(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-08
(45)【発行日】2022-07-19
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池用電極、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/13 20100101AFI20220711BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20220711BHJP
H01M 4/70 20060101ALI20220711BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M4/139
H01M4/70 Z
H01M4/70 A
(21)【出願番号】P 2018226973
(22)【出願日】2018-12-04
【審査請求日】2021-03-05
(73)【特許権者】
【識別番号】399107063
【氏名又は名称】プライムアースEVエナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】後藤 周作
(72)【発明者】
【氏名】常深 剛
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 茂樹
【審査官】村岡 一磨
(56)【参考文献】
【文献】特表2004-519078(JP,A)
【文献】特開2013-191396(JP,A)
【文献】特開2011-159642(JP,A)
【文献】特開2014-179240(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電体と、
前記集電体の表面に形成され、活物質を少なくとも含む合剤層と、を備え、
前記合剤層は当該合剤層の表面から厚さ方向に伸びるように形成された孔部を有し、
前記合剤層の各領域における前記孔部の体積割合は、電池使用時における前記合剤層の温度が低い領域ほど高くなるように構成されている、
リチウムイオン二次電池用電極。
【請求項2】
前記合剤層を水銀圧入法を用いて測定した際に、細孔径とlog微分細孔容積との関係を示す細孔分布曲線において、log微分細孔容積の最大ピークを示す領域に第1のモード径を有し、かつ、前記第1のモード径よりも大きい領域に第2のモード径に対応するlog微分細孔容積のピークを有する、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用電極。
【請求項3】
前記第2のモード径に対応するlog微分細孔容積のピークの大きさは、前記合剤層に形成されている前記孔部の形成により、当該孔部と繋がった細孔の体積割合に対応している、請求項2に記載のリチウムイオン二次電池用電極。
【請求項4】
前記第2のモード径に対応するlog微分細孔容積のピークの大きさは、前記電池使用時における前記合剤層の温度が低い領域ほど大きい、請求項2または3に記載のリチウムイオン二次電池用電極。
【請求項5】
前記第1のモード径は2μm以下であり、前記第2のモード径は前記第1のモード径の2倍以上である、請求項2~4のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池用電極。
【請求項6】
前記孔部の体積割合は、前記合剤層に形成される前記孔部の深さを用いて調整されている、請求項1~5のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池用電極。
【請求項7】
前記孔部の体積割合は、前記合剤層に形成される前記孔部の単位面積当たりの数を用いて調整されている、請求項1~6のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池用電極。
【請求項8】
前記孔部の体積割合は、前記合剤層に形成される前記孔部の直径を用いて調整されている、請求項1~7のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池用電極。
【請求項9】
前記集電体は当該集電体の端部に引き出し電極を備え、
前記合剤層の前記引き出し電極付近の領域における前記孔部の体積割合は、前記合剤層を平面視した際の中央部付近の領域における前記孔部の体積割合よりも高くなるように構成されている、請求項1~8のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池用電極。
【請求項10】
前記孔部の少なくと
も一部が前記合剤層の厚さの50%以上の深さを有する、請求項1~9のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池用電極。
【請求項11】
活物質を少なくとも含む合剤層を集電体の表面に形成する工程と、
前記合剤層の表面から厚さ方向に伸びる孔部を前記合剤層に形成する工程と、を備え、
前記合剤層の各領域における前記孔部の体積割合は、電池使用時における前記合剤層の温度が低い領域ほど高い、
リチウムイオン二次電池用電極の製造方法。
【請求項12】
前記合剤層を水銀圧入法を用いて測定した際に、細孔径とlog微分細孔容積との関係を示す細孔分布曲線において、log微分細孔容積の最大ピークを示す領域に第1のモード径を有し、かつ、前記第1のモード径よりも大きい領域に第2のモード径に対応するlog微分細孔容積のピークを有する、請求項11に記載のリチウムイオン二次電池用電極の製造方法。
【請求項13】
前記合剤層にレーザ光を照射することで前記孔部を形成する、請求項11または12に記載のリチウムイオン二次電池用電極の製造方法。
【請求項14】
前記合剤層に照射される前記レーザ光のパワーを制御することで前記孔部の深さを調整する、請求項13に記載のリチウムイオン二次電池用電極の製造方法。
【請求項15】
前記合剤層の同一箇所に照射されるレーザ光の照射回数を制御することで前記孔部の深さを調整する、請求項13または14に記載のリチウムイオン二次電池用電極の製造方法。
【請求項16】
前記レーザ光をDOE(回折光学素子)を用いて複数の経路に分岐し、当該分岐された複数のレーザ光を前記合剤層の照射領域に同時に照射して、前記合剤層の前記照射領域に前記孔部を同時に形成する、請求項13~15のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池用電極の製造方法。
【請求項17】
前記分岐された複数のレーザ光を走査方向に走査することで、前記合剤層の前記照射領域に前記孔部を同時に形成しつつ、前記走査方向の照射領域に前記孔部を順番に形成していく、請求項16に記載のリチウムイオン二次電池用電極の製造方法。
【請求項18】
前記走査方向における前記分岐された複数のレーザ光の走査速度を変えることで、前記合剤層に形成される前記孔部の単位面積当たりの数を調整する、請求項17に記載のリチウムイオン二次電池用電極の製造方法。
【請求項19】
前記レーザ光は紫外レーザ光である、請求項13~18のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池用電極の製造方法。
【請求項20】
前記孔部の深さが50μm以上である、請求項13~19のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池用電極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池用電極、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、リチウムイオンを吸蔵・放出する正極および負極の間を、電解質中のリチウムイオンが移動することで充放電可能な二次電池である。
【0003】
特許文献1には、電極の合剤層を厚くしても、高出力放電時における容量が大きく、負荷特性に優れたリチウムイオン二次電池用電極に関する技術が開示されている。特許文献1に開示されている技術では、集電体の少なくとも片面に、活物質を含有する合剤層を有しており、合剤層の厚み方向には、集電体とは反対側の表面に、0.3~150μmの孔径の開口部を有する多数の微小孔が形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般的にリチウムイオン二次電池は、正極と負極とをセパレータを介して積層することで構成されている。各々の電極(正極および負極)は、活物質を少なくとも含む合剤層を集電体の表面に塗工することで構成されている。
【0006】
しかしながら、電極面内の場所によっては電極の温度が高い領域と低い領域とがあるため、電極面内において反応にムラが発生する。このように、電極面内において反応ムラが生じると、電池性能が劣化するという問題がある。
【0007】
上記課題に鑑み本発明の目的は、電極面内における反応ムラを抑制することが可能なリチウムイオン二次電池用電極、及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様にかかるリチウムイオン二次電池用電極は、集電体と、前記集電体の表面に形成され、活物質を少なくとも含む合剤層と、を備える。前記合剤層は当該合剤層の表面から厚さ方向に伸びるように形成された孔部を有し、前記合剤層の各領域における前記孔部の体積割合は、電池使用時における前記合剤層の温度が低い領域ほど高くなるように構成されている。
【0009】
本発明の一態様にかかるリチウムイオン二次電池用電極の製造方法は、活物質を少なくとも含む合剤層を集電体の表面に形成する工程と、前記合剤層の表面から厚さ方向に伸びる孔部を前記合剤層に形成する工程と、を備える。このとき、前記合剤層の各領域における前記孔部の体積割合が、電池使用時における前記合剤層の温度が低い領域ほど高くなるようにしている。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、電極面内における反応ムラを抑制することが可能なリチウムイオン二次電池用電極、及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施の形態にかかるリチウムイオン二次電池用電極を説明するための断面図である。
【
図2】実施の形態にかかるリチウムイオン二次電池用電極を説明するための上面図である。
【
図3】実施の形態にかかるリチウムイオン二次電池用電極を用いて構成した積層電極体を示す図である。
【
図4】
図3に示す積層電極体の電極位置と孔部の体積割合との関係を示すグラフである。
【
図5】実施の形態にかかるリチウムイオン二次電池用電極を用いて構成した捲回電極体を示す図である。
【
図6】
図5に示す捲回電極体の電極位置と孔部の体積割合との関係を示すグラフである。
【
図7】本発明のメカニズムを説明するための断面図である。
【
図8】実施の形態にかかるリチウムイオン二次電池用電極の製造方法に用いられるレーザ加工装置を説明するための図である。
【
図9】実施の形態にかかるリチウムイオン二次電池用電極の製造方法を説明するための上面図である。
【
図10】水銀圧入法を用いて合剤層を測定して得られた細孔分布曲線を示すグラフである。
【
図11】リチウムイオン二次電池のサイクル回数と拡散抵抗との関係を示すグラフである。
【
図12】リチウムイオン二次電池のサイクル回数と容量維持率との関係を示すグラフである。
【
図13】電極に形成された孔部の深さと初期の放電容量との関係を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
図1、
図2は、本実施の形態にかかるリチウムイオン二次電池用電極を説明するための断面図、及び上面図である。
図1に示すように、本実施の形態にかかるリチウムイオン二次電池用電極1は、集電体11と、集電体11の表面に形成され、活物質を少なくとも含む合剤層12と、を備える。
図1、
図2に示すように、合剤層12は、合剤層12の表面から厚さ方向に伸びるように形成された孔部13を有する。なお、
図1、
図2では、リチウムイオン二次電池用電極1の一部のみを図示している。
【0013】
本実施の形態にかかる発明は、リチウムイオン二次電池の正極および負極に適用することができる。例えば、本発明をリチウムイオン二次電池の正極のみに適用してもよく、負極のみに適用してもよく、正極および負極の両方に適用してもよい。換言すると、本実施の形態にかかる発明は、リチウムイオン二次電池の正極および負極の少なくとも一方に適用することができる。
【0014】
本実施の形態にかかる発明をリチウムイオン二次電池の正極に適用する場合は、次のように構成することができる。正極を構成する場合は、集電体11として、アルミニウムまたはアルミニウムを主成分とする合金を用いることができる。合剤層(正極合剤層)12は、正極活物質、導電剤、及びバインダーを用いて構成することができる。
【0015】
正極活物質は、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な材料であり、例えば、コバルト酸リチウム(LiCoO2)、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)、アルミ酸リチウム(LiAlO2)を任意の割合で混合したNCA系の材料を用いることができる。一例を挙げると、LiNi0.8Co0.15Al0.05O2を用いることができる。なお、正極活物質はこれらの材料に限定されることはなく、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な材料であればどのような材料を用いてもよい。
【0016】
導電材には、例えばアセチレンブラック(AB)や黒鉛系の材料を用いることができる。また、導電剤にカーボンナノチューブを用いてもよい。バインダーには、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、スチレンブタジエンラバー(SBR)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、カルボキシメチルセルロース(CMC)等を用いることができる。
【0017】
正極を形成する際は、正極活物質に、導電材およびバインダーを混合し、これらの混合物をNMP(N-メチル-2-ピロリドン)等の溶媒に入れて混練する。そして、混練後の正極合剤を正極集電体上に塗布して乾燥し、更に圧延することで正極を形成することができる。
【0018】
本実施の形態にかかる発明をリチウムイオン二次電池の負極に適用する場合は、次のように構成することができる。負極を構成する場合は、集電体11として、銅やニッケルあるいはそれらの合金を用いることができる。合剤層(負極合剤層)12は、負極活物質、及びバインダーを用いて構成することができる。
【0019】
負極活物質は、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な材料であり、例えば、天然黒鉛等からなる粉末状の炭素材料を用いることができる。バインダーには、上述したバインダーを用いることができる。負極を形成する際は、負極活物質とバインダーと溶媒とを混練し、混練後の負極合剤を負極集電体上に塗布して乾燥し、更に圧延することで形成することができる。
【0020】
なお、上述した正極および負極の構成例は一例であり、本実施の形態では、上述した材料以外の材料を用いて正極および負極を構成してもよい。
【0021】
図1、
図2に示すように、本実施の形態では、合剤層12の表面に孔部13を形成している。そして、本実施の形態では、合剤層12の各領域における孔部13の体積割合が、電池使用時における合剤層12の温度が低い領域ほど高くなるように構成している。なお、「電池使用時における合剤層の温度」とは合剤層12に孔部13を設けていない場合における温度である。
【0022】
つまり、合剤層に孔部を設けていない場合は、電池使用時において合剤層に温度分布が生じるため、電極面内に反応ムラが生じる。本実施の形態では、合剤層12に孔部13を設けることで、この温度分布に起因する反応ムラを抑制している。換言すると、合剤層12に孔部13を設けることで、電池使用時において合剤層に温度分布が生じることを抑制している。以下、本実施の形態にかかるリチウムイオン二次電池用電極の構成について詳細に説明する。
【0023】
図3は、本実施の形態にかかるリチウムイオン二次電池用電極を用いて構成した積層電極体を示す図である。
図3に示す積層電極体20は、正極と負極とをセパレータを介して積層することで構成することができる。正極集電体および負極集電体の端部には各々、正極用の引き出し電極21および負極用の引き出し電極22が設けられている。なお、積層電極体の積層構造は、一般的な積層電極体の積層構造と同様である。
【0024】
図4は、電極位置と孔部の体積割合との関係を示すグラフであり、
図3に示す積層電極体20のA断面およびB断面における孔部の体積割合を示している。ここで孔部の体積割合とは、単位体積当たりの合剤層中に占める孔部の体積の割合である。
図4に示すグラフの電極位置(横軸)は、
図3に示す積層電極体20のA断面の領域25_1、領域25_2、領域25_3(A断面を示す矢印の方向)に対応している。同様に、
図4に示すグラフの電極位置(横軸)は、
図3に示す積層電極体20のB断面の領域26_1、領域26_2、領域26_3(B断面を示す矢印の方向)に対応している。
【0025】
図3、
図4に示すように、A断面では、領域25_1における孔部13の体積割合が最も高くなるように構成している。その後、領域25_2に向かうにしたがって孔部13の体積割合が少なくなり、そして極小値をとった後、領域25_3に向かうにしたがって孔部13の体積割合が高くなるように構成している。
【0026】
図3に示す積層電極体20では、電池使用時において合剤層12の熱が引き出し電極21に向かって逃げるため、引き出し電極21付近の領域25_1の温度が最も低くなる。したがって、A断面では、領域25_1における孔部13の体積割合が最も高くなるように構成している。なお、引き出し電極22付近の領域についても同様である。
【0027】
また、合剤層12の領域25_2は1つの辺が外側と近接しており、合剤層12の領域25_3は2つの辺が外側と近接している。このため、電池使用時において合剤層12の温度は、領域25_3のほうが領域25_2よりも低くなる。したがって、A断面では、領域25_3における孔部13の体積割合のほうが領域25_2における孔部13の体積割合よりも高くなるように構成している。
【0028】
B断面についても同様に、領域26_1における孔部13の体積割合が最も高くなるように構成している。その後、領域26_2に向かうにしたがって孔部13の体積割合が少なくなり、そして極小値をとった後、領域26_3に向かうにしたがって孔部13の体積割合が高くなるように構成している。
【0029】
図3に示す積層電極体20では、電池使用時において合剤層12の熱が引き出し電極21、22に向かって逃げる。このため、B断面では、引き出し電極21、22側の領域26_1の温度が最も低くなる。したがって、B断面では、領域26_1における孔部13の体積割合が最も高くなるように構成している。
【0030】
また、合剤層12の領域26_2は外側と近接する領域がなく、合剤層12の領域26_3は1つの辺が外側と近接している。このため、電池使用時において合剤層12の温度は、領域26_3のほうが領域26_2よりも低くなる。したがって、B断面では、領域26_3における孔部13の体積割合のほうが領域26_2における孔部13の体積割合よりも高くなるように構成している。
【0031】
なお、A断面とB断面とを比較すると、A断面の領域25_1~25_3のほうがB断面の領域26_1~26_3よりも外側と近接している領域が多い。このため、電池使用時における合剤層12の温度は、A断面の領域25_1~25_3のほうがB断面の領域26_1~26_3よりも低くなる。よって、
図4のグラフに示すように、A断面の領域25_1~25_3では、B断面の領域26_1~26_3と比べて全体的に孔部の体積割合が高くなるように構成している。
【0032】
また、積層電極体20全体に着目すると、合剤層12の引き出し電極21付近の領域25_1における温度が最も低く(引き出し電極22付近の領域についても同様)、中央部付近の領域26_2における温度が最も高くなる。したがって、本実施の形態では、合剤層12の引き出し電極21付近の領域25_1における孔部13の体積割合(引き出し電極22付近の領域についても同様)が最も高くなるように構成し、また中央部付近の領域26_2における孔部13の体積割合が最も低くなるように構成している。
【0033】
次に、本実施の形態にかかるリチウムイオン二次電池用電極を用いて構成した電極体の他の構成例について説明する。
図5は、本実施の形態にかかるリチウムイオン二次電池用電極を用いて構成した捲回電極体を示す図である。
図5に示す捲回電極体30は、正極と負極とをセパレータを介して積層した後、当該積層体を捲回して扁平にすることで構成することができる。正極集電体および負極集電体の各々には合剤層が塗工されていない未塗工部31、32が形成されている。また、未塗工部31、32には、正極用の引き出し電極33および負極用の引き出し電極34がそれぞれ設けられている。なお、捲回電極体の構造は、一般的な捲回電極体の構造と同様である。
【0034】
図6は、電極位置と孔部の体積割合との関係を示すグラフであり、
図5に示す捲回電極体30のC断面およびD断面における孔部の体積割合を示している。
図6に示すグラフの電極位置(横軸)は、
図5に示す捲回電極体30のC断面、D断面を示す矢印の方向に対応している。
【0035】
図5、
図6に示すように、C断面では、捲回電極体30の中央部側よりも両端側において孔部13の体積割合が高くなるように構成している。D断面においても同様に、捲回電極体30の中央部側よりも両端側において孔部13の体積割合が高くなるように構成している。この理由は、捲回電極体30の中央部側よりも両端側のほうが合剤層12の熱が外部に逃げやすいためである。
【0036】
また、捲回電極体30では、未塗工部31、32側に合剤層12の熱が逃げるため、電池使用時における合剤層12の温度は、C断面の領域のほうがD断面の領域よりも低くなる。このため、
図6のグラフに示すように、C断面の領域ではD断面の領域よりも全体的に孔部の体積割合が高くなっている。
【0037】
なお、積層電極体20の電極位置に対する孔部の体積割合(
図4参照)と、捲回電極体30の電極位置に対する孔部の体積割合(
図6参照)とを比較すると、捲回電極体30のほうが孔部の体積割合の変化が少ない。このことは、捲回電極体30のほうが積層電極体20よりも、電池使用時における合剤層の温度分布が少ないことを示している。
【0038】
なお、上述した電極位置に対する孔部の体積割合は一例であり、本実施の形態では、使用する電極体の構造等に応じて個別に、電極位置に対する孔部の体積割合を決定するようにしてもよい。また、上記説明では、電極体の熱の伝わり方(つまり、電極体の温度分布)を考慮して、孔部の体積割合を決定した。しかし本実施の形態では、更に、合剤層内の活物質や導電剤のばらつきなどに起因して生じる電極面内における反応のばらつきを考慮して、孔部の体積割合を決定してもよい。
【0039】
以上で説明したように、本実施の形態では、電池使用時における合剤層12の温度が低い領域ほど、合剤層12の各領域における孔部13の体積割合が高くなるように構成している。このような構成とすることで、電極面内における反応ムラを抑制することができる。
【0040】
つまり、合剤層に孔部を設けていない場合は、電池使用時において合剤層に温度分布が生じるため、電極面内に反応ムラが生じる。具体的には、温度が高い領域ほど合剤層中における化学反応が促進される。逆に、温度が低い領域ほど合剤層中における化学反応が促進されない。本実施の形態では、合剤層12の温度が低い領域ほど孔部13の体積割合が高くなるように構成することで、合剤層12の温度が低い領域において化学反応を促進させている。したがって、電極面内における反応ムラを抑制することができる。
【0041】
図7は、本発明のメカニズムを説明するための断面図である。
図7の左図に示すように、合剤層12に孔部を設けていない場合は、合剤層12の表面に存在するリチウムイオンLi
+が合剤層12の内部に拡散しにくい。このため、活物質15とリチウムイオンLi
+とが接触する機会が少なくなり、化学反応は限定的となる。
【0042】
一方、
図7の右図に示すように、合剤層12に孔部13を設けた場合は、合剤層12の表面に存在するリチウムイオンLi
+が孔部13を通過して合剤層12の内部へと拡散する。つまり、孔部13は合剤層12の内部に存在する横方向等の様々な方向に延出する細孔18(
図7の右図において矢印で示す)と繋がっており、孔部13を通過したリチウムイオンLi
+は、細孔18を介して合剤層12の内部へと拡散する。このため、孔部13を設けた場合は、活物質15とリチウムイオンLi
+とが接触する機会が多くなり、化学反応が促進される。
【0043】
本実施の形態において、孔部13の体積割合とは、単位体積当たりの合剤層12中に占める孔部13の体積の割合である。孔部13の体積割合は、合剤層12に形成される孔部13の深さを用いて調整してもよい。このとき、合剤層12に形成される孔部13の少なくとの一部が、合剤層12の厚さの50%以上の深さとなるようにしてもよい。
【0044】
また、孔部13の体積割合は、合剤層12に形成される孔部13の単位面積当たりの数を用いて調整してもよい(
図3参照)。また、孔部13の体積割合は、合剤層12に形成される孔部13の直径を用いて調整してもよい。一例を挙げると、孔部13の直径は25μm以下とすることができる。また、例えば、孔部13の開口部の面積は、電極全体の面積の6%以上としてもよい。
【0045】
また、本実施の形態では、合剤層12に形成される孔部13および横方向等に延出する細孔18は水銀圧入法を用いて評価することができる。水銀圧入法は、水銀に加える圧力を変化させて、細孔中に侵入した水銀の体積を測定し、この水銀の体積に基づいて細孔の情報を得る測定方法である。
【0046】
本実施の形態にかかる電極1では、合剤層12を水銀圧入法を用いて測定した際に、細孔径とlog微分細孔容積との関係を示す細孔分布曲線(
図10参照)において、log微分細孔容積の最大ピークを示す領域に第1のモード径(
図10のピークαに対応)を有し、かつ、第1のモード径よりも大きい領域に第2のモード径に対応するlog微分細孔容積のピーク(
図10のピークβに対応)を有する。
【0047】
ここで、第1のモード径に対応するピークα(
図10参照)は、孔部13を形成しなくても現れるピークである。具体的には、ピークα(
図10参照)は、孔部13がなくても現れる横方向等に延出する細孔に起因するピークである。
【0048】
また、第2のモード径に対応するピークβ(
図10参照)は、合剤層12に孔部13を形成し、この孔部13が横方向等に延出する細孔18(
図7参照)と繋がった際に現れるピークである。
図10のグラフに示すように、孔部13を形成していない場合(「孔部なし」)は、第2のモード径に対応するピークβは現れない。これに対して、孔部13を形成した場合(「40μm」、「50μm」)は、第2のモード径に対応するピークβが現れる。なお、
図10のグラフについては実施例で詳細に説明する。
【0049】
また、第2のモード径に対応するlog微分細孔容積のピークβ(
図10参照)の大きさ(高さ)は、合剤層12に形成されている孔部13の体積割合に対応している。すなわち、合剤層12に形成されている孔部13の体積割合が高いほど、横方向等に延出する細孔18(
図7参照)と繋がる孔部13が多くなるので、log微分細孔容積のピークβの大きさも大きくなる。このようにlog微分細孔容積のピークβが大きい場合は、電解液が細孔18の奥深くへと浸透するので、電解液の補液性が向上する。
【0050】
上述のように、本実施の形態では、合剤層12の各領域における孔部13の体積割合が、電池使用時における合剤層12の温度が低い領域ほど高くなるようにしている。この構成を水銀圧入法による測定結果を用いて表現すると、電池使用時における合剤層12の温度が低い領域ほど、第2のモード径に対応するlog微分細孔容積のピークβ(
図10参照)が大きくなるように構成している、と表現することができる。
【0051】
第1および第2のモード径の一例を挙げると、第1のモード径は2μm以下であり、第2のモード径は第1のモード径の2倍以上とすることができる。
【0052】
次に、リチウムイオン二次電池用電極の製造方法について説明する。
リチウムイオン二次電池用電極を製造する際は、活物質を少なくとも含む合剤層12を集電体11の表面に形成する(
図1参照)。その後、合剤層12の表面から厚さ方向に伸びる孔部13を合剤層12に形成する。合剤層12に孔部13を形成する際は、合剤層12の各領域における孔部13の体積割合が、電池使用時における合剤層12の温度が低い領域ほど高くなるように形成する。
【0053】
本実施の形態では、例えば、合剤層12にレーザ光を照射することで孔部13を形成することができる。例えば、レーザ光として紫外レーザ光(UV355など)を用いることができる。紫外レーザ光を用いることで、合剤層12に含まれるバインダー等の有機材料を効果的に除去することができる。このようにして除去された材料は、昇華したり、フュームとして排出されたりするので、電極内に異物として残留することを抑制することができる。
【0054】
また、本実施の形態では、例えば、
図8に示すようなレーザ加工装置を用いて、合剤層12に孔部13を形成してもよい。
図8に示すレーザ加工装置40は、レーザ光源41、回折光学素子(DOE:Diffractive Optical Element)42、ガルバノミラー43、44、及び集光レンズ45を備える。
【0055】
レーザ光源41は、レーザ光を生成する。自由度の高い加工を可能とするために、レーザ光源41で生成するレーザは、例えばピコ秒レーザやフェムト秒レーザ等の短パルスレーザとすることが好ましい。回折光学素子(DOE)42は、レーザ光源41で生成されたレーザ光47を複数の経路に分岐する。ガルバノミラー43、44は、回折光学素子(DOE)42で複数の経路に分岐されたレーザ光を所定の方向に走査する。集光レンズ45は、ガルバノミラーで走査されたレーザ光48を集光する。集光レンズ45で集光されたレーザ光49は、合剤層12に照射される。
【0056】
図8に示すレーザ加工装置40では、回折光学素子(DOE)42を用いて1つのレーザ光を複数の経路に分岐している。回折光学素子(DOE)42で複数の経路に分岐された各々のレーザ光は、ガルバノミラー43、44で走査され、集光レンズ45で集光された後、合剤層12の照射領域51_1(
図9参照)に同時に照射される。したがって、
図9に示すように、合剤層12の表面において矩形状の照射領域51_1に孔部13を同時に形成することができる。つまり、回折光学素子(DOE)42でレーザ光を複数の経路に分岐することで、矩形状の照射領域51_1にレーザ光を同時に照射することができる。また、ガルバノミラー42、43を用いてレーザ光を走査することで、各々の照射領域51_1~51_3にレーザ光49(
図8参照)を順番に照射することができる。これにより、各々の照射領域51_1~51_3ごとに孔部13を順番に形成することができる。このような方法を用いることで、加工時間を短くすることができる。
【0057】
すなわち、照射領域51_1にレーザ光を同時に照射することで、照射領域51_1に孔部13を同時に形成することができる。その後、レーザ光をx軸方向に走査することで照射領域51_2にレーザ光を同時に照射することができる。これにより照射領域51_2に孔部13を同時に形成することができる。以下同様に、レーザ光をx軸方向に走査することで、合剤層12のx軸方向に孔部13を順番に形成することができる。
同様に、レーザ光をy軸方向に走査することで照射領域51_3にレーザ光を同時に照射することができる。これにより照射領域51_3に孔部13を同時に形成することができる。以下同様に、レーザ光をy軸方向に走査することで、合剤層12のy軸方向に孔部13を順番に形成することができる。
本実施の形態では、例えば、レーザ光のスキャンピッチを変えることで、孔部の密度をグラデーション的に変えることができる。
【0058】
また、本実施の形態では、例えば、合剤層12に照射されるレーザ光のパワーを制御することで、孔部13の深さを調整してもよい。また、合剤層12の同一箇所に照射されるレーザ光の照射回数を制御することで、孔部13の深さを調整してもよい(パーカッション加工)。すなわち、合剤層12の同一箇所に照射するレーザ光の照射回数が増えるほど、形成される孔部13の深さが深くなる。このような加工により、孔部13の深さを容易に調整することができる。
【0059】
更に本実施の形態では、分岐された複数のレーザ光の走査方向における走査速度を変えることで、合剤層12に形成される孔部13の単位面積当たりの数を調整してもよい。すなわち、レーザ光のパルス間隔が同一である場合、走査速度が遅いほど単位面積当たりの孔部13の数が多くなり、逆に走査速度が速いほど単位面積当たりの孔部13の数が少なくなる。
【0060】
また、本実施の形態では、レーザ光のパルス間隔を変えることで、合剤層12に形成される孔部13の単位面積当たりの数を調整してもよい。すなわち、レーザ光の走査速度が等速である場合、レーザ光のパルス間隔が短いほど単位面積当たりの孔部13の数が多くなり、逆にレーザ光のパルス間隔が長いほど単位面積当たりの孔部の数が少なくなる。
【0061】
また、本実施の形態では、レーザ光の走査速度とレーザ光のパルス間隔の両方を調整することで、合剤層12に形成される孔部13の単位面積当たりの数を調整してもよい。
【0062】
本実施の形態では、合剤層12に孔部13を形成する際に金型を用いてもよい。金型を用いる場合は、複数の突起部を有する金型を合剤層12に押し当てて孔部13を形成する。金型を用いる方法は、孔部13が密集しておらず、また孔部13の深さが深くない場合に用いることができる。一方、孔部13が密集しており、また孔部13の深さが深い場合は、金型の突起部が密集し、また突起部の長さが長くなるため、金型を合剤層に押し当てた後、金型を引き上げる際に金型の突起部に合剤層が張り付いて、集電体から合剤層がはがれる場合がある。このような場合はレーザ光を用いて孔部を形成することが好ましい。一例を挙げると、深さが50μm以上の孔部13を形成する際は、レーザ光を用いることが好ましい。
【実施例】
【0063】
次に、本発明の実施例について説明する。
実施例にかかるサンプルとして、負極を作製した。具体的には、負極活物質とバインダーと溶媒とを混練し、混練後の負極合剤を負極集電体上に塗布して乾燥し、更に圧延することで負極を形成した。
【0064】
このとき、負極活物質には天然黒鉛を使用した。バインダーにはSBR及びCMCを使用した。溶媒には水を使用した。負極集電体には銅箔を使用した。負極合剤層の厚さは90μmとした。
【0065】
その後、上述のようにして作製した負極に、レーザ光を用いて円錐形の孔部を形成した。このとき、孔部の深さが10μm、20μm、40μm、50μmのサンプルをそれぞれ作製した。また、このとき形成した孔部の直径は最上部で、10~30μmとした。
【0066】
図10は、水銀圧入法を用いて合剤層を測定して得られた細孔分布曲線を示すグラフである。
図10に示すグラフでは、孔部なし、孔部の深さが20μm、40μm、50μmのサンプルの測定結果を示している。水銀圧入法の測定にはマイクロメリティックス社製の細孔分布測定装置(オートポアIV9520)を使用した。また、測定条件としては、初期圧14kPa(約2.0psia、細孔直径約90μm相当)とし、水銀パラメータは、装置デフォルトの水銀接触角130degrees、水銀表面張力485dynes/cmに設定した。
【0067】
図10に示すグラフの横軸は細孔径であり、縦軸はlog微分細孔容積である。
図10に示すように、「孔部なし」のサンプルでは、0.85μm付近にピークαが現れたが、これ以外にはピークは出現しなかった。したがって、0.85μm付近のピークαは、孔部がなくても現れる横方向の細孔に起因するピークであるといえる。
【0068】
また、孔部の深さが40μmのサンプル、及び50μmのサンプルでは、0.85μm付近にピークαが現れ、更に、4.5μm付近にピークβが現れた。ここでピークβは、合剤層12に孔部13を形成し、この孔部13が横方向等の様々な方向に延出する細孔18(
図7参照)と繋がった際に現れるピークであると推測される。すなわち、孔部の深さが40μmのサンプル、及び50μmのサンプルでは、ピークβのピークにより、合剤層12中の細孔に電解液が浸透・拡散しやすくなったといえる。
【0069】
また、孔部の深さが50μmのサンプルのピークβの大きさは、孔部の深さが40μmのサンプルのピークβの大きさよりも大きくなった。このことは、孔部の深さが50μmのサンプルのほうが、孔部の深さが40μmのサンプルと比べて、孔部が合剤層12中の多くの細孔に繋がったことを示している。それにより、電解液が浸透・拡散しやすくなったといえる。
【0070】
また、孔部の深さが20μmのサンプルでは、0.85μm付近にピークαが現れ、更に、ピークαとピークβの間にピークが現れた。ピークαとピークβの間に現れたピークも、孔部13が横方向等に延出する細孔18と繋がった際に現れるピークに対応していると推測される。しかし、孔部の深さが40μmのサンプル、及び50μmのサンプルと比べると、合剤層12中の細孔との繋がりが少なかったといえる。
【0071】
次に、リチウムイオン二次電池用電極の電気特性を評価するために、リチウムイオン二次電池の評価セル(ラミネート型セル)を作製した。
【0072】
リチウムイオン二次電池の正極は、正極活物質、導電剤、バインダー、及び溶媒を混練し、混練後の正極合剤を正極集電体上に塗布して乾燥し、更に圧延することで形成した。このとき、正極活物質にはLiNi0.8Co0.15Al0.05O2を使用し、導電剤にはアセチレンブラックを使用し、バインダーにはポリフッ化ビニリデン(PVdF)を使用し、溶媒にはN-メチルピロリドンを使用した。また、正極集電体にはアルミ箔を使用した。なお、正極の合剤層には孔部を形成しなかった。
【0073】
負極には、上述のサンプルを使用した。つまり、負極合剤層に孔部が形成されていない負極、及び負極合剤層に、深さ10μm、20μm、40μm、50μmの孔部が各々形成された負極をそれぞれ用いた。
【0074】
そして、準備した正極と負極とを用いてリチウムイオン二次電池(ラミネート型セル)を組み立てた。電解液としては、30%のエチレンカーボネートと70%のエチルメチルカーボネートの溶液を使用した。また、支持塩として1mol/LのLiPF6を用いた。
【0075】
このようにして作製したリチウムイオン二次電池を用いて電気特性を評価した。
図11は、リチウムイオン二次電池のサイクル回数とインピーダンス法により測定した拡散抵抗との関係を示すグラフである。
図11では、リチウムイオン二次電池の充放電サイクルが0(初期値)から100サイクルまでの拡散抵抗の変化を示している。なお、
図11に示す電気特性を求める際は、リチウムイオン二次電池を1Cの電流でCCCV充電し、その後、1Cの電流で放電する処理を繰り返した。充放電時の電圧は、3.0V~4.1Vとした。
【0076】
図11のグラフに示すように、全てのサンプルにおいて、充放電サイクルが増えるにつれて、拡散抵抗が増加した。また、負極合剤層に孔部を形成していないサンプル(孔部なし)と、負極合剤層に深さ50μmの孔部が形成されたサンプル(孔部深さ50μm)とを比較すると、孔部深さ50μmのサンプルでは孔部なしのサンプルと比べて、拡散抵抗が低下した。このように、孔部を形成したサンプルでは孔部なしのサンプルと比べて拡散抵抗が低下することが確認できた。
【0077】
また、リチウムイオン二次電池の電気特性として容量維持率を測定した。
図12は、リチウムイオン二次電池のサイクル回数と容量維持率との関係を示すグラフである。
図12では、リチウムイオン二次電池の充放電サイクルが0(初期値)から100サイクルまでの容量維持率の変化を示している。ここで容量維持率とは、n(n=1~100)サイクルにおける放電容量の初期の放電容量に対する割合であり、「容量維持率(%)=放電容量(nサイクル)/(初期の放電容量)×100」を計算することで得られる値である。
【0078】
容量維持率を求める際は、1Cの電流でCCCV充電し、その後、1Cの電流で放電する処理を繰り返した。充放電時の電圧は、3.0V~4.1Vとした。なお、各サンプルの初期の放電容量については、
図13に示すとおりである。
図13に示すように、各サンプルの初期の放電容量はほぼ同一の値であった。
【0079】
図12のグラフに示すように、全てのサンプルにおいて、充放電サイクルが増えるにつれて、容量維持率が低下した。また、負極合剤層に孔部を形成していないサンプル(孔部なし)と、負極合剤層に孔部を形成したサンプルとを比較すると、孔部を形成したサンプルでは孔部を形成していないサンプルと比べて、容量維持率の低下が緩やかであった。特に、充放電サイクルが100サイクルの場合に着目すると、孔部なしのサンプルの容量維持率が68%であったのに対して、孔部深さ50μmのサンプルの容量維持率は78%であった。したがって、孔部を形成したサンプルでは孔部なしのサンプルと比べて容量維持率の値が良好であった。
【0080】
以上で説明したように、孔部を形成したサンプルでは孔部なしのサンプルと比べてリチウムイオン二次電池の電気特性が良好であることが確認できた。
【0081】
以上、本発明を上記実施形態に即して説明したが、本発明は上記実施の形態の構成にのみ限定されるものではなく、本願特許請求の範囲の請求項の発明の範囲内で当業者であればなし得る各種変形、修正、組み合わせを含むことは勿論である。
【符号の説明】
【0082】
1 リチウムイオン二次電池用電極
11 集電体
12 合剤層
13 孔部
15 活物質
18 細孔
20 積層電極体
21、22 引き出し電極
30 捲回電極体
31、32 未塗工部
33、34 引き出し電極
40 レーザ加工装置
41 レーザ光源
42 回折光学素子(DOE)
43、44 ガルバノミラー
45 集光レンズ