(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-07
(45)【発行日】2022-07-15
(54)【発明の名称】ジアステレオ異性的に濃縮されたPCTAから誘導されたガドリニウム及びキレート配位子の錯体並びに合成方法
(51)【国際特許分類】
C07D 471/08 20060101AFI20220708BHJP
C07F 5/00 20060101ALI20220708BHJP
【FI】
C07D471/08
C07F5/00 D
(21)【出願番号】P 2021541200
(86)(22)【出願日】2020-01-17
(86)【国際出願番号】 EP2020051142
(87)【国際公開番号】W WO2020148431
(87)【国際公開日】2020-07-23
【審査請求日】2021-09-13
(32)【優先日】2019-01-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591052505
【氏名又は名称】ゲルベ
【氏名又は名称原語表記】GUERBET
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ル グルニエ ソワジック
(72)【発明者】
【氏名】シェンデ アラン
(72)【発明者】
【氏名】セール マルティーヌ
(72)【発明者】
【氏名】デクロン ステファン
(72)【発明者】
【氏名】フランソワ ブリュノ
【審査官】二星 陽帥
(56)【参考文献】
【文献】特表2021-533165(JP,A)
【文献】特表2009-513574(JP,A)
【文献】特表2016-521275(JP,A)
【文献】特表2003-501430(JP,A)
【文献】米国特許第06827927(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 471/08
C07F 5/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の式(II):
【化1】
の錯体であって、式:
【化2】
の異性体II-RRRとII-SSSの混合物を含む少なくとも80%のジアステレオ異性体過剰から構成される錯体を調製するためのプロセスであって、
以下の連続する工程:
a)ガドリニウムを用いて以下の式(III):
【化3】
の六酸を錯体化して、式(I):
【化4】
の六酸ガドリニウム錯体を得る工程、
b)式(I)の前記六酸ガドリニウム錯体をpH2~4にて水溶液中で加熱することにより異性化して、式(I)の前記六酸ガドリニウム錯体の異性体I-RRRとI-SSS:
【化5】
の混合物を含む少なくとも80%のジアステレオ異性体過剰から構成されるジアステレオ異性的に濃縮された錯体を得る工程、並びに
c)3-アミノ-1,2-プロパンジオールとの反応によって、工程b)で得られた前記ジアステレオ異性的に濃縮された錯体から開始して、式(II)の前記錯体を形成する工程、を含むプロセス。
【請求項2】
工程a)で形成された式(I)の前記六酸ガドリニウム錯体は、単離又は精製されることなく、工程b)に直接供される、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
工程b)の前記水溶液は、酢酸を含む、請求項1又は2に記載のプロセス。
【請求項4】
工程b)が、100℃~120℃の温度で、12時間~48時間、実施される、請求項1~3のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項5】
工程b)が、以下の連続する工程:
b1)式(I)の六酸ガドリニウム錯体をpH2~4にて水溶液中で加熱することによって異性化して、式(I)の前述の六酸ガドリニウム錯体の異性体I-RRRと異性体I-SSSの混合物を含む少なくとも80%のジアステレオ異性体過剰から構成されるジアステレオ異性的に濃縮された錯体を得る工程、並びに
b2)好ましくは、前述のジアステレオ異性的に濃縮された錯体を結晶化することによって単離する工程
を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項6】
前記結晶化がシーディングにより行われる、請求項5に記載のプロセス。
【請求項7】
工程b)がさらに、ジアステレオ異性的に濃縮され精製された錯体を得るために、式(I)の単離されたジアステレオ異性的に濃縮された六酸ガドリニウム錯体の、結晶化による精製の工程b3)を含む、
請求項5又は6に記載のプロセス。
【請求項8】
工程b)がさらに、前記ジアステレオ異性体I-RRR及びI-SSS以外の式(I)の前記錯体の前記ジアステレオ異性体の選択的脱錯体
化の工程b4)を含み、工程b4)は、工程b2)若しくは工程b3)が存在する場合は、工程b2)の後若しくは工程b3)の後に実施される、請求項5~7のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項9】
工程b)で得られるジアステレオ異性的に濃縮された錯体が、少なくとも85%のジアステレオ異性体過剰を有する、請求項1~8のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項10】
工程b)で得られるジアステレオ異性的に濃縮された錯体が、少なくとも90%のジアステレオ異性体過剰を有する、請求項1~9のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項11】
工程b)で得られるジアステレオ異性的に濃縮された錯体が、少なくとも95%のジアステレオ異性体過剰を有する、請求項1~10のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項12】
工程c)は、以下の連続する工程:
c1)酸の存在下で式R
1OHのアルコール中での反応による、R
1が(C
1~C
6)アルキル基を表す、式(VIII)
【化6】
のトリエステルを形成する工程、及び
c2)式(VIII)の前記トリエステルを3-アミノ-1,2-プロパンジオールを用いてアミノリシスする工程、
を含む、請求項1~11のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項13】
式(VIII)の前記トリエステルは、工程c1)とc2)の間で単離されない、請求項12に記載のプロセス。
【請求項14】
R
1はメチル基を表す、請求項12又は13に記載のプロセス。
【請求項15】
工程c)は、以下の連続する工程:
c1)酸の存在下でメタノールでの反応による、式(IV)
【化7】
のメチルトリエステルの形成、及び
c2)酸の存在下でメタノールでの式(IV)のメチルトリエステルの3-アミノ-1,2-プロパンジオールとのアミノリシス
を含み、
ここで、前記メタノールは、55℃を超える温度に達するまで、真空蒸留によって除去され、反応媒体は、室温に冷却して水で希釈する前に、5時間より長い時間、真空でこの温度に維持される、
請求項1~14のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項16】
請求項1に記載の式(III)の前記六酸は、式(V):
【化8】
のピクレンの2-ブロモグルタル酸ジブチルとのアルキル化によって、
式(VI):
【化9】
のブチルヘキサエステルを得、続いて加水分解工程を行って得たものである、請求項1~15のいずれか1項に記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガドリニウム及びPCTA系のキレート配位子の錯体を合成するための新規なプロセスに関し、これにより、医用画像の分野、特に磁気共鳴画像での、造影剤としての用途に最も特に有利な物理化学的特性を有する前述の錯体の立体異性体を優先的に得ることが可能になる。又、本発明は、ジアステレオ異性的に濃縮された錯体(diastereoisomerically enriched complex)それ自体、及び又任意選択でガドリニウムを含む2つの合成中間体に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、米国特許第4647447号明細書に記載されている、ランタニド(常磁性金属)、特にガドリニウム(Gd)のキレートに基づく多くの造影剤が知られている。これらの製品は、GBCA(ガドリニウム系の造影剤)という用語で照合される場合が多い。いくつかの製品が販売されており、その中には、DOTA(1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-N,N’,N’’,N’’’-四酢酸)に基づくメグルミンガドテレート、DO3A-ブトロールに基づくガドブトロール、HPDO3Aに基づくガドテリドールなどの環状型キレート、及び特にDTPA(ジエチレントリアミン五酢酸)又はDTPA-BMA(ガドジアミド配位子)に基づく直鎖型キレートがある。
【0003】
その一部は開発中である、他の製品は、新しい世代のGBCAを表している。それらは本質的に、欧州特許第1931673号明細書に記載されているように、ビシクロポリアザマクロシクロカルボン酸錯体(欧州特許第0438206号明細書)又はPCTA誘導体(即ち、最小の(a minima)3,6,9,15-テトラアザビシクロ[9,3,1]ペンタデカ-1(15),11,13-トリエン-3,6,9-三酢酸の化学構造を含む誘導体)などの環状型キレートの錯体である。
【0004】
欧州特許第1931673号明細書に記載されているPCTA系のキレート配位子の錯体は、化学的に比較的容易に合成できるという利点と、更に、現在市場に出回っている、他のGBCAよりも優れた緩和性(水で11~12mM-1.s-1までであり得る緩和性r1)を有するという利点があり、この緩和性は、これらの製品の効率に対応し、従ってこれらのコントラスト力(contrasting power)に対応する。
【0005】
体内では、ランタニド、特にガドリニウムのキレート(又は錯体)は、化学平衡状態にあり(その熱力学的定数K
thermによって特徴付けられる)、前述のランタニドの望ましくない放出につながる可能性がある(以下の式1を参照):
【化1】
キレート又は配位子(Ch)とランタニド(L
n)の間の錯体化化学平衡により、錯体Ch-L
nが得られる。
【0006】
2006年以降、NSF(腎性全身性線維症又は線維性皮膚障害)として知られる病状は、少なくとも部分的に遊離ガドリニウムの体内への放出に関連している。この病気は、特定のカテゴリーの患者向けに販売されているガドリニウム系の造影剤に関して保健当局に注意を喚起している。
【0007】
従って、患者の耐性という複雑な問題を完全に安全な方法で解決し、投与後の望ましくないランタニド放出のリスクを制限又は排除するための戦略が実施された。造影剤の投与は、診断検査中であろうと、用量の調整及び治療処置の有効性のモニタリングのためであろうと、多くの場合繰り返されるため、この問題を解決することは更に困難である。
【0008】
加えて、2014年以降、ガドリニウム系の製品、より特には直鎖型ガドリニウムキレートを繰り返し投与した後のガドリニウムの脳沈着の可能性について言及されてきているが、このような沈着は、ドタレム(Dotarem)(登録商標)などの、ガドリニウム環状型キレートでほとんど報告されていないか、まったく報告されていない。その結果、様々な国が、直鎖型キレートの大部分を市場から撤退させる、又は、安定性が不十分であると考えられるため、使用の適応を大幅に制限することを決定してきた。
【0009】
従って、ランタニドが体内に放出されるリスクを制限するための戦略は、可能な限り高い熱力学的及び/又は速度論的安定性によって区別される錯体を選択することにある。この理由は、錯体が安定しているほど、経時的に放出されるランタニドの量が制限されるためである。
【0010】
しかしながら、欧州特許第1931673号明細書に記載されているピクレンタイプの構造を含むPCTA系のキレート配位子の錯体は、良好な速度論的安定性を有しながら、一般的に他のサイクレン系の環状型化合物の錯体よりも低い熱力学的定数を有する。
【0011】
これは特に、以下に示す式(II)の錯体の場合である:
【化2】
【0012】
具体的には、特に国際公開第2014/174120号パンフレットに記載されているように、安定度定数としても知られる式(II)の錯体の形成のための反応に対応する熱力学的平衡定数は、1014.9(即ち、log(Ktherm)=14.9)である。比較のために、1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-N,N’,N’’,N’’’-四酢酸(DOTA-Gd)のガドリニウム錯体の安定度定数は、1025.6(即ち、log(Ktherm)=25.6)である。
【0013】
しかしながら、式(II)の錯体は、特に、側鎖がグラフトされている環状型化合物の窒素原子に対して、錯体の前述の側鎖のα位に位置する3つの不斉炭素原子が存在するため、いくつかの立体異性体に対応することに留意されたい。これらの3つの不斉炭素は、上記の式(II)にてアスタリスク(*)で印されている。
【0014】
従って、欧州特許第1931673号明細書に記載されているように式(II)の錯体の合成は、立体異性体の混合物の生成をもたらす。
【0015】
式(II)の錯体の側鎖のアミノプロパンジオール基も又、不斉炭素を含む。従って、式(II)の錯体は、合計6つの不斉炭素を含み、従って64の配置的に立体異性体の形態で存在する。しかしながら、以降の説明では、所与の側鎖について考慮される立体異性の唯一の源は、便宜上、上記の式(II)にてアスタリスク(*)で印されたカルボン酸基を支えている不斉炭素に対応するものである。
【0016】
これらの3つの不斉炭素のそれぞれは、R又はSの絶対配置であり得るので、式(II)の錯体は、以下でII-RRR、II-SSS、II-RRS、II-SSR、II-RSS、II-SRR、II-RSR及びII-SRSと呼ばれる立体異性体の8つのファミリーの形態で存在する。より正確には、立体化学の通常の命名法によれば、式(II)の錯体は、ジアステレオ異性体の8つのファミリーの形態で存在する。
【0017】
「ファミリー」という用語の使用は、前述のように、特にアミノプロパンジオール基内に不斉炭素が存在するために、これらのファミリーのそれぞれが、いくつかの立体異性体を照合するという点で正当化される。
【0018】
それにもかかわらず、以降の説明では、所与のアミノプロパンジオール基の不斉炭素に関連する立体異性は考慮されないので、異性体、立体異性体又はジアステレオ異性体II-RRR、II-SSS、II-RRS、II-SSR、II-RSS、II-SRR、II-RSR及びII-SRSという用語は、それぞれが立体異性体のファミリーに対応することを述べることなく、区別なく使用される。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者らは、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)及び超高速液体クロマトグラフィー(UHPLC)により、以降の説明ではiso1、iso2、iso3、及びiso4と呼ばれる、クロマトグラムでの保持時間によって特徴付けられる4つの異なる溶出ピークに対応する、従来技術のプロセスに従って得られた式(II)の錯体の異性体の4つの未分解の(unresolved)ピーク又は群を分離及び同定することに成功した。欧州特許第1931673号明細書に記載されているプロセスを実行することにより、得られた混合物中の群iso1、iso2、iso3、及びiso4のそれぞれの含有量は、以下の通り、20%、20%、40%、及び20%である。
【0020】
次いで、本発明者らは、異性体のこれらの様々な群が異なる物理化学的特性を有することを発見し、以下に示す式(II-RRR)と(II-SSS)の異性体II-RRRとII-SSSの混合物を含むiso4として知られる異性体の群が、医用画像の造影剤として最も有利であると判明していることを決定した。
【化3】
【0021】
従って、驚くべきことに、iso4は、式(II)の錯体が欧州特許第1931673号明細書に記載されているプロセスを実行することによって得られる形態のジアステレオ異性体の混合物よりも著しく優れた熱力学的安定性によって識別される。具体的には、その平衡熱力学的定数Ktherm iso4は、1018.7(即ち、log(Ktherm iso4)=18.7)に等しく、この値は、Pierrard et al.,Contrast Media Mol.Imaging,2008,3,243-252及びMoreau et al.,Dalton Trans.,2007,1611-1620に記載の方法を実行することによって決定されている。
【0022】
更に、iso4は、本発明者らによって単離された4つの群の中で最良の速度論的慣性(kinetic inertia)(速度論的安定性としても知られる)を有する異性体の群である。具体的には、本発明者らは、37℃での酸性水溶液(pH=1.2)におけるそれらの脱錯体化速度論を研究することにより、異性体の4つの群の速度論的慣性を評価した。異性体の各群について決定された半減期値(T
1/2)は、以下の表1に示されており、半減期は、以下の脱錯体化反応(式2)に従い、最初に存在する錯体の量の50%が解離するまでの時間に相当する。
【化4】
【0023】
【0024】
比較のために、環状型ガドリニウム錯体であるガドブトロール又はガドテレートは、同じ条件下でそれぞれ18時間及び4日の速度論的慣性を有するが、ガドジアミド又はガドペンテテートなどの直鎖型ガドリニウム錯体は、瞬時に解離する。
【0025】
加えて、iso4は、特にiso3よりも化学的に安定している。この理由は、式(II)の錯体のアミド官能基が加水分解されやすいことである。アミド官能基の加水分解反応(式3)により、3-アミノ-1,2-プロパンジオールが放出されることによってなされる、二重に結合した不純物の形成が生じる。本発明者らは、pH13の水溶液中での式(II)の錯体の加水分解反応の速度論を研究し、iso4のアミド官能基が、iso3のアミド官能基よりも加水分解に対してより安定であることを認めた。
【化5】
【0026】
異性体の様々な群の緩和性、即ち造影剤としての効率に関して、行われた測定は、群iso1、iso2、及びiso4において比較的同等のコントラスト力、及びiso3において効率が低減したことを実証している(表2を参照)。
【0027】
【0028】
本発明者らは、式(II)の錯体を調製及び精製するための新規なプロセスの開発に成功し、特に有利な物理化学的特性を有する、前述の錯体のジアステレオ異性体II-RRR及びII-SSSを優先的に得ることを可能にした。本発明によるプロセスは、最も安定性の低い立体異性体を最も安定性の高い立体異性体に変換することによる異性体濃縮の工程を含み、これは、驚くべきことに、最終の錯体ではなく六酸中間錯体で行われるが、式(II)の錯体の最も安定な異性体を得ることを非常に優勢的に可能にする。
【発明を実施するための形態】
【0029】
目的のジアステレオ異性体を優勢的に得ることを可能にするプロセスの実施は、立体異性体の混合物を調製し、次いでその後、通常の技術に従ってジアステレオ異性体を分離し、従って目的の異性体を単離することを試みることからなる代替法と比較した場合、紛れもなく有利である。具体的には、ジアステレオ異性体を工業規模で分離する工程を伴わないプロセスを実行することがより簡易であるということに加えて、分離することがないことは、最終的に廃棄されるであろう望ましくないジアステレオ異性体の生成を可能な限り制限することによって、第1にかなりの時間を節約し、第2にプロセスの全体的な収率を改善することを可能にする。更に、通常の分離技術は、一般的に、溶媒の大量の使用を伴うが、これは、経済的コスト以上に、環境上の理由から望ましくない。更に、国際がん研究機関によってヒト(群1)に対して発がん性があると分類されているシリカへの職業上の曝露に固有の健康リスクを考えると、シリカでのクロマトグラフィーは特に避ける必要がある。
【0030】
前に示したように、本発明者らによって開発された式(II)の錯体を調製するためのプロセスは、下記の式(I)の中間六酸ガドリニウム錯体の異性体濃縮の工程に基づく:
【化6】
式(I)の錯体は、側鎖がグラフトされている環状型化合物の窒素原子に対して、錯体の前述の側鎖のα位置に位置する3つの非対称炭素原子の存在のために、いくつかの立体異性体に対応する。これらの3つの不斉炭素は、上記の式(I)にてアスタリスク(*)で印されている。
【0031】
カルボキシレート官能性を有する3つの不斉炭素のそれぞれが、R又はSの絶対配置であり得るので、式(I)の錯体は、以下でI-RRR、I-SSS、I-RRS、I-SSR、I-RSS、I-SRR、I-RSR及びI-SRSと呼ばれる8つの立体異性体の形態で存在する。より正確には、立体化学の通常の命名法によれば、式(I)の錯体は、相互のジアステレオ異性体である4つの対のエナンチオマーの形態で存在する。
【0032】
本発明者らは、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)及び超高速液体クロマトグラフィー(UHPLC)により、以降の説明ではisoA、isoB、isoC、及びisoDと呼ばれる、クロマトグラムでの保持時間によって特徴付けられる4つの異なる溶出ピークに対応する、欧州特許第1931673号明細書に記載のプロセスに従って得られた式(I)の錯体の異性体の4つの未分解のピーク又は群を分離及び同定することに成功した。
【0033】
IsoDは、水から結晶化する。X線回折分析により、本発明者らは、異性体のこの群の結晶構造を決定することができ、従って、それが、以下の式(I)、式(I-RRR)及び(I-SSS)の錯体のジアステレオ異性体I-RRR及びI-SSSを含むことを発見することができた。
【化7】
【0034】
式(I)の錯体のジアステレオ異性体I-RRRとI-SSSは互いにエナンチオマーであることに留意されたい。
【0035】
本発明のプロセスの異性体濃縮工程は、isoDにおいて式(I)の中間六酸ガドリニウム錯体を濃縮することを目的としている。
【0036】
式(II)の錯体の合成は、特に、式(I)の中間六酸錯体のカルボン酸官能基のアミド官能基への変換を伴う。このアミド化反応は、式(I)の錯体の3つの不斉炭素原子の絶対配置を変更しない。
【0037】
従って、前に得られたisoDにおいて濃縮された式(I)の六酸錯体に対してアミド化反応を行うと、iso4において濃縮された式(II)の錯体を得ることが可能になる。
【0038】
式(I)の六酸ガドリニウム錯体
従って、本発明は、第1に、式(I):
【化8】
の六酸ガドリニウム錯体であって、式:
【化9】
の異性体I-RRRとI-SSSの混合物を含む少なくとも80%のジアステレオ異性体過剰(diastereoisomeric excess)から構成される、六酸ガドリニウム錯体に関する。
【0039】
本発明の文脈において、「ジアステレオ異性体過剰」という用語は、式(I)の六酸ガドリニウム錯体に関して、前述の錯体は、優勢的に、ジアステレオ異性体I-RRR、I-SSS、I-RRS、I-SSR、I-RSS、I-SRR、I-RSR及びI-SRSから選択される異性体又は異性体の群の形態で存在することを示すことを意図している。前述のジアステレオ異性体過剰は、パーセントとして表され、式(I)の六酸ガドリニウム錯体の総量に対する優勢的な異性体又は異性体の群によって表される量に対応する。異性体は、定義上、同じモル質量を有するので、このパーセントは、モルベース又は質量ベースのいずれかであり得ることが理解される。
【0040】
特定の一実施形態では、本発明による式(I)の錯体は、少なくとも85%、とりわけ少なくとも90%、特に少なくとも95%、好ましくは少なくとも97%、有利には少なくとも98%、より有利には少なくとも99%の、異性体I-RRRとI-SSSの混合物を含むジアステレオ異性体過剰を有する。
【0041】
好ましくは、前述のジアステレオ異性体過剰は、少なくとも70%、特に少なくとも80%、有利には少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%の異性体I-RRRとI-SSSの混合物から構成される。
【0042】
有利には、前述のジアステレオ異性体過剰は、異性体I-RRRとI-SSSの混合物からなる。
【0043】
又、「異性体I-RRRとI-SSSの混合物」という用語は、ひいては、I-RRR又はI-SSSのいずれかである異性体の1つのみが存在する場合を網羅する。しかしながら、「異性体I-RRRとI-SSSの混合物」という用語は、異性体I-RRRとI-SSSのそれぞれが可変であるがゼロ以外の量で存在する全ての場合を優先的に示す。
【0044】
好ましい実施形態では、異性体I-RRRとI-SSSは、65/35~35/65、とりわけ60/40~40/60、特に55/45~45/55の比で前述の混合物中に存在する。有利には、異性体I-RRR/I-SSSの混合物は、ラセミ(50/50)混合物である。
【0045】
より特には、前に定義されたジアステレオ異性体過剰は、HPLCプロットのピーク4(即ち、isoDに対応する溶出順で4番目のピーク)に対応し、33.9から37.5分の保持時間、通常は約35.7分を特徴とし、前述のプロットは、以下に記載されるHPLC法を使用して得られる。
【0046】
本発明の目的のために、「HPLCプロット」という用語は、所与の組成及び所与の溶離液の流量に対する時間の関数としての固定相における化合物の(この場合は化合物の異性体の)混合物の通過及び分離後に検出器によって測定された濃度のプロファイルを意味する。HPLCプロットは、分析された化合物又は化合物の混合物に特徴的な様々なピーク又は未分解の(unresolved)ピークから構成されている。
【0047】
HPLC法:
-Waters Symmetry(登録商標)C18-250×4.6mm-5μmカラム。
これは、C18(オクタデシル)グラフトでの球状シリカ粒子を含む逆相HPLCカラムであり、そのシラノールはキャッピング剤で処理されている(末端キャップされている)。又、長さ250mm、内径4.6mm、粒子サイズ5μm、空隙率100Å、及び炭素含有量19%が特徴である。
使用する固定相は、水性移動相と互換性があることが優先される。
-分析条件:
【0048】
【0049】
-移動相グラジエント(体積比):
【0050】
【0051】
式(II)の錯体
本発明は、第2に式(II):
【化10】
の錯体であって、式:
【化11】
の異性体II-RRRとII-SSSの混合物を含む少なくとも80%のジアステレオ異性体過剰(diastereoisomeric excess)から構成される、錯体に関する。
【0052】
本発明の文脈において、「ジアステレオ異性体過剰」という用語は、式(II)の錯体に関して、前述の錯体は、優勢的に、ジアステレオ異性体II-RRR、II-SSS、II-RRS、II-SSR、II-RSS、II-SRR、II-RSR及びII-SRSから選択される異性体又は異性体の群の形態で存在することを示すことを意図している。前述のジアステレオ異性体過剰は、パーセントとして表され、式(II)の錯体の総量に対する優勢的な異性体又は異性体の群によって表される量に対応する。異性体は、定義上、同じモル質量を有するので、このパーセントは、モルベース又は質量ベースのいずれかであり得ることが理解される。
【0053】
特定の一実施形態では、本発明による式(II)の錯体は、少なくとも85%、特に少なくとも90%、特に少なくとも92%、好ましくは少なくとも94%、有利には少なくとも97%、より有利には少なくとも99%の、異性体II-RRRとII-SSSの混合物を含むジアステレオ異性体過剰を有する。
【0054】
好ましくは、前述のジアステレオ異性体過剰は、少なくとも70%、特に少なくとも80%、有利には少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%の異性体II-RRRとII-SSSの混合物から構成される。
【0055】
有利には、前述のジアステレオ異性体過剰は、異性体II-RRRとII-SSSの混合物からなる。
【0056】
又、「異性体II-RRRとII-SSSの混合物」という用語は、ひいては、II-RRR又はII-SSSのいずれかである異性体の1つのみが存在する場合を網羅する。しかしながら、「異性体II-RRRとII-SSSの混合物」という用語は、異性体II-RRRとII-SSSのそれぞれが可変であるがゼロ以外の量で存在する全ての場合を優先的に示す。
【0057】
好ましい実施形態では、異性体II-RRRとII-SSSは、65/35~35/65、特に60/40~40/60、特に55/45~45/55の比で前述の混合物中に存在する。有利には、異性体II-RRRとII-SSSは、50/50の比で混合物中に存在する。
【0058】
より具体的には、前に定義されたジアステレオ異性体過剰は、UHPLCプロットのピーク4(即ち、iso4に対応する溶出順で異性体の4番目の未分解のピーク)に対応し、6.0~6.6分、典型的には約6.3分の保持時間が特徴であり、前述のプロットは、以下に記載されるUHPLC法を使用して得られる。
【0059】
本発明の目的のために、「UHPLCプロット」という用語は、所与の組成及び所与の溶離液の流量に対する時間の関数としての固定相における化合物の(この場合は化合物の異性体の)混合物の通過及び分離後に検出器によって測定された濃度のプロファイルを意味する。UHPLCプロットは、分析された化合物又は化合物の混合物に特徴的な様々なピーク又は未分解のピークから構成されている。
【0060】
UHPLC法:
-Waters Cortecs(登録商標)UPLC T3 150×2.1mm-1.6μmカラム。
これは、優先的に非常に硬い、コアから構成された球状粒子を含む逆相UPLCカラムであり、三官能性C18(オクタデシル)グラフトでの多孔質シリカに囲まれたシリカからなり、そのシラノールはキャッピング剤で処理されている(末端キャップされている)。又、長さ150mm、内径2.1mm、粒子サイズ1.6μm、空隙率120Å、及び炭素含有量4.7%が特徴である。
【0061】
使用する固定相は、水性移動相と互換性があることが優先される。
-分析条件:
【0062】
【0063】
-移動相グラジエント(%体積/体積):
【0064】
【0065】
好ましい実施形態では、本発明による式(II)の錯体は、ラセミ又は鏡像異性的に純粋な形態、好ましくはラセミ形態で、前に定義された本発明による式(I)の錯体、及び3-アミノ-1,2-プロパンジオールで開始するアミド化によって得られる。
【0066】
本発明の目的のために、「アミド化」という用語は、アミン官能基との反応によってカルボン酸官能基をアミド官能基に変換するための反応を意味する。
【0067】
このような反応は、説明の続きに詳述されているように、カルボン酸官能基の活性化後に特に実行され得る。
【0068】
式(II)の錯体を調製するためのプロセス
本発明は又、以下の連続する工程を含む、式(II)の錯体を調製するためのプロセスに関する:
a)以下の式(III):
【化12】
の六酸をガドリニウムを用いて錯体化して、前に定義された式(I)の六酸ガドリニウム錯体を得る工程、
b)式(I)の六酸ガドリニウム錯体をpH2から4の水溶液中で加熱することによって異性化して、式(I)の前述の六酸ガドリニウム錯体の異性体I-RRRとI-SSSの混合物を含む少なくとも80%のジアステレオ異性体過剰から構成されるジアステレオ異性的に濃縮された錯体を得る工程、
c)工程b)で得られたジアステレオ異性的に濃縮された錯体から開始して、3-アミノ-1,2-プロパンジオールとの反応によって、式(II)の錯体を形成する工程。
【0069】
本明細書では、特に明記しない限り、「Gd」、「ガドリニウム」及び「Gd3+」という用語は、Gd3+イオンを示すために区別なく使用される。ひいては、これは又、塩化ガドリニウム(GdCl3)又は酸化ガドリニウム(Gd2O3)などの遊離ガドリニウムの供給源であり得る。
【0070】
本発明において、「遊離Gd」という用語は、好ましくは錯体形成のために利用可能である、錯体化されていない形態のガドリニウムを示す。これは典型的には、水に溶解したGd3+イオンである。ひいては又、塩化ガドリニウム(GdCl3)又は酸化ガドリニウムなどの遊離ガドリニウムの供給源であり得る。
【0071】
・工程a)
この工程の過程で、式(III)の六酸とガドリニウムとの錯体化反応が起こり、これにより、前に定義された式(I)の六酸ガドリニウム錯体を得ることが可能になる。
【0072】
特定の実施形態によれば、工程a)は、水中での式(III)の六酸と遊離Gdの供給源との反応を含む。
【0073】
好ましい実施形態では、遊離Gdの供給源は、GdCl3又はGd2O3、好ましくはGd2O3である。
【0074】
好ましくは、工程a)で使用される試薬、即ち、ガドリニウムの供給源(典型的には酸化ガドリニウム)、式(III)の六酸及び水は、特に金属不純物に関して、可能な限り純粋である。
【0075】
従って、ガドリニウムの供給源は、有利には、好ましくは99.99%を超える純度、更により好ましくは99.999%を超える純度の酸化ガドリニウムである。
【0076】
プロセスで使用される水は、好ましくは50ppm未満のカルシウム、より好ましくは20ppm未満、最も好ましくは15ppm未満のカルシウムを含む。一般的に、このプロセスで使用される水は、脱イオン水、注入用水(注入グレードの水)、又は精製水である。
【0077】
有利には、この工程a)で使用される試薬(式(III)の六酸及びガドリニウム)の量は、この工程の間で起こる錯体化反応の平衡式によって決定されるように、化学量論的比率に対応する、又はそれに近い。
【0078】
「化学量論的比率に近い」という用語は、試薬が導入されるモル比率と化学量論的比率の差が、15%未満、特に10%未満、好ましくは8%未満であることを意味する。
【0079】
ガドリニウムは、化学量論的比率に対してわずかに過剰に導入されることができる。式(III)の六酸として導入される材料の量に対するガドリニウムとして導入される材料の量の比は、1より大きいが、典型的には1.15未満、特に1.10未満、有利には1.08未満である。言い換えれば、導入されるガドリニウムの量は、これ自体が1当量に相当する、導入される式(III)の六酸の量に対して、1当量(当量)より多いが、典型的には、1.15当量未満、特に1.10当量未満、有利には1.08当量未満である。遊離ガドリニウムの供給源がGd2O3である好ましい実施形態では、導入されるGd2O3の量は、導入される式(III)の六酸の量(1当量)に対して、典型的には0.5当量を超えるが、0.575当量未満、特に0.55当量未満、有利には0.54当量未満である。
【0080】
特定の実施形態によれば、工程a)は、以下の連続する工程を含む:
a1)式(III)の六酸の水溶液の調製、及び
a2)工程a1)で得られた水溶液への遊離ガドリニウムの供給源の添加。
【0081】
この実施形態では、工程a1)で調製された水溶液中の式(III)の六酸の含有量は、水溶液の総重量に対して、典型的には10%~60%、特に15%~45%、好ましくは20%~35%、有利には25%~35重量%、更により有利には25重量%~30重量%である。
【0082】
優先的に、工程a)及びb)は、ワンポット(one-pot)実施形態に従って、即ち、同じ反応器内で、単離又は精製の中間工程なしで実行される。
【0083】
従って、この好ましい実施形態では、工程a)で形成された式(I)の六酸ガドリニウム錯体は、単離又は精製されることなく、工程a)に使用されるものと同じ反応器内で異性化工程b)に直接供される。
【0084】
・工程b)
工程a)において式(III)の六酸とガドリニウムとの錯体化反応によって形成された式(I)の六酸ガドリニウム錯体は、最初にジアステレオ異性体の混合物の形態で得られる。
【0085】
工程b)は、異性体I-RRR及びI-SSSにおけるジアステレオ異性体の混合物を濃縮して、少なくとも85%、とりわけ少なくとも90%、特に少なくとも95%、好ましくは少なくとも97%、有利には少なくとも98%、より有利には少なくとも99%の、異性体I-RRRとI-SSSの混合物を含むジアステレオ異性体過剰から構成される式(I)のジアステレオ異性的に濃縮された六酸ガドリニウム錯体を得ることを目的としている。
【0086】
好ましくは、前述のジアステレオ異性体過剰は、少なくとも70%、特に少なくとも80%、有利には少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%の異性体I-RRRとI-SSSの混合物から構成される。
【0087】
有利には、前述のジアステレオ異性体過剰は、異性体I-RRRとI-SSSの混合物からなる。
【0088】
本発明者らは、実際、工程a)の終わりに得られた式(I)の六酸ガドリニウム錯体の溶液のpH及び温度などの要因が、式(I)の錯体の様々な異性体がジアステレオ異性体の混合物中に存在する比に影響を与えることを発見した。経時的に、混合物は、驚くべきことに、最も熱力学的に安定であるが、又最も化学的に安定である異性体、この場合は異性体I-RRR及びI-SSSを含む異性体の群に濃縮されるようになる傾向がある。
【0089】
又、「異性体I-RRRとI-SSSの混合物」という用語は、ひいては、I-RRR又はI-SSSのいずれかである異性体の1つのみが存在する場合を網羅する。しかしながら、「異性体I-RRRとI-SSSの混合物」という用語は、異性体I-RRRとI-SSSのそれぞれが可変であるがゼロ以外の量で存在する全ての場合を優先的に示す。
【0090】
好ましい実施形態では、異性体I-RRR及びI-SSSは、65/35~35/65、とりわけ60/40~40/60、特に55/45~45/55の比で前述の混合物中に存在する。有利には、異性体I-RRR/I-SSSの混合物は、ラセミ(50/50)混合物である。
【0091】
水溶液中での式(I)の六酸ガドリニウム錯体の異性化の工程b)は、典型的には、2~4、特に2~3、有利には2.2~2.8のpHで実施される。
【0092】
pHは、酸、好ましくは、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸又はリン酸などの無機酸、例えば、塩酸で、優先的に調整される。
【0093】
ガドリニウムキレートは、酸性媒体において低い速度論的慣性が特徴であることが当技術分野で知られていることから、このようなpH条件下で、混合物、特に異性体、この場合は異性体I-RRRとI-SSSの混合物の濃縮が起こることは全く驚くべきことである。具体的には、媒体中のH+イオンの濃度が高いほど、プロトンが、配位子のドナー原子の1つに移動する可能性が高くなり、こうして錯体の解離が引き起こされる。その結果、当業者は、式(I)の六酸ガドリニウム錯体を2~4のpHの水溶液に入れると、I-RRR及びI-SSSへのその異性化ではなく、前述の錯体の解離をもたらすと予想したであろう。
【0094】
式(III)の六酸の錯体化について欧州特許第1931673号明細書によって推奨されるpHの範囲、即ち5.0~6.5は、その異性体I-RRR及びI-SSSに濃縮された式(I)の錯体を得ることができないことに留意されたい。
【0095】
工程b)は、典型的には、80℃~130℃、特に90℃~125℃、好ましくは98℃~122℃、有利には100℃~120℃の温度で、典型的には10時間~72時間、特に10時間~60時間、有利には12時間~48時間、実施される。
【0096】
全ての予想に反して、上記のpH条件と組み合わせると、ガドリニウムキレートの不安定性に有利に働くはずのこうした温度条件は、その脱錯体化又は任意の他の不純物の形成をもたらさず、I-RRR及びI-SSSへのその異性化をもたらす。
【0097】
特定の一実施形態では、工程b)の水溶液は、酢酸を含む。次いで、工程b)は、100℃~120℃、特に110℃~118℃の温度で、典型的には12時間~48時間、とりわけ20時間~30時間、特に24時間~26時間、有利に実行される。
【0098】
酢酸は、好ましくは、酢酸含有量が、工程a)で使用される式(III)の六酸の質量に対して、25質量%~75質量%、特に40質量%~50質量%である量で、工程a)で得られた式(I)の六酸ガドリニウム錯体の溶液を加熱する前に、加えられる。
【0099】
水溶液が有利には100℃~120℃、典型的には110℃~118℃の温度に加熱されるとき、一定体積の溶液を維持するために、水が蒸発するにつれて酢酸が徐々に加えられる。
【0100】
好ましい実施形態によれば、工程b)の終わりに、ジアステレオ異性的に濃縮された錯体は、結晶化によって、好ましくはシーディングによる結晶化によって単離される。
【0101】
この実施形態では、工程b)は、以下の連続する工程を含む:
b1)式(I)の六酸ガドリニウム錯体をpH2~4にて水溶液中で加熱することによって異性化して、式(I)の前述の六酸ガドリニウム錯体の異性体I-RRRと異性体I-SSSの混合物を含む少なくとも80%のジアステレオ異性体過剰から構成されるジアステレオ異性的に濃縮された錯体を得る工程、並びに
b2)前述のジアステレオ異性的に濃縮された錯体を結晶化、好ましくはシーディングにより結晶化することによって単離する工程。
【0102】
結晶化工程b2)は、第1に、結晶の形態でより高純度の脱色生成物を得るために、前の工程から生じる可能性がある、水溶液中に存在する任意の不純物を除去することを目的としており、第2に、工程b1)の終わりに得られたものよりも高い、前述の錯体の異性体I-RRRとI-SSSの混合物を含むジアステレオ異性体過剰を得るために、式(I)の六酸ガドリニウム錯体のジアステレオ異性体濃縮を継続することを目的としている。
【0103】
具体的には、式(I)の六酸錯体の異性体I-RRR及びI-SSSは、水から結晶化する。他方、前述の異性体に濃縮されていない式(I)の六酸ガドリニウム錯体は、結晶化しない。
【0104】
工程b)の過程で錯体が濃縮されるようになる傾向がある(及び、全ての予想に反して、それが実行される条件に照らして)、異性体I-RRR及びI-SSSは、水から結晶化する錯体の唯一の異性体であるということは、まったく予想外の結果である。従って、異性化及び結晶化は、異性体I-RRR及びI-SSSの濃縮に相乗的に寄与し、その結果、本発明によるプロセスの全体的な効率に寄与する。
【0105】
更に、式(I)の六酸ガドリニウム錯体の目的の異性体の水での結晶化は、前述の錯体の三ナトリウム塩のエタノールからの沈殿の工程を伴う、欧州特許第1931673号明細書の実施例7に記載されるように溶媒の添加を回避することを可能にすることに留意されたい。
【0106】
工程b2)は、10℃~70℃、とりわけ30℃~65℃、特に35℃~60℃の温度で有利に実施される。
【0107】
一変形形態によれば、上記の範囲内にあるように水溶液の温度を下げた後、結晶化プロセスは、シーディングによって誘導される。「プライミングによる結晶化」としても知られる「シーディングによる結晶化」は、「シード」又は「プライマー」として知られる既知の量の結晶の結晶化が行われる反応器(結晶化容器としても知られる)への導入を含む。これにより、結晶化時間を短縮することができる。シーディングによる結晶化は、当業者に周知である。本発明によるプロセスにおいて、プライマーを用いたシーディング、本例では、温度が事前に下げられたジアステレオ異性的に濃縮された錯体の水溶液に加えられた式(I)のジアステレオ異性的に濃縮された六酸ガドリニウム錯体の結晶は、核形成を得ることを可能にし、こうして結晶化を開始することを可能にする。シーディングによる結晶化の持続時間は、有利には2時間~20時間、好ましくは6時間~18時間、典型的には16時間である。
【0108】
次いで、式(I)のジアステレオ異性的に濃縮された六酸ガドリニウム錯体の結晶は、当業者に周知の任意の技術によって、典型的には濾過及び乾燥によって単離される。
【0109】
有利には、工程b2)の終わりに単離された式(I)のジアステレオ異性的に濃縮された六酸ガドリニウム錯体の純度は、95%より大きく、特に98%より大きく、有利には99%より大きく、前述の純度は、工程b2)の終わりに得られた総質量に対する式(I)の錯体の質量パーセントとして表される。
【0110】
特定の実施形態では、結晶化によって単離された工程b)からのジアステレオ異性的に濃縮された錯体は、再結晶化によって再び精製され、ジアステレオ異性体に濃縮され精製された錯体が得られる。
【0111】
この実施形態では、工程b)は、前述の連続する工程b1)及びb2)に加えて、式(I)の単離されたジアステレオ異性的に濃縮された六酸ガドリニウム錯体の再結晶化による精製の工程b3)を含む。
【0112】
再結晶化工程b3)は、結晶化工程b2)と同様に、第1に、より高純度の生成物を得ることを目的としており、第2に、工程b2)の終わりに得られたものよりも高い前述の錯体の異性体I-RRRとI-SSSの混合物を含むジアステレオ異性体過剰を得るために、式(I)の六酸ガドリニウム錯体のジアステレオ異性体濃縮を継続することを目的としている。
【0113】
工程b3)は、典型的には、以下の連続するサブ工程を含む:
・工程b2)で単離された式(I)のジアステレオ異性的に濃縮された六酸ガドリニウム錯体の水溶性溶液での懸濁、好ましくは水での懸濁、
・有利には80℃~120℃の温度、例えば100℃に加熱することによる前述の錯体の溶解、
・好ましくは、有利には10℃~90℃、とりわけ20℃~87℃、特に55℃~85℃の温度で、典型的には2時間~20時間、とりわけ6時間~18時間、シーディングによる再結晶化、並びに、
・例えば、濾過及び乾燥による、式(I)のジアステレオ異性的に濃縮され精製された六酸ガドリニウム錯体の結晶の単離。
【0114】
工程b3)の終わりに単離された式(I)の精製されたジアステレオ異性的に濃縮された六酸ガドリニウム錯体の純度は、典型的には98%を超え、特に99%を超え、有利には99.5%を超え、前述の純度は、工程b2)の終わりに得られた総質量に対する式(I)の錯体の質量パーセントとして表される。
【0115】
別の実施形態では、工程b)からのジアステレオ異性的に濃縮された錯体は、ジアステレオ異性体I-RRR及びI-SSS以外の式(I)の錯体のジアステレオ異性体の選択的脱錯体化によって、即ちジアステレオ異性体I-RSS、I-SRR、I-RSR、I-SRS、I-RRS及びI-SSRの選択的脱錯体化によって更に濃縮される。
【0116】
この実施形態では、工程b)は、前述の連続する工程b1)及びb2)に加えて、ジアステレオ異性体I-RRR及びI-SSS以外の式(I)の錯体のジアステレオ異性体の選択的脱錯体化の工程b4)を含む。この変形形態では、工程b)は又、前述の工程b3)を含み得、前述の工程b3)は、工程b2)とb4)の間、又はb4)の後に実行される。
【0117】
工程b2)の終わりに又は工程b3)の終わりに得られたものよりも高い前述の錯体の異性体I-RRR及びI-SSSの混合物を含むジアステレオ異性体過剰を得るために、前述の工程が工程b4)の前に実行される場合、選択的脱錯体化工程b4)は、式(I)の六酸ガドリニウム錯体のジアステレオ異性体濃縮を継続することを目的としている。
【0118】
工程b4)は、典型的には、以下の連続するサブ工程を含む:
・工程b2)又は工程b3)で単離された式(I)のジアステレオ異性的に濃縮された六酸ガドリニウム錯体の水中での懸濁、
・塩基、例えば水酸化ナトリウムの添加、
・有利には、30℃~60℃の温度、特に35℃~55℃、例えば40℃に、典型的には2時間~20時間、特に10時間~18時間、加熱すること、
・有利には10℃~30℃の温度、例えば30℃に冷却すること、
・例えば、濾過及び乾燥による、式(I)のジアステレオ異性体的に濃縮され精製された六酸ガドリニウム錯体の単離。
【0119】
工程b4)は、異性体I-RRR及びI-SSSが塩基性媒体中で最も安定しているということによって可能になる。このような塩基性条件は、水酸化ガドリニウムの形成を促進し、その結果、最も安定性の低い異性体の脱錯体化を促進する。
【0120】
従って、驚くべきことに、異性体I-RRR及びI-SSSは、異性化工程b1)を可能にする酸性媒体、及び選択的脱錯体化工程b4)を可能にする塩基性媒体の両方においてより安定であることに留意されたい。
【0121】
好ましい実施形態では、上記の変形形態のいずれか1つによる工程b)の終わりに得られたジアステレオ異性的に濃縮された錯体は、少なくとも85%、とりわけ少なくとも90%、特に少なくとも95%、好ましくは少なくとも97%、有利には少なくとも98%、より有利には少なくとも99%の、異性体I-RRRとI-SSSの混合物を含むジアステレオ異性体過剰を有する。
【0122】
好ましくは、前述のジアステレオ異性体過剰は、少なくとも70%、特に少なくとも80%、有利には少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%の異性体I-RRRとI-SSSの混合物から構成される。
【0123】
有利には、前述のジアステレオ異性体過剰は、異性体I-RRRとI-SSSの混合物からなる。
【0124】
又、「異性体I-RRRとI-SSSの混合物」という用語は、ひいては、I-RRR又はI-SSSのいずれかである異性体の1つのみが存在する場合を網羅する。しかしながら、「異性体I-RRRとI-SSSの混合物」という用語は、異性体I-RRRとI-SSSのそれぞれが可変であるがゼロ以外の量で存在する全ての場合を優先的に示す。
【0125】
好ましい実施形態では、異性体I-RRRとI-SSSは、65/35~35/65、とりわけ60/40~40/60、特に55/45~45/55の比で前述の混合物中に存在する。有利には、異性体I-RRR/I-SSSの混合物は、ラセミ(50/50)混合物である。
【0126】
・工程c)
工程c)は、その前駆体、工程b)で得られた式(I)のジアステレオ異性的に濃縮された六酸ガドリニウム錯体から式(II)の錯体を形成することを目的としている。
【0127】
この工程の間、側鎖がグラフトされる環状型化合物の窒素原子に対して、錯体の前述の側鎖のγ位置に位置する炭素原子によって支えられる、式(I)の六酸錯体の3つのカルボン酸官能基は、3-アミノ-1,2-プロパンジオールとのアミド化反応を介して、ラセミ又は鏡像異性的に純粋な形態、好ましくはラセミ形態で、アミド官能基に変換される。
【0128】
このアミド化反応は、側鎖がグラフトされている環状型化合物の窒素原子に対して、前述の側鎖のα位置に位置する3つの非対称炭素原子の絶対配置を変更しない。結果として、工程c)は、少なくとも80%である、工程b)の終わりに得られた式(I)のジアステレオ異性的に濃縮された六酸ガドリニウム錯体が得られる異性体I-RRRとI-SSSの混合物を含むジアステレオ異性体過剰と同一である異性体II-RRRとII-SSSの混合物を含むジアステレオ異性体過剰を有する式(II)の錯体を得ることを可能にする。
【0129】
好ましい実施形態では、工程c)の終わりに得られた式(II)の錯体は、少なくとも85%、とりわけ少なくとも90%、特に少なくとも92%、好ましくは少なくとも94%、有利には少なくとも97%、より有利には少なくとも99%の、異性体II-RRRとII-SSSの混合物を含むジアステレオ異性体過剰を有する。
【0130】
好ましくは、前述のジアステレオ異性体過剰は、少なくとも70%、特に少なくとも80%、有利には少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%の異性体II-RRRとII-SSSの混合物から構成される。
【0131】
有利には、前述のジアステレオ異性体過剰は、異性体II-RRRとII-SSSの混合物からなる。
【0132】
又、「異性体II-RRRとII-SSSの混合物」という用語は、ひいては、II-RRR又はII-SSSのいずれかである異性体の1つのみが存在する場合を網羅する。しかしながら、「異性体I-RRRとI-SSSの混合物」という用語は、異性体I-RRRとI-SSSのそれぞれが可変であるがゼロ以外の量で存在する全ての場合を優先的に示す。
【0133】
好ましい実施形態では、異性体II-RRRとII-SSSは、65/35~35/65、とりわけ60/40~40/60、特に55/45~45/55の比で前述の混合物中に存在する。有利には、異性体II-RRRとII-SSSは、50/50の比で混合物中に存在する。
【0134】
アミド化反応は、当業者に周知の任意の方法に従って、特にカルボン酸官能基を活性化するための試薬の存在下で、及び/又は酸触媒作用によって実施することができる。
【0135】
これは、特に、欧州特許第1931673号明細書、特にこの特許の段落[0027]に記載されている方法に従って実施することができる。
【0136】
特定の一実施形態では、工程c)は、カルボニル基の炭素原子が、カルボン酸官能基のカルボニル基の炭素原子よりも求電子性であるように、カルボニル(C=O)基を含む誘導された官能基の形態で、側鎖がグラフトされている環状型化合物の窒素原子に対して、錯体の前述の側鎖のγ位に位置する炭素原子によって支えられる式(I)の六酸錯体のカルボン酸(-COOH)官能基の活性化を含む。従って、この特定の実施形態によれば、前述のカルボン酸官能基は、特に、エステル、塩化アシル又は酸無水物官能基の形態で、又はアミド結合をもたらすことができる任意の活性化形態で活性化され得る。アミド結合をもたらすことができる活性化形態は、当業者に周知であり、例えば、ペプチド結合を形成するためのペプチド化学で知られている一連の方法によって得ることができる。このような方法の例は、出版物、Synthesis of peptides and peptidomimetics volume E22a,pages 425-588,Houben-Weyl et al.,Goodman Editor,Thieme-Stuttgart-New York(2004)に記載されており、これらの例の中で、特に、アジド(アシルアジド)を介した、例えば、ジフェニルホスホリルアジド(一般に略称DPPAと呼ばれる)などの試薬の作用を介したカルボン酸の活性化の方法、カルボジイミドの単独又は触媒(例えば、N-ヒドロキシスクシンイミド及びその誘導体)の存在下での使用、カルボニルジイミダゾール(1,1’-カルボニルジイミダゾール、CDI)の使用、ベンゾトリアゾール-1-イルオキシトリス(ジメチルアミノ)ホスホニウムヘキサフルオロホスフェート(一般に略語BOPと呼ばれる)などのホスホニウム塩、又は2-(1H-ベンゾトリアゾール-1-イル)-1,1,3,3-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート(一般に略語HBTUと呼ばれる)などのウロニウムの使用を挙げることができる。
【0137】
好ましくは、工程c)は、エステル、塩化アシル又は酸無水物官能基の形態で上記のカルボン酸(-COOH)官能基の活性化を含む。
【0138】
この実施形態は、欧州特許第1931673号明細書に記載されているように、EDCI/HOBTなどのカップリング剤を使用するカルボン酸官能基の活性化によるペプチドカップリングよりも好ましい。具体的には、このようなカップリングは、1当量の1-エチル-3-[3-(ジメチルアミノ)プロピル]尿素の形成をもたらし、これは、特にシリカでのクロマトグラフィー又は溶媒を加えることによる液/液抽出によって除去されなければならない。このような更なる工程によって引き起こされるプロセスの複雑さの増加とは別に、前述のように、このような精製方法の使用は望ましくない。更に、HOBTは爆発性の生成物であるため、HOBTの使用自体に問題がある。
【0139】
本発明の目的のために、「エステル官能基」という用語は、-C(O)O-基を示すことを意図している。それは、特に、R1が(C1~C6)アルキル基に対応する基-C(O)O-R1であり得る。
【0140】
本発明の目的のために、「(C1~C6)アルキル基」という用語は、1~6、好ましくは1~4の炭素原子を含む直鎖又は分岐の飽和炭化水素系の鎖を意味する。言及され得る例は、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、ペンチル及びヘキシル基を含む。
【0141】
本発明の目的のために、「酸塩化物官能基」としても知られる「塩化アシル官能基」という用語は、-CO-Cl基を示すことを意図している。
【0142】
本発明の目的のために、「酸無水物官能基」という用語は、-CO-O-CO-基を示すことを意図している。それは、特に、R2が(C1~C6)アルキル基に対応する基-CO-O-CO-R2であり得る。
【0143】
カルボン酸官能基を、エステル、塩化アシル又は酸無水物官能基に変換するための反応は、当業者に周知であり、当業者は、当業者が精通している任意の通常の方法に従ってそれらを実施することができる。
【0144】
次いで、式(II)の錯体は、ラセミ又は鏡像異性的に純粋な形態の、好ましくはラセミ形態の、3-アミノ-1,2-プロパンジオールとの反応により、エステル、塩化アシル又は酸無水物官能基、特にエステル又は酸無水物、好ましくはエステルの形態で活性化されたカルボン酸官能基のアミノリシスによって得られる。
【0145】
優先的には、カルボン酸官能基を活性化する工程及びアミノリシスの工程は、ワンポット実施形態に従って、即ち、同じ反応器内で、並びに、エステル、塩化アシル又は酸無水物官能基、特にエステル又は酸無水物、好ましくはエステルの形態で活性化されたカルボン酸官能基を含む中間体の単離又は精製の中間工程なしで実施される。
【0146】
特定の実施形態によれば、工程c)は、以下の連続する工程を含む:
c1)式(VII)の活性化された錯体の形成
【化13】
(式中、Yは、塩素原子、基-OR
1又は-O-C(O)-R
2を表し、好ましくは、Yは、基-OR
1又は-O-C(O)-R
2を表し、R
1及びR
2は、互いに独立して、(C
1~C
6)アルキル基に対応する)、並びに
c2)式(VII)の活性化された錯体の3-アミノ-1,2-プロパンジオールとのアミノリシス。
【0147】
当業者に明確に明らかであるように、式(VII)の活性化された錯体の形成のための反応は、側鎖がグラフトされている環状型化合物の窒素原子に対して、前述の側鎖のα位に位置する3つの非対称炭素原子の絶対配置を変更しない。結果として、工程c1)は、少なくとも80%である、工程b)の終わりに得られた式(I)のジアステレオ異性的に濃縮された六酸ガドリニウム錯体が得られる異性体I-RRRとI-SSSの混合物を含むジアステレオ異性体過剰と同一である、以下で表される式(VII-RRR)と(VII-SSS)の異性体VII-RRRとVII-SSSの混合物を含むジアステレオ異性体過剰を有する式(VII)の活性化された錯体を得ることを可能にする。
【化14】
【0148】
Yが塩素原子を表す場合、工程c1)は、典型的には、工程b)で得られた式(I)のジアステレオ異性的に濃縮された六酸ガドリニウム錯体と塩化チオニル(SOCl2)との反応によって行われる。
【0149】
Yが-O-C(O)-CH3基を表す場合、工程c1)は、典型的には、工程b)で得られた式(I)のジアステレオ異性的に濃縮された六酸ガドリニウム錯体と塩化アセチルとの反応によって行われる。
【0150】
有利な実施形態では、工程c)は、エステル官能基の形態での上記のカルボン酸(-COOH)官能基の活性化を含む。
【0151】
この実施形態によれば、工程c)は、より特には、以下の連続する工程を含み得る:
c1)式(VIII)のトリエステルの形成
【化15】
(式中、R
1は、(C
1~C
6)アルキル基を表す)、及び
c2)式(VIII)のトリエステルの3-アミノ-1,2-プロパンジオールとのアミノリシス。
【0152】
工程c1)は、典型的には、塩酸などの酸の存在下で、溶媒及び試薬の両方として作用する式R1OHのアルコールにて実施される。
【0153】
最初の段階では、式(I)の六酸ガドリニウム錯体とアルコールR1OHを反応器に入れる。次いで、反応媒体を、10℃未満、特に5℃未満、典型的には0℃の温度まで冷却し、次いでアルコールR1OHの酸性溶液、典型的にはR1OHにおける塩酸を徐々に加える。反応媒体は、室温で(即ち、20~25℃の温度で)、典型的には5時間より長い時間、好ましくは10時間~20時間、攪拌され続けられる。工程c2)の前に、反応媒体を10℃未満、特に0℃~5℃の温度に冷却する。
【0154】
又、工程c2)は、典型的には、塩酸などの酸の存在下で、式R1OHのアルコールにて実施される。
【0155】
従って、工程c1)及びc2)は、ワンポット実施形態に従って容易に実行することができる。有利には、式(VII)のトリエステルは、工程c1)とc2)の間で分離されない。
【0156】
しかしながら、アミノリシス反応を促進するために、工程c2)において、式R1OHのアルコールは、好ましくは、真空蒸留によって除去される。
【0157】
本発明の目的のために、「真空蒸留」という用語は、10~500ミリバール、とりわけ10~350ミリバール、好ましくは10~150ミリバール、特に50~100ミリバールの圧力で行われる混合物の蒸留を意味する。
【0158】
同様に、アミノリシス反応を促進するために、工程c2)において、3-アミノ-1,2-プロパンジオールが大過剰に導入される。典型的には、導入される3-アミノ-1,2-プロパンジオールの材料量は、それ自体が1相当に相当する、工程c)で最初に導入された式(I)のジアステレオ異性的に濃縮された六酸ガドリニウム錯体の材料量と比較して、4当量より多く、特に7当量より多く、有利には10当量より多い。
【0159】
驚くべきことに、ガドリニウム錯体の速度論的不安定性を増加させるはずの工程c1)及びc2)で典型的に使用される酸性条件にもかかわらず、式(VIII)のトリエステルの脱錯体化又は異性化は観察されない。所望のトリアミドは、非常に良好な変換度で得られ、環状型化合物の窒素原子に対して、側鎖のα位置に位置する3つの不斉炭素原子の絶対配置が保持されている。
【0160】
更に、一般的に、エステルとアミンの直接反応によるアミド化反応は、文献に非常に慎重に記載されていることに留意されたい(この主題については、K.C.Nadimpally et al.,Tetrahedron Letters,2011,52,2579-2582を参照)。
【0161】
好ましい実施形態では、工程c)は、以下の連続する工程を含む:
c1)特に、塩酸などの酸の存在下でメタノールでの反応による、式(IV)
【化16】
のメチルトリエステルの形成、及び
c2)特に、塩酸などの酸の存在下でメタノールでの式(IV)のメチルトリエステルの3-アミノ-1,2-プロパンジオールとのアミノリシス、
【0162】
有利には、式(IV)のメチルトリエステルは、工程c1)とc2)の間で単離されない。
【0163】
好ましい実施形態では、工程c2)において、典型的には55℃を超える温度、特に60℃~65℃に達するまで、メタノールが真空蒸留によって除去され、反応媒体は、室温に冷却して水で希釈する前に、典型的には5時間より長い時間、特に10時間~20時間真空でこの温度に維持される。
【0164】
本発明は、プロセスの各工程に関連して、上記の特定の、有利な又は好ましい実施形態の全ての組み合わせを包含する。
【0165】
又、本発明は、式(VIII):
【化17】
のトリエステルガドリニウム錯体であって、式:
【化18】
の異性体VIII-RRRとVIII-SSSの混合物を含む少なくとも80%のジアステレオ異性体過剰から構成される、トリエステルガドリニウム錯体に関する。
【0166】
本発明の文脈において、「ジアステレオ異性体過剰」という用語は、式(VIII)のトリエステルガドリニウム錯体に関して、前述の錯体は、優勢的に、ジアステレオ異性体VIII-RRR、VIII-SSS、VIII-RRS、VIII-SSR、VIII-RSS、VIII-SRR、VIII-RSR及びVIII-SRSから選択される異性体又は異性体の群の形態で存在することを示すことを意図している。前述のジアステレオ異性体過剰は、パーセントとして表され、式(VIII)のトリエステル錯体の総量に対する優勢的な異性体又は異性体の群によって表される量に対応する。異性体は、定義上、同じモル質量を有するので、このパーセントは、モルベース又は質量ベースのいずれかであり得ることが理解される。
【0167】
特定の一実施形態では、本発明による式(VIII)のトリエステルガドリニウム錯体は、少なくとも85%、とりわけ少なくとも90%、特に少なくとも95%、好ましくは少なくとも97%、有利には少なくとも98%、より有利には少なくとも99%の、異性体VIII-RRRとVIII-SSSの混合物を含むジアステレオ異性体過剰を有する。
【0168】
好ましくは、前述のジアステレオ異性体過剰は、少なくとも70%、特に少なくとも80%、有利には少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%の異性体VIII-RRRとVIII-SSSの混合物から構成される。
【0169】
有利には、前述のジアステレオ異性体過剰は、異性体VIII-RRRとVIII-SSSの混合物からなる。
【0170】
又、「異性体VIII-RRRとVIII-SSSの混合物」という用語は、VIII-RRR又はVIII-SSSのいずれかである異性体の1つのみが存在する場合を網羅する。しかしながら、「異性体VIII-RRRとVIII-SSSの混合物」という用語は、異性体VIII-RRRとVIII-SSSのそれぞれが可変であるがゼロ以外の量で存在する全ての場合を優先的に示す。
【0171】
好ましい実施形態では、異性体VIII-RRR及びVIII-SSSは、65/35~35/65、とりわけ60/40~40/60、特に55/45~45/55の比で前述の混合物中に存在する。有利には、異性体VIII-RRR/VIII-SSSの混合物は、ラセミ(50/50)混合物である。
【0172】
好ましい実施形態では、本発明による式(VIII)のトリエステルガドリニウム錯体は、トリメチルガドリニウム錯体、即ち、R1がメチル基(CH3)である式(VIII)のトリエステルガドリニウム錯体である。
【0173】
式(III)の六酸の調製
本発明による式(II)の錯体を調製するためのプロセスの工程a)に関与する式(III)の六酸は、既知の任意の方法により、特に欧州特許第1931673号明細書に記載されている方法により調製することができる。
【0174】
しかしながら、好ましい実施形態によれば、式(III)の六酸は、式(V):
【化19】
のピクレンの式R
3OOC-CHG
p-(CH
2)
2-COOR
4(IX)
(式中、
-R
3及びR
4は、互いに独立して、(C
3~C
6)アルキル基、特に、ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、ペンチル又はヘキシル基などの(C
4~C
6)アルキル基を表し、
-G
pは、トシレート又はトリフラート基などの脱離基、或いはハロゲン原子、好ましくは臭素原子を表す)の化合物とのアルキル化によって得られ、
式(X)
【化20】
のヘキサエステルを得、
続いて加水分解工程が行われ、式(III)の前述の六酸が得られる。
【0175】
好ましい実施形態では、R3とR4は同一である。
【0176】
有利な実施形態によれば、式(III)の六酸は、式(V):
【化21】
のピクレンの2-ブロモグルタル酸ジブチルとのアルキル化によって得られ、
式(VI):
【化22】
のブチルヘキサエステルを得、
続いて加水分解工程が行われ、式(III)の前述の六酸が得られる。
【0177】
使用された2-ブロモグルタル酸ジブチルは、ラセミ又は鏡像異性的に純粋な形態であり、好ましくはラセミ形態である。
【0178】
欧州特許第1931673号明細書に記載されている2-ブロモグルタル酸エチルの使用と比較して、2-ブロモグルタル酸ジブチルの使用は特に有利である。具体的には、市販の2-ブロモグルタル酸ジエチルは、比較的不安定な化合物であり、経時的に温度の影響下で分解する。より正確には、このエステルは、加水分解されて又は環化して、こうしてその臭素原子を失うようになる傾向がある。市販の2-ブロモグルタル酸ジエチルを精製し、又は純度を向上させてそれを得るための新しい合成経路を開発し、こうしてその分解を防ぐ試みは成功しなかった。
【0179】
アルキル化反応は、典型的には、極性溶媒中で、好ましくは水中で、特に脱イオン水中で、有利には炭酸カリウム又は炭酸ナトリウムなどの塩基の存在下で行われる。
【0180】
明らかな理由から、欧州特許第1931673号明細書に記載されているアセトニトリルよりも、特に水の使用が好ましい。
【0181】
反応は、40℃~80℃、典型的には50℃~70℃、特に55℃~60℃の温度で、5時間~20時間、特に8時間~15時間、有利に実施される。
【0182】
加水分解工程は、酸又は塩基、有利には水酸化ナトリウムなどの塩基の存在下で有利に実施される。加水分解溶媒は、水、エタノールなどのアルコール、又は水/アルコール混合物であり得る。この工程は、40℃~80℃、典型的には40℃~70℃、特に50℃~60℃の温度で、典型的には10時間~30時間、特に15時間~25時間、有利に実行される。
【0183】
更に、本発明は、式(VI)のブチルヘキサエステルに関する:
【化23】
【0184】
具体的には、このヘキサエステルは、より短いアルキル鎖を有するエステルと比較して、特に欧州特許第1931673号明細書に記載のエチルヘキサエステルと比較して、著しく改善された安定性によって識別される。
【図面の簡単な説明】
【0185】
【
図1】経時的な所与の群の異性体の面積パーセントとして表される式(II)の錯体の異性体の群iso1からiso4の塩基性条件下での分解。
【実施例】
【0186】
以下に示す実施例は、本発明の非限定的な例示として示されている。
【0187】
HPLCによる式(I)の六酸ガドリニウム錯体の異性体の群isoA、isoB、isoC及びisoDの分離
ポンプシステム、インジェクター、クロマトグラフィーカラム、UV分光光度検出器及びデータ処理及び制御ステーションから構成されるHPLC機が使用される。使用されるクロマトグラフィーカラムは、C18-250×4.6mm-5μmカラムである(WatersのSymmetry(登録商標)range)。
-移動相:
経路A:100%のアセトニトリル及び経路B:0.1%体積/体積のH2SO4(96%)の水溶液
-試験溶液の調製:
精製水における10mg/mLの式(I)の六酸ガドリニウム錯体の溶液
-分析条件:
【0188】
【0189】
-グラジエント:
【0190】
【0191】
4つの主要なピークが得られる。HPLCプロットのピーク4、即ちisoDは、35.7分の保持時間に対応する。
【0192】
UHPLCによる式(I)の六酸ガドリニウム錯体の異性体の群isoA、isoB、isoC及びisoDの分離
ポンプシステム、インジェクター、クロマトグラフィーカラム、UV検出器及びデータステーションから構成されるUHPLC機が使用される。使用されるクロマトグラフィーカラムは、UHPLC 150×2.1mm-1.8μmカラム(Waters Acquity UPLC HSS T3カラム)である。これは、三官能性C18(オクタデシル)グラフトでのシリカから構成される球状粒子を含む逆相UPLCカラムであり、そのシラノールはキャッピング剤で処理されている(末端キャップされている)。又、長さ150mm、内径2.1mm、粒子サイズ1.8μm、空隙率100Å、及び炭素含有量11%が特徴である。
【0193】
使用する固定相は、水性移動相と互換性があることが優先される。
-移動相:
経路A:100%のアセトニトリル及び経路B:0.1%体積/体積のH2SO4(96%)の水溶液
-試験溶液の調製:
精製水における0.8mg/mLの式(I)の六酸ガドリニウム錯体の溶液
-分析条件:
【0194】
【0195】
-グラジエント:
【0196】
【0197】
4つの主要なピークが得られる。UHPLCプロットのピーク4、即ちisoDは、17.4分の保持時間に対応する。
【0198】
UHPLCによる式(II)の錯体の異性体iso1、iso2、iso3、及びiso4の群の分離
ポンプシステム、インジェクター、クロマトグラフィーカラム、UV検出器、及びデータステーションから構成されるUHPLC機が使用される。使用されるクロマトグラフィーカラムは、UHPLC150×2.1mm-1.6μmカラム(Waters Cortecs(登録商標)UPLC T3カラム)である。
【0199】
-移動相:
経路A:100%のアセトニトリル及び経路B:0.0005%の体積/体積のH2SO4(96%)の水溶液
【0200】
-試験溶液の調製:
精製水における2mg/mLの式(II)の錯体の溶液
【0201】
-分析条件:
【0202】
【0203】
-グラジエント:
【0204】
【0205】
4つの主要なピークが得られる。UHPLCプロットのピーク4、即ちiso4は、6.3分の保持時間に対応する。
【0206】
緩和性の測定
緩和時間T1及びT2は、20MHz(0.47T)、60MHz(1.41T)、及び37℃でMinispec(登録商標)mq20機(Brueker)において標準的な手順にて決定した。縦緩和時間T1は、反転回復シーケンスを使用して測定され、横緩和時間T2は、CPMG(Carr-Purcell-Meiboom-Gill)技術により測定される。
【0207】
緩和率R1(=1/T1)及びR2(=1/T2)は、37℃で水溶液中の様々な濃度の全金属(0.5×10-3~5×10-3モル/Lの範囲)について計算された。濃度の関数としてのR1又はR2の間の相関は線形であり、傾きは、(1/秒)×(1/ミリモル/L)、即ち(mM-1.s-1)で表される緩和性r1(R1/C)又はr2(R2/C)を表す。
【0208】
酸性媒体中の式(II)の錯体の異性体の群の速度論的慣性(kinetic inertia)の測定
異性体iso1からiso4(C=8×10-6M)の4つの未分解のピークに存在するガドリニウム錯体の解離を、塩酸溶液中、37℃、pH1.2で、溶液へのガドリニウムの放出をモニタリングすることにより、イオン強度を制御せずに疑似一次速度論的条件下で検討する。遊離ガドリニウムの量は、Arsenazo III(C=5.3×10-4M)の溶液を添加した後、654nmでの分光分析によって決定された。
【0209】
異性体の各群について決定された半減期(T1/2)を、以下の表に整理する:
【0210】
【0211】
式(II)の錯体の異性体の群の塩基性条件下での分解の検討
式(II)の錯体は、この実施例の残りの部分ではAPと呼ばれる。総称isoXと呼ばれる、異性体iso1からiso4の未分解のピークの分解の速度論は、HPLC純度を測定し、異性体の各未分解のピークの面積を経時的にモニタリングすることによって評価される。従って、測定された強度は、次の通りである:
-P
HPLC(時間)、及び
-[数1]
【数1】
【0212】
選択した分解条件は、以下の通りである:[AP]=0.1N水酸化ナトリウムにおける1mM。これらの希釈条件下では、実験媒体におけるAPの分解の影響は低い。分解生成物は、媒体のpHを変更せず、このパラメーターは、分解速度論の検討において重要である。これは、初期のpHと分解終了時(72時間、37℃)のpHを測定することによって実験的に確認される:
【0213】
【0214】
溶液を調製する方法を、以下に説明する:
-各生成物約0.05g、qs 10mLのmQ水を秤量し、[AP]A=5mMとなる溶液Aを得る、
-希釈:2mLの溶液A、qs 10mLのNaOH(0.1N)、[AP]B=1mM及び[NaOH]=0.08Mとなる溶液Bを得る、
-HPLCフラスコにおける溶液のアリコート、及び
-検討温度(37℃)でのNaOHにおけるAPの溶液を含むHPLCフラスコのインキュベーション。
【0215】
各地点について、アリコートを採取し、試料を希釈せずにHPLCによって分析する(酢酸アンモニウム法)。
【0216】
【0217】
式(VI)のブチルヘキサエステルの調製
184kg(570モル)の2-ブロモグルタル酸ジブチル及び89kg(644モル)の炭酸カリウムを反応器内で混合し、55~60℃に加熱する。24kgの水における29.4kg(143モル)のピクレンの水溶液を、前の調製物に加える。反応混合物を55~60℃に維持し、次いで約10時間還流する。反応後、媒体を冷却し、155kgのトルエンで希釈し、次いで300リットルの水で洗浄する。ブチルヘキサエステルを、175kg(1340モル)のリン酸(75%)で水相に抽出する。次いで、150kgのトルエンで3回洗浄する。ブチルヘキサエステルを、145kgのトルエンと165kgの水で希釈することにより、トルエン相に再抽出し、続いて30%水酸化ナトリウム(質量/質量)で塩基性化してpH5~5.5にする。下の水相を除去する。ブチルヘキサエステルは、真空下、60℃で濃縮し乾燥することにより、約85%の収率で得られる。
【0218】
式(III)の六酸の調製
113kg(121モル)のブチルヘキサエステルを、8kgのエタノールと共に反応器に入れる。媒体を55±5℃にし、次いで161kg(1207.5モル)の30%水酸化ナトリウム(質量/質量)を3時間かけて加える。反応混合物をこの温度で約20時間維持する。次いで、ブタノールを、反応媒体のデカンテーションによって除去する。ナトリウム塩の形態で得られた式(III)の六酸を水で希釈して、約10%(質量/質量)の水溶液を得る。この溶液を酸性カチオン樹脂で処理する。水溶液中の式(III)の六酸を、約90%の収率及び95%の純度で得る。
【0219】
式(I)の六酸ガドリニウム錯体の調製
・実験プロトコル
・錯体化及び異性化
-酢酸なし
式(III)の六酸の28重量%の水溶液418kg(式(III)の純粋な六酸117kg/196モル)を反応器に入れる。塩酸を加えることにより溶液のpHを2.7に調整し、次いで37kg(103.2モル)の酸化ガドリニウムを加える。反応媒体を100~102℃で48時間加熱して、式(III)の六酸の予想される異性体分布を達成する。
【0220】
-酢酸あり
酸化ガドリニウム(0.525モル当量)を、28.1質量%の式(III)の六酸の溶液にて懸濁する。
【0221】
99~100%の酢酸(50質量%/式(III)の純粋な六酸)を室温で媒体に注ぐ。
【0222】
媒体を加熱して還流し、続いて水を除去しながら媒体に酢酸を徐々に再度満たすことにより質量で113℃まで蒸留する。113℃の温度に達したら、開始体積に達するのに十分な量の酢酸を加える。
【0223】
媒体を一晩113℃に維持する。
【0224】
・結晶化、再結晶化
-結晶化
溶液における式(I)の六酸ガドリニウム錯体を40℃に冷却し、プライマーを加え、試薬を少なくとも2時間接触させたままにする。次いで、生成物を40℃で濾過することにより単離し、浸透水で洗浄する。
【0225】
-再結晶化
前に得られた式(I)の六酸ガドリニウム錯体(固形分約72%)180kgを、390kgの水に懸濁する。媒体を100℃に加熱して生成物を溶解し、次いで80℃に冷却して少量のプライマーを加えることによりプライミングする。室温まで冷却した後、式(I)の六酸ガドリニウム錯体を濾過及び乾燥により単離する。
【0226】
・選択的脱錯体化
乾燥生成物を、20℃で浸透水とともに反応器に入れる。加えられる水の質量は、式(I)の六酸ガドリニウム錯体の理論質量の2倍に等しい。30.5%の水酸化ナトリウム(質量/質量)(6.5当量)を20℃で媒体に注ぐ。NaOHの添加の終わりに、媒体を50℃で16時間接触させたままにする。媒体を25℃に冷却し、生成物をClarcelのベッドにて濾過する。
【0227】
・ジアステレオ異性体I-RRRとI-SSSの混合物を含むジアステレオ異性体過剰の含有量
以下の表3に示されているように、ジアステレオ異性体の混合物中に式(I)の錯体の様々な異性体が存在する比は、錯体化及び異性化工程が実行される条件に依存する。
【0228】
【0229】
再結晶化及び選択的脱錯体化の更なる工程により、混合物I-RRRとI-SSSのジアステレオ異性体過剰を増加させることが可能になる(表4を参照)。
【0230】
【0231】
式(II)の錯体の調製
式(I)の六酸錯体90kg(119モル)及びメタノール650kgを反応器に入れる。混合物を約0℃に冷却し、次いで塩酸のメタノール溶液(メタノールにおける8.25%のHCl)111kg(252モル)を、温度を0℃に維持しながら注ぐ。反応媒体を室温にし、次いで撹拌を16時間続ける。0~5℃に冷却した後、120kg(1319モル)の3-アミノ-1,2-プロパンジオールを加える。次いで、反応媒体を、真空下でメタノールを蒸留除去しながら、60~65℃の温度に達するまで加熱する。濃縮物をこの温度で真空下で16時間維持する。接触の終わりに、室温に冷却しながら、媒体を607kgの水で希釈する。式(II)の精製してない錯体の溶液を、20%塩酸(質量/質量)で中和する。こうして978.6kgの溶液が得られ、濃度は10.3%であり、これは101kgの材料に相当する。得られた収率は86.5%である。
【0232】
式(II)の錯体から開始する異性体の変換の試験
式(II)の錯体の異性体は、予備HPLCにより単離された式(I)の六酸錯体の異性体isoA、isoB、isoC及びisoDの群から合成された。異性体の4つの群を単離し、次いでR及びSの3-アミノ-1,2-プロパンジオール(APD)でアミド化した。従って、8つの異性体が得られた:
isoA+APD(R)及びisoA+APD(S)、
isoB+APD(R)及びisoB+APD(S)、
isoC+APD(R)及びisoC+APD(S)、及び
isoD+APD(R)及びisoD+APD(S)。
【0233】
これらの異性体のそれぞれを、式(I)の六酸ガドリニウム錯体の異性化を可能にする条件下に置いた。
【0234】
こうして、pH3のHCl溶液は、1mLの1N HClを1リットルの水にて希釈することによって調製される。異性体は、1mMの濃度でpH3のHCl溶液に加えられる。10mgの粉末を10mLのこの溶液に溶解する。得られた8つの溶液を100℃に加熱し、次いでT0及びT0+23時間でHPLCによって分析する。
【0235】
HPLCにより測定した純度のパーセントを、以下の表に示す。
【0236】
【0237】
純度の低下は、異性化反応によって課せられる条件のため生成物の化学的分解(アミド官能基の加水分解)によるものである。
【0238】
様々な化合物の異性化を可能にする条件は、アミド官能基の加水分解を介して生成物の実質的な化学的分解をもたらすため、異性化は、欧州特許第1931673号明細書に記載のプロセスに従って得られた式(II)の錯体において直接的に他の物質が入いらず且つ選択的である方法で行うことができない。