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特許7102228コンクリート矢板部材、土留め壁および土留め壁の構築方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-08
(45)【発行日】2022-07-19
(54)【発明の名称】コンクリート矢板部材、土留め壁および土留め壁の構築方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 5/10 20060101AFI20220711BHJP
   E02D 5/20 20060101ALI20220711BHJP
【FI】
E02D5/10
E02D5/20 101
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2018097604
(22)【出願日】2018-05-22
(65)【公開番号】P2018197490
(43)【公開日】2018-12-13
【審査請求日】2021-02-22
(31)【優先権主張番号】P 2017101282
(32)【優先日】2017-05-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000230010
【氏名又は名称】ジオスター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101557
【弁理士】
【氏名又は名称】萩原 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100096389
【弁理士】
【氏名又は名称】金本 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100167634
【弁理士】
【氏名又は名称】扇田 尚紀
(74)【代理人】
【識別番号】100187849
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 隆史
(72)【発明者】
【氏名】池田 真
(72)【発明者】
【氏名】木村 哲夫
(72)【発明者】
【氏名】駄原 剛弘
【審査官】高橋 雅明
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-007465(JP,A)
【文献】特開平06-081338(JP,A)
【文献】特開平03-286012(JP,A)
【文献】特開2017-227046(JP,A)
【文献】特表2013-514472(JP,A)
【文献】特開2003-105749(JP,A)
【文献】特開昭62-248713(JP,A)
【文献】実開昭60-151939(JP,U)
【文献】特開昭62-185916(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 5/10
E02D 5/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウェブの両端部にフランジを有する鋼材からなる複数の親杭を備えた土留め壁の、隣り合う前記親杭間に設置されるコンクリート矢板部材であって、
隣り合う前記親杭間に設置される際に前記親杭のフランジの内側に位置するように、該コンクリート矢板部材の幅方向両端部において幅方向に延びた第1の突出部と、
隣り合う前記親杭間に設置される際に地盤に埋め込まれていない露出した前記親杭の前面側フランジの面幅全体を覆うように、該コンクリート矢板部材の幅方向両端部のうち少なくとも一方の端部において幅方向に延びた第2の突出部とを有し、
前記第2の突出部の突出長は、前記親杭の前面側フランジの前側面幅より長い、コンクリート矢板部材。
【請求項2】
前記コンクリート矢板部材の幅方向両端部に形成された前記第1の突出部の少なくとも一方は、鋼材で構成されている、請求項1に記載のコンクリート矢板部材。
【請求項3】
前記親杭と前記コンクリート矢板部材との間に該親杭の幅方向の施工誤差を吸収するための隙間が設けられるような形状を有する、請求項1または2に記載のコンクリート矢板部材。
【請求項4】
ウェブの両端部にフランジを有する鋼材からなる親杭と、請求項1~3のいずれか一項に記載のコンクリート矢板部材とを備えた土留め壁であって、
前記親杭は、フランジ面が土留め壁の幅方向に平行となる向きで、間隔をおいて複数設置され、
前記コンクリート矢板部材は、前記第1の突出部と前記第2の突出部との間に前記親杭の前面側のフランジが位置するように隣り合う前記親杭間に設置されている、土留め壁。
【請求項5】
隣り合う前記コンクリート矢板部材同士が締結具で連結されている、請求項4に記載の土留め壁。
【請求項6】
前記親杭の前記ウェブに、前記第1の突出部の背面側の面に接するガイド部材が設けられている、請求項4または5に記載の土留め壁。
【請求項7】
前記親杭の根入れ部の、前記コンクリート矢板部材の下端に、受働土圧を受けるための受圧部材が設けられている、請求項4~6いずれか一項に記載の土留め壁。
【請求項8】
前記親杭と前記コンクリート矢板部材との間に水膨張性シール材が設けられている、請求項4~7のいずれか一項に記載の土留め壁。
【請求項9】
前記親杭と前記コンクリート矢板部材との間にグラウト材が注入された袋体が設けられている、請求項4~7のいずれか一項に記載の土留め壁。
【請求項10】
ウェブの両端部にフランジを有する鋼材からなる親杭と、請求項1~3のいずれか一項に記載のコンクリート矢板部材とを備えた土留め壁の構築方法であって、
前記親杭を、フランジ面が土留め壁の幅方向に平行となる向きで、間隔をおいて複数設置し、
前記コンクリート矢板部材を、前記第1の突出部と前記第2の突出部との間に前記親杭の前面側のフランジが位置するように隣り合う前記親杭間に設置することで土留め壁を構築する、土留め壁の構築方法。
【請求項11】
井桁状の型枠を用いて、
前記幅方向における前記親杭の位置、および平面視で該幅方向に垂直な方向である垂直方向における前記親杭の位置を拘束しながら、該親杭を設置し、
前記コンクリート矢板部材の前記垂直方向における位置を拘束しながら、該コンクリート矢板部材を設置することで、前記土留め壁を構築する、請求項10に記載の土留め壁の構築方法。
【請求項12】
前記親杭の前記ウェブに、前記第1の突出部の背面側の面に接するガイド部材を設け、
前記ガイド部材が設けられた前記親杭を設置し、
前記親杭の前面側の前記フランジと前記ガイド部材との間に、前記第1の突出部を挿入するように前記コンクリート矢板部材を設置することで、前記土留め壁を構築する、請求項10又は11に記載の土留め壁の構築方法。
【請求項13】
隣り合う前記コンクリート矢板部材同士を締結具で連結する、請求項10~12のいずれか一項に記載の土留め壁の構築方法。
【請求項14】
前記親杭の根入れ部に受働土圧を受けるための受圧部材を取り付けて該親杭を地盤に埋め込み、前記コンクリート矢板部材を前記受圧部材の上端に接触するように設置することで土留め壁を構築する、請求項10~13のいずれか一項に記載の土留め壁の構築方法。
【請求項15】
前記親杭と前記コンクリート矢板部材との間に水膨張性シール材を設ける、請求項10~14のいずれか一項に記載の土留め壁の構築方法。
【請求項16】
前記親杭と前記コンクリート矢板部材との間に袋体を設け、該袋体の内部にグラウト材を注入する、請求項10~14のいずれか一項に記載の土留め壁の構築方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば水路や道路等の工事で必要となる土留め壁に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄筋コンクリート構造で土留め壁を構築する場合にはコンクリート矢板を用いることが多いが、従来笠のコンクリート矢板は構造的強度が不要となる根入れ部まで板状構造となっており、不経済となっていた。加えて、根入れ部のコンクリートボリュームが地盤へのコンクリート矢板の打ち込みを阻害していた。
【0003】
上記工法よりもコストおよび施工性に優れた工法として、特許文献1のような親杭横矢板工法がある。本工法は地盤に複数の親杭を間隔をおいて打ち込み、各親杭間に矢板を積み重ねていくことで土留め壁を構築する工法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-68203号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の親杭横矢板工法で構築された土留め壁は地盤に埋め込まれていない親杭の地上部分が露出した状態となる。このため、親杭として例えばH形鋼やI形鋼等のウェブの両端部にフランジを有する鋼材を用いた場合には、親杭が風雨等に曝されることになり、親杭に錆びが生じることになる。そして、親杭に錆びが生じた際には、その錆びが土留め壁の外観に現れるため、土留め壁としての外観品質が低下することになる。この場合、土留め壁が工事現場等で一時的に設置される仮設のものであれば、そのような親杭の錆びは大きな問題とはならないが、水路構築の際の土留め壁や道路脇の土留め壁等の常設の土留め壁である場合には景観が損なわれてしまう。また、親杭の錆びが進展すれば、親杭の耐久性にも悪影響を与えることになる。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、ウェブの両端部にフランジを有する鋼材を親杭として使用した土留め壁の外観品質を向上させると共に親杭の耐久性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する本発明は、ウェブの両端部にフランジを有する鋼材からなる複数の親杭を備えた土留め壁の、隣り合う前記親杭間に設置されるコンクリート矢板部材であって、隣り合う前記親杭間に設置される際に前記親杭のフランジの内側に位置するように、該コンクリート矢板部材の幅方向両端部において幅方向に延びた第1の突出部と、隣り合う前記親杭間に設置される際に地盤に埋め込まれていない露出した前記親杭の前面側フランジの面幅全体を覆うように、該コンクリート矢板部材の幅方向両端部のうち少なくとも一方の端部において幅方向に延びた第2の突出部とを有し、前記第2の突出部の突出長は、前記親杭の前面側フランジの前側面幅より長いことを特徴としている。
【0008】
別の観点による本発明は、ウェブの両端部にフランジを有する鋼材からなる親杭と、上記のコンクリート矢板部材とを備えた土留め壁であって、前記親杭は、フランジ面が土留め壁の幅方向に平行となる向きで、間隔をおいて複数設置され、前記コンクリート矢板部材は、前記第1の突出部と前記第2の突出部との間に前記親杭の前面側のフランジが位置するように隣り合う前記親杭間に設置されていることを特徴としている。
【0009】
また、別の観点による本発明は、ウェブの両端部にフランジを有する鋼材からなる親杭と、上記のコンクリート矢板部材とを備えた土留め壁の構築方法であって、前記親杭を、フランジ面が土留め壁の幅方向に平行となる向きで、間隔をおいて複数設置し、前記コンクリート矢板部材を、前記第1の突出部と前記第2の突出部との間に前記親杭の前面側のフランジが位置するように隣り合う前記親杭間に設置することで土留め壁を構築することを特徴としている。
【0010】
本発明に係る土留め壁は、地盤に埋め込まれていない親杭の露出部の全体をコンクリート矢板部材で覆うことにより、土留め壁の外観に親杭の錆びが露見せず、また、親杭が風雨等に曝されにくくなり、親杭の錆びの進展を抑えることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ウェブの両端部にフランジを有する鋼材を親杭として使用した土留め壁の外観品質を向上させると共に親杭の耐久性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の第1の実施形態に係る土留め壁の概略構成を示す正面図である。
図2】本発明の第1の実施形態に係る土留め壁の概略構成を示す側面図である。
図3図1中のA-A断面図である。
図4】土留め壁の構築方法を説明するための図である。
図5】土留め壁の構築方法を説明するための図である。
図6】土留め壁の構築方法を説明するための図である。
図7】本発明の第2の実施形態に係る土留め壁の概略構成を示す図であり、図1中のA-A断面に相当する図である。なお、本図ではコンクリート矢板を連結する締結具の説明の便宜上、断面を示すハッチングを省略している。
図8】本発明の第2の実施形態の変形例を示す図であり、コンクリート矢板の平面図である。
図9】本発明の第3の実施形態に係る土留め壁の概略構成を示す平面図である。
図10】本発明の第4の実施形態に係る土留め壁の概略構成を示す正面図である。
図11】本発明の第4の実施形態に係る土留め壁の概略構成を示す側面図である。
図12】本発明の第5の実施形態に係る土留め壁の概略構成を示す正面図である。
図13】本発明の第5の実施形態に係る土留め壁の概略構成を示す側面図である。
図14】コンクリート矢板の第1の突出部の形状例を示す図である。
図15】コンクリート矢板の第1の突出部の形状例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する要素においては、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0014】
<第1の実施形態>
図1図3に示すように第1の実施形態の土留め壁1は、ウェブ2aと、ウェブ2aの両端部に形成されたフランジ2bとを有する鋼材(例えばH形鋼やI形鋼)である複数の親杭2と、隣り合う親杭2間に設置されたコンクリート矢板3で構成されている。なお、以降の説明においては図2に示す土留め壁1の左側を前面側、図2に示す土留め壁1の右側を背面側と称す。また、親杭2やコンクリート矢板3の説明においても同様に図2の左側を前面側、図2の右側を背面側と称す。“前面側”とは、土留め壁1の外観として視認される側であり、“背面側”とは、地盤に覆われて土留め壁1の外観として視認されない側である。
【0015】
親杭2はフランジ面が土留め壁1の幅方向Wに平行となる向きで一部が地盤に埋め込まれている。親杭2の残部は地上に突出した状態にあり、複数の親杭2はそのような状態で間隔をおいて配置されている。コンクリート矢板3は地上部分の親杭2よりも高さが高くなっており、コンクリート矢板3はそれらの親杭2間に1枚ずつ嵌め込まれることで設置されている。従前の親杭横矢板工法のように隣り合う親杭間に柵板を積み重ねた土留め壁では、高さ方向の柵板間の隙間から土砂の吸出しが生じたり、柵板が外れやすくなるといったことが懸念されるが、第1の実施形態のように1枚構造であるコンクリート矢板3が隣り合う親杭2間に設置されることにより、親杭2間では高さ方向の隙間がなくなり、土留め壁1の背面側の土砂の吸出しを抑制することができる。これにより土留め壁1の外観品質をさらに向上させることができる。また、隣り合う親杭2間に設置されるコンクリート矢板3は、親杭2間に柵板が設置される場合に比べて外れにくくなるため、土留め壁1としての耐久性が向上する。なお、図2に示す例では地上部分の親杭2の高さはコンクリート矢板3の高さよりも低くなっているが、親杭2の高さはコンクリート矢板3の高さと同一であっても良い。
【0016】
図3に示すようにコンクリート矢板3の幅方向Wの両端部には、親杭2の前面側のフランジ2bの内側に位置する幅方向Wに延びた第1の突出部3aが形成されている。また、コンクリート矢板3の幅方向Wの両端部のうちの一方の端部には、親杭2の前面側のフランジ2bの外側全体を覆うように幅方向Wに延びた第2の突出部3bが形成されている。コンクリート矢板3の一方の幅方向端部においては第1の突出部3aと第2の突出部3bが形成されていることにより、それらの突出部3a、3bの間に溝が存在している。
【0017】
コンクリート矢板3は、第1の突出部3aが従前の親杭横矢板工法のように親杭2のフランジ2bの内側に引っ掛かるような状態で嵌め込まれることで取り付けられる。このように取り付けられることにより、コンクリート矢板3が土留め壁1の前方に倒れないようになっている。コンクリート矢板3の第2の突出部3bは、幅方向長さが親杭2のフランジ2bの幅方向長さよりも長くなっており、これにより土留め壁1の前面側の親杭2のフランジ2b全体が覆われている。土留め壁1の親杭2の根入れ部(図2の前面側地表面GL1より下の部分)は、土留め壁1の前面側の地盤と背面側の地盤で覆われているが、親杭2の地上部分は背面側の地盤のみで覆われている。すなわち、図3に示すコンクリート矢板3の第2の突出部3bが存在しない場合、親杭2の地上部分の前面側のフランジ2bは露出した状態となる。一方、第1の実施形態の土留め壁1は、図3に示すコンクリート矢板3の第2の突出部3bがその親杭2のフランジ2bを覆うような形状を有しているため、土留め壁1が構築された際には土留め壁1の外部からは親杭2が視認できなくなる。
【0018】
また、図3に示すように第1の実施形態では、親杭2と、コンクリート矢板3の幅方向両端部の第1の突出部3aのうちの一方の第1の突出部3aとの間に、親杭2の幅方向Wの施工誤差を吸収するための隙間4が形成されている。例えば親杭2が等間隔で設置されるよう設計されている場合でも、実際の施工時には地盤の状態や施工者の習熟度等に応じ、設計上の親杭2の間隔と実際に設置された親杭2の間隔には誤差が生じ得る。そのような誤差が生じた場合、親杭2とコンクリート矢板3との間に余分な隙間が設けられていないと、親杭2にコンクリート矢板3が当たり、各親杭2間にコンクリート矢板3をスムーズに設置できないおそれがある。このため、コンクリート矢板3は、親杭2とコンクリート矢板3との間に親杭2の幅方向Wの施工誤差を吸収するための隙間4が設けられるように形成されていることが好ましい。これにより実際の施工時に親杭2の幅方向Wの施工誤差が生じた場合であっても、隣り合う親杭2間にスムーズにコンクリート矢板3を設置することが可能となり、施工性が向上する。なお、第1の実施形態では親杭2と、コンクリート矢板3の一方の第1の突出部3aとの間に隙間4を設けることとしたが、他方側の第1の突出部3aと親杭2との間にさらに隙間4を設けても良い。すなわち、施工性を向上させるという観点では、親杭2やコンクリート矢板3の形状によらず、親杭2の幅方向Wの施工誤差を吸収するための隙間4が親杭2とコンクリート矢板3との間に設けられるようにコンクリート矢板3が形成されていれば良い。
【0019】
以上のような土留め壁1は例えば次のようにして構築される。
【0020】
まず、図4に示すように親杭2と、コンクリート矢板3を設置する領域に、直線状に延びる複数の部材を有する井桁状の型枠10を仮設する。型枠10を構成する各部材は、例えばH形鋼等の鋼材からなり、各型枠構成部材は、地盤に埋め込まれたり、互いに連結されたりすることで、互いの位置関係が固定されている。本実施形態においては、一部が地盤に埋め込まれると共に残部が地上に突出した4つのH形鋼11が、互いに固定された他の型枠構成部材の位置を拘束することで型枠10が構成されている。各型枠構成部材の連結方法は特に限定されないが、各種 狭締金具・締結金具を用いて連結される。
【0021】
本明細書においては、平面視において幅方向Wに垂直な方向を垂直方向Vと称すと共に、長手方向が幅方向Wに向いて固定された一対の型枠構成部材12a、12bを、親杭2やコンクリート矢板3の垂直方向における位置を拘束する垂直方向拘束治具12と称す。垂直方向拘束治具12を構成する一対の型枠構成部材12a、12bの間隔は、親杭2やコンクリート矢板3のサイズに応じて適宜変更されるものである。また、垂直方向拘束治具12に跨るように配置された、長手方向が垂直方向Vに向いて固定された一対の型枠構成部材13a、13bを、親杭2の幅方向Wの位置を拘束する幅方向拘束治具13と称す。幅方向拘束治具13を構成する一対の型枠構成部材13a、13bの間隔は、親杭2のフランジ2b面の幅方向長さと同一の長さとなっている。図4に示す例では、3つの幅方向拘束治具13が間隔をおいて設けられているが、幅方向拘束治具13の数は1つの型枠10内に設置する親杭2の設置数に応じて適宜変更される。
【0022】
図4に示す型枠10を組んだ後、図5に示すように垂直方向拘束治具12と幅方向拘束治具13で囲まれた領域内に親杭2を設置する。ここでは、フランジ2b面が幅方向Wに平行となる状態で親杭2の一部を地盤に埋め込み、残部については地上に突出した状態とする。また、本実施形態においては、幅方向拘束治具13を構成する一対の型枠構成部材13a、13bの間隔が親杭2のフランジ2b面の幅方向長さと同一の長さとなっているために、親杭2を地盤に埋め込む際に親杭2の幅方向Wの位置を拘束することができる。これにより、親杭2の幅方向Wにおける位置精度を向上させることができる。
【0023】
また、本実施形態では、垂直方向拘束治具12と幅方向拘束治具13に囲まれる領域内において、コンクリート矢板3の第2の突出部3bの厚さと同一の厚さを有するスペーサー14が設けられ、垂直方向拘束治具12の一対の型枠構成部材12a、12bのうちの前面側の型枠構成部材12bに接するようにスペーサー14を配置している。これにより、垂直方向拘束治具12の背面側の型枠構成部材12aとスペーサー14の間の距離が親杭2の一対のフランジ2b間の距離と同一の長さとなっており、親杭2を地盤に埋め込む際に、親杭2の垂直方向Vにおける位置を拘束することができる。なお、スペーサー14が設けられていなくても、垂直方向拘束治具12の背面側の型枠構成部材12aに親杭2を当てながら地盤に埋め込むことで、親杭2の垂直方向Vにおける位置精度を向上させることは可能である。ただし、親杭2の垂直方向Vにおける位置精度をさらに向上させるためには、本実施形態のようなスペーサー14を設けることが好ましい。また、親杭2を設置する段階と、コンクリート矢板3を設置する段階で型枠10を適宜組み直して垂直方向拘束治具12の一対の型枠構成部材12a、12bの間隔を変更してもよいが、スペーサー14を設けることで、型枠10の組み直し作業を省略することが可能となる。
【0024】
親杭2の設置後、図6に示すように幅方向拘束治具13を解体し、クレーンで吊り上げたコンクリート矢板3を隣り合う親杭2間に1枚ずつ設置していく。このとき、コンクリート矢板3の第1の突出部3aが親杭2の前面側のフランジ2bの内側に位置するように、また、コンクリート矢板3の第2の突出部3bが親杭2の前面側のフランジ2bの外側に位置するように、コンクリート矢板3の向きを調整してコンクリート矢板3を下降させる。本実施形態においては、既に設置された親杭2と、垂直方向拘束治具12を構成する前面側の型枠構成部材12bとの間の隙間に、第2の突出部3bが位置するようにコンクリート矢板3を下降させることで、コンクリート矢板3の垂直方向Vにおける位置を拘束しながらコンクリート矢板3を設置することができる。なお、コンクリート矢板3の垂直方向Vにおける位置精度を向上させるためには、後述の図9に示すように、親杭2にガイド部材20が設けられていることが好ましい。
【0025】
型枠10内にコンクリート矢板3を設置した後、当該型枠10を解体する。その後、土留め壁1の幅方向Wに沿って、型枠10の設置、親杭2の設置、コンクリート矢板3の設置、型枠10の解体を繰り返し行い、土留め壁1を構築する。なお、図4図6に示す例では、型枠10内に2枚のコンクリート矢板3が設置されているが、型枠10内に設置されるコンクリート矢板3の枚数は特に限定されず、例えば8~10枚であってもよい。また、土留め壁1の構築方法は上記の方法に限定されない。例えば型枠10の構成は本実施形態で説明したものに限定されず、親杭2の幅方向Wおよび垂直方向Vの位置を拘束すると共に、コンクリート矢板3の垂直方向Vの位置を拘束することが可能な構成であればよい。そのような型枠10を用いることで、親杭2およびコンクリート矢板3の位置精度を向上させることができるが、型枠10を設けなくても土留め壁1を構築することは可能である。また、親杭2およびコンクリート矢板3を埋め込む際の具体的な手段についても特に限定されない。例えば、親杭2およびコンクリート矢板3を地盤に打ち込んでもよいし、あらかじめ地盤を掘削しておき、親杭2およびコンクリート矢板3を所定位置に配置した後に、周囲の地盤を埋め戻すようにしてもよい。
【0026】
以上の第1の実施形態の土留め壁1によれば、地盤に埋め込まれていない地上部分の親杭2の露出部、すなわち親杭2の前面側のフランジ2bの外側がコンクリート矢板3の第2の突出部3bで覆われているため、親杭2に錆びが発生したとしても土留め壁1の外部からはその錆びを視認することができなくなる。このため、土留め壁1の施工後、長時間経過しても土留め壁1の外観を保つことができ、従前の親杭横矢板工法の土留め壁1よりも外観品質を向上させることができる。また、第1の実施形態の土留め壁1によれば、従前の土留め壁1に対して親杭2が風雨等に曝されにくくなるため、親杭2を錆びにくくすることができる。
【0027】
<第2の実施形態>
図7に示す第2の実施形態の土留め壁1は、第1の実施形態の土留め壁1の隣り合うコンクリート矢板3を締結具5(例えばボルト、ナット)で連結したものである。これにより地震等が発生した場合でも土留め壁1としての機能が維持されやすくなる。図7に示す例では締結具5としてボルト、ナットを用いており、隣り合うコンクリート矢板3の第1の突出部3aに幅方向Wにボルトを通すことで、隣り合うコンクリート矢板3を連結している。図7に示す例ではコンクリート矢板3の幅方向両端部は幅方向中央部よりも厚みがあり、幅方向両端部に形成された第1の突出部3aに幅方向Wからのボルトを通しやすくなっている。
【0028】
なお、締結具5は特に限定されず、締結具5を用いて各コンクリート矢板3をどのように連結するかについても特に限定されないが、コンクリート矢板3の前面側に貫通孔が形成されないような方法で連結することが好ましい。例えば図7のように締結具5としてボルトを用いる場合、平面視において幅方向Wに垂直な方向にボルトを通すようにすると、コンクリート矢板3の前面側から背面側に向けて貫通する孔(不図示)を形成する必要がある。その場合、土留め壁1が風雨に曝された場合や、水路として土留め壁1を使用した場合に、コンクリート矢板3の貫通孔から水が入り込み、親杭2が錆びやすくなるおそれがある。したがって、締結具5としてボルトを用いる場合には、幅方向Wにボルトを通すようにしてコンクリート矢板3を連結することが好ましい。また、図7に示す例では親杭2のウェブ2aを貫通させるようにボルトを通しているが、親杭2の上端よりも高い位置にあるコンクリート矢板3の頭部にボルトを通すことで隣り合うコンクリート矢板3を連結しても良い。
【0029】
また、例えば図8のようにコンクリート矢板3の第2の突出部3bを通るようにボルトを通して隣り合うコンクリート矢板3を連結しても良い。図8に示す例ではコンクリート矢板3の第2の突出部3bの幅方向端面に、幅方向Wに深さを有する孔(不図示)が形成されており、隣のコンクリート矢板3の第2の突出部3bの対向する部分の幅方向端面にも同様の孔(不図示)が形成されている。各孔は同じ高さに形成されている。また、各コンクリート矢板3の上面には、ボルトの締め付け作業のための作業孔6が形成されており、作業孔6は工具や施工者の手を挿し込むことが可能な大きさを有している。このようなコンクリート矢板3を連結する際には、まず設置するコンクリート矢板3の第2の突出部3bの孔にボルトを挿入し、その状態のコンクリート矢板3を隣り合う親杭2間に設置する。このとき、コンクリート矢板3の幅方向端面からボルトが突出しないようにしておく。その後、隣のコンクリート矢板3を設置する。そして、作業孔6を介して隣のコンクリート矢板3の孔にもボルトが通るようにしてナットを用いて締結する。これにより隣り合うコンクリート矢板3が連結される。
【0030】
<第3の実施形態>
図9に示す第3の実施形態の土留め壁1は、親杭2のウェブ2aに、コンクリート矢板3の第1の突出部3aの背面側の面に接するガイド部材20が設けられている。ガイド部材20は、親杭2のウェブ2aから幅方向Wに突出する形状を有しており、ガイド部材20の突出部と、親杭2の前面側のフランジ2bとの距離は、コンクリート矢板3の第1の突出部3aの厚さと同等の厚さとなっている。このため、コンクリート矢板3を設置する際には、第1の突出部3aが当該ガイド部材20と、親杭2の前面側のフランジ2bとの間に挿入されるような状態で地盤に埋め込まれていく。これにより、コンクリート矢板3を地盤に埋め込む際に、コンクリート矢板3の垂直方向Vにおける位置を拘束することができると共に、コンクリート矢板3の背面側への倒れ込みを抑えることが可能となる。
【0031】
なお、ガイド部材20は、例えば鋼材からなる。また、図9に示す例では、ガイド部材20としてL字の山形鋼(アングル)が用いられているが、ガイド部材20の形状は特に限定されない。また、ガイド部材20は、土留め壁1の施工現場において、例えば溶接により親杭2に固定されてもよいし、親杭2が施工現場に搬入される前にあらかじめ親杭2に固定されていてもよい。
【0032】
<第4の実施形態>
図10図11に示す第4の実施形態の土留め壁1は、親杭2の根入れ部に受働土圧を受けるための受圧板7が取り付けられている。受圧板7は親杭2よりも幅方向Wの長さが長くなっている。このような受圧板7が設けられていることで、土留め壁1がより頑強なものとなり、背面土圧が大きくなっても土留め壁1としての機能を維持することができる。また、受圧板7が各親杭2で同一の位置に取り付けられている場合、コンクリート矢板3を受圧板7の上端に接するように下降させることにより、コンクリート矢板3を設置する際の位置決めを容易に行うことが可能となる。なお、受圧板7は例えば溶接により親杭2に取り付けられるが、親杭2への取付方法は特に限定されない。また、受圧板7は板状部材に限定されず、受働土圧を受けるための面を有する部材であれば良い。
【0033】
<第5の実施形態>
図12および図13に示す第5の実施形態の土留め壁1は、コンクリート矢板3の上端部に笠コンクリートブロック30が設けられている。笠コンクリートブロック30の下端は親杭2の上端に載せられた状態となっている。設置された土留め壁1が地盤になじむまでは、親杭2とコンクリート矢板3が独立して変位する場合があることから、例えば笠コンクリートブロックにより親杭2とコンクリート矢板3の両者が連結されると、変位時に笠コンクリートブロックに荷重が発生し、ひび割れ等の原因になり得る。一方、第5の実施形態のように、コンクリート矢板3の上端の位置を親杭2の上端の位置よりも高くし、コンクリート矢板3の上端が覆われるように笠コンクリートブロック30が設けられることで、親杭2とコンクリート矢板3を連結しないようにすることができ、ひび割れ等の発生を抑えることが可能となる。
【0034】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到しうることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0035】
例えば親杭2とコンクリート矢板3との間に水膨張性シール材(不図示)を設けても良い。これにより土留め壁1の背面側の土砂の吸出しを抑制することができる。水膨張性シール材を設ける場合は、親杭2の前面側のフランジ2bとコンクリート矢板3の第2の突出部3bとの間に設けることが好ましい。また、施工時に親杭2とコンクリート矢板3との間に袋体(不図示)を設け、コンクリート矢板3の設置後に、その袋体にグラウト材を注入するようにしても良い。この場合も土留め壁1の背面側の土砂の吸出しを抑制することができる。袋体を設ける場合は、親杭2の前面側のフランジ2bとコンクリート矢板3の第2の突出部3bとの間に設けることが好ましい。さらに袋体を設ける場合には、施工時に袋体が破損しないように、鋼製あるいは樹脂製等の保護材で袋体を覆った状態で施工を行い、グラウト材を注入する段階で保護材を引き抜くようにしても良い。
【0036】
また、コンクリート矢板3の形状は上記第1~5の実施形態で説明したものに限定されない。例えば、上記第1~5の実施形態では、コンクリート矢板3の全体がコンクリートで形成されていたが、図14に示すようにコンクリート矢板3の第1の突出部3aはコンクリートでなく、鋼材等の他部材で構成されていてもよい。図14に示す例では、L字状の山形鋼(アングル)がボルト等でコンクリート矢板3の本体に固定されることで、第1の突出部3aが構成されている。また、例えば図15に示すように、平鋼がボルト等でコンクリート矢板3の本体に固定されることで、第1の突出部3aが構成されていてもよい。すなわち、第1の突出部3aが親杭2のフランジ2bの内側に位置するように構成されていれば、第1の突出部3aの構成は特に限定されない。また、図14および図15においては、コンクリート矢板3の幅方向両端部に形成された2つの第1の突出部3aのうち、一方の第1の突出部3aのみが鋼材で構成されているが、両方の第1の突出部3aが鋼材で構成されていてもよい。換言すると、コンクリート矢板3の幅方向両端部に形成された第1の突出部3aの少なくとも一方が鋼材で構成されていてもよい。
【0037】
また、上記第1~5の実施形態では、コンクリート矢板3の幅方向Wの片側のみに親杭2の露出部の全体を覆う第2の突出部3bを設けたが、例えば幅方向Wの両側に第2の突出部3bを設けても良い。ここで第2の突出部3bが幅方向Wの両側に形成されたコンクリート矢板を第1のコンクリート矢板と称した場合、第1のコンクリート矢板の隣に設置される第2のコンクリート矢板には親杭2のフランジ2bの内側に引っ掛かる第1の突出部3aのみ形成されていれば良い。そのようにすれば、隣り合う親杭2間に第1のコンクリート矢板と第2のコンクリート矢板を交互に設置していくことで土留め壁1を構築することができる。
【0038】
いずれの場合も、コンクリート矢板3が地盤に埋め込まれていない地上部分の親杭2の露出部の全体を覆う形状であれば、土留め壁1としての外観品質および耐久性を向上させることができる。なお、隣り合う親杭2間に設置するコンクリート矢板部材は板状部材に限定されない。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、水路や道路等の工事で必要となる土留め壁に適用することできる。
【符号の説明】
【0040】
1 土留め壁
2 親杭
2a ウェブ
2b フランジ
3 コンクリート矢板
3a 第1の突出部
3b 第2の突出部
4 隙間
5 締結具
6 作業孔
7 受圧板
10 型枠
11 H形鋼
12 垂直方向拘束治具
12a 型枠構成部材
12b 型枠構成部材
13 幅方向拘束治具
13a 型枠構成部材
13b 型枠構成部材
14 スペーサー
20 ガイド部材
30 笠コンクリートブロック
GL1 土留め壁の前面側地表面
GL2 土留め壁の背面側地表面
V 平面視で幅方向に垂直な方向
W 幅方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15