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特許7102560粒子線ビーム輸送装置、回転ガントリ及び粒子線ビーム照射治療システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-08
(45)【発行日】2022-07-19
(54)【発明の名称】粒子線ビーム輸送装置、回転ガントリ及び粒子線ビーム照射治療システム
(51)【国際特許分類】
   A61N 5/10 20060101AFI20220711BHJP
   G21K 1/093 20060101ALI20220711BHJP
   G21K 5/04 20060101ALI20220711BHJP
【FI】
A61N5/10 H
G21K1/093 D
G21K1/093 F
G21K5/04 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021009584
(22)【出願日】2021-01-25
(62)【分割の表示】P 2017221362の分割
【原出願日】2017-11-16
(65)【公開番号】P2021065726
(43)【公開日】2021-04-30
【審査請求日】2021-01-25
(31)【優先権主張番号】P 2016222689
(32)【優先日】2016-11-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】特許業務法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高山 茂貴
(72)【発明者】
【氏名】折笠 朝文
(72)【発明者】
【氏名】長本 義史
(72)【発明者】
【氏名】吉行 健
【審査官】石川 薫
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2012/0313003(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0163301(US,A1)
【文献】特開2011-072717(JP,A)
【文献】特開2016-083344(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 5/10
G21K 1/093
G21K 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子線ビームが内部を進行する真空ダクトと、
前記真空ダクトの屈曲部の周囲に配置されて前記粒子線ビームの進行方向または形状を制御する制御磁石装置と、
前記制御磁石装置よりもビーム進行方向下流側に配置されるとともに前記粒子線ビームの各バンチを偏向して前記粒子線ビームを走査させる走査磁石と、を備え、
前記制御磁石装置は、前記粒子線ビームの進行方向を前記屈曲部に沿って偏向させる偏向磁石、及び前記粒子線ビームを収束させる四極磁石で構成され、
前記制御磁石装置は、前記粒子線ビームの進行方向に沿って並ぶ4つの単位磁石で構成され、
前記粒子線ビームの進行方向の上流側から1つ目及び4つ目の前記単位磁石は同一形状をしており、2つ目及び3つ目の前記単位磁石のそれぞれは、前記1つ目の前記単位磁石の半分の長さを有するとともに、前記2つ目及び3つ目の前記単位磁石が前記粒子線ビームの進行方向に沿って前後に互いに鏡面対称に配置されることで、前記2つ目及び3つ目の前記単位磁石は、全体として、前記1つ目の前記単位磁石と同一形状の磁場を形成可能であることを特徴とする粒子線ビーム輸送装置。
【請求項2】
前記制御磁石装置は複数設けられ、
前記制御磁石装置は前記粒子線ビームの進行方向を前記屈曲部に沿って偏向させ、その偏向する角度が、少なくとも2つの前記制御磁石装置で同一である請求項1に記載の粒子線ビーム輸送装置。
【請求項3】
前記制御磁石装置は複数設けられ、
前記四極磁石または前記偏向磁石によって構成される前記制御磁石装置の口径が、少なくとも2つの前記制御磁石装置で同一である請求項1に記載の粒子線ビーム輸送装置。
【請求項4】
前記走査磁石は、
前記粒子線ビームをビーム進行方向に垂直な第1方向に走査磁場を生成する第1走査磁石対と、
前記ビーム進行方向及び前記第1方向に垂直な第2方向に走査磁場を生成する第2走査磁石対と、を備え、
第1走査磁石対及び第2走査磁石対は、前記ビーム進行方向の同一地点に配置される請求項1に記載の粒子線ビーム輸送装置。
【請求項5】
前記制御磁石装置は、超電導磁石を含む請求項1に記載の粒子線ビーム輸送装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の粒子線ビーム輸送装置を備える回転ガントリ。
【請求項7】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の粒子線ビーム輸送装置を備える粒子線ビーム照射治療システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、粒子線ビームを患部に照射して治療をする粒子線治療技術に関する。
【背景技術】
【0002】
重粒子イオン等の粒子線ビームを、患者の癌細胞に照射して、治療を行う粒子線治療技術が注目されている。
この粒子線治療技術によれば、正常組織にダメージを与えずに患部のみをピンポイントで死滅させることができるため、手術や投薬治療等と比較して患者への負担が少なく、治療後の社会復帰の早期化も期待することができる。
【0003】
近年、患部の形状や体内深度に応じた最適な線量値及び線量分布の粒子線ビームを患部に付与するため、回転ガントリで照射機を回転移動させる回転方式が脚光を浴びている。
粒子線ビームを照射機まで導く粒子線ビーム輸送装置を回転ガントリで安定的に支持するため、粒子線ビーム輸送装置は、回転ガントリの内外に蛇行して照射機に接続される。よって、粒子線ビーム輸送装置のビーム輸送経路も回転ガントリの内外で蛇行する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-72717号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ビーム輸送経路には粒子線ビームの軌道を制御するための多種類の電磁石及びモニタが設けられるため、ビーム輸送装置は複雑化・長尺化する。
このため、従来の技術では、ビーム輸送装置を支持する回転ガントリが大型化して回転の制御性が低下することで、粒子線ビームの照射精度を低下させる懸念があった。
【0006】
本発明の実施形態はこのような事情を考慮してなされたもので、ビーム輸送経路が簡素化・短尺化された粒子線ビーム輸送装置、回転ガントリ及び粒子線ビーム照射治療システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本実施形態に係る粒子線ビーム輸送装置は、粒子線ビーム輸送装置は、粒子線ビームが内部を進行する真空ダクトと、前記真空ダクトの屈曲部の周囲に配置されて前記粒子線ビームの進行方向または形状を制御する制御磁石装置と、前記制御磁石装置よりもビーム進行方向下流側に配置されるとともに前記粒子線ビームの各バンチを偏向して前記粒子線ビームを走査させる走査磁石と、を備え、前記制御磁石装置は、前記粒子線ビームの進行方向を前記屈曲部に沿って偏向させる偏向磁石、及び前記粒子線ビームを収束させる四極磁石で構成され、この制御磁石装置は2等分して、互いに鏡面対称に配置された2等分単位磁石である。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、粒子線ビームのビーム輸送経路が簡素化・短尺化された粒子線ビーム輸送装置、回転ガントリ及び粒子線ビーム照射治療システムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】粒子線ビーム照射治療システムの概略構成図。
図2】第1実施形態に係る輸送装置を含む治療室周辺の概略断面図。
図3】第2実施形態に係る輸送装置が備える機能結合型磁石のxy平面による概略断面図。
図4】第3実施形態に係る輸送装置の制御磁石装置を構成する超電導コイル群を直線状に展開した分解図。
図5】第3実施形態に係る輸送装置のxy平面による概略断面図。
図6】第3実施形態に係る輸送装置の変形例を示す概略図。
図7】(A)第4実施形態に係る輸送装置の走査磁石を構成するx方向走査磁石対の側面図、(B)同x方向走査磁石対及びy方向走査磁石対の配置を示す分解図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
なお、以下、各実施形態及び図面において、粒子線ビームβ(以下、単に「ビームβ」という)の進行方向をs方向、このs方向に対し直交する方向をx方向、s方向及びx方向の両方に直交する方向をy方向と定義する。
【0011】
まず、図1を用いて、粒子線ビーム照射治療システム100について概説する。
図1は、粒子線ビーム照射治療システム100の概略構成図である。
粒子線ビーム照射治療システム100は、図1に示すように、主に、治療室200と、加速装置300と、で構成される。
加速装置300で加速された炭素イオン等の重粒子イオンεの群が、治療室200に導かれて患者Pの患部に照射される。
【0012】
加速装置300は、主に、イオン生成部50、加速器60(線形加速器60a,シンクロトロン加速器60b)及び粒子線ビーム輸送装置(輸送システム)30(以下、単に「輸送装置30」という)、で構成される。
イオン生成部50で生成された重粒子イオンεが、加速器60内を約百万回周回する間に光速の約70%まで加速されビームβとなって、輸送装置30を経由して治療室200まで導かれる。
【0013】
加速装置300には、真空ダクト(ビームパイプ)70が設けられ、この真空ダクト70内をビームβが進行する。線形加速器60a、シンクロトロン加速器60b及び輸送装置30が有する真空ダクト70が一体になって連続空間を形成し、ビームβをイオン生成部50から治療室200まで導くビーム輸送経路を構成する。
【0014】
(第1実施形態)
図2は、第1実施形態に係る輸送装置30を含む治療室200の概略断面図である。
輸送装置30は、図2に示されるように、回転ガントリ20に載置されて支持される。
回転ガントリ20は、回転軸(円筒中心)Jが水平方向を向くように基礎24に設置された円筒形状の装置である。回転ガントリ20の内部空間が治療空間21を構成する。
治療空間21には、患者Pが回転軸J上に配置されるように治療台23が設置される。
【0015】
回転ガントリ20が輸送装置30を安定的に支持するために、輸送装置30は、回転軸Jに沿って回転ガントリ20内に進入し、屈曲して回転ガントリ20の側壁から外部に一旦突き出て、再度治療空間21側の内部空間に入り込んで固定される。
輸送装置30の各所には、ビームβの進行方向または形状を制御する制御磁石装置31(31a~31c)が配置される。
【0016】
次に、第1実施形態に係る輸送装置30について、引き続き図2を用いて説明する。
第1実施形態に係る輸送装置30は、ビームβの各バンチを偏向してビームβを走査させる走査磁石32が、制御磁石装置31よりもs方向下流側に配置される。
【0017】
走査磁石32は、飛来してくる重粒子イオンεをバンチ単位で偏向することで、各バンチを患部における適所に照射させる。
走査磁石32がバンチ単位でビームβを走査させることで、ビームβのxy平面による断面形状は、全体として患部の形状にまで拡大される。
【0018】
制御磁石装置31は、図2に例示されるように、回転ガントリ20による支持箇所周辺で蛇行するビーム輸送経路における通常3つの屈曲部の各々に設けられる。
これらの制御磁石装置31を便宜上、s方向上流側から順に第1制御磁石装置31a、第2制御磁石装置31b及び第3制御磁石装置31cと呼ぶ。
これらの制御磁石装置31はビームβをビーム輸送経路に沿って偏向し、その偏向角は全ての制御磁石装置31(31a~31c)で同一としている。なお、以下の説明では一例として90度としている。
走査磁石32は、これら全ての制御磁石装置31(31a~31c)よりもs方向下流側に配置されることになる。
なお、走査磁石32の下流側には、例えば、ビームβの性状を確認するビームモニタや、リッジフィルタなどのフィルタ類、ビーム窓等が適宜配置される。
【0019】
従来では、走査磁石は、第2制御磁石装置31bと第3制御磁石装置31cとの間に配置されていた。
この配置位置がビームβの軌道が回転ガントリ20の回転軸Jに平行になる箇所である結果、走査磁石の長辺が回転軸Jに平行になっていた。
【0020】
一方、第1実施形態に係る輸送装置30では、走査磁石32の配置位置が、ビームβの軌道が回転軸Jに垂直になる箇所になる。
つまり、略水平に配置されていた走査磁石32の長辺を1/4回転させて略鉛直に配置することで、回転軸Jに沿った方向の輸送装置30の占有長さを短くすることができる。
【0021】
また、治療空間21が大きい場合は、図2に示されるように、第3制御磁石装置31cのs方向下流側を走査磁石32ごと治療空間21内に突出させて配置することもできる。
この場合、輸送装置30の回転半径を増加させずに、回転軸Jに沿った方向の輸送装置30の占有長さを短くすることができる。
従って、いずれにおいても、制御磁石装置31を支持する回転ガントリ20を小型化及び軽量化することができる。
【0022】
また、走査磁石32による走査でビームβの径が大きくなるため、従来では、その下流側の第3制御磁石装置31cは、この部分の真空ダクト70とともに口径を大きくする必要があった。
また、口径が大きくなることで、第3制御磁石装置31cが大型になるとともに、内部の磁石間距離が離れ、磁場生成効率が低下していた。
【0023】
しかし、第1実施形態に係る輸送装置30では、走査磁石32が第3制御磁石装置31cの下流側に配置されるので、第3制御磁石装置31cを小型で高い磁場生成効率にすることができる。
さらに、第3制御磁石装置31cの口径を拡大させずにすむので、偏向角が同一の制御磁石装置31を複数ビーム輸送経路に設けた場合、同一製品点数が増え、生産効率を向上させることができる。
なお、制御磁石装置31の口径は、最も内層(真空ダクト70に近い位置)に対向して配置される磁石(対向する四極磁石または偏向磁石)の距離で規定される。
また、制御磁石装置31の偏向角を45度や30度などの90度を自然数で割った値の組み合わせで構成することで、第1制御磁石装置31a及び第2制御磁石装置31bと第3制御磁石装置31cとを同一製品にすることができ、生産効率を向上させることができる。
さらに、通常ビーム輸送経路は3つの屈曲部で構成されるため、偏向角を90度とすることで、同一製品で制御磁石装置31を統一し、かつ、最小の製品点数とすることが可能となるので、生産効率をさらに向上させることができる。
【0024】
以上のように、第1実施形態に係る輸送装置30によれば、ビーム輸送経路を回転軸Jの方向に短尺化することができる。
また、輸送装置30の短尺化によって、回転ガントリ20を小型化及び軽量化することができる。
さらに、制御磁石装置31(31a~31c)を同一製品で統一することができるので、構造が簡素になり、生産効率を向上させることができる。
【0025】
(第2実施形態)
図3は、第2実施形態に係る輸送装置30が備える機能結合型磁石38(38a)のxy平面による概略断面図である。
【0026】
第2実施形態に係る輸送装置30は、図3に示されるように、制御磁石装置31が同一位置においてビームβを偏向する機能と、ビームβの収束及び発散を制御する機能と、を発揮する機能結合型磁石38である。
【0027】
制御磁石装置31は、多くの場合、偏向磁石33及び四極磁石34で構成される。
四極磁石34は、ビームβの収束及び発散を制御する。つまり、四極磁石34は、ビームβのs方向に垂直な断面(xy平面による断面)の形状を制御する。
偏向磁石33は、真空ダクト70の屈曲部に配置され、偏向磁場を発生させてビームβを屈曲部の曲率に沿って偏向させる。
通常は、偏向磁石33は対向する2つの偏向用コイル33a,33bで構成されるが、2つ以外のコイルで構成してもよい。
【0028】
これら四極磁石34及び偏向磁石33がそれぞれ生成する磁場形状をs方向の同一地点で発生させることで、機能結合型磁石38を実現することができる。
以下、より具体的に機能結合型磁石38について説明する。
【0029】
四極磁石34は、通常、4つの整形用励磁コイル341~344が真空ダクト70の周上にビームβの軌道を軸として線対称に配置される。
整形用励磁コイル341~344が励磁されることで、真空ダクト70の内部ギャップに、四極磁場Bが発生する。
【0030】
図3の四極磁石34は、各重粒子イオンに働くローレンツ力によって、ビームβをx方向に発散させ、y方向に収束させる。
四極磁石34は、s方向に沿って、例えば3セット配置されて1つの制御磁石装置31(例えば、第1制御磁石装置31a)を構成する。隣り合う四極磁石34を流れる直流電流を逆向きに流すことで、各四極磁石34に発生する四極磁場Bを逆向きにさせる。
四極磁場Bの向きを各四極磁石34で逆向きにすることで、ビームβの断面はx方向及びy方向に収束と発散とを繰り返して整形される。
【0031】
なお、図3では、説明を簡単にするため、偏向磁石33が生成する偏向磁場については、図示を省略している。実際の磁場は、四極磁場B及び偏向磁場の重ね合わせたものになる。
また、一例として、4個の整形用励磁コイル341~344から構成される四極磁石34を示したが、励磁コイルの数及び極数は4個以上であってもよい。
【0032】
常伝導コイルを用いた四極磁石34及び偏向磁石33には、鉄心を構成するリターンヨーク36(36a,36b)に磁極35(35a,35b)を設けることで磁場形状を設計する。
従来では、四極磁石34と偏向磁石33とを同心円上に配置せず、s方向の前後にずらして配置していた。
よって、制御磁石装置31が長尺化する結果、輸送装置30の長尺化を招いていた。
【0033】
そこで、第2実施形態では、例えば配置の妨げになる部分の鉄心(リターンヨーク36及び磁極)を取り除き、または鉄心を大きくすることで四極磁石34と偏向磁石33とをビームβの軌道を中心に同心円状であってs方向の同一地点に配置する。
【0034】
四極磁石34と偏向磁石33とをs方向の同一地点に配置することで、同一地点でビームβの整形及び偏向をする機能結合型磁石38を実現することができる。
この結果、制御磁石装置31が短尺化され、第1実施形態の効果と同様に、輸送装置30のうち、回転ガントリ20で支持される部分の回転軸J方向の長さを短尺化することができる。
【0035】
なお、機能結合型磁石38には、各構成磁石33,34に超電導磁石を用いることが好適である。超電導磁石を用いた機能結合型磁石38については、第3実施形態で説明する。
また、機能結合型磁石38は、ビームβの整形機能及び偏向機能を有していれば、励磁コイルを四極磁石34と偏向磁石33とに明確に区別して構成しなくてもよい。
【0036】
なお、機能結合型磁石38を用いること以外は、第2実施形態は第1実施形態と同じ構造及び動作手順となるので、重複する説明を省略する。
図面においても、共通の構成または機能を有する部分は同一符号で示し、重複する説明を省略する。
【0037】
このように、第2実施形態に係る輸送装置30によれば、制御磁石装置31を短尺化することができるので、第1実施形態の効果に加え、さらに輸送装置30を短尺化することができる。
【0038】
(第3実施形態)
図4は、第3実施形態に係る輸送装置30の制御磁石装置31を構成する超電導コイルの群を展開した分解図である。
図4では、簡単のため、ビーム輸送経路を直線状に記載しているが、実際は、ビーム輸送経路が湾曲しているため、これに合わせて超電導コイルも湾曲している。
また、図5は、第3実施形態に係る輸送装置30のxy平面による概略断面図である。
【0039】
第3実施形態に係る輸送装置30は、図4及び図5に示されるように、制御磁石装置31の少なくとも一部を超電導磁石で構成する。
つまり、四極磁石34、偏向磁石33または機能結合型磁石38(38b)、若しくはこれらの一部を超電導磁石で構成する。
【0040】
走査磁石32を第3制御磁石装置31cの下流側に配置すると、輸送装置30の回転半径が増加してしまうことがある。
しかし、ビーム輸送経路のうち制御磁石装置31の配置箇所の曲率半径を小さくすることで、この回転半径を小さくすることができる。
そこで、第3実施形態では、構成磁石33,34,38を超電導磁石で構成し、強い偏向磁場を発生させて、小さい曲率半径でビームβを偏向させる。
【0041】
超電導コイルは、NbTiやNb3Sn、Nb3Al、MgB2などの低温超電導体、またはBi2Sr2Ca2Cu3O10線材やREB2C3O7線材などの高温超電導体で構成される。ここで、「REB2C3O7」の「RE」は希土類元素を表している。
低温超電導体の場合、延性があるため、上述の曲面を容易に形成することができる。一方、高温超電導体の場合、高温で超電導状態に転移するため冷却負荷が軽減され、運転効率が向上する。
【0042】
構成磁石33,34,38は、超電導状態を維持するため、断熱容器39に冷凍媒体(図示略)とともに密閉収容される。
冷却媒体は、液体窒素や液体ヘリウム等の液体媒体、または冷凍機から供給される冷熱を構成磁石33,34,38まで熱伝導させる高純度アルミなどの固体媒体である。
【0043】
ところで、常伝導コイルでは、第2実施形態で示したように、磁極35(35a,35b)が、四極磁石34及び偏向磁石33のそれぞれの周辺空間を包囲する。
よって、磁極35が空間を占有し、四極磁石34に対する偏向磁石33の配置を自由に設計することができない。
【0044】
しかし、超電導磁石41を用いる場合、鉄の磁気飽和の観点等から、通常、超電導コイルに磁極を用いずに磁場形状を形成させる。
よって、構成磁石33,34を超電導磁石41で構成することで、これらをs方向の同一地点に同心円状に配置し、機能結合型磁石38(38b)にすることができる。
つまり、磁極を用いないことで、図5に示されるように、偏向磁石33を四極磁石34の外周に積層することができる。
【0045】
ここで、図6は、第3実施形態に係る輸送装置30の変形例を示す概略図である。
通常、1つの制御磁石装置31(例えば、第1制御磁石装置31a)において、ビームβが収束-発散-収束、または発散-収束-発散となるように、3つの四極磁石34をs方向に沿って直列に配置する。
3つの四極磁石34を、以下、s方向上流側から順に、第1四極磁石34a、第2四極磁石34b及び第3四極磁石34cと呼ぶ。
【0046】
第1実施形態でも述べたように、制御磁石装置31を効率的に生産するには、できるだけ製品を統一して部品の種類を少なくすることが望ましい。
また、制御磁石装置31の配置位置のずれを防止する観点からも、制御磁石装置31の部品点数を少なくすることが望ましい。
【0047】
そこで、制御磁石装置31を3つの単位磁石で構成することに代えて、図6に示されるように、第2四極磁石34bを2等分して、互いに鏡面対称に配置された2等分単位磁石42で構成する。
この結果、1つの2等分単位磁石42に含まれる第2四極磁石34bのs方向に沿った長さは、第1四極磁石34a及び第3四極磁石34cのs方向に沿った長さの半分になる。
【0048】
2つの第2四極磁石34b(34b1,34b2)を同一配置にして、図6中のII-II断面及びIII-III断面における磁場分布を同一にすることで、第2四極磁石34bは、分割配置されても全体として1つの四極磁石としての機能を維持する。
なお、同一製品の2等分単位磁石42が鏡面対称に配置されるため、I-I断面がIV-IV断面と同一になる。
【0049】
また、第1実施形態で述べたように、走査磁石32を第3制御磁石装置31cの下流側に配置することで、各制御磁石装置31(31a~31c)を同一製品にすることができる。
つまり、1種類の2等分単位磁石42を組み合わせて、全ての制御磁石装置31を構成することができることになる。
【0050】
なお、制御磁石装置31に超電導磁石を用いること及び超電導磁石を用いることで機能結合型磁石38bを構成すること以外は、第3実施形態は第2実施形態と同じ構造及び動作手順となるので、重複する説明を省略する。
図面においても、共通の構成または機能を有する部分は同一符号で示し、重複する説明を省略する。
【0051】
このように、第3実施形態に係る輸送装置30によれば、第2実施形態の効果に加え、大きな直流電流を流すことができるので、回転ガントリ20に載置された部分の輸送装置30を小型にすることができる。
つまり、輸送装置30を、回転軸J方向にも、回転半径方向にも、短尺化することができる。
また、単一の2等分単位磁石42を2つ組み合わせて1つの制御磁石装置31にすることで、制御磁石装置31を効率的に生産することができる。
【0052】
(第4実施形態)
図7(A),(B)は、第4実施形態に係る輸送装置30の走査磁石32の概略構成図である。
図7(A)は、ビームβをx方向に走査させるx方向走査磁石対(第1走査磁石対)44aの側面図を示す。
また、図7(B)は、x方向走査磁石対44a及びy方向走査磁石対(第2走査磁石対)44bの配置を示す分解図である。
なお、図7(B)では、通常複数組のコイルから構成されるx方向及びy方向の走査磁石対44(44a,44b)を、簡単のため、1組ずつのみ記載している。
【0053】
第4実施形態に係る輸送装置30は、図7(A)及び図7(B)に示されるように、走査磁石32が、s方向の同一地点で同時に、ビームβをx方向、及びy方向に走査させる。
【0054】
走査磁石32は、x方向走査磁石対44aと、y方向走査磁石対44bと、で構成される。
x方向走査磁石対44aは、y方向に沿って真空ダクト70を挟んで対向して設けられ、y方向に走査磁場Bを発生させて、ビームβをx方向に走査させる。
y方向走査磁石対44bは、x方向に沿って真空ダクト70を挟んで対向して設けられ、x方向に走査磁場Bを発生させて、ビームβをy方向に走査させる。
磁場強度を高くするため、複数組の走査磁石対44が、同心円状に配置される。
【0055】
走査磁石32は、四極磁石34等と同様に電磁石で構成されるので、従来走査磁場Bの磁場形状は磁極の形状で調整されていた。
よって、従来では、例えばx方向走査磁石対44aを上流側、y方向走査磁石対44bを下流側、のように、x方向走査磁石対44aとy方向走査磁石対44bとの位置を、s方向に前後にずらして直列配置されていた。
【0056】
しかし、x方向の走査磁場Bによってビームβはy方向に広がるので、走査磁石対44(44a,44b)をs方向にずらして配置すると、下流側のy方向走査磁石対44bの磁石間距離が広がる。つまり、x方向走査磁石対44aでビームβを広く走査させると、y方向走査磁石対44bにおける口径が大きくなる。
よって、x方向の走査磁場Bを強める等してy方向に大きな照射野を確保すると、これに伴いy方向の磁場発生効率が低下する。
【0057】
よって、x方向に十分な照射野を確保するためには、y方向走査磁石対44bを大型にする必要があった。
また、走査磁石32を最下流に配置した場合、y方向走査磁石対44bを大型にすることで、回転ガントリ20の回転による輸送装置30の回転半径が増加してしまうことがある。
そこで、第4実施形態では、配置を妨げる部分の磁極を削除し、x方向走査磁石対44aとy方向走査磁石対44bとをs方向の同一の位置に同心円状に配置する。
【0058】
コイルで構成される走査磁石32は、ビームβの進行を妨げずにビームβの近くに配置されるように、例えば図7(A)に示されるように鞍型形状に成形されて配置される。
鞍型形状とは、コイルの対向する2つの円弧部を直線部で接続したいわゆるトラック形状において、円弧部分を湾曲して直線部と非同一平面上になる形状のことである。
【0059】
この鞍型形状のコイルを、真空ダクト70を包囲する非磁性金属等の渦電流が発生しない素材のベース46の表面に設置する。
また、この内側の走査磁石対44(例えば、x方向走査磁石対44a)の外側に、y方向走査磁石対44bのコイルを絶縁性を維持して積層させる。
なお、走査磁石対44の形状は、ビームβの進路を確保するものであれば、鞍型形状に限定されない。
【0060】
なお、x方向走査磁石対44a及びy方向走査磁石対44bをs方向の同一地点に配置すること以外は、第4実施形態は第1実施形態と同じ構造及び動作手順となるので、重複する説明を省略する。
図面においても、共通の構成または機能を有する部分は同一符号で示し、重複する説明を省略する。
【0061】
このように、第4実施形態に係る輸送装置30によれば、第1実施形態の効果に加え、十分な照射野を確保して走査開始地点から患部までの距離を短くすることができる。
また、回転ガントリ20に支持された輸送装置30の回転半径の増加を抑制することができる。
【0062】
以上述べた少なくとも一つの実施形態の輸送装置30によれば、走査磁石32を第3制御磁石装置31cのs方向下流側に配置することにより、ビーム輸送経路を簡素化・短尺化することが可能になる。
【0063】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。
これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、組み合わせを行うことができる。
これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【0064】
例えば、輸送装置30のうち、回転ガントリ20に載置される部分は回転ガントリ20、すなわち回転ガントリ20と一体に製造される場合がある。
【符号の説明】
【0065】
100…粒子線ビーム照射治療システム、200…治療室、300…加速装置、20…回転ガントリ、21…治療空間、23…治療台、24…基礎、30…輸送装置、31(31a~31c)…制御磁石装置(第1制御磁石装置,第2制御磁石装置,第3制御磁石装置)、32…走査磁石、33…偏向磁石(構成磁石)、33a,33b(33)…偏向用コイル、34(34a~34c)…四極磁石(構成磁石)、34~34(34)…整形用励磁コイル、35(35a,35b)…磁極、36(36a,36b)…リターンヨーク、37…超電導コイル、38(38a,38b)…機能結合型磁石(構成磁石)、39…断熱容器、41…超電導磁石、42…単位磁石、44(44a,44b)…走査磁石対(x方向走査磁石対,y方向走査磁石対)、46…ベース、50…イオン生成部、60(60a,60b)…加速器(線形加速器,シンクロトロン加速器)、70…真空ダクト、B…四極磁場、B…走査磁場、J…回転軸、P…患者、β…粒子線ビーム(ビーム)、ε…重粒子イオン。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7