(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-08
(45)【発行日】2022-07-19
(54)【発明の名称】防振装置
(51)【国際特許分類】
F16F 13/10 20060101AFI20220711BHJP
【FI】
F16F13/10 L
F16F13/10 F
(21)【出願番号】P 2018136125
(22)【出願日】2018-07-19
【審査請求日】2021-04-05
(31)【優先権主張番号】P 2018043837
(32)【優先日】2018-03-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001966
【氏名又は名称】特許業務法人笠井中根国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100103252
【氏名又は名称】笠井 美孝
(74)【代理人】
【識別番号】100147717
【氏名又は名称】中根 美枝
(72)【発明者】
【氏名】古町 直基
(72)【発明者】
【氏名】安田 恭宣
(72)【発明者】
【氏名】市川 浩幸
【審査官】後藤 健志
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第105820583(CN,A)
【文献】特開2016-008709(JP,A)
【文献】特表2010-518333(JP,A)
【文献】特開2016-114144(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 13/10
F16F 1/38- 1/393
B60K 5/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の取付部材と
該第一の取付部材の外周側に離れて取付けられた第二の取付部材が本体ゴム弾性体によって弾性連結されている防振装置において、
前記本体ゴム弾性体の上部が小径部分とされていると共に、該本体ゴム弾性体の下部が大径部分とされて、該本体ゴム弾性体の該小径部分に前記第一の取付部材が固着されていると共に、該本体ゴム弾性体の該大径部分に前記第二の取付部材が固着されて
おり、該本体ゴム弾性体が該第一の取付部材の外周面と該第二の取付部材の内周面とを中実構造をもって連結している一方、
該第一の取付部材には外周面に開口するインナ凹部が形成されて、該本体ゴム弾性体の該小径部分が該インナ凹部に固着されていると共に、該インナ凹部に固着された部分における該本体ゴム弾性体の外径寸法が該インナ凹部よりも下側における該第一の取付部材の外径寸法に比して大きくされており、該本体ゴム弾性体の該小径部分が該インナ凹部に固着されることで厚肉化されている
と共に、
該インナ凹部の内面は深さ寸法が最大となる最深部から上下両側に向けて外周へ傾斜するテーパ形状を有していることを特徴とする防振装置。
【請求項2】
前記インナ凹部の最深部の内面が外周へ向けて凹となる湾曲面とされている請求項
1に記載の防振装置。
【請求項3】
前記本体ゴム弾性体の前記小径部分の外周面が外周に向けて凹となる凹状湾曲面を有しており、該凹状湾曲面の最深部よりも該インナ凹部の最深部が下側に位置している請求項1
又は2に記載の防振装置。
【請求項4】
前記第一の取付部材の下面が前記本体ゴム弾性体の前記大径部分によって覆われている請求項1~
3の何れか一項に記載の防振装置。
【請求項5】
前記インナ凹部が前記第一の取付部材の全周に亘って連続して設けられている請求項1~
4の何れか一項に記載の防振装置。
【請求項6】
前記第一の取付部材において外周へ突出する突出部が前記インナ凹部よりも上側に設けられている請求項1~
5の何れか一項に記載の防振装置。
【請求項7】
前記第一の取付部材には、前記インナ凹部よりも軸方向下方において外周面に開口して周方向に延びる周溝状凹部が設けられており、該周溝状凹部の外周面と前記第二の取付部材の内周面と
の間が前記本体ゴム弾性体で連結されている請求項1~
6の何れか一項に記載の防振装置。
【請求項8】
前記本体ゴム弾性体の前記大径部分側の軸方向外方には、該本体ゴム弾性体で壁部の一部が構成されて非圧縮性流体が封入されることにより、振動入力時に圧力変動が生ぜしめられる受圧室が形成されている請求項1~
7の何れか一項に記載の防振装置。
【請求項9】
前記第一の取付部材において、前記本体ゴム弾性体の小径側端部から軸方向内方に入り込んだ軸方向下方の端面が、軸直角方向に広がる平坦部を中央部分に有していると共に、該平坦部の外周が滑らかに湾曲して該第一の取付部材の外周面につながった外周面取り形状とされている請求項
8に記載の防振装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車のエンジンマウントなどに適用される防振装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、パワーユニットと車両ボデーを防振連結するエンジンマウントなどに適用される防振装置が知られている。防振装置は、例えば特開2016-065556号公報(特許文献1)に開示された液封入式防振装置のように、振動伝達系構成部材の各一方に取り付けられる第一の取付部材としての内筒と第二の取付部材としての外筒の間が、本体ゴム弾性体としての脚基体で連結された構造を有している。そして、内筒と外筒の間に軸方向の振動が入力されると、脚基体の弾性変形によって防振性能が発揮されるようになっている。
【0003】
ところで、特許文献1の脚基体は、軸方向上部が下部よりも小径とされたテーパ形状とされていることから、内筒と外筒の間に軸方向の荷重が入力されると、小径とされた軸方向上部に応力が集中し易く、皺状の変形や亀裂などが軸方向上部において発生するおそれがあった。
【0004】
そこで、特許文献1では、内筒の外周面に開口する内筒凹部が、内筒において脚基体の上端部が固着される部分に設けられていると共に、内筒凹部に対応する連結部凹部が脚基体の上部において外周面に開口するように形成されており、脚基体の上端部は、内筒凹部の上下壁面を構成する内筒の第1突出部と第2突出部の間に配されていることで、軸方向荷重の入力時にほとんど変形しない構造とされている。
【0005】
しかしながら、特許文献1の構造では、第1突出部から脚基体への軸方向入力の伝達が連結部凹部の形成によって大幅に低減されることから、脚基体において剪断ばね成分が支配的となって圧縮ばね成分が小さくなることで、ばね特性のチューニング自由度が低下するおそれがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述の事情を背景に為されたものであって、その解決課題は、ばね特性のチューニング自由度を大きく得ながら、本体ゴム弾性体の小径部分における応力集中を緩和して耐久性の向上を図ることができる、新規な構造の防振装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、このような課題を解決するために為された本発明の態様を記載する。なお、以下に記載の各態様において採用される構成要素は、可能な限り任意の組み合わせで採用可能である。
【0009】
すなわち、本発明の第一の態様は、第一の取付部材と該第一の取付部材の外周側に離れて取付けられた第二の取付部材が本体ゴム弾性体によって弾性連結されている防振装置において、前記本体ゴム弾性体の上部が小径部分とされていると共に、該本体ゴム弾性体の下部が大径部分とされて、該本体ゴム弾性体の該小径部分に前記第一の取付部材が固着されていると共に、該本体ゴム弾性体の該大径部分に前記第二の取付部材が固着されており、該本体ゴム弾性体が該第一の取付部材の外周面と該第二の取付部材の内周面とを中実構造をもって連結している一方、該第一の取付部材には外周面に開口するインナ凹部が形成されて、該本体ゴム弾性体の該小径部分が該インナ凹部に固着されていると共に、該インナ凹部に固着された部分における該本体ゴム弾性体の外径寸法が該インナ凹部よりも下側における該第一の取付部材の外径寸法に比して大きくされており、該本体ゴム弾性体の該小径部分が該インナ凹部に固着されることで厚肉化されていると共に、
該インナ凹部の内面は深さ寸法が最大となる最深部から上下両側に向けて外周へ傾斜するテーパ形状を有していることを、特徴とする。
【0010】
このような第一の態様に従う構造とされた防振装置によれば、本体ゴム弾性体の弾性変形に際して応力が集中し易い小径部分において、第一の取付部材にインナ凹部が形成されていることで厚さ寸法が大きく確保されており、小径部分において応力の分散化が図られることによって、本体ゴム弾性体の耐久性の向上が図られる。
【0011】
しかも、本体ゴム弾性体におけるインナ凹部への固着部分は、インナ凹部に全体が入り込んで配されることなく、第一の取付部材におけるインナ凹部よりも下側部分に対して外周に突出していることから、上下方向の振動入力に対して弾性変形が生じ易くなっている。それ故、本体ゴム弾性体の実質的な厚さがインナ凹部によって大きくされていると共に、第一の取付部材から下向きの力が入力される際に、本体ゴム弾性体の圧縮ばね成分を得易く、本体ゴム弾性体においてばね特性のチューニング自由度を大きく得ることができる。
【0013】
また、インナ凹部の上下幅寸法が開口に向けて大きくなっていることから、インナ凹部内の本体ゴム弾性体が振動入力時に変形し易く、インナ凹部の形成による応力の分散化がより有利に実現される。また、第一の取付部材におけるインナ凹部の内面から本体ゴム弾性体へ下向きの力が効率的に伝達されて、本体ゴム弾性体の圧縮ばね成分を有効に得ることができることから、本体ゴム弾性体のばね特性を大きな自由度でチューニングすることができる。
【0014】
本発明の第二の態様は、第一の態様に記載された防振装置において、前記インナ凹部の最深部の内面が外周へ向けて凹となる湾曲面とされているものである。
【0015】
第二の態様によれば、インナ凹部の最深部の内面が湾曲面とされていることで、インナ凹部において最深部を含む深さ寸法の大きな部分が、上下方向で広い領域に亘って設定されて、本体ゴム弾性体の厚肉化による耐久性の向上が有利に実現され得る。しかも、インナ凹部の内面が最深部において角をなさない形状とされていることにより、本体ゴム弾性体におけるインナ凹部の最深部への固着部分において、応力の分散化による耐久性の向上などが図られる。
【0016】
本発明の第三の態様は、第一又は第二の態様に記載された防振装置において、前記本体ゴム弾性体の前記小径部分の外周面が外周に向けて凹となる凹状湾曲面を有しており、該凹状湾曲面の最深部よりも該インナ凹部の最深部が下側に位置しているものである。
【0017】
第三の態様によれば、本体ゴム弾性体の外周面が凹状湾曲面を有していることで、本体ゴム弾性体の外周面において自由表面が大きく確保されており、本体ゴム弾性体の耐久性の向上が図られる。しかも、万が一、凹状湾曲面の最深部付近で本体ゴム弾性体に亀裂が生じたとしても、亀裂の伸展がインナ凹部の内面によって抑制され易く、信頼性の向上が図られ得る。特に、流体封入式防振装置では、流体封入領域の壁部を構成する本体ゴム弾性体の大径部分まで亀裂が進展するのを防ぐことで、流体の漏れを防止することができて、目的とする防振性能が維持され易くなる。
【0018】
本発明の第四の態様は、第一~第三の何れか1つの態様に記載された防振装置において、前記第一の取付部材の下面が前記本体ゴム弾性体の前記大径部分によって覆われているものである。
【0019】
第四の態様によれば、本体ゴム弾性体の自由表面が大きく確保されることで、本体ゴム弾性体の耐久性の向上が図られ得る。更に、例えば、流体封入式防振装置において、第一の取付部材が流体封入領域に露出するのを防ぐことで、第一の取付部材の侵食などを防いで耐久性の向上が図られる。
【0020】
本発明の第五の態様は、第一~第四の何れか1つの態様に記載された防振装置において、前記インナ凹部が前記第一の取付部材の全周に亘って連続して設けられているものである。
【0021】
第五の態様によれば、本体ゴム弾性体の小径部分がインナ凹部によって全周に亘って厚肉化されることから、本体ゴム弾性体の小径部分に作用する応力が全周に亘って緩和されて、耐久性の向上がより有利に図られる。特に、インナ凹部を周方向で略一定の断面形状とすれば、応力集中を防ぐことができて、耐久性をより有利に確保できる。
【0022】
本発明の第六の態様は、第一~第五の何れか1つの態様に記載された防振装置において、前記第一の取付部材において外周へ突出する突出部が前記インナ凹部よりも上側に設けられているものである。
【0023】
第六の態様によれば、突出部に本体ゴム弾性体の上端部分が固着されることによって、本体ゴム弾性体の第一の取付部材に対する固着面積が大きく確保される。また、第一の取付部材の突出部から本体ゴム弾性体の上端部分へ下向きの力が及ぼされることによって、本体ゴム弾性体において圧縮ばね成分がより大きくなることから、本体ゴム弾性体のばね特性をより大きな自由度でチューニングすることができる。
【0024】
本発明の第七の態様は、第一~第六の何れか1つの態様に記載された防振装置において、前記第一の取付部材には、前記インナ凹部よりも軸方向下方において外周面に開口して周方向に延びる周溝状凹部が設けられており、該周溝状凹部の外周面と前記第二の取付部材の内周面との対向面間が前記本体ゴム弾性体で連結されているものである。
【0025】
第七の態様によれば、第一の取付部材に周溝状凹部が設けられていることで、軸方向に対して傾斜する方向において、本体ゴム弾性体の自由長を大きく確保することが可能となって、傾斜方向の入力に対する本体ゴム弾性体の耐久性の向上が図られる。しかも、周溝状凹部が第一の取付部材の軸方向中間部分に形成されていることから、第一の取付部材の下端面の軸方向投影面積を大きく得ることができる。それ故、例えば、壁部の一部が本体ゴム弾性体で構成されて非圧縮性流体が封入された受圧室が、本体ゴム弾性体の下側に形成された流体封入式防振装置に本態様を適用すれば、上下方向乃至は傾斜方向の入力に対して受圧室の圧力変動を大きく得ることも可能になる。
【0026】
本発明の第八の態様は、第一~第七の何れか1つの態様に記載された防振装置において、前記本体ゴム弾性体の前記大径部分の軸方向外方には、該本体ゴム弾性体で壁部の一部が構成されて非圧縮性流体が封入されることにより、振動入力時に圧力変動が生ぜしめられる受圧室が形成されているものである。
【0027】
第八の態様によれば、応力集中の緩和によって本体ゴム弾性体の耐久性の低下を回避しつつ、第一の取付部材の軸方向投影面積の確保によって、有効ピストン面積乃至は拡張ばねを大きく得ることができる。さらに、第七の態様と組み合わせて採用すれば、第一の取付部材の軸方向投影面積を確保しながら、本体ゴム弾性体の有効自由長を傾斜方向で長く得ることができて、傾斜方向の入力に対する本体ゴム弾性体の耐久性の向上も図られる。
【0028】
本発明の第九の態様は、第八の態様に記載された防振装置において、前記第一の取付部材において、前記本体ゴム弾性体の小径側端部から軸方向内方に入り込んだ軸方向下方の端面が、軸直角方向に広がる平坦部を中央部分に有していると共に、該平坦部の外周が滑らかに湾曲して該第一の取付部材の外周面につながった外周面取り形状とされているものである。
【0029】
第九の態様によれば、第一の取付部材の下端面に平坦部が設けられていることで、上下方向の振動入力に対して、受圧室の内圧が効率的に変動せしめられて、例えば、流体の流動作用による防振効果などを有利に得ることができる。さらに、平坦部の外周が滑らかに湾曲する外周面取り形状とされて、第一の取付部材の下端面と外周面が滑らかに連続していることにより、下端面と外周面のつなぎ部分に固着された本体ゴム弾性体の応力集中が緩和されて、本体ゴム弾性体の耐久性の向上が図られる。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、第一の取付部材の外周面に開口するインナ凹部が形成されていると共に、本体ゴム弾性体の小径部分がインナ凹部に固着されていることから、本体ゴム弾性体の弾性変形に際して応力が集中し易い小径部分の厚さ寸法がインナ凹部によって大きく確保されており、本体ゴム弾性体の耐久性の向上が図られる。更に、本体ゴム弾性体におけるインナ凹部への固着部分が、第一の取付部材におけるインナ凹部よりも下側部分に対して外周に突出しており、上下方向の振動入力に対して弾性変形が生じるようになっていることから、第一の取付部材から下向きの力が入力される際に、本体ゴム弾性体の圧縮ばね成分を得易く、本体ゴム弾性体においてばね特性のチューニング自由度を大きく得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】本発明の第一の実施形態としてのエンジンマウントを示す縦断面図。
【
図2】本発明の第二の実施形態としてのエンジンマウントを示す縦断面図。
【
図3】
図2に示すエンジンマウントを構成する第一の取付部材の斜視図。
【
図4】本発明の別の一実施形態としてのエンジンマウントを構成する第一の取付部材の斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0033】
図1には、本発明に従う構造とされた防振装置の第一の実施形態として、自動車用のエンジンマウント10が示されている。エンジンマウント10は、第一の取付部材12と第二の取付部材14が本体ゴム弾性体16によって相互に弾性連結された構造を有している。なお、以下の説明において、上下方向とは、マウント中心軸方向であり、主たる振動の入力方向でもある
図1中の上下方向を言う。
【0034】
より詳細には、第一の取付部材12は、金属などで形成された高剛性の部材であって、小径の略円柱形状を呈する本体部18と、本体部18の上端部において外周へ突出する突出部としてのフランジ状部20とを、一体的に備えている。また、本体部18には、中心軸上を上下方向に延びて上面に開口するねじ穴22が形成されている。さらに、第一の取付部材12の本体部18の下端面23は、中央部分が軸直角方向に広がる略円形の平坦部23aとされていると共に、平坦部23aの外周が、滑らかに湾曲して本体部18の外周面につながる外周面取り形状を有する環状の湾曲部23bとされている。
【0035】
さらに、第一の取付部材12の本体部18には、外周面に開口するインナ凹部24が形成されている。インナ凹部24は、本体部18の上部に形成されており、本実施形態では全周に亘って連続する凹溝状とされている。更に、インナ凹部24は、軸方向の断面形状(縦断面形状)において、最も深さ寸法の大きい最深部26が上下中間部分に位置していると共に、最深部26から上下外側に向けて外周へ傾斜するテーパ形状の内面を有しており、最深部26から上下に離れるに従って深さ寸法が徐々に小さくなっている。なお、最深部26は、インナ凹部24の内面において、軸直角方向でマウント中心軸(
図1中の一点鎖線)に最も接近する点を言う。
【0036】
より具体的には、本実施形態のインナ凹部24の内面は、最深部26を含む上下中間部分が縦断面において略円弧状をなす湾曲面28とされていると共に、円弧状湾曲面28の接線方向に延びるテーパ面30,32が円弧状湾曲面28の上下両端と連続して設けられて構成されている。更に、上側のテーパ面30は、上側に向けて外周へ傾斜しており、上端がフランジ状部20の下面に滑らかに繋がっていると共に、下側のテーパ面32は、下側に向けて外周へ傾斜していると共に、下端がインナ凹部24を外れた本体部18の外周面に滑らかに繋がっている。なお、上記からも分かるように、フランジ状部20は、インナ凹部24よりも上側に設けられている。
【0037】
さらに、本実施形態のインナ凹部24は、上下方向の最大幅寸法が第一の取付部材12の本体部18の上下寸法に対して1/4倍~1/2倍であることが望ましい。更にまた、インナ凹部24は、好適には最深部26が本体部18の上下方向中央よりも上側に位置している。更に、インナ凹部24は、径方向の深さが上下方向の幅よりも小さくされており、上下方向の最大幅寸法に対する径方向の最大深さ寸法の比が、好適には1/2~1/4とされる。
【0038】
更にまた、インナ凹部24の内面を構成する上側のテーパ面30は、上下方向に対する傾斜角度が20°~70°であることが望ましい。一方、インナ凹部24の内面を構成する下側のテーパ面32は、上下方向に対する傾斜角度が20°~70°であることが望ましく、本実施形態では対応する本体ゴム弾性体16の外周面と略同じ角度で傾斜している。なお、本実施形態の上下のテーパ面30,32は、縦断面において略直線的に延びており、上下方向に対する傾斜角度が全体に亘って略一定とされているが、例えば、上下のテーパ面は、縦断面において湾曲面とされて、上下方向に対する傾斜角度が変化していても良い。
【0039】
第二の取付部材14は、第一の取付部材12と同様に金属などで形成されて、薄肉大径の略円筒形状を有しており、上下方向の中間部分に段差部34が設けられて、段差部34よりも上側が大径筒部36とされていると共に、段差部34よりも下側が小径筒部38とされている。
【0040】
そして、第一の取付部材12と第二の取付部材14は、略同一中心軸上に配されて、本体ゴム弾性体16によって相互に弾性連結されている。本体ゴム弾性体16は、上部が小径部分40とされるとともに下部が大径部分42とされた略円錐台形状を有しており、第一の取付部材12における本体部18の表面とフランジ状部20の下面とが本体ゴム弾性体16の小径部分40に加硫接着されていると共に、第二の取付部材14の内周面が本体ゴム弾性体16の大径部分42の外周面に加硫接着されている。本実施形態の本体ゴム弾性体16は、第一の取付部材12と第二の取付部材14を備える一体加硫成形品として形成されている。
【0041】
なお、本体ゴム弾性体16は、第二の取付部材14が固着されている部分が大径側端部を含む大径部分42とされていると共に、大径部分42よりも上側に位置して大径部分42よりも小径とされた部分が小径側端部を含む小径部分40とされており、本実施形態では、軸方向の断面形状において、小径部分40が略円錐台形状を有していると共に、大径部分42が略円柱形状を有している。また、第一の取付部材12は、少なくとも小径部分40に固着されていれば、大径部分42には固着されていても良いし、固着されていなくても良い。
【0042】
本実施形態では、第一の取付部材12が、本体ゴム弾性体16の小径側端面(上面)から大径側端部(下端部)に向かって差し入れられており、本体部18の外周面が本体ゴム弾性体16に埋入した状態で配されている。特に第一の取付部材12の軸方向長さは、本体ゴム弾性体16の軸方向全長の3/5以上の長さとされており、第二の取付部材14が固着された本体ゴム弾性体16の大径部分42にまで達している。即ち、本実施形態において、第一の取付部材12の先端(下端)は、第二の取付部材14の本体ゴム弾性体16に対する固着面に対して、軸直角方向の投影でオーバーラップする位置に配されている。
【0043】
さらに、本体ゴム弾性体16の大径部分42は、下面に開口する凹所44を備えている。凹所44は、略皿状を呈しており、開口側である下側に向けて大径となっている。更にまた、薄肉大径のシールゴム層46が、本体ゴム弾性体16における凹所44の開口周縁部分から下方へ延び出すように一体形成されて、第二の取付部材14の小径筒部38の内周面に固着されている。なお、第一の取付部材12の本体部18の下面は、凹所44の上底壁部を構成する本体ゴム弾性体16の大径部分42によって覆われている。
【0044】
また、本体ゴム弾性体16の小径部分40は、上部においてインナ凹部24の内面に固着されている。本体ゴム弾性体16の小径部分40は、内周部分がインナ凹部24の全体を充填するように配されて、インナ凹部24の内面に加硫接着されていると共に、外周部分がインナ凹部24の開口(
図1中の二点鎖線)よりも外周に位置している。また、本体ゴム弾性体16は、第一の取付部材12の本体部18におけるインナ凹部24より下側部分の外径寸法に比して、インナ凹部24に固着された小径部分40の外径寸法が大きくされていると共に、小径部分40がインナ凹部24よりも下方に向かって次第に外径が大きくなっている。本実施形態の本体ゴム弾性体16の小径部分40は、外周面が外周へ向けて凹となる凹状湾曲面48を備えており、凹状湾曲面48において径方向の深さ寸法が最大となる最深部50が、第一の取付部材12におけるインナ凹部24よりも下側部分であるインナ凹部24の開口の下側縁部に対して、軸方向投影において外周に外れて位置している。なお、凹状湾曲面48は、最深部50から上下両側へ向けて外周へ傾斜するように湾曲しており、最深部50よりも下側部分が、下方へ向けて外周へ傾斜するテーパ状外周面51を構成している。また、最深部50は、凹状湾曲面48の内面において、軸直角方向でマウント中心軸(
図1中の一点鎖線)に最も接近する点を言う。
【0045】
このように、本体ゴム弾性体16の小径部分40の上部は、インナ凹部24の内面に固着されて、インナ凹部24の形成部分において径方向で厚肉化されている。本実施形態では、インナ凹部24が全周に亘って連続的に設けられていることから、本体ゴム弾性体16の小径部分40がインナ凹部24によって全周に亘って厚肉化されている。なお、インナ凹部24の最深部26は、本体ゴム弾性体16の凹状湾曲面48の開口領域内に位置していると共に、凹状湾曲面48の最深部50よりも下側に位置している。
【0046】
さらに、本体ゴム弾性体16の小径部分40の上端は、第一の取付部材12のフランジ状部20の下面に固着されている。なお、本体ゴム弾性体16の小径部分40は、凹状湾曲面48よりも上側において、第一の取付部材12のフランジ状部20に固着されている。さらに、フランジ状部20の下面に固着される小径部分40の上端部は、最深部50よりも上側において上方に向かって大径とされている。
【0047】
また、本体ゴム弾性体16に固着された第二の取付部材14には、可撓性膜52が取り付けられている。可撓性膜52は、撓み変形および伸縮変形を許容された薄肉のゴム膜であって、全体として略円板形状とされていると共に、外周部分が内周部分よりも更に薄肉とされて十分な弛みが与えられている。
【0048】
さらに、可撓性膜52の外周面には、環状乃至は筒状の固定部材54が固着されている。固定部材54は、金属などで形成されており、シールゴム層46で覆われた第二の取付部材14の小径筒部38に固定されている。本実施形態では、固定部材54が第二の取付部材14の小径筒部38に差し入れられた後、第二の取付部材14に八方絞りなどの縮径加工が施されることによって、固定部材54の外周面がシールゴム層46を介して第二の取付部材14の小径筒部38の内周面に押し付けられることで、固定部材54が第二の取付部材14に固定されている。更に、第二の取付部材14の小径筒部38の下端部が縮径時に内周へ曲げられていることによって、固定部材54の下側への抜けが防止されている。
【0049】
このように可撓性膜52が第二の取付部材14に取り付けられることにより、本体ゴム弾性体16と可撓性膜52の軸方向間には、外部から隔てられた流体封入領域56が形成されており、非圧縮性流体が封入されている。流体封入領域56に封入される非圧縮性流体は、特に限定されるものではないが、例えば、水やエチレングリコール、アルキレングリコール、ポリアルキレングリコール、シリコーン油、或いはそれらの混合液などの液体が望ましく、より好適には0.1Pa・s以下の低粘性流体が採用される。
【0050】
なお、本実施形態では、第一の取付部材12の本体部18の下面が本体ゴム弾性体16の大径部分42によって覆われており、流体封入領域56の上底壁面は、第一の取付部材12の本体部18が露出することなく、略全面が本体ゴム弾性体16によって構成されている。これにより、流体封入領域56に封入された流体による第一の取付部材12の侵食が防止されており、第一の取付部材12の耐久性の向上が図られている。
【0051】
また、流体封入領域56には、仕切部材58が配されている。仕切部材58は、金属や硬質の合成樹脂で形成されており、全体として略円板形状とされている。更に、仕切部材58の外周端部には、外周面に開口しながら周方向へ延びる周溝60が1周に満たない長さで形成されている。
【0052】
そして、仕切部材58は、第二の取付部材14の小径筒部38の内周に差し入れられて、流体封入領域56において略軸直角方向に広がるように配されており、外周面がシールゴム層46を介して小径筒部38の内周面に押し付けられることで、第二の取付部材14に対して固定されている。なお、仕切部材58は、可撓性膜52の固定部材54と同様に、例えば第二の取付部材14の縮径加工によって、第二の取付部材14に固定される。
【0053】
さらに、仕切部材58は、流体封入領域56を上下に二分しており、流体封入領域56における仕切部材58よりも上側が、壁部の一部が本体ゴム弾性体16で構成された受圧室62とされていると共に、流体封入領域56における仕切部材58よりも下側が、壁部の一部が可撓性膜52で構成された平衡室64とされている。なお、受圧室62と平衡室64には、上記非圧縮性流体が封入されている。また、受圧室62は、本体ゴム弾性体16の大径部分42の軸方向外方(下方)に設けられている。
【0054】
更にまた、仕切部材58に設けられた周溝60の外周開口は、シールゴム層46を介して第二の取付部材14によって流体密に覆蓋されており、周方向に延びるトンネル状の流路が形成されている。そして、トンネル状流路の一方の端部が上連通口66を通じて受圧室62に連通されると共に、他方の端部が下連通口68を通じて平衡室64に連通されることにより、受圧室62と平衡室64を相互に連通するオリフィス通路70が形成されている。本実施形態のオリフィス通路70は、通路断面積と通路長の比を調節することによって、流動流体の共振周波数であるチューニング周波数が、エンジンシェイクに相当する10Hz程度の低周波に設定されている。尤も、オリフィス通路70のチューニング周波数は、特に限定されない。
【0055】
かくの如き構造とされたエンジンマウント10は、例えば、第一の取付部材12が図示しないパワーユニットに取り付けられると共に、第二の取付部材14が同じく図示しない車両ボデーに取り付けられることにより、車両に装着されている。そして、車両への装着状態において、エンジンマウント10に上下方向の振動が入力されると、本体ゴム弾性体16の弾性変形による振動減衰作用などの防振効果が発揮されると共に、受圧室62と平衡室64の相対的な圧力変動に基づいてオリフィス通路70を通じた流体流動が生ぜしめられて、流体の流動作用に基づく防振効果が発揮される。
【0056】
本実施形態では、第一の取付部材12の下端面23が平坦部23aを備えていることによって、ピストン効率の向上による優れた防振性能の発揮が図られている。しかも、平坦部23aの外周側が湾曲部23bとされていることで、第一の取付部材12における下端面23と外周面のつなぎ部分における本体ゴム弾性体16の応力集中が防止されている。
【0057】
ここにおいて、上下方向の振動入力に際して応力が集中し易い本体ゴム弾性体16の小径部分40の上部が、インナ凹部24によって厚肉化されていることから、本体ゴム弾性体16の小径部分40の上部において応力の集中が緩和されて、本体ゴム弾性体16の耐久性の向上が図られる。
【0058】
特に本実施形態では、凹状湾曲面48の最深部50がインナ凹部24の外周に位置しており、薄肉となり易い凹状湾曲面48の最深部50においてインナ凹部24による小径部分40の厚肉化が図られている。このように、本体ゴム弾性体16の小径部分40において特に薄肉となって応力が集中し易い部分が、インナ凹部24によって厚肉化されることで、小径部分40における耐久性の向上がより有利に図られる。
【0059】
また、本体ゴム弾性体16においてインナ凹部24の外周に位置する部分の外周面が、インナ凹部24よりも下側における本体部18の外周面に対して、より外周に位置している。これにより、本体ゴム弾性体16においてインナ凹部24の開口よりも外周に位置する部分は、上下方向の振動入力時に、インナ凹部24の内面によって拘束され難く、弾性変形が許容されている。その結果、第一の取付部材12からの下向きの入力が本体ゴム弾性体16に効率的に伝達されることから、本体ゴム弾性体16の上下方向の圧縮ばね成分を大きく得ることができて、ばね特性を大きな自由度でチューニングすることができる。
【0060】
しかも、本実施形態では、インナ凹部24の内面が、最深部26から軸方向両側に向けて外周へ傾斜する上下のテーパ面30,32を有している。それ故、上側のテーパ面30によって、第一の取付部材12から本体ゴム弾性体16へ下向きの力が及ぼされ易くなっていると共に、インナ凹部24の内面から本体ゴム弾性体16へ及ぼされた下向きの力が、下側のテーパ面32によって妨げられることなく、本体ゴム弾性体16の大径部分42へ効率的に伝達される。このように、インナ凹部24の外周に配された本体ゴム弾性体16は、上下方向の振動入力時に変形するようになっていることから、本体ゴム弾性体16の小径部分40の実質的なゴムボリュームが、インナ凹部24によって大きく確保されており、小径部分40の耐久性の向上が有効に実現されている。
【0061】
特に本実施形態では、第一の取付部材12の上端部に外周へ突出するフランジ状部20が設けられており、フランジ状部20の下面に本体ゴム弾性体16の上端が固着されている。これにより、第一の取付部材12から本体ゴム弾性体16へ下向きの力がより有利に及ぼされる。しかも、本体ゴム弾性体16の上端における第一の取付部材12への固着面積が大きく確保されて、第一の取付部材12と本体ゴム弾性体16の固着強度を大きく得ることもできる。
【0062】
さらに、インナ凹部24の最深部26付近の内面が、縦断面において外周へ向けて凹となる円弧状湾曲面28とされていることにより、本体ゴム弾性体16においてインナ凹部24の最深部26に固着される部分の応力集中が緩和される。また、インナ凹部24において最深部26を含む深さ寸法の大きな領域が、円弧状湾曲面28によって上下にある程度の幅をもって設定されていることにより、本体ゴム弾性体16の小径部分40がインナ凹部24によって上下方向の広い範囲に亘って厚肉化されている。
【0063】
更にまた、インナ凹部24が全周に亘って連続する環状とされていることにより、インナ凹部24の形成による本体ゴム弾性体16の小径部分40の厚肉化が全周に亘って実現されており、応力の分散化による本体ゴム弾性体16の耐久性の向上がより効果的に実現される。しかも、本実施形態では、インナ凹部24が全周に亘って略一定の断面形状を有していることにより、インナ凹部24の断面形状の変化に起因する応力の集中も回避されており、本体ゴム弾性体16の耐久性の向上がより有利に図られている。
【0064】
また、本体ゴム弾性体16の小径部分40の外周面が、外周に向けて凹となる凹状湾曲面48を備えており、インナ凹部24の最深部26が、凹状湾曲面48において最も内周に位置する最深部50よりも下側に位置している。これにより、仮に凹状湾曲面48の最深部50付近で本体ゴム弾性体16の小径部分40に亀裂が発生したとしても、亀裂の伸展がインナ凹部24の内面によって抑制されて、亀裂が本体ゴム弾性体16の大径部分42まで到達し難くなる。
【0065】
さらに、本体ゴム弾性体16の圧縮によるひずみや応力は、本体ゴム弾性体16の存在する側である凹状湾曲面48の最深部50よりも下側において、上側よりも大きく発生し易い。それ故、凹状湾曲面48の最深部50よりもインナ凹部24の最深部26を下方に位置せしめて、応力やひずみの大きくなる部位におけるゴム厚さを大きく設定することで、ひずみや応力の軽減を図ることも可能になる。
【0066】
また、第一の取付部材12の本体部18の下端面23が本体ゴム弾性体16によって覆われており、受圧室62の上底壁面が全体に亘って本体ゴム弾性体16で構成されていることにより、受圧室62の壁面において本体ゴム弾性体16の自由表面が大きく確保されて、本体ゴム弾性体16の耐久性の向上が図られている。
【0067】
図2には、本発明に係る防振装置の第二の実施形態として、自動車用のエンジンマウント80を示す。エンジンマウント80は、第一の取付部材82と第二の取付部材14が本体ゴム弾性体16によって弾性連結された構造を有している。以下の説明において、第一の実施形態と実質的に同一の部材および部位については、図中に同一の符号を付すことで、説明を省略する。
【0068】
より詳細には、第一の取付部材82は、
図3にも示すように、本体部18の軸方向中間部分に周溝状凹部84が形成されている。周溝状凹部84は、インナ凹部24よりも軸方向下方に設けられて、本体部18の外周面に開口しながら周方向に延びており、本実施形態では、略一定の断面形状で全周に亘って連続して延びている。
【0069】
さらに、周溝状凹部84は、軸方向の断面形状において、外周面(凹部内面)の略全体が滑らかに湾曲する湾曲形状とされている。また、本実施形態の周溝状凹部84は、最深部86における径方向の深さ寸法が、インナ凹部24の最深部26における深さ寸法よりも小さくされており、例えば、インナ凹部24の最深部26の深さ寸法に対して1/2以下とされている。
【0070】
また、周溝状凹部84の軸方向両側には、外周突部88a,88bが設けられている。外周突部88a,88bは、何れも第一の取付部材82における周溝状凹部84の形成部分に比して大径とされており、上側の外周突部88aがインナ凹部24と周溝状凹部84の間に設けられていると共に、下側の外周突部88bが周溝状凹部84よりも下方に設けられている。
【0071】
さらに、周溝状凹部84の外周面と外周突部88a,88bの外周面は、軸方向で滑らかに湾曲してつながった波形状とされている。また、インナ凹部24の外周面(内面)と上側の外周突部88aの外周面も、軸方向で滑らかに湾曲してつながった波形状とされており、第一の取付部材82の本体部18の外周面全体が、折れ点や折れ線を持たない滑らかな面形状とされている。
【0072】
そして、本実施形態の第一の取付部材82は、第一の実施形態の第一の取付部材12と同様に、本体ゴム弾性体16に対して小径側端面である上端面から下向きに入り込んだ状態で加硫接着されている。
【0073】
さらに、周溝状凹部84において径方向の深さ寸法が最大となる最深部86は、本体ゴム弾性体16の大径部分42における第二の取付部材14の内周面への固着面に対して、軸方向上側に離れて位置している。本実施形態では、周溝状凹部84の全体が、大径部分42に対して軸方向上側に離れて位置しており、周溝状凹部84の外周面には、本体ゴム弾性体16の小径部分40が固着されている。
【0074】
更にまた、周溝状凹部84の外周面と第二の取付部材14の内周面との対向面間は、本体ゴム弾性体16の凹状湾曲面48の下部であるテーパ状外周面51と同じ傾斜方向で、中実構造の本体ゴム弾性体16によって連結されている。要するに、本実施形態では、周溝状凹部84が本体ゴム弾性体16によって充填されていると共に、周溝状凹部84の外周面と第二の取付部材14の内周面との対向面間が、下方に向けて外周へ傾斜する傾斜方向において、本体ゴム弾性体16によって連続的に連結されており、それら周溝状凹部84の外周面と第二の取付部材14の内周面との傾斜方向の対向面間には、空所や液室などが形成されていない。なお、周溝状凹部84の外周面と第二の取付部材14の内周面とを連結する本体ゴム弾性体16は、テーパ状外周面51と同じ傾斜方向に連続して延びていれば良く、傾斜角度は特に限定されない。
【0075】
このような本実施形態に従う構造とされたエンジンマウント80によれば、第一の取付部材82の本体部18に周溝状凹部84が形成されていることにより、本体ゴム弾性体16の自由長が周溝状凹部84の外周面と第二の取付部材14の内周面とをつなぐ傾斜方向で大きくされている。これにより、例えば、軸方向に対して傾斜した方向の入力に際して、本体ゴム弾性体16に作用する応力の分散化が図られて、傾斜方向の入力に対する本体ゴム弾性体16の耐久性の向上が図られる。特に本実施形態では、軸方向の入力に対する本体ゴム弾性体16の耐久性の向上が、インナ凹部24によって実現されることから、それらインナ凹部24と周溝状凹部84の両方を備える第一の取付部材82によって、軸方向と軸方向に対して傾斜する方向との両方の入力に対して、優れた耐久性を実現することができる。
【0076】
さらに、周溝状凹部84の軸方向両側に外周突部88a,88bが形成されていることから、周溝状凹部84の形成による上下方向の防振特性への影響が軽減されている。すなわち、下側の外周突部88bが設けられていることで第一の取付部材82の下端面23の面積が大きく確保されていることにより、上下方向の振動入力時に下端面23から受圧室62に力が効率的に及ぼされて、受圧室62の内圧変動が効率的に惹起されることから、流体の流動作用に基づく防振効果を有効に得ることができる。また、上下方向の振動入力時に、周溝状凹部84内の本体ゴム弾性体16が上側へ逃げるように変形するのが、上側の外周突部88aが設けられていることで防止される。それ故、周溝状凹部84の形成による受圧室62の拡張ばねの低下が防止されて、受圧室62のポンプ効果を十分に得ることができ、流体の流動作用に基づく防振効果を有効に得ることができる。
【0077】
更にまた、周溝状凹部84の外周面と外周突部88a,88bの外周面が軸方向で滑らかに連続していることから、本体ゴム弾性体16において応力の分散化が図られて、耐久性の更なる向上が図られる。特に本実施形態では、本体ゴム弾性体16に軸方向で入り込んで固着される第一の取付部材82の本体部18の外周面全体が、軸方向に滑らかに連続する波打ち形状とされていることから、インナ凹部24や周溝状凹部84の形成による本体ゴム弾性体16の応力集中が緩和されて、本体ゴム弾性体16の耐久性が確保される。
【0078】
ところで、前記第二の実施形態に従う構造とされた本発明に係るエンジンマウント(実施例)と、第一の取付部材の外周面に周溝状凹部を持たないエンジンマウント(比較例)について、傾斜方向の入力に対する本体ゴム弾性体のひずみの分布をシミュレーションしてみると、周溝状凹部を設けた実施例では、周溝状凹部を持たない比較例に比べて、周溝状凹部への固着部分の軸方向両側にひずみが分散されており、第一の取付部材の軸方向中央部分に設けられた周溝状凹部への固着部分においてひずみが低減されていた。このように、周溝状凹部を設けることによって、傾斜方向の入力時に本体ゴム弾性体のひずみが分散されて低減されるという本発明の効果は、シミュレーションによっても確認されている。
【0079】
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、本発明はその具体的な記載によって限定されない。例えば、本体ゴム弾性体16の小径部分40の外周面は、全体に亘って上方に向けて小径となるテーパ形状とされて、凹状湾曲面48をなしていなくても良い。小径部分40の外周面が凹状湾曲面48を有する場合に、凹状湾曲面48の最深部50は、インナ凹部24の最深部26に対して略同じ上下位置に配されていても良いし、インナ凹部24の最深部26に対して下側に配されていても良い。
【0080】
また、インナ凹部の形状は、適宜に変更され得る。具体的には、例えば、前記実施形態のインナ凹部24の内面は、最深部26付近が円弧状湾曲面28とされていると共に、円弧状湾曲面28の上下両側にテーパ面30,32の各一方が連続して設けられていたが、インナ凹部の内面全体が円弧状の湾曲面で構成されていても良い。
【0081】
さらに、インナ凹部は、必ずしも第一の取付部材の全周に亘って連続する環状である必要はなく、例えば、一周に満たない長さで周方向に連続するC字状の溝や、径方向一方向に直線的に延びる溝であっても良いし、スポット的な凹みであっても良い。
【0082】
第一の取付部材12の本体部18の外周面は、例えば下方に向けて小径となるテーパ形状であっても良い。これによれば、第一の取付部材12の本体部18と第二の取付部材14との間で本体ゴム弾性体16の圧縮ばね成分を有利に得ることができる。また、第一の取付部材12の突出部は、前記実施形態のフランジ状部20のような全周に設けられるフランジ状のものに限定されず、例えば、周方向で部分的に設けられていても良いし、突出部がなくても良い。なお、突出部がない場合には、例えば第一の取付部材12の外周面の全体がテーパ形状とされ得る。
【0083】
さらに、本体部18の下端面23は、平坦部23aを備えていなくても良く、例えば、全体が湾曲部23bのような外周へ向けて上傾する湾曲面で構成されていても良い。
【0084】
また、前記第二の実施形態では、全周に亘って連続して延びる周溝状凹部84を例示したが、例えば、
図4,5に示す第一の取付部材90のように、周方向で部分的に設けられた周溝状凹部92を採用することもできる。
図4,5の実施形態では、一対の周溝状凹部92,92が径方向一方向(
図5中の上下方向)で対向する位置に設けられており、それら一対の周溝状凹部92,92の形成部分において、本体ゴム弾性体16の自由長が大きく確保されている。これによれば、例えば、互いに直交する径方向2方向のばね特性を、周溝状凹部92の有無によって互いに異なるように調節して、要求されるばね比を実現することなども可能になる。
【0085】
なお、
図4,5に示す第一の取付部材90では、周溝状凹部92が周方向の2箇所に設けられていることから、それら周溝状凹部92,92の軸方向両側にそれぞれ外周突部94a,94bが設けられており、外周突部94a,94bも周方向で部分的に設けられている。また、周溝状凹部92の外周面は、本体部18における周溝状凹部92を周方向に外れた両側の外周面と軸方向に外れた両側の外周面とに対して、それぞれ折れ点や折れ線を持たない滑らかな面でつながっている。
【0086】
さらに、前記第二の実施形態の周溝状凹部84は、周方向に略一定の断面形状で延びていたが、周方向で断面形状が変化するようにもできる。例えば、
図4,5に示す一対の周溝状凹部92,92において、軸方向寸法や深さ寸法が周方向両端に向けて徐々に小さくなっていても良い。加えて、前記第二の実施形態では、周溝状凹部84がインナ凹部24よりも浅い凹形状とされているが、インナ凹部24より深い凹形状の周溝状凹部を採用することもできる。また、周溝状凹部84において、開口部の軸方向寸法や最深部86に対する軸方向両側の外周面の傾斜角度なども、適宜に変更され得る。
【0087】
さらに、周方向で部分的な周溝状凹部の3つ以上を、同一周上で周方向に離れた位置に設けることもできる。また、複数の周溝状凹部を軸方向で並ぶように並列的に設けることもできる。
【0088】
また、本発明は、流体封入式防振装置にのみ適用されるものではなく、流体封入領域56を持たないソリッドタイプの防振装置に適用することもできる。さらに、本発明は、第一の取付部材と第二の取付部材が同軸的に配置されて、本体ゴム弾性体によって径方向に弾性連結された筒形防振装置にも適用可能である。
また、本発明は、もともと以下(i)~(x)に記載の各発明を何れも含むものであり、その構成および作用効果に関して、付記しておく。
本発明は、
(i) 第一の取付部材と第二の取付部材が本体ゴム弾性体によって弾性連結されている防振装置において、前記本体ゴム弾性体の上部が小径部分とされていると共に、該本体ゴム弾性体の下部が大径部分とされて、該本体ゴム弾性体の該小径部分に前記第一の取付部材が固着されていると共に、該本体ゴム弾性体の該大径部分に前記第二の取付部材が固着されている一方、該第一の取付部材には外周面に開口するインナ凹部が形成されて、該本体ゴム弾性体の該小径部分が該インナ凹部に固着されていると共に、該インナ凹部に固着された部分における該本体ゴム弾性体の外径寸法が該インナ凹部よりも下側における該第一の取付部材の外径寸法に比して大きくされており、該本体ゴム弾性体の該小径部分が該インナ凹部に固着されることで厚肉化されていることを特徴とする防振装置、
(ii) 前記インナ凹部の内面は深さ寸法が最大となる最深部から上下両側に向けて外周へ傾斜するテーパ形状を有している(i)に記載の防振装置、
(iii) 前記インナ凹部の最深部の内面が外周へ向けて凹となる湾曲面とされている(ii)に記載の防振装置、
(iv) 前記本体ゴム弾性体の前記小径部分の外周面が外周に向けて凹となる凹状湾曲面を有しており、該凹状湾曲面の最深部よりも該インナ凹部の最深部が下側に位置している(i)~(iii)の何れか一項に記載の防振装置、
(v) 前記第一の取付部材の下面が前記本体ゴム弾性体の前記大径部分によって覆われている(i)~(iv)の何れか一項に記載の防振装置、
(vi) 前記インナ凹部が前記第一の取付部材の全周に亘って連続して設けられている(i)~(v)の何れか一項に記載の防振装置、
(vii) 前記第一の取付部材において外周へ突出する突出部が前記インナ凹部よりも上側に設けられている(i)~(vi)の何れか一項に記載の防振装置、
(viii) 前記第一の取付部材には、前記インナ凹部よりも軸方向下方において外周面に開口して周方向に延びる周溝状凹部が設けられており、該周溝状凹部の外周面と前記第二の取付部材の内周面との対向面間が前記本体ゴム弾性体で連結されている(i)~(vii)の何れか一項に記載の防振装置、
(ix) 前記本体ゴム弾性体の前記大径部分側の軸方向外方には、該本体ゴム弾性体で壁部の一部が構成されて非圧縮性流体が封入されることにより、振動入力時に圧力変動が生ぜしめられる受圧室が形成されている(i)~(viii)の何れか一項に記載の防振装置、
(x) 前記第一の取付部材において、前記本体ゴム弾性体の小径側端部から軸方向内方に入り込んだ軸方向下方の端面が、軸直角方向に広がる平坦部を中央部分に有していると共に、該平坦部の外周が滑らかに湾曲して該第一の取付部材の外周面につながった外周面取り形状とされている(ix)に記載の防振装置、
に関する発明を含む。
上記(i)に記載の発明によれば、本体ゴム弾性体の弾性変形に際して応力が集中し易い小径部分において、第一の取付部材にインナ凹部が形成されていることで厚さ寸法が大きく確保されており、小径部分において応力の分散化が図られることによって、本体ゴム弾性体の耐久性の向上が図られる。しかも、本体ゴム弾性体におけるインナ凹部への固着部分は、インナ凹部に全体が入り込んで配されることなく、第一の取付部材におけるインナ凹部よりも下側部分に対して外周に突出していることから、上下方向の振動入力に対して弾性変形が生じ易くなっている。それ故、本体ゴム弾性体の実質的な厚さがインナ凹部によって大きくされていると共に、第一の取付部材から下向きの力が入力される際に、本体ゴム弾性体の圧縮ばね成分を得易く、本体ゴム弾性体においてばね特性のチューニング自由度を大きく得ることができる。
上記(ii)に記載の発明によれば、インナ凹部の上下幅寸法が開口に向けて大きくなっていることから、インナ凹部内の本体ゴム弾性体が振動入力時に変形し易く、インナ凹部の形成による応力の分散化がより有利に実現される。また、第一の取付部材におけるインナ凹部の内面から本体ゴム弾性体へ下向きの力が効率的に伝達されて、本体ゴム弾性体の圧縮ばね成分を有効に得ることができることから、本体ゴム弾性体のばね特性を大きな自由度でチューニングすることができる。
上記(iii)に記載の発明によれば、インナ凹部の最深部の内面が湾曲面とされていることで、インナ凹部において最深部を含む深さ寸法の大きな部分が、上下方向で広い領域に亘って設定されて、本体ゴム弾性体の厚肉化による耐久性の向上が有利に実現され得る。しかも、インナ凹部の内面が最深部において角をなさない形状とされていることにより、本体ゴム弾性体におけるインナ凹部の最深部への固着部分において、応力の分散化による耐久性の向上などが図られる。
上記(iv)に記載の発明によれば、本体ゴム弾性体の外周面が凹状湾曲面を有していることで、本体ゴム弾性体の外周面において自由表面が大きく確保されており、本体ゴム弾性体の耐久性の向上が図られる。しかも、万が一、凹状湾曲面の最深部付近で本体ゴム弾性体に亀裂が生じたとしても、亀裂の伸展がインナ凹部の内面によって抑制され易く、信頼性の向上が図られ得る。特に、流体封入式防振装置では、流体封入領域の壁部を構成する本体ゴム弾性体の大径部分まで亀裂が進展するのを防ぐことで、流体の漏れを防止することができて、目的とする防振性能が維持され易くなる。
上記(v)に記載の発明によれば、本体ゴム弾性体の自由表面が大きく確保されることで、本体ゴム弾性体の耐久性の向上が図られ得る。更に、例えば、流体封入式防振装置において、第一の取付部材が流体封入領域に露出するのを防ぐことで、第一の取付部材の侵食などを防いで耐久性の向上が図られる。
上記(vi)に記載の発明によれば、本体ゴム弾性体の小径部分がインナ凹部によって全周に亘って厚肉化されることから、本体ゴム弾性体の小径部分に作用する応力が全周に亘って緩和されて、耐久性の向上がより有利に図られる。特に、インナ凹部を周方向で略一定の断面形状とすれば、応力集中を防ぐことができて、耐久性をより有利に確保できる。
上記(vii)に記載の発明によれば、突出部に本体ゴム弾性体の上端部分が固着されることによって、本体ゴム弾性体の第一の取付部材に対する固着面積が大きく確保される。また、第一の取付部材の突出部から本体ゴム弾性体の上端部分へ下向きの力が及ぼされることによって、本体ゴム弾性体において圧縮ばね成分がより大きくなることから、本体ゴム弾性体のばね特性をより大きな自由度でチューニングすることができる。
上記(viii)に記載の発明によれば、第一の取付部材に周溝状凹部が設けられていることで、軸方向に対して傾斜する方向において、本体ゴム弾性体の自由長を大きく確保することが可能となって、傾斜方向の入力に対する本体ゴム弾性体の耐久性の向上が図られる。しかも、周溝状凹部が第一の取付部材の軸方向中間部分に形成されていることから、第一の取付部材の下端面の軸方向投影面積を大きく得ることができる。それ故、例えば、壁部の一部が本体ゴム弾性体で構成されて非圧縮性流体が封入された受圧室が、本体ゴム弾性体の下側に形成された流体封入式防振装置に本態様を適用すれば、上下方向乃至は傾斜方向の入力に対して受圧室の圧力変動を大きく得ることも可能になる。
上記(ix)に記載の発明によれば、応力集中の緩和によって本体ゴム弾性体の耐久性の低下を回避しつつ、第一の取付部材の軸方向投影面積の確保によって、有効ピストン面積乃至は拡張ばねを大きく得ることができる。さらに、第八の態様と組み合わせて採用すれば、第一の取付部材の軸方向投影面積を確保しながら、本体ゴム弾性体の有効自由長を傾斜方向で長く得ることができて、傾斜方向の入力に対する本体ゴム弾性体の耐久性の向上も図られる。
上記(x)に記載の発明によれば、第一の取付部材の下端面に平坦部が設けられていることで、上下方向の振動入力に対して、受圧室の内圧が効率的に変動せしめられて、例えば、流体の流動作用による防振効果などを有利に得ることができる。さらに、平坦部の外周が滑らかに湾曲する外周面取り形状とされて、第一の取付部材の下端面と外周面が滑らかに連続していることにより、下端面と外周面のつなぎ部分に固着された本体ゴム弾性体の応力集中が緩和されて、本体ゴム弾性体の耐久性の向上が図られる。
【符号の説明】
【0089】
10,80:エンジンマウント(防振装置)、12,82,90:第一の取付部材、14:第二の取付部材、16:本体ゴム弾性体、20:フランジ状部(突出部)、23:下端面(軸方向下方の端面)、23a:平坦部、23b:湾曲部(平坦部の外周)、24:インナ凹部、26:最深部(インナ凹部の最深部)、28:円弧状湾曲面(湾曲面)、40:小径部分、42:大径部分、48:凹状湾曲面、50:最深部(凹状湾曲面の最深部)、62:受圧室、84,92:周溝状凹部