPSスペクトルは、前記第1正規分布と一致するか、または、
前記第1正規分布と共に、結合エネルギー71.8eV~72.2eVで第2ピークを有する第2正規分布が、前記Ptの4f
7/2に対するXPSスペクトルから前記フォークト関数を介して抽出される、
請求項1に記載の可視光活性触媒粉末。
【請求項3】
前記複合粒子の直径が、1マイクロメートル以下である、
請求項1に記載の可視光活性触媒粉末。
【請求項4】
前記白金粒子の直径が、1ナノメートル~10ナノメートルである、
請求項1に記載の可視光活性触媒粉末。
【請求項5】
前記
タングステン酸化物粒子100重量部に対し前記白金粒子の含量が0.01重量部~5重量部である、
請求項1に記載の可視光活性触媒粉末。
【請求項6】
(a)タングステン酸化物粉末を白金前駆体溶液に混合して、スラリー溶液を準備した後、前記スラリー溶液を光照射して、1次光反応を進めるステップ;及び、
(b)前記スラリー溶液にアルコールを添加した後、光照射して、2次光反応を進めるステップとを含む、
可視光活性触媒粉末の製造方法であって、
前記可視光活性触媒粉末に対して測定された、Ptの4f
7/2に対するXPSスペクトルは、フォークト(Voigt)関数を介して少なくとも一つの正規分布が抽出され、フォークト関数を介して抽出された一つの正規分布が、結合エネルギー70.8eV~71.2eVで第1ピークを有する第1正規分布であり、前記Ptの4f
7/2に対するXPSスペクトルの積分面積対前記第1正規分布の積分面積の割合が85%以上で
あり、
前記フォークト(Voigt)関数を介して正規分布抽出時、R
2
値が0.999以上であり、
前記1次光反応を進める時間対前記2次光反応を進める時間の比が2:1~12:1である、
可視光活性触媒粉末の製造方法。
【請求項7】
前記1次光反応は、4時間~24時間行う、
請求項6に記載の可視光活性触媒粉末の製造方法。
【請求項8】
前記1次光反応及び前記2次光反応は、前記スラリー溶液の内部に不活性気体を注入して攪拌しながら進める、
請求項6に記載の可視光活性触媒粉末の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
可視光活性触媒粉末に関する。
【背景技術】
【0002】
代表的な光触媒物質であるTiO2は、耐久性、耐磨耗性に優れ、安全かつ無毒な物質であり、安価であるという長所を有する。一方、バンドギャップエネルギーが大きく、紫外線以下の光のみを吸収することができるため、別途の紫外線供給装置と共に使用するか、紫外線が豊富な室外で使用しなければならず、室内またはLED下で適用するのに限界がある。
【0003】
かかる側面から、室内への適用を目的として可視光線を吸収することのできる可視光線に光活性を有する触媒及びその製造方法に対する研究が数々進められてきた。しかしながら、数多くの研究事例における一貫した傾向を見出しにくく、特に、実際の居住条件で性能が検証された結果を見出しにくい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の一具現例は、可視光応答性が向上し、より向上した光触媒性能を有する可視光活性触媒粉末を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一具現例において、複合粒子を含む可視光活性触媒粉末であって、前記複合粒子は、白金粒子;タングステン酸化物粒子;とを含み、前記タングステン酸化物粒子は、前記白金粒子を担持し、前記可視光活性触媒粉末に対して測定された、Ptの4f7/2に対するXPSスペクトルは、フォークト(Voigt)関数を介して少なくとも一つの正規分布が抽出され、フォークト関数を介して抽出された一つの正規分布は、結合エネルギー70.8eV~71.2eVで第1ピークを有する第1正規分布であり、前記Ptの4f7/2に対するXPSスペクトルの積分面積対前記第1正規分布の積分面積の割合が85%以上である可視光活性触媒粉末を提供する。
【0006】
本発明の一具現例において、(a)タングステン酸化物粉末を白金前駆体溶液に混合して、スラリー溶液を準備した後、前記スラリー溶液に光照射して、1次光反応を進めるステップ;及び(b)前記スラリー溶液にアルコールを添加した後、光照射して、2次光反応を進めるステップとを含む可視光活性触媒粉末の製造方法であって、前記可視光活性触媒粉末に対して測定された、Ptの4f7/2に対するXPSスペクトルは、フォークト(Voigt)関数を介して少なくとも一つの正規分布が抽出され、フォークト関数を介して抽出された一つの正規分布は、結合エネルギー70.8eV~71.2eVで第1ピークを有する第1正規分布であり、前記Ptの4f7/2に対するXPSスペクトルの積分面積対前記第1正規分布の積分面積の割合が85%以上である可視光活性触媒粉末の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0007】
前記可視光活性触媒粉末は、可視光応答性がさらに向上し、光触媒効率に優れて、製造工程上の経済性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一具現例による可視光活性触媒粒子の模式図。
【
図2】実施例1から得た可視光活性触媒粉末に対して測定された、Ptの4f
7/2に対するXPS分析グラフ。
【
図3】実施例2から得た可視光活性触媒粉末に対して測定された、Ptの4f
7/2に対するXPS分析グラフ。
【
図4】比較例1から得た可視光活性触媒粉末に対して測定された、Ptの4f
7/2に対するXPS分析グラフ。
【
図5】比較例2から得た可視光活性触媒粉末に対して測定された、Ptの4f
7/2に対するXPS分析グラフ。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下では、本発明の具現例を詳説する。但し、これは例示として提示されるものであり、これによって本発明が制限されるものではなく、本発明は、後述する請求項の範疇によって定義されるだけである。
【0010】
本発明の一具現例において、複合粒子を含む可視光活性触媒粉末を提供する。前記複合粒子は、白金粒子;タングステン酸化物粒子;とを含み、前記タングステン酸化物粒子は、前記白金粒子を担持する。
【0011】
前記可視光活性触媒粉末は、前記複合粒子の集合体として形成されうる。
【0012】
前記可視光活性触媒粉末に対して測定された、Ptの4f7/2に対するXPSスペクトルは、フォークト(Voigt)関数を介して少なくとも一つの正規分布が抽出され、フォークト関数を介して抽出された一つの正規分布は、70.8~71.2で第1ピークを有する第1正規分布であり、前記Ptの4f7/2に対するXPSスペクトルの積分面積対前記第1正規分布の積分面積の割合が85%以上であってもよい。
【0013】
一具現例において、前記Ptの4f7/2に対するXPSスペクトルは、前記第1正規分布と一致し得るし、この場合、前記Ptの4f7/2に対するXPSスペクトルの積分面積対前記第1正規分布の積分面積の割合が100%となる。
【0014】
一具現例において、前記第1正規分布と共に、71.8~72.2で第2ピークを有する第2正規分布は、前記Ptの4f7/2に対するXPSスペクトルから前記フォークト関数を介して抽出されうるし、この場合、前記Ptの4f7/2に対するXPSスペクトルの積分面積対前記第1正規分布の積分面積の割合が85%以上~100%未満であってもよい。
【0015】
前記Ptの4f7/2に対するXPSスペクトルからフォークト関数を介して抽出された正規分布として、前記第1正規分布及び前記第2正規分布のほか、さらに他の正規分布が存在し得る。
【0016】
前記Ptの4f7/2に対するXPS(X-ray Photoelectron Spectroscopy)スペクトルは、Sigma Probe社製のESCAのXPS測定装置を用いることができる。
【0017】
前記第1正規分布と前記第2正規分布は、前記可視光活性触媒粉末に対して測定された、Ptの4f7/2に対するXPSスペクトルからフォークト(Voigt)関数を介して抽出して得るし、例えば、Voigt amplitudeを利用し、R2値が0.999以上となるようにして得ることができる。
【0018】
前記複合粒子は、前記タングステン酸化物粒子の表面にナノサイズの白金粒子が担持された形態に形成される。
【0019】
前記白金粒子は、後述する製造方法による場合、白金前駆体から還元して形成される。例えば、前記白金前駆体がH2PtCl6である場合、Ptの酸化数は+4であり、このようなPt4+イオンが還元して、前記複合粒子のうち白金粒子で形成される。前記複合粒子のうち白金粒子は、還元して酸化数が0になるからこそ、可視光活性作用を効果的に生じさせることが可能である。酸化数が0である白金粒子は、イオンでない金属状態で担持されたものを意味する。
【0020】
しかし、前記複合粒子のうち一部の白金粒子は、酸化数が+2であるものも発生する。製造工程中で、白金の還元が不完全に行われて生成されるPt2+のようなイオン状態の白金粒子は、前記複合粒子の光触媒反応時、助触媒としてしっかりと作動せず、却って有害ガス除去反応のような光触媒反応を妨げて、全体効率を低下させる。すなわち、イオン状態で担持された白金粒子は、複合粒子の可視光活性触媒としての光触媒反応を妨げるため、性能低下を引き起こし得る。また、かかるイオン状態で担持された白金粒子の含量が多くなれば、高価な白金前駆体を浪費したともいえる。
【0021】
図1は、本発明の一具現例による複合粒子10を模式的に示した断面図である。
【0022】
図1において、前記複合粒子10は、タングステン酸化物粒子1及び白金粒子2を含む。便宜上、
図1において、前記白金粒子2は、酸化数によって区別して示していないものの、酸化数が0でない場合、又は酸化数が+2である場合の白金粒子は、酸化数が0である白金粒子と混在する。
【0023】
前記複合粒子10は、光を吸収して得たエネルギーから生成された電子と正孔が、スーパーオキシドアニオン又はヒドロキシ基などのような表面活性酸素を生成することにより、空気清浄、脱臭、抗菌作用することができる物質である。例えば、前記複合粒子の光活性作用によって生成されたスーパーオキシドアニオン又はヒドロキシ基は、アセトアルデヒド、アンモニア、ホルムアルデヒド、酢酸、TVOCなどのような有害物質を分解することができ、大膓菌、黄色ブドウ球菌などの細菌に対する抗菌作用が可能である。
【0024】
前記複合粒子10は、紫外線のみならず、可視光線によっても活性となり得、室内光源でも優れた効率を示すことができるため、別途の紫外線供給装置を要しないこともある。
【0025】
前記複合粒子は、白金粒子全体の中で酸化数が0である白金粒子の含量が高いため、優れた可視光活性作用がある。よって、前記可視光活性触媒粉末は、製造工程上の経済性を向上させて、前駆体の浪費を減らすことができる。
【0026】
一方、前記複合粒子は、酸化数が0である白金粒子の含量が多くなるにつれて光触媒性能が向上し、有害ガス分解時に、反応中間体の完全分解率を高める長所を有し得る。すなわち、前記可視光活性触媒粉末によって有害ガスを分解するとき、反応中間体が水とCO2とに完全分解される確率が高くなる。
【0027】
前記Ptの4f7/2に対するXPSスペクトルは、前記可視光活性触媒粉末の中に含まれた白金粒子の4f電子殻に属する電子らの結合エネルギー(binding energy)に対して測定されたものである。前記第1正規分布は、結合エネルギーが70.8eV~71.2eVで、具体的には、約71.0eV前後でピークを有するため、酸化数が0である白金粒子に関し、前記第2正規分布は、結合エネルギー(Binding Energy)が71.8eV~72.2eVで、具体的には、約72.0eV前後で第2ピークを有するため、酸化数が+2である白金粒子に関する。
【0028】
すなわち、前記Ptの4f7/2に対するXPSスペクトルは、酸化数が0である白金粒子のみならず、他の酸化数を有する白金粒子をいずれも含む結果と示されるため、前記第1正規分布と前記第2正規分布で抽出して、酸化数が0である白金粒子と、酸化数が+2である白金粒子の含量比が分かる。
【0029】
前記第1正規分布の積分面積及び前記第2正規分布の積分面積を対比して、酸化数が0である白金粒子と、酸化数が+2である白金粒子の質量比が得られる。前記可視光活性触媒粉末において、前記第1正規分布の積分面積及び前記第2正規分布の積分面積の総計において、前記第1正規分布の積分面積の割合は、85%以上、具体的には90%~100%となり得る。
【0030】
前記可視光活性触媒粉末における白金粒子は、ほとんどの酸化数が0である白金粒子で形成され、前記Ptの4f7/2に対するXPSスペクトルは、それ自体として前記第1正規分布になり得るし、この場合、前記Ptの4f7/2に対するXPSスペクトルの積分面積対前記第1正規分布の積分面積の割合は、100%である(後述する実施例1の場合を参照)。
【0031】
前記Ptの4f7/2に対するXPSスペクトルからフォークト(Voigt)関数を介して抽出された正規分布には、第1正規分布と第2正規分布のほかにも、他の酸化数を有する白金に対する正規分布がさらに抽出されうる。しかし、酸化数が0である白金粒子の含量が高くなるほど、光触媒性能に優れるため、他の酸化数を有する白金粒子に対する正規分布も存在しないか、その積分面積が相対的に小さいのが好ましい。
【0032】
前記第1正規分布及び前記第2正規分布は、R2値が0.999以上に得られたものであって、正規分布フィッティングの正確度に優れる。
【0033】
前記タングステン酸化物粒子1は、担持体として例えば、ゾルゲル法や、水熱合成法(hydrothermal method)により球状、板状又は針状の粒子で形成されうるが、その形状に制限されるものではない。
【0034】
前記タングステン酸化物粒子1は、可視光活性性能に優れる。
【0035】
前記白金粒子2は、前記多孔性金属酸化物に光蒸着法により担持されうるが、これに制限されるものではない。
【0036】
前記白金粒子2は、助触媒として作用し、光を吸収して得たエネルギーから電子と正孔の分離を容易にする。
【0037】
前記複合粒子10の製造時に使用されるタングステン酸化物粒子1の平均直径は、SEMイメージ分析のような電子顕微鏡測定により計算されうるし、例えば、平均直径は、約30ナノメートル(nm)~約500ナノメートル(nm)であるものを用いることができる。前記タングステン酸化物粒子1の平均直径が、前記範囲を超えて大きすぎると、前記可視光活性触媒粉末を溶媒に分散させたとき、安定したコーティング液を形成することが不可能であり、前記可視光活性触媒粉末を利用するフィルタ製造時、前記可視光活性触媒粉末をコーティングする工程に不都合でありうる。前記タングステン酸化物粒子1の直径が、前記範囲未満と小さすぎると、前記白金粒子2が安定して担持されにくいことがある。
【0038】
前記複合粒子10の平均粒径(particle diameter)は、約1マイクロメートル(μm)以下であり、具体的には、約0.2マイクロメートル~約1マイクロメートルであってもよく、例えば、約0.4マイクロメートル~約0.5マイクロメートルであってもよい。前記複合粒子10の平均粒径は、粒度分析機(Beckman、LS 13 320)で可視光活性触媒の約4wt%水分散液に対する測定から得られる。また、前記可視光活性触媒粒子10の最大粒径は、約10マイクロメートル以下となるようにする。
【0039】
前記可視光活性触媒粒子10は、前記タングステン酸化物粒子1を100重量部及び前記白金粒子2を約0.01~約5重量部含んでいてもよい。前記範囲内の重量比でこれらの含量を調節することにより、前記タングステン酸化物粒子1は、可視光線によって電子と正孔を十分生成し、かつ前記白金粒子2が生成された電子と正孔の再結合を十分防止して、光触媒活性効率を効果的に向上させることができる。
【0040】
前記タングステン酸化物粒子1の含量が、前記含量範囲を超えると、可視光線によって生成された電子と正孔が容易に再結合することができ、これらの分離が難しくて、光触媒活性を十分示すことができず、前記含量範囲の未満である場合は、前記タングステン酸化物粒子1から転移する電子の数が十分に確保されず、光触媒活性が低下するおそれがあり、前記タングステン酸化物粒子1の光に対する露出面積が減少して、光触媒性能が低下し得る。
【0041】
前記タングステン酸化物粒子1の比表面積は、約50m2/g~約500m2/gであってもよい。前記範囲内の高い水準の比表面積を有することで、可視光線などの光源に効果的に露出することができ、かつ、気孔率を好適な水準に形成して、前記白金粒子2を十分担持することができる。
【0042】
以下では、本発明の一具現による可視光活性触媒粉末を製造する方法を具体的に説明する。
【0043】
前記可視光活性触媒粉末を製造する方法は、下記(a)~(c)ステップを順々に行って進められる。
【0044】
(a)タングステン酸化物粉末を白金前駆体溶液に混合して、スラリー溶液を準備した後、前記スラリー溶液を光照射して、1次光反応を進める。
【0045】
(b)前記スラリー溶液にアルコールを添加した後、光照射して、2次光反応を進める。
【0046】
前記(a)のステップにおいて、タングステン酸化物粉末は、反応面積を最大にするために、マイクロ単位以下の水準となるように粉砕して準備する。
【0047】
前記白金前駆体溶液を製造するための白金前駆体化合物は、光照射により励起された電子によって白金に還元し得る物質を用いることができ、水溶液に溶解される塩化合物が制限なく使用されうるし、具体的には、PtCl2、PtCl4、PtBr2、H2PtCl6、K2(PtCl4)、Pt(NH3)4Cl2、Pt(NH3)4(OH)2、Pt(NH3)4(NO3)2、Pt(NH3)2(NO2)2、H2Pt(OH)6、Na2Pt(OH)6、K2Pt(OH)6などが挙げられる。
【0048】
例えば、前記白金前駆体溶液の濃度は、酸化タングステン粒子100重量部対白金の含量が約0.01重量部~約5重量部となるように、前記タングステン酸化物粉末に対する相対含量により調節することができる。
【0049】
前記(a)のステップの1次光反応中に、白金前駆体から分離された白金イオンがタングステン酸化物粒子の表面に付着し、前記(b)ステップの2次光反応中に、前記タングステン酸化物粒子の表面に付着した白金イオンの還元反応が主に起こるようになるものと理解される。
【0050】
最後に得られる可視光活性触媒粉末が、前述したPtの4f7/2に対するXPS分析結果を示すようにするためには、酸化数を有する白金粒子に比べて、酸化数0に還元しきれた白金粒子の割合がさらに高くなるように形成しなければならない。
【0051】
このために、様々な工程条件を調節することにより、前述した本発明の可視光活性触媒粉末が得られるようになる。以下では、前述した本発明の可視光活性触媒粉末を合成することのできる具体的な工程条件を例示として説明する。
【0052】
先ず、前記1次光反応を進める時間(1次光反応時間)と、前記2次光反応を進める時間(2次光反応時間)との割合を調節することができる。
【0053】
前記2次光反応は、非常に早い速度で進められるため、酸化数0である白金粒子の最終形成比率に大きな影響を与えられないと理解され、却って、前記1次光反応時、白金イオンをタングステン酸化物粒子の表面に均一にしっかりと付着させることが、酸化数0である白金粒子の最終形成比率に影響を与えるようになる。
【0054】
したがって、前記1次光反応を十分な時間の間に進めて、反応を十分進めさせるようにすることが重要である。
【0055】
例えば、前記1次光反応は、4時間~24時間行うことができる。
【0056】
例えば、前記2次光反応は、2時間~6時間行うことができる。
【0057】
一具現例において、前記1次光反応時間が前記2次光反応時間よりも長く、具体的には、前記1次光反応時間対前記2次光反応時間の比が2:1~12:1であってもよい。
【0058】
また、前記光照射による(a)のステップ及び(b)のステップの各光反応を行う際、前記スラリー溶液を十分攪拌することが重要である。
【0059】
例えば、前記スラリー溶液の内部に窒素のような不活性気体を注入して、光反応を進めるうちに、前記スラリー溶液が攪拌されるようにすることができる。
【0060】
前記不活性気体の注入流量と注入方法及び位置によって光反応がうまく進むように助けることができる。例えば、前記スラリー溶液の内部へ注入される不活性気体の流量は、5L/min~30L/minであってもよい。
【0061】
一具現例において、前記不活性気体として窒素を用いることができる。窒素気体を活用して、前記スラリー溶液を攪拌すれば、機械的攪拌に比べて攪拌効率に優れ、前記スラリー溶液内の酸素を除去する副次的効果まで得られる利点がある。
【0062】
前記(a)のステップにおいて、前記スラリー溶液を準備するとき、タングステン酸化物粉末の濃度が1~10wt%となるようにすることができる。
【0063】
前記(b)のステップにおいて、前記アルコールの添加割合は、前記スラリー溶液のうち1~30wt%となるようにすることができる。
【0064】
例示として、前記スラリー溶液の粘度は、25℃で約5.0cP~約8.0cPであってもよい。前記スラリー溶液の粘度は、Brookfield粘度計(Spindle No.:61番、速度:200rpm、測定時間:30秒)を利用して測定することができる。
【0065】
例えば、1次光反応時、前記光照射の強さは、約5,000lux~約100,000luxであってもよく、2次光反応時、光照射の強さを前記1次光反応の光照射の強さよりも高くすることができる。具体的には、前記2次光照射の強さは、前記1次光照射の強さに比べて1倍~10倍、具体的には3~5倍高くてもよい。
【0066】
2次光照射後、選択的に遠心分離などによる触媒回収、乾燥を行う。
【0067】
以下では、本発明の実施例及び比較例を記載する。このような下記の実施例は、本発明の一実施例に過ぎないし、本発明が下記の実施例に限定されるものではない。
【0068】
(実施例)
実施例1
水93wt%に酸化タングステン粉末7wt%が分散された溶液を製造した。平均粒径1μmの酸化タングステン粉末分散溶液に塩化白金酸(H2PtCl6)の10wt%水溶液である担持原料を混合して、酸化タングステン粉末100重量部に対し白金の含量が1重量部となるようにスラリー溶液を製造した。
【0069】
前記スラリー溶液に対して、Brookfield粘度計(Spindle No.:61番、速度:200rpm、測定時間:30秒)を利用して測定した粘度は、25℃で6.2cPであった。
【0070】
次いで、前記スラリー溶液を光反応器に投入し、気体発生器を光反応器に連結するように設置した後、続けて前記1次光照射及び2次光照射をするうちに、前記気体発生器から発生した窒素が、前記スラリー溶液の内部へ直接注入されるようにして、窒素によって前記スラリー溶液が攪拌されるようにした。投入される窒素の純度は、98.00%、流量は、10L/minであった。
【0071】
可視光照射装置を利用して、400nm~700nmの可視光線光エネルギーを前記光反応器内の前記スラリー溶液に照射して、1次光反応を6時間行った。次いで、2分ほど可視光照射を遮断し、メタノールの割合が前記スラリー溶液中5wt%となるように添加した後、前記1次光反応と同様の照射装置を利用して、可視光線光エネルギーを前記光反応機内の前記スラリー溶液に2時間照射して、2次光反応を行うことにより、白金粒子を酸化タングステン粒子に担持させて、可視光活性光触媒粉末を製造した。
【0072】
実施例2
1次光反応を4時間行い、2次光反応を2時間行った点を除いて、実施例1と同じ方法により可視光活性光触媒粉末を製造した。
【0073】
比較例1
1次光反応を2時間行い、2次光反応を3時間行った点を除いて、実施例1と同じ方法により可視光活性光触媒粉末を製造した。
【0074】
比較例2
1次光反応を4時間行い、2次光反応を2時間行い、窒素がスラリー溶液内に直接注入されずに、光反応器内の前記スラリー溶液の上部に投入されて、スラリー溶液を機械的に攪拌させた点を除いて、可視光活性光触媒粉末を製造した。
【0075】
評価
実験例1:XPS分析
実施例1及び比較例1~2から得た可視光活性触媒粉末に対して、X-ray Photoelectron Spectroscopy(Sigma Probe社ESCA)を利用して、Ptの4f7/2に対するXPSスペクトルを得た。前記得られたPtの4f7/2に対するXPSスペクトルに対して、Voigt amplitudeによってフィッティングして、正規分布を抽出した。
【0076】
図2は、実施例1の結果であって、曲線Aは、Ptの4f
7/2に対するXPSスペクトルであり、曲線Bは、約70.9でピークを有する第1正規分布に相当する。
図2における抽出された正規分布のR
2は、0.99997である。
図2において曲線Aと曲線Bは、ほぼ一致している。
【0077】
図3は、実験例2の結果であって、曲線Aは、Ptの4f
7/2に対するXPSスペクトルであり、曲線Bは、約70.9でピークを有する第1正規分布に相当し、曲線Cは、約72.0でピークを有する第2正規分布に相当する。
図3における抽出された正規分布のR
2は、0.99993である。
【0078】
図4は、比較例1の結果であって、曲線Aは、Ptの4f
7/2に対するXPSスペクトルであり、曲線Bは、約70.9でピークを有する第1正規分布に相当し、曲線Cは、約72.0でピークを有する第2正規分布に相当する。
図4における抽出された正規分布のR
2は、0.99991である。
【0079】
図5は、比較例2の結果であって、曲線Aは、Ptの4f
7/2に対するXPSスペクトルであり、曲線Bは、約70.9でピークを有する第1正規分布に相当し、曲線Cは、約72.0でピークを有する第2正規分布に相当する。
図5における抽出された正規分布のR
2は、0.99994である。
【0080】
図2~
図5において、Ptの4f
7/2に対するXPSスペクトルの積分面積対第1正規分布の積分面積の割合を計算して、下記の表1に示した。
【0081】
【0082】
実験例2
実施例1-2及び比較例1-2で製作された可視光活性触媒粉末の性能評価は、以下に説明するガス袋評価により行った。
【0083】
ガス袋に、可視光活性触媒粉末0.5g入れ容器を入れて密封した後、残っていた気体を抜き、アセトアルデヒド3ppmガスを3L注入した。光源の照度は、25,000luxとした。注入前のガスと、注入してから30分後のガスをDNPH(2,4-ジニトロフェニルヒドラジン、2,4-dinitrophenylhydrazine)カートリッジに捕集し、高性能液体クロマトグラフィー(HPLC,high performance liquid chromatography)でアセトアルデヒド濃度を分析して、各サンプル別アセトアルデヒド除去性能を計算した。
【0084】
評価結果を下記の表2に示した。
【0085】
【0086】
以上にて、本発明の好ましい実施例について詳説したが、本発明の権利範囲は、これに限定されるものではなく、次の請求範囲で定義する本発明の基本概念を利用した当業者の様々な変形及び改良形態も本発明の権利範囲に属するものである。
【符号の説明】
【0087】
1 タングステン酸化物粒子
2 白金粒子
10 複合粒子