(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-08
(45)【発行日】2022-07-19
(54)【発明の名称】幹細胞由来のエキソソームを有効成分として含む組成物の皮膚バリアの強化ないし機能改善の用途
(51)【国際特許分類】
A61K 35/12 20150101AFI20220711BHJP
A61K 8/98 20060101ALI20220711BHJP
A61Q 19/08 20060101ALI20220711BHJP
A61Q 17/00 20060101ALI20220711BHJP
A61K 9/70 20060101ALI20220711BHJP
A61K 9/107 20060101ALI20220711BHJP
A61K 9/06 20060101ALI20220711BHJP
A61K 9/10 20060101ALI20220711BHJP
A61K 9/12 20060101ALI20220711BHJP
A61K 9/14 20060101ALI20220711BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220711BHJP
【FI】
A61K35/12
A61K8/98
A61Q19/08
A61Q17/00
A61K9/70 401
A61K9/107
A61K9/06
A61K9/10
A61K9/12
A61K9/14
A61P43/00 105
(21)【出願番号】P 2020528409
(86)(22)【出願日】2018-11-13
(86)【国際出願番号】 KR2018013751
(87)【国際公開番号】W WO2019103381
(87)【国際公開日】2019-05-31
【審査請求日】2020-05-25
(31)【優先権主張番号】10-2017-0158950
(32)【優先日】2017-11-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2018-0071805
(32)【優先日】2018-06-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2018-0093873
(32)【優先日】2018-08-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】517421150
【氏名又は名称】エクソコバイオ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】イ,ヨンウォン
(72)【発明者】
【氏名】チョ,ビョンソン
【審査官】辰己 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/072821(WO,A1)
【文献】特開2016-060718(JP,A)
【文献】特開2014-218481(JP,A)
【文献】特開2003-192525(JP,A)
【文献】特開2015-230222(JP,A)
【文献】国際公開第2017/052267(WO,A1)
【文献】BBRC,2017年09月14日,Vol.493,pp.1102-1108
【文献】J. Allergy Clin. Immunol., 2017.09, Vol.140, pp.633-643
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K35/00-35/768
A61K9/00-9/72
A61K8/00-8/99
A61P1/00-43/00
A61Q1/00-19/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト脂肪由来幹細胞由来の
、細胞膜の構造と同じ二重のリン脂質膜からなる小胞体であるエキソソームを有効成分として含
み、皮膚において、セラミドの生成量を増加させることを特徴とする、角質層の多層ラメラ脂質層の皮膚バリアの強
化用組成物。
【請求項2】
皮膚において
、さらにジヒドロセラミド又はスフィンゴ塩基のうちの少なくとも1種の生成量を増加させる、請求項1に記載の角質層の多層ラメラ脂質層の皮膚バリアの強化
用組成物。
【請求項3】
皮膚において、C16セラミド、C18セラミド、C20セラミド、C22セラミド、C24セラミド、又はC24:1セラミドのうちの少なくとも1種の生成量及び総セラミドの生成量を増加させる、請求項
1または2に記載の角質層の多層ラメラ脂質層の皮膚バリアの強
化用組成物。
【請求項4】
皮膚において、C16ジヒドロセラミド、C18ジヒドロセラミド、C22ジヒドロセラミド、C24ジヒドロセラミド、又はC24:1ジヒドロセラミドのうちの少なくとも1種の生成量及び総ジヒドロセラミドの生成量を増加させる、請求項2に記載の角質層の多層ラメラ脂質層の皮膚バリアの強
化用組成物。
【請求項5】
皮膚において、S1P(Sphingosine-1-phosphate)又はスフィンゴシンのうちの少なくとも1種の生成量を増加させる、請求項2に記載の角質層の多層ラメラ脂質層の皮膚バリアの強
化用組成物。
【請求項6】
皮膚において、SPHK1の活性を増加させ、S1Pリアーゼ(S1P lyase)の活性を減少させる、請求項1~5のいずれか一項に記載の角質層の多層ラメラ脂質層の皮膚バリアの強
化用組成物。
【請求項7】
皮膚において、TSLP(Thymic stromal lymphopoietin)、IL-4及びIL-13の生成又は発現を減少させる、請求項1~5のいずれか一項に記載の角質層の多層ラメラ脂質層の皮膚バリアの強
化用組成物。
【請求項8】
薬学組成物である、請求項1~5のいずれか一項に記載の角質層の多層ラメラ脂質層の皮膚バリアの強
化用組成物。
【請求項9】
注射剤である、請求項8に記載の角質層の多層ラメラ脂質層の皮膚バリアの強
化用組成物。
【請求項10】
パッチ、マスクパック、シートマスク、クリーム、トニック、軟膏、懸濁液、乳濁液、ペースト、ローション、ゲル、オイル、パック、スプレー、エアゾール、ミスト、ファンデーション、パウダー、及び油紙で構成された群から選ばれた少なくとも1種の形態に適用することを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の角質層の多層ラメラ脂質層の皮膚バリアの強
化用組成物。
【請求項11】
パッチ、マスクパック又はシートマスクの少なくとも一面に塗布又は浸漬されることを特徴とする、請求項10に記載の角質層の多層ラメラ脂質層の皮膚バリアの強
化用組成物。
【請求項12】
皮膚外用剤又は化粧料組成物である、請求項1~5のいずれか一項に記載の角質層の多層ラメラ脂質層の皮膚バリアの強
化用組成物。
【請求項13】
前記化粧料組成物は、クリーム又はローションである、請求項12に記載の角質層の多層ラメラ脂質層の皮膚バリアの強
化用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、幹細胞由来のエキソソームを有効成分として含む組成物の皮膚バリアの強化ないし機能改善の用途に関する。
【0002】
また、本発明は、前記組成物を含む、皮膚バリアの強化ないし機能改善用薬学組成物、皮膚外用剤及び化粧料組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
皮膚は表皮、真皮、皮下脂肪組織の3つの層から大きく構成されている。表皮(epidermis)は外側から内側に角質層、透明層、顆粒層、基底層に分けられる。表皮の最も外側の層である皮膚角質層(stratum corneum)は、皮膚バリア機能の最も重要な構造であり、無核の平らな角質細胞(corneocytes)と、角質細胞間脂質(SC intercellular lipid)から構成されている。皮膚角質層の角質細胞間にはスフィンゴ脂質(sphingolipids)、リン脂質(phospholipids)、コレステロール硫酸塩(cholesterol sulfate)、中性脂質(neutral lipids)等、様々な種類の脂質が存在し、このような脂質は、角質細胞の間に存在して皮膚水分の蒸発を防止し、外部の刺激や汚染から皮膚を保護する皮膚バリアの機能をする。
【0004】
特に、角質細胞が合成するセラミド、コレステロール、及び脂肪酸のような細胞間脂質で形成された多層ラメラ脂質層(multi lamella lipid layer)又は多層ラメラ構造(multi lamella structure)は皮膚の水分の過剰な損失を防止し、外部のアレルゲンや有害物質が皮膚に浸透することを防止する皮膚バリアの役割をする。セラミドは、N-アシル化スフィンゴイド(N-acylated sphingoid)化合物であって、スフィンゴシン、フィトスフィンゴシン、スフィンガニンというスフィンゴ塩基(sphingoid base)に脂肪酸がアミド結合した物質である。また、角質細胞外皮はインボルクリン(involucrin)、ロリクリン(loricrin)、フィラグリン(filaggrin)などのタンパク質の膜から構成され、セラミドのうちヒドロキシセラミド(hydroxyceramide)は、これらタンパク質に強く結合して皮膚バリアの構造を強固にすることが知られている。したがって、セラミドとヒドロキシセラミドは、多層ラメラ脂質層の皮膚バリアを形成して、タンパク質皮膚バリア構造の強化に寄与するため、セラミド、ヒドロキシセラミド及び/又はスフィンゴ塩基の生成量の増加、これらの合成に関与する酵素活性の増加、及びこれらの分解に関与する酵素活性の減少は、皮膚バリアの強化に寄与するといえる。
【0005】
一方、各種ストレスや環境汚染による皮膚ストレス、頻繁な洗顔及び自然な皮膚の老化、フィラグリン遺伝子(FLG)の機能消失突然変異などの様々な原因により皮膚バリアが損傷されることがある。皮膚バリアが損傷されれば化学物質と微生物が皮膚の中に容易に浸透して皮膚炎、皮膚の乾燥症などを誘発することがある。
【0006】
したがって、皮膚バリアが損傷する前に、皮膚バリアを先に保護、強化ないしは改善するために皮膚バリアの強化又は皮膚保湿のための組成物や機能性化粧品が最近注目を集めている。皮膚バリアの強化ないし機能改善のために、例えば、水分を吸収する性質のあるヒューメクタント(humectant)や、水分蒸発を防止する閉鎖保湿剤(occlusive moisturizer)が使用されている。皮膚バリアがいったん損傷されると、保湿剤を塗っても皮膚バリアが順調に回復されず、ステロイド治療剤を処方するものの、ステロイド治療剤を長期間使用すると、皮膚が萎縮したり、毛細血管が拡張することがあり、むしろ皮膚バリア機能の弱化をもたらすことがある。したがって、皮膚バリアが損傷する前に皮膚バリアの保護、強化ないしは機能改善をすることが重要である。
【0007】
このような問題点を勘案して天然物を用いた皮膚バリアの強化ないし機能改善に対する研究が活発である。このような天然物を原料とする皮膚バリアの強化ないし機能改善用組成物の場合、天然抽出物内の有効成分の含有量が少ない関係で皮膚バリアの強化ないし機能改善効果を得るためには、大量の使用が必要であり、これらのほとんどは、天然物素材という点をマーケティングに活用しているだけであり、皮膚バリアの強化ないし機能改善の実質的効能については、科学的な研究がもっと必要な状況である。
【0008】
一方、幹細胞を用いて皮膚の状態や疾病を改善又は治療しようとする方法が提案されている。胚性幹細胞又は胎児組織由来幹細胞は、分化能及び再生治療能力に優れており、拒否反応が少ないが、倫理的な問題で臨床に適用することができず、腫瘍を形成する危険性がある。これに対する代案として、成体幹細胞を用いて皮膚の状態や疾病を改善又は治療しようとする方法が提案された。しかし、患者自身の成体幹細胞でなく他人の成体幹細胞を用いた場合、移植片対宿主病(graft-versus-host disease)を引き起こす危険性があり、自己成体幹細胞を用いて治療をするためには、患者から成体幹細胞を採取した後、これを培養する過程が必要で、複雑で費用が多くかかるという問題がある。
【0009】
最近では、前述のような幹細胞の問題点を勘案して成体幹細胞を培養して得られた培養液を用いて、皮膚の状態や疾病を改善又は治療しようとする試みがある。しかし、成体幹細胞の培養液には、成体幹細胞が分泌する様々なタンパク質、サイトカイン、成長因子などが含まれているのに対し、細胞が成長して分泌された老廃物、汚染防止のために添加された抗生剤、動物由来の血清等の成分も含まれているので、皮膚に使用する場合、様々な危険にさらされる可能性が高い。
【0010】
最近、細胞分泌物(secretome)に細胞の行動(behavior)を調節する様々な生体活性因子が含まれているという研究が報告されており、特に細胞分泌物内には細胞間シグナル伝達機能を有する「エキソソーム(exosome)」が含まれており、その成分と機能に対する研究が活発に進められている。
【0011】
細胞は、細胞外環境に様々な膜(membrane)タイプの小胞体を放出するが、通常、このような放出小胞体を細胞外小胞(Extracellular vesicles、EVs)と呼んでいる。細胞外小胞は、細胞膜由来小胞体、エクトソーム(ectosomes)、シェディング小胞体(shedding vesicles)、マイクロパーティクル(microparticles)、エキソソーム等と呼ばれており、場合によっては、エキソソームとは区別されて用いられることもある。
【0012】
エキソソームは細胞膜の構造と同じ二重リン脂質膜からなる数十ないし数百ナノメートルの大きさの小胞体で内部にはエキソソームカーゴ(cargo)と呼ばれるタンパク質、核酸(mRNA、miRNA等)などが含まれている。エキソソームカーゴには、広範囲のシグナル伝達要素(signaling factors)が含まれており、これらのシグナル伝達要素は、細胞タイプに特異的で分泌細胞の環境に応じて異なるように調節されることが知られている。エキソソームは細胞が分泌する細胞間のシグナル伝達媒体で、これにより伝達された様々な細胞シグナルは、標的細胞の活性化、成長、移動、分化、脱分化、死滅(apoptosis)、壊死(necrosis)を含む細胞の行動を調節すると知られている。エキソソームは由来した細胞の性質及び状態に応じて特異的な遺伝物質と生体活性因子が含まれている。増殖する幹細胞由来のエキソソームの場合、細胞の移動、増殖及び分化のような細胞行動を調節し、組織再生に関する幹細胞の特性が反映されている(非特許文献1)。
【0013】
しかし、エキソソームを用いた一部疾患の治療に対する可能性の提示など、様々な研究が行われているにもかかわらず、より綿密な臨床及び非臨床研究が必要であり、特にエキソソームが作用する様々な標的を科学的に究明してエキソソームを様々な疾患の治療に応用できる技術の開発が必要な実情である。
【0014】
本発明者らは、皮膚バリアの強化ないし機能改善と関連して、従来知られている保湿剤やステロイド薬に比べて皮膚バリアの強化ないしは機能改善効果に優れ、安全な新素材を開発しようと努力した。そこで、本発明者らは、幹細胞由来のエキソソームの新たな用途について鋭意研究を重ねていたところ、幹細胞培養液から分離されたエキソソームが前述したような幹細胞自体や幹細胞培養液の安全性の問題を解決することができ、皮膚バリアの強化ないし機能改善に効果的であることを確認して、本発明を完成した。
【0015】
一方、前記した背景技術として説明された事項は、本発明の背景に対する理解を進めるためのものであり、本発明の「先行技術」として利用されうるという承認として引用したものではないことを理解しなければならない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0016】
【文献】Nature Review Immunology 2002(2)569-579
【文献】Vasiliy S. Chernyshev et al., “Size and shape characterization of hydrated and desiccated exosomes”, Anal Bioanal Chem, (2015) DOI 10.1007/s00216-015-8535-3
【文献】Journal of Investigative Dermatology(2008)128(1)、79-86
【文献】J Invest Dermatol.2010 Oct、130(10):2472-80
【文献】Arch Pharm Res.2009 Dec、32(12):1795-801
【文献】Proc Natl Acad Sci USA.2016 Mar 8、113(10):E1334-E1342
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明の目的は、幹細胞由来のエキソソームを有効成分として含む組成物の皮膚バリアの強化ないし機能改善の用途を提供することにある。
【0018】
本発明の他の目的は、前記組成物を含む、皮膚バリアの強化ないし機能改善用薬学組成物、皮膚外用剤及び化粧料組成物を提供することにある。
【0019】
本発明のもう一つの目的は、前記組成物を用いて、治療用を除く皮膚バリアの強化ないし機能改善により、哺乳動物の皮膚の状態を調節する美容方法を提供することにある。
【0020】
本発明のもう一つの目的は、前記組成物を用いて、皮膚バリアの機能損傷による皮膚疾患を予防、抑制、緩和、改善、又は治療する方法を提供することにある。
【0021】
しかし、前述したような本発明の課題は例示的なものであり、これにより本発明の範囲が制限されるものではない。また、本発明の他の目的及び利点は、下記の発明の詳細な説明、請求の範囲及び図面によってより明確になる。
【課題を解決するための手段】
【0022】
前記のような目的を達成するために、本発明は、幹細胞由来のエキソソームを有効成分として含む、皮膚バリアの強化ないし機能改善用組成物を提供する。
【0023】
本明細書において、用語「エキソソーム(exosomes)」は、細胞膜の構造と同じ二重のリン脂質膜からなる数十ないし数百ナノメートル(好ましくは約30~200nm)サイズの小胞体を意味する(ただし、分離対象となる細胞の種類、分離方法及び測定方法に従って、エキソソームの粒子サイズは可変でありうる)(非特許文献2)。エキソソームにはエキソソームカーゴ(cargo)と呼ばれるタンパク質、核酸(mRNA、miRNA等)等が含まれている。エキソソームカーゴには広範囲のシグナル伝達要素(signaling factors)が含まれており、これらのシグナル伝達要素は、細胞タイプに特異的で分泌細胞の環境に応じて異なるように調節されることが知られている。エキソソームは細胞が分泌する細胞間のシグナル伝達媒体であり、これにより伝達された様々な細胞シグナルは、標的細胞の活性化、成長、移動、分化、脱分化、死滅(apoptosis)、壊死(necrosis)を含む細胞の行動を調節すると知られている。
【0024】
一方、本明細書で使用される「エキソソーム」という用語は、幹細胞から分泌され、細胞外空間に放出されたナノサイズのベシクル構造を有しており、エキソソームと類似の組成を有するベシクル(例えば、エキソソーム様ベシクル)もすべて含むことを意味する。前記幹細胞の種類は限定されないが、本発明を限定しない一例として、好ましくは、間葉系幹細胞、例えば脂肪、骨髄、臍帯又は臍帯血由来の幹細胞であってもよく、より好ましくは、脂肪由来幹細胞であってもよい。前記脂肪由来幹細胞の種類は、病原体による感染の危険性がなく、免疫拒否反応を起こさないものであれば制限されないが、好ましくはヒト脂肪由来幹細胞であってもよい。
【0025】
しかし、本発明で使用されるエキソソームは、皮膚バリアの強化ないし機能改善に効果があり、人体に不利な作用を引き起こさないものであれば、当業界で使用されているか、今後使用されうる様々な幹細胞由来のエキソソームを使用できることは言うまでもない。したがって、後述する実施例の分離方法によって分離された幹細胞由来のエキソソームは、本発明の組成物に使用することができるエキソソームの一例として理解されるべきであり、本発明はこれに限定されるものではないことを明らかにしておく。
【0026】
本明細書で使用される用語、「皮膚バリア強化ないし機能改善」とは、皮膚角質層(stratum corneum)の皮膚バリア機能を保護、強化ないしは改善することを意味し、真皮や皮下脂肪組織の再生や機能改善を意味しない。たとえば、「皮膚バリアの強化ないし機能改善」は、皮膚角質層の水分減少の防止、例えばTEWL(経皮水分損失)などの皮膚角質層の水分減少指標の改善、皮膚の水分含有量(skin hydration)の増加、セラミド、ジヒドロセラミド及び/又はスフィンゴ塩基の生成量の増加などの皮膚バリア指標の改善により真の意味での皮膚角質層の皮膚バリアの機能の保護、強化、及び/又は改善をもたらすことを意味する。
【0027】
本明細書で使用される用語である「皮膚保湿」とは、皮膚の水分損失(水分蒸発)などを適切に調節して、生体の恒常性を維持することを意味する。「皮膚トラブル」とは、外部からの刺激や身体的変化によって皮膚が赤く変化し、かゆみがあらわれ、ひどい場合、小さな突起や吹き出物などが生じる現象を意味する。
【0028】
幹細胞由来のエキソソームを用いた、限定的なしわ改善及び皮膚再生効果が報告されたことがある。しかし、前記従来技術におけるエキソソームを用いた皮膚再生は、皮膚角質層の皮膚バリアの機能の保護、強化又は改善に関するものではなく、皮下脂肪組織の再生によりしわを改善したり、皮膚の弾力を回復させることに関するものであった。そして幹細胞、幹細胞培養液などを用いて、皮膚の真皮層を再生して創傷を治療し、皮下脂肪組織を再生して皮膚の弾力を改善しようとした試みはあるが、現在までに幹細胞培養液から分離精製されたエキソソームを使用する時に、前述したように定義された「皮膚バリアの強化ないし機能改善」の効果があるものについては公知されたところはなかった。
【0029】
本発明の皮膚バリアの強化ないし機能改善用組成物は、薬学組成物、皮膚外用剤又は化粧料組成物として適用されるとき、有効成分として含有される幹細胞由来のエキソソームが皮膚バリアの強化ないし機能改善に有意な効果を示し、幹細胞自体や幹細胞培養液の安全性の問題を解決することができる。したがって、本発明の皮膚バリアの強化ないし機能改善用組成物に含まれる幹細胞由来のエキソソームは、従来の公知の制限的なしわ改善及び皮膚再生とは全く異なるメカニズムで皮膚バリアの強化ないし機能改善の効能を示し、このような効能は、従来技術からは全く予測できないものであることを明らかにしておく。
【0030】
本発明の一具体例の皮膚バリアの強化ないし機能改善用組成物は、幹細胞由来のエキソソームを有効成分として含む。
【0031】
本発明の一具体例の皮膚バリアの強化ないし機能改善用組成物において、前記エキソソームはTEWL(transepidermal water loss)を減少させ、皮膚の水分含有量(skin hydration)を増加させることを特徴とする。
【0032】
本発明の一具体例の皮膚バリアの強化ないし機能改善用組成物において、前記エキソソームは、皮膚において、セラミド、ジヒドロセラミド又はスフィンゴ塩基のうちの少なくとも1種の生成量を増加させることを特徴とする。
【0033】
具体的には、前記エキソソームは、C16セラミド、C18セラミド、C20セラミド、C22セラミド、C24セラミド、又はC24:1セラミドのうちの少なくとも1種の生成量及び総セラミドの生成量を増加させることができる。また、前記エキソソームは、C16ジヒドロセラミド、C18ジヒドロセラミド、C22ジヒドロセラミド、C24ジヒドロセラミド、又はC24:1ジヒドロセラミドのうちの少なくとも1種の生成量及び総ジヒドロセラミドの生成量を増加させることができる。さらに、前記エキソソームは、S1P(Sphingosine-1-phosphate)又はスフィンゴシンのうちの少なくとも1種の生成量を増加させることができる。
【0034】
本発明の一具体例の皮膚バリアの強化ないし機能改善用組成物において、前記エキソソームは、皮膚において、スフィンゴシンキナーゼ(Sphingosine kinase)であるSPHK1の活性を増加させ、スフィンゴ塩基であるS1P(Sphingosine 1-phosphate)を分解する酵素であるS1Pリアーゼ(S1P lyase)の活性を減少させることができる。
【0035】
本発明の一具体例の皮膚バリアの強化ないし機能改善用組成物において、前記エキソソームは、皮膚において、TSLP(Thymic stromal lymphopoietin)、IL-4及びIL-13の発現又は生成を減少させることができる。
【0036】
本発明の一具体例の皮膚バリアの強化ないし機能改善用組成物は、薬学組成物であってもよい。例えば、前記薬学組成物は、注射剤として製造することができる。
【0037】
本発明の一具体例の皮膚バリアの強化ないし機能改善用組成物は、化粧料組成物又は皮膚外用剤であってもよい。例えば、化粧料組成物は、クリーム又はローションであってもよい。
【0038】
本発明の一具体例の皮膚バリアの強化ないし機能改善用組成物は、様々な原因による皮膚バリア機能の損傷の予防、抑制、緩和又は改善に効果的に使用することができる。
【0039】
本発明の一具体例の皮膚バリアの強化ないし機能改善用組成物は、薬学組成物として製造することができる。本発明の一具体例の皮膚バリアの強化ないし機能改善用組成物が薬学組成物として製造される場合、本発明の一具体例による薬学組成物は、経口又は非経口の様々な剤形であってもよい。
【0040】
本発明の一具体例の薬学組成物は、薬学的に許容可能な担体、賦形剤又は希釈剤等を含むことができる。前記担体、賦形剤及び希釈剤としては、ラクトース、デキストロース、トレハロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、エリスリトール、マルチトール、澱粉、アカシアゴム、アルギン酸塩、ゼラチン、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、セルロース、メチルセルロース、微晶質セルロース(microcrystalline cellulose)、ポリビニルピロリドン、水、メチルヒドロキシベンゾエート、プロピルヒドロキシベンゾエート、タルク、ステアリン酸マグネシウム、及び鉱物油などを挙げることができ、これに限定されない。本発明の一具体例の薬学組成物は、通常の方法によって散剤、丸剤、錠剤、カプセル剤、懸濁剤、エマルジョン、シロップ、顆粒剤、エリキシル剤(elixirs)、エアロゾルなどの経口投与用製剤、外用剤、坐剤、又は滅菌注射溶液の形態に剤形化して使用することができる。
【0041】
本発明の一具体例の薬学組成物の投与は、任意の適切な方法で患者に所定の物質を導入することを意味し、前記薬学組成物の投与経路は、薬物が目的の組織に到達することができる限り、あらゆる一般的な経路を通じて投与することができる。例えば、本発明の一具体例の薬学組成物は、経口又は非経口投与することができ、非経口投与には、経皮投与、腹腔内投与、静脈内投与、動脈内投与、リンパ内投与、筋肉内投与、皮下投与、皮内投与、局所投与、直腸内投与などを挙げことができる。しかし、これに制限されるものではなく、当業界で知られている様々な投与方法を排除しない。また、本発明の一具体例の薬学組成物は、活性物質が標的組織又は細胞に移動することができる任意の装置によって投与することができる。また、本発明の一具体例の薬学組成物の有効量は、治療効果を期待するために投与に要求される量を意味する。
【0042】
本発明の一具体例の薬学組成物の非経口投与用製剤は、滅菌された水溶液、非水性溶剤、懸濁剤、乳剤、凍結乾燥製剤、又は坐剤であってもよい。本発明の一具体例の薬学組成物の非経口投与用製剤は、注射剤として製造されてもよい。本発明の一具体例の注射剤は、水性注射剤、非水性注射剤、水性懸濁注射剤、非水性懸濁注射剤、若しくは溶解又は懸濁して使用する固形注射剤などであってもよいが、これらに限定されるものではない。本発明の一具体例の注射剤は、その種類に応じて注射用蒸留水、植物油(例えば、落花生油、ごま油、ツバキ油等)、モノグリセリド、ジグリセリド、プロピレングリコール、カンフル、安息香酸エストラジオール、次サリチル酸ビスマス、アルセノベンゾールナトリウム、又は硫酸ストレプトマイシンの少なくとも1種を含むことができ、選択的に安定剤や防腐剤を含むことができる。
【0043】
本発明の一具体例の薬学組成物の配合比率は、前述のような追加成分の種類や量、形態などに応じて適当に選択することができる。例えば、注射剤全量に対して、本発明の薬学組成物は、約0.1~99重量%、好ましくは約10~90重量%程度含まれてもよい。また、本発明の一具体例の薬学組成物の適切な投与量は、患者の疾患の種類、疾患の軽重、剤形の種類、製剤化方法、患者の年齢、性別、体重、健康状態、食餌、排泄率、投与時間及び投与方法によって調節することができる。例えば、成人に本発明の一具体例の薬学組成物を投与する場合、一日に0.001mg/kg~100mg/kgの用量で1回~数回に分けて投与することができる。
【0044】
一方、本発明の一具体例の皮膚バリアの強化ないし機能改善用組成物が皮膚外用剤及び/又は化粧料組成物として製造される場合、本発明の効果を損なわない範囲内で、通常、化粧品や皮膚外用剤に用いられる成分、例えば保湿剤、酸化防止剤、油性成分、紫外線吸収剤、乳化剤、界面活性剤、増粘剤、アルコール類、粉末成分、色材、水性成分、水、各種皮膚栄養剤等を必要に応じて適宜配合することができる。
【0045】
また、本発明の一具体例の皮膚外用剤及び/又は化粧料組成物は、幹細胞由来のエキソソーム以外に、その作用(皮膚バリアの強化ないし機能改善等)を損なわない限度で、従来から使用されてきた皮膚バリアの強化ないし機能改善剤及び/又は保湿剤を共に混合して使用することができる。例えば、本発明のエキソソームは、ハイドロゲル、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸塩(例えば、ヒアルロン酸ナトリウム等)、又はヒアルロン酸ゲルのうち少なくとも1種に担持又は混合されてもよい。本発明の一具体例の皮膚外用剤及び/又は化粧料組成物において、前記ハイドロゲルの種類は限定されないが、ゲル化ポリマーを多価アルコールに分散させて得られたハイドロゲルであることが好ましい。前記ゲル化ポリマーは、プルロニック、精製寒天、アガロース、ゲランガム、アルギン酸、カラギーナン、カシアガム、キサンタンガム、ガラクトマンナン、グルコマンナン、ペクチン、セルロース、グアーガム、及びローカストビーンガムからなる群から選ばれた少なくとも1種であってもよく、前記多価アルコールは、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、イソブチレングリコール、ジプロピレングリコール、ソルビトール、キシリトール、及びグリセリンからなる群から選ばれた少なくとも1種であってもよい。
【0046】
本発明の一具体例の皮膚外用剤及び/又は化粧料組成物は、例えば、パッチ、マスクパック、シートマスク、クリーム、トニック、軟膏、懸濁液、乳濁液、ペースト、ローション、ゲル、オイル、パック、スプレー、エアゾール、ミスト、ファンデーション、パウダー、油紙などの様々な形態に適用することができる。例えば、前記皮膚外用剤及び/又は化粧料組成物は、パッチ、マスクパック又はシートマスクの少なくとも一面に塗布又は浸漬することができる。
【0047】
本発明の一具体例の皮膚外用剤が化粧料組成物として製造される場合、皮膚バリアの強化、機能改善及び/又は皮膚の保湿を目的で使用され、化粧品剤形は、当業界で通常的に製造されるいかなる剤形でも製造することができる。例えばパッチ、マスクパック、シートマスク、柔軟化粧水、栄養化粧水、収斂化粧水、栄養クリーム、マッサージクリーム、アイクリーム、クレンジングクリーム、エッセンス、アイエッセンス、クレンジングローション、クレンジングフォーム、クレンジングウォーター、サンスクリーン、口紅、石鹸、シャンプー、界面活性剤含有クレンジング、入浴剤、ボディローション、ボディクリーム、ボディオイル、ボディエッセンス、ボディ洗浄剤、染毛剤、ヘアトニックなどに剤形化することができるが、これに限定されるものではない。
【0048】
本発明の一具体例の皮膚外用剤及び/又は化粧料組成物は、皮膚外用剤及び/又は化粧品に通常的に用いられる成分を含み、例えば抗酸化剤、安定化剤、溶解化剤、ビタミン、顔料、及び香料のような通常の補助剤そして担体を含むことができる。また、皮膚外用剤及び/又は化粧料組成物に対するそれぞれの剤形において、他の成分は、皮膚外用剤及び/又は化粧料組成物の種類又は使用目的などによって、当業者が困難なく、適宜選定して配合することができる。
【0049】
本発明の他の具体例は、前記皮膚バリアの強化ないし機能改善用組成物を用いて、治療用を除く皮膚バリアの強化ないし機能改善により、哺乳動物の皮膚の状態を調節する美容方法を提供する。本発明の美容方法において、皮膚の状態の調節とは、皮膚の状態を改善させて/させたり、皮膚の状態を予防的に調節することを意味し、皮膚の状態の改善とは、皮膚組織の外観及び感じの視覚的並びに/又は触覚的に知覚できる肯定的な変化を意味する。例えば、皮膚の状態の改善とは、皮膚の保湿の向上、皮膚のなめらかさの向上、皮膚乾燥症の予防、皮膚トラブルの予防、皮膚の赤みの減少などであってもよい。
【0050】
本発明の一具体例の美容方法は、(a)前記皮膚バリアの強化ないし機能改善用組成物を哺乳動物の皮膚に直接塗布すること、(b)前記皮膚バリアの強化ないし機能改善用組成物が塗布又は浸漬されたパッチ、マスクパック又はシートマスクを哺乳動物の皮膚に接触又は付着すること、若しくは前記(a)及び(b)を順次行うことを含む。前記(a)ステップでは、前記皮膚バリアの強化ないし機能改善用組成物としてローションやクリームを使用することができる。
【0051】
代案として、本発明の一具体例の美容方法は、(c)前記(b)ステップの後に、前記パッチ、マスクパック又はシートマスクを前記哺乳動物の皮膚から除去し、前記皮膚バリアの強化ないし機能改善用組成物を哺乳動物の皮膚に塗布するステップをさらに含むことができる。前記(c)ステップでは、前記皮膚バリアの強化ないし機能改善用組成物としてローションやクリームを使用することができる。
【0052】
本発明のもう一つの具体例は、前記薬学組成物の治療学的に有効な量を哺乳動物に投与するステップを含む、皮膚バリアの機能の損傷による皮膚疾患を予防、抑制、緩和、改善、又は治療する方法を提供する。前記哺乳動物はヒト、イヌ、ネコ、齧歯類、ウマ、ウシ、サル、又はブタであってもよい。
【発明の効果】
【0053】
本発明の皮膚バリアの強化ないし機能改善用組成物は、皮膚バリアの保護、強化ないし機能の改善に関する客観的指標を改善させる。本発明の皮膚バリアの強化ないし機能改善用組成物は、例えば、TEWL(経皮水分損失)などの皮膚の角質層の水分減少の指標を改善させ、皮膚の水分含有量(skin hydration)を増加させることができる。
【0054】
また、本発明の皮膚バリアの強化ないし機能改善用組成物は、セラミド、ジヒドロセラミド及び/又はスフィンゴ塩基の含有量の増加、これらの合成に関与する酵素活性の増加、及びこれらの分解に関与する酵素活性の減少の効能を示す。
【0055】
それだけでなく、本発明の皮膚バリアの強化ないし機能改善用組成物は、皮膚バリアの損傷と密接な関連があるTSLP、IL-4及びIL-13を減少させ、皮膚バリアに寄与する脂質及びタンパク質が減少する悪循環を阻止して、皮膚バリア機能の回復に寄与することができる。
【0056】
したがって、本発明の皮膚バリアの強化ないし機能改善用組成物は、皮膚バリアの強化ないし機能改善用薬学組成物、皮膚外用剤及び化粧料組成物として有用に使用することができる。
【0057】
一方、前述のような効果によって、本発明の範囲が制限されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【
図1A】本発明の一具体例により得られたエキソソームの物理的特性の分析結果を示したものであり、TRPS(tunable resistive pulse sensing)分析による粒子サイズ分布と粒子数を示す。
【
図1B】本発明の一具体例により得られたエキソソームの物理的特性の分析結果を示したものであり、NTA(nanoparticle tracking analysis)分析による粒子サイズ分布と粒子数を示す。
【
図1C】本発明の一具体例により得られたエキソソームの物理的特性の分析結果を示したものであり、TEM(transmitted electron microscopy)分析による粒子画像を倍率により示す。
【
図1D】本発明の一具体例により得られたエキソソームの物理的特性の分析結果を示したものであり、本発明の一具体例により得られたエキソソームのウエスタンブロットの結果を示す。
【
図1E】本発明の一具体例により得られたエキソソームの物理的特性の分析結果を示したものであり、本発明の一具体例により得られたエキソソームのマーカー分析においてCD63及びCD81のフローサイトメトリー分析の結果を示す。
【
図2】ヒト皮膚繊維芽細胞であるHS68細胞に本発明の一具体例によるエキソソームを処理した後、細胞毒性がないことを確認した結果を示す。
【
図3】RAW264.7細胞に対してLPSと共に、本発明のエキソソームを処理した場合、LPSによって誘導されるTNF-α、IL-6、IL-1β、及びiNOS mRNAの発現量が減少したことを確認したリアルタイムPCRの結果を図示したグラフである。
【
図4】本発明の一具体例によるエキソソームによる、炎症反応の一種であるNO形成の減少効果を確認した実験結果を示す。PBSはリン酸塩緩衝溶液(phosphate-buffered saline)、DEXはデキサメタゾン(dexamethasone)、EXOはエキソソーム、CMは脂肪幹細胞培養液(conditioned media)、CM-EXOはエキソソームが除去された脂肪幹細胞培養液(exosome-depeleted conditioned media)を示す。
【
図5】本発明の一具体例によるエキソソームによる、炎症性サイトカインであるTNF-α形成の減少効果を確認した実験結果を示す。PBSはリン酸塩緩衝溶液(phosphate-buffered saline)、DEXはデキサメタゾン(dexamethasone)、各数字はエキソソーム処理量(μg/mL)を示す。
【
図6A】本発明の一具体例により分離されたエキソソームによるNO形成減少効果と、従来の沈殿法(PPT)によって分離されたエキソソームによるNO形成減少効果を比較した実験結果を示す。従来の沈殿法により分離されたエキソソームのNTA分析結果である。
【
図6B】本発明の一具体例により分離されたエキソソームによるNO形成減少効果と、従来の沈殿法(PPT)によって分離されたエキソソームによるNO形成減少効果を比較した実験結果を示す。本発明の一具体例による方法によって分離精製されたエキソソームのNTA分析結果である。
【
図6C】本発明の一具体例により分離されたエキソソームによるNO形成減少効果と、従来の沈殿法(PPT)によって分離されたエキソソームによるNO形成減少効果を比較した実験結果を示す。NO形成減少効果を比較図示したグラフである。NO形成の減少程度は陽性対照群であるデキサメタゾン(Dex)によるNO形成の減少程度の相対比率(%)で表示した。
【
図7】皮膚バリアの損傷が誘発されたマウスに、本発明の一具体例によるエキソソームを処理した結果、エキソソームの用量依存的にTEWL(transepidermal water loss)が減少することを示すグラフである。
【
図8】皮膚バリアの損傷が誘発されたマウスに、本発明の一具体例によるエキソソームを処理した結果、エキソソームの用量依存的に皮膚の水分含有量(skin hydration)が増加することを示すグラフである。
【
図9】皮膚バリアの損傷が誘発されたマウスの体重を測定した結果、デキサメタゾン処理群では、副作用で体重が減少した一方で、本発明の一具体例によるエキソソームを処理した実験群では、体重がほとんど減少していないことを示すグラフである。
【
図10A】皮膚バリアの損傷が誘発されたマウスに、本発明の一具体例によるエキソソームを処理した結果、皮膚のセラミドの含有量が増加したことを示すグラフである。
【
図10B】皮膚バリアの損傷が誘発されたマウスに、本発明の一具体例によるエキソソームを処理した結果、皮膚のセラミドの含有量が増加したことを示すグラフである。
【
図10C】皮膚バリアの損傷が誘発されたマウスに、本発明の一具体例によるエキソソームを処理した結果、皮膚のセラミドの含有量が増加したことを示すグラフである。
【
図10D】皮膚バリアの損傷が誘発されたマウスに、本発明の一具体例によるエキソソームを処理した結果、皮膚のセラミドの含有量が増加したことを示すグラフである。
【
図10E】皮膚バリアの損傷が誘発されたマウスに、本発明の一具体例によるエキソソームを処理した結果、皮膚のセラミドの含有量が増加したことを示すグラフである。
【
図10F】皮膚バリアの損傷が誘発されたマウスに、本発明の一具体例によるエキソソームを処理した結果、皮膚のセラミドの含有量が増加したことを示すグラフである。
【
図10G】皮膚バリアの損傷が誘発されたマウスに、本発明の一具体例によるエキソソームを処理した結果、皮膚のセラミドの含有量が増加したことを示すグラフである。
【
図11A】皮膚バリアの損傷が誘発されたマウスに、本発明の一具体例によるエキソソームを処理した結果、皮膚のジヒドロセラミドの含有量が増加したことを示すグラフである。
【
図11B】皮膚バリアの損傷が誘発されたマウスに、本発明の一具体例によるエキソソームを処理した結果、皮膚のジヒドロセラミドの含有量が増加したことを示すグラフである。
【
図11C】皮膚バリアの損傷が誘発されたマウスに、本発明の一具体例によるエキソソームを処理した結果、皮膚のジヒドロセラミドの含有量が増加したことを示すグラフである。
【
図11D】皮膚バリアの損傷が誘発されたマウスに、本発明の一具体例によるエキソソームを処理した結果、皮膚のジヒドロセラミドの含有量が増加したことを示すグラフである。
【
図11E】皮膚バリアの損傷が誘発されたマウスに、本発明の一具体例によるエキソソームを処理した結果、皮膚のジヒドロセラミドの含有量が増加したことを示すグラフである。
【
図11F】皮膚バリアの損傷が誘発されたマウスに、本発明の一具体例によるエキソソームを処理した結果、皮膚のジヒドロセラミドの含有量が増加したことを示すグラフである。
【
図12】
図12Aは皮膚バリアの損傷が誘発されたマウスに、本発明の一具体例によるエキソソームを処理した結果、皮膚のスフィンゴ塩基の含有量が増加したことを示すグラフであり、S1P(Sphingosine-1-phosphate)の含有量が増加したこと示す。
図12Bは皮膚バリアの損傷が誘発されたマウスに、本発明の一具体例によるエキソソームを処理した結果、皮膚のスフィンゴ塩基の含有量が増加したことを示すグラフであり、スフィンゴシンの含有量が増加したこと示す。
【
図13】皮膚バリアの損傷が誘発されたマウスに、本発明の一具体例によるエキソソームを処理した結果、皮膚において、SPHK1の活性が増加し、S1Pリアーゼ(S1P lyase)の活性が減少したことを示すグラフである。
【
図14A】各実験群ごとにマウスの背の皮膚組織をH&Eで染色した後に撮影した組織切片の写真である。
【
図14B】各実験群ごとにマウスの耳の厚さを比較したグラフである。
【
図15】各実験群ごとにマウスの皮膚組織をトルイジンブルーで染色した後に撮影した組織切片の写真である。
【
図16】各実験群ごとにマウスの脾臓サイズを比較した写真である。
【
図17】皮膚バリアの損傷が誘発されたマウスに、本発明の一具体例によるエキソソームを処理した結果、皮膚のTSLPレベルが減少したことを示すELISA結果のグラフである。
【
図18】皮膚バリアの損傷が誘発されたマウスに、本発明の一具体例によるエキソソームを処理した結果、皮膚のIL-4レベルが減少したことを示すELISA結果のグラフである。
【
図19】皮膚バリアの損傷が誘発されたマウスに、本発明の一具体例によるエキソソームを処理した結果、皮膚のIL-13レベルが減少したことを示すELISA結果のグラフである。
【
図20】皮膚バリアの損傷時、TSLP、IL-4、IL-13などが増加してTh2タイプのサイトカイン(IL-4及びIL-13)が皮膚バリアに寄与する脂質及びタンパク質を減少させ、皮膚バリアを損傷させる悪循環を繰り返すようになることを説明するダイアグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0059】
以下、本発明を下記の実施例でより詳細に記述する。ただし、下記の実施例は、本発明の内容を例示するものに過ぎず、本発明の権利範囲を制限したり限定するものではない。本発明の詳細な説明及び実施例から、本発明が属する技術分野の通常の技術者が容易に類推できることは本発明の権利範囲に属するものと解釈される。本発明に引用された参考文献は、本発明に参考として統合される。
【0060】
明細書全体で、ある部分がある構成要素を「含む」とするとき、これは特に反対となる記載がない限り、他の構成要素を除外するのではなく、他の構成要素をさらに含みうることを意味する。
【実施例】
【0061】
<実施例1:細胞の培養>
マウスマクロファージ細胞株であるRAW264.7は、韓国細胞株バンクから購入して培養した。細胞培養のために10%ウシ胎児血清(fetal bovine serum:ThermoFisher Scientificから購入)及び1%抗生剤-抗真菌剤(antibiotics-antimycotics:ThermoFisher Scientificから購入)が含有されたDMEM(ThermoFisher Scientificから購入)培地に5%CO2、37℃の条件で継代培養した。
【0062】
ヒト皮膚繊維芽細胞(human dermal fibroblast)であるHS68細胞はATCCから購入し、10%ウシ胎児血清(fetal bovine serum:ThermoFisher Scientificから購入)及び1%抗生剤-抗真菌剤(antibiotics-antimycotics:ThermoFisher Scientificから購入)が含有されたDMEM(ThermoFisher Scientificから購入)培地に5%CO2、37℃の条件で継代培養した。
【0063】
当該発明の属する技術分野で公知の細胞培養方法により、5%CO2、37℃の条件で脂肪由来幹細胞を培養した。次に、リン酸塩緩衝溶液(phosphate-buffered saline)(ThermoFisher Scientificから購入)で洗浄した後、無血清、無フェノールレッド培地に交換して、1日~10日間培養し、その上清(以下、培養液)を回収した。
【0064】
エキソソームの分離過程で粒子サイズ分布が均一で純度の高いエキソソームを得るために培養液にトレハロースを2重量%添加した。トレハロースを添加した後、培養液を0.22μmフィルタでろ過して細胞残骸物、老廃物及び巨大粒子等の不純物を除去した。ろ過された培養液は、すぐに分離過程を経てエキソソームを分離した。また、ろ過された培養液は、冷蔵庫(10℃以下)で保管した後、エキソソーム分離に使用した。また、ろ過された培養液は、-60℃以下の超低温冷凍庫で凍結保管してから解凍した後、エキソソームの分離を行った。その後、培養液からタンジェント流ろ過装置(Tangential Flow Filtration;TFF)を用いて、エキソソームを分離した。
<実施例2:TFF法によるエキソソームの分離及び精製>
実施例1で0.22μmフィルタでろ過された培養液からエキソソームを分離、濃縮、脱塩とバッファー交換(diafiltration)をするためにTFF(Tangential Flow Filtration)法を使用した。TFF法のためのフィルタとしては、カートリッジフィルタ(cartridge filter、別名hollow fiber filter;GE Healthcareから購入)、又はカセットフィルタ(cassette filter;Pall又はSartorius又はMerck Milliporeから購入)を使用した。TFFフィルタは、様々な分画分子量(molecular weight cutoff;MWCO)によって選択されてもよい。選択されたMWCOによって選別的にエキソソームを分離、濃縮し、MWCOよりも小さい粒子やタンパク質、脂質、核酸、低分子化合物等は除去した。
【0065】
エキソソームを分離、濃縮するためにMWCO 100,000Da(Dalton)、300,000Da、又は500,000DaのTFFフィルタを使用した。培養液をTFF法を用いて1/100~1/25程度の体積になるまで濃縮し、MWCOよりも小さい物質は除去してエキソソームを分離した。
【0066】
分離、濃縮されたエキソソーム溶液はTFF法を用いて、さらに脱塩とバッファー交換(diafiltration)を行った。このとき、脱塩とバッファー交換は連続的に実行(continuous diafiltration)又は断続的に実行(discontinuous diafiltration)し、開始体積(starting volume)に対して少なくとも4倍、好ましくは6倍~10倍以上、より好ましくは12倍以上の体積を有する緩衝溶液を用いて行った。緩衝溶液には、粒子サイズ分布が均一で純度の高いエキソソームを得るためにPBSに溶かした2重量%のトレハロースを添加した。
<実施例3:分離されたエキソソームの特性の分析>
分離されたエキソソームは、ナノ粒子トラッキング解析(nanoparticle tracking analysis:NTA;Malvernから購入)、又は可変抵抗パルス検出(tunable resistive pulse sensing:TRPS;Izon Scienceから購入)によって粒子の大きさと濃度を測定した。分離されたエキソソームの均一性と大きさは、透過型電子顕微鏡(transmitted electron microscopy:TEM)を用いて分析した。本発明の一具体例により分離されたエキソソームのTRPS、NTA、TEM分析の結果は、
図1A~
図1Cに示した。
【0067】
図1Dは、本発明の一具体例の分離方法によって分離されたエキソソームに対してウエスタンブロットを行った結果として、CD9、CD63、CD81、及びTSG101マーカーの存在を確認した。各マーカーに対する抗体には、それぞれ抗CD9(Abcamから購入)、抗CD63(System Biosciencesから購入)、抗CD81(System Biosciencesから購入)、及び抗TSG101(Abcamから購入)を使用した。
【0068】
図1Eは、本発明の一具体例の分離方法によって分離されたエキソソームに対してフローサイトメトリーを用いて分析した結果としてCD63及びCD81マーカーの存在を確認した。CD63に対して陽性(positive)であるエキソソームを分離するためにエキソソームヒューマンCD63分離/検出キット(ThermoFisher Scientificから購入)をメーカーの方法に従って使用し、PE―マウス抗ヒトCD63(PE-Mouse anti-human CD63)(BDから購入)及びPE―マウス抗ヒトCD81(PE-mouse anti-human CD81)(BDから購入)を使用してマーカーを染色した後、フローサイトメトリー(ACEA Biosciences)を用いて分析した。
【0069】
一方、本発明で使用される幹細胞由来のエキソソームは、前述のような実施例のエキソソームに制限されるものではなく、当業界で使用されているか、今後使用されうる様々な幹細胞由来のエキソソームを使用できることは言うまでもない。前記実施例により分離された幹細胞由来のエキソソームは、本発明で使用することができる幹細胞由来のエキソソームの一例として理解されるべきであり、本発明はこれに限定されるものではないことを明らかにしておく。
<実施例4:エキソソーム処理による細胞毒性の測定>
ヒト皮膚繊維芽細胞であるHS68細胞で本発明の一具体例の分離方法によって得られたエキソソームの毒性を評価するために、細胞に濃度別にエキソソームを処理し、細胞の増殖率を確認した。HS68細胞を、10%FBSを含むDMEMに懸濁させた後、80~90%の密集度(confluency)を有するように分株し、37℃、5%CO2インキュベーターで24時間培養した。24時間後、培養液を除去し、実施例2で準備されたエキソソームを濃度別に処理して、24~72時間培養しながら細胞生存率を評価した。細胞生存率をWST-1試薬(WST-1 reagent)(Takaraから購入)、MTT試薬(Sigmaから購入)、セルタイターグロ試薬(CellTiter-Glo reagent)(Promegaから購入)、又はアラマールブルー試薬(alamarBlue reagent)(ThermoFisher Scientificから購入)とマイクロプレートリーダー(microplate reader)(Molecular Devicesから購入)を用いて測定した。
【0070】
比較群はエキソソームが処理されていない一般の細胞培養培地で培養された細胞数を基準にしており、試験された濃度範囲内で、本発明のエキソソームによる細胞毒性が示されないことを確認した(
図2)。
<実施例5:マクロファージ細胞株を用いた炎症反応の測定>
RAW264.7細胞を、10%FBSを含むDMEM培地に懸濁させ、これをマルチウェルプレート(multiwell plate)の各ウェルに80~90%の密集度(confluency)を有するように分株した。翌日LPSが含まれた新たな無血清培地に希釈した本発明のエキソソーム(実施例2で準備されたエキソソーム)を適正濃度で1~24時間処理して培養した。培養が終わった培養上清を取り、培養液内に存在するNO及び炎症性サイトカインを測定して炎症反応を確認した。培養液内の炎症反応は、NO検出キット(detection kit)(イントロンバイオもしくはプロメガから購入)を用いて測定した。ELISAキット(R&D systemから購入)メーカーのマニュアル通りに実施して、LPSのみを処理した群と本発明のエキソソームが共に処理された群の炎症性サイトカインTNF-αの量を確認した。陽性対照群としてデキサメタゾン(dexamethasone)(Sigmaから購入)を処理した。また、前記のように処理されたRAW264.7細胞から得られた総RNAからcDNAを製造し、リアルタイムPCR法を用いてiNOS、TNF-α、IL-6及びIL-1βのmRNAの変化量を測定した。前記遺伝子を定量するための標準遺伝子としてGAPDH遺伝子を使用した。リアルタイムPCRに使用したプライマーの種類と配列は下記の表1の通りである。
【0071】
【0072】
まず、
図3に示すように、マウスのマクロファージであるRAW264.7細胞に対してLPSと共に、本発明のエキソソームを処理した場合、LPSによって誘導される炎症性サイトカインであるTNF-α、IL-6及びIL-1βのmRNAの発現量が減少し、NO生成酵素であるiNOSのmRNAの発現量が減少した。次に、
図4に示すように、マウスのマクロファージであるRAW264.7細胞にLPS存在下で、本発明のエキソソームを処理した結果、LPSによって誘導される炎症反応であるNO生成を濃度依存的に減少させることを確認した。また、
図5に示すように、マウスのマクロファージであるRAW264.7細胞にLPS存在下で、本発明のエキソソームを処理した結果、LPSによって誘導される炎症性サイトカインであるTNF-αの生成を減少させることを確認した。
【0073】
このような結果は、本発明のエキソソームが炎症反応による皮膚バリア機能の損傷を予防、抑制、緩和、又は回復させることができることを示唆しており、これにより、本発明の皮膚バリアの強化ないし機能改善用組成物は、皮膚バリア機能の保護、強化又は改善に有用であると期待される。
<実施例6:分離方法によるNO形成の減少効果の比較>
分離方法によるエキソソームのNO形成の減少効果を比較するために、本発明の一具体例のTFF分離精製によって得られたエキソソーム以外に、従来の沈殿法によって分離されたエキソソームを準備した。沈殿法はメーカー(System Biosciences)のプロトコルに基づいて実施した。従来の沈殿法によって分離されたエキソソーム(
図6A参照)は、本発明の一具体例のTFF法によって分離精製されたエキソソーム(
図6B参照)と比較して、粒子サイズ分布の均一性が低く、様々なサイズを有することを確認した。また、
図6Cに示すように、本発明の一具体例のTFF法によって分離精製されたエキソソームは、従来の沈殿法によって得られたエキソソームに比べてはるかに高いレベルでNO形成を抑制することを確認した。このような結果は、本発明の一具体例により分離精製されたエキソソームが、従来の方法により分離されたエキソソームに比べて、粒子サイズ分布の均一性とNO形成抑制の面で優れていることを示している。
【0074】
したがって、本発明の一具体例の分離方法によって得られたエキソソームは、従来の分離方法によって得られたエキソソームと比較して性能や機能的活性(例えば、粒子サイズ分布の均一性、NO生成抑制、炎症反応の減少等)にはるかに優れ、このように機能的活性に優れた幹細胞由来のエキソソームを有効成分として含有する本発明の皮膚バリアの強化ないし機能改善用組成物は、炎症反応による皮膚バリア機能の損傷を予防、抑制、緩和又は回復させる効果の面で従来技術よりもはるかに優れているといえる。
<実施例7:皮膚バリアの損傷が誘発された動物モデル>
皮膚バリア強化ないし機能改善を確認するための動物モデルを確立するためにオキサゾロン(oxazolone)を使用した。オキサゾロンは、皮膚への塗布時に皮膚バリアの機能損傷をもたらすが、TEWL(transepidermal water loss)の増加により示される皮膚角質層の水分減少、皮膚バリアの構造タンパク質であるロリクリン、インボルクリン、フィラグリンの発現の減少、皮膚の角質層のpH増加を誘発し、皮膚バリアの機能が損傷された動物モデルを提供することができる(非特許文献3)。
【0075】
雌SKH-1マウス(5週齢;中央実験動物から購入)を購入して7日間の適応期を通じて本実験に使用した。適応期を経たマウスは皮膚バリアの損傷を誘発した後、次のように、それぞれ6群に分類した。
(1)Normal:正常対照群(
図7で「N」と表記)。
(2)Control(皮膚バリアの損傷誘発群):オキサゾロンにより皮膚バリアの損傷を誘発した陰性対照群(
図7で「C」と表記)。
(3)エキソソーム低用量:オキサゾロンにより皮膚バリアの損傷を誘発した後、実施例2で準備されたエキソソームを個体ごとに1μgの用量で週3回ずつ4週間皮下投与(SC:subcutaneous injection)した実験群(
図7で「L」と表記)。
(4)エキソソーム中用量:オキサゾロンにより皮膚バリアの損傷を誘発した後、実施例2で準備されたエキソソームを個体ごとに3μgの用量で週3回ずつ4週間皮下投与した実験群(
図7で「M」と表記);
(5)エキソソーム高用量:オキサゾロンにより皮膚バリアの損傷を誘発した後、実施例2で準備されたエキソソームを個体ごとに10μgの用量で週3回ずつ4週間皮下投与した実験群(
図7で「H」と表記);
(6)デキサメタゾン:オキサゾロンにより皮膚バリアの損傷を誘発した後、エタノールに溶解させた0.03%デキサメタゾン(Sigmaから購入)を、個体ごとに100μLの用量で週3回ずつ4週間皮下投与した実験群(陽性対照群)(
図7で「D」と表記)。
【0076】
(2)~(6)の各実験群のマウスの背の皮膚(back skin)に2%オキサゾロン(Sigmaから購入)200μLを塗布して感作し、感作後5~7日間の皮膚バリアの回復期間を経た後、約15日間、一日置きに(2)~(6)の各実験群のマウスの背の皮膚に0.025%~0.05%オキサゾロン100μLを塗布して皮膚バリアの損傷を誘発した。また、皮膚バリアの損傷を維持するためにエキソソーム処理期間中に一日置きに(2)~(6)の各実験群のマウスの背の皮膚に0.025%~0.05%オキサゾロン100μLを塗布して処理した。
【0077】
本発明の一具体例のエキソソームが処理される前後に、TEWL測定装置を用いて、皮膚の平均水分蒸発量を測定し、水分測定器(Corneometer CM825)(Courage-Khazaka eletronic GmbH、Germany)を用いて、皮膚の水分含有量を測定した。測定されたマウスの数は、各実験群ごとに12匹であった(n=12)。
【0078】
その結果、疾患対照群(皮膚バリアの損傷誘発群)に比べて、本発明の一具体例のエキソソームが処理された(3)~(5)の実験群においてエキソソームの用量依存的にTEWL(transepidermal water loss)が減少すること、すなわち角質層の水分蒸発量の減少を確認した(
図7)。また、疾患対照群に比べて、本発明の一具体例のエキソソームが処理された(3)~(5)の実験群でエキソソームの用量依存的に皮膚の水分含有量(skin hydration)の増加を確認した(
図8)。したがって、本発明のエキソソームを有効成分として含む組成物は、角質層の水分の蒸発を減少させ、皮膚の保湿を改善させることにより皮膚バリアを保護及び強化することができる。
【0079】
一方、各実験群の体重を測定した結果(n=12)、デキサメタゾンを処理した(6)の実験群では、副作用で体重が減少したが、本発明の一具体例によるエキソソームを処理した(3)~(5)の実験群では、正常対照群に比べて体重がほとんど減少しなかった(
図9)。つまり、皮膚バリアの損傷の回復ないしは緩和のために一般的に使用されるデキサメタゾンが体重減少のような副作用を示す一方で、本発明の一具体例によるエキソソームを有効成分として含む組成物は、皮膚バリアを保護及び強化させながら体重減少のような副作用を減らすことができるという利点がある。
<実施例8:皮膚バリア指標の改善の確認>
実施例7のマウスを犠牲にして、皮膚サンプルを採取した後、各実験群ごとにセラミド、ジヒドロセラミド、スフィンゴシン及びスフィンゴシン-1-リン酸(S1P)の含有量、スフィンゴシンキナーゼ(Sphingosine kinase)であるSPHK1の活性、及びS1P(Sphingosine 1-phosphate)を分解する酵素であるS1Pリアーゼ(S1P lyase)の活性を測定した。測定に使用したマウスの数は各実験群ごとに8匹であった(n=8)。
【0080】
カーボン長ごとにセラミド、総セラミド、スフィンゴシン、及びスフィンゴシン-1-リン酸(S1P)の含有量をLC-MS/MS(API 3200 Triple quadruple mass、AB/SCIEX)を用いて、次のように分析した。全体脂質は、当業界で知られている文献に基づいて抽出した(非特許文献4)。セラミド、スフィンゴシン、及びスフィンゴシン-1-リン酸をOPA(o-phthalaldehyde)試薬で誘導体化し、蛍光検出器が装着されたLC-MS/MSシステムを用いて定量した(非特許文献4~6)。スフィンゴ脂質の含有量は、「pmol/gタンパク質」で表現し、タンパク質定量は、通常のBCA法によって行った。
【0081】
図10A~
図10Gに示すように、疾患対照群に比べて、本発明の一具体例のエキソソームが処理された(3)~(5)の実験群の皮膚組織において、C16セラミド、C18セラミド、C20セラミド、C22セラミド、C24セラミド、C24:1セラミド及び総セラミドの含有量が増加したことを確認できた。また、
図11A~
図11Fに図示されたように、疾患対照群に比べて、本発明の一具体例のエキソソームが処理された(3)~(5)の実験群の皮膚組織において、C16ジヒドロセラミド、C18ジヒドロセラミド、C22ジヒドロセラミド、C24ジヒドロセラミド、C24:1ジヒドロセラミド及び総ジヒドロセラミドの含有量が増加したことを確認できた。それだけでなく、
図12A及び
図12Bに示すように、疾患対照群に比べて、本発明の一具体例のエキソソームが処理された(3)~(5)の実験群の皮膚組織において、スフィンゴシン-1-リン酸(S1P)及びスフィンゴシンの含有量も増加したことを確認できた。
【0082】
一方、スフィンゴシンキナーゼ(Sphingosine kinase)であるSPHK1の活性をLC-MS/MSを用いて次のように分析した。5mM EDTA、5mM EGTA、3mM β-メルカプトエタノール、5%グリセロール、プロテアーゼ阻害剤(Sigma-Aldrich)及びホスファターゼ阻害剤(Roche)を含有する20mMトリス緩衝液(pH7.4)内の皮膚組織破砕物を10μLの200μM C17-スフィンゴシン(SPHK基質)(Avanti Polar Lipids)とともにインキュベーションした。SPHK1活性の評価のために、アッセイバッファーに0.5%トリトンX-100(Triton X-100)を添加し、37℃で30分間インキュベーションした。酵素反応は、CHCl3:MeOH:HCl(8:4:3、v/v/v)の添加により終了させた。C17-スフィンガニン-1-リン酸(100pmol;Avanti Polar Lipids)を内部標準(internal standard)として添加した。CHCl3添加によって分離された有機相(organic phage)を真空下で乾燥し、乾燥物をメタノールに再溶解させた後、LC-ESI-MS/MS(API 3200 Triple quadruple mass、AB/SCIEX)で分析した。SPHK1活性は、「C17-S1P pmol/mgタンパク質/min」で表現し、タンパク質定量は、通常のBCA法によって行った。
【0083】
また、S1Pリアーゼの活性をLC-MS/MSを用いて次のように分析した。皮膚組織破砕物を10nmolのS1P(Avanti Polar Lipids)とともに20分間インキュベーションした。100pmolの(2E)-d5-ヘキサデセナール(hexadecenal)(Avanti Polar Lipids)を内部標準として添加し、脂質抽出によって反応を停止させた。5%ギ酸を含有するメタノール中の5-mMセミカルバジド塩酸塩(semicarbazide hydrochloride)(Avanti Polar Lipids)で全体脂質抽出物を、40℃で2時間誘導体化し、LC-ESI-MS/MSで分析した。S1Pリアーゼ活性は、「ペンタデカナールpmol/mgタンパク質/min」で表現し、タンパク質定量は通常のBCA法によって行った。
【0084】
図13に示すように、疾患対照群に比べて、本発明の一具体例のエキソソームが処理された(3)~(5)の実験群の皮膚組織で、SPHK1の活性増加(28.79%増加)とS1Pリアーゼ(S1P lyase)の活性減少を確認できた。SPHK1は皮膚バリアを構成するスフィンゴ脂質合成に関与する酵素であるため、その活性増加は、セラミドの合成増加及び皮膚バリアの強化を意味する。また、S1Pリアーゼはスフィンゴシン-1-リン酸を分解してスフィンゴ脂質合成を妨害する酵素であるため、その活性減少は、セラミドの合成妨害の減少及び皮膚バリアの強化を意味する。
【0085】
前記のような結果から、本発明の一具体例のエキソソームを有効成分として含む組成物は、皮膚バリア機能の保護、強化、及び/又は改善に関する客観的指標を改善させること、例えばセラミド、ジヒドロセラミド及びスフィンゴ塩基の生成量の増加、これらの合成に関与する酵素活性の増加、及びこれらの分解に関与する酵素活性の減少を示すことがわかる。したがって、本発明の一具体例のエキソソームを有効成分として含む組成物は、皮膚バリアの強化ないし機能改善用薬学組成物、皮膚外用剤及び化粧料組成物として有用に使用することができる。
<実施例9:動物モデルの耳の厚さ及び脾臓サイズの比較>
実施例7のマウスの耳の厚さをキャリパーを用いて測定し、マウスを犠牲にした後、各実験群ごとに当業界に知られているH&E染色によって背の皮膚組織を染色した。各実験群ごとに8匹であった(n=8)。
【0086】
図14Aは、マウスの背の皮膚組織をH&Eで染色した後に撮影した切片の写真であり、
図14Bは、(2)~(6)の各実験群で測定された耳の厚さを(1)の正常群と比較して示したグラフである。疾患対照群に比べて、本発明の一具体例のエキソソームが処理された(3)~(5)の実験群で耳の厚さがエキソソームの用量依存的に減少したことが確認できた。
【0087】
一方、犠牲にしたマウスの皮膚組織をトルイジンブルーで染色した後、炎症細胞の一種であるマスト細胞の浸潤程度を観察した。
図15は、犠牲にしたマウスの皮膚組織をトルイジンブルーで染色した後に撮影した切片の写真であって、本発明の一具体例によるエキソソームが処理された(5)の実験群(エキソソーム高用量処理実験群)においてマスト細胞の浸潤が有意に減少したことが確認できた。一方、陽性対照群であるデキサメタゾンを処理した場合には、マスト細胞の浸潤が減少しなかった。
【0088】
前記の結果は、本発明の一具体例のエキソソームが、炎症反応により表皮の厚さが厚くなることとマスト細胞の浸潤を、抑制ないし緩和させることを示す。
【0089】
また、疾患対照群に比べて、本発明の一具体例のエキソソームが処理された(3)~(5)の実験群で脾臓の大きさがエキソソームの用量依存的に減少したことが確認できた(
図16)。これは、炎症反応ないしは免疫反応と密接な関連がある脾臓のサイズが増加することを、本発明の一具体例のエキソソームが抑制ないし緩和させることを示す。
【0090】
このような実験結果は、本発明の一具体例のエキソソームを含む組成物が、炎症反応及びこれに起因する皮膚バリア機能の損傷を予防、抑制、緩和又は回復させることができることを示唆する。したがって、本発明の皮膚バリアの強化ないし機能改善用組成物は、皮膚バリア機能の保護、強化又は改善に有用であると期待される。
<実施例10:皮膚バリアの損傷と関連が深いサイトカインの減少の確認>
実施例7のマウスを犠牲にして、皮膚のサンプルを採取した後、各実験群ごとにTSLP(Thymic stromal lymphopoietin)、IL-4、IL-13などの皮膚組織内のレベルをELISAで確認した。測定に使用したマウスの数は、各実験群ごとに8匹であった(n=8)。皮膚組織サンプルを氷上の5mL Ripaバッファー(Ripa buffer)(1×プロテアーゼ阻害剤含有)に入れて細かく切った後、4℃で5分間2,000rpmで遠心分離して不純物を除去した。BCAキットでタンパク質を定量し、プロテアーゼ阻害剤含有Ripaバッファーでタンパク質濃度を100μg/mLに調整した後、100μL(10μgタンパク質)をELISA分析に使用した。TSLP ELISAキット、IL-4 ELISAキット及びIL-13 ELISAキット(ThermoFisherから購入)を用いて実験を行い、450nmで吸光度を測定してTSLP、IL-4及びIL-13の組織内レベルを定量した。
【0091】
一方、TSLPは皮膚バリアの損傷時にケラチノサイト(keratinocytes)とマスト細胞(mast cells)から分泌が促進され、抗原提示細胞(樹状細胞及びランゲルハンス細胞など)の成熟に関与する。このように成熟した抗原提示細胞はTh細胞を活性化させ、活性化されたTh細胞は、IL-4、IL-13などのTh2タイプのサイトカインを増加させるが、IL-4及びIL-13は、皮膚バリアに寄与する脂質(例えば、セラミド)及びタンパク質(例えば、フィラグリン、インボルクリン及びロリクリン)を減少させて皮膚バリアをさらに損傷させる悪循環を繰り返すようになる(
図20参照)。したがって、皮膚バリア機能の回復に関与する候補物質がTSLP、IL-4及び/又はIL-13の発現及び/又は生成を減少させると、前記のような悪循環を断ち切ることができ、皮膚バリアの機能回復及び機能強化に寄与するといえる。
【0092】
図17~
図19に示すように、疾患対照群に比べて、本発明の一具体例のエキソソームが処理された(3)~(5)の実験群の皮膚組織において、TSLP、IL-4及びIL-13のレベルが著しく減少したことが確認できた。すなわち、本発明の一具体例のエキソソームは皮膚組織でTSLPレベルを有意に減少させ、これにより抗原提示細胞の成熟を抑制し、Th2の活性化を低下させるといえる。また、本発明の一具体例のエキソソーム処理によるTh2活性化の低下及びこれによるTh2サイトカインであるIL-4及びIL-13の減少は、皮膚バリアに寄与する脂質及びタンパク質が減少する悪循環を阻止して皮膚バリアの機能回復に寄与するといえる。
<実施例11:本発明のエキソソームを含む化粧料組成物の製造>
(ローションの製造)
前記実施例2で準備された1704μg/mLの濃度のエキソソーム原液を希釈して下記表2に記載された成分と混合して懸濁した後、化粧料組成物(ローション)を製造した。最終の化粧料組成物がエキソソームを2×10
4粒子/mLの濃度で含有するように製造した。各成分の含有量は下記表2の通りである。
【0093】
【0094】
(クリームの製造)
前記実施例2で準備された1704μg/mLの濃度のエキソソーム原液を希釈して下記表3に記載された成分と混合して懸濁した後、化粧料組成物(クリーム)を製造した。最終の化粧料組成物がエキソソームを2×104粒子/mLの濃度で含有するように製造した。各成分の含有量は下記表3に示す。
【0095】
【0096】
(マスクパックの製造)
前記実施例2で準備された1704μg/mLの濃度のエキソソーム原液を希釈して下記表4に記載された成分と混合して懸濁した後、得られた化粧料組成物を塗布ないしは浸漬したマスクパックを製造した。エキソソームは4×103粒子/mLの濃度でマスクパックに塗布ないしは浸漬された。各成分の含有量は下記表4の通りである。
【0097】
【0098】
以上、本発明を、前記実施例を挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。当業者であれば、本発明の趣旨及び範囲を逸脱することなく修正、変更をすることができ、このような修正と変更も本発明に属するものであることがわかるであろう。
【配列表】