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特許7102200コハク酸ソリフェナシン含有固形医薬組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-08
(45)【発行日】2022-07-19
(54)【発明の名称】コハク酸ソリフェナシン含有固形医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/4725 20060101AFI20220711BHJP
   A61K 9/20 20060101ALI20220711BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20220711BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20220711BHJP
   A61K 47/20 20060101ALI20220711BHJP
   A61K 47/10 20060101ALI20220711BHJP
   A61K 47/22 20060101ALI20220711BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20220711BHJP
   A61K 9/16 20060101ALI20220711BHJP
   A61K 9/48 20060101ALI20220711BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20220711BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20220711BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20220711BHJP
   A61P 7/12 20060101ALI20220711BHJP
【FI】
A61K31/4725
A61K9/20
A61K47/12
A61K47/02
A61K47/20
A61K47/10
A61K47/22
A61K9/14
A61K9/16
A61K9/48
A61K47/26
A61K47/36
A61K47/38
A61P7/12
【請求項の数】 30
(21)【出願番号】P 2018077321
(22)【出願日】2018-04-13
(65)【公開番号】P2018177789
(43)【公開日】2018-11-15
【審査請求日】2021-04-07
(31)【優先権主張番号】P 2017080847
(32)【優先日】2017-04-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591040753
【氏名又は名称】東和薬品株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104639
【弁理士】
【氏名又は名称】早坂 巧
(72)【発明者】
【氏名】小川 哲弥
(72)【発明者】
【氏名】松島 由貴
(72)【発明者】
【氏名】片山 剛
(72)【発明者】
【氏名】奥田 豊
(72)【発明者】
【氏名】前原 達也
(72)【発明者】
【氏名】藤井 繁樹
【審査官】新熊 忠信
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2008/128028(WO,A2)
【文献】特開2017-190325(JP,A)
【文献】特開2018-039780(JP,A)
【文献】特開2015-145363(JP,A)
【文献】特表2009-519970(JP,A)
【文献】国際公開第2015/170237(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-33/44
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/69
A61P 7/00
A61P 21/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コハク酸ソリフェナシンを含んでなる固形医薬組成物であって,コハク酸ソリフェナシンが非晶質体であり,且つ安息香酸ナトリウム,亜硫酸ナトリウム,ソルビン酸,及びL-システイン塩酸塩からなる第1群より選ばれる1又は2以上の化合物を、含むものである,固形医薬組成物。
【請求項2】
第1群より選ばれる1又は2以上の化合物が、少なくとも非晶質コハク酸ソリフェナシンの結晶化に対する安定化剤として機能するものである,請求項1の固形医薬組成物。
【請求項3】
安息香酸ナトリウム及び/又はL-システイン塩酸塩が,非晶質コハク酸ソリフェナシンの分解に対する安定化剤としても機能するものである,請求項1又は2の固形医薬組成物。
【請求項4】
親油性抗酸化剤を更に含むものである,請求項1~3の何れかの固形医薬組成物。
【請求項5】
該親油性抗酸化剤が,ジブチルヒドロキシトルエン,アスコルビン酸ステアリン酸エステル及びトコフェロールからなる群より選ばれるものである,請求項の固形医薬組成物。
【請求項6】
該第1群より選ばれる化合物が,安息香酸ナトリウムである,請求項1~の何れかの固形医薬組成物。
【請求項7】
賦形剤及び結合剤を更に含むものである,請求項1~の何れかの固形医薬組成物。
【請求項8】
該組成物におけるコハク酸ソリフェナシン含量が1.4~4重量%である,請求項1~の何れかの固形医薬組成物。
【請求項9】
該組成物における該第1群の化合物の含量が1~10重量%である,請求項1~の何れかの固形医薬組成物。
【請求項10】
該組成物における親油性抗酸化剤の含量が0.01~3.3重量%である,請求項1~の何れかの固形医薬組成物。
【請求項11】
該組成物における該1群の化合物の含量が,コハク酸ソリフェナシンの含量に対し,重量比で0.3~6倍である,請求項1~10の何れかの固形医薬組成物。
【請求項12】
該組成物における親油性抗酸化剤の含量が,コハク酸ソリフェナシンの含量に対し,重量比で0.003~2倍である,請求項1~11の何れかの固形医薬組成物。
【請求項13】
該賦形剤が,単糖類,二糖類等,糖アルコール,デンプン類,結晶セルロース,セルロース誘導体,デキストラン,及びデキストリンからなる群より選ばれる1種又は2種以上である,請求項1~12の何れかの固形医薬組成物。
【請求項14】
該結合剤が,ヒドロキシプロピルメチルセルロース,ヒドロキシプロピルセルロース,メチルセルロース,及びポリビニルピロリドンからなる群より選ばれるものである,請求項1~13の何れかの固形医薬組成物。
【請求項15】
錠剤,散剤,顆粒剤,カプセル剤又は丸剤の形態である,請求項1~14の何れかの固形医薬組成物。
【請求項16】
非晶質体コハク酸ソリフェナシンを薬効成分として含んでなる,錠剤の形態の固形医薬組成物の製造方法であって,賦形剤の粉末を,コハク酸ソリフェナシンと,少なくとも1種の結合剤と,安息香酸ナトリウム,亜硫酸ナトリウム,ソルビン酸,及びL-システイン塩酸塩からなる第1群より選ばれる1又は2以上の化合物とを含んでなる溶液で造粒することを含む顆粒製造工程を含み,得られた顆粒に滑沢剤を含んでなる添加剤を添加,混合して打錠することを含むものである,製造方法。
【請求項17】
第1群より選ばれる1又は2以上の化合物が、少なくとも非晶質コハク酸ソリフェナシンの結晶化に対する安定化剤として機能するものである,請求項16の製造方法。
【請求項18】
安息香酸ナトリウム及び/又はL-システイン塩酸塩が,非晶質コハク酸ソリフェナシンの分解に対する安定化剤としても機能するものである,請求項16又は17の製造方法。
【請求項19】
該顆粒製造工程が,該造粒後に造粒物に親油性抗酸化剤を添加することを含んでなるものである,請求項16~18の何れかの製造方法。
【請求項20】
該親油性抗酸化剤が,ジブチルヒドロキシトルエン,アスコルビン酸ステアリン酸エステル及びトコフェロールからなる群より選ばれるものである,請求項19の製造方法。
【請求項21】
該親油性抗酸化剤の添加が,該親油性抗酸化剤の溶液を該造粒物に噴霧し乾燥させることにより行われるものである,請求項19又は20の製造方法。
【請求項22】
該第1群より選ばれる化合物が,安息香酸ナトリウムである,請求項16~21の何れかの製造方法。
【請求項23】
該組成物におけるコハク酸ソリフェナシンの含量が1.4~4重量%である,請求項16~22の何れかの製造方法。
【請求項24】
該組成物における該第1群より選ばれる化合物の含量が1~10重量%である,請求項16~23の何れかの製造方法。
【請求項25】
該組成物における該親油性抗酸化剤の含量が0.01~3.3重量%である,請求項19~24の何れかの製造方法。
【請求項26】
該組成物における該1群より選ばれる化合物の含量が,コハク酸ソリフェナシンの含量に対し,重量比で0.3~6倍である,請求項16~25の何れかの製造方法。
【請求項27】
該組成物における該親油性抗酸化剤の含量が,コハク酸ソリフェナシンの含量に対し,重量比で0.003~2倍である,請求項19~26の何れかの製造方法。
【請求項28】
該賦形剤が,単糖類,二糖類等,糖アルコール,デンプン類,結晶セルロース,デキストラン,及びデキストリンからなる群より選ばれる1種又は2種以上である,請求項16~27の何れかの製造方法。
【請求項29】
該結合剤が,ヒドロキシプロピルメチルセルロース,ヒドロキシプロピルセルロース,ポリビニルピロリドン及びメチルセルロースからなる群より選ばれるものである,請求項16~28の何れかの製造方法。
【請求項30】
得られた錠剤にコーティングを施すステップを更に含む,請求項16~29の何れかの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,コハク酸ソリフェナシンを含有する固形医薬組成物に関し,特に,非晶質体コハク酸ソリフェナシンを含有する固形医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ソリフェナシンは,次式(1)で示される抗コリン作動薬であり,アセチルコリン受容体のうちムスカリン受容体,特にM受容体に対する選択的な拮抗作用を有する。この作用に基づき,ソリフェナシンは,膀胱の平滑筋の緊張を低下させて膀胱に貯留される尿量を増加させることから,頻尿,尿意切迫感,尿失禁等の泌尿器疾患の治療及び予防に有用な成分として知られている。
【0003】
【化1】
【0004】
上記用途の固形医薬組成物として,ソリフェナシンはコハク酸塩の形で使用されている。コハク酸ソリフェナシンには結晶体と非晶質体とが存在し,両形態は,同薬物自体の製造工程の諸条件やこれを主薬として含む固形医薬組成物の組成に依存して,単一の化合物中や組成物中に混在する結果となり易い。例えば,結晶体コハク酸ソリフェナシンを原料として製造された固形医薬組成物において,製造過程で非晶質体が高い割合で生成することが知られており,またこの非晶質体が固形医薬組成物におけるコハク酸ソリフェナシンの経時的分解の主たる原因であること,更に,製造過程でコハク酸ソリフェナシンの非晶質化が生じるのを抑制して,非晶質体の割合をコハク酸ソリフェナシン全体の一定レベル以下に収める方法も知られている(特許文献1)。
【0005】
他方,非晶質体のコハク酸ソリフェナシンを,固形医薬組成物中において安定化させるための試みも行われている。例えば,ソリフェナシン又はその塩の非晶質体に,クエン酸又はその塩,ピロ亜硫酸ナトリウム及びエチレンジアミン四酢酸塩から選択される1種又は2種以上を配合することにより,非晶質体の経時的な分解を抑制し得ること(特許文献2),安定化剤としてPEG,НРМС,МС,PVP,PVP-VA,PVA,ポリメタクリレート,ソルビトール,マンニトール,マルチトール,オイドラギット Е,コリドン VA 64,イソマルト等で被覆することにより結晶化を防止して非晶質体の状態を維持し得ること(特許文献3),ソリフェナシン又はその塩の非晶質体にリンゴ酸又はその塩及びメグルミン又はその塩から選択される少なくとも1種を配合することにより,非晶質体の状態を維持し得ること(特許文献4),ソリフェナシンに酒石酸,フマル酸及びコハク酸,マレイン酸から選ばれる1種以上を配合することにより非晶質体の形態を維持し得ること(特許文献5)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】WO 2005/092889号公報
【文献】WO 2010/113840号公報
【文献】WO 2009/012987号公報
【文献】特開2015-189677号公報
【文献】WO 2015/170237号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の背景において,本発明の一目的は,コハク酸ソリフェナシンを主薬として含んでなる固形医薬組成物であって,コハク酸ソリフェナシンが非晶質体であり,且つ,保存中に,コハク酸ソリフェナシンを非晶質体として維持でき(物理的安定化),その分解による不純物生成も抑制できる(化学的安定化)という特徴を備えた組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的のために検討の結果,本発明者は,非晶質体コハク酸ソリフェナシンを主薬とする固形製剤の処方化において,特定の化合物を配合することで,固形製剤製造時における結晶化を防止して,コハク酸ソリフェナシンを非晶質体として含む固形製剤を製造することができ,且つ保存中における結晶生成も十分に防止して非晶質体の形態を維持できること,及び別の特定の化合物を更に配合することで,非晶質体コハク酸ソリフェナシンを化学的に安定化させて分解による類縁物質の生成を抑制できることを見出し,これらの発見に基づき検討を重ねて本発明を完成させた。即ち,本発明は以下を提供する。
【0009】
1.コハク酸ソリフェナシンを含んでなる固形医薬組成物であって,コハク酸ソリフェナシンが非晶質体であり,且つ安息香酸ナトリウム,亜硫酸ナトリウム,リン酸水素カルシウム,ソルビン酸,及びL-システイン塩酸塩からなる第1群より選ばれる1又は2以上の化合物を含むものである,固形医薬組成物。
2.親油性抗酸化剤を更に含むものである,上記1の固形医薬組成物。
3.該親油性抗酸化剤が,ジブチルヒドロキシトルエン,ジブチルヒドロキシアニソール,アスコルビン酸ステアリン酸エステル及びトコフェロールからなる群より選ばれるものである,上記2の固形医薬組成物。
4.該第1群より選ばれる化合物が,安息香酸ナトリウムである,上記1~3の何れかの固形医薬組成物。
5.賦形剤及び結合剤を更に含むものである,上記1~4の何れかの固形医薬組成物。
6.該組成物におけるコハク酸ソリフェナシン含量が1.4~4重量%である,上記1~5の何れかの固形医薬組成物。
7.該組成物における該第1群の化合物の含量が1~10重量%である,上記1~6の何れかの固形医薬組成物。
8.該組成物における親油性抗酸化剤の含量が0.01~3.3重量%である,上記1~7の何れかの固形医薬組成物。
9.該組成物における該1群の化合物の含量が,コハク酸ソリフェナシンの含量に対し,重量比で0.3~6倍である,上記1~7の何れかの固形医薬組成物。
10.該組成物における親油性抗酸化剤の含量が,コハク酸ソリフェナシンの含量に対し,重量比で0.003~2倍である,上記1~9の何れかの固形医薬組成物。
11.該賦形剤が,単糖類,二糖類等,糖アルコール,デンプン類,結晶セルロース,セルロース誘導体,デキストラン,及びデキストリンからなる群より選ばれる1種又は2種以上である,上記1~10の何れかの固形医薬組成物。
12.該結合剤が,ヒドロキシプロピルメチルセルロース,ヒドロキシプロピルセルロース,メチルセルロース,及びポリビニルピロリドンからなる群より選ばれるものである,上記1~11の何れかの固形医薬組成物。
13.錠剤,散剤,顆粒剤,カプセル剤又は丸剤の形態である,上記1~12の何れかの固形医薬組成物。
14.非晶質体コハク酸ソリフェナシンを薬効成分として含んでなる,錠剤の形態の固形医薬組成物の製造方法であって,賦形剤の粉末を,コハク酸ソリフェナシンと,少なくとも1種の結合剤と,安息香酸ナトリウム,亜硫酸ナトリウム,リン酸水素カルシウム,ソルビン酸,及びL-システイン塩酸塩からなる第1群より選ばれる1又は2以上の化合物とを含んでなる溶液で造粒することを含む顆粒製造工程を含み,得られた顆粒に滑沢剤を含んでなる添加剤を添加,混合して打錠することを含むものである,製造方法。
15.該顆粒製造工程が,該造粒後に造粒物に親油性抗酸化剤を添加することを含んでなるものである,上記14の製造方法。
16.該親油性抗酸化剤が,ジブチルヒドロキシトルエン,ジブチルヒドロキシアニソール,アスコルビン酸ステアリン酸エステル及びトコフェロールからなる群より選ばれるものである,上記15の製造方法。
17.該親油性抗酸化剤の添加が,該親油性抗酸化剤の溶液を該造粒物に噴霧し乾燥させることにより行われるものである,上記15又は16の製造方法。
18.該第1群より選ばれる化合物が,安息香酸ナトリウムである,上記14~17の何れかの製造方法。
19.該組成物におけるコハク酸ソリフェナシンの含量が1.4~4重量%である,上記13~18の何れかの製造方法。
20.該組成物における該第1群より選ばれる化合物の含量が1~10重量%である,上記14~19の何れかの製造方法。
21.該組成物における該親油性抗酸化剤の含量が0.01~3.3重量%である,上記14~20の何れかの製造方法。
22.該組成物における該1群より選ばれる化合物の含量が,コハク酸ソリフェナシンの含量に対し,重量比で0.3~6倍である,上記14~21の何れかの製造方法。
23.該組成物における該親油性抗酸化剤の含量が,コハク酸ソリフェナシンの含量に対し,重量比で0.003~2倍である,上記14~22の何れかの製造方法。
24.該賦形剤が,単糖類,二糖類等,糖アルコール,デンプン類,結晶セルロース,デキストラン,及びデキストリンからなる群より選ばれる1種又は2種以上である,上記14~23の何れかの製造方法。
25.該結合剤が,ヒドロキシプロピルメチルセルロース,他のヒドロキシプロピルセルロース,ポリビニルピロリドン及びメチルセルロースからなる群より選ばれるものである,上記14~24の何れかの製造方法。
26.得られた錠剤にコーティングを施すステップを更に含む,上記14~25の何れかの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
上記構成になる本発明によれば,製造工程やその後の保存中におけるコハク酸ソリフェナシンの結晶化を十分に防止(物理的安定化)して,非晶質体であるコハク酸ソリフェナシン含む固形医薬組成物を提供することができる。また,本発明によれば,結晶に比べて化学的安定性が低下し分解物を生じやすい性質を持つ非晶質体コハク酸ソリフェナシンであるにも関わらず,その安定性を高め(化学的安定化),製造工程並びにその後の保存時における分解を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は,安息香酸ナトリウムを配合した非晶質体コハク酸ソリフェナシン錠の安定性加速試験後(1及び2),製造直後(3),及び製造に用いた結晶体原薬(4)の,各粉末X線回折チャートを並べて示す。各矢印は,結晶由来のピークの位置を示す。
図2図2は,製造直後及び保存後の錠剤8~11,及び結晶体コハク酸ソリフェナシン原薬の,各粉末X線回折チャートを並べて示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明において,「固形医薬組成物」の語は,固形の医薬組成物を特に限定なく包含し,錠剤,散剤,顆粒剤,カプセル剤,丸剤を含む。これらのうち,製造,取扱い及び服用の便利さにおいて,錠剤が特に好ましい。錠剤の例としては,裸錠,糖衣錠,フィルムコーティング錠,徐放性錠,腸溶錠,舌下錠,口内崩壊錠(OD錠)等が挙げられるが,これらに限定されない。
【0013】
本発明において,試料中のコハク酸ソリフェナシンが非晶質体であるというときは,当該試料の粉末X線回折(XRD)像において,コハク酸ソリフェナシンが結晶体の場合に見られるべきピークが,僅かしか又は実質的に認められないことをいい,より具体的には,結晶体の場合に認められる複数のピークに対して,同位置にピークが認められる場合でもそれらのピークの総面積が,全てが結晶体である場合のピークの総面積に比べて好ましくは20%以下,より好ましくは15%以下,更に好ましくは10%以下,尚も好ましくは5%以下,特に好ましくは1%以下であることをいう。
【0014】
本発明の固形医薬組成物において,安息香酸ナトリウム,亜硫酸ナトリウム,リン酸水素カルシウム,ソルビン酸,及びL-システイン塩酸塩からなる第1群の化合物は,コハク酸ソリフェナシンの結晶化を防止して非晶質体として安定化させる安定化剤(第1群の安定化剤)として機能し,これらから選ばれる1種又は2種以上を用いることができる。これらのうち安息香酸ナトリウムが特に好ましい。
【0015】
また本発明の固形医薬組成物において,上記第1群の安定化剤に加えて,組成物中において非晶質体の状態で維持されるコハク酸ソリフェナシンの分解を抑制するために,化学的安定化剤として親油性抗酸化剤を配合することがより好ましい。特に好ましい親油性抗酸化剤の例としては,ジブチルヒドロキシトルエン,並びにこれと同様に化学構造中にフェノール性水酸基を1個有する抗酸化剤であるジブチルヒドロキシアニソール及びトコフェロールや,アスコルビン酸ステアリン酸エステルが挙げられる。
【0016】
本発明の固形医薬組成物におけるコハク酸ソリフェナシンの含量は,1.4~4重量%であることが好ましい。なお,本発明の固形医薬組成物の重量に対する各成分の含量を重量%で表示するに際し,当該固形医薬組成物がコーティング錠の形態である場合には,組成物の重量としてコーティング直前の錠剤(素錠)の重量を用いる。コーティング層は素錠の表面を覆うに止まり,主薬であるコハク酸ソリフェナシンと安定化剤,賦形剤等の添加剤が接触するのは,素錠中においてだからである。
【0017】
本発明の固形医薬組成物中において,第1群より選ばれる化合物に安定化の効果を発揮させる上で非晶質体コハク酸ソリフェナシンの量(重量)に対し配合する当該化合物の量(重量比)(複数種を配合するときはそれらの合計)に特に明確な上限,下限はないが,0.3~6倍であることが一般に好ましく,0.4~4倍であることがより好ましく,0.5~3倍であることが更に好ましい。
【0018】
また,非晶質体コハク酸ソリフェナシンの量(重量)に対するジブチルヒドロキシトルエン等の親油性抗酸化剤の配合量(重量比)にも,特に明確な上限,下限はないが,0.003~2倍の範囲で適宜設定することができる。従って例えば,0.003倍,0.006倍,0.015倍,0.02倍,0.05倍,0.1倍,0.3倍,0.5倍,1倍,2倍等から適宜選ばれる2つの値を両端とする範囲として設定できる。
【0019】
また,本発明の固形医薬組成物における第1群より選ばれる化合物の含量は,好ましくは1~10重量%,より好ましくは,1.3~6.7重量%,更に好ましくは2~5重量%,特に好ましくは3~4重量%である。
【0020】
また,本発明の固形医薬組成物におけるジブチルヒドロキシトルエン等の親油性抗酸化剤の含量に明確な上限,下限はないが,例えば0.01重量%~3.3重量%の範囲で適宜設定することができる。従って例えば,0.01重量%,0.02重量%,0.03重量%,0.05重量%,0.1重量%,0.3重量%,0.7重量%,1.5重量%,2重量%,2.7重量%,及び3.3重量%から適宜選ばれる2つの値を両端とする範囲として設定できる。
【0021】
本発明の目的に反しない限り,本発明の固形医薬組成物には,その個々の具体的な製剤形態に応じて,賦形剤,結合剤,崩壊剤,滑沢剤,コーティング剤,発泡剤,その他,固形医薬組成物の製造に使用される慣用の添加剤を1種又は2種以上を適宜選択して配合することができる。
【0022】
賦形剤としては,ブドウ糖,粉糖,乳糖のような単糖類,二糖類等,マンニトール等の糖アルコール,トウモロコシデンプンなどのようなデンプン類,結晶セルロース,ヒドロキシプロピルメチルセルロース,ヒドロキシプロピルセルロース,低置換度ヒドロキシプロピルセルロース等のセルロース誘導体,デキストラン,デキストリン等が挙げられるが,これらに限定されない。
【0023】
結合剤の例としては,ヒドロキシプロピルメチルセルロース,ヒドロキシプロピルセルロース,メチルセルロース,エチルセルロース等のセルロース誘導体,部分アルファー化デンプン,ポリビニルピロリドン,ポリビニルアルコール,ポリエチレングリコール等が挙げられるが,これらに限定されない。
【0024】
崩壊剤の例としては,トウモロコシデンプン,馬鈴薯デンプン等のデンプン類,部分アルファー化デンプン,カルメロース,カルメロースカルシウム,クロスカルメロースナトリウム,クロスポビドン,低置換度ヒドロキシプロピルセルロース,ヒドロキシプロピルメチルセルロース等が挙げられるが,これらに限定されない。
【0025】
滑沢剤の例としては,ステアリン酸,ステアリン酸マグネシウム,ステアリン酸カルシウム,タルク,硬化油,フマル酸ステアリルナトリウム,ショ糖脂肪酸エステル等が挙げられるが,これらに限定されない。
【0026】
コーティング剤の例としては,ヒドロキシプロピルメチルセルロース,タルク,酸化チタン,黄色三二酸化鉄,及び乳糖等が挙げられるが,これらに限定されない。
【0027】
発泡剤の例としては,炭酸水素ナトリウム等が挙げられる。
【0028】
本発明の固形医薬組成物の製造方法は特定の方法に限定されず,当業者は適宜所望により設計することできる。例えば,
(a)結晶体コハク酸ソリフェナシンと,結合剤と,第1群の安定化剤のうち少なくとも1種とを含む溶液(例えば,アルコール水混液による溶液)を準備し,賦形剤粉末を含む流動層にこれを噴霧して造粒し,必要に応じてジブチルヒドロキシトルエン等の親油性抗酸化剤も溶液(例えば,アルコール水混液による溶液)の形で,(例えば噴霧する等により)更に加え,必要に応じて乾燥させ,得られた顆粒と,滑沢剤を含む添加剤とを混合して打錠するか;
(b)賦形剤粉末と第1群の安定化剤のうち少なくとも1種の粉末とを含む流動層に,結晶体コハク酸ソリフェナシンと,結合剤とを含む溶液(例えば,水溶液)を噴霧して造粒し,必要に応じてジブチルヒドロキシトルエン等の親油性抗酸化剤も溶液(例えば,アルコール水混液による溶液)の形で,(例えば噴霧する等により)更に加え,必要に応じて乾燥させ,得られた顆粒と,滑沢剤を含む添加剤とを混合して打錠するか;又は
(c)結晶体コハク酸ソリフェナシンと,結合剤と,第1群の安定化剤の少なくとも1種とを含む溶液,ジブチルヒドロキシトルエン等の親油性抗酸化剤を含む溶液(例えば,アルコール溶液),及び賦形剤を含む粉末を,混合して練合し,乾燥,粉砕,整粒して,これに滑沢剤を含む添加剤を混合して打錠する方法
が挙げられるが,これらに限定されず,錠剤の製造における慣用の方法を用いて製造することができる。
【0029】
本発明において,錠剤をコーティング錠の形態で提供する場合,コーティングは,糖衣やフィルムコーティング等,錠剤のコーティングにおいて慣用されている種々の方法から,目的に応じ任意に選んで用いることができる。例えば,フィルムコーティング錠は,ヒドロキシプロピルメチルセルロース,ヒドロキシプロピルセルロース,タルク,酸化チタン,着色剤等の慣用の材料を適宜用いて調製した水分散液を素錠に噴霧し乾燥させることで製造することができる。
【0030】
なお,コハク酸ソリフェナシンは,経時的に分解が起こった場合,主たる類縁物質としてN-オキシド体を生成することが知られている。保存中における本発明の固形医薬組成物中のコハク酸ソリフェナシンの化学的安定性は,コハク酸ソリフェナシンそれ自体の残存量を測定することにより判断できるが,分解前には存在しないN-オキシド体の生成を検出し定量することにより,僅かな分解でも確実に捉えることができるため,長期保存下の安定性の予測を行うための便利な指標として,利用することができる。
【実施例
【0031】
以下,実施例を参照して本発明を更に詳細に説明するが,本発明がそれらの実施例に限定されることは意図しない。
【0032】
1.固形医薬組成物でのコハク酸ソリフェナシン安定性検討(安定剤不含)
(1)錠剤の製造
コハク酸ソリフェナシン(結晶体原薬)を用いて,従来処方である特許文献1の実施例1に準じ(但し,フィルムコーティング工程は省く),表1に示す組成で結晶体コハク酸ソリフェナシンを含有する錠剤1を下記手順により製造すると共に,同じ組成で,但し結晶体コハク酸ソリフェナシンの溶解工程を含む手順により,非晶質体コハク酸ソリフェナシンを含んでなる錠剤2を製造した。
【0033】
【表1】
【0034】
(a)製法1-結晶体コハク酸ソリフェナシン含有錠(錠剤1)
乳糖水和物,トウモロコシデンプン,及びコハク酸ソリフェナシン(結晶体)を流動層造粒装置に投入し,これにヒドロキシプロピルメチルセルロースの水溶液を噴霧して造粒し,乾燥,整粒した後,ステアリン酸マグネシウムを添加,混合して打錠し,錠剤1として素錠を得た。ここに,錠剤中のコハク酸ソリフェナシンは,結晶体をそのまま造粒に用いていることから,大半の部分は結晶体である。
【0035】
(b)製法2-非晶質体コハク酸ソリフェナシン含有錠(錠剤2)
乳糖水和物,及びトウモロコシデンプンを流動層造粒装置に投入し,これにコハク酸ソリフェナシンとヒドロキシプロピルメチルセルロースの水溶液を噴霧して造粒し,乾燥,整粒した後,ステアリン酸マグネシウムを添加,混合して打錠し,錠剤2として素錠を得た。ここに,錠剤中のコハク酸ソリフェナシンは,一旦溶解させて賦形剤に噴霧しそのまま乾燥させたものであることから,非晶質の状態である。
【0036】
(2)安定性の検討
上記で得られた錠剤1(結晶体)及び錠剤2(非晶質体)につき,コハク酸ソリフェナシンのN-オキシド体の量を測定し,初期値とした。次いで,錠剤1,錠剤2,及び結晶体原薬を,それぞれポリエチレン瓶に入れ,70℃で9日間,60℃で3週,25℃75%RH(開放)で1及び3か月,40℃75%RH(開放)で1及び3か月,並びに40℃75%RH(密閉)で1及び3か月保存し,次の方法により,N-オキシド体の量を測定した。
【0037】
(a)N-オキシド体の測定方法
コハク酸ソリフェナシンの類縁物質であるN-オキシド体の生成量を,HPLC分析法により測定した。N-オキシド体の生成量は,コハク酸ソリフェナシンに由来するHPLCの全ピーク面積中のN-オキシド体のピーク面積の割合(%)として表した。本測定に使用した試料溶液,および,HPLCの測定条件は以下の通りである。
〔試料溶液〕:
コハク酸ソリフェナシン20gに相当する量をとり,80%メタノールを加えて正確に50mLとし,メンブランフィルターでろ過する。試料溶液20μL正確にとり,次の条件で測定する。
〔HPLC測定条件〕:
・検出器:紫外可視吸光光度計(測定波長:220mm)
・カラム:内径4.6mm,長さ10cmのステンレス管に3μmの液体クロマトグラフィー用オクタデシルシリカゲルを充填する。
・カラム温度:40℃
・移動相A:水1000mLにトリエチルアミン5mLを加え,リン酸を4mL加えたもの。
・移動相B:アセトニトリル900mLに水100mLを加え,トリエチルアミン5mLを加え,リン酸を4mL加えたもの。
・移動相の送液:移動相A及び移動相Bの混合比を次のように変えて濃度勾配制御する。
・移動相の流速:1mL/分
・N-オキシド体の保持時間:27分
【0038】
【表2】
【0039】
結果を表3に示す。
【0040】
【表3】
【0041】
表3に見られるように,非晶質体コハク酸ソリフェナシン含有錠(錠剤2)は,結晶体コハク酸ソリフェナシン含有錠(錠剤1)に比べて,いずれの条件においても,N-オキシド体が増加しており,非晶質体とすることにより化学的安定性の低下が認められた。
【0042】
2.安定化剤の探索
コハク酸ソリフェナシンの安定性の改善のため,安定化剤の探索を以下の通りに行った。
(1)検体の調製
100mgのコハク酸ソリフェナシン原薬(結晶体),100mgのヒドロキシプロピルメチルセルロース,及び下記の安定化剤候補化合物の何れかの100mgを精製水に溶解又は分散させ,これを凍結乾燥して,非晶質体コハク酸ソリフェナシンを含む試験検体とした。また,安定化剤候補化合物を加えないこと以外は上記と同様にして製造した凍結乾燥物を対照検体とした。
・安定化剤候補化合物:安息香酸ナトリウム,アスコルビン酸,トコフェロール,L-システイン塩酸塩(一水和物として),亜硫酸水素ナトリウム,亜硫酸ナトリウム,ジブチルヒドロキシトルエン,リン酸二水素ナトリウム,リン酸水素カルシウム(無水物として),ソルビン酸,クエン酸トリエチル。
【0043】
(2)安定性試験1:N-オキシド体の生成抑制効果の検討
上記の各試験検体及び対照検体をそれぞれポリエチレン瓶に入れ,70℃で9日間(密閉)保存し,N-オキシド体の生成量を測定した。なおN-オキシド体の生成量が0.5%未満であるものを良好と判断した。
【0044】
その結果,対照検体のN-オキシド体含量は3%であり,これに対し,安息香酸ナトリウム,L-システイン塩酸塩,ジブチルヒドロキシトルエン,リン酸二水素ナトリウム,又はクエン酸トリエチルを含む試験検体のN-オキシド体含量は0.5%を大きく下回り,優れた安定化効果を示した。
【0045】
(3)安定性試験2:結晶化の抑制効果の検討
上記の各試験検体及び対照検体をそれぞれポリエチレン瓶に入れ,密閉状態で70℃にて9日間,開放状態で25℃75%RHにて1週間,及び密閉状態で40℃75%RHにて1か月の各条件でそれぞれ保存した。対照検体及び各試験検体の外観を観察して記録し,コハク酸ソリフェナシンに関し相互に等量となるように各検体から一部を採取し,それぞれ粉末X線回折の測定を行って,コハク酸ソリフェナシン原体における結晶由来のピークが認められるか否かを比較した。結晶化の有無の確認は,D8 ADVANCE(Bruker製)を用いてXRD法により行い,2θ=14℃及び18℃付近に特異的なピークがなければ,非晶質体であると判定した。
【0046】
その結果,対照検体では,コハク酸ソリフェナシンの結晶化が認められた。これに対し,安定化剤候補化合物のうち安息香酸ナトリウム,亜硫酸ナトリウム,リン酸水素カルシウム,ソルビン酸,又はL-システイン塩酸塩を含む試験検体では,何れの保存条件でも結晶化は認められず,これらの化合物が,コハク酸ソリフェナシンの結晶化に対する防止効果を有することが判明した。また,ジブチルヒドロキシトルエンを含む試験検体では,他の条件で結晶化は認められなかったものの過酷条件(70℃)においては,結晶化の促進が認められた。これらの結果から,安息香酸ナトリウム,亜硫酸ナトリウム,リン酸水素カルシウム,ソルビン酸,及びL-システイン塩酸塩が,製剤中の非晶質体コハク酸ソリフェナシンの結晶化防止に特に有効な安定化剤として配合できるものと判断された。具体的な製剤の構成に際してそれらの中から安息香酸ナトリウムを選び,これを含む非晶質体コハク酸ソリフェナシン含有錠を次の通りに製造して,製剤形態での安定性を評価した。
【0047】
3.安息香酸ナトリウム配合非晶質体コハク酸ソリフェナシン含有錠の製造及び評価
(1)錠剤の製造
表4に従い3通りの量で安息香酸ナトリウムを配合した非晶質体コハク酸ソリフェナシン含有錠を,下記の方法により製造した。
【0048】
【表4】
【0049】
D-マンニトールと結晶セルロースを流動層造粒装置に投入し,これに水エタノール混液中のコハク酸ソリフェナシン,ヒドロキシプロピルメチルセルロース,安息香酸ナトリウムの溶液を噴霧して造粒し,乾燥,整粒して顆粒を得た。この顆粒とステアリン酸マグネシウムとを混合して打錠することにより,非晶質体コハク酸ソリフェナシン含有の素錠を得た。
【0050】
(2)錠剤の安定性試験
(a)N-オキシド体の生成による評価
上記の錠剤をポリエチレン瓶に入れ,各種の条件で保存した後,N-オキシド体の生成量を測定した。保存条件及び測定結果を併せて,表5に示す。
【0051】
【表5】
【0052】
表5からは,全体として,安息香酸ナトリウムの配合量が多い程,N-オキシド体の量が少ないという傾向が見られる。
【0053】
(b)結晶化の有無に基づく評価
他方,錠剤3~5について,コハク酸ソリフェナシンの結晶化が起こるか否かの点からの安定性を検討した。即ち,結晶体原薬及び製造直後の錠剤3~5のそれぞれにつき,粉末X線回折により結晶化の有無を調べ,またそれらの錠剤をポリエチレン瓶に入れて40℃75%RH(密閉)で3か月及び40℃75%RH(開放)で3か月の条件で保存したものについて同様に結晶化の有無を調べた。その結果,製造直後の各錠剤,保存後の各錠剤の何れにも結晶化は認められず,コハク酸ソリフェナシンの実質的に全量が非晶質体の状態にあることが確認された。結晶体原薬,製造直後並びに40℃75%RH(密閉及び開放)で3か月保存後の錠剤4の粉末X線回折チャートを,例として図1に並べて示す。
【0054】
4.錠剤中のコハク酸ソリフェナシンの分解抑制手段の検討
結晶化が保存中でも防止できることが上記で確認された安息香酸ナトリウム配合非晶質体コハク酸ソリフェナシン含有錠について,更に,N-オキシド体の生成抑制手段の検討を行った。即ち,前述の安定化剤の探索の部においてN-オキシド体の生成を強力に抑制することが見出されている親油性抗酸化剤としてジブチルヒドロキシトルエンを,安息香酸ナトリウム含む上記非晶質体コハク酸ソリフェナシン含有錠に追加の安定化剤として配合することによる安定化効果を,以下の通りに検討した。
【0055】
(1)安息香酸ナトリウム及びジブチルヒドロキシトルエンを含有する非晶質体コハク酸ソリフェナシン錠の製造
表6に示す組成に従って,下記の手順で錠剤6(対照)及びジブチルヒドロキシトルエンを含有する錠剤7を製造した。
【0056】
【表6】
【0057】
流動層造粒装置にD-マンニトールを投入し,その流動層に,50%エタノール水溶液中にコハク酸ソリフェナシン,ヒドロキシプロピルメチルセルロース及び安息香酸ナトリウムを含む溶液を噴霧して造粒し,乾燥させ,更にこれにジブチルヒドロキシトルエンを含むエタノール溶液を噴霧して,乾燥,整粒して顆粒を得た。この顆粒とステアリン酸マグネシウムを混合して打末とし,これを打錠して錠剤7を素錠として得た。また,同様の手順で,但しジブチルヒドロキシトルエン添加工程を含めずに,錠剤6を対照として得た。
【0058】
(2)安定性の検討
製造直後の錠剤6及び7につき,N-オキシド体の量を測定した。また,両錠剤をポリエチレン瓶に入れ,表7に示すように70℃で3,6及び9日間,70℃で1及び2週間,25℃75%RH(開放)で2週間,40℃75%RH(開放)で2週間,及び40℃75%(密閉)で2週間,それぞれ保存した後,N-オキシド体の量を測定した。結果を表7に併せて示す。
【0059】
【表7】
【0060】
表7に見られるように,N-オキシド体の生成は,ジブチルヒドロキシトルエンの配合により著しく抑制され,表3に示した結晶体コハク酸ソリフェナシンを主として含む錠剤1とほぼ同等の安定性を達成できることが判明した。また,錠剤7についてXRD法による測定の結果,コハク酸ソリフェナシンの結晶化が見られず,非晶質体の状態に維持されていることが確認された。前述の「安定化剤の検索」の部において,ジブチルヒドロキシトルエンの配合はコハク酸ソリフェナシンの結晶化を促進し得ることが確認されているが,錠剤7においてコハク酸ソリフェナシンの結晶化が認められないのは,同時に配合されている安息香酸ナトリウムの強い結晶化防止効果によると考えられ,その結果N-オキシド体の生成抑制という化学的安定化の作用のみが現れたものと推測される。
【0061】
5.ジブチルヒドロキシトルエンの配合量の検討。
ジブチルヒドロキシトルエンの配合によりコハク酸ソリフェナシンの分解が抑制されること,及びジブチルヒドロキシトルエンを配合しても,安息香酸ナトリウムによるコハク酸ソリフェナシンの物理的安定化効果(結晶化防止)が妨げられないことも判明したため,安息香酸ナトリウム及びジブチルヒドロキシトルエンを含む非晶質体コハク酸ソリフェナシン錠における,ジブチルヒドロキシトルエンの適した配合量につき,以下の通り検討した。
【0062】
(1)錠剤8~11の製造
次の表8に示す組成に従って,ジブチルヒドロキシトルエンを含有しない錠剤8及びこれを0.5,1及び2mg/150mg量(組成物全量に対し,0.3,0.67,及び1.33重量%)の量でそれぞれ含有する錠剤9,10,及び11を下記の通り製造した。
【0063】
【表8】
【0064】
コハク酸ソリフェナシン,ヒドロキシプロピルメチルセルロース,及び安息香酸ナトリウムの30%エタノール溶液(1液)と,ジブチルヒドロキシトルエンのエタノール溶液(2液)とを調製し,低置換度ヒドロキシプロピルセルロースに1液及び2液を(但し,錠剤8では1液のみを)加え,練合し,乾燥させた。この乾燥末を粉砕し,整粒して顆粒とした。この顆粒に乳糖水和物,低置換度ヒドロキシプロピルセルロース,ヒドロキシプロピルセルロース及びステアリン酸マグネシウムを加えて混合し,打錠して錠剤8~11を得た。
【0065】
(2)錠剤の安定性の検討
錠剤8~11につき,表9に示すように製造直後(初期値)及び各条件での保存後にN-オキシド体の量を測定した。結果を表9に併せて示す。
【0066】
【表9】
【0067】
表9に見られる通り,ジブチルヒドロキシトルエンを含まない錠剤8と比べて,これを配合(0.5~2mg/150mg)した錠剤9~11において,N-オキシド体の生成が何れも著しく抑制されていることが判明した。
【0068】
また,結晶原薬との対比において,錠剤8~11の製造直後(初期値)及び40℃75%RH(開放)保存後の粉末X線回折の結果を示す図2に見られるとおり,何れの錠剤においても,コハク酸ソリフェナシンの結晶化は認められず,非晶質体の状態が維持されていることも確認された。
【0069】
6.安息香酸ナトリウム配合非晶質体コハク酸ソリフェナシン含有OD錠の製造
転動流動層装置にD-マンニトール(ノンパレル-108)150gを投入し,これにコハク酸ソリフェナシン50g,ヒプロメロース(TC-5E)50g及び安息香酸ナトリウム50gを含むエタノール水溶液を噴霧してコーティングした。乾燥させ,更にこれにジブチルヒドロキシトルエン10gのエタノール溶液を噴霧し,乾燥させた。形成された顆粒に,続いてヒプロメロース24g及びタルク(タルカンハヤシ)6gを含むエタノール水溶液を噴霧してコーティングし,更にメタクリル酸コポリマーL(ポリキッドLA-100)40g,ヒプロメロース5g及びタルク15gを含むエタノール水溶液でコーティングを施して,薬物顆粒を製造した。
【0070】
薬物顆粒とは別に,速崩壊性顆粒を調製した。速崩壊性顆粒は,トレハロース500gを流動層造粒装置に投入し,トウモロコシデンプン100gの水分散液をスプレーして造粒することにより調製した。
【0071】
上記の薬物顆粒40g及び速崩壊性顆粒97gと,エチルセルロース10.5g,アスパルテーム1.5g及びステアリン酸マグネシウム1gを混合して打錠末とした。打錠末をロータリー式打錠機を用いて打錠し,非晶質コハク酸ソリフェナシン5mgを含有する素錠を得た。
【0072】
このOD錠につき,上記と同様に安定性試験を行った。その結果,コハク酸ソリフェナシンの結晶化は認められず,非晶質体の状態が維持されており,また,N-オキシド体の生成も著しく抑制されているのが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明は,十分な安定性を有する非晶質体コハク酸ソリフェナシン含有固形医薬組成物の提供を可能にするものとして有用である。
図1
図2