(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-08
(45)【発行日】2022-07-19
(54)【発明の名称】ニトロフェノール化合物又はその塩を含有する果実の尻腐れ抑制剤
(51)【国際特許分類】
A01N 33/22 20060101AFI20220711BHJP
A01P 21/00 20060101ALI20220711BHJP
A01G 22/05 20180101ALI20220711BHJP
A01G 7/06 20060101ALI20220711BHJP
【FI】
A01N33/22
A01P21/00
A01G22/05 Z
A01G7/06 A
(21)【出願番号】P 2021513630
(86)(22)【出願日】2020-04-06
(86)【国際出願番号】 JP2020015572
(87)【国際公開番号】W WO2020209231
(87)【国際公開日】2020-10-15
【審査請求日】2021-07-14
(31)【優先権主張番号】P 2019073213
(32)【優先日】2019-04-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】310022224
【氏名又は名称】OATアグリオ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100183461
【氏名又は名称】福島 芳隆
(72)【発明者】
【氏名】木藤 圭次郎
(72)【発明者】
【氏名】山本 義紀
【審査官】高橋 直子
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第104628481(CN,A)
【文献】特許第6377834(JP,B1)
【文献】特表2017-500280(JP,A)
【文献】特開2019-112349(JP,A)
【文献】国際公開第2018/070459(WO,A1)
【文献】特開平11-29415(JP,A)
【文献】特開2019-38742(JP,A)
【文献】特開2010-280677(JP,A)
【文献】MCCLELLAN, W. D. et al.,Results with fruit diseases,The Plant Disease Reporter,1950年,192,139-53
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 33/22
A01P 21/00
A01G 22/05
A01G 7/06
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニトロフェノール化合物又はその塩を含有する果実の尻腐れ抑制剤。
【請求項2】
尻腐れ症状の発生率低下、品質を向上、又は収量を増加させる、請求項1に記載の果実の尻腐れ抑制剤。
【請求項3】
ニトロフェノール化合物又はその塩を施用することを含む、果実の尻腐れ抑制方法。
【請求項4】
果実の尻腐れを抑制するための、ニトロフェノール化合物又はその塩の使用方法。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の果実の尻腐れ抑制剤を、植物又はその根圏に処理する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニトロフェノール化合物又はその塩を含有する果実の尻腐れ抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ナス科植物の果実の尻腐れは、果実の先端部分が腐食する重要な生理障害の一つであり、これまでにも数多くの研究がなされてきた。一般に、この尻腐れの原因は、果実内のカルシウム濃度が不十分であることによって引き起こされることが知られている。したがって、これまでにも、苦土石灰、水溶性カルシウム等のカルシウム肥料を用いて、尻腐れを予防することは行われている。
【0003】
しかしながら、その尻腐れの発生要因については、未だ十分に解明されておらず、例えば、土壌養分の過不足、水分欠乏、植物体の生長状態、取り巻く環境条件に応じても発生する。
【0004】
したがって、単に、カルシウム(石灰)を土壌中に施用するだけでは、トマトの尻腐れを抑制することができないという問題があった。
【0005】
そこで、例えば、特許文献1では、甜菜からの甜菜糖産出の際に生産される、糖類、有機酸類、アミノ酸類及びベタインを含有する製糖副産品を含有する、トマトの尻腐れ症状の発生率低下若しくは緩和、収量増加、又は糖度向上用組成物が開示されている。
【0006】
しかしながら、この特許文献1に記載の製糖副産品は、甜菜から砂糖を回収した後の糖液から、さらに、クロマトグラフィー、イオン交換樹脂等を用いて精製、回収した廃液であって、精製工程が非常に煩雑で、コストが高いものであると考えられた。
【0007】
そこで、簡便な製造方法で得られ、安価で、かつ、優れた効果を示す尻腐れ抑制剤の開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、新規な果実の尻腐れ抑制剤の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、ニトロフェノール化合物又はその塩が、果実の尻腐れを抑制させることを見出した。本発明は、このような知見に基づき完成されたものである。
【0011】
すなわち、本発明は、下記のニトロフェノール化合物又はその塩を含有する尻腐れ抑制剤等に関する。
項1.
ニトロフェノール化合物又はその塩を含有する果実の尻腐れ抑制剤。
項2.
尻腐れ症状の発生率低下、品質を向上、又は収量を増加させる、項1に記載の果実の尻腐れ抑制剤。
項3.
前記ニトロフェノール化合物が、1つ以上のニトロ基及び1つ以上の水酸基を有する化合物である、項1又は2に記載の果実の尻腐れ抑制剤。
項4.
前記ニトロフェノール化合物又はその塩が、一般式(1):
【化1】
(式中、Rは、水素原子、ハロゲン原子、C
1~6アルキル基、C
1~6ハロアルキル基、C
1~6アルコキシ基、C
1~6ハロアルコキシ基、C
2~6アルケニル基、C
2~6ハロアルケニル基、C
2~6アルケニルオキシ基、C
2~6ハロアルケニルオキシ基、C
2~6アルキニル基、C
2~6ハロアルキニル基、C
2~6アルキニルオキシ基、又はC
2~6ハロアルキニルオキシ基を示す。
xは1~5の整数を示す。yは0~4の整数を示す。zは1~5の整数を示す。
yが2~4の整数の場合、2~4個のR基は、それぞれ同一又は異なっていてもよい。)
で表されるニトロフェノール化合物又はその塩である、項1~3の何れか一項に記載の果実の尻腐れ抑制剤。
項5.
前記ニトロフェノール化合物又はその塩が、
下記一般式(2):
【化2】
(式中、R
1、R
2、R
3、R
4、及びR
5基は、同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、ニトロ基、C
1~6アルキル基、C
1~6ハロアルキル基、C
1~6アルコキシ基、C
1~6ハロアルコキシ基、C
2~6アルケニル基、C
2~6ハロアルケニル基、C
2~6アルケニルオキシ基、C
2~6ハロアルケニルオキシ基、C
2~6アルキニル基、C
2~6ハロアルキニル基、C
2~6アルキニルオキシ基、又はC
2~6ハロアルキニルオキシ基を示す。
ここで、R
1、R
2、R
3、R
4、及びR
5基のうち、少なくとも1個の基は、ニトロ基を示す。)
で表されるニトロフェノール化合物又はその塩である、項1~4の何れか一項に記載の果実の尻腐れ抑制剤。
項6.
前記果実が、ナス科植物である、項1~5の何れか一項に記載の果実の尻腐れ抑制剤。
項7.
前記ナス科植物が、トマト、ナス、又はピーマンである、項6に記載の果実の尻腐れ抑制剤。
項8.
前記ナス科植物が、トマトである、項6又は7に記載の果実の尻腐れ抑制剤。
項9.
ニトロフェノール化合物又はその塩を施用することを含む、果実の尻腐れ抑制方法。
項10.
ニトロフェノール化合物又はその塩を、植物又はその根圏に処理することを含む、果実の尻腐れ抑制方法。
項11.
ニトロフェノール化合物又はその塩を施用することを含む、果実の尻腐れ症状の発生率低下、品質を向上、又は収量の増加方法。
項12.
ニトロフェノール化合物又はその塩を、植物又はその根圏に処理することを含む、果実の尻腐れ症状の発生率低下、品質を向上、又は収量の増加方法。
項13.
果実の尻腐れを抑制するための、ニトロフェノール化合物又はその塩の使用方法。
項14.
果実の尻腐れ症状の発生率低下、品質を向上、又は収量の増加するための、ニトロフェノール化合物又はその塩の使用方法。
項15.
項1~8の何れか一項に記載の果実の尻腐れ抑制剤を、植物又はその根圏に処理する方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ニトロフェノール化合物又はその塩が、果実の尻腐れを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本発明の尻腐れ抑制剤を用いた処理区A~F(実施例1~6)及び対照区(比較例1)について、5段目までの積算尻腐れ発生個数(個)を示した図である。
【
図2】
図2は、本発明の尻腐れ抑制剤を用いた処理区G及びJ(実施例7及び8)並びに対照区(比較例2)について、収穫段数ごと(2段及び6段)の果実中水溶性カルシウム濃度を示した図である。
【
図3】
図3は、本発明の尻腐れ抑制剤を用いた処理区H(実施例9)及び対照区(比較例3)について、調査果房段数ごとの尻腐れ発生率を示した図である。
【
図4】
図4は、本発明の尻腐れ抑制剤を用いた処理区I(実施例10)及び対照区(比較例4)について、調査果房段数ごとの尻腐れ発生率を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
1.果実の尻腐れ抑制剤
本発明の果実の尻腐れ抑制剤(単に、「尻腐れ抑制剤」又は「本発明の尻腐れ抑制剤」ということもある。)は、ニトロフェノール化合物又はその塩を含有する。また、本発明の尻腐れ抑制剤は、ナス科植物の果実の尻腐れ防止剤、ナス科植物の果実の尻腐れ減少剤、ナス科植物の果実の尻腐れ発生率低下剤、ナス科植物の果実の品質向上剤、又はナス科植物の果実の収量向上剤、ナス科植物の果実の収量増加剤と言い換えることもできる。
【0015】
ニトロフェノール化合物又はその塩
本明細書において、ニトロフェノール化合物は、1つ以上のニトロ基及び1つ以上の水酸基(OH基)を有した芳香環化合物をいう。該ニトロフェノール化合物には、ニトロ基を1つ有しているフェノール化合物、及びニトロ基を2つ以上有しているフェノール化合物が含まれる。さらに、これらのフェノール化合物には、水酸基を1つ有するものと、水酸基を2つ以上有するものが存在する。よって、本明細書におけるニトロフェノール化合物には、1つのニトロ基及び1つの水酸基を有する芳香環化合物、1つのニトロ基及び2つ以上の水酸基を有する芳香環化合物、2つ以上のニトロ基及び1つの水酸基を有する芳香環化合物、及び2つ以上のニトロ基及び2つ以上の水酸基を有する芳香環化合物のいずれもが含まれる。
前記ニトロフェノール化合物を構成する芳香環としては、特に限定はなく、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環等が挙げられる。
【0016】
該ニトロフェノール化合物には、さらに、上記ニトロ基及び水酸基以外の置換基を有していてもよい。
置換基としては、特に限定はなく、例えば、ハロゲン原子、C1~6アルキル基、C1~6ハロアルキル基、C1~6アルコキシ基、C1~6ハロアルコキシ基、C2~6アルケニル基、C2~6ハロアルケニル基、C2~6アルケニルオキシ基、C2~6ハロアルケニルオキシ基、C2~6アルキニル基、C2~6ハロアルキニル基、C2~6アルキニルオキシ基、C2~6ハロアルキニルオキシ基等が挙げられる。
【0017】
本明細書におけるニトロフェノール化合物は、塩を形成していてもよい。すなわち、本発明の尻腐れ抑制剤は、ニトロフェノール化合物だけでなく、ニトロフェノール化合物の塩であってもよい。
【0018】
本明細書における塩としては、特に限定はなく、例えば、アルカリ金属塩(ナトリウム塩、カリウム塩等)、アルカリ土類金属塩(カルシウム塩、マグネシウム塩等)、アンモニウム塩(アンモニア;モルホリン、ピペリジン、ピロリジン、低級モノ、ジ又はトリアルキルアミン、低級モノ、ジ又はトリヒドロキシアルキルアミン等の有機アミン等)等が挙げられる。好ましいニトロフェノール化合物の塩は、農芸化学的に許容される塩であり、より好ましくはアルカリ金属塩である。
【0019】
前記ニトロフェノール化合物の中で、ニトロ基を1つ有しているフェノール化合物が好ましい。また、前記ニトロフェノール化合物を構成する芳香環は、ベンゼン環であることが好ましい。
【0020】
前記ニトロフェノール化合物のうち、芳香環がベンゼン環であるニトロフェノール化合物としては、例えば、下記一般式(1):
【化3】
(式中、Rは、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、ニトロ基、C
1~6アルキル基、C
1~6ハロアルキル基、C
1~6アルコキシ基、C
1~6ハロアルコキシ基、C
2~6アルケニル基、C
2~6ハロアルケニル基、C
2~6アルケニルオキシ基、C
2~6ハロアルケニルオキシ基、C
2~6アルキニル基、C
2~6ハロアルキニル基、C
2~6アルキニルオキシ基、又はC
2~6ハロアルキニルオキシ基を示す。
xは1~5の整数を示す。yは0~4の整数を示す。zは1~5の整数を示す。
yが2~4の整数の場合、2~4個のR基は、それぞれ同一又は異なっていてもよい。)
で表されるニトロフェノール化合物又はその塩等が挙げられる。
【0021】
上記一般式(1)で表されるニトロフェノール化合物には、ニトロ基を1つ有している(x=1)フェノール化合物(モノ-ニトロフェノール類)、及びニトロ基を2つ以上有している(x≧2)フェノール化合物(マルチ-ニトロフェノール類)が含まれる。さらに、ニトロ基を1つ有しているフェノール化合物(モノ-ニトロフェノール類)には、1つのニトロ基及び1つの水酸基を有する(x=1及びz=1)ベンゼン(モノ-ニトロフェノール)、1つのニトロ基及び2つ以上の水酸基を有する(x=1及びz≧2)ベンゼン(モノ-ニトロポリフェノール)が含まれる。また、ニトロ基を2つ以上有しているフェノール化合物(マルチ-ニトロフェノール類)には、2つ以上のニトロ基及び1つの水酸基を有する(x≧2及びz=1)ベンゼン(マルチ-ニトロフェノール)、及び2つ以上のニトロ基及び2つ以上の水酸基を有する(x≧2及びz≧2)ベンゼン(マルチニトロポリフェノール)を含まれる。これらの中で、ニトロ基を1つ有しているフェノール化合物が好ましい。
【0022】
さらに、上記ニトロフェノール化合物としては、下記一般式(2):
【化4】
(式中、R
1、R
2、R
3、R
4、及びR
5基は、同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、ニトロ基、C
1~6アルキル基、C
1~6ハロアルキル基、C
1~6アルコキシ基、C
1~6ハロアルコキシ基、C
2~6アルケニル基、C
2~6ハロアルケニル基、C
2~6アルケニルオキシ基、C
2~6ハロアルケニルオキシ基、C
2~6アルキニル基、C
2~6ハロアルキニル基、C
2~6アルキニルオキシ基、又はC
2~6ハロアルキニルオキシ基を示す。
ここで、R
1、R
2、R
3、R
4、及びR
5基のうち、少なくとも1個の基は、ニトロ基を示す。)
で表されるニトロフェノール化合物又はその塩等が挙げられる。
【0023】
上記一般式(2)で表されるニトロフェノール化合物には、ニトロ基を1つ有している(R1、R2、R3、R4、及びR5基のうち、いずれか1個の基が、ニトロ基である)フェノール(モノ-ニトロフェノール)、及びニトロ基を2つ以上有している(R1、R2、R3、R4、及びR5基のうち、2個以上の基が、ニトロ基である)フェノール(マルチ-ニトロフェノール)が含まれる。
【0024】
本明細書における各基について以下説明する。
【0025】
ハロゲン原子としては、特に限定はなく、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。
【0026】
C1~6アルキル基としては、特に限定はなく、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、n-ヘキシル基、イソヘキシル基等の炭素数1~6の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基が挙げられる。なお、本明細書において、「n-」とはノルマルを、「s-」とはセカンダリーを、「t-」とはターシャリーを示す。
【0027】
C1~6ハロアルキル基としては、特に限定はなく、例えば、フルオロメチル基、クロロメチル基、ブロモメチル基、ヨードメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、1-フルオロエチル基、2-フルオロエチル基、2-クロロエチル基、2,2,2-トリフルオロエチル基、ペンタフルオロエチル、1-フルオロプロピル基、2-クロロプロピル基、3-フルオロプロピル基、3-クロロプロピル基、1-フルオロブチル基、1-クロロブチル基、4-フルオロブチル基等の1~9個、好ましくは1~5個のハロゲン原子で置換された炭素数1~6の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基が挙げられる。
【0028】
C1~6アルコキシ基としては、特に限定はなく、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、イソブトキシ基、s-ブトキシ基、t-ブトキシ基、n-ペンチルオキシ基、イソペンチルオキシ基、ネオペンチルオキシ基、n-ヘキシルオキシ基、イソヘキシルオキシ基等の炭素数1~6の直鎖状又は分岐鎖状アルコキシ基が挙げられる。
【0029】
C1~6ハロアルコキシ基としては、特に限定はなく、例えば、フルオロメトキシ基、クロロメトキシ基、ブロモメトキシ基、ヨードメトキシ基、ジフルオロメトキシ基、トリフルオロメトキシ基、1-フルオロエトキシ基、2-フルオロエトキシ基、2-クロロエトキシ基、2,2,2-トリフルオロエトキシ基、ペンタフルオロエトキシ、1-フルオロプロポキシ基、2-クロロプロポキシ基、3-フルオロプロポキシ基、3-クロロプロポキシ基、1-フルオロブトキシ基、1-クロロブトキシ基、4-フルオロブトキシ基等の1~9個、好ましくは1~5個のハロゲン原子で置換された炭素数1~6の直鎖状又は分岐鎖状アルコキシ基が挙げられる
【0030】
C2~6アルケニル基としては、特に限定はなく、例えば、ビニル基、1-プロペニル基、アリル基、イソプロペニル基、1-ブテニル基、2-ブテニル基、3-ブテニル基、1-メチル-2-プロペニル基、1,3-ブタジエニル基等の炭素数2~6の直鎖状又は分岐鎖状アルケニル基が挙げられる。
【0031】
C2~6ハロアルケニル基としては、特に限定はなく、例えば、2,2-ジクロロビニル基、2,2-ジブロモビニル基、3-クロロ-2-プロペニル基、3,3-ジフルオロ-2-アリル基、3,3-ジクロロ-2-アリル基、4-クロロ-2-ブテニル基、4,4,4-トリフルオロ-2-ブテニル基、4,4,4-トリクロロ-3-ブテニル基、5-クロロ-3-ペンテニル基、6-フルオロ-2-ヘキセニル基等の任意の位置に少なくとも1つの二重結合を有する炭素数2~6の直鎖状又は分岐鎖状アルケニル基であって、1~13個、好ましくは1~7個のハロゲン原子で置換されたアルケニル基が挙げられる。
【0032】
C2~6アルケニルオキシ基としては、特に限定はなく、例えば、ビニルオキシ基、1-プロペニルオキシ基、アリルオキシ基、イソプロペニルオキシ基、1-ブテニルオキシ基、2-ブテニルオキシ基、3-ブテニルオキシ基、1-メチル-2-プロペニルオキシ基、1,3-ブタジエニルオキシ基等の炭素数2~6の直鎖状又は分岐鎖状アルケニルオキシ基が挙げられる。
【0033】
C2~6ハロアルケニルオキシ基としては、特に限定はなく、例えば、2,2-ジクロロビニルオキシ基、2,2-ジブロモビニルオキシ基、3-クロロ-2-プロペニルオキシ基、3,3-ジフルオロ-2-アリルオキシ基、3,3-ジクロロ-2-アリルオキシ基、4-クロロ-2-ブテニルオキシ基、4,4,4-トリフルオロ-2-ブテニルオキシ基、4,4,4-トリクロロ-3-ブテニルオキシ基、5-クロロ-3-ペンテニルオキシ基、6-フルオロ-2-ヘキセニルオキシ基等の任意の位置に少なくとも1つの二重結合を有する炭素数2~6の直鎖状又は分岐鎖状アルケニル基であって、1~13個、好ましくは1~7個のハロゲン原子で置換されたアルケニル基が挙げられる。
【0034】
C2~6アルキニル基としては、例えば、エチニル基、1-プロピニル基、2-プロピニル基、1-メチル-2-プロピニル基、1-ブチニル基、2-ブチニル基、3-ブチニル基等の炭素数2~6の直鎖状又は分岐鎖状アルキニル基が挙げられる。
【0035】
C2~6ハロアルキニル基としては、特に限定はなく、例えば、3,3,3-トリフルオロプロピニル基、3,3-ジフルオロプロピニル基、3,3,3-トリフルオロブチニル基、4,4,4-トリフルオロ-2-ブチニル基、3,3-ジフルオロ-ブチニル基等の任意の位置に少なくとも1つの三重結合を有する炭素数2~6の直鎖状又は分岐鎖状アルキニル基であって、1~13個、好ましくは1~7個のハロゲン原子で置換されたアルキニル基が挙げられる。
【0036】
C2~6アルキニルオキシ基としては、特に限定はなく、例えば、エチニルオキシ基、1-プロピニルオキシ基、2-プロピニルオキシ基、1-メチル-2-プロピニルオキシ基、1-ブチニルオキシ基、2-ブチニルオキシ基、3-ブチニルオキシ基等の炭素数2~6の直鎖状又は分岐鎖状アルキニルオキシ基が挙げられる。
【0037】
C2~6ハロアルキニルオキシ基としては、特に限定はなく、例えば、3,3,3-トリフルオロプロピニルオキシ基、3,3-ジフルオロプロピニルオキシ基、3,3,3-トリフルオロブチニルオキシ基、4,4,4-トリフルオロ-2-ブチニルオキシ基、3,3-ジフルオロ-ブチニルオキシ基等の任意の位置に少なくとも1つの三重結合を有する炭素数2~6の直鎖状又は分岐鎖状アルキニルオキシ基であって、1~13個、好ましくは1~7個のハロゲン原子で置換されたアルキニルオキシ基が挙げられる。
【0038】
上記一般式(1)で表されるニトロフェノール化合物又はその塩において、Rは、水素原子、ハロゲン原子、C1~6アルキル基又はC1~6アルコキシ基であるのが好ましく、水素原子又はメトキシ基がより好ましい。
【0039】
上記一般式(2)で表されるニトロフェノール化合物又はその塩において、R1は、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、C1~6アルキル基又はC1~6アルコキシ基であるのが好ましく、水素原子、ニトロ基、又はメトキシ基がより好ましい。
【0040】
上記一般式(2)で表されるニトロフェノール化合物又はその塩において、R2は、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、C1~6アルキル基又はC1~6アルコキシ基であるのが好ましく、水素原子、ニトロ基、又はメトキシ基がより好ましい。
【0041】
上記一般式(2)で表されるニトロフェノール化合物又はその塩において、R3は、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、C1~6アルキル基又はC1~6アルコキシ基であるのが好ましく、水素原子、ニトロ基、又はメトキシ基がより好ましい。
【0042】
上記一般式(2)で表されるニトロフェノール化合物又はその塩において、R4は、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、C1~6アルキル基又はC1~6アルコキシ基であるのが好ましく、水素原子、ニトロ基、又はメトキシ基がより好ましい。
【0043】
上記一般式(2)で表されるニトロフェノール化合物又はその塩において、R5は、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、C1~6アルキル基又はC1~6アルコキシ基であるのが好ましく、水素原子、ニトロ基、又はメトキシ基がより好ましい。
【0044】
上記ニトロフェノール化合物又はその塩の中でも、4-ニトロフェノール、4-ニトロフェノールナトリウム塩、3-ニトロフェノール、3-ニトロフェノールナトリウム塩、2-ニトロフェノール、2-ニトロフェノールナトリウム塩等のニトロフェノール化合物又はその塩;5-ニトログアヤコール、5-ニトログアヤコールナトリウム塩、4-ニトログアヤコール、4-ニトログアヤコールナトリウム塩等のグアヤコール(別名:グアイアコール)化合物又はその塩が特に好ましい。
【0045】
上記一般式(2)で表されるニトロフェノール化合物又はその塩のうち、好ましい化合物は、
R1が、水素原子、ニトロ基、又はメトキシ基、
R2が、水素原子、ニトロ基、又はメトキシ基、
R3が、ニトロ基、
R4が、水素原子、ニトロ基、又はメトキシ基、及び
R5が、水素原子、ニトロ基、又はメトキシ基で表されるニトロフェノール化合物又はその塩;
R1が、ニトロ基、
R2が、水素原子、ニトロ基、又はメトキシ基、
R3が、水素原子、ニトロ基、又はメトキシ基、
R4が、水素原子、ニトロ基、又はメトキシ基、及び
R5が、水素原子、ニトロ基、又はメトキシ基で表されるニトロフェノール化合物又はその塩;並びに
R1が、水素原子、ニトロ基、又はメトキシ基、
R2が、水素原子、ニトロ基、又はメトキシ基、
R3が、水素原子、ニトロ基、又はメトキシ基、
R4が、ニトロ基、
R5が、水素原子、ニトロ基、又はメトキシ基で表されるニトロフェノール化合物又はその塩である。
【0046】
上記一般式(2)で表されるニトロフェノール化合物又はその塩のうち、より好ましい化合物は、
R1が、水素原子、又はメトキシ基、
R2が、水素原子、又はメトキシ基、
R3が、ニトロ基、
R4が、水素原子、又はメトキシ基、及び
R5が、水素原子、又はメトキシ基で表されるニトロフェノール化合物又はその塩;
R1が、ニトロ基、
R2が、水素原子、又はメトキシ基、
R3が、水素原子、又はメトキシ基、
R4が、水素原子、又はメトキシ基、及び
R5が、水素原子、又はメトキシ基で表されるニトロフェノール化合物又はその塩;並びに
R1が、水素原子、又はメトキシ基、
R2が、水素原子、又はメトキシ基、
R3が、水素原子、又はメトキシ基、
R4が、ニトロ基、及び
R5が、水素原子、又はメトキシ基で表されるニトロフェノール化合物又はその塩である。
【0047】
本発明の尻腐れ抑制剤には、1種又は2種以上のニトロフェノール化合物又はその塩を配合することができる。
【0048】
これら1種又は2種以上のニトロフェノール化合物又はその塩としては、公知の製造方法によって製造した化合物、又は市販品を用いることができる。公知の製造方法としては、例えば、特開平10-67716に記載の製造方法等が挙げられる。また、市販品としては、例えば、4-ニトロフェノール又はその塩(0.3%)、2-ニトロフェノール又はその塩(0.2%)、及び5-ニトログアヤコール又はその塩(0.1%)を含有する水溶液等の2種又は3種のニトロフェノール化合物又はその塩を含むニトロフェノール組成物を用いることもできる。
【0049】
本発明の尻腐れ抑制剤の処理において、ニトロフェノール化合物又はその塩の濃度は、通常、0.00002~3000mg/L、好ましくは0.0002~300mg/L、より好ましくは0.002~30mg/Lである。また、本発明の尻腐れ抑制剤の処理において、2種以上のニトロフェノール化合物又はその塩を含む場合、それぞれの濃度及び比率は、適宜設定することができる。
【0050】
その他の成分
本発明の尻腐れ抑制剤には、他の成分を加えず、ニトロフェノール化合物又はその塩のみを含むものでもよいが、通常は、固体担体、液体担体、又はガス状担体(噴射剤)を混合することができる。
【0051】
また、必要に応じて、本発明の尻腐れ抑制剤には、界面活性剤、その他の製剤用補助剤を添加して、通常の製剤化方法に従い、油剤、乳剤、水和剤、フロアブル剤、粒剤、粉剤、エアゾール、煙霧剤等に製剤して使用することができる。
【0052】
本発明の尻腐れ抑制剤を用いた製剤は、他の殺虫剤、殺線虫剤、殺ダニ剤、殺菌剤、除草剤、微生物農薬、植物生長調節剤、共力剤、土壌改良剤、肥料等を混合して、又は混合せずに同時に用いることもできる。
【0053】
これらの製剤中のニトロフェノール化合物又はその塩の含有量としては、通常、0.00001~95重量%、好ましくは0.0001~50重量%、より好ましくは0.001~10重量%である。
【0054】
製剤化の際に用いられる固体担体としては、例えば、粘土類(カオリンクレー、珪藻土、合成含水酸化珪素、ベントナイト、フバサミクレー、酸性白土等)、タルク類、セラミック、その他の無機鉱物(セライト、石英、硫黄、活性炭、炭酸カルシウム、水和シリカ等)、化学肥料(硫安、燐安、硝安、尿素、塩安等)等の微粉末あるいは粒状物等が挙げられる。
【0055】
液体担体としては、例えば、水、アルコール類(メタノール、エタノール等)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン等)、芳香族炭化水素類(ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、メチルナフタレン等)、脂肪族炭化水素類(ヘキサン、シクロヘキサン、灯油、軽油等)、エステル類(酢酸エチル、酢酸ブチル等)、ニトリル類(アセトニトリル、イソブチロニトリル等)、エーテル類(ジイソプロピルエーテル、ジオキサン等)、酸アミド類(N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等)、ハロゲン化炭化水素類(ジクロロメタン、トリクロロエタン、四塩化炭素等)、ジメチルスルホキシド、大豆油、綿実油等の植物油等が挙げられる。
【0056】
ガス状担体としては、例えば、ブタンガス、LPG(液化石油ガス)、ジメチルエーテル、炭酸ガス等が挙げられる。
【0057】
界面活性剤としては、例えば、アルキル硫酸エステル類、アルキルスルホン酸塩、アルキルアリールスルホン酸塩、アルキルアリールエーテル類及びそのポリオキシエチレン化物、ポリエチレングリコールエーテル類、多価アルコールエステル類、糖アルコール誘導体等が挙げられる。
【0058】
製剤用補助剤としては、例えば、固着剤、分散剤、安定剤等が挙げられる。
【0059】
固着剤及び/又は分散剤としては、例えば、カゼイン、ゼラチン、多糖類(でんぷん粉、アラビアガム、セルロース誘導体、アルギン酸等)、リグニン誘導体、ベントナイト、糖類、合成水溶性高分子(ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸類等)が挙げられる。
【0060】
安定剤としては、例えば、PAP(酸性リン酸イソプロピル)、BHT(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール)、BHA(2-tert-ブチル-4-メトキシフェノールと3-tert-ブチル-4-メトキシフェノールの混合物)、植物油、鉱物油、脂肪酸又はそのエステル等が挙げられる。
【0061】
本発明の尻腐れ抑制剤、及びそれを用いる製剤は、そのままで、或いは水等で希釈して用いることができる。
【0062】
これらの施用量、及び施用濃度は、いずれも製剤の種類、施用時期、施用場所、施用方法、害虫の種類、被害程度等の状況によって異なり、上記の範囲に限定されることなく増加させたり、減少させたりすることができる。
【0063】
本発明の尻腐れ抑制剤にニトロフェノール化合物又はその塩を含有させ、それを使用することを説明したが、ニトロフェノール化合物又はその塩と、その他の成分とを別個に含有する組成物を調製しておき、施用の際にこれら2種以上の成分を順次又は同時に、好ましくは同時に使用してもよい。この場合、ニトロフェノール化合物又はその塩、及びその他の成分は、上記と同様の割合で併用するのがよい。
【0064】
2.用途
本発明の尻腐れ抑制剤は、ナス科植物の果実の尻腐れ防止剤、ナス科植物の果実の尻腐れ減少剤、ナス科植物の果実の尻腐れ発生率低下剤、ナス科植物の果実の品質向上剤、ナス科植物の果実の収量向上剤、ナス科植物の果実の収量増加剤の意味も含んでいる。また、本発明の尻腐れ抑制剤は、植物生長調節剤(植物成長調整剤ということもある)とすることもできる。
【0065】
本発明の尻腐れ抑制剤を使用できる有用植物としては、特に限定はなく、例えば、トマト、ナス、ピーマン等のナス科植物が挙げられる。
【0066】
本発明の尻腐れ抑制剤は、植物又はその近傍に処理することによって、上記有用植物を保護することができる。
【0067】
本発明の尻腐れ抑制剤は、その近傍、例えば、茎、葉、種子、球根又は種芋(以下、種子、球根又は種芋を単に種子と略記する。);果実等に施用できる。施用方法としては、例えば、葉面又は茎への散布、又は噴霧、種子処理(例えば、浸種若しくは粒剤の種子粉衣等)、土壌施用(例えば、粒剤の畝間散布若しくは畝間噴霧等)等が挙げられる。
【0068】
3.方法
本発明のもう一つの態様としては、ニトロフェノール化合物又はその塩を施用することを含む尻腐れ防止方法である。特に、本発明の尻腐れ抑制剤を施用することを含む、果実の尻腐れ症状の発生率低下、品質を向上、又は収量の増加方法である。施用とは、植物又はその根圏に処理することを含む。
【0069】
さらに、本発明のもう一つの態様としては、果実の尻腐れを抑制するための、ニトロフェノール化合物又はその塩の使用方法である。特に、果実の尻腐れ症状の発生率低下、品質を向上、又は収量の増加するための、ニトロフェノール化合物又はその塩の使用方法である。使用方法とは、使用と言い換えることもできる。
【0070】
また、本発明のもう一つの態様としては、上記本発明の果実の尻腐れ抑制剤を、植物又はその根圏に処理する方法(処理方法)である。
【0071】
本発明において、植物の根圏とは、根が影響を受ける土壌その他の周辺部位を意味する。例えば、根圏とは、乾田、水田、畑地、茶園、果樹園等における土壌;育苗箱等における育苗培土及び育苗マット;水耕農場における水耕液等が挙げられる。
【0072】
根部又は種子に直接施用する具体的な方法としては、例えば、本発明の果実の尻腐れ抑制剤を、根部若しくは種子に吹きつけ処理、塗沫処理、浸漬処理、含浸処理、塗布処理、フィルムコート処理、ペレットコート処理する方法が挙げられる。
【実施例】
【0073】
以下、実施例及び試験例により、本発明を具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【0074】
(製剤例1)
製剤A: ニトロフェノール水溶液原液
4-ニトロフェノールナトリウム塩(旭化学工業株式会社製)3.0g、2-ニトロフェノールナトリウム塩(旭化学工業株式会社製)2.0g、及び5-ニトログアヤコールナトリウム塩(旭化学工業株式会社製)1.0gを超純水1Lに溶解し、水溶剤を調製した。この水溶剤を以下「製剤A」という。
【0075】
製剤B: 葉面散布用ニトロフェノール溶液
製剤Aを34.7mL、展着剤としてTween(登録商標)80(東京化成工業株式会社製)を1mLに対し、水道水を加え10Lとし、葉面散布用水溶剤とした。この水溶剤を以下「製剤B」をいう。
【0076】
製剤C: 潅注処理用ニトロフェノール溶液1
製剤Aを125mLに対し、水道水を加え10Lとし、潅注処理用水溶剤原液とした。この水溶剤を以下「製剤C」をいう。
【0077】
製剤D: 潅注処理用ニトロフェノール溶液2
製剤Aを75mLに対し、水道水を加え100Lとし、潅注処理用水溶剤原液とした。この水溶剤を以下「製剤D」をいう。
【0078】
[試験例1]
実験には、大玉トマト(品種:大安吉日、製造元:ナント種苗株式会社)を供試した。7.5cmポットに育苗培土(くみあい園芸用育苗培土・愛菜1号)を充填した後、2017年1月17日に播種を行い、アクリルハウス内にて6週間育苗を行った後、アクリルハウス内においてヤシガラ培土を充填した高設ベッド(幅30cm、深さ20cm、長さ24m)に定植を行った。畝間170cm、株間30cm間隔の一条植えとし、各畝78株を定植した。各畝を4分割した後、各区それぞれの中央16株を試験区株とし、生育中庸株10株を選抜し、調査対象株とした。植物体は左右交互に誘引した。主枝一本仕立てとし、適宜摘葉を行い、摘心は行わなかった。開花期以降、着果と果実肥大を促すためにトマトトーン(登録商標、4-CPA(パラクロロフェノキシ酢酸))を100倍希釈にて散布し、正常果実は成熟したものから随時収穫を行った。収穫期間は5月12日から8月14日までとした。施肥潅水には養液土耕栽培システム(OATアグリオ株式会社製)を用いた。肥料処方としてはタンクミックスA(OATアグリオ株式会社製)10kgを水約150Lに溶解させ、タンクミックスB(OATアグリオ株会社製)20kgを加えた後、さらに水を加え200Lとしたものを原液とし、液量・希釈倍率を適宜調整した上で施用を行った。別途、病虫害防除のための農薬散布をその都度実施し、作物体の健全な生育の維持を図った。
【0079】
何も処理を行わない対照区を設けた上で、薬剤処理区としては、処理製剤Bを用いて毎週ないし隔週に一度の葉面散布による処理を行うA区及びB区を設けた。散布に際しては、作物体に一様に塗抹される程度の量を目安として処理を行った。加えて、製剤Cを用いて養液土耕栽培システムにより100倍希釈を行ったものを畝当たり20L、隔週に一度潅注にて処理するC区、製剤Dを適宜希釈し、毎日の施肥に併せて隔週処理に相当するニトロフェノール量を潅注にて施用するD区、製剤Bを用いて隔週での葉面散布処理及び製剤Cを用いて隔週での潅注処理を実施するE区、並びに、製剤Bを用いて隔週での葉面散布処理及び製剤Dを用いて毎日での潅注処理を実施するF区の計6区を設定し、処理を行った。具体的には、葉面散布処理は3月30日より7月20日まで実施し、潅注処理は3月20日より7月19日まで継続して実施した。
【0080】
尻腐れ発生個数としては、5月12日に第1果房より第5果房までの発生個数の調査を行い、それらの合算数を株ごとに計数し、尻腐れ発生個数に対する薬剤処理の影響を評価した。調査後、尻腐れ果は摘果した。その尻腐れ発生個数及びp-value(p値)の調査結果を下表1にまとめる。また、これらのうち、尻腐れ発生個数の調査結果を
図1に示す。なお、p-valueとは、農学研究において汎用される統計解析手法であるt‐検定において得られる数値であり、その値が小さいほど比較対象との相違は大きいものと解釈できるものであり、一般には0.05及び0.01を基準とする場合が多い。
【0081】
【0082】
<結果>
その結果、いずれの処理区(A区~F区、実施例1~6)においても、対照区(比較例1)に比べて、尻腐れ果の発生個数が抑制された。これらの中でも、B区においては、5%水準(すなわち、p<0.05)での統計学的有意差を、D区及びF区においては、1%水準(すなわち、p<0.01)での統計学的有意差を示した。したがって、ニトロフェノール化合物又はその塩の処理は、尻腐れ果発生低減効果を有するものといえた。
【0083】
(製剤例2)
製剤E: ニトロフェノール水溶液原液
4-ニトロフェノールナトリウム塩(旭化学工業株式会社製)9.0g、2-ニトロフェノールナトリウム塩(旭化学工業株式会社製)6.0g、5-ニトログアヤコールナトリウム塩(旭化学工業株式会社製)3.0gを超純水1Lに溶解し、水溶剤を調製した。この水溶剤を以下「製剤E」という。
【0084】
製剤F: 葉面散布用ニトロフェノール溶液
製剤Eを10mL、展着剤としてTween(登録商標)80(東京化成工業株式会社製)を1mLに対し、水道水を加え10Lとし、葉面散布用水溶剤とした。この水溶剤を以下「製剤F」をいう。
【0085】
製剤G: 潅注処理用ニトロフェノール溶液
製剤Eを40mLに対し、水道水を加え5Lとし、潅注処理用水溶剤原液とした。この水溶剤を以下「製剤G」をいう。
【0086】
[試験例2]
実験には、大玉トマト(品種:大安吉日、製造元:ナント種苗株式会社)を供試した。7.5cmポットに育苗培土(くみあい園芸用育苗培土・愛菜1号)を充填した後、2018年2月2日に播種を行い、アクリルハウス内にて6週間育苗を行った後、アクリルハウス内においてヤシガラ培土を充填した高設ベッド(幅30cm、深さ20cm、長さ24m)に定植を行った。畝間170cm、株間30cm間隔の一条植えとし、各畝78株を定植した。各畝を2分割した後、各区それぞれの中央36株を試験区株とた。植物体は左右交互に誘引した。主枝一本仕立てとし、適宜摘葉を行い、摘心は行わなかった。開花期以降、着果と果実肥大を促すためにトマトトーン(登録商標、4-CPA(パラクロロフェノキシ酸))を100倍希釈にて散布し、正常果実は成熟したものから随時収穫を行った。収穫期間は5月17日から7月12日までとした。
【0087】
製剤H:肥料原液1
OATハウス1号(OATアグリオ株式会社製)5kgを秤量し、水道水を用いて溶解させ100Lとし、肥料原液とした。この肥料溶液を以下「製剤H」とする。
【0088】
製剤I:肥料原液2
OATハウス2号(OATアグリオ株式会社製)3.33kgを秤量し、水道水を用いて溶解させ100Lとし、肥料原液とした。この肥料溶液を以下「製剤I」とする。
【0089】
製剤J:肥料原液3
OATアミノマスター(登録商標、OATアグリオ株式会社製)7,500gと塩化カルシウム二水和物(和光純薬工業株式会社製、一級)905gを秤量し、水道水を用いて溶解させ80Lとし、肥料原液とした。この肥料溶液を以下「製剤J」とする。
【0090】
製剤K:肥料原液4
ネイチャーエイド(登録商標、株式会社サカタのタネ製)10,000gと塩化カルシウム二水和物(和光純薬工業株式会社製、一級)905gを水80Lに溶解させ、肥料原液とした。この肥料溶液を以下「製剤K」とする。
【0091】
[施肥条件]
施肥潅水には養液土耕栽培システム(OATアグリオ株式会社製)を用い、畝ごとに施肥条件を変更した。施肥条件としては、下表に従い希釈倍率の比率を固定するものとし、すべて無機成分由来の窒素を施与する条件1、総窒素量の内、約30%をOATアミノマスター由来とする条件2、ネイチャーエイド由来とする条件3を設定した。
【0092】
【0093】
何も処理を行わない対照区をそれぞれの施肥条件1、2、3ごとに設けた上で、薬剤処理区としては、製剤Fを用いて隔週に一度の葉面散布による処理を行うG区(施肥条件1)、H区(施肥条件2)、I区(施肥条件3)を設けた。散布に際しては、作物体に一様に塗抹される程度の量を目安として処理を行った。加えて、製剤Gを用いて養液土耕栽培システムにより100倍希釈を行ったものを畝当たり16L、隔週に一度潅注にて処理するJ区(施肥条件1)を設定し、処理を行った。具体的には、葉面散布処理は4月11日より6月13日まで実施し、潅注処理は3月20日より6月6日まで継続して実施した。
【0094】
<施肥条件1>
施肥条件1の対照区、並びに試験区G及びJについては、収穫した果実中の水溶性カルシウム濃度の分析を行った。各試験区より6月8日に2段目、7月2日に6段目より収穫したの正常果の内中庸15個を3個ずつ5つのグループに分け、超純水での洗浄を行った後、これらのがく及び果柄を切除し、果房鉛直断面を1~2mmの厚さでスライスし、合計約30gとなるよう取り集め、重量計測後、抽出サンプルとした。これに対し、約120gの超純水を加え、重量計測後、トリオブレンダーにて粉砕した。粉砕後、ろ紙及び0.2cmメンブレンフィルターでろ過を行い、分析供試溶液とした。分析はICP発光分光分析装置にて行った。得られた分析値より下式に従い、果実中水溶性カルシウム濃度の算出を行った。
【0095】
式1:[果実中濃度(μg/g)]=[分析値(μg/g)]×[果実・水合計秤量値(g)]/[果実秤量値(g)]
【0096】
各試験区より採取した正常果中の水溶性カルシウム濃度分析結果を下表3にまとめる。また、この正常果中の水溶性カルシウム濃度分析結果を
図2に示す。
【0097】
【0098】
<結果>
その結果、いずれの処理区(G区及びJ区、実施例7及び8)及び収穫段数においても、対照区(比較例2)と比べて、尻腐れ果発生との関連性を有する果実中の水溶性カルシウム濃度の向上傾向が確認された。したがって、ニトロフェノール化合物又はその塩の処理による尻腐れ抑制効果を支持する結果となった。
【0099】
施肥条件2及び3の対照区並びに試験区H及びIについては、5月7日に第1果房、5月14日に第2果房、5月30日に第3及び第4果房について、各区20株の尻腐れ果の発生個数及び全着果数を計数し、各段数累積での尻腐れ果発生率を株ごとに算出し、尻腐れ発生個数に対する薬剤処理の影響を評価した。調査後、尻腐れ果は摘果した。
【0100】
<施肥条件2>
施肥条件2における尻腐れ果発生率の調査結果を下表4にまとめる。また、この尻腐れ果発生率の調査結果を
図3に示す。
【0101】
【0102】
<施肥条件3>
施肥条件3における尻腐れ果発生率調査結果を下表5にまとめる。また、この尻腐れ果発生率の調査結果を
図4に示す。
【0103】
【0104】
<結果>
その結果、いずれの施肥条件・処理区(H区及びI区、実施例9及び10)においても、対照区(比較例3及び4)と比べて、尻腐れ果の発生個数の抑制傾向が確認された。また、その内、条件2においては、5%水準(すなわち、p<0.05)での統計学的有意差を示した。したがって、今回のニトロフェノール化合物又はその塩の処理が尻腐れ果発生の低減に対し効果があるものといえた。