(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-08
(45)【発行日】2022-07-19
(54)【発明の名称】建築物の接合構造
(51)【国際特許分類】
E02D 27/12 20060101AFI20220711BHJP
【FI】
E02D27/12 Z
(21)【出願番号】P 2018082920
(22)【出願日】2018-04-24
【審査請求日】2021-02-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000195971
【氏名又は名称】西松建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000420
【氏名又は名称】特許業務法人エム・アイ・ピー
(72)【発明者】
【氏名】新井 寿昭
(72)【発明者】
【氏名】桜井 悦雄
(72)【発明者】
【氏名】原 智紀
(72)【発明者】
【氏名】郡司 康浩
【審査官】荒井 良子
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-105531(JP,A)
【文献】特開2013-159968(JP,A)
【文献】特開2012-002026(JP,A)
【文献】特開2004-204563(JP,A)
【文献】特開2004-316410(JP,A)
【文献】特開2002-317454(JP,A)
【文献】特開2009-007746(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 27/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築物の上部構造と杭とを接合する接合構造であって、
杭頭を収容し、前記杭の上面に対向する地面に対して傾斜した天井面を有する収容部と、前記天井面の最も高い箇所から外部へと連続し、前記収容部内の空気を排出するための排出孔とを含み、前記上部構造と接合するとともに前記杭頭を覆うように設置されるキャップ部材と、
前記杭頭の外周面と前記キャップ部材の前記収容部の内側面との間に配置され
、一部が地面に埋設された緩衝材とを含
み、
前記緩衝材を配置した後の前記杭頭を覆うように前記キャップ部材を設置し、前記収容部内へ充填材が前記キャップ部材の下方から圧入される
、接合構造。
【請求項2】
前記天井面は、円錐形に中心に向けて高くなるように傾斜し、前記排出孔は、前記中心から前記外部へと連続する、請求項1に記載の接合構造。
【請求項3】
前記天井面の傾斜の度合いが、1/10以上である、請求項1または2に記載の接合構造。
【請求項4】
前記緩衝材は、前記杭頭の外周面に隣接して配置され、前記杭の上面から下方に向けて傾斜を有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の接合構造。
【請求項5】
前記緩衝材の傾斜の度合いが、1/10~1/30である、請求項4に記載の接合構造。
【請求項6】
前記杭頭の外周を取り囲む、前記キャップ部材の縁空き部の厚さが、前記杭の径の0.75倍以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載の接合構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物の上部構造と杭とを接合する接合構造に関する。
【背景技術】
【0002】
建築物の上部構造(基礎梁や柱等)と杭とを接合する接合構造には、杭頭を埋め込むとともに上部構造と接合する、パイルキャップと呼ばれるキャップ部材が使用される。このパイルキャップを現場打ちで形成しようとすると、この部位が、構造上、鉄筋が複雑に集合する部位であることから、施工性に難点を伴うものとなりがちである。
【0003】
このことに鑑み、現場打ちで形成するのではなく、工場生産によるプレキャスト部材に置き換え、工期短縮や品質向上等の改善を図ることが行われてきた。特に、杭として既製杭を用いる場合、杭径が比較的小さいことから、これと組み合わせるパイルキャップも、取り回しが容易な小型のもので良く、杭自体の工期短縮と相まってプレキャスト部材とすることが好まれている。
【0004】
プレキャスト化されたパイルキャップは、杭頭と接する部分に、施工誤差を吸収できるように遊びの空間が設けられており、その空間にコンクリートや無収縮モルタルを充填することにより、杭と接合され、一体化される(例えば、特許文献1~3参照)。コンクリート等を充填する方法としては、杭の上部から重力によりコンクリートを打設する方法や、パイルキャップの下方から無収縮モルタルを圧入して、空気を抜きながら上方に充填していく方法がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2006-291641号公報
【文献】特開平4-347214号公報
【文献】特開2001-132275号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上部から重力により充填する方法では、パイルキャップと杭頭が施工誤差等で接近していると、コンクリートを充分に打設することができない場合があるという問題があった。また、下方から無収縮モルタルを圧入する方法では、充填完了の確認を空気抜き孔からの充填材の漏出により確認しているが、内部視認できないことから、空気溜まりが残存し、杭頭の構造性能に影響を及ぼすという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、建築物の上部構造と杭とを接合する接合構造であって、
杭頭を収容し、杭の上面に対向する地面に対して傾斜した天井面を有する収容部と、天井面の最も高い箇所から外部へと連続し、収容部内の空気を排出するための排出孔とを含み、上部構造と接合するとともに杭頭を覆うように設置されるキャップ部材と、
杭頭の外周面とキャップ部材の収容部の内側面との間に配置される緩衝材とを含む、接合構造が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、杭の施工誤差を許容しながら、充填材の充填性や杭頭の構造性能を確保することができ、プレキャスト材により施工することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】
図1に示す接合構造を構築する方法について説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1は、プレキャストで製造されたパイルキャップを使用して上部構造と杭とを接合する接合構造の第1の例を示した図である。比較的軟弱な地盤に建築物を構築する場合、地中の固い支持層に届く杭10が打ち込まれ、杭10により建築物を支持する。杭10としては、例えば円筒形の既製コンクリート杭が用いられ、機械によって掘削された孔に接続しながら埋め込まれることにより下部構造としての基礎が構築される。なお、杭10は、円筒形の既製コンクリート杭に限られるものではなく、鋼製の円管から構成される鋼管杭等の既製杭や、現場にて地盤を掘削し、鉄筋籠を補強筋として挿入し、コンクリートを打設して構築される場所打ちコンクリート杭であってもよい。
【0011】
上部構造は、下部構造としての杭10により支持される建築物の本体であり、垂直に立てられ、上部の荷重を支える柱や、柱と柱を繋ぐ梁等により構成される。梁には、各柱の下の基礎を繋ぐ基礎梁40がある。
【0012】
杭10と、柱もしくは基礎梁またはその両方とは、接合部材であって、杭10の上端の杭頭11を覆うように設置されるキャップ部材としてのパイルキャップ20により接合される。パイルキャップ20は、上部構造および杭10からの力を相互に伝達する。
【0013】
パイルキャップ20は、プレキャストと呼ばれる、工場で予め製造されたコンクリート製品で、内部に鉄筋が埋め込まれたものが使用される。パイルキャップ20には、杭頭10を収容する凹部である収容部21を備えている。なお、パイルキャップ20は、工場で製造されるものに限られるものではなく、現場の専用ヤードにて製造されるものであってもよい。
【0014】
パイルキャップ20は、地面から突出する杭頭11に被せるように設置される。杭頭11は、パイルキャップ20の収容部21に収容され、収容部21と杭頭11との隙間は、無収縮モルタル等の充填材22が注入され、杭10とパイルキャップ20とが接合される。
【0015】
パイルキャップ20にプレキャスト材で製造されたものを用いることで、パイルキャップ20を現場で施工する際の鉄筋籠や型枠の設置、コンクリートの打設、養生等の工程が不要になるため、工期を短縮することができる。また、鉄筋が複雑に集合する現場ではなく、工場等で製造されるため、品質向上等の改善を図ることができる。
【0016】
杭10を設置する際、施工精度や地中障害物等の存在によって、杭10の芯ずれが発生する。芯ずれは、設計した杭の断面の中心を通る中心線と、実際に打ち込んだ杭10の断面の中心を通る中心線とのずれである。
【0017】
また、杭10の地面から突出する杭頭11の長さは、杭10を設置する深さの精度によって変わり、設計した長さを超える場合、高止まりとなり、設計した長さ未満の場合、低止まりとなる。設計した長さとの差は、高止まり誤差または低止まり誤差となる。
【0018】
パイルキャップ20の収容部21の空間には、芯ずれや高止まり誤差を吸収できるように、遊びの空間が設けられる。これにより、施工誤差が生じたとしても、杭頭11を収容部21に収容することができる。
【0019】
しかしながら、芯ずれにより杭頭11が収容部21と近接している場合、近接した空間に充填材22を注入することができず、また、注入できたとしても、不充分な注入で、空気溜まりが発生する。このような空気溜まりの発生は、設計通りの接合強度が得られない等の、杭頭11の構造性能に影響を及ぼす。
【0020】
また、高止まりにより杭頭11の地面からの突出長さが長い場合、地震時等の杭10の変形により、パイルキャップ20の、杭頭11の外周を取り囲む部分である縁空き部23に対し過大な負荷がかかる。このような過大な負荷も、杭頭11の構造性能に影響を及ぼす。
【0021】
そこで、本実施形態の接合構造では、施工された杭頭11の芯ずれや高止まり誤差を比較的大きな値まで許容できるようにする。すなわち、収容部21の空間を大きくする。ただし、収容部21の空間を大きくしただけでは、空気溜まりの発生を抑制できないので、空気を抜くための排出孔24を設ける。また、縁空き部23への過大な負荷を低減するため、緩衝材25を間に配置する。
【0022】
収容部21の空間は、従来の空間より広い空間とする。具体的には、適用する杭径によらず、杭頭11の外周に設置した緩衝材25から収容部21の内壁までの間隔Aを、例えば100mmとする。これにより、杭10の施工誤差および充填材の充填性を踏まえ、芯ずれを最大85mm許容できる。
【0023】
すなわち、間隔Aが最も狭くて15mm、最も広くて185mmとなる。この範囲であれば、間隔Aが狭すぎて充填材を充分に充填できないといったことがなくなる。
【0024】
杭頭11のレベル誤差(高止まり誤差)については、パイルキャップ20の収容部21への杭10の埋め込み深さHを、例えば100mm以上かつ杭径Dの0.5倍以下とし、杭10の上面と、収容部21の天井面の最も高さの位置が低い箇所との間隔Bを100mmとする。これにより、杭10の高止まりを最大85mmまで許容できる内部空間とすることができる。
【0025】
すなわち、杭10の上面と、収容部21の天井面の最も高さ位置が低い箇所との間隔Bが、標準の100mmから最も狭くて15mmとなり、上記と同様、間隔Bが狭すぎて充填材22を充分に充填できないといったことがなくなる。
【0026】
なお、低止まりについては、杭頭11のレベルが標準に対して足りない状態であるから、杭頭11の上面に端板(杭端部鋼板同等品)を全周溶接する等して、所定の杭頭レベルとなるまで補正することができる。
【0027】
収容部21は、杭頭11を収容するとともに、円錐形に中心に向けて高くなるように傾斜する天井面26を有する。天井面26の傾斜の度合いを表す勾配は、1/10以上とされる。勾配は、水平距離に対する垂直距離を表し、1/10は、水平方向に10行くと垂直方向に1上がることを意味する。
【0028】
排出孔24は、収容部21の天井面26の最も高い箇所の中心27からパイルキャップ20の外部へと連続し、収容部21内の空気を排出する。排出孔24は、天井面26の最も高い箇所に1箇所のみ設けることで、空気を完全に排出することができ、空気溜まりの発生を抑制することができる。
【0029】
ちなみに、高止まり誤差をもって施工されると、パイルキャップ20の収容部21内に収容される杭10の埋め込み深さも大きくなる。杭10の埋め込み深さが大きいほど、縁空き部23が負担する曲げモーメントが大きくなる。曲げモーメントが無視できない程大きくなると、縁空き部23の厚さWを厚くしなければならないかを再照査する必要があり、施工の妨げとなる。
【0030】
このため、緩衝材25が、杭頭11の外周面とパイルキャップ20の収容部21の内側面との間に配置され、埋め込み深さHが変化しても曲げモーメントの増大を緩和させる。
【0031】
緩衝材25としては、充填材22より変形性に富む材料、例えば発泡ポリエチレンやゴム等の柔らかく、曲げやすい材料を用いることができる。緩衝材25は、リング状のものであってもよいし、板状のものを複数用い、杭10の外周面に隙間無く配置してもよい。このような緩衝材25を用いることで、杭10の上端に近いほど集中する応力を緩和させることができる。
【0032】
縁空き部23の厚さは、杭10に接する充填材の部分は含まない厚さで、緩衝材25を用いることにより薄くすることができる。充填材がない一般的なパイルキャップの慣例では、杭径Dの0.75倍以上とされる。充填材が含まれると縁空き部23の厚さはさらに厚くなるが、緩衝材25を用いることで、例えば250mm以上、かつ杭径Dの0.5倍以上であって、0.75倍以下とすることができる。緩衝材25を配置した後の収容部21の空間は、充填材22を注入し、埋めることができる。
【0033】
充填材22は、設置したパイルキャップ20と地盤の隙間を通し、パイルキャップ20の下方から圧入することにより充填することができる。充填材22の充填中は、収容部21内の空気が排出孔24を通して排出される。収容部21内が充填材22で充填されたか否かは、排出孔24からの充填材22の漏出の有無により確認することができる。
【0034】
次に、
図2を参照して、
図1に示す接続構造を構築する方法について説明する。基礎梁は、地面の中に施工されるため、地盤を所定の深さ掘り下げる根切りが行われる。根切りを行った後、砕石を敷き、プレート等で転圧を掛ける。そして、施工の基準となる水平面を作るために捨てコンクリートが打設される。
【0035】
杭10の周囲も同様に、
図2(a)に示すように根切りを行い、穴30を形成して、杭頭11を露出させる。
図2(a)では、形成した穴30の側壁が斜めに延びているが、穴30の側壁は、鉛直方向に延びていてもよい。
【0036】
杭頭11を露出させた後、必要に応じて杭頭処理を行い、
図2(b)に示すように杭頭11の外周囲に緩衝材25を配置する。そして、砕石を敷き、転圧を掛け、捨てコンクリートを打設する。その後、クレーン等を使用し、パイルキャップ20を吊り下げ、穴30に挿入する。
【0037】
穴30に挿入すると、
図2(c)に示すようにパイルキャップ20の収容部21内に杭頭11が収容された状態となる。パイルキャップ20の縁空き部23と捨てコンクリートとの隙間を通して、充填材22を圧入することにより、縁空き部23と杭10の外周囲に配置した緩衝材25との間から充填材22が注入される。なお、充填材22の注入のために、パイルキャップ20の下部や捨てコンクリート等に注入孔を設けてもよい。この場合、注入孔は、最後に充填材22により埋めることができる。
【0038】
収容部21内の空気は、パイルキャップ20の下方から注入される充填材22により押し上げられ、天井面26に集められる。天井面26は、中心27に向けて傾斜が設けられ、中心27の高さが最も高くなっているため、中心27に集められる。中心27には、外部へと連続する排出孔24が設けられており、中心27に集められた空気は、排出孔24を通して外部へ排出される。このため、空気溜まりは発生しない。
【0039】
収容部21内が充填材22により全て埋められると、充填材22が排出孔24へ入り、排出孔24から外部へ排出されるようになる。これにより、収容部21内が全て埋められ、空気溜まりがないことを確認することができる。
【0040】
収容部21の杭10の上面に対向する天井面26は、円錐形に中心に向けて高くなるように傾斜を有するものに限らず、
図3に示すように一方に向けて高くなるように傾斜を有するものであってもよい。この場合も同様に、排出孔24は、天井面26の最も高い箇所から外部へと連続するように設けられる。
【0041】
また、緩衝材25は、
図4に示すように杭頭11の上端から下方に向けて傾斜を有するテーパ状とすることができる。傾斜は、杭頭11の上端から、杭径Dの0.5倍+高止まり許容値85mmの範囲までとされ、傾斜の度合いを表す勾配は、1/10~1/30とされ、好ましくは1/20である。
【0042】
このように緩衝材25に傾斜を設けることで、充填材22がパイルキャップ20の根元側で良く圧密されて空気溜まりが生じにくくなる。
【0043】
本実施形態の接続構造は、従来と同程度の一定の杭の施工誤差を許容しながら、充填材の充填性や杭頭の構造性能を確保することができ、プレキャスト材により施工することが可能となる。
【0044】
これまで本発明の接続構造について図面に示した実施形態を参照しながら詳細に説明してきたが、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、他の実施形態や、追加、変更、削除など、当業者が想到することができる範囲内で変更することができ、いずれの態様においても本発明の作用・効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0045】
10…杭
11…杭頭
20…パイルキャップ
21…収容部
22…充填材
23…縁空き部
24…排出孔
25…緩衝材
26…天井面
27…中心
30…穴
40…基礎梁