(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-08
(45)【発行日】2022-07-19
(54)【発明の名称】作業機械
(51)【国際特許分類】
G01S 19/14 20100101AFI20220711BHJP
G01S 19/36 20100101ALI20220711BHJP
E02F 9/00 20060101ALI20220711BHJP
【FI】
G01S19/14
G01S19/36
E02F9/00 Z
(21)【出願番号】P 2018168142
(22)【出願日】2018-09-07
【審査請求日】2020-08-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】菅原 一宏
(72)【発明者】
【氏名】石橋 英人
(72)【発明者】
【氏名】金成 靖彦
【審査官】山下 雅人
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-021351(JP,A)
【文献】特開2015-021320(JP,A)
【文献】特開2015-103046(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0255494(US,A1)
【文献】特開2005-029338(JP,A)
【文献】国際公開第2014/076764(WO,A1)
【文献】特開2006-044932(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S19/00-19/55
E02F 9/00- 9/16
B66C13/00-15/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部走行体と,
前記下部走行体の上に旋回可能に取り付けられた上部旋回体と,
前記上部旋回体の前方に取り付けられ
,垂直方向に回動可能な複数のフロント部材を連結して構成される作業装置と,
前記上部旋回体
に固定された2つのGNSSアンテナとを備えた油圧ショベルにおいて,
前記複数のフロント部材の回動軸に直交する平面を動作平面としたとき,
前記2つのGNSSアンテナは,前記上部旋回体の上面における前記作業装置の後方の領域,かつ,前記作業装置の左右方向における左側最外端を通り前記動作平面に平行な第1仮想平面と前記作業装置の左右方向における右側最外端を通り前記動作平面に平行な第2仮想平面とに挟まれた領域に位置し,前記作業装置の前後方向に間隔を介して配置されている
ことを特徴とする油圧ショベル。
【請求項2】
請求項1の油圧ショベルにおいて,
前記2つのGNSSアンテナは,前記上部旋回体の上面と前記動作平面との交線の上方に配置されている
ことを特徴とする油圧ショベル。
【請求項3】
請求項1の油圧ショベルにおいて,
前記作業装置は,前記上部旋回体に回動可能に取り付けられたブームを有し,
前記2つのGNSSアンテナは,前記ブームの左右方向における左側最外端を通り前記動作平面に平行な第3仮想平面と,前記ブームの左右方向における右側最外端を通り前記動作平面に平行な第4仮想平面とに挟まれた領域に位置する
ことを特徴とする油圧ショベル。
【請求項4】
請求項1の油圧ショベルにおいて,
前記2つのGNSSアンテナをそれぞれ支持する2本のマストをさらに備え,
前記作業装置は,前記上部旋回体に回動可能に取り付けられたブームを有し,
前記2本のマストは,
それぞれ,前記ブームの左右方向における左側最外端を通り前記動作平面に平行な第3仮想平面と,前記ブームの左右方向における右側最外端を通り前記動作平面に平行な第4仮想平面とに挟まれた領域に位置するように前記上部旋回体の上面に配置されており,
さらに前記上部旋回体の上面と前記動作平面の交線上に配置されている
ことを特徴とする油圧ショベル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は複数のGNSSアンテナを搭載した作業機械に関する。
【背景技術】
【0002】
ブーム,アーム及びバケットなどの複数のフロント部材を連結して構成される多関節型のフロント作業装置(作業装置)を備える作業機械(例えば油圧ショベル)には,フロント作業装置の先端位置を目標施工面とともに運転室内のモニタに表示するマシンガイダンス機能や,目標施工面の下方にフロント作業装置が侵入しないようにフロント作業装置の動作(すなわちフロント部材を駆動するアクチュエータの動作)に制限をかけるマシンコントロール機能を備えるものがある。これらの機能で利用される目標施工面はグローバル座標系(地理座標系)やグローバル座標系に関連付けられた所定の座標系で定義されていることがある。作業機械周辺の目標施工面を取得するためには,作業機械本体(例えば上部旋回体)のグローバル座標系における位置や方向が必要となる。
【0003】
作業機械には,GNSS(Global Navigation Satellite System)アンテナを作業機械本体上の左右に搭載したものがある(特許文献1)。この2つのGNSSアンテナで受信した衛星信号(航法信号)から得た測位結果を利用すれば,グローバル座標系における作業機械本体の位置だけでなく,作業機械本体の向き(方位)が演算でき,それによりフロント作業装置の向き(方位)も演算できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように演算した作業機械本体やフロント作業装置の向きに含まれる誤差が大きいと,作業機本体やフロント作業装置の実際の向きに即した正しい目標施工面が取得できず施工精度が低下するおそれがある。
【0006】
ところで,GNSS衛星と作業機械のGNSSアンテナを結ぶ直線上またはその近傍にフロント作業装置が位置すると,そのGNSS衛星から送信される電磁波(航法信号)の一部がフロント作業装置によって遮蔽されてGNSSアンテナに届くので,GNSSアンテナの位置の計測誤差が大きくなることがある。1本のGNSSアンテナの位置を計測するには少なくとも4基以上のGNSS衛星から電磁波を受信することが必要だが,この4基以上のGNSS衛星の中にフロント作業装置で電磁波が遮蔽されるものが含まれていると測位誤差が発生し易い。
【0007】
特許文献1のように上部旋回体の左右方向に間隔を介して2つのGNSSアンテナを配置した作業機械において,2つのGNSSアンテナによる測位結果を利用して作業機械本体やフロント作業装置の向きを高精度に演算するためには,2つのGNSSアンテナ双方の位置が精度良く演算される必要がある。しかし,例えば上部旋回体(フロント作業装置)の前方かつフロント作業装置の左側に或るGNSS衛星が位置するとき,機体左側のGNSSアンテナはフロント作業装置による遮蔽の影響が少ない電磁波を受信できるものの,機体右側のGNSSアンテナはフロント作業装置による遮蔽の影響を受けた電磁波を受信することとなる(例えば,後述する
図8における衛星200bと2つのGNSSアンテナ40a,40bの関係)。このように,特許文献1のように配置した2つのGNSSアンテナは,同じGNSS衛星から電磁波を受信しても測位誤差が生じ得るので,その配置に改善の余地がある。
【0008】
本発明の目的は作業機械本体やフロント作業装置の向き(方位)を精度良く演算できる作業機械を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願は上記課題を解決する手段を複数含んでいるが,その一例を挙げるならば,下部走行体と,前記下部走行体の上に旋回可能に取り付けられた上部旋回体と,前記上部旋回体の前方に取り付けられ,垂直方向に回動可能な複数のフロント部材を連結して構成される作業装置と,前記上部旋回体に固定された2つのGNSSアンテナとを備えた油圧ショベルにおいて,前記複数のフロント部材の回動軸に直交する平面を動作平面としたとき,前記2つのGNSSアンテナは,前記上部旋回体の上面における前記作業装置の後方の領域,かつ,前記作業装置の左右方向における左側最外端を通り前記動作平面に平行な第1仮想平面と前記作業装置の左右方向における右側最外端を通り前記動作平面に平行な第2仮想平面とに挟まれた領域に位置し,前記作業装置の前後方向に間隔を介して配置されているものとする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば作業機械本体やフロント作業装置の向き(方位)を精度良く演算できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る油圧ショベルの上面図。
【
図3】GNSS位置測定誤差の発生例(フロント作業装置を下ろした状態)。
【
図4】GNSS位置測定誤差の発生例(フロント作業装置を上げた状態)。
【
図5】3基の衛星からの電磁波を受信した場合におけるGNSSアンテナ40aの位置計測の説明図。
【
図6】GNSS衛星とGNSSアンテナ40の間にフロント作業装置が位置する場合の電磁波の伝搬状態の説明図。
【
図7】
図6における位置d2でのフロントエリア付近の断面図。
【
図12】本発明の第2実施形態に係る油圧ショベルの外観図。
【
図13】本発明の第3実施形態に係る油圧ショベルの外観図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下,本発明の実施の形態について図面を用いて説明する。
図1は本発明の第1実施形態に係る油圧ショベル100の上面図であり,
図2は
図1の油圧ショベル1の側面図である。本稿では油圧ショベルの方向を
図1,
図2に示すように前後,左右,上下と定める。前後方向はフロント作業装置1及び上部旋回体2の長さ方向(軸線方向)であり,左右方向は同幅方向であり,上下方向は同高さ方向である。
【0013】
油圧ショベル100は,クローラ式の走行体(無限軌道とも呼ばれる。)である下部走行体3と,下部走行体3の上部に旋回可能に取り付けられている上部旋回体2と,上部旋回体2の前方に取り付けられた多関節型のフロント作業装置1と,複数のGNSS衛星200a-200e(
図2参照)が送信する航法信号(電磁波)を受信するための2つのGNSSアンテナ40a,40bを備えている。フロント作業装置1は,垂直方向にそれぞれ回動する複数のフロント部材(ブーム10,アーム20,バケット(作業具)30)を連結して構成されている。
【0014】
フロント作業装置1のブーム10の基端部は上部旋回体2の前部に垂直方向に回動可能に支持されており,アーム20の基端部はブーム10の先端部に垂直方向に回動可能に支持されており,アーム20の先端部にはバケット30が垂直方向に回動可能に支持されている。ブーム10,アーム20,バケット30は,油圧シリンダ(油圧アクチュエータ)であるブームシリンダ4,アームシリンダ5,バケットシリンダ6によりそれぞれ駆動される。
【0015】
ブーム10,アーム20及びバケット30は,フロント作業装置1を含む平面上で動作し,以下ではこの平面を動作平面と称することがある。つまり動作平面とは,ブーム10,アーム20及びバケット30の回動軸に直交する平面であり,例えばブーム10,アーム20及びバケット30の幅方向の中心(すなわち各フロント部材10,20,30の回動軸の中心)に設定できる。本実施形態では,ブーム10,アーム20及びバケット30の幅方向の中心を通過する面を動作平面Po(
図1参照)とする。
【0016】
<GNSSアンテナ40の配置>
2つのGNSSアンテナ40a,40bは,それぞれマスト(アンテナ支持部材)41a,41bを介して上部旋回体2に固定されており,上部旋回体2の上面におけるフロント作業装置1の後方の領域(第1領域)とフロント作業装置1の上面の領域(第2領域)のいずれか一方の領域の上方にそれぞれ位置し,フロント作業装置1の前後方向に所定の間隔を介して配置されている。本実施形態の2つのGNSSアンテナ40a,40bは,
図1等に示すように,上部旋回体2の上面(第1領域)と動作平面Poとの交線の上方に中心が位置するように配置されており,フロント作業装置1の前後方向に沿って配置されている。このように2つのGNSSアンテナ40a,40bを配置すると,衛星からの電磁波がフロント作業装置1に遮蔽される領域を動作平面Poの延長面の近傍に限定でき,他の領域ではフロント作業装置1による電磁波の遮蔽は略行われないこととなる。
【0017】
2本のマスト41a,41bはそれぞれ上部旋回体2の上方でGNSSアンテナ40a,40bを支持するためのポール状の支持部材である。本実施形態の2本のマスト41a,41bは,GNSSアンテナ40a,40bと同様に上部旋回体2の上面(第1領域)と動作平面Poの交線上に配置されている。
図2に示した例では,各マスト41a,41bの基端は上部旋回体2の上面に固定されており,各マスト41a,41bは当該基端から略垂直に伸びている。そして各マスト41a,41bの先端には,中心部が軸方向に膨らんだ略円盤状の外形を有するGNSSアンテナ40a,40bが取り付けられており,各マスト41a,41bは自身の中心軸心が各GNSSアンテナ40a,40bの中心軸心を通過するように各アンテナ40a,40bを支持している。なお,GNSSアンテナ40a,40bの支持部材は,ポール状のマスト41a,41bに限らず,種々の形状の支持部材による支持が可能である。
【0018】
なお、2つのGNSSアンテナ40a,40bの配置は次の場合も許容される。まず,2つのGNSSアンテナ40a,40bは,フロント作業装置1の左右方向における左側最外端を通り動作平面Poに平行な第1仮想平面Pv1と,フロント作業装置1の左右方向における右側最外端を通り動作平面Poに平行な第2仮想平面Pv2とに挟まれた領域に位置するように配置することができる。ここで「フロント作業装置1の左右方向における左側最外端」とは,動作平面Poの左側(
図1の紙面上では動作平面Poの下側)に位置するフロント作業装置1を構成する全ての部材上の点で動作平面Poから最も遠い位置に存在する点であり,同様に「フロント作業装置1の左右方向における右側最外端」とは,動作平面Poの右側(
図1の紙面上では動作平面Poの上側)に位置するフロント作業装置1を構成する全ての部材上の点で動作平面Poから最も遠い位置に存在する点である。バケット30の左右方向の幅にもよるが,例えば,フロント作業装置1の左右方向における左側最外端と右側最外端は,
図1に示すようにバケット30の左側最外端と右側最外端となることがある。
【0019】
ただし,2つのGNSSアンテナ40a,40bは,ブーム10の左右方向における左側最外端を通り動作平面Poに平行な第3仮想平面Pv3と,ブーム10の左右方向における右側最外端を通り動作平面Poに平行な第4仮想平面Pv4とに挟まれた領域に位置するように配置することが好ましい。これはフロント作業装置1を構成する部材の中で通常ブーム10が最も大きいため衛星からの電磁波(航法信号)を遮蔽する力が強く,GNSSアンテナ40a,40bの測位誤差に与える影響が大きいためである。なお,「ブーム10の左右方向における左側最外端(右側最外端)」とは動作平面Poの左側(右側)に位置するブーム10上の点で動作平面Poから最も遠い位置に存在する点である。
図1ではブーム10の左右幅は前後方向に一定であり第3,第4仮想平面Pv3,4はブーム10の左右側面に位置している。なお,例えば基端に向かって左右方向の幅が拡大しているブーム10であればブーム幅は基端で最大となるため,第3,第4仮想平面Pv3,4はそれぞれブーム10の基端における左右端を通過する平面となる。
【0020】
さらに,上記のような油圧ショベル1の左右方向の領域に2つのGNSSアンテナ40a,40bを配置したうえで,2つのGNSSアンテナ40a,40bはさらに次のように配置することが好ましい。すなわち,2つのGNSSアンテナ40a,40bは,上部旋回体2及びフロント作業装置1の上面(すなわち第1領域及び第2領域)と動作平面Poとの交線の上方,または,上部旋回体2及びフロント作業装置1の上面(すなわち第1領域及び第2領域)と動作平面Poに平行な面との交線の上方に各GNSSアンテナ40a,40bの中心が一直線上に位置するようにマスト41a,41bで支持して配置することが好ましい。
【0021】
<GNSS受信機60>
上部旋回体2には,2つのGNSSアンテナ40a,40bと無線機65に接続されたGNSS受信機60が設けられている。受信機60は,処理装置(例えばCPU)と,2つのGNSSアンテナ40a,40bが受信した航法信号から処理装置が2つのGNSSアンテナ40a,40b間の相対位置を測定するためのムービングベース方式のプログラムが格納された記憶装置を有する測位用のコントローラである。また,受信機60はそれぞれのGNSSアンテナ40a,40bの緯度,経度,ジオイド高さを含むNMEAフォーマットなどでGNSSアンテナ40a,40bの測位結果を出力可能である。
【0022】
受信機60は,2つのGNSSアンテナ40a,40bがそれぞれ受信した航法信号に基づいてフロント作業装置1及び上部旋回体2の方位を計測する。より具体的には,受信機60は,2つのGNSSアンテナ40a,40b間の相対位置(ベクトル)を演算し,さらに,各GNSSアンテナ40a,40bとフロント作業装置1及び上部旋回体2の幾何学的な位置関係からフロント作業装置1及び上部旋回体2の方向を演算する。本実施形態では,2つのGNSSアンテナ40a,40bの位置を通過する直線(ベクトル)の方向がフロント作業装置1の前後方向となり,その直線上で2つのGNSSアンテナ40a,40bの間の位置からGNSSアンテナ40aに向かう方向がフロント作業装置1の前方向となる。
【0023】
無線機65は,基準局GNSSアンテナ45が設置されグローバル座標系(地理座標系)における位置が既知の基準局に設置されたGNSS受信機70から無線機75を介して送信される補正情報を受信している。この補正情報はショベル1に搭載されたGNSS受信機60が位置を演算する際に利用される(詳細は後述する)。
【0024】
<GNSSアンテナ40の測位,上部旋回体2とフロント作業装置1の方位算出>
図2に示したGNSS衛星200a~200eからは送信時刻情報を含んだ電磁波(航法信号)が送信されている。GNSS受信器60,70は,各GNSS衛星からの電磁波の受信時刻とその電磁波に含まれた送信時刻とから到達時間差を演算し,その到達時間差を基に各GNSS衛星とGNSSアンテナ40a,40b,45との距離を推測してGNSSアンテナ40a,40b,45の位置を算出する。GNSS衛星は精巧な時計を搭載しており,各衛星からの電磁波を復調して得られる到達時間差に電磁波の速度を乗算することにより各GNSS衛星とGNSSアンテナ間の距離を算出する。
【0025】
また,電磁波には各衛星の軌道情報を変調したものが含まれており,これを復調することでGNSS衛星200a~200eの位置情報をGNSS受信器60,70にて算出することができる。例えば
図5のように3基の衛星からの電磁波をGNSSアンテナ40aで受信した場合を平面で示すと,各衛星の軌道情報より求めた衛星位置を中心とし距離L1,L2,L3を半径とする3つの球を描いても1点には収束しない。これは後述するように距離L1,L2,L3に誤差が含まれるためであるが,最小二乗法によりGNSSアンテナ40aの位置を推測することができる。
【0026】
図5の例では合計3基の衛星からの電磁波で平面上の位置(X,Y)を求めることができたが,合計で4基の衛星からの電磁波が受信できれば3次元空間での位置(X,Y,Z)が計測可能である。衛星が4基の場合は衛星位置を中心とし距離L1,L2,L3,L4を半径とする球は必ずしも1点で交差しないが,各球からの差が最も少なくなる点をGNSSアンテナ40aの位置と推測できる。また,
図2のように衛星数が4個以上ある場合も同様に各球からの差が最も少なくなる点をGNSSアンテナの位置と推測することができる。
【0027】
ここで,各衛星からの距離に応じた球の交点が1点にならない理由は,算出したGNSS衛星とGNSSアンテナとの距離に誤差が含まれるためである。この誤差は,GNSS衛星とGNSSアンテナ間に存在する電離層や水蒸気によって発生する電磁波の速度変化が方位や仰角が異なる各GNSS衛星の位置毎に異なることや,各GNSS衛星より電磁波で送られる軌道情報が実際の位置と若干異なることや,各GNSS衛星間の時計情報に若干の誤差があること等の要因により発生する。
【0028】
このような誤差はRTK-GNSS(リアルタイムキネマティックGNSS)を利用することで低減できる。例えば,油圧ショベル100の近くに(数km以内)設置した絶対位置が既知の基準局GNSSアンテナ45の測位と補正情報の演算を基準局GNSS受信機70で行い,その補正情報を無線機75にてショベル1の受信機65に送信する。そして2つのGNSSアンテナ40a(40b),45間の絶対位置ではなく相対位置(ベクトル)を測定することで誤差を低減することができる。
【0029】
無線機75より送信された補正情報は,油圧ショベル100に搭載された無線機65で受信されGNSS受信機60に送信される。GNSS受信機60ではGNSSアンテナ40a(移動局)で受信した航法信号と補正情報より得た基準局GNSSアンテナ45の信号を比較演算することにより,基準局GNSSアンテナ45とGNSSアンテナ40a間の相対的な位置(方向と距離)を算出する。このとき,補正情報として基地局アンテナ45が受信した衛星からの航法信号の搬送波位相情報を送信し,これを移動局アンテナ40aが受信した航法信号の搬送波位相情報とGNSS受信機60で比較演算する。これにより数cmオーダーの移動局アンテナ40aの測位が可能となり,
図3のようにほぼ一点に収束した高精度の相対測位が可能となる。さらに,前述した補正情報のなかに基準局GNSSアンテナ45の位置情報を含めることで,移動局であるGNSSアンテナ40aの絶対位置を求めることが可能となる。また,基準局GNSSアンテナ45とGNSSアンテナ40aの距離が近距離(一般的に数km以内)の場合は,前述した誤差要因(電磁波の速度変化,各GNSS衛星間の時計情報誤差)をよく相殺することが可能となる。
【0030】
ここで,本実施形態のGNSS受信機60の測位対象には2つのGNSSアンテナ40a,40bが存在するため,一方のGNSSアンテナ40aを基準局とし他方のGNSSアンテナ40bを移動局とみなすことができる。このような手法がムービングベース方式である。GNSSアンテナ40aの受信信号にて生成した補正情報をGNSSアンテナ40bとの相対位置(ベクトル)の測定に利用することで2つのGNSSアンテナ40a,40b間の相対位置(ベクトル)を測定することが可能となる。ムービングベース方式ではGNSS受信機70から送信される補正情報を利用することなく相対位置(ベクトル)を演算可能である。
【0031】
また,別の方向算出方法として,基準局GNSSアンテナ45からGNSSアンテナ40aとGNSSアンテナ40bの位置をそれぞれ演算して,その位置の差分から方向を求める方法もある。そして,このようにして演算した2つのGNSSアンテナ40a,40b間の方向に,ショベル100における2つのGNSSアンテナ40a,40bの取り付け位置に起因した定数を考慮することにより,上部旋回体2(車体)及びフロント作業装置1の方角(方向)が算出可能である。
【0032】
また,本実施形態では
図2のように油圧ショベル100とは別に基準局GNSSアンテナ45を設置して補正情報を送信して上部旋回体2やフロント作業装置1の方向を演算するシステムについて説明したが,VRS(仮想基準点方式)や準天頂衛星等の補正情報をネットワークで配信するサービスを用いても同様に機能する。
【0033】
なお,本実施形態では図示したように1つの受信機60で2つのアンテナ位置の測位を行っているが,アンテナごとに受信機60を備えても良い。
【0034】
<フロント作業装置1による測位誤差>
次にGNSS衛星とGNSSアンテナを結ぶ直線上またはその近傍にフロント作業装置1が位置する場合に発生する位置測定誤差について説明する。冒頭でも触れたが,GNSS衛星から送信される電磁波(航法信号)がフロント作業装置1によって遮蔽されると,GNSSアンテナの位置の計測誤差が大きくなる。ここでGNSS位置測定誤差の発生例を
図3,
図4に示す。図中の60a,60bはGNSS基準局からの補正データを利用して,RTK方式で1日の作業時間に相当する8時間測定したときのGNSSアンテナ40位置のプロット結果である。
図3のようにフロント作業装置1がGNSSアンテナ40より低い姿勢で計測した場合は,測位結果は60aのようにおよそ直径0.03mの範囲に収まる。これに対して
図4のようにGNSSアンテナ40より高い位置までフロント作業装置1を上げた姿勢で計測した場合は,測位結果は60bに示すように矢印50の方向にプロット範囲が広がっておよそ直径0.12mの範囲となり,
図3の4倍にプロット範囲が広がる。
【0035】
次に
図4あるいは
図5のように,GNSS衛星とGNSSアンテナ間にフロント作業装置1が位置する場合に測位誤差が発生するプロセスについて
図6,
図7にて説明する。
【0036】
図6に示すように,GNSS衛星側の送信アンテナ210とGNSS受信機60側の受信アンテナ40間の電磁波(航法信号)はフレネルゾーンと呼ばれる幅を持った空間を伝搬している。電磁波の波長をλで表すと,空間内の電磁波の経路差がλ/2以内のエリアが第1フレネルゾーン221,経路差がλ以内のエリアが第2フレネルゾーン222である。
図6のように2つのアンテナ210,40間の距離をdとし,2つのアンテナ210,40からの距離がそれぞれd1,d2(但し,d=d1+d2)となる位置でのn番目のフレネルゾーン半径rnは下記の式(1)で表現できる。
【0037】
【0038】
ここで,電磁波のエネルギーの大部分は第1フレネルゾーン221に集中しているため送信アンテナ210と受信アンテナ40近傍までの距離dを20万kmとし,受信アンテナ40からd2=2m離れた位置での第1フレネルゾーン半径r1を計算するとd1はd2に比べて十分に大きいためd=d1+d2=d1と考えることができ下記の式(2)となる。
【0039】
【0040】
ここでGNSS衛星からの電磁波の波長λを0.2mとするとd2=2mでの第1フレネルゾーン半径は0.63mと算出できる。
【0041】
また,第1フレネルゾーン221は経路差がλ/2以内であり,第2フレネルゾーン222は経路差がλ以内でありことから,フレネルゾーンの中心部に比べて外周部では電磁波の経路長が長くなっており,これら経路長の異なる電磁波の集合体が実質的な電磁波としての経路長となる。
【0042】
ここで,
図6,
図7に示すように第1フレネルゾーン221において受信アンテナ40から距離d2だけ離れた位置に,油圧ショベル100のフロント作業装置1の一部の領域(例えば,ブーム10の一部の領域。以下では「フロントエリア230」と称することがある。)が存在するとする。
図7は,
図6の2つのアンテナ210,40を結ぶ直線に直交する面(但し,距離d2の位置)によるフロントエリア230の断面図を示す。
【0043】
図7に示すように第1フレネルゾーン221の周辺部分をフロントエリア230が遮る場合は,電磁波のうち経路長の長い成分が減少する。このため電磁波としてのGNSS衛星(送信アンテナ210)とGNSSアンテナ40間の距離は短くなる。また,第1フレネルゾーン221の中心部分をフロントエリア230が遮る場合は,経路長の短い成分が減少する。このため電磁波としてのGNSS衛星(送信アンテナ210)とGNSSアンテナ40間の距離は長くなる。
【0044】
以上のように
図4あるいは
図5のように,GNSS衛星(送信アンテナ210)とGNSSアンテナ40間にフロント作業装置1が位置する場合には,計測される距離に誤差が発生することがわかる。この誤差はフロント作業装置1による誤差のため,フロント作業装置1の影響を受けない基準局GNSSアンテナ45での計測では発生しない。このため,油圧ショベル100のGNSSアンテナ40aではフロント作業装置1の影響を受けて例えば
図4のようにフロント作業装置1の軸線方向(延伸方向)50に沿って計測誤差が大きくなる。
【0045】
図8に示すような油圧ショベル100の上部旋回体2の左右方向に沿って2つのGNSSアンテナ40a,40bを設置した従来技術では,フロント作業装置1の軸線方向に計測誤差が発生する。例えば
図8において,GNSS衛星200aの電磁波をGNSSアンテナ40bにて受信するときに,電磁波の第1フレネルゾーンの周辺部分がフロント作業装置1にて遮蔽されて電磁波のうち経路長の長い成分が減少した場合,GNSSアンテナ40bで計測されるアンテナ間距離L1bが実際よりも短く計測される。一方,GNSS衛星200bの電磁波をGNSSアンテナ40aにて受信するときに,電磁波の第1フレネルゾーンの中心部分がフロント作業装置1にて遮蔽されて電磁波のうち経路長の短い成分が減少した場合,GNSSアンテナ40aで計測されるアンテナ間距離L2aが実際よりも長く計測される。すなわち,GNSSアンテナ40aは矢印52の方向にずれて実際よりも後方(例えば直線L2a上における点線40a’の位置)に,GNSSアンテナ40bは矢印51の方向にずれて実際よりも前方(例えば直線L1b上における点線40b’の位置)に位置すると計測される。その結果,上部旋回体2およびフロント作業装置1の向き(方向)は実際よりも矢印53の方向(上部旋回体2を上から見たときの時計回り方向)に回転して計測される。このようにGNSS衛星(送信アンテナ210)とGNSSアンテナ40a,40bを接続する直線上またはその周辺にフロント作業装置1が位置する場合には,GNSS衛星からの電磁波の一部が遮蔽されてアンテナ間距離が実際よりも長くなったり短くなったりして測位誤差が生じ易く,その結果に基づいて演算される上部旋回体2やフロント作業装置1の向き(方位)にも誤差が生じてしまう。
【0046】
<作用・効果>
これに対して本実施形態の2つのGNSSアンテナ40a,40bは,
図1等に示すように,上部旋回体2の上面におけるフロント作業装置1の後方の領域(第1領域)の上方,かつ,上部旋回体2の上面と動作平面Poとの交線の上方に位置するように,フロント作業装置1の前後方向(軸線方向)に間隔を介して配置されている。このようにフロント作業装置1の軸線方向と一致させて2つのGNSSアンテナ40a,40bを設置すると,
図9に示すようにフロント作業装置1の略軸線方向の延長線上にGNSS衛星200aが位置し,GNSS衛星200aからの電磁波の一部がフロント作業装置1で遮蔽される場合,2つのGNSSGNSSアンテナ40a,40bがともに遮蔽による影響を受ける。そのため衛星と各GNSSアンテナ40a,40bの距離が電磁波の遮蔽の影響によって実際よりも短くなっても長くなっても,2つのGNSSアンテナ40a,40bの測位結果から演算される上部旋回体2やフロント作業装置1の方向は影響を受けない。例えば,2つのGNSSアンテナ40a,40bの位置が電磁波の遮蔽により図中の矢印53の方向にずれて点線40a’,40b’の位置で計測されても,その結果から演算される方向と実際の位置から演算される方向に差異は生じない。すなわち本実施形態によれば上部旋回体2やフロント作業装置1の方向を精度良く演算できる。
【0047】
なお,GNSS衛星200aの衛星信号がフロント作業装置1の影響を受けない場所にGNSS衛星200aが移動した場合には,GNSS衛星200aから送信される電磁波はフロント作業装置1に遮蔽されることなく2つのGNSSアンテナ40a,40bに到達し得るので,上部旋回体2やフロント作業装置1の方向は精度良く演算される。
【0048】
次に
図10,
図11にて,本実施形態によって上部旋回体2やフロント作業装置1の方向検出精度が高精度化されたことによる効果を説明する。ここでは
図10のように階段状の構造物を施工する場合を想定し,その場合に油圧ショベル100を上面から俯瞰したものを
図11に示す。
図8に例示した従来技術のようにフロント作業装置1の方向に時計回り方向の角度誤差が発生し,実際の方向(線55)と異なる方向(線56)がフロント作業装置1の方向であると検出され,目標面施工面は(c)のように階段状に設定される。しかし,実際の目標施工面は(b)のように平坦で実際の目標施工面と著しく形状が異なるため施工精度が低下してしまう。このように従来のアンテナ配置(
図8参照)では衛星位置によっては電磁波の遮蔽が発生するため,特に上部旋回体2の旋回方向で形状の異なる目標施工面が設定されている場合には施工精度が低下するという課題があった。しかし,上記のようなアンテナ配置(
図1等参照)とした本実施形態によれば衛星からの電磁波が遮蔽されても,演算されるフロント作業装置1の向きと実際の向きに差異が生じないため施工精度を維持することができる。
【0049】
<その他>
なお,上記の説明では,上部旋回体2の上面におけるフロント作業装置1の後方の領域(第1領域)の上方に2つのGNSSアンテナ40a,40bを配置する場合について説明したが,
図12に示すようにフロント作業装置1の上面の領域(第2領域)の上方に2つのGNSSアンテナ40a,40bを配置しても良い。図示の例ではブーム10の上面の上方にGNSSアンテナ40aを,アーム10の上面の上方にGNSSアンテナ40bを配置している。このようにフロント作業装置1の上面の領域にGNSSアンテナを設置した場合,上部旋回体2の上面に取り付ける場合に比べて衛星電波の障害となっていたフロント作業装置1の影響が低減され,上部旋回体2(車体)およびフロント作業装置1の方角(方向)精度及びアンテナ位置の測位精度が向上する。また,
図13に示すように第1領域の上方に2つのアンテナのうちの一方40bを,第2領域の上方に2つのアンテナのうちの他方40aを配置しても良い。この場合には2つのGNSSアンテナ40a,40b間の距離を大きくできるのでフロント作業装置1の方角(方位)の演算精度とアンテナ位置の測位精度が向上する。
図12,
図13の場合も,2つのGNSSアンテナ40a,40bは動作平面Po上に配置することが好ましいのは言うまでもない。
【0050】
また,
図12,13のようにフロント作業装置1の上面の領域の上方にGNSSアンテナ40a,40bを配置する場合,GNSSアンテナ40a,40bをその基端を中心に前後方向に回動可能とする回動機構を備えることが好ましい。このように回動機構を備えると,フロント作業装置1を掘削開始姿勢にした場合におけるGNSSアンテナ40a,40bの姿勢が略水平になるようにGNSSアンテナ40a,40b取り付け角度を変更することができる。また,回動機構を利用しない場合には,掘削開始姿勢にてGNSSアンテナ40a,40bが略水平になる角度でGNSSアンテナ40a,40bを固定することが好ましい。
【0051】
また、上記では2つのGNSSアンテナ40a,40bの位置と上部旋回体2及びフロント作業装置1の方向の計測をGNSS受信機60で行ったが,2つのGNSSアンテナ40a,40bの位置をGNSS受信機60から入力して油圧ショベル100に搭載されたコントローラで演算する構成を採用しても良い。その場合,コントローラは油圧ショベル100に搭載される必要はなく,受信機60と通信可能な外部の管理センターなどに設置されたコンピュータを利用しても良い。
【符号の説明】
【0052】
1…フロント作業装置(作業装置),2…上部旋回体,3…下部走行体,10…ブーム,40a…GNSSアンテナ,40b…GNSSアンテナ,41a…マスト,41b…マスト,45…基準局GNSSアンテナ,60…GNSS受信機,65…無線機,70…GNSS受信機,75…無線機,200…GNSS衛星, Po…動作平面,Pv1…第1仮想平面,Pv2…第2仮想平面,Pv3…第3仮想平面,Pv4…第4仮想平面