(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-08
(45)【発行日】2022-07-19
(54)【発明の名称】脱硫装置の触媒情報、触媒寿命または運転条件を提供するシステムおよび方法
(51)【国際特許分類】
C10G 45/02 20060101AFI20220711BHJP
【FI】
C10G45/02
(21)【出願番号】P 2018120919
(22)【出願日】2018-06-26
【審査請求日】2021-03-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000105567
【氏名又は名称】コスモ石油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】特許業務法人 信栄特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 伸昌
【審査官】齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-126684(JP,A)
【文献】特開2002-146363(JP,A)
【文献】国際公開第2018/117154(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10G 1/00-99/00
G06Q 50/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の脱硫装置の実績データに基づき作成され、個々の前記脱硫装置を識別可能な脱硫装置識別情報と、前記脱硫装置に設定した運転条件と、前記運転条件で運転した総運転日数とを含む複数の実績レコードを記録した実績データベースを用いて、ユーザの脱硫装置に適した触媒情報を提供するシステムであって、
前記運転条件は、触媒
の種類、水素分圧、水素オイル比、LHSV、原料油密度、硫黄濃度
の全てを少なくとも含んでおり、
前記システムは、プロセッサと、コンピュータ可読命令を記録した非一時的記録媒体とを有し、
前記コンピュータ可読命令が実行されると前記プロセッサは、
ネットワークを介してユーザの端末から前記触媒
の種類を除く前記運転条件のうちの少なくとも一つをユーザ運転条件として取得し、
前記実績データベースより、前記ユーザ運転条件に近似する前記運転条件を有する複数の前記実績レコードのうちで最も前記総運転日数の長い前記実績レコードの少なくとも前記触媒
の種類を前記ユーザの端末へ出力する、脱硫装置の触媒情報提供システム。
【請求項2】
複数の脱硫装置の実績データに基づき作成され、個々の前記脱硫装置を識別可能な脱硫装置識別情報と、前記脱硫装置に設定した運転条件と、前記運転条件で運転した総運転日数とを含む複数の実績レコードを記録した実績データベースを用いて、ユーザの脱硫装置の触媒寿命を提供するシステムであって、
前記運転条件は、触媒
の種類、水素分圧、水素オイル比、LHSV、原料油密度、硫黄濃度
の全てを少なくとも含んでおり、
前記システムは、プロセッサと、コンピュータ可読命令を記録した非一時的記録媒体とを有し、
前記コンピュータ可読命令が実行されると前記プロセッサは、
ネットワークを介してユーザの端末から前記運転条件のうち前記触媒
の種類を含む少なくとも二つをユーザ運転条件として取得し、
前記実績データベースより、前記ユーザ運転条件と一致する前記触媒
の種類を含み、前記ユーザ運転条件に最も近似する前記実績レコードの少なくとも前記総運転日数を前記ユーザの端末へ出力する、脱硫装置の触媒寿命提供システム。
【請求項3】
複数の脱硫装置の実績データに基づき作成され、個々の前記脱硫装置を識別可能な脱硫装置識別情報と、前記脱硫装置に設定した運転条件と、前記運転条件で運転した総運転日数とを含む複数の実績レコードを記録した実績データベースを用いて、ユーザの脱硫装置に適した運転条件を提供するシステムであって、
前記運転条件は、触媒
の種類、水素分圧、水素オイル比、LHSV、原料油密度、硫黄濃度
の全てを少なくとも含んでおり、
前記システムは、プロセッサと、コンピュータ可読命令を記録した非一時的記録媒体とを有し、
前記コンピュータ可読命令が実行されると前記プロセッサは、
ネットワークを介してユーザの端末から前記運転条件の少なくとも一つをユーザ運転条件として取得し、
前記実績データベースより、前記ユーザ運転条件として取得した前記触媒
の種類と一致する前記触媒
の種類を有する一つ以上の前記実績レコード、または、取得した前記ユーザ運転条件が前記触媒
の種類以外の場合には前記ユーザ運転条件に所定係数を乗じて算出される下限値と上限値で設定される抽出範囲に前記運転条件が属する一つ以上の前記実績レコードの少なくとも一つの項目を前記ユーザの端末へ出力する、脱硫装置の運転条件提供システム。
【請求項4】
前記運転条件は原料油種または原料油性状T90(蒸留90%留出温度)を含む、請求項1または2に記載のシステム。
【請求項5】
前記実績レコードは開始温度と劣化速度を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項6】
前記ユーザの端末から、ユーザの識別情報、ユーザの脱硫装置の識別情報、経過日数毎の触媒
の種類、水素分圧、水素オイル比、LHSV、原料油密度、硫黄濃度を含む生データを取得し、
前記生データの前記運転条件の各々の項目について平均化処理を行って実績データを算出し、
前記ユーザの前記脱硫装置の前記識別情報と、算出した前記運転条件の各々の前記実績データと、前記経過日数から算出した総運転日数とを、新たな前記実績レコードとして前記実績データベースに追加する、請求項1から5のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項7】
複数の脱硫装置の実績データに基づき作成され、個々の前記脱硫装置を識別可能な脱硫装置識別情報と、前記脱硫装置に設定した運転条件と、前記運転条件で運転した総運転日数とを含む複数の実績レコードを記録した実績データベースと、コンピュータ可読命令を実行可能なプロセッサを用いて、ユーザの脱硫装置に適した触媒情報を提供する方法であって、
前記運転条件は、触媒
の種類、水素分圧、水素オイル比、LHSV、原料油密度、硫黄濃度
の全てを少なくとも含んでおり、
前記方法は、前記プロセッサに、
ネットワークを介してユーザの端末から前記触媒
の種類を除く前記運転条件のうちの少なくとも一つをユーザ運転条件として取得させ、
前記実績データベースより、前記ユーザ運転条件に近似する前記運転条件を有する複数の前記実績レコードのうちで最も前記総運転日数の長い前記実績レコードの少なくとも前記触媒
の種類を前記ユーザの端末へ出力させる、脱硫装置の触媒情報提供方法。
【請求項8】
複数の脱硫装置の実績データに基づき作成され、個々の前記脱硫装置を識別可能な脱硫装置識別情報と、前記脱硫装置に設定した運転条件と、前記運転条件で運転した総運転日数とを含む複数の実績レコードを記録した実績データベースと、コンピュータ可読命令を実行可能なプロセッサを用いて、ユーザの脱硫装置の触媒寿命を提供する方法であって、
前記運転条件は、触媒
の種類、水素分圧、水素オイル比、LHSV、原料油密度、硫黄濃度
の全てを少なくとも含んでおり、
前記方法は、前記プロセッサに、
ネットワークを介してユーザの端末から前記運転条件のうち前記触媒
の種類を含む少なくとも二つをユーザ運転条件として取得させ、
前記実績データベースより、前記ユーザ運転条件と一致する前記触媒
の種類を含み、前記ユーザ運転条件に最も近似する前記実績レコードの少なくとも前記総運転日数を前記ユーザの端末へ出力させる、脱硫装置の触媒寿命提供方法。
【請求項9】
複数の脱硫装置の実績データに基づき作成され、個々の前記脱硫装置を識別可能な脱硫装置識別情報と、前記脱硫装置に設定した運転条件と、前記運転条件で運転した総運転日数とを含む複数の実績レコードを記録した実績データベースと、コンピュータ可読命令を実行可能なプロセッサを用いて、ユーザの脱硫装置に適した運転条件を提供する方法であって、
前記運転条件は、触媒
の種類、水素分圧、水素オイル比、LHSV、原料油密度、硫黄濃度
の全てを少なくとも含んでおり、
前記方法は、前記プロセッサに、
ネットワークを介してユーザの端末から前記運転条件の少なくとも一つをユーザ運転条件として取得させ、
前記実績データベースより、前記ユーザ運転条件として取得した前記触媒
の種類と一致する前記触媒
の種類を有する一つ以上の前記実績レコード、または、取得した前記ユーザ運転条件が前記触媒
の種類以外の場合には前記ユーザ運転条件に所定係数を乗じて算出される下限値と上限値で設定される抽出範囲に前記運転条件が属する一つ以上の前記実績レコードの少なくとも一つの項目を前記ユーザの端末へ出力させる、脱硫装置の運転条件提供方法。
【請求項10】
複数の脱硫装置の実績データに基づき作成され、個々の前記脱硫装置を識別可能な脱硫装置識別情報と、前記脱硫装置に設定した運転条件と、運転開始温度、触媒の劣化速度を含む複数の実績レコードを記録した実績データベースを用いて、ユーザの脱硫装置の触媒特性を提供するシステムであって、
前記運転条件は、水素分圧、水素オイル比、LHSV、原料油密度、硫黄濃度
の全てを少なくとも含んでおり、
前記システムは、プロセッサと、コンピュータ可読命令を記録した非一時的記録媒体とを有し、
前記コンピュータ可読命令が実行されると前記プロセッサは、
ネットワークを介してユーザの端末から、ユーザ装置を示すユーザ装置識別情報と、ユーザが使用を予定しているユーザ触媒とを取得し、
前記実績データベースの中から、前記ユーザ装置ではない比較装置が比較触媒を用いて運転された
任意の一つの第一実績レコードを特定し、
前記第一実績レコードに標準化関数を適用して、前記比較装置が前記比較触媒を用いて標準運転条件で運転される時の第一標準化開始温度と第一標準化劣化速度とを算出し、
前記実績データベースの中から、前記ユーザ装置が前記比較触媒を用いて運転された
任意の一つの第二実績レコードを特定し、
前記第二実績レコードに前記標準化関数を適用して、前記ユーザ装置が前記比較触媒を用いて前記標準運転条件で運転される時の第二標準化開始温度と第二標準化劣化速度とを算出し、
前記第一標準化開始温度から前記第二標準化開始温度を減じて、開始温度に関する前記比較装置に対する前記ユーザ装置の開始温度機差を算出し、
前記第一標準化劣化速度を前記第二標準化劣化速度で除して、劣化速度に関する前記比較装置に対する前記ユーザ装置の劣化速度機差を算出し、
前記実績データベースの中から、前記比較装置が前記ユーザ触媒を用いて運転された
任意の一つの第三実績レコードを特定し、
前記第三実績レコードに前記標準化関数を適用して、前記比較装置が前記ユーザ触媒を用いて前記標準運転条件で運転される時の第三標準化開始温度と第三標準化劣化速度とを算出し、
前記第三標準化開始温度に前記開始温度機差を加えて、前記ユーザ装置が前記ユーザ触媒を用いて前記標準運転条件で運転される時のユーザ開始温度を算出し、
前記第三標準化劣化速度に前記劣化速度機差を乗じて、前記ユーザ装置が前記ユーザ触媒を用いて前記標準運転条件で運転される時のユーザ劣化速度を算出する、脱硫装置の触媒特性の提供システム。
【請求項11】
前記ユーザの端末から、ユーザが運転を予定しているユーザ予定運転条件を取得させ、
前記標準運転条件に前記標準化関数を逆に適用して、前記ユーザ装置が前記ユーザ触媒を用いて前記ユーザ運転条件で運転された時の第二ユーザ開始温度と第二ユーザ劣化速度とを算出する、請求項10に記載の脱硫装置の触媒特性の提供システム。
【請求項12】
複数の脱硫装置の実績データに基づき作成され、個々の前記脱硫装置を識別可能な脱硫装置識別情報と、前記脱硫装置に設定した運転条件と、運転開始温度、触媒の劣化速度を含む複数の実績レコードを記録した実績データベースと、
コンピュータ可読命令を実行可能なプロセッサを用いて、ユーザの脱硫装置の触媒特性を提供する方法であって、
前記運転条件は、水素分圧、水素オイル比、LHSV、原料油密度、硫黄濃度
の全てを少なくとも含んでおり、
前記方法は、前記プロセッサに、
ネットワークを介してユーザの端末から、ユーザ装置を示すユーザ装置識別情報と、ユーザが使用を予定しているユーザ触媒とを取得させ、
前記実績データベースの中から、前記ユーザ装置ではない比較装置が比較触媒を用いて運転された
任意の一つの第一実績レコードを特定させ、
前記第一実績レコードに標準化関数を適用して、前記比較装置が前記比較触媒を用いて標準運転条件で運転される時の第一標準化開始温度と第一標準化劣化速度とを算出させ、
前記実績データベースの中から、前記ユーザ装置が前記比較触媒を用いて運転された
任意の一つの第二実績レコードを特定させ、
前記第二実績レコードに前記標準化関数を適用して、前記ユーザ装置が前記比較触媒を用いて前記標準運転条件で運転される時の第二標準化開始温度と第二標準化劣化速度とを算出させ、
前記第一標準化開始温度から前記第二標準化開始温度を減じて、開始温度に関する前記比較装置に対する前記ユーザ装置の開始温度機差を算出させ、
前記第一標準化劣化速度を前記第二標準化劣化速度で除して、劣化速度に関する前記比較装置に対する前記ユーザ装置の劣化速度機差を算出させ、
前記実績データベースの中から、前記比較装置が前記ユーザ触媒を用いて運転された
任意の一つの第三実績レコードを特定させ、
前記第三実績レコードに前記標準化関数を適用して、前記比較装置が前記ユーザ触媒を用いて前記標準運転条件で運転される時の第三標準化開始温度と第三標準化劣化速度とを算出させ、
前記第三標準化開始温度に前記開始温度機差を加えて、前記ユーザ装置が前記ユーザ触媒を用いて前記標準運転条件で運転される時のユーザ開始温度を算出させ、
前記第三標準化劣化速度に前記劣化速度機差を乗じて、前記ユーザ装置が前記ユーザ触媒を用いて前記標準運転条件で運転される時のユーザ劣化速度を算出させる、脱硫装置の触媒特性の提供方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脱硫装置の触媒情報、触媒寿命または運転条件を提供するシステムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、石油精製の過程において、原料に含まれている硫黄分を除去する脱硫と呼ばれる作業が行われている。
製油所などで行われる脱硫として、例えば、高温・高圧下で石油留分を水素と一緒に触媒と接触させることにより硫黄分などの不純物を除去する水素化脱硫プロセスが一般的に知られている。
【0003】
このような脱硫プロセスで用いられる触媒は、使用により劣化する。触媒が劣化すると、例えば、要求温度や水素消費量などといった脱硫装置の運転条件が変化してしまう。
また、一旦投入した触媒の有効活用の手段として特許文献1などに、触媒の経時劣化を事前にシミュレーションすることにより、脱硫装置の最適な運転条件を得ることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
触媒を変更することにより、運転期間を長くしたり処理量を増大させたりすることができる。あるいは同じ触媒を使用していても運転条件を変更することにより、運転期間を長くしたり処理量を増大させたりすることができる。これにより収益性の高い脱硫プロセスを達成することができる。
そこで触媒や運転条件を適宜変更することが考えられるが、触媒や運転条件の変更に伴うリスクが大き過ぎたり、あるいは単に予測が難しかったりすることから、触媒の変更や大幅な運転条件の変更は実行しにくい。
このため所定期間の触媒使用を想定した触媒選定は重要であるが、想定する機能が発現しない可能性もあるため、新たな触媒を使用することの障壁が高い。例えば、従来使用していた触媒と同じ触媒を使用することが第1の選択肢として考えられ、次いで当該触媒の触媒メーカーから提供される当該触媒とは異なる触媒へ変更することが第2の選択として考えられ、あるいは、触媒価格を重視して他の触媒メーカーから提供される触媒へ変更する第3の選択が考えられる。特に、第3の選択肢の採用には、予測とは異なり、従来使用していた触媒よりも収益が下がってしまうこともありうるため、大きな障壁があった。
そのため、新たな触媒を選定する場合、特に、第3の選択肢を採用する場合において、選択する候補触媒の実績を幅広く入手したいという要望があるが、触媒メーカーの異なる触媒間の比較はできず、ましてや類似の装置を有する競合他社の使用触媒や運転情報を知ることはできないため、最適と認識できる触媒選定ができない課題があった。
なお、特許文献1のようなシミュレーションは知られているが、これは、日々の運転管理を外部からサポートするにあたり、その時点での運転を継続した場合の将来予測をするためのものであり、触媒選定時に、将来の運転の予測をすることは難しかった。
そこで本発明は、脱硫装置の実績値を他のユーザに提供するシステムおよび方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面によれば、
複数の脱硫装置の実績データに基づき作成され、個々の前記脱硫装置を識別可能な脱硫装置識別情報と、前記脱硫装置に設定した運転条件と、前記運転条件で運転した総運転日数とを含む複数の実績レコードを記録した実績データベースを用いて、ユーザの脱硫装置に適した触媒情報を提供するシステムであって、
前記運転条件は、触媒、水素分圧、水素オイル比、LHSV、原料油密度、硫黄濃度、を少なくとも含んでおり、
前記システムは、プロセッサと、コンピュータ可読命令を記録した非一時的記録媒体とを有し、
前記コンピュータ可読命令が実行されると前記プロセッサは、
ネットワークを介してユーザの端末から前記触媒を除く前記運転条件のうちの少なくとも一つをユーザ運転条件として取得し、
前記実績データベースより、前記ユーザ運転条件に近似する前記運転条件を有する複数の前記実績レコードのうちで最も前記総運転日数の長い前記実績レコードの少なくとも前記触媒を前記ユーザの端末へ出力する、脱硫装置の触媒情報提供システムが提供される。
【0007】
本発明の一側面によれば、
複数の脱硫装置の実績データに基づき作成され、個々の前記脱硫装置を識別可能な脱硫装置識別情報と、前記脱硫装置に設定した運転条件と、前記運転条件で運転した総運転日数とを含む複数の実績レコードを記録した実績データベースを用いて、ユーザの脱硫装置の触媒寿命を提供するシステムであって、
前記運転条件は、触媒、水素分圧、水素オイル比、LHSV、原料油密度、硫黄濃度を少なくとも含んでおり、
前記システムは、プロセッサと、コンピュータ可読命令を記録した非一時的記録媒体とを有し、
前記コンピュータ可読命令が実行されると前記プロセッサは、
ネットワークを介してユーザの端末から前記運転条件のうち前記触媒を含む少なくとも二つをユーザ運転条件として取得し、
前記実績データベースより、前記ユーザ運転条件と一致する前記触媒を含み、前記ユーザ運転条件に最も近似する前記実績レコードの少なくとも前記総運転日数を前記ユーザの端末へ出力する、脱硫装置の触媒寿命提供システム。
【0008】
本発明の一側面によれば、
複数の脱硫装置の実績データに基づき作成され、個々の前記脱硫装置を識別可能な脱硫装置識別情報と、前記脱硫装置に設定した運転条件と、前記運転条件で運転した総運転日数とを含む複数の実績レコードを記録した実績データベースを用いて、ユーザの脱硫装置に適した運転条件を提供するシステムであって、
前記運転条件は、触媒、水素分圧、水素オイル比、LHSV、原料油密度、硫黄濃度を少なくとも含んでおり、
前記システムは、プロセッサと、コンピュータ可読命令を記録した非一時的記録媒体とを有し、
前記コンピュータ可読命令が実行されると前記プロセッサは、
ネットワークを介してユーザの端末から前記運転条件の少なくとも一つをユーザ運転条件として取得し、
前記実績データベースより、前記ユーザ運転条件として取得した前記触媒と一致する前記触媒を有する一つ以上の前記実績レコード、または、取得した前記ユーザ運転条件が前記触媒以外の場合には前記ユーザ運転条件に所定係数を乗じて算出される下限値と上限値で設定される抽出範囲に前記運転条件が属する一つ以上の前記実績レコードの少なくとも一つの項目を前記ユーザの端末へ出力する、脱硫装置の運転条件提供システムが提供される。
【0009】
本発明の一側面によれば、
複数の脱硫装置の実績データに基づき作成され、個々の前記脱硫装置を識別可能な脱硫装置識別情報と、前記脱硫装置に設定した運転条件と、前記運転条件で運転した総運転日数とを含む複数の実績レコードを記録した実績データベースと、コンピュータ可読命令を実行可能なプロセッサを用いて、ユーザの脱硫装置に適した触媒情報を提供する方法であって、
前記運転条件は、触媒、水素分圧、水素オイル比、LHSV、原料油密度、硫黄濃度を少なくとも含んでおり、
前記方法は、前記プロセッサに、
ネットワークを介してユーザの端末から前記触媒を除く前記運転条件のうちの少なくとも一つをユーザ運転条件として取得させ、
前記実績データベースより、前記ユーザ運転条件に近似する前記運転条件を有する複数の前記実績レコードのうちで最も前記総運転日数の長い前記実績レコードの少なくとも前記触媒を前記ユーザの端末へ出力させる、脱硫装置の触媒情報提供方法が提供される。
【0010】
本発明の一側面によれば、
複数の脱硫装置の実績データに基づき作成され、個々の前記脱硫装置を識別可能な脱硫装置識別情報と、前記脱硫装置に設定した運転条件と、前記運転条件で運転した総運転日数とを含む複数の実績レコードを記録した実績データベースと、コンピュータ可読命令を実行可能なプロセッサを用いて、ユーザの脱硫装置の触媒寿命を提供する方法であって、
前記運転条件は、触媒、水素分圧、水素オイル比、LHSV、原料油密度、硫黄濃度を少なくとも含んでおり、
前記方法は、前記プロセッサに、
ネットワークを介してユーザの端末から前記運転条件のうち前記触媒を含む少なくとも二つをユーザ運転条件として取得させ、
前記実績データベースより、前記ユーザ運転条件と一致する前記触媒を含み、前記ユーザ運転条件に最も近似する前記実績レコードの少なくとも前記総運転日数を前記ユーザの端末へ出力させる、脱硫装置の触媒寿命提供方法が提供される。
【0011】
本発明の一側面によれば、
複数の脱硫装置の実績データに基づき作成され、個々の前記脱硫装置を識別可能な脱硫装置識別情報と、前記脱硫装置に設定した運転条件と、前記運転条件で運転した総運転日数とを含む複数の実績レコードを記録した実績データベースと、コンピュータ可読命令を実行可能なプロセッサを用いて、ユーザの脱硫装置に適した運転条件を提供する方法であって、
前記運転条件は、触媒、水素分圧、水素オイル比、LHSV、原料油密度、硫黄濃度を少なくとも含んでおり、
前記方法は、前記プロセッサに、
ネットワークを介してユーザの端末から前記運転条件の少なくとも一つをユーザ運転条件として取得させ、
前記実績データベースより、前記ユーザ運転条件として取得した前記触媒と一致する前記触媒を有する一つ以上の前記実績レコード、または、取得した前記ユーザ運転条件が前記触媒以外の場合には前記ユーザ運転条件に所定係数を乗じて算出される下限値と上限値で設定される抽出範囲に前記運転条件が属する一つ以上の前記実績レコードの少なくとも一つの項目を前記ユーザの端末へ出力させる、脱硫装置の運転条件提供方法が提供される。
【0012】
本発明の一側面によれば、
複数の脱硫装置の実績データに基づき作成され、個々の前記脱硫装置を識別可能な脱硫装置識別情報と、前記脱硫装置に設定した運転条件と、運転開始温度、触媒の劣化速度を含む複数の実績レコードを記録した実績データベースを用いて、ユーザの脱硫装置の触媒特性を提供するシステムであって、
前記運転条件は、水素分圧、水素オイル比、LHSV、原料油密度、硫黄濃度を少なくとも含んでおり、
前記システムは、プロセッサと、コンピュータ可読命令を記録した非一時的記録媒体とを有し、
前記コンピュータ可読命令が実行されると前記プロセッサは、
ネットワークを介してユーザの端末から、ユーザ装置を示すユーザ装置識別情報と、ユーザが使用を予定しているユーザ触媒とを取得し、
前記実績データベースの中から、前記ユーザ装置ではない比較装置が比較触媒を用いて運転された第一実績レコードを特定し、
前記第一実績レコードに標準化関数を適用して、前記比較装置が前記比較触媒を用いて標準運転条件で運転される時の第一標準化開始温度と第一標準化劣化速度とを算出し、
前記実績データベースの中から、前記ユーザ装置が前記比較触媒を用いて運転された第二実績レコードを特定し、
前記第二実績レコードに前記標準化関数を適用して、前記ユーザ装置が前記比較触媒を用いて前記標準運転条件で運転される時の第二標準化開始温度と第二標準化劣化速度とを算出し、
前記第一標準化開始温度から前記第二標準化開始温度を減じて、開始温度に関する前記比較装置に対する前記ユーザ装置の開始温度機差を算出し、
前記第一標準化劣化速度を前記第二標準化劣化速度で除して、劣化速度に関する前記比較装置に対する前記ユーザ装置の劣化速度機差を算出し、
前記実績データベースの中から、前記比較装置が前記ユーザ触媒を用いて運転された第三実績レコードを特定し、
前記第三実績レコードに前記標準化関数を適用して、前記比較装置が前記ユーザ触媒を用いて前記標準運転条件で運転される時の第三標準化開始温度と第三標準化劣化速度とを算出し、
前記第三標準化開始温度に前記開始温度機差を加えて、前記ユーザ装置が前記ユーザ触媒を用いて前記標準運転条件で運転される時のユーザ開始温度を算出し、
前記第三標準化劣化速度に前記劣化速度機差を乗じて、前記ユーザ装置が前記ユーザ触媒を用いて前記標準運転条件で運転される時のユーザ劣化速度を算出する、脱硫装置の触媒特性の提供システムが提供される。
【0013】
本発明の一側面によれば、
複数の脱硫装置の実績データに基づき作成され、個々の前記脱硫装置を識別可能な脱硫装置識別情報と、前記脱硫装置に設定した運転条件と、運転開始温度、触媒の劣化速度を含む複数の実績レコードを記録した実績データベースと、
コンピュータ可読命令を実行可能なプロセッサを用いて、ユーザの脱硫装置の触媒特性を提供する方法であって、
前記運転条件は、水素分圧、水素オイル比、LHSV、原料油密度、硫黄濃度を少なくとも含んでおり、
前記方法は、前記プロセッサに、
ネットワークを介してユーザの端末から、ユーザ装置を示すユーザ装置識別情報と、ユーザが使用を予定しているユーザ触媒とを取得させ、
前記実績データベースの中から、前記ユーザ装置ではない比較装置が比較触媒を用いて運転された第一実績レコードを特定させ、
前記第一実績レコードに標準化関数を適用して、前記比較装置が前記比較触媒を用いて標準運転条件で運転される時の第一標準化開始温度と第一標準化劣化速度とを算出させ、
前記実績データベースの中から、前記ユーザ装置が前記比較触媒を用いて運転された第二実績レコードを特定させ、
前記第二実績レコードに前記標準化関数を適用して、前記ユーザ装置が前記比較触媒を用いて前記標準運転条件で運転される時の第二標準化開始温度と第二標準化劣化速度とを算出させ、
前記第一標準化開始温度から前記第二標準化開始温度を減じて、開始温度に関する前記比較装置に対するユーザ装置の開始温度機差を算出させ、
前記第一標準化劣化速度を前記第二標準化劣化速度で除して、劣化速度に関する前記比較装置に対するユーザ装置の劣化速度機差を算出させ、
前記実績データベースの中から、前記比較装置が前記ユーザ触媒を用いて運転された第三実績レコードを特定させ、
前記第三実績レコードに前記標準化関数を適用して、前記比較装置が前記ユーザ触媒を用いて前記標準運転条件で運転される時の第三標準化開始温度と第三標準化劣化速度とを算出させ、
前記第三標準化開始温度に前記開始温度機差を加えて、前記ユーザ装置が前記ユーザ触媒を用いて前記標準運転条件で運転される時のユーザ開始温度を算出させ、
前記第三標準化劣化速度に前記劣化速度機差を乗じて、前記ユーザ装置が前記ユーザ触媒を用いて前記標準運転条件で運転される時のユーザ劣化速度を算出させる、脱硫装置の触媒特性の提供方法が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、脱硫装置の実績値を他のユーザに提供するシステムおよび方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の第一から第三実施形態に係る方法を実施するためのシステム構成図である。
【
図3】第一実施形態に係る方法のフローチャートである。
【
図4】第一実施形態に係る、ユーザXのユーザ運転条件を示す。
【
図8】第二実施形態に係る方法のフローチャートである。
【
図9】第二実施形態に係る、ユーザYのユーザ運転条件を示す。
【
図12】ユーザYの端末に出力される画面の一例を示す。
【
図13】第三実施形態に係る方法のフローチャートである。
【
図14】第三実施形態に係る、ユーザZ1,Z2,Z3のユーザ運転条件を示す。
【
図17】一般的な運転日数と運転温度の関係を示すグラフである。
【
図18】第四実施形態の方法を示すフローチャートである。
【
図21】第一標準化開始温度と第一標準化劣化速度を算出する例を示す。
【
図22】第二標準化開始温度と第二標準化劣化速度を算出する例を示す。
【
図23】第三標準化開始温度と第三標準化劣化速度を算出する例を示す。
【
図24】ユーザ開始温度とユーザ劣化速度を算出する例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
添付の図面を参照しつつ、本発明に係る第一実施形態から第四実施形態の例について、以下詳細に説明する。
【0017】
図1は、第一から第四実施形態の方法に共通して用いられるシステム1の構成図である。第一実施形態に係る方法は、ユーザが自身の脱硫装置の運転条件を変更しようとする際に、該ユーザの予定運転条件と近い運転条件が設定された他の脱硫装置の運転条件やその運転条件に基づく総運転日数などのパフォーマンスを提供するものである。システム1は、複数のユーザから脱硫装置に設定した運転条件(ユーザ運転条件)と該ユーザ運転条件下に基づくパフォーマンスとを含む実績レコードを、実績データベースとして蓄積している。システム1は、ユーザの端末10からネットワーク40を介してユーザ運転条件を取得し、実績データベースからユーザ運転条件に近い運転条件が設定された他の実績レコードを特定し、特定された実績レコードからユーザが所望する運転条件やパフォーマンスなどを提供するものである。
【0018】
図1に示すように、システム1は、メインサーバ20(装置)とデータサーバ30を有している。メインサーバ20とデータサーバ30は通信可能に接続されている。メインサーバ20とデータサーバ30は一体の構成としてもよいし、別体の構成としてもよい。
【0019】
メインサーバ20は、ネットワーク40を介してユーザの操作する端末10と接続されている。端末10とメインサーバ20は専用回線で接続されていてもよいし、インターネット回線で接続されていてもよい。端末10は、表示装置を一体又は別体に有している。端末10は、ユーザが所有するコンピュータ、タブレット端末、携帯電話などの情報処理機器である。また、端末10は、ユーザが所有しない情報処理機器であってもよい。例えばユーザがログインした情報処理機器であってもよい。情報処理機器は、プロセッサと、コンピュータ可読命令を記憶する記憶部と、表示装置を有する。
【0020】
メインサーバ20は単一のサーバで構成してもよいし、複数台のサーバで構成してもよい。メインサーバ20は、プロセッサ21と、コンピュータ可読命令を記憶する記憶部(ROM)23で構成されている。プロセッサ21は、記憶部23に記憶されたコンピュータ可読命令を一時的記録部(RAM)22に読み出し、以下に詳述する脱硫装置の運転条件を提供する方法を実行する。
【0021】
データサーバ30は、ハードディスクなどの記録装置で構成されている。データサーバ30は、実績データベースを有している。
図2に、実績データベースの一例を示す。
【0022】
図2に示すように、実績データベースは、多数の実績レコードで構成されている。実績レコードは、複数のユーザから取得した、脱硫装置を運転した時に設定した運転条件や、該運転条件下で得られたパフォーマンスを示す実績データに基づいて作成されたデータベースである。実績レコードは、レコードID、ユーザID、装置ID、運転条件、パフォーマンスの項目を含んでいる。
レコードIDとは、実績レコードを識別するために付与された識別情報である。レコードIDは、英数字や記号などで構成されている。
ユーザIDとは、該実績レコードを提供したユーザを識別するために付与された識別情報である。ユーザIDは、英数字や記号などで構成されている。
装置IDとは、該実績レコードが適用された脱硫装置を識別するために付与された識別情報である。例えば石油卸売業者は、複数個所に製油所を有しており、各々の製油所に複数の脱硫装置を有していることがある。これらの脱硫装置を互いに識別可能にするために装置IDが付与されている。
【0023】
運転条件は、脱硫装置に設定された運転条件を示す項目である。図示の例では、運転条件は、脱硫装置に用いられた触媒名、脱硫装置に設定された水素分圧、水素オイル比、液空間速度(LHSV)、原料油密度、原料油硫黄濃度といった項目を含んでいる。図示していない項目もあるが、運転条件はこれらの項目の他に、原料油の種類、残炭濃度、原料油性状(T90:蒸留90%留出温度やT50:蒸留50%留出温度)、原料油窒素濃度などの項目を含んでいてもよい。脱硫装置が直接脱硫プロセスを実行する場合と軽油脱硫プロセスを実行する場合とで、運転条件として用いる項目を異ならせてもよい。
【0024】
パフォーマンスは、脱硫装置を該運転条件で運転した場合の結果を示す項目である。図示の例では、パフォーマンスは、総運転日数、開始温度、劣化速度を含んでいる。総運転日数は、該運転条件で運転した場合に脱硫装置をどのくらいの期間、触媒交換をすることなく運転することができたかを示す。触媒は時間経過とともに劣化するので、触媒の劣化分を補うために脱硫装置は運転温度を高めていく。運転の開始から温度を高めていき、脱硫装置に設定された上限温度に達するまでに要した日数が総運転日数となる。なお、ユーザの都合により脱硫装置を一時停止した場合(触媒を交換せずに運転を停止した場合)には、運転の開始から停止までの総日数から運転停止期間を差し引いた日数が総運転日数となる。
【0025】
開始温度は、該運転条件で所望のアウトプットを得るために運転の開始時に設定した温度である。劣化速度は、総運転日数の末日の温度から開始温度を減算したものを総運転日数で除して求めることができる。劣化速度は触媒の劣化のしやすさを示す。
実績データベースは、本システム1の運営者が自身で収集した実績レコードの他に、ユーザから許可を得て記録した実績レコードを含む。
【0026】
<第一実施形態>
まず、第一実施形態に係る方法を説明する。
図3は、本発明の第一実施形態にかかる方法のフローチャートである。
図3に示すように、メインサーバ20は、ユーザのログイン処理を実行する(ステップS01)。メインサーバ20は、端末10にユーザIDとパスワードの入力を促す画面を表示させる。端末10は、ユーザが入力したユーザIDとパスワードをメインサーバ20へ送信する。メインサーバ20は、このユーザIDとパスワードを取得する。メインサーバ20は、取得したユーザIDとパスワードが、システム1に登録されているユーザIDおよびパスワードと一致しているか否かを判定する。両者が一致している場合、メインサーバ20は特定のユーザがログインしているものと判断して以降の処理を進める。第一実施形態では、ユーザXがログインしたものとして説明する。
【0027】
本実施形態では、
図4に示すように、ユーザ運転条件のうち、水素分圧、水素オイル比、液空間速度、原料油密度についてそれぞれ予定している値が決まっているものの、どの触媒を用いると最も寿命が長くなるかをユーザXが知りたがっている、というケースを想定している。以降では、ユーザXが
図4に示すユーザ運転条件を予定しており、該ユーザ運転条件において最も寿命(総運転日数)が長い触媒をシステム1が提供する例を説明する。
【0028】
メインサーバ20は、ユーザの端末10からネットワーク40を介して、触媒を除くユーザ運転条件の少なくとも一つを取得する(ステップS02)。メインサーバ20は、
図4に示した、水素分圧、水素オイル比、LHSV、原料油密度についてユーザ運転条件をユーザXの端末10から取得する。
【0029】
次にメインサーバ20は、実績データベースを参照し、取得したユーザ運転条件に基づいて全ての実績レコードについて近似度を算出する(ステップS03)。近似度とは、ある実績レコードの運転条件がどれだけユーザ運転条件に近いかを示す指標である。
【0030】
図5は、全ての実績レコードについて近似度を算出した結果を示している。
図5では、取得したユーザ運転条件の各々の項目について実績レコードの該当する項目と比較して個別近似度を算出し、全ての項目の個別近似度の平均を近似度としている。個別近似度は、(実績レコードの値)/(ユーザ運転条件の値)で算出している。近似度は、(個別近似度の合計)/(ユーザ運転条件の項目数)で算出している。
【0031】
例えば、実績レコード1の水素分圧が6.0であり、ユーザ運転条件の水素分圧が6.0である。そこで実績レコード1において水素分圧の個別近似度は1.000である。このようにして、実績レコード1の水素オイル比の個別近似度を1.022、LHSVの個別近似度を1.067、原料油密度の個別近似度を1.000と算出する。そこで、実績レコード1の近似度は(1.000+1.022+1.067+1.000)/4=1.022である。このようにして、全ての実績レコードについて近似度を算出する。
なお、近似度の算出方法はこの例に限られない。公知の統計的手法を用いて近似度を求めてもよい。あるいは、項目ごとに重み付け係数を乗じて近似度を算出してもよい。
【0032】
次にメインサーバ20は、触媒毎に最もユーザ運転条件に近似する実績レコードを特定し、抽出する(ステップS05)。
図6は、
図5を触媒毎に並べ替えたものである。図示の例では、触媒XX、XY、YY、YX毎に並び変えている。そして触媒XXのうちで近似度が1に最も近い(ユーザ運転条件に最も近似する)実績レコードは1であり、触媒XYのうちで近似度が1に最も近い実績レコードは10であり、触媒YYのうちで近似度が1に最も近い実績レコードは12であり、触媒YXのうちで近似度が1に最も近い実績レコードは13であると特定する。そしてこれら触媒毎に最もユーザ運転条件に近似する実績レコードとして、実績レコード1,10,13,12を
図7のように抽出する。
【0033】
さらにメインサーバ20は、抽出された実績レコードのうちから、最も総運転日数の長い実績レコードを特定し、該実績レコードの触媒を出力する(ステップS06)。
図7に抽出された実績レコードのうち、最も総運転日数の長い実績レコードは10である。そこでメインサーバ20は、実績レコード10の触媒をユーザXの端末10へ出力する。あるいはメインサーバ20は、実績レコード10の触媒以外の運転条件とパフォーマンスの項目の一つ以上を、触媒とともにユーザXの端末10へ出力してもよい。
【0034】
以上の本実施形態に係るシステム1および方法によれば、ユーザはユーザ運転条件に近い条件で運転された運転実績から最も寿命の長い触媒を知ることができる。これにより、シミュレーションなど単なる計算結果に比べて遥かに説得力の高い、実際に稼働した結果を参考にすることができる。このため、本発明により提供された触媒情報を参考にして、ユーザはより効率的に脱硫装置を運転することができる。
【0035】
なお上記実施形態では、ユーザ運転条件と最も近似する実績レコードをユーザの端末10へ出力する構成を説明したが、ユーザ運転条件に近似する複数の実績レコードをユーザの端末10へ出力するように構成してもよい。この場合、近似度とともに複数の実績レコードをユーザの端末10へ出力してもよい。
【0036】
本発明者は、ベンチプラントデータを用いて脱硫装置の触媒の寿命を予測するシミュレータを実現できないかを研究していたところ、このような研究を通じて、触媒の種類、水素分圧、水素オイル比、LHSV、原料油密度、硫黄濃度といった項目(運転条件)が特に触媒の寿命に大きな影響を与えることを見出した。そこで本発明者は、特許文献1のような複雑なシミュレーションを実行することなく、運転条件が近似する複数の実績レコードは同じような総運転日数を有することを見出した。
そこで精緻なシミュレーションを行うまでもなく、単にユーザの脱硫装置と似たような運転条件で運転している他の脱硫装置の実績を知ることができれば、ユーザの脱硫装置の将来の運転を一定程度予測することができることに、本発明者は気が付いた。例えば、ユーザが現在使用している触媒の寿命は、同じ触媒を同様の運転条件で運転している他の脱硫装置の総運転日数から類推することができる。このような気付きに基づいて本発明は完成された。
本発明によれば、ユーザは、シミュレーションの結果ではなく、他のユーザが実施した現実の記録を知ることができる。このため、運転条件を大きく変更したいなどの場合であっても、現実の記録を参照することによって該変更を実行しやすい。
【0037】
<第二実施形態>
次に本発明の第二実施形態を説明する。
図8は、本発明の第二実施形態に係る方法のフローチャートである。
図8に示すように、メインサーバ20はまずユーザのログイン処理を実行する(ステップS11)。このログイン処理は、上述した第一実施形態におけるログイン処理(ステップS01)と同じである。
本実施形態では、ユーザYがログインしたものとして説明する。
【0038】
本実施形態は、
図9に示すように、ユーザ運転条件のうち、触媒、水素分圧、水素オイル比、液空間速度、原料油密度についてそれぞれ予定している値が決まっており、該運転条件における触媒の寿命をユーザが知りたがっている、といったケースを想定している。以降では、ユーザYが
図9に示すユーザ運転条件を予定しており、該ユーザ運転条件における寿命(総運転日数)をシステム1が提供する例を説明する。
【0039】
次にメインサーバ20は、ユーザの端末10からネットワーク40を介して、運転条件のうち触媒を含む少なくとも二つの項目を取得する(ステップS12)。
図9に示した例では、メインサーバ20は、触媒、水素分圧、水素オイル比、LHSV、原料油密度をユーザYの端末10から取得する。
【0040】
次にメインサーバ20は、実績データベースを参照し、取得したユーザ運転条件の触媒と同一の触媒を含む実績レコードを抽出する(ステップS13)。例えばメインサーバ20は、
図2に示した実績データベースから、ユーザYのユーザ運転条件の触媒XXと一致する触媒を含む実績レコードは1,2,5,6,7,14であると判定し、
図10のようにこれらの実績レコードを抽出する。
【0041】
次にメインサーバ20は、
図10のように抽出された実績レコードについて、ユーザ運転条件との近似度を算出する(ステップS14)。本実施形態においても、近似度の算出方法は上述した第一実施形態と同様である。
図11は、抽出された実績レコードについて近似度を算出した結果を示している。
【0042】
さらにメインサーバ20は、ユーザ運転条件に対して最も近似度の高い実績レコードを特定する(ステップS15)。
図11に示した例では、メインサーバ20は、実績レコード1が最もユーザYのユーザ運転条件に近似していると判定する。
【0043】
さらにメインサーバ20は、最もユーザ運転条件に近似すると特定した実績レコードの少なくとも総運転日数をネットワーク40を介してユーザYの端末10へ出力する。
図12は、ユーザYの端末10の画面に表示させる表示例を示している。
図12に示すように、メインサーバ20は、実績レコードの総運転日数の他に運転条件や、開始温度や劣化速度といったパフォーマンスをユーザYの端末10へ出力してもよい。また、
図12に示すように、最も近似度の高い実績レコードの他に近似度の高い順に複数の実績レコードを出力してもよい。この場合、近似度とともに複数の実績レコードを出力してもよい。
【0044】
このように、本実施形態に係るシステム1および方法によって、ユーザはユーザ運転条件に近い条件で運転された運転実績から触媒の寿命を知ることができる。これにより、シミュレーションなど単なる計算結果に比べて遥かに説得力の高い、実際に稼働した結果を参考にすることができる。このため、本実施形態により提供された触媒の寿命を参考にして、ユーザはより効率的に脱硫装置を運転することができる。
【0045】
なお、本実施形態ではステップS13でユーザ運転条件の触媒と同一の触媒を含む実績レコードを抽出し、抽出された実績レコードのみについて近似度を算出するように構成されている。このような構成により、実績データベースの全ての実績レコードの近似度を算出しないので、計算機の処理負担を軽減している。もっとも、ステップS13においてユーザ運転条件の触媒と同一の触媒ではないが近似する触媒(例えば同様の組成を有するが提供する触媒会社の異なる触媒、あるいは同一触媒会社が提供する同一シリーズに属する触媒)を含んで抽出するように構成してもよい。
【0046】
<第三実施形態>
次に本発明の第三実施形態に係る方法を説明する。
図13は、本発明の第三実施形態に係る方法のフローチャートである。
図13に示すように、メインサーバ20は、ユーザのログイン処理を実行する(ステップS21)。このログイン処理は、上述した第一実施形態におけるログイン処理(ステップS01)と同じである。
【0047】
第三実施形態は、ユーザはユーザ運転条件の項目の少なくとも一つを決定しているものの、決定された項目以外の運転条件を決めておらず、また触媒の寿命も知りたいというケースを想定している。本実施形態は、ユーザ運転条件に近似する複数の実績レコードをユーザに提供する。
以降では、
図14に示すように、3つのケースを説明する。
ユーザZ1が運転条件のうち水素分圧と水素オイル比を決定しており、触媒の種類や他の運転条件、寿命について実績を知りたいというケース。
ユーザZ2が運転条件のうち触媒XYを用いることを決定しており、他の運転条件や寿命を知りたいというケース。
ユーザZ3が運転条件のうち触媒XYを用い、水素分圧と水素オイル比を決定しており、他の運転条件や寿命を知りたいというケース。
【0048】
まずユーザZ1がログインしたものとして説明する。
メインサーバ20は、ユーザの端末10からネットワーク40を介してユーザ運転条件の少なくとも一つ以上を取得する(ステップS22)。
図14に示した例では、メインサーバ20は、ユーザZ1の端末10から、水素分圧と水素オイル比を取得する。
【0049】
次にメインサーバ20は、取得したユーザ運転条件が触媒を含んでいるか否かを判定する(ステップS23)。ユーザZ1のユーザ運転条件は触媒を含んでいないので(ステップS23:No)、メインサーバ20は、ユーザ運転条件に基づき抽出範囲の上限値と下限値とを算出する。
【0050】
抽出範囲とは、ユーザに提供される、ユーザ運転条件に近似する実績レコードの数に影響する要素である。抽出範囲が広いと、ユーザに提供する実績レコードの数が大きくなる。抽出範囲が狭いと、ユーザに提供する実績レコードの数が少なくなる。抽出範囲が広すぎると、ユーザ運転条件に近似せずユーザの参考になりにくい実績レコードもユーザに提供される可能性が高くなる。
【0051】
抽出範囲は、ユーザ運転条件のうち数値で表される項目について定められる。本実施形態では、水素分圧と水素オイル比は数値で表される項目である。このため、水素分圧と水素オイル比のそれぞれについて、抽出範囲が定められる。抽出範囲を規定する上限値と下限値は、ユーザ運転条件のうち数値で表される項目に所定係数を乗じて算出される。所定係数は、システム1の運営者が任意に定めてもよいし、ユーザが任意に定めるように構成してもよい。
【0052】
本実施形態では、メインサーバ20は、ユーザ運転条件の水素分圧が6.0[MPa]なので、これに所定係数0.9を乗じて下限値の5.4[MPa]、これに1.1を乗じて上限値の6.6[MPa]を算出する。また、ユーザ運転条件の水素オイル比が225なので、これに所定係数0.9を乗じて下限値の202.5、これに所定係数1.1を乗じて上限値の247.5を算出する。
このようにしてメインサーバ20は、
図15に示したように抽出範囲を設定する。
【0053】
なお、所定係数は、運転条件の項目毎に異なった値を設定してもよい。例えば水素分圧の上限値を算出するための所定係数として1.2を設定し、水素オイル比の上限値を算出するための所定係数として1.15を設定してもよい。
【0054】
次にメインサーバ20は、実績データベースから、設定された抽出範囲に含まれる実績レコードを抽出する(ステップS25)。
図2に示した実績データベースのうち、水素分圧が5.4~6.6[MPa]に属しており、かつ、水素オイル比が202.5~247.5に属している実績レコードは、1~6,10,12,15である。そこでメインサーバ20は、
図16に示すように実績レコード1~6,10,12,15を抽出する。
【0055】
さらにメインサーバ20は、抽出された実績レコードの運転条件とパフォーマンスの少なくとも一つ以上をユーザの端末10にネットワーク40を介して出力する。本実施形態では、メインサーバ20は、実績レコード1~6,10,12,15の全ての運転条件の項目と全てのパフォーマンスの項目を、ネットワーク40を介してユーザZ1の端末10に出力する。
【0056】
なお、本実施形態では水素分圧の抽出範囲に属し、かつ、水素オイル比の抽出範囲に属する実績レコードを抽出する構成としたが、水素分圧の抽出範囲に属するか、または、水素オイル比の抽出範囲に属する実績レコードを抽出する構成としてもよい。
【0057】
次に、ユーザZ2がログインした例を説明する。
図13に示したようにユーザZ2は、運転条件のうち触媒XYを用いることを決定しており、他の運転条件や寿命を知りたい。
図14のフローチャートにおいて、ユーザZ2がログインする(ステップS21)。
【0058】
ステップS22において、メインサーバ20はユーザZ2の端末10から、触媒XYのみというユーザ運転条件を取得する。メインサーバ20は、ユーザZ2のユーザ運転条件は触媒を含んでいると判定する(ステップS23:Yes)。続いてメインサーバ20は、ユーザ運転条件は触媒以外を含むか否かを判定する(ステップS27)。本実施形態では、ユーザZ2のユーザ運転条件は触媒以外を含んでいない(ステップS27:No)。
【0059】
そこでメインサーバ20は、実績データベースから触媒が一致する実績レコードを抽出し(ステップS28)、抽出された実績レコードの運転条件とパフォーマンスの少なくとも一つ以上をユーザZ2の端末10へネットワーク40を介して出力する(ステップS26)。メインサーバ20がユーザZ2の端末10へ出力する出力例の図示は省略する。
【0060】
次に、ユーザZ3がログインした例を説明する。
図13に示したように、ユーザZ3は運転条件のうち触媒XYを用いることと水素分圧と水素オイル比を決定しており、他の運転条件や寿命について実績を知りたい。
図14のフローチャートにおいて、ユーザZ3がログインする(ステップS21)。
【0061】
ステップS22において、メインサーバ20はユーザZ3の端末10から、触媒、水素分圧、水素オイル比のユーザ運転条件を取得する。メインサーバ20は、ユーザZ3のユーザ運転条件は触媒を含んでいると判定する(ステップS23:Yes)。続いてメインサーバ20は、ユーザZ3のユーザ運転条件は触媒以外を含んでいると判定する(ステップS27:Yes)。
【0062】
そこでメインサーバ20は、ステップS24と同様に、ユーザ運転条件に基づき抽出範囲の上限値と下限値を算出する(ステップS29)。続いてメインサーバ20は、実績データベースから、触媒が一致し、かつ/または、抽出範囲に含まれる実績レコードを抽出する(ステップS30)。抽出した実績レコードの運転条件とパフォーマンスの少なくとも一つ以上をユーザZ3の端末10へネットワーク40を介して出力する(ステップS26)。メインサーバ20がユーザZ3の端末10へ出力する出力例の図示は省略する。
【0063】
このように本実施形態においても、ユーザはユーザ運転条件に近い条件で運転された運転条件やパフォーマンスを知ることができる。また、本実施形態のように運転条件のうちユーザが決定している項目が少ない場合には、シミュレーションで他の最適な運転条件や触媒の寿命は計算できなかったり計算しにくかったりする。しかし本実施形態によれば、シミュレーションできない/しにくいケースであっても、運転条件やパフォーマンスをユーザに提供することができる。これにより、本実施形態により提供された運転条件やパフォーマンスを参考にして、ユーザはより効率的に脱硫装置を運転することができる。
【0064】
なお、実績データベースは、ユーザの端末10から取得したデータに基づいて作成・更新することができる。例えば、ユーザの端末10からネットワーク40を介して、ユーザの識別情報、ユーザの脱硫装置の識別情報、経過日数毎の運転条件を含む生データを取得する。経過日数毎の運転条件を含む生データとは、触媒(経過日数に応じて触媒を変更することがある)、水素分圧、水素オイル比、液空間速度、原料油密度、硫黄濃度などについて、経過日数毎に記録された情報である。
【0065】
メインサーバ20は、生データの運転条件の各々の項目について平均化処理を行って平均値を算出する。生データの中には明らかなセンサのエラーなどが含まれており、平均化処理によりこれらのエラーを削除する。あるいは、運転初期には触媒の劣化が定常運転時とは異なる挙動を示すことがあるので運転初期のデータを含まないようにして平均化処理を行う。あるいは、脱硫装置の挙動を特徴づける期間を設定し、これらの期間における情報に重み付けをしてもよい。
また、運転開始日から経過日数までの日数を総運転日数として算出する。
【0066】
このようにして算出した運転条件の各々の項目の平均値と、総運転日数と、ユーザの識別情報、脱硫装置の識別情報とを、新たな実績レコードとして実績データベースに追加することができる。このようにして多くのユーザから複数の実績レコードを取得することにより、実績データベースを充実させることができる。これにより充実した実績データベースを用いて、ユーザにより有用な運転条件やパフォーマンスを提供することができる。
【0067】
また、脱硫装置が異なれば同じ運転条件を設定したとしても触媒の寿命が異なる場合がある。ある特定の脱硫装置を標準脱硫装置と定め、この標準脱硫装置と別の脱硫装置との寿命の差を機差と定義できる。このような機差を用いると、よりユーザに適した寿命を提供することができる。
【0068】
図2の例で言えば、触媒XYを用いた実績レコードとして、装置ID:A1の実績レコード3,4と、装置ID:A2の実績レコード8,9と、装置ID:B1の実績レコード10と、装置ID:C1の実績レコード15がある。装置ID:A1を標準脱硫装置と定めた場合に、装置ID:A1,B1,C1のそれぞれについて機差を算出することができる。この機差は、運転条件の各項目を変数とする関数として表すことができる。
【0069】
このような機差を用いることにより、例えば装置ID:C1について触媒YYを用いようとする場合に、触媒寿命を見積もることができる。装置ID:C1について実績レコードはないものの、装置ID:B1の触媒YYを用いた実績レコード11,12に装置ID:C1の装置ID:B1に対する機差を適用して、装置ID:C1に触媒YYを用いようとする場合の触媒寿命を見積もることができる。
【0070】
あるいは機差補正で触媒寿命を補正するのではなく、機差補正で運転条件を補正するように構成してもよい。同一触媒で同等の触媒寿命が得られる複数の実績レコードがある場合、ある脱硫装置を標準脱硫装置として定め、この標準脱硫装置に設定された運転条件との差を機差として定めることができる。このように機差を用いて運転条件を補正すると、ユーザ運転条件に近似する実績レコードの運転条件を出力する際に、該脱硫装置とユーザの脱硫装置との機差を適用することにより、よりユーザの脱硫装置に適した運転条件を提供することができる。
【0071】
<第四実施形態>
次に、ユーザAがユーザ装置A1において過去に触媒YYを用いたことがないが、他の装置で触媒YYを使って運転したときの実績レコードからユーザ装置A1で触媒YYを使ったときの触媒特性を提供するというケースを第四実施形態として説明する。
【0072】
図17は、一般的な運転日数とRF装置の運転温度の関係を示すグラフである。触媒は、運転日数が経過するにつれて劣化していく。つまり触媒の反応性が低下していく。そこで、所望の量や質の生成物を運転開始から運転終了まで得続けるためには、触媒の反応性を高めるために運転温度を高く設定していく必要がある。このため、
図17に示すように、運転日数が経過するにつれて運転温度を高く設定していく必要がある。
図17の直線Bは、触媒特性を表している。直線Bの傾きは触媒の劣化速度を表し、直線BのY切片は運転初日の運転温度(以降、開始温度と呼ぶ)を表している。これら劣化速度と開始温度によって触媒特性を定義することができる。
【0073】
そこで以降に説明する本実施形態では、ユーザAがユーザ装置A1において過去に触媒YYを用いたことがないが、他の装置で触媒YYを使って運転したときの実績レコードからユーザ装置A1で該触媒YYを使ったときの劣化速度と開始温度を推測するというケースを説明する。
【0074】
以下に説明する例では、まずユーザ装置A1と比較装置B1とで共通して用いたことのある比較触媒XYを特定し、比較触媒XYを用いたときの開始温度と劣化速度を使ってユーザ装置A1と比較装置B1の機差を求める。比較装置B1で触媒YYを用いた実績レコードに機差を適用して、ユーザ装置A1が比較触媒XYを用いた時の開始温度と劣化速度を求める。以降に詳しく説明する。
【0075】
図18は、本実施形態の方法を示すフローチャートである。まずメインサーバ20はユーザの端末10からネットワーク40を介して、ユーザ装置の識別情報と使用を予定している触媒(ユーザ触媒)を取得する(ステップS31)。
図19は、ユーザAから取得した情報を示している。
図19に示すように、本実施形態は、ユーザAのユーザ装置A1がユーザ触媒YYを用いて運転された時の開始温度と劣化速度を知りたいというケースである。
【0076】
次にメインサーバ20は、実績データベースの中から、ユーザ装置ではない比較装置が比較触媒を用いて運転された第一実績レコードを特定する(ステップS32)。
図20に本実施形態で用いる実績データベースを示す。比較装置は、ユーザ装置A1で用いたことのある比較触媒と、ユーザ触媒YYの両方の触媒を使った実績のある装置の中から選択される。比較触媒は、ユーザ装置A1と比較装置の両方で用いた実績のある触媒の中から選択される。
【0077】
図20に示した例を用いて具体的に説明する。装置B1は、触媒XY,YYを用いた実績を有している。触媒YYはユーザ装置A1でも用いた実績がある。そこでメインサーバ20は、装置B1を比較装置として特定し、触媒XYを比較触媒として特定する。またメインサーバ20は、比較装置B1が比較触媒XYを用いて運転された実績レコード10を第一実績レコードとして特定する。
なお、比較装置が比較触媒を用いて運転された実績レコードが複数ある場合には、後述する標準運転条件に最も近い運転条件を有する実績レコードを第一実績レコードとして特定してもよい。
【0078】
次にメインサーバ20は、第一実績レコード10に標準化関数を適用して、比較装置が比較触媒を用いて標準運転条件で運転される時の第一標準化開始温度と第一標準化劣化速度とを算出する(ステップS33)。
図21に第一標準化開始温度と第一標準化劣化速度を算出する例を示す。
【0079】
本発明者は、ある運転条件(第一運転条件)から水素分圧が増えると、開始温度が第一運転条件で運転された時の開始温度より低くなり、また、劣化速度が第一運転条件で運転された時の劣化速度より低くなる傾向を有していることを見出した。あるいは、第一運転条件からLHSVが増えると、開始温度が第一運転条件で運転された時の開始温度より高くなり、また、劣化速度が第一運転条件で運転された時の劣化速度より高くなる傾向を有していることを本発明者は見出した。
【0080】
このように、第一運転条件からある運転条件(例えば第二運転条件)に変更した場合には、第二運転条件で運転された場合の開始温度と劣化速度は、第一運転条件で運転された開始温度と劣化速度からある法則性をもって変化する。任意のある運転条件を標準運転条件として定義したときに、このような法則性に着目して各々の運転条件の項目毎に、特定の運転条件と標準運転条件との相違に応じて開始温度の補正量および劣化速度の補正量を定めることができる。
【0081】
標準運転条件とは、脱硫装置に標準的に設定される水素分圧、水素オイル比、LHSV、原料油密度、硫黄濃度の各値である。あるいは標準運転条件とは、ユーザ装置毎に異なる運転条件であってもよい。標準運転条件として、実績データベースに登録されている任意の一つの運転条件が設定されてもよい。あるいは、ユーザの実績レコードの中から、システムの運営者が定めた規定運転条件に最も近い運転条件を有する実績レコードを抽出し、この実績レコードの運転条件を標準運転条件として設定してもよい。
図21に示した例では、運転条件E0~J0が標準運転条件であると定義されている。
【0082】
このような法則性に着目すると、ある運転条件における開始温度から標準運転条件における開始温度を予測することができる。このとき、標準運転条件における開始温度を得るために、ある運転条件における開始温度に適用する関数を開始温度標準化関数と定義する。同様に、ある運転条件における劣化速度から標準運転条件における劣化速度を予測することができる。このとき、標準運転条件における劣化速度を得るために、ある運転条件における劣化速度に適用する関数を劣化速度標準化関数と定義する。本明細書では、開始温度標準化関数と劣化速度標準化関数とをまとめて標準化関数と呼んでいる。なお、標準運転条件に標準化関数を逆に適用すると、標準運転条件における開始温度/劣化速度からある運転条件における開始温度/劣化速度を求めることができる。
【0083】
図21は、第一実績レコード10に標準化関数を適用して、比較装置B1が比較触媒XYを用いて標準運転条件で運転される時の第一標準化開始温度T_B1_0_XYと第一標準化劣化速度S_B1_0_XYとを算出する例を示している。第一実績レコード10の開始温度T10に開始温度標準化関数を適用して第一標準化開始温度T_B1_0_XYを算出する。第一実績レコード10の劣化速度S10に劣化速度標準化関数を適用して第一標準化劣化速度S_B1_0_XYを算出する。
【0084】
次にメインサーバ20は、実績データベースの中から、ユーザ装置A1が比較触媒XYを用いて運転された第二実績レコードを特定する(ステップS34)。実績レコード3は、ユーザ装置A1が比較触媒XYを用いて運転された記録である。そこで実績レコード3を第二実績レコードとして特定する。
なお、ユーザ装置が比較触媒を用いて運転された実績レコードが複数ある場合には、標準運転条件に最も近い運転条件を有する実績レコードを第二実績レコードとして特定してもよい。
【0085】
次にメインサーバ20は、第二実績レコード3に標準化関数を適用して、ユーザ装置A1が比較触媒XYを用いて標準運転条件で運転される時の第二標準化開始温度T_A1_0_XYと第二標準化劣化速度S_A1_0_XYとを算出する(ステップS35)。
図22は、第二標準化開始温度と第二標準化劣化速度を算出する例を示す。
図22に示すように、第二実績レコード3の開始温度T3に開始温度標準化関数を適用して第二標準化開始温度T_A1_0_XYを算出する。第二実績レコード3の劣化速度S3に劣化速度標準化関数を適用して第二標準化劣化速度S_A1_0_XYを算出する。
【0086】
次にメインサーバ20は、第一標準化開始温度から第二標準化開始温度を減じて、開始温度に関する比較装置に対するユーザ装置の開始温度機差を算出する(ステップS36)。
一般的に、異なる装置に同一運転条件を設定した場合でも同じように触媒が劣化するとは限らない。例えば、装置によっては配管のレイアウトに起因して原料油の全量が反応できないことがあり、ある運転条件下において理想的な触媒の寿命より早く寿命が尽きる場合がある。配管のレイアウトは装置毎に異なることが通常であり、かかる相違に起因して装置毎に理想的な触媒の寿命から短くなる度合いは異なっている。
このように、同一運転条件下において装置毎に異なる反応を示すことを、機差が生じていると呼ぶことができる。同一運転条件で同一触媒を使った異なる装置の実績を比較するには、この機差を用いることができる。
【0087】
本実施形態では以下の式(1)のように、比較装置B1が比較触媒XYを用いて標準運転条件で運転される時の第一標準化開始温度T_B1_0_XYと、ユーザ装置A1が比較触媒XYを用いて標準運転条件で運転される時の第二標準化開始温度T_A1_0_XYとの差が、開始温度機差ΔTとして算出される。
ΔT = T_B1_0_XY - T_A1_0_XY 式(1)
【0088】
またメインサーバ20は、第一標準化劣化速度を第二標準化劣化速度で除して、劣化速度に関する比較装置に対するユーザ装置の劣化速度機差を算出する(ステップS37)。
本実施形態では以下の式(2)のように、比較装置B1が比較触媒XYを用いて標準運転条件で運転される時の第一標準化劣化速度S_B1_0_XYと、ユーザ装置A1が比較触媒XYを用いて標準運転条件で運転される時の第二標準化劣化速度S_A1_0_XYとの比が劣化速度機差ΔSとして算出される。
ΔS = S_B1_0_XY / S_A1_0_XY 式(2)
【0089】
次にメインサーバ20は、実績データベースの中から、比較装置がユーザ触媒を用いて運転された第三実績レコードを特定する(ステップS38)。
図20に示した実績データベースにおいて、実績レコード11は比較装置B1がユーザ触媒YYを用いて運転された記録である。そこでメインサーバ20は、実績レコード11を第三実績レコードとして特定する。
なお、比較装置がユーザ触媒を用いて運転された実績レコードが複数ある場合には、標準運転条件に最も近い運転条件を有する実績レコードを第三実績レコードとして特定してもよい。
【0090】
次にメインサーバ20は、第三実績レコードに標準化関数を適用して、比較装置がユーザ触媒を用いて標準運転条件で運転される時の第三標準化開始温度と第三標準化劣化速度とを算出する(ステップS39)。
図23に第三標準化開始温度と第三標準化劣化速度を算出する例を示す。
図23に示すように、第三実績レコード11の開始温度T11に開始温度標準化関数を適用すると第三標準化開始温度T_A1_0_YYが算出される。第三実績レコード11の劣化速度S11に劣化速度標準化関数を適用することで第三標準化劣化速度S_A1_0_XYが算出される。
【0091】
次にメインサーバ20は、第三標準化開始温度に開始温度機差を加えて、ユーザ装置がユーザ触媒を用いて標準運転条件で運転される時のユーザ開始温度を算出する(ステップS40)。
図24はユーザ開始温度とユーザ劣化速度を算出する例を示している。
図24に示すように、第三標準化開始温度T_A1_0_YYに開始温度機差ΔTを加えてユーザ開始温度が算出される。
【0092】
またメインサーバ20は、第三標準化劣化速度に劣化速度機差を乗じて、ユーザ装置がユーザ触媒を用いて標準運転条件で運転される時のユーザ劣化速度を算出する(ステップS41)。
図24に示すように、第三標準化劣化速度S_A1_0_YYに劣化速度機差ΔSを乗じてユーザ劣化速度が算出される。
【0093】
メインサーバ20は、ユーザ開始温度とユーザ劣化速度をネットワークを介してユーザの端末10に送信してもよい。
【0094】
あるいはメインサーバ20は、ユーザ装置の上限温度を取得し、ユーザ開始温度とユーザ劣化速度と上限温度に基づいてユーザ装置がユーザ触媒YYを標準運転条件で運転したときに運転温度が上限温度に達するまでの日数を算出し、この日数を触媒YYの寿命としてユーザの端末10に送信してもよい。
【0095】
ユーザ開始温度とユーザ劣化速度が算出できれば、
図17に示したような直線Bとして触媒YYの特性を示すことができる。ユーザ開始温度は直線BのY切片であり、ユーザ劣化速度は直線Bの傾きである。上限温度はX軸に平行な直線Cとして表すことができ、直線Bと直線Cの交点の横軸の値が触媒YYの寿命である。
【0096】
あるいはメインサーバ20は、ユーザ装置の規定運転日数を取得し、ユーザ開始温度とユーザ劣化速度と規定運転日数に基づいてユーザ装置がユーザ触媒YYを標準運転条件で規定運転日数運転したときの運転温度を算出し、この運転温度を触媒YYの最終到達温度としてユーザの端末10に送信してもよい。
図17において、規定運転日数はY軸に平行な直線Dとして表すことができ、直線Bと直線Dの交点の縦軸の値が触媒YYの最終到達温度である。
【0097】
このようにして、ユーザ装置A1で触媒YYを使った実績がない場合でも、他のユーザの実績を利用することで、触媒YYを使った場合の開始温度および劣化速度、あるいは寿命や最終到達温度を予測することができる。この際、機差を考慮することにより、よりユーザ装置に適した予測を提供することができる。また、本方法は、原料油の成分毎に複雑な反応式を反映させる複雑なシミュレーションを要することなく行うことができ、また、簡単に装置毎の相違を補正することができる。本実施形態によれば、脱硫装置の実績値に基づいてユーザの装置でユーザの希望する触媒を使ったときの触媒特性を提供するシステムおよび方法が提供される。
【0098】
また、本実施形態では標準運転条件で運転される時のユーザ開始温度およびユーザ劣化速度が算出される。例えばユーザ装置で用いたことのある一つ以上の触媒について標準運転条件で運転される時の開始温度および劣化速度を算出し、これらとともにユーザ開始温度およびユーザ劣化速度をユーザの端末10へ送信してもよい。これにより、ユーザは用いたことのある触媒とユーザ触媒とを比較することができる。
【0099】
なお
図18に示したように、メインサーバ20はユーザの端末10からユーザが実施を予定しているユーザ予定運転条件(E~J)を取得するように構成してもよい。ステップS40およびステップS41で算出したユーザ開始温度およびユーザ劣化速度は、標準運転条件における数値である。そこでユーザ開始温度およびユーザ劣化速度に標準化関数を逆に適用することにより、ユーザ予定運転条件における開始温度(第二ユーザ開始温度)および劣化速度(第二ユーザ劣化速度)を求めることができる。
【符号の説明】
【0100】
10 ユーザの端末
20 メインサーバ
30 データサーバ
40 ネットワーク