IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

<>
  • -高電圧二次電池用のカソード活物質 図1
  • -高電圧二次電池用のカソード活物質 図2
  • -高電圧二次電池用のカソード活物質 図3
  • -高電圧二次電池用のカソード活物質 図4
  • -高電圧二次電池用のカソード活物質 図5
  • -高電圧二次電池用のカソード活物質 図6
  • -高電圧二次電池用のカソード活物質 図7
  • -高電圧二次電池用のカソード活物質 図8
  • -高電圧二次電池用のカソード活物質 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-08
(45)【発行日】2022-07-19
(54)【発明の名称】高電圧二次電池用のカソード活物質
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/505 20100101AFI20220711BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20220711BHJP
【FI】
H01M4/505
H01M4/525
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2019510819
(86)(22)【出願日】2017-08-21
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-09-05
(86)【国際出願番号】 EP2017071009
(87)【国際公開番号】W WO2018036954
(87)【国際公開日】2018-03-01
【審査請求日】2020-08-18
(31)【優先権主張番号】PA201600490
(32)【優先日】2016-08-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DK
(73)【特許権者】
【識別番号】590000282
【氏名又は名称】トプソー・アクチエゼルスカベット
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【弁理士】
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【弁理士】
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100139527
【弁理士】
【氏名又は名称】上西 克礼
(74)【代理人】
【識別番号】100164781
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 一郎
(72)【発明者】
【氏名】デール・セーアン
(72)【発明者】
【氏名】ホイ・ヤコプ・ヴァイラント
(72)【発明者】
【氏名】ホイベアウ・ヨーナタン
(72)【発明者】
【氏名】コリン・リーン・ホルテン
【審査官】儀同 孝信
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-067508(JP,A)
【文献】特開2004-172108(JP,A)
【文献】特表2008-529253(JP,A)
【文献】特開2004-047448(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2013-0040074(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/505
H01M 4/525
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カソードが4.4V超 vs. Li/Li で動作するように構成された高電圧二次電池用のカソード活物質であって、容量減衰低減化合物として硫酸塩を含む酸化物であり、
前記カソード活物質が、組成Li Mn 2-y 4-v (SO を有し、ここで、0.9≦x≦1.1、0.4≦y≦0.5、0<z≦0.1、0≦v≦zであり、Mが、Ni、Mg、Ti、V、Cr、Fe、Co、Cu、Zn、Al、Ga、Rb、Ge、Mo、Nb、Zr、Si、およびそれらの組合せからなる群から選択される遷移金属である、カソード活物質。
【請求項2】
前記カソード活物質中の硫黄含有量が、1000~16000ppmである、請求項1に記載のカソード活物質。
【請求項3】
前記カソード活物質がリチウムを含む、請求項1または2に記載のカソード活物質。
【請求項4】
前記遷移金属MがNiである、請求項1~3のいずれか一つに記載のカソード活物質。
【請求項5】
平均一次粒子サイズが、50nm超、好ましくは100nm超、最も好ましくは200nm超である、請求項1~のいずれか一つに記載のカソード活物質。
【請求項6】
前記カソード活物質二次粒子のd50が、1~50μm、好ましくは3~25μmであり、前記カソード活物質の二次粒子の粒子サイズ分布が、d90対d10の比が8未満であることを特徴とする、請求項1~のいずれか一つに記載のカソード活物質。
【請求項7】
前記カソード活物質の表面積が、0.5m/g未満、好ましくは0.3m/g未満、最も好ましくは0.2m/g未満である、請求項1~のいずれか一つに記載のカソード活物質。
【請求項8】
前記カソード活物質のタップ密度が、2g/cm超、好ましくは2.2g/cm超、最も好ましくは2.35g/cm超である、請求項1~のいずれか一つに記載のカソード活物質。
【請求項9】
前記カソード活物質の二次粒子の表面が、前記カソード活物質の平均組成と比較して硫酸塩が豊富である、請求項1~のいずれか一つに記載のカソード活物質。
【請求項10】
前記カソードが、4.4V超 vs. Li/Li で動作する、請求項1~9のいずれか一つに記載のカソード活物質を含む二次電池。
【請求項11】
組成LiMn2-y4-v(SOを有する、高電圧二次電池用のカソード活物質を調製する方法であって、0.9≦x≦1.1、0.4≦y≦0.5、0<z≦0.1、0≦v≦zであり、Mが、Ni、Mg、Ti、V、Cr、Fe、Co、Cu、Zn、Al、Ga、Rb、Ge、Mo、Nb、Zr、Si、およびそれらの組合せからなる群から選択される遷移金属であり、前記カソード活物質が、容量増大化合物(capacity enhancing compound)として硫酸塩を含み、前記方法が、
(a)最終生成物中の金属と硫酸塩のモル比によって決定される適切なモル比で金属および硫黄を含有する出発材料を混合および/または共沈させるステップと;
ここで、ステップ(a)が
(a1)出発材料を金属前駆体の形で混合および/または共沈させるステップと;
(a2)ステップ(a1)の混合物を、還元雰囲気中で300℃~1200℃で熱処理するステップを含み;
(b)ステップ(a)の混合物を700℃~1200℃の温度で熱処理して、前記カソード活物質を得るステップと
を含む、方法。
【請求項12】
ステップ(a)が、
(a1)出発材料を金属前駆体の形で混合および/または共沈させるステップと;
(a2)ステップ(a1)の混合物を還元雰囲気中で300℃~1200℃の温度で熱処理して、中間体を得るステップと;
(a3)ステップ(a2)の前記中間体を硫酸塩前駆体と混合して、ステップ(a)の前記混合物を得るステップと
を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記出発材料が、金属前駆体を1種もしくは複数種の酸化物、1種もしくは複数種の水酸化物、1種もしくは複数種の炭酸塩、1種もしくは複数種の硝酸塩、1種もしくは複数種の酢酸塩、1種もしくは複数種のシュウ酸塩、またはそれらの組合せの形で含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記硫酸塩前駆体が、金属がLi、Ni、もしくはMn、またはそれらの組合せである金属硫酸塩を含むか、あるいは前記硫酸塩前駆体が、SOを含み、かつSO 2-のみを最終生成物中に残す化合物である、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
ステップ(b)が、酸素に富む雰囲気中で約700℃~約1200℃の温度で行われる、請求項11~14のいずれか一つに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の諸実施形態は、一般に、高電圧二次電池用のカソード活物質と、カソード活物質を含む、カソードが4.4V超 vs. Li/Liで完全にまたは主に動作する二次電池と、カソード活物質を調製する方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池は家庭用電化製品では一般的である。それらは、携帯電子機器用の最も一般的なタイプの再充電可能な電池の1つであり、エネルギー密度が高く、メモリ効果が小さく、使用していないときの電荷損失が非常にゆっくりである。同じ理由で、それらはまた、電気自動車での使用にとって、および断続的な再生可能電気エネルギー源からの電気エネルギーの貯蔵にとって最適な技術の1つと考えられている。リチウムイオン電池材料は、電池をさらに改良するために開発が続けられている。改良は通常、電池のエネルギー密度、サイクル耐久性、寿命、および安全性の向上、充電時間の短縮、ならびに電池価格の低下のうちの1つまたは複数に関する。
【0003】
高電圧に充電(カソードを4.4V超 vs. Li/Liに充電)することができる、リチウムおよび遷移金属を含有する酸化物材料が、カソード活物質として適している。その高電位のために、このような材料から作製された電池は、リチウムコバルト酸化物およびリン酸鉄リチウムなどの他の電池材料で作製された電池に比べてより高いエネルギー密度を有する。高電圧材料をベースとする電池は、高エネルギーおよびハイレート用途において使用することができる。
【0004】
リチウムイオン電池(LiB)用の材料を選択するための別の重要な要素は、鉄およびマンガンをベースとする材料が非常に注目されているため、地殻中にそれらの成分が豊富にあって、長期間入手可能でかつコスト削減を確実にすることである。特に、マンガンは安価な非毒性元素であることから、マンガン酸化物がカソード活物質の有望なグループを構成している。さらに、マンガン酸化物は、適切な電極電位と共にかなり高い電気伝導率を有する。リチウムマンガン酸化物としては、層状LiMnOおよびスピネル型LiMn(LMO)が最も顕著な三元相である。層状相と比較した場合の後者の利点は、LiMnOが平均3.0Vしか出力しないのに対し、Li/Liに対して約4.0Vというより高い電位である。LiMn格子は、三次元リチウム拡散をもたらし、その結果、このイオンの取込みおよび放出がより速くなる。ドープされたLMOスピネル中のLiの拡散はまた、三次元すべてにおいて等しく速い。
【0005】
遷移金属ドープLiMnスピネル材料としては、LiNi0.5Mn1.5(LMNO)が非常に有望な材料である。Ni2+/Ni4+酸化還元対の電気化学的活性のために、それは4.7V vs. Li/Liという比較的高い電圧で主に動作する。リチウム金属を参照すると、LiNi0.5Mn1.5は、147mAh/gの理論比放電容量を有し、したがって、活物質1kg当たり4.7V×147Ah/kg=691Whという好ましい理論エネルギー密度を有する。マンガンイオンの25%をニッケルで置き換えることで、理論的には構造中にMn3+は存在しないことになる。LNMOカソード活物質のスピネル結晶構造は、秩序相ではP432および無秩序相ではFd-3mの空間群を有する立方最密結晶格子である。スピネル材料は、単一の無秩序相もしくは秩序相でも、または両方の混合物でもよい(Adv. Mater. 24(2012)、2109~2116頁(非特許文献1))。
【0006】
LNMO材料は、NiドープLiMnスピネル相に占められたリチウム正極活物質であり、より具体的には、一般式LiNiMn2-y(典型的には、xおよびyはそれぞれ0.9≦x≦1.1および0≦y≦0.5)を特徴とし得る。この式は、材料のカソード活性スピネル相の組成を表す。このような材料は、例えば、携帯用電気機器(米国特許第8,404,381B2号(特許文献1))、電気自動車、エネルギー貯蔵システム、補助電源装置(APU)、および無停電電源装置(UPS)に使用することができる。
【0007】
リチウムイオン電池用の電極活性LNMO材料は、文献にたくさん記載されている。したがって、米国特許第5,631,104号(特許文献2)は、式Lix+1Mn2-y-zを有する挿入化合物を記載しており、ここで、結晶構造は、4.5V超 vs. Li/Liの電位で可逆的に大量のLiを挿入することができるスピネル様である。Mは、遷移金属、特に、NiおよびCrであり、0≦x≦1、0≦y<0.33、および0<z<1である。
【0008】
米国特許第8,956,759号(特許文献3)(Y.K Sunら)は、組成Li1+xMn2-y4-z(0≦x≦0.1;0.01≦y≦0.5、0.01≦z≦0.5)を有し、MがMn、Ni、またはMgである、向上したハイレート特性を有する3V級スピネル酸化物を記載しており、ここで、スピネル酸化物は、10~50nmの粒径を有する一次粒子の凝集から得られた5~20μmの粒径を有する球状の二次粒子からできている。さらに、出発材料の炭酸塩共沈、元素状硫黄の添加、続いてか焼によって3V級スピネル酸化物を調製する方法が開示されている。3V級スピネル酸化物は、球状であり、均一なサイズ分布を有する。
【0009】
前述の米国特許第8,956,759号(特許文献3)の酸化物は、一次粒子のサイズが非常に小さいことから生じる比較的大きな表面積により、高電圧でのスピネル酸化物表面における電解質分解が比較的速くなり、また、電解質中のカソードからの金属の溶解も比較的速くなり、それによって、カソードの活性部としてスピネル酸化物を含む電池が劣化するという当業者に周知の欠点を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】米国特許第8,404,381B2号
【文献】米国特許第5,631,104号
【文献】米国特許第8,956,759号
【非特許文献】
【0011】
【文献】Adv. Mater. 24(2012)、2109~2116頁
【文献】J. Cabanaら, Chem. Mater. 2012、23、2952頁
【文献】Composition-Structure Relationships in the Li-ion Battery Electrode Material LiNi0.5Mn1.5O4、J.Cabanaら、Chemistry of Materials、2012、24、2952頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の一目的は、性能が向上した高電圧二次電池用のカソード活物質を提供することである。特に、より良好なサイクル耐久性を有するカソード活物質を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の諸実施形態は、一般に、カソードが4.4V超 vs. Li/Liで完全にまたは主に動作し、かつ電池のサイクル耐久性を向上させるために硫酸塩を含む、二次電池用のカソード活物質に関する。カソード活物質が硫化物としてではなく硫酸塩の形で硫黄を含む場合、急速放電(例えば10C)での放電容量が増加し、内部抵抗および分解が減少するが、カソード活物質の放電容量は変わらないことが示されている。
【0014】
用語「4.4V超 vs. Li/Liで完全にまたは主に動作する」は、電池が4.4V超 vs. Li/Liで動作することを意図し、これが、二次電池の使用時間の大部分、例えば、時間の少なくとも70%、さらには時間の90%に相当することを意味する。
【0015】
一実施形態では、カソード活物質はリチウムを含む。したがって、カソード活物質は、高電圧二次リチウム電池用の材料である。
【0016】
一実施形態では、カソード活物質は、組成LiMn2-y4-v(SOを有し、ここで、0.9≦x≦1.1、0.4≦y≦0.5、0<z≦0.1、0≦v≦zであり、Mは、Ni、Mg、Ti、V、Cr、Fe、Co、Cu、Zn、Al、Ga、Rb、Ge、Mo、Nb、Zr、Si、およびそれらの組合せからなる群から選択される遷移金属であり、カソード活物質は、放電容量減衰低減化合物として硫酸塩を含む。カソード活物質中の硫黄が硫化物の形ではなく硫酸塩の形で存在する場合、材料の電気化学的性能が改善される。以下に示すように、前述のスピネル酸化物の化学組成は、硫黄が硫酸塩としてカソード活物質中に存在するようなものである。特に、分解速度は、硫酸塩を含まない材料に比べて減少する。
【0017】
本発明の一実施形態では、カソード活物質の遷移金属MはNiである。それにより、カソード活物質の組成は、LiNiMn2-y4-v(SO(但し、0.9≦x≦1.1、0.4≦y≦0.5、0<z≦0.1、0≦v≦z)になる。スピネル構造におけるMnのいくつかとNiとの置換えは、4.7V vs. Li/LiというNi2+/Ni4+酸化還元対の電気化学的活性により4.4V超 vs. Li/Liの高容量がもたらされることから有利である。Ni組込みのさらなる利点には、三価Mnの量を低下させて、電解質中のMn溶解のリスクを減らすことが含まれる。さらに、MnをNiで部分的に置き換えると、サイクル挙動ならびにレート性能を向上させることも既知である。
【0018】
本発明の一実施形態では、LiMn2-y4-v(SOカソード活物質のバルク構造は、スピネル構造を有する。スピネル構造は、例えば、Fd-3m空間群によって説明される。一般に、スピネル相は、2種の可能な結晶学的形態:カチオン秩序スピネル相(空間群P432)およびカチオン無秩序相(空間群Fd-3m)を有する。秩序相では、Mn4+/Mn3+およびM2+(例えばNi2+)イオンは、別個の結晶学的部位を占め、それによって、容易に識別可能なX線回折パターンを有する超格子構造を生じさせる。無秩序相では、Mn4+/Mn3+およびNi2+イオンは、ランダムに分布している。秩序スピネル材料の分解(減衰)速度が無秩序スピネル材料よりも通常高いことは当業者には周知である(例えば、J. Cabanaら, Chem. Mater. 2012、23、2952頁(非特許文献2)を参照)。
【0019】
実際には、材料を合成するとき、理論組成および平均酸化状態からのわずかなずれがしばしばあることに注意すべきである。これは、正確な化学量論からのずれ、構造における欠陥および不均質性の存在、または主相の組成を変える不純物相の存在のいずれかによるものであり得る。例えば、LNMOを合成するとき、スピネル相の化学量論に影響を及ぼし、かつ全材料を酸素欠乏状態にする少量の岩塩相が存在することは周知である(Composition-Structure Relationships in the Li-ion Battery Electrode Material LiNi0.5Mn1.5、J.Cabanaら、Chemistry of Materials、2012、24、2952頁(非特許文献3))。このような意図しない逸脱は、添付の特許請求の範囲を制限または少しも限定するものではない。
【0020】
本発明の一実施形態では、カソード活物質の平均一次粒子サイズは、50nm超、好ましくは100nm超、最も好ましくは200nm超である。典型的なサイズは数百nmであるが、場合によっては、最大で10または20μmの一次粒子が観察される。平均一次粒子サイズは、カソード活物質の比表面積に影響を及ぼし、より小さな粒子は、より大きな粒子よりも大きな比表面積をもたらす。カソード材料の表面では電解質の酸化分解および電池の安定性を低下させるカソード材料からの金属溶解が起こるので、表面積がより低い方が電池のサイクル安定性を向上させることができる。
【0021】
一実施形態では、カソード活物質二次粒子のd50は、1~50μm、好ましくは3~25μmであり、ここで、二次粒子の粒子サイズ分布は、d90対d10の比が8未満であることを特徴とする。ここでは、d50は体積基準の粒子サイズ分布の中央値であり、したがって、粒子の体積の半分は、d50より小さい粒子サイズを有し、粒子の体積の半分は、d50より大きい粒子サイズを有する。同様に、粒子の体積の90%は、d90未満のサイズを有し、粒子の体積の10%は、d10未満のサイズを有する。粒子サイズ分布が前述の通りである場合、すなわち、粒子サイズ分布が比較的狭い場合、粉末を、活物質の体積含有量が高い良好な電池電極に加工することがより容易であり、それによって、電池の体積エネルギー密度が向上する。
【0022】
本発明の一実施形態では、カソード活物質の表面積は、0.5m/g未満、好ましくは0.3m/g未満、最も好ましくは0.2m/g未満である。このような表面積を有するカソード活物質を含む二次電池では、二次電池の電解質との破壊的反応は、より大きな表面積を有する同様の材料と比べて遅くなる。
【0023】
大きな平均一次粒子サイズを得るために行われる結晶成長は、通常、二次粒子の空隙率をより低くする焼結と関連しているので、通常、材料のタップ密度も向上させるであろう。
【0024】
一実施形態では、カソード活物質のタップ密度は、2g/cm超、好ましくは2.2g/cm超、最も好ましくは2.35g/cm超である。通常、タップ密度は、3.0g/cm未満、さらには2.8g/cm未満である。タップ密度がより高いと電池の電極中の活物質充填がより高くなり、したがって、電池の容量がより高くなる傾向があるので、2g/cmを超えるタップ密度が有利である。
【0025】
本発明によるカソード活物質の一実施形態では、二次粒子の表面は、物質の平均組成と比較して硫酸塩が豊富である。これによって、物質中の硫黄の総量は、硫酸塩が物質全体に均一に分布している場合よりもいくらか少なくてよい。これは、硫酸塩を物質に添加することによる全重量の増加が、硫酸塩が物質全体に均一に分布している場合よりも少ないことを意味する。二次粒子の表面層は例えばXPSによって決定され、物質の平均組成は例えばICPによって決定される。
【0026】
本発明の別の一態様は、本発明によるカソード活物質を含む、カソードが4.4V超 vs. Li/Liで完全にまたは主に動作する二次電池に関する。
【0027】
本発明のさらに別の一態様は、組成LiMn2-y4-v(SOを有する、高電圧二次電池用のカソード活物質を調製する方法であって、0.9≦x≦1.1、0.4≦y≦0.5、0<z≦0.1、0≦v≦zであり、Mが、Ni、Mg、Ti、V、Cr、Fe、Co、Cu、Zn、Al、Ga、Rb、Ge、Mo、Nb、Zr、Si、およびそれらの組合せからなる群から選択される遷移金属であり、カソード活物質が、容量安定化化合物として硫酸塩を含み、方法が、
(a)最終生成物中の金属と硫酸塩のモル比によって決定される適切なモル比で金属および硫黄を含有する出発材料を混合および/または共沈させるステップと;
(b)ステップ(a)の混合物を700℃~1200℃の温度で熱処理して、カソード活物質を得るステップと
を含む、方法に関する。
【0028】
本発明の方法では、ステップ(a)は、関連する出発材料を適切なモル比で混合して、ステップ(b)の熱処理後に最終生成物とすることを含む。関連する出発材料の混合は、例えば、金属炭酸塩、金属水酸化物、および/または金属硫酸塩の混合および/または共沈であり得る。さらに、さらなる硫酸塩を混合物に使用することができる。最終生成物中の硫酸塩は、例えば、硫酸塩から、および/または他の出発材料中の硫黄不純物から生じ得る。前駆体または出発材料の各々は、金属元素のうちの1種または複数種を含有していてもよい。
【0029】
混合ステップは、関連する場合、前駆体の混合を助ける液体、例えば、エタノールまたは水などを含んでよい。
【0030】
用語「金属」は、以下の元素またはそれらの組合せのうちのいずれかを示すことを意味する:LiならびにMnならびにNi、Mg、Ti、V、Cr、Fe、Co、Cu、Zn、Al、Ga、Rb、Ge、Mo、Nb、Zr、Si、およびそれらの組合せの群からの遷移金属M。
【0031】
一実施形態では、本発明の方法のステップ(a)は、
(a1)出発材料を金属前駆体の形で混合および/または共沈させるサブステップと;
(a2)ステップ(a1)の混合物を300℃~1200℃の温度で熱処理して、中間体を得るサブステップと;
(a3)ステップ(a2)の中間体を硫酸塩前駆体と混合して、ステップ(a)の混合物を得るサブステップと
を含む。
【0032】
サブステップ(a1)~(a3)は、所与の順序で行うべきである。この実施形態では、硫酸塩前駆体を、ステップ(a3)、すなわち、第1の加熱ステップ(a2)で添加する。ステップ(a3)から得られた最終混合物は、続いて、ステップ(b)の熱処理においてか焼する。これは、二次粒子の接触可能表面に近い硫酸塩のシェル分布を促進するものである。
【0033】
カソード活物質中の全硫黄は、例えば、SEM装置におけるエネルギー分散型X線分析(EDX分析)によって、および誘導結合プラズマ分析(ICP)によって検出可能であり、後者は±20重量ppmまでの精度を有する。
【0034】
カソード活物質中の硫黄(例えば、硫酸塩または硫化物)の化学的同一性は、S2p電子の結合エネルギーを定量することによってX線光電子分光法(XPS)で検出可能である。金属硫酸塩では、S2p電子の結合エネルギーは約169eVであり、金属硫化物では、S2p電子の結合エネルギーは約161.5eVである。帯電効果の補正には、炭素テープから主に生じるC1s電子に関する284.8eVの基準結合エネルギーを使用する。
【0035】
本発明の方法の一実施形態では、出発材料は、金属前駆体を1種もしくは複数種の酸化物、1種もしくは複数種の水酸化物、1種もしくは複数種の炭酸塩、1種もしくは複数種の硝酸塩、1種もしくは複数種の酢酸塩、1種もしくは複数種のシュウ酸塩、またはそれらの組合せの形で含む。
【0036】
一実施形態では、硫酸塩前駆体は、金属がLi、Ni、もしくはMn、またはそれらの組合せである金属硫酸塩を含むか、あるいは硫酸塩前駆体は、SOを含み、かつSO 2-のみを最終生成物中に残す化合物、例えば、HSOまたは(NHSOなどである。(NHSOの場合、NH は、ステップ(b)の熱処理においてガス状化合物に変えられる。
【0037】
本発明の方法の一実施形態では、ステップ(b)は、酸素に富む雰囲気中で約700℃~約1200℃の温度で行われる。このような酸素に富む雰囲気は、「非還元雰囲気」または「酸化雰囲気」とも称され、例えば、不活性ガス中に少なくとも5体積%の酸素を含む空気またはガス状組成物であり得る。非還元雰囲気は、加熱中に反応容器内に存在するある種のガスによって提供することができる。好ましくは、非還元ガスは空気である。
【0038】
本発明の方法の一実施形態では、ステップ(a2)は、約300℃~約1200℃の温度で行われる。ステップ(a2)は、空気または還元雰囲気中で行うことができる。還元雰囲気は、還元ガスを存在させることによって提供することができ、例えば、還元ガスは、水素;一酸化炭素;二酸化炭素;窒素;15体積%未満の酸素を含む不活性ガス;空気および水素;空気および一酸化炭素;空気およびメタノール;空気および二酸化炭素;ならびにそれらの混合物の群から選択される1種または複数種のガスであり得る。用語「15体積%未満の酸素を含む不活性ガス」は、不活性ガス中においての0体積%の酸素(酸素を含まない不活性ガスに相当する)から15体積%の酸素までの範囲を網羅することを意味する。好ましくは、還元雰囲気中の酸素の量は低く、例えば1000ppm未満などであり、最も好ましくは10ppm未満である。一般に、酸素を雰囲気に添加することはないが、加熱中に酸素が形成されることがある。
【0039】
さらに、還元雰囲気は、ある物質を前駆体組成物に添加して、またはあるガス状組成物を雰囲気に添加して、加熱中に反応容器の雰囲気中に存在する任意の酸化種の全部または一部を除去することによって得ることができる。この物質は、前駆体の調製中または熱処理の前に前駆体に添加することができる。この物質は、酸化され得、かつ好ましくは炭素を含む任意の材料でよく、例えば、この物質は、グラファイト、酢酸、カーボンブラック、シュウ酸、木質繊維、およびプラスチック材料からなる群から選択される1種または複数種の化合物であり得る。
【0040】
ステップ(a3)および/または(b)の熱処理は、1つまたは複数のステップで行うことができる。この場合、ステップのうちの少なくとも1つは、約700℃超の温度で行われる。単なる一例として、第1のステップは、所与の雰囲気中での900℃の熱処理であり、続いて、第2のステップは、同じ所与の雰囲気中での例えば700℃の熱処理である。
【0041】
本発明の諸実施形態を、例として、添付の図面を参照して説明する。添付の図面は本発明の諸実施形態の例を示すにすぎず、したがって、本発明の範囲を限定するものと考えるべきではなく、本発明が他の同等に有効な諸実施形態を認め得ることに留意されたい。
【図面の簡単な説明】
【0042】
図1】例1および2に記載するように調製した、硫酸塩をドープした2種のカソード活物質、ならびに標準としてのLiSOのXPSを使用して得られた較正済みS2pスペクトルを示すグラフ図である。
図2】例1~3に記載するように合成に添加した硫黄量を有する硫黄ドープカソード活物質中のLiSOの量を示すグラフ図である。
図3】8000ppmSを有する、例2で調製した代表的な硫黄ドープカソード活物質粒子の走査型電子顕微鏡写真(aおよびb)ならびにエネルギー分散型X線スペクトル写真(c、d、およびe)を示す図である。
図4】例1に記載するように調製した、硫酸塩をドープしたおよびドープしていないカソード活物質の定電流充電および放電の電圧プロファイルを示すグラフ図である。
図5】例1に記載するように調製した、硫酸塩をドープしたおよびドープしていないカソード活物質の定電流放電の電圧プロファイルを示すグラフ図である。
図6】例1に記載するように調製した、硫酸塩をドープしたおよびドープしていないカソード活物質の定電流電気化学サイクル中の相対的分解を示すグラフ図である。
図7】例2に記載するように調製した、硫酸塩をドープしたおよびドープしていないカソード活物質の定電流電気化学サイクル中の相対的分解を示すグラフ図である。
図8】例3に記載するように調製した、硫酸塩をドープしたおよびドープしていないカソード活物質の定電流電気化学サイクル中の相対的分解を示すグラフ図である。
図9】カソード活物質中の硫酸塩ドーピングの関数としての電池材料パラメータ:放電容量、電力容量、0.2C分解、および1C分解における相対的変化を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下では、本発明の諸実施形態に言及する。しかし、本発明が、記載した特定の諸実施形態に限定されないことを理解されたい。むしろ、以下の特徴および要素の任意の組合せは、様々な諸実施形態に関連するか否かにかかわらず、本発明を実施および実行することを企図している。
【0044】
さらに、以下では、用語「カソード活物質」は、式LiNiMn2-y4-v(SO(但し、0.9≦x≦1.1、0.4≦y≦0.5、0<z≦0.1、0≦v≦z)を有するLNMO材料を意味する。さらに、用語「カソード活物質」は、z=0に対応する硫黄0ppmの標準試料を網羅することを意味する。
【0045】
図1は、例1および2に記載するように調製した、硫酸塩をドープした2種のカソード活物質、ならびに標準としてのLiSOのXPSを使用して得られた較正済みS2pスペクトルを示すグラフである。結合エネルギーは3種すべての場合において約169eVであり、これは、存在する硫黄が、結合エネルギーが約161.5eVである硫化物よりもむしろ硫酸塩の形であることを示している。これはまた、LiSOのスペクトルとの直接比較からも明らかである。スペクトルは主に炭素テープからのC1sピークに従って較正し、ピーク高さおよびベースラインは自動スケーリングする。
【0046】
図2は、例1~3に記載するように合成に添加した硫黄量を有する硫黄ドープカソード活物質中のLiSOの量を比較している。LiSOの量は、硫黄ドープカソード活物質から得られたXRDスペクトルのリートベルト法によって決定する。
【0047】
図2から、過度の硫黄はLiSOを著しく形成することが分かる。現行の例では、4000ppmSを超えると、LiSOが形成される。LiSOの存在は、カソード活物質の能力に寄与しないので望ましくない。さらに、LiSOは、4.4V超 vs. Li/Liで完全にまたは主に動作する電池では不安定になることがある。
【0048】
図3は、8000ppmSを有する、例2で調製した代表的な硫黄ドープカソード活物質粒子の走査型電子顕微鏡写真(aおよびb)ならびにエネルギー分散型X線スペクトル写真(c、d、およびe)である。図3aの粒子上の灰色物質を図3bでは拡大し、図3c~3eではEDXで分析している。図3c~3eから、灰色物質は、Sを含むがNiおよびMnを含まず、したがって、Li2の形の過剰な硫黄である可能性が最も高いことが分かった。
【0049】
図4は、例1に記載するように調製した、硫酸塩をドープしたおよびドープしていないカソード活物質の定電流充電および放電の電圧プロファイルを示すグラフである。電気化学的測定は、0.2Cに相当する電流を用いて50℃で半電池において行う。放電容量および電圧プロファイルの形が硫黄ドーピングによって変化しないことが分かる。これは、材料のバルク特性が変化していないことを示す。
【0050】
図5は、例1に記載するように調製した、硫酸塩をドープしたおよびドープしていないカソード活物質の定電流放電の電圧プロファイルを示すグラフである。電気化学的測定は、0.5C、2C、および10Cに相当する放電電流を用いて50℃で半電池において行う。一番上の3本の曲線は0.5Cに相当し、一方、真ん中の3本の曲線は2Cに相当し、一番下の3本の曲線は10Cに相当する。実線の曲線は0ppm硫黄に相当し、破線は2000ppm硫黄に相当し、点線の曲線は4000ppmに相当する。
【0051】
図5から、0.5Cでは、0ppm、2000ppm、および4000ppmの曲線が、実質上互いに追従しており、同じ放電容量値で実質上終わっていることが分かる。2Cでは、0ppmの曲線は2000ppmおよび4000ppmの曲線から少し離れており、0ppmの曲線は2000ppmおよび4000ppmの曲線よりも低い放電容量値で終わっている。急速放電では、すなわち、10Cでは、0ppmの曲線は2000ppmおよび4000ppmの曲線からいくらか離れており、0ppmの曲線は2000ppmおよび4000ppmの曲線よりもいくらか低い放電容量値で終わっている。さらに、4000ppmを含む材料は、2000ppmを含む材料よりも低い抵抗(より高い電圧測定値から分かる)と高い放電容量との両方を有することが分かる。したがって、結論として、電流が増加するにつれて、過電圧は増加し、放電容量は減少するが、硫黄の量が増加すると、高速で過電圧が減少し、それによって放電容量が増加することが分かる。
【0052】
図6は、例1に記載するように調製した、硫酸塩をドープしたおよびドープしていないカソード活物質の定電流電気化学サイクル中の相対的分解を示すグラフである。電気化学的測定は、0.5Cおよび1Cにそれぞれ相当する充電電流および放電電流を用いて3.5V~5Vの間で50℃で半電池において行う。カソード活物質の硫酸塩ドーピングが分解を著しく減少させることが分かる。
【0053】
図7は、例2に記載するように調製した、硫酸塩をドープしたおよびドープしていないカソード活物質の定電流電気化学サイクル中の相対的分解を示すグラフである。電気化学的測定は、0.5Cおよび1Cにそれぞれ相当する充電電流および放電電流を用いて3.5V~5Vの間で50℃で半電池において行う。カソード活物質前駆体の硫酸塩ドーピングが分解を著しく減少させることが分かる。
【0054】
図8は、例3に記載するように調製した、硫酸塩をドープしたおよびドープしていないカソード活物質の定電流電気化学サイクル中の相対的分解を示すグラフである。電気化学的測定は、0.5Cおよび1Cにそれぞれ相当する充電電流および放電電流を用いて3.5V~5Vの間で50℃で半電池において行う。わずか500ppmの、カソード活物質前駆体中の不純物の結果としての硫酸塩ドーピングでも、分解を著しく減少させることが分かる。
【0055】
図9は、カソード活物質中の硫酸塩ドーピングの関数としての電池材料パラメータ:初期に測定した放電容量、電力容量、0.2C分解、および1C分解における相対的変化を示す図である。カソード活物質は、様々な方法で調製されており、とりわけ、例1、2、および3に記載した材料を含む。硫酸塩ドーピングは、放電容量を変化させず、さらに、電力を最大40%増加させ、分解を最大70%減少させることが分かる。
【0056】
したがって、Sの関連量-すなわち、カソード活物質中の硫黄含有量が1000~16000ppm-は、図2~3に示すようにLiSOを回避しながら、図4~9に記載するように良好な性能が得される間で最適化したものである。
【0057】
例A:例1、2、および3に従って調製した電池材料の電気化学的試験方法
電気化学的試験は、薄い複合正極および金属リチウム負極を使用して、2032型コイン電池(半電池)において実現した。薄い複合正極は、84重量%のカソード活物質(例1、2、および3に従って調製)を、NMP(N-メチル-ピロリドン)中で8重量%のSuper C65カーボンブラック(Timcal)および8重量%のPVdFバインダー(ポリビニリデンジフルオリド、Sigma Aldrich)と完全に混合してスラリーを形成することによって製造した。このスラリーを、160μmのギャップを有するドクターブレードを使用して、炭素を被覆したアルミニウム箔上に広げ、80℃で2時間乾燥させてフィルムを形成した。乾燥させたフィルムから、直径14mmの、リチウム正極活物質充填量約7mgの電極を切り出し、油圧ペレットプレス(直径20mm;3トン)でプレスし、アルゴン充填グローブボックス内で120℃にて真空下で10時間乾燥させた。
【0058】
コイン電池を、2つのポリマーセパレータ(Toray V25EKDおよびFreudenberg FS2192-11SG)ならびにEC:DMC(重量で1:1)中に1モルのLiPFを含む電解質を使用して、アルゴン充填グローブボックス(<1ppmのOおよびHO)中で組み立てた。2つの250μm厚のリチウムディスクを対向電極として使用し、負極側のステンレス鋼のディスクスペーサーおよびディスクスプリングでコイン電池内の圧力を調節した。定電流方式で動作する自動サイクリングデータ記録システム(Maccor)を用いて、電気化学リチウムの挿入および抜出を監視した。
【0059】
標準試験は、次のサイクル:0.2C/0.2C(充電/放電)を3サイクル、0.5C/0.2Cを3サイクル、0.5C/0.5Cを5サイクル、0.5C/1Cを5サイクル、0.5C/2Cを5サイクル、0.5C/5Cを5サイクル、0.5C/10Cを5サイクル、次いで、0.2C/0.2Cサイクルを20サイクル毎に0.5C/1Cサイクルを実行するようにプログラムした。Cレートは、148mAhg-1である材料の理論比放電容量に基づいて計算し、その結果、例えば、0.2Cは29.6mAg-1に相当し、10Cは1.48Ag-1に相当した。
【0060】
性能パラメータの「放電容量」、「電力容量」、「0.2C分解」、および「1C分解」を、以下のようにして標準試験から抽出する。放電容量は、サイクル7で測定された、0.5Cでの初期放電容量である。電力容量は、サイクル29および7でそれぞれ測定された、10Cでの測定放電容量と0.5Cでのものとを比較した相対的減少である。0.2C分解は、サイクル32と132との間で測定された100サイクルにわたる0.2Cでの放電容量の相対的損失である。1C分解は、サイクル33と133との間で測定された100サイクルにわたる1Cでの放電容量の相対的損失である。
【0061】
例1:硫酸塩ドープカソード活物質の調製方法
共沈させたNi、Mn-炭酸塩(Ni:0.5、Mn:1.5)1162.47gの形の前駆体およびLiCO190.65gをエタノールと混合して、粘稠なスラリーを形成する。スラリーをペイントシェーカーで3分間振とうして、粒子材料を完全に脱凝集および混合させる。スラリーをトレイに注ぎ、80℃で放置して乾燥させた。乾燥させた材料をペイントシェーカーで1分間振とうすることによってさらに脱凝集させて、自由流動性の均質な粉末混合物を得る。
【0062】
粉末混合物を、マッフル炉において窒素流と共に700℃で2.5時間焼結させる。
【0063】
生成物をペイントシェーカーで6分間振とうすることによって脱凝集させ、45μmの篩に通す。粉末をアルミナるつぼ中に10~25mmの層に分配し、空気中において900℃で14時間および700℃で4時間焼結させる。
【0064】
粉末をペイントシェーカーで6分間振とうすることによって再度脱凝集させ、45μmの篩に通して、95.4%のLNMO、3.6%のO3、および1.1%の岩塩からなるカソード活物質866gを得る。
【0065】
生成したカソード活物質から50g分を3つ取り出す。2つをそれぞれ0.3434gおよび0.6868gのLiSOと混合して、最終生成物中の硫黄含有量を2000ppmおよび4000ppmとする。混合は、HO10gおよびエタノール8g中にLiSOを含む溶液、ならびにこれをカソード材料と混合することによって行う。硫黄をドープしていない粉末を含む3種の粉末試料を空気中において900℃で4時間および700℃で4時間焼結させる。粉末をペイントシェーカーで6分間振とうすることによって再度脱凝集させ、38μmの篩に通す。すべての試料の相純度は、95重量%以上である。図4、5、および6において3種の試料の電気化学的性能を比較する。
【0066】
0ppm硫黄および2000ppm硫黄に相当する生成物中の実際の硫黄含有量を、ICPを使用して、それぞれ40ppmおよび2090ppmと決定した。
【0067】
例2:硫酸塩ドープカソード活物質の調製方法
共沈させたNi、Mn-炭酸塩(Ni:0.5、Mn:1.5)2258.66gの形の前駆体およびLiOH394.78gを1時間乾式混合する。
【0068】
乾式混合した前駆体から50g分を2つ取り出し、一方をLiSOと混合して、最終生成物中の硫黄含有量を2000ppmとする。2種の粉末を、マッフル炉において窒素流と共に700℃で3時間焼結させる。
【0069】
生成物をペイントシェーカーで6分間振とうすることによって脱凝集させ、45μmの篩に通す。粉末をアルミナるつぼ中に10~25mmの層に分配し、空気中において900℃で14時間および700℃で2時間焼結させる。
【0070】
粉末をペイントシェーカーで6分間振とうすることによって再度脱凝集させ、45μmの篩に通す。両方の試料の相純度は、95重量%以上である。図7において2種の試料の電気化学的性能を比較する。
【0071】
表面における硫黄の化学的同一性を決定するために、例1および2からの2000ppmの硫黄ドープしたカソード活物質についてXPS測定を行った。図1は、これらの材料および標準としてのLiSOの較正済みS2pスペクトルを示す。結合エネルギーが、3種すべての場合において約169eVであることが分かり、存在する硫黄が、結合エネルギーが約161.5eVである硫化物よりもむしろ硫酸塩の形であることを示している。これはまた、LiSOのスペクトルとの直接比較からも明らかである。
【0072】
XPS測定はまた、カソード活物質粒子中の硫酸塩のいずれの動径分布も明らかにすることができる。表1は、2000ppmの硫黄を含有する例1および2からのカソード活物質中の関連化合物O、Mn、Ni、およびSの相対原子比を示す。
【0073】
【表1】
【0074】
O/(Mn+Ni)は、酸素と、LNMOスピネル中の遷移金属、すなわちMnおよびNiとの間の原子比である。これのバルク値は2であるが、バルク値からのずれは表面でしばしば見られる。(Mn+Ni)/Sは、LNMOスピネル中の遷移金属と硫黄との間の原子比である。これは、式LiMn2-y4-v(SOを使用して、表面におけるz値、z表面を計算するのに使用される。z値に対応する重量による硫黄の相対量の計算から、材料を例1に記載するように調製した場合、硫黄含有量がバルク値よりも10倍高く、材料を例2に記載するように調製した場合、硫黄含有量がバルク値よりも3倍高いことが分かる。これは、例1または2に記載の方法のいずれか一方を使用した場合、硫酸塩が粒子の表面に優先的に見られることを示している。
【0075】
例3:硫酸塩ドープカソード活物質の調製方法
Ni、Mn-炭酸塩中に異なる硫黄不純物レベルを有する前駆体をベースとする2種のカソード活物質を同様に調製する。共沈させたNi、Mn-炭酸塩(Ni:0.5、Mn:1.5)30gの形の前駆体およびLiOH5.1gを乾式混合して、自由流動性の均質な粉末混合物を得る。2種の粉末混合物を、マッフル炉において窒素流と共に730℃で3時間焼結させる。
【0076】
生成物をペイントシェーカーで6分間振とうすることによって脱凝集させ、45μmの篩に通す。粉末をアルミナるつぼ中に10~25mmの層に分配し、空気中において900℃で4時間および715℃で12時間焼結させる。
【0077】
粉末をペイントシェーカーで6分間振とうすることによって再度脱凝集させ、20μmの篩に通す。両方の試料の相純度は98重量%である。図8において2種の試料の電気化学的性能を比較する。
【0078】
2種の前駆体は、異なる量の硫黄不純物を有する。一方は100ppmであり、他方は500ppmである。ICPから、硫黄対Ni-Mnの比が硫酸塩ドープカソード活物質の調製全体を通して一定であり、その結果、前駆体中の異なる量の硫黄不純物により、硫酸塩ドーピングの量がそれに対応して異なる電池カソード材料がもたらされることが示された。
【0079】
例1、2、および3で生成したカソード材料の電気化学的性能の比較を図4~9に示す。図9はさらに追加実験を含み、放電容量が変化せず、電力容量が硫酸塩ドーピングに伴って増加し、分解が硫酸塩ドーピングに伴って減少するという同じ傾向が示されている。
【0080】
本発明を様々な実施形態の説明によって例示し、これらの実施形態をかなり詳細に説明してきたが、本出願人の意図は、添付の特許請求の範囲をそのような詳細に制限または少しも限定するものではない。追加の利点および変更は当業者には容易に明らかになろう。したがって、本発明は、そのより広範囲にわたる態様において、示しかつ記載した特定の詳細、代表的な方法、および例示的な例に限定されない。したがって、出願人の一般的な発明概念の趣旨または範囲から逸脱しない範囲でそのような詳細から外れてもよい。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9