(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-07
(45)【発行日】2022-07-15
(54)【発明の名称】水質管理装置、水質管理方法、及び水質管理プログラム
(51)【国際特許分類】
C02F 1/50 20060101AFI20220708BHJP
C02F 1/76 20060101ALI20220708BHJP
C02F 1/70 20060101ALI20220708BHJP
G06N 20/20 20190101ALI20220708BHJP
【FI】
C02F1/50 520F
C02F1/50 531P
C02F1/50 540B
C02F1/50 550L
C02F1/50 550C
C02F1/50 550H
C02F1/76 A
C02F1/70 Z
G06N20/20
(21)【出願番号】P 2021576358
(86)(22)【出願日】2021-03-31
(86)【国際出願番号】 JP2021014000
【審査請求日】2021-12-21
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000211307
【氏名又は名称】中国電力株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000226242
【氏名又は名称】日機装株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】391042782
【氏名又は名称】日本エヌ・ユー・エス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】柳川 敏治
(72)【発明者】
【氏名】尾山 圭二
(72)【発明者】
【氏名】小路 一憲
(72)【発明者】
【氏名】旭 義文
(72)【発明者】
【氏名】勝山 一朗
(72)【発明者】
【氏名】定道 有頂
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 勇也
(72)【発明者】
【氏名】市川 好貴
【審査官】松井 一泰
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/053757(WO,A1)
【文献】特開昭54-104638(JP,A)
【文献】特開2012-106224(JP,A)
【文献】特表2011-528982(JP,A)
【文献】特開2016-022458(JP,A)
【文献】特開2016-209855(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/50
C02F 1/46- 1/48
C02F 1/00
C02F 1/70- 1/78
C02F 1/58- 1/64
F01K 1/00- 21/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
海水利用プラントのための水質管理装置であって、
前記海水利用プラントに設置される復水器を流通する海水の属性値を取得する属性値取得部と、
前記属性値に基づいて、前記復水器から前記海水を海に放出する放水路の放水口における残留塩素濃度を予測する濃度予測部と、
予測された前記残留塩素濃度に基づいて、前記放水路に注入する、残留塩素の中和剤の必要量を算出する必要量算出部と、
前記必要量分の前記中和剤を前記放水路に注入する中和剤注入部と、を備え
、
前記濃度予測部は、
前記復水器の入口における海水の残留塩素濃度、塩分量、pH、ORP(酸化還元電位)、水温、を含む属性値の履歴データを入力データとして取得する入力データ取得部と、
前記放水口における残留塩素濃度の履歴データをラベルとして取得するラベル取得部と、
前記入力データと前記ラベルとの組を学習データとして、前記放水口における前記残留塩素濃度を推定する学習モデルを構築する学習部と、
前記学習モデルの構築後に、新たな属性値を前記学習モデルに適用することで、前記残留塩素濃度の推定値を生成する推定値生成部とを備える
水質管理装置。
【請求項2】
前記学習部は、ランダムフォレストを用いて前記学習モデルを構築する、請求項
1に記載の水質管理装置。
【請求項3】
前記学習部は、一般化加法を用いて前記学習モデルを構築する、請求項
1に記載の水質管理装置。
【請求項4】
海水利用プラントのための水質管理方法であって、
前記海水利用プラントに設置される復水器を流通する海水の属性値を取得する属性値取得ステップと、
前記属性値に基づいて、前記復水器から前記海水を海に放出する放水路の放水口における残留塩素濃度を予測する濃度予測ステップと、
予測された前記残留塩素濃度に基づいて、前記放水路に注入する、残留塩素の中和剤の必要量を算出する必要量算出ステップと、
前記必要量分の前記中和剤を前記放水路に注入する中和剤注入ステップと、を有
し、
前記濃度予測ステップは、
前記復水器の入口における海水の残留塩素濃度、塩分量、pH、ORP(酸化還元電位)、水温、を含む属性値の履歴データを入力データとして取得する入力データ取得ステップと、
前記放水口における残留塩素濃度の履歴データをラベルとして取得するラベル取得ステップと、
前記入力データと前記ラベルとの組を学習データとして、前記放水口における前記残留塩素濃度を推定する学習モデルを構築する学習ステップと、
前記学習モデルの構築後に、新たな属性値を前記学習モデルに適用することで、前記残留塩素濃度の推定値を生成する推定値生成ステップとを有する
水質管理方法。
【請求項5】
海水利用プラントのための水質管理プログラムであって、
前記海水利用プラントに設置される復水器を流通する海水の属性値を取得する属性値取得ステップと、
前記属性値に基づいて、前記復水器から前記海水を海に放出する放水路の放水口における残留塩素濃度を予測する濃度予測ステップと、
予測された前記残留塩素濃度に基づいて、前記放水路に注入する、残留塩素の中和剤の必要量を算出する必要量算出ステップと、
前記必要量分の前記中和剤を前記放水路に注入する中和剤注入ステップと、
をコンピュータに実行させるための水質管理プログラム
であり、
前記濃度予測ステップは、
前記復水器の入口における海水の残留塩素濃度、塩分量、pH、ORP(酸化還元電位)、水温、を含む属性値の履歴データを入力データとして取得する入力データ取得ステップと、
前記放水口における残留塩素濃度の履歴データをラベルとして取得するラベル取得ステップと、
前記入力データと前記ラベルとの組を学習データとして、前記放水口における前記残留塩素濃度を推定する学習モデルを構築する学習ステップと、
前記学習モデルの構築後に、新たな属性値を前記学習モデルに適用することで、前記残留塩素濃度の推定値を生成する推定値生成ステップとを有する水質管理プログラム
。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水質管理装置、水質管理方法、及び水質管理プログラムに関する。より詳しくは、発電所等の海水利用プラントで用いられる水質管理装置、水質管理方法、及び水質管理プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
火力・原子力発電所をはじめとする海水利用プラントの海水系統に付着する、フジツボ類、イガイ類等の付着生物、及びバイオフィルムへの対策として、海水電解塩素(次亜塩素酸ソーダ)を発生させて、取水口に注入する技術が広く実施されている。
【0003】
例えば、特許文献1は、天然の海水を電気分解することにより次亜塩素酸ソーダを生成し、当該次亜塩素酸ソーダを含む電解液を、海水の取水口に注入して海洋生物の付着防止に用いる技術を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
海水電解塩素を取水口に注入する場合、海水の放水口における残留塩素濃度の基準値を超過しないように注入を実施する必要があるが、海水電解塩素を注入した後の残留塩素濃度は、水温や水質により減衰速度が異なることから、付着生物防止に有効な残留塩素濃度を維持しようとすると、一時的に放水口で基準値を超過する恐れがある。そのため、適切なタイミングで適切な量の中和剤を注入することで、残留塩素濃度の基準値の超過を未然に防止する技術が望まれている。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、海水の放水口における、海水中の残留塩素濃度の基準値の超過を未然に防ぐことが可能な、水質管理装置、水質管理方法、及び水質管理プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、海水利用プラントのための水質管理装置であって、前記海水利用プラントに設置される復水器を流通する、海水の属性値を取得する属性値取得部と、前記属性値に基づいて、前記復水器から前記海水を海に放出する放水路の放水口における残留塩素濃度を予測する濃度予測部と、予測された前記残留塩素濃度に基づいて、前記放水路に注入する、残留塩素の中和剤の必要量を算出する必要量算出部と、前記必要量分の前記中和剤を前記放水路に注入する中和剤注入部と、を備える水質管理装置に関する。
【0008】
また、前記属性値は、前記復水器の取水口における海水の残留塩素濃度、前記復水器の出口における海水の水温、前記取水口から前記放水口までの海水の流下時間を含み、前記濃度予測部は、前記属性値をアレニウス式に適用することで、前記放水口における前記残留塩素濃度を予測することが好ましい。
【0009】
また、前記水質管理装置において、前記濃度予測部は、前記復水器の入口における海水の残留塩素濃度、塩分量、pH、ORP(酸化還元電位)、水温を含む属性値の履歴データを入力データとして取得する入力データ取得部と、前記放水口における残留塩素濃度の履歴データをラベルとして取得するラベル取得部と、前記入力データと前記ラベルとの組を学習データとして、前記放水口における前記残留塩素濃度を推定する学習モデルを構築する学習部と、前記学習モデルの構築後に、新たな属性値を前記学習モデルに適用することで、前記残留塩素濃度の推定値を生成する推定値生成部とを備えることが好ましい。
【0010】
また、前記水質管理装置において、前記学習部は、ランダムフォレストを用いて前記学習モデルを構築することが好ましい。
【0011】
また、前記水質管理装置において、前記学習部は、一般化加法(GAM法)を用いて前記学習モデルを構築することが好ましい。
【0012】
また本発明は、海水利用プラントのための水質管理方法であって、前記海水利用プラントに設置される復水器を流通する、海水の属性値を取得する属性値取得ステップと、前記属性値に基づいて、前記復水器から前記海水を海に放出する放水路の放水口における残留塩素濃度を予測する濃度予測ステップと、予測された前記残留塩素濃度に基づいて、前記放水路に注入する、残留塩素の中和剤の必要量を算出する必要量算出ステップと、前記必要量分の前記中和剤を前記放水路に注入する中和剤注入ステップと、を有する水質管理方法に関する。
【0013】
また本発明は、海水利用プラントのための水質管理プログラムであって、前記海水利用プラントに設置される復水器を流通する、海水の属性値を取得する属性値取得ステップと、前記属性値に基づいて、前記復水器から前記海水を海に放出する放水路の放水口における残留塩素濃度を予測する濃度予測ステップと、予測された前記残留塩素濃度に基づいて、前記放水路に注入する、残留塩素の中和剤の必要量を算出する必要量算出ステップと、前記必要量分の前記中和剤を前記放水路に注入する中和剤注入ステップと、をコンピュータに実行させるための水質管理プログラムに関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、海水の放水口における、海水中の残留塩素濃度の基準値の超過を未然に防ぐことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施形態に係る海水利用プラントの全体構成図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る水質管理装置の機能ブロック図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る水質管理装置の動作を示すフローチャートである。
【
図4】本発明の実施形態に係る水質管理装置に含まれる濃度予測部の機能ブロック図である。
【
図5】本発明の実施形態に係る水質管理装置の動作を示すフローチャートである。
【
図6】本発明の実施形態に係る水質管理装置の動作を示すフローチャートである。
【
図7A】本発明の実施形態に係るアレニウス式を示す図である。
【
図7B】本発明の実施形態に係るアレニウス式を示す図である。
【
図7C】本発明の実施形態に係るアレニウス式を示す図である。
【
図8A】本発明の実施形態に係るアレニウス式を示す図である。
【
図8B】本発明の実施形態に係るアレニウス式を示す図である。
【
図8C】本発明の実施形態に係るアレニウス式を示す図である。
【
図9A】本発明の実施形態に係るアレニウス式を示す図である。
【
図9B】本発明の実施形態に係るアレニウス式を示す図である。
【
図9C】本発明の実施形態に係るアレニウス式を示す図である。
【
図10A】本発明の実施形態に係るランダムフォレストによる元データと予測結果との比較を示す図である。
【
図10B】本発明の実施形態に係るランダムフォレストによる元データと予測結果との比較を示す図である。
【
図11A】本発明の実施形態に係る一般化加法(GAM)による元データと予測結果との比較を示す図である。
【
図11B】本発明の実施形態に係る一般化加法(GAM)による元データと予測結果との比較を示す図である。
【
図12A】本発明の実施形態に係る一般化加法(GAM)による元データと予測結果との比較を示す図である。
【
図12B】本発明の実施形態に係る一般化加法(GAM)による元データと予測結果との比較を示す図である。
【
図13A】本発明の実施形態に係る一般化加法(GAM)による元データと予測結果との比較を示す図である。
【
図13B】本発明の実施形態に係る一般化加法(GAM)による元データと予測結果との比較を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0017】
〔1 発明の概要〕
図1は、本実施形態に係る水質管理装置1と復水器2とを含む海水利用プラント100の全体構成図である。海水利用プラント100において、復水器2は、海3Aから取水路21により冷却水としての海水を取水し、蒸気タービン等を冷却した後の冷却水は、復水器2の出口221から、放水路22により海3Bに放水される。取水路21の塩素注入点においては、次亜塩素酸ソーダを含む海水の電解液が注入される。
【0018】
水質管理装置1は、復水器2を流通する海水の属性値に基づいて、放水路22の放水口222での残留塩素濃度を予測し、復水器入口211における海水の残留塩素濃度に比較した低下量を算出後、当該低下量に基づいて、中和剤の必要量を算出し、当該必要量分の中和剤を放水路22に注入する。
【0019】
〔2 第1実施形態〕
以下、
図2及び
図3を参照することにより、本発明の第1実施形態である水質管理装置1について説明する。
【0020】
〔2.1 実施形態の構成〕
図2は、水質管理装置1の機能ブロック図である。水質管理装置1は、制御部11と、中和剤注入部12と、記憶部13とを備える。
【0021】
制御部11は、水質管理装置1の全体を制御する部分であり、各種プログラムを、ROM、RAM、フラッシュメモリ又はハードディスク(HDD)等の記憶領域から適宜読み出して実行することにより、本実施形態における各種機能を実現している。制御部11は、CPUであってよい。制御部11は、属性値取得部111、濃度予測部112、必要量算出部113を備える。
【0022】
また、制御部11は、それ以外にも、水質管理装置1の全体を制御するための機能ブロック、通信を行うための機能ブロックといった一般的な機能ブロックを備える。ただし、これらの一般的な機能ブロックについては当業者によく知られているので図示及び説明を省略する。
【0023】
属性値取得部111は、復水器2を流通する海水の属性値を取得する。より詳細には、例えば、水質管理装置1の外部に設置された汲み上げポンプ(不図示)により、取水路21から海水を汲み上げ、汲み上げられた海水を、水質管理装置1の外部に設置された水質分析装置(不図示)で分析する。属性値取得部111は、水質分析装置で分析された海水の水質に係る属性値を取得する。更に、属性値取得部111は、属性値として、復水器2の出口221における海水の水温、復水器入口211から放水口222までの海水の流下時間等を取得する。
【0024】
ここで、水質に係る属性値としては、例えば、復水器入口211における海水の残留塩素濃度と水温に加えて、精度向上を目的として他に有機物濃度、海水に含まれる塩分量、pH、ORP(酸化還元電位)、を含む。
【0025】
濃度予測部112は、属性値取得部111によって取得された属性値に基づいて、海水の放水口222における残留塩素濃度を予測する。とりわけ、本実施形態において、濃度予測部112は、属性値として、復水器2の入口211における海水の残留塩素濃度、復水器2の出口221における海水の水温、復水器2の入口211から放水口222までの海水の流下時間をアレニウス(Arrheinius)式に適用することにより、海水の放水口222における残留塩素濃度を推定する。
【0026】
ここで、「アレニウス(Arrheinius)式」とは、ある温度での化学反応の速度を予測する式のことであり、反応速度を示す反応定数kは、以下の式1で示すように、温度Tが高く、活性化エネルギーEaが低いと大きくなることを示す式である。
【0027】
【0028】
なお、Aは温度に無関係な定数(頻度因子)であり、Eaは1molあたりの活性化エネルギーであり、Rは気体定数であり、Tは絶対温度である。ここで、「頻度因子」とは、二分子反応における分子間の衝突回数を表す因子のことである。
【0029】
必要量算出部113は、濃度予測部112により予測された残留塩素濃度に基づいて、放水路22に注入する、残留塩素の中和剤の必要量を算出する。より詳細には、必要量算出部113は、取水口211における残留塩素濃度に比較した、放水口222における推定残留塩素濃度の低下量に基づいて、中和剤の必要量を算出する。
【0030】
ここで、中和剤とは、例えば35%過酸化水素水、亜硫酸ソーダ、又はチオ硫酸ソーダ等、残留塩素を速やかに中和できる既存の薬剤であってよい。なお、35%過酸化水素水を用いた場合の反応副産物は、酸素、水、塩素イオンであり、亜硫酸ソーダを用いた場合の反応副産物は、硫酸イオン、塩素イオンである。これらのいずれも海水中に豊富に存在する。
【0031】
中和剤注入部12は、必要量算出部113によって算出された必要量分の中和剤を、放水路22に注入する。とりわけ、中和剤注入部12により、放水路22への中和剤の注入を自動制御することが好適である。
【0032】
記憶部13は、属性値取得部111によって取得された属性値や、濃度予測部112によって予測される残留塩素濃度や、必要量算出部113によって算出される中和剤の必要量を記憶する。
【0033】
〔2.2 実施形態の動作〕
図3は、水質管理装置1の動作を示すフローチャートである。
【0034】
ステップS1において、属性値取得部111は、海水の取水口211における水質の属性値や、復水器2の出口221における海水の水温、入口211から放水口222までの海水の流下時間等を取得する。
【0035】
ステップS2において、濃度予測部112は、属性値取得部111によって取得された属性値に基づいて、海水の放水口222における残留塩素濃度を予測する。
【0036】
ステップS3において、必要量算出部113は、濃度予測部112により予測された残留塩素濃度に基づいて、放水路22に注入する、残留塩素の中和剤の必要量を算出する。
【0037】
ステップS4において、中和剤注入部12は、必要量算出部113によって算出された必要量分の中和剤を、放水路22に注入する。
【0038】
〔2.3 実施形態が奏する効果〕
本実施形態に係る水質管理装置1は、海水利用プラント100のための水質管理装置1であって、海水利用プラント100に設置される復水器2を流通する海水の属性値を取得する属性値取得部111と、属性値に基づいて、復水器2から海水を海に放出する放水路22の放水口222における残留塩素濃度を予測する濃度予測部112と、推定された残留塩素濃度に基づいて、放水路22に注入する、残留塩素の中和剤の必要量を算出する必要量算出部113と、必要量分の中和剤を放水路22に注入する中和剤注入部12と、を備える。
【0039】
これにより、海水の放水口における、海水中の残留塩素濃度の基準値の超過を未然に防ぐことが可能となる。とりわけ、放水口222における残留塩素濃度の基準値を超過する前に、適切な量の中和剤を注入することで、基準値の超過を未然に防ぐことができる。このことで、電解塩素注入濃度のベース値を高めに合わせることが可能となり、発電の障害となる付着生物やバイオフィルムの付着をより効果的に抑制することで、復水器2の熱交換効率が向上し、多大なコスト削減効果が得られる。
【0040】
また、水質管理装置1において、上記の属性値は、復水器2の入口211における海水の残留塩素濃度、復水器2の出口221における海水の水温、出口221から放水口222までの海水の流下時間を含み、濃度予測部は、上記の属性値をアレニウス式に適用することで、放水口222における残留塩素濃度を予測する。
【0041】
これにより、アレニウス式を用いることで、海水中の残留塩素濃度の基準値の超過を未然に防ぐことが可能となる。
【0042】
〔3 第2実施形態〕
以下、
図4~
図6を参照することにより、本発明の第2実施形態である水質管理装置1Aについて説明する。なお、以下では説明の簡略化のため、主として、水質管理装置1Aが水質管理装置1と異なる点について説明する。
【0043】
〔3.1 実施形態の構成〕
水質管理装置1Aの基本構成は、
図2に示す水質管理装置1と同様である。ただし、水質管理装置1Aは、水質管理装置1が備える濃度予測部112の代わりに濃度予測部112Aを備える。濃度予測部112は、主としてアレニウス式を用いることにより、放水口222における残留塩素濃度を予測するが、濃度予測部112Aは、機械学習により、放水口222における残留塩素濃度を予測する。
【0044】
図4は、濃度予測部112Aの機能ブロック図である。濃度予測部112Aは、入力データ取得部114と、ラベル取得部115と、学習部116と、推定値生成部117とを備える。
【0045】
入力データ取得部114は、記憶部13から、取水口211における海水の残留塩素濃度、塩分量、pH、ORP(酸化還元電位)、水温を含む属性値の履歴データを、機械学習に用いる入力データとして取得する。
【0046】
ラベル取得部115は、記憶部13から、放水口222における残留塩素濃度の履歴データを、機械学習に用いるラベルとして取得する。
【0047】
学習部116は、入力データとラベルとの組を学習データとして機械学習をすることにより、放水口222における残留塩素濃度を推定する学習モデルを構築し、構築した学習モデルを記憶部13に格納する。
【0048】
ここで、入力データとラベルとの組を学習データとする際、復水器2の出口221から放水口222までの海水の流下時間を考慮し、復水器入口データと、当該流下時間後の放水口データとが対になるように加工する。また、例えば、目的変数・説明変数共に、負の値は異常値とみなして除去してもよい。
【0049】
また、学習部116が実行する機械学習は、ランダムフォレストであってもよく、一般化加法(GAM法)であってよい。ここで、「ランダムフォレスト」とは、機械学習のアルゴリズムのひとつであり、決定木を弱学習機とすると共に、ランダムサンプリングされたトレーニングデータによって学習した多数の弱学習器を統合させて汎化能力を向上させるアルゴリズムである。
また、「一般化加法」とは、一般化線形モデルでの線形予測子を、非線形な関数の和としたモデルを用いるアルゴリズムであり、この時の非線形な関数として、局所回帰関数、平滑化スプライン、Bスプライン、自然スプライン等が用いられる。中でも、非線形な関数として、平滑化スプラインを用いるアルゴリズムが、「GAM法」と呼ばれる。
【0050】
推定値生成部117は、学習部116によって学習モデルが構築され、構築された学習モデルが記憶部13に格納された後、記憶部13から学習モデルを取得して、新たな属性値を学習モデルに適用することにより、放水口222における残留塩素濃度の推定値を生成する。
【0051】
〔3.2 実施形態の動作〕
図5は、水質管理装置1Aの機械学習時の動作を示すフローチャートである。
【0052】
ステップS11において、入力データ取得部114は、記憶部13から、海水の残留塩素濃度、塩分量、pH、ORP(酸化還元電位)、水温、流量を含む属性値の履歴データを入力データとして取得する。
【0053】
ステップS12において、ラベル取得部115は、放水口における残留塩素濃度の履歴データをラベルとして取得する。
【0054】
ステップS13において、学習部116は、入力データとラベルとの組を学習データとする。
【0055】
ステップS14において、学習部116は、学習データを用いて機械学習を行う。
【0056】
ステップS15において、機械学習が終了した場合(S15:YES)には、処理はステップS16に移行する。機械学習が終了していない場合(S15:NO)には、処理はステップS11に移行する。
【0057】
ステップS16において、学習部116は、構築した学習モデルを記憶部13に格納する。
【0058】
図6は、水質管理装置1Aの中和剤注入時の動作を示すフローチャートである。
【0059】
ステップS21において、推定値生成部117は、記憶部13から学習モデルを取得する。
【0060】
ステップS22において、推定値生成部117は、属性値取得部111から新たな属性値を取得する。
【0061】
ステップS23において、推定値生成部117は、新たな属性値を学習モデルに適用することにより、放水口222における残留塩素濃度の推定値(予測値)を生成する。
【0062】
ステップS24において、必要量算出部113は、濃度予測部112により予測された残留塩素濃度に基づいて、放水路22に注入する、残留塩素の中和剤の必要量を算出する。
【0063】
ステップS25において、中和剤注入部12は、必要量算出部113によって算出された必要量分の中和剤を、放水路22に注入する。
【0064】
〔3.3 実施形態が奏する効果〕
水質管理装置1Aにおいて、濃度予測部112Aは、取水口211における海水の残留塩素濃度、塩分量、pH、ORP(酸化還元電位)、水温を含む属性値の履歴データを入力データとして取得する入力データ取得部114と、放水口222における残留塩素濃度の履歴データをラベルとして取得するラベル取得部115と、入力データとラベルとの組を学習データとして、放水口における前記残留塩素濃度を推定する学習モデルを構築する学習部116と、学習モデルの構築後に、新たな属性値を学習モデルに適用することで、残留塩素濃度の推定値を生成する推定値生成部117とを備える。
【0065】
これにより、より高精度な残留塩素濃度の予測値に基づいて、放水路22に中和剤を注入することが可能となる。
【0066】
また、学習部116は、ランダムフォレストを用いて学習モデルを構築する。
【0067】
これにより、多数の説明変数への対応、及び高速での学習が可能となると共に、説明変数の重要度(寄与度)が算出できる。
【0068】
また、学習部116は、一般化加法を用いて学習モデルを構築する。
【0069】
これにより、複雑な形の関数を用いることで、単純な比例関係でないものを説明できると共に、線形モデルの説明性を保持しつつ、予測の精度を高めることが可能となる。
【0070】
〔4 予測データ〕
〔4.1 アレニウス式〕
(1)2018年6月29日~2018年11月9日データによる分析
2018年6月29日~2018年11月9日のA発電所1号機(最大出力340MW)の計測データを用いた
【0071】
(1-1) 復水器入口濃度との関係
残留塩素濃度の減衰は、初期濃度の寄与が大きいことも知られている。(1-1)で示したアレニウス式について、発電出力別に復水器入口の残留塩素濃度を0.05mg/L以上、0.03mg/L以上0.05mg/L未満、0.03mg/L未満の3ケースに分け、それぞれのケースにおけるアレニウス式を、
図7A~
図9Cに示す。
【0072】
いずれの発電出力のケースにおいても、残留塩素濃度が高いほど決定係数が高くなっている。最も高い決定係数は、発電出力200MW以上、残留塩素濃度0.05mg/L以上の場合の0.589であった。なお、残留塩素濃度が0.03未満の場合は何れの発電出力のケースにおいても決定係数は0.05を下回っている。
【0073】
〔4.2 機械学習〕
復水器入口の残留塩素濃度から、放水口における残留塩素濃度を予測するための手法として機械学習の適用可能性についての検討を行った。
【0074】
(1)使用したデータ
モデル構築および予測に使用したデータは、A発電所1号機における2018年6月29日~2019年3月31日分の1分値を使用した。使用した変数およびデータの加工方法は以下の表に示すとおりである。
【0075】
【0076】
(2)予測モデルによる結果
加工したデータを用いて、ランダムフォレストおよび一般化加法モデル(GAM)の2つの予測モデルを用いて予測を行った。
【0077】
(2-1)ランダムフォレストによる予測結果
2018年6月29日~2019年2月28日のデータを学習データとし、2019年3月1日~2019年3月31日の予測を行った。
図10A及び
図10Bに元データと予測結果との比較を示す。
【0078】
元データと予測結果は同じような挙動を示している。元データに対して概ね0.01mg/Lの範囲内に収まっているが、誤差の分布に偏りがあるため、元データと予測結果の決定係数は0.096と低くなっている。
【0079】
(2-2)一般化加法(GAM)による予測結果
学習範囲および予測範囲を変え、三通りの予測を行った。
【0080】
1)予測結果1
ランダムフォレストを使用した予測と同様に、2018年6月29日~2019年2月28日のデータを学習データとし、2019年3月1日~2019年3月31日の予想を行った。
図11A及び
図11Bに元データと予測結果の比較を示す。
【0081】
ランダムフォレストによる結果と同様に、元データと予測結果は同じような挙動を示している。元データに対して概ね0.01mg/L以下の範囲内に収まっており、誤差分布の偏りも少ないため、元データと予測結果の決定係数は0.272とランダムフォレストによる結果よりも高くなっている。
【0082】
2)予測結果2
前節で示した結果とは学習期間および予測期間を変え、2018年6月29日~2018年10月31日および2018年12月1日~2019年3月31日のデータを学習データとし、2018年11月1日~2018年11月30日の予測を行った。
図12A及び
図12Bに元データと予測結果の比較を示す。
【0083】
予測結果1と同様に、元データと予測結果は同じような挙動を示している。元データに対して概ね0.01mg/Lの範囲内に収まっており、元データと予測結果の決定係数は0.303となっていた。
【0084】
3)予測結果3
2019年2月1日~2019年2月14日のデータを学習データとし、2019年2月15日~2019年2月20日の予測を行った。
図13A及び
図13Bに元データと予測結果の比較を示す。
【0085】
元データと予測結果の挙動はほぼ一致しており、高い再現性を示している。元データに対して概ね0.005mg/L程度の範囲内に収まっており、元データと予測結果の決定係数は0.505とかなり高くなっている。
【0086】
〔4.3 まとめ〕
復水器入口から放水口への減衰反応は、発電出力が200MW以上かつ復水器入口の残留塩素濃度が0.05mg/L以上の場合、アレニウス式による近似曲線の決定係数が最も高くなり、発電出力、残留塩素濃度ともに低くなるほど決定係数が低くなる傾向が確認できた。このことからアレニウス式による放水口濃度の予測は、発電出力が高く復水器入口濃度が高いほど有効であると考えられる。
【0087】
機械学習による放水口濃度の予測については、複数のモデル・条件により検証を行った結果、概ね実用性のある予測精度が確認され、適用可能性を示すことができた。
【0088】
水質管理装置1又は1Aによる管理方法は、ソフトウェアにより実現される。ソフトウェアによって実現される場合には、このソフトウェアを構成するプログラムが、コンピュータ(水質管理装置1又は1A)にインストールされる。また、これらのプログラムは、リムーバブルメディアに記録されてユーザに配布されてもよいし、ネットワークを介してユーザのコンピュータにダウンロードされることにより配布されてもよい。更に、これらのプログラムは、ダウンロードされることなくネットワークを介したWebサービスとしてユーザのコンピュータ(水質管理装置1又は1A)に提供されてもよい。
【符号の説明】
【0089】
1、1A 水質管理装置
2 復水器
11 制御部
12 中和剤注入部
13 記憶部
21 取水路
22 放水路
111 属性値取得部
112、112A 濃度予測部
113 必要量算出部
114 入力データ取得部
115 ラベル取得部
116 学習部
117 推定値生成部
【要約】
海水の放水口における、海水中の残留塩素濃度の基準値の超過を未然に防ぐことが可能な、水質管理装置、水質管理方法、及び水質管理プログラムを提供する。海水利用プラントのための水質管理装置であって、海水利用プラントに設置される復水器を流通する海水の属性値を取得する属性値取得部と、属性値に基づいて、復水器から海水を海に放出する放水路の放水口における残留塩素濃度を予測する濃度予測部と、予測された残留塩素濃度に基づいて、放水路に注入する、残留塩素の中和剤の必要量を算出する必要量算出部と、必要量分の中和剤を放水路に注入する中和剤注入部と、を備える。