(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-08
(45)【発行日】2022-07-19
(54)【発明の名称】核酸の増幅の改善又は核酸の増幅に関する改善
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/6844 20180101AFI20220711BHJP
C12Q 1/6851 20180101ALI20220711BHJP
C12Q 1/6853 20180101ALI20220711BHJP
C12N 15/10 20060101ALN20220711BHJP
【FI】
C12Q1/6844 Z ZNA
C12Q1/6851 Z
C12Q1/6853 Z
C12N15/10 Z
(21)【出願番号】P 2020537215
(86)(22)【出願日】2019-01-02
(86)【国際出願番号】 GB2019050005
(87)【国際公開番号】W WO2019135074
(87)【国際公開日】2019-07-11
【審査請求日】2021-05-31
(32)【優先日】2018-01-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】516247269
【氏名又は名称】ルミラディーエックス ユーケー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シェン,ダイウェイ
(72)【発明者】
【氏名】クレイナック,ブライアン
(72)【発明者】
【氏名】ペレズ,ビクター
(72)【発明者】
【氏名】プロビンス,ジャロッド
【審査官】松田 芳子
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-518735(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0208192(US,A1)
【文献】特表2010-533494(JP,A)
【文献】特表2014-513534(JP,A)
【文献】特表2004-526432(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0092967(US,A1)
【文献】Sensors and Actuators B: Chemical,2015年,Vol.222,p.221-225
【文献】ANALYST,2016年,Vol. 141, No. 8,p.2542-2552
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/68
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非等温核酸増幅反応を実施する方法であって、前記方法が、以下のステップ:
(a)前記プライマーが前記標的にハイブリダイズするハイブリダイゼーション事象を可能にする条件下で、標的配列を
2つ以上の相補的一本鎖プライマーと混合するステップであって、ハイブリダイゼーション事象が、直接的又は間接的に、二重鎖の反対側の末端又はその近くに配置された2つのニッキング部位を含む二重鎖構造の形成を導くステップ;及び以下のステップ:
(b)前記二重鎖の鎖中の前記ニッキング部位の各々にニックを発生させるニッキング酵素を使用するステップ;
(c)新たな合成核酸を形成するように、ポリメラーゼを使用して前記ニックの入った鎖を伸長し、前記ポリメラーゼとの伸長がニッキング部位を再形成するステップ;
(d)新たな合成核酸の複数のコピーを産生するように、所望によりステップ(b)及び(c)を反復するステップ;
による増幅プロセスを実施するステップ
を含み、前記方法が実施される温度が非等温であり、ステップ(b)~(d)の前記増幅プロセスの間に高温と低温の間で複数回の往復に供されることを特徴とし、ここで、高温では、前記ポリメラーゼ又はニッキング酵素の一方は、前記酵素の他方よりも活性が高く、酵素の活性に差異が存在し、低温では、酵素の活性の差異が低下又は逆転する、方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、ステップ(a)において、前記標的が核酸の2つの相補鎖を含み、前記プライマーが、フォワード及びリバースプライマーを含み、それらは、前記フォワード及びリバースプライマーの3’末端が互いに向かって配向されるように、対応する前記標的の鎖にそれぞれ相補的である、方法。
【請求項3】
ステップ(b)~(d)
がステップ(a)の直後に実施される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
新たな合成核酸を直接的又は間接的に検出するステップをさらに含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記検出ステップが、分子ビーコン又は蛍光色素、側方流動標識プローブ、又は電気化学反応を触媒する酵素の使用を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記新たな合成核酸の量が、前記増幅反応の実施中に定量化又は測定される、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記新たな合成核酸の量が、定量的方法で標的配列の量及び/又は濃度を決定するために使用される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記高温が、前記ポリメラーゼの前記活性に比較的有利である、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記高温が、前記ニッキング酵素の前記活性に比較的有利である、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記ポリメラーゼの前記最適温度が、前記ニッキング酵素の前記最適温度と10~30℃の範囲で異なっている、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記高温が、50~64℃の範囲内である、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記低温が、20.0~58.5℃の範囲内である、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記温度往復が、複数の往復に対して連続的に実施される、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記温度往復が少なくとも3分間にわたって実施される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記複数の往復のそれぞれ
が同一である、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記複数の温度往復のそれぞれが、5~60秒の範囲の持続時間を有する、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記複数の温度往復のそれぞれが、1~10秒の範囲の前記高温での滞留時間を有する、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記複数の温度往復のそれぞれが、2~40秒の範囲の前記低温での滞留時間を有する、請求項1~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記複数の温度往復のそれぞれが、0.5~10秒の範囲の前記低温と前記高温の間の移行時間を有する、請求項1~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
ステップ(a)の前に逆転写ステップを実施し、目的のRNA分析物のDNA転写物を形成するように、前記目的のRNA分析物を逆転写酵素と接触させることを含む、請求項1~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記DNA転写物から二本鎖DNAを作製するステップをさらに含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前増幅又は濃縮ステップをさらに含む、請求項1~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記プライマーの1つ以上が修飾ヌクレオチドを含む、請求項1~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記修飾ヌクレオチドが、前記プライマーの標的相補的部分に存在する、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記1つ以上のプライマーが2’-修飾ヌクレオチドを含む、請求項23又は24に記載の方法。
【請求項26】
前記1つ以上のプライマーが2’O-メチル修飾ヌクレオチドを含む、請求項23~25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記1つ以上のプライマーが複数の2’O-メチル修飾ヌクレオチドを含む、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記1つ以上のプライマーが7個までの2’O-メチル修飾ヌクレオチドを含む、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記プライマーのうちの1つ以上が自己相補的部分を含む、請求項1~28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
前記自己相補的部分がヘアピン構造を形成する、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記ヘアピンが5~10塩基対を含む、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
試料中の標的ポリヌクレオチドの量及び/又は濃度を決定する方法であって、前記方法が、請求項1~31のいずれか一項に従う前記増幅反応を実施して、前記試料中の前記標的ポリヌクレオチドを増幅するステップ;及び前記試料中の前記標的ポリヌクレオチドの量及び/又は濃度の決定を可能にするために、前記増幅反応の直接的又は間接的な産物を定量的方法で検出するステップを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に定量的な方法で、核酸分子を増幅する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)は周知であり、核酸分子を増幅するために使用される標準的な技術である。PCRの増幅産物は、反応の終わりに検出される。産物の量はプラトーレベルに達する傾向があり、反応混合物をより長く放置しても増加しない。結果として、従来のPCRでは、産物の量は、最初に混合物中に存在する増幅標的配列の濃度と必ずしも相関しない。
【0003】
定量的データを取得するために、定量的PCR(「qPCR」)が実施され、ここで産生された増幅産物の量がリアルタイムでモニター又は検出される(従って、qPCRは「リアルタイムPCR」又は「RT-PCR」とも称されるが、この後者の省略形は、逆転写酵素(Reverse Transcriptase)PCRと混同され得るため、役に立たない)一方、反応は依然として標的配列を活発に増幅している。
【0004】
典型的には、増幅された核酸は、標識実体との相互作用によって検出される(通常、標識はフルオロフォアである)。この相互作用は、非特異的(すなわち、標識実体が本質的に任意の二本鎖DNA分子に結合する)又は特異的であり得る(すなわち、標識実体は、ヌクレオチド配列に依存する方法で、所望の増幅産物に存在する特定の核酸配列と優先的に相互作用する)。非特異的な標識実体の例は、色素SYBR Greenである。特定の標識実体(例えば、標識されたプローブ分子)は、例えば、それが標的配列へのハイブリダイゼーションにより誘導される立体構造変化を受けるときに蛍光を発する「分子ビーコン」であり得る。
【0005】
従って、PCR中にリアルタイムで観察される蛍光のレベルをモニターすることで、増幅産物の量(例えば、蛍光の検出によって測定される)が、試料中の増幅標的分子の濃度と相関する定量データを生成できる。
【0006】
米国特許第6,814,943号明細書に記載されているqPCRは、サイクルに温度範囲を利用する。典型的には、qPCRの場合、次の手順が行われる:約95℃の変性、約55℃のアニーリング、約70℃の伸長。これらは大きな温度変化である(最高温度と最低温度の差は約40℃)。結果として、「通常の」非定量的PCRのようなqPCRは、比較的洗練された熱サイクル装置の使用を必要とする。従って、qPCRは研究(例えば、遺伝子発現の定量化)に関連して非常に有用であるが、ポイントオブケア(「PoC」)診断試験などに容易に適用することはできない。
【0007】
熱サイクルの必要性を回避するために、等温で実施される多くの核酸増幅技術が考案されている。そのような増幅技術の非網羅的なリストには、以下が含まれる:RNA技術のシグナル媒介増幅(「SMART」;国際公開第99/037805号パンフレット);核酸配列に基づく増幅(「NASBA」Compton 1991 Nature 350,91-92);ローリングサークル増幅(「RCA」、例えば、Lizardi et al.,1998 Nature Genetics 19,225-232を参照);ループ媒介増幅(「LAMP」、Notomi et al.,2000 Nucl.Acids Res.28,(12)e63を参照);リコンビナーゼポリメラーゼ増幅(「RPA」Piepenberg et al.,2006 PLoS Biology 4(7)e204を参照);鎖置換増幅(「SDA」);ヘリカーゼ依存性増幅(「HDA」Vincent et al.,2004 EMBO Rep.5,795-800):転写媒介増幅(「TMA」)、単一プライマー等温増幅(「SPIA」、Kurn et al.,2005 Clinical Chemistry 51,1973-81を参照);自己持続性配列複製(「3SR」);及びニッキング酵素増幅反応(「NEAR」)。
【0008】
SDAは、標的相補的部分、並びに標的相補的部分の5’、エンドヌクレアーゼの認識及び切断部位を含む、一対のプライマーの使用を含む技術である(Walker et al.,1992 Nucl.Acids Res.20,1691-1696に開示される)。プライマーは、それぞれ相補的な一本鎖標的分子にハイブリダイズする。標的鎖の3’末端は、鋳型としてプライマーを使用してDNAポリメラーゼ及び少なくとも1つの修飾ヌクレオチド三リン酸を含む反応混合物を用いて伸長される(及び同様にプライマーの3’末端は鋳型として標的を用いて伸長される)。
【0009】
標的鎖の伸長は、エンドヌクレアーゼの二本鎖認識部位を生成する。しかし、標的は修飾三リン酸を用いて伸長されるため、エンドヌクレアーゼは両方の鎖を切断するのではなく、代わりにプライマーに一本鎖のニックを作る。次いで、ニックにおける3’末端は、DNAポリメラーゼ(典型的には、エキソヌクレアーゼ活性を欠くDNAポリメラーゼIのクレノウ断片)によって伸長される。ニックの入ったプライマーが伸長すると、これは初期産生伸長産物を置換する。次に、置換された産物は、反対側のプライマーの標的の配列を本質的に複製するため、反対側のプライマーに自由にハイブリダイズすることができる。このようにして、標的配列の両方の鎖の指数関数的な増幅が達成される。
【0010】
SDAプロセスの増幅段階は本質的に等温であり、典型的にはエンドヌクレアーゼ及びポリメラーゼの最適温度である37℃で実施される。しかし、増幅段階に達する前に、プライマー対がその相補的標的鎖にハイブリダイズすることを可能にするために、二本鎖標的を、それを構成する一本鎖へと完全に解離させることが必要である。
【0011】
この解離又は「融解」は、標的の2つの鎖の間の水素結合を破壊するために、通常、二本鎖標的を高温(通常約90℃)に加熱することによって達成される。次いで、増幅反応に必要な酵素の添加を可能にするため、反応混合物を冷却する。一本鎖標的を生成するために高温が使用されるため、SDA技術はPoCの文脈につき理想的に適するものではない。
【0012】
米国特許第6,191,267号明細書は、N.BstNBIニッキング酵素のクローニング及び発現、並びに制限エンドヌクレアーゼ及び修飾三リン酸の代わりのSDAにおけるその使用を開示する。
【0013】
SDAに類似した別の増幅技術はニッキング酵素増幅反応(又は「NEAR」)である。
【0014】
「NEAR」(例えば、米国特許出願公開第2009/0017453号明細書及び欧州特許第2,181,196号明細書に開示されるもの)では、フォワード及びリバースプライマー(「鋳型」として米国特許出願公開第2009/0017453号明細書及び欧州特許第2,181,196号明細書で言及されている)が、二本鎖標的のそれぞれの鎖にハイブリダイズし、伸長される。フォワード及びリバースプライマー(過剰に存在)のさらなるコピーは、反対側のプライマーの伸長産物にハイブリダイズし、それ自体が伸長され、「増幅二重鎖」を生成する。そのように形成された各増幅二重鎖は、各鎖の5’末端に向かうニッキング部位を含み、これはニッキング酵素によりニックされ、さらなる伸長産物の合成を可能にする。一方で、以前に合成された伸長産物は、相補的プライマーのさらなるコピーとハイブリダイズすることができ、これはプライマーを伸長させ、それにより「増幅二重鎖」のさらなるコピーを作製する。このようにして、指数関数的増幅を達成することができる。
【0015】
NEARは、特に、初期熱解離ステップが必要でない点で、SDAとは異なる。増幅プロセスを誘発するために必要な初期プライマー/標的ハイブリダイゼーション事象は、標的が依然として実質的に二本鎖である間に起こる:初期プライマー/標的ハイブリダイゼーションは、標的鎖の局部的解離(「ブリージング」として知られている現象)を利用すると考えられる(Alexandrov et al.,2012 Nucl.Acids Res.、及びVon Hippel et al.のレビュー,2013 Biopolymers 99(12),923-954を参照)。ブリージングはDNA鎖間の塩基対形成の局部的且つ一時的な緩みである。初期プライマー/標的ヘテロ二重鎖の融解温度(Tm)は、典型的には反応温度よりもはるかに低いので、プライマーは解離する傾向にあるが、一時的なハイブリダイゼーションは、ポリメラーゼがプライマーを伸長させるのに十分なほど長く続き、これはヘテロ二重鎖のTmを増加させ、安定化させる。
【0016】
NEARにおける増幅段階は、一定温度で等温的に実施される。実際、同じ一定温度、通常54~56℃の範囲で、初期標的/プライマーハイブリダイゼーション及びその後の増幅ラウンドの両方を行うことは従来実施されている。
【0017】
熱サイクルの必要性を回避することは、NEARが、PoCの文脈においてPCRより潜在的に有用であることを意味する。さらに、非常に低いコピー数の標的分子(例えば、わずか10個の二本鎖標的分子)から出発しても、有意な量の増幅産物の合成を達成することができる。
【0018】
国際公開第2011/030145号パンフレット(Enigma Diagnostics Limited)は、「等温」核酸増幅(NASBA、SDA、TMA、LAMP、Q-ベータレプリカーゼ、ローリングサークル増幅及び3SRが具体的に言及されている)を、最初は所定温度で、反応の温度を変化させ、その後反応中に少なくとも1回、温度が所定温度に戻ることを許容して、実施するアイデアを開示している。より具体的には、この文書は、「アッセイの完了までの全体の時間及び信号対雑音[比]を改善する」と言われる、増幅反応中の温度振動又は「揺らぎ」を引き起こすことを示唆している。このアイデアは、バクテリアRNAを増幅するために実験的にTMA増幅技術を使用して検討された。結果は、「揺らいだ」反応が真の等温反応よりも早く標的を増幅し始めたが、蛍光シグナルが初期バックグラウンドレベルを超えるまでに依然として約13分の遅延があったことを示した。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明は、既存の技術に対して1つ以上の利点を有し、特に、定量データを生成することができる、新規の核酸増幅技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
第1の態様では、本発明は、非等温核酸増幅反応を実施する方法を提供し、本方法は、以下のステップ:
(a)プライマーが標的にハイブリダイズするハイブリダイゼーション事象を可能にする条件下で、標的配列を1つ以上の相補的一本鎖プライマーと混合するステップであって、ハイブリダイゼーション事象が、直接的又は間接的に、二重鎖の反対側の末端又はその近くに配置された2つのニッキング部位を含む二重鎖構造の形成を導くステップ;及び以下のステップ:
(b)二重鎖の鎖中の前記ニッキング部位の各々にニックを発生させるニッキング酵素を使用するステップ;
(c)新たな合成核酸を形成するように、ポリメラーゼを使用してニックの入った鎖を伸長し、ポリメラーゼとの伸長がニッキング部位を再形成するステップ;
(d)新たな合成核酸の複数のコピーを産生するように、所望によりステップ(b)及び(c)を反復するステップ;
による増幅プロセスを実施するステップ
を含み、当該方法が実施される温度が非等温であり、ステップ(b)~(d)の増幅プロセスの間に高温と低温との間で複数回の往復に供されることを特徴とし、ここで、高温では、前記ポリメラーゼ又はニッキング酵素の一方は、前記酵素の他方よりも活性が高く、酵素の活性に差異が存在し、低温では、酵素の活性の差異が低下又は逆転する。
【0021】
ニッキング酵素及びポリメラーゼは、一定の速度の触媒活性を有する。これらは温度によって異なる。酵素のそれぞれの活性速度(所与の基質濃度での酵素1mgあたり、単位時間あたりの反応した基質のモル数で)は、通常、特定の温度で異なっている。各酵素は、その活性速度が最大になる最適温度を有する。一般的に言えば、反応混合物の温度が酵素の最適温度から離れているほど、酵素の活性速度は遅くなる。
【0022】
一方の酵素が他方の酵素よりも活性が高くなることを可能にする温度条件を使用することによって、又は前記一方の酵素にとって他方の酵素よりも好ましくない温度条件を使用することによって、ある酵素を別の酵素よりも相対的に優先する(ポリメラーゼとニッキング酵素の活性速度の差異を実現するため)ことができる。
【0023】
説明として、高温で一方の酵素が他方の酵素よりも高い活性を有し、低温で他方の前記酵素がより高い活性を有する場合、酵素の活性の差異は「逆転」したと見なされる。
【0024】
他の実施形態では、高温及び低温での酵素の活性の差異は逆転せず、単に低下する。典型的には、前記高温又は低温の1つにおける酵素間の活性の差異は、必要に応じて、低温又は高温で少なくとも5%低下する。より好ましくは、差異は、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%又は少なくとも45%低下する。最も好ましくは、差異は、少なくとも50%、又は少なくとも75%低下する。
【0025】
誤解を避けるために、この文脈での「酵素活性」は、ポリメラーゼ及びニッキング酵素について同じ条件下で測定された「比酵素活性」(μmol基質反応時間(分)-1mg-1酵素)を指す。
【0026】
好ましい一実施形態では、本発明の第1の態様の方法は、一連の温度条件の使用を含み、ここで、前記高温及び低温の一方で、ニッキング酵素及びポリメラーゼの両方が実質的に活性(すなわち、本発明の目的では、他の点では同一の条件で酵素がその最適温度で作動する速度の少なくとも50%以上の速度で作動し;好ましくは60%以上、より好ましくは65%以上;最も好ましくはその最適温度でのその活性速度の70%以上である)であり;前記低温及び高温の他方(場合に応じて)では、ニッキング酵素又はポリメラーゼの少なくとも一方が実質的に阻害される(すなわち、他の点では同一の条件で酵素がその最適温度で作動する速度の49%以下の速度で作動し;好ましくは45%未満、より好ましくは40%未満;最も好ましくはその最適温度でのその活性速度の35%未満である)。いくつかの実施形態では、ニッキング酵素は、高温又は低温の一方で実質的に阻害される。いくつかの実施形態では、ニッキング酵素は、高温で実質的に阻害される。
【0027】
いくつかの実施形態では、ポリメラーゼは、高温又は低温の一方で実質的に阻害される。いくつかの実施形態では、ポリメラーゼは低温で実質的に阻害され、他の実施形態では、ポリメラーゼは高温で実質的に阻害される。
【0028】
反応混合物が高温又は低温で一定に保たれる時間の長さは、「滞留時間」と称される場合があり、それらを区別するために、「高温滞留時間」及び「低温滞留時間」と称することができる。高温滞留時間と低温滞留時間は同じであってもよく、又は異なっていてもよい。異なる場合、高温滞留時間は低温滞留時間よりも長くてもよく、又は短くてもよい。
【0029】
定量分析のための重要なパラメーターは、生成されたデータが決定係数(R2)として知られる回帰直線にどれだけよく適合するかである。決定係数が低い場合、データは定量的とは見なされない。本発明の目的では、その決定係数が0.850以上、典型的には0.900以上、好ましくは0.950以上、より好ましくは0.975以上、最も好ましくは0.990以上である場合、データは定量的であると見なされる。決定係数(R2)は、Pfafflによって説明されている方法(2001,Nucl.Acids Res.29(9)e45)を使用して好都合に計算され得る。
【0030】
従って、核酸増幅反応を実施する方法及び/又はそのような反応によって試料を分析する方法は、前述の定義に従って定量的であるデータを生成する場合、定量的であると見なされる。驚くべきことに、本発明の方法は、定量データを生成することができる。
【0031】
本発明の増幅反応は、好ましくは、「NEAR」として知られ、欧州特許第2,181,196号明細書に開示されているものと概して外見上は類似の方法で実施される。しかし、重要なことであり、NEAR手法とはまったく異なることには、本発明の方法は非等温的に実施され、高温と低温の間で反復的に往復することを含む。
【0032】
いくつかの実施形態では、高温は、ニッキング酵素の活性よりもポリメラーゼの活性に比較的有利であり得、低温は、ポリメラーゼの活性よりもニッキング酵素の活性に比較的有利である。しかし、驚くべきことに、本発明者らは、「温度選好」は、いくつかの実施形態では、高温は、ポリメラーゼの活性よりもニッキング酵素の活性に比較的有利であり得、低温は、ニッキング酵素の活性よりもポリメラーゼの活性に比較的有利であり得るように、完全に逆転され得ることを見出した。
【0033】
特定の理論に束縛されるものではないが、異なる最適温度を有するポリメラーゼ及びニッキング酵素を適切に選択することにより、増幅反応の高温を、ポリメラーゼ又はニッキング酵素のいずれかに比較的有利なものとし、増幅反応の低温に関してはその逆とすることが可能であるようである。
【0034】
特定の理論に束縛されるものではないが、酵素にとって相当に準最適である温度を使用することにより、本発明の方法によって達成される急速な増幅のための可能なメカニズムが、ニッキング酵素又はポリメラーゼの一方又は他方の活性を低下させることを引き起こし、潜在的な基質分子の蓄積を導くことが、発明者らによってさらに仮定される。当該酵素につき、より最適に近い温度に反応混合物の温度を調整すると、酵素の活性が有意に増強され、これは、比較的高濃度の蓄積した基質と共に、大幅に加速した反応速度をもたらす。簡単に言えば、この「クイック/スロー」型の平均反応速度は、一定の、又は比較的ゆっくりと変化する温度の「定常状態」システムを使用して達成可能な平均反応速度よりも大きい。
【0035】
ニッキング酵素の最適温度が本発明の方法で使用されるポリメラーゼの最適温度とは異なる(より高い又はより低い)ことが望ましい場合があることは、当業者には明らかであろう。
【0036】
典型的には、ニッキング酵素及びポリメラーゼのそれぞれの最適温度は、少なくとも1℃、好ましくは少なくとも3℃、より好ましくは少なくとも5℃、最も好ましくは少なくとも10℃異なっているべきである。好都合には、それぞれの最適温度は、10~30℃の範囲で、より典型的には10~25℃の範囲で異なっている。
【0037】
ポリメラーゼの最適温度がニッキング酵素の最適温度よりも高いという絶対的な要件は存在しない。従って、例えば、ニッキング酵素の最適温度よりも低い最適温度を有するポリメラーゼ(例えば、好冷性供給源から得られる)を反応が利用する本発明の実施形態が存在する一方、他の実施形態では、ポリメラーゼは、ニッキング酵素の最適温度よりも高い最適温度を有する。
【0038】
従って、一般に、高温は、配列特異的ポリメラーゼ媒介伸長段階を比較的有利にするように選択されることが好ましい(すなわち、ポリメラーゼとハイブリダイズした初期プライマー/標的二重鎖との間の複合体の形成、その後のプライマーのポリメラーゼ媒介伸長;及びほぼ直後に、伸長した初期プライマーにハイブリダイズした反対側のプライマーの伸長)。上昇した温度を使用すると、プライマー二量体の形成、及び望ましくないミスハイブリダイズした二重鎖の異常な増幅が低下する傾向がある。ポリメラーゼは、活性の有意な減少なしに反応の持続期間を通してプライマー伸長を実施するために、高温で十分に安定であるように好都合に選択される。本発明の目的では、「有意な減少」とは、ポリメラーゼの比酵素活性の50%以上の低下を意味する。
【0039】
低温は、ニッキング酵素が二重鎖上のニック部位を切断できるように選択されることが好ましい。ニッキング酵素は、典型的には(必須ではないが)、ポリメラーゼの最適温度よりも低い最適温度を有し、従って、低温への移行は、典型的には、反応温度をニッキング酵素の最適温度に近づける。
【0040】
本明細書に例示されるような本発明の方法のいくつかの実施形態では、高温は、好ましくは50.0~64.0℃の範囲内、より好ましくは55.0~63.0℃の範囲内である。しかし、当業者は、好ましい「高温」が、存在する酵素の同一性に応じて、また、おそらくプライマーの長さ及び配列、及び/又は意図される増幅標的にも応じて、変動し得ることを理解するであろう。
【0041】
例えば、いくつかの実施形態では、高温は68℃であり得るが、そのような条件では、
(a)通常は、高温での滞留時間が短縮された熱往復プロファイル(例えば、1往復あたり約1~2秒以下)の使用が望まれ;
(b)そのような高温は、試料内の比較的高いコピー数の標的配列(例えば、約103コピー以上)でのみうまく機能する。
【0042】
本明細書に例示されるような本発明の方法では、低温は、好ましくは20.0~58.5℃の範囲内、より好ましくは35.0~57.9℃の範囲内である。しかし、再び、上記のように、当業者は、好ましい「低温」が、存在する酵素の同一性に応じて、また、おそらくプライマーの長さ及び配列、及び/又は意図される増幅標的にも応じて、変動し得ることを理解するであろう。
【0043】
一般的な規則として、当業者に周知であるように、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーは(制限内で)温度の上昇と共に増加し、その結果、より高温では一般にミスマッチのプライマーと試料中に存在する非相補的なポリヌクレオチド配列との間などの非特異的相互作用が減少する。従って、温度が特定のプライマー/標的配列ハイブリダイゼーションの融解温度を超えない限り、ハイブリダイゼーション反応のより高い温度は、通常、より低い温度より好ましい。
【0044】
望ましくは、好ましい実施形態では、高温と低温との温度差は、4~12℃の範囲内、より好ましくは4~10℃の範囲内、最も好ましくは4~8℃の範囲内である。
【0045】
必須ではないが、一般的に、反応混合物は、低温よりも短い時間(「滞留時間」)、高温で保持されることが好ましい場合があるが、高温及び低温での「滞留時間」は等しいか、又は同一であり得る。他の実施形態では、高温での滞留時間は、低温よりも長くてもよいが、これは一般的には好ましくない。
【0046】
特定の制限内では、一般に熱往復の周波数が高いほど、増幅反応が速く進むと想定される。従って、1つの完全な熱往復の持続時間は、好ましくは3.0分未満、より好ましくは2.0分未満、最も好ましくは1.0分未満である。最も有利には、熱往復の持続時間は45秒未満であり、最も好ましくは30秒未満である。熱往復の最小持続時間は、典型的には、少なくとも1秒、好ましくは少なくとも2秒、より好ましくは少なくとも5秒である。1つの完全な熱往復の典型的な好ましい持続時間は、5~30秒、好ましくは5~20秒、最も好ましくは5~15秒である。
【0047】
高温での典型的な好ましい滞留時間は、1~10秒、好ましくは1~5秒、最も好ましくは1~3秒であり得る。
【0048】
低温での典型的な好ましい滞留時間は、2~40秒、より好ましくは3~30秒、最も好ましくは3~15秒であり得る。
【0049】
高温と低温との間を往復するのにかかる時間は、好ましくは実質的に最小に保たれる。増幅反応混合物の典型的な容量は500μl未満、おそらく250μl未満であり、高温と低温が典型的には10℃未満離れていることを考慮すると、約0.5~10.0秒、より好ましくは1~5秒の範囲で低温から高温(又はその逆)に移行することが可能であり、好ましいだろうと想定される。
【0050】
好都合には、複数の往復のそれぞれの持続時間/温度プロファイルは、本質的に同一であり、これは方法の実施を単純化する。従って、例えば、複数の熱往復のそれぞれは、好都合には、同一の全体の持続時間、同一の高温での滞留時間、同一の低温での滞留時間などを有する。
【0051】
しかし、いくつかの実施形態(特に、増幅反応の直接的又は間接的な産物のリアルタイム検出がある実施形態)では、反応の進行中に熱往復のプロファイルを変更することが望ましい場合があるため、全ての往復が同一というわけではない。より具体的には、増幅反応産物のリアルタイム定量化(直接的又は間接的)が、反応が望ましいものよりもゆっくりと進行していることを示している場合、この情報は、反応混合物の温度を調節する温度調節装置にフィードバックされ得、これは、反応速度を上昇させるために、装置に熱往復のプロファイルを調整させる。これは、例えば、標的配列が非常に低いコピー数で存在する場合に必要とされ得る。装置は、高温及び/又は低温を上昇又は低下させることによって、及び/又は高温及び/又は低温での滞留時間を増加又は減少させることによって、熱往復プロファイルを調整し得る。装置は、高温と低温との間の移行にかかる時間を増加又は減少させる(すなわち、上方温度移行又は下方温度移行のいずれか、又はその両方の時間を増加又は減少させる)ことも可能である。
【0052】
実質的に、反応混合物の全ての必要な成分を合わせた直後に、熱往復が開始され得る。
或いは、遅延間隔の後に熱往復が開始され得る。例えば、反応混合物は上昇した温度(熱往復で使用される高温と同じであるか、又は異なる場合がある)で維持することが可能であり、潜在的に望ましい場合がある。例として、そのような遅延間隔は、例えば、5秒~1又は2分であってもよい。
【0053】
さらに、熱往復は、好都合には、増幅反応中に実質的に連続的に実施されてもよく、又は1つ以上の休止を受けてもよい。典型的には、そして好ましくは、いったん開始すると、熱往復は、増幅反応が所望の時点に到達するまで、典型的には検出可能な蛍光(又は他の)シグナルが得られ、試料中の標的配列の量及び/又は濃度の有利な定量的決定を可能にするまで、中断されない。
【0054】
増幅反応混合物の熱往復は、PCRで熱往復を実施するために市販されているような自動化された熱調節装置を使用して好都合に行われ得る。明らかに、装置によって生成された温度プロファイルは、本発明の実施に適用可能な好ましい条件に一致する必要がある。
【0055】
第2の態様において、本発明は、核酸増幅を実施するための反応混合物を提供し、混合物は、増幅される標的配列、2つ以上のプライマー、DNAポリメラーゼ、及びニッキング酵素を含み、前記プライマーの1つは標的の第1の鎖に相補的であり、前記プライマーの他方は標的の第2の鎖に相補的であり、前記反応混合物は、プログラム可能な温度調節手段と関連して熱調節されており、前記温度調節手段は、本発明の第1の態様に関して以前に定義されたように、高温と低温の間で熱往復を実施するようにプログラムされている。
【0056】
第3の態様では、本発明は、試料中の標的ポリヌクレオチドの量及び/又は濃度を決定する方法を提供し、方法は、以下のステップ:上記で定義された本発明の第1の態様に従って増幅反応を実施して標的を増幅するステップ、及び試料中の標的ポリヌクレオチドの量及び/又は濃度の決定を可能にするために、増幅反応の直接的又は間接的な産物を定量的方法で検出するステップを含む。
【0057】
本発明の方法の増幅プロセスは、ポリメラーゼ及びニッキング酵素を利用した、SDA及びNEARを含む一般的に知られている従来の増幅技術に適用され得る。
【0058】
従って、例えば、増幅プロセスは、鎖置換増幅において使用される増幅プロセスに基づくか、又はNEARで使用される増幅プロセス、若しくは実際上、一本鎖ニックの形成及びニックの入った鎖の3’末端からのその後の伸長に依存する任意の他の核酸増幅プロセスに基づき得る。増幅中に一定温度を維持することに関連する先行技術の教示以外、SDA又はNEARの増幅段階に関連する先行技術の教示は、一般に、本発明の方法の増幅プロセスに等しく適用可能である。
【0059】
本発明の方法は、国際公開第2018/002649号パンフレットに記載されている選択的温度増幅反応(又は「STAR」)と命名された増幅技術の改良である。本発明の方法は、好ましい実施形態では、標的配列のリアルタイム定量的検出を可能にし、本明細書では「qSTAR」と呼ばれるが、これは、本発明の方法が、全ての条件下で定量的リアルタイムの結果を提供することを示すことを意図するものではない。
【0060】
好ましくは、ステップ(a)は、二本鎖標的を含有する試料を2つの一本鎖プライマーと混合することを含み、2つのプライマーが標的にハイブリダイズし、前記プライマーの遊離の3’末端が互いに向かい合うように、前記プライマーの1つが標的の第1の鎖に相補的であり、前記プライマーの他方は標的の第2の鎖に相補的である。
【0061】
2つのプライマーは、便宜上、「フォワード」及び「リバース」プライマーとして記載され得る。
【0062】
望ましくは、フォワードプライマー及びリバースプライマーの両方が、ニッキング酵素認識部位の配列を含む。典型的には、ニッキング酵素によって生成されるニックは、ニッキング酵素認識部位のすぐ外側及び典型的には3’である。
【0063】
好ましい実施形態では、フォワードプライマーは、標的配列アンチセンス鎖の3’末端に相補的であり、それとハイブリダイズすることができるその3’末端又はその付近の部分を含む一方、リバースプライマーは、標的配列センス鎖の3’末端に相補的であり、それとハイブリダイズすることができるその3’末端又はその付近の部分を含む。
【0064】
このようにして、ニッキング酵素認識部位が標的配列の両端に導入され、標的配列の増幅(ニック部位の下流のプライマーの任意の介在配列と共に)は、二本鎖ニッキング酵素認識部位を形成するようにフォワード及びリバースプライマーのポリメラーゼ伸長の複数のサイクルを実施することによって、及びニッキング酵素でその部位をニッキングし、ニックの入ったプライマーのポリメラーゼなどによるさらなる伸長を可能にすることによって達成され、これは本質的に、例えば、米国特許出願公開第2009/0017453号明細書に開示されており、その内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0065】
標的は、一本鎖であっても二本鎖であってもよく、又はそれら2つの混合物を含んでいてもよい。標的は、RNA、DNA又はこれら2つの混合物を含み得る。特に、標的は、必須ではなく実際には好ましくないが、1つ以上の修飾ヌクレオチド三リン酸(すなわち、天然に存在する核酸には通常見られないヌクレオチド三リン酸)を組み込んでもよい。
【0066】
標的は、以下の非網羅的なリストから選択され得る:ゲノム核酸(この用語は、任意の動物、植物、真菌、細菌又はウイルスのゲノム核酸を包含する)、プラスミドDNA、ミトコンドリアDNA、cDNA、mRNA、rRNA、tRNA、又は合成オリゴヌクレオチド又は他の核酸分子。
【0067】
特に、本方法は、初期逆転写ステップをさらに含み得る。例えば、当業者に周知の方法によって、逆転写酵素を用いてDNA又はcDNAを合成するために、RNA(例えば、ウイルスゲノムRNA、又は細胞mRNA、又は他の供給源由来のRNA)を使用してもよい。次いで、DNAは、本発明の方法における標的配列として使用し得る。元のRNAは、典型的には、逆転写酵素のリボヌクレアーゼ活性によって分解されるが、必要に応じて、逆転写が完了した後にさらなるRNaseHを添加してもよい。RNA分子は、対応する(例えば、ゲノム)DNA配列よりも大きなコピー数で試料中に存在することが多く、それゆえに、DNA配列のコピー数を効果的に増加させるためにRNA分子からDNA転写物を作製することが便利であり得る。
【0068】
「標的配列」とは、標的核酸中の塩基の配列であり、二本鎖標的のセンス鎖及び/又はアンチセンス鎖を指し得、また、文脈上他の記載がない限り、初期標的核酸の増幅されたコピー、伸長産物又は増幅産物において再現又は複製されるものと同じ塩基配列も包含する。
【0069】
標的配列は、任意の種類の試料、例えば、生物学的又は環境的試料(水、空気など)中に存在してもよい。生物学的試料は、例えば、食品試料又は臨床試料であってもよい。臨床試料には、以下が含まれ得る:尿、唾液、血液、血清、血漿、粘液、喀痰、涙液又は便。
【0070】
試料は、プライマーと接触する前に処理されてもよく、されなくてもよい。そのような処理は、濾過、濃縮、部分精製、超音波処理、化学溶解などの1つ以上を含み得る。そのようなプロセスは、当業者に周知である。
【0071】
本発明の方法は、ニック部位の使用及びニック部位にニックを作製するための手段を含む。「ニック」は、完全に、又は少なくとも部分的に二本鎖核酸分子のうち一本鎖のみのホスホジエステル骨格の切断である。ニック部位は、ニックが形成される分子内の位置である。
【0072】
好ましい実施形態では、「ニッキング認識部位」は、ニック部位に、又はその中に、又はその隣に存在する。(この文脈において、「隣」とはニッキング認識部位の最も近い塩基がニック部位の10塩基以内、好ましくはニック部位の5塩基以内であることを意味する)。
【0073】
ニッキング認識部位は、制限エンドヌクレアーゼの認識部位の少なくとも1つの鎖を含んでもよく、ニック部位は、二本鎖分子として存在する場合に制限エンドヌクレアーゼによって切断される核酸塩基配列の少なくとも1つの鎖を含んでもよい。典型的には、制限エンドヌクレアーゼは、二本鎖核酸分子の両方の鎖を切断する。本発明では、ニック部位又はその近くに1つ以上の修飾塩基を組み込むことによって二本鎖切断を回避することができ、修飾塩基は核酸の鎖を制限エンドヌクレアーゼによる切断の影響を受けないようにする。このようにして、二本鎖核酸分子の両方の鎖を通常切断する制限エンドヌクレアーゼを用いて、一本鎖ニックを二本鎖分子に導入することができる。これを達成するのに適した修飾塩基等は、当業者に周知であり、例えば、全てのアルファホスフェート修飾ヌクレオシド三リン酸及びアルファボラノ修飾ヌクレオシド三リン酸、具体的には、2’-デオキシアデノシン5’-O-(チオ三リン酸)、5-メチルデオキシシチジン5’-三リン酸、2’-デオキシウリジン5’三リン酸、7-デアザ-2’-デオキシグアノシン5’-三リン酸、2’-デオキシグアノシン-5’-O-(1-ボラノ三リン酸)などが含まれる。修飾塩基を含む三リン酸は、増幅プロセスを実施するために使用される反応混合物中に存在してもよく、その結果、修飾塩基は、その後の増幅ラウンドの間に、対応する位置に組み込まれ、エンドヌクレアーゼによって切断可能な二本鎖部位の形成を妨げる。
【0074】
しかし、好ましい実施形態では、ニックは、ニッキング酵素によってニック部位に作られる。ニッキング酵素は、通常の状況下では、二本鎖核酸分子中の一本鎖切断のみを生じる分子である。ニッキング酵素は、典型的にはニッキング認識部位を有し、ニック部位はニッキング認識部位内にあってもよく、又は認識部位の5’又は3’のいずれかであってもよい。多くのニッキング酵素が当業者に知られており、市販されている。ニッキング酵素の例の非網羅的なリストは、Nb.Bsml、Nb.Bts、Nt.Alwl、Nt.BbvC、Nt.BstNBI、及びNt.Bpu101を含む。後者の酵素はThermoFisher Scientificから市販されており、他のものは、例えば、New England Biolabsから入手可能である。
【0075】
好ましい実施形態では、ニッキング酵素は、方法の初めに(例えば、試料をプライマー及びDNAポリメラーゼと接触させて1分以内に)反応混合物に導入される。しかし、場合によっては、より長い遅延(例えば、温度がニッキング酵素の最適温度に近づくことを可能にする)の後にニッキング酵素を反応混合物に導入することが望ましいことがあり得る。
【0076】
本発明の方法は、DNAポリメラーゼの使用を含む。必須ではないが、好ましくは、本発明の方法は、少なくとも1つの好熱性DNAポリメラーゼ(すなわち、60℃を超える最適温度を有する)の使用を含む。好ましくは、DNAポリメラーゼは鎖置換ポリメラーゼである。好ましくは、DNAポリメラーゼはエキソヌクレアーゼ活性を有しない。好ましくは、DNAポリメラーゼは、エキソヌクレアーゼ活性を有しない鎖置換ポリメラーゼであり、また、好ましくは好熱性である。
【0077】
好ましいDNAポリメラーゼの例には、Bstポリメラーゼ、Vent(登録商標)DNAポリメラーゼ、9oNポリメラーゼ、Manta1.0ポリメラーゼ(Qiagen)、BstXポリメラーゼ(Qiagen)、SDポリメラーゼ(Bioron GmbH)、Bsm DNAポリメラーゼ、大きな断片(ThermoFisher Scientific)、Bsu DNAポリメラーゼ、大きな断片(NEB)、及び「Isopol」(商標)ポリメラーゼ(ArcticZymes製)が含まれる。
【0078】
以下の表は、ニッキング酵素とDNAポリメラーゼの組み合わせの例を、例示された酵素の組み合わせを使用して本発明の方法を実施する際に使用することが提案される高温及び低温と共に提供する。表は特定のDNAポリメラーゼを列挙しているが、これらは例に過ぎず、Deep Vent(エキソ)、Bst DNAポリメラーゼI、II、及びIII、Manta 1.0 DNAポリメラーゼ、Bst X DNAポリメラーゼ、Bsm DNAポリメラーゼ、IsoPol DNAなどの、鎖置換エキソヌクレアーゼマイナスであり、記載される温度範囲で活性を有するポリメラーゼで十分である。ポリメラーゼ
【0079】
【0080】
いくつかの実施形態では、本発明の方法は、好都合には、前増幅又は濃縮ステップを含み得る。これは、標的配列をフォワード及びリバースプライマー並びにDNAポリメラーゼと接触させるが、ニッキング酵素とは接触させないステップである。これは典型的には約1~5分間持続し、約1,000倍の標的配列の初期(線形)増幅を産生し、これは標的配列が低コピー数で試料中に存在する場合に特に有用であり得る。
【0081】
いくつかの実施形態では、前増幅又は濃縮ステップは、50℃未満の温度で、ケナルカエウム・シュンビオスム(Cenarchaeum symbiosum)由来のExo-MinusクレノウDNAポリメラーゼ又はExo-Minus好冷菌DNAポリメラーゼなどの中温性DNAポリメラーゼを用いて実施され、その後、混合物を、易熱性DNAポリメラーゼを変性又は不活性化するために50℃超に加熱し、次いで、好熱性DNAポリメラーゼを下流増幅のために添加する。
【0082】
典型的には、本発明の方法は、増幅プロセスの直接的又は間接的産物の1つ以上が検出され、任意選択により定量化される検出ステップを含み、これは試料中の標的の存在及び/又は量を示す。ゲル電気泳動、質量分析、側方流動捕捉、標識ヌクレオチドの組み込み、インターカレート若しくは他の蛍光色素、酵素標識、電気化学検出技術、分子ビーコン及び他のプローブ、特に特異的にハイブリダイズするオリゴヌクレオチド又は他の核酸含有分子を含む、多くの優れた適切な検出及び/又は定量技術が知られている。
【0083】
検出ステップにおいて検出される産物は、本明細書において「検出標的」と称され得る。検出ステップに関する「標的」は、増幅プロセスにおける「標的」と必ずしも同じではなく、実際には、2つの分子は、いくつかの配列(典型的には10~20塩基)を共通で有し得るが、通常少なくともある程度異なっており、ここで、検出標的は核酸分子又はオリゴヌクレオチドを含む。
【0084】
核酸検出法は、二本鎖DNAの特異的検出を可能にする色素の使用を採用し得る。DNA又はRNAへの結合の際に増強された蛍光を示すインターカレート色素は周知である。色素は、例えば、DNA又はRNAインターカレート・フルオロフォアであってもよく、とりわけ、以下を含み得る:アクリジンオレンジ、臭化エチジウム、Pico Green、ヨウ化プロピジウム、SYBR I、SYBR II、SYBR Gold、TOTO-3(チアゾールオレンジダイマー)、Oli Green及びYOYO(オキサゾールイエローダイマー)。
【0085】
核酸検出法はまた、検出標的配列、又は目的の検出標的に相補的又は実質的に相補的な配列を含むプローブ、に直接的に組み込まれた標識ヌクレオチドの使用を採用し得る。適切な標識は、放射性及び/又は蛍光性であってもよく、当技術分野で慣用的な任意の方法で分解され得る。検出することができるが、他の点では天然ヌクレオチドとして機能する(例えば、天然酵素の基質により認識され、基質として作用し得る)標識ヌクレオチドは、天然ヌクレオチドとして機能しない修飾ヌクレオチドとは区別されるべきである。
【0086】
標的核酸及び核酸配列の存在及び/又は量は、分子ビーコンを用いて検出及びモニターし得る。分子ビーコンは、一端にフルオロフォア及び反対側にクエンチング色素(「クエンチャー」)を含む、ヘアピン型オリゴヌクレオチドである。ヘアピンのループは、検出標的配列に相補的又は実質的に相補的なプローブ配列を含み、ステムは、プローブ配列のいずれかの側に位置する自己相補的又は実質的に自己相補的な配列のアニーリングによって形成される。
【0087】
フルオロフォア及びクエンチャーはビーコンの反対側の端部に結合されている。分子ビーコンがその標的にハイブリダイズするのを妨げる条件下で、又は分子ビーコンが溶液中に遊離状態である場合、フルオロフォア及びクエンチャーは互いに近接して、蛍光を妨げる。分子ビーコンが検出標的分子に遭遇すると、ハイブリダイゼーションが起こり、ループ構造は、フルオロフォア及びクエンチャーの分離を引き起こして、蛍光が起こることを可能にする、安定でより堅固な立体構造に変換される(Tyagi et al.1996,Nature Biotechnology 14:303-308)。プローブの特異性により、蛍光の生成は、実質的に、意図された増幅産物/検出標的の存在にのみ起因する。
【0088】
一般的な規則として、信号対雑音比は温度の上昇と共に減少するため、分子ビーコンは、より低いハイブリダイゼーション温度でより良く機能する。これは、低温では、分子ビーコンの自己相補的な「ステム」部分がしっかりとハイブリダイズしたままであり、クエンチャーにフルオロフォアをクエンチさせるが、温度が上昇すると、分子のステム部分が溶け始め、非特異的な蛍光バックグラウンド「ノイズ」を増加させるためである。
【0089】
分子ビーコンは非常に特異的であり、単一の塩基(例えば一塩基多型)で異なる核酸配列を区別することができる。分子ビーコンは、異なる着色フルオロフォア及び異なる検出標的相補配列を用いて合成することができ、同じ反応における複数の異なる検出標的を同時に検出及び/又は定量することを可能にし、単一のPoCアッセイの「多重化」が複数の異なる病原体又は生化学マーカーを検出することを可能にする。定量的増幅プロセスにつき、分子ビーコンは、増幅後に増幅された検出標的に特異的に結合することができ、ハイブリダイズされていない分子ビーコンは蛍光を発しないため、増幅産物の量を定量的に決定するためにプローブ-標的ハイブリッドを単離する必要はない。生じるシグナルは、増幅産物の量に比例する。これはリアルタイムで行うことができる。他のリアルタイムフォーマットと同様に、特定の反応条件は、正確さ及び精度を保証するため、各プライマー/プローブセットにつき最適化されなければならない。
【0090】
検出標的核酸及び核酸配列の産生又は存在はまた、蛍光共鳴エネルギー転移(FRET)によって検出及びモニターされてもよい。FRETは、2つのフルオロフォア:ドナー及びアクセプター分子、の間のエネルギー転移機構である。簡潔には、ドナーフルオロフォア分子が特定の励起波長で励起される。ドナー分子がその基底状態に戻るときのドナー分子からのその後の放出は、(遠距離双極子-双極子相互作用を介して)アクセプター分子に励起エネルギーを転移し得る。FRETは、例えば分子ビーコンで見られるDNA-DNA相互作用において、分子動態を定量するのに有用なツールである。特定の産物の産生をモニターするため、一方の末端にドナー分子、他方の末端にアクセプター分子でプローブを標識することができる。プローブ検出標的ハイブリダイゼーションは、ドナー及びアクセプターの距離又は配向の変化を生じ、FRET特性の変化が観察される。(Joseph R.Lakowicz.“Principles of Fluorescent Spectroscopy”,Plenum Publishing Corporation,第2版(1999年7月1日))。
【0091】
検出標的核酸の産生又は存在は、側方流動装置によって検出及び監視することもできる。横流装置は周知である。これらの装置は、一般に、毛管力によって流体が流れる固相流体透過性流路を含む。例としては、ディップスティックアッセイ及び様々な適切なコーティングを有する薄層クロマトグラフィープレートが含まれるが、これらに限定されない。試料に関する様々な結合試薬、試料に関する結合パートナー又は結合パートナーを含むコンジュゲート、及びシグナル産生システムが、流路中又は流路上に固定化される。分析物の検出は、酵素検出、電気化学検出、ナノ粒子検出、比色検出、及び蛍光検出を含むいくつかの異なる方法で達成することができる。酵素検出は、側方流動装置の表面上の相補的又は実質的に相補的な核酸検出標的にハイブリダイズされる酵素標識プローブを含み得る。得られた複合体は、読み取り可能なシグナルを発生させるために適切なマーカーで処理することができる。ナノ粒子検出は、金コロイド、ラテックス及び常磁性ナノ粒子を使用し得るビーズ技術を含む。一例では、ビーズを抗ビオチン抗体にコンジュゲートすることができる。標的配列は直接ビオチン化されてもよく、又は標的配列は配列特異的ビオチン化プローブにハイブリダイズされてもよい。金及びラテックスは、裸眼で見える比色シグナルを発生し、常磁性粒子は、磁場中で励起されたときに非可視シグナルを発生し、専門のリーダーによって解釈され得る。
【0092】
蛍光ベースの側方流動検出法、例えば、二重フルオレセイン及びビオチン標識オリゴプローブ法、又は量子ドットの使用もまた知られている。
【0093】
核酸は、側方流動装置で捕捉することもできる。捕捉の手段は、抗体依存性及び抗体非依存性の方法を含み得る。抗体非依存性捕捉は、一般に、2つの結合パートナー間の非共有結合的相互作用、例えば、ビオチン化プローブとストレプトアビジン捕捉分子との間の高親和性及び不可逆的結合を使用する。捕捉プローブは、側方流動膜に直接固定されてもよい。
【0094】
本発明の方法全体、又は少なくとも本方法の増幅プロセス部分は、反応容器(例えばEppendorf(登録商標)による、従来の実験室用プラスチック試薬チューブなど)中で実施されてもよく、又は固体支持体中及び/又は固体支持体上で実施されてもよい。固体支持体は、多孔質でも非多孔質でもよい。特定の実施形態では、固体支持体は、多孔質膜材料(ニトロセルロースなど)を含み得る。より特定的には、固体支持体は、上記のように、多孔質側方流動アッセイ装置を含むか又はその一部を形成し得る。或いは、固体支持体は、アッセイ装置に沿って液体を輸送するために、1つ以上の固体細孔毛細管を使用するマイクロ流体型アッセイを含むか又はその一部を形成してもよい。
【0095】
好ましい実施形態では、本発明の方法の全部又は少なくとも一部は、ポイントオブケア(PoC)アッセイ装置を使用して実施され得る。PoCデバイスは、典型的には、製造が安価であり、単回使用後に処分され、一般にアッセイを実施又は解釈するために他の装置又は機器を必要としない自己内蔵型であり、望ましくは、使用に臨床知識又は訓練を必要としない、という特徴を有する。
【0096】
本発明の方法は、典型的な実施形態では、熱往復の高温と低温の間の温度差が非常に小さいため、PoC型の装置を使用した実施に特に適している。結果として、対照的に、qPCRを実施するには比較的単純な熱往復/温度調節で十分である。
【0097】
それにもかかわらず、本発明の増幅方法は、qPCRの代わりに、PoC装置ではなく実験室ベースのシステムで使用することもでき、典型的には、qPCRを実施することによって達成できるよりもはるかに迅速に定量結果を達成できる。
【0098】
本発明における使用に適したプライマーの例は、本明細書に開示されている。本発明の方法での使用に適切であり得る他の例は、とりわけ、米国特許出願公開第2009/0017453号明細書、米国特許出願公開第2013/0330777号明細書、及び欧州特許第2,181,196号明細書に開示されており、これらの内容は参照により本明細書に組み込まれる。当業者は、過度の実験をすることなく、他の標的配列の増幅に適した他のプライマーを容易に設計することができよう。
【0099】
他で説明されるように、本発明における使用のプライマーは、好ましくは、標的相補的部分だけでなく、ニッキングエンドヌクレアーゼ結合部位及びニッキング部位、並びに安定化部分も含む。
【0100】
本発明の方法における使用のプライマーは、修飾ヌクレオチド(すなわち、天然に存在する核酸分子には見られないヌクレオチド)を含み得る。そのような修飾ヌクレオチドは、好都合には、プライマーの標的相補部分及び/又はプライマーの他の部分に存在し得る。多くの他の修飾ヌクレオチドが当業者に知られているが、修飾ヌクレオチドの好ましい例は、2’-修飾ヌクレオチド、特に2’O-メチル修飾ヌクレオチドである。
【0101】
ここで、本発明の特徴を、例示的な実施例及び添付の図面を参照して説明する。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【
図1A】本発明の方法を実施するのに適切な核酸増幅反応のそれぞれの開始段階及び指数関数的増殖段階の概略図である。
【
図1B】本発明の方法を実施するのに適切な核酸増幅反応のそれぞれの開始段階及び指数関数的増殖段階の概略図である。
【
図2】本発明の方法の実施中の反応混合物につき典型的な温度プロファイルを示すグラフ(分での時間に対する℃での温度)である。
【
図3】本発明の方法を実施するのに有用なプライマーオリゴヌクレオチド分子の典型的な実施形態の概略図である。
【
図4】2’O-メチル化塩基を含まないか、又は異なる数で含む、プライマー分子を使用して、本発明の方法に従って実施された増幅反応の、時間(秒)に対する(バックグラウンドを差し引いた)蛍光(任意単位)のグラフである。
【
図5A】2’O-メチル化塩基を含まないか、又は異なる数で含む、プライマー分子を使用して、本発明の方法に従って実施された増幅反応の、時間(秒)に対する(バックグラウンドを差し引いた)蛍光(任意単位)のグラフである。
【
図5B】2’O-メチル化塩基を含まないか、又は異なる数で含む、プライマー分子を使用して、本発明の方法に従って実施された増幅反応の、時間(秒)に対する(バックグラウンドを差し引いた)蛍光(任意単位)のグラフである。
【
図5C】2’O-メチル化塩基を含まないか、又は異なる数で含む、プライマー分子を使用して、本発明の方法に従って実施された増幅反応の、時間(秒)に対する(バックグラウンドを差し引いた)蛍光(任意単位)のグラフである。
【
図6】本発明に従った方法(左側のプロット)、及び国際公開第2018/002649号パンフレットに開示されているSTARプロトコル(中央のプロット)、又は等温反応プロトコル(右側のプロット)に従って実施される方法について、バックグラウンド閾値を超える蛍光信号の生成によって判断される、増幅を達成するための平均時間(A
T、分)を示す散布図である。
【
図7】それぞれ、本発明の方法を特徴付ける際に使用される、ポリメラーゼ活性アッセイ及びニッキング活性アッセイの概略図である。
【
図8】それぞれ、本発明の方法を特徴付ける際に使用される、ポリメラーゼ活性アッセイ及びニッキング活性アッセイの概略図である。
【
図9A】様々な温度で実施された、ポリメラーゼ活性アッセイの時間(分)に対する相対蛍光(任意単位)の(3回の反復試行の)平均のグラフである。
【
図9B】様々な温度で実施された、ニッキング活性アッセイの時間(分)に対する相対蛍光(任意単位)の(3回の反復試行の)平均のグラフである。
【
図10A】従来のPCR条件を使用した、様々な異なるポリメラーゼ酵素を使用して試行された増幅反応のサイクル数に対する相対蛍光(任意単位)のグラフである。
【
図10B】従来のPCR条件を使用した、様々な異なるポリメラーゼ酵素を使用して試行された増幅反応のサイクル数に対する相対蛍光(任意単位)のグラフである。
【
図11A】本発明に従うがニッキング酵素の不存在下での「qSTAR」熱往復条件を使用した、様々な異なるポリメラーゼ酵素を使用して試行された増幅反応のサイクル数に対する相対蛍光(任意単位)のグラフである。
【
図11B】本発明に従うがニッキング酵素の不存在下での「qSTAR」熱往復条件を使用した、様々な異なるポリメラーゼ酵素を使用して試行された増幅反応のサイクル数に対する相対蛍光(任意単位)のグラフである。
【
図11C】本発明に従うがニッキング酵素の不存在下での「qSTAR」熱往復条件を使用した、様々な異なるポリメラーゼ酵素を使用して試行された増幅反応のサイクル数に対する相対蛍光(任意単位)のグラフである。
【
図11D】本発明に従うがニッキング酵素の不存在下での「qSTAR」熱往復条件を使用した、様々な異なるポリメラーゼ酵素を使用して試行された増幅反応のサイクル数に対する相対蛍光(任意単位)のグラフである。
【
図12】未知濃度の開始試料を使用した、従来のqPCR増幅の実施から得られたデータを示す図である。
【
図13A】未知濃度の開始試料を使用した、本発明の方法に従う「qSTAR」増幅の実施から得られたデータを示す図である。
【
図14A】時間(秒)に対する蛍光(任意単位)のグラフであり、異なる温度範囲にわたって本発明の方法に従って実施された増幅反応の結果を示す。
【
図14B】時間(秒)に対する蛍光(任意単位)のグラフであり、異なる温度範囲にわたって本発明の方法に従って実施された増幅反応の結果を示す。
【
図14C】時間(秒)に対する蛍光(任意単位)のグラフであり、異なる温度範囲にわたって本発明の方法に従って実施された増幅反応の結果を示す。
【
図14D】時間(秒)に対する蛍光(任意単位)のグラフであり、異なる温度範囲にわたって本発明の方法に従って実施された増幅反応の結果を示す。
【
図15】時間(分)に対する蛍光(任意単位)のグラフであり、38~45℃の範囲の温度で本発明の方法に従って実施された増幅反応の結果を示す。
【
図16】時間(分)に対する蛍光(任意単位)のグラフであり、逆転写されたRNA標的配列を使用して、本発明の方法に従って実施された増幅反応の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0103】
実施例1:定量的選択的温度増幅反応(qSTAR)を試験するためのプロトコル
国際公開第2018/002649号パンフレットに記載される選択的温度増幅反応(STAR)、若しくはPCR、SDAなどの同様に関連する他のDNA/RNA増幅技術、又は等温増幅技術による遺伝子発現の定量化は、いくらよく見ても信頼性が低いであろう。生成される産物の量は、初期の開始試料の標的DNAの量と直接相関しないプラトーに達する。増幅反応に対する制御された温度往復の帯状効果(zonal effect)を確立することにより、増幅産物が、DNA、RNA、又はその他の既知の核酸の初期開始量に直接関連する鎖置換ポリメラーゼ及びニッキングエンドヌクレアーゼを使用して定量的増幅を達成できる。本発明に従って、ニッキング酵素に基づいた選択温度増幅反応は、本明細書では定量的選択的温度増幅反応(qSTAR)と呼ぶ。特に明記しない限り、プロトコルはさらに以下に記載される。
酵素、オリゴヌクレオチド、及び標的
クラミジア・トラコマティス(Chlamydia trachomatis)(Ct)は、qSTAR機構の開発のための初期標的として用いられた。クラミジア・トラコマティス(Chlamydia trachomatis)(ATCC VR-886)ゲノムDNAをAmerican Type Culture Collection(Manassas、VA)から入手した。潜在性プラスミドのオープンリーディングフレーム6領域をプライマーqSTARctF61a(配列番号1 5’-CGACTCCATATGGAGTCGATTTCCCCGAATTA-3’)及びqSTARctR61c(配列番号2 5’-GGACTCCACACGGAGTCTTTTTCCTTGTTTAC-3’)で増幅した。得られたDNA鋳型を分子ビーコン、欧州特許第0728218号明細書に記載されるSTARctMB1(配列番号3、5’-FAM/ccattCCTTGTTTACTCGTATTTTTAGGaatgg/BHQ1-3’)を用いて検出した。Bst X DNAポリメラーゼは、Qiagen(Beverly、MA)から購入した。Nt.BstNBIニッキングエンドヌクレアーゼは、New England BioLabs(Ipswich、MA)から購入した。これは、米国特許第6,191,267号明細書に記載される。特に明記しない限り、同じポリメラーゼ及びニッキングエンドヌクレアーゼを、本明細書に記載される他の実施例でも使用した。
【0104】
オリゴヌクレオチド及び分子ビーコンは、Integrated DNA Technologies(Coralville、IA)及びBio-Synthesis(Lewisville、TX)によって合成された。qSTAR反応に使用したプライマーの一般的特徴は、国際公開第2018/002649号パンフレットに記載の通りである。
【0105】
本発明の一実施形態における反応で見られるオリゴヌクレオチド及び増幅機構の概要は、(i)標的核酸分子;(ii)標的核酸分子に相補的ないくつかのオリゴヌクレオチドを含む2つ以上のプライマーオリゴヌクレオチド分子、及び(iii)ニッキング酵素によってニックされ得るプライマー内の部位で構成される。本方法は、選択的温度増幅条件下で、標的核酸分子をポリメラーゼ、それぞれが標的ヌクレオチド分子上の相補的配列に特異的に結合する2つ以上のプライマーオリゴヌクレオチド、及びニッキング酵素、と接触させることを含み、プライマーオリゴヌクレオチドが結合した標的配列の少なくとも一部を含む検出可能なアンプリコンを生成する。全体的なqSTAR反応は、2つの異なる段階、すなわち、それぞれ
図1A及び
図1Bに概略的に図示される開始及び指数関数的増幅、を経ることが理解され得る。開始段階は、指数関数的増幅が起こり得るタンパク質プライマー二重鎖の初期形成である。指数関数的段階は、ニッキング酵素がポリメラーゼと共に活性化し、指数関数的増幅を引き起こすときである。
図1Aでは、プライマーと標的核酸の初期接触が発生し(ステップa)、続いてポリメラーゼ伸長(ステップb)が行われ、フォワード開始鋳型(c)が生成される。反対側の鎖のプライマーは、新たに生成したフォワード開始鋳型に結合し(ステップd)、開始鋳型のニック部位に向かって、及びそれを通って伸長する(ステップe)。この開始は、フォワード鎖及びリバース鎖の両方で同時に発生する可能性がある。この初期プロセスは、主に伸長のためのポリメラーゼを含むが、本質的にニッキング酵素の関与がほとんどないか全くないものとして理解することができる。
【0106】
図1Aでは、標的は一本鎖であるとして示されている。これは、明確性と単純性を目的としている。実際には、本発明の方法は、二本鎖標的ポリヌクレオチド鎖を「融解」又は分離するために高温を使用する必要なく実施され、むしろ、プライマーは、鎖間の水素結合の局所的な緩和(「ブリージング」として知られている現象)、を利用することによって(二本鎖)標的分子と結合することができる。
【0107】
(この実施形態では、より低い)第2の選択温度では、いずれかの鎖でニッキングが好都合であり、鎖置換ポリメラーゼが反対側のプライマーに向かって、ニック部位を介して伸長することを可能にする。ニッキング/ポリメラーゼ伸長のこのサイクルにより、指数関数的二重鎖が形成される(
図1B)。ニックと伸長から生成された新しい各鋳型が別のプライマーの標的になると、この指数関数的二重鎖が双方向増幅に送られる。ポリメラーゼ特異的伸長のために温度を開始段階に戻し、バックグラウンド増幅を制限し、慎重段階(discreet phases)で指数関数的増幅を制御する。
【0108】
温度の制御、及びポリメラーゼ及びニッキングエンドヌクレアーゼの活性を制御することにより、本出願人らは、未知の標的入力の定量化を可能にする、急速且つ制御された増幅のための方法を達成した。
【0109】
本発明に従った増幅反応の一実施形態につき
図2(分での時間に対する℃)は、典型的な温度プロファイルを示す。示された実施形態では、ポリメラーゼは、ニッキング酵素の最適温度よりも高い最適温度を有する。高温は63℃、低温は57℃である。低温での滞留時間(約5秒)は、高温での滞留時間(約2秒)より長い。各完全な温度往復は約8~9秒続き、1分あたり約7つの熱往復が完了する。往復の高温側の半分(>60℃)では、反応の開始段階(
図1Bを参照)が優先され、支配的である。当業者は、増幅反応の2つの相の間にはっきりとした温度差はなく、
図2に示される分割線は単に理解を助けるためのものであることを理解するであろう。
【0110】
定量的選択的温度増幅のアプローチは、驚くべきことに、以下でさらに詳細に説明及び図示されるように、以前の既存の方法よりも有意に優れた性能を備えた、定量的、急速、特異的、及び高収量の増幅反応をもたらした。
増幅条件
基本的なqSTAR混合物には、2つのプライマー、ポリメラーゼ及びニッキング酵素(上記参照)が含まれていた。反応は、1.0μMのフォワードプライマー、0.5μMのリバースプライマー、0.25μMの分子ビーコン、10μlのqSTARマスターミックス及び5μlのDNA試料を含む25μlの最終容量で実施した。qSTARマスターミックスには以下の試薬:12.5mMのMgSO
4、90mMのトリス-HCl(pH8.5)、300μMの各dNTP、20mMのNH
4OAc、30mMのNaOAc、2mMのDTT、0.02%のトリトンX-100、15Uのニッキングエンドヌクレアーゼ及び60Uのポリメラーゼが含まれていた。反応の温度は、固有の酵素活性を利用するために、2つの慎重温度段階(discreet temperature phases)の間で制御された。主にポリメラーゼ活性からなる開始段階では、2秒間で62℃の上昇した温度にあった。(この温度では、ニッキング酵素が大幅に阻害された-
図9B参照)。ポリメラーゼ及びニッキング酵素の両方が中程度又は高度に活性である指数関数的段階を、57℃で5秒間保持した。完全な往復の合計時間は15秒であった。これは、温度の変化における装置の制限により、各温度での滞留時間の2倍超である(より応答性の高い機器では、高温と低温間を高速での往復を可能にする)。増幅及びqSTAR産物の検出は、Agilent Mx3005 P qPCR装置(Agilent)を用いて実施した。
【0111】
全ての反応は、試薬が反応温度になるために、及び温度が増幅動態、酵素性能、及びシグナル蛍光に及ぼす温度の影響を試験するためにプレインキュベーションを有した。
増幅手順
増幅反応が実施された正確なステップは次の通りである:1)マスターミックスを調製する;2)標的を有するか又は標的を有しないプライマーを調製する;3)プレートごとに行われる反応の数に依存して96ウェルプレートのA~G列にプライマーミックスを添加する;4)同じ96ウェルプレートのH列にマスターミックスを添加する;5)プレートを封鎖し、反応前インキュベーションを15秒間行う;6)H列から各プライマーミックスの列にマスターミックスを転移させる;7)封鎖して、予め選択した温度プロファイル及びデータ収集を開始する。
【0112】
反応中、増幅産物は、以下に記述するように、分子ビーコンを使用して、全ての指数関数段階の終わりに測定された。反応混合物中の分子ビーコンの蛍光をモニターし、クエンチャーからフルオロフォアを分離する分子ビーコンに結合して蛍光を生成する反応中に生成される特異的な産物の量を測定した。
実施例2:未修飾のプライマーを使用した結果
この新規の増幅技術の可能性を実証するために、ゲノムDNA入力の6ログにわたり目標希釈ごとに4回繰り返し、無標的対照(NTC)に対して2回繰り返して、qSTARを実行した。未修飾プライマー(すなわち、化学修飾された異常な核酸塩基を含まないプライマー分子)を使用した実験の結果を
図4に示す。「無標的対照」のシグナル(バックグラウンドを減算した蛍光)の量は、暗色の線(「ntc」)で示される。20cp、200cp、2k、20k、200k及び2Mコピーの標的(C.トラコマティス(C.trachomatis)のゲノムDNA)の存在下で生成されるシグナルの量は、それぞれの線によって示される。
【0113】
qSTAR反応は、標的入力からの線形決定係数を表示すると同時に、速度、感度、及び全蛍光の改善を実証する。標的入力間のこのような改善と分離が、近接しているが明確に異なる2つの温度領域間の反応の温度を制御することによって達成し得ることは、驚くべきことであり、予期しないことである。
【0114】
本発明者らを特定の理論に制限するものではないが、増幅の改善は、少なくとも2つの特性に起因し得ると考えられる。ほとんどの核酸増幅反応において、プライマー二量体は最終的に形成され、限定された試薬に対して競合し、低標的濃度ではプライマー二量体が反応の主増幅経路になる可能性があり得る。プライマー二量体の形成を、たとえ少量であっても、制限又は遅延させることで、有意な利益がもたらされる。増幅反応が急速であるという性質のために、プライマー二量体形成の遅延により、増幅の全ての局面を改善する有利な好ましい増幅経路(すなわち、鋳型生成)が可能となる。上昇した温度で反応を開始することにより、これらの鋳型経路が有利となり、さらに好ましい。これは、qSTAR法における感度及び速度の向上、蛍光シグナルの向上、より厳密な複製及び速度の向上により見られる。
【0115】
開始段階では、反応は、上昇した温度、62℃で行われる。この上昇した温度は、ニッキング酵素を永久的に機能的に損傷することなく選択的に阻害する(他の場所で説明されている増幅及び
図9Bに関連して示される)。この開始段階では、反応温度がポリメラーゼの最適温度に比較的近いため、ポリメラーゼが比較的有利になり、急速且つ特異的な伸長が可能になる。
【0116】
反応の開始段階の後、温度はニッキング酵素の最適温度に近い温度に低下し、その結果、効率が向上し、鋳型生成が増加する。望ましい鋳型経路が不規則な経路よりも有利であったため、特異性及び感度が大幅に向上し、これは、qSTARの温度往復及び酵素の選択的活性調節によってさらに促進される。
【0117】
反応混合物は、継続的に62℃及び57℃の間を往復し、正確な定量のために使用されることができる制御された急速増幅技術を提供する。
【0118】
本発明の新規の非等温増幅法は、等温反応及び二重鎖解離のために高温に依存するものを含む既存の増幅反応の多くのタイプに対して実質的な改善を提供する。「温度ゲーティング」によって酵素活性を制御し、反応動態を最適化することにより、本発明の方法は、検出の感度を向上しながら、増幅の一貫性及び制御を改善し、信頼性があり正確な定量を可能にする。
実施例3:2’O-メチル修飾プライマーを用いた結果
米国特許第6,794,142号明細書及び米国特許第6,130,038号明細書に記載されているように、2’O-メチル修飾プライマーの使用は、増幅中のプライマー二量体形成を減少させることが知られている。米国特許出願公開第2005-0059003号明細書は、SDAプライマーの3’末端に位置する2’O-メチル修飾の使用を記載しており、これは、Bst DNAポリメラーゼI及び誘導体は、DNA合成のためのプライマーとして2’-修飾リボヌクレオチドを効率的に利用することができることを示唆している。1つ以上の2’修飾ヌクレオチド(例えば、2’-O-メチル、2’-メトキシエトキシ、2’-フルオロ、2’-アリル、2’-O-[2(メチルアミノ)-2-オキソエチル]、2’-ヒドロキシル(RNA)、4’-チオ、4’-CH3-O-2’-架橋、4’-(CH3)3-O-2’-架橋、2’-LN A、及び2’-O-(N-メチルカルバメート、2’-Suc-OH))を含む標的特異的プライマー領域は、増幅反応を改善するであろう。単一の2’-O-メチル化塩基又はプライマーの3’側に位置する2’-O-メチル化塩基のストリングとともに、前の実施例で記述されるように反応は、酵素選択的温度往復(62~57℃)を使用して、実行された(
図3に概略的に図示される)。
【0119】
3’末端に1つ又は複数の2’修飾ヌクレオチドを含むプライマーを使用した増幅の結果を
図5A~5Cに示す。反応は、5つのログ入力gDNA濃度の全てにおいて、最低4回の複製で行われ、標的対照反応はなかった。実証されているように、反応は5ログの範囲にわたり定量的であり、決定係数は、0.99を超える(データは簡素化のために省略された)。決定係数は、Pfafflによって「A new mathematical model for relative quantification in real-time RT-PCR」,(2001,Nucl.Acids Res.
29(9)e45)に記載されたものと同様の方法を使用することにより計算された。指数関数的段階の開始点である増幅のEPは、EPがバックグラウンド蛍光を超えて始まった場所を特定することによって決定された。バックグラウンド蛍光は、各反応の最初の3つの読み取りを平均することによって計算された。次に、各反応の相対蛍光が2,000に達した時期に基づいてEPを決定した。各反応の既知の入力を使用して、線形回帰アルゴリズムを使用してEPを評価し、ログ値全体の決定係数を特定した。この標準曲線は、直線性について生成及び計算され、典型的には、qSTAR反応では、Rの2乗値が.99以上である。
【0120】
データは、単一の2’O-メチル化ヌクレオチドを組み込んだプライマーを使用すると増幅反応が停止し、入力の全ての濃度にわたってより良い分解能のために反応速度が遅くなることを図示している(
図5A)。さらに、qSTAR法の使用は、2’O-メチル増幅の使用を改善しただけでなく、既知の増幅修飾による方法の機能性を示している。
図5B及び5Cに示すように、プライマーに沿って追加の2’O-メチル化塩基を組み込むと、増幅の分離が改善されるか、又はベースラインから上昇して、より高い分解能を可能にし、技術の定量的能力が向上する。基本的に、各濃度間の分離は、2’O-メチル化塩基の使用によって引き起こされる反応の減速により改善される。例えば、未修飾のプライマーを使用した場合、ベースラインから上昇して1サイクル分離する反応は、2’o-メチル化塩基を組み込んだプライマーを使用する場合には、2サイクルの分離を示す。これは、2’O-メチル修飾が本発明の例示された方法における非特異的、不規則な増幅の産生を減少させるが、これらの修飾のより大きな利点は、より高い分解能、及びより定量的な増幅を可能にするように反応速度を制御することであることを示唆している。
【0121】
本出願人を特定の理論に制限するものではないが、プライマー領域中の1つ以上の2’修飾ヌクレオチドを用いることによって得られる潜在的改善は、増幅の開始段階における増強に大きく起因すると仮定される。初期伸長段階中に、2つの事象が、本発明の増幅反応における2’修飾ヌクレオチドの活性を説明するのに役立つ。第一に、2’O-メチル化塩基は、DNA/DNA二重鎖の融解温度を下げることが知られており、鋳型::鋳型相互作用を阻害する傾向があるため、開始がより制御され、そのために、プライマー間の相互作用によって形成される非特異的複合体のポリメラーゼ伸長の機会が減少する。第二に、ヌクレオチドが結合ポケットに入ると、ポリメラーゼが機能停止する可能性がある。非生産的反応(すなわち、オフ標的又はプライマー二量体形成)では、鋳型結合がその融解温度に近いため、機能停止効果は、異常伸長を最小限にするのに十分である。その結果として、2’修飾は、反応が鈍るため望ましくない増幅経路を制限することができる。qSTARは、2’修飾を活用し、標的増幅をより調節して反応を調整し、定量能力を向上することができる。このポリメラーゼの機能停止は、qSTARが2’O-メチル修飾と併せて互いに改善する理由をさらに説明する。本発明の例示された方法で見られる初期のポリメラーゼ温度領域は、プライマー二量体形成を減少されることに加えて、制御され信頼性のある方法で開始を遅くする。さらに、qSTARは繰り返し低温へ往復するため、反応の進行に伴い、2’修飾による融解温度の低下を抑制することができる。
実施例4:再現性
qSTAR技術の検証のために、米国特許第9,562,263号明細書に記載されているようにSTAR及び他の公表された等温条件の性能に対して、qSTARの性能を比較する大規模な反復研究が行われた。増幅(qSTAR対STAR対等温)は、標的を含有する反応については100以上の複製を用い、標的を含まない対照反応混合物については16の複製を用いて行った。全ての条件で、同じ緩衝液、ポリメラーゼ、ニッキング酵素及び標的を使用した。
図6の散布図に示されるように、qSTAR及びSTAR増幅は、等温増幅反応と比較して、蛍光の閾値レベル(TL)への増幅を達成するための平均時間(A
T)の明らかな改善、感度の向上、及び複製間の標準偏差の減少を示す。本発明に従って行われた反応のA
T時間は2.38分であった一方、従来の等温プロトコルに従って実施された反応のA
T値は4.12分であり、この差は統計学的に有意である(両側検定)。(注-失敗した反応は、10分間の増幅時間-反応が実行された最大時間を有するとして示される)。さらに、qSTAR法は、速度に関してSTAR法よりも改善されている。qSTAR技術は、最小数の外れ値で、最も厳密な複製、最高の感度、最速の増幅を実証した。本出願人を特定の理論に制限するものではないが、増幅時間の有意な減少は、反応の開始の改善によるものと考えられ、これは、より効率的な低コピー増幅、最小化されたプライマー二量体事象、及び以前に開示された方法よりも速い産物生成を可能とする増加した特異的産物の伸長、を可能とする。ニッキング酵素及びポリメラーゼの活性を活用することにより、より厳密な複製が実現され、望ましい鋳型の特異的で迅速な制御された増幅のための複数の機会が生成される。
実施例5:qSTAR機能
本発明の方法の特徴は、増幅プロセス中に少ない温度変化を使用することによる酵素活性の調節を含み、その温度変化は、例えばqPCRの実施中に受けた変化よりもはるかに小さい。ニッキング酵素が開始段階で活性が低下しているが、指数関数的段階では活性が高いことを確認するために、発明者らは2つの独自のタンパク質活性アッセイ:ポリメラーゼ活性アッセイ(「PAA」)及びニッキング活性アッセイ(「NAA」)を開発した。
ポリメラーゼ活性アッセイの設計、酵素及びオリゴヌクレオチド:
PAAの合成オリゴヌクレオチドは、Integrated DNA Technologies(Coralville、IA)によって合成された。設計は、3つのオリゴヌクレオチドで構成される;鋳型オリゴ(NEF)、(配列番号4 5’-/56-FAM/ACCGCGCGCACCGAGTCTGTCGGCAGCACCGCT-3’)、プライミングオリゴ(PO)、(配列番号5 5’-AGCGGTGCTGCCGACA-3’)、及びクエンチングオリゴ(POQ)、(配列番号6 5’-GGTGCGCGCGGT/3BHQ_1/-3’)。
図7に示すように、これらの3つのオリゴヌクレオチドは、それぞれが独自の機能を持つ溶液中で複合体を形成する。NEFは、5’フルオロフォアを有し、POQは、5’鋳型オリゴフルオロフォアにより放出された光量子を吸収する3’クエンチング部分を有する。POは、鎖置換ポリメラーゼがクエンチングオリゴを伸長及び置換する開始部位として機能し、クエンチングオリゴがもはや鋳型オリゴに近接していないため、蛍光を生成できる。活性の高い鎖置換ポリメラーゼは、活性の低いポリメラーゼ又は鎖(stand)置換活性を欠くポリメラーゼと比較して、蛍光シグナルの生成速度が速くなる。
ポリメラーゼ活性アッセイ条件
基本的なポリメラーゼ活性アッセイ(PAA)混合物は、5’-FAM修飾を含む鋳型オリゴ(NEF)、鋳型の3’末端にアニールするプライミングオリゴ(PO)、鋳型の5’末端にアニールする3’-BHQ1修飾を含むクエンチングオリゴ(POQ)、及びテスト中のポリメラーゼ(上記を参照)が含まれている。反応は、0.2μMのNEF、0.3μMのPO、0.7μMのPOQ、及び1X PAAマスターミックスを含む25μlの最終容量で実施した。1X濃度のPAAマスターミックスには、次の試薬:12.5mMのMgSO4、90mMのトリス-HCl(pH8.5)、300μMの各dNTP、15mMのNH
4CH
3CO
2、15mMのNa
2SO
4、5mMのDTT、0.2mg/mlのBSA、0.02%のTriton X-100、20mMのRb
2SO
4、10mMのL-スレオニン、及び0.03U/μlのポリメラーゼが含まれる。反応は、等温で行われ、特定の温度で選択的酵素活性を測定する。PAAは、Agilent Mx3005P qPCR装置(Agilent)で実施した。全ての反応は、試薬を選択した温度の影響を試験するための温度とし、反応が加熱されるのに伴う変動を防ぐことを可能にするための、反応前インキュベーションを有していた。各反応は、増幅動態、酵素性能、及びシグナル蛍光を評価した。
ニッキング活性アッセイ(NAA)の設計、酵素及びオリゴヌクレオチド:
NAAの合成オリゴヌクレオチドは、Integrated DNA Technologies(Coralville、IA)によって合成された。アッセイには2つのオリゴヌクレオチド、鋳型オリゴ(NEQ)、(配列番号7 5’-ACCGCGCGCACCGAGTCTGTCGGCA/3BHQ_1/-3’)及びプライミングオリゴ(POF、配列番号8 5’-/56-FAM/CTGCCGACAGACTCGGTGCGCGCGGT-3’)が含まれる。
図8に示すように、これらのオリゴヌクレオチドは、それぞれが独自の機能を持つ溶液中で複合体を形成する。鋳型オリゴは、ニッキングエンドヌクレアーゼ活性及び下流の3’クエンチャーにつきニッキング部位を有する。プライミングオリゴは、相補的なニッキング部位配列及び5’フルオロフォアを有する。溶液中では、この2つがニッキング結合部位を完成させる複合体を形成し、ニッキングエンドヌクレアーゼを切断できる。ニッキングエンドヌクレアーゼによるニックに続くニック部位のオリゴヌクレオチドクエンチャー3’は、現在、低い融解温度を有している。反応は、この融解温度を超えて実施されるため、クエンチャーを含む短縮フラグメントが複合体から放出され、その結果、クエンチされない蛍光が生じる。ニッキング酵素がより活性化されるほど、蛍光シグナルがより速くより大きく生成される。
ニッキング活性アッセイ条件
基本的なNAA混合物には、3’-BHQ1修飾を含む鋳型オリゴ(NEQ)、及び鋳型にアニールする5’-FAM修飾を含むプライミングオリゴ(POF)、及び試験されるためのニッキングエンドヌクレアーゼが含まれている。反応は、1.3μMのNEQ、1.6μMのPOF、及び1X NAAマスターミックスを含む25μlの最終容量で実施した。1X濃度のNAAマスターミックスには、次の試薬:12.5mMのMgSO
4、90mMのトリス-HCl(pH8.5)、15mMのNH
4CH
3CO
2、15mMのNa
2SO
4、5mMのDTT、0.2mg/mlのBSA、0.02%のTriton X-100、20mMのRb
2SO
4、10mMのL-スレオニン、及び0.008U/μlのニッキングエンドヌクレアーゼが含まれる。反応は、等温で行われ、特定の温度で選択的酵素活性を測定する。NAAは、Agilent Mx3005P qPCR装置(Agilent)で実施した。全ての反応は、試薬を選択した温度の影響を試験するための温度とし、反応が加熱されるのに伴う変動を防ぐことを可能にするための、反応前インキュベーションを有していた。各反応は、増幅動態、酵素性能、及びシグナル蛍光を評価した。
酵素の温度プロファイル
図9Aは、6つの等温条件のポリメラーゼ活性アッセイを示す。63℃で、ポリメラーゼは、蛍光曲線の傾き及び全蛍光によって決定されるように、最も強力な活性と動態を有する。40℃に到達するまで、60℃、55℃、50℃及び45℃と温度が継続して下がるごとに、活性は減少した。この低温では、ポリメラーゼの活性は実質的に存在しないように見える。
【0122】
図9Bは、6つの等温条件につきニッキング活性アッセイを示す。qSTAR法の好ましい温度範囲の上限に向かって明確な最適温度を示すポリメラーゼアッセイとは異なり、ニッキング活性アッセイは、qSTAR法の好ましい温度範囲の下限に向かって最適(約55℃)を示すが、63℃でほとんど又はまったく活性を示さない。他の全ての温度は、ニッキング酵素に対してある程度の活性を示す。
【0123】
これらのアッセイからのデータは、qSTAR技術の特徴的な性質を示している。鎖置換及び/又は温度分離に依存する他の増幅方法とは異なり、qSTARは独自に「温度ゲーティング」を使用し、酵素活性を調整し、急速な増幅を制御する。これらの酵素の独特の特徴及び活性に対する温度依存性を認識して、本発明者らは、未知の試料入力を6分未満で定量化できる新しい急速且つ特異的で制御された増幅技術を開発した。
【0124】
特定の理論に束縛されるものではないが、この実施例では、qSTARはニッキング酵素が2つの温度間で増幅するため、ニッキング酵素の活性調節に関与すると考えられている。任意の定量的技術の要件である制御された増幅を可能にするため、63℃と57℃は、(現在のタンパク質活性プロファイルに基づく)上記の例示的なシステムにおいて好ましい温度選択である。さらに、未知の核酸物質の定量のための既知の効率的な増幅事象を管理するために、いずれかの酵素の活性を制御することが望ましいと考えられている。
実施例6:qPCRポリメラーゼを使用したqSTAR増幅結果
PCRなどの他の増幅技術と比較してqSTARの予想外の特性を実証するために、一般的なPCRポリメラーゼの比較が実施され、一般的なPCRポリメラーゼ及び方法がqSTAR法で不活性であることを示した。4つのポリメラーゼ、Vent、Deep Vent、Taq及びPhusionは、以下の記述のように、qPCR法での増幅に使用され、qSTAR法と比較された。分子ビーコンは特定の一本鎖DNA産物の総量の増加のみを測定するため、非特異的増幅産物は、意図された増幅産物と独立して測定されることがない。全ての増幅産物の生成(例えば、プライマー二量体形成から生じるものを含む)を測定するために、反応は、SYBR Green Iの存在下で行われた。SYBR Green Iは、一本鎖DNA、RNA、及び二本鎖DNAを検出するために知られている最も高感度な色素の1つである。SYBR Green Iは、低い固有の蛍光があるため、特異的及び非特異的反応両方の全増幅を検出するのに適しており、qSTAR法で一般的なPCRポリメラーゼが不活性であることを実証する。
qPCR/qSTARアッセイの設計、マスターミックス、及びオリゴヌクレオチド:
インハウスqPCRアッセイ(Ctx)用の合成オリゴヌクレオチドは、Integrated DNA Technologies(Coralville、IA)によって合成され、クラミジア・トラコマティス(Chlamydia trachomatis)ゲノムDNAの増幅用に設計された。この設計は、2つのオリゴヌクレオチドで構成される;フォワードプライミングオリゴ(Ctx_L.F1、配列番号9AAAAAGATTTCCCCGAATTAG)、及びリバースプライミングオリゴ(Ctx_L.R1_3’(-2)、配列番号10AGTTACTTTTTCCTTGTTT)。オリゴヌクレオチドは、Integrated DNA Technologies(Coralville、IA)により合成された。SYBR Green I核酸染色(Lonza Rockland、Inc.P/N 50513)は、二本鎖DNA(dsDNA)産物を検出するための挿入色素として使用された。使用したPCRマスターミックス及びポリメラーゼは、New England Biolabs(Ipswich、MA)からのものであった;10X Thermopol反応緩衝液、Vent(エキソ)DNAポリメラーゼ(P/N M0257S)、Deep Vent(エキソ)(P/N M0257S)、及びTaq DNAポリメラーゼ(P/N M0267S)、5X Phusion HF緩衝液、及びPhusion HF DNAポリメラーゼ(P/N M0530S)。ゲノムDNAクラミジア・トラコマティス(Chlamydia Trachomatis)(系統:UW-36/Cx)(P/N VR-886D)をATCC(Manassas、VA)から購入した。
qPCR/qSTARアッセイ条件
基本的なインハウスqPCRアッセイ(Ctx)混合物には、フォワードプライマーオリゴ、リバースプライマーオリゴ、dsDNA挿入色素、既知の濃度のゲノムDNA鋳型、市販の1X濃度のPCRマスターミックス、及びそれに対応するポリメラーゼ(上記)を含んだ。反応は、0.3μMのF1、0.3μMのR1、0.1X SYBR Green I、市販の1X PCR マスターミックス、0.03U/μlのポリメラーゼ、及び5,000コピーのゲノムDNA鋳型を含む25μlの最終容量で実施した。
【0125】
インハウスqPCRアッセイは、qSTAR技術又は従来のqPCRを複製した温度プロファイルの2つの方法を使用して実行した。qSTAR法では、反応の温度は、酵素活性を利用するため2つの慎重温度間で制御された。実質的には開始段階(ポリメラーゼのみ活性)では、2秒間で62℃の上昇した温度であった。指数関数段階(ポリメラーゼ及びニッキング酵素活性)は、5秒間で57℃のニッキング酵素活性につき最適温度に近づいた。完全な往復の合計時間は15秒で、これは、温度の変化による装置の限界により、最高温度と最低温度での滞留時間の2倍超である。qPCR反応は、2ステッププログラム;95℃15秒の後に60℃60秒、サイクル50X倍を使用して実施された。増幅及びqSTAR産物の検出は、Agilent Mx3005 P qPCR装置(Agilent)を用いて実施した。
結果
図10A~Bでは、無標的対照(「ntc」)と比較した、ゲノムのクラミジア・トラコマティス(Chlamydia trachomatis)DNAの5000コピーのqPCR増幅のリアルタイムデータを示す。明らかに見られるのは、qPCR法を使用した全てのポリメラーゼの増幅又は活性である。また、4つのポリメラーゼのうち3つは、おそらくプライマー二量体形成による、無標的条件で活性を示すことにも注意するべきである。qSTAR法がqPCR又は以前に報告された熱サイクリング増幅技術に類似している場合、qSTAR法を使用してこれらのポリメラーゼの全て又は少なくとも1つが活性化されていることが予想される。
【0126】
図11A~11Dは、リアルタイムデータが、qSTAR温度往復プロトコルの下で、無標的反応又はゲノムクラミジア・トラコマティス(Chlamydia trachomatis)DNAの10、100、1K、10Kコピーを使用した反応において、前述の4つ全てのポリメラーゼが任意の活性を示すことができないことを実証している。驚くべきことに、最適温度範囲で使用されているが、これらのポリメラーゼのうちのひとつも、インキュベーションの過程中、少量の活性でさえも示すことができない。本発明者らを特定の理論に限定するものではないが、これは以下に起因するものであると考えられている;(a)qSTAR条件では、ニッキング酵素と連動して鎖置換ポリメラーゼを必要とする。この酵素の組み合わせがないと、産物のターンオーバーが進行できないため、増幅を進めることができない;及び(b)PCR及びその他のサイクリング法は、増幅の進行のためのアンプリコンを鎖分離するため上昇した温度(約95℃)に依存している。qSTAR法は、そのような上昇した温度を使用せず、代わりに(鎖分離ではなく)酵素活性の制御につき、より穏やかな温度往復を使用するため、これらの酵素がqSTARプロトコル条件で任意の活性を示すことができないことを説明するのに役立つ。
実施例7:qSTARとqPCRを比較した結果
qSTARの定量的な性質を示すために、対qPCRで比較が実施された。qSTARが定量的である場合、技術は決定係数が高く、qPCRと比較してブラインド試料(blinded samples)のゲノムDNAの量を正確に予測できることが期待される。
C.トラコマティス(C.trachomatis)qPCRアッセイの設計、マスターミックス、及びオリゴヌクレオチド:
C.トラコマティス(Chlamydia trachomatis)qPCRアッセイ(CtP)の合成オリゴヌクレオチド(1)は、クラミジア・トラコマティス(Chlamydia Trachomatis)ゲノムDNAの増幅用に設計された。このアッセイは、3つのオリゴヌクレオチド;フォワードプライミングオリゴ、リバースプライミングオリゴ、及び二重標識プローブの使用が含まれる。オリゴヌクレオチドは、Integrated DNA Technologies(Coralville、IA)により合成された。使用したPCRマスターミックスであるPrimeTime Gene Expression Master Mix(P/N 1055770)は、Integrated DNA Technologies(Coralville、IA)から購入された。ゲノムDNAクラミジア・トラコマティス(Chlamydia Trachomatis)(系統:UW-36/Cx)(P/N VR-886D)をATCC(Manassas、VA)から購入した。
C.トラコマティス(C.trachomatis)qPCRアッセイ条件
基本的なqPCRアッセイ(CtP)混合物には、2つのプライマー、ポリメラーゼ及びゲノムDNAが含まれていた。反応は、0.3μMのフォワードプライマー、0.3μMのリバースプライマー、0.1μMの二重標識プローブ、市販の1X PCRマスターミックス、及び100,000コピーから開始される様々な濃度のゲノムDNA鋳型を含む25μlの最終容量で実施された。ゲノムDNAの10倍希釈を使用して、標準曲線を作成した。qSTARは、前述の標準曲線とともに前述のように実施された。qPCR反応は、2ステッププログラム;95℃15秒の後に60℃60秒、サイクル50X倍を使用して実施された。
結果
図12は、標準曲線及び5つの未知の試料につきqPCRリアルタイムデータを示す。標準曲線の決定係数は、5ログの範囲にわたり0.9984であった。qPCRは5つの全ての未知試料を正しく呼び出すことができた。
図13は、標準曲線及び5つの未知の試料につきqSTARリアルタイムデータを示す。標準曲線の決定係数は、6ログの範囲にわたり0.9981であった。qSTARは5つの全ての未知の試料を正しく呼び出すことができた。表2は、2つの技術の概要の比較を示し、この定量化の技術を使用した場合、qSTARがqPCRと同等であることは概要から明らかである。
【0127】
【0128】
実施例8:qSTARの上昇した温度の範囲
qSTAR技術のさらなる利点は、様々な温度範囲にわたって増幅が可能であることである。米国特許第5,712,124号明細書、同第9,562,263号明細書、同第5,399,391号明細書、及び同第6,814,943号明細書に記載されているように、ほとんどの技術は、増幅が起こり得る厳密な温度範囲を有し、これらの範囲から逸脱すると反応が阻害される。qSTARの汎用性を実証するために、以下の表3に記載のように増幅を行った。
【0129】
【0130】
図14A,14B、14C及び14Dは、時間(分)に対する蛍光(任意単位)のグラフである。
図14Aは、63℃から反応を開始した結果を示す。
図14Bは、64℃から反応を開始した結果を示す。
図14Cは65℃から反応を開始した結果を示し、
図14Dは66℃から反応を開始しcた結果を示す。全てのケースで、「無標的」の陰性対照反応は全く蛍光シグナルを生成しなかったが、10、100、及び1,000コピーの増幅は良好であった。63℃で反応の蛍光シグナルはわずかに高かったが、全ての温度条件では、3分未満で強力な増幅を実証した。酵素調節が達成される限り、qSTAR法は十分に増幅することができる。62℃を超える温度では、ニッキング酵素活性が顕著に低下すると考えられている(例示のニッキング酵素に関して、Nt.Bst NBI)。
実施例9:既知の温度範囲外のqSTAR
米国特許第6,814,943号明細書に記載されている定量的ポリメラーゼ連鎖反応(qPCR)は、熱サイクルの温度範囲を記載している。典型的には、qPCRの場合、次の手順が行われる:約95℃の変性、約55℃のアニーリング、約70℃の伸長。技術が明らかに異なる温度領域で増幅できるならば、それは驚くべきことであり、予想外のことである。さらに、当技術分野の知識を有する個人は、技術が機能するためにそのような大きな温度幅を期待しないであろう。国際公開第2011/030145A1号パンフレットは、アッセイ温度が15℃以下、より好ましくは約5℃の公表されている等温度設定点あたりで振動する「揺らぎ」を記載する。一部の等温技術のこの温度「振動」により、増幅動態が向上した。qSTARが、劇的に異なる温度範囲で機能し、それでも増幅に達成することができるとしたら、それは驚くべきことである。
増幅条件
低温qSTAR混合物は2つのプライマーを含む(配列番号11(5’-tGACTCCAcAcGGAGTCataaATCCTGCTGCmUA-3’)及び配列番号12(5’-TGACTCCAcAcGGAGTCAGAACCAACAAGAAGA-3’))、ArticZymes(Tromso、Norway)によって供給されるIsopolポリメラーゼ、及びニッキング酵素(前述)。反応は、1.0μMのフォワードプライマー、0.5μMのリバースプライマー、0.25μMの分子ビーコン(配列番号13(5’-/56-FAM/tgaggTGCTGCTATGCCTCA/3IABkFQ/-3’))、10μlのqSTARマスターミックス及び5μlのDNA試料を含む25μlの最終容量で実施した。qSTARマスターミックスには、以下の試薬:12.5mMのMgSO
4、90mMのトリス-HCl(pH8.5)、300μMの各dNTPs、20mMのNH
4OAc、30mMのNaOAc、2mMのDTT、0.02%のTriton X-100、12.5Uのニッキングエンドヌクレアーゼ、75Uのポリメラーゼが含まれていた。反応の温度は、固有の酵素活性を利用するために、2つの慎重温度段階(discreet temperature phases)の間で制御された。主にポリメラーゼ及びニッキング活性からなる指数関数段階では、2秒間で45℃の上昇した温度であった。ポリメラーゼの活性が高く、ニッキング酵素の活性が大幅に低下していた開始段階では、5秒間、38℃に保持された。完全な往復の合計時間は15秒であり、これは、温度の変化による装置の限界により、各最高温度と最低温度での滞留時間の2倍超である。増幅及びqSTAR産物の検出は、Agilent Mx3005 P qPCR装置(Agilent)を用いて実施した。
結果
図15は、上記の参照範囲で増幅するqSTARのリアルタイム定量データを示す。最初に注意する必要があるのは、この実施例では、前の実施例と比較して、温度段階が切り替わっていることであり、高温段階は指数関数的増幅用で、両方の酵素が活性化している。一方で、低温は開始用であり、ポリメラーゼは非常に活性であり、ニッキング酵素は比較的抑制されている。qSTAR及びそのような「低温」qSTARの温度差は、24℃である。技術がそのような広範囲の温度で機能できることは、驚くべきことであり、予期せぬことである。さらに、本発明者の知る限りでは、技術はこの増幅法が既知の増幅法と異なることを示している。
【0131】
本発明者らを特定の理論に限定するものではないが、ニッキング酵素活性はより低温度で大幅に低下するので、qSTARはこれらの低温でも増幅を達成することができると考えられている。この酵素のゲーティングにより、鋳型の制御された正確な増幅が可能になり、本発明者は、複数の酵素、プライマー、及び温度スキームを単独の反応で使用して、新しく迅速で定量的な結果を達成できる多くの方法を想定できる。
実施例10:リボ核酸を使用した結果
qSTARは、DNA(cDNA及びgDNA)、RNA(mRNA、tRNA、rRNA、siRNA、マイクロRNA)、RNA/DNA類似体、糖類似体、ハイブリッド、ポリアミド核酸及び他の既知のアナログの任意の組成物を用いて、任意の核酸から増幅することができる。リボソームRNAの増幅は以下に記述するように行った。
酵素、オリゴヌクレオチド、及び標的:
リステリア・モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes)は、qSTAR RNAアッセイの開発の標的として用いられた。リステリア・モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes)(ATCC VR-886)ゲノムDNAをAmerican Type Culture Collection(Manassas、VA)から入手した。初期スクリーニングをgDNA上で実施し、リボソームRNAの23S領域がプライマーLMONF72 ACAC 5-OM(配列番号14、5’-GGACTCGACACCGAGTCCAGTTACGATTmTmGmTmTmG-3’)及びLMONR86 ATAT(配列番号15、5’-gGACTCCATATGGAGTCCTACGGCTCCGCTTTT-3’)で増幅されることが見出された。得られたDNA鋳型を分子ビーコン、欧州特許第0728218号明細書に記載されるLMONMB1(配列番号16、5’-FAM/gctgcGTTCCAATTCGCCTTTTTCGCagc/BHQ1-3’)を用いて検出した。
【0132】
Mini Bead Mill 4(VWR)での急速機械溶解と組み合わせ、RNeasy PlusミニキットQiagen(Hilden、Germany)を用いて全RNAを単離した。リステリア・モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes)(ATCC BAA-2660)をAmerican Type Culture Collection(Manassas、VA)から入手し、脳-心臓注入寒天プレート(BHI)上にプレーティングすることによって再生した。単一コロニーを用い、37℃で18時間増殖させて定常段階に達した25mLのBHI培地に接種した。次に、培養物を250mLフラスコに入れた2つのBHIの50mL量に逆希釈し、回収前にさらに4時間培養した。5,000xgで15分間逆希釈した培養液の30mLアリコートから細菌を回収した。ペレットを再懸濁し、5mLのRNAlater RNA安定化試薬(Qiagen)に混合し、室温で10分間インキュベートした。細菌は回収され、5mLのRLT細胞溶解緩衝液(lysis buffer Bacteria)で再懸濁し、設定5(3x30秒、パルス間に氷上で1分)のMini Bead Mill(VWR)でホモジナイズした。
【0133】
全RNAを製造業者の指示に従って精製した(Qiagen)。ゲノムDNAは、RNeasy Plus精製キット中に提供されるDNA結合カラムに溶解物を通過させることによって除去した。ゲノムDNA汚染は、RNeasy RNA結合カラムでの試料のカラム上RNase free DNase I(Qiagen)digestionを利用することによってさらに減少した。Bst X DNAポリメラーゼは、Beverly Qiagen(Beverly、MA)から購入した。逆転写酵素であるOmniscriptはQiagen(Hilden、Germany)から購入した。米国特許第6,191,267号明細書に記載されるNt.BstNBIニッキングエンドヌクレアーゼは、New England BioLabs(Ipswich、MA)から購入した。オリゴヌクレオチド及び分子ビーコンは、Integrated DNA Technologies(Coralville、IA)によって合成された。
増幅条件:
基本のqSTAR混合物は、上記実施例1に記載されたもの全てを含有し、さらに、4Uの逆転写酵素(上記参照)を含む。
結果
結果を時間(分)に対する蛍光(任意単位)のグラフである
図16に示す。陰性対照反応は蛍光シグナルを全く生成しなかったが、100、1,000、10,000、100,000、1,000,000コピー数の標的反応は、閾値を超える蛍光シグナルを生成した。結果は、逆転写RNA標的からqSTARは効果的に増幅することができることを示す。さらに、このデータは、未知のRNA試料入力の定量化に使用できることを示す。
【配列表】