(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-11
(45)【発行日】2022-07-20
(54)【発明の名称】振動信号変換器
(51)【国際特許分類】
G01H 17/00 20060101AFI20220712BHJP
G01M 99/00 20110101ALI20220712BHJP
【FI】
G01H17/00 A
G01M99/00 A
(21)【出願番号】P 2018001655
(22)【出願日】2018-01-10
【審査請求日】2020-12-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000006507
【氏名又は名称】横河電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100169823
【氏名又は名称】吉澤 雄郎
(72)【発明者】
【氏名】金谷 信宏
【審査官】福田 裕司
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-300401(JP,A)
【文献】特開2010-085373(JP,A)
【文献】特開2000-193517(JP,A)
【文献】特開2007-192828(JP,A)
【文献】米国特許第04608867(US,A)
【文献】特開平04-042023(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01H 17/00
G01M 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象回転機の振動加速度を示す振動信号を入力し、所定の処理を行なって出力する入力部と、
前記入力部の出力信号を積分する積分器と、
前記入力部の出力信号をディジタル値に変換する第1AD変換器と、
前記積分器の出力信号をディジタル値に変換する第2AD変換器と、
前記第1AD変換器の出力信号の実効値を前記第2AD変換器の出力信号の実効値で割った値に1/(2π×[前記第1AD変換器の増幅率と、前記積分器および前記第2AD変換器の経路の増幅率との比])を乗じることで前記測定対象回転機の振動周波数を算出する演算部と、
を備えたことを特徴とする振動信号変換器。
【請求項2】
測定対象回転機の振動加速度を示す振動信号を入力し、所定の処理を行なって出力する入力部と、
前記入力部の出力信号を積分する積分器と、
前記入力部の出力信号と前記積分器の出力信号とを切換えて出力する信号切替部と、
前記信号切替部の出力信号をディジタル値に変換するAD変換器と、
前記AD変換器
が出力する前記入力部の出力信号の実効値を前記AD変換器が出力する前記積分器の出力信号の実効値で割った値に1/(2π×[前記積分器の増幅率])を乗じることで前記測定対象回転機の振動周波数を算出する演算部と、
を備えたことを特徴とする振動信号変換器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転機の振動を解析する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
モータやタービンなど軸を中心として回転する機械である回転機では、異常発生の兆候として周期的な振動の強弱が生じることが多い。このため、設備診断として振動を解析することが従来から行なわれている。
【0003】
例えば、特許文献1に記載された設備診断では、回転機等の測定対象物に振動センサを取り付け、振動加速度に応じた振動信号を取得する。そして、振動信号をFFT演算して振動スペクトルに変換し、振動の周期性を評価するためにスペクトルピーク率を算出する。ここで、スペクトルピーク率は、ピークスペクトルのレベルとノイズスペクトルのレベルとの比であり、振動波形に含まれる周期成分の割合を表す指標である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
回転機を対象とした設備診断では、振動波形に含まれる周期成分の割合が重要であるが、振動波形に含まれる周期成分の周波数自体も重要な情報である。特に、回転機では、異常が発生すると、回転周期に同期した特定周波数の振動が観察されることが多いため、振動波形に含まれる周期成分の周波数は異常の原因推定等に有用である。
【0006】
しかしながら、振動波形に含まれる周期成分の周波数を把握するためには、特許文献1に記載されているように、振動信号にFFT演算を施して、振動スペクトルに変換する処理を行なうことから、演算負荷が増大し、応答時間の遅延等が生じる。
【0007】
そこで、本発明は、回転機を対象とした設備診断において、振動信号に基づいて振動の周波数を簡易に取得することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明の一態様である振動信号変換器は、測定対象回転機の振動加速度を示す振動信号を入力する入力部と、前記振動信号を積分する積分器と、前記振動信号の実効値と前記積分器の出力信号の実効値との比に基づいて、前記測定対象回転機の振動周波数を算出する演算部を備える。
ここで、前記演算部は、AD変換器を介して前記入力部および前記積分器と接続し、前記演算部は、前記AD変換器により算出する振動加速度の実効値と前記積分器と前記AD変換器により算出する振動加速度の実効値との比に、1/(2π*それぞれの経路における増幅率の比)を乗じることで前記測定対象回転機の振動周波数を算出することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、回転機を対象とした設備診断において、振動信号に基づいて振動の周波数を簡易に取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本実施形態の振動信号変換器100の構成を示すブロック図である。
【
図2】振動信号変換器100の変形例の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
図1は、本実施形態の振動信号変換器100の構成を示すブロック図である。本図に示すように振動信号変換器100は、振動センサ200から振動信号を入力し、振動周波数を算出する。算出した振動周波数は、例えば、無線伝送器410を介して無線伝送することができ、無線受信を行なう送受信器420側で設備診断等に用いられる。
【0012】
振動センサ200は、回転機300に取り付けられ、回転機300の振動加速度を検出する。回転機300は、モータやタービンなど軸を中心として回転する機械である。このため、振動センサ200は、回転機300に固定する固定機構210、振動の加速度を電気信号に変換する振動検出部220、アナログ信号変換器230を備えている。
【0013】
固定機構210は、ねじ付きの台座等とすることができる。振動検出部220は、回転機300の振動加速度を電気信号に変換する。振動検出部220は、例えば、圧電素子、歪ゲージ等を用いることができる。アナログ信号変換器230は、例えば、アナログ信号増幅器を用いることができる。アナログ信号変換器230は、振動検出部220の出力を振動信号としてケーブル260を介して出力する。
【0014】
無線伝送器410は、所定の通信規格を用いて送受信器420との間で無線通信を行なう。所定の通信規格は、例えば、ISA100.11aとすることができる。
【0015】
振動信号変換器100は、入力部110、第1AD変換器120、積分器130、第2AD変換器140、演算部150、電池160を備えている。
【0016】
入力部110は、振動センサ200からケーブル260を介して振動信号を入力する。入力部110は、例えば、信号増幅器と周波数フィルタとを備えて構成することができる。
【0017】
第1AD変換器120は、入力部110が出力した振動信号をディジタル値に変換する。
【0018】
積分器130は、入力部110が出力した振動信号を積分して出力する。第2AD変換器140は、積分器130の出力信号をディジタル値に変換する。
【0019】
演算部150は、第1AD変換器120の出力と第2AD変換器140の出力に基づいて、回転機300の振動周波数を算出する。演算部150は、マイクロコンピュータ等を用いて構成することができる。
【0020】
電池160は、振動信号変換器100、振動センサ200、無線伝送器410に動作電源を供給する。
【0021】
ここで、本実施形態における演算部150の振動周波数の算出方法について説明する。
【0022】
回転機300では、異常発生の兆候として周期的な振動の強弱が生じることが多い。一般に、この振動の強弱は、種々の周波数が重ね合わさったものではなく、異常に応じた特定周波数fの振動として現われる。この振動の変位を、x(t)=Amsinωtとする。
【0023】
振動センサ200では、振動加速度が検出されるため、振動の変位を2回微分した信号(次式参照)に比例した値が得られる。すなわち、d2x(t)/dt2=-Amω2sinωtに比例した振動信号として計測され、振動信号変換器100の入力部110に入力される。
【0024】
積分器130では、入力部110の出力の積分が行なわれるため、振動の変位を1回微分した振動速度(次式参照)に比例した信号が得られる。すなわち、dx(t)/dt=Amωcosωtに比例した信号が出力される。
【0025】
このように、振動加速度の実効値は∝Aeω2、振動速度の実効値は∝Aeωとなる(ただし、Ae=Am/√2)。ここで、ω=2πfであることから(πは円周率を表す)、第1AD変換器120の増幅率と積分器130および第2AD変換器140の経路の増幅率との比をKとすると、
第1AD変換器120出力の実効値/第2AD変換器140出力の実効値=Kω
が成り立つ。
【0026】
具体的には、Kは、第1AD変換器120の入力から演算部150の入力までの経路の増幅率と、積分器130の入力から演算部150の入力までの経路の増幅率との比である。
【0027】
すなわち、振動周波数f=1×第1AD変換器120出力の実効値/(2πK×第2AD変換器140出力の実効値)となる。
【0028】
このため、演算部150は、第1AD変換器120の出力信号の実効値を第2AD変換器140の出力信号の実効値で割った値に1/(2πK)を乗じることで回転機300の振動周波数fを簡易に算出することができる。
【0029】
Kは、あらかじめ機器ごとに第1AD変換器120の増幅率と、積分器130および第2AD変換器140の経路の増幅率との比を求めて、演算部150内等に記録しておくようにする。
【0030】
振動周波数fは、ISA100.11a等のフィールド無線のように1度に送信できるデータ数に制約がある通信規格であっても容易にリアルタイムに伝送することができる。このとき、振動周波数に加え、振幅の情報を併せて送信することが設備診断を行なう上で好ましい。
【0031】
図2は、振動信号変換器100の変形例を示すブロック図である。変形例の振動信号変換器100aでは、第1AD変換器120を入力部110の出力信号と、積分器130の出力信号とで共用している。そして、信号切替部170を用いて第1AD変換器120に入力する信号を切り換えるようにしている。変形例では、第1AD変換器120が共通するため、積分器130の増幅率をKとすればよい。
【0032】
第1AD変換器120に入力する信号の切替制御は、演算部150における振動加速度の実効値の取得タイミングおよび振動速度の実効値の取得タイミングに応じて演算部150が信号切替部170に対して任意に行なうことができる。
【符号の説明】
【0033】
100…振動信号変換器
110…入力部
120…第1AD変換器
130…積分器
140…第2AD変換器
150…演算部
160…電池
170…信号切替部
200…振動センサ