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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-08
(45)【発行日】2022-07-19
(54)【発明の名称】スピーカー用振動板
(51)【国際特許分類】
   H04R 7/02 20060101AFI20220711BHJP
   H04R 7/10 20060101ALI20220711BHJP
【FI】
H04R7/02 D
H04R7/10
H04R7/02 E
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2017212964
(22)【出願日】2017-11-02
(65)【公開番号】P2019087817
(43)【公開日】2019-06-06
【審査請求日】2020-09-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000004075
【氏名又は名称】ヤマハ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100106264
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 耕治
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 弘
(72)【発明者】
【氏名】佐野 常典
【審査官】堀 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-082442(JP,A)
【文献】特開2004-015194(JP,A)
【文献】国際公開第2015/056419(WO,A1)
【文献】特開平08-276525(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 7/02
H04R 7/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂マトリックス及びこの樹脂マトリックス中に分散する繊維を有する高剛性層を備え、
第一の前記高剛性層と、第二の前記高剛性層と、前記第一の高剛性層及び前記第二の高剛性層の間に配される多孔質層とからなり、
前記高剛性層が有する繊維には木質パルプ及び高剛性繊維を含み、
前記高剛性繊維が、平均長さ0.1mm以上6mm以下かつ平均径5μm以上100μm以下のポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維であり、
前記高剛性層が、20質量%以上80質量%以下の樹脂マトリックスと、10質量%以上30質量%以下の高剛性繊維と、10質量%以上65質量%以下の木質パルプとで形成され、
前記多孔質層が、樹脂マトリックスと、15質量%以上40質量%以下の木質パルプとで形成されている スピーカー用振動板。
【請求項2】
前記多孔質層の気孔の平均径が20μm以上100μm以下であ る請求項1に記載のスピーカー用振動板。
【請求項3】
前記多孔質層の気孔率が30%以上80%以下である請求項1又は 請求項2に記載のスピーカー用振動板。
【請求項4】
前記高剛性層が、気孔率1%以上20%以下、平均厚さ10μm以上500μm以下である請求項1、 請求項2又は請求項3に記載のスピーカー用振動板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スピーカー用振動板に関する。
【背景技術】
【0002】
スピーカー用振動板は、効率よく音を発生するために軽量でありながら剛性が大きいことが望まれる。また、音の再現性を向上するために、スピーカー用振動板は振動減衰率(内部損失)が大きいことが好ましい。このような条件を満たすスピーカー用振動板として、木質パルプを抄造したもの(いわゆるコーン紙)が広く利用されている。
【0003】
木質パルプを抄造してスピーカー用振動板を作成する場合、繊維の密度を調節することが比較的容易であり、この密度調節により得られるスピーカー用振動板の剛性を管理することができる。また、木質パルプの抄造体は、内部に空隙を有し、この空隙が内部損失を大きくして振動減衰率を増大させる。
【0004】
木質パルプの抄造体からなるスピーカー用振動板は、水濡れに弱いという欠点がある。そこで、木質パルプの抄造体に樹脂を含浸させる試みもなされているが、密度の調節が難しく、樹脂が偏在することで振動特性を損ねる問題も生じる。これに対し、特開2016-82442号公報には、木質パルプ及び熱可塑性樹脂を含む中実な層と、木質パルプと熱可塑性樹脂を含む多孔質な層とを交互に積層することで、密度の調節が容易で均質に形成できるスピーカー用振動板が提案されている。
【0005】
このように、スピーカー用振動板に樹脂を使用すると、重量が大きくなりやすいため、剛性をより大きくすることが望まれる。前記公報には、剛性を向上するために、強化繊維を配合してもよいことが記載されている。しかしながら、強化繊維を配合する場合には、その配合の仕方が適切でないとかえって剛性を低下させてしまう問題が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2016-82442号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記実情に鑑みて、本発明は、剛性が大きく、且つ十分な振動減衰率を有するスピーカー用振動板を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するためになされた本発明の一態様に係るスピーカー用振動板は、樹脂マトリックス及びこの樹脂マトリックス中に分散する繊維を有する高剛性層を備え、前記高剛性層が有する繊維には木質パルプ及び高剛性繊維を含む。
【0009】
当該スピーカー用振動板は、高剛性繊維により補強されていることで剛性が比較的大きい前記高剛性層を備えることによって、振動減衰率を大きく低下させることなく比較的大きい剛性を有するものとすることができる。また、樹脂マトリックス中に木質パルプ及び高剛性繊維を分散する構成としたことによって、当該スピーカー用振動板は、物性が異なる木質パルプ及び高剛性繊維含みながら、一体性的に振動することができる。
【0010】
当該スピーカー用振動板は、前記高剛性層に積層され、樹脂マトリックス及びこの樹脂マトリックス中に分散する繊維を有する多孔質層をさらに備えることが好ましい。このように、前記高剛性層に積層され、樹脂マトリックス及びこの樹脂マトリックス中に分散する繊維を有する多孔質層をさらに備えることによって、前記多孔質層が比較的高い振動減衰率を有するので、当該スピーカー用振動板全体として、剛性が大きく且つ振動減衰率が大きいものとすることができる。
【0011】
当該スピーカー用振動板において、前記高剛性層と前記多孔質層とが交互に積層され、少なくとも一方の最外層が前記高剛性層であることが好ましい。このように、前記高剛性層と前記多孔質層とが交互に積層されることによって、当該スピーカー用振動板は、剛性と振動減衰率とを容易に最適化することができる。また、少なくとも一方の最外層が前記高剛性層であることによって、当該スピーカー用振動板は、前記高剛性層による剛性増大効果を大きくすることができる。
【0012】
当該スピーカー用振動板は、前記多孔質層と積層され、前記高剛性層の繊維よりも前記高剛性繊維の含有量が少ない準剛性層をさらに備えることが好ましい。このように、前記多孔質層と積層され、前記高剛性層の繊維よりも前記高剛性繊維の含有量が少ない準剛性層をさらに備えることによって、当該スピーカー用振動板は、剛性と振動減衰率とをさらに容易に最適化することができる。
【0013】
当該スピーカー用振動板において、前記樹脂マトリックスが熱可塑性樹脂であることが好ましい、このように、前記樹脂マトリックスが熱可塑性樹脂であることによって、当該スピーカー用振動板は、比較的容易に形成することができる。
【0014】
当該スピーカー用振動板において、前記高剛性層における前記樹脂マトリックスの含有率としては、20重量%以上80重量%以下が好ましい。このように、前記高剛性層における前記樹脂マトリックスの含有率が前記範囲内であることによって、木質パルプ及び高剛性繊維を一体化して前記高剛性層の剛性及び振動減衰率が大きくすることができる。
【0015】
当該スピーカー用振動板において、前記高剛性繊維がポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維であることが好ましい。このように、前記高剛性繊維がポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維であることによって、当該スピーカー用振動板の剛性をより大きくすることができる。
【0016】
当該スピーカー用振動板において前記高剛性層の高剛性繊維の含有量が5質量%以上40質量%以下であることが好ましい。このように、前記高剛性繊維を含む最外層の高剛性繊維の含有量が前記範囲内であることによって、振動減衰率の低下をより確実に抑制しつつ、より効果的に剛性を向上することができる。
【0017】
前記高剛性繊維の平均長さが6mm以下であることが好ましい。このように、前記高剛性繊維の平均長さが前記上限以下であることによって、パルプとの混合及び均一な高剛性層の形成が比較的容易となる。
【発明の効果】
【0018】
上述のように、本発明の一態様に係るスピーカー用振動板は、剛性が大きく、且つ振動減衰率が大きい。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態のスピーカー用振動板の構成を示す模式的部分断面図である。
図2】本発明の図1とは異なる実施形態のスピーカー用振動板の構成を示す模式的部分断面図である。
図3】本発明の図1及び図2とは異なる実施形態のスピーカー用振動板の構成を示す模式的部分断面図である。
図4】繊維の種類が異なるスピーカー用振動板の試作品の見掛弾性率を示すグラフである。
図5】繊維の種類が異なるスピーカー用振動板の試作品の損失正接を示すグラフである。
図6】ポリエチレン短繊維の含有率が異なるスピーカー用振動板の試作品の見掛弾性率を示すグラフである。
図7】ポリエチレン短繊維の含有率が一定で高剛性繊維の含有率が異なるスピーカー用振動板の試作品の見掛弾性率を示すグラフである。
図8】ポリエチレン短繊維と木質パルプとの含有率の比が一定で高剛性繊維の含有率が異なるスピーカー用振動板の試作品の見掛弾性率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、適宜図面を参照しつつ、本発明の実施の形態を詳説する。
【0021】
[スピーカー用振動板]
図1に、本発明の一実施形態に係るスピーカー用振動板の層構造を示す。当該スピーカー用振動板は、例えば円錐状等、使用するスピーカーに合わせた形状とされる。なお、当該スピーカー用振動板を使用するスピーカーは、例えばヘッドホン、イヤホン、携帯電子機器等に用いられる小型のスピーカーであってもよい。このため、当該スピーカー用振動板の大きさも、使用するスピーカーに合わせて適宜選択される。
【0022】
当該スピーカー用振動板は、一対の高剛性層1と2層の準剛性層2と、高剛性層1又は準剛性層2と交互に積層される3層の多孔質層3とを備えた7層構造である。つまり、当該スピーカー用振動板において、隣接する多孔質層3の間には高剛性層1又は準剛性層2のいずれかの一層が存在する。また、当該スピーカー用振動板は、両側の最外層に前記高剛性層1が配置されている。
【0023】
〔高剛性層〕
一対の高剛性層1は、樹脂マトリックス及びこの樹脂マトリックス中に分散する繊維を有する。
【0024】
この高剛性層1は、当該スピーカー用振動板の剛性を向上すると共に、耐水性を付与する。
【0025】
当該スピーカー用振動板のサイズにもよるが、高剛性層1の平均厚さの下限としては、10μmが好ましく、20μmがより好ましい。一方、高剛性層1の平均厚さの上限としては、500μmが好ましく、200μmがより好ましい。高剛性層1の平均厚さが前記下限に満たない場合、当該スピーカー用振動板の耐水性及び剛性を十分に向上できないおそれがある。逆に、高剛性層1の平均厚さが前記上限を超える場合、当該スピーカー用振動板が重くなることで、性能が低下するおそれがある。
【0026】
高剛性層1の気孔率の下限としては、1%が好ましく、2%がより好ましい。一方、高剛性層1の気孔率の上限としては、20%であり、15%が好ましく、10%がより好ましい。高剛性層1の気孔率が前記下限に満たない場合、高剛性層1の形成が容易でなくなるおそれがある。逆に、高剛性層1の気孔率が前記上限を超える場合、当該スピーカー用振動板の耐水性及び剛性を十分に向上できないおそれがある。なお、「気孔率」は、断面における気孔の面積率として算出される値である。
【0027】
<樹脂マトリックス>
高剛性層1の樹脂マトリックスとしては、繊維を分散して所望の形状に成形できるものであればよいが、熱プレスによって成形することができる熱可塑性樹脂が好適に用いられる。この熱可塑性樹脂としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンを用いることができる。また、熱可塑性樹脂としては、熱プレスによる成形性を考慮して、融点が100℃以上180℃以下であるものを使用することが好ましい。
【0028】
樹脂マトリックスは、複数の熱可塑性樹脂製繊維を互いに融着させて形成されることが好ましい。このような熱可塑性樹脂製繊維としては、化学パルプ(SWP)として市販されているものが好適に使用できる。なお、熱可塑性樹脂製繊維は、後述の加熱及び加圧によって溶けてマトリックス樹脂となるため、当該スピーカー用振動板においては繊維として存在しない。
【0029】
高剛性層1における樹脂マトリックスの含有量の下限としては、20質量%が好ましく、40質量%がより好ましく、50質量%がさらに好ましい。一方、高剛性層1における樹脂マトリックスの含有量の上限としては、80質量%が好ましく、70質量%がより好ましく、60質量%がさらに好ましい。高剛性層1における樹脂マトリックスの含有量が前記下限に満たない場合、繊維間を十分に接続することができず、当該スピーカー用振動板の強度が不十分となったり、一体的に振動させられないおそれがある。逆に、前記樹脂マトリックスの含有量が前記上限を超える場合、高剛性層1ひいては当該スピーカー用振動板の剛性が不十分となるおそれがある。
【0030】
<繊維>
高剛性層1中の繊維は、木質パルプと高剛性繊維を含む。
【0031】
(高剛性繊維)
高剛性繊維は、高剛性層1ひいては当該スピーカー用振動板の剛性を大きくするが、その剛性増大効果に比して、振動減衰率の低下が小さい。
【0032】
この高剛性繊維としては、例えばポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維、カーボンセインに等を挙げることができるが、中でも剛性が大きいポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維が特に好適に用いられる。
【0033】
高剛性繊維の平均長さの下限としては、0.1mmが好ましく、0.5mmがより好ましい。一方、高剛性繊維の平均長さの上限としては、6mmが好ましく、4mmがより好ましい。高剛性繊維の平均長さが前記下限に満たない場合、高剛性層1を抄造により形成することが困難となるおそれがある。逆に、高剛性繊維の平均長さが前記上限を超える場合、高剛性繊維が絡まり合ってダマになって木質パルプと共に一様に分散することができないそれがある。
【0034】
高剛性繊維の平均径の下限としては、5μmが好ましく、10μmがより好ましい。一方、高剛性繊維の平均径の上限としては、100μmが好ましく、50μmがより好ましい。高剛性繊維の平均径が前記下限に満たない場合や前記上限を超える場合、高剛性繊維を木質パルプと共に一様に分散することが容易でなくなるおそれがある。
【0035】
高剛性層1における高剛性繊維の含有率の下限としては、5質量%が好ましく、10質量%がより好ましい。一方、高剛性層1における高剛性繊維の含有率の上限としては、40質量%が好ましく、30質量%がより好ましい。高剛性層1における高剛性繊維の含有率が前記下限に満たない場合、高剛性層1ひいては当該スピーカー用振動板の剛性を十分に向上できないおそれがある。逆に、高剛性層1における高剛性繊維の含有率が前記上限を超える場合、高剛性層1ひいては当該スピーカー用振動板の振動減衰率が不十分となるおそれがある。さらに、高剛性層1における高剛性繊維の含有率を18質量%以下、好ましくは15質量%以下とすることによって、高剛性層1の剛性及び振動減衰率のばらつきを小さくすることができ、当該スピーカー用振動板の品質を一定にすることができる。
【0036】
(木質パルプ)
木質パルプは、高剛性層1の質量を小さくしながら、剛性を大きくする。木質パルプの剛性増大効果は、高剛性繊維の剛性増大効果よりも小さいが、振動減衰率を向上することができる。このため、木質パルプを高剛性繊維と併用することによって、高剛性層1ひいては当該スピーカー用振動板の性能を向上することができる。
【0037】
高剛性層1に含まれる木質パルプとしては、例えば広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹未晒クラフトパルプ(LUKP)、広葉樹半晒クラフトパルプ(LSBKP)、広葉樹亜硫酸パルプ、針葉樹亜硫酸パルプ等の化学パルプ、ストーングランドパルプ(SGP)、加圧ストーングランドパルプ(PGW)、リファイナーグランドパルプ(RGP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミグランドパルプ(CGP)、砕木パルプ(GP)等の機械パルプ、各種古紙等から製造される離解古紙パルプ、離解・脱墨古紙パルプ、離解・脱墨・漂白古紙パルプ等の一種又は二種以上を適宜選択して使用することができる。
【0038】
高剛性層1における木質パルプの含有率の下限としては、10質量%が好ましく、15質量%がより好ましい。一方、高剛性層1における木質パルプの含有率の上限としては、65質量%が好ましく、45質量%がより好ましい。高剛性層1における木質パルプの含有率が前記下限に満たない場合、高剛性層1ひいては当該スピーカー用振動板の振動減衰率が不十分となるおそれがある。逆に、高剛性層1における木質パルプの含有率が前記上限を超える場合、相対的に高剛性繊維の量が少なくなることで高剛性層1ひいては当該スピーカー用振動板の剛性が不十分となるおそれがある。
【0039】
〔準剛性層〕
複数の準剛性層2は、樹脂マトリックス及びこの樹脂マトリックス中に分散する繊維を有する。
【0040】
この準剛性層2は、当該スピーカー用振動板の剛性を向上する。
【0041】
当該スピーカー用振動板のサイズにもよるが、準剛性層2の平均厚さの下限としては、5μmが好ましく、3μmがより好ましい。一方、準剛性層2の平均厚さの上限としては、200μmが好ましく、100μmがより好ましい。準剛性層2の平均厚さが前記下限に満たない場合、準剛性層2ひいては当該スピーカー用振動板の剛性が不十分となるおそれがある。逆に、準剛性層2の平均厚さが前記上限を超える場合、当該スピーカー用振動板が重くなることで、性能が低下するおそれがある。
【0042】
準剛性層2の気孔率の下限としては、1%が好ましく、2%がより好ましい。一方、準剛性層2の気孔率の上限としては、20%であり、15%が好ましく、10%がより好ましい。準剛性層2の気孔率が前記下限に満たない場合、準剛性層2の形成が容易でなくなるおそれがある。逆に、準剛性層2の気孔率が前記上限を超える場合、当該スピーカー用振動板の剛性を十分に向上できないおそれがある。
【0043】
<樹脂マトリックス>
準剛性層2の樹脂マトリックスとしては、高剛性層1の樹脂マトリックスと同様のものを使用することができる。
【0044】
<繊維>
準剛性層2中の繊維は、高剛性層1よりも高剛性繊維の含有量が少なく、高剛性繊維を全く含まないものであってもよい。また、準剛性層2中の繊維は、木質パルプを主体とすることが好ましい。つまり、準剛性層2の全繊維中の木質パルプの比率が50質量%以上であることが好ましい。
【0045】
準剛性層2における全繊維の含有量の下限としては、20質量%が好ましく、25質量%がより好ましい。一方、準剛性層2における全繊維の含有量の上限としては、50質量%が好ましく、45質量%がより好ましい。準剛性層2における全繊維の含有量が前記下限に満たない場合、準剛性層2ひいては当該スピーカー用振動板の剛性が不十分となるおそれがある。逆に、準剛性層2における全繊維の含有量が前記上限を超える場合、繊維間を樹脂で埋めて気孔率を十分に小さくすることが容易でなくなるおそれがある。
【0046】
(高剛性繊維)
準剛性層2に含まれる高剛性繊維としては、高剛性層1の高剛性繊維と同様とすることができる。
【0047】
(木質パルプ)
準剛性層2に含まれる木質パルプとしては、高剛性層1の木質パルプと同様とすることができる。
【0048】
〔多孔質層〕
多孔質層3は、多数の気孔を有し、樹脂マトリックス及びこの樹脂マトリックス中に分散する繊維を有する。
【0049】
この多孔質層3は、気孔の存在によって振動時に応力が集中することで、振動エネルギーを熱に変換して振動を減衰させる。
【0050】
当該スピーカー用振動板のサイズにもよるが、多孔質層3の平均厚さの下限としては、50μmが好ましく、100μmがより好ましい。一方、多孔質層3の平均厚さの上限としては、500μmが好ましく、400μmがより好ましい。多孔質層3の平均厚さが前記下限に満たない場合、多孔質層3ひいては当該スピーカー用振動板の振動減衰率が不十分となるおそれがある。逆に、多孔質層3の平均厚さが前記上限を超える場合、高剛性層1及び準剛性層2との一体性が損なわれることで音を歪ませるおそれがある。
【0051】
<樹脂マトリックス>
多孔質層3の樹脂マトリックスとしては、高剛性層1の樹脂マトリックスと同様のものを使用することができる。
【0052】
<繊維>
多孔質層3中の繊維は、高剛性繊維又は木質パルプを主体とすることが好ましい。
【0053】
多孔質層3における全繊維の含有量の下限としては、15質量%が好ましく、20質量%がより好ましい。一方、多孔質層3における全繊維の含有量の上限としては、40質量%が好ましく、35質量%がより好ましい。多孔質層3における全繊維の含有量が前記下限に満たない場合、多孔質層3ひいては当該スピーカー用振動板の剛性が不十分となるおそれがある。逆に、多孔質層3における全繊維の含有量が前記上限を超える場合、多孔質層3が断裂しやすくなるおそれがある。
【0054】
多孔質層3の気孔は、多孔質層3の剛性の低下を抑制できるよう、独立気孔とすることが好ましい。このような気孔は、例えば中空マイクロビーズ、熱膨張マイクロカプセル等によって形成することができる。
【0055】
多孔質層3の気孔の平均径の下限としては、20μmが好ましく、30μmがより好ましい。一方、多孔質層3の気孔の平均径の上限としては、100μmが好ましく、80μmがより好ましい。多孔質層3の気孔の平均径が前記下限に満たない場合、均一な気孔の形成が容易ではなくなるおそれがある。逆に、多孔質層3の気孔の平均径が前記上限を超える場合、多孔質層3の剛性の低下が過度に大きくなるおそれがある。
【0056】
多孔質層3の気孔率の下限としては、30%が好ましく、40%がより好ましい。一方、多孔質層3の気孔率の上限としては、80%が好ましく、70%がより好ましい。多孔質層3の気孔率が前記下限に満たない場合、多孔質層3ひいては当該スピーカー用振動板の振動減衰率を十分に向上できないおそれがある。逆に、多孔質層3の気孔率が前記上限を超える場合、多孔質層3ひいては当該スピーカー用振動板の剛性が不十分となるおそれがある。
【0057】
(高剛性繊維)
多孔質層3に含まれる高剛性繊維としては、高剛性層1の高剛性繊維と同様とすることができる。
【0058】
(木質パルプ)
多孔質層3に含まれる木質パルプとしては、高剛性層1の木質パルプと同様とすることができる。
【0059】
〔利点〕
当該スピーカー用振動板は、繊維により補強されて剛性が比較的大きい高剛性層1及び準剛性層2と、気孔を有することにより振動減衰率が比較的大きい多孔質層3とが交互に積層されていることによって、弾性率の異なる層が交互に積層された状態になり、これにより、多孔質層にせん断歪みが集中することで内部損失を高めることができる。また、当該スピーカー用振動板は、高剛性層1及び準剛性層2による剛性の向上と多孔質層3による振動減衰率の向上とをそれぞれ最適化することが容易である。さらに、当該スピーカー用振動板は、厚さ方向両側の最外層が高剛性層1とされていることによって、水濡れに対する耐性が大きい。
【0060】
さらに、当該スピーカー用振動板は、高剛性層1の繊維が高剛性繊維を含むことによって、振動減衰率の低下を抑制しつつ剛性を大きくすることができる。従って、当該スピーカー用振動板は、剛性が大きく且つ振動減衰率が大きい。
【0061】
〔製造方法〕
当該スピーカー用振動板は、高剛性層1、準剛性層2及び多孔質層3を形成する材料を層状に湿式抄造する工程<抄造工程>と、これらの材料層を積層する工程<積層工程>と、この材料層積層体を乾燥する工程<乾燥工程>と、乾燥した材料層の積層体を熱プレスする工程<熱プレス工程>とを備える方法によって製造することができる。
【0062】
<抄造工程>
抄造工程では、高剛性層1、準剛性層2及び多孔質層3の形成材料を分散媒に分散したスラリー、当該スピーカー用振動板に対応する形状を有する抄き型を用いて抄造することで、各層の形成材料の層をそれぞれ形成する。
【0063】
このような抄造を可能とするために、各層の樹脂マトリックスを構成する材料は、例えば合成パルプ等、繊維状又は微粒子状に成形されたものを用いることが好ましい。
【0064】
前記スラリーの分散媒としては、例えば水、メタノール水溶液、エタノール水溶液等の水系分散媒を用いることができる。また、スラリーにおける固形分含有率としては、例えば0.1質量%以上10質量%以下とすることができる。
【0065】
また、多孔質層3の形成材料は、気孔を形成するために、例えば化学発泡剤、熱膨張マイクロカプセル、中空ビーズ等を含むとよい。中でも、多孔質層3の形成材料は、確実な気泡の形成が可能である点で、膨張可能な外殻内に低融点溶剤を封入した熱膨張マイクロカプセルを含むことが好ましい。
【0066】
前記熱膨張マイクロカプセルの外殻の材質としては、例えば塩化ビニリデン、アクリロニトリル、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル等の共重合体からなる熱可塑性樹脂を用いることができる。また、前記熱膨張マイクロカプセルの外殻内に封入される低沸点溶剤としては、例えばペンタン、石油エーテル、ヘキサン、低沸点ハロゲン化炭化水素、テトラメチルシランなどの揮発性有機溶剤を用いることができる。
【0067】
前記熱膨張マイクロカプセルの膨張前の平均径としては、例えば5μm以上20μm以下とすることができる。また、熱膨張マイクロカプセルの膨張温度としては、例えば80℃以上220℃以下とすることができる。
【0068】
また、この抄造工程における各層の形成材料の抄造に用いる抄き型としては、所望のスピーカー用振動板に対応する形状を有し、各層の形成材料を捕捉して分散媒を透過させるものであればよい。このような抄き型の具体例としては、金属メッシュ又はパンチングメタルを用いることができる。
【0069】
高剛性層1、準剛性層2及び多孔質層3の形成材料の抄造は、同じ抄き型を用いて順次行ってもよい。
【0070】
<積層工程>
積層工程では、高剛性層1、準剛性層2及び多孔質層3の形成材料の抄造体を順番に積層する。
【0071】
この積層は、前記抄造工程で用いた抄き型から抄造体を順番に重ねて排出してゆくことで行うとよい。前記抄造工程を1つの抄き型を用いて行う場合、抄造工程と積層工程とを層ごとに繰り返して行うとよい。
【0072】
<乾燥工程>
乾燥工程では、積層された抄造体中に残存する溶媒を揮発させる。積層された抄造体を乾燥する方法としては、特に限定されないが、オーブンを用いる方法とすることができる。オーブンの温度としては、例えば60℃以上90℃以下とすることができる。乾燥時間としては、例えば5分以上3時間以下とすることができる。なお、この乾燥工程は、前記積層工程の前に行ってもよい。つまり、各層の形成材量の抄造体を別々に乾燥してから積層して次の熱プレス工程に供してもよい。
【0073】
<熱プレス工程>
熱プレス工程では、所望のスピーカー用振動板の倣い型を有する一対のプレス金型内に乾燥された積層体を配置して加熱及び加圧することで、各層の樹脂マトリックスを形成する材料を溶融することで連続する樹脂マトリックスを形成すると共に、この樹脂マトリックスによって高剛性層1、準剛性層2及び多孔質層3を互いに接合する。
【0074】
また、多孔質層3の形成材料が例えば発泡剤、熱膨張マイクロカプセル等を含む場合、この熱プレスによって発泡又は膨張させて多孔質層3中に気孔を形成する。
【0075】
多孔質層3ひいては当該スピーカー用振動板の厚さを所望の厚さとするために、例えば一対のプレス金型の間にスペーサーを配置する等して、熱プレス時の一対のプレス金型間の間隔を定めることが好ましい。
【0076】
熱プレス工程における加熱温度としては、樹脂マトリックスの融点以上とされ、例えば樹脂マトリックスの融点よりも5℃以上20℃以下高い温度とすることができる。
【0077】
熱プレス工程における加熱時間としては、例えば10秒以上60秒以下とすることができる。
【0078】
また、加熱後、プレス金型を加圧状態で冷却して、樹脂マトリックスを硬化させてから、当該スピーカー用振動板をプレス金型から取り出すとよい。
【0079】
[その他の実施形態]
前記実施形態は、本発明の構成を限定するものではない。従って、前記実施形態は、本明細書の記載及び技術常識に基づいて前記実施形態各部の構成要素の省略、置換又は追加が可能であり、それらは全て本発明の範囲に属するものと解釈されるべきである。
【0080】
当該スピーカー用振動板において、最外層の一方のみが高剛性繊維を含む高剛性層であってもよい。また、当該スピーカー用振動板において、最外層以外の層(内側の層)が高剛性繊維を含む高剛性層であってもよい。その場合、内側の高剛性層の厚さは最外層の高剛性層よりも薄いことが好ましい。内側の高剛性層を最外層の高剛性層よりも薄くすることで、剛性が小さくなり内部での損失を高めることができる。すなわち、準剛性層の代わりに最外層の高剛性層よりも薄い高剛性層を配置してもよい。内側の高剛性層は、当該スピーカーの断面構造において高剛性層は波を打つように薄く形成してもよい。波打った高剛性層にすることで平坦な層に比べ剛性を低下させることができ、内部での損失を高めることができる。
【0081】
当該スピーカー用振動板において、準剛性層及び多孔質層の数は任意である。従って、当該スピーカー用振動板は、高剛性層のみからなるものであってもよく、1層又は2層の高剛性層と1層の多孔質層とからなるものであってもよい。一対の最表面が高剛性層であるものの例として、上述の7層構造に加え、5層構造、3層構造がある。5層構造のスピーカー振動板は、図2に示すように、一対の高剛性層と1層の準剛性層と2層の多孔質層を備え、多孔質層は高剛性層又は準剛性層と交互に積層される。5層構造における準剛性層は最表面の高剛性層よりも薄い高剛性層に置き換えてもよい。5層構造においても7層構造のスピーカー振動板と同様の効果を得ることができる。3層構造のスピーカー振動板は、図3に示すように、一対の高剛性層とそれらに挟まれた1層の多孔質層を備える。3層構造の場合は7層構造、5層構造に比べて層数が少なく全体の剛性が低下するため、一対の高剛性層によって多孔質層を挟み込むことで剛性を高めることができる。また、強固な高剛性層と多孔質層とが接合されていることで多孔質層にストレスが集中してせん段歪みを発生させやすくなる。すなわち高い内部損失を得ることができる軽くて硬いスピーカー振動板、特に高音用のツィーターに適したスピーカー振動板に仕上げることが可能になる。
【実施例
【0082】
以下、実施例に基づき本発明を詳述するが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるものではない。
【0083】
[繊維の種類]
先ず、繊維の種類の違いによる特性を確認するため、試作品1~4を作成して、剛性の指標である見掛弾性率及び振動減衰率の指標である損失正接を測定した。
【0084】
<試作品1>
本発明の実施例として、一対の高剛性層、2層の準剛性層及び3層の多孔質層を有するスピーカー用振動板の試作品1を試作した。一対の高剛性層はそれぞれスピーカー振動板の最表面の層を構成する。一対の高剛性層に挟まれて3層の多孔質層が配置され、3層の多孔質層の間にそれぞれ準剛性層が配置される。すなわち、高剛性層又は準剛性層と多孔質層とが交互に積層され(高剛性層と準剛性層が直接積層されることはない)、一対の最表面が高剛性層となり、多孔質層に挟まれる内部に準剛性層が2層形成された7層構造になっている。この試作品1は、各層を形成する材料を固形分含有率0.3%となるよう、水に分散したスラリーの抄造により形成した層の積層体を熱プレスすることによって形成した。
【0085】
(高剛性層)
高剛性層の形成材料(スラリー中の固形分)としては、樹脂マトリックスとなるポリエチレン短繊維と、木質パルプと、高剛性繊維としてのポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維とを質量比が60:25:15となるよう配合した(全繊維〔溶解した化学パルプ以外〕中のPBO繊維含有率37.5質量%)。高剛性層は、坪量が68g/mとなるよう抄造した。
【0086】
(準剛性層)
準剛性層の形成材料としては、樹脂マトリックスとなるポリエチレン短繊維と、木質パルプとを質量比が70:30となるよう配合した。準剛性層は、坪量が14g/mとなるよう抄造した。
【0087】
(多孔質層)
多孔質層の形成材料としては、樹脂マトリックスとなるポリエチレン短繊維と、木質パルプと、気孔を形成するための熱膨張マイクロカプセルとを質量比が60:40:50となるよう配合した。多孔質層は、坪量が76g/mとなるよう抄造した。
【0088】
各層の形成材料において、ポリエチレン短繊維としては、三井化学社の合成パルプ「E400」を使用し、木質パルプとしては、針葉樹晒クラフトパルプを使用した。また、高剛性層の前記高剛性繊維としては東洋紡社の「ザイロン」チョップドファイバー(カット長3mm)を使用した。また、多孔質層の熱膨張マイクロカプセルとしては、日本フィライト社の「エクスパンセルDU」を使用した。
【0089】
各層の積層体は、抄造用の抄き型を用いて各層を個別に抄造し、乾燥のための乾燥型の上に順番に抄き型から転写し、乾燥型の上で減圧脱水することにより形成した。なお、抄き型としては、コーン型に成形した金属メッシュを使用した。また、乾燥型としては、減圧脱水用の穴が形成されたコーン状のベース型の上にフェルトを敷いたものを使用した。
【0090】
各層の形成材料を抄造した層の積層体を、80℃のオーブンで1時間乾燥した後、プレス金型で熱プレスした。プレス金型は、1.0mmのスペーサーを配設し、加熱温度140℃、加熱時間15秒とし、加熱後45℃まで冷却してから形成されたスピーカー用振動板を取り出した。
【0091】
<試作品2>
試作品1と対比するために、一対の高剛性層、2層の準剛性層及び3層の多孔質層を有するスピーカー用振動板の試作品2を試作した。この試作品2は、高剛性層の形成材料として、樹脂マトリックスとなるポリエチレン短繊維と、木質パルプとを質量比が60:40となるよう配合した以外は、上述の試作品1と同様に作成した。
【0092】
<試作品3>
さらに、一対の高剛性層、2層の準剛性層及び3層の多孔質層を有するスピーカー用振動板の試作品3を試作した。この試作品3は、高剛性繊維としてポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維に替えてポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維を用いた以外は、上述の試作品1と同様に作成した。なお、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維としては、東レ・デュポン社の「ケブラー」パルプを使用した。
【0093】
<試作品4>
さらに、一対の高剛性層、2層の準剛性層及び3層の多孔質層を有するスピーカー用振動板の試作品4を試作した。この試作品4は、高剛性繊維としてポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維に替えてカーボン繊維を用いた以外は、上述の試作品1と同様に作成した。
【0094】
<見掛弾性率>
試作品1~4について、見掛弾性率をそれぞれ測定した。なお、見掛弾性率は、スピーカー用振動板のサンプルを幅15mm、長さ60mmに切断したサンプルを用い、JIS-K7017(1999)に準拠した3点曲げ試験(支持点間隔40mm)により測定した。なお、測定装置としては、TAインスツルメント社の「ARES-G2」を使用した
【0095】
<損失正接>
また、試作品1~4について、振動減衰率の指標として損失正接(tanδ)をそれぞれ測定した。なお、損失正接は、スピーカー用振動板のサンプルを幅15mm、長さ60mmに切断したサンプルを用い、JIS-K7244(1998)に準拠して測定した。なお、測定装置としては、TAインスツルメント社の「ARES-G2」を使用した。
【0096】
試作品1~4の見掛弾性率の測定結果を図4にまとめて示し、試作品1~4の損失正接の測定結果を図5にまとめて示す。
【0097】
図示するように、高剛性繊維を含む試作品1は、見掛弾性率及び損失正接が共に大きい値を示している。これに対し、木質パルプのみを使用した試作品2は、見掛弾性率及び損失正接が共に小さい。ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維を含む試作品3は、見掛弾性率及び損失正接が試作品2よりは向上しているが、試作品1と比して見掛弾性率及び損失正接がいずれも小さい。また、カーボン繊維を含む試作品4は、見掛弾性率については試作品1に比肩するが、損失正接が試作品2よりも小さくなっている。
【0098】
以上のように、最外層となる高剛性層に高剛性繊維を含むスピーカー用振動板は、剛性が大きく且つ振動減衰率が大きい好ましい物性を有していることが確認された。
【0099】
[樹脂マトリックス/木質パルプの含有率]
次に、樹脂マトリックスの含有率の違いによる剛性の差異を確認するため、試作品5~15を作成して、見掛弾性率を測定した。
【0100】
試作品5~15は、高剛性繊維の含有率を15質量%で一定とし、ポリエチレン短繊維の含有率を順に0質量%、5質量%、20質量%、30質量%、40質量%、50質量%、60質量%、65質量%、75質量%、80質量%、85質量%として、残部を木質パルプとした以外は、上述の試作品1と同様に作成した。
【0101】
試作品5~15の見掛弾性率の測定結果を図6にまとめて示す。図示するように、樹脂マトリックスの含有率を、好ましくは20質量%以上80質量%以下、より好ましくは40質量%以上70質量%以下、さらに好ましくは50質量%以上60質量%以下(全繊維の含有率が40%以上50%以下)とすることによって、スピーカー用振動板の弾性率を大きくすることができることが確認された。
【0102】
[高剛性繊維/木質パルプの含有率]
次に、高剛性繊維の含有率の違いによる剛性の差異を確認するため、試作品16~22を作成して、見掛弾性率を測定した。
【0103】
試作品16~22は、ポリエチレン短繊維の含有率を前記最適範囲内の60質量%で一定とし、高剛性繊維の含有率を順に0質量%、5質量%、10質量%、20質量%、25質量%、35質量%、40質量%とし、残部を木質パルプとした以外は、上述の試作品1と同様に作成した。
【0104】
試作品16~22の見掛弾性率の測定結果を図7にまとめて示す。図示するように、高剛性繊維の含有率を10%以上30%以下とすることによって、スピーカー用振動板の弾性率を大きくすることができることが確認された。すなわち、樹脂マトリックス以外が木質パルプだけである場合、又は、高剛性繊維だけである場合には見掛弾性率が低くなる。つまり、木質パルプ及び高剛性繊維とが樹脂マトリクスによって接合されることによって高い剛性を得ることが可能になる。
【0105】
[高剛性繊維/(樹脂マトリックス+木質パルプ)の含有率]
さらに、高剛性繊維の含有率の違いによる剛性の差異に対する木質パルプの含有率の影響を検証するため、試作品23~27を作成して、見掛弾性率を測定した。
【0106】
試作品23~27は、高剛性繊維の含有率を順に0質量%、10質量%、15質量%、25質量%、40質量%とし、残部をポリエチレン短繊維及び木質パルプが25:60の比率となるようにした以外は、上述の試作品1と同様に作成した。
【0107】
試作品23~27の見掛弾性率の測定結果を図8にまとめて示す。図8では、図7と比較して高剛性繊維の含有率を大きくした場合の弾性率の低下が抑制されており、高剛性繊維の含有率を40%とした場合にも0%とした場合に対する弾性率向上が見られる。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明に係るスピーカー用振動板は、水濡れの可能性があるスピーカーに用いられる振動板として特に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0109】
1 高剛性層
2 準剛性層
3 多孔質層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8