(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-08
(45)【発行日】2022-07-19
(54)【発明の名称】自閉症スペクトラム障害及び精神疾患改善剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/7004 20060101AFI20220711BHJP
A61P 25/18 20060101ALI20220711BHJP
A61P 25/22 20060101ALI20220711BHJP
C07H 3/02 20060101ALI20220711BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220711BHJP
A23L 33/125 20160101ALI20220711BHJP
【FI】
A61K31/7004
A61P25/18
A61P25/22
C07H3/02
A61P43/00 111
A23L33/125
(21)【出願番号】P 2019567792
(86)(22)【出願日】2018-01-26
(86)【国際出願番号】 JP2018002549
(87)【国際公開番号】W WO2019146082
(87)【国際公開日】2019-08-01
【審査請求日】2021-01-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000188227
【氏名又は名称】松谷化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(72)【発明者】
【氏名】矢田 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 有作
(72)【発明者】
【氏名】須山 成朝
【審査官】井上 能宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-263734(JP,A)
【文献】特許第5330976(JP,B2)
【文献】特開2018-27896(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K、C07H、A23L
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
D-アルロースを有効成分として含む、オキシトシン及び/又はバソプレッシンの脳内分泌
を促進するための薬剤。
【請求項2】
D-アルロースを経口投与することによりオキシトシン及び/又はバソプレッシンの脳内分泌を促進し、それにより社会性行動の障害、不安症及びストレスからなる群より選択される一又は複数の症状を改善するための薬剤。
【請求項3】
D-アルロースを有効成分として含む、オキシトシン及び/又はバソプレッシンの脳内分泌を促進し、それにより社会性行動の障害、不安症及びストレスからなる群より選択される一又は複数の症状を改善するための食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はオキシトシン及び/又はバソプレッシンの分泌促進剤に関する。本発明は、また自閉症スペクトラム障害改善剤又は精神疾患改善剤、並びに社会性行動改善あるいは社会性促進剤あるいは抗不安・抗ストレス効果を奏するサプリメント若しくは機能性食品に関する。
【背景技術】
【0002】
自閉症スペクトラム障害(ASD)とは、精神障害の診断と統計マニュアル第5版(DSM-5)上における、様々な神経発達症(Neurodevelopmental disorder)の分類である。社会的コミュニケーションおよび相互関係における持続的障害と、限定された反復する様式の行動、興味、活動の二つの中核症状を特徴とし、軽度から重度にいたるスペクトラを含む。
ASDに対する治療薬としては、中枢神経刺激薬、抗精神病薬、抗てんかん薬や選択的セロトニン再取り込み阻害薬などが、症状に応じて対症療法として処方されるが、現状では中核症状を改善する有効な薬剤が無い。
オキシトシンは、脳の視床下部により作られるペプチドホルモンであり、分娩を誘導するための子宮収縮刺激や乳汁分泌刺激作用があることが知られている。最近オキシトシンが自閉症スペクトラム障害またはASDの患者において見られる反復行動の発症に、潜在的に寄与しうることが示唆され(例えば非特許文献1)、点鼻投与により自閉症患者の社会性行動向上が報告されている(例えば非特許文献2、3)。
ただし、オキシトシン点鼻投与による治療では、非有効例も報告されており、その効果は限定的である。点鼻はリークが多い投与経路であるため、オキシトシンの血中移行が不安定なことによる可能性がある。また、血中オキシトシンの脳関門通過は極めて微量であるため、脳へのオキシトシンの移行は不安定でかつ微量であることが推測される。さらに、自閉症患者本人又は家族が確実に点鼻投与することは容易であるとは言えない。
バソプレッシンはオキシトシンと同様に、脳の視床下部で合成され、下垂体後葉より血中へ分泌されるペプチドホルモンであり、抗利尿、血圧上昇作用が知られている。一方、脳内の神経伝達物質として機能するバソプレッシンはオキシトシン同様に、統合失調症や自閉症などの精神機能に関連することが知られている(非特許文献4、5)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Eric Hollander, et al., "Oxytocin Infusion Reduces Repetitive Behaviors in Adults with Autistic and Asperger’s Disorders" Neuropsychopharmacology (2003) 28, 193-198
【文献】Yatawara, C.J., et al., "The effect of oxytocin nasal spray on social interaction deficits observed in young children with autism: a randomized clinical crossover trial." Molecular Psychiatry, (2015)
【文献】Watanabe, T., et al., "Clinical and neural effects of six-week administration of oxytocin on core symptoms of autism." Brain: a Journal of Neurology 138(11): 3400-12, (2015)
【文献】江頭伸昭ら、日薬理誌、2009、134、3-7。
【文献】Meyer-Lindenberg A. et al., “Oxytocin and vasopressin in the human brain: social neuropeptides for translational medicine.” Nat Rev Neurosci. 2011, 12(9): 524-38.
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2007-525442号
【文献】特開2014-171392号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、オキシトシン及び/又はバソプレッシンの分泌促進作用を有する薬剤を提供することであり、さらには、オキシトシン及び/又はバソプレッシンの分泌促進作用を有し、それにより自閉症スペクトラム障害を治療しうる薬剤を提供することである。
本発明は、また自閉症スペクトラム障害の治療に有効な新規な薬剤を提供することを目的とする。また、本発明はさらに、新規な精神疾患改善剤を提供することを目的とする。
本発明の更なる目的は、点鼻オキシトシンのような不安定性を克服した自閉症スペクトラム障害の治療薬を提供することである。
本発明の更なる目的は、中枢オキシトシン及び/又はバソプレッシン神経細胞を活性化し、それにより自閉症スペクトラム障害を治療しうる薬剤を提供することである。
本発明の他の目的は、社会性行動改善あるいは社会性促進あるいは抗不安・抗ストレス効果を奏するサプリメント若しくはそのような効果を奏する機能性食品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、希少糖であるD-アルロースをマウスに経口投与すると、社会性行動の改善が見られることを見出した。また、D-アルロースの経口投与により、視床下部が活性化され、室傍核(PVN)と視索上核(SON)及び他の新規な部位のオキシトシンニューロン及びバソプレッシンニューロンが活性化されること、さらに視床下部におけるオキシトシン及びバソプレッシンのmRNAの発現が亢進することも見出した。これらの結果は、D-アルロースの経口投与により、社会性行動向上、抗不安、抗ストレス、学習促進、抗肥満作用などが知られているオキシトシン及び/又はバソプレッシンを産生するニューロンの機能が活性化され、あるいはオキシトシン及び/又はバソプレッシンの分泌が促進されて、自閉症スペクトラム障害を改善し、抗不安、抗ストレス効果を奏することを示している。
【0007】
したがって、本発明は、D-アルロースを有効成分として含む、オキシトシン及び/又はバソプレッシンの分泌促進剤を提供する。
上記態様において、前記分泌促進剤は経口投与剤であることが好ましい。
上記態様において、前記分泌促進剤は、投与に際し、ショ糖あるいはショ糖含有食品と同時に摂取せずに投与することができるため好ましい。
上記態様において、前記分泌促進剤は脳内のオキシトシン及び/又はバソプレッシンニューロンを活性化することができ、または、オキシトシン及び/又はバソプレッシンの分泌を促進することができるため好ましい。
本発明はまた、オキシトシン及び/又はバソプレッシンの分泌促進に使用するためのD-アルロースを提供する。
【0008】
本発明はまた以下の実施態様を提供する。
<1>D-アルロースを有効成分として含む、自閉症スペクトラム障害改善剤。
<2>D-アルロースを有効成分として含む、精神疾患改善剤。
<3>D-アルロースを有効成分として含む、社会性促進又は社会性行動改善剤。
<4>D-アルロースを有効成分として含む、抗不安剤。
<5>D-アルロースを有効成分として含む、抗ストレス剤。
<6>D-アルロースを有効成分として含む、不安低減食品。
<7>D-アルロースを有効成分として含む、ストレス低減食品。
<8>D-アルロースを有効成分として含む、オキシトシン及び/又はバソプレッシンの分泌促進剤。
<9>D-アルロースを経口投与することによりオキシトシン及び/又はバソプレッシンの脳内分泌を促進し、それにより自閉症スペクトラム障害を改善し、又は精神疾患を治療するための、<1>又は<2>に記載の薬剤。
【0009】
また、本発明は以下を提供する。
<10>下記疾患あるいは症状の治療あるいは改善に使用するためのD-アルロース:
(i) 自閉症スペクトラム障害及び精神疾患からなる群より選択される一又は複数の疾患、
(ii) 社会性行動の障害、不安症及びストレスからなる群より選択される一又は複数の症状。
<11>経口投与される、<10>に記載のD-アルロース。
<12>オキシトシン及び/又はバソプレッシンの分泌を促進することにより、前記疾患あるいは症状の治療あるいは改善に使用するための<10>又は<11>に記載のD-アルロース。
【0010】
さらに、本発明は以下を提供する。
<20>有効量のD-アルロースを、下記疾患あるいは症状を有する患者に投与することを含む、下記疾患あるいは症状の治療あるいは改善方法:
(i) 自閉症スペクトラム障害及び精神疾患からなる群より選択される一又は複数の疾患、
(ii) 社会性行動の障害、不安症及びストレスからなる群より選択される一又は複数の症状。
<21>D-アルロースが経口投与される、<20>に記載の方法。
<22>オキシトシン及び/又はバソプレッシン分泌促進剤を患者に投与することにより、下記疾患あるいは症状を治療あるいは改善する方法であって:
(i) 自閉症スペクトラム障害及び精神疾患からなる群より選択される一又は複数の疾患、
(ii) 社会性行動の障害、不安症及びストレスからなる群より選択される一又は複数の症状、
前記オキシトシン及びバソプレッシン分泌促進剤がD-アルロースである、上記方法。
<23>D-アルロースが経口投与される、<22>に記載の方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の薬剤により、ヒトあるいは動物の脳内におけるオキシトシン及び/又はバソプレッシンの分泌を促進させることができる。
本発明により、自閉症スペクトラム障害に対する有効な薬剤を提供することができる。また、本発明はさらに新規な精神疾患改善剤を提供する。
本発明の薬剤は経口投与により効果を奏するため、点鼻オキシトシンのような投与ルートにおける不安定性を克服した自閉症スペクトラム障害の改善剤を提供することができる。
また、本発明の薬剤は、中枢オキシトシン神経細胞を活性化することができるため、点鼻オキシトシンにおける血液脳関門通過の問題を解消しうる。
本発明の他の目的は、社会性行動改善あるいは社会性促進あるいは抗不安・抗ストレス効果を奏するサプリメント若しくはそのような効果を奏する機能性食品を提供することである。
また本発明により、安全性、副作用の問題がなく、さらに経口投与でき、甘みがあるため、子供に摂取しやすい薬剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1A】本発明の薬剤の経口投与により、視床下部の特に室傍核(PVN)、視索上核(SON)、及び新領域において有意にc-Fos発現量を亢進させたことを示す。
【
図1B】マウス視床下部(Bregma-1.22 mm)のアトラスを示す。加えて、本発明で注目する領域名称が存在しない新規領域を図中に四角枠で示す。
【
図1C】本発明薬剤経口投与後のc-Fos免疫染色したマウス視床下部切片の顕微鏡写真を示す。図中の新領域と示す領域にc-Fos陽性(黒点)細胞が観察される。
【
図2A】本発明の薬剤の経口投与により、室傍核(PVN)のオキシトシン(OXT)ニューロンが活性化されたことを示す。薄く灰色に細胞質全体が光っている部分はオキシトシン陽性細胞であり、核内が小さく白く光っている部分はc-Fos蛋白発現を示している。
【
図2B】視床下部室傍核(PVN)オキシトシンニューロン中のc-Fos陽性ニューロンの割合(%)を示す。
【
図2C】本発明の薬剤の経口投与により、室傍核(PVN)のバソプレッシン(AVP)ニューロンが活性化されたことを示す。薄く灰色に細胞質全体が光っている部分はバソプレッシン陽性細胞であり、核内が小さく白く光っている部分はc-Fos蛋白発現を示している。
【
図2D】視床下部室傍核(PVN)バソプレッシンニューロン中のc-Fos陽性ニューロンの割合(%)を示す。
【
図3A】視床下部視索上核(SON)オキシトシン(OXT)及びバソプレッシン(AVP)ニューロンを活性化することを示す。薄く灰色に光っている部分はオキシトシン又はバソプレッシン陽性細胞であり、白く光っている部分は細胞の核に存在するc-Fos蛋白発現を示している。
【
図3B】視床下部視索上核(SON)におけるオキシトシン及びバソプレッシンニューロン中のc-Fos陽性ニューロンの割合(%)を示す。
【
図4A】視床下部新領域のオキシトシン(OXT)(A-C)及びバソプレッシン(AVP)(D-F)ニューロンを活性化することを示す。薄く灰色に光っている部分はオキシトシン又はバソプレッシン陽性細胞であり、白く光っている部分は細胞の核に存在するc-Fos蛋白発現を示している。
図A内のB、Cの拡大図を
図B、
図Cに示す。また、
図D中のE、Fの拡大図を
図E、Fに示す。
【
図4B】視床下部新領域におけるオキシトシン及びバソプレッシンニューロン中のc-Fos陽性ニューロンの割合(%)を示す。
【
図5】本発明の薬剤を投与したマウスの視床下部におけるオキシトシン及びバソプレッシンmRNAの発現変化量を示す。
【
図6A】本発明の薬剤を投与したマウスのオープンフィールドテストの様子を示す。
【
図6B】本発明の薬剤1g/kg及び3g/kgを経口投与したマウスのオープンフィールドテストの結果を示す。
【
図7A】本発明の薬剤を投与したマウスの社会性テストの様子及び結果を示す。
【
図7B】本発明の薬剤1g/kg及び3g/kgを経口投与したマウスの社会性テストの結果(探索行動時間)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<D-アルロース>
本発明の薬剤、サプリメント及び機能性食品の有効成分であるD-アルロースは、六単糖及びケトースに分類される単糖の一種である。また希少糖とも呼ばれる。D-アルロースの甘味度は砂糖の約70%であり、D-フルクトースと類似した上品で爽やかな甘味を有しているが、カロリーはほぼゼロである。
D-アルロースは、従来から公知のどのような由来あるいは形態の製品でも使用することができる。すなわち、その精製度を問わず、ズイナ等の植物から抽出したもの、アルカリ異性化法によりD-グルコースやD-フラクトースを原料に異性化したもの(例えば、松谷化学工業(株)製「レアシュガースウィート」)、微生物又はその組換体から得られる酵素(イソメラーゼやエピメラーゼ等)を利用する酵素法によりD-グルコースやD-フラクトースを原料として異性化したもの(例えば、松谷化学工業(株)製「Astraea Allulose」)などがあり、比較的容易に入手することができる。
【0014】
本発明の薬剤がその効果を発揮するためには、D-アルロースを経口摂取することが特に好ましい。D-アルロースは単独で使用することができ、ショ糖あるいはショ糖含有食品と同時に摂取したり、摂取後に投与する必要はない。
【0015】
<薬剤・サプリメント>
本発明の薬剤・サプリメントの剤型は特に限定されず、例えば、液状、タブレット状、顆粒状、粉末状、カプセル状、ゲル状、ゾル状のいずれであってもよく、また、製剤化は、公知の方法に従って行えばよく、有効成分のD-アルロースをデンプンやカルボキシメチルセルロースなどの薬学的に許容できる担体と混合し、さらに必要に応じて安定剤、賦形剤、結合剤、崩壊剤などを添加することにより行うことができる。
また、経口投与に限らず注射剤、貼付剤、スプレー剤等による非経口投与も挙げられる。また、このような医薬製剤は、一般的賦形剤、安定剤、保存剤、結合剤、崩壊剤等の適当な添加剤を組み合わせて調製することができる。上記医薬品の投与形態のうち、好ましい形態は経口投与である。
【0016】
<機能性食品>
機能性食品の形態としては、特に限定されるものではないが、例えば、プリン、ゼリー、キャンディー、チョコレート、パン、ケーキ、クッキー、饅頭等の菓子類、生クリーム等の卵製品、機能性飲料、乳酸飲料、果汁飲料、炭酸飲料等の飲料、紅茶、インスタントコーヒー等の嗜好品、アイスクリーム、ヨーグルト、チーズ等の乳製品、フラワーペースト、果実のシロップ漬け等のペースト類、ハム、ソーセージ、ベーコン等の畜肉製品、魚肉ハム、魚肉ソーセージ等の水産加工製品、醤油、ソース、ドレッシング等の調味料等に使用することができる。
【0017】
また、流動食、成分栄養食、ドリンク栄養食品、経腸栄養食品等の機能性食品又は栄養補助食品としても使用することができ、その形態は特に限定されるものではないが、例えば、スポーツドリンクの場合は栄養バランス及び風味を良くするために、さらにアミノ酸、ビタミン類、ミネラル類等の栄養的添加物や組成物、香料、色素等を配合することも可能である。
【0018】
<D-アルロースの摂取量、摂取方法>
本発明のD-アルロースを有効成分とする薬剤、サプリメント及び機能性食品の摂取量は、その効果が得られる限り特に限定されるものではないが、例えば、マウスやラットでは、1回につき、体重1kg当たりD-アルロースとして0.07g~5.0gを摂取することが好ましく、より好ましくは、0.1g~4.0g、さらに好ましくは、0.15g~3.5gの範囲であり、よりさらに好ましくは1.2g~3.5gの範囲である。
ヒトに対しては、マウスやラットの摂取量よりも低い摂取量を用いることができ、例えば、10分の1程度の量で使用することができる。例えば、1回につき、体重1kg当たりD-アルロースとして、0.007g~0.5gを摂取することが好ましく、より好ましくは、0.01g~0.4g、さらに好ましくは、0.015g~0.35gの範囲であり、よりさらに好ましくは0.12g~0.35gの範囲である。ヒトの摂取量に関しては、対象者の健康状態、体重、年齢その他の条件も考慮して決定される。例えば、成人(60kg)1人当たり一度に摂取するD-アルロース量は10g~12g(0.17g~0.2g/kg)であってもよい。また、摂取するタイミングは、食前が好ましく、食前1時間以内に摂取することがさらに好ましく、食前15~30分以内に摂取することがより好ましい。
【0019】
<その他の添加物>
特定の実施態様において、第2の活性剤は抗精神病薬、非定型精神病薬、アルツハイマー病の治療に有用な薬剤、又はコリンエステラーゼ阻害剤である。
特定の実施態様において、第2の活性剤は、SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)、TCA(三環系抗うつ剤)、又はMAOI(モノアミン酸化酵素阻害薬)を含むがこれらに限定されない抗うつ剤である。
【0020】
特定の実施態様において、第2の活性剤は、ルラシドン、オランザピン、リスペリドン、アリピプラゾール、アミスルピリド、アセナピン、ブロナンセリン、クロザピン、クロチアピン、イロペリドン、モサプラミン、パリペリドン、クエチアピン、レモキシプリド、セルチンドール、スルピリド、ジプラシドン、ゾテピン、ピマバンセリン、ロキサピン、ドネペジル、リバスチグミン、メマンチン、ガランタミン、タクリン、アンフェタミン、メチルフェニデート、アトモキセチン、モダフィニル、セルトラリン、フルオキセチン、デュロキセチン、ベンラファキシン、フェネルジン、セレギリン、イミプラミン、デシプラミン、クロミプラミン、又はL-ドーパである。
【0021】
本発明のサプリメント及び機能性食品には、D-アルロースの他に水溶性食物繊維を有効成分として含有してもよい。
水溶性食物繊維としてはペクチン、コンニャクマンナン、アルギン酸、グアーガム、寒天などの高粘性食物繊維、あるいは難消化性デキストリン、ポリデキストロース、グアーガム分解物などの低粘性食物繊維が例示される。
これらの中で、効果の観点から、特に難消化性デキストリン、グアーガム加水分解物、ポリデキストロース等が好ましい。
【0022】
これらのうち低粘性食物繊維が、取り扱い及び大腸までの移動時間が短い観点から好ましい。低粘性の水溶性食物繊維とは、50質量%以上の食物繊維を含有し、常温水に溶解して低粘性の溶液、おおむね5質量%水溶液で20mPas以下の粘度を示す溶液となる食物繊維素材を意味する。低粘性食物繊維としてより具体的には、難消化性デキストリン、グアーガム加水分解物、ポリデキストロース(例えばライテスなど)、ヘミセルロース由来の物などが挙げられる。
【0023】
難消化性デキストリンは、各種の澱粉、例えば馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、コーンスターチ、小麦粉澱粉等を130℃以上で加熱分解し、これをアミラーゼで更に加水分解し、常法に従って、必要に応じ脱色、脱塩して製造したものである。食物繊維の平均分子量が500から3000程度、好ましくは1400~2500、さらに好ましくは2000前後である。グルコース残基がα-1,4、α-1,6、β-1,2、β-1,3、β-1,6-グルコシド結合し、還元末端の一部はレボグルコサン(1,6-アンヒドログルコース)である、分岐構造の発達したデキストリンである。「ニュートリオース」(ロケット社製)、「パインファイバー」、「ファイバーソル2」(松谷化学工業株式会社製)の商品名で市販されている(”食品新素材フォーラム”NO.3(1995、食品新素材協議会編))。
【0024】
グアーガムの加水分解物はグアーガムを酵素により加水分解したもので、その性状は通常低粘性で冷水可溶、水溶液は中性で無色透明である。グアーガム加水分解物としては、「サンファイバー」(太陽化学社)、「ファイバロン」(大日本製薬社)の商品名で市販されている。
ヘミセルロース由来の物は、通常コーンの外皮からアルカリで抽出し、精製して製造されたもので、平均分子量は約20万と大きいが、5%水溶液の粘度は10cps程度と低く、水に溶けて透明な液になる。ヘミセルロース由来の物は「セルエース」(日本食品化工社)の商品名で市販されている。
ポリデキストロース(ライテス)はブドウ糖とソルビトールをクエン酸の存在下で液圧加熱して重合させ、精製したものであり、水溶性で低粘性である。「ライテス」(ファイザー社)として市販されている。
これら低粘性の水溶性食物繊維の中でも、難消化性デキストリンが最も効果的で好ましい。
【0025】
<自閉症スペクトラム障害改善剤>
本発明の1つの実施態様は、D-アルロースを有効成分として含む、自閉症スペクトラム障害改善剤である。
自閉症スペクトラム障害(ASD)とは、精神障害の診断と統計マニュアル第5版(DSM-5)上における、様々な神経発達症(Neurodevelopmental disorder)の分類である。社会的コミュニケーションおよび相互関係における持続的障害と、限定された反復する様式の行動、興味、活動の二つの概念を特徴とし、軽度から重度にいたるスペクトラムとして定義される。
本発明の薬剤は、以前のDSM-IV (Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders-IV)では、自閉症、アスペルガー症候群、特定不能の広汎性発達障害、小児期崩壊性障害などと分類されていた、社会的コミュニケーションおよび相互関係における持続的障害を改善する薬剤である。
【0026】
オープンフィールドテスト
遺伝子改変マウスの表現型解析に使用される情動や記憶学習などの高次脳機能を評価するためのテストが従来から開発されており、これらのテストは、ASDの疾患解析や治療剤の開発のために使用されている。
オープンフィールドテスト(Open filed test)は新規環境下での移動距離、立ち上がり回数、常同行動、中央区画滞在時間などを測定し、新規環境における自発的活動性や不安様行動などを評価するテストである。マウスにとって新規で明るい環境であるオープンフィールド内にマウスを入れ、一定時間自由に探索させる。オープンフィールドの形状は円形または正方形で、大きさは正方形の場合には一辺が1mを越えるものから30cm以下のものまでさまざまである。5分程度の実験時間が一般的であり、顕著な過活動や休止状態などはこのような短時間の観察で検出することができる。また、長時間にわたって記録することで、新規環境下での動物の行動の時間経過による変化を観察することができる。マウスは30分から2時間程度でオープンフィールドの環境に馴化するとされているため、30分から3時間の間で実験時間が設定されることが多い。オープンフィールドテストは、遺伝子改変マウスの表現型解析や薬物に対する反応性を検査するためにもよく用いられる。
【0027】
ソーシャル・インタラクション テスト
社会性テスト(ソーシャル・インタラクション テスト(Social interaction test)ともいう)は、社会性を調べるために、初めて遭遇する2個体のマウスを用いたオープンフィールドテストである。基本的な手順としては、1個体のオープンフィールドテストと同じである。ただし、行動観察開始時点で、フィールドの対角にそれぞれマウスを置き、そして、10分間の動画を撮影する。2個体間のにおい嗅ぎ (Sniffing)や毛づくろい(Grooming)、攻撃(Attack)や尾振り回し(Tail-rattling)などの社会的行動頻度や、時間を計測することで、マウスの社会性について評価しようとするものである。
【0028】
自閉症における対人関係及び社会性の障害に対する効果を確認することができるため、オープンフィールドテスト及び社会性試験を組み合わせた結果は、薬剤のASDの改善作用を評価する上で有効である(Silverman, J.L., Yang, M., Lord, C., and Crawley, J.N. (2010). Behavioural phenotyping assays for mouse models of autism. Nat. Rev. Neurosci. 11, 490-502.)。
【0029】
本発明の薬剤を用いてオープンフィールドテスト及び社会性テストを行ったところ、本発明の薬剤を投与したマウスは、生理食塩水を投与したコントロールマウスと比べて優位に不安が減少し(
図6A~6B)、また社交性が優位に亢進したことから(
図7A~7B)、ASDの改善剤として機能することが示唆された。
【0030】
視床下部におけるニューロンの活性化
また、本発明の薬剤のASD改善作用に関連して、本発明の薬剤のオキシトシンニューロン及びバソプレッシンニューロンへの作用を確認する試験を行なった。
下垂体後葉ホルモンとして知られるオキシトシンは、視床下部室傍核(PVN)、視索上核(SON)ニューロンで合成され、その神経終末が下垂体後葉まで投射して血中に分泌され、分娩と射乳を促進することが報告されている。オキシトシンは脳内神経伝達としても機能しており、オキシトシンニューロンの一部は、脳内に投射し、中枢神経機能を発揮する。中枢オキシトシン機能として、社会性行動向上((1)Bales et al., "Long-term exposure to intranasal oxytocin in a mouse autism model", Transl. Psychiatry 2014;4:e480、(2) Huang et. al., "Chronic and acute intranasal oxytocin produce divergent social effects in mice." Neuropsychopharmacology, 2014;39:1102-1114))、抗不安、抗ストレス、学習促進、抗肥満作用などが報告されている(Meyer-Lindenberg A. et al., Nat Rev Neurosci. 2011, 12(9):524-38、Blevins JE and Baskin DG, Physiol Behav. 2015 152(Pt B):438-49)。
バソプレッシンもオキシトシンと同様、視床下部室傍核、視索上核で合成される下垂体後葉ホルモンである。バソプレッシンもオキシトシン同様に、統合失調症や自閉症なのどの精神機能に関連することが知られている(文献:江頭伸昭ら、日薬理誌、2009、134、3-7。Meyer-Lindenberg A. et al., Nat Rev Neurosci. 2011, 12(9):524-38.)。バソプレッシンがオキシトシンと類似の精神機能を有する理由の一つとして、バソプレッシンがその受容体であるバソプレッシン受容体(V1a、V1b、V2)以外にも、オキシトシン受容体に作用しやすいことが考えられる(文献:Koshimazu T. et al., Physiol Rev 92: 1813-1864, 2012)。加えて、中枢に発現するバソプレッシン受容体(V1a、V1b)も社会性行動やうつ、不安などの精神機能に関与することが報告されてきた(Egashira N et al., J Pharmacol Sci. 2009,109,44-49)。
【0031】
本発明の薬剤を経口投与することにより、求心性迷走神経を介して脳へ情報伝達をし、満腹感を誘導し、摂食量を低下させることが知られている(特開2015-164900号)。しかし、本発明の薬剤の経口投与が脳のどの領域に作用するのか、特に視床下部やオキシトシン、バソプレッシンニューロンの関与は全く知られていない。そこで、社会性、不安、ストレス、学習、摂食や代謝に関連する視床下部に注目し、本発明の薬剤の経口投与による視床下部活性化領域を解析した。
本発明の薬剤の経口投与により、視床下部の室傍核(PVN)、視索上核(SON)、及び腹内側核よりさらに腹側に存在するアトラスでは同定されていない新たな領域(新領域)にc-Fosの発現亢進が見られた(
図1A~1D)。
【0032】
本発明の薬剤の経口投与は、室傍核(PVN)オキシトシン(OXT)ニューロンで有意にc-Fos発現量を増加させ、活性化することが分かった(
図2A及び2B)。
図2Aにおいて薄い灰色部分がオキシトシン陽性細胞であり、白く光っている部分がオキシトシン陽性細胞の核内に存在するc-Fos蛋白の発現を意味する。
同様に、本発明の薬剤の経口投与により、室傍核(PVN)のバソプレッシン(AVP)ニューロンが活性化されることが見出された(
図2C及び2D)。
また、本発明の薬剤の経口投与により、視索上核(SON)のオキシトシン及びバソプレッシンニューロンが活性化されることも見出された(
図3A及び3B)。
本発明の薬剤の経口投与により活性化された視床下部の新領域について、まず、この領域に高頻度にオキシトシンとバソプレッシンニューロンが存在することを発見した。そして、本発明の薬剤の経口投与により、この新領域のオキシトシン及びバソプレッシンニューロンを活性化することを発見した(
図4A及び4B)。
【0033】
視床下部におけるオキシトシン/バソプレッシンmRNA発現増強
本発明の薬剤を経口投与すると、オキシトシン及びバソプレッシンの視床下部におけるmRNAの発現がコントロール(生理食塩水投与群)と比べて有意に増強されることが見出された(
図5)。つまり、本発明の薬剤の経口投与により、視床下部におけるオキシトシン及びバソプレッシンの遺伝子発現が亢進しており、これはオキシトシン及びバソプレッシンの合成の促進をもたらし、分泌量の増加の一因になっていると考えられる。
図1~4に示されるように、視床下部の室傍核(PVN)、視索上核(SON)、及び新たな領域(新領域)においてオキシトシン及びバソプレッシンの遺伝子発現の亢進が見られた。ニューロンの初期の活性化(c-Fos発現)によりオキシトシン及びバソプレッシンの遺伝子発現とタンパク合成が促進された可能性が考えられる。
オープンフィールドテスト、ソーシャル・インタラクション テストにおいて見られた本発明の薬剤のASD改善作用は、本発明の薬剤の有する、視床下部におけるオキシトシン及びバソプレッシンニューロンの活性化作用、及びオキシトシン及びバソプレッシンmRNAの発現増強作用に基づくことが推測される。
以上より本発明は、オキシトシン及び/又はバソプレッシンの分泌促進剤を提供する。好ましくは脳内、さらに好ましくは哺乳動物の脳内、特にヒトの脳内、におけるオキシトシン及び/又はバソプレッシンの分泌促進剤である。
【0034】
<精神疾患治療剤>
本発明の他の実施態様は、D-アルロースを有効成分として含む、精神疾患治療剤である。
上述のとおり、本発明の薬剤は、オープンフィールドテスト及び社会性試験において、抗不安及び社会性を亢進する結果を示しており、また、中枢オキシトシンに対して作用することから、オキシトシン活性化が関連する他の精神疾患治療剤としても使用できることが示唆される。
すなわち、社会不安障害、境界性人格障害、統合失調症、記憶障害等の、中枢オキシトシンが関与すると考えられる精神疾患についても、本発明の薬剤により有効に改善しうることが明らかである。
【0035】
<抗不安剤・抗ストレス剤、不安低減食品、ストレス低減食品>
本発明の更なる他の実施態様は、D-アルロースを有効成分として含む、抗不安剤又は抗ストレス剤である。
本発明の他の実施態様は、D-アルロースを有効成分として含む、不安低減食品又はストレス低減食品である。
【0036】
本発明の実施の形態において、疾患が改善又は軽減される期間は特に限定されないが、一時的な改善又は軽減であってもよいし、一定期間の改善又は軽減であってもよい。
【0037】
本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明は実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0038】
実施例1:D-アルロース経口投与における求心性迷走神経と脳の活性化領域の解析
D-アルロースの経口投与によって活性化される脳領域を、神経活性化マーカー(c-Fos)の発現量を免疫染色法にて解析した。c-Fosとは、immediate early geneの1種で、神経の活性化に伴い発現量が上昇する核内タンパク質であり、神経活性化マーカーとして利用できる。
実験動物として、C57BL/6J雄性マウスを用い、個別ケージ内で1週間以上予備飼育及びハンドリングをして環境に順化させた。一晩絶食させたマウスに、生理食塩水、もしくはD-アルロース(1、又は3g/kg)を経口胃内投与後し、投与から90分後に4%パラホルムアルデヒド溶液にて灌流固定し、脳を摘出した。臓器は4%パラホルムアルデヒド溶液にて後固定し、凍結切片標本を作製した。この凍結切片標本を用いてc-Fosの免疫染色を行った。オキシトシン/バソプレッシンとc-Fosとの二重免疫染色の場合は、4%パラホルムアルデヒド、0.2%ピクリン酸混合溶液にて灌流固定及び後固定をした。
【0039】
得られた結果は
図1~4に示されている。
なお、c-FOS発現量の解析実験(
図1A~
図1D)では、生理食塩水群:n=7、1g/kg及び3g/kgD-アルロース群:各n=5のC57BL/6J雄性マウスを用いた。
室傍核(PVN)オキシトシン(OXT)ニューロンにおけるc-Fos陽性ニューロンの解析実験(
図2A及び
図2B)では、生理食塩水群:n=4、3g/kgD-アルロース群:n=6のC57BL/6J雄性マウスを用いた。
室傍核(PVN)のバソプレッシン(AVP)ニューロンにおけるc-Fos陽性ニューロンの解析実験(
図2C及び
図2D)では、生理食塩水群:n=4、3g/kgD-アルロース群:n=6のC57BL/6J雄性マウスを用いた。 室傍核(PVN)オキシトシン(OXT)ニューロン又はバソプレッシン(AVP)ニューロンにおけるc-Fos陽性ニューロンの解析実験(
図3A及び
図3B)では、生理食塩水群:n=4、3g/kgD-アルロース群:n=6のC57BL/6J雄性マウスを用いた。
新領域オキシトシン(OXT)ニューロン又はバソプレッシン(AVP)ニューロンにおけるc-Fos陽性ニューロンの解析実験(
図4A及び
図4B)では、生理食塩水群:n=4、3g/kgD-アルロース群:n=6のC57BL/6J雄性マウスを用いた。
【0040】
得られた結果は平均値及び標準誤差で表し、統計学的検定はunpaired t-testを用い、*は危険率5%未満、**は危険率1%未満で表記した。
(統計学的検定は一元配置分散分析により解析後、control群に対してDunnett‘s検定を行い、*は危険率5%未満、**は危険率1%未満で表記した。)
【0041】
実施例2:D-アルロース経口投与後の視床下部オキシトシン/バソプレッシンmRNA発現変化量の解析
実験動物として、C57BL/6J雄性マウス(生理食塩水群:n=8、D-アルロース群:n=9)を用い、個別ケージ内で1週間以上予備飼育及びハンドリングをして環境に順化させた。一晩絶食させたマウスに、生理食塩水、もしくはD-アルロース(3g/kg)を経口胃内投与し、投与から2時間後に麻酔下にて脳視床下部を摘出した。視床下部のtotal RNAを鋳型としたcDNAを合成した。定量的リアルタムPCR法により、オキシトシンとバソプレッシンのmRNA発現量を定量した。ハウスキーピング遺伝子として36b4を用いた。mRNA発現量はΔΔCt法に準じた。各サンプル中の目的遺伝子発現量は、36b4の発現量で補正し、36b4に対する発現相対量を求めた(ΔCT=36b4のCT値-目的遺伝子のCT値、発現相対量=2ΔCT)。
さらに、生理食塩水群の発現相対量の平均値を1としたmRNA発現量比(D-アルロース群の36b4に対する遺伝子発現相対量の平均値/生理食塩水群の36b4に対する発現相対量の平均値)を求め、D-アルロース投与における遺伝子発現量の変化を解析した。
得られた結果は
図5に示されている。
得られた結果は平均値及び標準誤差で表し、統計学的検定はunpaired t-testを用い、**は危険率1%未満で表記した。
【0042】
実施例3:行動試験
・動物
C57BL/6J雄性マウス(8週齢)を自由摂食下、12時間明暗サイクルのもとで一週間飼育し、オープンフィールド、社会性試験に供した。試験前4日間ハンドリングとゾンデのトレーニングを行った。
【0043】
・オープンフィールド試験
試験開始、30分前にD-アルロース(1g/kg又は3g/kg)又は生理食塩水を、経口投与した。新規環境に対する不安行動を評価するため、マウスに新規飼育ケージ(27x27x20cm
3)内の探索をさせた。5分間の探索時間中の中央領域(9x9cm
3)滞在時間を計測した。n=10で行なったところ、
図6Bに示されるとおり、1g/kgでは有意な結果がでなかったが、3g/kgでは生理食塩水投与群に比べ有意に不安行動が改善されたことが示された(p<0.05 (t-test))。
【0044】
・社会性試験
オープンフィールドテストの30分後に、同性マウスに対する社会性を評価するため、マウスを初対面のマウス(新規マウス)とともに飼育ケージ(27x27x20cm
3)に置き、10分間の探索時間中の新規マウスに対する探索行動の累積時間を計測した。n=10で行なったところ、
図7Bに示されるとおり、1g/kg及び3g/kgの両試験で、生理食塩水投与群に比べ有意に社会性行動が亢進することが示された(p<0.05 (t-test))。
【0045】
オープンフィールド試験の結果、D-アルロース投与群は生理食塩水投与群に比べ有意に探索行動時間が延長された。従って、D-アルロース投与は新規環境不安に対する緩和効果を持つと考えられる。
社会性試験の結果、D-アルロース投与は新規マウスに対する探索行動の累積探索時間の増加を示した。従ってD-アルロースは社会性行動の亢進に作用すると考えられる。