(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-08
(45)【発行日】2022-07-19
(54)【発明の名称】計測機能付主軸を備えた工作機械
(51)【国際特許分類】
B23B 31/00 20060101AFI20220711BHJP
B23B 31/12 20060101ALI20220711BHJP
B23Q 17/20 20060101ALI20220711BHJP
【FI】
B23B31/00 D
B23B31/12 Z
B23Q17/20 A
(21)【出願番号】P 2018196258
(22)【出願日】2018-10-18
【審査請求日】2021-09-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000212566
【氏名又は名称】中村留精密工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114074
【氏名又は名称】大谷 嘉一
(72)【発明者】
【氏名】沢田 学
(72)【発明者】
【氏名】西村 尚貢
【審査官】山本 忠博
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-131982(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 31/00,31/06,31/12,
31/26,31/42,
B23Q 17/00,17/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空主軸と、前記中空主軸の先端側
に装着されたチャックと、前記中空主軸の中空部に挿通され、前記チャックの開閉動作を行う操作ロッドとを備え、
前記操作ロッドは軸方向の前後であって、一方に移動すると前記チャックに備えたワークの把持爪が閉じる方向に移動し、
他方に移動すると前記ワークの把持爪が開く方向に移動するものであり、
前記把持爪の開口寸法を前記操作ロッドの移動量にて検出する計測手段を
有し、
前記計測手段は前記把持爪の開口寸法を前記操作ロッドの移動量に変換する演算手段と、前記操作ロッドの移動量を検出するストロークセンサーとを有し、
加工されるワークの種類及びワークの加工部の加工寸法を登録した記憶手段を有し、
前記把持爪を用いて、ワークの外周部又は内周部を把持する際にその径を、又は、ワークの加工部を把持する際にその加工寸法を、計測した測定値と前記記憶手段に記憶されている値との比較手段を有していることを特徴とする工作機械。
【請求項2】
前記計測手段にて計測された計測値を
前記ワークの種類及びワークの加工部毎に時系列に記録する時系列記憶手段を有することで、時系列的な変化を解析可能にしたことを特徴とする請求項
1記載の工作機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークを把持するためのチャックを備えた主軸を有する工作機械に関する。
【背景技術】
【0002】
旋盤や複合加工機等の工作機械の分野にあっては、主軸の先端部にワークを把持するためのチャックが装着されている。
この場合に、主軸として軸方向に中空孔を有する中空主軸を採用し、この中空孔に挿通した操作ロッドの前進及び後退移動により、チャックの開閉動作を行う工作機械が知られている。
本出願人は、この工作機械の主軸に設けられたチャックの開閉機構を利用して、ワークの把持位置及び開放位置を検出することで、ワークの品種が変わったときの段取り作業を容易にするとともに、ワークの把持位置の設定ミスを防止したチャックの開閉制御装置を提案している(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、工作機内の加工工程におけるワークの把持又は引き渡し等の動作に伴い、同時にワークの寸法計測を可能にした工作機械の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る工作機械は、中空主軸と、前記中空主軸の先端側の装着されたチャックと、前記中空主軸の中空部に挿通され、前記チャックの開閉動作を行う操作ロッドとを備え、前記操作ロッドは軸方向の前後であって、一方に移動すると前記チャックに備えたワークの把持爪が閉じる方向に移動し、他方に移動すると前記ワークの把持爪が開く方向に移動するものであり、前記把持爪の開口寸法を前記操作ロッドの移動量にて検出する計測手段を有していることを特徴とする。
ここで、計測手段は前記把持爪の開口寸法を前記操作ロッドの移動量に変換する演算手段と、前記操作ロッドの移動量を検出するストロークセンサーとを有しているのが好ましい。
【0006】
本発明にて用いられるチャックは、同心円状に2~4の複数の把持爪を配置したものや、いわゆるコレットチャック等、操作ロッドの移動に連動して相互の把持爪の間の開口寸法が拡大及び縮小するものであれば、その構造に制限がない。
旋盤等の主軸に装着されるチャックとしては、チャック本体の回転中心に対して傾斜したT形断面溝を有する前後方向移動のガイド部材に沿って、把持爪が中心方向に閉じたり開いたりするスライドカム機構のものや中心内外方向に向けてカムが回動すること、把持爪が中心方向に閉じたり開いたりする回動カム機構のものが例として挙げられる。
また、把持爪でワークの外周部を把持する構造でも把持爪でワークの内側を把持する構造でもよい。
【0007】
本発明に用いられる計測手段は、相互の把持爪間の開口寸法の拡大及び縮小を操作ロッドの移動量の変化にて検出できるストロークセンサーを用いたものであり、その機構に制限はない。
操作ロッドの移動量を検出するストロークセンサーは接触式でも非接触式でもよい。
非接触式のストロークセンサーとしては、操作ロッドに設けた検出用のドグの移動方向と平行に配置したコイルのインダクタンス変化を検出するものや、ドグの移動量を光学的に検出するもの等が例として挙げられる。
【0008】
本発明に係る工作機械は、加工されるワークの種類及びワーク毎の加工寸法を登録した記憶手段を有し、前記把持爪を用いて計測した測定値と前記記憶手段に記憶されている値との比較手段を有するようにすることもできる。
このようにすると、予め登録されているワークの寸法や加工寸法と比較することで、ワークの計測時にワークの着座確認、ワークの加工寸法確認、あるいはチャック,把持爪等の故障を検出することもできる。
本発明においては、計測手段にて計測された計測値を計測目的毎に時系列に記録する時系列記憶手段を有することで、時系列的な変化を解析可能にするのが好ましい。
この計測値には、ワークの外形や加工部分の寸法変化,チャックの開閉速度変化,開閉時間変化等、チャックの操作に関するデータも含まれる。
これらの変化量の解析から、NC指令座標の補正や加工プログラムの変更、あるいは主軸,チャック,工具類等の異常を早期に発見したり、予知するのに応用できる。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る工作機械にあっては、ワークの外周部又は内周部をチャックの複数の把持爪で把持すると同時に、そのワークの寸法を計測することができる。
これにより、予め登録されたワークと一致するか否かの確認もできる。
【0010】
例えば、R主軸とL主軸とを同一軸線上に対向配置した2主軸対向旋盤に本発明を適用すると、例えば一方のL主軸のチャックにワークを把持させて旋削等の加工を行い、次にこの加工したワークの加工部を他方のR主軸のチャックで把持するように引き渡した場合に、それと同時にその加工部の加工寸法を計測確認することができる。
この場合にも予め登録された加工寸法との一致確認もできる。
また、これらの計測値の変化を時系列的に解析可能なので、加工プログラムの変更、工具座標、加工点座標等の補正にも利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明に係る工作機械の構造例を(a)に示し、(b),(c)は操作ロッドとチャックの関係を示す。
【
図2】(a)はワークを把持爪で把持した状態を示す。(b)はワークの着座が不充分な例を示し、(c)はワークの加工寸法を計測している状態を示す。
【
図5】操作ロッドの移動量と把持爪の開口寸法の関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係る工作機械の構造例を以下図に基づいて説明する。
図1(a)は工作機械における主軸の部分を中心に示す。
主軸台に取り付けられた中空部11aを形成した主軸11と、この中空主軸に挿通された操作ロッド12を有する。
主軸11の先端側にはチャック13が装着され、操作ロッド12の軸方向の前進・後退移動により、チャックの把持爪13bの開口寸法D
0が拡大及び縮小する。
本実施例は、チャック13の斜視図を
図1(b)に示し、分解図を
図3に示すように3つの把持爪13bからなる。
チャック本体部13aに、中心部から放射状に3つの略T断面形状からなるスライド溝部113aを形成し、このスライド溝部113aに、把持爪13bを装着してある。
チャック本体部13aの裏面中央側には、操作ロッド12の先端側に連結したスライドカム13cを有する。
スライドカム13cには、3つの把持爪13bに対応した操作溝部113cを有する。
把持爪13bは、チャック本体部13aに形成したスライド溝部113aに沿って、中心方向あるいは外側方向にスライド移動するスライド部113bを有するとともに、スライドカム13cに形成した操作溝部113cに装着され、このスライドカム13cの前進移動又は後退移動により、移動する作用部213bを有している。
これにより、
図1(b),(c)に示すように操作ロッド12が前進(S
1)すると、スライドカム13cが前方に移動し、3つの把持爪13bにて中心側に形成した開口部の開口寸法がD
0からD
1に、この例では開く。
従って、本実施例では操作ロッド12が後退すると、把持爪13bの開口寸法が小さくなり、ワークを把持することになる。
【0013】
操作ロッド12の前進・後退操作は、操作ロッド12の後部側に設けたチャックシリンダー14の油圧制御により行われる。
本実施例では、操作ロッド12のチャックリシンダー14よりさらに、後部側にドグ15を取り付けてあり、このドグ15の位置を電磁式のストロークセンサー16にて検出する例になっている。
【0014】
ストロークセンサー16にて、ドグ15の移動量Sを検出した値と、実際に3つの把持爪13bで形成した開口部の開口寸法Dとの調査結果を
図5のグラフに示す。
図5は、縦軸にドグの移動量、横軸に開口寸法Dのセンサーによる計測値とNC装置のデータから求めた値を示す。
ストロークセンサー16による検出移動量にやや波状の変化が認められるものの、把持爪13bの開口寸法Dの開閉量と比例していることが確認できた。
これにより、チャックの開口寸法をドグの移動量の検出にて求める演算手段を設けることができる。
なお、このストロークセンサー16による移動量変化を、例えば最小二乗法等により、直線近似補正する補正手段を有してもよい。
【0015】
本発明に係る工作機械は、把持爪13bの開口寸法Dが操作ロッド12の移動量と対応していることから、例えば
図2(a)に示すように操作ロッド12をチャックシリンダー14の油圧操作により後退移動すると、3つの把持爪13bにてワークWを把持すると、そのときの開口寸法によりワークWの外径寸法が計測される。
計測値は、工作機械の操作盤等の操作部に表示されるようにする。
また、ワークの種類や素材の外径寸法が予め制御部等に備えた記憶部に格納されている。
チャックがワークWを把持すると、記憶部から表示部に出力表示され、ワークWの計測寸法と比較する比較手段(比較プログラム)を有している。
一致すると、その確認表示がされる。
これに対して、例えば
図2(b)に示すようにワークW
0が正しく着座されていない場合や、ワークと把持爪の間に異物等が存在すると、操作ロッド12のドグ15の移動量S
2の検出により、予め記憶部に登録されていた値と、ワークW
0の外径の計測値にズレが生じることになる。
そのような事態が生じると、比較プログラムにより不一致と判断されることになり、不具合を検知することができる。
同様なことは、チャックや把持爪等の破損等によっても生じることから、工作機械の故障診断システムとしても活用できる。
この記憶部には、各種計測値を時系列に記憶する時系列記憶手段と、その変化量を解析するための解析手段を有する。
これにより、各種データを解析することで必要に応じて、加工プログラムの変更、NC指令座標の補正,変更等も可能である。
【0016】
例えば2主軸対向旋盤を用いて、一方の主軸側でワークの加工を行い、他方の主軸側のチャックにワークを引き渡した状態を
図2(c)に示す。
ワークW
1をチャック13が把持すると同時に、ワークW
1の加工部Pの外径寸法が計測される。
この値を予め登録されている値と比較すると、加工の良否を自動判定することもできる。
【0017】
本発明においてチャック機構に制限はなく、例えば
図4に示すように操作ロッド12に連結された回動カム13dの回動により、把持爪13bが開閉するものでもよい。
【符号の説明】
【0018】
11 主軸
12 操作ロッド
13 チャック
13a チャック本体部
13b 把持爪
14 チャックシリンダー
15 ドグ
16 ストロークセンサー