(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-08
(45)【発行日】2022-07-19
(54)【発明の名称】自動車用ホース
(51)【国際特許分類】
F16L 11/08 20060101AFI20220711BHJP
B32B 25/10 20060101ALI20220711BHJP
B32B 1/08 20060101ALI20220711BHJP
B32B 25/08 20060101ALI20220711BHJP
B32B 25/14 20060101ALI20220711BHJP
【FI】
F16L11/08 B
B32B25/10
B32B1/08 B
B32B25/08
B32B25/14
(21)【出願番号】P 2018124304
(22)【出願日】2018-06-29
【審査請求日】2021-03-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079382
【氏名又は名称】西藤 征彦
(74)【代理人】
【識別番号】100123928
【氏名又は名称】井▲崎▼ 愛佳
(74)【代理人】
【識別番号】100136308
【氏名又は名称】西藤 優子
(72)【発明者】
【氏名】坂本 佳寛
(72)【発明者】
【氏名】野田 将司
(72)【発明者】
【氏名】水谷 幸治
(72)【発明者】
【氏名】平戸 元基
【審査官】渡邉 聡
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-044728(JP,A)
【文献】特開2011-235520(JP,A)
【文献】特開2011-201074(JP,A)
【文献】特開2011-111563(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 11/08
B32B 25/10
B32B 1/08
B32B 25/08
B32B 25/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン-プロピレン-ジエン系ゴム組成物からなるゴム層と、補強糸層との積層構造を有する自動車用ホースであって、
上記エチレン-プロピレン-ジエン系ゴム組成物が、下記(A)成分100重量部に対し、下記(B)成分を0.5~30重量部、下記(C)成分を1~10重量部、下記(D)成分を0.17~35.7重量部の割合で含有するとともに、上記ゴム組成物中の(C)成分のマレイン酸変性基数(c)と(D)成分のエポキシ基数(d)とのモル比[(c)/(d)]が7/200~7/10の範囲であることを特徴とする自動車用ホース。
(A)エチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体。
(B)過酸化物架橋剤。
(C)マレイン酸変性ポリブタジエン。
(D)エポキシ樹脂。
【請求項2】
上記ゴム層が、更にパラフィンオイルを含有するゴム組成物からなる層である、請求項1記載の自動車用ホース。
【請求項3】
上記補強糸層が、接着剤によりディップ処理された補強糸層である請求項1または2記載の自動車用ホース。
【請求項4】
上記補強糸層が、ポリエチレンテレフタラート糸、ポリアミド糸、およびポリビニルアルコール糸からなる群から選ばれた少なくとも一つからなる請求項1~3のいずれか一項に記載の自動車用ホース。
【請求項5】
上記積層構造に加え、ホース最内層としてポリアミド樹脂層を有し、かつ上記ポリアミド樹脂層と上記ゴム層との積層構造を有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の自動車用ホース。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム層と、補強糸層との積層構造を有する自動車用ホースに関するものであり、詳しくは自動車等の車両におけるエンジンとラジエーターとの接続に用いられるラジエーターホース,エンジンとヒーターコアとの接続に用いられるヒーターホース等のエンジン冷却系ホース、クーラー用冷媒輸送ホース、メタノール燃料ホース,水素燃料ホース等の燃料電池車用ホース、ガソリン燃料ホース等の自動車用ホースに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等の車両におけるエンジンとラジエーターとの接続に用いられるラジエーターホースや、エンジンとヒーターコアとの接続に用いられるヒーターホース等のエンジン冷却系ホースとしては、例えば、内側ゴム層の外周面に補強糸層が形成され、さらにその補強糸層の外周面に外側ゴム層が形成されてなる3層構造(内側ゴム層/補強糸層/外側ゴム層)のホースが用いられている。このような構成のホースは、例えば、内側ゴム層用材料を押出成形して内側ゴム層を形成し、その内側ゴム層の外周面にナイロン糸(ポリアミド糸)やアラミド糸等の補強糸を編み組みして補強糸層を形成した後、その補強糸層の表面に接着剤を塗布し、さらに外側ゴム層用材料を押出成形して外側ゴム層を形成し、これらを架橋することにより製造されている。なお、ホース各層の接着強度をより高めるために、上記内側ゴム層と補強糸層との界面にも、接着剤を塗布する場合もある。また、補強糸としては、接着剤にてディップ処理したディップ糸が用いられる場合もある。
【0003】
しかしながら、上記のような塗布やディップ処理に使用される接着剤の作用のみにより補強糸層とゴム層との接着性を確保するのでは、充分な接着力を得ることが難しく、自動車用ホースに要求されるシール性が確保しづらいといった問題がある。
そのようななか、本出願人は、上記ゴム層を、特定の接着剤成分(レゾルシノール系化合物とメラミン樹脂)が練り込まれた過酸化物架橋系のエチレン-プロピレン系ゴム組成物からなる層とすることにより、補強糸層との接着性を高めることに成功している(特許文献1および2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2002-179861号公報
【文献】特開2004-44728号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、上記特許文献に係る発明とは異なる接着メカニズムにより補強糸層とゴム層との接着性を高めた自動車用ホースについて研究を重ねた。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、特に接着剤を用いなくとも補強糸層とゴム層との接着性が高く、シール性に優れている自動車用ホースの提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明は、エチレン-プロピレン-ジエン系ゴム組成物からなるゴム層と、補強糸層との積層構造を有する自動車用ホースであって、
上記エチレン-プロピレン-ジエン系ゴム組成物が、下記(A)成分100重量部に対し、下記(B)成分を0.5~30重量部、下記(C)成分を1~10重量部、下記(D)成分を0.17~35.7重量部の割合で含有するとともに、上記ゴム組成物中の(C)成分のマレイン酸変性基数(c)と(D)成分のエポキシ基数(d)とのモル比[(c)/(d)]が7/200~7/10の範囲である自動車用ホースを、その要旨とする。
(A)エチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体。
(B)過酸化物架橋剤。
(C)マレイン酸変性ポリブタジエン。
(D)エポキシ樹脂。
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意研究を重ねた。その研究の過程で、ゴム層と補強糸層との積層構造を有するホースにおいて、上記ゴム層が、エチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体(A)に、過酸化物架橋剤(B)、マレイン酸変性ポリブタジエン(C)、エポキシ樹脂(D)を特定の割合で含有するゴム組成物からなり、上記ゴム組成物中の(C)成分のマレイン酸変性基数(c)と(D)成分のエポキシ基数(d)とのモル比[(c)/(d)]が特定の範囲であると、上記ゴム層と補強糸層との接着性が向上し、層間の剥離状態を材料破壊まで底上げすることができ、その結果、シール性に優れた自動車用ホースが得られることを見いだし、本発明に到達した。
【0009】
このような高い層間接着性が得られる理由は明らかではないが、以下のように推察される。
すなわち、ゴム層と補強糸層との積層構造を有するホースにおいて、上記ゴム層が、過酸化物架橋系のエチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体にマレイン酸変性ポリブタジエン(C)を含有するゴム組成物からなると、補強糸層(ないしディップ処理された補強糸層)表面の官能基(アミド基、水酸基等)に対して、上記マレイン酸変性ポリブタジエン(C)のマレイン酸変性基が相互作用し、さらに、マレイン酸変性ポリブタジエン(C)のジエン部がエチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体のジエン部と結合することにより、結果的に、上記ゴム層と補強糸層との接着性が高められるようになると推察される。
しかしながら、より高い層間接着性を得ようとして、上記マレイン酸変性ポリブタジエン(C)の含有割合を多くし過ぎると、マレイン酸変性ポリブタジエン(C)のポリブタジエン部位がラジカル発生源となり、過酸化物架橋系のエチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体の架橋が促進され過ぎてしまい、却って補強糸層との接着性が低下するおそれがある。そのため、マレイン酸変性ポリブタジエン(C)のみにより接着性の向上効果を期待するのには限界がある。
先に述べたように、上記ゴム層の材料であるゴム組成物中に、エポキシ樹脂(D)を、そのエポキシ基数(d)と、上記マレイン酸変性ポリブタジエン(C)のマレイン酸変性基数(c)とのモル比[(c)/(d)]が特定の範囲となるように含有すると、上記のように過酸化物架橋系のエチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体の架橋が促進され過ぎることなく、上記エポキシ樹脂(D)のエポキシ基の一部が補強糸層(ないしディップ処理された補強糸層)表面の官能基と結合するとともに、上記エポキシ樹脂(D)のエポキシ基の他部が上記マレイン酸変性ポリブタジエン(C)のマレイン酸変性基と結合すると推察される。そのため、結果的に、マレイン酸変性ポリブタジエン(C)のみによる接着性向上効果よりも高い接着性向上効果が得られ、層間の剥離状態を材料破壊まで底上げすることができたものと推察される。
【発明の効果】
【0010】
以上のように、本発明の自動車用ホースは、エチレン-プロピレン-ジエン系ゴム組成物からなるゴム層と、補強糸層との積層構造を有する自動車用ホースであって、上記エチレン-プロピレン-ジエン系ゴム組成物が、エチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体(A)に、過酸化物架橋剤(B)、マレイン酸変性ポリブタジエン(C)、エポキシ樹脂(D)を特定の割合で含有するゴム組成物からなり、上記ゴム組成物中の(C)成分のマレイン酸変性基数(c)と(D)成分のエポキシ基数(d)とのモル比[(c)/(d)]が特定の範囲である。そのため、特に接着剤を用いなくとも補強糸層とゴム層との接着性が高く、シール性に優れた自動車用ホースとすることができる。また、上記のように、補強糸層とゴム層との接着性が高いことから、補強糸層の糸ずれが生じにくく、ホースの外径変化率が小さくなるため、パイプ等の接続部での隙間がなくなり、シール性が格段に向上するという優れた効果を奏する。
【0011】
特に、上記ゴム層が、パラフィンオイルを含有するゴム組成物からなる層であると、上記ゴム層の架橋阻害を生じることなく、より層間接着性に優れるようになる。
【0012】
また、上記補強糸層が、接着剤によりディップ処理された補強糸層であると、より層間接着性に優れるようになる。
【0013】
さらに、上記補強糸層が、ポリエチレンテレフタラート糸、ポリアミド糸、およびポリビニルアルコール糸からなる群から選ばれた少なくとも一つからなると、よりホースの耐久性が優れるようになる。
【0014】
また、上記積層構造に加え、ホース最内層としてポリアミド樹脂層を有し、かつ上記ポリアミド樹脂層と上記ゴム層との積層構造を有すると、ホース最内層であるポリアミド樹脂層により、強度や耐熱性等に優れるようになるとともに、上記ポリアミド樹脂層に対する上記ゴム層の接着性が高いことから、より層間接着性に優れるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【発明を実施するための形態】
【0016】
つぎに、本発明の実施の形態を詳しく説明する。
【0017】
本発明の自動車用ホース(以下、適宜「ホース」と略す)は、特定のゴム層と、補強糸層との積層構造を有する2層以上の構造であれば、特に限定はなく、例えば、特定のゴム層(内側ゴム層)と補強糸層と特定のゴム層(外側ゴム層)とからなる3層構造(内側ゴム層/補強糸層/外側ゴム層)のホースや、さらに、上記内側ゴム層の内周面にポリアミド樹脂からなる最内層を設けたホース等があげられる。
【0018】
上記特定のゴム層は、エチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体(A)100重量部に対し、過酸化物架橋剤(B)を0.5~30重量部、マレイン酸変性ポリブタジエン(C)を1~10重量部、エポキシ樹脂(D)を0.17~35.7重量部の割合で含有するとともに、上記マレイン酸変性ポリブタジエン(C)のマレイン酸変性基数(c)と上記エポキシ樹脂(D)のエポキシ基数(d)とのモル比[(c)/(d)]が7/200~7/10の範囲であるエチレン-プロピレン-ジエン系ゴム組成物からなる。
【0019】
上記(A)の、エチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体(以下、「EPDM」と略す)は、特に限定はないが、ヨウ素価が6~30の範囲、エチレン比率が48~70重量%の範囲のものが好ましく、特に好ましくはヨウ素価が10~24の範囲、エチレン比率が50~60重量%の範囲のものである。
【0020】
上記EPDM(A)に含まれるジエン系モノマー(第3成分)としては、特に限定はないが、炭素数5~20のジエン系モノマーが好ましく、具体的には、1,4-ペンタジエン、1,4-ヘキサジエン、1,5-ヘキサジエン、2,5-ジメチル-1,5-ヘキサジエン、1,4-オクタジエン、1,4-シクロヘキサジエン、シクロオクタジエン、ジシクロペンタジエン(DCP)、5-エチリデン-2-ノルボルネン(ENB)、5-ブチリデン-2-ノルボルネン等があげられる。これらジエン系モノマー(第3成分)のなかでも、ジシクロペンタジエン(DCP)、5-エチリデン-2-ノルボルネン(ENB)が好ましい。
【0021】
上記EPDM(A)とともに用いられる過酸化物架橋剤(B)としては、例えば、2,4-ジクロロベンゾイルペルオキシド、ベンゾイルペルオキシド、1,1-ジ-t-ブチルペルオキシ-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジベンゾイルペルオキシヘキサン、n-ブチル-4,4’-ジ-t-ブチルペルオキシバレレート、ジクミルパーオキサイド、t-ブチルペルオキシベンゾエート、ジ-t-ブチルペルオキシ-ジイソプロピルベンゼン、t-ブチルクミルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ-t-ブチルペルオキシヘキサン、ジ-t-ブチルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ-t-ブチルペルオキシヘキシン-3等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。これらのなかでも、臭気が問題ない点で、ジ-t-ブチルペルオキシ-ジイソプロピルベンゼンが好適に用いられる。
【0022】
前記エチレン-プロピレン-ジエン系ゴム組成物における過酸化物架橋剤(B)の配合割合は、先に述べたように、EPDM(A)100重量部に対し、0.5~30重量部であり、好ましくは1~15重量部であり、より好ましくは2~10重量部である。すなわち、上記過酸化物架橋剤(B)が少なすぎると、架橋が不充分となり、ホース強度に悪影響を及ぼすおそれがあり、逆に、上記過酸化物架橋剤(B)が多すぎると、ホースが硬くなりすぎて柔軟性に劣るようになるからである。
【0023】
上記EPDM(A)および過酸化物架橋剤(B)とともに用いられるマレイン酸変性ポリブタジエン(C)としては、25℃での粘度が6,500~140,000mPa・sのものが好ましく用いられる。なかでも、EPDM(A)への混ざりやすさの観点から、25℃での粘度が100,000~140,000mPa・sのマレイン酸変性ポリブタジエンが、より好ましく用いられる。
【0024】
前記エチレン-プロピレン-ジエン系ゴム組成物におけるマレイン酸変性ポリブタジエン(C)の配合割合は、先に述べたように、EPDM(A)100重量部に対し、1~10重量部であり、好ましくは2~8重量部であり、より好ましくは3.5~4.9重量部である。このような配合割合とすることにより、所望の接着性向上効果を得やすくすることができるからである。
【0025】
上記EPDM(A)、過酸化物架橋剤(B)およびマレイン酸変性ポリブタジエン(C)とともに用いられるエポキシ樹脂(D)としては、特に限定はなく、例えば、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、トリフェニルグリシジルメタン型エポキシ樹脂、テトラフェニルグリシジルメタン型エポキシ樹脂、アミノフェノール型エポキシ樹脂、ジアミドジフェニルメタン型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、オルソクレゾール型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
【0026】
前記エチレン-プロピレン-ジエン系ゴム組成物におけるエポキシ樹脂(D)の配合割合は、先に述べたように、EPDM(A)100重量部に対し、0.17~35.7重量部であり、好ましくは0.34~28.6重量部であり、より好ましくは0.6~17重量部である。このような配合割合とすることにより、所望の接着性向上効果を得やすくすることができるからである。
【0027】
そして、前記エチレン-プロピレン-ジエン系ゴム組成物における、マレイン酸変性ポリブタジエン(C)のマレイン酸変性基数(c)と上記エポキシ樹脂(D)のエポキシ基数(d)とのモル比[(c)/(d)]は、先に述べたように、(c)/(d)=7/200~7/10の範囲であり、好ましくは、(c)/(d)=7/160~7/20の範囲であり、より好ましくは、(c)/(d)=7/80~7/40の範囲である。すなわち、上記の関係を満たさないと、層間の剥離状態を材料破壊まで底上げすることができず、目的とする接着強度が得られないからである。
【0028】
なお、前記エチレン-プロピレン-ジエン系ゴム組成物には、上記(A)~(D)成分に加えて、プロセスオイルとして、パラフィンオイルを含有することが、上記ゴム層の架橋阻害を生じることなく、より層間接着性に優れるようになるため、好ましい。
【0029】
その他、前記エチレン-プロピレン-ジエン系ゴム組成物には、カーボンブラック、老化防止剤、加工助剤、架橋促進剤、白色充填剤、反応性モノマー、発泡剤等を必要に応じて適宜配合しても差し支えない。
【0030】
前記エチレン-プロピレン-ジエン系ゴム組成物からなる特定のゴム層と積層形成される補強糸層に関し、上記補強糸層を形成する補強糸としては、特に限定はなく、例えば、ポリエチレンテレフタラート糸等のポリエステル糸、ポリビニルアルコール糸、アラミド(芳香族ポリアミド)糸、ポリアミド6,ポリアミド66等のポリアミド糸等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。これらのなかでも、よりホースの耐久性が優れるようになる点で、ポリエチレンテレフタラート糸、ポリアミド糸、ポリビニルアルコール糸が好適に用いられる。
【0031】
また、上記補強糸層が、接着剤によりディップ処理された補強糸層であると、より層間接着性に優れるようになるため、好ましい。
なお、上記ディップ処理された補強糸層は、ディップ処理を施した補強糸を編み組みして形成された層であっても、補強糸を編み組みして形成された補強糸層にディップ処理を施したものであってもよい。
【0032】
上記補強糸の編み組み方法は、特に限定はなく、例えば、スパイラル編み、ブレード編み等があげられる。
【0033】
つぎに、本発明のホースの製法について、
図1に示すホースを用いて具体的に説明する。すなわち、まず、前記(A)~(D)成分および必要に応じてその他の成分を配合し、これらをロール、ニーダー、バンバリーミキサー等の混練機を用いて混練することにより、前記特定のゴム層を形成するエチレン-プロピレン-ジエン系ゴム組成物を調製する。そして、上記エチレン-プロピレン-ジエン系ゴム組成物をホース状に押出成形した後、その押出成形物の外周面に、補強糸をスパイラル状に巻き付けて補強糸層2を形成する。ついで、上記補強糸層2の外周面に、上記エチレン-プロピレン-ジエン系ゴム組成物を押出成形し、その結果得られたホース状の積層体を所定の条件で加熱することにより、内側ゴム層1の外周面に補強糸層2が一体形成され、この補強糸層2の外周面に外側ゴム層3が一体形成されてなる3層構造(内側ゴム層1/補強糸層2/外側ゴム層3)のホース(
図1参照)を得ることができる。
【0034】
なお、上記エチレン-プロピレン-ジエン系ゴム組成物からなるゴム層(内側ゴム層1、外側ゴム層3)と補強糸層2との層間接着性は高いため、接着剤を塗布することなしに(接着剤レスで)、上記のような積層形成を行うことができるが、必要に応じて、接着剤を用いてもよい。
【0035】
また、上記内側ゴム層1の押出成形時に、ポリアミド樹脂からなる最内層を共押出成形し、上記内側ゴム層1と上記ポリアミド樹脂層との積層構造を有するようにすると、上記最内層であるポリアミド樹脂層により、強度や耐熱性等に優れるようになるとともに、上記ポリアミド樹脂層に対する上記内側ゴム層1の接着性が高いことから、より層間接着性に優れるようになる。
【0036】
このようにして得られるホースの寸法は、特に限定されるものではないが、ホース外径は、通常、8~50mm程度であり、ホースの総厚み(ホース壁厚)は、通常、1.8~6mm程度である。また、ホースを構成する各層の厚みも、各層の目的とする機能が充分に達成され得るような範囲内であれば特に限定はないが、例えば、内側ゴム層1の厚みは、通常、1~4mm程度であり、外側ゴム層3の厚みは、通常、0.8~2mm程度である。
【0037】
なお、本発明においては、上記内側ゴム層1および外側ゴム層3は、必ずしも前記(A)~(D)成分を用いて形成されてなる特定のゴム層で構成する必要はなく、上記内側ゴム層1および外側ゴム層3のいずれか一方を、前記(A)~(D)成分以外の汎用のゴム材料を用いてなる汎用ゴム層とすることも可能である。
【0038】
また、本発明のホースは、
図1に示すような、3層構造(内側ゴム層1/補強糸層2/外側ゴム層3)に限定されるものではなく、先に述べたように、特定のゴム層と、補強糸層との積層構造を有する2層以上の構造であれば、特に限定されるものではない。
【0039】
このようにして得られた本発明のホースの用途は、特に限定はないが、自動車等の車両におけるエンジンとラジエーターとの接続に用いられるラジエーターホース,エンジンとヒーターコアとの接続に用いられるヒーターホース等のエンジン冷却系ホース、クーラー用冷媒輸送ホース、メタノール燃料ホース,水素燃料ホース等の燃料電池車用ホース、ガソリン燃料ホース等の自動車用ホースとして好適に用いることができる。なお、EPDMは耐ガソリン性に劣るため、本発明のホースをガソリン燃料ホースとして用いる場合は、上記特定のゴム層は、ガソリンと直接することがないように、最内層以外の構成層として用いることが望ましい。
【実施例】
【0040】
つぎに、本発明の実施例について比較例と併せて説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0041】
まず、実施例および比較例に先立ち、ゴム層材料として、下記に示す材料を準備した。
【0042】
〔EPDM(A成分)〕
住友化学社製、エスプレン501A〔ヨウ素価:12、エチレン比率:50重量%〕
【0043】
〔過酸化物架橋剤(B成分)〕
ジ-t-ブチルペルオキシ-ジイソプロピルベンゼン(日油社製、パーブチルP)
【0044】
〔マレイン酸変性ポリブタジエン(C成分)〕
25℃での粘度が140,000mPa・sのマレイン酸変性ポリブタジエン(Cray Valley社製、RICOBOND1756)
【0045】
〔エポキシ樹脂(D成分)〕
ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂(三菱ケミカル社製、エピコート828)
【0046】
〔パラフィンオイル〕
出光興産社製、ダイアナプロセスPW-380
【0047】
〔アロマオイル〕
JXTGエネルギー社製、コウモレックス300
【0048】
また、補強糸として、以下の二種類を準備した。
【0049】
〔補強糸(i)〕
接着剤によりディップ処理されたポリエチレンテレフタラート糸(帝人社製、#2545T)
【0050】
〔補強糸(ii)〕
ポリアミド糸(帝人社製、AKPA66)
【0051】
[実施例1~9、比較例1~5]
まず、後記の表1および表2に示す各成分を同表に示す割合で配合し、ロールを用いて混練して、ゴム層用材料を調製した。なお、同表において、上記ゴム層用材料中のマレイン酸変性ポリブタジエン(C成分)のマレイン酸変性基数(c)とエポキシ樹脂(D成分)のエポキシ基数(d)とのモル比を、「(c)/(d)」として示した。そして、このゴム層用材料をホース状に押出成形した後、この押出成形物の外周面に編組機を用いて、後記の表1および表2に示す補強糸をスパイラル状に巻き付けて補強糸層を形成した。ついで、この補強糸層の外周面に、上記ゴム層用材料を押出成形した後、これらを160℃で45分間加熱することにより、内側ゴム層(厚み2mm)の外周面に補強糸層が一体形成され、さらにこの補強糸層の外周面に外側ゴム層(厚み2mm)が一体形成されてなるホース(外径:27mm)を作製した。
【0052】
このようにして得られた実施例および比較例のホースについて、下記の基準に従い、特性の評価を行った。これらの結果を、後記の表1および表2に併せて示した。
【0053】
〔接着性〕
上記ホースの層間接着性を評価するため、ゴム層用材料と補強糸の組合せを後記の表1および表2に示す通りとし、ゴム層用材料と、鉄板に巻きつけた補強糸を貼り合わせ、160℃で45分プレス架橋して、厚み2mmのゴム層と鉄板に巻きつけた補強糸との積層シートを作製した。
このシートを1inch幅(25.4mm幅)に裁断したものを試験用サンプルとした。
そして、上記サンプルを、JIS B 7721に準拠した引張試験機に取り付けて、ゴム層側を固定して、鉄板(補強糸層側)を毎分50mmの速度で引張り、接着力(N/inch)を測定した。
また、その際に補強糸とゴム層との剥離状態も目視により観察し、ゴム層が材料破壊されたものを「材破」、材料破壊まではいかないもののゴム層の表層部分が剥がれた状態となったものを「ゴム表層剥がれ」、補強糸とゴム層の界面が剥離したものを「界面」と表記した。
そして、接着性評価として、以下の基準で評価した。
○・・・上記接着力が100N/inch以上で、かつ、上記剥離状態が「材破」
△・・・上記接着力が90N/inchを上回るとともに100N/inch未満であり、かつ、上記剥離状態が「ゴム表層剥がれ」
×・・・上記接着力が90N/inch以下で、かつ、上記剥離状態が「界面」
【0054】
【0055】
【0056】
上記表の結果より、実施例のホースは、ゴム層破壊(ゴム層の表層部分が剥がれた状態も含む)が生じており、高い層間接着性が得られている。
これに対して、比較例1~4では、[(c)/(d)]が7/200~7/10の範囲から外れるため、接着性評価に劣る結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の自動車用ホースは、自動車等の車両におけるエンジンとラジエーターとの接続に用いられるラジエーターホース,エンジンとヒーターコアとの接続に用いられるヒーターホース等のエンジン冷却系ホース、クーラー用冷媒輸送ホース、メタノール燃料ホース,水素燃料ホース等の燃料電池車用ホース、ガソリン燃料ホース等の自動車用ホースとして好適に用いることができる。また、本発明の自動車用ホースは、自動車用のみならず、その他の輸送機械(飛行機,フォークリフト,ショベルカー,クレーン等の産業用輸送車両、鉄道車両等)にも利用可能である。
【符号の説明】
【0058】
1 内側ゴム層
2 補強糸層
3 外側ゴム層