(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-08
(45)【発行日】2022-07-19
(54)【発明の名称】筆記具
(51)【国際特許分類】
B43K 29/00 20060101AFI20220711BHJP
B43K 23/08 20060101ALI20220711BHJP
【FI】
B43K29/00 N
B43K23/08
(21)【出願番号】P 2018161441
(22)【出願日】2018-08-30
【審査請求日】2021-06-08
(73)【特許権者】
【識別番号】303022891
【氏名又は名称】株式会社パイロットコーポレーション
(72)【発明者】
【氏名】横須賀 極一郎
(72)【発明者】
【氏名】守屋 知巳
【審査官】金田 理香
(56)【参考文献】
【文献】実開平03-098094(JP,U)
【文献】実開昭62-085472(JP,U)
【文献】国際公開第2015/186047(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B43K 1/00 - 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
装飾部を有する筆記具であって、
一端および他端を有した軸部を有し、前記軸部の一端側に、該軸部より巾広く形成した第一装飾部を有し、前記軸部の他端側に、該軸部の外側に向かって膨出する膨出部と該膨出部の内側に形成したスリットとを有し、前記膨出部に、前記軸部の他端側へ向かって漸次拡幅する傾斜面を有した芯体と、
筒部を有し、前記筒部の内側に、前記芯体の軸部を挿通させる挿通孔と前記芯体の第一装飾部を係合させる凹部とを有し、前記筒部の一端側に、前記芯体の軸部より巾広く環状に形成した第二装飾部を有した筒体と、
前記筒体の筒部を係合させる係合凹部を有し、前記筒部より突出した前記芯体の軸部を挿通させる孔部と、該孔部の内方へ突出する突部とを有した軸体と、
を備え、
前記軸体の係合凹部に前記筒体の筒部を係合させ、前記筒体の挿通孔に前記芯体を挿通させた状態で、前記筒体の第二装飾部が前記軸体に当接し、前記芯体の第一装飾部が前記筒体の凹部に当接し、前記軸体の突部が前記芯体の傾斜面の中間部に当接する構造を特徴とした筆記具。
【請求項2】
前記筒体の筒部に、他端側が開口する切欠部を設け、
前記軸体の内面に、軸線方向に延び且つ側面にビードを有するリブを設け、
前記軸体の係合凹部に前記筒体の筒部を係合させた状態で、前記筒体の切欠部が前記軸体のビードに当接することを特徴とした請求項1に記載の筆記具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸体に装飾部を有した筆記具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、筆記具の端部にはデザイン的なワンポイントとして装飾部を設けることがあり、例えば特許文献1には、頭部に装飾体が設けられた筆記具用のキャップが記載されている。
この特許文献1のキャップでは、キャップ本体の頭部に設けられた凹部に台座が取り付けられ、台座の中心部に設けられた凹部に宝石のような部材が取り付けられ、複数の装飾体を組み合わせることで、その装飾効果を高めている。
尚、特許文献1のように、複数の装飾体をキャップ本体などの軸体に固定する方法としては、例えば圧入による方法があげられるが、装飾体を装飾性の高い金属で成形し、その装飾体が圧入されるキャップ本体などの軸体を樹脂で成形し、キャップ本体に装飾体を強固に圧入した場合には、経時劣化により、樹脂が破損して装飾体が脱落してしまう虞がある。また他の方法としては、接着剤を用いて部材を固定させる方法もあるが、接着による固定方法では、作業のバラつきにより接着強度が不足する虞があり、また接着する部材の材質によっては、接着が行い難い場合もある。また双方の部材に形成した螺子部を用いて螺合させる方法もあるが、組み立て作業に手間が掛かってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、筆記具の軸体に対して装飾体を簡単に取り付けることができ、装飾体が軸体に対して固定された状態で経時劣化の影響を受け難い構造の筆記具を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、
「1.装飾部を有する筆記具であって、
一端および他端を有した軸部を有し、前記軸部の一端側に、該軸部より巾広く形成した第一装飾部を有し、前記軸部の他端側に、該軸部の外側に向かって膨出する膨出部と該膨出部の内側に形成したスリットとを有し、前記膨出部に、前記軸部の他端側へ向かって漸次拡幅する傾斜面を有した芯体と、
筒部を有し、前記筒部の内側に、前記芯体の軸部を挿通させる挿通孔と前記芯体の第一装飾部を係合させる凹部とを有し、前記筒部の一端側に、前記芯体の軸部より巾広く環状に形成した第二装飾部を有した筒体と、
前記筒体の筒部を係合させる係合凹部を有し、前記筒部より突出した前記芯体の軸部を挿通させる孔部と、該孔部の内方へ突出する突部とを有した軸体と、
を備え、
前記軸体の係合凹部に前記筒体の筒部を係合させ、前記筒体の挿通孔に前記芯体を挿通させた状態で、前記筒体の第二装飾部が前記軸体に当接し、前記芯体の第一装飾部が前記筒体の凹部に当接し、前記軸体の突部が前記芯体の傾斜面の中間部に当接する構造を特徴とした筆記具。
2.前記筒体の筒部に、他端側が開口する切欠部を設け、
前記軸体の内面に、軸線方向に延び且つ側面にビードを有するリブを設け、
前記軸体の係合凹部に前記筒体の筒部を係合させた状態で、前記筒体の切欠部が前記軸体のビードに当接することを特徴とした前記1項に記載の筆記具。」である。
【0006】
芯体に設ける第一装飾部の形状および筒体に設ける第二装飾部の形状は限定されるものではなく、第一装飾部の外縁が第二装飾部の外縁からはみ出さなければ、第二装飾部の内側に第一装飾部が存在する装飾効果を得ることができる。
前記芯体は、成形のし易さからABS樹脂、POM樹脂、PC樹脂、PMMA樹脂、AS樹脂などで成形することができるが、芯体には、デザイン的な装飾としての役割と共に、筒体を固定する固定部材としての役割があることから、弾性に優れたABS樹脂、POM樹脂、PC樹脂で成形することが好ましい。特に、ABS樹脂は、色付きの透明な樹脂成形が容易であることから、装飾部をカラフルにする場合に好適である。
前記筒体は、第二装飾部が装飾部としての役割があることから、真鍮、鉄、アルミなどの金属材で成形したものに鍍金処理を施したものが好ましい。
また、本発明における軸体は、筆記具の軸筒本体やキャップ本体、あるいは軸筒本体やキャップ本体に装着した尾冠や頭冠であり、ABS樹脂、POM樹脂、PC樹脂、PMMA樹脂、AS樹脂などの樹脂で成形したものである。
【0007】
芯体の膨出部に設ける傾斜面は、その中間部に軸体の突部が当接することで、膨出部及び該膨出部を設けた芯体を他端側へ弾発して、芯体や筒体や軸体の軸線方向における寸法精度や組立精度を吸収させる。この傾斜面の角度が緩やかな場合には、軸線方向に直交する方向の距離が短くなるため、軸線方向における他端側へ芯体を弾発する力が弱くなり、また傾斜面の角度が急な場合には、傾斜面における軸線方向の距離が短くなるため、前記軸線方向における寸法精度や組立精度を吸収できる量が少なくなる。このことから、芯体の膨出部に設ける傾斜面の角度は中心軸線に対して10度から20度の範囲で設定することが好ましい。
また、前記芯体の膨出部の内側に形成するスリットは、組立時において膨出部を軸筒の孔部に設けられた突部に対して通過させる際に、該膨出部が内方へ可撓することで挿通し易くさせ、当該膨出部を通過した後に、膨出部の傾斜面の中間部に突部が当接した状態で該膨出部が拡幅して該突部を弾発させるものである。前記膨出部の傾斜面が、前記軸部の他端側へ向かって漸次拡幅するよう傾斜していることから、組み立てた状態で芯体には他端側へ向かう力が働くが、芯体の第一装飾部が筒体の凹部の例えば底面に当接し、筒体の第二装飾部が軸体の例えば上端面に当接することで、芯体自体の移動は規制され、結果、軸体に対して筒体および芯体を簡単に固定することが可能となる。
【0008】
軸体の孔部に設ける突部は、他端側から一端側へ向かって中心軸線に対し10度から20度の範囲で先窄むよう傾斜する傾斜面を設けることが好ましく、この様な傾斜面を設けることにより、芯体の膨出部が軸体の突部を乗り越える時の接触抵抗を軽減させることが可能となる。さらに芯体の膨出部の他端側にも、一端側から他端側へ向かって中心軸線に対し10度から20度の範囲で先窄むよう傾斜する傾斜面を設けることで、軸体の突部に対して芯体の膨出部を乗り越え易くすることが可能となる。また、芯体の膨出部の他端側に起立面を設け、軸体の突部の他端側に前記芯体の起立面と相対向する起立面を設けることにより、芯体の膨出部が軸体の孔部から抜け出そうとする際に、芯体の起立面と軸体の起立面とが抜け止め状態で当接することになる。
【0009】
また、筒体の筒部に他端側が開口する切欠部を設け、軸体の内面に軸線方向に延び且つ側面にビードを有するリブを設け、軸体の係合凹部に筒体の筒部を係合させた状態で、筒体の切欠部が軸体のビードに当接する構造とすることにより、軸体に対して筒体を軽い嵌合状態で仮組することができ、その後、筒体に対して芯体を挿通させる作業を安定して行うことができるようになる。筒体の切欠部をビードに対して当接させる強さは、軸体に対して筒体を係合させた状態で、筒体が下向きになうようにしても、当該筒体が軸体より脱落しない程度に軽く挟持させるものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、筆記具の軸体に対して装飾体を簡単に取り付けることができ、装飾体が軸体に対して固定された状態で経時劣化の影響を受け難い構造の筆記具を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本実施形態の筆記具のキャップにおける縦断面図である。
【
図2】本実施形態の筆記具のキャップにおける要部縦断面図である。
【
図4】本実施形態の筆記具のキャップの組立工程の第一状態を示す図である。
【
図5】本実施形態の筆記具のキャップの組立工程の第二状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、図面を参照しながら説明を行うが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。本実施形態では、頭部に装飾部を有した筆記具のキャップについて説明を行うが、本発明はキャップに限定されることなく、尾部に装飾部を有する筆記具の軸筒など、筆記具を構成する軸体に装飾部を有するものに採用することができる。
尚、本実施形態においては、キャップの頭部側(上側)を一端側と表現し、その反対側(下側)を他端側と表現する。
【0013】
図1に示すキャップ1は、キャップ本体2の頭部に頭冠3を、キャップ本体2の側方にクリップ4を、キャップ本体2の内方に中子5を備えている。
頭冠3の一端側には装飾部6を有しており、装飾部6を、頭冠3に係止した筒体7と、筒体7に係止した芯体8とで構成してある。
本実施形態では、頭冠3をAS樹脂で成形してあり、筒体7をニッケル鍍金を施した真鍮で成形してあり、芯体8をABS樹脂で成形してある。
【0014】
次に、
図2及び
図3を用いて、頭冠3について説明を行う。
頭冠3は、キャップ本体2の上面との間に金輪9を介在させてある。金輪9とキャップ本体2との間には、クリップ4の基部4aを挟持して固定してある。
前記芯体8は、軸部8aと、前記軸部8aの一端側に該軸部8aより巾広く形成した第一装飾部8bと、前記軸部8aの他端側に該軸部8aの外側に向かって膨出する膨出部8cとを有している。膨出部8cは、内側にスリット8dを有しており、また他端側へ向かって漸次拡幅する傾斜面8eと該傾斜面8eの他端側で外側へ起立する起立面8fとを有している。起立面8fの他端側には、一端側から他端側へ向かって先窄むよう傾斜する傾斜面8gを有している。
本実施形態では、傾斜面8eを中心軸線Lに対して16度で傾斜するよう形成し、傾斜面8gを中心軸線Lに対して15度で傾斜するよう形成してある。
【0015】
前記筒体7は、筒部7aと、前記筒部7aの一端側に該筒部7aより巾広く円環状に形成した第二装飾部7bとを有している。筒部7aには中心軸線Lに沿って延びる切欠部7cを形成してある。筒体7の内側には、前記芯体8の軸部8aを挿通させる挿通孔7dと前記芯体8の第一装飾部8bを係合させる凹部7eとを有している。
【0016】
前記頭冠3は、下部に形成した雄螺子3aを前記中子5の上部に形成した雌螺子5aに螺合させ、頭冠3と中子5とでキャップ本体2の上端に形成した内鍔2aを挟持させることで、キャップ本体2に対して頭冠3が固定されるようにしてある。
頭冠3には、前記筒体7の筒部7aと係合する係合凹部3bと、筒体7の筒部7aより他端側へ突出した芯体8の軸部8aを挿通させる孔部3cとを有している。係合凹部3bには、前記筒体7の切欠部7cに係止するリブ3dを設けてある。
孔部3cには、内方へ突出する突部3eを設けてあり、
図2に示すように、突部3eの先端3etが傾斜面8eの中間部に当接する構造としてある。
【0017】
傾斜面8eは、一端側から他端側までに渡り、孔部3cの内面に周状に形成した突部3eの先端3et間の寸法より巾広く形成してあり、先端3etが傾斜面8eのどの位置に接した状態であっても、傾斜面8eの傾斜方向により、芯体8を他端側へ移動させようとする力が働くこととなるが、
図2に示す通り、芯体8の第一装飾部8bが、筒体7の凹部7eの底面7fに当接し、筒体7の第二装飾部7bが頭冠3の上面3fに当接することから、芯体7自体の移動は規制され、頭冠3(キャップ1)に対して筒体7および芯体8を固定することができる。
尚、頭冠3の突部3eの他端側に外側へ起立する起立面3gを設け、頭冠3の突部3eの他端側に前記芯体8の起立面8fと相対向する起立面3gを設けたことから、芯体8の膨出部8cが頭冠3の孔部3cから抜け出そうとする際に、芯体8の起立面8fと頭冠3の起立面3gとが抜け止め状態で当接することになる。
【0018】
次に、
図4及び
図5を用いて頭冠3の組立工程について説明を行う。
図4は、頭冠3と筒体7と芯体8とが分割された組み立て前の状態である。
図5は、頭冠3の係合凹部3bに筒体7の筒部7aを係止させた状態の図である。
図5では、筒体7の筒部7aに形成した切欠部7cが頭冠3のリブ3dに形成したビード3hに当接して、頭冠3に対して筒体7が軽い嵌合状態となり(
図3参照)、この状態で頭冠3の上下を反転させても筒体7が脱落しないよう仮組されている。
図5の状態の芯体8を他端側(下側)へ移動させて、芯体8の軸部8aを筒体7の挿通孔7dに挿通させ、
図2に示した状態に組み立てが行われる。
本実施形態では、芯体8の膨出部8cにはスリット8dが設けられていることから、頭冠3の孔部3cに設けられた突部3eに対して膨出部8cを通過させる際に、膨出部8cが内方へ可撓して挿通させ易く、突部3eを通過した後、膨出部8cの傾斜面8eの中間部に突部3eの先端3etが当接した状態で、該膨出部8cが拡幅して傾斜面8eが突部3eを弾発した状態で固定される。傾斜面8eに対する突部3eの位置関係により、各部材の寸法精度や組立精度を吸収させることが可能となる。
また、本実施形態では、頭冠3を射出成形する時の樹脂の湯口を、リブ3dの径方向における位置と一致させたことから、ゲート痕3iを目印にして、頭冠3の内方にあり視認し難いリブ3dの位置を認識することができ、筒体7の切欠部7cと頭冠3のリブ3dとを合致させ易く、組立性を向上させてある。
【符号の説明】
【0019】
1…キャップ、
2…キャップ本体、2a…内鍔、
3…頭冠、3a…雄螺子、3b…係合凹部、3c…孔部、3d…リブ、3e…突部、3et…先端、3f…上面、3g…起立面、3h…ビード、
4…クリップ、4a…基部、
5…中子、5a…雌螺子、
6…装飾部、
7…筒体、7a…筒部、7b…第二装飾部、7c…切欠部、7d…挿通孔、7e…凹部、7f…底面、
8…芯体、8a…軸部、8b…第一装飾部、8c…膨出部、8d…スリット、8e…傾斜面、8f…起立面、8g…傾斜面、
9…金輪、
L…中心軸線。