(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-08
(45)【発行日】2022-07-19
(54)【発明の名称】印刷用塗工紙
(51)【国際特許分類】
D21H 19/38 20060101AFI20220711BHJP
D21H 19/44 20060101ALI20220711BHJP
D21H 19/80 20060101ALI20220711BHJP
【FI】
D21H19/38
D21H19/44
D21H19/80
(21)【出願番号】P 2017201551
(22)【出願日】2017-10-18
【審査請求日】2020-03-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000005980
【氏名又は名称】三菱製紙株式会社
(72)【発明者】
【氏名】浦崎 淳
【審査官】川口 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-077423(JP,A)
【文献】特開2009-052168(JP,A)
【文献】特開2005-112668(JP,A)
【文献】特開昭56-134293(JP,A)
【文献】特開平06-155923(JP,A)
【文献】特開2009-121002(JP,A)
【文献】特開2011-178838(JP,A)
【文献】特開2011-148194(JP,A)
【文献】特開2011-026753(JP,A)
【文献】特開2015-013373(JP,A)
【文献】特開2013-091868(JP,A)
【文献】特開2017-047583(JP,A)
【文献】特開2002-004194(JP,A)
【文献】紙と加工の薬品辞典、平成3年2月25日、株式会社テックタイムス、65-67ページ
【文献】日本化薬株式会社ホームページ,「カヤホールSTCリキッド」、2021年11月22日検索、インターネット<https://www.nipponkayaku.co.jp/shikizai/sc_dye/dye_colorlist/kwl_pdf/FSTCL(ACID).pdf>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21H 19/38
D21H 19/44
D21H 19/80
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原紙と、前記原紙の少なくとも片面に塗工層とを有し、前記塗工層において原紙を基準として最外に位置する最外塗工層が白色顔料、バインダ及び蛍光染料を少なくとも含有し、最外塗工層において、白色顔料の少なくとも2種にカオリン及び炭酸カルシウムを含み、カオリンと炭酸カルシウムとの最外塗工層中の含有質量比(カオリン:炭酸カルシウム)が1:9~6:4であり、かつバインダの少なくとも2種にスチレン-ブタジエン共重合体樹脂及び澱粉類を含み、スチレン-ブタジエン共重合体樹脂と澱粉類との最外塗工層中の含有質量比(スチレン-ブタジエン共重合体樹脂:澱粉類)が6:4~9:1であり、前記澱粉類が尿素置換度平均値が0.005以上0.05以下の尿素燐酸エステル化澱粉であり、前記蛍光染料がスチルベンジスルホン酸誘導体であ
り、最外塗工層における前記蛍光染料の含有量が片面あたり最外塗工層中の白色顔料100質量部に対して0.06質量部以上0.25質量部以下である印刷用塗工紙。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オフセット印刷機向け印刷用塗工紙でありながらインクジェット印刷機で印刷ができる印刷用塗工紙に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式は、インクの液滴を微細なノズルから記録用紙に吐出し、用紙上に着弾させることによってインクドットを形成して記録を行う方式である。
インクジェット記録方式は、家庭向け及びSOHO向けの小型プリンター、POP及びポスター製作に用いるワイドフォーマットプリンター、並びに商業印刷物の生産に用いるオンデマンド印刷機に使用される。用いる印刷用塗工紙は、マット調からグロス調まで種々の光沢感のものが存在する。ビジネス文書、DM、書籍、小冊子、チラシ、パンフレット、カタログなどの商業印刷物を生産するための印刷用塗工紙と、インクジェット記録方式において銀塩写真の代替用に開発された写真用紙とは、印刷物のコスト、印刷物生産性及び印刷物の扱い方の点で、要求される品質が異なる。
【0003】
十分な白色度とインク着肉性を有し、印刷強度に優れる印刷用塗工紙として、パルプを主成分とする基紙の少なくとも一方の面に、白色顔料と接着剤と蛍光増白剤とを含有する塗工層を有する印刷用塗工紙であって、前記塗工層の塗工量が基紙の片面あたり固形分換算で1g/m2以上5g/m2以下であり、前記白色顔料の5質量%以上35質量%以下がカオリンであり、前記白色顔料に対して接着剤として重合度が1000~2000のポリビニルアルコールを4.5質量%以上11質量%以下含有し、前記白色顔料に対して接着剤を20質量%以上40質量%以下含有することを特徴とする印刷用塗工紙が公知である(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
オフセット印刷機や凸版印刷機などの刷版印刷機は、印刷画像を形成した「版」を必要とする。一方、オンデマンド印刷機は「版」を必要としない。すなわち、オンデマンド印刷機は、画像に関するデジタル情報に沿って画像形成装置が用紙に直接印刷する。
インクジェット記録方式を使用するオンデマンド印刷機、すなわちインクジェット印刷機が存在する。インクジェット印刷機の例としては、SCREENグラフィックソリューションズ社のTruepressJet、ミヤコシ社のMJPシリーズ、コダック社のProsper及びVERSAMARK、富士フイルム社のJetPress、Hewlett-Packard社のColorInkjetWebPressなどがある。
【0005】
このようなインクジェット印刷機は、印刷諸条件に依存するものの、家庭向け及びSOHO向け小型インクジェットプリンター、並びにワイドフォーマットインクジェットプリンターに比べてカラー印刷速度が10倍~数十倍と速く、印刷速度が15m/分以上、より高速では100m/分を超える。このため、インクジェット印刷機は、家庭向け及びSOHO向け小型インクジェットプリンター及びワイドフォーマットインクジェットプリンターと区別される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
オンデマンド印刷機の普及に伴い、印刷用塗工紙は、刷版印刷機だけでなくオンデマンド印刷機に対応する必要がある。特に、商業印刷物の生産に多く用いられるオフセット印刷機と、インクジェット印刷機とに適用できる必要がある。
オフセット印刷機は、刷版に付着したインクがブランケットを介して印刷用塗工紙に接触して転写され、印刷物を生産する。インクジェット印刷機は、用紙と非接触である微細なノズルからインク滴を印刷用塗工紙に吐出して、印刷物を生産する。このような印刷機構の違いから、オフセット印刷機のインクは、粘着性を有しかつ色材含有濃度が高い。インクジェット印刷機のインクは、流動性を有しかつ色材含有濃度が低い。
【0008】
従来のオフセット印刷機向けの印刷用塗工紙は、インクジェット印刷機に使用すると、段階的な色調変化を有する印刷部分において本来滑らかなグラデーションを形成すべき印刷部分の階調に飛びが認められる状態、所謂「トーンジャンプ」を発生する場合がある。この現象は、インクジェット印刷機が微小なインク滴の集合体で階調を表現することに起因し、着弾したインク滴に対する印刷用塗工紙のインク定着性、インク吸収性及びインク乾燥性など複合的要因によって発生すると考えられる。インクジェット印刷機の画像処理又はインク滴の制御によって、トーンジャンプの現象は改善することができる。しかしながら、用紙によっても改善することが望まれる。また、単一色の印刷部分に色濃度ムラを発生することがある。「色濃度ムラ」とは、インクジェット印刷機の印刷速度が速くなるにつれて印刷用塗工紙のインク吸収に部分的にバラツキが発生し、その結果、本来単一色で形成されるべき印刷部分に部分的に色の濃淡が視認される現象である。また、印刷部分の色がくすんで彩度の低下を発生することがある。一般に、色を構成する物理的要素は「色相」、「彩度」及び「濃度」があって、「彩度」と「濃度」とは異なる要素である。
これらは、オフセット印刷機とインクジェット印刷機との印刷方法及びインクの違いに起因する、と考えられる。トーンジャンプ及び色濃度ムラは商業印刷物の価値を下げる。
【0009】
本発明の目的は、オフセット印刷機に対する適性を有する印刷用塗工紙でありながらインクジェット印刷機で印刷できることを目指し、インクジェット印刷機に対して下記の品質を有する印刷用塗工紙を提供することである。
(1)十分な白色度を有すること。
(2)段階的な色調変化を有する印刷部分においてトーンジャンプが抑制されること(耐トーンジャンプ性)。
(3)単一色の印刷部分の色濃度ムラが抑制されること(耐色濃度ムラ性)。
(4)印刷部分の彩度の低下が抑制されること(耐くすみ性)。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は鋭意研究を行った結果、本発明の目的は以下により達成される。
[1]原紙と、前記原紙の少なくとも片面に塗工層とを有し、前記塗工層において原紙を基準として最外に位置する最外塗工層が白色顔料、バインダ及び蛍光染料を少なくとも含有し、最外塗工層において、白色顔料の少なくとも2種にカオリン及び炭酸カルシウムを含み、カオリンと炭酸カルシウムとの最外塗工層中の含有質量比(カオリン:炭酸カルシウム)が1:9~6:4であり、かつバインダの少なくとも2種にスチレン-ブタジエン共重合体樹脂及び澱粉類を含み、スチレン-ブタジエン共重合体樹脂と澱粉類との最外塗工層中の含有質量比(スチレン-ブタジエン共重合体樹脂:澱粉類)が6:4~9:1である印刷用塗工紙。
【0011】
[2]最外塗工層における蛍光染料の含有量が、片面あたり、最外塗工層中の白色顔料100質量部に対して0.06質量部以上0.25質量部以下である前記[1]に記載の印刷用塗工紙。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、十分な白色度を有し、耐トーンジャンプ性、耐色濃度ムラ性及び耐くすみ性を有する印刷用塗工紙を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明の印刷用塗工紙は、原紙と、前記原紙の少なくとも片面に塗工層とを有する。前記塗工層において原紙を基準として最外に位置する最外塗工層は、白色顔料の少なくとも2種としてカオリン及び炭酸カルシウム、バインダの少なくとも2種としてスチレン-ブタジエン共重合体樹脂及び澱粉類、並びに蛍光染料を少なくとも含有する。
本発明において、「塗工層を有する」とは、用紙の断面を電子顕微鏡によって観察した際に、原紙と区別できる明確な塗工層を有する用紙を指す。例えば、樹脂成分やポリマー成分を塗工し、塗工された前記成分が少量であって原紙に吸収され、結果として、用紙の断面を電子顕微鏡によって観察した際に原紙と区別できる明確な層を有しない場合、「塗工層を有する」に該当しない。
【0014】
原紙は、LBKP(Leaf Bleached Kraft Pulp)、NBKP(Needle Bleached Kraft Pulp)などの化学パルプ、GP(Groundwood Pulp)、PGW(Pressure GroundWood pulp)、RMP(Refiner Mechanical Pulp)、TMP(ThermoMechanical Pulp)、CTMP(ChemiThermoMechanical Pulp)、CMP(ChemiMechanical Pulp)、CGP(ChemiGroundwood Pulp)などの機械パルプ、及びDIP(DeInked Pulp)などの古紙パルプから選ばれる少なくとも1種のパルプに、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、タルク、クレー、カオリンなどの各種填料、さらに、サイズ剤、定着剤、歩留まり剤、カチオン性樹脂や多価陽イオン塩などのカチオン化剤、紙力剤などの各種添加剤を必要に応じて配合した紙料を抄造した抄造紙である。さらに原紙には、抄造紙にカレンダー処理、澱粉やポリビニルアルコール等で表面サイズ処理、あるいは表面処理等を施した上質紙が含まれる。さらに原紙には、表面サイズ処理あるいは表面処理を施した後にカレンダー処理した上質紙が含まれる。
【0015】
紙料中には、その他の添加剤として顔料分散剤、増粘剤、流動性改良剤、消泡剤、抑泡剤、離型剤、発泡剤、浸透剤、着色染料、着色顔料、紫外線吸収剤、酸化防止剤、防腐剤、防バイ剤、耐水化剤、湿潤紙力増強剤、乾燥紙力増強剤などの1種又は2種以上を、本発明の所望の効果を損なわない範囲で、適宜配合することができる。
【0016】
塗工層は、塗工層塗工液を塗工及び乾燥することによって原紙の少なくとも片面に設けることができる。塗工層は1層又は2層以上である。塗工層中、原紙を基準として最も外側に位置する塗工層を最外塗工層という。塗工層が1層の場合は該塗工層が最外塗工層になる。塗工層が2層以上の場合、原紙と最外塗工層との間に存在する塗工層は、白色顔料、バインダ及び各種添加剤の各々有無並びにそれらの種類について特に限定しない。
塗工層の各塗工量は特に限定されない。好ましい塗工量は、乾燥固形分量で片面あたり5g/m2以上30g/m2以下の範囲である。塗工層が2層以上の場合は、それらの合計の値である。塗工層が2層以上の場合、最外塗工層が乾燥固形分量で片面あたり塗工量の70質量%を占めることが好ましい。
【0017】
塗工層は、原紙の片面又は両面に有してよい。また片面の場合は、原紙において塗工層を有する側とは反対面に従来公知のバックコート層を有してよい。
【0018】
原紙に塗工層を設ける方法は特に限定されない。例えば、製紙分野で従来公知の塗工装置及び乾燥装置を用いて、塗工層塗工液を塗工及び乾燥する方法を挙げることができる。塗工装置の例としては、コンマコーター、フィルムプレスコーター、エアナイフコーター、ロッドブレードコーター、バーコーター、ブレードコーター、グラビアコーター、カーテンコーター、Eバーコーター、フィルムトランスファーコーターなどを挙げることができる。乾燥装置の例としては、直線トンネル乾燥機、アーチドライヤー、エアループドライヤー、サインカーブエアフロートドライヤー等の熱風乾燥機、赤外線加熱ドライヤー、マイクロ波等を利用した乾燥機等の各種乾燥装置を挙げることができる。
【0019】
塗工層はカレンダー処理を施すことができる。
カレンダー処理とは、ロール間に紙を通すことによって平滑性や厚みを平均化する処理である。カレンダー処理の装置としては、例えば、マシンカレンダー、ソフトニップカレンダー、スーパーカレンダー、多段カレンダー、マルチニップカレンダーなどを挙げることができる。本発明の印刷用塗工紙には、最外塗工層がキャスト処理された印刷用塗工紙を含めない。
【0020】
最外塗工層は、白色顔料の少なくとも2種としてカオリン及び炭酸カルシウムを含有する。最外塗工層中のカオリンと炭酸カルシウムとの含有質量比は、カオリン:炭酸カルシウム=1:9~6:4である。インクジェット印刷機に対する印刷適性の点から、炭酸カルシウムは重質炭酸カルシウムが好ましい。
【0021】
最外塗工層は、カオリン及び炭酸カルシウム以外に従来公知の白色顔料を含有することができる。従来公知の白色顔料の例としては、タルク、サチンホワイト、リトポン、酸化チタン、酸化亜鉛、シリカ、アルミナ、水酸化アルミニウム、活性白土、珪藻土などの無機白色顔料、及びプラスチック顔料などの有機白色顔料を挙げることができる。最外塗工層は、これら白色顔料から1種又は2種以上を組み合わせて、カオリン及び炭酸カルシウムと併用して含有することができる。
最外塗工層の白色顔料中、カオリン及び炭酸カルシウムが占める割合は80質量%以上が好ましい。
【0022】
最外塗工層は、バインダの少なくとも2種としてスチレン-ブタジエン共重合体樹脂及び澱粉類を含有する。
【0023】
澱粉類は、グルコースがグリコシド結合によって重合した多糖類及びグルコースがグリコシド結合によって重合した多糖類においてグルコースが有する水酸基を種々置換基によって変性した多糖類である。澱粉類の例としては、澱粉、酸化澱粉、酵素変性澱粉、エーテル化澱粉、カチオン性澱粉、両性澱粉、ジアルデヒド澱粉、燐酸エステル化澱粉及び尿素燐酸エステル化澱粉等のエステル化澱粉、ヒドロキシエチル化澱粉、並びにヒドロキシブチル化澱粉などを挙げることができる。澱粉類は尿素燐酸エステル化澱粉が好ましい。
尿素燐酸エステル化澱粉は、燐酸エステル基とカルバミン酸エステル基とをグルコースに有する澱粉である。燐酸エステル基を導入する方法の例としては、トリポリ燐酸ナトリウム等の燐酸塩を単独で添加して焙焼反応させる方法、燐酸エステル基とカルバミン酸エステル基とを導入する方法の例としては、無機燐酸類と共に尿素を添加して焙焼反応させる方法を挙げることができる。尿素燐酸エステル化澱粉は、主に、後者の無機燐酸類と尿素を焙焼反応させる方法によって各種尿素置換度のものを得ることができる。
【0024】
尿素燐酸エステル化澱粉は尿素置換度平均値が0.005以上0.05以下であることが好ましい。「尿素置換度」とは、澱粉を構成するグルコース単位が有する水酸基におけるカルバミン酸エステル基の置換度である。例えば、尿素置換度=0.02は、澱粉を構成するグルコース単位100個当たり置換基が2個有することを意味する。尿素置換度は、澱粉において従来から知られた値であって公知の方法で求められる。例えば、熱分解GC法又はCHN元素分析計を用いた窒素含有量から求めることができる。また、「澱粉科学実験法」鈴木繁男・中村道徳編集、1979年第1刷発行、朝倉書店発行を参考にすることができる。
【0025】
スチレン-ブタジエン共重合体樹脂は、スチレン-ブタジエン共重合体樹脂を構成する単量体としてスチレン系単量体及びブタジエンが70重量%以上を占める共重合体樹脂である。スチレン系単量体とは、スチレン、α-メチルスチレンなどのビニル基に置換基を有するスチレン誘導体、及びビニルトルエン、p-クロルスチレンなどのベンゼン環に置換基を有する誘導体である。
【0026】
スチレン-ブタジエン共重合体樹脂は、スチレン系単量体及びブタジエン以外の単量体を構成する単量体として有することができる。単量体の例としては、アクリロニトリル、アクリル酸、アクリル酸塩、アクリル酸エステル、メタクリル酸、メタクリル酸塩、メタクリル酸エステル及びマレイン酸などを挙げることができる。
【0027】
最外塗工層中におけるスチレン-ブタジエン共重合体樹脂と澱粉類との含有質量比は、乾燥固形分量として、スチレン-ブタジエン共重合体樹脂:澱粉類が6:4~9:1である。
【0028】
最外塗工層は、スチレン-ブタジエン共重合体樹脂及び澱粉類以外に従来公知のバインダを含有することができる。バインダの例としては、スチレン-ブタジエン共重合体以外のアクリロニトリル-ブタジエン共重合体などの共役ジエン系樹脂、アクリル酸エステルの重合体、メタクリル酸エステルの重合体及びメタクリル酸メチル-ブタジエン共重合体などのアクリル系樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体及び塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体などのビニル系樹脂、ポリウレタン樹脂、アルキド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂及びこれらの各種共重合体のカルボキシル基などの官能基含有単量体による官能基変性樹脂、天然ゴム、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースなどのセルロース誘導体、カゼイン、ゼラチン及び大豆蛋白等の天然高分子樹脂及びその誘導体、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール及びその各種変性ポリビニルアルコール、ポリプロピレングリコール、並びにポリエチレングリコールなどを挙げることができる。最外塗工層は、これらバインダからなる群から選ばれる1種又は2種以上をスチレン-ブタジエン共重合体樹脂及び澱粉類に併用して含有することができる。
最外塗工層において、スチレン-ブタジエン共重合体樹脂及び澱粉類の含有量は、最外塗工層のバインダ中の80質量%以上であることが好ましい。また、最外塗工層のバインダの含有量は、カオリン及び炭酸カルシウムを含む最外塗工層中の白色顔料100質量部に対して5質量部以上13質量部以下であることが好ましい。
【0029】
最外塗工層は、蛍光染料を含有する。蛍光染料としては、例えば、フルオレセイン系化合物、チオフラビン系化合物、エオシン系化合物、ローダミン系化合物、クマリン系化合物、イミダゾール系化合物、オキサゾール系化合物、トリアゾール系化合物、カルバゾール系化合物、ピリジン系化合物、イミダゾロン系化合物、ナフタル酸誘導体、スチルベンジスルホン酸誘導体、スチルベンテトラスルホン酸誘導体、スチルベンヘキサスルホン酸誘導体などを挙げることができる。蛍光染料は、スチルベンジスルホン酸誘導体が好ましい。蛍光染料は、例えば、クラリアント社、日本化薬社、ケミラジャパン社、チバ・ジャパン社等から市販されている。
最外塗工層における蛍光染料の好ましい含有量は、片面あたり、カオリン及び炭酸カルシウムを含む最外塗工層中の白色顔料100質量部に対して0.06質量部以上0.25質量部以下である。
【0030】
最外塗工層は分散剤を含有することが好ましい。この理由は、主に耐色濃度ムラ性が良化するからである。分散剤は、顔料などの水に不溶性物質を水溶液中で分散するための材料であって、従来公知の分散剤である。従来公知の分散剤の例としては、ポリカルボン酸ナトリウム等のポリカルボン酸系樹脂、ポリアクリル酸ナトリウム等のアクリル系樹脂、スチレン-アクリル系樹脂、イソブチレン-マレイン酸系樹脂、スルホン化ポリスチレン系樹脂、ポリビニルアルコール及び変性ポリビニルアルコール、縮合燐酸塩などを挙げることができる。最外塗工層は、これら分散剤からなるから選ばれる1種又は2種以上を含有することができる。最外塗工層の分散剤は、ポリカルボン酸系樹脂及びアクリル系樹脂からなる群から選ばれる1種又は2種以上が好ましい。
【0031】
最外塗工層における分散剤の好ましい含有量は、片面あたり、カオリン及び炭酸カルシウムを含む最外塗工層中の白色顔料100質量部に対して0.02質量部以上0.3質量部以下である。分散剤は、バインダと重なる材料が存在する。しかしながら、分散剤として使用する材料はバインダに比べて最外塗工層中の含有量が明確に少なく、また、分散剤はバインダに比べて分子量が小さいため、区別できる。
【0032】
最外塗工層は滑剤を含有することが好ましい。この理由は、主に耐くすみ性が良化するからである。滑剤は、従来公知の滑剤である。従来公知の滑剤の例としては、高級脂肪酸塩、ワックス類及び有機珪素化合物などを挙げることができる。高級脂肪酸塩としては、例えば、ラウリン酸塩、オレイン酸塩、パルミチン酸塩、ステアリン酸塩、ミリスチン酸塩などの高級脂肪酸金属塩(例えば、これらのナトリウム塩、カリウム塩、亜鉛塩、カルシウム塩)、また、ラウリン酸アンモニウム、オレイン酸アンモニウム、パルミチン酸アンモニウム、ステアリン酸アンモニウム、ミリスチン酸アンモニウムなどの高級脂肪酸アンモニウム塩である。ワックス類としては、例えば、植物性ワックス、動物性ワックス、モンタンワックス、パラフィンワックス、合成ワックス(炭化水素系合成ワックス、ポリエチレンエマルション系ワックス、高級脂肪酸エステル、脂肪酸アミド、ケトン・アミン類、水素硬化油など)、ポリプロピレン及びポリテトラフルオロエチレン重合体等の脂肪族炭化水素並びにその誘導体を挙げることができる。有機珪素化合物としては、例えば、ポリアルキルシロキサン及びその誘導体、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、アルキル変性シリコーンオイル、アルキル・アラルキル変性シリコーンオイル、アミノ変性シリコーンオイル、ポリエーテル変性シリコーンオイル、高級脂肪酸変性シリコーンオイル、カルボキシル変性シリコーンオイル、フッ素変性シリコーンオイル、エポキシ変性シリコーンオイルなどを挙げることができる。最外塗工層は、これら滑剤からなる群から選ばれる1種又は2種以上を含有することができる。
最外塗工層の滑剤は高級脂肪酸塩が好ましい。
【0033】
最外塗工層における滑剤の好ましい含有量は、片面あたり、カオリン及び炭酸カルシウムを含む最外塗工層中の白色顔料100質量部に対して0.25質量部以上0.6質量部以下である。
【0034】
最外塗工層はカチオン性樹脂を含有することが好ましい。この理由は、主に耐色濃度ムラ性が良化するからである。カチオン性樹脂は従来公知のカチオン性樹脂である。好ましいカチオン性樹脂は、プロトンが配位し易く、水に溶解したとき解離してカチオン性を呈する1級~3級アミン又は4級アンモニウム塩を含有するポリマー又はオリゴマーである。また、好ましいカチオン性樹脂は、カチオン化度が0meq/g超3meq/g以下の低カチオン又はカチオン化度が3meq/g超の高カチオン性樹脂である。ここで、カチオン化度は、コロイド滴定法によって測定される値である。
従来公知のカチオン性樹脂の例としては、ポリエチレンイミン、ポリアミン及び変性ポリアミン、ポリビニルピリジン、ポリアミドアミン、ポリビニルアミン、変性ポリアミド、ポリアクリルアミド、ポリアリルアミン、ポリジアルキルアミノエチルメタクリレート、ポリジアルキルアミノエチルアクリレート、ポリジアルキルアミノエチルメタクリルアミド、ポリジアルキルアミノエチルアクリルアミド、ポリビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロライド、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド、アリルジメチルアンモニウムクロライドとアクリルアミド等との共重合物、ジメチルアミン-エピクロルヒドリン重縮合物等の脂肪族モノアミンとエピハロヒドリン化合物との重縮合物もしくはジエチレントリアミン-エピクロルヒドリン重縮合物等の脂肪族ポリアミンとエピハロヒドリン化合物との重縮合物、ポリアミンポリアミドエピクロルヒドリン、ジシアンジアミド-ホルマリン重縮合物、ジシアンジアミドジエチレントリアミン重縮合物、ポリエポキシアミン、ポリアミド-エポキシ樹脂、メラミン樹脂、並びに尿素系樹脂などを挙げることができる。最外塗工層は、これらカチオン性樹脂からなる群から選ばれる1種又は2種以上を含有することができる。カチオン性樹脂の平均分子量は特に限定されない。平均分子量は、500以上100000以下が好ましく、1000以上60000以下がより好ましい。
最外塗工層のカチオン性樹脂は、変性ポリアミン又は変性ポリアミドが好ましい。
【0035】
最外塗工層におけるカチオン性樹脂の好ましい含有量は、片面あたり、カオリン及び炭酸カルシウムを含む最外塗工層中の白色顔料100質量部に対して0.25質量部以上0.5質量部以下である。
【0036】
本発明の印刷用塗工紙は、最外塗工層が白色顔料、バインダ及び蛍光染料を少なくとも含有し、白色顔料としてカオリン及び炭酸カルシウムを特定の比率で含有し、バインダとしてスチレン-ブタジエン共重合体樹脂及び澱粉類を特定の比率で含有する。これらの相乗効果によって、印刷用塗工紙は、十分な白色度を有し、耐トーンジャンプ性、耐色濃度ムラ性及び耐くすみ性を得ることができる。各々のいずれかが上記範囲に該当しない場合、印刷用塗工紙は、十分な白色度を有し、耐トーンジャンプ性、耐色濃度ムラ性及び耐くすみ性の少なくともいずれかを得ることができない。
【0037】
最外塗工層は、さらに必要に応じて塗工紙分野で従来公知の各種添加剤を含有することができる。添加剤の例としては、増粘剤、流動性改良剤、消泡剤、発泡剤、浸透剤、着色顔料、着色染料、紫外線吸収剤、酸化防止剤、防腐剤、防バイ剤などを挙げることができる。
【実施例】
【0038】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明は、これらの実施例に限定されない。ここで「質量部」及び「質量%」は、乾燥固形分量あるいは実質成分量の各々「質量部」及び「質量%」を表す。塗工層の塗工量は乾燥固形分量を表す。
【0039】
<原紙>
濾水度400mlcsfのLBKP100質量部からなるパルプスラリーに、填料として炭酸カルシウム8質量部、両性澱粉1.0質量部、硫酸バンド0.8質量部、内添サイズ剤を添加して紙料を調成し、該紙料を長網抄紙機で抄造し、得られた抄造紙の両面にサイズプレス装置で両面に澱粉を付着させ、マシンカレンダー処理をして原紙を作製した。
【0040】
<最外塗工層塗工液>
最外塗工層塗工液は、下記の内容により調製した。
カオリン 部数は表1に記載
炭酸カルシウム 部数は表1に記載
シリカ 部数は表1に記載
澱粉類 種類及び部数は表1に記載
ラテックス 種類及び部数は表1に記載
スチルベンジスルホン酸誘導体の蛍光染料 部数は表1に記載
アクリル酸系樹脂の分散剤 0.3質量部
ステアリン酸カルシウムの滑剤 0.6質量部
変性ポリアミドのカチオン性樹脂 0.5質量部
上記の内容で配合し、水で混合・分散して、濃度48質量%に調整した。
【0041】
(印刷用塗工紙)
印刷用塗工紙を以下の手順にて作製した。
原紙上に最外塗工層塗工液をブレードコーターにて両面塗工し、その後に乾燥した。さらに乾燥後に、カレンダー処理を施した。塗工量は、片面あたり14g/m2とした。
【0042】
【0043】
<白色度の評価>
白色度は、JIS P8148:2001「紙、板紙及びパルプ-ISO白色度の測定」に準じて、日本電色工業社製、SPECTRO COLOR METER MODEL PF-10を用い、C/2光源を使用して、UVカットフィルターの使用無しで実施した。白色度の測定は、250μm以上の厚さになるように必要に応じて印刷用塗工紙を重ね合わせて行なった。評価は、下記の基準により行なった。本発明において、評価2又は3であれば印刷用塗工紙は十分な白色度を有するものとする。
3:白色度が90%以上
2:白色度が88%以上90%未満
1:白色度が88%未満
【0044】
<耐トーンジャンプ性の評価>
ミヤコシ社のインクジェット印刷機MJP20MX-7000を用い、水性顔料インクにて印刷速度:150m/分の条件で6000m、評価画像を印刷した。評価画像は、ブラック、シアン、マゼンタ、イエローの各単色からなるグラデーション画像を配置する画像とした。耐トーンジャンプ性は、各色のグラデーション画像の印刷部分を目視にて観察し、トーンジャンプが視認される程度から下記の基準にて評価した。本発明において、評価4及び5であれば印刷用塗工紙は耐トーンジャンプ性を有するものとする。
5:トーンジャンプが認められず、良好。
4:上記「5」より劣りトーンジャンプが微かに認められるが、概ね良好。
3:上記「4」より劣りトーンジャンプが僅かに認められるが、比較的良好。
2:上記「3」より劣りトーンジャンプが認められるが、実用上に問題が無い。
1:トーンジャンプが認められ、実用上に問題がある。
【0045】
<耐色濃度ムラ性の評価>
ミヤコシ社のインクジェット印刷機MJP20MX-7000を用い、水性顔料インクにて印刷速度:150m/分の条件で6000m、評価画像を印刷した。評価画像は、ブラック、シアン、マゼンタ、イエローの各単色及びブラックを除く他の3色インクによる2重色(レッド、グリーン、ブルー)の計7色のベタ画像部パターンを、3cm×3cm四方で横一列に隙間なく配置する画像とした。耐色濃度ムラ性は、各色ベタ部画像の印刷部分を目視にて観察し、下記の基準にて評価した。本発明において、評価4及び5であれば印刷用塗工紙は耐色濃度ムラ性を有するものとする。
5:色濃度が均一である。
4:色によっては濃度が極僅かに不均一である。
3:色濃度が僅かに不均一である。
2:色濃度が部分的に不均一である。
1:印刷部分の全体に、色濃度が不均一である。
【0046】
<耐くすみ性の評価>
ミヤコシ社のインクジェット印刷機MJP20MX-7000を用い、水性顔料インクにて印刷速度:150m/分の条件で6000m、評価画像を印刷した。評価画像は、ブラック、シアン、マゼンタ、イエローの各単色及びブラックを除く他の3色インクによる2重色(レッド、グリーン、ブルー)の計7色のベタ画像部パターンを、3cm×3cm四方で横一列に隙間なく配置する画像とした。耐くすみ性は、各色ベタ画像の印刷部分を目視にて観察し、印刷部分と標準色見本と対比して彩度が低下した程度から下記の基準にて評価した。本発明において、評価4及び5であれば印刷用塗工紙は耐くすみ性を有するものとする。
5:良好
4:概ね良好。
3:彩度の低下が僅かに認められる。しかし、実用上問題ない。
2:彩度の低下が少し認められる。
1:彩度の低下が認められる。
【0047】
評価結果を表1に示す。
【0048】
表1から、本発明に該当する実施例1~20は、十分な白色度を有し、耐トーンジャンプ性、耐色濃度ムラ性及び耐くすみ性を有することが分かる。一方、本発明の構成を満足しない比較例1~7は、これらの効果の少なくとも1つを満足できないと分かる。
また主に、実施例2~6の間の対比から、最外塗工層中の蛍光染料の含有量は最外塗工層中の白色顔料100質量部に対して0.06質量部以上0.25質量部以下が好ましいと分かる。