(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-08
(45)【発行日】2022-07-19
(54)【発明の名称】液体電解質含有非水電解質二次電池用正極及び液体電解質含有非水電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/13 20100101AFI20220711BHJP
H01M 10/0566 20100101ALI20220711BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M10/0566
(21)【出願番号】P 2018550121
(86)(22)【出願日】2017-10-25
(86)【国際出願番号】 JP2017038432
(87)【国際公開番号】W WO2018088204
(87)【国際公開日】2018-05-17
【審査請求日】2020-10-06
(31)【優先権主張番号】P 2016219346
(32)【優先日】2016-11-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001889
【氏名又は名称】三洋電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福富 雄太
(72)【発明者】
【氏名】衣川 元貴
(72)【発明者】
【氏名】柳 智文
【審査官】松嶋 秀忠
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/073113(WO,A1)
【文献】特開2014-132541(JP,A)
【文献】特開2016-100278(JP,A)
【文献】特開2012-028006(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/13-62
H01M 10/05-0587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
矩形状の集電体と、
活物質及び結着材を含み、前記集電体上に形成された合材層と、
を備え、
前記合材層は前記集電体の四つの直線状の外縁端のうち少なくとも一端を被覆しており、
前記一端に沿った第1方向に垂直な第2方向において、前記合材層中の前記結着材の含有量は、前記一端から0.5mm~5.5mm離れた位置で極大値を示し、
前記極大値は、前記合材層の前記第2方向の中央における前記結着材の含有量の100%超過240%以下である、
液体電解質含有非水電解質二次電池用正極。
【請求項2】
前記第1方向は前記集電体の長手方向であり、前記第2方向は前記集電体の幅方向である、請求項1に記載の
液体電解質含有非水電解質二次電池用正極。
【請求項3】
前記極大値は、前記合材層の前記幅方向の中央における前記結着材の含有量の120%~200%である、請求項2に記載の
液体電解質含有非水電解質二次電池用正極。
【請求項4】
前記合材層中の前記結着材の含有量は、前記一端から1mm~5mm離れた位置で前記極大値を示す、請求項2又は3に記載の
液体電解質含有非水電解質二次電池用正極。
【請求項5】
正極と負極がセパレータを介して積層されてなる電極体を備え、
前記正極が、請求項1~4のいずれか1項に記載の
液体電解質含有非水電解質二次電池用正極によって構成された、
液体電解質含有非水電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、非水電解質二次電池用電極及び非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
非水電解質二次電池は、正極と負極がセパレータを介して積層されてなる電極体を備える。電極体を構成する正極及び負極は、一般的に、長尺状の集電体上に合材層を形成し、合材層が形成された部分で当該集電体を所定の形状に切断して製造される。集電体に対する合材層の結着力が弱いと、当該切断工程において、或いはその後の電池の製造工程において集電体の端部で合材層が欠落し、電池容量の低下、内部短絡の発生といった問題を招くことが想定される。一方、合材層中の結着材量を単純に増加させると、合材層中の活物質量が減少して電池容量の低下につながるため好ましくない。
【0003】
このような状況に鑑みて、例えば特許文献1には、裁断部位に塗布される合材スラリーの結着材の含有量を、裁断されない非裁断部位に塗布される合材スラリーの結着剤の含有量に対して相対的に多くする方法が開示されている。また、特許文献2には、第1電極層と、結着材の含有量が第1電極層よりも多い第2電極層とを備え、第2電極層が集電体表面及び第1電極層の側面に接するように配置された電極が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-54115号公報
【文献】国際公開第2011/142083号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1,2に開示された技術によれば、集電体の端部における合材層の欠落を抑制できると考えられる。しかしながら、集電体の端で合材層中の結着材の含有量を局所的に多くすると、電池のサイクル特性が悪化するという課題が判明した。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様である非水電解質二次電池用電極は、矩形状の集電体と、活物質及び結着材を含み、前記集電体上に形成された合材層とを備え、前記合材層は前記集電体の四つの直線状の外縁端のうち少なくとも一端を被覆しており、前記一端に沿った第1方向に垂直な第2方向において、前記合材層中の前記結着材の含有量は、前記一端から0.5mm~5.5mm離れた位置で極大値を示し、前記極大値は、前記合材層の前記第2方向の中央における前記結着材の含有量の100%超過240%以下であることを特徴とする。
【0007】
本開示の一態様である非水電解質二次電池は、正極と負極がセパレータを介して積層されてなる巻回型の電極体を備え、前記正極及び前記負極の少なくとも一方が上記非水電解質二次電池用電極によって構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本開示の一態様である非水電解質二次電池用電極を用いることによって、合材層の欠落が発生し難く、サイクル特性に優れた非水電解質二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は実施形態の一例である非水電解質二次電池の断面図である。
【
図2】
図2は実施形態の一例である正極の正面図及び背面図である。
【
図3】
図3は実施形態の一例である正極の製造方法を説明するための図である。
【
図4】
図4は実施形態の一例である正極の製造方法を説明するための図である。
【
図5】
図5は従来の非水電解質二次電池用電極の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示の一態様である非水電解質二次電池用電極では、矩形状の集電体の少なくとも一端から0.5mm~5.5mm離れた位置で合材層中の結着材の含有量を局所的に多くしている。そして、当該含有量の極大値を合材層の第2方向(上記一端に沿った第1方向に垂直な方向)の中央における結着材の含有量の100%超過240%以下に調整している。これにより、電極の切断工程、或いはその後の電池の製造工程における合材層の欠落が抑制されると共に、サイクル特性に優れた非水電解質二次電池が得られる。
【0011】
図5は、従来の非水電解質二次電池用電極100の正面図及び背面図である。
図5に例示するように、非水電解質二次電池用電極100では、リード104が溶接される露出部103を除く集電体101の全域に合材層102が形成されている。合材層102には、結着材の含有量が他の領域よりも多い領域102eが存在する。領域102eは、集電体101の幅方向両端から数mm程度の幅で、集電体の長手方向に沿って形成されている。本発明者らの検討の結果、電極100のように集電体の端で合材層中の結着材の含有量を多くした電極を用いた場合は、結着材の含有量が略一定の電極を用いた場合と比べて、電池のサイクル特性が悪化することが分かった。
【0012】
電極100を用いた場合、結着材の含有量が多い領域102eにより電極(電極体)の端で電解液がブロックされて電極体の内部に浸透し難くなり、電池のサイクル特性が悪化するものと考えられる。本開示の一態様である非水電解質二次電池用電極では、集電体の端から0.5mm~5.5mm離れた位置で結着材の含有量を多くすることによって、電極の端からの電解液の浸透を阻害することなく合材層の欠落を抑制することができる。このため、電解液の浸透性を良好に維持でき、電池の良好なサイクル特性が確保できると考えられる。なお、この場合も結着材含有量の極大値を多くし過ぎると、電極100を用いた場合と同様にサイクル特性が悪化することが分かった。
【0013】
以下、実施形態の一例について詳細に説明する。
実施形態の説明で参照する図面は模式的に記載されたものであるから、各構成要素の具体的な寸法等は以下の説明を参酌して判断されるべきである。本明細書において「略~」との用語は、略同一を例に説明すると、完全に同一はもとより、実質的に同一と認められるものを含む意図である。また、「端部」の用語は対象物の端及びその近傍を、「中央部」の用語は対象物の中央及びその近傍をそれぞれ意味するものである。
【0014】
なお、本開示の一態様である非水電解質二次電池用電極において、合材層は矩形状の集電体の四つの直線状の外縁端のうち少なくとも一端を被覆していればよい。本開示の一態様である非水電解質二次電池用電極では、当該一端に沿った第1方向に垂直な第2方向において、合材層中の結着材の含有量が当該一端から0.5mm~5.5mm離れた位置で極大値を示す。実施形態の説明では、第1方向が集電体の長手方向であり、第2方向が集電体の幅方向である例を示すが、第1方向が集電体の幅方向であってもよいし、集電体の第1方向と第2方向とに沿った長さが略同一であってもよい。
【0015】
以下、実施形態の一例として、円筒形の金属製ケースを備えた円筒形電池である非水電解質二次電池10を例示するが、本開示の非水電解質二次電池はこれに限定されない。本開示の非水電解質二次電池は、例えば角形の金属製ケースを備えた角形電池、樹脂製シートからなる外装体を備えたラミネート電池などであってもよい。また、非水電解質二次電を構成する電極体として、正極と負極がセパレータを介して巻回されてなる巻回型の電極体14を例示するが、電極体はこれに限定されない。電極体は、例えば複数の正極と複数の負極がセパレータを介して交互に積層されてなる積層型の電極体であってもよい。
【0016】
図1は、非水電解質二次電池10の断面図である。
図1に例示するように、非水電解質二次電池10は、巻回型の電極体14と、非水電解質(図示せず)とを備える。電極体14は、正極11と、負極12と、セパレータ13とを有し、正極11と負極12がセパレータ13を介して渦巻状に巻回されてなる。非水電解質は、非水溶媒と、非水溶媒に溶解した電解質塩とを含む。非水電解質は、液体電解質に限定されず、ゲル状ポリマー等を用いた固体電解質であってもよい。以下では、電極体14の軸方向一方側を「上」、軸方向他方側を「下」という場合がある。
【0017】
電極体14を構成する正極11、負極12、及びセパレータ13は、いずれも帯状に形成され、渦巻状に巻回されることで電極体14の径方向に交互に積層された状態となる。電極体14において、各電極の長手方向が巻回方向となり、各電極の幅方向が軸方向となる。正極11と正極端子とを電気的に接続する正極リード19は、例えば電極体14の巻内側端部と巻外側端部との略中央に設けられ、電極群の上端から延出している。負極12と負極端子とを電気的に接続する負極リード20は、例えば電極体14の巻内側端部と、電極体14の巻外側端部とにそれぞれ設けられ、電極群の下端から延出している。
【0018】
図1に示す例では、ケース本体15と封口体16によって、電極体14及び非水電解質を収容する金属製の電池ケースが構成されている。電極体14の上下には、絶縁板17,18がそれぞれ設けられる。正極リード19は絶縁板17の貫通孔を通って封口体16側に延び、封口体16の底板であるフィルタ22の下面に溶接される。非水電解質二次電池10では、フィルタ22と電気的に接続された封口体16の天板であるキャップ26が正極端子となる。他方、負極リード20はいずれもケース本体15の底部側に延び、ケース本体15の底部内面に溶接される。非水電解質二次電池10では、ケース本体15が負極端子となる。
【0019】
ケース本体15は、有底円筒形状の金属製容器である。ケース本体15と封口体16の間にはガスケット27が設けられ、電池ケース内の密閉性が確保されている。ケース本体15は、例えば側面部を外側からプレスして形成された、封口体16を支持する張り出し部21を有する。張り出し部21は、ケース本体15の周方向に沿って環状に形成されることが好ましく、その上面で封口体16を支持する。
【0020】
封口体16は、電極体14側から順に、フィルタ22、下弁体23、絶縁部材24、上弁体25、及びキャップ26が積層された構造を有する。封口体16を構成する各部材は、例えば円板形状又はリング形状を有し、絶縁部材24を除く各部材は互いに電気的に接続されている。下弁体23と上弁体25は各々の中央部で互いに接続され、各々の周縁部の間には絶縁部材24が介在している。下弁体23には通気孔が設けられているため、異常発熱で電池の内圧が上昇すると、上弁体25がキャップ26側に膨れて下弁体23から離れることにより両者の電気的接続が遮断される。さらに内圧が上昇すると、上弁体25が破断し、キャップ26の開口部からガスが排出される。
【0021】
以下、
図2を参照しながら、正極11の構成について詳説する。
図2は、正極11の正面図及び背面図である。
【0022】
図2に例示するように、正極11は、矩形状の正極集電体30と、正極活物質及び結着材を含み、正極集電体30上に形成された正極合材層35とを備える。正極合材層35の厚みは略均一である。好適な正極集電体30の一例は、アルミニウム又はアルミニウム合金を主成分とする金属の箔である。正極集電体30の厚みは、例えば5μm~30μmである。本実施形態では、正極集電体30の両面に互いに略同一のパターンで正極合材層35が形成されている。
【0023】
正極11は、正極集電体30の表面が露出した露出部33を有する。露出部33は、正極リード19が接続される部分であって、正極集電体30の表面が正極合材層35に覆われずに露出した部分である。以下では、正極リード19が溶接される集電体の面を「第1の面」、第1の面と反対側の面を「第2の面」という場合がある。
【0024】
露出部33は、正極集電体30の両面に存在し、集電体の厚み方向に重なっていることが好ましい。第1の面の露出部33と重なる範囲に正極合材層35が存在すると、例えば第1の面の露出部33に対する正極リード19の溶接が阻害される場合があるため、第2の面にも露出部33が設けられる。露出部33は、例えば正極集電体30の全幅にわたって設けられ、正面視又は背面視略長方形状を有する。
【0025】
露出部33は、正極11の長手方向端部に形成されてもよいが、好ましくは正極11の長手方向中央部に形成される。例えば、正極11の長手方向両端から略等距離の位置に露出部33が形成される。この場合、正極集電体30の長手方向中央部に正極リード19が接続されるため、長手方向端部に正極リード19が接続される場合と比べて正極11の集電性が向上し、電池の高出力化に寄与する。なお、正極集電体30の第1の面に複数の露出部が存在し、第1の面に複数のリードが溶接されていてもよい。
【0026】
正極合材層35は、正極集電体30の各面において、露出部33を除く略全域に形成されることが好適である。本実施形態では、正極集電体30の四つの直線状の各外縁端が正極合材層35により被覆されている。正極合材層35には、例えば正極活物質、結着材、及び導電材が含まれる。正極11は、正極活物質、結着材、導電材、及びN-メチル-2-ピロリドン(NMP)等の溶剤を含む正極合材スラリーを正極集電体30の両面に塗布し、塗膜を圧縮することにより作製できる。正極合材層35の厚みは、後述する第1~第3領域のいずれにおいても、例えば50μm~100μmである。
【0027】
正極活物質としては、Co、Mn、Ni等の遷移金属元素を含有するリチウム含有遷移金属酸化物が例示できる。リチウム含有遷移金属酸化物は、特に限定されないが、一般式Li1+xMO2(式中、-0.2<x≦0.2、MはNi、Co、Mn、及びAlの少なくとも1種を含む)で表される複合酸化物であることが好ましい。導電材としては、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、黒鉛等の炭素材料が例示できる。これらは、単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0028】
結着材としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)等のフッ素樹脂、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリイミド、アクリル樹脂、ポリオレフィン等が例示できる。また、これらの樹脂と、カルボキシメチルセルロース(CMC)又はその塩、ポリエチレンオキシド(PEO)等が併用されてもよい。これらは、単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
正極11の幅方向では、正極合材層35中の結着材の含有量が一定ではなく、結着材の含有量は正極集電体30の端から0.5mm~5.5mm離れた位置で極大値を示す。そして、当該極大値(以下、極大値ρmとする)は、正極合材層35の幅方向の中央(本実施形態では正極集電体30の幅方向の中央に一致する)における結着材の含有量(以下、含有量ρcとする)の100%超過240%以下であることが好ましい(即ち、ρc<ρm≦ρc×2.4)。かかる構成を備えた正極11によれば、合材層の欠落が抑制されると共に、非水電解質二次電池10のサイクル特性が向上する。
【0030】
正極合材層35の幅方向における結着材の分布は、電子線プローブマイクロアナライザ(EPMA)を用いて測定できる。その測定結果に基づいて、結着材の含有量が極大値を示す位置を特定し、その極大値を示す位置における結着材の含有量と正極合剤層35の幅方向の中央における結着材の含有量の比を算出することができる。
【0031】
正極合材層35は、正極集電体30の幅方向の一端である上端31側、及び幅方向の他端である下端32側の一方に結着材含有量の極大値ρmが存在していてもよいが、好ましくは幅方向の両端から0.5mm~5.5mm離れた位置に極大値ρmが存在する。即ち、正極合材層35には、正極集電体30の幅方向に沿って結着材の含有量が局所的に高くなる部分が、上端部及び下端部の2箇所に存在する。上端部の極大値ρmと下端部の極大値ρmは、互いに同一の値とすることが好ましいが、互いに異なる値とすることもできる。
【0032】
正極合材層35中の結着材含有量は、正極集電体30の幅方向両端(上端31及び下端32)から1mm~5mm離れた位置で極大値ρmを示すことがより好ましい。結着材含有量の極大値ρmは、例えば上端31及び下端32から正極集電体30の幅の0.5%~3%離れた位置に存在する。また、極大値ρmは、正極合材層35の幅方向中央における結着材の含有量ρcの120%~200%であることがより好ましい(ρc×1.2≦ρm≦ρc×2.0)。
【0033】
正極11には、露出部33を覆うように絶縁テープ(図示せず)が貼着されていてもよい。絶縁テープは、例えば正極リード19上に貼着されると共に、露出部33の左右に形成される正極合材層35上にも跨って貼着される。
【0034】
ここで、
図3及び
図4を参照しながら、上記構成を備えた正極11の製造方法の一例について説明する。
図3及び
図4に例示するように、正極11は、長尺状集電体40の両面に正極合材層45を形成した後、長尺状集電体40を切断予定部X,Yで切断して製造される。なお、長尺状集電体40及び正極合材層45は、正極合材層45の各領域が形成された長尺状集電体40を切断予定部X,Yで切断することで、それぞれ正極集電体30及び正極合材層35となる。長尺状集電体40の長手方向に沿う切断予定部Xは、例えば第2領域47の幅方向略中央に位置する。
【0035】
図3及び
図4に示す例では、結着材の含有量の割合が異なる正極合材層45の各領域を長尺状集電体40の長手方向に沿ってストライプ状に形成することで、幅方向の両端から0.5mm~5.5mm離れた位置に結着材含有量の極大値ρmが存在する正極11を得る。正極合材層45は、第1領域46と、第2領域47と、第1領域46と各第2領域47との間に形成される第3領域48とを含む。第3領域48は、第1領域46及び第2領域47より単位面積あたりの結着材の含有量が多い領域である。この場合、長尺状集電体40の両面に正極合材スラリーを間欠塗布し、集電体表面が露出する露出部43,44を残して第1領域46及び第2領域47の塗膜を形成した後、露出部44上に正極合材スラリーを塗布して第3領域48の塗膜を形成する。各領域を含む正極合材層45は、例えば各領域の塗膜を形成した後、ロールプレス機で塗膜の全体を圧縮して形成される。
【0036】
露出部43は、長尺状集電体40の幅方向に長く、集電体の長手方向に略一定の間隔で存在する。露出部44は、長尺状集電体40の長手方向に沿って露出部43と略直交するように形成される。露出部43の幅は、例えば5mm~10mmであり、正極リード19の幅よりも広く設定される。露出部44の幅は、例えば0.5mm~5mmである。正極合材層45の第3領域48は、露出部44を埋めるように形成されるため、露出部44の幅が第3領域48の幅を決定するといえる。
【0037】
正極合材層45は、長尺状集電体40の各面について2回ずつ、合計4回のスラリー塗布工程を経て形成される。長尺状集電体40の一方の面について、例えば1回目の塗布工程で第1領域46と第2領域47が形成され、2回目の塗布工程で第3領域48が形成される。1回目と2回目の塗布工程では、正極活物質、結着材、及び導電材等の固形分の含有率が異なる正極合材スラリーが使用される。具体的には、2回目の塗布工程で用いる正極合材スラリーの固形分質量に対する結着剤の含有量の割合は、1回目の塗布工程で用いる正極合材スラリーよりも大きい。各塗布工程では、各領域の塗膜の厚みが略同一となるように正極合材スラリーが塗布されることが好ましい。
【0038】
なお、2回目の塗布工程は第1領域46と第2領域47の乾燥前に行うことで、第3領域48に含まれる結着材の一部が第1領域46と第2領域47に拡散する。これにより、正極合材層45の幅方向において結着材の含有量が極大値を示す。このような方法以外にも、乾燥前の正極合材スラリーの塗膜の所定の位置に結着材を含む溶液を塗布又は浸漬させる方法も採用することができる。
【0039】
長尺状集電体40は、幅方向に3枚の正極11を形成可能な幅を有する。第1領域46は、第2領域47よりも大きな幅で、例えば長尺状集電体40の幅方向に所定の間隔をあけて3本のストライプ状に形成される。第2領域47は、第1領域46との間に隙間をあけて幅方向両側から第1領域46を挟むように、4本のストライプ状に形成される。なお、第1領域46と第2領域47との間の当該隙間が露出部44である。各第1領域46、各第2領域47、及び各露出部44に形成される各第3領域48はいずれも、互いに略平行に形成されることが好ましい。
【0040】
負極12は、矩形状の負極集電体と、負極集電体上に形成された負極合材層とを備える。好適な負極集電体の一例は、銅又は銅合金を主成分とする金属の箔である。負極集電体の厚みは、例えば5μm~30μmである。本実施形態では、負極集電体の両面に互いに略同一のパターンで負極合材層が形成されている。
【0041】
負極12の露出部は、負極集電体の両面に存在し、集電体の厚み方向に重なっていることが好ましい。負極12は、正極11よりも大きく、長手方向両端部に正面視又は背面視略長方形状の露出部をそれぞれ有する。負極リード20は、例えば集電体の一方の面の各露出部に1つずつ溶接される。負極合材層は、負極集電体の各面において、露出部を除く略全域に形成されることが好適である。負極合材層には、例えば負極活物質及び結着材が含まれる。負極12は、負極活物質、結着材、及び水を含む負極合材スラリーを負極集電体の両面に塗布し、塗膜を圧縮することにより作製できる。
【0042】
負極活物質としては、リチウムイオンを可逆的に吸蔵、放出できるものであれば特に限定されないが、好ましくは黒鉛等の炭素材料、Si、Sn等のリチウムと合金化する金属、又はこれらを含む合金、酸化物などが用いられる。結着材としては、正極の場合と同様にフッ素樹脂、PAN、ポリイミド、アクリル樹脂、ポリオレフィン等を用いることができる。水系溶媒を用いて合材スラリーを調製する場合は、CMC又はその塩、スチレン-ブタジエンラバー(SBR)、ポリアクリル酸(PAA)又はその塩等を用いることが好ましい。これらは、単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0043】
負極12についても、上述の正極11と同様の構成を適用できる。負極合材層中の結着材の含有量は、例えば負極集電体の端から0.5mm~5.5mm離れた位置で極大値を示し、当該極大値は合材層の幅方向中央における結着材の含有量の100%超過240%以下である。実施形態の一例において、負極合材層中の結着材の含有量は、負極集電体の幅方向両端の少なくとも一方から0.5mm~5.5mm離れた位置で極大値を示す。或は、負極合材層中の結着材の含有量は、負極集電体の幅方向両端から1mm~5mm離れた位置で極大値を示してもよく、当該極大値は負極合材層の幅方向中央における結着材の含有量の120%~200%であってもよい。
【実施例】
【0044】
以下、実施例により本開示をさらに説明するが、本開示はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0045】
<実施例1>
[正極の作製]
コバルト酸リチウム100質量部と、アセチレンブラック1質量部と、ポリフッ化ビニリデン1質量部と、適量のN-メチル-2-ピロリドンとを混合して、正極合材スラリーAを調製した。また、コバルト酸リチウム100質量部と、アセチレンブラック1質量部と、ポリフッ化ビニリデン1.5質量部と、適量のN-メチル-2-ピロリドンとを混合して、正極合材スラリーBを調製した。
【0046】
次に、正極合材スラリーA,Bを厚み15μmのアルミニウム箔からなる長尺状集電体の両面にそれぞれ塗布し、極板の厚みが140μmとなるようにロールプレス機で塗膜を圧縮して略均一な厚みを有する正極合材層を形成した。正極合材層が両面に形成された長尺状集電体を所定の電極サイズに切断し、集電体の一方の面(第1の面)の露出部に正極リードを溶接することで正極を得た。
【0047】
正極合材層は、
図3及び
図4に示すように、長尺状集電体の各面について2回ずつ、合計4回のスラリー塗布工程を経て形成した。1回目の塗布工程では、長尺状集電体の一方の面(第1の面)に対して正極合材スラリーAを間欠塗布し、長尺状集電体の長手方向に延びる45mm幅の第1領域46と、長手方向に延びる5mm幅の第2領域47とを形成した。このとき、長尺状集電体の幅方向に延びる7mm幅の露出部43と、長手方向に延びる5mm幅の露出部44とが形成されるように、正極合材スラリーAを塗布した。露出部44は、第1領域46と第2領域47との間に形成される。
【0048】
2回目の塗布工程では、正極合材スラリーAが乾かないうちに、露出部43を残して露出部44を埋めるように正極合材スラリーBを間欠塗布し、5mm幅の第3領域48を形成した。長尺状集電体の他方の面(第2の面)についても、第1の面と同様にスラリーA,Bを塗布して正極合材層の第1~第3領域を形成した。正極合材層が両面に形成された長尺状集電体は第2領域の幅方向中央でスリットし、幅60mmの正極を形成した。正極には、各露出部の全体を覆うように絶縁テープを貼着した。
【0049】
[負極の作製]
天然黒鉛粉末と、カルボキシメチルセルロース(CMC)と、スチレン-ブタジエンラバー(SBR)とを、100:1:1の重量比で混合し、水を適量加えて、負極合材スラリーを調製した。次に、当該負極合材スラリーを厚み10μmの銅箔からなる長尺状集電体の両面に間欠塗布し、極板の厚みが160μmとなるようにロールプレス機で塗膜を圧縮して略均一な厚みを有する負極合材層を形成した。負極合材層が両面に形成された長尺状集電体を所定の電極サイズに切断し、露出部に負極リードを溶接することで負極を得た。なお、露出部は負極の長手方向両端部にそれぞれ形成し、各露出部に1つずつ負極リードを溶接した。負極には、各露出部の全体を覆うように絶縁テープを貼着した。
【0050】
[非水電解質の調製]
エチレンカーボネート(EC)と、エチルメチルカーボネート(EMC)とを、30:70の体積比で混合した。当該混合溶媒に、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)を1mol/Lの濃度で溶解して非水電解質を調製した。
【0051】
[電池の作製]
上記正極と上記負極をポリエチレン製のセパレータを介して渦巻状に巻回し、巻回型の電極体を作製した。当該電極体を有底円筒形状の金属製のケース本体に収容し、正極リードの上端部を封口体の底板に、負極リードの下端部をケース本体の底部内面にそれぞれ溶接した。そして、ケース本体に上記非水電解液を注入し、ポリプロピレン製のガスケットを介してケース本体の開口部を封口体で密封して円筒形電池を作製した。なお、電極群の上下には絶縁板をそれぞれ配置した。
【0052】
<実施例2>
第1領域46の幅が51mm、第2領域47の幅が3mm、露出部44の幅が3mmとなるように正極合材スラリーAを塗布したこと以外は、実施例1と同様の方法で円筒形電池を作製した。
【0053】
<実施例3>
第1領域46の幅が57mm、第2領域47の幅が1mm、露出部44の幅が1mmとなるように正極合材スラリーAを塗布したこと以外は、実施例1と同様の方法で円筒形電池を作製した。
【0054】
<実施例4>
正極合材スラリーAにおけるポリフッ化ビニリデンの添加量を1.2質量部としたこと以外は、実施例1と同様の方法で円筒形電池を作製した。
【0055】
<実施例5>
正極合材スラリーAにおけるポリフッ化ビニリデンの添加量を1.2質量部としたこと以外は、実施例2と同様の方法で円筒形電池を作製した。
【0056】
<実施例6>
正極合材スラリーAにおけるポリフッ化ビニリデンの添加量を1.2質量部としたこと以外は、実施例3と同様の方法で円筒形電池を作製した。
【0057】
<実施例7>
正極合材スラリーAにおけるポリフッ化ビニリデンの添加量を2.0質量部としたこと以外は、実施例1と同様の方法で円筒形電池を作製した。
【0058】
<実施例8>
正極合材スラリーAにおけるポリフッ化ビニリデンの添加量を2.0質量部としたこと以外は、実施例2と同様の方法で円筒形電池を作製した。
【0059】
<実施例9>
正極合材スラリーAにおけるポリフッ化ビニリデンの添加量を2.0質量部としたこと以外は、実施例3と同様の方法で円筒形電池を作製した。
【0060】
<比較例1>
露出部43を残して正極合材スラリーAを間欠塗布し、露出部43を除く集電体上の全域に正極合材層を形成した。その他については、実施例1と同様の方法で円筒形電池を作製した。
【0061】
<比較例2>
第1領域46の幅が55mm、露出部44の幅が5mmとなるように正極合材スラリーAを塗布し、第2領域を形成しなかったこと以外は、実施例1と同様の方法で円筒形電池を作製した。比較例2の正極は、
図5に示す構造を有する。
【0062】
<比較例3>
第1領域46の幅が42mm、第2領域47の幅が6mm、露出部44の幅が6mmとなるように正極合材スラリーAを塗布したこと以外は、実施例1と同様の方法で円筒形電池を作製した。
【0063】
<比較例4>
正極合材スラリーAにおけるポリフッ化ビニリデンの添加量を2.5質量部としたこと以外は、実施例3と同様の方法で円筒形電池を作製した。
【0064】
上記実施例及び比較例の正極及び円筒形電池について、下記の方法で正極合材層中の結着材含有量、及びサイクル特性の評価を行った。なお、サイクル特性は活物質の欠落等が存在しない良品の電池について評価している。
【0065】
[結着材含有量の評価]
正極集電体の幅方向一端から0mm、1mm、3mm、5mm、6mm、及び30mm(幅方向中央)離れた位置における正極合材層中の結着材の含有量を電子線プローブマイクロアナライザ(EPMA)を用いて測定した。合材層の幅方向中央における結着材の含有量を100%として各位置における合材層中の結着材含有量の比率を算出し、その結果を表1に示した。
【0066】
[サイクル特性の評価]
25℃の環境下において、電池電圧が4.1Vに達するまで1.25Aで充電し、さらに電池電圧4.1Vを保持したまま充電電流を20mAまで徐々に減じる方法で充電した後、電池電圧が2.75Vに達するまで1.25Aで放電するサイクルを500回繰り返した。初回放電容量に対する500サイクル後の放電容量の比率を算出して、その結果を表1に示した。
【0067】
【0068】
表1に示すように、実施例1~9の電池は、比較例2,4の電池と比較して、サイクル特性に優れる。合材層中の結着材含有量が多い領域を電極の端に形成した場合(比較例2)、及び電極の端から5mm離れた位置における合材層中の結着材含有量が合材層の幅方向中央における結着材の含有量に対して250%である場合(比較例4)は、電極体の内部に電解液が浸透し難く、サイクル特性が大きく低下したものと考えられる。
【0069】
さらに、実施例1~9の電池は、比較例1,3の電池よりもサイクル特性に優れる。実施例1~9では、集電体の端から1mm~5mm離れた位置に合材層中の結着材含有量が多い領域を設けたことで、電極体の内部に浸透した電解液の保液性が向上し、比較例1,3と比べてサイクル特性がさらに向上したものと考えられる。なお、実施例1~9の正極は、比較例1,3の正極と比較して、電極の切断工程で合材層の欠落が発生し難い。
【0070】
なお、上記の実施例では正極集電体の長手方向に沿った両端に亘って正極合材層が形成され、正極集電体の上端部及び下端部において結着材の含有量が極大値を示す正極を用いたが、上端部及び下端部の少なくとも一方において結着材の含有量が極大値を示す正極を用いることができる。巻回型電極体のように正極の長手方向と幅方向の長さの差が大きい場合は、長手方向に沿った両端部の少なくとも一方において結着材の含有量が極大値を示すことが好ましい。しかし、正極集電体の幅方向に沿った両端部の少なくとも一方において結着材の含有量が極大値を示す正極を用いてもよい。
【符号の説明】
【0071】
10 非水電解質二次電池、11 正極、12 負極、13 セパレータ、14 電極体、15 ケース本体、16 封口体、17,18 絶縁板、19 正極リード、20 負極リード、21 張り出し部、22 フィルタ、23 下弁体、24 絶縁部材、25 上弁体、26 キャップ、27 ガスケット、30 正極集電体、31 上端、32 下端、33,43,44 露出部、35,45 正極合材層、40 長尺状集電体、46 第1領域、47 第2領域、48 第3領域