(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-08
(45)【発行日】2022-07-19
(54)【発明の名称】地下水流表示システム
(51)【国際特許分類】
G06Q 50/10 20120101AFI20220711BHJP
G01P 13/00 20060101ALI20220711BHJP
【FI】
G06Q50/10
G01P13/00 D
(21)【出願番号】P 2018211139
(22)【出願日】2018-11-09
【審査請求日】2021-08-02
(73)【特許権者】
【識別番号】390023249
【氏名又は名称】国際航業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001335
【氏名又は名称】弁理士法人 武政国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】古川 正修
(72)【発明者】
【氏名】坂本 拓二
(72)【発明者】
【氏名】三家本 史郎
【審査官】青柳 光代
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-037677(JP,A)
【文献】国際公開第2014/087521(WO,A1)
【文献】特開平10-019919(JP,A)
【文献】国際公開第2018/202899(WO,A1)
【文献】特開2016-197042(JP,A)
【文献】特開2017-222160(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00 - 99/00
G01P 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地下水の流れを3次元で可視化するシステムにおいて、
3次元流速ベクトル分布に基づいて、地下水内に設定された複数の着目点ごとに流線を作成する流線作成手段と、
前記着目点ごとの前記流線を表示する流線表示手段と、を備え、
前記流線は、先端点と流動線分を含んで構成され、
前記先端点は、任意時刻における前記着目点の位置を示し、
前記流動線分は、任意時刻から所定時間だけ遡った前記着目点の流動経路を示す、
ことを特徴とする地下水流表示システム。
【請求項2】
前記流線作成手段は、流速の大きさに応じた表示色を付与して前記流線を作成する、
ことを特徴とする請求項1記載の地下水流表示システム。
【請求項3】
前記流線作成手段は、あらかじめ設定された表示時刻ごとの前記流線を作成し、
前記流線表示手段は、前記表示時刻ごとの前記流線を時刻順に動画として出力する、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の地下水流表示システム。
【請求項4】
オペレータが所望の地点を特定着目点として指定する特定着目点入力手段を、さらに備え、
前記流線表示手段は、3次元流速ベクトル分布に基づいて前記特定着目点の前記流線を作成するとともに、他の前記着目点の前記流線とは異なる表示色を該特定着目点の該流線に付与する、
ことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の地下水流表示システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、地下水に関する技術であり、より具体的には、地下水の流れを可視化することができる地下水流表示システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
「21世紀は水の世紀」といわれており、近年、資源として水あるいは水循環に関する社会的関心が高まっている。このような背景のもと、平成26年7月には水循環基本法が施行され、平成27年7月には水循環基本法を実行に移すための水循環基本計画が閣議決定された。この水循環基本法は、水循環施策を総合的かつ一体的に推進し、健全な水循環の維持又は回復によって、経済社会の健全な発展と国民生活の安全向上を図ることを目的としており、水循環の重要性、水の公共性、健全な水循環への配慮、流域の総合的管理、水循環に関する国際協調を5つの基本理念としている。
【0003】
水に関する関心が高まる中、内閣官房水循環政策本部事務局では、各地域における流域マネジメント・地下水マネジメントに関わる活動を「流域水循環計画」と認定し(熊本市、大野市、座間市、秦野市、安曇野市 等)、水循環基本法の推進を図っている。
【0004】
水循環とは、「水が、蒸発、降下、流下又は浸透により、海域等に至る過程で、地表水又は地下水として河川の流域を中心に循環すること」とされており、河川や地表水の流れとともに、地下水の流れも重要な位置づけとなっている。ところが、地下水は地中であってしかも様々な地層のなかを流れることから、地表水などに比べその動きを確認することが難しい。そのため、地下水の流れを把握するには地下水シミュレーションを行うことが現在では主流となっている。例えば特許文献1では、地下水を含む水循環をモデル化し、これにより水挙動のシミュレーションを行い、シミュレーション結果を地図上に可視化する技術を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記した水循環基本計画では、「地方公共団体、国の地方支分部局、地下水利用者、その他の関係者が連携し、地下水協議会を設置すること」としたうえで、「地下水協議会の構成主体が連携し、地下水の実態把握、保全・利用、涵養、普及啓発等に関して基本方針を定め、地域の実情に応じ段階的に実施する」こととしている。つまり、異なる者で構成される地下水協議会は、地下水に関する情報を相互に共有しなければならないわけである。しかしながら、地下水の流れは適切に表現することが難しく、たとえシミュレーションによって適切な結果が得られたとしても地下水協議会内でこれを共有することは容易ではない。
【0007】
従来、地下水の流れを表現するには、地下水位等高線やベクトル図、流跡線図といった静止画によって表現するか、あるいは地下水位等高線の時系列変化や流跡線上に動く粒子を加えた動画などによって表現されていたが、いずれもイメージを共有できるほど十分な効果は得られていない。
【0008】
本願発明の課題は、従来の問題を解決することであり、すなわち地下水シミュレーション等によって得られた地下水の流れを直感的に把握することができる地下水流表示システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明は、流れの先端を示す「先端点」と流動経路を示す「流動線分」で構成される「流線」によって着目点ごとに地下水の流れを表現する、という点に着目したものであり、従来にはなかった発想に基づいてなされた発明である。
【0010】
本願発明の地下水流表示システムは、地下水の流れを3次元で可視化するシステムであり、流線作成手段と流線表示手段を備えたものである。このうち流線作成手段は、3次元流速ベクトル分布に基づいて、地下水内に設定された複数の着目点ごとに流線を作成する手段であり、流線表示手段は、着目点ごとの流線を表示する手段である。流線は、先端点と流動線分を含んで構成されるもので、この先端点は、任意時刻における着目点の位置を示し、流動線分は、任意時刻から所定時間だけ遡った着目点の流動経路を示す。
【0011】
本願発明の地下水流表示システムは、流速の大きさに応じた表示色を付与して流線を作成するシステムとすることもできる。
【0012】
本願発明の地下水流表示システムは、あらかじめ設定された表示時刻ごとの流線を作成するとともに、表示時刻ごとの流線を時刻順に動画として出力するシステムとすることもできる。
【0013】
本願発明の地下水流表示システムは、特定着目点入力手段をさらに備えたシステムとすることもできる。この特定着目点入力手段は、オペレータが所望の地点を特定着目点として指定する手段である。この場合、流線表示手段は、3次元流速ベクトル分布に基づいて特定着目点の流線を作成するとともに、他の着目点の流線とは異なる表示色を特定着目点の流線に付与する。
【発明の効果】
【0014】
本願発明の地下水流表示システムには、次のような効果がある。
(1)地下水の流れを直感的に確認することができ、したがって多くの者の間で地下水に関する情報を共有することができる。
(2)例えば地下水協議会などで地下水の流れを共有することによって、当該地域における水循環の課題を見出すことができるとともに、有効な対応策を講じることができる。
(3)3次元の地下水の流れを任意の視点で閲覧することができる機能を設けることで、より詳細に地下水の流れを確認することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】(a)は本願発明の地下水流表示システムによって3次元表示された地下水の流れを示す全体斜視図、(b)は本願発明の地下水流表示システムによって3次元表示された地下水の流れを示す部分拡大斜視図。
【
図2】先端点と流動線分からなる流線を示すモデル図。
【
図3】本願発明の地下水流表示システムの主な構成を示すブロック図。
【
図4】本願発明の地下水流表示システムの主な処理の流れを示すフロー図。
【
図5】流速が小さいため短い流動線分で作成された流線と、流速が大きいため長い流動線分で作成された流線を示すモデル図。
【
図6】他とは異なる表示色(線の太さ)の特定流線が、開始点(特定着目点)から井戸まで移動する動画を模式的に示すモデル図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本願発明の地下水流表示システムの実施形態の一例を、図に基づいて説明する。
【0017】
はじめに、本願発明の概要について説明する。本願発明の地下水流表示システムは、
図1に示すように地下水の流れ(以下、「地下水流」という。)を3次元で表示するシステムである。
図1は、本願発明の地下水流表示システムによって表示された地下水流を示す図であり、(a)は全体の斜視図、(b)は部分的に拡大した斜視図である。
【0018】
一般に、地下水流は、透水係数や境界条件などの水理条件に基づいて計算する地下水シミュレーションの解析結果(3次元地下水位分布、3次元流速ベクトル分布、3次元小領域間流動量)などから算出される。地下水流の計算手法は、従来用いられている種々の手法を用いることができ、例えばアメリカ地質調査所(USGS:United States Geological Survey)による格子中心型の三次元差分法モデルであるMODFLOW-2005を地下水シミュレーションに使用し、さらに地下水流を粒子によって表現することとしたうえで、同じくUSGSによるMODPATH手法を使用して粒子の動きを計算することができる。なお地下水流の解析処理は、本願発明の地下水流表示システムの中に組み込むこともできるし、本願発明の地下水流表示システムの中に組み込むことなく別途解析された結果を利用する仕様とすることもできる。
【0019】
解析された地下水流は、
図2に示す「流線200」に基づいて表示される。流線200は、この図に示すように、流れの先端を示す「先端点210」と、流動経路を示す「流動線分220」とを含み、いわゆるオタマジャクシのような形状で形成される。より詳しくは、地下水内に設定される複数の着目点ごとに流線200を作成することとし、その流線200のうち先端点210がある時点での着目点の位置を示しており、流動線分220がここまで辿ってきた流動経路の一部を示しているわけである。
【0020】
以下、本願発明の地下水流表示システムについて詳しく説明する。
【0021】
図3は、本願発明の地下水流表示システム100の主な構成を示すブロック図である。この図に示すように地下水流表示システム100は、流線作成手段101と流線表示手段102を含んで構成され、さらに3次元流速ベクトル分布記憶手段103や特定着目点入力手104を含んで構成することもできる。
【0022】
地下水流表示システム100は、専用のものとして製造することもできるし、汎用的なコンピュータ装置を利用することもできる。このコンピュータ装置は、パーソナルコンピュータ(PC)や、タブレット型のPC、あるいはスマートフォンを含む携帯端末などによって構成することができる。コンピュータ装置は、CPU等のプロセッサ、ROMやRAMといったメモリを具備しており、さらにマウスやキーボード等の入力手段やディスプレイを含むものもある。また、3次元流速ベクトル分布記憶手段103は、例えばデータベースサーバに構築することができ、ローカルなネットワーク(LAN:LocalAreaNetwork)に置くこともできるし、インターネット経由で保存するクラウドサーバとすることもできる。
【0023】
図4は、本願発明の地下水流表示システム100の主な処理の流れを示すフロー図であり、中央の列に実施する処理を示し、左列にはその処理に必要な入力情報を、右列にはその処理から生まれる出力情報を示している。以下、この図を参照しながら地下水流表示システム100の主な処理の流れについて説明する。
【0024】
はじめに、表示しようとする地下水範囲内に多数(ここではn個)の着目点を設定する(Step10)。地下水流表示システム100は、ここで設定された着目点ごとに流線200を作成するものであり、したがって着目点の数や配置は目的に応じて適宜設定するとよい。着目点が設定されると、流線作成手段101が3次元流速ベクトル分布記憶手段103から3次元流速ベクトル分布を読み出し、着目点ごとに流線200を作成する(Step20)。ここで「3次元流速ベクトル分布」とは、地下水シミュレーションによる解析結果や地下水流の実測結果から求められるもので、時刻ごとに水の流れ(方向)を3次元分布したものである。換言すれば「3次元流速ベクトル分布」は、時刻と水の流れと3次元座標の組み合わせからなるデータの集合であり、任意時刻と任意座標を指定すれば水の流れが定まるものである。
【0025】
3次元流速ベクトル分布を読み出した流線作成手段101は、その3次元流速ベクトル分布に基づいて、その時刻における着目点を先端点210として示し、さらにその時刻から所定時間だけ遡った着目点から流動経路を流動線分220として示す。つまり、所定時間に着目点か移動した流動経路が流動線分220であり、その先端に先端点210が示されるわけである。したがって
図5に示すように、流速が小さい着目点ほど流動線分220は短く示され、流速が大きい着目点ほど流動線分220は長く示される。あるいは、あらかじめ流速を複数レンジに分けるとともに各レンジに表示色を与えておき、その流速に相当するレンジの表示色を付与したうえで流線200を作成することもできる。なお、流動線分220を求めるための着目点の移動時間である「所定時間」は、地下水流を確認する状況に応じて適宜設定することができる。
【0026】
流線作成手段101によって着目点ごとの流線200が作成されると、流線表示手段102がこれら流線200を任意時刻(指定時刻)における静止画として表示する(Step30)。このとき、流速に応じた長さの流動線分220で流線200を表示したり、流速に応じた表示色で流線200を表示したりすることができる。なお流速に応じた表示色で流線200を表示する場合、先端点210と流動線分220に両方を当該表示色で表示してもよいし、先端点210と流動線分220どちらか一方を当該表示色で表示してもよい。
【0027】
3次元流速ベクトル分布がパラメータとして時刻を有していることから、経過時刻に応じて静止画を更新していくことで、地下水流を動画として表示することもできる。この場合、あらかじめ表示時刻を設定し、その表示時刻ごとに多数の流線200を示す静止画を連続表示することによって、動画として表示する(Step50)。この場合も静止画の表示と同様、流速に応じた長さの流動線分220で流線200を表示したり、流速に応じた表示色で流線200を表示したりすることができる。なお流速に応じた表示色で流線200を表示する場合、先端点210と流動線分220に両方を当該表示色で表示してもよいし、先端点210と流動線分220どちらか一方を当該表示色で表示してもよい。
【0028】
この動画は、すなわち
図1に示す多数の着目点、すなわち流線200の動きを表すものである。ところで、これら多数の流線200のうち、特定の流線200の動きを確認したいこともある。例えば、ある地点から浸透した液体が地下水流としてどのような流動経路で移動していくのか、あるいはどの範囲まで広がっていくのか、といった情報を確認したいケースも考えられる。この場合、特定着目点入力手段104を利用するとよい。以下、特定着目点入力手段104を用いて特定の流線200の動きを確認する処理について詳しく説明する。
【0029】
まずオペレータが、特定着目点入力手段104を用いて所望の着目点を「特定着目点」として指定する(Step40)。この操作により、オペレータによって指定された特定着目点が認識され、流線表示手段102はこの特定着目点に対して他の流線200とは異なる表示色を付した流線200(以下、「特定流線」という。)を作成し、他の流線200とともに動画を表示する(Step50)。
図6は、他とは異なる表示色の特定流線が、開始点(つまり、特手着目点を指定した位置)から井戸まで移動する動画を模式的に示すモデル図である(ただし便宜上、表示色ではなく線の太さで特定流線を強調している)。この図に示すように、他の流線200とは異なる表示色が付された特定流線は、特別に目立つ(他と区別できる)ことから特定流線の動きが確認しやすくなるわけである。なお表示色を変えるほか、先端点210の形状を変えたり、流動線分220の線種を変えたり、流動線分220の線の太さを変えることによって、特定流線の動きを強調することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本願発明の地下水流表示システムは、地下水の水収支や地下水汚染などの対策を講じる際に特に有効に実施することができる。本願発明が情報の共有に貢献し、ひいては健全な水循環の維持又は回復に資することを考えれば、本願発明は産業上利用できるばかりでなく社会的にも大きな貢献を期待し得る発明といえる。
【符号の説明】
【0031】
100 地下水流表示システム
101 (地下水流表示システムの)流線作成手段
102 (地下水流表示システムの)流線表示手段
103 (地下水流表示システムの)3次元流速ベクトル分布記憶手段
104 (地下水流表示システムの)特定着目点入力手
200 流線
210 (流線を構成する)先端点
220 (流線を構成する)流動線分