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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-08
(45)【発行日】2022-07-19
(54)【発明の名称】膜電極接合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/86 20060101AFI20220711BHJP
   H01M 8/10 20160101ALI20220711BHJP
   H01M 8/1004 20160101ALI20220711BHJP
   H01M 8/1069 20160101ALI20220711BHJP
   H01M 8/1058 20160101ALI20220711BHJP
   H01M 8/1023 20160101ALI20220711BHJP
【FI】
H01M4/86 H
H01M8/10 101
H01M4/86 M
H01M8/1004
H01M8/1069
H01M4/86 B
H01M8/1058
H01M8/1023
【請求項の数】 66
(21)【出願番号】P 2019534221
(86)(22)【出願日】2017-12-22
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-05-21
(86)【国際出願番号】 US2017068252
(87)【国際公開番号】W WO2019125490
(87)【国際公開日】2019-06-27
【審査請求日】2019-07-31
(73)【特許権者】
【識別番号】391028362
【氏名又は名称】ダブリュ.エル.ゴア アンド アソシエイツ,インコーポレイティド
【氏名又は名称原語表記】W.L. GORE & ASSOCIATES, INCORPORATED
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100093665
【弁理士】
【氏名又は名称】蛯谷 厚志
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【弁理士】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(72)【発明者】
【氏名】マーク エドモンドソン
(72)【発明者】
【氏名】エフ.コリン バズビー
【審査官】高木 康晴
(56)【参考文献】
【文献】特表2006-507623(JP,A)
【文献】特表2008-534719(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/86
H01M 8/10
H01M 8/1004
H01M 8/1069
H01M 8/1058
H01M 8/1023
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池構成要素の製造方法であって、該方法は、
基材を提供すること、及び、
前記基材上に電極を形成すること、
を含み、前記形成は水、水不溶性成分、触媒及びアイオノマーを含む水性混合物を堆積させることを含み、該水不溶性成分は水不溶性カルボン酸を含み、かつ、前記水不溶性成分は前記水性混合物中のアイオノマー及びビヒクルの合計質量を基準として20wt%未満の量で前記水性混合物中に存在する、方法。
【請求項2】
前記基材は多孔質層、非多孔質層又はそれらの組み合わせを含み、前記水不溶性成分はC~C10カルボン酸を含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
該水不溶性成分は水不溶性アルコールをさらに含む、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
該水不溶性成分はC~C10アルコールをさらに含む、請求項1又は2記載の方法。
【請求項5】
多孔質層、非多孔質層又はそれらの組み合わせを前記電極及び前記基材の少なくとも一つとラミネート化することをさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記水性混合物は堆積工程中に単一相を含む、請求項1~5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
前記水性混合物は低網状組織を有する、請求項1~6のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
前記電極の形成は前記水性混合物を乾燥させることをさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項9】
前記基材は前記電極に対して反対側の基材の面上に別の電極を含む、請求項1~8のいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
前記電極の反対側の前記基材の面の上に別の電極を形成することをさらに含む、請求項1~8のいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
前記別の電極の形成は前記基材上に前記水性混合物を堆積させることを含む、請求項10記載の方法。
【請求項12】
前記別の電極の形成は前記水性混合物を乾燥することをさらに含む、請求項11記載の方法。
【請求項13】
前記電極を高分子電解質膜にラミネート化することをさらに含む、請求項1~12のいずれか1項記載の方法。
【請求項14】
前記電極上で高分子電解質膜を形成することをさらに含む、請求項1~12のいずれか1項記載の方法。
【請求項15】
燃料電池構成要素の製造方法であって、該方法は、
高分子電解質膜上に第一の電極を形成すること、ここで、該形成は前記高分子電解質膜上に水性混合物を堆積させることを含み、該水性混合物は水、水不溶性成分、触媒及びアイオノマーを含み、該水不溶性成分は水不溶性カルボン酸を含み、かつ、前記水不溶性成分は前記水性混合物中のアイオノマー及びビヒクルの合計質量を基準として20wt%未満の量で前記水性混合物中に存在し、及び、
前記高分子電解質膜上に第二の電極を形成し又は付着させること、
を含む、方法。
【請求項16】
燃料電池構成要素の製造方法であって、該方法は、
ガス拡散層上に第一の電極を形成すること、ここで、該形成は前記ガス拡散層上に水性混合物を堆積させることを含み、該水性混合物は水、水不溶性成分、触媒及びアイオノマーを含み、該水不溶性成分は水不溶性カルボン酸を含み、かつ、前記水不溶性成分は前記水性混合物中のアイオノマー及びビヒクルの合計質量を基準として20wt%未満の量で前記水性混合物中に存在し
前記第一の電極上に高分子電解質膜を形成し又は付着させること、及び、
前記高分子電解質膜上に第二の電極を形成し又は付着させることを含む、方法。
【請求項17】
該水不溶性成分は水不溶性アルコールをさらに含む、請求項15又は16記載の方法。
【請求項18】
前記ガス拡散層は多孔質層を含む、請求項16記載の方法。
【請求項19】
前記多孔質層は空気透過性であるか又はガス拡散層を含む、請求項18記載の方法。
【請求項20】
前記多孔質層は多孔質剥離層を含む、請求項18記載の方法。
【請求項21】
前記多孔質剥離層は延伸ポリマーを含む、請求項20記載の方法。
【請求項22】
前記延伸ポリマーは延伸ポリテトラフルオロエチレンを含む、請求項21記載の方法。
【請求項23】
前記ガス拡散層は非多孔質層を含む、請求項16記載の方法。
【請求項24】
前記非多孔質層は非多孔質剥離層を含む、請求項23記載の方法。
【請求項25】
前記非多孔質層は前記高分子電解質膜を含む、請求項24記載の方法。
【請求項26】
前記高分子電解質膜はプロトン伝導性ポリマーを含む、請求項13、14、16又は25記載の方法。
【請求項27】
前記高分子電解質膜は多孔質微細構造及び該多孔質微細構造に含浸されたアイオノマーを含む、請求項13、14、16又は25記載の方法。
【請求項28】
前記多孔質微細構造は過フッ素化多孔質ポリマー材料を含む、請求項27記載の方法。
【請求項29】
前記過フッ素化多孔質ポリマー材料は延伸ポリテトラフルオロエチレン膜を含む、請求項28記載の方法。
【請求項30】
前記多孔質微細構造は炭化水素材料を含む、請求項27記載の方法。
【請求項31】
前記炭化水素材料はポリエチレン、ポリプロピレン又はポリスチレンを含む、請求項30記載の方法。
【請求項32】
前記アイオノマーはプロトン伝導性ポリマーである、請求項27記載の方法。
【請求項33】
前記プロトン伝導性ポリマーはペルフルオロスルホン酸を含む、請求項26又は32記載の方法。
【請求項34】
水は前記水性混合物中のアイオノマー及びビヒクルの合計質量を基準として35wt%を超え、場合により50wt%を超え、場合により70wt%を超え、場合により80wt%を超え、又は、場合により90wt%を超える量で前記水性混合物中に存在する、請求項1~33のいずれか1項記載の方法。
【請求項35】
前記触媒は貴金属、遷移金属又はそれらの合金を含む、請求項1~34のいずれか1項記載の方法。
【請求項36】
前記触媒は担持触媒である、請求項1~35のいずれか1項記載の方法。
【請求項37】
前記担持触媒は炭素を含む、請求項36記載の方法。
【請求項38】
前記触媒は前記水性混合物の合計質量を基準として、90wt%未満、場合により35wt%未満、場合により9wt%未満の量で前記水性混合物中に存在する、請求項35~37のいずれか1項記載の方法。
【請求項39】
前記水不溶性成分はC~C10アルコールを含む、請求項5~38のいずれか1項記載の方法。
【請求項40】
前記水不溶性成分は1-ペンタノール、1-ヘキサノール、1,1-デカノール又はそれらの組み合わせを含む、請求項39記載の方法。
【請求項41】
前記水不溶性成分はC~C10カルボン酸を含む、請求項5~40のいずれか1記載の方法。
【請求項42】
前記水不溶性成分はn-ペンタン酸、n-ヘキサン酸、n-ノナン酸又はそれらの組み合わせを含む、請求項41記載の方法。
【請求項43】
前記水不溶性成分は前記水性混合物中のアイオノマー及びビヒクルの合計質量を基準として15wt%未満、場合により10wt%未満、場合により8wt%未満、場合により6wt%未満、又は、場合により4wt%未満の量で前記水性混合物中に存在する、請求項1~42のいずれか1項記載の方法。
【請求項44】
前記アイオノマーはペルフルオロスルホン酸である、請求項1~43のいずれか1項記載の方法。
【請求項45】
前記アイオノマーは前記水性混合物中のアイオノマー及びビヒクルの合計質量を基準として50wt%未満の量、場合により35wt%未満の量、場合により8wt%未満の量、又は、場合により0.5wt%未満の量で前記水性混合物中に存在する、請求項1~44のいずれか1項記載の方法。
【請求項46】
前記水性混合物は水溶性化合物をさらに含む、請求項1~45のいずれか1項記載の方法。
【請求項47】
前記水溶性化合物は前記水性混合物中のアイオノマー及びビヒクルの合計質量を基準として50wt%未満の量、場合により25wt%未満の量、場合により9wt%未満の量又は、場合により4wt%未満の量で前記水性混合物中に存在する、請求項46記載の方法。
【請求項48】
前記水溶性化合物は水溶性アルコール又はグリコールエーテルである、請求項46又は47記載の方法。
【請求項49】
前記水溶性化合物は水溶性アルコールであり、そして該水溶性アルコールはイソプロパノール又はtert-ブタノールを含む、請求項46記載の方法。
【請求項50】
前記水溶性アルコールはグリコールエーテルを含み、該グリコールエーテルはジプロピレングリコール又はプロピレングリコールメチルエーテルを含む、請求項46記載の方法。
【請求項51】
燃料電池用電極を形成するための水性混合組成物であって、前記組成物は、
a)水、
b)水不溶性カルボン酸を含む水不溶性成分、
c)触媒、及び、
d)アイオノマー、
を含み、かつ、前記水不溶性成分は前記水性混合物中のアイオノマー及びビヒクルの合計質量を基準として20wt%未満の量で前記水性混合物中に存在する、組成物。
【請求項52】
前記触媒は貴金属、遷移金属又はそれらの合金を含む、請求項51記載の組成物。
【請求項53】
前記触媒は担持触媒である、請求項51記載の組成物。
【請求項54】
前記担持触媒は炭素を含む、請求項53記載の組成物。
【請求項55】
前記触媒は前記水性混合物の合計質量を基準として90wt%未満、場合により35wt%未満、場合により9wt%未満の量で前記水性混合物中に存在する、請求項51~54のいずれか1項記載の組成物。
【請求項56】
前記水不溶性成分はC~C10カルボン酸を含む、請求項51~55のいずれか1項記載の組成物。
【請求項57】
該水不溶性成分は水不溶性アルコールをさらに含む、請求項51又は56記載の組成物。
【請求項58】
該水不溶性成分はC~C10アルコールをさらに含む、請求項51又は56記載の組成物。
【請求項59】
前記水不溶性成分は前記水性混合物中のアイオノマー及びビヒクルの合計質量を基準として15wt%未満、場合により10wt%未満、場合により8wt%未満、場合により6wt%未満、又は、場合により4wt%未満の量で前記水性混合物中に存在する、請求項51~58のいずれか1項記載の組成物。
【請求項60】
前記アイオノマーはペルフルオロスルホン酸である、請求項51~59のいずれか1項記載の組成物。
【請求項61】
前記アイオノマーは前記水性混合物中のアイオノマー及びビヒクルの合計質量を基準として50wt%未満の量、場合により35wt%未満の量、場合により8wt%未満の量、又は、場合により0.5wt%未満の量で前記水性混合物中に存在する、請求項51~60のいずれか1項記載の組成物。
【請求項62】
前記組成物は水溶性化合物をさらに含む、請求項51~61のいずれか1項記載の組成物。
【請求項63】
前記水溶性化合物は前記水性混合物中のアイオノマー及びビヒクルの合計質量を基準として50wt%未満の量、場合により25wt%未満の量、場合により9wt%未満の量、又は、場合により4wt%未満の量で前記水性混合物中に存在する、請求項62記載の組成物。
【請求項64】
前記水溶性化合物は水溶性アルコールである、請求項62又は63記載の組成物。
【請求項65】
前記水溶性アルコールはイソプロパノール、tert-ブタノール又はグリコールエーテルを含む、請求項64記載の組成物。
【請求項66】
前記水溶性化合物はグリコールエーテルを含み、そして該グリコールエーテルはジプロピレングリコール(DPG)又はプロピレングリコールメチルエーテル(PGME)を含む、請求項65記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
政府の権益
本発明は、米国政府機関の契約のもとになされた。米国政府機関の名称はエネルギー省(Golden Field Office)であり、米国政府契約番号はDE-FC36-08GO18052である。
【0002】
発明の分野
本開示は高分子電解質膜(PEM)燃料電池用の膜電極接合体に関し、特に、水、水不溶性成分、触媒及びアイオノマーを含む水性混合物を基材上に堆積させ、電極又は微孔性構造を形成することを含む、膜電極接合体用の構成要素を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
膜電極接合体(MEA)は、高分子電解質膜(PEM)燃料電池のコア構成要素である。それは、一方の側にアノード電極を有し、他方の側にカソード電極を有するPEMを含む。最終的なMEAは、アノード層、PEM層及びカソード層を含む3層アセンブリであることができる。さらに、MEAはまた、典型的にカーボンペーパーを含み、各電極の外面に取り付けられているガス拡散層(GDL)を含むことができる。GDLが両方の電極に取り付けられている場合に、最終的なMEAは、第一のGDLの層、アノード層、PEM層、カソード層及び別のGDLの層を含む5層アセンブリであると考えられる。典型的には、PEM及びGDLは自立ウェブであるのに十分な機械的一体性を有するが、電極はそうではない。したがって、各電極は、典型的に、PEM、GDL又は剥離層であることができる基材上に形成される。次に、MEAの層は必要に応じて熱及び/又は圧力を用いて一緒に結合し、複合材シートを形成する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
基材上に電極を形成し、及び/又は、該電極をMEAの他の層に接合するための様々な確立された技術が存在するが、各技術には問題がある。伝統的に、電極は剥離層上にコーティングされ、次いで、PEMにラミネート化されていた。しかしながら、この方法は非効率的でかつ費用がかかる。より最近になって、この方法は電極をPEM上に直接コーティングすることによって簡素化されてきた。しかしながら、PEM上に電極を直接コーティングすることは、PEMを歪ませるか又は溶解させることになり得、これは、より薄いPEMを使用するときに特に問題となりうる。あるいは、電極は、GDLなどの多孔質基材上に直接コーティングすることができる。しかしながら、この方法では、アイオノマー及び触媒を基材の細孔中に吸収し、基材の特性を変化させ及び/又は触媒の一部を無効にすることになりうる。したがって、効率的でかつ費用効果のある方法での膜電極接合体のための構成要素の改良製造方法に対する必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
発明の要旨
1つの実施形態において、本開示は、燃料電池構成要素の製造方法であって、該方法は基材を提供すること、及び、該基材上に電極を形成することを含み、該形成は水、水不溶性成分、触媒及びアイオノマーを含む水性混合物を堆積させることを含み、該水不溶性成分は水不溶性アルコール、水不溶性カルボン酸又はそれらの組み合わせを含む、方法に関する。幾つかの実施形態において、水不溶性成分はC~C10アルコール、C~C10カルボン酸又はそれらの組み合わせを含む。幾つかの実施形態において、基材は、多孔質層、非多孔質層又はそれらの組み合わせを含む。
【0006】
別の実施形態において、本開示は、燃料電池構成要素の製造方法であって、該方法は高分子電解質膜上に第一の電極を形成すること、ここで、該形成は前記高分子電解質膜上に水性混合物を堆積させることを含み、該水性混合物は水、水不溶性成分、触媒及びアイオノマーを含み、該水不溶性成分は水不溶性アルコール又は水不溶性カルボン酸を含む、及び、前記高分子電解質膜上に第二の電極を形成することを含む、方法に関する。
【0007】
別の実施形態において、本開示は、燃料電池構成要素の製造方法であって、該方法はガス拡散層上に第一の電極を形成すること、ここで、該形成は前記ガス拡散層上に水性混合物を堆積させることを含み、該水性混合物は水、水不溶性成分、触媒及びアイオノマーを含み、該水不溶性成分は水不溶性アルコール、水不溶性カルボン酸又はそれらの組み合わせを含む、前記第一の電極上に高分子電解質膜を形成し又は付着させること、及び、前記高分子電解質膜上に第二の電極を形成することを含む、方法に関する。次いで、前記第二の電極上に第二のガス拡散層を形成し又は付着させることができる。
【0008】
別の実施形態において、本開示は、燃料電池電極を形成するための水性混合組成物であって、該組成物は上記のいずれかの方法において使用することができ、該組成物は、a)水、b)水不溶性アルコール、水不溶性カルボン酸又はそれらの組み合わせを含む水不溶性成分、c)触媒、及び、d)アイオノマーを含む、組成物に関する。
【0009】
本明細書に記載の実施形態において、水不溶性成分は、場合により、例えば、1-ペンタノール、1-ヘキサノール、1-ヘプタノール、1-オクタノール、2-エチル-1-ヘキサノール、1-ノナノール、1-デカノールなどのC~C10アルコール又はそれらの組み合わせを含む。別の態様において、水不溶性成分は、例えば、n-ペンタン酸、n-ヘキサン酸、n-ヘプタン酸、n-オクタン酸、n-ノナン酸、n-デカン酸などのC~C10カルボン酸又はそれらの組み合わせを含む。
【0010】
水性混合物の成分濃度は、本明細書に記載の多数の要因に応じて変化しうる。水は、水性混合物中のアイオノマー及びビヒクルの合計質量を基準として、場合により35wt%超、場合により50wt%超、場合により70wt%超、場合により80wt%超、又は、場合により90wt%超の量で水性混合物中に存在する。本明細書で使用されるときに、用語「ビヒクル」は、水、有機溶媒(もしあれば)及び溶解した溶質(もしあれば)を含む水性混合物の液体部分を指す。触媒は、水性混合物の合計質量を基準として、場合により90wt%未満、場合により35wt%未満、場合により9wt%未満の量で水性混合物中に存在する。使用される触媒は、場合により、貴金属、遷移金属又はそれらの合金を含み、(場合により炭素担体上に)担持されていても、又は、担持されていなくてもよい。水不溶性成分は、水性混合物中のアイオノマー及びビヒクルの合計質量を基準として、場合により20wt%未満、場合により15wt%未満、場合により10wt%、場合により8wt%未満、場合により6wt%未満、又は、場合により4wt%未満の量で水性混合物中に存在する。アイオノマーは、水性混合物中のアイオノマー及びビヒクルの合計質量を基準として、場合により50wt%未満の量、場合により35wt%未満の量、場合により8wt%未満の量、又は、場合により0.5wt%未満の量で水性混合物中に存在する。
【0011】
範囲に関しては、幾つかの実施形態において、水は、水性混合物中のアイオノマー及びビヒクルの合計質量を基準として、35wt%~99wt%の量で水性混合物中に存在する。触媒は、水性混合物の合計質量を基準として、1wt%~42wt%の量で水性混合物中に存在することができる。水不溶性アルコールは、水性混合物中のアイオノマー及びビヒクルの合計質量を基準として、0.5wt%~20wt%の量で水性混合物中に存在することができる。そして、アイオノマーは、水性混合物中のアイオノマー及びビヒクルの合計質量を基準として、0.5wt%~50wt%の量で水性混合物中に存在することができる。
【0012】
水性混合物は、場合により水溶性化合物をさらに含み、水溶性化合物は場合により水溶性アルコールである。場合により含まれる水溶性化合物が水溶性アルコールを含む場合には、水溶性アルコールは、場合により、イソプロパノール、tert-ブタノール又はグリコールエーテルを含む。混合物中に含まれるならば、グリコールエーテルは、場合により、ジプロピレングリコール(DPG)又はプロピレングリコールメチルエーテル(PGME)を含む。場合により含まれる水溶性化合物は、水性混合物中のアイオノマー及びビヒクルの合計質量を基準として、50wt%未満の量、場合により25wt%未満の量、場合により9wt%未満の量、又は、場合により4wt%未満の量で水性混合物中に存在することができる。様々な実施形態によれば、水性混合物は有機化合物を含むことができる。
【0013】
使用される基材は多種多様であることができ、そして様々な態様において、多孔質層を含み、該多孔質層は場合により空気透過性であり、又は、ガス拡散層を含み、又は、多孔質層は場合により多孔質剥離層を含む。後者の態様において、多孔質剥離層は、例えば延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)などの延伸(又は発泡)ポリマーを含むことができる。他の実施形態において、基材は、非多孔質層を含み、それは場合により非多孔質剥離層である。非多孔質層は、プロトン伝導性ポリマーを含むことができる高分子電解質膜(PEM)を含むことができる。高分子電解質膜は、場合により、多孔質微細構造及び該多孔質微細構造中に含浸されたアイオノマーを含む。多孔質微細構造は、過フッ素化多孔質ポリマー材料、例えばePTFE膜を含むことができる。別の態様において、多孔質微細構造は炭化水素材料、場合によりポリエチレン、ポリプロピレン又はポリスチレンを含む。幾つかの態様において、基材は、形成されている電極とは反対側の基材の面上に別の電極を含む。この態様において、電極を形成する工程は、場合により、水性混合物を乾燥することをさらに含む。別の態様において、方法は、場合により、最初に形成される電極とは反対側の基材の面上に別の電極を形成することをさらに含み、前記別の電極を形成することは、場合により、基材上に水性混合物を堆積させることを含み、そして場合により水性混合物を乾燥することを含む。別の態様において、方法は、場合により、高分子電解質膜に電極をラミネート化することをさらに含む。その方法は、場合により、電極上に高分子電解質膜を形成し又は付着させることをさらに含む。別の態様において、その方法は、場合により、多孔質層、非多孔質層又はそれらの組み合わせを、電極及び基材の少なくとも1つにラミネート化することをさらに含む。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図面の簡単な説明
本発明は以下の非限定的な図面を見てよりよく理解されるであろう。
【0015】
図1図1A~1Dは本発明の幾つかの態様による方法の例示的なフローを示す。
【0016】
図2図2A~2Dは本発明の幾つかの態様による方法の例示的なフローを示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
発明の詳細な説明
I.はじめに
膜電極接合体(MEA)は、一方の側にアノード電極を有し、他方の側にカソード電極を有する高分子電解質膜(PEM)を含む。最終的なMEAは、最終的なMEAにおいてアノード-PEM-カソードとして互いに隣接して配置された層を有する3層アセンブリであることができる。さらに、MEAは、各電極の外面に取り付けられたガス拡散層(GDL)も含むことができる。GDLが両方の電極に取り付けられている場合には、最終的なMEAは、最終的なMEAにおいてGDL-アノード-PEM-カソード-GDLとして互いに隣接して配置された層を有する5層アセンブリと考えられる。様々な実施形態によれば、層はいかなる順序で形成(例えば製造)されてもよく、例えばPEMはGDL、アノード又はカソードの前に形成することができる。
【0018】
典型的には、MEAは、最初に、アイオノマーイオン、触媒粒子及び溶媒又はビヒクルを含むインクを調製することによって製造される。次いで、インクを基材上に塗布し、実質的に乾燥させる。基材は、PEM、GDL又は剥離層であることができる。これらの基材は、典型的には、粗く、多孔性で、疎水性で、寸法的に不安定で、及び/又は、容易に溶解されもしくは崩壊されることがあり、したがってコーティングするのが困難である。
【0019】
1つの処理要件は、脱湿潤化によって引き起こされる欠陥を回避するためにインクが基材との十分に低い接触角を有することである。これは、インクの表面張力を下げることによって達成することができる。典型的には、アイオノマーはインクの表面張力を有意に低下させず(したがって、アイオノマーは界面活性剤とは考えられない)。しかしながら、表面張力は、エチルアルコール、メチルアルコール及びイソプロピルアルコール(IPA)などの水溶性アルコールを高濃度、例えば約30wt%を超える量で添加することによって低下させることができる。しかしながら、高濃度の水溶性アルコールは他の処理上の問題を引き起こす可能性がある。例えば、基材がPEMである場合には、そのアイオノマーは部分的に溶解され得、その機械的一体性はさもなければ崩壊され得、より高いガスクロスオーバーを引き起こし、このことは燃料効率を低下させ、そしてそれは電気的な短絡の危険性を増大させる(このことは耐久性を低減する)。アイオノマーの溶解はまた、アイオノマーを電極に吸収させる可能性があり、これは「フラッディング」として知られている物質輸送制限により電力発生を低下させる可能性があり、そして電圧サイクル耐久性の低下により耐久性を低下させる可能性がある。さらに、アイオノマー膜は、時に、フリーラジカルによる劣化を防ぐために、セリウムなどの添加剤を含む。この添加剤が適切に機能するためには、アイオノマー膜の厚さは注意深く制御されるべきである。特に、アイオノマー膜の厚さは、電極がコーティングされたときに部分的に溶解されることによって変化されるべきでない。
【0020】
あるいは、基材がGDLなどの多孔質層である場合には、低い表面張力を有するインクは基材の孔に浸透する傾向があり、その結果として(アイオノマー汚染による)その水管理特性の変化を生じさせ、又は、十分に利用することができないほどアイオノマー膜から遠くに触媒を堆積させることになる。上記の問題を最小限に抑えるために、水溶性アルコール含有量を最小限に抑えることができるが、これは乾燥時にインクの網状組織化をもたらし、その結果、厚さのばらつき及び電極の穴などの不均一性をもたらす。
【0021】
それにもかかわらず、電極を形成するためのインクは、実質的に水性であり、そしてC5+アルコール、C5+カルボン酸又はそれらの組み合わせとして本明細書に規定される「水不溶性成分」を含む液相を製造することにより改良されうることが今回発見された。本明細書に使用されるときに、「C5+」は5個以上の炭素原子を有する化合物を指す。幾つかの実施形態において、水不溶性成分は、C~C10アルコール、C~C10カルボン酸又はそれらの組み合わせを含む。したがって、幾つかの実施形態において、水不溶性成分は、例えば、1-ペンタノール、1-ヘキサノール、1-ヘプタノール、1-オクタノール、2-エチル-1-ヘキサノール、1-ノナノール、1-デカノールなどの水不溶性アルコール又はそれらの組み合わせなどの水不溶性アルコールを含む。幾つかの実施形態において、水不溶性成分には、例えば、n-ペンタン酸、n-ヘキサン酸、n-ヘプタン酸、n-オクタン酸、n-ノナン酸、n-デカン酸などの水不溶性カルボン酸又はそれらの組み合わせを含む。本明細書で使用されるときに、用語「それらの組み合わせ」は、すぐ前のリストにおける2つ以上の種の任意の組み合わせを指す。C5+アルコール及びC5+カルボン酸の種々の組み合わせとして、枝分かれアルコール及び/又は枝分かれカルボン酸も考えられる。
【0022】
驚くべきことに、これらの水性混合物は、水性混合物が基材上に広げられたときに、低い接触角を生じ、それにより、水性混合物は水溶性アルコールをほとんど又は全く使用しなくても基材を満足できるように湿潤化させ、乾燥工程中に低い網状組織化を示す。「低い網状組織化」は、幅が15%未満、長さが15%未満だけ収縮し、それに対してフィルムの最終面積が15%未満の脱湿潤化欠陥を含む、任意のフィルムを意味することが意図される。網状組織化は、60~80マイクロリットルの水性混合物を基材上にピペットで移し、次いでピペットバルブを用いて基材上に水性混合物を広げて長さ4~6cm及び幅7~15mmのフィルムを形成し、次いで、目視検査しながらヒートガンで1分未満フィルムを乾燥させることにより評価した。理論に制限されることなく、上記のように界面活性剤ではないアイオノマーは、驚くべきことに、水不溶性成分を乳化すると推測される。重要なことに、そしてまた驚くべきことに、これらの水性混合物は、多孔質構造の有意な浸透なしにガス拡散層などの多孔質及び/又は疎水性基材の上にモノリシックフィルムを形成することを可能にする。したがって、多孔質基材の孔の少なくとも一部は、堆積プロセス中(例えば、水性混合物が多孔質基材上に堆積されているとき)に水性混合物で満たされないままである。得られた水性混合物は、本明細書に記載の製造プロセスによるコーティングを可能にするのに十分な水性安定性を有する。様々な実施形態による水性混合物は、水性混合物が堆積プロセスの間に単相を維持する(すなわち、水性混合物はコーティング及び乾燥を妨げるほどには速く「油に富む層」と「水に富む層」に分離することがない)ようなエマルジョン又は懸濁液を含むことができる。様々な実施形態によれば、水性混合物は均質のままであり、ここで、成分(例えば、油、水など)は少なくとも堆積プロセス中に均一に分布している。
【0023】
1つの実施形態において、本開示は、基材を提供する工程、及び、該基材上に電極を形成することを含む、膜電極接合体用の構成要素の製造方法に関する。形成は、水、水不溶性成分、触媒及びアイオノマーを含む水性混合物を基材上に堆積させることを含む。堆積という用語は、限定するわけではないが、スロットダイコーティング、スライドダイコーティング、カーテンコーティング、グラビアコーティング、リバースロールコーティング、スプレイコーティング、ナイフオーバーロールコーティング及びディップコーティングなどの、液体コーティングの様々な塗布手段を含むことが意図される。液体という用語は、電極インクを含むことが意図される。基材は、多孔質層、非多孔質層又はそれらの組み合わせを含むことができる。幾つかの実施形態において、多孔質層は空気透過性であるか、又は延伸(又は発泡)ポリマー(例えば、延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE))などのガス拡散層又は多孔質剥離層を含む。幾つかの実施形態において、多孔質層は、水が自然に濡れて入るのを防ぐために疎水性を有することができる。他の実施形態において、非多孔質層は、非多孔質剥離層又は高分子電解質膜(PEM)を含む。PEMは、プロトン伝導性ポリマーなどのアイオノマー、又は、多孔質微細構造及び該多孔質微細構造に含浸されたアイオノマーを含むことができる。多孔質微細構造は、過フッ素化多孔質ポリマー材料又は炭化水素材料を含むことができる。
【0024】
示されるように、水性混合物は、水、水不溶性成分、触媒及びアイオノマー、例えばペルフルオロスルホン酸(PFSA)を含む。水性混合物は、水性混合物中のアイオノマー及びビヒクルの合計質量を基準として、約35wt%超、約50wt%超、約70wt%超、約80wt%超又は約90wt%超の水を含むことができる。触媒は、貴金属、遷移金属又はそれらの合金を含むことができ、そして水性混合物の合計質量を基準として、約90wt%未満、約35wt%未満又は約9wt%未満の量で水性混合物中に存在することができる。1つの実施形態において、水不溶性成分は、水性混合物中のアイオノマー及びビヒクルの合計質量を基準として、約20wt%未満、約15wt%未満、約10wt%未満、約8wt%未満、約6wt%未満又は約4wt%未満の量で水性混合物中に存在する。アイオノマーはPFSAを含むことができ、水性混合物中のアイオノマー及びビヒクルの合計質量を基準として、約50wt%未満、約35wt%未満、約8wt%未満又は約0.5wt%未満の量で水性混合物中に存在することができる。本明細書に記載の利益を達成するのに要求される、水性混合物中の成分の具体的な濃度が、例えば、水性混合物が堆積される基材に依存して、記載の範囲内で広く変化されうることが理解される。なぜなら、基材の濡れ性は、例えば、基材の多孔度、孔径及び表面エネルギーに依存して変化するからである。水性混合物中の基材及び所望の触媒装填量もまた所望の成分濃度に影響を与えるであろう。結果として、上記の濃度はガイドラインとして提供されており、当業者の十分に権限内にある、ある程度の最適化は、選択される基材及び所望の触媒装填量によって必要でありうることは理解される。
【0025】
他の実施形態において、水性混合物は水溶性化合物をさらに含む。存在する場合には、水溶性化合物は、水溶性アルコール、グリコールエーテル又はそれらの組み合わせを含むことができ、そして水性混合物中のアイオノマー及びビヒクルの合計質量を基準として、約50wt%未満、約25wt%未満、約9wt%未満又は約4wt%未満の量で水性混合物中に存在することができる。「実質的に」、「およそ」及び「約」という用語は、当業者により理解されるように、概略的に指示したものであるが、必ずしも完全に指示したものではないと定義される。任意の開示の実施形態において、「実質的に」、「およそ」又は「約」という用語は、指定されたものの「百分率」の範囲内で置き換えることができ、その百分率は0.1、1、5又は10パーセントを含む。
【0026】
有利には、本明細書に開示の変性水性混合物を利用することにより、MEAの成分は、(i)基材の溶解、(ii)基材の孔の浸透、(iii)完全に利用するにはPEMから遠すぎる触媒の堆積、及び/又は、(iv)乾燥時のインクの網状組織化を防止又は最小化するように安定的に形成されうる。
【0027】
I.製造方法
開示の方法は下記に記載されそして図1A~1Dに示された工程を含む。説明のための順次の工程として説明されているが、本開示は、実際上、いかなる順序で行われても又は同時に行われてもよいものと考えられる。図1A図1Dに示すように、MEAの構成要素は、ロールフィード及び/又はロールワインダ100、堆積装置105及びドライヤ110を使用して連続的に処理することができる。ロールフィード及び/又はロールワインダ100はローラ又はウェブ輸送の代替手段であることができる。堆積装置105はスロットダイ又は薄膜コーティングの代替手段であることができる。ドライヤ110は対流式オーブン又は湿潤フィルム乾燥の代替手段であることができる。
【0028】
幾つかの実施形態において、図1A及び図1Cに示される工程(I)において、水性混合物115はロールフィード及び/又はロールワインダ100上に配置された基材120上に堆積装置105により堆積される。水性混合物115の堆積は基材120に直接隣接して(場合によりその上に)湿潤電極層125を形成する。図1A及び図1Cに示す工程(II)において、湿潤電極層125を、ロールフィード及び/又はロールワインダ100を介してドライヤ110に運び、次いで、場合により周囲温度(25℃)より高い温度で、例えば、50℃超、75℃超、100℃超、130℃超、10℃~300℃又は100℃~150℃の温度で、場合により0.01~10分の乾燥時間、例えば、0.1~8分、0.1~5分、0.1~2分又は0.1~1分の乾燥時間で実質的に乾燥する。湿潤電極層125の乾燥は基材120上に乾燥電極130を形成する。
【0029】
上記のように、従来の電極インク中の溶媒は、基材上に直接コーティングされると、基材を浸透し、溶解し、及び/又はさもなければ崩壊し、電極の電気化学的効率及び基材の一体性を大きく低下させる傾向がある。したがって、様々な実施形態によれば、湿潤電極層125は、水、水不溶性成分、触媒及びアイオノマーの水性混合物115を用いて形成され、それは、本明細書に記載の通り、基材の溶解、基材の孔の浸透、完全に利用するには基材から遠すぎる触媒の堆積、及び/又は、乾燥時のインクの網状組織化を防止又は最小限に抑える。
【0030】
様々な実施形態において、水性混合物115は、水、水不溶性成分、触媒及びアイオノマーを含む。水は、水性混合物115中のアイオノマー及びビヒクルの合計質量を基準として、約35wt%超、約50wt%超、約70wt%超、約80wt%超、又は、約90wt%超の量で水性混合物115中に存在することができる。例えば、水は、水性混合物115中のアイオノマー及びビヒクルの合計質量を基準として、約35wt%~約99wt%の量で水性混合物115中に存在することができる。触媒は、水性混合物115の合計質量を基準として、約90wt%未満、約35wt%未満又は約9wt%未満の量で水性混合物115中に存在することができる。例えば、触媒は、水性混合物115の合計質量を基準として、1wt%~90wt%、1wt%~42wt%、又は、3wt%~30wt%の量で水性混合物115中に存在することができる。アイオノマーはPFSAであることができ、水性混合物115中のアイオノマー及びビヒクルの合計質量を基準として、約50wt%未満、約35wt%未満、約8wt%未満又は約0.5wt%未満の量で水性混合物115中に存在することができる。例えば、アイオノマーは、水性混合物115中のアイオノマー及びビヒクルの合計質量を基準として、0.5wt%~50wt%の量で水性混合物115中に存在することができる。
【0031】
使用する触媒は特に限定されず、公知の触媒をいずれも使用することができる。したがって、触媒の性質は多様でありうる。触媒は、貴金属、遷移金属又はそれらの合金を含むことができる。触媒材料の具体例としては、白金、ルテニウム、イリジウム、コバルト及びパラジウムが挙げられ、元素金属に限定されない。例えば、触媒は、酸化イリジウム、白金-ルテニウム合金、白金-イリジウム合金、白金-コバルト合金なども含みうる。幾つかの実施形態において、触媒はコアシェル触媒を含み、例えば、US2016/0126560に記載されているとおりであり、その全体は参照により本明細書に取り込まれる。幾つかの実施形態において、触媒は担持触媒を含み、該触媒は担持材料として炭素を含むことができる。例えば、幾つかの実施形態において、触媒は、カーボンブラック上の白金などの担持白金触媒を含む。
【0032】
1つの実施形態において、水不溶性成分は水不溶性アルコールである。追加の実施形態において、水不溶性成分は水不溶性カルボン酸である。水不溶性成分は、アルコールであっても、カルボン酸であっても又はその両方でも、水性混合物115中のアイオノマー及びビヒクルの合計質量を基準として、約20wt%未満、約15wt%未満、約10wt%未満、約8wt%未満、約6wt%未満又は約4wt%未満の量で水性混合物115中に存在することができる。例えば、水不溶性アルコールは、水性混合物115中のアイオノマー及びビヒクルの合計質量を基準として、0.5wt%~20wt%、例えば0.5wt%~15wt%、0.5wt%~10wt%、1wt%~20wt%、5~20wt%又は10~20wt%の量で水性混合物115中に存在することができる。本明細書に記載の質量百分率は、1種より多くの水不溶性成分を使用する実施形態ではすべての水不溶性成分の総量に適用されると考えるべきである。
【0033】
他の実施形態において、水性混合物115は水溶性化合物をさらに含む。水溶性化合物は水溶性アルコール又はグリコールエーテルを含むことができる。幾つかの実施形態において、水溶性アルコールはイソプロパノール、tert-ブタノール、ジプロピレングリコール又はそれらの混合物を含む。他の実施形態において、グリコールエーテルは、ジプロピレングリコール(DPG)又はプロピレングリコールメチルエーテル(PGME)を含む。水溶性化合物は、水性混合物115中のアイオノマー及びビヒクルの合計質量を基準として、約50wt%未満の量で水性混合物115中に存在することができ、場合により約25wt%未満の量、場合により約9wt%未満の量、又は、場合により約4wt%未満の量で存在する。
【0034】
図1A~1Dに示す基材120は、多孔質層、非多孔質層又はそれらの組み合わせを含むことができる。幾つかの実施形態において、多孔質層は空気透過性であることができる。多孔質層はGDL又は多孔質剥離層を含むことができる。多孔質剥離層は延伸(又は発泡)ポリマーを含むことができ、例えば、1つの非限定的な実施形態において、16g/mの面積当たりの質量(米国特許第7,306,729号明細書(B2)により実施される測定)、約70psiより大きいバブルポイント(Porous Materials, Inc., Ithaca,NY(以下「PMI」と呼ぶ)により製造されたデバイスを用いて、米国特許第7,306,729号明細書(B2)により実施される測定)及び電極が空気透過性剥離層から分離されるときに凝集破壊を防止するのに十分なZ強度を有するePTFEを含むことができる。非多孔質層は非多孔質剥離層又はPEMを含むことができる。PEMは、プロトン伝導性ポリマーなどのアイオノマー、又は、Baharらの米国再発行特許第RE 37,307号明細書に記載されているとおりの多孔質微細構造及び多孔質微細構造に含浸されたプロトン伝導性ポリマーなどのアイオノマーを含むことができる。多孔質微細構造は、ポリマーフルオロカーボン材料又はポリマー炭化水素材料を含むことができる。フルオロカーボン材料は延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)膜を含むことができる。炭化水素材料はポリエチレン、ポリプロピレン又はポリスチレンを含むことができる。プロトン伝導性ポリマーはPFSAを含むことができる。
【0035】
図1Bに示される任意工程(III)において、幾つかの実施形態で、乾燥PEM135は、基材120の面とは反対側の乾燥電極層130の面上に形成される。乾燥PEM135は本明細書に記載のように、プロトン伝導性ポリマーなどのアイオノマー、又は、多孔質微細構造及び該多孔質微細構造中に含浸されたプロトン伝導性ポリマーなどのアイオノマーを含むことができる。別の実施形態において、乾燥電極層130は、乾燥PEM135が乾燥電極130に対して取り付けられるように、場合により、(存在する場合には)基材120の面とは反対側の面上で、乾燥PEM135上にラミネート化されることができる。他の実施形態において、多孔質層、非多孔質層又はそれらの組み合わせは、乾燥電極層130及び/又は基材120上に(例えば、乾燥電極130の面とは反対側の基材120の面上に)ラミネート化されうる。
【0036】
図1Bに示す任意工程(IV)において、水性混合物140は堆積装置105により、乾燥電極層130の面とは反対側のPEM135の面上に堆積される。水性混合物140の堆積は、PEM135の上に湿潤電極層145を形成する。水性混合物140は幾つかの実施形態による本明細書に記載のとおりの水性混合物(例えば、水、水不溶性成分、触媒及びアイオノマーを含む)であることができ、又は、伝統的な方法による本明細書に記載のとおりの混合物(例えば、エタノール及び/又は他のビヒクル、触媒及びアイオノマー)であることができる。任意工程(V)において、湿潤電極層145はロールフィード及び/又はロールワインダ100を介してドライヤ110に運ばれ、そして実質的に乾燥される。湿潤電極層145の乾燥は、場合により、上記の温度で行われ、PEM135、乾燥電極130及び基材120の上で乾燥電極層150を形成する。任意工程(VI)(図示せず)において、乾燥基材155は乾燥電極層150の上で形成され又はラミネート化される。乾燥基材155はガス拡散層、多孔質剥離層又は非多孔質剥離層であることができる。
【0037】
他の態様によれば、図1Cは、工程(I)において、水性混合物115は堆積装置105により、ロールフィード及び/又はロールワインダ100上に配置された基材120上に堆積されることを示す。水性混合物115の堆積は基材120の上に湿潤電極層125を形成する。基材120は、本明細書に記載されるとおりのPEMであることができる。工程(II)において、湿潤電極層125はロールフィード及び/又はロールワインダ100を介してドライヤ110に運ばれ、そして実質的に乾燥される。湿潤電極層125の乾燥は、基材120の上に乾燥電極層130を形成する。
【0038】
図1Dに示される任意工程(III)において、幾つかの実施形態で、乾燥電極層130及び基材120は、基材120が乾燥電極層130の上になるようにひっくり返され、水性混合物140は乾燥電極130の面とは反対側の基材120の面上に堆積装置105により堆積される。水性混合物140の堆積は、基材120の上に湿潤電極層145を形成する。水性混合物140は幾つかの実施形態による本明細書に記載のとおりの水性混合物(例えば、水、水不溶性成分、触媒及びアイオノマーを含む)であることができ、又は、伝統的な方法による本明細書に記載のとおりの混合物(例えば、エタノール及び/又は他のビヒクル、触媒及びアイオノマー)であることができる。代替の実施形態において、乾燥電極層150が乾燥電極層130の面とは反対側の面上で基材120に取り付けられるように、乾燥電極層150を基材120上にラミネート化することができる。他の実施形態において、多孔質層、非多孔質層又はそれらの組み合わせは乾燥電極層130及び/又は基材120上(例えば、乾燥電極130の面とは反対側の基材120の面上)にラミネート化されうる。任意工程(IV)において、湿潤電極層145はロールフィード及び/又はロールワインダ100を介してドライヤ110に運ばれ、そして実質的に乾燥される。湿潤電極層145の乾燥は基材120及び乾燥電極層130の上に乾燥電極層150を形成する。
【0039】
図1A及び図1Cは、水性混合物115が堆積装置105により基材120上に堆積されることを示しているが、基材は単独でなく、多孔質層、非多孔質層又はそれらの組み合わせを含むMEAの構成要素の一部としてすでに形成されていてよいことを理解されたい。例えば、幾つかの実施形態による本明細書に記載のとおりに形成された(例えば、水、水不溶性成分、触媒及びアイオノマーを含む水性混合物を用いて)、又は、伝統的な方法による本明細書に記載のとおりの混合物(例えば、エタノール及び/又は他のビヒクル、触媒及びアイオノマー)から形成された乾燥電極層、ガス拡散層、多孔質剥離層、PEM及び/又は非多孔質剥離層を基材の片面に取り付けて、すでに形成されて基材に設けられてよい。
【0040】
図2A図2Dは1つの実施形態によるMEAの構成要素を製造するための連続プロセスを示す。図2Aは工程(I)において、水性混合物200が堆積装置205により、ロールフィード及び/又はロールワインダ215上に配置された基材210の上に堆積されることを示す。水性混合物200の堆積は基材210上に湿潤電極層220を形成する。基材210は、ガス拡散層、多孔質剥離層、PEM又は非多孔質剥離層であることができる。例えば、基材120は、低コストePTFEベースのバッカー又は剥離層であることができる。工程(II)において、湿潤電極層220は、ロールフィード及び/又はロールワインダ215を介してドライヤ225に運ばれ、そして実質的に乾燥される。湿潤電極層220の乾燥は、基材210の上に乾燥電極層230を形成する。
【0041】
図2Bに示される任意工程(III)において、水性アイオノマー混合物を含む水性混合物235は基材210の面の反対側の乾燥電極層230の面上に堆積装置205により堆積される。水性アイオノマー混合物はNafion(登録商標)(DuPont)などのPFSAアイオノマー及び水不溶性成分、すなわち水不溶性アルコール又はカルボン酸を含むことができる。工程(IV)において、水性湿潤層235はロールフィード/又はロールワインダ215を介してドライヤ225に運ばれ、そして実質的に乾燥される。水性湿潤層235の乾燥は乾燥電極層230の上に保護アイオノマー層240を形成する。
【0042】
図2Cに示す任意工程(V)において、湿潤(液相)アイオノマー混合物又は複合湿潤混合物245は、乾燥電極層230の面とは反対側の保護アイオノマー層240の面上に堆積装置205により堆積される。湿潤アイオノマー層又は複合湿潤混合物245の堆積は保護アイオノマー層240の上で湿潤アイオノマー層又は複合湿潤層250を形成する。幾つかの実施形態において、湿潤アイオノマー混合物245はプロトン伝導性ポリマーのアイオノマー混合物(例えば、強化されていないアイオノマー混合物)であることができる。別の実施形態において、複合湿潤混合物245中で、アイオノマー混合物は微孔性ePTFEを実質的に含浸して、ePTFEの内部体積を実質的に閉塞し(Baharらの米国再発行特許第RE37,307号明細書に記載されるとおり)、それによって複合湿潤層250(例えば、強化アイオノマー混合物)を形成する。工程(VI)において、湿潤アイオノマー層又は複合湿潤層250は、ロールフィード及び/又はロールワインダ215を介してドライヤ225に運ばれ、実質的に乾燥される。湿潤アイオノマー層又は複合湿潤層250の乾燥は保護アイオノマー層240の上に乾燥アイオノマー層又は乾燥複合層255(すなわち、PEM)を形成する。
【0043】
図2Dに示す任意工程(VII)において、水性混合物260は、堆積装置205を介して、保護アイオノマー層240の面とは反対側の乾燥アイオノマー層又は乾燥複合層255の面上に堆積される。水性混合物260の堆積は、乾燥アイオノマー層又は乾燥複合層255の上で湿潤電極層265を形成する。水性混合物260は、幾つかの実施形態による本明細書に記載のとおりの水性混合物(例えば、水、水不溶性成分、触媒及びアイオノマーを含む)であることができ、又は、伝統的な方法による本明細書に記載のとおりの混合物(例えば、エタノール及び/又は他のビヒクル、触媒及びアイオノマー)であることができる。任意工程(VII)において、湿潤電極層265はロールフィード及び/又はロールワインダ215を介してドライヤ225に運ばれ、そして実質的に乾燥される。湿潤電極層265の乾燥は、乾燥アイオノマー層又は乾燥複合層255、保護電極アイオノマー層240、乾燥電極層230及び基材210の上に乾燥電極層270を形成する。別の実施形態において、別の保護アイオノマー層は保護アイオノマー層240に関して本明細書に記載の方法と類似の方法により、湿潤電極層265と乾燥電極層270との間に形成することができる。
【0044】
本開示は、以下の非限定的な実施例においてよりよく理解されるであろう。他に示さない限り、実施例のために、米国特許第3,953,566号に従ってePTFE膜を製造した。その全体を参照により本明細書中に取り込む。ePTFEは7.6g/mの面積当たりの質量比及び約0.25ミクロンの平均フロー孔サイズを有した。
【0045】
比較例1
【0046】
10.5wt%の触媒、8.1wt%のPFSAアイオノマー及び81.4wt%の脱イオン水を含有する水性インクを調製した。触媒はカーボンブラックに担持された50wt%の白金であった。アイオノマーは810g/eqの当量を有した。インクをMisonix 3000超音波ホーンを用いて5分間超音波処理し、その時点でインクは均一でよく分散したようであった。インクの粘度は低かった(水様)。コーティング基材については、刺繍フープ内にePTFE膜を拘束することによって多孔質剥離層を調製した。使い捨てピペットを用いて数滴のインクをePTFE膜の表面上に配置し、ピペットのバルブを用いて広げた。均一な湿潤層を形成するのではなく、インクはすぐにドロップレットに網状組織化した。
【0047】
例2A~2C(水不溶性成分として1-ヘキサノール)
【0048】
例2Aにおいて、0.065グラムの1-ヘキサノールを、例1に記載の5.0グラムの水性インクに添加した。次いで、この混合物を振盪して、1-ヘキサノールを乳化した。粘度は低いまま(水様)であった。使い捨てピペットを使用して、数滴の混合物を比較例1に記載のePTFE基材上に配置し、ピペットのバルブを使用して広げた。混合物は均一な湿潤層を形成し、これは電極を製造するためにヒートガンを用いて乾燥するときに、有意に網状組織化しなかった。基材の裏面(コーティングされていない面)側には混合物は観察されず、基材に吸収されなかったことを示している。混合物中の1-ヘキサノールの全量は、混合物の合計質量を基準として1.3wt%であり、又は、アイオノマー及び溶媒の質量を基準として1.4%であった。
【0049】
例2Bにおいて、次いで、より多くの1-ヘキサノールを混合物に添加し、アイオノマー及び溶媒の質量を基準として5.8wt%の1-ヘキサノール濃度をもたらした。混合物を前述のように振盪し、コーティングしそして乾燥しそして同じ結果を観察した。
【0050】
例2Cにおいて、次いで、より多く1-ヘキサノールを例2Bの混合物に添加し、アイオノマー及び溶媒の質量を基準として10.4wt%の1-ヘキサノール濃度をもたらした。前の例のように混合物を振盪した。混合物の粘度は劇的に増加し、それにより、混合物は濃厚なペーストになった。ペーストは、上記のようになおも基材上にコーティングしそして乾燥することができ、同じ結果を観察した。
【0051】
例3(水不溶性成分として1-デカノール)
【0052】
例3において、0.073グラムの1-デカノールを比較例1に記載の5.0グラムの水性インクに添加した。次にこの混合物を振盪した。粘度は低いまま(水様)であった。使い捨てピペットを使用して、数滴の混合物を比較例1に記載のePTFE基材上に配置し、次にピペットのバルブを使用して広げた。堆積前に相分離の傾向がいくらか観察されているが、攪拌及び即時コーティング及び乾燥は均一なコーティングをもたらした。湿潤層は、電極を製造するためにヒートガンで乾燥したときに、有意に網状組織化しなかった。基材の裏面(コーティングされていない面)側には混合物は観察されず、基材に吸収されなかったことを示している。混合物中の1-デカノールの総量は、アイオノマー及びビヒクルの合計質量を基準として1.6%であった。
【0053】
例4A~4B(水不溶性成分としての1-ペンタノール)
【0054】
例4Aにおいて、0.057グラムの1-ペンタノールを比較例1に記載の5.1グラムの水性インクに添加した。次にこの混合物を振盪した。粘度は低いまま(水様)であった。使い捨てピペットを使用して、数滴の混合物を比較例1に記載のePTFE基材上に配置し、次にピペットのバルブを使用して広げた。混合物は均一な湿潤層を形成し、これは電極を製造するためにヒートガンを用いて乾燥したときに、有意に網状組織化しなかった。基材の裏面(コーティングされていない面)の側には混合物は観察されず、基材に吸収されなかったことを示している。混合物中の1-ペンタノールの総量は、アイオノマー及びビヒクルの合計質量を基準として1.2wt%であった。
【0055】
例4Bにおいて、次いで、より多くの1-ペンタノールを例4Aの混合物に加え、アイオノマー及びビヒクルの合計質量を基準として1.6wt%の1-ペンタノール濃度が得られた。混合物を上記のように振盪し、コーティングしそして乾燥し、そして同じ結果を観察した。
【0056】
例5A~5F(水不溶性成分としてn-ヘキサン酸)
【0057】
例5Aにおいて、0.040グラムのn-ヘキサン酸を例1に記載の5.0グラムの水性インクに添加した。次いで、混合物を振盪し、n-ヘキサン酸を乳化させた。粘度は低いまま(水様)であった。使い捨てピペットを用いて、数滴の混合物を比較例1に記載のePTFE基材上に配置し、そしてピペットのバルブを用いて広げた。混合物は均一な湿潤層を形成し、これは電極を製造するためにヒートガンを用いて乾燥したときに、有意に網状組織化しなかった。基材の裏面(コーティングされていない面)の側には混合物は観察されず、基材に吸収されなかったことを示している。混合物中のn-ヘキサン酸の総量は、混合物の合計質量を基準として0.8wt%、又は、アイオノマー及び溶媒の質量を基準として0.9wt%であった。
【0058】
例5B~5Dにおいて、次いで、より多くのn-ヘキサン酸を例5Aの混合物に少しずつ添加し、アイオノマー及び溶媒の質量を基準として1.3wt%(例5B)、5.8wt%(例5C)及び10.4wt%(例5D)のn-ヘキサン酸濃度をもたらした。それぞれの場合において、混合物を上記のように振盪し、コーティングしそして乾燥し、そして同じ結果を観察した。混合物は基材上でパドルさせ、室温でゆっくりと乾燥させ、基材の浸透を観察しなかった。いずれの場合も、混合物はなおも上記のように基材上に塗布されそして乾燥されることができ、同じ結果が観察された。
【0059】
例5E及び5Fにおいて、より多くのn-ヘキサン酸を例5Dの混合物に少しずつ添加し、アイオノマー及び溶媒の質量を基準として14.6wt%(例5E)及び18.4wt%(例5F)のn-ヘキサン酸濃度をもたらした。それぞれの場合に、混合物を上記のように振とうし、粘度が有意に増加し、それにより、混合物は18.4wt%の薄いペーストになった。それぞれの場合において、より高い粘度の混合物は、上記のようにまだ基材上にコーティングされそして乾燥されることができ、そして同じ結果が観察された。混合物は基材上でパドルさせ、室温でゆっくりと乾燥させ、そして図5Fにおいて、基材の幾分かの浸透を観察した。
【0060】
例6(水不溶性成分としてn-ノナン酸)
【0061】
例6において、0.067グラムのn-ノナン酸を比較例1に記載の5.0グラムの水性インクに加えた。この混合物を次に振盪した。粘度は低いまま(水様)であった。使い捨てピペットを使用して、数滴の混合物を比較例1に記載のePTFE基材上に配置し、次にピペットのバルブを使用して広げた。堆積前に相分離の傾向がいくらか観察されたが、撹拌及び即時コーティング及び乾燥により、均一なコーティングをもたらした。湿潤層は電極を製造するためにヒートガンを用いて乾燥したときに、有意に網状組織化しなかった。基材の裏面(コーティングされていない面)の側には混合物は観察されず、基材に吸収されなかったことを示している。混合物中のn-ノナン酸の総量は、アイオノマー及びビヒクルの合計質量を基準として1.5wt%であった。
【0062】
例7(水不溶性成分としてn-ヘキサン酸)
【0063】
例7において、0.097グラムのn-ヘキサン酸、2.344グラムの水及び2.444グラムのアイオノマー水溶液(14.86wt%固形分)を比較例1に記載の0.490グラムの水性インクに添加した。溶液中のアイオノマーは水性インクで使用したものと同じであった。次いでこの混合物を振盪した。粘度は低いまま(水様)であった。使い捨てピペットを使用して、数滴の混合物を比較例1に記載のePTFE基材上に配置し、次にピペットのバルブを使用して広げた。混合物は均一な湿潤層を形成し、これは電極を製造するためにヒートガンを用いて乾燥したときに、有意に網状組織化しなかった。基材の裏面(コーティングされていない面)の側には混合物は観察されず、基材に吸収されなかったことを示している。混合物中のn-ヘキサン酸の総量は、アイオノマー及びビヒクルの合計質量を基準として1.8wt%であった。混合物中の触媒の総量は混合物の全質量を基準として0.9wt%であった。
【0064】
比較例8A~8B(水溶性成分としてエタノール)
【0065】
例8Aにおいて、0.051グラムのエタノールを比較例1に記載の5.0グラムの水性インクに添加した。次にこの混合物を振盪した。粘度は低いまま(水様)であった。使い捨てピペットを使用して、数滴の混合物を比較例1に記載のePTFE基材上に配置し、次にピペットのバルブを使用して広げた。均一な湿潤層を形成するのではなく、インクはドロップレットに急速に網状組織化した。混合物中のエタノールの総量は、アイオノマー及びビヒクルの合計質量を基準として1.1wt%であった。例8Bにおいて、より多くのエタノールを混合物に添加し、結果としてアイオノマー及びビヒクルの合計質量を基準として5.5wt%のエタノール濃度をもたらした。混合物を上記のように振盪し、コーティングしそして乾燥し、そして同じ結果を観察した。
【0066】
例9(水溶性成分としてエタノールとともに水不溶性成分としてn-ヘキサン酸)
【0067】
例9において、0.389グラムのn-ヘキサン酸を比較例8Bに記載の混合物に添加した。次いでこの混合物を振盪した。粘度は低いまま(水様)であった。使い捨てピペットを使用して、数滴の混合物を比較例1に記載のePTFE基材上に配置し、次にピペットのバルブを使用して広げた。湿潤層は電極を製造するためにヒートガンを用いて乾燥したときに、有意に網状組織化しなかった。基材の裏面(コーティングされていない面)の側には混合物は観察されず、基材に吸収されなかったことを示している。混合物中のn-ヘキサン酸の総量はアイオノマー及びビヒクルの合計質量を基準として6.9wt%であった。混合物中のエタノールの総量はアイオノマーとビヒクルの合計質量を基準として4.6wt%であった。
【0068】
例10A~10D(基材変更)
【0069】
例10Aにおいて、約70wt%の水、約9wt%の触媒(カーボンブラック上に50wt%のPt)、約7wt%のPFSAアイオノマー、約6wt%の2-エチル-1-ヘキサノール、約4wt%のtert-ブタノール及び約4wt%のジプロピレングリコールの水性混合物を、ドローダウンバーを用いて塗布し、140℃の炉温度で3分間実質的に乾燥させ、基材の実質的な浸透なしに、GDL(W.L. Gore & Associates, Inc.からのCARBEL(登録商標)ガス拡散層CNW10A)の上に電極層を形成した。
【0070】
例10B~10Dは例10Aと同様に行ったが、3つの他の基材上、具体的に、例10BについてはCARBEL(登録商標)ガス拡散層CNW20B (W. L. Gore & Associates, Inc.から) 、例10Cについては GORE-SELECT(登録商標)膜M735 (W. L. Gore & Associates, Inc.)、そして例10DについてはePTFE剥離層(US2016/0233532により、その全体を参照により本明細書に取り込む)上にインクをコーティングした。
【0071】
寿命初期の偏光測定は、上記の例10A~10Dに記載したとおりの基材上にコーティングされた電極層で作られたMEA(すなわち、水不溶性成分を含む)は市販のPRIMEA(登録商標)膜電極接合体(W.L. Gore & Associates, Inc.)に匹敵する燃料電池性能を有した。
【0072】
例11A~11C(水不溶性成分としてn-ペンタン酸)
【0073】
例11Aにおいて、0.020グラムのn-ペンタン酸を比較例1に記載の5.1グラムの水性インクに加えた。次いで、この混合物を振盪した。粘度は低いまま(水様)であった。使い捨てピペットを使用して、数滴の混合物を比較例1に記載のePTFE基材上に配置し、次にピペットのバルブを使用して広げた。混合物はより高い表面エネルギーを有する基材、例えば、GDL上では網状組織化しえないと考えられるが、均一な湿潤層を形成することなく、インクを急速にドロップレットに網状組織化した。混合物中のn-ペンタン酸の総量は、アイオノマー及びビヒクルの合計質量を基準として0.4wt%であった。
【0074】
例11Bにおいて、0.037グラムのn-ペンタン酸を例11Aに記載の混合物に添加した。次いでこの混合物を振盪した。粘度は低いまま(水様)であった。使い捨てピペットを使用して、数滴の混合物を比較例1に記載のePTFE基材上に配置し、次にピペットのバルブを使用して広げた。湿潤層は電極を製造するためにヒートガンを用いて乾燥したときに、有意に網状組織化しなかった。基材の裏面(コーティングされていない面)の側には混合物は観察されず、基材に吸収されなかったことを示している。混合物中のn-ペンタン酸の合計量は、アイオノマー及びビヒクルの合計質量を基準として5.3wt%であった。
【0075】
例11Cにおいて、次いで、より多くのn-ペンタン酸を混合物に加え、混合物中のn-ペンタン酸の総量は、アイオノマー及びビヒクルの合計質量を基準として8.6wt%であった。混合物を、上記のように振盪し、コーティングしそして乾燥し、例11Bと同じ結果を観察した。
【0076】
例12(高装填量のPtRuブラック触媒)
【0077】
例12において、43.7wt%の触媒、7.3wt%のPFSAアイオノマー及び49.0wt%の脱イオン水を含む、6.9グラムの水性インクを調製した。触媒はPtRuブラック(Alfa Aesar Stock #41171)であった。アイオノマーは905グラム/eqの当量を有した。インクは30秒間超音波ホーンMisonix 3000を用いて超音波処理し、そのとき、インクは均一かつ十分に分散したようであった。インクの粘度は低かった(水様)。次いで、0.20グラムのn-ヘキサン酸を水性インクに添加し、その混合物を振盪した。粘度は低いまま(水様)であった。使い捨てピペットを使用して、数滴の混合物を比較例1に記載のePTFE基材上に配置し、次にピペットのバルブを使用して広げた。混合物は均一な湿潤層を形成し、これは電極を製造するのにヒートガンを用いて乾燥したときに、有意に網状組織化しなかった。基材の裏面(コーティングされていない面)の側には混合物は観察されず、基材に吸収されなかったことを示している。混合物中のn-ヘキサン酸の総量は、アイオノマー及びビヒクルの合計質量を基準として5.0wt%であった。混合物中の触媒の総量は混合物の合計質量を基準として42.4wt%であった。
【0078】
例13(担持PtCoNi触媒)
【0079】
例13において、9.7wt%の触媒、4.4wt%のPFSAアイオノマー及び85.9wt%の脱イオン水を含む、4.2グラムの水性インクを調製した。触媒はカーボンブラック上に担持された30wt%のPtCoNiであった。アイオノマーは720g/eqの当量を有した。インクは30秒間超音波ホーンMisonix 3000を用いて超音波処理し、そのとき、インクは均一かつ十分に分散したようであった。インクの粘度は低かった(水様)。次に、0.58グラムのn-ヘキサン酸を水性インクに添加し、混合物を振盪した。粘度は低いまま(水様)であった。使い捨てピペットを使用して、数滴の混合物を比較例1に記載のePTFE基材上に配置し、次にピペットのバルブを使用して広げた。混合物は均一な湿潤層を形成し、これは電極を製造するためにヒートガンを用いて乾燥したときに、有意に網状組織化しなかった。基材の裏面(コーティングされていない面)側には混合物は観察されず、基材に吸収されなかったことを示している。混合物中のn-ヘキサン酸の総量は、アイオノマー及びビヒクルの合計質量を基準として13.2wt%であった。混合物中の触媒の総量は、混合物の合計質量を基準として8.5wt%であった。
【0080】
比較例14(多孔質ポリエチレン基材)
【0081】
比較例14において、例1に記載の数滴のインクを、使い捨てピペットを用いて多孔質ポリエチレン基材上に配置し、ピペットのバルブを用いて広げた。ポリエチレン基材は、Gelon LIB Group(中国)から市販されている多孔質電池セパレータで、厚さ16ミクロン、幅300mm及び8.1グラム/平方メートルの面積当たり質量であった。均一な湿潤層を形成するのではなく、インクは急速にドロップレットに網状組織化した。
【0082】
例15(多孔質ポリエチレン基材)
【0083】
例15において、0.065グラムの1-ヘキサノールを例1に記載の5.0グラムの水性インクに添加した。次にこの混合物を振盪して1-ヘキサノールを乳化した。粘度は低いまま(水様)であった。数滴の混合物を、使い捨てピペットを用いて多孔質ポリエチレン基材上に配置し、ピペットのバルブを用いて広げた。ポリエチレン基材は、比較例14に記載の同じ基材であった。混合物は均一な湿潤層を形成し、これは電極を製造するためにヒートガンを用いて乾燥したときに、有意に網状組織化しなかった。基材の裏面(コーティングされていない面)の側には混合物は観察されず、基材に吸収されなかったことを示している。混合物中の1-ヘキサノールの総量は、混合物の合計質量を基準として1.3wt%、又はアイオノマー及び溶媒の合計質量を基準として1.4wt%であった。
【0084】
本発明を詳細に説明してきたが、本発明の主旨及び範囲内の変更は当業者に容易に明らかであろう。本発明の態様ならびに様々な実施形態及び上記及び/又は添付の特許請求の範囲の様々な特徴の部分は、全体として又は部分的に組み合わされ又は置換されうることを理解されたい。様々な実施形態の上記の説明において、別の実施形態を参照する実施形態は、当業者によって理解される他の実施形態と適切に組み合わせることができる。さらに、当業者は上記の説明が例示のみであり、本発明を限定することが意図されないことを理解するであろう。
図1A
図1B
図1C
図1D
図2A
図2B
図2C
図2D