(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-08
(45)【発行日】2022-07-19
(54)【発明の名称】糖尿病の治療のためのペプチド及び方法
(51)【国際特許分類】
C07K 14/62 20060101AFI20220711BHJP
C07K 7/08 20060101ALI20220711BHJP
C12N 5/0783 20100101ALI20220711BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20220711BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20220711BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220711BHJP
A61K 38/10 20060101ALI20220711BHJP
A61K 38/28 20060101ALI20220711BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20220711BHJP
【FI】
C07K14/62 ZNA
C07K7/08
C12N5/0783
A61P3/10
A61P37/02
A61P43/00 111
A61K38/10
A61K38/28
A61K35/17 Z
(21)【出願番号】P 2019548574
(86)(22)【出願日】2018-03-06
(86)【国際出願番号】 EP2018055501
(87)【国際公開番号】W WO2018162498
(87)【国際公開日】2018-09-13
【審査請求日】2021-02-08
(32)【優先日】2017-03-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】518370219
【氏名又は名称】アンシス・エスア
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】リュック・ヴァンダー・エルスト
(72)【発明者】
【氏名】ヴァンサン・カルリエ
(72)【発明者】
【氏名】ジャン-マリー・サン-レミ
【審査官】進士 千尋
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/059236(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00
C07K 14/62
C07K 7/08
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列Cxx[CST]SLQPLALEGSLQK[配列番号4]又は[CST]xxCSLQPLALEGSLQK[配列番号5]を含
み、xは任意のアミノ酸である、12~50アミノ酸の長さを有する単離免疫原性ペプチド。
【請求項2】
配列CxxCSLQPLALEGSLQK[配列番号6]を含む、請求項1に記載のペプチド。
【請求項3】
配列HCxx[CST]SLQPLALEGSLQK[配列番号7]又はH[CST]xxCSLQPLALEGSLQK[配列番号8]を含む、請求項1に記載のペプチド。
【請求項4】
配列HCxxCSLQPLALEGSLQK[配列番号9]を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載のペプチド。
【請求項5】
アミノ酸配列HCPYCSLQPLALEGSLQKRG[配列番号26]からなる、請求項1から4のいずれか一項に記載のペプチド。
【請求項6】
医薬としての使用のための、請求項1から5のいずれか一項に記載のペプチド。
【請求項7】
1型糖尿病の治療又は予防における使用のための、請求項1から5のいずれか一項に記載のペプチド。
【請求項8】
請求項1から5のいずれか一項に記載のペプチド及び薬学的に許容可能な担体を含む医薬組成物。
【請求項9】
インスリンエピトープを提示するAPCに対する細胞溶解性CD4+T細胞の集団の生成のためのインビトロ方法であって、
- 末梢血細胞を提供する工程と、
- 前記細胞を、請求項1から5のいずれか一項に記載のペプチドとインビトロで接触させる工程と、
- 前記細胞をIL-2の存在下で拡大する工程と
を含むインビトロ方法。
【請求項10】
請求項9に記載の方法により得られる、インスリンエピトープを提示するAPCに対する細胞溶解性CD4+T細胞の集団。
【請求項11】
医薬としての使用のための、請求項9に記載の方法により得られる、インスリンエピトープを提示するAPCに対する細胞溶解性CD4+T細胞の集団。
【請求項12】
1型糖尿病の治療又は予防における使用のための、請求項9に記載の方法により得られる、インスリンエピトープを提示するAPCに対する細胞溶解性CD4+T細胞の集団。
【請求項13】
1型糖尿病の治療若しくは予防における使用のための、又は1型糖尿病の症状を低減するための、請求項5に記載の単離免疫原性ペプチド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
抗原に対する望ましくない免疫応答の生成を予防するため、幾つかの戦略が記載されてきた。WO2008/017517は、所与の抗原タンパク質のMHCクラスII抗原、及び酸化還元酵素モチーフを含むペプチドを使用する新たな戦略について記載している。これらのペプチドは、CD4+T細胞を、細胞溶解性CD4+T細胞と呼ばれる、細胞溶解特性を有する細胞型に変換する。これらの細胞は、そのペプチドが由来する抗原を提示する抗原提示細胞(APC)を、アポトーシスを引き起こすことにより死滅させることができる。WO2008/017517は、アレルギー、及びI型糖尿病等の自己免疫疾患についてこの概念を実証している。本明細書では、インスリンが自己抗原として作用する可能性がある。
【背景技術】
【0002】
WO2009101207及びCarlierら(2012)Plos one 7、10 e45366頁は、抗原特異的な細胞溶解性細胞についてより詳細に更に記載している。
【0003】
WO2009101206は、補充療法に使用される際の、可溶性の同種抗原に対する免疫応答(例えば、糖尿病特許における、注射されたインスリンに対する望ましくない免疫応答)を予防するための、酸化還元酵素モチーフ、及びそのような抗原のMHCクラスIIエピトープを有するペプチドの使用について記載している。
【0004】
WO2016059236は、更なるヒスチジンが酸化還元酵素モチーフの近接に存在する更なる修飾ペプチドについて開示している。
【0005】
I型糖尿病に対するペプチドの設計では、自己抗原の種類(インスリン、GAD65等)、自己抗原の特定のドメイン及びエピトープ、酸化還元酵素モチーフ、酸化還元酵素モチーフとエピトープ配列の間の長さ及びアミノ酸配列等の、多くの因子を考慮に入れることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】WO2008/017517
【文献】WO2009101207
【文献】WO2009101206
【文献】WO2016059236
【非特許文献】
【0007】
【文献】Carlierら(2012) Plos one 7、10 e45366頁
【文献】Liebersら(1996) Clin. Exp. Allergy 26、494~516頁
【文献】Tomazzolliら(2006)Anal. Biochem. 350、105~112頁
【文献】Holmgren (2000) Antioxid. Redox Signal. 2、811~820頁
【文献】Jacquotら(2002) Biochem. Pharm. 64、1065~1069頁
【文献】Fomenkoら(2003) Biochemistry 42、11214~11225頁
【文献】Fomenkoら(2002) Prot. Science 11、2285-2296頁
【文献】Vijayasaradhiら(1995) J. Cell. Biol. 130、807~820頁
【文献】Copierら(1996) J. Immunol. 157、1017~1027頁
【文献】Mahnkeら(2000) J. Cell Biol. 151、673~683頁
【文献】Bonifacio及びTraub (2003) Annu. Rev. Biochem. 72、395~447頁
【文献】Schnelzer及びKent (1992) Int. J. Pept. Protein Res. 40、180~193頁
【文献】Tamら(2001) Biopolymers 60、194~205頁
【文献】「McCutcheon's Detergents and Emulsifiers Annual」(MC Publishing Crop.、Ridgewood、New Jersey、1981)
【文献】「Tensid-Taschenbucw」、第2版(Hanser Verlag、Vienna、1981)
【文献】「Encyclopaedia of Surfactants」、(Chemical Publishing Co.、New York、1981)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、1型糖尿病の治療のための、インスリン由来の新規のペプチドを提供する。
【0009】
本発明のペプチドは、これらのペプチドを使用して生成された細胞溶解性CD4+T細胞が、先行技術のペプチドと比較して、IFN-ガンマ及びsFasL産生の増加を有するという利点を有する。また、前記CD4+T細胞におけるグランザイムB産生が増加すると考えられる。
【0010】
これらのマーカーの発現レベルの増加は、先行技術のペプチドと比較して、本発明のペプチドの、細胞溶解性CD4+T細胞を生成する能力がより高いことを示す。
【0011】
本発明の一態様は、テトラペプチド配列Cxx[CST][配列番号1]又は[CST]xxC[配列番号2](すなわちレドックスモチーフ)、及びこのテトラペプチドから0~5アミノ酸、好ましくは0~4アミノ酸(すなわちリンカーで)隔てられた配列LALEGSLQK[配列番号3](すなわちエピトープ)を含む、12~50アミノ酸の長さを有するペプチドに関する。
【0012】
これらのペプチドの実施形態は、配列Cxx[CST]SLQPLALEGSLQK[配列番号4]又は[CST]xxCSLQPLALEGSLQK[配列番号5]を含む。
【0013】
これらのペプチドの他の実施形態は、配列CxxCSLQPLALEGSLQK[配列番号6]を含む。
【0014】
これらのペプチドの他の実施形態は、配列HCxx[CST]SLQPLALEGSLQK[配列番号7]又はH[CST]xxCSLQPLALEGSLQK[配列番号8]を含む。
【0015】
これらのペプチドの他の実施形態は、配列HCxxCSLQPLALEGSLQK[配列番号9]を含む。
【0016】
これらのペプチドの他の実施形態は、Cxx[CST][配列番号1]又は[CST]xxC[配列番号2]レドックスモチーフ配列、及び配列SLQPLALEGSLQKRG[配列番号20]を含む。
【0017】
これらのペプチドの特定の実施形態は、配列
Cxx[CST]SLQPLALEGSLQK[配列番号4]、
[CST]xxCSLQPLALEGSLQK[配列番号5]、
CxxCSLQPLALEGSLQK[配列番号6]、
HCxx[CST]SLQPLALEGSLQK[配列番号7]、
H[CST]xxCSLQPLALEGSLQK[配列番号8]、又は
HCxxCSLQPLALEGSLQK[配列番号9]
からなる。
【0018】
これらのペプチドの他の特定の実施形態は、配列
Cxx[CST]SLQPLALEGSLQKRG[配列番号10]、
[CST]xxCSLQPLALEGSLQKRG[配列番号11]、
CxxCSLQPLALEGSLQKRG[配列番号12]、
HCxx[CST]SLQPLALEGSLQKRG[配列番号13]、
H[CST]xxCSLQPLALEGSLQKRG[配列番号14]、又は
HCxxCSLQPLALEGSLQKRG[配列番号15]
からなる。
【0019】
これらの配列の特定の実施形態において、Cxx[CST][配列番号1]はCPY[CST][配列番号16]であり、[CST]xxC[配列番号2]は[CST]PYC[配列番号17]であり、より具体的には、CxxC[配列番号18]はCPYC[配列番号19]である。
【0020】
特定の実施形態は、ペプチドHCPYCSLQPLALEGSLQKRG[配列番号26]である。
【0021】
上記の実施形態において、レドックスモチーフはエピトープのN末端側にある。実施形態の代替のセットでは、ペプチドはエピトープのC末端側にレドックスモチーフを有する。
【0022】
本発明の別の態様は、特に1型糖尿病の治療若しくは予防における、又は1型糖尿病の症状を低減するための、医薬としての使用のための上記で開示されるペプチドのうちいずれか1つに関する。
【0023】
別の態様は、上記で開示されるペプチドのうちいずれか1つ及び薬学的に許容可能な担体を含む医薬組成物に関する。
【0024】
別の態様は、インスリンエピトープを提示するAPCに対する細胞溶解性CD4+T細胞の集団の生成のためのインビトロ方法であって、
- 末梢血細胞を提供する工程と、
- 前記細胞を、上記で開示される免疫原性ペプチドのうちいずれか1つとインビトロで接触させる工程と、
- 前記細胞をIL-2の存在下で拡大する工程と
を含むインビトロ方法に関する。
【0025】
別の態様は、医薬としての使用のための、上記の方法により得られる、インスリン提示APCに対する細胞溶解性CD4+T細胞の集団に関する。
【0026】
別の態様は、1型糖尿病の治療又は予防における使用のための、上記の方法により得られる細胞集団に関する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】p17-003又はp17-001により生成された細胞株におけるsFasL放出についての図である。p17-003又はp17-001に特異的な細胞(IL5陽性細胞;黒のヒストグラム)を、それらの生成に使用されたペプチドに応じて、ペプチドp17-003又はp17-001がローディングされた抗原提示細胞で24h再刺激し、24hの共培養後に上清を採取した。IL-5陰性細胞は、対照PBMC集団についてである(白のヒストグラム)。結果は、細胞数で補正されたsFasL濃度の平均+/-SDを表す。
【
図2】サイトカイン産生に関しての、p17-003又はp17-001による刺激に対する細胞株の応答を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明は特定の実施形態に関して記載されることになるが、本発明はそれらに限定されず、請求項のみによって限定される。請求項における任意の参照符号は、範囲を限定するものとして解釈されないものとする。以下の用語又は定義は、本発明の理解を助けるためだけに提供される。本明細書で特に定義されない限り、本明細書で使用される用語は全て、それらが本発明の分野の技術者に対して有するものと同じ意味を有する。本明細書で提供される定義は、当業者によって理解される範囲より小さい範囲を有するものと解釈されるべきでない。
【0029】
別に示されない限り、特に詳細には記載されない方法、工程、技術及び操作は全て、当業者には明らかなように、それ自体は既知の様式で行われてよく、また行われた。例えば、標準的なハンドブック、上記の一般的な背景技術、及びそこで引用される更なる参考文献がここでも参照される。
【0030】
本明細書で使用される場合、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」、及び「その(the)」は、文脈が別途明確に定めない限り、単数及び複数の指示対象両方を含む。態様、請求項又は実施形態に関して使用される際の用語「任意の」は、本明細書で使用される場合、任意の単一のもの(すなわち任意の1つ)、及び言及される前記態様、請求項又は実施形態の組合せ全てを指す。
【0031】
「含む(comprising)」、「含む(comprises)」及び「から構成される」という用語は、本明細書で使用される場合、「含む(including)」、「含む(includes)」又は「含む(containing)」、「含む(contains)」と同義であり、包括的又はオープンエンドであり、更なる、列挙されていないメンバー、要素又は方法の工程を除外しない。前記用語は、実施形態「から本質的になる」及び「からなる」も包含する。
【0032】
端点による数値範囲の列挙は、各範囲内に包摂される全ての数及び端数、並びに列挙される端点を含む。
【0033】
パラメーター、量、持続期間等の測定可能な値に言及する際に本明細書で使用される「約」という用語は、指定された値の+/-10%又はそれ未満、好ましくは+/-5%又はそれ未満、より好ましくは+/-1%又はそれ未満、更により好ましくは+/-0.1%又はそれ未満の変動を、そのような変動が、開示される発明において機能するのに適切である限り、包含することが意図される。修飾語「約」が指す値自体も、特に、かつ好ましくは開示されることが理解されるべきである。
【0034】
本明細書で使用される場合、「疾患の治療における使用のための組成物」に使用される「使用のための」という用語は、対応する治療方法、及び疾患の治療のための医薬の製造のための製剤の対応する使用も開示するものとする。
【0035】
「ペプチド」という用語は、本明細書で使用される場合、ペプチド結合によりつながった12~200アミノ酸のアミノ酸配列を含むが、非アミノ酸構造を含み得る分子を指す。
【0036】
本発明によるペプチドは、従来の20アミノ酸若しくはその修飾バージョンのいずれも含有することができ、或いは化学的ペプチド合成又は化学的若しくは酵素的修飾により組み込まれた天然に存在しないアミノ酸を含有することができる。
【0037】
「抗原」という用語は、本明細書で使用される場合、高分子、典型的にはタンパク質(多糖を含む又は含まない)の構造、又は1つ若しくは複数のハプテンを含み、及びT細胞エピトープを含むタンパク質組成物でできた構造を指す。
【0038】
「抗原タンパク質」という用語は、本明細書で使用される場合、1つ又は複数のT細胞エピトープを含むタンパク質を指す。自己抗原又は自己抗原タンパク質は本明細書で使用される場合、体内に存在するヒト又は動物タンパク質であって、同じヒト又は動物の体内で免疫応答を誘発するタンパク質を指す。
【0039】
「エピトープ」という用語は、抗体若しくはその部分(Fab'、Fab2'、等)、又はB若しくはT細胞リンパ球の細胞表面に提示される受容体により特異的に認識及び結合されて、前記結合により免疫応答を誘導することができる、抗原タンパク質の1つ又は幾つかの部分(立体構造エピトープを規定し得る)を指す。
【0040】
本発明の文脈における「T細胞エピトープ」という用語は、ドミナント、サブドミナント、又はマイナーT細胞エピトープ、すなわち、Tリンパ球の細胞表面の受容体により特異的に認識及び結合される抗原タンパク質の一部を指す。エピトープがドミナント、サブドミナント、又はマイナーであるかどうかは、エピトープに対して誘発される免疫反応に依存する。優勢性は、タンパク質のあらゆるT細胞エピトープのうち、そのようなエピトープがT細胞により認識される頻度、及びT細胞を活性化することができる頻度に依存する。
【0041】
T細胞エピトープは、MHC II分子の溝に嵌る+/-9アミノ酸の配列からなる、MHCクラスII分子により認識されるエピトープである。T細胞エピトープを表すペプチド配列内で、エピトープ中のアミノ酸はP1~P9と番号付けされ、エピトープのアミノ酸N末端はP-1、P-2等と番号付けされ、エピトープのアミノ酸C末端はP+1、P+2等と番号付けされる。MHCクラスII分子により認識され、MHCクラスI分子には認識されないペプチドは、MHCクラスII拘束T細胞エピトープと呼ばれる。
【0042】
「MHC」という用語は、「主要組織適合抗原」を指す。ヒトにおいては、MHC遺伝子はHLA(「ヒト白血球抗原」)遺伝子として知られている。一貫して慣習に従うわけではないが、幾つかの文献が、HLAタンパク質分子を指すのにHLAを、HLAタンパク質をコードする遺伝子を指すのにMHCを使用している。したがって、「MHC」及び「HLA」という用語は、本明細書で使用される際は同等物である。ヒトにおけるHLA系は、マウスにおいてもその同等物、すなわちH2系を有する。最も熱心に研究されているHLA遺伝子は、9種のいわゆる古典的MHC遺伝子:HLA-A、HLA-B、HLA-C、HLA-DPA1、HLA-DPB1、HLA-DQA1、HLAs DQB1、HLA-DRA、及びHLA-DRB1である。ヒトにおいては、MHCは3つの領域:クラスI、II、及びIIIに分けられる。A、B、及びC遺伝子はMHCクラスIに属し、6つのD遺伝子はクラスIIに属する。MHCクラスI分子は、3つのドメイン(アルファ1、2及び3)を含む単一の多型鎖でできており、これが細胞表面でベータ2ミクログロブリンと結合する。クラスII分子は、それぞれ2つの鎖(アルファ1及び2、並びにベータ1及び2)を含む2本の多型鎖でできている。
【0043】
クラスI MHC分子は、実質的に全ての有核細胞で発現される。
【0044】
クラスI MHC分子に関連して提示されるペプチド断片は、CD8+Tリンパ球(細胞溶解性Tリンパ球又はCTL)により認識される。CD8+Tリンパ球は高い頻度で、成熟して、刺激抗原を有する細胞を溶解させることができる細胞溶解性エフェクターとなる。クラスII MHC分子は主に活性化されたリンパ球及び抗原提示細胞で発現される。CD4+Tリンパ球(ヘルパーTリンパ球又はTh)は、マクロファージ又は樹状細胞等の抗原提示細胞に通常見られるクラスII MHC分子により提示される固有のペプチド断片を認識することで活性化される。CD4+Tリンパ球は増殖して、抗体媒介性及び細胞媒介性応答を支持するIL-2、IFN-ガンマ及びIL-4等のサイトカインを分泌する。
【0045】
機能性のHLAは、内因性及び外来性の、潜在的に抗原性のペプチドが結合する深い結合溝を特徴とする。溝は、十分に定義された形状及び物理化学的特性を更に特徴とする。HLAクラスI結合部位は、ペプチド末端が溝の末端に固定されるという点において閉じている。これは、保存されたHLA残基との水素結合ネットワークにも関与する。これらの制限に照らすと、結合するペプチドの長さは8、9又は10残基に制限される。しかし、最大12アミノ酸残基のペプチドも、HLAクラスIに結合することができることが実証されている。異なるHLA複合体の構造比較により、ペプチドが比較的直鎖状で伸長した立体構造を採用するか、溝から突き出るために中心部の残基を関与させることができる、一般的な結合様式が確認された。
【0046】
HLAクラスI結合部位とは対照的に、クラスII部位は両方の末端において開かれている。このため、ペプチドは実際の結合領域から伸長することができ、これにより両方の末端において「はみ出る」可能性がある。したがってクラスII HLAは、9~25超アミノ酸残基の範囲の、可変の長さのペプチドリガンドに結合することができる。HLAクラスIと同様に、クラスIIリガンドの親和性は、「定常」及び「可変」成分により決定される。定常部分はここでも、HLAクラスII溝における保存された残基と、結合したペプチドの主鎖との間に形成される水素結合ネットワークから生じる。しかし、この水素結合パターンはペプチドのN及びC末端残基に拘束されず、鎖全体に分散される。このような状態は、複合体化されたペプチドの立体構造が厳密に直鎖状の結合様式に限定されるため、重要である。これは、全てのクラスIIアロタイプに共通している。ペプチドの結合親和性を決定する第2の成分は、クラスII結合部位内の多型の特定の位置により可変である。異なるアロタイプは溝内で異なる相補的ポケットを形成し、これにより、ペプチドのサブタイプ依存性選択、又は特異性の原因となる。重要なことには、クラスIIポケット内に保持されるアミノ酸残基に対する制約は概して、クラスIよりも「柔軟」である。異なるHLAクラスIIアロタイプ間にははるかに大きいペプチドの交差反応性がある。MHC II分子の溝に適合するMHCクラスII T細胞エピトープの+/-9アミノ酸(すなわち8、9又は10)の配列は通常、P1~P9と番号付けされる。エピトープの更なるアミノ酸N末端はP-1、P-2等と番号付けされ、エピトープのアミノ酸C末端はP+1、P+2等と番号付けされる。
【0047】
本発明の文脈において使用されるエピトープに関して、「相同体」という用語は、本明細書で使用される場合、天然に存在するエピトープと少なくとも50%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%又は少なくとも98%アミノ酸配列同一性を有し、これにより抗体又はB及び/若しくはT細胞の細胞表面受容体を結合するエピトープの能力を維持する分子を指す。エピトープの特定の相同体は、最大で3個、より具体的には最大で2個、最も具体的には1個のアミノ酸において修飾された天然エピトープに対応する。
【0048】
本発明のペプチドに関して、「誘導体」という用語は、本明細書で使用される場合、少なくともペプチド活性部分(すなわち、細胞溶解性CD4+T細胞活性を誘発することができるレドックスモチーフ及びMHCクラスIIエピトープ)を含有し、これに加えてペプチドの安定化、又はペプチドの薬物動態学的若しくは薬力学的特性の変更等の異なる目的を有し得る相補的部分を含む分子を指す。
【0049】
2つの配列の「配列同一性」という用語は、本明細書で使用される場合、同一のヌクレオチド又はアミノ酸を有する位置の数を、2つの配列を並べたときにより短い方の配列中のヌクレオチド又はアミノ酸の数で割った値に関する。特に、配列同一性は、70%~80%、81%~85%、86%~90%、91%~95%、96%~100%、又は100%である。
【0050】
「ペプチドコードポリヌクレオチド(又は核酸)」及び「ペプチドをコードするポリヌクレオチド(又は核酸)」という用語は、本明細書で使用される場合、適当な環境で発現される時、適切なペプチド配列又はその誘導体若しくは相同体の生成をもたらすヌクレオチド配列を指す。そのようなポリヌクレオチド又は核酸は、ペプチドをコードする通常の配列、並びに必要とされる活性を有するペプチドを発現することができるこれらの核酸の誘導体及び断片を含む。本発明によるペプチド又はその断片をコードする核酸は、哺乳動物に由来する、又は哺乳動物、最も具体的にはヒトのペプチド断片に対応するペプチド又はその断片をコードする配列である。
【0051】
「免疫障害」又は「免疫疾患」という用語は、免疫系の反応が、生物における機能不全又は非生理的状態に関与する、又はこれを持続する疾患を指す。免疫障害に含まれるのは、とりわけアレルギー障害及び自己免疫疾患である。
【0052】
「自己免疫疾患」又は「自己免疫障害」という用語は、生物自身の構成要素(分子下レベルに至るまで)を「自己」として認識しないことによる、自身の細胞及び組織に対する生物の異常な免疫応答から生じる疾患を指す。疾患群は、2つのカテゴリー、臓器特異的疾患及び全身疾患に分けることができる。「アレルゲン」は、素因、特に遺伝的に素因がある個体(アトピー性)患者においてIgE抗体の産生を誘発する物質、通常は高分子又はタンパク質組成物として定義される。同様の定義が、Liebersら(1996) Clin. Exp. Allergy 26、494~516頁に示されている。
【0053】
「1型糖尿病」(T1D)又は「糖尿病1型」(「1型糖尿病」若しくは「免疫媒介性糖尿病」としても知られ、又は以前は「若年発症糖尿病」若しくは「インスリン依存性糖尿病」として知られた)という用語は、典型的には小児期の間に感受性個体に発症する自己免疫障害である。T1D病因の根底には、自己免疫機構による、インスリンを産生する大部分の膵臓ベータ細胞の破壊がある。要するに、生物はインスリン産生を担う膵臓ベータ細胞に対する免疫寛容を失い、ベータ細胞の自己破壊につながる自己抗体の産生に関連する、主に細胞媒介性の免疫応答を誘導する。
【0054】
「治療的に有効な量」という用語は、患者に所望の治療又は予防効果をもたらす本発明のペプチド又はその誘導体の量を指す。例えば、疾患又は障害に関して、これは、疾患又は障害の1つ又は複数の症状をある程度低減し、より具体的には、疾患若しくは障害と関連する又は疾患若しくは障害の原因となる生理学的又は生化学的パラメーターを部分的又は完全に正常に戻す量である。典型的には、治療的に有効な量は、正常な生理学的状態の改善又は回復をもたらすと予想される本発明のペプチド又はその誘導体の量である。例えば、免疫障害に罹患している哺乳動物を治療的に処置するのに使用される場合、治療的に有効な量は、1日量のペプチド/前記哺乳動物のkg体重である。或いは、投与が遺伝子療法による場合、裸のDNA又はウイルスベクターの量が、適切な投与量の本発明のペプチド、その誘導体又は相同体の局所産生を確保するために調整される。
【0055】
ペプチドに関する場合、「天然の」という用語は、配列が天然に存在するタンパク質(野生型又は変異体)の断片と同一であるという事実に関する。これと対照的に「人工の」という用語は、それ自体天然に生じない配列を指す。人工配列は、天然に存在する配列内の1つ若しくは複数のアミノ酸の変換/欠失/挿入等の限定的な修飾、又は天然に存在する配列のアミノ酸N若しくはC末端への付加/除去により、天然配列から得られる。
【0056】
アミノ酸は、本明細書では正式名称、三文字略号、又は一文字略号で呼ばれる。
【0057】
アミノ酸配列のモチーフは、本明細書ではPrositeのフォーマットに従って書かれる。モチーフは、配列の特定の部分の特定の配列多様性を記載するのに使用される。記号Xは、任意のアミノ酸が許容される位置に対して使用される。代替物は、大括弧(「[ ]」)の間に所与の位置に対する許容可能なアミノ酸を列挙して示される。例えば[CST]は、Cys、Ser又はThrから選択されるアミノ酸を表す。代替物として除外されるアミノ酸は、中括弧(「{ }」)の間にそれらを列挙して示される。例えば{AM}は、Ala及びMetを除く任意のアミノ酸を表す。モチーフ中の異なる要素は、場合によりハイフン(-)で互いに隔てられている。モチーフ内の同一要素の繰り返しは、その要素の後ろの括弧の間に数値又は数値範囲を入れて示すことができる。例えばX(2)はX-X又はXXに対応し、X(2,5)は2、3、4又は5 Xアミノ酸に対応し、A(3)はA-A-A又はAAAに対応する。
【0058】
アミノ酸X間で区別するために、HとCの間のものは外部アミノ酸X(上記配列の一重下線)と呼ばれ、レドックスモチーフ内のものは内部アミノ酸X(上記配列の二重下線)と呼ばれる。
【0059】
Xは、任意のアミノ酸、具体的にはL-アミノ酸、より具体的には20個の天然に存在するL-アミノ酸の1つを表す。
【0060】
還元活性を有する、T細胞エピトープと修飾ペプチドモチーフ配列とを含むペプチドは、抗原提示細胞に対する抗原特異的細胞溶解性CD4+T細胞の集団を生成することができる。
【0061】
したがって、最も広い意味において、本発明は、免疫反応を引き起こす可能性を有する抗原(自己又は非自己)の少なくとも1つのT細胞エピトープと、ペプチドジスルフィド結合に対する還元活性を有する修飾チオレダクターゼ配列モチーフとを含むペプチドに関する。T細胞エピトープ及び修飾レドックスモチーフ配列は、ペプチド中で互いに直接接していてもよく、又は場合により1つ若しくは複数のアミノ酸(いわゆるリンカー配列)で隔てられていてもよい。場合によりペプチドは、エンドソーム標的化配列及び/又は追加の「フランキング」配列を更に含む。
【0062】
本発明のペプチドは、免疫反応を引き起こす可能性を有する抗原(自己又は非自己)のMHCクラスII T細胞エピトープと、修飾レドックスモチーフとを含む。ペプチド中のモチーフ配列の還元活性は、還元するとインスリンの溶解性が変化するインスリン溶解性アッセイ等のように、又はインスリン等の蛍光標識基質により、スルフヒドリル基を還元する能力についてアッセイすることができる。そのようなアッセイの例は蛍光ペプチドを使用し、Tomazzolliら(2006)Anal. Biochem. 350、105~112頁に記載されている。FITC標識を有する2つのペプチドは、ジスルフィド架橋を介して互いに共有結合すると自己消光になる。本発明によるペプチドにより還元すると、還元された個々のペプチドは再び蛍光になる。
【0063】
修飾レドックスモチーフは、T細胞エピトープのアミノ末端側、又はT細胞エピトープのカルボキシ末端に配置されてもよい。
【0064】
還元活性を有するペプチド断片は、グルタレドキシン、ヌクレオレドキシン、チオレドキシン及び他のチオール/ジスルフィドオキシドレダクターゼを含む、小さなジスルフィド還元酵素であるチオレダクターゼ中に見られる(Holmgren (2000) Antioxid. Redox Signal. 2、811~820頁; Jacquotら(2002) Biochem. Pharm. 64、1065~1069頁)。これらは、多機能性、遍在性であり、多くの原核生物及び真核生物で見出される。これらは、保存された活性ドメインのコンセンサス配列: CXXC[配列番号18]、CXXS[配列番号23]、CXXT[配列番号24]、SXXC[配列番号21]、TXXC[配列番号22](Fomenkoら(2003) Biochemistry 42、11214-11225頁; Fomenkoら(2002) Prot. Science 11、2285-2296頁)(Xは任意のアミノ酸を表す)内のレドックス活性システインを通じて、タンパク質(酵素等)のジスルフィド結合に対する還元活性を発揮する。そのようなドメインは、タンパク質ジスルフィドイソメラーゼ(PDI)及びホスホイノシチド特異的ホスホリパーゼC等のより大きなタンパク質で見出される。
【0065】
例えばFomenko及びWO2008/017517から知られるような4アミノ酸レドックスモチーフは、1位及び/又は4位にシステインを含み、故にモチーフは、CXX[CST][配列番号1]又は[CST]XXC[配列番号2]のどちらかである。そのようなテトラペプチド配列が、「モチーフ」と呼ばれることになる。ペプチド中のモチーフは、代替物CXXC[配列番号18]、SXXC[配列番号21]、TXXC[配列番号22]、CXXS[配列番号23]、又はCXXT[配列番号24]のいずれかであり得る。特に、ペプチドは、配列モチーフCXXC[配列番号18]を含有する。
【0066】
これより先に詳細に説明されているように、本発明のペプチドは、非天然アミノ酸の組み込みを可能にする化学合成により作成することができる。したがって、上記に列挙された修飾レドックスモチーフの「C」は、システイン又はチオール基を有する別のアミノ酸(メルカプトバリン、ホモシステイン、又はチオール機能を有する他の天然若しくは非天然アミノ酸等)のどちらかを表す。還元活性を有するためには、修飾レドックスモチーフ中に存在するシステインは、シスチンジスルフィド架橋の一部として生じるべきでない。それにもかかわらず、レドックス修飾レドックスモチーフは、インビボで遊離チオール基を有するシステインに変換されるメチル化システイン等の修飾システインを含み得る。Xは、S、C、若しくはTを含む20天然アミノ酸のいずれかであってもよく、又は非天然アミノ酸であってもよい。特定の実施形態において、XはGly、Ala、Ser又はThr等の小さな側鎖を有するアミノ酸である。更なる特定の実施形態において、XはTrp等のかさ高い側鎖を有するアミノ酸ではない。更なる特定の実施形態において、Xはシステインではない。更なる特定の実施形態において、修飾レドックスモチーフ中の少なくとも1つのXはHisである。他の更なる特定の実施形態において、修飾レドックス中の少なくとも1つのXはProである。
【0067】
ペプチドは、N末端NH2基又はC末端COOH基(例えば、COOHのCONH2基への修飾)の修飾等の、安定性又は溶解性を高めるための修飾を更に含んでもよい。
【0068】
修飾レドックスモチーフを含む本発明のペプチドにおいて、モチーフは、エピトープがMHC溝に嵌る場合、モチーフがMHC結合溝の外側に残るように位置する。修飾レドックスモチーフは、ペプチド内のエピトープ配列に直接接している[換言すれば、モチーフとエピトープの間のゼロアミノ酸のリンカー配列]、又は5以下のアミノ酸のアミノ酸配列を含むリンカーでT細胞エピトープから隔てられているかのどちらかである。より具体的には、リンカーは1、2、3、4又は5アミノ酸を含む。特定の実施形態は、エピトープ配列と修飾レドックスモチーフ配列の間に0、1又は2アミノ酸リンカーを有するペプチドである。修飾レドックスモチーフ配列がエピトープ配列に接しているペプチドにおいて、これは、エピトープ配列と比べてP-4位~P-1位又はP+1位~P+4位として示される。ペプチドリンカーとは別に、他の有機化合物が、ペプチドの部分を互いに(例えば、修飾レドックスモチーフ配列をT細胞エピトープ配列に)連結させるためのリンカーとして使用されてもよい。
【0069】
本発明のペプチドは、T細胞エピトープと修飾レドックスモチーフとを含む配列のN又はC末端に追加の短いアミノ酸配列を更に含むことができる。そのようなアミノ酸配列は、本明細書では一般的に「フランキング配列」と呼ばれる。フランキング配列は、エピトープとエンドソーム標的化配列の間、及び/又は修飾レドックスモチーフとエンドソーム標的化配列の間に配置することができる。エンドソーム標的化配列を含まない特定のペプチドでは、短いアミノ酸配列が、ペプチド中の修飾レドックスモチーフ及び/又はエピトープ配列のN及び/又はC末端に存在してもよい。より具体的には、フランキング配列は、1~7アミノ酸の配列、最も具体的には2アミノ酸の配列である。
【0070】
修飾レドックスモチーフは、エピトープからN末端に位置してもよい。
【0071】
本発明の特定の実施形態において、エピトープ配列と修飾レドックスモチーフ配列とを含むペプチドが提供される。更なる特定の実施形態において、修飾レドックスモチーフは、例えば1個若しくは複数個のアミノ酸により互いから間隔をおき得る修飾レドックスモチーフの繰り返しとして、又は互いに直接接している繰り返しとしてペプチド中に複数回(1、2、3、4回、又は更に多い回数)現れる。或いは、1つ又は複数の修飾レドックスモチーフは、T細胞エピトープ配列のN及びC末端の両方に提供される。
【0072】
本発明のペプチドとして想定される他の変形形態には、各エピトープ配列が、修飾レドックスモチーフに先行される及び/又は修飾レドックスモチーフが後に続く(例えば、「修飾レドックスモチーフ-エピトープ」の繰り返し、又は「修飾レドックスモチーフ-エピトープ-修飾レドックスモチーフ」の繰り返し)T細胞エピトープ配列の繰り返しを含有するペプチドが含まれる。本明細書では修飾レドックスモチーフは、全て同じ配列を有することができるが、これは必須ではない。自身の中に修飾レドックスモチーフを含むエピトープを含むペプチドの反復配列は、「エピトープ」及び「修飾レドックスモチーフ」の両方を含む配列ももたらすことが注意される。そのようなペプチドにおいて、1つのエピトープ配列内の修飾レドックスモチーフが、第2のエピトープ配列の外側で修飾レドックスモチーフとして機能する。
【0073】
典型的には本発明のペプチドは、1つのT細胞エピトープのみを含む。下記のように、タンパク質配列におけるT細胞エピトープは、機能アッセイ及び/又はシリカ予測アッセイの1つ又は複数により同定可能である。T細胞エピトープ配列におけるアミノ酸は、MHCタンパク質の結合溝におけるその位置に従って番号付けされる。ペプチド内に存在するT細胞エピトープは、8~25アミノ酸、更により具体的には8~16アミノ酸からなり、更に最も具体的には8、9、10、11、12、13、14、15又は16アミノ酸からなる。
【0074】
より特定の実施形態において、T細胞エピトープは9アミノ酸の配列からなる。更なる特定の実施形態において、T細胞エピトープは、MHC-クラスII分子によりT細胞に対して提示されるエピトープ[MHCクラスII拘束T細胞エピトープ]である。典型的にはT細胞エピトープ配列は、MHC IIタンパク質の間隙に適合するオクタペプチド又はより具体的にはノナペプチド配列を指す。
【0075】
本発明のペプチドのT細胞エピトープは、タンパク質の天然エピトープ配列に対応する、又はその修飾バージョンである(但し、修飾T細胞エピトープが、天然T細胞エピトープ配列と似たMHC間隙内で結合する能力を保持する)かのどちらかとなり得る。修飾T細胞エピトープは、天然エピトープと同じ、MHCタンパク質に対する結合親和性を有し得るが、低下した親和性も有し得る。特に、修飾ペプチドの結合親和性は、元のペプチドより10倍以上低く、より具体的には5倍以上低い。本発明のペプチドは、タンパク質複合体に対する安定化作用を有する。したがって、ペプチド-MHC複合体の安定化作用は、修飾エピトープのMHC分子に対する低下した親和性を代償する。
【0076】
ペプチド内にT細胞エピトープと還元化合物とを含む配列は、MHCクラスII決定基内でのプロセシング及び提示のための後期エンドソームへのペプチドの取り込みを促進するアミノ酸配列(又は別の有機化合物)に更に連結されてもよい。後期エンドソーム標的化は、タンパク質の細胞質尾部に存在するシグナルにより媒介され、十分に同定されたペプチドモチーフに対応する。後期エンドソーム標的化配列は、MHC-クラスII分子による、抗原由来のT細胞エピトープのプロセシング及び効率的な提示を可能にする。そのようなエンドソーム標的化配列は、例えば、gp75タンパク質(Vijayasaradhiら(1995) J. Cell. Biol. 130、807~820頁)、ヒトCD3ガンマタンパク質、HLA-BM 11(Copierら(1996) J. Immunol. 157、1017~1027頁)、DEC205受容体の細胞質尾部(Mahnkeら(2000) J. Cell Biol. 151、673~683頁)内に含有されている。エンドソームへの選別シグナルとして機能するペプチドの他の例は、Bonifacio及びTraub (2003) Annu. Rev. Biochem. 72、395~447頁の総説に開示されている。或いは配列は、抗原に対するT細胞応答を克服することなく後期エンドソームへの取り込みを促進する、タンパク質由来のサブドミナント又はマイナーT細胞エピトープの配列であってもよい。後期エンドソーム標的化配列は、効率的な取り込み及びプロセシングのために抗原由来ペプチドのアミノ末端又はカルボキシ末端のどちらかに位置してもよく、最大10アミノ酸のペプチド配列等のフランキング配列を通じて結合することもできる。標的化目的のためにマイナーT細胞エピトープを使用する際、それは典型的には、抗原由来のペプチドのアミノ末端に位置する。
【0077】
したがって、本発明は、抗原タンパク質のペプチド及び特異的免疫反応の誘発におけるその使用を想定している。これらのペプチドは、どちらも、その配列内に、すなわち最大で10、好ましくは7以下のアミノ酸隔てられた還元化合物及びT細胞エピトープを含むタンパク質の断片に対応する。或いは、及びほとんどの抗原タンパク質に関して、本発明のペプチドは、還元化合物、より具体的には本明細書に記載されている還元修飾レドックスモチーフを、抗原タンパク質のT細胞エピトープにN末端又はC末端で結合(これに直接接して、又は最大で10、より具体的には最大で7アミノ酸のリンカーを用いてのどちらか)することにより生成される。更に、タンパク質のT細胞エピトープ配列及び/又は修飾レドックスモチーフは、天然に存在する配列と比べて、修飾されてもよく、並びに/或いは1つ若しくは複数のフランキング配列及び/又は標的化配列が導入(又は修飾)されてもよい。故に、本発明の特徴が、目的とする抗原タンパク質の配列内に見出され得るか否かに応じて、本発明のペプチドは、「人工の」又は「天然に存在する」配列を含み得る。
【0078】
本発明のペプチドは、長さが実質的に変わり得る。ペプチドの長さは、13又は14アミノ酸から(すなわち8~9アミノ酸のエピトープ、これに隣接するヒスチジンを有する5アミノ酸の修飾レドックスモチーフからなる)、20、25、30、40又は50アミノ酸まで変わり得る。例えば、ペプチドは、40アミノ酸のエンドソーム標的化配列、約2アミノ酸のフランキング配列、5アミノ酸の本明細書に記載されたモチーフ、4アミノ酸のリンカー、及び9アミノ酸のT細胞エピトープペプチドを含んでもよい。
【0079】
したがって、特定の実施形態において完全なペプチドは、13アミノ酸から、20、25、30、40、50、75又は100までのアミノ酸からなる。より具体的には、還元化合物が本明細書に記載された修飾レドックスモチーフである場合、エンドソーム標的化配列がない、リンカーによって場合によりつながったエピトープと修飾レドックスモチーフとを含む(人工又は天然)配列(本明細書で「エピトープ-修飾レドックスモチーフ」配列と呼ばれる)の長さが重要である。「エピトープ-修飾レドックスモチーフ」は、より具体的には13、14、15、16、17、18又は19アミノ酸の長さを有する。13又は14~19アミノ酸のそのようなペプチドは、サイズはあまり重要でないエンドソーム標的化シグナルに場合により結合されてもよい。
【0080】
上記に詳述したように、特定の実施形態において本発明のペプチドは、T細胞エピトープ配列に連結された本明細書に記載された還元修飾レドックスモチーフを含む。
【0081】
更なる特定の実施形態において、本発明のペプチドは、その天然配列内にレドックス特性を有するアミノ酸配列を含まないT細胞エピトープを含むペプチドである。
【0082】
しかし、代替の実施形態において、T細胞エピトープは、MHC間隙へのエピトープの結合を確実にするアミノ酸の任意の配列を含んでもよい。抗原タンパク質の目的とするエピトープが、そのエピトープ配列内に本明細書に記載されているような修飾レドックスモチーフを含む場合、本発明による免疫原性ペプチドは、本明細書に記載された修飾レドックスモチーフ、及び/又は(間隙内に埋れた、エピトープ内に存在する修飾レドックスモチーフとは対照的に)結合された修飾レドックスモチーフが還元活性を確保できるように、エピトープ配列にN若しくはC末端で結合された別の還元配列の配列を含む。
【0083】
したがって、T細胞エピトープ及びモチーフは、直接接し又は互いから隔てられており、重なり合わない。「直接接している」又は「隔てられた」の概念を評価するには、MHC間隙に適合する8又は9アミノ酸配列が決定され、このオクタペプチド又はノナペプチドと、レドックスモチーフテトラペプチド又はヒスチジンを含む修飾レドックスモチーフペンタペプチドとの間の距離が決定される。
【0084】
一般的に、本発明のペプチドは、天然ではなく(故に、タンパク質の断片それ自体がない)、更にT細胞エピトープに加えて、本明細書に記載された修飾レドックスモチーフを含有し、これにより修飾レドックスモチーフが、最大7、最も具体的には最大4又は最大2アミノ酸からなるリンカーでT細胞エピトープから直接隔てられた人工ペプチドである。
【0085】
哺乳動物に本発明によるペプチド(又はそのようなペプチドを含む組成物)を投与(すなわち注射)すると、ペプチドは、抗原由来T細胞エピトープを認識するT細胞の活性化を誘発し、表面受容体の還元によりT細胞に追加のシグナルを与えることが示されている。この超最適活性化は、T細胞エピトープを提示する細胞に対する細胞溶解特性、及びバイスタンダーT細胞に対する抑制特性を獲得するT細胞をもたらす。このようにして、抗原由来T細胞エピトープ及び、該エピトープの外側に修飾レドックスモチーフを含有する、本発明に記載されたペプチドを含むペプチド又は組成物は、人間を含む哺乳動物の直接免疫化に使用され得る。本発明は故に、薬としての使用のための本発明のペプチド又はその誘導体を提供する。したがって、本発明は、1つ又は複数の本発明によるペプチドを、それを必要とする患者に投与する工程を含む治療方法を提供する。
【0086】
本発明は、細胞溶解特性を与えられた抗原特異的T細胞が、小ペプチドによる免疫化により誘発され得る方法を提供する。(i)抗原由来のT細胞エピトープをコードする配列及び(ii)レドックス特性を有するコンセンサス配列を含み、更に場合により、効率的なMHC-クラスII提示のために後期エンドソームへのペプチドの取り込みを促進する配列も含むペプチドが、サプレッサーT細胞を誘発することが判明した。
【0087】
本発明のペプチド免疫原性特性は、免疫反応の治療及び予防において特に興味深い。
【0088】
本明細書に記載されたペプチドは、医薬として使用され、より具体的には、哺乳動物、より特にヒトにおける免疫障害の予防又は治療のための医薬の製造に使用される。
【0089】
本発明は、本発明のペプチド、その相同体又は誘導体を使用することによる、そのような治療又は予防を必要とする哺乳動物の免疫障害の治療又は予防の方法であって、免疫障害に罹患している又はそのリスクがある前記哺乳動物に、免疫障害の症状を低減する等のために、本発明のペプチド、その相同体又は誘導体の治療的に有効な量を投与する工程を含む方法を記載する。ヒト並びにペット及び家畜等の動物の両方の治療が想定される。一実施形態において、治療される哺乳動物はヒトである。上述した免疫障害は、特定の実施形態においてアレルギー疾患及び自己免疫疾患から選択される。
【0090】
本発明のペプチド又は本明細書で定義されるもの等を含む医薬組成物は、好ましくは皮下又は筋肉内投与により投与される。好ましくは、ペプチド又はそのようなものを含む医薬組成物は、肘と肩の中間、上腕の外側部領域に皮下(SC)注射され得る。2回以上の別個の注射が必要な際は、両腕に同時に投与され得る。
【0091】
本発明によるペプチド又はそのようなものを含む医薬組成物は、治療有効用量で投与される。例示的であるが非限定的な投与レジメンは、50~1500μg、好ましくは100~1200μgである。より特定の投与計画は、患者の状態及び疾患の重症度に応じて、50~250μg、250~450μg又は850~1300μgとすることができる。投与レジメンは、単回用量又は2、3、4、5回、若しくはそれを超える用量での、同時又は連続しての投与を含み得る。例示的で非限定的な投与計画は以下である:
- 2回の別個の注射各25μg(各100μL)でのペプチド50μgのSC投与、その後、2回の別個の注射各12.5μg(各50μL)としてのペプチド25μgの3回の連続した注射を含む低用量計画。
- 2回の別個の注射各75μg(各300μL)でのペプチド150μgのSC投与、その後、2回の別個の注射各37.5μg(各150μL)としてのペプチド75μgの3回の連続した投与を含む中用量計画。
- 2回の別個の注射各225μg(各900μL)でのペプチド450μgのSC投与、その後、2回の別個の注射各112.5μg(各450μL)としてのペプチド225μgの3回の連続した投与を含む高用量計画。
【0092】
全ての上記のペプチドについて、ヒスチジンとシステインの間に、1個又は2個のアミノ酸Xが存在する追加のバリアントが想定される。典型的には、これらの外部アミノ酸Xは、His、Cys、Ser又はThrではない。
【0093】
本発明のペプチドは、試料中のクラスII拘束CD4+T細胞を検出するためにインビトロ診断方法において使用することもできる。この方法において試料は、MHCクラスII分子及び本発明によるペプチドの複合体と接触される。CD4+T細胞は、複合体と試料中の細胞との結合を測定して検出され、細胞への複合体の結合は、試料中のCD4+T細胞の存在を示す。
【0094】
複合体は、ペプチド及びMHCクラスII分子の融合タンパク質であってもよい。或いは、複合体中のMHC分子は四量体である。複合体は、可溶性分子として提供されてもよく、又は担体に付着されてもよい。
【0095】
したがって、特定の実施形態において、本発明の治療及び予防の方法は、本明細書に記載された免疫原性ペプチドの投与を含み、該ペプチドは、治療される疾患(例えば、上記のもの等)において役割を果たす抗原タンパク質のT細胞エピトープを含む。更なる特定の実施形態において、使用されるエピトープはドミナントエピトープである。
【0096】
本発明によるペプチドは、T細胞エピトープと修飾レドックスモチーフが、0~5アミノ酸隔てられるペプチドを合成して調製されると予想される。特定の実施形態において、修飾レドックスモチーフは、配列構成をタンパク質中に現れる通りに保存するために、1、2又は3変異をエピトープ配列の外側に導入して得ることができる。典型的には、天然配列の一部であるノナペプチドに関して、P-2及びP-1、並びにP+10及びP+11のアミノ酸は、ペプチド配列において保存されている。これらのフランキング残基は概して、MHCクラスIIへの結合を安定化する。他の実施形態において、エピトープの配列N又はC末端は、T細胞エピトープ配列を含有する抗原タンパク質の配列とは関係がないと予想される。
【0097】
故に、ペプチドを設計するための上記の方法に基づき、ペプチドは、化学的ペプチド合成、組み換え発現方法、又はより例外的な場合において、タンパク質のタンパク質分解的又は化学的断片化により生成される。
【0098】
上記の方法で作製されるペプチドは、インビトロ及びインビボ方法でT細胞エピトープの存在について試験することができ、インビトロアッセイでその還元活性について試験することができる。ペプチドが、修飾レドックスモチーフを有するペプチド中にも存在するエピトープ配列を含有する抗原を提示する抗原提示細胞に対して、アポトーシス経路を介して細胞溶解性であるCD4+T細胞を生成することができるかどうかを検証するために、最終品質管理として、ペプチドはインビトロアッセイで試験されてもよい。
【0099】
本発明のペプチドは、細菌、酵母、昆虫細胞、植物細胞又は哺乳動物細胞において組み換えDNA手法を用いて生成することができる。ペプチドの限られた長さに照らして、ペプチドは、異なるアミノ酸を互いに結合してペプチドが調製される化学的ペプチド合成により調製することができる。化学合成は、例えばD-アミノ酸、天然に存在しない側鎖を有するアミノ酸、又はメチル化システイン等の修飾側鎖を有する天然アミノ酸の包含に特に適している。
【0100】
化学的ペプチド合成方法は十分に記載されており、ペプチドはApplied Biosystems社等の企業及び他の企業に注文することができる。
【0101】
ペプチド合成は、固相ペプチド合成(SPPS)又は反対に溶液相ペプチド合成のどちらかとして行うことができる。最もよく知られているSPPS法は、t-Boc及びFmoc固相化学である。
【0102】
ペプチド合成中に幾つかの保護基が使用される。例えば、ヒドロキシル及びカルボキシル官能基はt-ブチル基により保護され、リジン及びトリプトファンはt-Boc基により保護され、アスパラギン、グルタミン、システイン及びヒスチジンはトリチル基により保護され、アルギニンはpbf基により保護される。適当な場合、そのような保護基は、合成後、ペプチドに残され得る。ペプチドは、Kentにより最初に記載され(Schnelzer及びKent (1992) Int. J. Pept. Protein Res. 40、180~193頁)、例えばTamら(2001) Biopolymers 60、194~205頁に概説されているようなライゲーション戦略(2つの未保護ペプチド断片の化学選択的結合)を用いて互いに連結されて、より長いペプチドを形成することができ、ライゲーション戦略は、SPPSの範囲を超えてタンパク質合成を達成する非常に大きな可能性をもたらす。この方法により100~300残基のサイズを有する多くのタンパク質の合成成功している。合成ペプチドは、SPPSの大きな進歩のために、生化学、薬学、神経生物学、酵素学、及び分子生物学の研究分野でますます高まる重要な役割を果たし続けている。
【0103】
或いは、ペプチドは、コードヌクレオチド配列を含む適当な発現ベクターに本発明のペプチドをコードする核酸分子を使用して合成することができる。そのようなDNA分子は、自動DNA合成機及び遺伝暗号の周知のコドン-アミノ酸関係を用いて容易に調製することができる。そのようなDNA分子は、オリゴヌクレオチドプローブ及び従来のハイブリダイゼーション方法論を用いて、ゲノムDNA又はcDNAとして得ることもできる。そのようなDNA分子は、細菌、例えば大腸菌(Escherichia coli)、酵母細胞、動物細胞又は植物細胞等の適切な宿主におけるDNAの発現及びポリペプチドの産生に適合した、プラスミドを含む発現ベクターに組み込まれてもよい。
【0104】
目的とするペプチドの物理的及び化学的特性(例えば溶解性、安定性)は、ペプチドが、治療組成物における使用に適する/適するかどうかを決定するために調べられる。典型的には、これは、ペプチドの配列を調節して最適化される。場合により、ペプチドは、合成(化学修飾、例えば官能基の付加/欠失)後に、当技術分野で知られている手法を用いて修飾されてもよい。
【0105】
T細胞エピトープそれ自体は、抗原提示細胞表面の適切なHLA分子に結合して適切なT細胞亜集団を刺激することにより、ヘルパーT細胞レベルの初期のイベントを引き起こすと考えられる。これらのイベントは、T細胞増殖、リンホカイン分泌、局所炎症反応、更なる免疫細胞の部位へのリクルート、及び抗体の産生につながるB細胞カスケードの活性化をもたらす。これらの抗体の1つのアイソタイプであるIgEはアレルギー症状の発症において本質的に重要であり、その産生は、分泌されるリンホカインの性質により、ヘルパーT細胞レベルで、イベントのカスケード初期に影響を受ける。T細胞エピトープはT細胞受容体による認識の基本的な要素又は最小の単位であり、ここでエピトープは、タンパク質のアミノ酸配列において連続する、受容体認識に不可欠なアミノ酸残基を含む。
【0106】
しかし、T-細胞エピトープ及びレドックスモチーフを有するペプチドを投与すると、以下のイベントが発生すると考えられる:
MHC-クラスII分子により提示される抗原由来のペプチドとの同種の相互作用から生じる、抗原特異的T細胞の活性化;
レダクターゼ配列は、第2のドメインが拘束されたジスルフィド架橋を含むCD4分子等のT細胞表面タンパク質を還元する。これにより、シグナルがT細胞に伝達される。酸化経路の増大に関連する一連の結果の中でも、重要なイベントはカルシウム流入及びNF-kB転写因子の核への移行の増大である。後者は、IFN-ガンマ及びグランザイムの転写増大をもたらし、これにより細胞はアポトーシス誘導機構による細胞溶解特性を獲得することができる。細胞溶解特性は、グランザイムB分泌、及びFas-FasL相互作用を必要とする機構により、ペプチドを提示する細胞に影響を及ぼす。細胞死滅効果がアポトーシス経路を介して得られることから、これらの細胞にとっては細胞溶解性細胞が細胞毒性細胞よりも適切な用語である。抗原提示標的細胞の破壊は、同じ抗原、又は同じ抗原提示細胞によりプロセシングされると予想される無関係の抗原に位置するエピトープに特異的なその他のT細胞の活性化を予防する。T細胞活性化の更なる結果は、細胞-細胞接触依存性機構によるバイスタンダーT細胞の活性化を抑制することである。そのような場合、細胞溶解性細胞及びバイスタンダーT細胞の両方がすぐ近くにある、すなわち同じ抗原提示細胞表面で活性化されるという条件で、異なる抗原提示細胞により提示される抗原により活性化されたT細胞も抑制される。
【0107】
上記で仮定された作用機構は、上記で引用されたPCT出願WO2008/017517及び本発明者らの刊行物で開示される実験データにより実証されている。
【0108】
本発明は、抗原特異的細胞溶解性CD4+T細胞をインビボ又はインビトロのどちらかで生成する方法、及びそれとは独立に、特徴的な発現データに基づきFoxp3+ Treg等の他の細胞集団から細胞溶解性CD4+T細胞を識別する方法を提供する。
【0109】
本発明は、抗原特異的CD4+T細胞の作成のためのインビボ法を記載する。特定の実施形態は、動物(ヒトを含む)を本明細書に記載された本発明のペプチドで免疫化し、次いでCD4+T細胞を免疫化動物から単離することによるCD4+T細胞を作製又は単離する方法に関する。本発明は、APCに対する抗原特異的細胞溶解性CD4+T細胞の作製のためのインビトロ法を記載する。本発明は、APCに対する抗原特異的細胞溶解性CD4+T細胞を生成する方法を提供する。
【0110】
1つの実施形態において、末梢血細胞の単離と、本発明による免疫原性ペプチドによる細胞集団のインビトロでの刺激と、刺激された細胞集団の、より具体的にはIL-2の存在下での拡大とを含む方法が提供される。本発明による方法は、多数のCD4+T細胞が作製され、抗原タンパク質に特異的なCD4+T細胞が生成され得る(抗原特異的エピトープを含むペプチドを使用することにより)という利点を有する。
【0111】
代替の実施形態において、CD4+T細胞は、インビボで、すなわち、被験者への本明細書に記載された免疫原性ペプチドの注射、及びインビボで生成された細胞溶解性CD4+T細胞の採取により生成することができる。
【0112】
本発明の方法により得ることができるAPCに対する抗原特異的細胞溶解性CD4+T細胞は、アレルギー反応の予防及び自己免疫疾患の治療における免疫療法のための哺乳動物への投与が特に興味深い。同種及び自家細胞の使用の両方が想定される。
【0113】
細胞溶解性CD4+T細胞集団が、本明細書で以下に記載されるように得られる。
【0114】
本明細書に記載された抗原特異的細胞溶解性CD4+T細胞は、より具体的には養子細胞療法、より具体的には急性アレルギー反応及び多発性硬化症等の自己免疫疾患の再発の治療における使用のための医薬として使用することができる。単離細胞溶解性CD4+T細胞又は細胞集団、より具体的には、記載されているように生成された抗原特異的細胞溶解性CD4+T細胞集団は、免疫障害の予防又は治療のための医薬の製造に使用される。単離又は生成された細胞溶解性CD4+T細胞を使用することによる治療の方法が開示される。
【0115】
WO2008/017517で説明されるように、APCに対する細胞溶解性CD4+T細胞は、細胞発現の特徴に基づいて、天然Treg細胞から区別することができる。より具体的には、細胞溶解性CD4+T細胞集団は、天然Treg細胞集団と比較して以下の特徴のうち1つ又は複数を示す:
活性化した際の、CD103、CTLA-4、Fasl及びICOSを含む表面マーカーの発現増大、
CD25の中間体発現、
CD4、ICOS、CTLA-4、GITRが発現し、CD127(IL7-R)の発現が小さいか見られず、CD27の発現が見られないこと、
転写因子T-bet及びegr-2(Krox-20)が発現するが転写リプレッサーFoxp3の発現が見られないこと、
IFN-ガンマが高産生され、IL-10、IL-4、IL-5、IL-13又はTGF-ベータが見られないか微量しかないこと。
【0116】
更に、細胞溶解性T細胞はCD45RO及び/又はCD45RAを発現し、CCR7、CD27は発現せず、高レベルのグランザイムB及びその他のグランザイム、及びFasリガンドを提示する。
【0117】
本発明のペプチドは、生きている動物、典型的には人間に投与すると、バイスタンダーT細胞に対し抑制活性を発揮する特異的なT細胞を誘発するはずである。
【0118】
特定の実施形態において、本発明の細胞溶解性細胞集団は、FasL及び/又はインターフェロンガンマの発現を特徴とする。特定の実施形態において、本発明の細胞溶解性細胞集団は、グランザイムBの発現を更に特徴とする。
【0119】
この機構は、本発明のペプチドが、特定の抗原の特異的T細胞エピトープを含むにもかかわらず、同じ抗原の他のT細胞エピトープに対する免疫反応により誘発される障害の予防若しくは治療に使用でき、又は特定の状況では、他の異なる抗原の他のT細胞エピトープに対する免疫反応により誘発される障害の治療にすら使用できる(それらが、本発明のペプチドにより活性化されたT細胞の近くでMHCクラスII分子により同じ機構を通じて提示されるならば)ことも意味し、実験結果はこのことを示している。
【0120】
上記の特徴を有し、更に抗原特異的である、すなわち、抗原特異的免疫応答を抑制することができる細胞型の単離細胞集団が開示される。
【0121】
本発明は、薬学的に許容可能な担体を更に含む、本発明による1つ又は複数のペプチドを含む医薬組成物を提供する。上記に詳述したように、本発明は、薬としての使用のための組成物、又は該組成物を使用して免疫障害の哺乳動物を治療する方法、及び免疫障害の予防若しくは治療のための医薬の製造のための該組成物の使用にも関する。該医薬組成物は、免疫障害、特に空中浮遊物アレルギー及び食品由来アレルギー、並びにアレルギー起源の疾患の治療又は予防に適した、例えばワクチンであってもよい。医薬組成物の本明細書に更に記載される例として、本発明によるペプチドは、水酸化アルミニウム(alum)等の哺乳動物への投与に適したアジュバントに吸着される。典型的には、alumに吸着されたペプチド50μgが、2週間間隔で3回、皮下経路により注射される。経口、鼻内又は筋肉内を含む他の投与経路が可能であることは当業者に明白なはずである。また、注射の回数及び注射量は、治療される状態に応じて変わり得る。更に、alum以外のアジュバントが、MHCクラスIIにおけるペプチド提示及びT細胞活性化を促進することを条件として使用され得る。故に、活性成分は単独で投与されることが可能であるが、それらは典型的には医薬製剤として提示される。獣医学的用途及びヒト用途の両方とも、本発明の製剤は、上記した少なくとも1つの活性成分を1つ又は複数の薬学的に許容可能な担体と一緒に含む。本発明は、活性成分として、本発明による1つ又は複数のペプチドを薬学的に許容可能な担体との混合で含む医薬組成物に関する。本発明の医薬組成物は、治療又は予防の方法に関して以下に示すような活性成分の治療的に有効な量を含むべきである。場合により、組成物は、他の治療成分を更に含む。適切な他の治療成分、及びそれらが属するクラスに応じたその通常の投与量は当業者に周知であり、免疫障害を治療するのに使用される他の既知の薬物から選択することができる。
【0122】
「薬学的に許容可能な担体」という用語は本明細書で使用される場合、例えば組成物を溶解、分散若しくは拡散することによる治療される部位への適用若しくは播種を促進し、及び/又は有効性を損なうことなく保管、輸送若しくは取り扱いを促進するために、活性成分と共に製剤化される任意の材料又は物質を意味する。該担体には、任意の及び全ての溶媒、分散媒、コーティング、抗菌剤及び抗真菌剤(例えば、フェノール、ソルビン酸、クロロブタノール)、等張剤(糖又は塩化ナトリウム等)等が含まれる。追加の成分が、組成物中の免疫原性ペプチドの作用の持続時間を制御するために含まれてもよい。薬学的に許容可能な担体は、固体又は液体又は液体を形成するように圧縮されている気体であってもよく、すなわち、本発明の組成物は、濃縮液、乳剤、溶液、顆粒、粉剤、噴霧剤、エアロゾル、懸濁液、軟膏、クリーム、錠剤、ペレット又は粉末とし適切に使用され得る。医薬組成物及びその製剤における使用のための適切な薬学的担体は当業者に周知であり、本発明内でその選択に特別な制約はない。薬学的に許容可能な担体には、湿潤剤、分散剤、固着剤、接着剤、乳化剤、溶媒、コーティング、抗菌剤及び真菌剤(例えば、フェノール、ソルビン酸、クロロブタノール)、等張剤(糖又は塩化ナトリウム等)等の添加剤も含まれ得る(但し、これらが医薬慣例と一致していること、すなわち哺乳動物に永続的損傷をもたらさない担体及び添加剤である)。本発明の医薬組成物は、任意の既知の様式で、例えば、選択された担体材料、及び適当な場合、表面活性剤等の他の添加剤と共に、単一工程又は多工程手順で、活性成分を均一に混合、コーティング及び/又は粉砕して調製することができる。本発明の医薬組成物は、例えば通常は約1~10μmの直径を有するミクロスフェアの形態で、すなわち、活性成分の制御放出又は持続放出のためのマイクロカプセルの製造のために得ることを考慮して、微粒子化により調製することもできる。
【0123】
本発明の医薬組成物において使用される、エマージェント(emulgent)又は乳化剤としても知られる適切な表面活性剤が、優れた乳化、分散及び/又は湿潤特性を有する非イオン、カチオン及び/又はアニオン材料である。適切なアニオン性界面活性剤には、水溶性石鹸及び水溶性合成表面活性剤の両方が含まれる。適切な石鹸は、高級脂肪酸(C10~C22)のアルカリ金属塩若しくはアルカリ土類金属塩、非置換若しくは置換アンモニウム塩、例えばオレイン酸若しくはステアリン酸のナトリウム若しくはカリウム塩、又はヤシ油若しくは獣脂油から入手可能な天然脂肪酸混合物のアルカリ金属塩若しくはアルカリ土類金属塩、非置換若しくは置換アンモニウム塩である。合成界面活性剤には、ポリアクリル酸のナトリウム又はカルシウム塩;脂肪族スルホン酸塩及び硫酸塩;スルホン化ベンズイミダゾール誘導体及びアルキルアリールスルホン酸塩が含まれる。脂肪族スルホン酸塩又は硫酸塩は、通常、アルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩、非置換アンモニウム塩又は8~22個の炭素原子を有するアルキル又はアシル基で置換されたアンモニウム塩、例えばリグノスルホン酸若しくはドデシルスルホン酸のナトリウム若しくはカルシウム塩、又は天然脂肪酸から得られた脂肪アルコール硫酸塩の混合物、硫酸若しくはスルホン酸エステルのアルカリ金属塩若しくはアルカリ土類金属塩(ナトリウムラウリル硫酸塩等)、及び脂肪アルコール/エチレンオキシド付加物のスルホン酸の形態にある。適切なスルホン化ベンズイミダゾール誘導体は、典型的には8~22個の炭素原子を含有する。アルキルアリールスルホン酸塩の例は、ドデシルベンゼンスルホン酸若しくはジブチル-ナフタレンスルホン酸のナトリウム、カルシウム若しくはアルカノールアミン塩、又はナフタレン-スルホン酸/ホルムアルデヒド縮合産物である。同様に適切であるのは、対応するリン酸塩、例えばリン酸エステルの塩、並びにp-ノニルフェノールとエチレン及び/若しくはプロピレンオキシドとの付加物、又はリン脂質である。この目的に適切なリン脂質は、例えばホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルグリセリン、リゾレシチン、カルジオリピン、ジオクタニルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン及びそれらの混合物等の、セファリン又はレシチン型の天然(動物又は植物細胞に由来する)又は合成リン脂質である。
【0124】
適切な非イオン性界面活性剤には、分子中に少なくとも12個の炭素原子を含有するアルキルフェノール、脂肪アルコール、脂肪酸、脂肪族アミン又はアミドのポリエトキシル化及びポリプロポキシル化誘導体、アルキルアレーンスルホン酸塩及びジアルキルスルホサクシネート(脂肪族及び脂環式アルコール、飽和及び不飽和脂肪酸及びアルキルフェノールのポリグリコールエーテル誘導体等)、アルキルフェノールの(脂肪族)炭化水素部分に3~10グリコールエーテル基及び8~20個の炭素原子、並びにアルキル部分に6~18個の炭素原子を典型的には含有する誘導体が含まれる。更なる適切な非イオン性界面活性剤は、ポリエチレンオキシドと1~10個の炭素原子をアルキル鎖に含有するポリプロピレングリコール、エチレンジアミノ-ポリプロピレングリコールとの水溶性付加物である。該付加物は、20~250個のエチレングリコールエーテル基及び/又は10~100個のプロピレングリコールエーテル基を含有する。そのような化合物は、通常、プロピレングリコール単位当たり1~5個のエチレングリコール単位を含有する。非イオン性界面活性剤の代表例は、ノニルフェノール-ポリエトキシエタノール、ヒマシ油ポリグリコールエーテル、ポリプロピレン/ポリエチレンオキシド付加物、トリブチルフェノキシポリエトキシエタノール、ポリエチレングリコール及びオクチルフェノキシポリエトキシエタノールである。ポリエチレンソルビタン(ポリオキシエチレンソルビタントリオレエート等)、グリセロール、ソルビタン、スクロース及びペンタエリスリトールの脂肪酸エステルも、適切な非イオン性界面活性剤である。適切なカチオン性界面活性剤には、ハロ、フェニル、置換フェニル又はヒドロキシで場合により置換された4個の炭化水素基を有する第四級アンモニウム塩(特にハロゲン化物);例えば、N-置換基として少なくとも1つのC8C22アルキル基(例えば、セチル、ラウリル、パルミチル、ミリスチル、オレイル等)並びに、更なる置換基として、非置換又はハロゲン化低級アルキル、ベンジル及び/又はヒドロキシ低級アルキル基を含有する第四級アンモニウム塩が含まれる。
【0125】
この目的に適した表面活性剤のより詳細な記載は、例えば「McCutcheon's Detergents and Emulsifiers Annual」(MC Publishing Crop.、Ridgewood、New Jersey、1981)、「Tensid-Taschenbucw」、第2版(Hanser Verlag、Vienna、1981)、及び「Encyclopaedia of Surfactants」、(Chemical Publishing Co.、New York、1981)に見出すことができる。本発明によるペプチド、その相同体又は誘導体(及び「活性成分」という用語に全て含まれるその生理学的に許容可能な塩又は医薬組成物)は、治療される状態に適当な、並びに化合物、ここでは投与されるタンパク質及び断片に適当な任意の経路により投与することができる。可能性のある経路には、局部、全身、経口(固形又は吸入)、直腸、経鼻、局所(眼、口腔及び舌下を含む)、膣及び非経口(皮下、筋肉内、静脈内、皮内、動脈内、くも膜下及び硬膜外を含む)が含まれる。好ましい投与経路は、例えばレシピエントの状態又は治療される疾患により異なり得る。本明細書に記載するように、担体は、最適には、製剤の他の成分と適合性であり、そのレシピエントに対して有害でないという意味で「許容可能」である。製剤には、経口、直腸、経鼻、局所(口腔及び舌下を含む)、膣又は非経口(皮下、筋肉内、静脈内、皮内、動脈内、くも膜下及び硬膜外を含む)投与に適したものが含まれる。
【0126】
非経口投与に適した製剤には、抗酸化剤、緩衝液、静菌薬、及び意図されたレシピエントの血液と製剤を等張にする溶質を含有し得る水性及び非水性滅菌注射溶液;並びに懸濁剤及び増粘剤を含み得る水性及び非水性滅菌懸濁液が含まれる。製剤は、単位用量容器又は複数回用量容器、例えば密封アンプル及びバイアルで提示されてもよく、使用の直前に滅菌液体担体、例えば注射用水の添加のみを必要とするフリーズドライ(凍結乾燥)状態で保管されてもよい。即時注射溶液及び懸濁液は、以前に記載した種類の滅菌粉末、顆粒及び錠剤から調製されてもよい。
【0127】
典型的な単位投与製剤は、活性成分の、本明細書で上記に列挙した日用量若しくは単位準日用量、又はその適当な分量を含有するものである。特に上述した成分に加えて、本発明の製剤は、当該製剤のタイプを考慮して当技術分野で慣習的な他の薬剤を含んでもよく、例えば、経口投与に適したものは香味剤を含み得ることが理解されるべきである。本発明によるペプチド、その相同体又は誘導体は、活性成分として本発明の1つ又は複数の化合物を含有する制御放出医薬製剤(「制御放出製剤」)を提供するのに使用することができ、制御放出製剤は、低頻度の投与を可能にし、又は所与の本発明の化合物の薬物動態学的若しくは毒性プロファイルを改善するように活性成分の放出が制御及び調節される。別々の単位が本発明の1つ又は複数の化合物を含む経口投与に適合した制御放出製剤が、従来の方法に従って調製され得る。組成物中の活性成分の作用の持続時間を制御するために、追加の成分が含まれてもよい。制御放出組成物は、故に、例えばポリエステル、ポリアミノ酸、ポリビニルピロリドン、エチレン酢酸ビニルコポリマー、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、硫酸プロタミン等の適当なポリマー担体を選択して達成することができる。薬物放出の速度及び作用の持続時間は、ハイドロゲル、ポリ乳酸、ヒドロキシメチルセルロース、ポリメチルメタクリレート、及び他の上記のポリマー等の重合物質の粒子、例えばマイクロカプセルに活性成分を組み込むことにより制御することもできる。そのような方法には、リポソーム、ミクロスフェア、マイクロエマルジョン、ナノ粒子、ナノカプセル等のようなコロイド薬物送達系が含まれる。投与経路に応じて、医薬組成物は、保護コーティングを必要とする場合がある。注射に適した医薬形態には、その即時調製用の滅菌水性溶液又は分散液及び滅菌粉末が含まれる。したがって、この目的に対する典型的な担体には、生体適合性水性緩衝液、エタノール、グリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等、及びそれらの混合物が含まれる。幾つかの活性成分が組み合わせて使用される場合、それらは治療される哺乳動物において、必ずしも同時に、直ちに複合治療効果を発揮するわけではないという事実に照らして、対応する組成物は、別個だが隣接した貯蔵庫又は区画に2つの成分を含有する医療キット又は包装の形態であることもできる。したがって、後者の文脈では、各活性成分は、他の成分とは異なる投与経路に適した方法で製剤化されてもよく、例えば活性成分の一方は経口又は非経口製剤の形態であり得るのに対し、他方は静脈内注射用のアンプル又はエアロゾルの形態にある。
【0128】
本発明において得られる細胞溶解性CD4+T細胞は、インビトロ及びインビボで実証されているように、樹状細胞及びB細胞の両方に影響を及ぼす、MHCクラスII依存性同種活性化後のAPCアポトーシスを誘導し、(2) IL-10及び/又はTGF-ベータの非存在下で接触依存性機構によりバイスタンダーT細胞を抑制する。細胞溶解性CD4+T細胞は、WO2008/017517で詳細に論じられているように、天然及び適応Tregsの両方から区別することができる。
【0129】
本発明は、限定する意図なく提供される以下の例によってこれより例証される。更に、本明細書に記載された全ての参考文献は、参照により本明細書に明示的に含まれる。
【実施例】
【0130】
(実施例1)
ペプチド設計
WO2016059236で開示されるペプチドと比較して、以下に示されるアラインメントに示すように、インスリンのCドメインのT細胞エピトープを含み、インスリン配列には存在しないVRジペプチド配列が除去されたペプチドを合成する:
P17 001:HCPYC VR SLQPLALEGSLQKRG[配列番号25]
P17 003:HCPYC- SLQPLALEGSLQKRG[配列番号26]
【0131】
故にP17 003ペプチドは、xxがPro及びTyrである、Hisに先行されるCxxC[配列番号18]モチーフを含む。9アミノ酸のT細胞エピトープは配列LALEGSLQK[配列番号3]を有し、CxxC[配列番号18]モチーフから4アミノ酸SLQPのリンカーで隔てられている。RGジペプチドは、エピトープのフランキング配列c末端である。このペプチドでは、配列SLQPLALEGSLQKRG[配列番号20]はインスリンに存在する配列と100%同一である。
【0132】
(実施例2)
ペプチドの還元活性を評価するための方法論
ペプチドのレダクターゼ活性は、Tomazzolliら(2006) Anal. Biochem. 350、105~112頁に記載された蛍光を用いて決定する。FITC標識を有する2つのペプチドは、ジスルフィド架橋を介して互いに共有結合すると自己消光になる。本発明によるペプチドにより還元すると、還元された個々のペプチドは再び蛍光になる。
【0133】
ジチオスレイトール(100%還元活性)及び水(100%還元活性)で対照実験を行った。
【0134】
ペプチドP17 001は68%の還元活性を示し、ペプチドP17 003は65%の還元活性を示した。
【0135】
(実施例3)
細胞溶解性CD4+T細胞株によるインターフェロンガンマ放出
インターフェロンガンマは、細胞溶解性CD4+T細胞の特徴を示すための重要なマーカーである。T1D患者(T1D07)由来のナイーブCD4+T細胞を、ペプチドp17-001でプライミング及び刺激することにより、特異的CD4+T細胞株を得た。12回の刺激の後、ペプチドp17-001又はp17-003がローディングされた自己LCL B細胞(2μM)と細胞を共培養した。24時間後、上清を採取し、マルチプレックスアッセイによりIFN-ガンマを測定した(以下のtable 1(表1)を参照のこと)。
【0136】
【0137】
2つのペプチドの間には、IFN-ガンマ産生において顕著な差がある(p17 001と比較して、p17 003による刺激後には約3倍のIFN-ガンマが産生された)。
【0138】
(実施例4)
細胞溶解性CD4+T細胞株によるFasL放出
上記の実施例3に記載されるようにp17 001により最初に生成されたT細胞株を分け、自己LCL B細胞株をAPCとして使用して、4回の連続したインビトロ刺激にわたって、ペプチドP17 003又はP17 001で刺激した。各刺激(計4回)から11日目に、自己B細胞により提示される対応するペプチドでの再刺激後のFasLについて、細胞を試験した。24h(刺激1及び2)又は72h(刺激3及び4)の共培養後に上清を採取した。
【0139】
【0140】
FasL(sFasLとも命名される)発現は、4回の刺激のそれぞれにおいて、P17-003で有意により高い。
【0141】
これは、P17-001ペプチドと比較して高い、P17-003ペプチドの細胞溶解性T細胞を生成する能力を例証している。
【0142】
(実施例5)
T1D-患者のPBMCにおけるsFasL放出及びサイトカイン産生
T1D-患者T1D018由来のPBMCを、P17001ペプチド又はP17003ペプチドのいずれかによりインビトロで刺激した。これら2つの集団は、抗原による活性化後にIl-5を特異的に放出する。ペプチドによる6回の刺激サイクル後に、サイトカイン捕捉ビーズにより、両細胞株はIL-5産生細胞が豊富となった。インターロイキン-5陰性細胞の2集団は、対照として使用した。
【0143】
次いでこれら4つの集団を、同種のペプチド(P17-001又はP17-003)による刺激後の、sFasL、グランザイムB及びサイトカインの特異的放出について試験する。24hの培養後に上清を採取し、sFasL及びグランザイムBをELISA(sFasL:Diaclone社851730010;グランザイムB:eBioscience社BMS2027)で、サイトカインをMACSplex Cytokine 12キット(Miltenyi社、130-099-169)で測定する。
【0144】
5.1. sFasL産生
4つの細胞株のsFasLレベルを
図1に示す。これは、ペプチドp17-003又はp17-001に特異的な特定の細胞において豊富なIL5陽性画分(黒のヒストグラム)が、陰性画分(白のヒストグラム)と比較してより多くのsFasLを放出することを示し、効率的で特異的な細胞精製であることがわかる。
【0145】
更に結果は、p17-003でのインビトロ刺激により生成された細胞が、ペプチドp17-001により生成された細胞と比較して、4.5倍有意に多いsFasLを特異的に放出することを示している(p<0.0001)。
【0146】
5.2. グランザイムB産生
効率的で特異的な細胞精製の尺度として、ペプチドp17-003又はp17-001に特異的な特定の細胞において豊富なIL5陽性画分を、IL5陰性画分と比較してのより多いグランザイムB放出について試験する。
【0147】
更に、p17-003でのインビトロ刺激により生成された細胞を、ペプチドp17-001により生成された細胞と比較しての、特に増大したグランザイムB放出について試験することになる。
【0148】
5.3. サイトカイン放出
インビトロで培養されたT1Dドナー由来の細胞がペプチドP17001又はP17003に特異的であるかどうかを決定するため、ペプチド刺激した際の細胞活性化の特徴であるサイトカイン放出について、MACSplex Cytokine 12キット(Miltenyi社、130-099-169)を使用して研究した。ペプチド非存在又は存在下で、T1DドナーPBMCの培養物から上清を24h後に採取した。生物学的に2度繰り返してサイトカイン濃度を決定し、pg/mLで示した。刺激10終了時(休息日)に特異性試験を行った。ペプチドなし及びありの条件で、各サイトカイン濃度の差として結果を提示する。
【0149】
図2は、P17003細胞株のIL5陽性画分が、細胞株P17003 IL5陰性、P17001 IL5陰性及びP17001 IL5陽性と比較して、刺激に対し特異的に応答することを示している。これは、ペプチドP17003がP17001と比較して、ペプチド特異的な細胞を誘発するにあたってより強力であることを例証している。
【0150】
結論として、P17-003により新規に生成された細胞は、P17-001により生成された細胞よりも、溶解性分子(sFasL及び潜在的にグランザイムB等)及びサイトカインを放出するにあたって強力である。故にこのペプチドは、インスリンエピトープを提示するAPCに対して優れた細胞溶解特性を有するCD4+細胞集団をもたらす。
【0151】
(実施例6)
臨床試験
投与の前に本発明のペプチドを、アジュバントを含む希釈剤でもどす。産物は即座にもどすべきであり、好ましくはもどした後3時間未満内で使用される。
【0152】
希釈剤でもどした後にバイアル中のペプチド濃度が250μg/mlとなるように、治験医薬品を製剤化することができる。臨床試験プロトコルに従うように、適切な体積を取ることになる。例えば:
低用量(コホート1)は、2回の別個の注射各25μg(各100μL)でのペプチド50μgのSC投与、その後、2回の別個の注射各12.5μg(各50μL)としてのペプチド25μgの3回の連続した注射を含み得る。
中用量(コホート2)は、2回の別個の注射各75μg(各300μL)でのペプチド150μgのSC投与、その後、2回の別個の注射各37.5μg(各150μL)としてのペプチド75μgの3回の連続した投与を含み得る。
高用量(コホート3)は、2回の別個の注射各225μg(各900μL)でのペプチド450μgのSC投与、その後、2回の別個の注射各112.5μg(各450μL)としてのペプチド225μgの3回の連続した投与を含み得る。
【0153】
本発明による治験製品は、好ましくは肘と肩の中間、上腕の外側部領域に皮下(SC)注射される。2回の別個の注射が必要な際は、好ましくは両腕:例えば注射1が右腕に、注射2が左腕に、同時に投与される。
【配列表】