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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-08
(45)【発行日】2022-07-19
(54)【発明の名称】化学蒸気含浸又は化学蒸着の方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 16/42 20060101AFI20220711BHJP
   C04B 35/80 20060101ALI20220711BHJP
【FI】
C23C16/42
C04B35/80 600
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018568783
(86)(22)【出願日】2017-06-27
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-09-26
(86)【国際出願番号】 FR2017051712
(87)【国際公開番号】W WO2018002510
(87)【国際公開日】2018-01-04
【審査請求日】2020-06-05
(31)【優先権主張番号】1656092
(32)【優先日】2016-06-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】512162432
【氏名又は名称】サフラン セラミクス
【住所又は居所原語表記】Rue de Touban Les Cinq Chemins 33185 LE HAILLAN FRANCE
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100112357
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 繁樹
(74)【代理人】
【識別番号】100160705
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】ステファーヌ グジャルド
(72)【発明者】
【氏名】アドリアン デルカン
(72)【発明者】
【氏名】セドリック デカン
【審査官】宮崎 園子
(56)【参考文献】
【文献】欧州特許出願公開第02933353(EP,A1)
【文献】特開平11-335170(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 16/42
C04B 35/80
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学蒸気含浸又は化学蒸着の方法であって、少なくとも次の工程、すなわち、
- 多孔質基体の孔内又は基体の表面上に化学量論的炭化ケイ素を形成すること、を含み、ここで前記基体は反応エンクロージャ内に置かれ、前記化学量論的炭化ケイ素は、前記反応エンクロージャ内へ導入された気相から形成され、前記気相は、炭化ケイ素の前駆体であり且つ次の式、すなわち
【化1】
を有する試薬化合物を含み、
上記式中、
- nは、0又は1に等しい整数であり、
- mは、1~3の範囲にある整数であり、
- pは、0~2の範囲にあるとともにm+p=3である整数であり、
そして
- Rは-H又は-CHを表し、
前記導入された気相中の炭素原子数とケイ素原子数との比C/Siが2~3の範囲にあり、前記試薬化合物が、ビニルクロロシラン、ビニルジクロロシラン、ビニルトリクロロシラン、及びアリルトリクロロシランから選択される、化学蒸気含浸又は化学蒸着の方法。
【請求項2】
Rが-Hを表す、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
nが0に等しい、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記試薬化合物が、ビニルトリクロロシラン又はアリルトリクロロシランである、請求項1から3までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記気相が、請求項1に記載の式を有する試薬化合物以外のいかなる付加的な炭素含有試薬化合物も含まない、請求項1から4までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
比C/Siが2又は3に等しい、請求項1から5までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
少なくとも部分的に化学量論的炭化ケイ素から形成されたマトリックスを有する複合材料部品を製造する方法であって、前記方法が次の工程、すなわち、
- 請求項1から6までのいずれか1項に記載の方法を実施することによって化学量論的炭化ケイ素マトリックス相で、得ようとする部品の繊維プリフォームを緻密化すること
を少なくとも含む、複合材料部品を製造する方法。
【請求項8】
前記繊維プリフォームが、セラミック材料又は炭素材料の糸から形成される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記繊維プリフォームが、三次元製織による単一片として、又は複数の二次元繊維プライから形成される、請求項7又は8に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化ケイ素(SiC)が多孔質基体の孔内又は基体の表面上に形成される、化学蒸気含浸又は化学蒸着の方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化ケイ素セラミックマトリックスを有する複合材料の利用が航空・宇宙分野において知られている。このような複合材料は、構造エレメントを構成するのに適したものにする良好な機械特性を有する。そしてこれらの複合材料は、高い温度においてこのような特性を保つので有利である。
【0003】
このような材料は、(化学蒸気含浸(chemical vapor infiltration (CVI)として知られる)気体技術を用いることによって、炭化ケイ素マトリックスで繊維プリフォームを緻密化することにより製造することができる。このような技術において、緻密化のためのプリフォームは緻密化炉内に置かれる。この炉内へは、炭化ケイ素前駆体を含む気相が導入される。典型的には化学量論的な炭化ケイ素マトリックスを形成するために使用される前駆体はメチルトリクロロシラン(CHSiCl又はMTS)である。MTSを選択することは、MTS分子自体の中に炭素及びケイ素の両方が同一の比率で存在するという事実によって正当化される。それというのもこれらの比率が、探し求められる化学量論的炭化ケイ素中にあるからである。このようなCVI緻密化法は特に信頼性が高いが、しかしこの方法は、結果として生じる堆積収率に関して限界を有することがある。このことは、処理サイクルを長くし、ひいてはパフォーマンスの比較的高いコストを招くことがある。具体的には、炉への入口において、無価値の、ケイ素に富んだ堆積物を形成するために、MTS前駆体の一部を消費することがあり得る。このように消費されたケイ素は、炉の作業ゾーン内に存在するプリフォームの内部に炭化ケイ素マトリックスを形成するためにもはや利用することはできない。
【0004】
さらに、緻密化のためのプリフォームが厚いと、上記のCVI法は、これらのプリフォーム内の孔を良好に充填することができないおそれがある。
【0005】
従って、化学量論的炭化ケイ素が改善された収率で気体技術によって形成されるのを可能にする方法を利用可能にする必要がある。
【0006】
また、化学量論的炭化ケイ素が改善された孔充填率で多孔質ケイ素内部に形成されるのを可能にするCVI法を利用可能にする必要もある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
このために、第1の態様では、本発明は、化学蒸気含浸又は化学蒸着の方法であって、少なくとも次の工程、すなわち、
- 多孔質基体の孔内又は基体の表面上に炭化ケイ素を形成すること、を含み、ここで基体は反応エンクロージャ内に置かれ、炭化ケイ素は、反応エンクロージャ内へ導入された気相から形成され、気相は、炭化ケイ素の前駆体であり且つ次の式、すなわち
【化1】
を有する試薬化合物を含み、
上記式中、
- nは、0又は1に等しい整数であり、
- mは、1~3の範囲にある整数であり、
- pは、0~2の範囲にあるとともにm+p=3である整数であり、
そして
- Rは-H又は-CHを表し、
導入された気相中の炭素原子数とケイ素原子数との比C/Siが2~3の範囲にある、化学蒸気含浸又は化学蒸着の方法を提供する。
【発明の効果】
【0008】
上記式を有する前駆体(以下では「前駆体A」と呼ぶ)を使用することは、MTSの使用時よりも速い成長速度で炭化ケイ素を形成するのに役立つので有利である。このような前駆体の使用はまた、多孔質基体を含浸するときに孔のより良好な充填を可能にする。発明者はまた、前駆体Aが各ケイ素原子に対して複数の炭素原子を有していても、前駆体Aを使用して化学量論的炭化ケイ素が得られることを観察した。このような化学量論的堆積物を得ることは、比C/Si(すなわち[導入される気相中の炭素原子含量]/[導入される気相中のケイ素原子含量])に対して2~3の範囲内の値を与えることにより、導入される気相中で炭素含量が制限されることの結果である。
【0009】
1実施態様では、Rは-Hを表してよい。
【0010】
このような特徴は、使用される気相中の炭素含量をさらに低減するのに貢献するので有利である。
【0011】
1実施態様では、nは0に等しくてよい。
【0012】
このような特徴は、使用される気相中の炭素含量をさらに低減するのに貢献するので有利である。
【0013】
1実施態様では、試薬化合物が、ビニルクロロシラン(CHCHSiHCl)、ビニルジクロロシラン(CHCHSiHCl)、ビニルトリクロロシラン(CHCHSiCl)、ビニルメチルモノクロロシラン(CHCHSiCHClH)、及びアリルトリクロロシラン(CHCHCHSiCl)から選択されてよい。
【0014】
1実施態様では、試薬化合物は、ビニルトリクロロシラン又はアリルトリクロロシランであってよい。
【0015】
1実施態様では、気相は、炭化ケイ素の前駆体であるただ1種の試薬化合物を含んでよい。1実施態様では、気相は、前駆体A以外のいかなる付加的な炭素含有試薬化合物も含まなくてよい。
【0016】
1実施態様では、比C/Siは2に等しくてよく、或いは3に等しくてよい。比C/Siは厳密に2よりも大きく且つ3以下であってもよい。例えば、このような変更形は、気相が炭素原子数2の前駆体Aと、付加的な炭素含有試薬化合物、例えばアセチレンとの両方を含む場合に可能である。このような環境下では、気相中の付加的な炭素含有試薬化合物の量はもちろん、比C/Siを3以下の値に維持するように制限されるべきである。
【0017】
本発明はまた、少なくとも部分的に炭化ケイ素から形成されたマトリックスを有する複合材料部品を製造する方法であって、方法が次の工程、すなわち、
- 上記方法を実施することによって炭化ケイ素マトリックス相で、得ようとする部品の繊維プリフォームを緻密化すること
を少なくとも含む、複合材料部品を製造する方法を提供する。
【0018】
繊維プリフォームは、セラミック材料又は炭素材料の糸から形成されてよい。
【0019】
1実施態様では、繊維プリフォームは、三次元織布製織による単一片として、又は複数の二次元繊維プライから形成されていてよい。
【0020】
こうして製造された部品は航空用途又は宇宙用途のための部品であってよい。
【0021】
こうして製造された部品は、航空用又は宇宙用のエンジン、又は工業用タービンにおけるガスタービンの高温部分のための部品であってよい。部品はタービンエンジンの部品であってよい。部品は、案内羽根ノズルの少なくとも一部、テイルパイプノズルの少なくとも一部、又は熱保護被膜、燃焼チャンバの壁、タービンリングセクタ、又はタービンエンジン翼を構成してよい。
【0022】
非制限的な例として提供される以下の説明から、そして添付の図面を参照すると、本発明の他の特徴及び利点が明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、本発明の方法の1実施態様を実施することによって、多孔質基体の孔内に炭化ケイ素を形成するための種々の工程を示すフローチャートである。
図2図2は、本発明の方法の変更形を実施することによって、基体の表面に炭化ケイ素被膜を得るのに役立つ種々の工程を示すフローチャートである。
図3図3は、本発明の方法の1実施態様を実施することによって得られた炭化ケイ素堆積物を示す写真である。
図4図4は、図3と関連する試験において得られた炭化ケイ素堆積物の元素の分析を提供する試験結果を示す図である。
図5図5は、本発明の方法における1実施態様を実施することによって、炭化ケイ素で充填された基体内の溝を示す写真である。
図6図6は、本発明の部分ではない方法を実施することによって、炭化ケイ素で充填された基体内の溝を示す写真である。
図7図7は、本発明の方法の1実施態様を実施することにより得られた化学蒸気含浸を示す写真である。
図8図8は、本発明の方法の1実施態様を実施することにより得られた化学蒸気含浸を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
多孔質基体を製造し、このような基体上に化学蒸気含浸を施す方法の1実施態様を、図1を参照しながら説明する。
【0025】
第1工程10において多孔質基体を最初に形成する。図示の実施態様では、多孔質基体は、得ようとする複合材料部品の形状を有する繊維プリフォームである。繊維プリフォームは、得ようとする部品の繊維強化材を構成するためのものである。繊維プリフォームはアクセス可能な孔を有している。これらの孔は、少なくとも部分的に炭化ケイ素から形成されたマトリックスによって完全又は部分的に充填されるようになっている。
【0026】
繊維プリフォームは種々のセラミック糸又は炭素糸を含んでよく、或いはこのような糸の混合物から成っていてもよい。例えば日本国の供給元NGSによって「Nicalon」、「Hi-Nicalon」、又は「Hi-Nicalon Type S」という参照名で供給される炭化ケイ素糸を使用することができる。例えば、供給元TorayによってTorayca T300 3Kという名称で、好適な炭素繊維が供給されている。
【0027】
工程10では、繊維プリフォームは、セラミック及び/又は炭素繊維上で少なくとも1つのテキスタイル作業を行うことにより得られる。具体的には繊維プリフォームは、このような糸の多層製織又は三次元製織によって得ることができる。
【0028】
「三次元製織」又は「3D製織」という用語は、縦糸のうちの少なくともいくつかが複数の横糸層にわたって横糸を繋ぎ合わせる製織技術と理解されるべきである。本明細書では、縦糸と横糸との間で役割が相互に置き換えられることも可能であり、またこのことは、請求項の適用範囲に入れられるものと考えられるべきである。
【0029】
例えば、繊維プリフォームはマルチ・サテン織布を有していてよい。すなわち繊維プリフォームは、複数の横糸層を用いた三次元製織によって得られるファブリックであってよい。この三次元製織において、各層の基本織布はコンベンショナルなサテンタイプの織布と同等ではあるが、しかし織布の特定の個所が横糸層を繋ぎ合わせる。1変更形では、繊維プリフォームはインターロック織布を有していてよい。「インターロック織布又はファブリック」という用語は、各縦糸層が、同じ縦糸列内の全ての糸が製織平面内で同じ動きを有する状態で、複数の横糸層を繋ぎ合わせる3D織布と理解されるべきである。繊維プリフォームを形成するのに適した種々の多層製織技術が国際公開第2006/136755号パンフレットに記載されている。
【0030】
二次元ファブリック又は一方向シートのような繊維テクスチャを得ること、そしてこのような繊維テクスチャをシェイパー上でドレーピングすることにより繊維プリフォームを得ることも可能である。これらのテクスチャを任意には、例えばステッチングによって、又は糸を植え込むことによって互いに接合し、これにより繊維プリフォームを形成することもできる。
【0031】
具体的には、糸上に存在するサイズ剤を排除するために、インターフェイズを形成する前に、糸に表面処理を施す工程20を実施することが好ましい。
【0032】
工程30は、繊維強化材を形成する糸上にCVIによって脆化軽減インターフェイズ(embrittlement-relief interphase)を形成することにある。インターフェイズは最終部品における糸とマトリックスとの間に位置するようになっている。インターフェイズは単層又は多層を含んでよい。インターフェイズは、熱分解炭素(PyC)、窒化ホウ素(BN)、ケイ素ドープ型窒化ホウ素(BN(Si)、ケイ素の重量パーセンテージが5%~40%の範囲にあり、残余は窒化ホウ素である)、又はホウ素ドープ型炭素(BC、ホウ素の原子パーセンテージが5%~20%の範囲にあり、残余は炭素である)から成る少なくとも1つの層を含んでよい。例えば、インターフェイズの厚さは10ナノメートル(nm)~1000nmの範囲にあってよく、そして例えば10nm~100nmの範囲にあってよい。インターフェイズが形成された後、繊維プリフォームは多孔質のままである。それというのも最初にアクセス可能な孔の僅かな部分しかインターフェイズによって充填されないからである。この例では、インターフェイズの機能は、マトリックスを通って伝搬した後でインターフェイズに達したいかなる亀裂も変向されるのを促し、これによりこのような亀裂が糸を破断するのを防止するか又は遅らせることによって、複合材料のために脆化軽減をもたらすことである。
【0033】
今説明している実施態様では、インターフェイズは繊維プリフォームが形成された後で形成される。1変更形では、糸上にインターフェイズを形成することによって始め、次いで1つ又は2つ以上のテクスタイル作業を実施することによって繊維プリフォームを形成することが可能である。
【0034】
インターフェイズが形成されたら、繊維プリフォームの孔内にマトリックスを形成することにより、繊維プリフォームを緻密化する(工程40)。マトリックスは繊維プリフォームの糸を被覆する。プリフォームの糸はマトリックス内に存在する。マトリックスは、前駆体Aから得られた炭化ケイ素から成る少なくとも1つの相を含む、1つ又は2つ以上の相を含む。1実施態様では、マトリックスは、前駆体Aから得られた炭化ケイ素から全体的に形成されてよい。前駆体Aの化学式は以下の通りである。
【化2】
CVIによってインターフェイズを形成するために、又はマトリックス相を形成するために、国際公開第96/30317号パンフレットの図2に示されているものと同じタイプの化学蒸気含浸設備を使用することが可能である。
【0035】
マトリックスの炭化ケイ素は、繊維プリフォームが内在する反応エンクロージャ内へ導入された気相から形成される。気相は、場合によっては例えばアルゴンのような不活性ガスを含む希釈ガスと一緒に、前駆体Aを含む。気相はまた、還元化合物、例えば二水素を含む。
【0036】
比Vp/(Vp+Vr)は、3%~30%の範囲、例えば5%~15%の範囲にあってよく、Vpは、導入された気相中の前駆体Aの体積であり、そしてVrは、導入された気相中の還元化合物の体積である。さらに、気相が反応エンクロージャ内へ導入される速度は1分当たり100標準立方センチメートル(cm/min又は「sccm」)~300cm/minの範囲、例えば150cm/min~250cm/minの範囲にあってよい。
【0037】
炭化ケイ素が形成されている間、反応エンクロージャ内の温度は700℃~1400℃の範囲、例えば900℃~1100℃の範囲にあってよく、そして反応エンクロージャ内部の圧力は10パスカル(Pa)~100キロパスカル(kPa)の範囲、例えば1kPa~30kPaの範囲にあってよい。
【0038】
気相が、前駆体A以外のいかなる炭素含有試薬化合物も含まないと有利である。以下に、前駆体Aが存在する唯一の前駆体である気相を「単一前駆体気相」と呼ぶ。具体的には、気相は、次の試薬化合物、すなわちアセチレン、エチレン、プロピレン、又はブテンのいずれを含むことも必要としない。
【0039】
上述のように、気相はこれが反応エンクロージャ内へ導入されたときに2~3の範囲にあるC/Si比を有する。
【0040】
このように、前駆体Aの式においてn=0の場合、次のものを有することができる。すなわち、
- p=0且つm=3であり、これにより前駆体分子は各ケイ素原子に対して2つの炭素原子を有し、ひいては単一前駆体気相に関してはC/Si比が2である。
- p=1且つm=2であるとともにR=-H又は-CHである。単一前駆体気相に関して、R=-Hの場合にはC/Si比は2であり、R=-CHの場合にはC/Si比は3である。そして
- p=2且つm=1であるとともにR=-H又は-CHであり、分子はまた、C/Si比を3以下に保つためにラジカルR=-CHを含む。
【0041】
前駆体Aの式中、n=1の場合には、比C/Siを3に等しく維持するように、R=-Hである(分子中に-CHラジカルはない)。
【0042】
マトリックスは有利には、繊維(又はインターフェイズ)と前駆体Aから形成されたSiCマトリックス相との間に位置するセラミック材料から成る付加マトリックス相を含んでもよい。この付加相はSiCから形成されてよく、或いはSiC以外の材料から形成されてもよい。例えば、この付加相はSi又は炭化ホウ素又は混合型炭化ホウ素・ケイ素を含んでよい。もちろん、付加マトリックス相が存在する場合には、この付加相が形成された後の繊維プリフォームの残留有孔率は、SiCマトリックス相が前駆体Aから形成されるのを可能にするのに充分なままである。1変更形では、マトリックスはいかなるこのような付加相も有する必要がない。
【0043】
部品はタービンエンジンのためのステータ部品又はロータ部品であってよい。本発明によるタービンエンジン部品の例が上述されている。
【0044】
図2は、本発明の方法の変更形の種々の工程を示している。この変更形では、前駆体Aを含む気相から化学蒸着(CVD)によって基体の外面上に1つ又は2つ以上の炭化ケイ素層を形成する。圧力、温度、及び含量に関しては、図1の実施態様において用いられたものと同じ作業条件を用いてよい。
【0045】
考慮される実施態様が何であれ(CVI又はCVD)、単一の反応エンクロージャ内の気相によって複数の基体を同時に処理することができる。
【実施例
【0046】

例1(発明)
直径45ミリメートル(mm)及び作業長30センチメートル(cm)の反応器内にシリコン基体又は「ウエハー」を置いた。温度950℃及び圧力23kPaの反応器内へ、それぞれの量が1sccm、20sccm、及び980sccmの、ビニルトリクロロシラン(VTS)及び水素をアルゴン中で希釈した状態で注入した。この例では、気相の比C/Siは2に等しかった。1時間当たり1.7マイクロメートル(μm/h)の速度で成長する化学量論的SiC堆積物を得た。結果として生じた堆積物の写真が図3に示されている。図4は、結果として生じた堆積物中でSi/C原子比1が得られたことを明らかにする試験結果を示し、ひいては化学量論的炭化ケイ素が形成されたことを示している。
【0047】
例2(比較)
比較のために、同じ反応器内にシリコン基体又は「ウエハー」を置いた。温度950℃及び圧力10kPaの反応器内へ、それぞれの量が5sccm、20sccm、及び500sccmの、MTS及び水素をアルゴン中で希釈した状態で注入した。化学量論的炭化ケイ素が堆積され、速度0.7μm/hで成長した。
【0048】
MTSがVTSの速度の5倍で炉内へ導入されたとしても、VTSを用いて得られたSiC堆積物がMTSが使用されたときの2倍の堆積速度で成長したことが判る。このように、VTSによる堆積収率がMTSによる堆積収率よりも著しく高いことを観察することができる。
【0049】
さらに、幅よりも8倍深い微細な溝を含浸する能力を比較した。VTSから得られた堆積物が、MTSから得られた堆積物よりも良好に充填された溝をもたらすことが判った(VTSに関しては図5を、MTSに関しては図6を参照)。従って、VTSを使用したときに得られる含浸能力は、MTSを使用したときに得られるものよりも良好である。
【0050】
例3(発明)
直径45ミリメートル(mm)及び作業長30センチメートル(cm)の反応器内にシリコン基体又は「ウエハー」を置いた。温度950℃及び圧力10kPaの反応器内へ、それぞれの量が1sccm、20sccm、及び2000sccmの、アリルトリクロロシラン(ATS)及び水素をアルゴン中で希釈された状態で注入した。この例では、気相の比C/Siは3に等しかった。1.2μm/hの速度で成長する化学量論的SiC堆積物を得た。ATSによる堆積収率は、使用する前駆体が著しく少量であるにもかかわらず、MTSを用いて得られるものよりもこのように著しく良好である。
【0051】
例4(発明)
Guipex(登録商標)タイプの多層テクスチャを有しNicalon(登録商標)繊維から形成された繊維プリフォームを最初に調製した。その後、プリフォームをグラファイトシェイパー内に置くことにより繊維体積分率40%を得た。その後、シェイパーを化学蒸気含浸炉内に置くことにより、厚さ150nmの熱分解炭素インターフェイズを堆積し、これに続いてMTSを使用して炭化ケイ素マトリックスを堆積することにより、プリフォームがコンソリデートされて、シェイパーから取り出された後にその形状を維持できるようにした。その後、直径45mm及び作業長20cmの反応器内にプリフォームを置いた。温度950℃及び圧力8kPaの反応器内へ、それぞれの量が13.5sccm、及び280sccmのVTS及び水素を注入した。この例では、気相のC/Si比は2に等しかった。Castaingマイクロプローブを使用して波長分散型X線分光法(WDS)を実施することにより、得られたSiC堆積物が化学量論的であることが判った。化学量論的SiCの堆積成長速度は約1μm/hであった。結果として生じた堆積物の写真が図7(糸のコア及び糸の周囲)及び図8(プリフォームの表面)に示されている。被膜が材料の表面及びコア内の両方におけるカバリング被膜であることが判る。
【0052】
「~の範囲にある」という用語は,限界値を含むものと理解されるべきである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8