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特許7101880呼吸状態検出装置、呼吸状態検出方法および呼吸状態検出プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-07
(45)【発行日】2022-07-15
(54)【発明の名称】呼吸状態検出装置、呼吸状態検出方法および呼吸状態検出プログラム
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/08 20060101AFI20220708BHJP
   A61B 5/113 20060101ALI20220708BHJP
   A61B 5/11 20060101ALI20220708BHJP
【FI】
A61B5/08
A61B5/113
A61B5/11 120
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021518409
(86)(22)【出願日】2020-05-08
(86)【国際出願番号】 JP2020018725
(87)【国際公開番号】W WO2020226182
(87)【国際公開日】2020-11-12
【審査請求日】2021-06-29
(31)【優先権主張番号】P 2019088840
(32)【優先日】2019-05-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503369495
【氏名又は名称】帝人ファーマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100151459
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 健一
(72)【発明者】
【氏名】今野 稚奈
(72)【発明者】
【氏名】亀山 研一
【審査官】藤原 伸二
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-124126(JP,A)
【文献】特開2005-218507(JP,A)
【文献】特開平11-276443(JP,A)
【文献】特開2013-248387(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/08
A61B 5/11-5/113
A61B 5/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
人の頸部を含む動画像から人体の輪郭線を抽出するとともに、前記輪郭線上の人体の左右の首付根位置及び肩峰位置を抽出し、抽出された前記左右の首付根位置及び肩峰位置に基づいて呼吸補助筋が存在する呼吸補助筋存在領域を抽出する呼吸補助筋領域検出装置と、
前記呼吸補助筋存在領域中の鎖骨上窩および/または頸窩部に対する胸鎖乳突筋の隆起を抽出する動画像処理装置と、
前記胸鎖乳突筋の隆起の時系列的変動の振幅が所定値以上であり、かつ前記胸鎖乳突筋の隆起の時系列的変動の周期が所定の範囲内であるとき、呼吸補助筋が動員されたと判断する呼吸動作判定装置と、
を備えた呼吸状態検出装置。
【請求項2】
前記動画像処理装置は、前記胸鎖乳突筋の隆起の時系列的変動に基づいて呼吸補助筋が動員されたと判断されなかった場合、前記動画像中の肩部を含む動画像から、当該肩部の動きの時系列的変動を抽出するとともに、
前記呼吸動作判定装置は、前記肩部の動きの時系列的変動の振幅と前記肩部の動きの時系列的変動の周期に基づいて、前記肩部の動きの時系列的変動により、呼吸補助筋動員を判断する、請求項に記載の呼吸状態検出装置。
【請求項3】
前記動画像処理装置および前記呼吸動作判定装置の出力情報を基に呼吸状態を評価する呼吸評価演算装置をさらに備える、請求項1または2に記載の呼吸状態検出装置。
【請求項4】
前記呼吸評価演算装置が評価した前記呼吸状態を継続的に記録する記録装置をさらに備える、請求項に記載の呼吸状態検出装置。
【請求項5】
呼吸状態検出装置によって実行される呼吸状態検出方法であって、
人の頸部を含む動画像から人体の輪郭線を抽出するとともに、前記輪郭線上の人体の左右の首付根位置及び肩峰位置を抽出し、抽出された前記左右の首付根位置及び肩峰位置に基づいて呼吸補助筋が存在する呼吸補助筋存在領域を抽出する呼吸補助筋領域検出ステップと、
前記呼吸補助筋存在領域中の鎖骨上窩および/または頸窩部に対する胸鎖乳突筋の隆起を抽出する動画像処理ステップと、
前記胸鎖乳突筋の隆起の時系列的変動の振幅が所定値以上であり、かつ前記胸鎖乳突筋の隆起の時系列的変動の周期が所定の範囲内であるとき、呼吸補助筋が動員されたと判断する呼吸動作判定ステップと、
を含む呼吸状態検出方法。
【請求項6】
コンピュータを動作させるプログラムであって、
人の頸部を含む動画像から人体の輪郭線を抽出するとともに、前記輪郭線上の人体の左右の首付根位置及び肩峰位置を抽出し、抽出された前記左右の首付根位置及び肩峰位置に基づいて呼吸補助筋が存在する呼吸補助筋存在領域を抽出する呼吸補助筋領域検出ステップと、
前記呼吸補助筋存在領域中の鎖骨上窩および/または頸窩部に対する胸鎖乳突筋の隆起を抽出する動画像処理ステップと、
前記胸鎖乳突筋の隆起の時系列的変動の振幅が所定値以上であり、かつ前記胸鎖乳突筋の隆起の時系列的変動の周期が所定の範囲内であるとき、呼吸補助筋が動員されたと判断する呼吸動作判定ステップと、
を含む呼吸状態検出方法をコンピュータに実行させる呼吸状態検出プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非接触で被験者の呼吸状態を検出する呼吸状態検出装置、呼吸状態検出方法および呼吸状態検出プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
正常安静時の呼吸では、吸気は主に横隔膜の収縮によって行われ、呼気は筋肉を用いず、伸展された肺の受動的反跳によって行われる。一方、心不全などで肺機能の低下が起き、酸素摂取能が低下すると、その代償反応として頸部にある胸鎖乳突筋、斜角筋などの呼吸補助筋が吸気時に動員されて胸腔容積を増加させる努力呼吸が行われる。また、COPDなどの呼吸器患者では横隔膜の筋力が低下するため、常に胸鎖乳突筋を動員した努力呼吸様式となり、胸鎖乳突筋の肥大がみられる。このように、努力呼吸時には呼吸補助筋が動員されるような特徴的な動きがあることは医療者の間ではよく知られている。この呼吸補助筋の活動を計測する手段としては、これまで、筋電計測による方法が提案されている(非特許文献1、非特許文献2)。
【0003】
一方、非接触の呼吸計測技術としては、特許文献1がある。ここでは、両肩の中央部を領域の上限、右肩部を領域の右限、左肩部を領域の左限、及び腰中央部を領域の下限として定められる矩形領域を呼吸主要領域として確定し、その領域の距離情報から人の呼吸波形を生成する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-217298号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】「表面筋電図を使用した補助呼吸筋の活動分析による努力呼吸の評価」,人工呼吸, 30-1, (2013)
【文献】「吸気流量の増加を伴う頻呼吸時における吸気筋活動の評価法の検討」,人工呼吸, 34-2, (2017)
【発明の概要】
【0006】
これまで努力呼吸の有無の判断は、通常、専門医の視診によっており、非医療者がその状況を客観的に表現する手段が存在しなかった。上述のように、呼吸補助筋活動を計測する方法としては、従来、筋電計測を用いるものが開発されている。しかし、筋電によって筋活動を計測するには、電極の貼り付けを常に正しい位置に行う必要があること、また、その評価には異なる活動時の筋電振幅に対する比率を求める必要があることから、専門的知識が不可欠である。従って、医療者の補助なく呼吸補助筋の筋電計測を実施するのは困難であり、在宅で、いつでも、どこでも簡便に計測できる方法ではなかった。
【0007】
また、従来開発されている非接触の呼吸計測装置は、人が静止している場合の呼吸数計測には有効な方法ではあるが、努力呼吸時に局所に現れる特徴的な動きを計測する方法ではなかった。
【0008】
すなわち、在宅等で心不全等の慢性疾患の増悪の予兆を客観的な手法で捉えることは重要と認識されつつも、非医療者が努力呼吸に特徴的な動きを簡便に計測する装置、方法、プログラムはこれまで開発されていなかった。
【0009】
上記課題を解決するために、本発明に係る呼吸状態検出装置は、人の頸部を含む動画像から呼吸補助筋が存在する呼吸補助筋存在領域を抽出する呼吸補助筋領域検出装置と、呼吸補助筋存在領域中の形状的特徴を抽出する動画像処理装置と、形状的特徴の時系列的変動から呼吸補助筋の動員を判断する呼吸動作判定装置とを備える。
【0010】
呼吸補助筋領域検出装置は、胸鎖乳突筋及び頸窩あるいは鎖骨上窩に基づいて呼吸補助筋存在領域を決定することが好ましい。
【0011】
呼吸補助筋領域検出装置は、動画像から人体の輪郭線を抽出するとともに、輪郭線上の人体の左右の首付根位置及び肩峰位置を抽出し、抽出された左右の首付根位置及び肩峰位置に基づいて呼吸補助筋存在領域を抽出することが好ましい。
【0012】
また、動画像処理装置は、呼吸補助筋存在領域の形状的特徴として、鎖骨上窩および/または頸窩部に対する胸鎖乳突筋の隆起の時系列的変動を抽出するとともに、呼吸動作判定装置は、胸鎖乳突筋の隆起の時系列的変動の振幅が所定値以上であり、かつ胸鎖乳突筋の隆起の時系列的変動の周期が所定の範囲内であるとき、形状的特徴の時系列的変動が呼吸に由来すると判断することが好ましい。
【0013】
ここで、呼吸補助筋存在領域の形状的特徴が抽出されない場合、動画像処理装置は、さらに、動画像中の肩部を含む動画像から、当該肩部の動きの時系列的変動幅を利用して呼吸状態を評価する機能を有してもよい。具体的には、肩部の動きの時系列的変動の振幅と肩部の動きの時系列的変動の周期に基づいて、肩部の動きの時系列的変動により、呼吸補助筋動員を判断することが好ましい。
【0014】
また、本発明に係る呼吸状態検出装置は、動画像処理装置および呼吸動作判定装置の出力情報を基に呼吸状態を評価する呼吸評価演算装置、さらに、評価した呼吸状態を記録する結果記録装置を備え、継続的に得られた呼吸状態の評価値から平常の状態とそうでない状態を判別する機能を有してもよい。
【0015】
また、本発明に係る呼吸状態検出装置は、さらに、呼吸評価演算装置の評価結果を数値、または/および、グラフとして表示すること、および/または、計測結果記録装置に記録されたデータを呼吸評価演算装置の評価結果と比較して表示する機能を有しても良い。
【0016】
本発明に係る呼吸状態検出方法は、人の頸部を含む動画像から呼吸補助筋が存在する領域を抽出する呼吸補助筋領域検出ステップと、呼吸補助筋存在領域中の形状的特徴を抽出する動画像処理ステップと、形状的特徴の時系列的変動から呼吸補助筋の動員を判断する呼吸動作判定ステップと、を含む。
【0017】
本発明に係る呼吸状態検出プログラムは、コンピュータを動作させるプログラムであって、人の頸部を含む動画像から呼吸補助筋が存在する領域を抽出する呼吸補助筋領域検出ステップと、呼吸補助筋存在領域中の形状的特徴を抽出する動画像処理ステップと、形状的特徴の時系列的変動から呼吸補助筋の動員を判断する呼吸動作判定ステップと、を含む呼吸動作判定方法をコンピュータに実行させるプログラムである。
【0018】
本発明の呼吸状態検出装置、方法、プログラムを用いれば、在宅等で非医療者が努力呼吸に特徴的な呼吸補助筋の動員を簡便に検出できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の装置の設置例である。
図2】人の頸部の形状図である。
図3】第一の実施形態に係る呼吸状態検出装置のシステムの構成図である。
図4】第一の実施形態に係る呼吸補助筋領域の決定フロー図である。
図5】第一の実施形態に係る呼吸補助筋領域検出の説明図である。
図6】第一の実施形態に係る胸鎖乳突筋指標算出の説明図である。
図7】第一の実施形態に係る胸鎖乳突筋指数(SCM_index)の時系列データ算出フロー図である。
図8】第一の実施形態に係る呼吸補助筋動員判定フロー図である。
図9】種々の呼吸状態における鎖骨上窩の奥行の時間的変動を表すタイミングチャートである。
図10】第二の実施形態に係る呼吸状態検出装置の呼吸補助筋動員判定フロー図である。
図11】第三の実施形態に係る呼吸状態検出装置のシステム構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を詳細に説明する。全図面に渡り、対応する構成要素には共通の参照符号を付す。
【0021】
図1は本発明の実施形態に係る呼吸状態検出装置200の設置例である。慢性心不全、慢性呼吸不全患者Pは、状態が悪化すると軽い労作でも息切れや呼吸困難が起こり、努力呼吸が出現しやすくなる。前述の通り、努力呼吸の吸気時には呼吸補助筋が動員される特徴的な動きがあるため、これを日常生活の中で、手間なく、かつ、患者の負担なく捉えられれば、早期に増悪予兆を把握できると考えられる。そのために、労作が起こりやすい場所、例えば、トイレ300、脱衣所等で呼吸補助筋付近の体の動きを捉えて指標化し、これを日々、患者Pに負荷をかけることなく継続的に記録することで、通常と異なるデータとなった場合に患者Pを観察する医療関係者や患者Pに対して医療行為を行う病院400等に対してアラートAを出すようなシステムが考えられる。本実施形態に係る呼吸状態検出装置200の目的の一つは、このような呼吸専門医が努力呼吸を視診で判断する際の呼吸補助筋の動員を画像センサーと情報処理技術で指標化し、誰もが簡単に判断できるようにするものである。
【0022】
一方、呼吸専門医は肩の動きにも注目する。すなわち、肩を上下させて息をする肩呼吸では、安静呼吸時に比べ、大きな肩の動きが呼吸周期で見られる。この場合も呼吸補助筋が動員されたと判定できる。
【0023】
[第一の実施形態に係る呼吸状態検出の原理]
図2は人の頸部の形状図である。努力呼吸の吸気時に活動する呼吸補助筋は、頸部から鎖骨上部にかけて存在する。呼吸補助筋には胸鎖乳突筋301、斜角筋など色々あるが、視診で分かりやすいのは胸鎖乳突筋301である。この筋肉は両側頭部から胸骨中央上部の胸骨柄に伸び、頭部の動きの他、胸骨と鎖骨の挙上にかかわっている。呼吸に関連する動きは後者であり、胸骨の中心線を基準に左右同時に緊張する。胸鎖乳突筋301は、頸部の耳の下から胸骨切痕302へ向かう斜めの領域にあり、重度の努力呼吸の吸気時には、左右の胸鎖乳突筋301が隆起し、胸骨上部の頸窩部303や、胸鎖乳突筋301と鎖骨304との間の鎖骨上窩305で陥没が見られる。そこで、例えば、胸鎖乳突筋301と頸窩部303あるいは鎖骨上窩305との深度方向の差が呼吸周期に合わせ変動するか否かが確認できれば、呼吸補助筋動員の有無が判定できる。
【0024】
[第一の実施形態に係る呼吸状態検出装置]
図3は第一の実施形態に係る呼吸状態検出装置のシステム構成図である。呼吸状態検出装置200は、メモリ1と、制御部2と、通信インターフェース(I/F)3と、を備え、これらは内部バス4により接続されている。通信I/F3は、病院400(図1参照)等に設置された端末やサーバ(図示せず)に情報を送信することができる。制御部2は、プロセッサ(CPU)を含む。制御部2は、メモリ1に格納された制御プログラムを実行することにより、呼吸状態検出装置200の制御を行なう。制御部2は、呼吸補助筋領域検出装置201と、動画像処理装置202と、呼吸動作判定装置203と、呼吸評価演算装置204と、を備えている。呼吸補助筋領域検出装置201、動画像処理装置202、呼吸動作判定装置203及び呼吸評価演算装置204は、プログラムモジュールとして、一つのプロセッサで実現されてもよいし、それぞれ一つまたは複数のプロセッサと、周辺回路とを有する構成としてもよい。
【0025】
呼吸補助筋領域検出装置201は呼吸補助筋が存在する呼吸補助筋存在領域を入力画像から検出する。呼吸補助筋領域検出装置201は、胸鎖乳突筋301及び頸窩部303あるいは鎖骨上窩305に基づいて呼吸補助筋存在領域を決定することができる。呼吸補助筋領域検出装置201には、人体の頸部を含む動画像が入力される。呼吸補助筋の動員を判定するには、この動画像から頸部にある胸鎖乳突筋301の隆起、すなわち、奥行方向の形状変化を捉える必要がある。胸鎖乳突筋の隆起は、胸鎖乳突筋301に対する頸窩部303の奥行方向の形状変化、あるいは胸鎖乳突筋301に対する鎖骨上窩305の奥行方向の形状変化を観測すればよい。呼吸補助筋領域検出装置201に入力する動画像としては、Light Coding方式やToF(Time of Flight)画像センサーを搭載したデバイス(例えば、3Dセンサー100)の出力を用いることができる。これらは、直接的に奥行方向の形状データを動画像として出力できるため、そのままの形式でデータを入力すればよい。なお、他に、ステレオカメラ像や単眼の影付き動画像を用いても良いが、その場合は、奥行情報を算出するための周知の変換が必要な場合がある。いずれにしても、以下では、奥行方向のデータを含む動画像が入力されたものとして説明する。
【0026】
呼吸補助筋領域検出装置201は、図4に示す手順を用いて、入力された人体の頸部を含む動画像から呼吸補助筋が存在する領域を検出する。
まず呼吸補助筋領域検出装置201は、入力された人体の頸部を含む動画像から、周知の方法により図5に示す人の上半身の輪郭401(点線)を求める(ステップS501)。
次に、呼吸補助筋領域検出装置201は、ステップS501で求めた輪郭線上の首付根位置402と肩峰の位置403を取得する(ステップS502)。首付根位置402や肩峰403は、人の上半身の輪郭で曲率の変化が大きい箇所であり、その画像的特徴から容易に検出できる。例えば、輪郭を多角形近似した頂点から選ぶこともできる。
【0027】
そして、呼吸補助筋領域検出装置201は、ステップS502で取得した左右の首付根位置402及び肩峰403の4点から、左右の胸鎖乳突筋、鎖骨上窩、頸窩がそれぞれ含まれる頸部の計測領域を決定する(ステップS503)。産業技術総合研究所人体寸法データベース1991-92によると、頚椎点と頸窩点の間隔が最大4cm、肩峰点と頸窩点の間隔が最大3cm、胸骨丙の幅が大きく見積もっても6cm程度であることから、例えば縦方向(または、体軸に沿った方向)は、首付根位置の高さから3cm下の位置404を上辺、肩峰位置高さ405を下辺とし、横方向(または、体軸に垂直な方向)は左右辺を左右両肩峰点の中点から左右に3cmとする矩形領域408を設定することができる。なお上述の各数値はあくまで一例であり、これに限られるものではなく、少なくとも、頸窩、または、胸骨上窩が含まれる領域が含まれていればよい。この矩形領域408を左右両肩峰点の中点で分離することで、2つの計測領域406および407が得られる。これにより、呼吸補助筋が存在する2つの計測領域406および407(呼吸補助筋存在領域)それぞれの領域内で左右夫々の胸鎖乳突筋の状態を確認することができる。
【0028】
なお、上記は輪郭401から求める方法だが、これ以外にも頸窩部付近の鎖骨等の形状特徴を周知の方法で捉えることにより計測領域を決定してもよい。
【0029】
動画像処理装置202は動画像処理装置であって、呼吸補助筋領域検出装置201で決定した呼吸補助筋存在領域における形状的特徴として胸鎖乳突筋突出度を算出する。前述の通り、努力呼吸の吸気時には左右両方の胸鎖乳突筋が隆起し、相対的に鎖骨上窩、頸窩部が窪む。医療者が視診する場合は、この胸鎖乳突筋の突出度合い、すなわち、より目立つ突出であるか否かを直感的に判断すると考えられる。そこで動画像処理装置202は、図6に示すある動画像の1フレーム内の計測領域の横方向のスキャンライン605に沿った横断面606及び図7に示す手順を用い、頸窩部左側の計測領域604の胸鎖乳突筋601突出度算出例について説明する。
【0030】
まず動画像処理装置202は、スキャンライン605に沿って左側計測領域604をX方向(横方向)に走査し、その線上の頸窩部603の深度:Fzy、および、そのフレーム内で最も隆起した箇所の深度(深度の最小箇所)Szyとの差(Fzy-Szy)を求め(ステップS701)、かつ、その値を頸窩部の水平位置(X座標):Fxyと最も隆起した箇所の水平位置:Sxyとの距離(|Fxy-Sxy|)で除す(ステップS702)。この値は、上下方向の位置がyにおける胸鎖乳突筋601の突出度であり、値が大きければ、それだけ目立つ突出があることになる。さらに、これを計測領域の下(ymin)から上(ymax)まで積算する(ステップS703)ことで、突出の縦方向の広がりを示すことができる。ここで求めた積算値を、そのフレームにおける胸鎖乳突筋指数(SCM_index)と呼ぶことにする。数式で表現すると式1のようになる。
【0031】
【数1】
但し、
ymax: 計測領域上端のY座標
ymin: 計測領域下端のY座標
Fxy: Y座標がyの時の頸窩部のX座標値
Fzy: Y座標がyの時の頸窩部の深度(Z座標値)
Sxy: Y座標がyの時の最大突出部のX座標値
Szy: Y座標がyの時の最大突出部の深度(Z座標値)
【0032】
これを左右両方の計測領域406および407で毎フレームごと行うことで、鎖骨上窩および/または頸窩部に対する胸鎖乳突筋の隆起の時系列的変動をSCM_indexの時系列データとして表すことができる(ステップS704)。なお、動画像処理装置202は、計測領域内の画像的特徴点をAKAZE特徴量等を用いて求め、その画像的特徴点の毎フレームでの移動から計測領域を継続的に追跡する構成とすることも可能である。
【0033】
呼吸動作判定装置203は、動画像処理装置202で求めたSCM_index(胸鎖乳突筋指数)の時間的変動が、呼吸補助筋動員によるものであるか否かを判定する。前述の通り、努力呼吸時に胸鎖乳突筋の隆起が見られるのは左右の胸鎖乳突筋が一定以上の大きさで同時に働き、かつ、その周期が呼吸周期に一致する場合である。また、隆起が現れるのは特に吸気時であるため、呼吸の位相の前半部分に大きな隆起が現れる特徴を持つ。
【0034】
図8は、呼吸動作判定装置203で実行される処理の流れを示したフローチャートである。まず、呼吸動作判定装置203は、動画像処理装置202で求めた左右の計測領域それぞれのSCM_index時系列データの振幅と周期を周波数解析、ピーク検出等周知の方法により求める(ステップS801)。
【0035】
次に呼吸動作判定装置203は、左右の計測領域それぞれのSCM_indexの振幅が所定値以上であり、かつ、この周期が呼吸周期であるか否かを判定する(ステップS802)。この所定値については、病状が安定している場合の安静呼吸時に計測したSCM_indexの振幅と周期を用いれば良い。SCM_indexの振幅が所定値以下の場合は呼吸以外の体動や計測ノイズによるものと考えられるので、この場合はSCM_indexの変動は呼吸に由来しないと判断することができる。また、例えば、一定区間のSCM_indexの時系列データに自己相関解析を行ってデータの周期性を解析し、求めた周期が成人健常者の一般的な呼吸周期(例えば2~6秒)に入るかどうかを判定することで、SCM_indexの変動が呼吸に由来するか否かを判定することができる。また、振幅は、呼吸周期の波形のピーク、すなわち、山と谷を求め、その差から求められる。
【0036】
ステップS802の判定結果がNoの場合は、ステップS805に進み、呼吸補助筋の動員はないものと判断する。
【0037】
ステップS802の判定結果がYesの場合は、ステップS803に進み、左右のSCM_index時系列データの相関係数rを求め、計算されたrが、予め決められた一定値以上か否かを判定する(ステップS804)。例えば、rが0.7以上であれば、左右の胸鎖乳突筋が同時に働いており、呼吸補助筋が動員されたと判定することができる。ステップS804の判定結果がNoの場合は、ステップS806へ進み、呼吸補助筋の動員はないものと判断する。ステップS804の判定結果がYesの場合は呼吸補助筋の動員がされているものと判断する(ステップS807)。この場合は、好ましくは、呼吸評価演算装置204において呼吸補助筋の動員度合いを評価する。
【0038】
呼吸評価演算装置204は、呼吸補助筋の動員の度合いから、ある時間の努力呼吸を指標化する。ここでは、例えば、呼吸動作判定装置203によって呼吸補助筋の動員が判定された場合、動画像処理装置202で求めたSCM_indexの計測時間:Tにわたる平均値(努力呼吸指標)を求める。数式で表現すると式2のようになる。
【0039】
【数2】
但し、
SCM_index_left(t):時刻tにおける左側SCM_index
SCM_index_right(t):時刻tにおける右側SCM_index
【0040】
例えば、日々、この努力呼吸指標が予め定めた値よりも大きい場合や増加傾向にある場合は、努力呼吸が増す、すなわち、普段よりも息苦しいと感じている可能性がある。
【0041】
上記の説明では胸鎖乳突筋指数(SCM_index)の時間的変動から努力呼吸の有無を判定する例を示した。次に、図3に示した呼吸状態検出装置200を用いて、鎖骨上窩の奥行方向の変動量から努力呼吸の有無を判定する方法について説明する。被験者が努力呼吸を行う場合には、鎖骨上窩が凹むことが分かっている。従って、鎖骨上窩の奥行方向の変動量を観測することにより、被験者が努力呼吸を行っているか否かを判定することができる。
【0042】
まず、被験者の胸鎖乳突筋及び鎖骨上窩を含む頸部を観察できるように、被験者の正面に図3に示す3Dセンサー100を設置し、動画像を撮像する。
【0043】
次に、呼吸補助筋領域検出装置201が、3Dセンサー100が撮像した、被験者の頸部を含む動画像から呼吸補助筋が存在する呼吸補助筋存在領域を抽出する。具体的には、図5に示すように、撮像した画像を人体形状のデータベースと照合し、呼吸補助筋存在領域(406、407)を抽出する。
【0044】
次に、動画像処理装置202が、図4に示したフローに基づいて、呼吸補助筋存在領域(406、407)中の形状的特徴を抽出する。具体的には、図6に示すように、胸鎖乳突筋601及び鎖骨上窩602の測定点を決定する。次に、被験者が、通常呼吸、腹式呼吸、胸式呼吸、無呼吸、及び努力呼吸を行った場合の胸鎖乳突筋601及び鎖骨上窩602の位置を、3Dセンサー100を用いて測定する。
【0045】
ここで、「通常呼吸」とは、被験者が安静時に行う呼吸をいう。「腹式呼吸」とは、一般的には胸郭(肋骨等からなる籠状の骨格)をなるべく動かさずに行う呼吸をいう。「胸式呼吸」とは、胸の周辺で行う呼吸をいう。「無呼吸」とは、気道の空気の流れが止まった状態をいう。「努力呼吸」とは、安静時呼吸では使用されない呼吸筋を動員して行う呼吸であり、具体的には、呼吸困難のため、吸気時に胸鎖乳突筋等の呼吸補助筋を動かしたり、呼気時に内肋間筋や腹筋等を動かしたりして、努力的に行なう呼吸をいう。
【0046】
次に、呼吸動作判定装置203が、動画像処理装置202が抽出した形状的特徴の時系列的変動から呼吸補助筋の動員の有無を判断する。具体的には、図7に示したフローと同様の手順により、3Dセンサー100を設置した位置から、各呼吸状態における被験者の胸鎖乳突筋601までの距離と、鎖骨上窩602までの距離との差を、3Dセンサー100を用いて測定し、胸鎖乳突筋601の位置に対する鎖骨上窩602の相対的な位置を算出する。観察時間は、各呼吸状態それぞれについて約10秒間とした。
【0047】
図9(a)~(e)に、図3に示した呼吸状態検出装置200を用いて測定した、種々の呼吸状態における鎖骨上窩の奥行方向の変動量の時間的変化を表すタイミングチャートを示す。鎖骨上窩の奥行方向の変動量とは、胸鎖乳突筋の位置に対する鎖骨上窩の相対的な位置の変化をいう。従って、被験者の上体の揺動等により胸鎖乳突筋の位置と鎖骨上窩の位置が同じだけ変動する場合は、鎖骨上窩の奥行方向の変動量はないものとする。図9(a)~(e)において、(a)は通常呼吸、(b)は腹式呼吸、(c)は胸式呼吸、(d)は無呼吸、(e)は努力呼吸にそれぞれ対応する。尚、(e)は、努力呼吸時に生じる呼吸補助筋の動員を健常人で示すため、被検者が鼻すすりを行った状態での検知結果を示す。
【0048】
各タイミングチャートの縦軸は、鎖骨上窩の奥行方向の変動量[mm]を表し、横軸は時間[sec]を表す。図9(a)~(d)に示すように、努力呼吸以外の場合は、鎖骨上窩の奥行方向の変動量d1~d4は最大で3~5[mm]程度である。これに対して、図9(e)に示すように、努力呼吸の場合は、鎖骨上窩の奥行方向の変動量d5は10[mm]程度であり、努力呼吸以外の場合と比べて大きな変動が観測されることが分かる。ここで、努力呼吸以外の呼吸で観測される鎖骨上窩の奥行方向の変動量の最大値と、努力呼吸で観測される鎖骨上窩の奥行方向の変動量の大きさとの間の所定の値(例えば、7[mm])を閾値として設定することにより、鎖骨上窩の奥行方向の変動量の大きさが、閾値未満であれば努力呼吸ではないと判定し、閾値以上であれば努力呼吸であると判定することができる。
【0049】
このように、鎖骨上窩の奥行方向の変動量を観測することにより、被験者が努力呼吸を行っているか否かを判定することができる。なお、図9(e)に示した努力呼吸の場合、図8に示した胸鎖乳突筋指数(SCM_index)を用いた判定方法においても呼吸補助筋の動員有りと判断され、努力呼吸であると判定することができる。
【0050】
図9(a)~(e)は、胸鎖乳突筋601(図6参照)に対する鎖骨上窩602の奥行方向の変動量を観測した例を示したが、図6に示すように胸鎖乳突筋601に対する頸窩部603の奥行方向の変動量を観測することにより、努力呼吸の有無を判定するにしてもよい。
【0051】
本実施形態によれば、呼吸専門医が努力呼吸を視診で判断する際の呼吸補助筋の動員を画像センサーと情報処理技術で指標化し、誰もが簡単に判断できるようになるため、在宅等で非医療者が努力呼吸に特徴的な呼吸補助筋の動員を簡便に計測かつ客観的に表現でき、在宅慢性疾患患者の病態をより正確かつ効率的に医療者に伝えることが可能になる。従って、医療者は、この情報を他のモニタリング情報やカルテ情報に照らし合わせて、患者の急性増悪の予兆を早期に捉えることが可能となる。
【0052】
[第二の実施形態に係る呼吸状態検出原理]
上述の第一の実施形態では、呼吸補助筋の動員を人体の頸部を含む動画像から判定した。一方、頸部の肉付きや姿勢により、頸部まわりの動画像では呼吸補助筋の動員が判定しにくい場合がある。本実施形態は、このような場合に対応するために考えられたものであり、ここでは、努力呼吸の有無を肩の動きから判定する装置をさらに加える。前述の通り、努力呼吸時には、肩が呼吸と同期して大きく上下することが知られている。但し、肩は随意的にも上下に動かすことができる。従って、肩の動きから努力呼吸の有無を判定するには、まず、肩の動きが呼吸由来のものであるか否かを判定し、かつその動きの大きさが通常の呼吸時よりも大きいか否かを判断する必要がある。安静にもかかわらず、通常よりも大きな肩の動きがあれば、努力呼吸が発生している可能性が疑われる。すなわち、第一の実施形態では呼吸動作判定装置は頸部の胸鎖乳突筋の動員を判定したが、第二の実施形態では、胸鎖乳突筋の動員が判定できなかった場合に、上記のような肩―頸相対距離による呼吸動作判定を行う。
【0053】
[第二の実施形態に係る呼吸状態検出装置]
第二の実施形態に係る呼吸状態検出装置200´は第一の実施形態に係る呼吸状態検出装置200とハードウェア構成としては同一であるため、呼吸状態検出装置200´のシステム構成図は図3で代用する。第二の実施形態に係る呼吸状態検出装置200´は、呼吸補助筋領域検出装置201´と、動画像処理装置202´と、呼吸動作判定装置203´と、呼吸評価演算装置204´とを備えている。第二の実施形態に係る呼吸状態検出装置200´の呼吸補助筋領域検出装置201´、動画像処理装置202´、呼吸動作判定装置203´及び呼吸評価演算装置204´は、それぞれ第一の実施形態に係る呼吸状態検出装置200の呼吸補助筋領域検出装置201、動画像処理装置202、呼吸動作判定装置203、呼吸評価演算装置204と同様の処理を実行するとともに、胸鎖乳突筋の動員が判定できなかった場合に、肩の動きから呼吸努力の有無を判定する機能を付加したものである。以下では、上記付加機能について説明する。
【0054】
呼吸補助筋領域検出装置201´は呼吸補助筋が存在する領域を入力画像から検出する。第一の実施形態とは異なり、呼吸補助筋領域検出装置201´に入力される入力動画像は頸部だけでなく、肩部も含んだものとなる。
【0055】
動画像処理装置202´は、肩の上下動を、例えば、上述の方法で求めた肩峰403と首付根位置402との上下方向の相対距離409の変動から求める。なお、体格による差をなくすため、この相対距離は、実際の寸法を用いるのではなく、例えば、首付根幅(左右の首付根位置402の間隔)や肩峰幅(左右の肩峰403の間隔)等の寸法で除し、正規化してもよい。
【0056】
図10は、呼吸動作判定装置203´で実行される処理を説明するためのフローチャートである。呼吸動作判定装置203´は、第一の実施形態と同様に動画像処理装置202´が求めた左右のそれぞれのSCM_index時系列データの振幅と周期を求め(ステップS801)、SCM_indexの振幅が一定以上であり、かつ、この周期が呼吸周期であるか否かを判定する(ステップS802)。例えば、通常呼吸周期は4秒程度であり、頻呼吸の場合でも、その周期は2秒程度であるので、一定区間のSCM_indexの時系列データの周期性の解析に自己相関解析を行い、求めた周期が1~6秒 に入るかどうかで呼吸周期であるか否かの判定できる。ステップS802の判定結果がYesの場合、左右のSCM_index時系列データの相関係数rを求める(ステップS803)。これが、予め決められた一定値以上か否かを判定する(ステップS804)。例えば、rが0.7以上であれば、呼吸補助筋が動員されたと判定できる。そしてステップS804の判定結果がYesの場合は呼吸補助筋の動員がされているものと判断する(ステップS807)。
【0057】
第一の実施形態の処理と異なるのは、ステップS802またはステップS804の判定結果がNoの場合、すなわちSCM_indexの振幅が一定以下、または、SCM_indexの周期が呼吸周期と判定されなかった場合、あるいは、左右のSCM_indexの相関係数が一定値以下だった場合である。この場合は、人体の頸部を含む動画像から呼吸補助筋の動員を判定することができないため、肩の動きから呼吸努力の有無を判定する。
【0058】
動画像処理装置202´で求めた、ある時刻の肩峰403と首付根位置402との上下方向の相対距離409を、Ds(t)とすると、肩の動きが呼吸補助筋の動員によるものか否かは、SCM_index同様、この相対距離Ds(t)が周期的に変動し、かつ、その周期が呼吸周期と同等であるか否かを調べること、および、努力呼吸時は肩の動きが一定以上の大きさであることから、その振幅が一定値以上かどうかを調べることで、判定できる。
【0059】
まず、呼吸動作判定装置203´は、Ds(t)の時系列データの計測時間での平均振幅(ΔD mean)と周期を算出する(ステップS901)。具体的には、第一実施例と同様、この周期と振幅は、波形の周波数解析、ピーク検出等周知の方法により求められる。
【0060】
次に、呼吸動作判定装置203´は、この振幅が予め決められた一定値(D0)以上の大きさで、かつ、周期が呼吸周期なのかどうかを判定する(ステップS902)。呼吸周期の判定方法はステップS802と同様、自己相関解析から周期を求めて呼吸周期と比較する方法等がある。
【0061】
ステップS902の判定結果がNoの場合は、ステップS903に進み、呼吸補助筋の動員はないものと判断する。ステップS902の判定結果がYesの場合は呼吸補助筋の動員がされているものと判断する(ステップS807)。この場合は、好ましくは、呼吸評価演算装置204´において呼吸補助筋の動員度合いを評価する。第二の実施例では、以下の式3のような処理により、努力呼吸指標を求める。
【0062】
【数3】
【0063】
ここで、aはSCM_index、すなわち、呼吸補助筋から求める努力呼吸指標とレベルを合わせるため、指標を正規化するための係数である。予め集めた人のデータを統計的に解析して求めた値を用いることができる。本実施形態によれば、呼吸専門医が努力呼吸を視診で判断する際の呼吸補助筋の動員を画像センサーと情報処理技術で指標化し、誰もが簡単に判断できるようになるため、在宅等で非医療者が努力呼吸に特徴的な呼吸補助筋の動員を簡便に計測かつ客観的に表現でき、在宅慢性疾患患者の病態をより正確かつ効率的に医療者に伝えることが可能になる。
【0064】
[第三の実施形態に係る呼吸状態検出装置]
上記、第一および第二の実施形態では、算出した努力呼吸指標の利用についての機能は含まれていない。しかし、実際の利用場面を考えると、この努力呼吸指標を患者ごとに記録し、そのトレンドの変化から良い状態が続いているのか、または、増悪を起こしそうなのか等の目安が示されると良い。本実施形態は、そのような目的のために、算出した努力呼吸指標を経時的に記録する記録装置である結果記録装置(1001)をさらに加えたものである(図11)。このような、日々の努力呼吸指標を、例えば、数値、または/および、グラフとしてディスプレイ500等に表示すること、および/または、過去、結果記録装置に記録されたデータと呼吸評価演算装置の出力した評価結果、すなわち、現在の努力呼吸指標とを比較して表示することができれば、患者の状態をより客観的にかつ直感的にわかりやすく判断することが可能となる。
【0065】
以上の説明において、被験者の努力呼吸の有無の判定を図3及び図11に示す呼吸状態検出装置200(200´)で行う例を示したが、このような例には限られない。即ち、呼吸状態検出装置200(200´)が観測した被験者のデータを通信I/F3によりサーバに送信し、サーバ側が被験者の努力呼吸の有無の判定するようにしてもよい。
【0066】
以上説明したように、本発明によれば、在宅等で非医療者が努力呼吸に特徴的な呼吸補助筋の動員を簡便に計測かつ客観的に表現できるようになるため、在宅における慢性呼吸疾患患者の病態をより正確かつ効率的に医療者に伝えることが可能になる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11