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特許7102147放射線療法に起因する皮膚損傷の予防における使用のための、クロニジンおよび/またはクロニジン誘導体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-08
(45)【発行日】2022-07-19
(54)【発明の名称】放射線療法に起因する皮膚損傷の予防における使用のための、クロニジンおよび/またはクロニジン誘導体
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/4168 20060101AFI20220711BHJP
   A61K 9/22 20060101ALI20220711BHJP
   A61P 1/02 20060101ALI20220711BHJP
   A61P 17/16 20060101ALI20220711BHJP
   A61P 39/06 20060101ALI20220711BHJP
【FI】
A61K31/4168
A61K9/22
A61P1/02
A61P17/16
A61P39/06
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2017559446
(86)(22)【出願日】2016-05-10
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2018-07-19
(86)【国際出願番号】 EP2016060466
(87)【国際公開番号】W WO2016180834
(87)【国際公開日】2016-11-17
【審査請求日】2019-05-08
(31)【優先権主張番号】15305728.6
(32)【優先日】2015-05-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】516270887
【氏名又は名称】モノパー セラピューティクス インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】ヴァセール-ドゥマルスィ, ベランジェール
(72)【発明者】
【氏名】アタリ, ピエール
【審査官】井上 能宏
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-502952(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第02368549(EP,A1)
【文献】米国特許出願公開第2004/0101582(US,A1)
【文献】国際公開第2014/018571(WO,A1)
【文献】特表2014-523908(JP,A)
【文献】杉林堅次,Drug Delivery System,2000年,Vol.15/No.6,P.492-498,特に粘膜付着性の付与、経皮経粘膜吸収の促進の欄
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線療法を受けている対象における放射線皮膚炎の予防における使用のための、薬学的に許容される担体と、クロニジン、p-アミノクロニジン、p-ジエチルアミノクロニジン、p-エチルアミノクロニジン、p-アセトアミドクロニジン、p-ブロモアセトアミドクロニジン、p-N-クロロエチル-N-メチルアミノクロニジン、p-N-β-クロロエチル-N-メチルアミノメチルクロニジン、3,5-ジクロロ-4-(イミダゾリジン-2-イリデンアミノ)ベンジルアルコール、3,5-ジクロロ-4-(1,3-ジイソブチリルイミダゾリジン-2-イリデンアミノ)ベンジルイソブチレート、エチル3,5-ジクロロ-4-(1-イソブチリルイミダゾリジン-2-イリデンアミノ)ベンゾエート、およびこれらの混合物からなる群から選択されるクロニジンおよび/またはクロニジン誘導体とを含む医薬組成物であって、ここで、該組成物は、該対象が該放射線療法を開始する1~8日の毎日の対象への経粘膜投与のための形態である、組成物。
【請求項2】
クロニジンまたはその薬学的に許容される塩、特にクロニジン塩酸塩を含むことを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記クロニジン誘導体の徐放を提供することを特徴とする、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
粘膜付着性の錠剤の形態であることを特徴とする、請求項1~3のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
20~150μg、好ましくは50~100μgの範囲のクロニジンまたはクロニジン誘導体の1日経口摂取量で、毎日投与されることを特徴とする、請求項1~4のいずれかに記載の組成物。
【請求項6】
放射線療法の~3日前から、放射線療法の終了まで、前記対象に毎日投与されることを特徴とする、請求項1~4のいずれかに記載の組成物。
【請求項7】
前記対象が、シスプラチンおよびカルボプラチン化学療法を含む白金系化学療法などの化学療法も投与されることを特徴とする、請求項1~のいずれかに記載の組成物。
【請求項8】
対象が放射線療法を受ける前の、該対象への経粘膜投与のための、放射線療法に起因する放射線皮膚炎の予防を目的とする医薬組成物の製造のための、請求項1~6のいずれかに記載のクロニジンおよび/またはクロニジン誘導体の使用であって、ここで、該対象が該放射線療法を開始する1~8日前に毎日、該医薬組成物が該対象に投与される、使用
【請求項9】
放射線療法に起因する放射線皮膚炎を予防するための、請求項1または2に記載のクロニジンおよび/またはクロニジン誘導体の有効量を含む組成物であって、該組成物はそれを必要とする対象に、該対象が該放射線療法を開始する1~8日前に毎日、経粘膜経路によって投与され、それによって放射線療法に起因する放射線皮膚炎を予防することを特徴とする、組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線療法に起因する皮膚損傷の予防に関する。
【背景技術】
【0002】
放射線療法とも呼ばれる放射線治療は、過去数十年にわたりがんの死亡率の顕著な減少に寄与してきた。放射線治療は、全てのがん患者の50%もの処置において使用されている。放射線治療の使用は、多くの種類のがんを処置するための有効な方法であるが、いくつかの合併症が生じる場合がある。細胞内で酸素ラジカルを発生させることによって、その細胞死滅特性の大部分を達成する放射線治療は、非がん細胞のDNAも効率的に損傷し、これらの正常細胞の増殖、特に有糸分裂活動期の正常細胞にも影響を及ぼし得る。
【0003】
放射線療法の一般的な合併症は、患者の皮膚に対する有害な効果(皮膚損傷とも呼ぶ)を含む。皮膚損傷の症状は、通常、放射線皮膚炎、紅斑、掻痒、湿性または乾燥性落屑、皮膚色素過剰、脱毛、潰瘍および壊死から選択される、放射線療法の少なくとも1つの有害な副作用を含む。皮膚に関する限り、ケラチノサイト照射は、基底細胞層の再増殖と処置による細胞破壊の速度との間のバランスを変えることによって、皮膚の再生に負の影響を及ぼすことが見出されている。ケラチノサイト照射は、特に、皮膚のひだ、または皮膚のより薄い領域において、急性放射線皮膚炎を生じることがあり、これは、照射後、数日または数週間の間に始まる。放射線皮膚炎は、通常は乾燥性落屑およびおそらくは浮腫と関連する紅斑(グレード1)、ならびに浸出(exsudation)(グレード2)によって特徴付けることができる。ほとんどの重度の症例(グレード3)において融合性湿性落屑および潰瘍が観察され得、またはさらには壊死する(グレード4)。これらの合併症は、皮膚色素過剰または色素異常症をさらに生じ得る。急性放射線皮膚炎は、特に、放射線増感剤であるシスプラチンとの併用化学療法によって助長され得る。放射線療法の皮膚合併症の中で、通常、照射から少なくとも6カ月後またはさらには数年後に現れる慢性放射線皮膚炎も挙げることができる。これは、線維症に反映し、その重症度は総照射線量およびその分割線量に関連し、主に皮膚萎縮および乾皮症を伴う。これら全ての皮膚合併症は、反応時間の違い、表皮細胞のみが影響を受けるという事実、および基底細胞の皮膚表面への上方移動が関与する一連の損傷を考慮して、熱傷と区別しなければならない。
【0004】
電離電子線照射、特に、低い光線エネルギーの高線量に曝露されたほぼ全ての患者は、皮膚反応を発生する危険性がある。外照射療法を受けた患者の約85~87%が、中程度から重度の皮膚反応を起こし、その10~15%が湿性落屑に進行するであろうと推定される。これらの皮膚合併症は、極端な場合には、推奨されたがん治療の処置を控えるかまたは中止することが珍しくないほど耐えることが非常に困難である場合がある。
【0005】
今日まで、上記の合併症の重症度または発生を減少させるような効率的な予防的処置は実現されていない。患者は、処置されるべき領域に香水または消臭剤を適用することを避け、照射後に保湿性の水性クリームを適用することが提案されるのみである。
【0006】
さらにまた、放射線療法は、頻繁に、毛包にも影響を及ぼし、この照射(20Gy超)は、典型的には、1または2週間の処置後に毛幹の喪失を生じる。一般に、処置の停止後に髪は再び生えるが、化学療法の場合よりも再成長がゆっくりで、生じるのは遅い。しかしながら、照射線量が45Gyを超えると、脱毛は不可逆的であり得る。この現象は、髪だけでなく、爪などの他の皮膚付属器にも影響を及ぼすことに留意すべきである。
【0007】
文献において企図された処置の中で、手足症候群(EP2368549)または放射線皮膚炎(WO2013/010032)などの放射線療法によって引き起こされるかまたは悪化する、1つまたは複数の皮膚病変を軽減するためにクロニジンを使用することが示唆されている。これらの処置は、創傷領域に局所的に適用され、広範な創傷領域の場合には好都合ではない。同様のことは、化学療法による皮膚病変を処置するための組成物を提供するUS2004/101582にあてはまる。放射線療法が誘発する潰瘍を処置するためのクロニジンの経口投与がWO2014/018571に提案されている。しかしながら、US’582と同様に、クロニジンは、他の活性薬剤と組み合わせられているので、クロニジン自体の任意の治療効果を推測することはできない。
【0008】
出願人はまた、クロニジンおよび/またはクロニジン誘導体が、アルキル化剤に基づく放射線療法および化学療法の特異的な有害な副作用である粘膜炎を処置するために効果的であることを初めて報告している(WO2010/031819)。粘膜炎は、口腔または胃腸の粘膜に影響を及ぼす炎症性の障害であり、頭頸部放射線療法の高頻度の合併症である。クロニジンおよび/またはクロニジン誘導体は粘膜に対して抗炎症効果を示すが、皮膚の上皮細胞は、口腔粘膜の細胞よりも顕著に高い量の炎症性サイトカインを産生し、これは、皮膚と比較して粘膜の損傷に対する炎症応答に部位特異的な相違があり、ひいては粘膜の治癒がより速いことの原因であることは公知である(Li Chenら、BMC Genomics、2010年、11巻、471頁)。したがって、クロニジンおよび/またはクロニジン誘導体が、放射線療法に起因する皮膚損傷の炎症性成分を効率的に予防できることは予想できなかった。
【0009】
さらに、口腔粘膜炎の処置のために現在上市されている唯一の活性薬剤、すなわちパリフェルミンは、プラセボと比較して、その抗炎症効果にもかかわらず、放射線皮膚損傷を改善せず、さらには皮膚の有害な反応を悪化させることが示された(Quynh-Thu Leら、Journal of Clinical Oncology、29巻、20号、2011年7月10日)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】欧州特許第2368549号
【文献】国際公開第2013/010032号
【文献】米国特許出願公開第2004/101582号明細書
【文献】国際公開第2014/018571号
【文献】国際公開第2010/031819号
【非特許文献】
【0011】
【文献】Li Chenら、BMC Genomics、2010年、11巻、471頁
【文献】Quynh-Thu Leら、Journal of Clinical Oncology、29巻、20号、2011年7月10日
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
予想外にも、本発明者らは、クロニジンおよび/またはクロニジン誘導体を、それを必要とする患者に、経粘膜経路によって投与した場合に、クロニジンおよび/またはクロニジン誘導体が、粘膜炎を軽減するだけでなく、放射線療法に起因する皮膚損傷も予防できることを見出した。
【0013】
したがって、本発明は、経粘膜投与による、放射線療法に起因する皮膚損傷の予防における使用のための、薬学的に許容される担体と、単一有効成分としての、以下の式(I):
【化1】
[式中、
およびRは、独立して、Hおよび-OCORから選択され、
は、H、-CHOH、-OCOR、-COOR、-NH、-NHR、-NRR’および-NHCORから選択され、RおよびR’は、独立して、1~6個の炭素原子を有する直鎖状または分枝状のアルキル基を示し、前記アルキル基は、ハロゲン原子、アミノ基およびアルキルアミノ基から選択される1つまたは複数の基によって置換されていてもよく、前記アルキルアミノ基のアルキル部分は、1~6個の炭素原子を有する直鎖状または分枝状のアルキルである]
の化合物ならびにそれらの互変異性形態および薬学的に許容される塩から選択されるクロニジンおよび/またはクロニジン誘導体とを含む医薬組成物を対象とする。
【0014】
本発明は、経粘膜投与による、放射線療法に起因する皮膚損傷の予防を目的とする医薬組成物の製造のための、単一有効成分としての上記のクロニジンおよび/またはクロニジン誘導体の使用も対象とする。
【0015】
本発明は、放射線療法に起因する皮膚損傷を予防するための方法であって、それを必要とする対象に、経粘膜経路によって、単一有効成分としての上記定義の少なくとも1つのクロニジンおよび/またはクロニジン誘導体を放射線療法の前に、またはそれと同時に投与し、それによって放射線療法に起因する前記皮膚損傷を予防することからなるステップを含む方法にも関する。
本発明の実施形態の例として、以下の項目が挙げられる。
(項目1)
経粘膜投与による、放射線療法に起因する皮膚損傷の予防における使用のための、薬学的に許容される担体と、単一有効成分としての、以下の式(I):
【化3】

[式中、
およびR は、独立して、Hおよび-OCORから選択され、
は、H、-CH OH、-OCOR、-COOR、-NH 、-NHR、-NRR’および-NHCORから選択され、RおよびR’は、独立して、1~6個の炭素原子を有する直鎖状または分枝状のアルキル基を示し、前記アルキル基は、ハロゲン原子、アミノ基およびアルキルアミノ基から選択される1つまたは複数の基によって置換されていてもよく、前記アルキルアミノ基のアルキル部分は、1~6個の炭素原子を有する直鎖状または分枝状のアルキルである]
を有する化合物ならびにそれらの互変異性形態および薬学的に許容される塩から選択されるクロニジンおよび/またはクロニジン誘導体とを含む医薬組成物。
(項目2)
放射線療法の前に、またはそれと同時に、対象に投与される、項目1に記載の使用のための、項目1に記載の組成物。
(項目3)
皮膚損傷が、放射線皮膚炎、紅斑、掻痒、湿性または乾燥性落屑、皮膚色素過剰、脱毛、潰瘍および壊死から選択される、放射線療法の少なくとも1つの有害な副作用から選択されることを特徴とする、項目1または2に記載の使用のための、項目1に記載の組成物。
(項目4)
前記式(I)の化合物が、クロニジン、p-アミノクロニジン、p-ジエチルアミノクロニジン、p-エチルアミノクロニジン、p-アセトアミドクロニジン、p-ブロモアセトアミドクロニジン、p-N-クロロエチル-N-メチルアミノクロニジン、p-N-β-クロロエチル-N-メチルアミノメチルクロニジン、3,5-ジクロロ-4-(イミダゾリジン-2-イリデンアミノ)ベンジルアルコール、3,5-ジクロロ-4-(1,3-ジイソブチリルイミダゾリジン-2-イリデンアミノ)ベンジルイソブチレート、エチル3,5-ジクロロ-4-(1-イソブチリルイミダゾリジン-2-イリデンアミノ)ベンゾエート、およびこれらの混合物からなる群から選択されることを特徴とする、項目1~3のいずれかに記載の使用のための、項目1に記載の組成物。
(項目5)
クロニジンまたはその薬学的に許容される塩、特にクロニジン塩酸塩を含むことを特徴とする、項目1~3のいずれかに記載の使用のための、項目1または4に記載の組成物。
(項目6)
前記クロニジン誘導体の徐放を提供することを特徴とする、項目1~3のいずれかに記載の使用のための、項目1~5のいずれかに記載の組成物。
(項目7)
粘膜付着性の錠剤の形態であることを特徴とする、項目1~3のいずれかに記載の使用のための、項目1~6のいずれかに記載の組成物。
(項目8)
20~150μg、好ましくは50~100μgの範囲のクロニジンまたはクロニジン誘導体の1日経口摂取量で、毎日投与されることを特徴とする、項目1~3のいずれかに記載の使用のための、項目1および4~7のいずれかに記載の組成物。
(項目9)
放射線療法の1~8日前、好ましくは1~3日前に開始して、放射線療法の終了までおよび/または6~10週間、例えば8週間の期間、患者に毎日投与されることを特徴とする、項目1~3のいずれかに記載の使用のための、項目1および4~7のいずれかに記載の組成物。
(項目10)
前記対象が、シスプラチンおよびカルボプラチン化学療法を含む白金系化学療法などの化学療法も投与されることを特徴とする、項目1~3のいずれかに記載の使用のための、項目1および4~7のいずれかに記載の組成物。
(項目11)
経粘膜投与による、放射線療法に起因する皮膚損傷の予防を目的とする医薬組成物の製造のための、単一有効成分としての項目1、4および5のいずれかに記載のクロニジンおよび/またはクロニジン誘導体の使用。
(項目12)
放射線療法に起因する皮膚損傷を予防するための方法であって、それを必要とする対象に、経粘膜経路によって、単一有効成分としての、項目1、4および5のいずれかに記載のクロニジンおよび/またはクロニジン誘導体の有効量を放射線療法の前に、またはそれと同時に投与し、それによって前記放射線療法に起因する皮膚損傷を予防することからなるステップを含む方法。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明によれば、式(I)の化合物を含むクロニジンおよび/またはクロニジン誘導体ならびにそれらの互変異性形態および薬学的に許容される塩は、放射線療法に起因する皮膚損傷の予防において使用される。皮膚損傷の症状は、通常、放射線皮膚炎、紅斑、掻痒、湿性または乾燥性落屑、皮膚色素過剰、脱毛、潰瘍および壊死から選択される、放射線療法の少なくとも1つの有害な副作用を含む。
【0017】
本明細書において使用される「予防」とは、処置が、放射線治療の前、またはそれと同時に開始され、それによって、皮膚損傷の発生を妨げることを意味する。
【0018】
本明細書において使用される「放射線治療または放射線療法」とは、一般に、悪性細胞を制御または死滅させるためのがん処置の一部として、電離放射線を使用する治療を意味する。放射線治療または放射線療法は、しばしば、RT、RTxまたはXRTと省略される。
【0019】
本明細書において使用される「皮膚」とは、哺乳動物を覆う軟性の外層を意味する。これは、表皮および真皮の2つの主たる層から構成される。皮膚の外層(表皮)は、主に、扁平上皮細胞と呼ばれる、扁平の鱗片様の細胞から構成される。したがって、皮膚は、粘膜(mucosa)または粘膜(mucous membrane)を含まない。
【0020】
本明細書において使用される「粘膜(mucosa)または粘膜(mucous membrane)」とは、ほぼ内皮が起源の内膜を意味する。粘膜は、外部環境に露出した一部の体腔および一部の内部器官の内面を覆う。これらは、皮膚に近接したいくつかの部位である、鼻孔、口の唇、眼瞼、耳、生殖器領域および肛門にある。粘膜は、角質化していない重層扁平上皮からなる。
【0021】
式(I)の化合物の中で、例えば、クロニジン、p-アミノクロニジン、p-ジエチルアミノクロニジン、p-エチルアミノクロニジン、p-アセトアミドクロニジン、p-ブロモアセトアミドクロニジン、p-N-クロロエチル-N-メチルアミノクロニジン、p-N-β-クロロエチル-N-メチルアミノメチルクロニジン、3,5-ジクロロ-4-(イミダゾリジン-2-イリデンアミノ)ベンジルアルコール、3,5-ジクロロ-4-(1,3-ジイソブチリルイミダゾリジン-2-イリデンアミノ)ベンジルイソブチレート、エチル3,5-ジクロロ-4-(1-イソブチリルイミダゾリジン-2-イリデンアミノ)ベンゾエート、およびこれらの混合物からなる群から選択されるものを挙げることができる。
【0022】
式(I)の化合物の薬学的に許容される塩の例は、それらの塩酸塩を含む。
【0023】
クロニジン(上記式(I)において、R=R=R=H)およびその薬学的に許容される塩が特に好ましい。クロニジン塩酸塩は、本発明による特に好ましい薬学的に許容される塩である。
【0024】
上述のように、本発明のクロニジンおよび/またはクロニジン誘導体は、式(I)の化合物の互変異性形態も包含する。例えば、限定することを意図するものではないが、互変異性体は、以下に示すように、4,5-ジヒドロオキサゾールおよび隣接する窒素の間で可能である。
【化2】
【0025】
クロニジンおよび/またはクロニジン誘導体は、皮膚損傷を予防するために、放射線療法の前、またはそれと同時に、対象に投与され得る。これらは、典型的には、薬学的有効量で使用され、これは、少なくとも部分的に所望の効果を達成するのに十分な量で投与されることを意味する。これに関して、20~150μg、好ましくは50~100μgのクロニジンまたはクロニジン誘導体(塩基当量として表される)の1日経口摂取量が、皮膚損傷の危険性を効果的に低減することが示された。このクロニジンまたはクロニジン誘導体の1日量は、単一用量または2回に分割した用量で、好ましくは単一用量で投与され得る。
【0026】
本発明の実施形態によれば、クロニジンおよび/またはクロニジン誘導体を含む組成物は、放射線療法の1~8日前、好ましくは1~3日前に開始して、放射線療法の終了までおよび/または6~10週間、例えば8週間の期間、患者に毎日投与され得る。
【0027】
クロニジンおよび/またはクロニジン誘導体に加えて、医薬組成物は、薬学的に許容される担体を含む。この担体は、例えば、固体または液体形態であってよい。固体担体は、粉末、顆粒、カプセル、錠剤、フィルムなどを含む。液体担体は、例えば、水系、油系、あるいは油中水型もしくは水中油型エマルションまたは分散剤の形態であってよい。
【0028】
本発明によれば、クロニジンおよび/またはクロニジン誘導体を含有する医薬組成物は、経粘膜的に投与される。したがって、クロニジン誘導体は、粘膜付着性のバッカル錠に製剤化されてよく、または、マイクロスフェアもしくはナノスフェア内に含ませてよく、好ましくは、組成物は、長方形、円形、正方形、楕円形などのような任意の形状を有し得る粘膜付着性の錠剤の形態である。
【0029】
さらに、本発明の組成物は、クロニジンおよび/またはクロニジン誘導体の徐放を提供することが好ましい。徐放は、少なくとも4時間、好ましくは4~25時間の期間である。
【0030】
この粘膜付着性の錠剤は、単一の有効成分として少なくとも1つのクロニジンおよび/もしくはクロニジン誘導体、少なくとも1つの希釈剤、少なくとも1つの生体付着剤、ならびに好ましくは少なくとも1つの徐放剤および/もしくは少なくとも1つの結合剤を含むか、または本質的にそれらからなる(すなわち、少なくとも90重量%含む)。
【0031】
本発明において使用される希釈剤は、不溶性または可溶性であってよい。希釈剤の例は、微結晶セルロース、ケイ化微結晶セルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、二塩基性リン酸カルシウム、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、炭酸マグネシウム、マンニトール、グルコース、ソルビトール、デキストロース、ラクトース、デンプンなどを含む。
【0032】
希釈剤は、通常、粘膜付着性の錠剤の全重量に対して、1~75重量%、好ましくは10重量%~60重量%、より好ましくは20~40重量%の量で存在する。
【0033】
生体付着剤は、通常、合成もしくは天然のタンパク質またはポリサッカライドである。天然のタンパク質は、植物または動物起源であってよい。
【0034】
使用することができる植物起源のタンパク質は、EP1972332に記載されたものである。これらのタンパク質の例は、天然エンドウタンパク質、天然コムギタンパク質およびグリアジンタンパク質、ならびにこれらの混合物を含む。エンドウタンパク質を製造するための方法は、例えば、WO2007/017571に記載されている。本発明において使用することができるポリサッカライドは、キトサン、アルギン酸塩、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、シクロデキストリン、ヒアルロン酸ナトリウムおよびキサンタンガムを含む。
【0035】
別の実施形態において、使用することができる天然起源のタンパク質は、EP0542824に記載されたものである。特定の例は、Prosobel L85などの、最低85%のタンパク質量に調整したミルクタンパク質濃縮物、ミルクタンパク質濃縮物、または、好ましくはArmor Proteinsにより販売されているPromilk 852A、もしくはNZMPにより販売されているAlaplex range(4850、1180、1380または1395)のいずれかである。本発明の粘膜付着性の錠剤中の天然のミルクタンパク質の相対濃度は、好ましくは、15重量%~50重量%の範囲であり、好ましくは20重量%~30重量%の範囲である。
【0036】
結合剤は、カルボキシビニルポリマー、カルメロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン(ポビドン)、ポリビニルアルコールなどから選択することができる。結合剤は、粘膜付着性の錠剤の全重量に対して、0.5~5重量%の量で存在してよい。
【0037】
クロニジン誘導体の徐放のために設計する場合、粘膜付着性の錠剤は、ヒプロメロース、セルロースアセテート、セルロースエステル、セロビオース、またはセルロース樹脂などのセルロース系ポリマーなどのポリサッカライド;Carbopol934(登録商標)などのカルボキシビニルポリマー;ヒドロキシエチルメタクリレート、およびこれらの混合物を含む、親水性ポリマーを含んでいてよい、徐放剤を含む。本発明において使用することができる他のポリマーは、セルロースエーテル、キサンタンガム、スクレログルカン、ローカストビーンガム、アラビアガム、トラガカントガム、イナゴマメ、アルギン酸、アルギン酸塩、カラギーナン、寒天、デンプンおよびグアーガムを、単独でまたはこれらの混合物のいずれかで含む。
【0038】
徐放剤は、通常、粘膜付着性の錠剤の全重量に対して、5重量%~80重量%、好ましくは10重量%~60重量%、より好ましくは20~40重量%の濃度で存在する。
【0039】
粘膜付着性の錠剤は、流動促進剤、滑沢剤、着色剤、香味剤、湿潤剤およびこれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1つの添加剤を含んでいてもよい。
【0040】
香味剤は、香料、クエン酸カルシウム、サフロール、ならびにアスパルテーム、シクラメート、サッカリンおよびキシリトールなどの甘味剤を含む。さらに、タルクおよびコロイド状二酸化ケイ素から選択される流動促進剤、およびステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸およびポリエチレングリコールを含めた滑沢剤もまた、粘膜付着性の錠剤の製剤に添加することができる。湿潤剤は、水溶液またはアルコールなどの溶媒であってよい。これらの追加の薬剤は、粘膜付着性の錠剤の全重量に対して、0.1~10重量%の範囲の濃度で担体に添加することができる。
【0041】
本発明の好ましい実施形態によれば、上記記載のクロニジンおよび/またはクロニジン誘導体を含む医薬組成物は、以下の賦形剤を全て含む:
-湿潤剤として水
-微結晶セルロースなどの希釈剤
-ポリビニルピロリドン(ポビドン)などの結合剤
-ヒドロキシプロピルメチルセルロース(ヒプロメロース)などの徐放剤
-ミルクタンパク質濃縮物
-コロイド状二酸化ケイ素などの流動促進剤
-ステアリン酸マグネシウムなどの滑沢剤。
【0042】
本発明は、放射線療法に起因する皮膚損傷を予防するための方法であって、それを必要とする対象に、経粘膜経路によって、単一有効成分としての、少なくとも1つの上記定義のクロニジンおよび/またはクロニジン誘導体を放射線療法の前に、またはそれと同時に投与することからなるステップを含む方法も提供する。
【0043】
一部の場合では、対象は、白金系化学療法(シスプラチンおよびカルボプラチン化学療法を含む)などの化学療法も、好ましくは、放射線療法と同時に投与される。
【0044】
本発明のクロニジンおよび/またはクロニジン誘導体を含む医薬組成物が、粘膜付着性のバッカル錠として適用される場合において、後者は、歯茎に付着させ、それを所定の場所に維持するようにわずかな圧力をそこに加えることができる。錠剤は、好ましくは、歯磨き後の歯に適用される。このようにして、口内でのクロニジン誘導体の徐放は達成し得る。
【実施例
【0045】
説明目的のみのために提示し、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲を限定することを意図するものではない以下の実施例をふまえると、本発明はより良く理解されるだろう。
【0046】
(実施例1)クロニジン塩酸塩の粘膜付着性の錠剤の調製
1A-0.1mgのクロニジンを含有する錠剤
0.1mg(塩基当量)のクロニジン塩酸塩を、13mgの二塩基性リン酸カルシウム、15mgの微結晶セルロース、40mgのヒドロキシプロピルメチルセルロース、1mgのコロイド状シリカおよび0.9mgのステアリン酸マグネシウムとブレンドした。
【0047】
次いで、この混合物を、ふるい分けによって均質化し、30mgのミルクタンパク質濃縮物を加え、初期混合物と混合した。次いで、得られた組成物を、十分な圧力下で圧縮して、錠剤を形成した。
【0048】
1B-0.05および0.1mgのクロニジンを含有する錠剤
クロニジン塩酸塩の水溶液を、微結晶セルロース、ミルクタンパク質濃縮物およびポビドンから構成される混合物上に噴霧した。粉末の十分な凝集が得られるまで顆粒化を継続した。乾燥およびふるい分けの後、ヒドロキシプロピルメチルセルロースを顆粒に加え、ブレンドの均一性が得られるまで混合した。最後に、ステアリン酸マグネシウムを加え、最終ブレンドと混合した。次いで、得られた組成物を、十分な圧力下で圧縮して、錠剤を形成した。
【0049】
1C-0.05および0.1mgのクロニジンを含有する錠剤
クロニジン塩酸塩の水溶液を、微結晶セルロースおよびポビドンから構成される混合物上に噴霧した。粉末の十分な凝集が得られるまで顆粒化を継続した。乾燥およびふるい分けの後、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、コロイド状シリカ、タルクおよびミルクタンパク質濃縮物を顆粒に加え、ブレンドの均一性が得られるまで混合した。最後に、ステアリン酸マグネシウムを加え、最終ブレンドと混合した。次いで、得られた組成物を、十分な圧力下で圧縮して、錠剤を形成した。
【0050】
1D-0.05mgのクロニジンを含有する錠剤
クロニジン塩酸塩の水溶液を、ポビドンと混合した。次いで、微結晶セルロースおよびミルクタンパク質濃縮物をこの混合物に加え、得られたブレンドを顆粒化し、乾燥し、ふるい分けした。次いで、滑沢剤としてステアリン酸マグネシウムを加える最終ブレンドを得るために、ヒプロメロースおよびコロイド状二酸化ケイ素を、この粉末に加えた。次いで、得られた組成物を、十分な圧力下で圧縮して、錠剤を形成した。
【0051】
(実施例2)皮膚損傷の予防的処置
第II相、多施設、無作為化、二重盲検、プラセボ対照試験を、頭頸部がんの患者(新たに診断された口腔、中咽頭、下咽頭または喉頭の扁平上皮癌を患う)における放射線療法後の皮膚損傷の予防および処置において、1日1回適用される50μgのクロニジン塩酸塩を含む粘膜付着性のバッカル錠の有効性をプラセボの有効性と比較するために行った。これらの患者は、根治目的の手術後15週以内に、毎週または3週間ごとのサイクルに基づく白金系化学療法と組み合わせて、1.8~2.2Gyの間の1日線量に基づいて、口腔内に50~70グレイの範囲の放射線の累積放射線線量を受けた。クロニジンは、粘膜付着性の錠剤の形態で投与され、これは、口内の上側の歯茎に、約30秒間適用され、その後、数時間所定の場所に留まった。クロニジン塩酸塩による処置は、放射線療法の1~3日前に開始し、放射線療法の終了まで最大8週間行った。患者は、放射線療法の期間中、週に2回、次いで、放射線療法の終了後1ヶ月に評価された。
【0052】
プラセボ群の患者の38.7%が処置後に皮膚損傷を示したが、処置群の患者は25.5%のみであった。
【0053】
本実施例は、クロニジンおよび/またはクロニジン誘導体が、放射線療法による皮膚の有害事象の発生を効果的に減少させることを実証する。