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特許7101917立方晶窒化硼素焼結体及びそれを用いたヒートシンク
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-07
(45)【発行日】2022-07-15
(54)【発明の名称】立方晶窒化硼素焼結体及びそれを用いたヒートシンク
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/5835 20060101AFI20220708BHJP
   H01L 23/373 20060101ALI20220708BHJP
   H01L 23/36 20060101ALI20220708BHJP
【FI】
C04B35/5835
H01L23/36 M
H01L23/36 Z
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2022504252
(86)(22)【出願日】2021-08-02
(86)【国際出願番号】 JP2021028575
【審査請求日】2022-01-21
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】503212652
【氏名又は名称】住友電工ハードメタル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石田 雄
(72)【発明者】
【氏名】久木野 暁
【審査官】手島 理
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第109748596(CN,A)
【文献】国際公開第2019/039037(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第109574679(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/5835
H01L 23/373
H01L 23/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
90.0質量%以上99.0質量%以下の立方晶窒化硼素と、1.0質量%以上10.0質量%以下の珪素と、を含み、
前記立方晶窒化硼素及び前記珪素の合計含有率は、94.0質量%以上100質量%以下である、立方晶窒化硼素焼結体。
【請求項2】
前記立方晶窒化硼素焼結体は炭素を含み、
前記炭素の含有率は、0.10質量%以上5.00質量%以下である、請求項1に記載の立方晶窒化硼素焼結体。
【請求項3】
前記炭素の少なくとも一部はダイヤモンドである、請求項2に記載の立方晶窒化硼素焼結体。
【請求項4】
前記立方晶窒化硼素焼結体はアルミニウムを含み、
前記アルミニウムの含有率は、0.01質量%以上5.00質量%以下である、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の立方晶窒化硼素焼結体。
【請求項5】
前記立方晶窒化硼素焼結体は、複数の立方晶窒化硼素からなる結晶粒を含み、
前記結晶粒の円相当径のメジアン径d50は1.0μm以上である、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の立方晶窒化硼素焼結体。
【請求項6】
前記立方晶窒化硼素焼結体の熱伝導率は、300W/mK以上である、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の立方晶窒化硼素焼結体。
【請求項7】
前記立方晶窒化硼素焼結体の熱膨張係数は、4.0×10-6/K以上6.0×10-6/K以下である、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の立方晶窒化硼素焼結体。
【請求項8】
前記立方晶窒化硼素の転位密度は、1×1016/m以下である、請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の立方晶窒化硼素焼結体。
【請求項9】
前記転位密度は、修正Williamson-Hall法及び修正Warren-Averbach法を用いて算出される、請求項8に記載の立方晶窒化硼素焼結体。
【請求項10】
前記転位密度は、放射光をX線源として測定される、請求項8又は請求項9に記載の立方晶窒化硼素焼結体。
【請求項11】
請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の立方晶窒化硼素焼結体を用いたヒートシンク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、立方晶窒化硼素焼結体及びそれを用いたヒートシンクに関する。
【背景技術】
【0002】
地球環境問題として、温室効果ガスの削減のために、太陽光発電や風力発電、電気自動車などの需要が拡大している。それらにはパワー半導体が用いられている。パワー半導体の材料は、現在主流のケイ素(Si)から、より高性能な炭化ケイ素(SiC)や窒化ガリウム(GaN)へとシフトしてきている。これらのパワー半導体では、ヒートシンクを用いて熱を拡散させる手法が取られている。
【0003】
立方晶窒化硼素(以下、cBNとも記す。)は、ダイヤモンドに次ぐ熱伝導率を有する。また、立方晶窒化硼素は、パワー半導体と近い熱膨張係数を有し、さらに絶縁材料である。よって、立方晶窒化硼素はヒートシンクの材料に好適である。
【発明の概要】
【0004】
本開示は、90.0質量%以上99.5質量%以下の立方晶窒化硼素と、0.5質量%以上10.0質量%以下の珪素と、を含み、
前記立方晶窒化硼素及び前記珪素の合計含有率は、94.0質量%以上100質量%以下である、立方晶窒化硼素焼結体である。
【0005】
本開示は、上記立方晶窒化硼素焼結体を用いたヒートシンクである。
【発明を実施するための形態】
【0006】
[本開示が解決しようとする課題]
従来、立方晶窒化硼素をヒートシンクに適用する場合には、立方晶窒化硼素粒子を結合材を用いて焼結させた立方晶窒化硼素焼結体が用いられていた。しかしながら、結合材は熱伝導率を低下させる大きな原因となっていた。
【0007】
そこで、本開示は、高い熱伝導率、及び、パワー半導体に近い熱膨張係数を有する立方晶窒化硼素焼結体、並びに、高い熱伝導率、及び、パワー半導体に近い熱膨張係数を有するヒートシンクを提供することを目的とする。
【0008】
[本開示の効果]
本開示によれば、高い熱伝導率、及び、パワー半導体に近い熱膨張係数を有する立方晶窒化硼素焼結体、並びに、高い熱伝導率、及び、パワー半導体に近い熱膨張係数を有するヒートシンクを提供することが可能となる。
【0009】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
(1)本開示は、90.0質量%以上99.5質量%以下の立方晶窒化硼素と、0.5質量%以上10.0質量%以下の珪素と、を含み、
前記立方晶窒化硼素及び前記珪素の合計含有率は、94.0質量%以上100質量%以下である、立方晶窒化硼素焼結体である。
【0010】
本開示によれば、高い熱伝導率、及び、パワー半導体に近い熱膨張係数を有する立方晶窒化硼素焼結体を提供することができる。
【0011】
(2)前記立方晶窒化硼素焼結体は炭素を含み、
前記炭素の含有率は、0.10質量%以上5.00質量%以下であることが好ましい。これによると、立方晶窒化硼素焼結体の熱伝導率が向上し、かつ、熱膨張係数をパワー半導体の熱膨張係数に近付けることができる。
【0012】
(3)前記炭素の少なくとも一部はダイヤモンドであることが好ましい。これによると、立方晶窒化硼素焼結体の熱伝導率が向上し、かつ、熱膨張係数をパワー半導体の熱膨張係数に近付けることができる。
【0013】
(4)前記立方晶窒化硼素焼結体はアルミニウムを含み、
前記アルミニウムの含有率は、0.01質量%以上5.00質量%以下であることが好ましい。これによると、立方晶窒化硼素焼結体の熱伝導率が向上する。
【0014】
(5)前記立方晶窒化硼素焼結体は、複数の立方晶窒化硼素からなる結晶粒を含み、
前記結晶粒の円相当径のメジアン径d50は1.0μm以上であることが好ましい。これによると、立方晶窒化硼素焼結体の熱伝導率が向上する。
【0015】
(6)前記立方晶窒化硼素焼結体の熱伝導率は、300W/mK以上であることが好ましい。これによると、立方晶窒化硼素焼結体は高い熱伝導率を有する。
【0016】
(7)前記立方晶窒化硼素焼結体の熱膨張係数は、4.0×10-6/K以上6.0×10-6/K以下であることが好ましい。これによると、立方晶窒化硼素焼結体は、パワー半導体に近い熱膨張係数を有する。
【0017】
(8)前記立方晶窒化硼素の転位密度は、1×1016/m以下であることが好ましい。これによると、立方晶窒化硼素焼結体の熱伝導率が向上する。
【0018】
(9)前記転位密度は、修正Williamson-Hall法及び修正Warren-Averbach法を用いて算出されることが好ましい。
【0019】
(10)前記転位密度は、放射光をX線源として測定されることが好ましい。
【0020】
(11)本開示は、上記の立方晶窒化硼素焼結体を用いたヒートシンクである。本開示によれば、高い熱伝導率、及び、パワー半導体に近い熱膨張係数を有するヒートシンクを提供することができる。
【0021】
[本開示の実施形態の詳細]
本開示の立方晶窒化硼素焼結体及びヒートシンクの具体例を、以下に説明する。
【0022】
本明細書において「A~B」という形式の表記は、範囲の上限下限(すなわちA以上B以下)を意味し、Aにおいて単位の記載がなく、Bにおいてのみ単位が記載されている場合、Aの単位とBの単位とは同じである。
【0023】
本明細書において、パワー半導体とは、炭化ケイ素(SiC)や窒化ガリウム(GaN)を材料とする半導体を意味する。SiCの熱膨張係数は4.0~5.0×10-6/Kであり、GaNの熱膨張係数は5.5~6.0×10-6/Kである。従って、本明細書において、パワー半導体の熱膨張係数とは、4.0~6.0×10-6/Kを意味する。
【0024】
[実施形態1:立方晶窒化硼素焼結体]
本開示の一実施形態(以下、「本実施形態」とも記す。)は、90.0質量%以上99.5質量%以下の立方晶窒化硼素と、0.5質量%以上10.0質量%以下の珪素と、を含み、
該立方晶窒化硼素及び該珪素の合計含有率は、94.0質量%以上100質量%以下である、立方晶窒化硼素焼結体である。
【0025】
本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体は、高い熱伝導率、及び、パワー半導体に近い熱膨張係数を有することができる。この理由は、以下(i)~(iv)の通りと推察される。
【0026】
(i)本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体は、高い熱伝導率を有する立方晶窒化硼素を90.0質量%以上99.5質量%以下含む。よって、該立方晶窒化硼素焼結体は、高い熱伝導率を有することができる。
【0027】
(ii)本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体は、パワー半導体の熱膨張係数(約4.0~6.0×10-6/K)に近い熱膨張係数を有する立方晶窒化硼素(熱膨張係数:約3.0~4.0×10-6/K)及び珪素(熱膨張係数:約4.0×10-6/K)の合計含有率が94.0質量%以上100質量%以下である。よって、該立方晶窒化硼素焼結体は、パワー半導体に近い熱膨張係数を有することができる。
【0028】
(iii)本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体に含まれる珪素の一部は、立方晶窒化硼素の炭素と反応し、炭化珪素(SiC)を形成する場合がある。炭化珪素は耐酸化性に優れた物質であるため、立方晶窒化硼素粒子間、もしくはその近傍に炭化珪素が存在すると、不可避不純物である酸素が立方晶窒化硼素粒子間に入り込むことがなくなり、立方晶窒化硼素粒子間の結合を阻害する酸化物の形成が抑制される。よって、立方晶窒化硼素粒子間の結合力が向上し、立方晶窒化硼素焼結体は高い熱伝導率有することができる。また、上記炭化珪素の熱膨張係数は、パワー半導体の熱膨張係数と同一又は近い。よって、該立方晶窒化硼素焼結体は、パワー半導体に近い熱膨張係数を有することができる。なお、本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体は、その効果を示す限り、炭化珪素を含んでいても、含まなくてもよい。
【0029】
(iv)立方晶窒化硼素焼結体において、立方晶窒化硼素粒子の表面、すなわち立方晶窒化硼素粒子間に不可避不純物である酸素が存在する場合、立方晶窒化硼素粒子間の結合力が低下する傾向がある。本実施形態の立方晶窒化硼素に含まれる珪素の一部は、該酸素と結合して酸化珪素(SiO)を形成する場合がある。この場合、立方晶窒化硼素粒子の表面、すなわち立方晶窒化硼素粒子間に存在する酸素が低減し、立方晶窒化硼素粒子間の結合力の低下が抑制され、該立方晶窒化硼素焼結体の熱伝導率が向上する。なお、本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体は、その効果を示す限り、酸化珪素を含んでいても、含まなくてもよい。
【0030】
<組成>
本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体は、90.0質量%以上99.5質量%以下の立方晶窒化硼素と、0.5質量%以上10.0質量%以下の珪素と、を含み、該立方晶窒化硼素及び該珪素の合計含有率は、94.0質量%以上100質量%以下である。本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体は、使用する原材料、製造条件等に起因する不可避不純物を含み得る。立方晶窒化硼素焼結体の不可避不純物の含有率(質量%)は、0質量%以上1質量%以下が好ましく、0質量%以上0.1質量%以下が更に好ましい。本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体は、立方晶窒化硼素粒子と、珪素と、不可避不純物とからなることができる。本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体は、立方晶窒化硼素粒子と、珪素と、炭素と、不可避不純物とからなることができる。本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体は、立方晶窒化硼素粒子と、珪素と、アルミニウムと、不可避不純物とからなることができる。本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体は、立方晶窒化硼素粒子と、珪素と、炭素と、アルミニウムと、不可避不純物とからなることができる。
【0031】
<立方晶窒化硼素の含有率>
立方晶窒化硼素焼結体の立方晶窒化硼素の含有率の下限は、90.0質量%以上であり、91.0質量%以上が好ましく、92.0質量%以上がより好ましく、93.0質量%以上が更に好ましい。立方晶窒化硼素焼結体の立方晶窒化硼素の含有率の上限は、99.5質量%以下であり、99.0質量%以下が好ましく、98.0質量%以下がより好ましく、97.0質量%以下が更に好ましい。立方晶窒化硼素焼結体の立方晶窒化硼素の含有率は、90.0質量%以上99.5質量%以下であり、91.0質量%以上99.0質量%以下が好ましく、92.0質量%以上98.0質量%以下がより好ましく、93.0質量%以上97.0質量%以下が更に好ましい。
【0032】
立方晶窒化硼素焼結体の立方晶窒化硼素の含有率(質量%)は、以下の(A1)~(F1)の方法で測定される。以下の方法は、走査電子顕微鏡(SEM)(日本電子社製の「JSM-7800F」(商品名))付帯のエネルギー分散型X線分析装置(EDX)(OXFORD製X-MAX80 EDSシステム)(以下「SEM-EDX」とも記す。)を用いて行うことができる。
【0033】
(A1)立方晶窒化硼素焼結体の任意の位置を切断し、立方晶窒化硼素焼結体の断面を含む試料を作製する。断面の作製には、集束イオンビーム装置又はクロスセクションポリッシャ装置等を用いる。
【0034】
(B1)上記断面をSEMにて5000倍で観察して、反射電子像を得る。反射電子像において、黒色領域は立方晶窒化硼素が存在する領域である。灰色領域及び白色領域は、立方晶窒化硼素以外の成分(珪素、炭素、アルミニウム、不可避不純物等)が存在する領域である。反射電子像において、黒色領域に立方晶窒化硼素が存在し、灰色領域及び白色領域に立方晶窒化硼素以外の成分が存在することは、立方晶窒化硼素焼結体の該反射電子像と同一の観察領域に対してSEM-EDXによる元素分析を行うことにより確認することができる。
【0035】
(C1)次に、上記反射電子像に対して画像解析ソフト(三谷商事(株)の「WinROOF」)を用いて二値化処理を行う。二値化処理では、上記反射電子像の撮影の際に、画像コントラスト値を256に分割し(低コントラスト:0,高コントラスト:255)、上記で特定した立方晶窒化硼素の存在する領域のコントラスト値が30より下になるように設定する。これにより、立方晶窒化硼素の存在する領域を抽出することができる。
【0036】
(D1)二値化処理後の画像中に12μm×9μmの測定領域を設定する。該測定領域において、立方晶窒化硼素の存在する領域の面積比率を算出する。算出された面積比率を体積%とみなすことにより、立方晶窒化硼素焼結体の立方晶窒化硼素の含有率(体積%)を求めることができる。上記の二値化処理での閾値設定を行うと、同一視野を測定する限りでは、立方晶窒化硼素焼結体の立方晶窒化硼素の含有率にばらつきは生じない。
【0037】
(E1)上記の立方晶窒化硼素焼結体の密度ρをアルキメデスの原理を利用して測定する。立方晶窒化硼素焼結体の密度ρ1は以下の式で表される。
ρ=M×(ρ-d)/(A-B)+d
上記式において、ρは立方晶窒化硼素焼結体の密度(g/cm)であり、Aは空気中の重さ(g)であり、Bは液体中の重さ(g)であり、ρは液体の密度(g/cm)であり、dは空気の密度(0.001g/cm)である。
【0038】
(F1)上記で測定された立方晶窒化硼素焼結体の立方晶窒化硼素の含有率q(体積%)、立方晶窒化硼素の密度ρ(g/cm、具体的には3.45g/cm)、及び、立方晶窒化硼素焼結体の密度ρ1(g/cm)に基づき、立方晶窒化硼素焼結体の立方晶窒化硼素の含有率(質量%)を求める。立方晶窒化硼素焼結体の立方晶窒化硼素の含有率(質量%)は以下の式で表される。
立方晶窒化硼素焼結体の立方晶窒化硼素の含有率(質量%)=q×ρ/ρ
【0039】
<珪素含有率>
【0040】
立方晶窒化硼素焼結体の珪素含有率は、0.5質量%以上10.0質量%以下である。これによると、立方晶窒化硼素焼結体は、パワー半導体に近い熱膨張係数を有することができる。また、cBN粒子間の結合力が向上し、立方晶窒化硼素焼結体は高い熱伝導率を有することができる。
【0041】
立方晶窒化硼素焼結体において、珪素は、珪素単体として存在してもよいし、珪素が立方晶窒化硼素焼結体に含まれる他の元素と反応して生成された珪素化合物として存在してもよい。珪素単体の場合でも、珪素中には硼素等の元素が単体で存在していてもよい。上記珪素化合物としては、例えば、硼化珪素(SiB)、窒化珪素(SiN)、酸化珪素(SiO)、炭化珪素(SiC)が挙げられる。なお、珪素は原料コストが高いため、従来の立方晶窒化硼素焼結体において、0.5質量%以上の含有率で用いられることはなかった。
【0042】
本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体の珪素含有率の下限は、0.5質量%以上であり、1.0質量%以上が好ましく、2.0質量%以上がより好ましく、3.0質量%以上が更に好ましい。立方晶窒化硼素焼結体の珪素含有率の上限は、10.0質量%以下であり、9.0質量%以下が好ましく、8.0質量%以下がより好ましく、7.0質量%以下が更に好ましい。立方晶窒化硼素焼結体の珪素含有率は、0.5質量%以上10.0質量%以下であり、1.0質量%以上9.0質量%以下が好ましく、2.0質量%以上8.0質量%以下がより好ましく、3.0質量%以上7.0質量%以下が更に好ましい。
【0043】
立方晶窒化硼素焼結体の珪素含有率は、電子プローブマイクロアナライザ(EPMA:Electron Probe Micro Analyzer)を用いて測定される。測定設備及び測定条件は以下の通りである。
設備:日本電子製 JXA-8530F
測定条件:加速電圧15kV
【0044】
<炭素含有率>
本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体は炭素を含み、該炭素の含有率は、0.10質量%以上5.00質量%以下が好ましい。立方晶窒化硼素焼結体に含まれる炭素の一部は、珪素と反応し、炭化珪素(SiC)を形成する場合がある。炭化珪素は耐酸化性に優れた物質であるため、立方晶窒化硼素粒子間、もしくはその近傍に炭化珪素が存在すると、不可避不純物である酸素が立方晶窒化硼素粒子間に入り込むことがなくなり、立方晶窒化硼素粒子間の結合を阻害する酸化物の形成が抑制される。立方晶窒化硼素焼結体が炭素を上記の範囲で含有すると、立方晶窒化硼素粒子間の結合力が向上し、立方晶窒化硼素焼結体は高い熱伝導率を有することができる。また、上記SiCの熱膨張係数は、パワー半導体の熱膨張係数と同一又は近い。よって、該立方晶窒化硼素焼結体は、パワー半導体に近い熱膨張係数を有することができる。
【0045】
立方晶窒化硼素焼結体の炭素含有率の下限は、0.10質量%以上が好ましく、1.00質量%以上がより好ましく、2.00質量%以上が更に好ましい。立方晶窒化硼素焼結体の炭素含有率の上限は、5.00質量%以下が好ましく、4.50質量%以下がより好ましく、4.00質量%以下が更に好ましい。立方晶窒化硼素焼結体の炭素含有率は、0.10質量%以上5.00質量%以下が好ましく、1.00質量%以上4.50質量%以下がより好ましく、2.00質量%以上4.00質量%以下が更に好ましい。
【0046】
上記炭素の少なくとも一部はダイヤモンドであることが好ましい。これによると、立方晶窒化硼素焼結体の熱伝導率が向上し、かつ、熱膨張係数をパワー半導体の熱膨張係数に近付けることができる。上記炭素の一部がダイヤモンドであってもよいし、全てがダイヤモンドであってもよい。
【0047】
本実施形態の立方晶窒化硼素において、上記ダイヤモンドの円相当径のメジアン径d50(以下、「円相当径のd50」とも記す。)は1.0μm以上が好ましい。これによると、立方晶窒化硼素焼結体の熱伝導率が向上する。本明細書において、円相当径のメジアン径d50とは、個数基準の頻度の累積が50%となる円相当径を意味する。
【0048】
上記ダイヤモンドの円相当径のd50の下限は、1.0μm以上が好ましく、2.0μm以上が好ましく、3.0μm以上が好ましく、5.0μm以上が好ましく、7.0μm以上が好ましく、8.0μm以上が好ましい。上記ダイヤモンドの円相当径のd50は大きいほど熱伝導率が高くなるため特に限定されないが、製造上の観点から、100μm以下とすることができる。上記ダイヤモンドの円相当径のd50が1.0μm以上100μm以下が好ましく、2.0μm以上100μm以下が好ましく、3.0μm以上100μm以下が好ましく、5.0μm以上100μm以下が好ましく、7.0μm以上100μm以下が好ましく、8.0μm以上100μm以下が好ましい。
【0049】
本明細書において、立方晶窒化硼素に含まれるダイヤモンドの円相当径のd50は、以下の手順で測定される。
【0050】
上記立方晶窒化硼素焼結体の立方晶窒化硼素の含有率(質量%)の測定方法の(A1)~(C1)と同様の方法で、立方晶窒化硼素焼結体の二値化処理後の画像を得る。
【0051】
二値化処理後の画像中に12μm×9μmの測定視野を設定する。該測定視野内に観察されるダイヤモンドの粒界を分離した状態で、上記画像処理ソフトを用いて、該ダイヤモンドの円相当径の分布を測定する。測定視野は、任意に5箇所設定する。
【0052】
上記ダイヤモンドの円相当径の分布に基づき、測定視野の全ダイヤモンドの数を分母として、ダイヤモンドの円相当径のd50を求める。5箇所の各測定視野において、ダイヤモンドの円相当径のd50をそれぞれ求め、これらの平均値を算出する。該平均値が立方晶窒化硼素に含まれるダイヤモンドの円相当径のd50に相当する。
【0053】
出願人が測定した限りでは、同一の試料においてダイヤモンドの円相当径のd50を測定する限り、立方晶窒化硼素焼結体における測定視野の選択個所を変更して複数回算出しても、測定結果のばらつきはほとんどなく、任意に測定視野を設定しても恣意的にはならないことが確認された。
【0054】
<アルミニウム含有率>
本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体はアルミニウムを含み、該アルミニウムの含有率は、0.01質量%以上5.00質量%以下が好ましい。立方晶窒化硼素焼結体において、立方晶窒化硼素粒子の表面、すなわち立方晶窒化硼素粒子間に不可避不純物である酸素が存在する場合、立方晶窒化硼素粒子間の結合力が低下する傾向がある。立方晶窒化硼素がアルミニウムを含むと、該アルミニウムの一部は、上記酸素と結合して酸化アルミニウム(Al)を形成する場合がある。この場合、立方晶窒化硼素粒子の表面、すなわち立方晶窒化硼素粒子間に存在する酸素が低減し、立方晶窒化硼素粒子間の結合力の低下が抑制され、該立方晶窒化硼素焼結体の熱伝導率が向上する。
【0055】
立方晶窒化硼素焼結体に含まれるアルミニウムの一部は、立方晶窒化硼素焼結体に含まれる窒素や珪素と反応し、窒化アルミニウム(AlN)や炭化アルミニウム珪素(AlSiC)を形成する場合がある。窒化アルミニウムや炭化アルミニウム珪素は耐酸化性に優れた物質であるため、立方晶窒化硼素粒子間、もしくはその近傍に窒化アルミニウムや炭化アルミニウム珪素が存在すると、不可避不純物である酸素が立方晶窒化硼素粒子間に入り込むことがなくなり、立方晶窒化硼素粒子間の結合を阻害する酸化物の形成が抑制される。よって、立方晶窒化硼素粒子間の結合力が向上し、立方晶窒化硼素焼結体は高い熱伝導率有することができる。
【0056】
立方晶窒化硼素焼結体に含まれるアルミニウムの一部は、立方晶窒化硼素焼結体に含まれる硼素と反応し、ホウ化アルミニウム(AlB、AlB12)を形成する場合もある。
【0057】
<不可避不純物>
本開示の立方晶窒化硼素焼結体は、本開示の効果を示す範囲において不可避不純物を含むことができる。不可避不純物としては、例えば、水素、酸素、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)を挙げることができる。立方晶窒化硼素焼結体の不可避不純物の含有率は0質量%以上1質量%以下が好ましく、0質量%以上0.1質量%以下が更に好ましい。不可避不純物の含有率は、二次イオン質量分析(SIMS)により測定することができる。
【0058】
<結晶粒の円相当径のd50、d90>
本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体において、立方晶窒化硼素焼結体は、複数の立方晶窒化硼素からなる結晶粒を含み、該結晶粒の円相当径のメジアン径d50(以下、「円相当径のd50」とも記す。)は1.0μm以上が好ましい。これによると、立方晶窒化硼素焼結体の熱伝導率が向上する。本明細書において、結晶粒の円相当径のメジアン径d50とは、個数基準の頻度の累積が50%となる円相当径を意味する。
【0059】
上記結晶粒の円相当径のd50の下限は、1.0μm以上が好ましく、2.0μm以上が好ましく、3.0μm以上が好ましく、5.0μm以上が好ましく、7.0μm以上が好ましく、8.0μm以上が好ましい。上記結晶粒の円相当径のd50は大きいほど熱伝導率が高くなるため特に限定されないが、製造上の観点から、100μm以下とすることができる。上記結晶粒の円相当径のd50は1.0μm以上100μm以下が好ましく、2.0μm以上100μm以下が好ましく、3.0μm以上100μm以下が好ましく、5.0μm以上100μm以下が好ましく、7.0μm以上100μm以下が好ましく、8.0μm以上100μm以下が好ましい。
【0060】
本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体において、立方晶窒化硼素は、複数の結晶粒からなり、該結晶粒の円相当径のd90は1.2μm以上が好ましい。これによると、立方晶窒化硼素焼結体の熱伝導率が向上する。本明細書において、結晶粒の円相当径のd90とは、個数基準の頻度の累積が90%となる円相当径を意味する。
【0061】
上記結晶粒の円相当径のd90の下限は、1.2μm以上が好ましく、3.6μm以上が好ましい。上記結晶粒の円相当径のd90は大きいほど熱伝導率が高くなるため特に限定されないが、製造上の観点から、150μm以下とすることができる。上記結晶粒の円相当径のd90は1.2μm以上150μm以下が好ましく、3.6μm以上150μm以下がより好ましい。
【0062】
本明細書において、立方晶窒化硼素に含まれる複数の結晶粒の円相当径のd50、及び、d90は、以下の手順で測定される。
【0063】
上記立方晶窒化硼素焼結体の立方晶窒化硼素の含有率(質量%)の測定方法の(A1)~(C1)と同様の方法で、立方晶窒化硼素焼結体の二値化処理後の画像を得る。
【0064】
二値化処理後の画像中に12μm×9μmの測定視野を設定する。該測定視野内に観察される立方晶窒化硼素からなる結晶粒の粒界を分離した状態で、上記画像処理ソフトを用いて、該結晶粒の円相当径の分布を測定する。測定視野は、任意に5箇所設定する。
【0065】
上記結晶粒の円相当径の分布に基づき、測定視野の全結晶粒の数を分母として、結晶粒の円相当径のd50を求める。5箇所の各測定視野において、結晶粒の円相当径のd50をそれぞれ求め、これらの平均値を算出する。該平均値が立方晶窒化硼素に含まれる複数の結晶粒の円相当径のd50に相当する。
【0066】
上記結晶粒の円相当径の分布に基づき、測定視野の全結晶粒の数を分母として、結晶粒の円相当径のd90を求める。5箇所の各測定視野において、結晶粒の円相当径のd90をそれぞれ求め、これらの平均値を算出する。該平均値が立方晶窒化硼素焼結体に含まれる複数の結晶粒の円相当径のd90に相当する。
【0067】
出願人が測定した限りでは、同一の試料において結晶粒の円相当径のd50、及び、d90を測定する限り、立方晶窒化硼素焼結体における測定視野の選択個所を変更して複数回算出しても、測定結果のばらつきはほとんどなく、任意に測定視野を設定しても恣意的にはならないことが確認された。
【0068】
立方晶窒化硼素からなる結晶粒は、不純物元素を含まない純粋な立方晶窒化硼素であってもよいし、立方晶窒化硼素に加えて、本開示の効果を示す範囲において不可避不純物を含むこともできる。該結晶粒中の不可避不純物の含有量は、0質量%以上0.1質量%以下であることが好ましい。不可避不純物の含有量は、ICP発光分析(Inductively Coupled Plasma)Emission Spectroscopy(測定装置:島津製作所「ICPS-8100」(商標))により測定される。
【0069】
<熱伝導率>
本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体の熱伝導率の下限は、290W以上が好ましく、300W/mK以上が好ましく、400W/mK以上がより好ましく、500W/mK以上が更に好ましい。立方晶窒化硼素焼結体の熱伝導率の上限は特に限定されないが、例えば、2000W/mK以下とすることができる。立方晶窒化硼素焼結体の熱伝導率は、290W/mK以上2000W/mK以下が好ましく、300W/mK以上2000W/mK以下が好ましく、400W/mK以上2000W/mK以下がより好ましく、500W/mK以上2000W/mK以下が更に好ましい。
【0070】
本明細書において、立方晶窒化硼素焼結体の熱伝導率は、キセノンフラッシュランプを用いたレーザーフラッシュ法により熱拡散率を測定し、該熱拡散率を熱伝導率へと変換して得られる。測定温度は25℃とする。測定装置には、NETZSCH社製「LFA467 Hyper Flash」(商標)を用いることができる。上記変換の際は、以下の条件(a)~(c)を採用する。
(a)熱伝導率=熱拡散率×比熱×密度
(b)立方晶窒化硼素の密度は3.45g/cm、比熱は0.6J/mol
(c)立方晶窒化硼素焼結体の立方晶窒化硼素の含有率を100質量%と見做す。
【0071】
<熱膨張係数>
本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体の熱膨張係数は、4.0×10-6/K以上6.0×10-6/K以下が好ましい。これによると、立方晶窒化硼素焼結体は、パワー半導体に近い熱膨張係数を有することができる。
【0072】
本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体の熱膨張係数の下限は、4.0×10-6/K以上が好ましく、4.3×10-6/K以上がより好ましく、4.5×10-6/K以上が更に好ましい。立方晶窒化硼素焼結体の熱膨張係数の上限は、6.0×10-6/K以下が好ましく、5.8×10-6/K以下がより好ましく、5.5×10-6/K以下が更に好ましい。立方晶窒化硼素焼結体の熱膨張係数は、4.0×10-6/K以上6.0×10-6/K以下が好ましく、4.3×10-6/K以上6.0×10-6/K以下が好ましく、4.5×10-6/K以上6.0×10-6/K以下が好ましく、4.0×10-6/K以上5.8×10-6/K以下が好ましく、4.3×10-6/K以上5.8×10-6/K以下が好ましく、4.5×10-6/K以上5.8×10-6/K以下が好ましく、4.0×10-6/K以上5.5×10-6/K以下が好ましく、4.3×10-6/K以上5.5×10-6/K以下が好ましく、4.5×10-6/K以上5.5×10-6/K以下が好ましい。
【0073】
本明細書において、立方晶窒化硼素焼結体の熱膨張係数は、市販の測定器(NETZSCH製 DIL 402C(商標))を用いて測定される。測定温度範囲は、25℃~500℃とする。
【0074】
<転位密度>
本実施形態の立方晶窒化硼素の転位密度は、1×1016/m以下が好ましい。これによると、立方晶窒化硼素焼結体の熱伝導率が向上する。
【0075】
立方晶窒化硼素の転位密度の上限は、1×1016/m以下が好ましく、9×1015/m以下がより好ましく、8×1015/m以下が更に好ましい。立方晶窒化硼素焼結体の転位密度の下限は特に限定されないが、製造上の観点から、1×1015/m以上とすることができる。立方晶窒化硼素焼結体の転位密度は1×1015/m以上1×1016/m以下が好ましく、1×1015/m以上9×1015/m以下がより好ましく、1×1015/m以上8×1015/m以下が更に好ましい。
【0076】
本明細書において、立方晶窒化硼素の転位密度は下記の手順により算出される。立方晶窒化硼素焼結体からなる試験片を準備する。試験片の大きさは、観察面が2.0mm×2.0mmであり、厚みが1.0mmである。試験片の観察面をダイヤモンド砥石で研磨する。
【0077】
該試験片の観察面について、下記の条件でX線回折測定を行い、立方晶窒化硼素の主要な方位である(111)、(200)、(220)、(311)、(400)、(331)の各方位面からの回折ピークのラインプロファイルを得る。
【0078】
(X線回折測定条件)
X線源:放射光
装置条件:検出器NaI(適切なROIにより蛍光をカットする。)
エネルギー:18keV(波長:0.6888Å)
分光結晶:Si(111)
入射スリット:幅5mm×高さ0.5mm
受光スリット:ダブルスリット(幅3mm×高さ0.5mm)
ミラー:白金コート鏡
入射角:2.5mrad
走査方法:2θ-θscan
測定ピーク:立方晶窒化硼素の(111)、(200)、(220)、(311)、(400)、(331)の6本。ただし、集合組織、配向によりプロファイルの取得が困難な場合は、その面指数のピークを除く。
【0079】
測定条件:半値幅中に、測定点が9点以上となるようにする。ピークトップ強度は2000counts以上とする。ピークの裾も解析に使用するため、測定範囲は半値幅の10倍程度とする。
【0080】
上記のX線回折測定により得られるラインプロファイルは、試料の不均一ひずみなどの物理量に起因する真の拡がりと、装置起因の拡がりの両方を含む形状となる。不均一ひずみや結晶子サイズを求めるために、測定されたラインプロファイルから、装置起因の成分を除去し、真のラインプロファイルを得る。真のラインプロファイルは、得られたラインプロファイルおよび装置起因のラインプロファイルを擬Voigt関数によりフィッティングし、装置起因のラインプロファイルを差し引くことにより得る。装置起因の回折線拡がりを除去するための標準サンプルとしては、LaBを用いる。また、平行度の高い放射光を用いる場合は、装置起因の回折線拡がりは0とみなすことができる。
【0081】
得られた真のラインプロファイルを修正Williamson-Hall法及び修正Warren-Averbach法を用いて解析することによって転位密度を算出する。修正Williamson-Hall法及び修正Warren-Averbach法は、転位密度を求めるために用いられている公知のラインプロファイル解析法である。
【0082】
修正Williamson-Hall法の式は、下記式(I)で示される。
【0083】
【数1】
【0084】
(上記式(I)において、ΔKはラインプロファイルの半値幅、Dは結晶子サイズ、Mは配置パラメータ、bはバーガースベクトル、ρは転位密度、Kは散乱ベクトル、O(KC)はKCの高次項、Cはコントラストファクターの平均値を示す。)
上記式(I)におけるCは、下記式(II)で表される。
【0085】
C=Ch00[1-q(h+h+k)/(h+k+l] (II)
上記式(II)において、らせん転位と刃状転位におけるそれぞれのコントラストファクターCh00およびコントラストファクターに関する係数qは、計算コードANIZCを用い、すべり系が<110>{111}、弾性スティフネスC11が8.44GPa、C12が1.9GPa、C44が4.83GPaとして求める。コントラストファクターCh00は、らせん転位は0.203であり、刃状転位は0.212である。コントラストファクターに関する係数qは、らせん転位は1.65であり、刃状転位は0.58である。なお、らせん転位比率は0.5、刃状転位比率は0.5に固定する。
【0086】
また、転位と不均一ひずみの間にはコントラストファクターCを用いて下記式(III)の関係が成り立つ。
【0087】
<ε(L)>=(ρCb/4π)ln(R/L) (III)
(上記式(III)において、Rは転位の有効半径を示す。)
上記式(III)の関係と、Warren-Averbachの式より、下記式(IV)の様に表すことができ、修正Warren-Averbach法として、転位密度ρ及び結晶子サイズを求めることができる。
【0088】
lnA(L)=lnA(L)-(πLρb/2)ln(R/L)(KC)+O(KC) (IV)(上記式(IV)において、A(L)はフーリエ級数、A(L)は結晶子サイズに関するフーリエ級数、Lはフーリエ長さを示す。)
修正Williamson-Hall法及び修正Warren-Averbach法の詳細は、“T.Ungar and A.Borbely,“The effect of dislocation contrast on x-ray line broadening:A new approach to line profile analysis”Appl.Phys.Lett.,vol.69,no.21,p.3173,1996.”及び“T.Ungar,S.Ott,P.Sanders,A.Borbely,J.Weertman,“Dislocations,grain size and planar faults in nanostructured copper determined by high resolution X-ray diffraction and a new procedure of peak profile analysis”Acta Mater.,vol.46,no.10,pp.3693-3699,1998.”に記載されている。
【0089】
<立方晶窒化硼素焼結体の製造方法>
本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体は、例えば、以下の方法で作製することができる。
【0090】
≪原料準備工程≫
原料として、立方晶窒化硼素粉末及び珪素粉末を準備する。立方晶窒化硼素粉末の立方晶窒化硼素の含有率(純度)は99%以上が好ましい。立方晶窒化硼素粉末の平均粒径は、2~10μmが好ましい。珪素粉末の純度は、99%以上が好ましい。珪素粉末の平均粒径は、1~10μmが好ましい。本明細書において、原料粉末の平均粒径とは、球相当径のメジアン径d50を意味する。該平均粒径は、マイクロトラック社製の粒度分布測定装置(商品名:MT3300EX)を用いて測定される。
【0091】
炭素源として、グラファイト粉末及び/又はダイヤモンド粉末を準備することができる。グラファイト粉末の純度は、99%以上が好ましい。グラファイト粉末の平均粒径は、1~10μmが好ましい。ダイヤモンド粉末の純度は、99%以上が好ましい。ダイヤモンド粉末の平均粒径は、2~10μmが好ましい。
【0092】
アルミニウム源として、アルミニウム粉末を準備することができる。アルミニウム粉末の純度は、99%以上が好ましい。アルミニウム粉末の平均粒径は、10~100μmが好ましい。
【0093】
≪混合工程≫
立方晶窒化硼素粉末と珪素粉末とを混合して混合粉末を得る。グラファイト粉末及び/又はアルミニウム粉末を用いる場合は、立方晶窒化硼素粉末と珪素粉末とを混合した後に、グラファイト粉末及び/又はアルミニウム粉末を添加して混合して混合粉末を得る。混合方法は特に制限されないが、効率よく均質に混合する観点から、ボールミル混合、ビーズミル混合、遊星ミル混合、およびジェットミル混合などが好ましい。各混合方法は、湿式でもよく乾式でもよい。
【0094】
≪焼結工程≫
次に、上記混合粉末をモリブデン製のカプセルに封入し、該混合粉末に対してマルチアンビル高圧発生装置を用いて、温度1600~2600℃及び圧力5~10GPaまで加熱加圧を行い、立方晶窒化硼素焼結体を得る。
【0095】
上記の温度1600~2600℃及び圧力5~10GPaでの保持時間は10分以上30分以下が好ましい。これによると、立方晶窒化硼素焼結体の転位密度が低下し、かつ、立方晶窒化硼素粒子の粒径が大きくなり、立方晶窒化硼素焼結体の熱伝導率が向上する。
【0096】
[実施形態2:ヒートシンク]
本実施形態のヒートシンクは、上記の実施形態1の立方晶窒化硼素焼結体を用いたヒートシンクである。本実施形態のヒートシンクは、高い熱伝導率、及び、パワー半導体に近い熱膨張係数を有することができる。よって、該ヒートシンクは、使用に伴う熱伝導率の低下を抑制することができ、半導体の長寿命化を可能とする。
【0097】
[付記1]
本開示の立方晶窒化硼素焼結体は、90.0質量%以上99.5質量%以下の立方晶窒化硼素と、0.5質量%以上10.0質量%以下の珪素と、炭素とからなり、
前記立方晶窒化硼素及び前記珪素の合計含有率は、94.0質量%以上100質量%以下であることが好ましい。
【0098】
[付記2]
本開示の立方晶窒化硼素焼結体は、90.0質量%以上99.5質量%以下の立方晶窒化硼素と、0.5質量%以上10.0質量%以下の珪素と、アルミニウムとからなり、
前記立方晶窒化硼素及び前記珪素の合計含有率は、94.0質量%以上100質量%以下であることが好ましい。
【0099】
[付記3]
本開示の立方晶窒化硼素焼結体は、90.0質量%以上99.5質量%以下の立方晶窒化硼素と、0.5質量%以上10.0質量%以下の珪素と、炭素と、アルミニウムとからなり、
前記立方晶窒化硼素及び前記珪素の合計含有率は、94.0質量%以上100質量%以下であることが好ましい。
【0100】
[付記4]
本開示の立方晶窒化硼素焼結体は、90.0質量%以上99.5質量%以下の立方晶窒化硼素と、0.5質量%以上10.0質量%以下の珪素と、不可避不純物とからなり、
前記立方晶窒化硼素及び前記珪素の合計含有率は、94.0質量%以上100質量%以下であることが好ましい。
【0101】
[付記5]
本開示の立方晶窒化硼素焼結体は、90.0質量%以上99.5質量%以下の立方晶窒化硼素と、0.5質量%以上10.0質量%以下の珪素と、炭素と、不可避不純物とからなり、
前記立方晶窒化硼素及び前記珪素の合計含有率は、94.0質量%以上100質量%以下であることが好ましい。
【0102】
[付記6]
本開示の立方晶窒化硼素焼結体は、90.0質量%以上99.5質量%以下の立方晶窒化硼素と、0.5質量%以上10.0質量%以下の珪素と、アルミニウムと、不可避不純物とからなり、
前記立方晶窒化硼素及び前記珪素の合計含有率は、94.0質量%以上100質量%以下であることが好ましい。
【0103】
[付記7]
本開示の立方晶窒化硼素焼結体は、90.0質量%以上99.5質量%以下の立方晶窒化硼素と、0.5質量%以上10.0質量%以下の珪素と、炭素と、アルミニウムと、不可避不純物とからなり、
前記立方晶窒化硼素及び前記珪素の合計含有率は、94.0質量%以上100質量%以下であることが好ましい。
【実施例
【0104】
本実施の形態を実施例によりさらに具体的に説明する。ただし、これらの実施例により本実施の形態が限定されるものではない。
【0105】
[立方晶窒化硼素焼結体の作製]
≪原料準備工程≫
各試料の立方晶窒化硼素焼結体の原料として、立方晶窒化硼素粉末(表1において、cBN粉末と記す。)、珪素粉末、グラファイト粉末(表1において、Gr粉末と記す。)、ダイヤモンド粉末、アルミニウム粉末(表1において、Al粉末と記す。)を準備した。グラファイト粉末、ダイヤモンド粉末及びアルミニウム粉末は、表1の「原料準備工程」の「Gr粉末」、「ダイヤモンド粉末」及び「Al粉末」に「有」と記載されている試料に用いられた。
【0106】
立方晶窒化硼素粉末の純度は99%である。各試料で用いられた立方晶窒化硼素粉末の平均粒径は、表1の「原料準備工程」の「cBN粉末」の「d50(μm)」欄に示す通りである。珪素粉末の純度は99.9%であり、平均粒径は5μmである。グラファイト粉末の純度は99.9%であり、平均粒径は1μmである。ダイヤモンド粉末の純度は99%であり、平均粒径は2μmである。アルミニウム粉末の純度は99.5%であり、平均粒径は30μmである。
【0107】
≪混合工程≫
立方晶窒化硼素粉末と珪素粉末とを混合して混合粉末を得た。立方晶窒化硼素粉末と珪素粉末との混合割合は、作製される立方晶窒化硼素焼結体の立方晶窒化硼素の含有率及び珪素の含有率が、表2の「立方晶窒化硼素焼結体」の「cBN含有率」及び「Si含有率」欄に示される値となるように調整した。混合方法は、ボールミルとした。
【0108】
続いて、グラファイト粉末、ダイヤモンド粉末及びアルミニウム粉末の少なくともいずれかを用いる場合は、上記混合粉末に更に、グラファイト粉末、ダイヤモンド粉末及びアルミニウム粉末の少なくともいずれかを添加して混合して混合粉末を得た。グラファイト粉末、ダイヤモンド粉末及びアルミニウム粉末の添加量は、作製される立方晶窒化硼素焼結体の炭素含有率及びアルミニウム含有率が、表2の「立方晶窒化硼素焼結体」の「C含有率」及び「Al含有率」欄に示される値となるように調整した。混合方法は、ボールミルとした。
【0109】
≪焼結工程≫
次に、上記混合粉末をモリブデン製のカプセルに封入し、該混合粉末に対して、六方向加圧式のマルチアンビル高圧発生装置を用いて加熱加圧を行い、各試料の立方晶窒化硼素焼結体を得た。加熱加圧は、表1の「焼結工程」に示されるように、「第1段階」、「第2段階」及び「第3段階」と多段階で行った。表1の「第3段階」欄の「-」との記載は、その段階の加熱加圧は行われなかったことを示す。最終段階での保持時間を表1の「最終段階保持時間」欄に示す。ここで、「最終段階保持時間」とは、焼結工程で最終的に到達した圧力及び温度での保持時間を意味する。
【0110】
例えば、試料1では、第1段階では温度25℃、圧力10GPaまで加熱加圧し、第2段階では温度1600℃、圧力5.5GPaまで加熱加圧し、第2段階で到達した温度(1600℃)及び圧力(5.5GPa)で20分間保持した。
【0111】
【表1】
【0112】
[測定]
各試料の立方晶窒化硼素多結晶について、立方晶窒化硼素焼結体の立方晶窒化硼素の含有率、珪素含有率、炭素含有率、アルミニウム含有率、熱伝導率、立方晶窒化硼素の転位密度、熱膨張係数、立方晶窒化硼素からなる結晶粒の円相当径のd50及びd90及び抗折力を測定した。
【0113】
<立方晶窒化硼素の含有率>
各試料の立方晶窒化硼素焼結体の立方晶窒化硼素の含有率(質量%)を測定した。具体的な測定方法は実施形態1に記載されている通りである。結果を表2の「立方晶窒化硼素焼結体」の「cBN含有率」欄に示す。
【0114】
<珪素含有率、炭素含有率、アルミニウム含有率>
各試料の立方晶窒化硼素焼結体の珪素含有率、炭素含有率、アルミニウム含有率を測定した。具体的な測定方法は実施形態1に記載されている通りである。結果を表2の「立方晶窒化硼素焼結体」の「Si含有率」、「C含有率」、「Al含有率」欄に示す。
【0115】
<熱伝導率>
各試料の立方晶窒化硼素焼結体の熱伝導率を測定した。具体的な測定方法は実施形態1に記載されている通りである。結果を表2の「立方晶窒化硼素焼結体」の「熱伝導率」欄に示す。本明細書において、立方晶窒化硼素焼結体の熱伝導率が290W/mK以上の場合、立方晶窒化硼素焼結体の熱伝導率が高いと判断される。
【0116】
<転位密度>
各試料の立方晶窒化硼素焼結体の立方晶窒化硼素の転位密度を測定した。具体的な測定方法は実施形態1に記載されている通りである。結果を表2の「立方晶窒化硼素焼結体」の「転位密度」欄に示す。
【0117】
<熱膨張係数>
各試料の立方晶窒化硼素焼結体の熱膨張係数を測定した。具体的な測定方法は実施形態1に記載されている通りである。結果を表2の「立方晶窒化硼素焼結体」の「熱膨張係数」欄に示す。本明細書において、立方晶窒化硼素焼結体の熱膨張係数がパワー半導体の熱膨張係数(4.0~6.0×10-6/K)の範囲内の場合、立方晶窒化硼素焼結体の熱膨張係数は、パワー半導体の熱膨張係数に近いと判断される。
【0118】
<結晶粒の円相当径のd50及びd90>
各試料の立方晶窒化硼素焼結体に含まれる複数の立方晶窒化硼素からなる結晶粒の円相当径のd50及びd90を測定した。具体的な測定方法は実施形態1に記載されている通りである。結果を表2の「立方晶窒化硼素焼結体」の「結晶粒(cBN粒子)」の「d50」及び「d90」欄に示す。
【0119】
【表2】
【0120】
[考察]
試料1、試料2、試料4~試料10、及び試料14~試料16の立方晶窒化硼素焼結体は、実施例に該当する。これらの立方晶窒化硼素焼結体は、いずれも熱伝導率が290W/mK以上であり、高い熱伝導率を有し、かつ、熱膨張係数が4.1~5.8×10-6/Kであり、パワー半導体の熱膨張係数に近いことが確認された。
【0121】
試料3の立方晶窒化硼素焼結体は、比較例に該当する。試料3の立方晶窒化硼素焼結体は、実施例に該当する立方晶窒化硼素焼結体よりも、熱伝導率が低い。これは、珪素含有率が11.00質量%と多いため、立方晶窒化硼素粒子間に存在する珪素や珪素化合物(SiN等)が多く、cBN粒子間の結合力が低下したためと推察される。
【0122】
試料11の立方晶窒化硼素焼結体は、比較例に該当する。試料11の立方晶窒化硼素焼結体は、熱膨張係数がパワー半導体の熱膨張係数よりも小さい。これは、珪素含有率が0.40質量%と少ないためと推察される。
【0123】
試料12及び試料13の立方晶窒化硼素焼結体は、比較例に該当する。試料12及び試料13の立方晶窒化硼素焼結体は、実施例に該当する立方晶窒化硼素焼結体よりも、熱伝導率が低い。これは、cBN含有率が90%未満と少ないためと推察される。
【0124】
以上のように本開示の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせたり、様々に変形することも当初から予定している。
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態および実施例ではなく請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【要約】
90.0質量%以上99.5質量%以下の立方晶窒化硼素と、0.5質量%以上10.0質量%以下の珪素と、を含み、前記立方晶窒化硼素及び前記珪素の合計含有率は、94.0質量%以上100質量%以下である、立方晶窒化硼素焼結体である。