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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-08
(45)【発行日】2022-07-19
(54)【発明の名称】携帯型の発散物モニタリング装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 1/10 20060101AFI20220711BHJP
   A61B 5/00 20060101ALI20220711BHJP
【FI】
G01N1/10 V
A61B5/00 N
A61B5/00 M
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018068622
(22)【出願日】2018-03-30
(65)【公開番号】P2018185298
(43)【公開日】2018-11-22
【審査請求日】2021-03-24
(31)【優先権主張番号】P 2017084844
(32)【優先日】2017-04-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】506320336
【氏名又は名称】特定非営利活動法人熟年体育大学リサーチセンター
(74)【代理人】
【識別番号】100102934
【弁理士】
【氏名又は名称】今井 彰
(72)【発明者】
【氏名】能勢 博
(72)【発明者】
【氏名】増木 静江
(72)【発明者】
【氏名】小川 雄
【審査官】山口 剛
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-113423(JP,A)
【文献】特開2011-169881(JP,A)
【文献】特開2002-195919(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/00 - 1/44
A61B 5/00
G01N 27/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸着物質を収納した第1の空間を含む第1のカプセルと、
前記第1のカプセルの前記吸着物質を介して空気が循環する第2の空間であって、前記第1の空間とは多孔性の壁体により区切られ空気が流通可能な状態で連通している第2の空間を含む第2のカプセルと、
測定対象の面に外気の侵入を防いだ状態で装着される第1の開口と前記第2の空間とに連通した測定対象の発散物の導入路と、
前記導入路内または出口近傍に配置された前記測定対象の発散物の量を測定するセンサーとを有し、
前記第1の開口、前記導入路、前記第2のカプセルおよび前記第1のカプセルがこの順番で積層され、
前記第1の空間は、多孔性の素材により区切られ前記吸着物質を収納し前記第2の空間に面した下側の空間と、前記下側の空間を挟んで前記第2の空間と反対側に配置され、前記吸着物質が充填されておらず空気が自由に流通する上側の空間とを含み、
前記第1の空間内で空気を強制循環し、前記下側の空間を前記上側の空間を介して前記吸着物質を複数回通過させて再生された空気を前記第2の空間に供給する循環用のファンを有する、携帯型の発散物のモニタリング装置。
【請求項2】
請求項において、
前記循環用のファンは、 前記導入路の直上の前記第1のカプセルおよび前記第2のカプセルの境界部分に配置されている、モニタリング装置。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記導入路は前記第2のカプセル内に形成されており、前記第2のカプセルの外面が前記測定対象の面に装着される、モニタリング装置。
【請求項4】
測定対象の面に装着される第1の開口を除き密閉されているハウジングを有する携帯型の発散物のモニタリング装置であって、
前記ハウジングは、吸着物質を収納した第1の空間を含む上半部と、
前記第1の空間とは多孔性の壁体により区切られ、空気が流通可能な状態で連通している第2の空間を含む下半部と、
前記下半部の下側の下壁に設けられた 前記第1の開口と前記第2の空間とに連通した測定対象の発散物の導入路と、
前記導入路内または前記導入路と前記第2の空間との境界部分に配置された前記測定対象の発散物の量を測定するセンサーとを含み、
前記第1の空間は、多孔性の素材により区切られ前記吸着物質を収納し前記第2の空間に面した下側の空間と、前記下側の空間を挟んで前記第2の空間と反対側に配置され、前記吸着物質が充填されておらず空気が自由に流通する上側の空間とを含み、さらに、
前記第1の空間内で空気を強制循環し、前記下側の空間を前記上側の空間を介して前記吸着物質を複数回通過させて再生された空気を前記第2の空間に供給する循環用のファンを有する、モニタリング装置。
【請求項5】
請求項1ないしのいずれかにおいて、
前記測定対象の面はユーザーの皮膚であり、前記測定対象の発散物は汗である、モニタリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚などの測定対象の面から汗などの発散物の発散量をモニタリングする装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
臨床的に発汗機能を調べる場合や、角質層から蒸散する水分量を調べ、皮膚の性状を評価したり、保湿剤等が皮膚に及ぼす影響を調べる場合、あるいは目の乾燥状態を調べる場合等に、皮膚表面(粘膜を含む)から蒸散する水分量の測定が行われている。この水分蒸散量の測定方法の一つに換気カプセル法がある。換気カプセル法は、皮膚の測定部位にカプセルを被せてカプセル内に湿度が既知のガスを流入させ、カプセルにガスが流入する前及びカプセルにガスが流入した後のガスの湿度を測定し、双方の湿度の差に基づいて皮膚表面からの水分蒸散量を求める方法である。
【0003】
換気カプセル法で水分蒸散量を測定する装置構成は、一般に、ガス供給源として、乾燥窒素、乾燥空気等の乾燥ガスが充填されたガスボンベ、ガスボンベから供給されたガスの流量を調整する流量計、内部に湿度センサを有するカプセル、湿度検出部及び演算装置からなる。カプセルには、ガスの流入孔と流出孔が設けられており、カプセルを皮膚に被せ、カプセル内にガスを流入させ、そのガスの流入前後の湿度を湿度センサで測定する。そして、この測定値のガスの流入前後の差に基づいて、演算装置で水分蒸散量を算出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2001-190502
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の換気カプセル法で用いられている装置は、ガスボンベのような乾燥ガスの供給源が必要であり、実験室内で発汗量の測定は可能であるが、フィールドで測定しようとするとガスボンベを持ち歩くような装置が必要となり、実際に測定することが難しい。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、吸着物質を収納した第1のカプセルと、第1のカプセルの吸着物質を介して空気が循環する第2のカプセルと、測定対象の面に、外気の侵入を防いだ状態で装着される第1の開口と第2のカプセルとに連通した測定対象の発散物の導入路と、導入路内または出口近傍に配置された測定対象の発散物の量を測定するセンサーとを有する携帯型の発散物のモニタリング装置である。吸着物質を介して空気を循環させることにより、測定対象の発散物の濃度の低い空気を自給することが可能となる。例えば、発汗を計測する場合は、このモニタリング装置においては、低湿度の乾燥空気を自給することが可能となり、ガスボンベなどの乾燥空気を供給する機器を持ち歩く必要がなくなる。このため、携帯型で持ち運びが容易な、発散物のモニタリング装置を提供できる。さらに、人体などに装着したまま持ち運びができるような小型のモニタリング装置を提供できる。
【0007】
また、このモニタリング装置においては、センサーを導入路内または出口近傍に配置している。センサーを導入路内または導入路に接近した状態で配置することにより、第2のカプセルを循環する空気の影響を受けにくい状態で測定対象の面から発散する発散物の量(発散量、濃度)およびその変化を精度よく測定できる。第1の開口は、測定対象の面、例えば、人間の皮膚に、開口の周囲が密着するように若干突き出たものであってもよく、円形や方形で中央が開いたシールあるいはリングを介して皮膚に取り付けて外気の侵入を防止するようになっていてもよい。
【0008】
モニタリング装置は、第1のカプセル、第2のカプセルおよび導入路が積層されたものであってもよい。第1のカプセル、第2のカプセルおよび導入路が一体化され、さらに携帯に適したモニタリング装置を提供できる。積層タイプのモニタリング装置において、第1のカプセルは、第2のカプセルの側に配置された吸着物質を含む第1の層と、第1の層を挟んで第2のカプセルと反対側に配置された吸着物質を含まない第2の層とを含んでもよい。空気は、第2のカプセルと第2の層とを第1の層を介して循環でき、循環する空気と吸着物質との接触効率を向上できる。このため、例えば、発汗量を測定する装置においては、よりドライな空気を第2のカプセルに循環させることができる。
【0009】
第1のカプセルと第2のカプセルの境界部分は多孔性であってもよく、境界部分を空気の循環路の一部に使用できる。空気の循環用のファンは、空気の循環経路のいずれか1ヶ所または複数ヶ所に設置してもよく、導入路の直上の第1のカプセルおよび第2のカプセルの境界部分に配置してもよい。導入路内の発散物の滞留を抑制でき、さらに精度よく発散物の発散量を測定できる。
【0010】
導入路は第2のカプセル内に形成されてもよく、第2のカプセルの外面を測定対象の面に装着できる。測定対象の面の一例はユーザーの皮膚であり、測定対象の発散物は汗である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】発汗計の平面図。
図2】発汗計のII-II断面図。
図3】発汗計のIII-III断面図。
図4】従来のカプセル換気法と発汗計とを用いた測定の一例を示す図。
図5】カプセル換気法の測定値と発汗計の測定値との相関を示す図。
図6】食道温と発汗量との関係を説明する図。
図7】食道温とカプセル換気法の測定値との関係(図7(a))と、食道温と発汗計の測定値からの推定値との関係(図7(b))の一例を示す図。
図8】カプセル換気法から求められた食道温の閾値と、推定値から求められた食道温の閾値との相関を示す図(図8(a))と、Bland-Altman解析の結果(図8(b))とを示す図。
図9】カプセル換気法から求められた傾きと、推定値から求められた傾きとの相関を示す図(図9(a))と、Bland-Altman解析の結果(図9(b))とを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1に、携帯型の発散物のモニタリング装置の一例を平面図により示している。このモニタリング装置(モニタリングユニット、モニター、計測装置、測定装置)1は、皮膚からの発汗量を測定する発汗計であり、全体が直径約50mm、厚さ約20mm程度の円形のディスク状のハウジング3と、ハウジング3の側面に取り付けられた制御ユニット50とを含む。図2に、II-II方向から見た断面を示し、図3にIII-III方向から見た断面を示し、これらの図により発汗計1の内部の概略構成を示している。なお、図3は、発汗計1をユーザーの皮膚9に装着した状態を示し、内部の空気5の流通状態を合わせて示している。
【0013】
発汗計1のハウジング3の内部は、皮膚9に面して装着される開口(第1の開口)31を除き密閉されている。ハウジング3の上半部3aは吸着物質13を収納した第1のカプセル10を構成し、下半部3bは、吸着物質13を介して空気5が循環する第2のカプセル20を構成している。発汗計1は、さらに、第1の開口31と第2のカプセル20の内部空間21と連通し、測定対象の発散物である汗を導入するための導入路30を含む。この発汗計1においては、導入路30が第2のカプセル20の中心に接続され、導入路30が第2のカプセル20の内部空間21に組み込まれている。すなわち、第2のカプセル20の下側(皮膚9の側)を構成する下壁22の中心に第1の開口31が形成されており、第2のカプセル20の内部空間21の、第1の開口31の周囲に、下壁22から上側に向かって立ち上がった円筒状の壁32を有する。円筒状の壁32の内部が、開口31と内部空間21とを連通する導入路30となっている。発汗計1は、さらに、導入路30の上端33の近傍から導入路30の内部に入るように設置された温湿度センサー35を含む。
【0014】
発汗計1において、第2のカプセル20に積層された第1のカプセル10は、ドライエア(乾燥空気)などの発散物を採取するために適したガス(空気)を、再生して第2のカプセル20に供給(自給)する機能を含む。第1のカプセル10の内部の第1の空間11と、第2のカプセル20の内部の第2の空間21とはそれぞれ円筒状の空間である。それぞれの空間11および21の一例は、第1の空間11は直径が約46mm、高さが約7mmであり、第2の空間21は直径が約40mm、高さが約8mmである。第1の空間11と第2の空間21とは、第1のカプセル10と第2のカプセル20との境界を形成する多孔性の壁体19、具体的にはメッシュ状の素材、例えば網により区切られ、第1の空間11および第2の空間21とは空気5が流通可能な状態で連通している。カプセル10および20の形状は円筒形に限らず、方形であってもよく、上下に積層されておらず、水平(横方向)に連続した構成であってもよく、ホースなどにより連通された複数のカプセルで構成してもよい。
【0015】
第1のカプセル10の内部の第1の空間11は、多孔性の素材、例えばメッシュ(網)17により区切られた2つ層(空間)15および16を含む。第2の空間21に面した下側の層(第1の層)15には吸着物質13が充填され、第1の層15を挟んで第2のカプセル20と反対側に配置された上側の層(第2の層)16には吸着物質13が充填されておらず、空気5が自由に流通する空間となっている。
【0016】
吸着物質13の一例はシリカゲルであり、モレキュラシーブ、ゼオライト、多孔性ガラスなどの他の吸着物質であってもよい。吸着物質13の材料および孔径は測定対象の発散物、例えば汗(水分)、二酸化炭素、その他の体調あるいは病歴を示す有機物などに適したものであってもよい。
【0017】
第1のカプセル10の内部を、少なくとも吸着物質13が充填された第1の層15と、充填されていない層16とに分けることにより、第1のカプセル10の内部で空気5を強制循環させて、吸着物質13を複数回通過して対象物、例えば水分を除去した乾燥空気5を再生(生成)し、第2のカプセル20に供給することができる。したがって、発散物の少ない、または含まない空気、本例では汗(水分)を採取するために適した乾燥空気5を、第1のカプセル10を設けることにより自給可能となる。このため、ボンベやその他のガス供給装置が不要となり、携帯型で、人体に無理なく装着できるような小型の発汗計1を提供できる。
【0018】
強制循環用の機器、典型的にはファンの設置位置はカプセル10および20の形状などにより適宜決定できる。本例の発汗計(モニタリングユニット)1においては、導入路30に面した、導入路30の直上に当たる第1のカプセル10と第2のカプセル20との境界部分19に強制循環用の小型ファン61および62が積層された状態で配置されている。複数の小型ファン61および62を積層する構成は、コンパクトなファンで騒音を抑制しながら十分な循環量を確保するために適しているが、十分なファン容量と風圧とを確保できる場合は、ファンは1台であってもよい。
【0019】
第2のカプセル20の内部領域21においては、第1のカプセル10において生成されたドライエアー5が循環し、乾燥または低湿度の環境となる。したがって、皮膚9の表面の発汗による湿分が、皮膚9に密着した開口(第1の開口)31と導入路30を介して、乾燥した雰囲気の第2のカプセル20の空間21に拡散する。導入路30または導入路30の出口33の近傍、すなわち、導入路30と第2の空間21との境界部分に、湿分を測定するセンサー、本例においては温湿度センサー35を配置することにより、拡散雰囲気における湿分(水分)を測定できる。すなわち、導入路30を構成する壁面32により第2のカプセル20の空間21を循環するドライエアー5がセンサー35の周囲に直に流れ込むのを阻止または抑制でき、センサー35により、皮膚9から拡散した水分量をより精度よく測定できる。したがって、第2のカプセル20の内部21をドライな雰囲気に保ちながら、その一方で、センサー35に対するドライエアー5の影響を抑制できる。このため、モニタリング装置1においては、皮膚9の表面において汗が発散される条件に近い状態で、皮膚9の表面から発散される水分の量(発汗量)を精度よく測定できる。
【0020】
本例の発汗計1においては、第2のカプセル20の内部空間21に、導入路30を構成する周壁32が形成され、空間21に導入路30が畳み込まれた状態となっている。したがって、第2のカプセル20の開口31が形成された外側の面23をほぼ平面としたり、皮膚9に接触しやすい曲面にすることが可能であり、第1のカプセル10および第2のカプセル20が一体化された発汗計1を一体で、皮膚9に装着するように構成できる。皮膚9と、発汗計1の外面23とは直に接してもよく、開口31を除いて通気性あるいは密着性を確保するようなシートを介して接していてもよい。開口31は、外気が侵入しない状態で皮膚9に装着できればよく、皮膚9に密着されたり、圧着されるものであってもよい。開口31の周囲に皮膚9に向かって突き出た部分を設けて外気の侵入を防いでもよく、上述したようにシールやリングを開口31またはその周囲と皮膚9との間に介在させて、外気の侵入を防止または抑制してもよい。
【0021】
発汗計1は、ハウジング3の側面にコントロールユニット50が装着されている。コントロールユニット50は、ファン61および62に電力を供給するバッテリー51と、温湿度センサー35により測定された湿度(水分量、発汗量)と、温度とを表示する計測ユニット52と、計測された諸データを外部の機器に伝達する通信ユニット53とを含む。通信ユニット53は、近距離無線通信、例えば、Bluetooth(登録商標)、あるいは携帯通信網を介して外部の機器、例えば、ユーザーのスマートホンあるいはクラウド上の健康管理サーバーシステムなどに発汗計1により測定されたデータを提供する。コントロールユニット50は、ハウジング3に一体化されていなくてもよく、有線で接続され、発汗計1とは別に、ユーザーの適当な個所に取り付けられるようにしてもよい。
【0022】
次に、本例の発汗計1と、従来のカプセル換気法(換気カプセル法)とによる測定を行い、両者の測定結果を比較した。左胸に従来のカプセル換気法による測定装置(Vent)を装着し、右胸に本例の発汗計(ポータブルカプセル、PD)を装着した複数人により、周囲温度(気温)30℃、相対湿度50%の環境下、ピーク酸素消費量65%の運動強度で20~30分間のサイクリング運動を行った。被験者は合計18名であり、内訳は男性7名と女性11名とであり、年齢57歳±19歳、体重63kg±7kg、身長163cm±8cmである。
【0023】
発汗量(SR)は、従来のカプセル換気法においては乾燥空気を流速毎分1.5リットルで供給し、測定した。なお、カプセルが接している皮膚の表面積は12.6cm2であり、以降において測定量をSRvent(mg/min/cm2)で示す。本例の発汗計1においては、第2のカプセル20の内部空間21の容量(体積)が8.4cm3、第1のカプセル10の充填されたシリカゲル(吸収剤)13は4.8gであり、ファン61および62を駆動して発汗量を測定した。この発汗計1により測定された発汗量を以降においてSRpd(mmHg)で示す。発汗量の測定と同時に、脳温に最も近いとされる食道温(Tes)を熱電対により測定した。
【0024】
図4に、上記の被験者の一人の測定値を一例として示す。測定は、10分間の休憩と、その後の30分間のサイクリング運動中に行った。安静時36.6度だった食道温Tesは運動終了時に1.1度上昇した。発汗量SRventは約0.8mg/min/cm2上昇し、発汗量SRpdは約1.7mmHgに増加した。
【0025】
図5に、発汗量SRventと発汗量SRpdとの相関を5秒毎に得られたデータで示している。発汗量SRpd(x軸)と発汗量SRvent(y軸)とはすべての被験者においてほぼ比例関係にあり、相関が高いということが分かった。発汗量SRpd(x軸)と発汗量SRvent(y軸)との回帰直線の傾きは、相関係数rが0.99以上、危険率Pが0.0001以下で、0.49±0.05(mg/min/cm2/mmHg)、切片は0.01±0.00(mg/min/cm2)であった。
【0026】
図6に示すように、人体の体温調整能として、本願の発明者らにより、発汗量SRと、食道温Tesとの間で、食道温Tesが所定の値(閾値)THを超えると、一定の食道温Tesの範囲おいて発汗量SRが食道温Tesに対してリニアに上昇すること(Sensitivityがあること、比例区間)が提唱されている。
【0027】
図7(a)に示すように、今回の測定においても、測定された発汗量SRventと食道温Tesとの間に、比例区間と閾値THとがあることが認められた。また、図7(b)に示すように、測定された発汗量SRpdに基づいて、回帰直線により求められた係数により発汗量SRventに換算された推定SR値(EstimatedSR)においても比例区間と閾値THとが認められ、それぞれにおいて高い相関があることが分かった。
【0028】
図8(a)に、発汗量SRventから求められた食道温Tesの閾値THvent(x軸)と、発汗量SRpdの推定値から求められた食道温Tesの閾値EstematedTH(y軸)との相関を示している。これらの閾値THの間には高い相関が認められ、相関係数0.98で回帰直線の傾きは0.90、切片は3.72であった。また、図8(b)に、Bland-Altman解析の結果を示しており、ほとんどの値が95%(2×標準偏差)の範囲に入ることがわかる。同様に、発汗量SRpdの傾き(感度、ΔSRpd/ΔTes)から求められた閾値THpdと、発汗量SRventの傾き(感度、ΔSRvent/ΔTes)から求められた閾値THventとの間の相関も確認され、回帰直線の傾きは1.11、切片は3.99、相関係数(r)は0.98、危険率Pは0.0001以下であった。
【0029】
図9(b)に、発汗量SRventと食道温Tesとの傾き(感度、ΔSRvent/ΔTes)(x軸)と、発汗量SRpdの推定値と食道温Tesとの傾き(感度、ΔEstimatedSR/ΔTes)(y軸)との相関を示している。これらの感度の間には高い相関が認められ、相関係数0.91で回帰直線の傾きは0.87、切片は0.13であった。また、図9(b)に、Bland-Altman解析の結果を示しており、ほとんどの値が95%(2×標準偏差)の範囲に入ることがわかる。
【0030】
また、発汗量SRpdの傾き(感度、ΔSRpd/ΔTes)の平均は、1.7±0.3(mmHg/℃)であり、発汗量SRventの傾き(感度、ΔSRvent/ΔTes)の平均は、0.9±0.2(mg/min/cm2/℃)であり、それらの間に高い相関が確認され回帰直線の傾きは0.82、切片は0.47、相関係数(r)は0.90、危険率Pは0.0008以下であった。
【0031】
このように、本発明に係る携帯型の発汗計(ポータブルデバイス)1は、暑熱環境下の発汗量SRの測定に使用することができ、フィールド試験に適していることがわかる。さらに、カプセル換気法により測定される発汗量SRventとの間に高い相関が認められ、従来の実験室における測定結果との間に相関がある。このため、従来の実験室における測定値に加えて、本発明の発汗計1による測定値を用いて、人体の体温制御能力などの解析を進めることができる。
【0032】
なお、以上においては、皮膚9からの発散物として汗(水分)を計測する発汗計1をもとに本発明を説明しているが、発散物はその他のガス、例えば皮膚呼吸において発散される炭酸ガスや、皮膚呼吸に含まれる有機物、例えばアルコール、アセトアルデヒド、アセトンなどの発散量を検出するモニタリング装置として提供することも可能である。
【符号の説明】
【0033】
1 発汗計(モニタリング装置)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9