(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-07
(45)【発行日】2022-07-15
(54)【発明の名称】塊状窒化ホウ素粒子、熱伝導樹脂組成物及び放熱部材
(51)【国際特許分類】
C01B 21/064 20060101AFI20220708BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20220708BHJP
C08K 3/38 20060101ALI20220708BHJP
C08K 5/544 20060101ALI20220708BHJP
C08K 5/541 20060101ALI20220708BHJP
C08K 3/28 20060101ALI20220708BHJP
【FI】
C01B21/064 M
C01B21/064 B
C08L101/00
C08K3/38
C08K5/544
C08K5/541
C08K3/28
(21)【出願番号】P 2021509521
(86)(22)【出願日】2020-03-25
(86)【国際出願番号】 JP2020013386
(87)【国際公開番号】W WO2020196644
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2022-01-21
(31)【優先権主張番号】P 2019060324
(32)【優先日】2019-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100129746
【氏名又は名称】虎山 滋郎
(74)【代理人】
【識別番号】100135758
【氏名又は名称】伊藤 高志
(74)【代理人】
【識別番号】100154391
【氏名又は名称】鈴木 康義
(72)【発明者】
【氏名】竹田 豪
(72)【発明者】
【氏名】田中 孝明
【審査官】▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/066277(WO,A1)
【文献】特開2018-053009(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 15/00-23/00
C08L 101/00
C08K 3/38、3/28
C08K 5/541、5/544
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
六方晶窒化ホウ素一次粒子が凝集してなる塊状窒化ホウ素粒子であって、
スペーサー型カップリング剤を含
み、
前記スペーサー型カップリング剤の含有量が0.1~1.5質量%であり、
前記スペーサー型カップリング剤が、ビニル基、少なくとも1つのアルコキシ基と結合したケイ素原子及び前記ビニル基と前記ケイ素原子との間に配置された炭素数1~14のアルキレン基を有する塊状窒化ホウ素粒子。
【請求項2】
前記アルキレン基の炭素数が6~8である
請求項1に記載の塊状窒化ホウ素粒子。
【請求項3】
六方晶窒化ホウ素一次粒子が凝集してなる塊状窒化ホウ素粒子であって、
スペーサー型カップリング剤を含み、
前記スペーサー型カップリング剤の含有量が0.1~1.5質量%であり、
前記スペーサー型カップリング剤が、エポキシ基、アミノ基、ビニル基及び(メタ)アクリル基からなる群から選択される少なくとも1種の反応性有機基、少なくとも1つのアルコキシ基と結合したケイ素原子及び前記反応性有機基と前記ケイ素原子との間に配置された炭素数6~8のアルキレン基を有する塊状窒化ホウ素粒子。
【請求項4】
前記アルコキシ基と結合したケイ素原子がトリメトキシシランである
請求項1~3のいずれか1項に記載の塊状窒化ホウ素粒子。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の塊状窒化ホウ素粒子を含む熱伝導樹脂組成物。
【請求項6】
請求項5に記載の熱伝導樹脂組成物を用いた放熱部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塊状窒化ホウ素粒子、それを含む熱伝導樹脂組成物及びその熱伝導樹脂組成物を用いた放熱部材に関する。
【背景技術】
【0002】
パワーデバイス、トランジスタ、サイリスタ、CPU等の発熱性電子部品においては、使用時に発生する熱を如何に効率的に放熱するかが重要な課題となっている。従来から、このような放熱対策としては、(1)発熱性電子部品を実装するプリント配線板の絶縁層を高熱伝導化する、(2)発熱性電子部品又は発熱性電子部品を実装したプリント配線板を電気絶縁性の熱インターフェース材(Thermal Interface Materials)を介してヒートシンクに取り付ける、ことが一般的に行われてきた。プリント配線板の絶縁層及び熱インターフェース材としては、シリコーン樹脂やエポキシ樹脂にセラミックス粉末を充填させたものが使用されている。
【0003】
近年、発熱性電子部品内の回路の高速・高集積化、及び発熱性電子部品のプリント配線板への実装密度の増加に伴って、電子機器内部の発熱密度は年々増加している。そのため、従来にも増して高い熱伝導率を有するセラミックス粉末が求められてきている。
【0004】
以上のような背景により、高熱伝導率、高絶縁性、比誘電率が低いこと等、電気絶縁材料として優れた性質を有している、六方晶窒化ホウ素(Hexagonal Boron Nitride)粉末が注目されている。
【0005】
しかしながら、六方晶窒化ホウ素粒子は、面内方向(a軸方向)の熱伝導率が400W/(m・K)であるのに対して、厚み方向(c軸方向)の熱伝導率が2W/(m・K)であり、結晶構造と鱗片状に由来する熱伝導率の異方性が大きい。さらに、六方晶窒化ホウ素粉末を樹脂に充填すると、粒子同士が同一方向に揃って配向する。そうすると、樹脂中の六方晶窒化ホウ素粒子の厚み方向(c軸方向)がそろうことになる。
そのため、例えば、熱インターフェース材の製造時に、六方晶窒化ホウ素粒子の面内方向(a軸方向)と熱インターフェース材の厚み方向が垂直になり、六方晶窒化ホウ素粒子の面内方向(a軸方向)の高熱伝導率を十分に活かすことができなかった。
【0006】
特許文献1では、六方晶窒化ホウ素粒子の面内方向(a軸方向)を高熱伝導シートの厚み方向に配向させたものが提案されており、六方晶窒化ホウ素粒子の面内方向(a軸方向)の高熱伝導率を活かすことができる。
しかし、(1)配向したシートを次工程にて積層する必要があり製造工程が煩雑になり易い、(2)積層・硬化後にシート状に薄く切断する必要があり、シートの厚みの寸法精度を確保することが困難という課題があった。また、六方晶窒化ホウ素粒子の形状が鱗片形状であるため、樹脂への充填時に粘度が増加し、流動性が悪くなるため、高充填が困難であった。
これらを改善するため、六方晶窒化ホウ素粒子の熱伝導率の異方性を抑制した種々の形状の窒化ホウ素粉末が提案されている。
【0007】
特許文献2では、一次粒子の六方晶窒化ホウ素粒子が同一方向に配向せずに凝集した窒化ホウ素粉末の使用が提案されており、熱伝導率の異方性が抑制された。
その他凝集窒化ホウ素を製造する方法として、スプレードライ法で作製した球状窒化ホウ素(特許文献3)や炭化ホウ素を原料として製造した凝集体の窒化ホウ素(特許文献4)やプレスと破砕を繰り返し製造した凝集窒化ホウ素(特許文献5)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2000-154265号公報
【文献】特開平9-202663号公報
【文献】特開2014-40341号公報
【文献】特開2011-98882号公報
【文献】特表2007-502770号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、鱗片状の六方晶窒化ホウ素の平坦部分の表面は非常に不活性であるため、熱伝導率の異方性を抑制するために塊状とした窒化ホウ素粒子の表面も非常に不活性となる。このため、塊状の窒化ホウ素粒子及び樹脂を混合して放熱部材を作製したとき、窒化ホウ素粒子及び樹脂の間に隙間が生じる場合があり、これが放熱部材のボイドの原因となる。このようなボイドが放熱部材に生じると、放熱部材の熱伝導性が悪くなったり、絶縁破壊特性が低下したりする。
【0010】
そこで、本発明は、樹脂と混合して製造した放熱部材におけるボイドの発生を抑制できる塊状窒化ホウ素粒子、その塊状窒化ホウ素粒子を含む熱伝導樹脂組成物及びその熱伝導樹脂組成物を用いた放熱部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記の目的を達成すべく鋭意研究を進めたところ、有機材料と作用する有機の官能基と無機材料と作用する無機の官能基との間に有機鎖(スペーサー)を有するスペーサー型カップリング剤を使用して表面処理した塊状窒化ホウ素粒子を用いることにより、上記の目的を達成することができた。
本発明は、上記の知見に基づくものであり、以下を要旨とする。
[1]六方晶窒化ホウ素一次粒子が凝集してなる塊状窒化ホウ素粒子であって、スペーサー型カップリング剤を含む塊状窒化ホウ素粒子。
[2]前記スペーサー型カップリング剤の含有量が0.1~1.5質量%である上記[1]に記載の塊状窒化ホウ素粒子。
[3]前記スペーサー型カップリング剤が、エポキシ基、アミノ基、ビニル基及び(メタ)アクリル基からなる郡から選択される少なくとも1種の反応性有機基、少なくとも1つのアルコキシ基と結合したケイ素原子及び前記反応性有機基と前記ケイ素原子との間に配置された炭素数1~14のアルキレン基を有する上記[1]又は[2]に記載の塊状窒化ホウ素粒子。
[4]前記スペーサー型カップリング剤の反応性有機基がビニル基である上記[3]に記載の塊状窒化ホウ素粒子。
[5]前記アルキレン基の炭素数が6~8である上記[3]又は[4]に記載の塊状窒化ホウ素粒子。
[6]前記アルコキシ基と結合したケイ素原子がトリメトキシシランである上記[3]~[5]のいずれか1つに記載の塊状窒化ホウ素粒子。
[7]上記[1]~[6]のいずれか1つに記載の塊状窒化ホウ素粒子を含む熱伝導樹脂組成物。
[8]上記[7]に記載の熱伝導樹脂組成物を用いた放熱部材。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、樹脂と混合して製造した放熱部材におけるボイドの発生を抑制できる塊状窒化ホウ素粒子、その塊状窒化ホウ素粒子を含む熱伝導樹脂組成物及びその熱伝導樹脂組成物を用いた放熱部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、実施例1の放熱部材の電子顕微鏡による断面観察写真を示す。
【
図2】
図2は、比較例1の放熱部材の電子顕微鏡による断面観察写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[塊状窒化ホウ素粒子]
本発明は、六方晶窒化ホウ素一次粒子が凝集してなる塊状窒化ホウ素粒子であって、スペーサー型カップリング剤を含む。以下、本発明の塊状窒化ホウ素粒子を詳細に説明する。
【0015】
(比表面積)
本発明の塊状窒化ホウ素粒子のBET法により測定した比表面積は、好ましくは2~7m2/gである。塊状窒化ホウ素粒子のBET法により測定した比表面積が2m2/g以上であると、塊状窒化ホウ素粒子及び樹脂の間の接触面積を大きくすることができ、放熱部材におけるボイドの発生を抑制できる。また、高熱伝導性を発現させる凝集形態の維持が容易になり、絶縁破壊特性及び放熱部材の熱伝導性を改善することができる。一方、塊状窒化ホウ素粒子のBET法により測定した比表面積が7m2/g以下であると、塊状窒化ホウ素粒子を高充填で樹脂に加えることができ、放熱部材におけるボイドの発生を抑制できるとともに、絶縁破壊特性を改善することができる。上記観点から、塊状窒化ホウ素粒子のBET法により測定した比表面積は、より好ましくは2~6m2/gであり、さらに好ましくは3~6m2/gである。なお、塊状窒化ホウ素粒子のBET法により測定した比表面積は、後述の各種測定方法の項目に記載の方法で測定することができる。
【0016】
(圧壊強度)
本発明の塊状窒化ホウ素粒子の圧壊強度は、好ましくは5MPa以上である。塊状窒化ホウ素粒子の圧壊強度が5MPa以上であると、樹脂との混練時やプレス時などに応力で塊状窒化ホウ素粒子が崩れてしまうことを抑制でき、塊状窒化ホウ素粒子が崩れによる熱伝導率の低下を抑制できる。上記観点から、塊状窒化ホウ素粒子の圧壊強度は、より好ましくは6MPa以上であり、さらに好ましくは7MPa以上である。なお、塊状窒化ホウ素粒子の圧壊強度の範囲の上限値は、特に限定されないが、例えば30MPaである。また、塊状窒化ホウ素粒子の圧壊強度は後述の各種測定方法の項目に記載の方法で測定することができる。
【0017】
(平均粒子径)
本発明の塊状窒化ホウ素粒子の平均粒子径は、好ましくは10~100μmである。塊状窒化ホウ素粒子の平均粒子径が10μm以上であると、塊状窒化ホウ素粒子を構成する六方晶窒化ホウ素一次粒子の長径を大きくすることができ、塊状窒化ホウ素粒子の熱伝導率を高くすることができる。また、放熱部材の絶縁破壊特性も向上する。一方、塊状窒化ホウ素粒子の平均粒子径が100μm以下であると、放熱部材を薄くすることができる。なお、熱の流量は熱伝導率と放熱部材の厚さに比例するので、薄い放熱部材が求められている。さらに、塊状窒化ホウ素粒子の平均粒子径が100μm以下であると、放熱させるべき対象物の表面に放熱部材を十分に密着させることができる。また、この場合も、放熱部材の絶縁破壊特性も向上する。上述の観点から、塊状窒化ホウ素粒子の平均粒子径は、より好ましくは15~90μmであり、さらに好ましくは20~80μmである。なお、塊状窒化ホウ素粒子の平均粒子径は、後述の各種測定方法の項目に記載の方法で測定することができる。
【0018】
(熱伝導率)
本発明の塊状窒化ホウ素粒は、例えば、パワーデバイス等の発熱性電子部品の放熱部材の原料として好適に用いられ、特にプリント配線板の絶縁層及び熱インターフェース材の樹脂組成物に充填されるものとして好適に用いられる。
【0019】
(六方晶窒化ホウ素一次粒子の厚さに対する長径の比(長径/厚さ))
本発明の塊状窒化ホウ素粒子における六方晶窒化ホウ素一次粒子の厚さに対する長径の比(長径/厚さ)は、好ましくは7~16である。六方晶窒化ホウ素一次粒子の厚さに対する長径の比(長径/厚さ)が7~16であると、放熱部材の絶縁破壊特性がさらに向上する。上述の観点から、六方晶窒化ホウ素一次粒子の厚さに対する長径の比(長径/厚さ)は、より好ましくは8~15であり、さらに好ましくは8~13である。なお、六方晶窒化ホウ素一次粒子の厚さに対する長径の比(長径/厚さ)は、六方晶窒化ホウ素一次粒子の長径の平均値を厚さの平均値で割り算した値である。また、六方晶窒化ホウ素一次粒子の長径の平均値及び厚さの平均値は、後述の各種測定方法の項目に記載の方法で測定することができる。
【0020】
(六方晶窒化ホウ素一次粒子の長径)
本発明の塊状窒化ホウ素粒子における六方晶窒化ホウ素一次粒子の長径の平均値は、好ましくは2~12μmである。六方晶窒化ホウ素一次粒子の長径の平均値が2μm以上であると、塊状窒化ホウ素粒子の熱伝導性が良好になる。また、六方晶窒化ホウ素一次粒子の長径の平均値が2μm以上であると、塊状窒化ホウ素粒子に樹脂が浸透しやすくなり、放熱部材のボイドの発生を抑制できる。一方、六方晶窒化ホウ素一次粒子の長径の平均値が12μm以下であると、塊状窒化ホウ素粒子の内部が密な構造となり、塊状窒化ホウ素粒子の圧壊強度を高めたり、塊状窒化ホウ素粒子の熱伝導性を改善したりすることができる。上述の観点から、六方晶窒化ホウ素一次粒子の長径の平均値は、より好ましくは3~11μmであり、さらに好ましくは3~10μmである。
【0021】
(スペーサー型カップリング剤)
上述したように、本発明の塊状窒化ホウ素粒子はスペーサー型カップリング剤を含む。これにより、塊状窒化ホウ素粒子と樹脂とを混合して製造した放熱部材におけるボイドの発生を抑制することができる。
【0022】
スペーサー型カップリング剤とは有機材料と作用する有機の官能基と無機材料と作用する無機の官能基との間に有機鎖を有するカップリング剤をいう。以下、この有機鎖を「スペーサー」と呼ぶ場合がある。有機鎖は、炭素数1以上の有機鎖であればよいが、好ましくは、例えば、炭素数1以上の直鎖のアルキレン基である。スペーサー型カップリング剤としては、金属アルコキシド、金属キレート、金属ハロゲン化物として、Si、Ti、Zr、Al含有の金属カップリング剤があり、特に限定されるものではなく、使用する樹脂に応じたスペーサー型カップリング剤を選択することが好ましい。スペーサー型カップリング剤として好ましい金属カップリング剤には、例えば、シランカップリング剤、チタンカップリング剤、ジルコニウムカップリング剤、アルミニウムカップリング剤等が挙げられる。これらの金属カップリング剤は1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。放熱部材におけるボイドの発生を抑制できるという観点から、これらの金属カップリング剤の中で、シランカップリング剤がより好ましい。
【0023】
シランカップリング剤は、有機材料と作用する有機官能性基と、無機材料と作用する加水分解性シリル基とを併せ持つ化合物であり、次の一般式(1)で表すことができる。
【化1】
式中、Xは反応性有機基、Yは加水分解性基、Rは有機鎖、nは0~2の整数である。有機鎖(R)があるのがスペーサー型シランカップリング剤である。
反応性有機基(X)には、例えば、エポキシ基、アミノ基、ビニル基、(メタ)アクリル基、メルカプト基等が挙げられる。加水分解性基(Y)には、例えば、アセトキシ基、オキシム基、アルコキシ基、アミド基、イソプロペノキシ基などが挙げられる。有機鎖(R)は、例えば、炭素数1以上のアルキレン基であり、好ましくは炭素数1~14のアルキレン基である。
【0024】
スペーサー型シランカップリング剤としてのシランカップリング剤の中でも、放熱部材におけるボイドの発生を抑制できるという観点から、反応性有機基、少なくとも1つのアルコキシ基と結合したケイ素原子、及び反応性有機基とケイ素原子との間に配置された炭素数1~14のアルキレン基を有するシランカップリング剤がより好ましい。
また、同様の観点から、シランカップリング剤の反応性有機基は、エポキシ基、アミノ基、ビニル基及び(メタ)アクリル基からなる群から選択される少なくとも1種の反応性有機基が好ましく、ビニル基がより好ましい。
さらに、絶縁破壊特性を改善するという観点から、反応性有機基とケイ素原子との間に配置されたアルキレン基の炭素数は、好ましくは2~12であり、より好ましくは3~11であり、さらに好ましくは4~10であり、よりさらに好ましくは5~9であり、とくに好ましくは6~8である。また、反応性有機基とケイ素原子との間に配置されたアルキレン基は直鎖であることが好ましい。
また、同様の観点から、上記少なくとも1つのアルコキシ基と結合したケイ素原子は、少なくとも2つのアルコキシ基と結合したケイ素原子であることが好ましく、3つのアルコキシ基と結合したケイ素原子であることが好ましい。また、アルコキシ基はメトキシ基及びエトキシ基が好ましく、メトキシ基がより好ましい。
【0025】
スペーサー型シランカップリング剤の具体例には、例えば、プロペニルトリメトキシシラン、プロペニルトリエトキシシラン、プロペニルメチルジメトキシシラン、プロペニルメチルジエトキシシラン、ブテニルトリメトキシシラン、ブテニルトリエトキシシラン、ブテニルメチルジメトキシシラン、ブテニルメチルジエトキシシラン、ペンテニルトリメトキシシラン、ペンテニルトリエトキシシラン、ペンテニルメチルジメトキシシラン、ペンテニルメチルジエトキシシラン、ヘキセニルトリメトキシシラン、ヘキセニルトリエトキシシラン、ヘキセニルメチルジメトキシシラン、ヘキセニルメチルジエトキシシラン、ヘプテニルトリメトキシシラン、ヘプテニルトリエトキシシラン、ヘプテニルメチルジメトキシシラン、ヘプテニルメチルジエトキシシラン、オクテニルトリメトキシシラン、オクテニルトリエトキシシラン、オクテニルメチルジメトキシシラン、オクテニルメチルジエトキシシラン、ノネニルトリメトキシシラン、ノネニルトリエトキシシラン、ノネニルメチルジメトキシシラン、ノネニルメチルジエトキシシラン、デケニルトリメトキシシラン、デケニルトリエトキシシラン、デケニルメチルジメトキシシラン、デケニルメチルジエトキシシラン、ウンデケニルトリメトキシシラン、ウンデケニルトリエトキシシラン、ウンデケニルメチルジメトキシシラン、ウンデケニルメチルジエトキシシラン、ドデケニルトリメトキシシラン、ドデケニルトリエトキシシラン、ドデケニルメチルジメトキシシラン、ドデケニルメチルジエトキシシラン等のビニル系シランカップリング剤、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、8-グリシドキシオクチルトリメトキシシラン等のエポキシ系シランカップリング剤、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-8-アミノオクチルトリメトキシシラン等のアミノ系シランカップリング剤、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、8-メタクリロキシオクチルトリメトキシシラン等の(メタ)アクリル系シランカップリング剤が挙げられる。これらのスペーサー型カップリング剤は、1種を単独で、2種以上を組み合わせて使用することができる。これらの中で、放熱部材におけるボイドの発生をより抑制できるという観点から、ビニル系シランカップリング剤が好ましい。これらのビニル系シランカップリング剤の中で、放熱部材の絶縁破壊特性を改善するという観点から、有機鎖が長いビニル系シランカップリング剤がより好ましく、具体的には、オクテニルトリメトキシシラン、オクテニルトリエトキシシラン、オクテニルメチルジメトキシシラン、オクテニルメチルジエトキシシラン、ノネニルトリメトキシシラン、ノネニルトリエトキシシラン、ノネニルメチルジメトキシシラン、ノネニルメチルジエトキシシラン、デケニルトリメトキシシラン、デケニルトリエトキシシラン、デケニルメチルジメトキシシラン、デケニルメチルジエトキシシランがより好ましく、オクテニルトリメトキシシラン、オクテニルトリエトキシシラン、オクテニルメチルジメトキシシラン、オクテニルメチルジエトキシシランがさらに好ましく、オクテニルトリメトキシシランがとくに好ましい。
【0026】
塊状窒化ホウ素粒子におけるスペーサー型カップリング剤の含有量は、好ましくは0.1~1.5質量%である。スペーサー型カップリング剤の含有量が0.1質量%以上であると、スペーサー型カップリング剤は放熱部材におけるボイドの発生の抑制に対して十分な効果を発揮する。一方、スペーサー型カップリング剤の含有量が1.5質量%以下であると、スペーサー型カップリング剤の含有量増加に伴う放熱部材の熱伝導率の低下を抑制することができる。上述の観点から、塊状窒化ホウ素粒子におけるスペーサー型カップリング剤の含有量は、より好ましくは0.2~1.2質量%であり、さらに好ましくは0.3~1.0質量%である。
【0027】
(塊状窒化ホウ素粒子の製造方法)
本発明の塊状窒化ホウ素粒子は、加圧窒化焼成工程、脱炭結晶化工程及び表面処理工程を含む塊状窒化ホウ素粒子の製造方法により製造することができる。以下、各工程を詳細に説明する。
【0028】
<加圧窒化焼成工程>
加圧窒化焼成工程では、平均粒子径が6μm以上55μm以下で炭素量18%以上21%以下の炭化ホウ素を加圧窒化焼成する。これにより、本発明の塊状窒化ホウ素粒子の原料として好適な炭窒化ホウ素を得ることができる。
【0029】
加圧窒化工程に使用する原料の炭化ホウ素
加圧窒化工程で使用する原料の炭化ホウ素の粒径が最終的にできる塊状窒化ホウ素粒子に強く影響するため、適切な粒径のものを選択する必要があり、平均粒子径6~55μmの炭化ホウ素を原料として使用することが望ましい。その際不純物のホウ酸や遊離炭素が少ないことが望ましい。
【0030】
原料の炭化ホウ素の平均粒子径は、好ましくは6μm以上であり、より好ましくは7μm以上であり、さらに好ましくは10μm以上であり、そして、好ましくは55μm以下であり、より好ましくは50μm以下であり、さらに好ましくは45以下μmである。また、原料の炭化ホウ素の平均粒子径は、好ましくは7~50μmであり、より好ましくは7~45μmである。なお、炭化ホウ素の平均粒子径は、上述の塊状窒化ホウ素粒子と同様の方法で測定することができる。
【0031】
加圧窒化工程で使用する原料の炭化ホウ素の炭素量は組成上のB4C(21.7%)より低いことが望ましく、18~21%の炭素量を有する炭化ホウ素を使用することが望ましい。炭化ホウ素の炭素量は、好ましくは18%以上であり、より好ましくは19%以上であり、そして、好ましくは21%以下であり、より好ましくは20.5%以下である。また、炭化ホウ素の炭素量は、好ましくは18%~20.5%である。炭化ホウ素の炭素量をこのような範囲にするのは、後述の脱炭結晶化工程の際に発する炭素量が少ない方が、緻密な塊状窒化ホウ素粒子が生成されるためであり、最終的にできる塊状窒化ホウ素粒子の炭素量を低くするためでもある。また炭素量18%未満の安定な炭化ホウ素を作製することは理論組成との乖離が大きくなり過ぎて困難である。
【0032】
原料の炭化ホウ素を製造する方法は、ホウ酸とアセチレンブラックとを混合したのち、雰囲気中、1800~2400℃にて、1~10時間加熱し、炭化ホウ素塊を得ることができる。この素塊を、粉砕後、篩分けし、洗浄、不純物除去、乾燥等を適宜行い、炭化ホウ素粉末を作製することができる。炭化ホウ素の原料であるホウ酸とアセチレンブラックとの混合は、ホウ酸100質量部に対して、アセチレンブラック25~40質量部であるのが好適である。
【0033】
炭化ホウ素を製造する際の雰囲気は、不活性ガスが好ましく、不活性ガスとして、例えば、アルゴンガス及び窒素ガスが挙げられ、これらを適宜単独で又は組み合わせてしようすることができる。このうち、アルゴンガスが好ましい。
【0034】
また、炭化ホウ素塊の粉砕は、一般的な粉砕機又は解砕機を用いることができ、例えば0.5~3時間程度粉砕を行う。粉砕後の炭化ホウ素は、篩網を用いて粒径75μm以下に篩分けすることが好適である。
【0035】
加圧窒化焼成
加圧窒化焼成は、特定の焼成温度及び加圧条件の雰囲気にて行う。
加圧窒化焼成における焼成温度は、好ましくは1700℃以上であり、より好ましくは1800℃以上であり、そして、好ましくは2400℃以下であり、より好ましくは2200℃以下である。また、加圧窒化焼成における焼成温度は、より好ましくは、1800~2200℃である。
【0036】
加圧窒化焼成における圧力は、好ましくは0.6MPa以上であり、より好ましくは0.7MPa以上であり、そして、好ましくは1.0MPa以下であり、より好ましくは0.9MPa以下である。また、加圧窒化焼成における圧力は、より好ましくは0.7~1.0MPaである。
【0037】
加圧窒化焼成における焼成温度及び圧力条件の組み合わせとして、好ましくは、焼成温度1800℃以上で、圧力0.7~1.0MPaである。これは焼成温度1800℃で、圧力0.7MPa以上の場合、炭化ホウ素の窒化を十分進ませることができる。また、工業的には1.0MPa以下の圧力で生産を行うほうが望ましい。
【0038】
加圧窒化焼成における雰囲気として、窒化反応が進行するガスが求められ、例えば、窒素ガス及びアンモニアガス等が挙げられ、これらを単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。このうち、窒素ガスが窒化のため、またコスト的に好適である。雰囲気中に少なくとも窒素ガス95%(V/V)以上、さらに99.9%以上が好ましい。
【0039】
加圧窒化焼成における焼成時間は、好ましくは6~30時間であり、より好ましくは8~20時間である。
【0040】
<脱炭結晶化工程>
脱炭結晶化工程では、加圧窒化工程にて得られた炭窒化ホウ素を、(a)常圧以上の雰囲気にて、(b)特定の昇温温度で(c)特定の温度範囲の焼成温度になるまで昇温を行い、(d)焼成温度で一定時間保持する熱処理を行う。これにより、一次粒子(一次粒子が鱗片状の六方晶窒化ホウ素)が凝集して塊状になった塊状窒化ホウ素粒子を得ることができる。
この脱炭結晶化工程において、上述の如き、調製された炭化ホウ素から得られた炭窒化ホウ素を、脱炭化させるとともに、所定の大きさの鱗片状にさせつつ、凝集させて塊状の窒化ホウ素粒子とする。
【0041】
脱炭結晶化工程として、好適には、常圧以上の雰囲気にて、脱炭開始可能な温度に上昇させた後、昇温温度5℃/min以下で1750℃以上の焼成温度になるまで昇温を行い、この焼成温度で0.5時間超40時間未満保持する熱処理を行うことである。さらに、脱炭結晶化工程として、より好適には、常圧以上の雰囲気にて、脱炭開始可能な温度に上昇させた後、昇温温度5℃/min以下で1800℃以上の焼成温度になるまで昇温を行い、この焼成温度で1~30時間保持する熱処理を行うことである。
【0042】
脱炭結晶化工程において、加圧窒化焼成工程で得られた炭窒化ホウ素と、酸化ホウ素及びホウ酸の少なくとも一方の化合物(さらに、必要に応じて他の原料)とを混合して混合物を作製した後、得られた混合物を脱炭結晶化することが望ましい。炭窒化ホウ素と酸化ホウ素及びホウ酸の少なくとも一方の化合物との混合割合は、炭窒化ホウ素100質量部に対して、好ましくは酸化ホウ素及びホウ酸の少なくとも一方の化合物10~300質量部、より好ましくは酸化ホウ素及びホウ酸の少なくとも一方の化合物15~250質量部である。なお、酸化ホウ素の場合は、ホウ酸に換算した混合割合である。
【0043】
脱炭結晶化工程おける「(a)常圧以上の雰囲気」の圧力条件は、好ましくは常圧以上であり、より好ましくは0.1MPa以上であり、さらに好ましくは0.2MPa以上である。また、雰囲気の圧力条件の上限値は、特に限定されないが、好ましくは1MPa以下であり、より好ましくは0.5MPaである。また、雰囲気の圧力条件は、好ましくは0.2~0.4MPaである。
【0044】
脱炭結晶化工程における上記「雰囲気」は、窒素ガスが好適であり、雰囲気中窒素ガス90%(V/V)以上が好適であり、より好ましくは高純度窒素ガス(99.9%以上)である。
【0045】
脱炭結晶化工程における「(b)特定の昇温温度」の昇温は、1段階又は多段階のいずれでもよい。脱炭開始可能な温度にまで上昇させる時間を短縮するため、多段階を選択することが望ましい。多段階における「第1段階の昇温」として、「脱炭開始可能な温度」にまで昇温を行うことが好ましい。「脱炭開始可能な温度」は、特に限定されず、通常行っている温度であればよく、例えば800~1200℃程度(好適には、約1000℃)であればよい。「第1段階の昇温」は、例えば、5~20℃/minの範囲で行うことができ、好適には8~12℃/minである。
【0046】
第1段階の昇温後に、第2段階の昇温を行うことが好ましい。上記「第2段階の昇温」は、脱炭結晶化工程における「(c)特定の温度範囲の焼成温度になるまで昇温」を行うことが、より好ましい。
上記「第2段階の昇温」の上限値は、好ましくは5℃/min以下、より好ましくは4℃/min以下、さらに好ましくは3℃/min以下、よりさらに好ましくは2℃/min以下である。昇温温度が低い方が、粒成長が均一になりやすいので好ましい。
【0047】
上記「第2段階の昇温」は、好ましくは0.1℃/min以上であり、より好ましくは0.5℃/min以上であり、さらに好ましくは1℃/min以上である。「第2段階の昇温」が1℃以上の場合、製造時間を短縮できるので、コストの点で、好ましい。また、「第2段階の昇温」は、好適には、0.1~5℃/minである。なお、第2段階の昇温速度が5℃/min超えの場合、粒成長が不均一に起きてしまい、均一な構造をとれず塊状窒化ホウ素粒子の圧壊強度が低下する恐れがある。
【0048】
上記「(c)特定の温度範囲の焼成温度になるまで昇温」における特定の温度範囲(昇温後の焼成温度)は、好ましくは1750℃以上、より好ましくは1800℃以上、さらに好ましくは2000℃以上であり、そして、好ましくは2200℃以下、より好ましくは2100℃以下である。
昇温後の焼成温度が1750℃未満では粒成長が十分起こらず、熱伝導率が低下するおそれがある。焼成温度が1800℃以上では粒成長が良好に起こりやすく、熱伝導率が向上しやすい。
【0049】
上記「(d)焼成温度で一定時間保持」の一定時間保持(昇温後の焼成時間)は、好ましくは、0.5時間超え40時間未満である。上記「焼成時間」は、より好ましくは1時間以上、さらに好ましくは3時間以上、よりさらに好ましくは5時間以上、とくに好ましくは10時間以上であり、そして、より好ましくは30時間以下、さらに好ましくは20時間以下である。昇温後の焼成時間が0.5時間超の場合は粒成長が良好に起こり、40時間未満であると、粒成長が進みすぎて粒子強度が低下することを低減でき、また、焼成時間が長いことで工業的にも不利になることも低減できる。
【0050】
そして、上記加圧窒化焼成工程及び上記脱炭結晶化工程を経て、本発明の塊状窒化ホウ素粒子を得ることができる。さらに、塊状窒化ホウ素粒子間の弱い凝集をほぐす場合には、脱炭結晶化工程にて得られた塊状窒化ホウ素粒子を、粉砕又は解砕し、さらに分級することが望ましい。粉砕及び解砕は、特に限定されず、一般的に使用されている粉砕機及び解砕機を用いればよく、また、分級は、平均粒子径が15~90μm以下になるような一般的な篩分け方法を用いればよい。例えば、ヘンシェルミキサーや乳鉢により解砕をおこなった後、振動篩機による分級をする方法などが挙げられる。
【0051】
<表面処理工程>
表面処理工程では、スペーサー型シランカップリング剤を使用して脱炭結晶化工程で得られた塊状窒化ホウ素粒子を表面処理する。なお、スペーサー型カップリング剤による表面処理は、塊状窒化ホウ素粒子及びスペーサー型カップリング剤を乾式混合することによって行ってもよいし、塊状窒化ホウ素粒子及びスペーサー型カップリング剤に対して溶媒を加えて、湿式混合することによって行ってもよい。また、表面処理工程で使用するスペーサー型シランカップリング剤は、上述の塊状窒化ホウ素粒子に含まれるスペーサー型シランカップリング剤と同じものである。
【0052】
スペーサー型カップリング剤の処理量は、X線光電子分光分析による値で、塊状窒化ホウ素粒子表面10nm中の組成において、0.1atm%以上3.0atm%以下のSi、Ti、Zr、Alのいずれかが存在するように添加することが望ましい。0.1atm%以上だと放熱部材のボイドの発生に対する効果が十分となり、3.0atm%以下であると、スペーサー型カップリング剤の含有に伴う放熱部材の熱伝導率の低下を抑制できる。また、スペーサー型カップリング剤種類に関しては飛行時間型二次イオン質量分析TOF-SIMSなどにより質量分析の結果から、カップリング剤由来の複数のフラングメントピークから検出することが可能である。
【0053】
表面処理工程におけるカップリング反応条件の温度は、好ましくは10~70℃、より好ましくは20~70℃である。また、表面処理工程におけるカップリング反応条件の時間は、好ましくは0.2~5時間、より好ましくは0.5~3時間である。スペーサー型カップリング剤の使用量として、スペーサー型カップリング剤の含有量が0.1~1.5質量%となる限り、特に限定されないが、塊状窒化ホウ素粒子100部に対して、好ましくは0.1~5質量部、より好ましくは0.1~3質量部である。
【0054】
上記塊状窒化ホウ素粒子の製造方法にて得られた塊状窒化ホウ素粒子の特徴は、上述の塊状窒化ホウ素粒子の項目で述べたとおりである。
【0055】
[熱伝導樹脂組成物]
本発明の熱伝導樹脂組成物は、本発明の塊状窒化ホウ素粒子を含む。この熱伝導樹脂組成物は、公知の製造方法で製造することができる。得られた熱伝導樹脂組成物は、サーマルグリース、放熱部材等に幅広く使用することができる。
【0056】
(樹脂)
本発明の熱伝導樹脂組成物に使用する樹脂としては、例えばエポキシ樹脂、シリコーン樹脂、シリコーンゴム、アクリル樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、不飽和ポリエステル、フッ素樹脂、ポリアミド(例えば、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド等)、ポリエステル(例えば、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート等)、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、全芳香族ポリエステル、ポリスルホン、液晶ポリマー、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、マレイミド変性樹脂、ABS樹脂、AAS(アクリロニトリル-アクリルゴム・スチレン)樹脂、AES(アクリロニトリル・エチレン・プロピレン・ジエンゴム-スチレン)樹脂等を用いることができる。エポキシ樹脂(好適にはナフタレン型エポキシ樹脂)は、耐熱性と銅箔回路への接着強度が優れていることから、とくにプリント配線板の絶縁層として好適である。また、シリコーン樹脂は耐熱性、柔軟性及びヒートシンク等への密着性が優れていることから、とくに熱インターフェース材として好適である。
【0057】
熱伝導樹脂組成物100体積%中の塊状窒化ホウ素粒子の含有量は、30~85体積%が好ましく、40~80体積%がより好ましい。塊状窒化ホウ素粒子の量が30体積%以上の場合、熱伝導率が向上し、十分な放熱性能が得られやすい。また、塊状窒化ホウ素粒子の量が85体積%以下の場合、成形時に空隙が生じやすくなることを低減でき、絶縁性や機械強度が低下することを低減できる。
なお、熱伝導樹脂組成物には、塊状窒化ホウ素粒子、樹脂以外の成分が含まれてもよい。その他の成分は添加剤、不純物等であり、5体積%以下、3体積%以下、1体積%以下であってよい。
【0058】
[放熱部材]
本発明の放熱部材は、本発明の熱伝導樹脂組成物を用いたものである。本発明の放熱部材は、放熱対策に用いる部材であれば、とくに限定されない。本発明の放熱部材には、例えば、パワーデバイス、トランジスタ、サイリスタ、CPU等の発熱性電子部品を実装するプリント配線板、上記発熱性電子部品又は上記発熱性電子部品を実装したプリント配線板をヒートシンクに取り付ける際に用いる電気絶縁性の熱インターフェース材等が挙げられる。放熱部材は、例えば、熱伝導樹脂組成物を成形して成形体を作製し、作製した成形体を自然乾燥し、自然乾燥した成形体を加圧し、加圧した成形体を加熱乾燥し、加熱乾燥した成形体を加工することにより製造することができる。
【0059】
[各種測定方法]
各種測定方法は、以下の通りである。
(1)比表面積
塊状窒化ホウ素粒子の比表面積は、比表面積測定装置(カンターソーブ、ユアサアイオニクス社製)を用いて、BET1点法により測定した。なお測定に際しては、試料1gを300℃、15分間乾燥脱気してから測定に供した。
【0060】
(2)圧壊強度
JIS R1639-5に準じて測定を実施した。測定装置としては、微小圧縮試験器(「MCT-W500」島津製作所社製)を用いた。粒子強度(σ:MPa)は、粒子内の位置によって変化する無次元数(α=2.48)と圧壊試験力(P:N)と粒子径(d:μm)からσ=α×P/(π×d2)の式を用いて20粒子以上で測定を行い、累積破壊率63.2%時点の値を算出した。
【0061】
(3)一次粒子径評価法
作製した塊状窒化ホウ素粒子に対し、表面状態で長径および短径が確認できる粒子の観察を行い、走査型電子顕微鏡(例えば「JSM-6010LA」(日本電子社製))を用いて観察倍率1000~5000倍で観察した。得られた粒子像を画像解析ソフトウェア、例えば「Mac-view」に取り込み粒子の長径及び厚さを計測し、任意の粒子100個の長径及び厚さを求めその平均値を長径の平均値及び厚さの平均値とした。
【0062】
(4)平均粒子径
平均粒子径の測定にはベックマンコールター製レーザー回折散乱法粒度分布測定装置、(LS-13 320)を用いた。得られた平均粒子径は測定処理の前にホモジナイザーをかけずに測定したものを平均粒子径値として採用した。また、得られた平均粒子径は体積統計値による平均粒子径である。
【0063】
(5)炭素量測定
炭素量は炭素/硫黄同時分析計「CS-444LS型」(LECO社製)にて測定した。
【実施例】
【0064】
以下、本発明について、実施例及び比較例により、詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0065】
実施例及び比較例の放熱部材に対して以下の評価を行った。
(絶縁破壊強さ)
放熱部材の絶縁破壊強さは、JIS C 2110に準拠して測定した。
具体的には、シート状の放熱部材を10cm×10cmの大きさに加工し、加工した放熱部材の一方の面にφ25mmの円形の銅層を形成し、他方の面は面全体に銅層を形成して試験サンプルを作製した。
試験サンプルを挟み込むように電極を配置し、電気絶縁油(スリーエム ジャパン株式会社製、製品名:FC-3283)中で、試験サンプルに交流電圧を印加した。電圧の印加開始から平均10~20秒後に絶縁破壊が起こるような速度(500V/s)で、試験サンプルに印加する電圧を0Vから上昇させた。一つの試験サンプルにつき15回絶縁破壊が起きたときの電圧V15(kV)を測定した。そして、電圧V15(kV)を試験サンプルの厚さ(mm)で割り算して絶縁破壊強さ(kV/mm)を算出した。なお、絶縁破壊強さは41(kV/mm)以上が良好、45(kV/mm)以上がより良好、50(kV/mm)以上がさらに良好である。
【0066】
(熱伝導率相対値)
放熱部材の熱伝導率をASTM D5470に準拠して測定した。
2つの銅治具を用いて100Nの荷重で放熱部材を上下に挟んだ。なお、放熱部材と銅治具との間に、グリース(信越化学工業株式会社製、商品名「G-747」)を塗布した。上側の銅治具をヒーターで加熱し、上側の銅治具の温度(TU)及び下側の銅治具の温度(TB)を測定した。そして、以下の式(1)から熱伝導率(H)を算出した。
H=t/((TU-TB)/Q×S) (1)
なお、式中、tは放熱部材の厚さ(m)、Qはヒーターの電力より算出した熱流量(W)、Sは放熱部材の面積(m2)である。
3つのサンプルの熱伝導率を測定し、3つのサンプルの熱伝導率の平均値を放熱部材の熱伝導率とした。そして、放熱部材の熱伝導率を比較例1の放熱部材の熱伝導率で割り算して、熱伝導率相対値を算出した。
【0067】
(ボイド評価)
放熱部材をダイヤモンドカッターで断面加工後、CP(クロスセクションポリッシャー)法により加工し、試料台に固定した後にオスミウムコーティングを行った。そして、放熱部材の断面を走査型電子顕微鏡(例えば「JSM-6010LA」(日本電子社製))を用いて500倍の倍率で10視野観察し、放熱部材におけるボイドを調べた。シート表面近傍の500倍の倍率で10視野確認し、1視野当たりの平均で長さ5μm以上のボイドが5個以上観察されなかった場合は「無」と評価し、観察された場合は「有」と評価した。なお、断面観察写真の一例として、実施例1の放熱部材の電子顕微鏡による断面観察写真を
図1に、比較例1の放熱部材の電子顕微鏡による断面観察写真を
図2にそれぞれ示す。
【0068】
〔実施例1〕
実施例1は、以下のように、炭化ホウ素合成、加圧窒化工程、脱炭結晶化工程、表面処理工程にて、塊状窒化ホウ素粒子を合成し、樹脂に充填した。
【0069】
(炭化ホウ素合成)
新日本電工株式会社製オルトホウ酸(以下ホウ酸)100質量部と、デンカ株式会社製アセチレンブラック(HS100)35質量部とをヘンシェルミキサーを用いて混合したのち、黒鉛ルツボ中に充填し、アーク炉にて、アルゴン雰囲気で、2200℃にて5時間加熱し炭化ホウ素(B4C)を合成した。合成した炭化ホウ素塊をボールミルで1時間粉砕し、篩網を用いて粒径75μm以下に篩分け、更に硝酸水溶液で洗浄して鉄分等不純物を除去後、濾過・乾燥して平均粒子径20μmの炭化ホウ素粉末を作製した。得られた炭化ホウ素粉末の炭素量は20.0%であった。
【0070】
(加圧窒化工程)
合成した炭化ホウ素を窒化ホウ素ルツボに充填した後、抵抗加熱炉を用い、窒素ガスの雰囲気で、2000℃、9気圧(0.8MPa)の条件で10時間加熱することにより炭窒化ホウ素(B4CN4)を得た。
【0071】
(脱炭結晶化工程)
合成した炭窒化ホウ素100質量部と、ホウ酸90質量部とをヘンシェルミキサーを用いて混合したのち、窒化ホウ素ルツボに充填し、抵抗加熱炉を用い0.2MPaの圧力条件で、窒素ガスの雰囲気で、室温から1000℃までの昇温速度を10℃/min、1000℃からの昇温速度を2℃/minで昇温し、焼成温度2020℃、保持時間10時間で加熱することにより、一次粒子が凝集して塊状になった塊状窒化ホウ素粒子を合成した。合成した塊状窒化ホウ素粒子を乳鉢により10分解砕をおこなった後、篩網を用いて、篩目75μmのナイロン篩にて分級を行った。焼成物を解砕及び分級することより、一次粒子が凝集して塊状になった塊状窒化ホウ素粒子を得た。
【0072】
得られた塊状窒化ホウ素粒子のBET法により測定した比表面積は4m2/gであり、圧壊強度は9MPaであった。また、得られた塊状窒化ホウ素粒子における六方晶窒化ホウ素一次粒子の厚さに対する長径の比(長径/厚さ)は11であった。さらに、得られた塊状窒化ホウ素粒子の平均粒子径は35μmであり、炭素量は0.06%であった。
【0073】
(表面処理工程)
この塊状窒化ホウ素粒子100質量部に対して1質量部のシランカップリング剤(信越化学工業株式会社製、商品名「KBM-1083」、7-オクテニルトリメトキシシラン)を添加して、0.5時間乾式混合した後、75μmの篩に通して、表面処理塊状窒化ホウ素粒子を得た。なお、7-オクテニルトリメトキシシランの反応性有機基はビニル基であり、反応性有機基とSi原子とを結ぶ有機鎖は炭素数6のアルキレン基である。
【0074】
(放熱部材の作製)
得られた表面処理塊状窒化ホウ素粒子及びシリコーン樹脂の合計100体積%に対して50体積%の塊状窒化ホウ素粒子及び50体積%のシリコーン樹脂(東レ・ダウコーニング・シリコーン社製、商品名「CF-3110」)、シリコーン樹脂100質量部に対して1質量部の架橋剤(化薬アクゾ株式会社製、商品名「カヤヘキサAD」)、並びに固形分濃度が60wt%となるように秤量した粘度調整剤としてのトルエンを攪拌機(HEIDON社製、商品名「スリーワンモーター」)に投入し、タービン型撹拌翼を用いて15時間混合して熱伝導樹脂組成物を作製した。
そして、コンマコーターを使用して、ガラスクロス(ユニチカ株式会社製、商品名「H25」)の一方の面の上に0.2mmの厚さで、作製した熱伝導樹脂組成物を塗工し、75℃で5分乾燥させた。その後、コンマコーターを使用して、ガラスクロスの他方の面の上に0.2mmの厚さで熱伝導樹脂組成物を塗工し、75℃で5分乾燥させ、積層体を作製した。
平板プレス機(株式会社柳瀬製作所製)を用いて、積層体に対して、温度150℃、圧力150kgf/cm2の条件で45分間の加熱プレスを行い、厚さ0.3mmのシート状の放熱部材を作製した。次いでそれを常圧、150℃で4時間の二次加熱を行い、実施例1の放熱部材を作製した。
【0075】
〔実施例2~5〕
実施例2~5はシランカップリング剤、添加量を表1に記載した条件に変更した以外は実施例1と同様の条件で放熱部材を作製した。なお、7-オクテニルトリメトキシシランの反応性有機基はビニル基であり、反応性有機基とSi原子とを結ぶ有機鎖は炭素数6のアルキレン基である。なお、3-ブテニルトリメトキシシランの反応性有機基はビニル基であり、反応性有機基とSi原子とを結ぶ有機鎖は炭素数2のアルキレン基である。また、2-プロペニルトリメトキシシランの反応性有機基はビニル基であり、反応性有機基とSi原子とを結ぶ有機鎖は炭素数1のアルキレン基である。
【0076】
〔実施例6〕
実施例6では、脱炭結晶化工程の炭窒化ホウ素100質量部と混合するホウ酸量を90質量部から110質量部に変更した以外は実施例1と同様に塊状窒化ホウ素粒子を合成し、放熱部材を作製した。
【0077】
〔実施例7〕
実施例7では、脱炭結晶化工程の1000℃からの昇温速度を2℃/minから0.4℃/minに変更した以外は実施例1と同様に塊状窒化ホウ素粒子を合成し、さらにシランカップリング剤の添加量を塊状窒化ホウ素粒子100質量部に対して1質量部から0.7質量部に変更した以外は実施例1と同様に表面処理塊状窒化ホウ素粒子を作製し、放熱部材を作製した。
【0078】
〔実施例8〕
実施例8では、炭化ホウ素合成工程における炭化ホウ素塊のボールミル粉砕時間を1時間から20分に変更し、篩分けを粒径75μm以下から150μm以下に変更することにより、炭化ホウ素粉末の平均粒子径を20μmから48μmに変更した以外は実施例1と同様に塊状窒化ホウ素粒子を合成し、放熱部材を作製した。
【0079】
〔比較例1〕
塊状窒化ホウ素粒子のシランカップリング剤による表面処理を行わなかった以外は実施例1と同様に塊状窒化ホウ素粒子を合成し、放熱部材を作製した。
【0080】
〔比較例2〕
塊状窒化ホウ素粒子の表面処理において、スペーサー型シランカップリング剤の代わりに、スペーサーのないシランカップリング剤(信越化学工業株式会社製、商品名「KBM―1003」、化合物名:ビニルトリメトキシシラン)を使用した以外は実施例1と同様に塊状窒化ホウ素粒子を合成し、放熱部材を作製した。なお、ビニルトリメトキシシランの反応性有機基はビニル基であり、反応性有機基とSi原子とは直接接続している。すなわち、上述したように、ビニルトリメトキシシランはスペーサーを有さない。
【0081】
【0082】
【0083】
以上の評価結果から、スペーサー型シランカップリング剤を含有した塊状窒化ホウ素粒子を用いることにより、放熱部材におけるボイドの発生を抑制できることがわかった。また、シランカップリング剤の添加量が等しい実施例1、4及び5を比較することにより、スペーサーの長いスペーサー型シランカップリング剤を用いることにより、放熱部材の絶縁破壊特性をさらに改善できることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明は、特に好ましくは、プリント配線板の絶縁層及び熱インターフェース材の樹脂組成物に充填される、熱伝導率に優れた塊状窒化ホウ素粒子、その製造方法及びそれを用いた熱伝導樹脂組成物である。
本発明は、詳しくは、パワーデバイスなどの発熱性電子部品の放熱部材の原料として好適に用いられる。
本発明の熱伝導樹脂組成物は、放熱部材などに幅広く使用することができる。