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  • 特許-改質木材の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-08
(45)【発行日】2022-07-19
(54)【発明の名称】改質木材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B27K 3/02 20060101AFI20220711BHJP
【FI】
B27K3/02 A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018034789
(22)【出願日】2018-02-28
(65)【公開番号】P2018144485
(43)【公開日】2018-09-20
【審査請求日】2021-02-22
(31)【優先権主張番号】P 2017040272
(32)【優先日】2017-03-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】596106733
【氏名又は名称】株式会社ビシュウ
(74)【代理人】
【識別番号】100136113
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寿浩
(72)【発明者】
【氏名】保坂 光男
【審査官】大澤 元成
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-172704(JP,A)
【文献】特開2018-089967(JP,A)
【文献】特開平02-235702(JP,A)
【文献】特開2002-120204(JP,A)
【文献】特開昭59-049907(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0109434(US,A1)
【文献】特開昭61-066603(JP,A)
【文献】特開平08-025311(JP,A)
【文献】特開平10-071608(JP,A)
【文献】特許第3766679(JP,B1)
【文献】特公平7-115326(JP,B2)
【文献】FUKUTA,Satoshi et al.,UV laser machining of wood,Eur.J.Wood Prod.,74,ドイツ,2016年,p.261-p.267
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B27K 3/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
木材表面に浸透孔を穿設したうえで、改質剤を木材に含浸させる、改質木材の製造方法であって、
前記木材表面に穿設する浸透孔の直径が0.1mm以下であり、
赤身割合が50%以下の木材に対しては、前記浸透孔の深さを2mm以上とし、
赤身割合が50%を超え75%以下の木材に対しては、前記浸透孔の深さを2~5mmとし、
赤身割合が75%を超える木材に対しては、前記浸透孔の深さを5~10mmとする、 改質木材の製造方法。
【請求項2】
前記浸透孔をレーザー加工によって穿設する、請求項1に記載の改質木材の製造方法。
【請求項3】
前記木材が、複数のラミナを接合して成る集成材であり、
前記ラミナを接合した後に前記浸透孔を穿設する、請求項1または請求項2に記載の改質木材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浸透孔の塞がり効果を利用して改質後の木材表面の外観を改善できる、改質木材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、木材に対し防虫、防腐、強度、耐候性等の種々の機能を付与ないし向上させるために、所定の改質剤を木材に含浸させて改質することが多い。しかし、改質剤をそのまま木材へ含浸させても、改質剤が木材内部まで十分に浸透しないという問題がある。
【0003】
そこで、木材表面に予め浸透孔を穿設してから木材に改質剤を含浸させることで、改質剤の浸透性を向上し、木材全体を改質することが図られている。このような技術としては、例えば特許文献1、2がある。特許文献1、2においては、いずれも直径が0.5~1mmの浸透孔をレーザー加工で設けることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-346902号公報
【文献】特開2002-120204号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1、2では、いずれも最低でも直径0.5mmの浸透孔を設けているため、改質剤含浸後も浸透孔の存在がはっきりと視認できる。そのため、改質木材の外観が悪化してしまうという問題がある。なお、改質剤は溶媒に溶解させた含浸溶液の状態で含浸され、この含浸溶液の吸収による木材の膨張の影響で、多少は浸透孔が小さくなる傾向がある。その際、直径が0.5mm以上もあると、浸透孔が塞がることはない。かかる場合、実際の建造物等の外観に影響のない、木材の裏面等の目立たない場所に浸透孔を設けることで、この問題を回避することも考えられているが、これでは木材の用途が限定されてしまう。また、浸透孔を目立たなくするために、塗装等の追加的な加工を施すのも、製造工程が煩雑となり好ましくない。
【0006】
そこで、本発明は上記課題を解決するものであって、浸透孔の塞がり効果を利用して木材表面に設けた浸透孔の存在を外観上視認できなくする、改質木材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そのための手段として、本発明は、木材表面に浸透孔を穿設したうえで、改質剤を木材に含浸させる改質木材の製造方法であって、木材表面に穿設する浸透孔の直径が0.1mm以下であることを特徴とする。改質剤を木材に含浸させる際、改質剤を含む含浸溶液の吸収によって木材は膨張する。このため、木材表面に設けられた浸透孔は木材の膨張分によって埋められ、浸透孔の径は小さくなる。したがって、木材表面に予め穿設される浸透孔の直径が0.1mm以下であれば、浸透孔はほぼ塞がった状態となる。さらに、その後の乾燥により若干木材が収縮したとしても、含浸工程の際に、浸透孔内部の含浸溶液に対して木材成分が染み出すことで、浸透孔が外観上ほぼ木材と同化した状態となる。以上により、本発明の方法を用いた改質木材においては、木材表面に予め設けた浸透孔の存在を外観上視認できなくなる。これにより、改質後の木材の用途は浸透孔の存在によって限定されない。また、浸透孔を目立たなくするための加工も不要である。
【0008】
さらに、浸透孔はレーザー加工によって穿設することが好ましい。浸透孔はドリル等によっても穿設可能だが、0.1mm以下の浸透孔を開けようとする場合、ドリル等の器具は極端に細くなり、作業中に曲がったり、折れたりしやすいためである。
【0009】
また、木材は赤身を含んでいてもよい。木材は年輪などの木目の変質具合等によって改質剤の含浸しやすさが異なっており、樹皮に近い外周部に位置する白太(辺材)と比べて、白太よりも内側に位置する赤身(心材)は改質剤を含浸しにくい。そのため、従来の含浸処理では赤身に十分な改質剤を含浸させることは困難であった。これに対し、本発明では木材の外観を悪化させることなく、木材の赤身に改質剤を含浸させることができる。
【0010】
また、木材は複数のラミナを接合して成る集成材であってもよい。従来、改質した集成材を製造する場合、表面に浸透孔を穿設すると外観が悪化してしまうため、必要に応じて材料となるラミナの接合面に浸透孔を形成し、ラミナに改質剤を含浸させた後に成形及び接合して集成材を形成していた。かかる場合、ラミナが改質剤を含んでいるため、通常の木材と比べて成形する際の刃物の損耗が大きく、さらに、その際に生じる木材の粉末や切片も改質剤を含んでいるので焼却が困難であり、結果的に製造コストが高かった。また、改質剤の重量分だけラミナの重量が増加しており、作業性も低かった。しかし、本発明によれば、浸透孔の穿設による外観の悪化が生じないため、改質剤を含浸していないラミナを接合して集成材を形成した後に、集成材の表面に浸透孔を穿設して改質剤を含浸させることができる。そのため、改質剤を含浸しているラミナを成形及び接合する必要がなく、作業性及び製造コストを改善できる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の改質木材の製造方法によれば、改質剤含浸後に浸透孔が塞がり、その存在を外観上視認できなくなる。しかして、改質後の木材表面の外観を改善する事ができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例1の改質木材の外観写真である。
図2】比較例1の改質木材の外観写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の改質木材の製造方法は、まず木材表面に浸透孔を穿設したうえで、改質剤を木材に含浸させるものである。ここで、改質を行う木材は特に特定されず、例えば、針葉樹、広葉樹など全ての天然木材、および集成材等の加工木材が挙げられる。
【0014】
改質を行うことができる針葉樹木材としては、特に特定されないが、例えば、アカマツ、アガチス、イエローパイン、イチョウ、イチイ、イブキ、エゾマツ、カヤ、カラマツ、カリブパイン、カンボジアマツ、クロマツ、サイプレス、サワラ、シベリアカラマツ、スギ、スプルース、ツガ、トチノキ、トドマツ、ヒノキ、ヒメコマツ、ベイマツ、ベイヒバ、ベイヒ、ベイツガ、ベイスギ、ホオノキ、ボドカルブス、ボンデロッサ、ミズナラ、ヤモダチ、ラオスヒノキ等の木材が挙げられる。
【0015】
また、改質を行うことができる広葉樹木材としては、特に特定されないが、例えば、アオコクタン、アオダモ、アオハダ、アカガシ、アサダ、イスノキ、イタヤカエデ、イヌエンジュ、ウリン、エゴノキ、オニグルミ、カキ、カシ、カツラ、キハダ、キリ、クスノキ、クリ、ケヤキ、シイ類、サクラ、サワグルミ、シデ類、シナノキ、シラカシ、シラカバ、タブノキ、ツゲ、トチノキ、ドロノキ、ニセアカシア、ハリハギ、ハルニレ、ハンノキ、ブナ、ホオノキ、マカンバ、ミズキ、ミズナラ、ミズメ、ヤチダモ、ヤナギ類、ヤマグワ等の木材が挙げられる。
【0016】
なお、一般的に針葉樹の木材は、広葉樹の木材よりも空隙率が高く、柔らかく、含浸溶液を含浸させやすいため、含浸による木材の改質に適している。
【0017】
また、木材の原料となる原木(丸太)には、樹皮に近い外周部に位置する白太(辺材)と、白太よりも内側に位置し、白太と比べて濃い茶褐色を呈する赤身(心材)とを有している。白太は、空隙率が高く、含浸溶液を含浸させやすい。一方、赤身は、空隙率が低く、油分が多いため、含浸溶液が浸透しにくい。したがって、原木から切り出した木材にも、白太部分と赤身部分が混在していることが多い。そこで、浸透孔は、少なくとも赤身部分へ穿設することが好ましい。
【0018】
また、本発明は、無垢材のみではなく、複数のラミナを接合した集成材にも適用することができる。集成材の形状や材質は特に限定されず、2個以上のラミナが接合された集成材であって、浸透孔を形成した後の改質剤含浸工程や乾燥工程に耐えることができれば、いかなる集成材であっても良い。本発明の方法により改質した木材は、柱材、板材等に使用することができる。
【0019】
《浸透孔の穿設工程》
浸透孔は改質後には外観上視認できなくなるため、実際に使用するときに外部から視認される木材のおもて面に設けても構わない。浸透孔を設ける方向は特に限定されないが、木材の繊維方向に直交する方向に穿設するのが好ましい。木材や改質剤の種類にも拠るが、一般に、改質剤溶液を吸収させた木材は、繊維方向に向かって膨張しやすい。したがって、繊維方向に直交するように浸透孔を設けると、より浸透孔が塞がり易くなる。
【0020】
改質剤含浸前に予め木材表面に設ける浸透孔の直径は0.1mm以下とすべきである。0.1mmよりも浸透孔が大きい場合、改質剤含浸によって木材が膨張した後も、浸透孔は十分に塞がらない。このため、改質後の木材表面で浸透孔を外観上視認できてしまい、改質後の木材表面の外観の改善を図る事ができない。なお、浸透孔の直径の下限は特に制限されない。敢えて言えば、技術的に穿設可能な大きさ以上である。なお、本発明における「浸透孔の直径」とは、木材表面における直径を意味する。
【0021】
改質剤を含む含浸溶液の浸透性を向上させためには、浸透孔は木材全体に亘って均等に設けることが好まし。白太部分は比較的浸透性が良好なので、少なくとも赤身が存在する部分へ設ける。浸透孔を設ける間隔は、浸透孔の中心間距離を1~20mmとすることが好ましく、3~15mmとすることがより好ましい。浸透孔の数としては、例えば、単位面積(100cm)当たり25~10000個とするのが好ましい。
【0022】
含浸溶液を木材内部にまで十分浸透させるためには、浸透孔はできるだけ深く設けることが好ましく、木材のおもて面から裏面に至る貫通孔としてもよい。一方、木材を角材や集成材とする場合など、厚みが大きく(例えば50mm以上)表層部分のみに改質剤を含浸する場合は、浸透孔の深さは改質の目的を達成するのに足る深さ以上であればよい。この場合の浸透孔の上限は、木材の厚みの40%以下が好ましく、より好ましくは30%以下、さらに好ましくは20%以下である。
【0023】
例えば改質剤が防火剤や難燃剤の場合、木材の表層部が不燃性ないし難燃性になっていればよく、木材の中心部に改質剤を含浸させる必要はない。そのため、木材の表層部のみに改質剤を含浸させれば、木材全体に改質剤を含浸させた場合と比べて、少ない量の改質剤で同等の効果を得ることができる。
【0024】
浸透孔を設ける方法としては、ドリルで掘削する方法や針等で刺して形成する方法、レーザー加工で設ける方法が挙げられる。しかし、0.1mm以下の孔を設ける場合、ドリルや針等は極端に細くなってしまう。このため、木材に浸透孔を穿設する際に曲がったり、折れてしまう可能性がある。したがって、浸透孔を設ける場合には、レーザー加工によって穿設することが好ましい。
【0025】
レーザー加工を行うレーザーの種類、波長、出力等の条件については、0.1mmの浸透孔を設けられるのであれば特に限定はなく、木材の性質、設ける浸透孔の深さ等の条件により種々のものとすることができる。特に本願発明に適しているものは固体レーザーであり、中でもYVOの固体レーザーが好ましい。
【0026】
なお、木材を複数のラミナを接合して成る集成材とする場合は、接合する前の各ラミナへそれぞれ浸透孔を個別に穿設することなく、各ラミナを接合して集成材としてから、浸透孔を穿設すればよい。
【0027】
《改質剤の含浸工程》
木材に改質剤を含浸させる工程は、従来から一般的に行われていた公知の方法で行う事ができる。例えば、単純な浸漬処理、温冷浴処理、減圧注入処理、加圧注入処理等が考えられる。中でも加圧注入処理を行った場合、木材が圧力により圧縮され、引き締められることとなるため、浸透孔は塞がりやすくなる。
【0028】
減圧注入処理は、真空容器内で行う。また、加圧注入処理における圧縮は油圧プレス機
や空気圧縮で行う。木材の減圧または圧縮を行うことで、木材中の空気や水分が排出除去されるため、その後、常圧または加圧状態とすることで、含浸溶液が木材の同館や細胞壁内部にまで浸透しやすくなる。常圧又は減圧状態から加圧状態で含浸させる場合は、機体を反応容器内に注入して加圧したり、加熱により加圧したり、両者の組み合わせでもよい。加圧することで、木材の導管や細胞壁の内部にまで強制的に含浸溶液を浸透させることができる。
【0029】
なお、浸透孔を穿設したあと、改質剤を含浸させる前に、木材を養生することが好ましい。これにより、木材中の不要な水分や油脂分がある程度放散され、改質剤の浸透が促進されるからである。養生時間は、30分以上が好ましく、1時間以上がより好ましく、3時間以上がさらに好ましい。
【0030】
養生方法としては、自然乾燥でもよいが、加温環境下であれば水分や油脂分の放散が促進され養生の時間短縮ができる。加温環境下としては、例えば温風加温、ヒーター加温、湯洗い、水蒸気加温(蒸射)などが挙げられる。
【0031】
木材に含浸させる改質剤としては、特に特定されず、従来から使用されているものが使用できる。例えば、防腐剤、防蟻剤を含む防虫剤、強度や耐候性をもたらす樹脂、防火剤、難燃剤、音響性向上をもたらすアセチル化剤等が考えられる。なお、改質剤が樹脂であれば、改質剤含浸後に樹脂が固まり、木材の寸法安定性が高くなる。このため、含浸溶液の吸収による木材の膨張で塞がった孔が、再び拡がるのを防ぐ事ができる。
【0032】
含浸させる防腐剤としては、アンモニア・無機銅塩および第4級アンモニウム塩化合物系、アルキルアンモニウム化合物系、アゾール・ネオニコチノイド化合物系、有機酸化亜鉛系などを挙げることができる。
【0033】
含浸させる防虫剤としては、ヒノキチオールなどのトロポロン系化合物、ヒバ油、中性ヒバ油などの精油、デカン酸などのアルキルカルボン酸誘導体、デカン酸などを含むヤシ油誘導体、ホキシム、クロルホピリス、ピリダフェンチオン、テトラクロルビンホス、フェニトロチオン、プロペンタンホスなどの有機リン系化合物類、ペルメトリン、トラロメスリン、アレスリンなどのピレスロイド系化合物類、シラフルオフェン、エントフェンブロックスなどのピレスロイド様化合物類、プロボクサル、バッサなどのカーバメート系化合物類、トリプロピルイソシアヌレートなどのトリアジン系化合物類、モノクロルナフタリンなどのナフタリン系化合物類、オクタクロロジプロピルエーテルなどの塩素化ジアルキルエーテル添加系化合物類、イミダクロプリドなどのクロルニコチニル化合物類などが挙げられる。なお、これらの化合物はいずれも防腐剤としても使用することができる、いわゆる防虫・防腐剤でもある。
【0034】
含浸させる樹脂としては、フェノール系樹脂、エポキシ系樹脂、メラミン系樹脂、ユリア系樹脂、アミノ系樹脂、グリオキザール樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリアクリルウレタン系樹脂、及びレゾルシノール系樹脂などの熱硬化性樹脂が挙げられる、また、植物由来のリグニンも使用することができる。
【0035】
さらに、防火剤としては、例えば塩化バリウムやリン酸水素アンモニウムの他、リン酸系化合物、ホウ酸系化合物も挙げられる。また、アセチル化剤としては無水酢酸を挙げることができる。なお、以上の防腐剤、防虫剤、樹脂、防火剤、アセチル化剤は単独で用いてもよいが、互いの効果を阻害しない範囲で二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0036】
なお、木材を集成材とする場合、予め改質剤を含浸させたラミナを接合する従来の集成材では、改質剤の存在によってラミナ同士の接着性が低下するおそれがあるが、本発明では、各ラミナを接合してから改質剤を含浸させるので、ラミナ同士の接着性が阻害されることを避けることができる。また、従来の集成材では各ラミナに改質剤が含浸されているため、形成される集成材全体に改質剤が含浸されていた。一方、本発明によれば、各ラミナを接合してから改質剤を含浸させるため、集成材の表面層のみに改質剤を含浸させることが可能である。そのため、集成材の表面層のみを改質すれば必要な改質効果が得られる場合には、より少量の改質剤で集成材を改質処理することができ、製造コストを削減することができる。
【0037】
《浸透孔が塞がるメカニズム》
続いて、含浸溶液の含浸により、木材の浸透孔が塞がるメカニズムについて説明する。まず、改質対象である木材に対し、改質剤を溶解させた含浸溶液を吸収させると、木材が膨潤して体積が膨張する。このとき、浸透孔は木材の膨張分によって埋められていくため、浸透孔の径は小さくなる。ここで、含浸前の木材に設けた浸透孔が0.1mm以下であれば、浸透孔はほぼ塞がり、一見しては、外観上視認することができなくなる。なお、その後、木材に吸収された含浸溶液から溶媒が揮発し、木材が乾燥すると木材全体はやや収縮する。これにより、浸透孔は塞がった状態からやや拡がることがある。しかし、収縮の度合いは、含浸溶液吸収による木材膨張の度合いと比べて小さいものである。したがって、含浸前に木材表面に穿設した浸透孔が0.1mm以下であれば、浸透孔が再び外観上視認できるほどに拡がる事はない。
【0038】
また、含浸時に改質剤を含んだ含浸溶液には、木材成分(例えば色素など)が染み出す。ここで、浸透孔が大きいと、含浸溶液は浸透孔に溜まる事はなく、流出してしまうことが多い。しかし、浸透孔が十分に小さいと、浸透孔に含浸溶液は溜まりやすく、溜まった含浸溶液内に木材成分が染み出す。したがって、浸透孔が乾燥による木材の収縮に起因して多少拡がったとしても、乾燥後も浸透孔内部には木材成分が残留している。このため、僅かしか開いていない浸透孔すら、外観上は木材表面と同質化しており、外観上視認できなくなる。
【0039】
以上から、含浸前に浸透孔を木材表面に穿設すれば、浸透孔から改質剤が浸透しやすくなり、例え改質剤を含浸させ難い赤身であっても、木材内部の改質が十分に行える。同時に、浸透孔の直径が0.1mm以下なので、改質剤含浸後は浸透孔が外観上視認することができなくなる。これにより、改質木材の外観が改善する。また、浸透孔の位置を考慮して木材を使用する必要がなくなるため、木材の用途が限定されなくなる。さらに、浸透孔を目立たなくするため、木材表面を塗装したり、樹脂で浸透孔を埋めるといった余分な工程が不要となり、製造工程の煩雑性が低くなる。なお、改質剤によって木材表面にシミができることもある。本発明では、浸透孔を目立たなくするための追加工程は不要だが、例えばサンドペーパーで磨く等のシミを除去する作業を行っても構わない。
【実施例
【0040】
以下、実施例及び比較例を挙げて前記実施形態をさらに具体的に説明する。
(実施例1)
まず、長さ500mm、幅120mm、厚さ13.5mmの日本産のスギ材に対し、YVOの固体レーザー照射装置(ロフィン・バーゼルジャパン株式会社製)を用いて直径0.1mmの浸透孔を設けた。浸透孔は、まず、幅方向に12mmの間隔で設け、幅方向の浸透孔列とした。この浸透孔列を長さ方向に12mm間隔で14列設けた。隣り合う浸透孔列同士は幅方向に6mmずらして設けた。すなわち、菱形格子状に、浸透孔を設けた。なお、幅方向の浸透孔列には、奇数列において8個、偶数列において9個の浸透孔を形成した結果、設けた浸透孔の数は119個となった(図2の残存浸透孔の位置参照)。また、浸透孔は貫通孔とした。
【0041】
次に、浸透孔を設けた木材を、室温30℃の乾燥室内で30分間養生したあと、難燃処理剤水溶液(以下、難燃処理液と称す)を含浸させた。難燃処理液は、水と改質剤とを表1に示すような量比で混合し、調整した。また、含浸方法としては減圧加圧含浸処理で行い、50mmHgにまで減圧して30分放置した後で、1MPaまで加圧し、19時間かけて難燃処理液の含浸を行った。含浸時の難燃処理液の温度は50~60℃とした。なお、含浸後は、温度20℃、湿度65%の環境下で十分に乾燥させた。
【0042】
【表1】
【0043】
(比較例1)
難燃処理液含浸前に穿設する浸透孔の直径を0.4mmとした以外は、実施例1と同様の手法で改質木材を製造した。
【0044】
(視認性の評価)
上記実施例1、比較例1の方法で製造した改質木材における、浸透孔を設けた木材表面を目視で確認して、含浸後の浸透孔の視認性を評価した。視認性は以下の基準で評価している。その結果を表2に示す。また、実施例1、比較例1の方法で製造した改質木材の外観写真をそれぞれ図1図2に示す。
○:含浸後、外観上浸透孔が視認できなかった。
×:含浸後、外観上浸透孔が視認できた。
【0045】
【表2】
【0046】
実施例1の製法では、難燃処理液の含浸前に木材に穿設した浸透孔の直径が0.1mmであったため、含浸後の改質木材において、浸透孔を外観上全く視認することができなかった(図1及び表2参照)。一方で、比較例1の製法では、難燃処理液の含浸前に木材に穿設した浸透孔の直径が0.4mmであったため、含浸後の改質木材において、含浸後にも浸透孔がはっきりと視認できた(図2及び表2参照)。
【0047】
(試験2)
続いて、浸透孔の深さ及び木材の赤身の割合が木材の改質効果に及ぼす影響について試験を行った。表3に示す赤身割合の木材に、表3に示す深さの浸透孔を穿設した以外は、実施例1と同様に難燃処理した。得られた各改質木材を用いて、下記発熱性試験を行った。その結果も表3に示す。
【0048】
(発熱性試験)
コーンカロリーメータを用いて、ISO5660-1に準拠した発熱性試験(コンカロリー試験)を行った。改質木材の上面に表面での輻射量が50KW/mになるよう熱を20分間放射し、総発熱量が8MJ/mに達する時間を測定した。そして、8MJ/mに達するのに要した時間に基づき以下のように評価した。なお、試験中に改質木材に亀裂
や爆ぜが生じた場合は「不良」と評価した。
可燃:5分以内に達する。
難燃:5分では達しないが、10分以内に達する。
準不燃:10分では達しないが、20分以内に達する。
不燃:20分経過しても達しない(表3には20分後の総発熱量を記載)。
【0049】
【表3】
【0050】
表3の結果から、赤身割合が75%以下であれば、浸透孔の深さを2mm以上とすれば、木材を不燃化できることが確認された。詳しく見ると、試験例2-2と試験例2-5の結果から、赤身割合が低い方が改質効果が高い、すなわち薬剤の浸透性が高いことがわかる。また、試験例試験例2-2と試験例2-3、及び試験例2-5と試験例2-6の結果から、浸透孔の深さが深いほど改質効果が高い、すなわち薬剤の浸透性が高いことが分かった。しかし、赤身割合が50%以下であれば浸透孔の上限に制限は無いが、試験例2-7の結果から、赤身割合が50%を超え75%以下の場合は、浸透孔の深さを6mm以上とすると、木材に爆ぜ又は割れが生じて不良になった。これに対し、試験例2-8の結果から、赤身割合が75%を超える場合は、浸透孔の深さが4mmでも薬剤の浸透性が悪いことから不良になることがわかった。試験例2-9の結果から、赤身割合が75%を超える場合は、浸透孔の深さを5mm以上とすれば木材を不燃化できるが、10mm以上では改質効果が低下する傾向が確認された。
【0051】
これら表3の結果を纏めると、赤身割合50%以下の木材に対しては、浸透孔の深さを2mm以上とすることで不燃化できることが分かった。赤身割合が50%を超え75%以下の木材に対しては、浸透孔の深さを2~5mmとすることで不燃化できることが分かった。赤身割合が75%を超える木材に対しては、不燃ないし準不燃化処理する場合は浸透孔の深さを5~10mmとすることが好ましいことが分かった。
【0052】
(試験3)
次に、浸透孔を穿設後、改質剤を含侵させる前の養生の影響について検討した。140℃の水蒸気を1時間蒸射してから難燃処理液を含侵させ以外は、試験例2-9と同じ条件で難燃処理したもの(試験例3-1)と、養生せずに難燃処理液を含侵させ以外は試験例2-9と同じ条件で難燃処理したもの(試験例3-2)について、試験2と同様に発熱性試験(コンカロリー試験)を行った。その結果を表4に示す。
【0053】
【表4】
【0054】
表4の結果から、試験例3-1、試験例3-2共に試験例2-9と同様の改質木材なので不燃木材となっていたが、1時間蒸射した試験例3-1は試験例2-6よりも不燃化効果が高かったが、養生していない試験例3-2は試験例2-6よりも不燃化効果が低かった。




図1
図2