(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-08
(45)【発行日】2022-07-19
(54)【発明の名称】腫瘍を標的とし癌を治療するための細菌
(51)【国際特許分類】
C12N 1/21 20060101AFI20220711BHJP
A61K 35/74 20150101ALI20220711BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20220711BHJP
【FI】
C12N1/21 ZNA
A61K35/74 Z
C12N15/09 Z
(21)【出願番号】P 2020513883
(86)(22)【出願日】2018-08-14
(86)【国際出願番号】 CN2018100424
(87)【国際公開番号】W WO2019047679
(87)【国際公開日】2019-03-14
【審査請求日】2021-05-26
(31)【優先権主張番号】PCT/CN2017/101069
(32)【優先日】2017-09-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【微生物の受託番号】CGMCC CGMCC NO.14577
【微生物の受託番号】CGMCC CGMCC NO.14578
【微生物の受託番号】CGMCC CGMCC NO.14579
【微生物の受託番号】CGMCC CGMCC NO.14580
(73)【特許権者】
【識別番号】520074631
【氏名又は名称】ニュー ポータル リミテッド
【氏名又は名称原語表記】NEW PORTAL LIMITED
【住所又は居所原語表記】Rooms 2202-2203, 22/F, Harbour Centre, 25 Harbour Road, Wanchai, Hong Kong (CN).
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】ジン, イェ
【審査官】池上 京子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/098246(WO,A1)
【文献】Molecular Therapy,2014年,vol.22, no.7,p.1266-1274
【文献】Gene Therapy,2009年,vol.16,p.329-339
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00-7/08
C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
核酸システムと、
腫瘍細胞を死滅させる細胞毒素をコードする遺伝子とを含む、腫瘍を標的とし癌を治療するための細菌であって、
前記核酸システムは、
前記細菌を死滅させる毒素をコードする第1のDNA断片と、
前記毒素を無効にする解毒剤をコードし、腫瘍組織において転写されるが非腫瘍組織においては転写されない第2のDNA断片と、
前記第2のDNA断片に動作可能に連結され、前記解毒剤が前記腫瘍組織において発現されるが前記非腫瘍組織においては発現されないように、グルコースレベルの制御下で前記第2のDNA断片の転写を抑制する解毒剤遺伝子のプロモーターと、
前記第1のDNA断片に動作可能に連結され、前記毒素が前記腫瘍組織及び前記非腫瘍組織において発現されるように、前記第1のDNA断片の構成的転写を引き起こす毒素遺伝子の構成的プロモーターと、を含む、細菌。
【請求項2】
腫瘍細胞を死滅させる前記細胞毒素は、緑膿菌エキソリシン、セレウス菌非溶血性エンテロトキシン、コレラ菌溶血素A及び大腸菌α溶血素からなる群から選択される、請求項1に記載の細菌。
【請求項3】
前記腫瘍組織は、0.424mMよりも低いグルコース濃度を有し、前記解毒剤遺伝子のプロモーターは、前記グルコースレベルが0.424mMよりも低いときに、前記第2のDNA断片の前記転写を開始する、請求項1~2のいずれか1項に記載の細菌。
【請求項4】
前記非腫瘍組織は、1.22mMよりも高いグルコース濃度を有し、前記解毒剤遺伝子のプロモーターは、前記グルコースレベルが1.22mMよりも高いときに、前記第2のDNA断片の前記転写を抑制する、請求項1~3のいずれか1項に記載の細菌。
【請求項5】
前記解毒剤遺伝子のプロモーターは、前記第2のDNA断片のすぐ上流に位置する、請求項1~4のいずれか1項に記載の細菌。
【請求項6】
前記毒素遺伝子の構成的プロモーターは、前記第1のDNA断片のすぐ上流に位置する、請求項1~5のいずれか1項に記載の細菌。
【請求項7】
前記解毒剤遺伝子のプロモーターは、lacプロモーター、gltAプロモーター、sdhADCプロモーター及びtnaBプロモーターからなる群から選択される、請求項1~6のいずれか1項に記載の細菌。
【請求項8】
一対の前記毒素と前記解毒剤は、CcdB-CcdA対、AvrRxo1-Arc1対、Hha-TomB対、及びPaaA2-ParE2対からなる群から選択される、請求項1~7のいずれか1項に記載の細菌。
【請求項9】
前記第1のDNA断片は、配列番号1に示され、前記第2のDNA断片は、配列番号2に示される、請求項1~8のいずれか1項に記載の細菌。
【請求項10】
前記解毒剤遺伝子のプロモーターは、配列番号3に示される、請求項1~9のいずれか1項に記載の細菌。
【請求項11】
5~6個のヌクレオチドからなり、前記第2のDNA断片のすぐ上流に位置する前記細菌の元の5~6個のヌクレオチドを置き換えるランダム配列をさらに含む、請求項1~10のいずれか1項に記載の細菌。
【請求項12】
前記ランダム配列は、GCCTT又はTGTCTである、請求項11に記載の細菌。
【請求項13】
前記細菌は、クロラムフェニコール耐性カセットをコードする第3のDNA断片をさらに含み、前記第3のDNA断片は、配列番号4に示される、請求項1~12のいずれか1項に記載の細菌。
【請求項14】
大腸菌、サルモネラ菌及び赤痢菌からなる群から選択される細菌株に由来する、請求項1~13のいずれか1項に記載の細菌。
【請求項15】
大腸菌MG1655に由来する、請求項1~14のいずれか1項に記載の細菌。
【請求項16】
前記核酸システムは、配列番号7又は配列番号8に示される、請求項1~15のいずれか1項に記載の細菌。
【請求項17】
核酸システムと、
腫瘍細胞を死滅させる細胞毒素をコードする遺伝子とを含む、腫瘍を標的とし癌を治療するための細菌であって、
前記核酸システムは、
前記細菌を死滅させる毒素をコードし、非腫瘍組織において転写されるが腫瘍組織においては転写されない第1のDNA断片と、
前記毒素を無効にする解毒剤をコードする第2のDNA断片と、
前記第2のDNA断片に動作可能に連結され、前記第2のDNA断片の構成的転写を引き起こす解毒剤遺伝子の構成的プロモーターと、
前記第1のDNA断片に動作可能に連結され、グルコースレベルの制御下で前記第1のDNA断片の転写を引き起こす毒素遺伝子のプロモーターと、を含み、
前記毒素の発現は、前記毒素が前記非腫瘍組織において前記細菌を死滅させるように、前記グルコースレベルの制御下で前記解毒剤の構成的発現よりも高い、細菌。
【請求項18】
前記腫瘍細胞を死滅させる前記細胞毒素は、緑膿菌エキソリシン、セレウス菌非溶血性エンテロトキシン、コレラ菌溶血素A及び大腸菌α溶血素からなる群から選択される、請求項17に記載の細菌。
【請求項19】
前記腫瘍組織は、0.424mMよりも低いグルコース濃度を有し、前記毒素遺伝子のプロモーターは、前記グルコースレベルが0.424mMよりも低いときに、前記第1のDNA断片の前記転写を抑制する、請求項17~18のいずれか1項に記載の細菌。
【請求項20】
前記非腫瘍組織は、1.22mMよりも高いグルコース濃度を有し、前記グルコースレベルが1.22mMよりも高いときに、前記毒素遺伝子のプロモーターは前記第1のDNA断片の前記転写を開始し、かつ前記毒素の発現は前記解毒剤の構成的発現よりも高い、請求項17~19のいずれか1項に記載の細菌。
【請求項21】
前記毒素遺伝子のプロモーターは、前記第1のDNA断片のすぐ上流に位置する、請求項17~20のいずれか1項に記載の細菌。
【請求項22】
前記解毒剤遺伝子の構成的プロモーターは、前記第2のDNA断片のすぐ上流に位置する、請求項17~21のいずれか1項に記載の細菌。
【請求項23】
前記毒素遺伝子のプロモーターは、ptsGのプロモーター、fruBのプロモーター、及びackAのプロモーターからなる群から選択される、請求項17~22のいずれか1項に記載の細菌。
【請求項24】
一対の前記毒素と前記解毒剤は、CcdB-CcdA対、AvrRxo1-Arc1対、Hha-TomB対、及びPaaA2-ParE2対からなる群から選択される、請求項17~23のいずれか1項に記載の細菌。
【請求項25】
前記第1のDNA断片は、配列番号1に示され、前記第2のDNA断片は、配列番号2に示される、請求項17~24のいずれか1項に記載の細菌。
【請求項26】
5~6個のヌクレオチドからなり、前記第1のDNA断片のすぐ上流に位置する前記細菌の元の5~6個のヌクレオチドを置き換えるランダム配列をさらに含む、請求項17~25のいずれか1項に記載の細菌。
【請求項27】
前記細菌は、クロラムフェニコール耐性カセットをコードする第3のDNA断片をさらに含み、前記第3のDNA断片は、配列番号4に示される、請求項17~26のいずれか1項に記載の細菌。
【請求項28】
大腸菌、サルモネラ菌及び赤痢菌からなる群から選択される細菌株に由来する、請求項17~27のいずれか1項に記載の細菌。
【請求項29】
大腸菌MG1655に由来する、請求項17~28のいずれか1項に記載の細菌。
【請求項30】
寄託番号No.14577で中国微生物菌種保蔵管理委員会普通微生物センター(CGMCC)に寄託された株JY1、寄託番号No.14578でCGMCCに寄託された株JY6、寄託番号No.14580でCGMCCに寄託された株SH1、又は寄託番号No.14579でCGMCCに寄託された株JYH1に由来する、請求項1~29のいずれか1項に記載の細菌。
【請求項31】
請求項1~
30のいずれか1項に記載の細菌を含む薬物送達組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細菌、薬物送達組成物、及び癌の治療などの用途でそれを使用する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ほとんどの抗腫瘍薬は、活発に分裂するすべての細胞に対して作用し、深刻な、ひいては致死的な副作用さえもたらす。原発性腫瘍と播種性腫瘍の両方を治療するために、標的療法は、全身投与時に腫瘍と非腫瘍組織とを識別することができなければならない。
【0003】
以前の標的療法は、非生物学的薬物に依存してきた。全身的に送達されるとき、非生物学的薬物は血流中で激しく希釈され、腫瘍に利用できるのはわずかな部分のみである。さらに、非生物学的薬物は、送達が腫瘍血管系に依存するため、血管新生が不十分な低酸素腫瘍組織に効果的に拡散することができない。したがって、伝達後の繁殖が可能であり、血管新生が不十分な腫瘍組織を好む様々な偏性又は通気性嫌気性菌が、過去数十年間にわたって、腫瘍の標的化における安全性及び有効性について評価されてきた。しかしながら、癌の細菌療法への注目が高まっているにもかかわらず、その抗癌効果はこれまでは十分ではなかった。
【0004】
抗癌効果を高めるための要求に鑑みて、腫瘍をより特異的に標的とし、腫瘍を効果的に死滅させる、より多くの治療方法及び治療薬が望まれている。
【発明の概要】
【0005】
本発明の1つの例示的な実施形態は、腫瘍を標的とし癌を治療するための一連の細菌を提供する。各細菌は、核酸システムと、腫瘍細胞を死滅させるが細菌の生存率に影響を与えない細胞毒素をコードする遺伝子とを含む。核酸システムは、細菌を死滅させる毒素をコードする第1のDNA断片と、毒素を無効にする解毒剤をコードする第2のDNA断片と、解毒剤遺伝子のプロモーターと、毒素遺伝子の構成的プロモーターとを含む。
【0006】
いくつかの実施形態では、細胞毒素をコードする遺伝子は相同遺伝子である。いくつかの実施形態では、細胞毒素をコードする遺伝子は異種遺伝子である。いくつかの実施形態では、腫瘍を標的とし癌を治療するための細菌は、遺伝子改変された細菌である。
【0007】
いくつかの実施形態では、細菌は、細胞毒素の構成的プロモーターを含む。いくつかの実施形態では、細菌は、細胞毒素が腫瘍組織において発現されるが非腫瘍組織においてはサイレンシングされるように、細胞毒素の誘導性プロモーターを含む。いくつかの実施形態では、細菌は、細胞毒素が非腫瘍組織において抑制されるが腫瘍組織においては発現されるように、細胞毒素の抑制性プロモーターを含む。
【0008】
いくつかの実施形態では、第2のDNA断片は、腫瘍組織において転写されるが、非腫瘍組織においては転写されない。第2のDNA断片に動作可能に連結された解毒剤遺伝子のプロモーターは、解毒剤が腫瘍組織において発現されるが非腫瘍組織においては発現されないように、グルコースレベルの制御下で第2のDNA断片の転写を抑制する。第1のDNA断片に動作可能に連結された毒素遺伝子の構成的プロモーターは、毒素が腫瘍組織及び非腫瘍組織において発現されるように、第1のDNA断片の構成的転写を引き起こす。
【0009】
いくつかの実施形態では、解毒剤遺伝子のプロモーターは、グルコースが解毒剤遺伝子の転写を抑制するように、解毒剤遺伝子の転写を制御する。いくつかの実施形態では、毒素遺伝子の構成的プロモーターは、毒素遺伝子の構成的発現を引き起こす。
【0010】
いくつかの実施形態では、第1のDNA断片は、非腫瘍組織において転写されるが、腫瘍組織においては転写されない。第2のDNA断片に動作可能に連結された解毒剤遺伝子の構成的プロモーターは、第2のDNA断片の構成的転写を引き起こす。第1のDNA断片に動作可能に連結された毒素遺伝子のプロモーターは、グルコースレベルの制御下で第1のDNA断片の転写を引き起こす。毒素の発現は、毒素が非腫瘍組織において細菌を死滅させるように、グルコースレベルの制御下で解毒剤の構成的発現よりも高い。
【0011】
いくつかの実施形態では、毒素遺伝子のプロモーターは、グルコースが毒素遺伝子の転写を誘導するように、毒素遺伝子の転写を制御する。いくつかの実施形態では、解毒剤遺伝子の構成的プロモーターは、解毒剤遺伝子の構成的発現を引き起こす。
【0012】
いくつかの実施形態では、腫瘍を標的とし癌を治療するための細菌は、腫瘍組織において増殖するが、非腫瘍組織においては増殖しない。
【0013】
別の例示的な実施形態は、腫瘍を標的とし癌を治療するための細菌を含む薬物送達組成物を提供する。別の例示的な実施形態は、細菌又は薬物送達組成物を投与することによって癌を治療する方法を提供する。
【0014】
いくつかの実施形態では、細胞毒素は、緑膿菌エキソリシン、セレウス菌非溶血性エンテロトキシン、コレラ菌溶血素A及び大腸菌α溶血素からなる群から選択される。
【0015】
別の例示的な実施形態は、腫瘍標的化細菌に異種遺伝子を導入すること、又は腫瘍標的化細菌に相同遺伝子を過剰発現させることに関する。異種又は相同遺伝子は、腫瘍細胞を死滅させる細胞毒素をコードする。いくつかの実施形態では、異種遺伝子によってコードされる細胞毒素は、緑膿菌エキソリシン、セレウス菌非溶血性エンテロトキシン及びコレラ菌溶血素Aからなる群から選択され、相同遺伝子によってコードされる細胞毒素は、大腸菌α溶血素である。腫瘍標的化細菌の例としては、低酸素、グルコース欠乏、酸性化などの腫瘍微小環境のシグナルを感知することによって、固形腫瘍において選択的にコロニー形成し、非腫瘍組織を無傷のままにし、それに応じてそれ自体の生存率を制御する細菌が含まれるが、これらに限定されない。これらの腫瘍標的化細菌は、天然又は遺伝子改変された細菌であり得る。
【0016】
他の例示的な実施形態は、本明細書で説明される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1A】例示的な実施形態に係る、細菌に低グルコース環境を標的とさせる毒素-解毒剤遺伝システムを示す。
【
図1B】例示的な実施形態に係る、毒素としてCcdBを用いて、解毒剤としてCcdAを用いて、大腸菌に低グルコース環境を標的とさせる核酸システムを構築する概略図を示す。
【
図1C】例示的な実施形態に係る、抗癌薬を固形腫瘍に送達する遺伝子操作された細菌を含む薬物送達組成物を示す。抗癌薬は、操作された細菌によって生成される抗癌分子又は化合物を含むが、これらに限定されない。
【
図1D】例示的な実施形態に係る、グルコースの存在下で増殖しないがグルコースの非存在下では増殖するクローンを検索するために、0mM~4mMの異なる濃度のグルコースを含むM63寒天培地上にストリークされたクローンを示す。
【
図2A】例示的な実施形態に係る、細菌(10
7/マウス)の静脈内注射から15日後の、Bagg albino/c(BALB/c)マウスのCT26(マウス結腸直腸癌細胞株)腫瘍における、遺伝子操作された細菌株JY1及びJY6、ならびにMG1655と命名された未修飾野生型大腸菌株のコロニー形成を示す。
【
図2B】例示的な実施形態に係る、細菌(10
7/マウス)の静脈内注射から15日後の、CT26腫瘍を有するBALB/cマウスの肝臓における細菌株JY1及びJY6ならびにMG1655のコロニー形成を示す。
【
図2C】例示的な実施形態に係る、細菌(10
7/マウス)の静脈内注射から15日後の、CT26腫瘍を有するBALB/cマウスにおける、細菌株JY1及びJY6ならびにMG1655によってコロニー形成された肝臓の割合を示す。
【
図2D】例示的な実施形態に係る、細菌(10
7/マウス)の静脈内注射から7日後の、HCT116(ヒト結腸直腸癌細胞株)腫瘍を有するヌードマウスの腫瘍における、細菌株JY1及びJY6ならびにMG1655のコロニー形成を示す。
【
図2E】例示的な実施形態に係る、細菌(10
7/マウス)の静脈内注射から7日後の、HCT116腫瘍を有するヌードマウスの肝臓における、細菌株JY1及びJY6ならびにMG1655のコロニー形成を示す。
【
図2F】例示的な実施形態に係る、細菌(10
7/マウス)の静脈内注射から7日後の、HCT116腫瘍を有するヌードマウスにおける、細菌株JY1及びJY6ならびにMG1655によってコロニー形成された肝臓の割合を示す。
【
図3A】例示的な実施形態に係る、皮下SW480(ヒト結腸直腸癌細胞株)腫瘍を保有するヌードマウスの肝臓及び脾臓における細菌株JYH1及びSH1 hlyのコロニー形成を示す。
【
図3B】例示的な実施形態に係る、皮下SW480腫瘍を保有するヌードマウスにおける細菌株JYH1及びSH1 hlyに感染した肝臓及び脾臓の割合を示す。
【
図3C】例示的な実施形態に係る、細菌株SH1 hlyで処置されたマウスにおいて発現された肝膿瘍を示す。
【
図3D】例示的な実施形態に係る、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、SH1 hly株、及びJYH1株で処置された皮下SW480腫瘍を保有するヌードマウスからのヘマトキシリン及びエオシン(H&E)染色肝臓切片の顕微鏡画像を示す。
【
図4】例示的な実施形態に係る、免疫適格性BALB/cマウスのCT26腫瘍に対する静脈内注射株JYH1の標的効力を示す。
【
図5】例示的な実施形態に係る、グルコース欠乏領域において選択的に生存し増殖することによって固形腫瘍を標的とする遺伝子操作された細菌株を構築する方法を示す。
【
図6A】例示的な実施形態に係る、ヌードマウスのHCT116腫瘍の増殖に対する静脈内注射された大腸菌JYH1の阻害効果を示す。
【
図6B】例示的な実施形態に係る、ヌードマウスのSW480腫瘍の増殖に対する静脈内注射された大腸菌JYH1の阻害効果を示す。
【
図6C】例示的な実施形態に係る、0~55日齢のマウスにPBSを静脈内注射して処置されたSW480腫瘍の代表的な写真を示す。
【
図6D】例示的な実施形態に係る、0~90日齢のマウスにJYH1を静脈内注射して処置されたSW480腫瘍の代表的な写真を示す。
【
図7】ExlA、Nhe、大腸菌α溶血素及びコレラ菌溶血素Aといった細胞毒素のプラスミド由来の産生が癌細胞株B16F10に対して細胞毒性があることを示す、例示的な実施形態に係るインビトロ細胞毒性アッセイを示し、ここで、pBADは、陰性対照として機能する空のプラスミドであり、hlyCABDは、大腸菌α溶血素及びその分泌システムをコードするオペロンであり、Vhlyは、コレラ菌溶血素Aをコードする遺伝子である。エラーバー、SD。
【
図8】例示的な実施形態に係る、プラスミド由来の大腸菌α溶血素及びコレラ菌溶血素Aの溶血活性を示す。ここで、hlyCABDは、大腸菌α溶血素及びその分泌システムをコードするオペロンであり、Vhlyは、コレラ菌溶血素Aをコードする遺伝子である。すべてのプラスミドは、非病原性かつ非溶血性の大腸菌参照株TOP10に導入された。
【
図9】細胞毒素が免疫適格性マウスにおいてマウス同系腫瘍に対する大腸菌の阻害能力を高めることを示す。C57BL/6Nマウスのマウス黒色腫B16F10腫瘍に、様々な細胞毒素を発現するか又は発現しない単回用量の大腸菌を注射した。(A)経時的なマウスの体重。エラーバー、SEM。(B)腫瘍増殖に対する腫瘍内注射細菌(5×10
7/マウス)の効果。空のプラスミドpBADを保有する細菌で処理されたマウスとPBSで処理されたマウス(陰性対照)を、過剰な腫瘍増殖による腫瘍測定後9日目に安楽死させた。エラーバー、SEM。*、p<0.05。(C)9日目(すなわち、腫瘍チャレンジの9日後)に、試験された細胞毒素を発現する大腸菌又は空のベクターpBADを保有する大腸菌を注射したB16F10腫瘍の代表的な写真。
【
図10】染色体内のhlyCABDオペロンの単一コピーからの大腸菌α溶血素の産生が溶血性大腸菌の抗癌効果に必要ではないことを示す。単回用量の細菌(腫瘍当たり1×10
7cfu)を、C57BL/6Nマウスのマウス黒色腫B16F10腫瘍に注射した。hly+は、染色体内のhlyCABDオペロンを保有する溶血性大腸菌株であり、hly-は、hlyCABDオペロン全体が欠失している溶血性大腸菌株の同質遺伝子変異体である。エラーバー、SEM。
【発明を実施するための形態】
【0018】
例示的な実施形態は、核酸システムに関する。核酸システムは、遺伝子操作された細菌株が固形腫瘍を標的とするが正常組織を無傷のままにするように、細菌株に導入される。遺伝子操作された細菌株は、腫瘍組織において増殖するが、非腫瘍組織においては死滅する。
【0019】
他の例示的な実施形態は、腫瘍を標的とし癌を治療するための細菌に関する。細菌は、腫瘍細胞を死滅させる細胞毒素をコードする異種又は相同遺伝子と核酸システムを含む。腫瘍を標的とし癌を治療するための細菌を生成するために行われる遺伝子改変は、任意の順序で行うことができることを理解されたい。例えば、腫瘍細胞を死滅させるために、細菌への核酸システムの挿入を最初に実行し、続いて細胞毒素コード遺伝子の挿入を実行することができる。或いは、腫瘍細胞を死滅させる細胞毒素をコードする異種又は相同遺伝子の挿入を最初に実行し、続いて核酸システムの挿入を実行することができる。
【0020】
細胞毒素は、細菌が非腫瘍組織において生き延びない又は生存しないので、非腫瘍組織において発現できない。いくつかの実施形態では、細菌は、腫瘍組織において増殖するが、非腫瘍組織においては増殖しない。
【0021】
低酸素は、細菌を固形腫瘍に標的化する腫瘍微小環境の最も一般的に利用される特徴である。しかし、厳密に低酸素を標的とする偏性嫌気性菌は、固形腫瘍の壊死領域に限定され、一方、通気性嫌気性菌は、固形腫瘍全体にコロニーを形成するが、低酸素標的化の制御が緩やかであるため、正常組織に感染する。本発明に係る例示的な実施形態は、細菌のグルコース依存性の生存率を調節することによって細菌の腫瘍特異性を改善する核酸システムを細菌に導入することにより、これらの技術的課題を解決する。
【0022】
細菌は、様々なメカニズムで哺乳動物細胞を破壊する様々な細胞毒素を産生することができる。いくつかの細胞毒素は、ほとんどの上皮細胞及び内皮細胞を効果的に死滅させる。しかしながら、細菌を患者に投与すると、細菌によって発現される細胞毒素は、腫瘍細胞だけでなく正常細胞にも損傷を与える可能性がある。例示的な実施形態は、細胞毒素が腫瘍細胞のみを損傷するが正常細胞を無傷のまま維持するように、腫瘍特異性を有する遺伝子操作された細菌又は天然細菌に細胞毒素コード遺伝子を導入することにより、これらの技術的課題を解決する。或いは、細胞毒素による正常組織の損傷は、細胞毒素が腫瘍組織においてのみ発現するが非腫瘍組織においてはサイレンシングされるように、グルコース抑制プロモーターなどのいくつかの誘導性又は抑制性プロモーターの下で細胞毒素を誘導的に発現させることによって回避することもできる。さらに、細胞毒素コード遺伝子は、細菌に癌と戦うさらなる能力を与える。
【0023】
例示的な実施形態の細胞毒素は、緑膿菌エキソリシン、セレウス菌非溶血性エンテロトキシン、コレラ菌溶血素A及び大腸菌α溶血素を含むが、これらに限定されない。
【0024】
エキソリシン(ExlA)は、緑膿菌によって排出される膜孔形成毒素である。ExlAは、上皮細胞、内皮細胞、線維芽細胞及びマクロファージなどのほとんどの細胞タイプに溶解能力を有するが、溶血性が低い。非溶血性エンテロトキシン(Nhe)は、セレウス菌に見られる主要な毒素である。Nheは、哺乳動物細胞の細胞膜での孔形成をトリガすることによって細胞溶解を誘発し、G0/G1期で細胞周期停止を誘発し、細胞アポトーシスを誘発するが、溶血を引き起こさない。コレラ菌溶血素Aは、真核細胞膜に孔を形成することによって細胞溶解を引き起こす。ExlA及びNheとは対照的に、コレラ菌溶血素Aは、細胞溶解性だけでなく溶血性もある。大腸菌α溶血素は、尿路病原性大腸菌によって産生される。コレラ菌溶血素Aと同様に、大腸菌α溶血素は、細胞溶解性と溶血性の両方がある。これは、上皮細胞だけでなく、マクロファージ及びナチュラルキラー細胞に対しても細胞毒性があり、大腸菌に対する宿主防御に対抗する。
【0025】
別の実施形態は、腫瘍を標的とし癌を治療するための細菌を患者に投与するステップを含む、癌の治療を必要とする患者の癌を治療する方法を提供する。いくつかの実施形態では、発現された細胞毒素は、癌を治療するために腫瘍細胞溶解を引き起こす。いくつかの実施形態では、細菌は、手術、化学療法、放射線療法、標的療法、免疫療法、ホルモン療法、又は幹細胞移植などの1つ以上のさらなる癌治療法と組み合わせて投与される。療法が別の療法と組み合わせて投与される場合、投与は連続的であってもよく、共投与であってもよい。1つの実施形態では、癌は黒色腫である。
【0026】
別の実施形態は、腫瘍を標的とし癌を治療する細菌を腫瘍細胞と接触させるステップを含む、腫瘍細胞を溶解する方法を提供する。いくつかの実施形態では、この方法は、インビトロ方法である。他の実施形態では、この方法は、インビボ方法である。
【0027】
図1Aは、構成的に発現される毒素コード遺伝子と、グルコースに抑制されるプロモーターの制御下での解毒剤コード遺伝子とを含む核酸システム100を示す。例示的な実施形態に従って、核酸システムは、低グルコース環境を標的とする能力を細菌に与える。
【0028】
毒素-解毒剤遺伝システムは、細菌がグルコース欠乏環境で選択的に増殖するが、グルコースの存在下で死滅することを可能にする。グルコース欠乏は固形腫瘍微小環境の特徴であるため、核酸システムを備えた細菌は、全身に適用されるときに固形腫瘍を特異的に標的とすることができる。腫瘍細胞は、一般に、急速な細胞増殖、過剰なグルコース消費、及び不十分な血液供給のために、グルコースを奪われる。腫瘍組織のグルコース濃度は0.123~0.424mMであり、正常組織のグルコース濃度は1.22~1.29mMであり、1gの組織が1mlであると仮定する。毒素-解毒剤核酸システムは、細菌が低グルコース環境下で選択的に増殖することを可能にする。
【0029】
核酸システムは、腫瘍微小環境の特徴である低グルコース条件下で選択的に増殖する能力を細菌に与える。大腸菌などの細菌は、腫瘍の微小環境において免疫が強く抑制されるため、固形腫瘍に優先的に増殖し、正常組織にあまりコロニーを形成しない固有の能力を有する。低グルコース環境を標的とする核酸システムは、腫瘍特異性が単独で使用するのに不十分な大腸菌などの細菌に高い腫瘍選択性を与え、細菌媒介腫瘍治療の安全性を改善する。
【0030】
例示的な実施形態では、腫瘍標的化システムである核酸システムが細菌の染色体に組み込まれ、それによって細菌は腫瘍を標的とする固有の能力だけに依存せず、その結果、細菌の安全性が改善される。例示的な実施形態では、核酸システムは、プラスミドに挿入される。例示的な実施形態では、核酸システムは、グルコース感知システム又はモジュールである。
【0031】
例示的な実施形態では、核酸システムを保有する細菌は、低グルコース環境を標的とすることによって厳密に固形腫瘍においてコロニー形成する。
【0032】
例示的な実施形態では、核酸システムは、毒素コード遺伝子と、解毒剤コード遺伝子と、解毒剤コード遺伝子の転写を制御するグルコースに抑制されるプロモーターと、毒素コード遺伝子の構成的発現を引き起こす構成的プロモーターとを含む。
【0033】
例示的な実施形態では、生理学的レベルのグルコースを有する環境では、毒素は構成的に発現され、一方、解毒剤の発現はグルコースに抑制されるプロモーターの制御下でグルコースによって抑制される。解毒剤が毒素を無効にするように発現されないため、核酸システムを保有する細菌は、生理学的レベルのグルコースを有する環境で増殖しない。低グルコース環境では、毒素と解毒剤の両方が発現される。解毒剤が毒素を無効にするため、核酸システムを保有する細菌は、低グルコース環境で増殖する。
【0034】
例示的な実施形態では、核酸システムは、毒素コード遺伝子と、解毒剤コード遺伝子と、毒素コード遺伝子の転写を制御するグルコース誘導プロモーターと、解毒剤コード遺伝子の構成的発現を引き起こす構成的プロモーターとを含む。
【0035】
例示的な実施形態では、生理学的レベルのグルコースを有する環境では、解毒剤は構成的に発現され、一方、毒素の発現はグルコース誘導プロモーターの制御下でグルコースによって誘導される。毒素が解毒剤の発現よりも高いレベルで発現されることによって細菌を死滅させるため、核酸システムを保有する細菌は、生理学的レベルのグルコースを有する環境で増殖しない。低グルコース環境では、細菌が生存し増殖するように、毒素は発現されない。
【0036】
例示的な実施形態では、低グルコース環境は、0.424mMよりも低い濃度のグルコースを含む。例示的な実施形態では、高グルコース環境は、1.22mMよりも高い濃度のグルコースを含む。例示的な実施形態では、低グルコース環境は、0.123~0.424mMの濃度のグルコースを有する。例示的な実施形態では、高グルコース環境は、1.22~1.29mMの濃度のグルコースを有する。
【0037】
例示的な実施形態では、固形腫瘍において、毒素の毒性が解毒剤によって拮抗されるように、発現された解毒剤のレベルは、発現された毒素のレベル以上である。
【0038】
例示的な実施形態では、腫瘍標的化核酸システムは、毒素を発現する毒素遺伝子をコードする第1のDNA断片と、毒素を無効にする解毒剤を発現する解毒剤遺伝子をコードする第2のDNA断片と、第1のプロモーター(すなわち、解毒剤遺伝子のプロモーター)と、第1の構成的プロモーター(すなわち、毒素遺伝子の構成的プロモーター)とを含む核酸システムである。第1の構成的プロモーターは、毒素遺伝子の構成的発現を引き起こす。第1のプロモーターは、第2のDNA断片が低グルコース環境下又はグルコースの非存在下で転写されるが、グルコースの存在下又は高グルコース環境下では転写されないように、グルコース濃度の制御下で第2のDNA断片の転写を調節する。例示的な実施形態では、第2のDNA断片は、グルコースの非存在下で転写されるが、M63培地中で濃度が1mM以上の高グルコース環境下では転写されない。
【0039】
例示的な実施形態では、第1のプロモーター(すなわち、解毒剤遺伝子のプロモーター)は、グルコースが解毒剤遺伝子の転写を抑制するように、解毒剤遺伝子の転写を制御する。第2のDNA断片は、固形腫瘍において転写されるが、非腫瘍組織においては転写されない。
【0040】
例示的な実施形態では、腫瘍標的化核酸システムは、毒素を発現する毒素遺伝子をコードする第1のDNA断片と、毒素を無効にする解毒剤を発現する解毒剤遺伝子をコードする第2のDNA断片と、第2のプロモーター(すなわち、毒素遺伝子のプロモーター)と、第2の構成的プロモーター(すなわち、解毒剤遺伝子の構成的プロモーター)とを含む核酸システムである。第2の構成的プロモーターは、解毒剤遺伝子の構成的発現を引き起こす。第2のプロモーターは、第1のDNA断片が高グルコース環境下又は生理学的レベルのグルコースの存在下で転写されるが、グルコースの非存在下又は低グルコース環境下では転写されないように、グルコース濃度の制御下で第1のDNA断片の転写を調節する。例示的な実施形態では、第1のDNA断片は、グルコースの非存在下で転写されないが、M63培地中で濃度が1mM以上の高グルコース環境下では転写される。
【0041】
例示的な実施形態では、第2のプロモーターは、グルコースが毒素遺伝子の転写を誘導するように、毒素遺伝子の転写を制御する。第1のDNA断片は、非腫瘍組織において転写されるが、固形腫瘍においては転写されない。例示的な実施形態では、毒素の発現は、非腫瘍組織において解毒剤の構成的発現よりも高い。
【0042】
例示的な実施形態では、第1のDNA断片は、配列番号1に示される。例示的な実施形態では、第2のDNA断片は、配列番号2に示される。
【0043】
例示的な実施形態では、第1のDNA断片は、第2のDNA断片の上流に位置する。例示的な実施形態では、第1のDNA断片は、第1のプロモーターの上流に位置する。例示的な実施形態では、第1のDNA断片は、第2のDNA断片の下流に位置する。例示的な実施形態では、第2のプロモーターは、第1のDNA断片の上流に位置する。例示的な実施形態では、第1の構成的プロモーターは、第1のDNA断片の上流に位置する。例示的な実施形態では、第2の構成的プロモーターは、第2のDNA断片の上流に位置する。例示的な実施形態では、第1のプロモーターは、配列番号3に示される。
【0044】
例示的な実施形態では、核酸システムは、5~6個のヌクレオチドからなり、第2のDNA断片のすぐ上流かつ第1のプロモーターの下流に位置するランダム配列を含む。例示的な実施形態では、ランダム配列は、GCCTT又はTGTCTである。
【0045】
例示的な実施形態では、核酸システムは、5~6個のヌクレオチドからなり、第1のDNA断片のすぐ上流かつ第2のプロモーターの下流に位置するランダム配列を含む。
【0046】
例示的な実施形態では、核酸システムは、5~6個のヌクレオチドからなり、第2のDNA断片のすぐ上流に位置する細菌の元の又は天然の5~6個のヌクレオチドを置き換えるランダム配列を含む。
【0047】
例示的な実施形態では、核酸システムは、5~6個のヌクレオチドからなり、第1のDNA断片のすぐ上流に位置する細菌の元の又は天然の5~6個のヌクレオチドを置き換えるランダム配列を含む。
【0048】
例示的な実施形態では、核酸システムは、5~6個のヌクレオチドからなり、第1のプロモーターの元の又は天然の5~6個のヌクレオチドを置き換えるランダム配列を含む。例示的な実施形態では、核酸システムは、5~6個のヌクレオチドからなり、第2のプロモーターの元の又は天然の5~6個のヌクレオチドを置き換えるランダム配列を含む。
【0049】
例示的な実施形態では、ランダム配列は、第1のプロモーターの下流に位置する。例示的な実施形態では、ランダム配列は、第2のDNA断片のすぐ上流に位置する。
【0050】
例示的な実施形態では、ランダム配列は、第2のプロモーターの下流に位置する。例示的な実施形態では、ランダム配列は、第1のDNA断片のすぐ上流に位置する。
【0051】
例示的な実施形態では、核酸システムは、選択可能なマーカーをコードする第3のDNA断片を含む。例示的な実施形態では、マーカーは、クロラムフェニコール選択マーカー(CmR)である。例示的な実施形態では、選択可能なマーカーは、クロラムフェニコール耐性カセットである。例示的な実施形態では、第3のDNA断片は、配列番号4に示される。
【0052】
例示的な実施形態では、第3のDNA断片は、第1のDNA断片の下流かつ第1のプロモーターの上流に位置する。例示的な実施形態では、第3の断片は、第2のDNA断片の下流かつ第2のプロモーターの上流に位置する。
【0053】
例示的な実施形態では、核酸システムは、配列番号1、配列番号2、配列番号3、及び配列番号4を含む。例示的な実施形態では、核酸システムは、配列番号5に示される、ccdBの発現を駆動する構成的プロモーターを含む。例示的な実施形態では、核酸システムは、配列番号6に示されるrrnB転写終結領域を含む。例示的な実施形態では、核酸システムは、配列番号7に示される。例示的な実施形態では、核酸システムは、配列番号8に示される。
【0054】
例示的な実施形態では、核酸システムは、毒素遺伝子と、解毒剤遺伝子と、解毒剤遺伝子の転写を制御する第1のプロモーターと、毒素遺伝子の構成的プロモーターとを含む。例示的な実施形態では、核酸システムは、毒素遺伝子と、解毒剤遺伝子と、毒素遺伝子の転写を制御する第2のプロモーターと、解毒剤遺伝子の構成的プロモーターとを含む。
【0055】
例示的な実施形態では、細菌株は、グラム陽性細菌株である。例示的な実施形態では、細菌株は、グラム陰性細菌株である。
【0056】
例示的な実施形態では、細菌株は、大腸菌である。例示的な実施形態では、細菌株は、大腸菌MG1655及び大腸菌SH1からなる群から選択される。
【0057】
図1Bは、例示的な実施形態に係る、大腸菌を低グルコース環境に標的化する核酸システムを構築する概略
図110を示す。
図1Bは、ランダム化されたグルコースに抑制されるラクトースプロモーター(Plac)及びCcdA/CcdB毒素-解毒剤対を使用して、大腸菌を低グルコース環境に標的とする核酸システムを構築することを示す。
【0058】
CcdBは、宿主細菌を死滅させる毒素であり、CcdAは、CcdBに対抗する解毒剤である。腫瘍標的化核酸システムでは、CcdBは、構成的に発現され、一方、CcdAの発現は、グルコースに抑制されるラクトース(lac)プロモーターの制御下でグルコースによって抑制される。低グルコース環境では、解毒剤CcdAの抑制が解除され、CcdBを無効にするため、この核酸システムを保有する細菌は良好に増殖する。生理学的レベルのグルコースの存在下で、細菌を死滅させるために、CcdAの発現が停止し、CcdBは解放される。
【0059】
例示的な実施形態では、腫瘍標的化核酸システムにおいて、CcdAは、構成的に発現され、一方、CcdBの発現は、グルコース誘導プロモーターの制御下でグルコースによって誘導される。低グルコース環境では、毒素CcdBが抑制されるため、この核酸システムを保有する細菌は良好に増殖する。生理学的レベルのグルコースの存在下で、細菌を死滅させるために、CcdBの発現が開始される。
【0060】
図1Bに示すように、5~6個のヌクレオチド(nnnnn)からなるランダム化断片は、ccdA遺伝子の開始コドンのすぐ上流に位置する元の又は天然の5~6個のヌクレオチド(第2のDNA断片の一例)を置き換える。このランダム化断片内の異なる配列は、異なるレベルのccdAの発現をもたらす。いくつかの配列では、腫瘍におけるグルコースレベルは、CcdAの発現を活性化してCcdBの毒性に拮抗するのに十分に低く、正常組織におけるグルコースレベルは、lacプロモーターの制御下でCcdAの発現を遮断するのに十分に高い。クロラムフェニコール選択マーカー(Cm
R)などの選択可能なマーカーも、
図1Bの核酸システムに使用される。
【0061】
ランダム化断片内の異なる配列(核酸システム又はDNAプールのランダムライブラリ)を有する核酸システムは、大腸菌の染色体に挿入され、そして、グルコースの存在下で増殖しないがグルコースの非存在下で増殖する細菌をスクリーニングするために、細菌は、グルコースを含む(Glc(+))か、又はグルコースを含まない(Glu(-))溶原培地(LB)寒天プレート上にストリークされる。矢印112は、グルコース陰性培地で増殖するがグルコースを含む培地で増殖しないクローンを示す。例示的な実施形態では、LB寒天プレート上のグルコースの濃度は、0mM又は5mMである。
【0062】
図1Cは、固形腫瘍を特異的に標的とするだけでなく、抗癌分子又は化合物を生成することによって抗癌薬124を固形腫瘍に送達する遺伝子操作された細菌122を含む薬物送達組成物120を示す。
【0063】
遺伝子操作された細菌122は、薬物124を固形腫瘍に送達し、腫瘍細胞を死滅させる。遺伝子操作された細菌122は、細菌が固形腫瘍において増殖するが非腫瘍組織においては増殖しないように、本明細書に記載の核酸システムを含む。
【0064】
以下の実施例は、様々な実施形態を示すように提供される。
【実施例1】
【0065】
材料及び方法
【0066】
低グルコース環境を標的とする操作された大腸菌のランダムライブラリの構築
【0067】
本実施例で設計された腫瘍標的化核酸システムは、構成的に発現されるccdB遺伝子と、lacプロモーターの制御下でグルコースに抑制されるccdA遺伝子とから構成された。解毒剤CcdAは、生理学的レベルのグルコースの存在下で抑制され、その結果、毒素CcdBが細菌を死滅させる。対照的に、CcdAの発現の抑制が解除され、CcdBの作用に対抗するため、細菌は低グルコース増殖条件下で生存している。低グルコース条件下でlacプロモーターの制御下でCcdBに拮抗するCcdAの能力を改善するため、又はグルコースの存在下で細菌を死滅させるCcdBの能力を高めるために、ccdA遺伝子の開始コドンのすぐ上流に位置する5個のヌクレオチドをランダム化することによって、腫瘍標的化核酸システムのランダムライブラリを構築した。λ-Red組換え技術により染色体の遺伝子操作を容易にするために、
図1Bに示すように、選択可能なマーカー、すなわちクロラムフェニコール選択マーカー(Cm
R)を腫瘍標的化核酸システムに含めた。
【0068】
具体的には、
図1Bに示すように、構成的プロモーターの制御下でのccdB遺伝子と、選択可能なマーカー(loxP-cat-loxPカセットなど)と、5個のヌクレオチド(5nt)-ランダム化領域と、グルコースに抑制されるプロモーター(lacプロモーターなど)の制御下でのccdA遺伝子とを含む一組のDNA断片(つまり、腫瘍を標的とする核酸システム)を、オーバーラップポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって生成した。5nt-ランダム化領域は、核酸システムのランダムライブラリを生成することを可能にする。選択マーカーは、組み換えにより、細菌の染色体に核酸システムを挿入することを可能にする。そして、λ-Red組換え技術を用いて、大腸菌の染色体に核酸システムのライブラリを挿入した。グルコース欠乏LBで1時間回復した後、細菌培養物を、抗生物質(loxP-cat-loxPカセットを選択マーカーとして使用した場合、12.5μg/mlのクロラムフェニコールである)を補充したグルコース欠乏LB寒天に広げた。32℃で一晩培養した後、寒天上に個々のコロニーを形成した。各コロニーは、低グルコース条件下で選択的に増殖する可能性を有する単一の大腸菌の複製に由来する。これらのコロニーは、推定腫瘍標的化細菌のランダムライブラリを形成した。ここで、CcdB-CcdA対を他の毒素-解毒剤対で置き換えることができる。
【0069】
グルコース欠乏環境を標的とする細菌のライブラリスクリーニング:
【0070】
グルコース欠乏LB培地を、低グルコース条件下で選択的に増殖する細菌のライブラリスクリーニングに使用した。ランダムライブラリをスクリーニングするために、各クローンをグルコース欠乏LB寒天及び5mMのグルコース添加LB寒天の両方にストリークした。37℃で一晩培養した後、グルコース欠乏LB寒天上で容易に増殖するがグルコース陽性LB寒天上では増殖しないことが判明したクローンを、最小M63培地寒天を用いてさらに評価した。M63寒天には、30mMグリセロールに加えて、増加する濃度のグルコースを補充した。ここで、大腸菌MG1655以外の細菌株は、同じストラテジーを使用して腫瘍標的化細菌のスクリーニングに使用することができる。
【0071】
操作された細菌の腫瘍標的効力のインビボ評価:
【0072】
6~8週齢のヌードマウスをヒト癌細胞株の腫瘍移植に使用し、6~8週齢の免疫適格性BALB/cマウスをマウス由来細胞株の腫瘍移植に使用した。1×107の細菌を各マウスの尾静脈に注射した。細菌注射後3日ごとに、デジタルキャリパーを用いて腫瘍サイズを測定した。実験の終わりに、コロニー形成単位の決定のために、マウスを安楽死させ、それらの腫瘍及び臓器を除去した。具体的には、1グラムの組織を1mlのリン酸緩衝生理食塩水(PBS)緩衝液中で均質化した。得られた組織懸濁液を連続的に希釈し、平板培養し、希釈懸濁液のコロニー形成単位を計数した。希釈率に応じて各組織の細菌数を算出した。細菌は、腫瘍に存在するが臓器には存在しない場合、腫瘍を特異的に標的とすることができると見なされた。
【0073】
例示的な実施形態では、腫瘍標的化核酸システムは、構成的に発現されるccdB遺伝子、Cm
Rカセット、及び開始コドンのすぐ上流に位置する5nt-ランダム配列を有するlacプロモーター制御ccdAからなる。これらの要素は、必ずしも
図1Bに示す順序で配置されるわけではない。例示的な実施形態では、腫瘍標的化核酸システムは、構成的に発現されるccdA遺伝子、Cm
Rカセット、及び開始コドンのすぐ上流に位置する5nt-ランダム配列を備えたグルコース誘導プロモーター制御ccdBからなる。ccdB-ccdA対は、他の毒素-解毒剤対で置き換えることができる。Cm
Rは、他の選択可能なマーカーで置き換えることができる。ランダム配列中のヌクレオチドの数は5に限定されない。
【0074】
遺伝子クローニング:
【0075】
緑膿菌ExlA、セレウス菌Nhe、コレラ菌溶血素A及び大腸菌α溶血素といった細胞毒素をコードする遺伝子を合成し、GenScriptによるCloneEZシームレスクローニング技術を用いてpBADプラスミドにおいてクローニングした。すべての組換えプラスミドを配列決定分析により確認した。
【0076】
インビトロ細胞毒性アッセイ:
【0077】
試験された各細胞株を、適切な増殖培地中で1×104細胞/ウェルで96ウェルプレートに播種した。細胞が80%コンフルエントに増殖したとき、細胞を、moi100(すなわち、細胞当たり100個の細菌)で試験された大腸菌株と共培養した。対照として、細胞をPBS単独でも共培養した。抗生物質を含まない培地中で4~12時間インキュベートした後、細胞をPBSで3回洗浄し、1%クリスタルバイオレットで5分間染色した。死細胞は洗浄によって除去されているので、生存細胞のみが染色された。染色した細胞をPBSで穏やかに洗浄し、次に95%エタノールで脱染した。脱染溶液における、生存可能な癌細胞の量を反映するクリスタルバイオレット染色の量を、マイクロタイタープレートリーダーを用いて595nmで測定した。共培養された細菌によって死滅させた細胞の割合を、式:(対照-処置)/対照×100を用いて算出した。すべての実験を、2つの独立した状況で4回ずつ実施した。
【0078】
溶血アッセイ:
【0079】
ヒツジの血液を補充したLB寒天上に細菌の一晩培養物を滴下し、次に37℃で8~10時間インキュベートした。寒天の除去により、赤血球の破壊による溶血が明らかになった。
【0080】
腫瘍に対する操作された大腸菌の有効性のインビボ評価:
【0081】
6~8週齢の雌C57BL/6Nマウスをヒト又はマウスの癌細胞株の皮下腫瘍移植に使用した。試験された細胞株の105~106個の細胞を各マウスの脇腹に皮下注射した。腫瘍の平均体積が約150~300mm3に達した、細胞株注射の10~15日後に、107個の細菌を各マウスの尾静脈に注射又は5×107個の細菌を各腫瘍に直接注射した。細菌注射後、3日ごとに腫瘍体積及び体重を測定した。腫瘍体積は、式(最長直径)×(最短直径)2×0.52を用いて計算した。腫瘍重量を含まない体重は、体重から推定腫瘍重量を差し引くことによって計算した(1000mm3の腫瘍組織が1gであると仮定した)。
【実施例2】
【0082】
この実施例では、大腸菌MG1655を使用した。構成的に発現されるCcdB、lacプロモーター制御CcdA、lacプロモーター、及びCmRを用いて、腫瘍標的化核酸システムを構築した。ccdB遺伝子は、lacプロモーターの上流に位置するCmRカセットの上流に位置した。ccdA遺伝子のすぐ上流のlacプロモーターにランダム化断片(この例では5個のヌクレオチド)を挿入することによって、推定腫瘍標的化細菌のランダムライブラリを生成した。ランダムライブラリを大腸菌株MG1655で染色体内に確立した。このランダムライブラリでは、各大腸菌MG1655変異体は、ランダム化されたドメインにおいて独特の5個のヌクレオチド配列を有するlacプロモーター変異体を染色体内に保有していた。ランダムライブラリをスクリーニングして、低グルコース条件下で選択的に増殖する細菌クローンを検索した。具体的には、グルコースが枯渇したLB寒天上にライブラリを構築した。次に、得られた大腸菌クローンを、5mMのグルコースを含むLB寒天とグルコースを含まないLB寒天の両方に個々にストリークして、グルコースの存在下で増殖しなかったがグルコースの非存在下では増殖した大腸菌クローンをスクリーニングした。約1500個のクローンがスクリーニングされ、6個のクローンがグルコース陰性培地で優先的に増殖することが判明した。
【0083】
図1Dは、最小培地M63寒天上のグルコースに対する6個の大腸菌クローンの感受性についての図面130を示す。6個のクローンを精製し、一晩インキュベートし、連続希釈した。10μlの各希釈懸濁液を、0mMのグルコース(Glu)から4mMのGluに増加する濃度のGluを補充した最小培地M63に滴下して、その表現型を確認した。6個のクローンのうち、1番目及び6番目のクローンは、グルコース陰性培地寒天上でよく増殖したが、グルコースの存在下ではあまり増殖しなかった。対照的に、2番目、3番目、4番目及び5番目のクローンは、グルコース陰性及びグルコース陽性培地寒天の両方でかなりの増殖を示した。これを考慮すると、1番目及び6番目のクローン(
図1Dの枠内)は、腫瘍標的化細菌の候補であり、それぞれJY1及びJY6(JY8とも命名される)と命名された。より多くのライブラリスクリーニングを実施した場合、より多くのグルコース感知クローンを特定することができる。
【0084】
クローンJY1の染色体におけるccdA遺伝子の上流のランダム配列は、GCCTTである。JY1のヌクレオチド配列は、配列番号5に示される配列を含む。クローンJY6の染色体におけるccdA遺伝子の上流のランダム配列は、TGTCTである。
【0085】
株JY1は、寄託番号No.14577で寄託日2017年8月30日に中国微生物菌種保蔵管理委員会普通微生物センター(CGMCC)に寄託された。株JY6は、寄託番号No.14578で寄託日2017年8月30日にCGMCCに寄託された。
【実施例3】
【0086】
操作された大腸菌変異体JY1及びJY6は、グルコースに敏感であり、インビトロでグルコースの存在下で増殖しなかった。この実施例は、腫瘍内のグルコースレベルがJY1及びJY6が生存し増殖するのに十分に低いことを示すインビボ実験及びデータを提供する。JY1及びJY6を、CT26(マウス結腸直腸癌細胞株)腫瘍(107cfu/マウス)を有する免疫適格性BALB/cマウスの尾静脈に別々に注射した。親株MG1655を対照として使用した。尾静脈注射の15日後、腫瘍及び肝臓における細菌の分布について分析した。肝臓は、他の臓器よりも細菌感染に対して脆弱であるため、分析のために選択された。
【0087】
図2A~2Fは、マウスの腫瘍を特異的に標的とした大腸菌JY1及びJY6を示す。エラーバー、SEM.*P<0.05、**P<0.01。
【0088】
図2Aは、BALB/cマウスのCT26腫瘍1グラム当たりのコロニー形成単位(CFU)200を示す。
図2Aに示すように、JY1、JY6、及びMG1655は、BALB/cマウスのCT26腫瘍に同等にコロニーを形成し、腫瘍におけるそれらのレベルは、10
8cfu/gを超えていた。これらのデータは、JY1及びJY6の両方が、免疫適格性BALB/cマウスによって保有されるCT26腫瘍内の良好なコロニー形成因子であることを示した。
【0089】
図2Bは、CT26腫瘍を有するBALB/cマウスの肝臓1グラム当たりのCFU210を示す。
図2Bに示すように、JY1は、CT26腫瘍を有するBALB/cマウスの肝臓にコロニーを形成しなかった。JY6は、MG1655よりも小さい範囲にCT26を有するBALB/cマウスの肝臓にコロニーを形成した。
図2Cは、CT26腫瘍を有するBALB/cマウスにおける、JY1、JY6及びMG1655がコロニー形成された肝臓の割合220を示す。
図2Cに示すように、JY6はCT26腫瘍を有するBALB/cマウスの20%(5匹中1匹)の肝臓で検出され、JY1はどのマウスの肝臓でも検出されなかったが、MG1655のコロニー形成はマウスの60%(5匹中3匹)の肝臓で発生した。これらは、JY1及びJY6がMG1655よりも腫瘍に特異的であり、JY1がJY6よりも腫瘍に特異的であることを示した。
【0090】
さらなるプレーティング分析は、JY1が免疫適格性マウスの血液、及び脾臓、心臓、肺、腎臓などを含む臓器にも存在しなかったことを示した。JY1及びJY6はCT26腫瘍にコロニーを形成する能力を示したが、JY1は、免疫適格性マウスにおいてJY6よりも腫瘍の特異的標的化において優れていた。
【0091】
皮下HCT116(ヒト結腸直腸癌細胞株)腫瘍を保有する免疫不全ヌードマウスにおいて同様の実験を実施した。細菌(10
7cfu/マウス)の尾静脈注射後の7日後、腫瘍及び肝臓における細菌の分布について分析した。
図2Dは、ヌードマウスのHCT116腫瘍1グラム当たりのCFU230を示す。
図2Dに示すように、JY1、JY6、及びMG1655は、ヌードマウスのHCT116腫瘍にコロニーを形成した。
図2Eは、HCT116腫瘍を有するヌードマウスの肝臓1グラム当たりのCFU240を示す。
図2Eに示すように、JY1は、HCT116腫瘍を有するヌードマウスの肝臓にコロニーを形成しなかった。JY6は、MG1655よりも小さい範囲にHCT116腫瘍を有するヌードマウスの肝臓にコロニーを形成した。
図2Fは、HCT116を有するヌードマウスにおける、JY1、JY6及びMG1655がコロニー形成された肝臓の割合250を示す。
図2Fに示すように、JY6及びMG1655は、それぞれヌードマウスの28.57%(7匹中2匹)及び85.71%(7匹中6匹)の肝臓で検出された。再び、JY1はどのマウスの肝臓にも存在しなかった(n=6)。これらは、JY1及びJY6がMG1655よりも免疫不全マウスの腫瘍に特異的であり、JY1がJY6よりも免疫不全マウスの腫瘍に特異的であることを示した。
【0092】
JY1が正常組織に感染しなかったことを確認するために、細菌処理群の各マウスの血液と脾臓、心臓、肺、腎臓の均質化懸濁液をさらに検査した。これらのすべては、JY1が除去された。JY1は、臓器への感染を回避したが、HCT116腫瘍に容易にコロニーを形成し、腫瘍におけるそのレベルは3.79×10
7cfu/gに達した(
図2D)。まとめると、インビボデータは、細菌JY1及びJY6によって保有される腫瘍標的化核酸システムが、免疫適格性マウスと免疫不全マウスの両方の固形腫瘍を特異的に標的とすることを可能にし、JY1が固形腫瘍を標的とする能力においてJY6よりも優れていることを実証する。
【実施例4】
【0093】
次に、JY1によって保有されるグルコース標的化核酸システムを大腸菌SH1の染色体に移植し、この核酸システムが特定の細菌株に限定されないことを示した。
【0094】
健康な女性ボランティアによって提供された糞便試料から大腸菌SH1を分離した。糞便試料をPBS緩衝液に再懸濁し、1mMのイソプロピルβ-D-チオガラクトシド(IPTG)及びX-gal(0.06mg/ml)を補充したLB寒天上に広げた。大腸菌は、青色コロニーを形成し、他の細菌種とは区別された。SH1は、糞便大腸菌分離株の1つである。株SH1は、寄託番号No.14580で寄託日2017年8月30日にCGMCCに寄託された。
【0095】
得られた組換え大腸菌株をJYH1と称した。株JYH1は、寄託番号No.14579で寄託日2017年8月30日にCGMCCに寄託された。
【0096】
その後、皮下SW480(ヒト結腸直腸癌細胞株)腫瘍を保有するヌードマウスにJYH1を静脈内注射した。細菌の静脈内注射の90日後に、腫瘍及び臓器における細菌のコロニー形成についてマウスを分析した。4匹のJYH1処置マウスの腫瘍が完全に治癒したため、この群では2つの腫瘍のみが分析に利用できた。JYH1は、2つの腫瘍のうち1つから検出され、1グラム当たり1.8×108cfuに達した。
【0097】
それは、モジュール又はヌクレオチドシステムが大腸菌SH1に導入されると、得られる株は腫瘍を標的とするだけでなく、腫瘍を治療できることを示している。
【0098】
図3A及び3Bは、大腸菌JYH1がSW480腫瘍を特異的に標的とし、ヌードマウスの正常組織にコロニーを形成しなかったが、腫瘍標的化ヌクレオチドシステムによって操作されていなかった同系株SH1 hlyは、腫瘍と正常組織の両方にコロニーを形成したことを示す。*P<0.05。エラーバー、SEM。
【0099】
図3Aは、SW480を有するヌードマウスの肝臓及び脾臓組織1グラム当たりのCFU300を示す。
図3Bは、JYH1及びSH1 hlyに感染した肝臓及び脾臓の割合310を示す。
図3A及び3Bに示すように、JYH1は、肝臓又は脾臓にコロニーを形成しなかった。すべてのJYH1処置ヌードマウスの肝臓、脾臓、心臓、肺、腎臓は、JYH1が除去されたが、これは、グルコース感知モジュールがJYH1を腫瘍に限定することができ、それが離れた臓器に拡散するのを長時間防ぐことができることを示した。JYH1とは対照的に、グルコース感知モジュールを備えていないその同系株SH1 hlyは、腫瘍(9.35×10
8±5.97×10
8cfu/g、平均±SEM)だけでなく臓器にもコロニーを形成した。SH1 hly処置マウス4匹(80%、5匹中4匹)の肝臓(6.0×10
10±6.0×10
10cfu/g、平均±SEM)及び脾臓(1.85×10
5±9.74×10
4cfu/g、平均±SEM)は、82日目に分析したときにSH1 hlyに感染していた。
【0100】
図3Cに示すように、感染したマウスのうち、1匹のマウスが肝膿瘍を発症した。分析のためにマウスを安楽死させた82日目に、写真320を撮影した。
【0101】
JYH1の腫瘍特異性及びグルコース感知、腫瘍標的化核酸システムの要件も、肝臓切片330のヘマトキシリン及びエオシン(H&E)染色によって確認され、肝臓切片330は、
図3D(スケールバー、200μm)に示すように、JYH1処置マウスの肝臓が正常であったが、SH1 hly処置マウスの肝臓で大量の炎症性浸潤と膿瘍が発生したことを示した。まとめると、これらのデータは、グルコース感知腫瘍標的化核酸システムがヌードマウスにおいてJYH1の腫瘍特異性を最適化することを実証している。
【実施例5】
【0102】
免疫適格性マウスの腫瘍に特異的にコロニーを形成するJYH1の能力を試験した。CT26腫瘍を保有する免疫適格性BALB/cマウスにJYH1を静脈内投与した。細菌注射の14日後に、過剰な腫瘍増殖によりすべてのマウスを安楽死させた。
図4は、BALB/cマウスの正常組織及びCT26腫瘍1グラム当たりのCFU400を示す。均質化組織のプレーティング分析は、静脈内注射されたJYH1が、14日齢の免疫適格性マウスの、肝臓、脾臓、心臓、肺、及び腎臓を含む試験された任意の臓器にコロニーを形成しなかったことを示した。対照的に、
図4に示すように、腫瘍におけるJYH1のレベルは1グラム当たり4.67×10
7cfu(±1.62×10
7cfu/g)に達した。これらは、ヌードマウスからのデータと一緒に、JYH1が免疫システムの完全性にかかわらず固形腫瘍を特異的に標的とすることを実証している。
【0103】
図5は、グルコース欠乏環境において選択的に増殖することによって固形腫瘍を標的とする遺伝子操作された細菌株を構築する方法500を示す。
【0104】
ブロック510は、核酸システムのランダムライブラリを細菌株に挿入することを示す。
【0105】
例示的な実施形態では、核酸システムは、毒素をコードする第1のDNA断片と、毒素を無効にする解毒剤をコードする第2のDNA断片とを含む。核酸システムはさらに、第2のDNA断片の転写を制御する第1のプロモーターを含む。核酸システムはさらに、第1のDNA断片の構成的発現を引き起こす第1の構成的プロモーターを含む。
【0106】
例示的な実施形態では、核酸システムは、毒素をコードする第1のDNA断片と、毒素を無効にする解毒剤をコードする第2のDNA断片とを含む。核酸システムはさらに、第1のDNA断片の転写を制御する第2のプロモーターを含む。核酸システムはさらに、第2のDNA断片の構成的発現を引き起こす第2の構成的プロモーターを含む。
【0107】
例示的な実施形態では、毒素-解毒剤対は、CcdB-CcdA対を含むが、これに限定されない。AvrRxo1-Arc1、Hha-TomB、PaaA2-ParE2のような他の毒素-解毒剤対を使用して、CcdB-CcdA対を置き換えることができる。例示的な実施形態では、第1のプロモーターは、lacプロモーターを含むが、これに限定されない。lacプロモーターは、gltA、sdhADC、又はtnaBのプロモーターのような他のグルコースに抑制されるプロモーターに置き換えることができる。例示的な実施形態では、第2のプロモーターは、pstGのプロモーター、fruBのプロモーター、及びackAのプロモーターを含むが、これらに限定されない。
【0108】
例示的な実施形態では、5~6個のヌクレオチドからなるランダム配列を挿入して、ccdA遺伝子の開始コドンのすぐ上流かつ第1のプロモーターの下流に位置する天然の5~6個のヌクレオチドを置き換える。
【0109】
例示的な実施形態では、5~6個のヌクレオチドからなるランダム配列を挿入して、ccdB遺伝子の開始コドンのすぐ上流かつ第2のプロモーターの下流に位置する天然の5~6個のヌクレオチドを置き換える。
【0110】
ブロック512は、遺伝子操作された細菌株のクローンのランダムライブラリを培養することを示す。
【0111】
例示的な実施形態では、核酸システムは、細菌株の染色体に移植される。例示的な実施形態では、核酸システムはプラスミドに移植され、プラスミドは細菌株に挿入される。例示的な実施形態では、細菌株は、大腸菌MG1655を含むが、これに限定されない。DH5αやCFT073などの他の大腸菌株、及びサルモネラ菌や赤痢菌などの他のグラム陰性細菌種を使用して、MG1655を置き換えることができる。例示的な実施形態では、核酸システムを含む細菌株のクローンは、グルコースを含むか又は含まないLB寒天上で培養される。
【0112】
ブロック514は、グルコースの非存在下で増殖するがグルコースの存在下では増殖しない前記クローンを選択することにより、前記腫瘍を標的とする前記遺伝子操作された細菌株を取得することを示す。
【0113】
例示的な実施形態では、グルコースを含まないLB寒天で増殖するが5mMのグルコースを含むLB寒天では増殖しないクローンは、腫瘍標的化細菌の潜在的候補として選択され特定される。
【0114】
例示的な実施形態では、グルコースを含まないM63寒天で増殖するが1~4mMのグルコース濃度では増殖しないクローンは、腫瘍標的化細菌の潜在的候補として確認される。
【0115】
例示的な実施形態では、この方法は、核酸システムが第1のプロモーターを含む場合、5~6個のヌクレオチドからなるランダム配列を挿入して、第2のDNA断片のすぐ上流に位置する天然ヌクレオチドを置き換えることによって、核酸システムのランダムライブラリを生成することをさらに含む。
【0116】
例示的な実施形態では、この方法は、核酸システムが第2のプロモーターを含む場合、5~6個のヌクレオチドからなるランダム配列を挿入して、第1のDNA断片のすぐ上流に位置する天然ヌクレオチドを置き換えることによって、核酸システムのランダムライブラリを生成することをさらに含む。
【実施例6】
【0117】
本実施例では、インビボでの腫瘍増殖に対する静脈内注射された大腸菌JYH1の阻害効果が評価された。
【0118】
図6Aは、ヌードマウスのHCT116腫瘍の増殖に対する静脈内注射された大腸菌JYH1の阻害効果700を示す。JYH1の静脈内注射は、ヌードマウスのHCT116腫瘍の増殖を抑制した。対照的に、JY1は、PBS対照と比較して、腫瘍増殖にほとんど影響を及ぼさなかった。JY1処置マウスのHCT116腫瘍はPBS処置対照の腫瘍と同様に増殖し、一方、JYH1処置マウスのHCT116腫瘍は比較的ゆっくりと増殖し、かつそれらの50%(10匹中5匹)は細菌の静脈注射(10
7/マウス)の18-26日後に退縮し始めた。JYH1は、100%の試験されたマウス(n=10)のHCT116腫瘍増殖に阻害効果を示し、JY1よりも著しく優れた抗腫瘍効果を示した(フィッシャーの正確確率検定、p<0.0001)。
【0119】
図6Bは、ヌードマウスのSW480腫瘍の増殖に対する静脈内注射された大腸菌JYH1の阻害効果の分析702を示す。
図6Cは、0~55日齢のPBS処置マウスのSW480腫瘍の代表的な写真704を示す。
図6Dは、0~90日齢のJYH1処置マウスのSW480腫瘍の代表的な写真706を示す。SW480腫瘍の増殖を90日間にわたって監視した。JYH1処置マウス(n=6)の腫瘍は、JYH1の静脈内注射の26~52日後に退縮し、有効率は100%であった。これらのうち、66.7%のマウス(6匹中4匹)の腫瘍は消失し、実験の終わりまで再発しなかった。残りの2匹のマウスのうち、1匹のマウスの腫瘍は治癒しなかったが、静止状態を維持した。1匹のマウスの腫瘍のみが再発した(16.67%、6匹中1匹)。対照的に、PBS処置腫瘍はいずれも退縮も消失もしなかった。これらのデータは、JYH1がインビボでの腫瘍増殖に著しい抑制効果を有することをさらに示した。
【0120】
したがって、例示的な実施形態では、腫瘍細胞及び正常組織細胞の両方に対して毒性がある細菌は、腫瘍標的化核酸システムを備える場合、腫瘍に特異的になり、正常組織に影響を及ぼすことなく腫瘍増殖を抑制することができる。
【実施例7】
【0121】
この実施例では、細胞毒素コード遺伝子(すなわち、細胞毒素をコードする遺伝子)をpBADプラスミドにおいてクローニングする。各細胞毒素をコードする遺伝子を個別にpBADプラスミドにクローニングした。緑膿菌のexlA、セレウス菌のnhe及びコレラ菌のhlyA(以下、VhlyAという)の場合、コードされた細胞毒素の排出を可能にするために、pelBリーダー配列を標的遺伝子の上流にインフレームで融合した。構成的プロモーターを使用して、融合DNAの転写を駆動した。大腸菌α溶血素をコードするhlyCABDオペロン(以下、hlyCABDという)の場合、オペロン全体をpBADベクターにクローニングした。pelBリーダー配列は、オペロンの産物がhlyA溶血素だけでなく、溶血素の分泌に必要な分泌システムも含むという点で、hlyCABDオペロンに用いられなかった。得られた組換えプラスミドの配列決定分析は、4つの遺伝子のすべてが正しくクローニングされたことを確認した。
【0122】
1つの例示的な実施形態では、pelBリーダー配列は、配列番号9に示される。pelBリーダーを有するexlAの配列は、配列番号10に示される。pelBリーダーを有するNheの配列は、配列番号11に示される。pelBリーダーを有するコレラ菌のhlyAの配列は、配列番号12に示される。大腸菌のhlyBACDオペロンの配列は、配列番号13に示される。
【実施例8】
【0123】
この実施例では、実施例7のクローニングされた遺伝子は、インビトロアッセイにおいて機能的な細胞毒素を産生し、癌細胞を死滅させることが示された。
【0124】
各組換えプラスミドを大腸菌参照株TOP10に導入した。この株自体が細胞溶解を引き起こさないため、任意の殺滅作用は、この株が保有するプラスミドからの毒素産生に起因するものでなければならない。マウス黒色腫細胞株B16F10をインビトロ細胞毒性アッセイに使用した。B16F10細胞を、moi100(すなわち、細胞当たり100個の細菌)で4つの組換えプラスミドのそれぞれを保有する大腸菌TOP10と共培養した。対照として、細胞を、空のPBADプラスミドを保有するTOPO10又はPBSと共培養した。12時間の共インキュベーション後、
図7に示すように、毒素コード遺伝子を有する組換えプラスミドを保持するTOP10は、B16F10細胞に対して顕著な細胞毒性効果を示したが、空のプラスミドを有するTOP10は、細胞生存率にほとんど効果がなかった。
【0125】
これらのインビトロデータは、pBADプラスミドにクローニングされた遺伝子が細胞毒素の産生に成功し、癌細胞を死滅させたことを確認した。4つの細胞毒素のうち、2つの溶血素は溶血性があるが、他の2つの毒素は溶血性がない。これと一致して、pBAD-hlyCABDを有するTOP10とpBAD-VhlyAを有するTOP10は血液寒天上で溶血を引き起こしたが、pBAD-exlA又はpBAD-nheを保有するTOP10は溶血を引き起こさなかった(
図8に示す)。溶血アッセイは、プラスミドにおいてクローニングされた遺伝子の機能性を確認した。
【実施例9】
【0126】
この実施例では、細胞毒素は、インビボでの細菌の抗癌効果を高めることが示されている。
【0127】
上記細胞毒素のそれぞれを過剰発現するために形質転換された細菌の抗癌能力を評価した。JYH1は、腫瘍増殖を適度に抑制する固有の能力を有する大腸菌株である。4つの組換えプラスミドのそれぞれをJYH1に個別に導入して、それらのいずれかがJYH1の抗癌効果を高めたかどうかを分析した。
【0128】
C57BL/6Nマウスにおいて、4つの細胞毒素のいずれかを過剰発現するJYH1を腫瘍内注射した皮下B16F10腫瘍は、空のプラスミドを保有するJYH1よりもはるかにゆっくり増殖した(すべてp<0.05)。細胞毒素で処理された腫瘍は処理後の最初の6日間又は9日間に退縮したが、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)又は空のプラスミドを保有するJYH1で処理された腫瘍は、退縮することなく容易に増殖した(
図9に示す)。
【0129】
4つの細胞毒素のうち、α溶血素は、いくつかの大腸菌株によって自然に産生される。α溶血素をコードする染色体遺伝子の欠失は、腫瘍増殖を抑制する大腸菌の能力を損なわなかった(
図10に示す)。これは、JYH1などの溶血性大腸菌株の固有の抗癌作用は、染色体からのα溶血素の自然な産生に依存しないことを示す。しかしながら、α溶血素のプラスミド由来の過剰産生は、これらの細菌の抗癌効果を高める。
図9に示すように、染色体中のオペロンの単一コピーから産生されるα溶血素は、腫瘍抑制に不十分であるが、そのマルチコピープラスミドからの過剰産生は、細胞毒素が腫瘍増殖を著しく抑制するのに十分である。
【0130】
緑膿菌エキソリシン、セレウス菌非溶血性エンテロトキシン及びコレラ菌溶血素Aといった細胞毒素は、大腸菌によって自然に産生されないが、これらの細胞毒素を産生するために大腸菌を操作すると、大腸菌の抗癌効果が高まる。
【0131】
例示的な実施形態では、大腸菌は、細胞毒素をコードする遺伝子を保有するプラスミドを大腸菌に導入することによって、非大腸菌由来の細胞毒素を産生するために作られた。例示的な実施形態では、細胞毒素コード遺伝子は、抗癌効果を高めるために、大腸菌の染色体に挿入される。例示的な実施形態では、細胞毒素は、大腸菌以外の細菌の抗癌効果を改善する。
【0132】
本明細書で使用する場合、「処置」、「処理」又は「治療」という用語は、疾患又は疾病の症状を緩和、軽減又は改善する方法、さらなる症状を予防する方法、症状の原因となる代謝を改善又は予防する方法、疾患又は疾病を阻害する方法、疾患又は疾病の発症を阻止する方法、疾患又は疾病を緩和する方法、疾患又は疾病の退縮を引き起こす方法、疾患又は疾病によって起きる状態を緩和する方法、又は、疾患又は疾病の症状を予防的及び/又は治療的に停止する方法を指す。
【0133】
本明細書で使用する場合、「すぐ」、「すぐ上流」、又は「すぐ下流」は、あるDNA断片と別のDNA断片との間に他のヌクレオチドがないことを意味する。
【0134】
本明細書で使用する場合、「システム」は、毒素遺伝子、解毒剤遺伝子、及びそれらのそれぞれのプロモーターを含む組み合わせ又は遺伝子回路を指す。システムの毒素遺伝子及び解毒剤遺伝子は、任意の順序で配置することができる。システムの毒素遺伝子及び解毒剤遺伝子は、同じ分子内に、又は異なる分子内に位置することができる。例示的な実施形態では、毒素遺伝子及び解毒剤遺伝子の一方は細菌の染色体中にあってよく、他方の遺伝子は同じ細菌のプラスミド中にあってよい。
【0135】
本明細書で使用する場合、「腫瘍組織において」は、「腫瘍組織内に」、「腫瘍部位において」、「腫瘍内部において」、「腫瘍組織の領域において」などの用語と交換することができる。これらの用語は、腫瘍細胞が存在し、かつ局所環境内のグルコースが腫瘍細胞の生存をサポートするのに十分に低い領域に位置することを指す。
【符号の説明】
【0136】
100:核酸システム
112:矢印
120:薬物送達組成物
122:細菌
124:抗癌薬
330:肝臓切片
【配列表】