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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-08
(45)【発行日】2022-07-19
(54)【発明の名称】ニッケル除去剤及びニッケル除去方法
(51)【国際特許分類】
   C25D 11/24 20060101AFI20220711BHJP
【FI】
C25D11/24 301
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018102592
(22)【出願日】2018-05-29
(65)【公開番号】P2019206734
(43)【公開日】2019-12-05
【審査請求日】2021-02-25
(73)【特許権者】
【識別番号】591021028
【氏名又は名称】奥野製薬工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】辻本 貴光
(72)【発明者】
【氏名】森口 朋
(72)【発明者】
【氏名】原 健二
(72)【発明者】
【氏名】田中 克幸
【審査官】瀧口 博史
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-214105(JP,A)
【文献】特開2010-180474(JP,A)
【文献】特開2016-017187(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0127883(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 11/00
C23C 22/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
封孔処理されたアルミニウムの陽極酸化皮膜の表面のニッケルを除去するニッケル除去剤であって、
バナジウム化合物及びアルミニウム塩を含有し、
前記バナジウム化合物は、メタバナジン酸ナトリウム(V)、バナジン酸ナトリウム(V)、メタバナジン酸カリウム(V)、バナジン酸カリウム(V)、ピロバナジン酸カリウム(V)、トリオキソバナジン酸リチウム(V)、酸化バナジウム(III、IV)、五酸化バナジウム(V)、オキシ二塩化バナジウム(IV)、オキシ三塩化バナジウム(V)、三塩化バナジウム(III)、四塩化バナジウム(IV)、及び、十三酸化六バナジウム(IV, V)からなる群より選択される少なくとも1種であ
フッ化物を含まない、
ことを特徴とするニッケル除去剤。
【請求項2】
前記バナジウム化合物をバナジウムイオン換算で0.2~80g/L、前記アルミニウム塩をアルミニウムイオン換算で0.001~5g/L含有する、請求項1に記載のニッケル除去剤。
【請求項3】
前記アルミニウム塩は、酢酸アルミニウム(III)、硫酸アルミニウム(III)、硝酸アルミニウム(III)、ケイ酸アルミニウム(III)、水酸化アルミニウム(III)、第一リン酸アルミニウム(III)、第二リン酸アルミニウム(III)、第三リン酸アルミニウム(III)、炭酸アルミニウム(III)、塩化アルミニウム(III)、臭化アルミニウム(III)、ギ酸アルミニウム(III)、及び、アンモニウムミョウバンからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1又は2に記載のニッケル除去剤。
【請求項4】
封孔処理されたアルミニウムの陽極酸化皮膜の表面のニッケルを除去するニッケル除去方法であって、
(1)ニッケル塩を含有する陽極酸化皮膜用封孔処理液中に、アルミニウムの陽極酸化皮膜を有する物品を浸漬して封孔処理する工程1、及び
(2)前記工程1により封孔処理された前記アルミニウムの陽極酸化皮膜を有する物品を、ニッケル除去剤に浸漬する工程2
を有し、
前記ニッケル除去剤は、バナジウム化合物及びアルミニウム塩を含有し、
前記バナジウム化合物は、メタバナジン酸ナトリウム(V)、バナジン酸ナトリウム(V)、メタバナジン酸カリウム(V)、バナジン酸カリウム(V)、ピロバナジン酸カリウム(V)、トリオキソバナジン酸リチウム(V)、酸化バナジウム(III、IV)、五酸化バナジウム(V)、オキシ二塩化バナジウム(IV)、オキシ三塩化バナジウム(V)、三塩化バナジウム(III)、四塩化バナジウム(IV)、及び、十三酸化六バナジウム(IV, V)からなる群より選択される少なくとも1種であ
フッ化物を含まない、
ことを特徴とするニッケル除去方法。
【請求項5】
前記ニッケル除去剤の温度は、20~100℃である、請求項に記載のニッケル除去方法。
【請求項6】
前記ニッケル除去剤のpHは、1~7である、請求項又はに記載のニッケル除去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケル除去剤及びニッケル除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アルミニウムおよびアルミニウム合金(以下、単に「アルミニウム」とも示す。)の陽極酸化皮膜には、指紋等の汚れに対する耐汚染性の改善、アルカリ、酸等に対する耐薬品性の向上、自然環境、大気汚染等に対する耐食性の向上、及び、酸化皮膜を染色した際に付与した有機染料の安定的な保護のため、封孔処理が行われている。
【0003】
アルミニウムの陽極酸化皮膜の封孔処理方法としては、加圧蒸気による封孔処理、沸騰イオン交換水による封孔処理、金属含有水溶液を用いた封孔処理、酢酸ニッケルやフッ化ニッケル等のニッケル塩を用いた封孔処理(以下、「ニッケル封孔」ともいう。)が一般的であり、特に、ニッケル封孔は85~90℃程度の比較的低温で、かつ短時間で封孔処理を行うことができ、耐食性および染料の安定性が良好であるため広く利用されている。上述の効果は、封孔処理の際にニッケル水和物が陽極酸化皮膜表層に析出することで得られる効果である。
【0004】
しかしながら、ニッケルを用いると、皮膚にかぶれや炎症等のアレルギーの懸念があり、生産現場ではニッケル封孔処理後にニッケル除去工程を設ける等のニッケル除去方法によりニッケルが除去されている。
【0005】
上述のニッケル除去方法としては、封孔処理後のカブリや粉吹き等の汚れを除去できる硝酸、塩酸、硫酸などの強酸性薬品に浸漬する除去方法が挙げられる(例えば、特許文献1参照。)。
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の除去方法によりニッケルを除去した場合、染色処理を行ったアルミニウムの陽極酸化皮膜の色が変化し易くなり、耐色性に劣るという問題があり、また、湿気等により腐食し易くなり、耐食性に劣るという問題がある。
【0007】
従って、アルミニウムの陽極酸化皮膜の表面のニッケルを除去することができ、且つ、処理されたアルミニウムの陽極酸化皮膜が、優れた耐色性及び耐食性を示すことができるニッケル除去剤及びニッケル除去方法の開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開昭52-16974号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、アルミニウムの陽極酸化皮膜の表面のニッケルを除去することができ、且つ、処理されたアルミニウムの陽極酸化皮膜が、優れた耐色性及び耐食性を示すことができるニッケル除去剤及びニッケル除去方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記した目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、封孔処理されたアルミニウムの陽極酸化皮膜の表面のニッケルを除去するニッケル除去剤において、バナジウム化合物及びアルミニウム塩を含有する構成とすることにより、アルミニウムの陽極酸化皮膜の表面のニッケルを十分に除去することができ、且つ、処理されたアルミニウムの陽極酸化皮膜が、耐色性及び耐食性に優れることを見出した。
【0011】
即ち、本発明は、下記のニッケル除去剤及びニッケル除去方法に関する。
1.封孔処理されたアルミニウムの陽極酸化皮膜の表面のニッケルを除去するニッケル除去剤であって、
バナジウム化合物及びアルミニウム塩を含有することを特徴とするニッケル除去剤。
2.前記バナジウム化合物をバナジウムイオン換算で0.2~80g/L、前記アルミニウム塩をアルミニウムイオン換算で0.001~5g/L含有する、項1に記載のニッケル除去剤。
3.前記バナジウム化合物は、メタバナジン酸ナトリウム(V)、バナジン酸ナトリウム(V)、メタバナジン酸カリウム(V)、バナジン酸カリウム(V)、ピロバナジン酸カリウム(V)、トリオキソバナジン酸リチウム(V)、メタバナジン酸アンモニウム(V)、酸化バナジウム(III、IV)、五酸化バナジウム(V)、オキシ二塩化バナジウム(IV)、オキシ三塩化バナジウム(V)、三塩化バナジウム(III)、四塩化バナジウム(IV)、オキシ硫酸バナジウム(IV)、及び、十三酸化六バナジウム(IV, V)からなる群より選択される少なくとも1種である、項1又は2に記載のニッケル除去剤。
4.前記アルミニウム塩は、酢酸アルミニウム(III)、硫酸アルミニウム(III)、硝酸アルミニウム(III)、ケイ酸アルミニウム(III)、水酸化アルミニウム(III)、第一リン酸アルミニウム(III)、第二リン酸アルミニウム(III)、第三リン酸アルミニウム(III)、炭酸アルミニウム(III)、塩化アルミニウム(III)、臭化アルミニウム(III)、ギ酸アルミニウム(III)、及び、アンモニウムミョウバンからなる群より選択される少なくとも1種である、項1~3のいずれかに記載のニッケル除去剤。
5.フッ化物を含まない、項1~4のいずれかに記載のニッケル除去剤。
6.項1~5のいずれかに記載のニッケル除去剤により処理された物品。
7.封孔処理されたアルミニウムの陽極酸化皮膜の表面のニッケルを除去するニッケル除去方法であって、
(1)ニッケル塩を含有する陽極酸化皮膜用封孔処理液中に、アルミニウムの陽極酸化皮膜を有する物品を浸漬して封孔処理する工程1、及び
(2)前記工程1により封孔処理された前記アルミニウムの陽極酸化皮膜を有する物品を、ニッケル除去剤に浸漬する工程2
を有し、
前記ニッケル除去剤は、バナジウム化合物及びアルミニウム塩を含有する、
ことを特徴とするニッケル除去方法。
8.前記ニッケル除去剤の温度は、20~100℃である、項7に記載のニッケル除去方法。
9.前記ニッケル除去剤のpHは、1~7である、項7又は8に記載のニッケル除去方法。
10.項7~9のいずれかに記載のニッケル除去方法により処理された物品。
【発明の効果】
【0012】
本発明のニッケル除去剤及びニッケル除去方法は、アルミニウムの陽極酸化皮膜の表面のニッケルを除去することができ、且つ、処理されたアルミニウムの陽極酸化皮膜が、優れた耐色性及び耐食性を示すことができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のニッケル除去剤は、封孔処理されたアルミニウムの陽極酸化皮膜の表面のニッケルを除去するニッケル除去剤であって、バナジウム化合物及びアルミニウム塩を含有することを特徴とする。上記構成を備える本発明のニッケル除去剤を用いて、封孔処理されたアルミニウムの陽極酸化皮膜の表面のニッケルを除去することにより、陽極酸化皮膜表面に付着したニッケル水和物が溶解して、ニッケルが除去される。同様に陽極酸化皮膜のアルマイト孔内でもニッケル水和物の溶解反応が生じるが、アルマイト孔内では溶解したニッケルイオンが拡散する領域が狭いため、局部的なpH上昇が生じ、これに伴いバナジウムおよびアルミニウムの複合皮膜が化成処理的に孔内に形成されるため、高耐色性及び高耐食性が付与されると考えられる。
【0014】
以下、本発明のニッケル除去剤及びニッケル除去方法について詳細に説明する。
【0015】
1.ニッケル除去剤
(バナジウム化合物)
バナジウム化合物としては、水に可溶であれば特に限定されず、従来公知のバナジウム化合物が挙げられる。このようなバナジウム化合物としては、バナジン酸塩、バナジウム塩等が挙げられ、これらの中でも、水に安定的に溶解する点でバナジン酸塩が好ましい。
【0016】
バナジン酸塩としては特に限定されず、メタバナジン酸ナトリウム(V)、バナジン酸ナトリウム(V)、メタバナジン酸カリウム(V)、バナジン酸カリウム(V)、ピロバナジン酸カリウム(V)、トリオキソバナジン酸リチウム(V)、メタバナジン酸アンモニウム(V)等が挙げられる。また、バナジウム塩としては特に限定されず、酸化バナジウム(III、IV)、五酸化バナジウム(V)、オキシ二塩化バナジウム(IV)、オキシ三塩化バナジウム(V)、三塩化バナジウム(III)、四塩化バナジウム(IV)、オキシ硫酸バナジウム(IV)、十三酸化六バナジウム(IV, V)等が挙げられる。これらの中でも、液安定性により一層優れる点でメタバナジン酸ナトリウム(V)、メタバナジン酸カリウム(V)、メタバナジン酸アンモニウム(V)が好ましく、メタバナジン酸ナトリウム(V)がより好ましい。
【0017】
上記バナジウム化合物は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0018】
ニッケル除去剤中のバナジウム化合物の含有量は、バナジウムイオン換算で0.2~80g/Lが好ましく、0.2~40g/Lがより好ましく、0.2~20g/Lが更に好ましい。バナジウム化合物の含有量の上限が上記範囲であることにより、アルミニウムの陽極酸化皮膜の表面のニッケルをより一層十分に除去することができ、且つ、耐色性及び耐食性がより一層向上する。また、バナジウム化合物の含有量の下限が上記範囲であることにより一層液安定性に優れる。
【0019】
(アルミニウム塩)
アルミニウム塩としては、水に可溶であれば特に限定されず、従来公知のアルミニウム塩が挙げられる。このようなアルミニウム塩としては、酢酸アルミニウム(III)、硫酸アルミニウム(III)、硝酸アルミニウム(III)、ケイ酸アルミニウム(III)、水酸化アルミニウム(III)、第一リン酸アルミニウム(III)、第二リン酸アルミニウム(III)、第三リン酸アルミニウム(III)、炭酸アルミニウム(III)、塩化アルミニウム(III)、臭化アルミニウム(III)、ギ酸アルミニウム(III)、アンモニウムミョウバン等が挙げられる。これらの中でも、液安定性により一層優れる点で酢酸アルミニウム(III)、硫酸アルミニウム(III)、硝酸アルミニウム(III)が好ましく、酢酸アルミニウム(III)がより好ましい。
【0020】
上記アルミニウム塩は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0021】
ニッケル除去剤中のアルミニウム塩の含有量は、アルミニウムイオン換算で0.001~5g/Lが好ましく、0.001~2.5g/Lがより好ましく、0.001~1g/Lが更に好ましい。アルミニウム塩の含有量の上限が上記範囲であることにより、より一層耐色性及び耐食性に優れる。また、アルミニウム塩の含有量の下限が上記範囲であることにより、より一層液安定性に優れる。
【0022】
本発明のニッケル除去剤中の金属分のモル比は、アルミニウムイオン:バナジウムイオン=1:1~1:3000が好ましく、1:3.5~1:1500がより好ましく、1:7~1:750が更に好ましい。アルミニウムイオン:バナジウムイオンのモル比の上限が上記範囲であることにより、より一層耐色性及び耐食性に優れる。また、アルミニウムイオン:バナジウムイオンのモル比の下限が上記範囲であることにより、より一層液安定に優れる。
【0023】
(他の添加剤)
本発明のニッケル除去剤は、必要に応じて上記バナジウム化合物及びアルミニウム塩以外の他の添加剤を含んでいてもよい。このような添加剤としては、高分子化合物、界面活性剤、pH調整剤等が挙げられる。
【0024】
高分子化合物としては特に限定されず、ポリエチレングリコール、ポリアクリル酸、ポリビニルアルコール等が挙げられ、これらの中でも、ポリエチレングリコールが好ましい。ニッケル除去剤が高分子化合物を含有することにより、アルミニウムの陽極酸化皮膜の表面のすべり性がより一層向上し、乾きジミ等の外観不良がより一層抑制される。
【0025】
界面活性剤としては、ノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、両性界面活性剤が挙げられる。界面活性剤を含有することにより、アルミニウムの陽極酸化皮膜の表面のすべり性がより一層向上し、乾きジミ等の外観不良がより一層抑制される。
【0026】
アニオン系界面活性剤としては、スルホン酸塩系界面活性剤(β‐ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物ナトリウム塩)、リン酸系界面活性剤等が挙げられる。
【0027】
ノニオン系界面活性剤としては、ニッケル除去剤中の濃度調整や、他の界面活性剤との組み合わせにより、ニッケル除去剤中で曇点を40℃以上とすることができるノニオン系界面活性剤を好適に用いることができ、このようなノニオン系界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、グリセリンエステルポリオキシエチレンエーテル、ソルビタンエステル、脂肪酸アルカノールアミド等が挙げられる。
【0028】
カチオン系界面活性剤としてはニッケル除去剤中の濃度調整等によって沈殿を生じないカチオン系界面活性剤を好適に用いることができる。
【0029】
両性界面活性剤としては、アルキルベタイン、脂肪族アミドベタイン、アルキルアミンオキサイド等が挙げられる。
【0030】
ニッケル除去剤中の界面活性剤の含有量は特に限定されず、0.01~30g/Lが好ましく、0.1~20g/Lがより好ましい。
【0031】
pH調整剤としては、硝酸、塩酸、硫酸、酢酸、リン酸、有機スルホン酸等の各種の有機酸及び無機酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、炭酸ナトリウム等の塩基が挙げられる。
【0032】
ニッケル除去剤のpHは、1~7が好ましく、3~6がより好ましく、4~6が更に好ましい。pHの上限を上記範囲とすることにより、アルミニウムの陽極酸化皮膜を有する物品の表面のニッケルをより一層十分に除去することができ、且つ、アルミニウムの陽極酸化皮膜により一層高い耐食性を付与することができる。また、pHの下限を上記範囲とすることにより、ニッケル除去剤の液安定性がより一層向上する。
【0033】
本発明のニッケル処理剤は、フッ化物を含有しないことが好ましい。アルミニウムの陽極酸化皮膜は、染色されて封孔処理される場合がある。本発明のニッケル処理剤がフッ化物を含有すると、封孔処理されたアルミニウムの陽極酸化皮膜の表面から染料が溶出し、変色し易くなることがある。このため、本発明のニッケル処理剤は、フッ化物を含有しないことで、より一層耐色性が向上する。
【0034】
2.ニッケル除去方法
本発明のニッケル除去方法は、封孔処理されたアルミニウムの陽極酸化皮膜の表面のニッケルを除去するニッケル除去方法であって、
(1)ニッケル塩を含有する陽極酸化皮膜用封孔処理液中に、アルミニウムの陽極酸化皮膜を有する物品を浸漬して封孔処理する工程1、及び
(2)前記工程1により封孔処理された前記アルミニウムの陽極酸化皮膜を有する物品を、ニッケル除去剤に浸漬する工程2を有し、
前記ニッケル除去剤は、バナジウム化合物及びアルミニウム塩を含有することを特徴とするニッケル除去方法である。以下、詳細に説明する。
【0035】
(工程1)
工程1は、ニッケル塩を含有する陽極酸化皮膜用封孔処理液中に、アルミニウムの陽極酸化皮膜を有する物品を浸漬して封孔処理する工程である。
【0036】
アルミニウムの陽極酸化皮膜を形成するためのアルミニウムとしては、純アルミニウム、又は、アルミニウム合金が用いられる。上記アルミニウムの陽極酸化皮膜としては特に限定されず、一般的なアルミニウムに硫酸、シュウ酸、リン酸等を用いた公知の陽極酸化法を適用して得られたアルミニウムの陽極酸化皮膜であればよい。
【0037】
上記アルミニウム合金としては特に限定的ではなく、各種のアルミニウム主体の合金を陽極酸化の対象とすることができる。アルミニウム合金の具体例としては、JISに規定されているJIS-A 1千番台~7千番台で示される展伸材系合金、AC、ADCの各番程で示される鋳物材、ダイカスト材等を代表とするアルミニウム主体の各種合金群等が挙げられる。
【0038】
アルミニウムに施される陽極酸化法としては、例えば、硫酸濃度が100g/L~400g/L程度の水溶液を用い、液温を-10~30℃程度として、0.5~4A/dm程度の陽極電流密度で電解を行う方法が挙げられる。
【0039】
また、工程1では、アルミニウム合金の陽極酸化皮膜に電解着色を施したものを処理対象としてもよい。
【0040】
電解着色方法としては、公知の着色技術の方法を採用できる。例えば、陽極酸化を行った後、電解着色浴に浸漬し、二次電解を行うことにより陽極酸化皮膜に着色を施すことができる。電解着色浴としては、ニッケル塩-ホウ酸浴、ニッケル塩-スズ塩-硫酸浴などを例示できる。
【0041】
また、本発明の封孔処理方法においては、アルミニウム合金の陽極酸化皮膜に染料を用いて染色を施したものを処理対象としてもよい。
【0042】
染料を用いた染色方法としては、従来公知の染料水溶液に陽極酸化皮膜を浸漬する方法が挙げられる。このような染料としては、アルミニウム合金陽極酸化皮膜用染料として市販されているものを用いることができ、例えば、アニオン系染料等が挙げられる。上記染料水溶液の温度は、10~70℃が好ましく、20~60℃がより好ましい。また、上記染料水溶液中の染料の濃度及び浸漬時間は、要望される染色の色調、色の濃さに応じて適宜設定すればよい。
【0043】
ニッケル塩を含有する陽極酸化皮膜用封孔処理液としては特に限定されず、ニッケル塩、界面活性剤、pH緩衝剤、pH調整剤等の封孔処理液に用いられる従来公知の組成の陽極酸化皮膜用封孔処理液が挙げられる。このような封孔処理液が含有するニッケル塩としては、酢酸ニッケル、硫酸ニッケル、硝酸ニッケル、フッ化ニッケル等が挙げられる。
【0044】
工程1では、上記ニッケル塩を含有する陽極酸化皮膜用封孔処理液(以下、単に「封孔処理液」とも示す。)中に、アルミニウムの陽極酸化皮膜を有する物品が浸漬される。浸漬方法としては特に限定されず、従来公知の方法により浸漬すればよい。
【0045】
工程1における封孔処理液の温度は、20~100℃が好ましく、70~98℃がより好ましく、80~98℃が更に好ましい。封孔処理液の温度を上記範囲とすることにより、より一層十分な封孔性能を得ることができる。
【0046】
封孔処理液のpHは、2.0~7.0が好ましく、3.0~7.0がより好ましく、4.0~7.0が更に好ましい。pHを上記範囲とすることにより、封孔処理液がより一層十分な封孔性能を示すことができ、被処理物の表面に粉状付着物が付着する外観不良(粉吹き、カブリ)がより一層抑制される。
【0047】
封孔処理時間は、通常、処理対象とする陽極酸化皮膜の膜厚により決定することができる。具体的には、膜厚を示す数(μm)に0.1~10を乗じて得られる数を封孔処理時間(分)とすることが好ましく、膜厚を示す数(μm)に0.2~5を乗じて得られる数を封孔処理時間(分)とすることがより好ましく、膜厚を示す数(μm)に0.5~3を乗じて得られる数を封孔処理時間(分)とすることが更に好ましい。例えば、陽極酸化皮膜の膜厚が10μmであるならば、封孔時間は10に0.5~3を乗じて5~30分程度とすることが好ましい。封孔処理時間を上記範囲とすることにより、封孔処理液がより一層十分な封孔性能を示すことができ、封孔処理液により封孔処理されたアルミニウム合金の陽極酸化皮膜が耐汚染性をより一層十分に示すことができ、また、粉吹き、カブリ等の外観不良による、被処理物の外観の低下をより一層抑制することができる。
【0048】
以上説明した工程1により、ニッケル塩を含有する陽極酸化皮膜用封孔処理液中に、アルミニウムの陽極酸化皮膜を有する物品が浸漬されて、封孔処理される。
【0049】
(工程2)
工程2は、上記工程1により封孔処理されたアルミニウムの陽極酸化皮膜を有する物品を、ニッケル除去剤に浸漬する工程である。
【0050】
ニッケル除去剤としては、上記説明した本発明のニッケル除去剤を用いることができる。工程1により封孔処理されたアルミニウムの陽極酸化皮膜を有する物品を浸漬する浸漬方法としては特に限定されず、従来公知の方法により浸漬すればよい。
【0051】
工程2におけるニッケル除去剤の温度は、20~100℃が好ましく、40~100℃がより好ましく、80~100℃が更に好ましい。ニッケル除去剤の温度を上記範囲とすることにより、アルミニウムの陽極酸化皮膜を有する物品の表面のニッケルをより一層十分に除去することができる。
【0052】
工程2におけるニッケル除去剤のpHは、1~7が好ましく、3~6がより好ましく、4~6が更に好ましい。pHの上限を上記範囲とすることにより、アルミニウムの陽極酸化皮膜を有する物品の表面のニッケルをより一層十分に除去することができ、且つ、アルミニウムの陽極酸化皮膜により一層高い耐食性を付与することができる。また、pHの下限を上記範囲とすることにより、ニッケル除去剤の液安定性がより一層向上する。
【0053】
浸漬時間は特に限定されず、0.5~30分が好ましく、0.5~20分がより好ましく、0.5~10分が更に好ましい。浸漬時間の上限を上記範囲とすることにより、アルミニウムの陽極酸化皮膜により一層高い耐食性及び耐色性を付与することができる。また、浸漬時間の下限を上記範囲とすることにより、アルミニウムの陽極酸化皮膜を有する物品の表面のニッケルをより一層十分に除去することができる。
【0054】
以上説明した工程2により、上記工程1により封孔処理されたアルミニウムの陽極酸化皮膜を有する物品がニッケル除去剤に浸漬されて、アルミニウムの陽極酸化皮膜の表面のニッケルが除去され、且つ、処理されたアルミニウムの陽極酸化皮膜が、優れた耐色性及び耐食性を示す。
【0055】
本発明のニッケル除去方法は、上記工程1及び2の前後、又は、工程1及び2中に、アルミニウムの陽極酸化皮膜を有する物品を水洗する工程を有していてもよい。水洗の方法としては特に限定されず、アルミニウムの陽極酸化皮膜を有する物品を水に浸漬する方法、アルミニウムの陽極酸化皮膜を有する物品に水を吐出して水洗する方法等、従来公知の方法により水洗すればよい。
【0056】
本発明は、また、上記ニッケル除去剤、又は、上記ニッケル除去方法により処理された物品でもある。上記物品は、封孔処理されたアルミニウムの陽極酸化皮膜を有しており、当該封孔処理されたアルミニウムの陽極酸化皮膜が上記ニッケル除去剤、又は、上記ニッケル除去方法により処理されていれば特に限定されない。上記物品としては、例えば、PC筐体、スマートフォン及び携帯電話筐体、デジタルカメラ、アタッシュケース、アルミサッシ、飛行機、自動車、バイク、自転車、電車、釣り具、化粧品キャップ、スポーツ用品、時計等の部品が挙げられる。
【実施例
【0057】
以下に実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明する。但し、本発明は実施例に限定されない。
【0058】
試験片Aの調製(陽極酸化処理及び酢酸ニッケル封孔処理済み試験片)
アルミニウム試験片(JIS A1050 P板材 10cm×5cm)の両面を弱アルカリ性脱脂液(奥野製薬工業(株)製 トップアルクリーン161(商品名)の30g/L水溶液、浴温60℃)に2分間浸漬して脱脂した。次いで、水洗し、硫酸を主成分とする陽極酸化浴(遊離硫酸180g/Lおよび溶存アルミニウム8.0g/Lを含む)を用いて陽極酸化(浴温:20±1℃、陽極電流密度:1A/dm2、電解時間:30分、膜厚:約10μm)を行った。得られた陽極酸化皮膜を染色処理液(奥野製薬工業(株)製 TAC染料 TACブラック415(商品名) 10g/L)に55℃で10分間浸漬し、水洗して染色処理を行った。次いで、酢酸ニッケル封孔処理液(奥野製薬工業(株)製 トップシールDX-500(商品名))に90℃で20分間浸漬し、水洗を行って、酢酸ニッケル封孔処理を施した陽極酸化皮膜である試験片Aを調製した。
【0059】
試験片Bの調製(陽極酸化処理及びフッ化ニッケル封孔処理済み試験片)
アルミニウム試験片(JIS A1050 P板材 10cm×5cm)の両面を弱アルカリ性脱脂液(奥野製薬工業(株)製 トップアルクリーン161(商品名)の30g/L水溶液、浴温60℃)に2分間浸漬して脱脂した。次いで、水洗し、硫酸を主成分とする陽極酸化浴(遊離硫酸180g/Lおよび溶存アルミニウム8.0g/Lを含む)を用いて陽極酸化(浴温:20±1℃、陽極電流密度:1A/dm2、電解時間:30分、膜厚:約10μm)を行った。得られた陽極酸化皮膜を染色処理液(奥野製薬工業(株)製 TAC染料 TACブラック415(商品名)10g/L)に55℃で10分間浸漬し、水洗して染色処理を行った。次いで、フッ化ニッケル封孔処理液(奥野製薬工業(株)製 トップシールL-100(商品名))に25℃で10分間浸漬し、水洗を行って、フッ化ニッケル封孔処理を施した陽極酸化皮膜である試験片Bを調製した。
【0060】
表3及び4に示す配合の各成分を水に順次添加して混合することにより、実施例及び比較例のニッケル除去剤を調製した。調製したニッケル除去剤を用いて、表3及び4に示すpH及び処理温度にて、5分間ニッケル除去処理を行った。
【0061】
上述のニッケル除去剤を用いてニッケル除去処理を施した各実施例及び比較例の試験片を用いて、下記の方法で試験を行った。
【0062】
<ニッケル除去性評価試験>
以下の手順で、ニッケル発色液を用いて試験片の表面のニッケルの残存を確認した。
(1)ジメチルグリオキシム0.8gをメスシリンダーに採取し、エタノールで100mlにメスアップして、試薬Aを調製した。
(2)28%アンモニア水35.7mlをメスシリンダーに採取し、イオン交換水で100mlにメスアップして、試薬Bを調製した。
(3)試薬A及び試薬Bを1:1(体積比)の割合でビーカーに採取し、混ぜ合わせてニッケル発色液を調製した。
(4)ニッケル発色液に綿棒を30秒間浸漬して染み込ませた後、試験片の片面0.5dm2全体を綿棒で擦った。
(5)綿棒の発色度合いを目視で確認し、下記評価基準に従って評価した。なお、赤色の発色が濃い程試験片の表層にニッケルが残存していることを示す。
○:発色しなかった
△:薄い発色が見られた
×:濃い発色が見られた
【0063】
<耐色性試験(塩水噴霧試験(SST))>
スガ試験器(株)製「塩水噴霧試験器」を用い、表1に示す条件下で試験片を放置し、変色が発生するまでの時間を測定した。
【0064】
【表1】
【0065】
<耐食性試験(人工汗試験)>
表2に示す組成で調製した人工汗の酸性液及びアルカリ性液を、それぞれペーパータオルに20ml染み込ませて試験片を梱包した。ビニール袋に入れ、温度55℃、湿度95%の条件下で放置し、腐食が発生するまでの時間を測定した。
【0066】
【表2】
【0067】
試験片Aを用いた試験結果を表3に示し、試験片Bを用いた試験結果を表4に示す。
【0068】
試験片Aを用いた試験結果
【0069】
【表3】
【0070】
表3の結果から明らかなように、バナジウム化合物及びアルミニウム塩を含有する実施例1~19のニッケル除去剤によりニッケル除去処理されたアルミニウム陽極酸化皮膜は、表面のニッケルが十分に除去されており、且つ、優れた耐色性及び耐食性を示すことが確認できた。
【0071】
これに対し、ニッケル除去処理を施さなかった比較例1では、ニッケルの除去ができておらず、ニッケルが試験片の表面に存在することが分かった。
【0072】
また、比較例2~7では、バナジウム化合物及びアルミニウム塩を含有するニッケル除去剤を用いておらず、従来技術のニッケル除去剤によりニッケル除去処理を行ったので、試験片表面のニッケルの除去が可能であるが、試験片の耐色性及び耐食性が低下することが分かった。また、比較例2~7では、強酸性液を用いるため過剰に加温すると陽極酸化皮膜が溶解する。
【0073】
また、比較例8では、バナジウム化合物を含有するが、アルミニウム塩を含有しないニッケル除去剤によりニッケル除去処理を行ったので、試験片表面のニッケルの除去が可能であるが、試験片の耐色性及び耐食性が低下することが分かった。
【0074】
更に、比較例9では、アルミニウム塩を含有するが、バナジウム化合物を含有しないニッケル除去剤によりニッケル除去処理を行ったので、試験片表面のニッケルの除去ができないことが分かった。
【0075】
試験片Bを用いた試験結果
【0076】
【表4】
【0077】
表4の結果から明らかなように、バナジウム化合物及びアルミニウム塩を含有する実施例20~25のニッケル除去剤によりニッケル除去処理されたアルミニウム陽極酸化皮膜は、フッ化ニッケル封孔処理を施した試験片Bを用いた場合であっても、表面のニッケルが十分に除去されており、且つ、優れた耐色性及び耐食性を示すことが確認できた。
【0078】
これに対し、ニッケル除去処理を施さなかった比較例10では、試験片表面のニッケルの除去ができず、試験片の耐色性及び耐食性が低下することが分かった。